JP2004506690A - 血小板のコラーゲンへの粘着を抑制するための新規な特異的機構 - Google Patents
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Abstract
Description
発明の概要
本発明は、動脈内膜切除術などの血管損傷後の血小板粘着および集積を有意に減少させる、サラチン(Saratin)と呼ばれるポリペプチドの効果に関する。本発明はさらに、高いずり条件下における血管壁コラーゲンへの血小板のvWF依存性結合の抑制、および、より詳細には、血栓抑制剤としてのサラチンの新規医療用途に関し、ここで、該ポリペプチドは局所剤としてまたは医療デバイスのコーティングとして、局所的に用いてもよい。
【0002】
発明の技術分野
損傷血管壁への血液細胞、特に血小板の粘着は、血管形成術および手術手技においてよく知られている現象である。かかる損傷は、閉鎖した流路(channel)、管(conduit)および他の内腔を開放し、病変組織を除去し、そして、置換組織またはその構成要素を移植するために開発された種々の手術療法および経皮療法の最中に起こり得る。
【0003】
血管内の閉塞を減少または除去を容易にする種々のタイプのインターベンション技術が開発され、血管を介した血流を増加させることができるようになった。血管の狭窄または閉塞を処置するための1つの技術が、経皮的バルーン血管形成術である。バルーンカテーテルを患者の動脈系に通し、狭窄部位または閉塞部位に挿入し、収縮部位を拡張するためにバルーンを膨らます。経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)は、閉塞した硬化動脈を開放するために用いられる最も一般的な血管形成法である。
【0004】
一般的に、血管形成手技は、バイパス手術の必要性を回避するすばらしい結果をもたらすが、約30〜40%の患者では、見かけ上成功した動脈の初期の拡張に引き続き、およそ3〜9ヶ月後に血管の再度の狭窄(再狭窄)が生ずることがある。再狭窄が重篤な場合、患者は2回目の血管形成手技(しばしば血管内で足場として作用するステントの移植を伴う)を要することがある。
他のケースでは、リスクの高い手技である、バイパス手術による動脈の再構築が必要となることがある。現在世界中で年間800000件を超えるPTCA手技が行なわれており、この30〜40%の再狭窄率の社会経済的影響は、インターベンショナル心臓学者にとって深刻な問題となっている
【0005】
再狭窄は、しばしば、バルーン媒介性の動脈壁の伸展および破砕損傷、ならびに、展開の最中にかかる手技に用いられるカテーテルのガイドワイヤが損傷を引き起こし、動脈の平滑筋細胞の増殖を導く可能性の結果であり、その結果、その後数ヶ月以降に動脈の再閉鎖(reclosure)(「再狭窄」)が生じる。
再狭窄に関する潜在的な合併症、および潰瘍性プラークからの栓子の遊離の恐れと、それがもたらす重篤な結果のため、頚動脈における反復的な血管形成術の適用は、低侵襲性のインターベンションのための選択肢を大幅に制限している。
【0006】
これまで、脳につながる頚動脈内の閉塞を処置するために、別のタイプのインターベンションが試みられてきた。
頚動脈内膜切除術は、頚動脈から閉塞を除去する手術法であり、米国において行なわれている最も一般的な血管手術手技の1つである。多施設臨床試験での結果は、症候性患者および無症候性患者の両方の頭蓋外頚動脈疾患の処置におけるこの手技の有効性を証明するものであり(JAMA 1995; 273:1421−28; N Engl. J. Med. 1991; 325:445−53)、動脈内膜切除手技は、他の血管床における閉塞性血管疾患の処置に用いられている(Vasc. Surg. 1999;33:461−70)。
【0007】
動脈内膜切除術では、頚動脈に切れ込み(slit)を加え、その切れ込み内でプラークを血管から除去する。手術において、頚動脈分岐部を患者の頚部の切開により露出し、閉塞部位を隔離するためにクランプをその両側に設置し、切開を加え、動脈を開く。閉塞を除去し、隔離部位を灌流および吸引し、動脈を縫合閉鎖する。クランプを除去し、動脈内の血流を再開する。クランプの間に含まれる栓子およびデブリスは、事前に隔離した部位への血液の流出を許容し、頚動脈を開いた後、重大な問題を引き起こすことがある。
【0008】
動脈内膜切除術は有効な治療法だが、しばしば、外膜および顕著な広さの血栓原性の内皮下層を露出したままにする。頚動脈内膜切除術の有効性にもかかわらず、手術は、血栓などの合併症、および、インターベンションの有益な効果を帳消しにするか、または新たな問題を引き起こす合併症を惹起する内膜過形成の発症をもたらす可能性がある。
【0009】
臨床学的研究により、手術直後の期間における頚動脈内膜切除術後の卒中発生率が1〜10%であることが示され、その殆どが、動脈内膜切除部位での血栓形成と、それに引き続く脳塞栓によるものとされている(Stroke 1984;15:950−55)。内膜過形成の発症により、血小板の集積がまた再狭窄の原因となり得、これは、術後2年以内に起こり得る。再狭窄は、動脈内膜切除術を行なった患者全体の10〜20%に、術後2〜5年に起こることが報告されており、その多くが、頚動脈デュプレクス超音波スキャン(cartoid duplex ultrasonic scanning)が示すとおり、内膜過形成、内膜肥厚、および血管径の縮小によるものである(J. Vasc. Surg. 1986;3:10−23)。
【0010】
機械的に誘発された外傷、手術的介入、ステントの留置、血管グラフト(動脈または動静脈グラフト、例えば透析グラフト)の設置に対する血管壁の細胞性および分子性応答は、炎症、平滑筋細胞の遊走、増殖および外傷が発生するや否や生じる筋線維芽細胞の変化の複雑な相互作用である(Futura;1997.p.289−317)。動脈が疾患により重度に損傷している場合、および恐らくカルシウム沈着により硬化している場合、介入はまた、局所的な脱内皮化(de−endothelialisation)、および、その下にあるコラーゲンおよびエラスチンなどの細胞外マトリクス成分の露出を伴う、ある程度の追加の損傷をももたらし得る。いくらかの患者においては、血小板およびフィブリノーゲンの過剰な動員が、次に急性の血栓性閉塞をもたらす可能性がある。
【0011】
動脈内膜切除ラット頚動脈モデル(Neurosurg 1985;16:773−79)、ならびに塞栓除去バルーン損傷モデル(Lab. Invest 1983;49:327−33)を用いた研究は、内皮細胞が血管損傷時に剥離されると、血小板が露出された内皮下層に粘着し始めることを示している。Spalloneら(Neurosurg 1985;16:773−79)は、走査型電子顕微鏡法を用い、ラットにおける頚動脈内膜切除術の5分後に、損傷部位に血小板の単層が形成されることを示した。損傷の15分後、血小板凝集および血栓形成が観察された。動脈内膜切除術の30分後、該部分は活性化血小板で覆われ、フィブリンおよび赤血球で被覆された。血栓形成は、損傷後3時間でピークに達し、厚いフィブリン/血小板の層が観察された。血小板は、この血栓形成、およびそれゆえ血栓症の必須の構成要素であるが、それらはまた、内膜過形成の発症に関与しているようである。
【0012】
血小板減少症ラットを用いた研究は、さらに、頚動脈損傷に引き続く内膜肥厚が、対照ラットに比べ有意に減少していることを示した(Proc. Natl. Acad. SCI USA 1989;86:8412−16)。血小板は、ひとたび損傷血管の露出された内皮下層に粘着すると、活性化され、顆粒を放出する。これらの顆粒は、血管活性化因子および血栓性因子(セロトニン、ADP、フィブリノーゲン、フォン・ビルブランド因子、トロンボキサンA2)、ならびに増殖因子(血小板由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子−ベータ、および上皮細胞増殖因子)を含んでいる(Circulation 1985;72:735−40)。血小板が内膜過形成の発症を促進する正確な機構はまだ完全には分かっていない。研究は、血小板が主として、内膜過形成の発症の第2相に、中膜平滑筋細胞の内膜への遊走のための走化性刺激を提供することを示唆している(Vasc. Surg. 1991;13:885−91)。
【0013】
抗PDGF抗体を用いた別の研究は、血管損傷に引き続く新生内膜の平滑筋細胞集積において、PDGFが不可欠な役割を果たしていることを示した(Science 1991;253:1129−32)。血小板が内膜過形成の発症を促進し得る他の機構は、凝固カスケードの活性化およびそれに引き続く損傷部位へのトロンビンの集積を介したものである。複数の研究が、トロンビンの平滑筋細胞に対する細胞分裂誘起効果を証明している(J. Clin. Invest. 1993;91:94−98, J. Vasc. Surg. 1990;11:307−13)。さらに、トロンビンが、血小板活性化の刺激であることが示されている。正確な機構はともかくとして、血管損傷部位での血小板の粘着および活性化は、血栓症の発症および内膜過形成に重要な役割を果たしており、したがって、血小板の粘着および活性化の抑制は、血栓症率および内膜過形成の発症を予防または低減する補助となり得る。
【0014】
損傷動脈壁への血小板の粘着は、まずフォン・ビルブランド因子(vWF)に媒介される。当該因子は、多重結合性の糖タンパク質であり、内皮細胞から放出され、血漿中を循環しており、第VIII因子の担体タンパク質として機能している(Annu. Tev. Biochem. 1998;67:395−424)。高度に多重結合したvWFはまた、血小板のアルファ顆粒に含有されて循環しており、血小板が活性化するとそこから放出される(Annu. Tev. Biochem. 1998;67:395−424)。アテローム性プラークまたは機械的インターベンション部位の動脈において遭遇するような、高いずり条件下では、vWFは、そのA3ドメインを介して、表面露出(surface−exposed)コラーゲン線維に結合し得る(Biochemistry 1986; 25(26): 8357−8361, Blood 1987; 70(5): 1577−1583, J. Biol. Chem. 1987; 262(28): 13835−13841)。
【0015】
コラーゲン結合vWFは、次に、血小板GP Ib/IX/Vと相互作用するvWF−A1ドメインのエピトープのずり依存性露出を介して、血小板を「つなぎ止める(tether)」(Blood 1985;65(1):85−90, Blood 1985;65(4):823−831, Br. J. Haematol 1986;63(4):681−691)。このように、vWFは、コラーゲンと血小板の間の橋のように作用し、流れの中での血小板のコラーゲンへの粘着の必須条件となっている(J. Lab. Clin. Med. 1974;83(2):296−300)。vWF上の血小板のローリングは弱い粘着をもたらすが、コラーゲンと血小板表面上の他のレセプターとの間の、追加の直接的な相互作用が、血小板の恒久的な粘着、活性化および凝集を容易にするために要求される(Thromb. Haemost 1997;78(1):434−438, Thromb. Haemost 1997;78(1):439−444)。
【0016】
血小板上の直接的なコラーゲンレセプターは、GP VI(Blood 1987; 69(6): 1712−1720, Thromb. Haemost 1999; 81(5): 782−792, J.Clin. Invest. 1989; 84(5): 1440−1445)、GP Ia/IIa(α2/β1)(J.Clin. Invest. 1989; 84(5): 1440−1445, Nature 1985; 318(6045): 470−472)、および、それ程ではないが、GP IV(CD36)(J. Biol. Chem. 1989; 264(13): 7576−7583)、および恐らくp65(J. Clin. Invest. 1997; 100(3): 514−521)をさえ含む。vWFの補助による血小板の結合がない場合、これらのレセプターは、流れの中において、コラーゲンへの血小板の動員を媒介するには弱すぎることが証明されている(Br. J. Haematol 1986; 63(4): 681−691)。最後に、vWFは、フィブリノーゲンとの組合せで、血小板GP IIb/IIIaへの結合を介した血小板の架橋およびさらなる活性化を容易にし(J. Clin. Invest. 2000; 105(6): 783−791)、成長中の血栓に安定性と強度を提供する。
【0017】
血小板GP IIb/IIIaおよびADPレセプターアンタゴニストの出現により、抗凝集療法(anti−aggregatory therapy)が近年大きく前進した(Coronary Art Dis 1999; 10(8): 553−560, J. Am. Coll. Surg. 2000; 191(1): 76−92)。しかしながら、これらの方策は、露出したコラーゲン線維への血小板の初期粘着(initial adhesion)を抑制することを意図しておらず、GP IIb/IIIaアンタゴニストの血小板−血小板相互作用緩和への有効性にもかかわらず、血小板は依然損傷血管壁に粘着した(Blood 1993; 81(5): 1263−1276, Circulation 1995; 91(5): 1354−1362)。さらにまた、血小板の活性化は、凝集および急性血栓症を超えてほとんど確実に広がっており、亜急性および慢性の内膜過形成の進行は、少なくとも部分的に、血小板の活性化により放出される血小板由来増殖因子(PDGF)などの細胞分裂誘発メディエーターの影響を受けている。実際に、PDGFの抑制が、種々の動物種において内膜過形成を軽減することが示されている(Science 1991; 253(5024): 1129−1132, Circulation 1999; 99(25): 3292−3299)。
【0018】
vWFの病理生理学的重要性は、急性心筋梗塞の患者における循環vWFの増加により示唆されており(Thromb Haemost 2000;84:204−209, Circulation 1998; 98(4): 294−299)、vWFレベルは、引き続く不良な予後と正の相関を示す(Circulation 1998; 98(4): 294−299)。in vivoでの研究は、さらに、抗vWF中和抗体が実験的血栓症を抑制することを示しており、これは血栓形成におけるvWFの必須の役割を確認するものである(Thromb. Haemost 1998; 79(1): 202−210)。さらにまた、常に血管壁の損傷とコラーゲンの露出をもたらす血管形成技術は、急性冠症候群においてますます広く用いられるようになっており、血小板粘着−活性化−凝集カスケードの最中に、可能な限り早く薬理学的に介入する方策への要求が高まっている。
【0019】
血小板の粘着、活性化およびそれに引き続く血栓症および内膜過形成を制御するために最近用いられるようになった治療法の2つの主要な流れは、抗血小板剤および抗血栓剤の投与である。アスピリンなどの薬剤は、シクロオキシゲナーゼ経路の抑制を介してトロンボキサンA2の合成を効果的にブロックするが、内膜過形成の進行を模擬する、コラーゲン誘導性の血小板粘着および活性化を防止しない。抗血栓剤としてのヘパリンの使用は、予測できない用量反応、緊密な臨床モニタリングの必要性、血餅結合トロンビンに対する限定された活性、複数の抑制部位、抗トロンビンIII依存性、重大な出血の危険性、ならびに連続点滴の必要性を含む、合併症および制限を伴う。明らかに、理想的な治療剤は、全身的な分配および全身的な凝固障害なしに、部位特異的で、局在された効果をもたらすものである。
【0020】
血栓症および後に内膜過形成へと導く事象のカスケードを引き起こす重要なステップは、損傷血管部位における露出した内皮下層コラーゲンと、露出コラーゲンに粘着する血小板の単層との間の相互作用に起因すると思われる。従って、血小板の、内皮下層コラーゲン粘着に対する特異的阻害剤は、血栓および内膜過形成の進行の予防、または少なくともその軽減に役立ち得る。
【0021】
いくつかのヒル由来物質が、コラーゲン−血小板相互作用を抑制することが報告されている(Blood 1995; 85(3): 705−711, Platelets 2000; 11(2): 83−86, J. Biol. Chem. 1992; 267(10): 6893−6898, J. Biol. Chem. 1992; 267(10): 6899−6904, Blood Coagul Fibrinolysis 1991, 2(1): 179−184)。Hirudo medici nalisから単離された、フィブリン解重合活性を有するイソペプチダーゼであるデスタビラーゼ(Destabilase)は、コラーゲンを含む、種々のアゴニストにより誘導される血小板凝集を抑制することが報告されているが、血小板膜に直接結合すると考えられている(Platelets 2000; 11(2): 83−86)。Haementeria officinalisの唾液からの〜13kDaのタンパク質である、ヒル抗血小板タンパク質(leech antiplatelet protein)(LAPP)は、静止条件下(J. Biol. Chem. 1992; 267(10): 6899−6904, Thromb. Haemost 1999, 82(3): 1160−1163)および高流量下(Arterioscler Thromb. Vasc. Biol. 1995, 15(9): 1424−1431)で血小板のコラーゲンへの粘着を抑制し、コラーゲンへのvWF媒介性および血小板GP Ia/IIa媒介性両方の結合に効果がある(Thromb. Haemost 1999, 82(3): 1160−1163)。
【0022】
カリン(calin)は、Hirudo medicinalisからの〜65kDaのタンパク質であり、類似の特性が明らかになった。カリンはまた、コラーゲン−血小板相互作用を、静止条件下および流れ条件下の両方において抑制する(Blood 1995; 85(3): 705−711, Blood Coagul Fibrinolysis 1991, 2(1): 179−184, Thromb. Haemost 1999, 82(3): 1160−1163)。さらにまた、LAPPおよびカリンは、両方ともコラーゲン誘導性血小板凝集の強力な抑制剤であり、vWFのコラーゲンへの結合をブロックするのと類似の濃度で凝集を抑制する(J. Biol. Chem. 1992; 267(10): 6893−6898, Blood Coagul Fibrinolysis 1991, 2(1): 179−184, Blood 1995, 85(3): 712−719)。
【0023】
LAPPおよびカリンは、両方ともin vivoの血栓症モデルで評価されたが、成果はまちまちであった。LAPPは、コラーゲン誘導性血小板凝集を抑制する用量で用いたにもかかわらず、ヒヒ動静脈シャントにおけるコラーゲン被覆グラフト上への血栓形成を軽減できなかったが(Arterioscler Thromb 1993, 13(11): 1593−1601)、カリンは、ハムスター静脈血栓症モデルにおいて、用量依存的に血栓形成を抑制した(Blood 1995, 85(3): 712−719)。
【0024】
ステントおよびカテーテル用の非血栓原性(non thrombogenic)および抗血栓原性(anti thrombogenic)コーティングは、従来技術において知られている。非血栓原性コーティングおよび製品は、修飾および先端ポリマー(modified and advanced polymer)に基づいており、WO9301221およびWO9830615に例示されている。
抗血栓原性および抗再狭窄コーティングは、一般的に生体適合性コーティングであり、また、局所薬剤送達のための貯蔵体としても用いられ得る。このコーティングは、主にヒドロゲルに基づいており、様々なタイプのヒドロゲルの製造方法および医療デバイスのコーティング方法の特許文献における例としては、WO9211896、WO9811828、WO0147572、EP0887369およびWO0139811が挙げられる。
【0025】
コーティングに含まれている治療物質の放出プロファイルは、例えば、ポリマー層の厚さを変えたり、または選択的な物理化学的特性(荷電、疎水性、親水性など)に寄与する特定のポリマーコーティングを選択したり、および/または、コーティングを異なる層として製造することにより、調整することができる。ポリマーの選択基準および放出率の最適化は、当業者に理解されている。他のコーティングは、Fischell(Circulation, 1996, 94: 1494−95)、Topolら(Circulation, 1998, 98: 1802−20)およびMcNairら(Device Technology, 1996, 16−22)により記載されている。
【0026】
心血管系におけるステント、ワイヤ、およびカテーテルの使用は一般的な手法であり、血管壁の損傷、塞栓、および引き続く再狭窄は、手術的介入またはカテーテル法の最中および後における、心臓学者の重大な懸案事項である。動脈内膜切除術などの代替的な方法は、類似の問題を引き起こす。動脈が操作される全ての手技、つまり血管手術および血管形成術は、内膜過形成を引き起こす可能性がある。内膜過形成の発症を予防または低減するための方法の有用性は強調され過ぎることはなく、全身的な効果をもたらすことなくこれをなし得る方法の利益は、さらにまた励みになる。
【0027】
従って、病態生理学的に最先のイベント(例えば血小板粘着)を抑制する新規で改善された医薬品および方法への必要性は明らかであり、当該分野における寄与によって、血管形成手技または手術手技に関連する罹患率および死亡率の実質的な減少が期待される。
【0028】
発明の説明
本発明は、概して、血管形成術、ステント、透析グラフトおよび他の血管グラフトに伴う損傷を含む、血管壁損傷に対する望まない血栓反応および/または狭窄反応を予防および阻害し、良性の肥厚性瘢痕の形成を処置し、ならびに動脈硬化性不安定プラークを処置および安定化(passivation)するために、最近記載された血小板粘着抑制剤であるサラチンを、サラチンが局所剤として、または表面の付着コーティング(adherent coating)として局所に使用し得るような条件下で、組織中の内腔(つまり脈管構造)もしくは器官の内部またはその表面上の選択された部位中または部位上へ導入することに関する。
【0029】
サラチンは、最近記載された(WO 0056885)12kDの組換えタンパク質であり、もともとはヒルから単離された。このタンパク質は、高いずり条件下で、動脈壁コラーゲンへの血小板のvWF依存性結合を抑制し、本発明のこの側面が、サラチンを動脈血栓症の抑制に好適ならしめる。別の新規な側面は、サラチンが、損傷部位に局所剤として用いることができ、全身性の効果を生じさせることなく血栓症および/または内膜過形成を低減できる利益を有することである。これは、外科医およびインターベンショナル・ラジオロジストの両方の用途に同様に好適な、特異的および局所的効果を伴う様相である。
【0030】
サラチンは、オンサイトデリバリーのための様々な治療剤と組み合わせることができる。冠動脈用途において用いるものの例としては、抗血栓剤、例えばプロスタサイクリンおよびサリチル酸塩、血栓溶解剤、例えばストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)およびアニソイル化プラスミノーゲン−ストレプトキナーゼ活性化因子複合体(APSAC)、血管拡張剤、すなわち硝酸塩、カルシウムチャンネル遮断薬、増殖抑制剤、すなわちコルヒチンおよびアルキル化剤、挿入剤、インターロイキン、トランスフォーミング増殖因子ベータおよび血小板由来増殖因子のコンジナー(congeners)などの増殖調節因子、増殖因子に向けられたモノクローナル抗体、ステロイド系および非ステロイド系抗炎症剤、ならびに血管トーン、機能、動脈硬化、および術後の血管および器官の損傷への治癒反応を調節できるその他の剤が挙げられる。
【0031】
抗生物質もまた、本発明が包含する組合せまたはコーティングに含めることができる。さらに、コーティングは、血管壁内への限局的な薬理学的送達を達成するために用いることができる。活性成分を膨潤性ポリマーに組み込むことにより、活性成分はポリマーの膨潤によって放出される。
1つの態様において、コーティングは、ポリエチレンオキシド、アルブミン、親水性ポリメタクリレートおよび親水性ポリウレタンなどのヒドロゲルから製造される。
【0032】
本発明は、さらに、例えば局所薬剤送達デバイス/カテーテルを介した、またはステント、およびステントコーティング技術、および血管グラフト、およびグラフトコーティング技術を介したサラチンおよび誘導体の使用を提供する。本発明はまた、限局された領域において調節された量のサラチンを時間をかけて溶出する組成物の形でサラチンを投与する方法をも提供する。
【0033】
特に、本発明の1つの態様は、カテーテルベースのデバイスを用いてサラチンを局所に送達することに関する。サラチンは、同様に、カテーテルを用いて、身体組織内のポリマーマトリクス外に、他の治療剤とともにまたはなしに適用してもよい。本方法に用いるポリマー材料の基本的な要件は、生体適合性と、具体的な用途に適合することができる薬剤放出特性である。
【0034】
サラチン放出の局所での制御は、浸透のみ、イオン導入法のみ、電気穿孔法のみで達成しても良く、あるいは、サラチンを効率的に血管内腔内に放出および取り込むためにイオン導入法と電気穿孔法を組合せて用いてもよい。好ましくは、カテーテルは、選択された血管空間において薬剤を高濃度に維持するための手技を達成することができ、その結果、サラチン単独またはサラチンと追加の治療剤による血管のコーティングが改善される。
本発明は、血管形成術およびステント移植および動脈内膜切除などのインターベンショナル心臓学的手技の最中および後におけるサラチンの局所送達に特に適切である。
【0035】
発明の詳細な説明
本発明に用いるのに適した組換えサラチンは、Hansenula polymorphaに発現され、それから単離したものであり、vWFのコラーゲンへの結合を阻止する作用を有し、高いずりの下で、血小板のコラーゲンへの粘着を効果的に予防することが見出された。サラチンは、精製ヒトvWFの、ヒトIおよびIII型コラーゲンへの結合(それぞれIC50=0.23±0.004 および0.81±0.04μgml−1)、および仔ウシ皮膚コラーゲンへの結合(IC50=0.44±0.008μgml−1)を濃度依存的に抑制した。さらにまた、サラチンは、ヒト、げっ歯類およびブタ血漿vWFのこれらのコラーゲンへの結合に対し、類似の抑制効果を示した。高いずり条件下(2700s−1)のフローチャンバーにおいて、サラチンは用量依存的かつ強力にコラーゲン被覆表面上での血小板凝集形成を抑制したが(IC50=0.96±0.25μgml−1)、低いずり(1300s−1)においては、用量反応曲線の右方移動が見られた(IC50=5.2±1.4μgml−1)。
【0036】
表面のプラズモン共鳴分析により、サラチンのヒトIII型コラーゲンに対する高親和性および低親和性結合部位(それぞれKd=5x10−8Mおよび2x10−6M)の両方が明らかになり、増大したずりにおいて血小板粘着を抑制する低濃度のサラチン(すなわち、高親和性結合部位の飽和)は、vWF非依存性コラーゲン誘導性血小板凝集に対し効果を有しないが、高濃度のもの(すなわち低親和性結合部位の飽和)は血小板凝集を抑制することが見出された。これらのデータは、サラチンがコラーゲンに対する血小板のvWF依存性粘着の強力な抑制剤であることを示しており、それが、抗血栓剤としての治療的能力の基礎を形成している。
【0037】
研究により、さらに、サラチンが、仔ウシ皮膚コラーゲンだけでなく、ヒトIおよびIII型コラーゲンへのvWFの結合を強力かつ用量依存的に抑制することが示された。ヒトIおよびIII型コラーゲンは、両方とも動脈壁の内皮下層に豊富に存在しており、血小板−血管壁相互作用に重要であると考えられている(Thromb Haemost 1997, 78(1):434−438)。コラーゲン−vWF−GP Ib/IX/V相互作用は、十分に高いずりにおいてしか生じないので、静的な条件下のみでなく、in vivoで遭遇する状況をより緊密に模倣した環境におけるサラチンの有効性を示すことが、本発明の重要な側面であった。
【0038】
ずり応力を変化させ、かかる環境を模擬することができるフローチャンバーにおいて、サラチンは血小板のコラーゲンへの集積を、特により高いずりで明らかに抑制した。ずりの低減による用量反応曲線の右方移動は注目すべきである。なぜならそれは、in vivoで、例えば動脈硬化性プラークの存在または機械的インターベンション後における、血液に提示された内皮細胞表面の変化により血液層流が乱れている高ずり領域に、サラチンの有効性が限局され得ることを意味しているからである。
【0039】
サラチンについての表面プラズモン共鳴研究は、コラーゲンが、サラチンに対する、1つは高親和性の、もう1つは低親和性の、2つの独立した結合部位を有し得ることを明らかにした。サラチンによるvWFのコラーゲンへの結合の抑制は、IC50値が約5x10−8 M(すなわちこの部位についての解離定数と等しい)である高親和性結合部位の飽和により説明される。vWF非依存性コラーゲン誘導性血小板凝集が極めて高用量のサラチン(100μM以上)でのみ抑制されるので、低親和性コラーゲン結合部位の飽和は、直接的なコラーゲン−コラーゲンレセプター相互作用の抑制に関与していると見られる。
【0040】
本発明の他の対象は、全身への分配を要することなく、そして、血小板機能を阻害または血液凝固を阻害することなく、動脈内膜切除血管の局所環境に影響するサラチンの効果である。これは、血管手術手技およびインターベンショナル・ラジオロジー手技の最中の局所用途に理想的な様相である。
【0041】
本発明のこの側面において、治療剤サラチンの効果を、J. Vasc. Surg. 1998, 28: 909−918に記載のラット頚動脈内膜切除(CEA)モデルを用いて調査した。血小板活性化は、CEA後の血栓症および内膜過形成による再狭窄の初期ステップであると考えられている。内腔表面へのサラチンの局所適用が、動脈内膜切除動脈への血小板粘着の量を減少させ、従って、術後血栓症および内膜過形成を低減させることが観察された。
【0042】
実験結果のまとめとして、2つの異なる術後時間後に評価されたサラチンの抗血小板粘着効果は、頚動脈内膜切除術後3時間目(図4)および24時間目(図5)において、粘着血小板の数が、サラチンで処置したラットで、対照ラットに比べ有意に減少していたことを示した。
血小板粘着は、3時間で59%(1グリッド当たり血小板64±17.2個対155±33.4個、P=0.05)および24時間で77%(1グリッド当たり血小板35±11.3個対149±36.6個、P=0.0110)減少した。血小板粘着は、対照群では3時間目と24時間目とで同様だったが、サラチン処置群では、1グリッド当たりの血小板数は64個から35個へと減少を示した。
【0043】
図6および7は、局所サラチン処置ありおよびなしの動脈内膜切除表面を、走査型電子顕微鏡で2000倍にした典型的な表示である。図6Aは、頚動脈内膜切除術後3時間目の対照表面を示している。顕著に多量の細胞物質、フィブリン鎖(fibrin strands)、多数の赤血球および多数の血小板がはっきり認められることに注目されたい。図6Bは、頚動脈内膜切除術後3時間目のサラチン処置表面を示している。細胞要素の欠如およびほとんど何もないコラーゲン表面に注目されたい。図7Aは、頚動脈内膜切除術後24時間目の対照表面を示しており、血小板が小白点としてはっきり認められる。図7Bは、頚動脈内膜切除術後24時間目のサラチン処置表面である。サラチン処置によって、血小板粘着が明白に減少している。
【0044】
頚動脈内膜切除術後のサラチンの局所適用は、対照群に比べ、内膜過形成の進行を有意に減少させた。内膜過形成の指標である内腔狭窄パーセントは、サラチンの適用により、対照に比べ有意に減少した。内膜過形成の形成におけるこの減少は、血小板粘着の抑制と相関した。内腔狭窄に関して、対照ラットは、29.8±6.8%、p=0.0042の内腔狭窄を示したが、これに対しサラチン処置群では10.9±1.8%の内腔狭窄だった(図6)。
【0045】
サラチン処置ラットは、対照ラットより18.9%大きい内腔径を有した。頚動脈内膜切除術後2週間目で、15頭の対照ラットのうち5頭(15%)が、組織学的分析上完全な頚動脈の血栓を発症していたが、サラチン処置ラット15頭のうち0頭(0%)が頚動脈血栓症を発症していた。カイ二乗分析の尤度比により、オッズ比が16.238であることが明らかになり、これは、対照群が閉塞性血栓症を発症するオッズ比が、サラチンで処置したラットより16倍高いことを示唆している(P=0.0156)。
【0046】
サラチン群では、動脈縫合線に沿って増加した出血は生じなかった。サラチン処置ラットにおける出血時間および全身の血小板数は、動脈内膜切除術後3時間目および24時間目において、対照ラットに比べて有意に変化しているとは認められなかった。
CEAモデルは、ヒトのCEA手術に酷似しており、従って、この結果は、全身性の血小板機能に影響を与えることなく、または止血を低減させることなく、動脈内膜切除部位における血小板粘着および凝集の有害な効果を軽減する機構を提案するものである。ラットCEA中の、サラチンの単純な局所適用が、血小板粘着、凝集、およびそれに引き続く、頚動脈床における内膜過形成による再狭窄を軽減する。
【0047】
表3は、出血時間と血小板数の結果を示している。術前および術後の出血時間の間に、統計学的に有意な差異は観察されなかった。サラチンラットと対照ラットとの間の血小板数の差異に、統計学的に有意な差異は認められなかった。
【0048】
我々は、動脈内膜切除術に類似する血管損傷後の血小板粘着および集積が有意に減少することを示した。血小板粘着の減少は、動脈内膜切除後すぐ(3時間目)、ならびに24時間目の両方で見られた。24時間目の効果は顕著であり、我々は、この効果が、サラチンのコラーゲンに対する直接の抑制効果によるものではなく(サラチンの血清半減期は90分である)、むしろ、血小板凝集の初期抑制およびそれに引き続く血小板活性化カスケードの阻害によるものであると考える。血小板の露出コラーゲンへの付着が一度初期に抑制されると、血小板カスケードは起こらない。図4および5は、最近損傷した血管へのサラチンの局所適用が、血小板粘着を有意な程度に抑制できることを示している。
【0049】
サラチンは、血小板粘着を3および24時間目に、それぞれ60%および75%抑制した。この抑制は、3時間目および24時間目の両方における、細胞要素の沈着に関する、対照動脈およびサラチン処置動脈との間の明白な差異によって指摘される(図7および8)。この細胞応答の欠如は、血小板粘着の抑制によるものであると思われる。これは、損傷血管への血小板粘着の抑制のための唯一の治療様式である。対照ラットは、頚動脈内膜切除術後2週間目において、サラチン処置ラットに比べ、有意に低減した内腔径を有した(図9)。内膜過形成の進行の度合は、サラチン処置ラットで有意に低減しており、それは血小板粘着および集積の低減と相関した。
【0050】
内膜過形成および血栓症の減少が、血小板粘着の減少と関連しているという発見は、臨床的に関連する指標および低減した血小板粘着の後遺症(sequela)を提供する。これは、血小板凝集および粘着の部位特異的で非全身性の抑制が、血栓症および閉塞率の減少をもたらし、従って、頚動脈内膜切除術後の関連する脳血管イベントの発症率を低減させる。内膜過形成および内腔狭窄の改善の程度は、サラチンで処置されたラットにおける血栓症率の減少という有意な発見により、さらに証明される。対照ラットの33%全部が血栓症を示したが、サラチンで処置された頚動脈は全く血栓を起こさなかった。
【0051】
臨床上格別重要なのは、この剤によって示された全身効果の欠如である。サラチンの局所適用は、全身性の出血時間または血小板数に影響しなかった。これは、血小板粘着の低減およびそれに引き続く血栓症および内膜過形成の低減が、局所効果の結果であるということを意味している。サラチンに関するこれらの新規な発見は、全身性の止血機構を阻害することなく血小板粘着および活性化の有害な効果を局所的に抑制できる様相のために、臨床用途の幅が広いという点で確実に重要である。
【0052】
先に、種々の治療的インターベンションが局所的な損傷を伴い、理想的には、それらが直ちに、局所で処置されるべきであることを指摘した。処置せずにおくと、損傷細胞は、凝固、補体の活性化、ならびに、サイトカインの放出、増殖の誘導およびその他の生物学的に活性なプロセスへの細胞応答に関与する一連のプロセスを開始する。これらの複雑で、相互に関連するプロセスは、一度始まってしまうと、止めることは困難である。
本発明においては、従って、操作された組織にサラチンが直接局在化されることが重要な側面となる。局所投与の他の側面は、インターベンションに用いられる薬剤の全身効果に関する潜在的な問題の最小化である。
【0053】
理想的には、サラチンによる処置は、適切な治療的インターベンションと同時に投与されてもよく、それは、バルーンカテーテルなどの手術用デバイスまたは他のデバイスまたはその部分のコーティング中にサラチンを組み込むことにより達成されてもよい。他の側面は、損傷血管のサラチンによる直接のコーティングを伴うこともできる。
さらに、本発明においては、通常のサラチン送達手段を同様に用いてもよく、これは例えば遊離の液体形態(free fluid form)などであり、他の治療剤との組合せを含む。しかしながら、ポリマー/ヒドロゲルマトリクスの使用は、遊離液体送達に対しある利点を有する。ポリマーマトリクス内に組込まれた剤の送達は、処置部位内および処置部位外に遊離液体薬剤溶液を運ぶために、支持カテーテル内に追加の内腔を要しない。
【0054】
さらに、ポリマーマトリクスは、血管セグメントのバルーンによる密閉の不良による薬剤溶液の下流への漏れの危険を排除し、それにより、非標的組織が高濃度の薬剤にさらされる危険を回避する。
医療デバイス上または損傷血管へのコーティングとしてのサラチンの局所適用の一般的な技術的解決法は、例えば、サラチンのポリマーまたはヒドロゲルコーティング内への組込みである。
【0055】
ポリマーの組成に関して、本明細書中で用いる「ヒドロゲル」という用語は、異なるサイズおよび容量の細孔または空隙、および多様な物理化学的特性、とりわけ、コーティングまたはコーティングされたデバイスの製造中に導入され得るゲルマトリクスの荷電または親水性/疎水性に関するものを有する合成ポリマーを含む。種々の合成エラストマーおよび天然に存在するポリマー材料は、当業者に知られている。サラチンは、マトリクス内に、ポリマーの製造中に組み込むこともできるし、または、コーティングまたはポリマーを所望の形状に成形した後に添加することもできる。さらに、本発明に用いるポリマーマトリクスを形成するために、多くの異なるポリマー材料および製造方法を用いることができる。好適なポリマー材料または組合せの例としては、生体適合性ポリマーおよび/または生物分解性ポリマーがあげられるが、これらに限定されない。
【0056】
いくつかのアルキルアルキル−およびシアノアクリレートが手術用途のために研究され、いくつかのイソブチルシアノアクリレートが、特に好適であることが見出された。
典型的なヒドロゲルポリマーは、単一のオレフィン二重結合を有するヒドロキシアルキルアルキルアクリレート40〜60重量部、1つのオレフィン二重結合を含むメタクリルモノマー40〜60重量部、および重合開始剤0.001〜5重量部から製造し得る。重合は、バルク重合、溶液重合、懸濁重合またはエマルジョン重合の慣用の技術によって達成し得る。用いられる重合技術は、必要とされるポリマーの用量および製造される最終生成物の性質に左右される。典型的なヒドロゲル生成物は、モノエステルに対するメタクリルモノマーのモル比が、1:1から2.3:1の範囲、好ましくは1.5:1であり、ここで、ポリマーの細孔径が90オングストロームより大きいことにより説明される。
【0057】
単一のオレフィン二重結合を有するヒドロキシアルキルアクリレートのモノエステルとして好適な化合物は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、および2−ヒドロキシプロピルアクリレートを含むが、これらに限定されない。許容され得るメタクリルモノマーは、メタクリル酸、メタクリルアミドおよびメタクリロニトリルである。
重合開始剤は、重合の方法またはポリマーの最終的に意図される用途に左右され得る。例えば、ポリマーが固形物として形成されるべきものであれば、フリーラジカル開始剤が用いられ得る。
【0058】
このタイプの好ましい開始剤は、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2エチルヘキソイルペルオキシ)ヘキサンなどの二価ポリエステル、または第3ブチルペルオキシピビレート(tertiarybutyl peroxypivilate)を含む。あるいは、ポリマーが最終的に、モノマー混合物の形で適用され、その場で重合されるコーティングとして用いられる場合、開始剤は、UV触媒である2,2アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)またはアゾビスブチロニトリル(AIBN)などの、照射により活性化されるものであってもよい。開始剤の用途は、特定の重合法、または特定の最終生成物に限定されない。例えば、フリーラジカル開始剤は、コーティングに用いてもよく、照射活性化(radiation activated)開始剤は、固形製品の形成に用いてもよい。
【0059】
モノエステルおよびメタクリルモノマーの実質的に同様のフラクションに加え、モノマー混合物は、微小量のより長い鎖長のアルキルアクリレートまたはメタクリレートエステルコモノマー、例えば、シクロへキシルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートまたはエチレングリコールジメタクリレートにより強化され得る。かかる追加のコモノマーは、ポリマーをさらに強化したい場合にポリマーの架橋を強化する。これらのコモノマーの微小量は、一般的にモノマー混合物全体の0.1重量%未満である。
本発明に用いるヒドロゲルポリマーは、生成された製品が追加の架橋モノマーを要しないように、内因性の作用により十分に架橋された製品が生成されるように形成してもよい。
【0060】
生物分解性ポリマーのさらなる例は、ポリ(ラクチド)、ポリグリコリド、ポリアンヒドリド、ポリオルトエステル、ポリアクタル、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレートおよびこれらのコポリマーおよびポリエチレングリコールである。これらは、ヒドロゲルコポリマーまたは架橋ポリマーネットワークの形態を取ることができ、局所送達を強化するための薬剤を、重合中にその中に組込むことができ、または、ある種のヒドロゲルの場合は、その後にロードすることができる。好ましいマトリクスは、外部への自由拡散を制御する剤の分子特性に従って、調製されている。
【0061】
サラチンでコートした複数のタイプのカテーテルおよび他の医療デバイスを製造することができ、これらの設計の目的とされた個別の治療ニーズに従って、または、サラチンをロードしたポリマーを局所に送達するより具体的な目的のために用いることができる。本発明は、Blue medicalから入手可能なBlue medical Devices BV GOの名称で販売されているバルーンカテーテルで試験したが、このタイプのカテーテルに限定されない。
【0062】
さらなる例
例1
静止条件下における精製vWFおよび血小板のコラーゲンへの結合
vWFのコラーゲンへの結合は、本質的に他所(Blood 1995, 85(3): 705−711)に記載されたとおり、マイクロタイタープレート中で調査した。種々のコラーゲン、ヒトI型、III型コラーゲン、または仔ウシ皮膚コラーゲン(Sigma)を、50mM酢酸中に125μgml−1で溶解した50μlのコラーゲンを、再生(renaturation)を促進するために200μlのPBSの存在下、96穴マイクロタイタープレート中でピペッティングし、一昼夜被覆した。
【0063】
非被覆部位をBSAでブロッキングした後、精製ヒトvWF(仔ウシ皮膚コラーゲンおよびI型コラーゲン被覆プレートには1.25μgml−1、III型コラーゲン被覆プレートには0.625μgml−1)または希釈正常血漿(ヒト血漿:I型およびIII型コラーゲン上には1/80、仔ウシ皮膚コラーゲン上には1/40;ハムスター、マウスおよびブタ血漿:III型コラーゲン上には1/80、I型コラーゲンおよび仔ウシ皮膚コラーゲン上には1/20)を、サラチンの存在下、ウェルに加え、2時間(希釈血漿)または1時間(精製vWF)インキュベートした。残留vWFのコラーゲンへの結合を、さらなる洗浄工程の後、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ウサギ抗vWF抗血清(Dako, Copenhagen, Denmark)を用いて発色させ、得られた吸光度を492nmで測定して決定した。
【0064】
マイクロタイタープレートがヒトI型コラーゲン、ヒトIII型コラーゲンまたは仔ウシ皮膚コラーゲンによりプレインキュベートされた場合、引き続く精製vWFのサラチン存在下でのインキュベーションは、vWFコラーゲン結合の用量依存性の抑制を伴い、そのIC50値は、それぞれ0.23±0.004、0.81±0.04および0.44±0.008μgml−1であった(図1)。精製vWFが希釈正常ヒト血漿に置き換わった場合、サラチンの抑制能力は維持された(表1)。サラチンはまた、希釈ブタ、ハムスターおよびマウス血漿中で、試験された異なるコラーゲンに対するvWFの結合も抑制し、I型コラーゲンに対しては常に高い有効性を示した(表1)。
【0065】
例2
高いずりにおける血小板粘着
コラーゲンへの血小板のvWF依存性粘着の制御におけるずり応力の重要性(J. Lab. Clin. Med. 1974, 83(2):296−300)に鑑み、サラチンの抑制作用を、損傷動脈または疾患動脈で遭遇するのと類似の流れ条件下で検討するために、フローチャンバー潅流法を行なった。仔ウシ皮膚コラーゲンを、プラスチック製カバースリップ上に、他所(Blood 1995, 85(3):705−711)で記載されたとおりに被覆した。
【0066】
2つのカバースリップホルダを有する、チャンバー高0.4、0.6または1.0mm、幅1.0cmのパラレルプレート潅流チャンバーで、それぞれ2700、1300および300s−1の近似ずり速度(approximate shear rate)の拍動流で(ローラーポンプ、Watson Marlow 603S, VEL, Leuven, Belgium)潅流を行なった。抗凝固処理した全血(低分子量ヘパリン0.2IUml−1、Clexane)を、コラーゲン被覆カバースリップ上を5分間潅流させ、その後、リンスしたカバースリップをグリュンワルド−ギムザにて染色し、血小板の沈着について、光学顕微鏡および、数量化パラメータとして表面被覆率を用いた、Blood 1995, 85(3):705−711に記載された画像分析により評価した。
【0067】
2700s−1のずり速度では、サラチンはIC50=0.96±0.25μgml−1で、用量依存的に血小板粘着を抑制した(図2)。しかしながら、より穏やかな1300s−1のずり速度では、用量反応曲線の明白な右方移動が観察され、IC50=5.2±1.4μgml−1であった(図2)。300s−1の静脈ずり速度では、サラチンは10μgml−1までの潅流血小板の粘着を抑制することができなかった(データは示さず)。
【0068】
例3
表面プラズモン共鳴( SPR )による結合分析
BIAcore 3000 instrument (BIAcore, Freiburg, Germany)を用いたSPRにより、タンパク質相互作用を同定および特徴化した。供給者が開発したプロトコルに従い、カップリング試薬を用いた。CM5センサーチップへのカップリングは、活性化カルボン酸基を介して、ヒトIII型コラーゲン(Sigma)の遊離アミノ基に対してなされた。pHスカウティングおよびカップリングケミストリーを、標準的な条件(Anal Biochem. 1991, 198(2):268−277, JAI Press Ltd., 1992)で行なった。
【0069】
カップリングについては、コラーゲンを10mM酢酸緩衝液(pH4.5)中に0.125μgml−1で希釈し、331レゾナンスユニット(RU)の固定化材料を得た。このマトリクスは、20mM Hepes (pH 7.4), 150mM NaCl, 5mM EDTA, 0.005% Tween 20に希釈した精製組換えサラチンの結合を検査するのに用いた。全ての結合実験は、25℃で行なった。サラチンの滴定は、7.8nM〜10μMの範囲の濃度で行なった。得られた実験的RUプラトー値を、等式:
Req/サラチン濃度=(−KAxReq)+(KAxRmax)
に従ってプロットした。
【0070】
固定化コラーゲン表面上へのサラチンの滴定は、濃度依存的な結合をもたらした。さらに、センサー表面上のコラーゲンへ結合したサラチンの最大量は、1:1結合モデル用のシグナルの最大計算値よりも大きいシグナルをもたらした。これは、III型コラーゲン上のサラチンの結合部位が1つより多く存在することを示しており、これは、データをLangmuirに従って1:1結合モデルに当てはめても満足できる結果が得られなかったという観察により、さらなる裏づけを得た。
SPRデータのスキャッチャード分析は、サラチンについて、有意に異なる親和性を有する2つの異なる結合部位の存在を示した(図3)。平衡定数の計算により、高親和性部位については分離定数5x10−8M、低親和性部位については2x10−6Mが得られた。
【0071】
例4
血小板凝集
サラチンの血小板機能に対する特異性を、アゴニストとしてコラーゲン、ADP、リストセチン、アラキドン酸またはトロンボキサン類似物質であるU46619を用いた、多血小板血漿での凝集研究によりさらに評価した。投薬されていない、健康なボランティアからのクエン酸(3.13%)処理血を遠心分離し(100g、15分)、多血小板血漿を得、そこにサラチンを加え(終濃度0〜200μgml−1)、その1分後にコラーゲン(0.5μgml−1)、ADP(2.5μM)、リストセチン(0.9mgml−1)、アラキドン酸(1.0mM)またはU46619(1.3μM)により血小板凝集を惹起した。5分の間の最大凝集(振幅)を各アゴニストについて観察した。
【0072】
サラチンは、40μgml−1までの終濃度のコラーゲンを含む、試験した全てのアゴニストに対して最大凝集を抑制することができなかった(表2)。しかしながら、サラチンは、コラーゲン誘導性血小板凝集を100μgml−1では部分的に抑制し(ここでは示さず)、そして、200μgml−1では完全に抑制した。しかし、ADPに対する凝集は、200μgml−1のサラチンにさえ影響を受けなかった。
【0073】
例5
ラットCEAモデル
動脈切開術、中膜の一部および内膜の除去、および動脈の縫合閉鎖を伴う開放技術を用いたラットCEAモデルを使用した。一方のラット群にはサラチンを与える一方、他方の群を対照として用いた。測定指標は、1)血小板粘着、2)血栓症率、3)内膜過形成の進行を含んだ。動脈を閉鎖する前に、動脈内膜切除を受けた頚動脈の表面に、サラチンを直接適用した。調製された頚動脈の電子顕微鏡写真を、血小板凝集の定量分析に用いた(2000倍)。総血小板数は標準化したオーバーレイグリッドで計数した。内膜過形成および血栓症は、エラスチン染色した頚動脈切片のコンピュータ支援形態分析によって評価し、内膜過形成領域は直接測定した。
【0074】
例6
頚動脈内膜切除術
動物をベルジャー内でイソフルランにて不動化し、体重を測定し、次に、ケタミン(100mg/kg)およびマレイン酸アセプロマジン(1mg/kg)の組合せの腹腔内投与により麻酔した。後足の刺激に対する応答の欠如により適切に麻酔されたことを確認後、背部の上部中央領域に4ccの正常生理食塩水を皮下注射し、術中の任意の血液喪失を補償する液体ボーラス(10cc/kg)とした。次に頚部を剃毛し、7%イソプロピルアルコールで準備した。無菌技術と解剖顕微鏡(x 40,sz40 Olympus, Olympus America Inc., Melville, NY)を用いて、頚部正中切開を行なった。表層の筋肉を分け、右頚動脈のレベルまで解剖を進めた。咽頭機能の保全と術後の呼吸機能障害予防のために、動脈部分の頚神経を分け、遊離させた。
【0075】
頚動脈を適切に露出させた後、3−0絹糸による駆血帯を用いて、分岐部に、約1.5cm離れた近位および遠位のコントロール(control)を得た。角膜刀を用いて動脈切開を行ない、マイクロ剪刀で6mmの長さに広げた。27ゲージ針を用いて、血管を横切るかたちで、約2mm離れた2本の平行線状に、内膜に横に刻み目を入れた。内膜および中膜層をマイクロ鉗子で除去した。サラチン群のラットには、5μlのサラチン溶液を直接動脈内膜切除表面に適用した。
【0076】
動脈切開部を、10−0モノフィラメントナイロン糸(MS/9, Ethilon, Ethicon Inc., Somerville, NJ)による、遠位端からの連続(running)縫合にて閉鎖した。遠位駆血帯を最初に除去し、縫合線の止血を評価し、その後、近位駆血帯を除去した。サラチンの適用時間は5分であり、これは、動脈切開部の閉鎖時間である。縫合線の出血はいずれも、止血が達成されるまで、滅菌コットンチップアプリケータで穏和に押さえた(tamponaded)。動脈内膜切除された頚動脈を手持ち式ドップラーで評価し、疎通を確認した。次に、表層の筋層および皮膚を3−0吸収糸による連続縫合で閉鎖した。
【0077】
例7
血小板粘着
血小板粘着サブグループでは、ラットを再度麻酔し、動脈内膜切除された頚動脈を、頚動脈内膜切除術後3時間目または24時間目に採取し、4%グルタルデヒド溶液で固定した。採取手技の最中に頚動脈セグメントを縫合閉鎖部位に沿って縦に開き、その結果、動脈内膜切除領域が露出される。次に、動脈を四酸化オスミウムで後固定し、段階アルコール系列で脱水し、CO2で臨界点乾燥し(1072 psi、31.1℃)、金パラジウムで被覆し、走査型電子顕微鏡(JEOL JSM 5410, JEOL, USA Peabody, MA)に設置した。
【0078】
動脈内膜切除領域を倍率2000xで走査し、写真画像を得た。写真画像をマッチングし、コラージュに配置することにより、走査型電子顕微鏡モニタの単一の視野で可能であったものよりも大きな領域の視角化を可能とした。一度写真のコラージュが揃うと、それを透明のオーバーレイグリッドでカバーした。同じオーバーレイグリッドを、全ての写真標本に用い、それぞれの写真において、116のスクエアを血小板総数の計数に用いた。116という数は、全ての写真コラージュで常に計数できたスクエアの数である。血小板の計数は、二重盲検化した観察者により行なった。
【0079】
例8
内膜過形成
頚動脈内膜切除術後2週間目に、内膜過形成群のラットを麻酔し、動脈内膜切除した頚動脈を露出した。腹部を正中で開き、遠位大動脈および下大静脈を露出した。大静脈を横切開し、遠位大動脈に20ゲージカテーテルでカニュレーションし、大静脈流出液が透明になるまで正常生理食塩水を100mmHgで注入した。次に、10%緩衝ホルマリンを、100mmHgで同量注入し、潅流固定技法を完了した。施術した頚動脈を1センチの区間切除し、組織学のためのさらなる処理まで10%ホルマリン中に置いた。動脈をパラフィンで包埋し、薄切し、べルホッフ(Verhoeff)およびファンギーソン染色でエラスチン染色した。
【0080】
多数の切片を、3マイクロメートル間隔で、薄切領域の標準化のため、それぞれ、10−0ナイロン糸での連続縫合による動脈切開部の閉鎖部分に沿って、連続して得た。エラスチン染色されたスライドを、KODAK DC 120ズームデジタルカメラ(Eastman KODAK Company, Rochester, NY)で撮影した。血栓を起こしている部分はいずれも、この時点で指摘される。血栓を起こしていない画像をコンピュータにダウンロードし、頚動脈の内腔領域を、国立保健研究所(Bethesda, MD)のImageJ Software program, Version 0.99iを用いて分析した。
【0081】
このソフトウェアパッケージにより、内膜過形成の内部領域の輪郭を描くことができ、従って、血管内腔の断面積の正確な測定が可能になった。また、内膜過形成の外部面積も決定した。2つの面積の差(内膜過形成の外部面積マイナス実際の内腔)を、内膜過形成の絶対面積として決定した。動脈の断面積は、個別の形状の差があるので、数値を、内膜過形成の絶対面積の内膜過形成の外部境界に対する比として表現し、内腔狭窄のパーセントとして記載した。この比は、内膜過形成の内腔面積に占める割合を表しており、異なるサイズの動脈断面積の比較を可能にした。最小の変動性は、二重盲検化観察者による測定間に見られた。
【0082】
例9
出血時間および血小板数
全身血小板数および出血時間へのサラチンの効果を評価するために、12頭のラットの血小板数および出血時間を測定した。各ラットから約1〜1.5ccの術前血液試料を得る必要があった場合、これは、ラットの全血量のかなりの部分である。これを考慮し、対照ラットおよびサラチンラットの両方の術後血小板数の減少を想定するのが合理的である。サラチンの血小板数への効果を評価するために、我々は、術後血小板数から術前血小板数を引き、その差を得ることにより、各ラットにおける血小板数の差を決定した。
【0083】
血小板数の差は、処置の2x2因子配置の分散分析モデル(2 X 2 factorial arrangement of treatments ANOVA model)を用いて分析した。対照ラットおよびサラチン処置ラット間の血小板数の差に統計学的な有意性は示されなかった。全てのラットは、術前に決定された血小板数および出血時間を有していた。6頭のラットは、頚動脈内膜切除術を行ない、術後3時間目に採取し、出血時間および血小板数を測定し、残りの6頭のラットは、術後24時間目に採取し、出血時間および血小板数を測定した。各時間群中3頭のラットはサラチンの局所投与を受け、残りの3頭のラットは対照とした。
【0084】
出血時間は、ラットの尾の遠位2mmを横切開し、尾を約4cm、37℃のリン酸緩衝溶液中に浸した。尾の横切開から、出血の停止までの経過時間を測定し、出血時間とした。血小板数は、内頚静脈から1〜1.5ccの血液試料を採取し、Coulter STKS blood analyzerで分析し、結果をx103で表した。
【0085】
例10
統計学的方法
平均値±標準誤差を記載した。サラチン処置群および対照群を、粘着血小板数、内腔狭窄パーセントおよび出血時間について比較するために、Stat View program (SAS Institute Inc. Cary, NC 27513) version 5.0を用いて対応のないt−検定分析を行なった。頚動脈内膜切除術後2週間目の血栓症の発症についてのオッズ比を評価するために、カイ二乗分析の尤度比を用いた。術前および術後の血小板数の差を評価するために、処置の2x2因子配置の分散分析モデルを用いた。
【0086】
例11
実験動物
Sprague−Dawleyラット(350〜400g)で、2つの主目的に基づき、複数の頚動脈内膜切除術群を組織した。1)血小板粘着の評価、および2)内膜過形成による内腔狭窄および血栓症率の評価である。これら2つの目的の中で、ラットを、対照動物とサラチン処置動物とに分けた。全てのラットに頚動脈内膜切除術を行ない(下記参照)、サラチン処置ラットは、内膜/中膜層の除去後直ちに、頚動脈の内腔面に、サラチン溶液5μlの局所適用を受けた。血小板粘着群は、頚動脈内膜切除術後3時間目(n=17)および頚動脈内膜切除術後24時間目(n=19)での電子顕微鏡による評価からなった。内膜過形成群(n=25)は、頚動脈内膜切除術後2週間目に採取された。
【0087】
例12
サラチンコートされたヒドロゲルカテーテルの製造
PA−12ベースの材料の表面を、デバイスを2モル%のマクロ開始剤(ポリ(オクタデセン−alt−マレイン酢酸無水物))(poly(octadecen−alt−malein acetic acid anhydrid))の溶液中に、イソプロパノールに溶解したパー−エステル(per−ester)(11〜16モル%)およびマクロ開始剤1モルに対し0.5モルのエチレングリコール−ジメタクリレート(EGDMA)とともに浸漬し、活性化させた。その後、マクロ開始剤/EGDMAコーティングを乾燥させた。コーティングをさらに5〜10分、120℃でアニールした。これは、マクロ開始剤の表面への固定を改善することを補助し、その結果、架橋を改善した。
【0088】
コーティング条件を最適化するために、PA−12担体シート上に生成したヒドロゲルコーティングを用いた。コーティングの前に、シートをイソプロパノールまたはアセトンで洗浄し、乾燥させた。
Vestamid (PA−12)からなるBlue Medical Devises GO(RX PTCA catheter)型バルーンカテーテルを、ヒドロゲルでのコーティングに用いた。5モル%のアクリル酸100mlおよび0.2〜0.8モル%のメチレン−ビス−アクリリック(methylen−bis−acrylic)の水溶液を混合し、シートまたはカテーテルをコートするのに用いた。重合後、コートしたデバイスを水で洗浄し、さらに24時間PBSバッファーで洗浄した。
【0089】
これに続き、ポリマーをオーブンで60〜80℃にて0.5〜3時間アニールした。
乾燥ヒドロゲルコーティングの厚さは1〜4μmの範囲であり、水性溶液中でのヒドロゲルの膨潤は、乾燥ヒドロゲル1g当たり湿潤ヒドロゲル10〜50gの範囲であった。
サラチンの緩衝PBSバッファー溶液(pH7.4)に浸漬する場合(30分)、50μgmlの濃度を用いた。
バルーンカテーテルに噴霧する場合、コーティング溶液の調製には有機溶媒を用い、EFDから入手できるような標準的な小型噴霧コーティング装置を用いた。
【0090】
【表1】
表1は、ヒトIおよびIII型コラーゲンおよび仔ウシ皮膚コラーゲンに結合する様々な種からの多血小板血漿における、血小板粘着の抑制に必要なサラチンのIC50濃度を示す。
【0091】
【表2】
表2は、様々なアゴニストにより惹起された多血小板血漿における血小板の最大凝集(%)へのサラチンの効果を示す。試薬の終濃度は、記載のとおりである。
【0092】
【表3】
表3は、術前および術後の出血時間および血小板数を示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】精製ヒトvWFのヒトI型(円)およびIII型(四角)コラーゲン、および仔ウシ皮膚コラーゲン(三角)への結合に対するサラチンの効果を示した図である。IC50は、I型=0.23±0.004μgml−1、III型=0.81±0.04μgml−1および仔ウシ皮膚コラーゲン=0.44±0.008μgml−1。
【図2】in vitroでのフローチャンバーにおける、ヒトIII型コラーゲン上の血小板凝集塊形成のサラチンによる抑制へのずりの効果を示した図である。円は、2700s−1のずり速度(IC50=0.96±0.25μgml−1)を示し、一方四角は1300s−1のずり速度(IC50=5.2±1.4μgml−1)を示す。
【図3】表面プラズモン共鳴により検出された固定化ヒトコラーゲンへのサラチンの結合のスキャッチャード分析を示した図である。III型コラーゲン上のサラチンに対する高親和性(Kd=5 x 10−8 M、実線)および低親和性(Kd=2x10−6M、破線)結合部位の存在を示している。
【図4】頚動脈内膜切除術後3時間目における露出内皮下層表面への粘着血小板数を、サラチン適用群(n=7)と対照群(n=10)とで比較した図である。データは、平均値±SEである。サラチン群は、露出した内皮下層表面に5μlのサラチン溶液の局所適用を受けた。星印は、P値0.05を示す。
【図5】頚動脈内膜切除術後24時間目における露出内皮下層表面への粘着血小板数を、サラチン適用群(n=9)と対照群(n=10)とで比較した図である。データは、平均値±SEである。血小板は、走査型電子顕微鏡を用いて計数した。サラチン群は、露出した内皮下層表面に5μlのサラチン溶液の局所適用を受けた。星印は、P値0.01を示す。
【図6】頚動脈内膜切除術後3時間目の動脈内膜切除されたラット頚動脈の電子顕微鏡写真(2000x)である。Aは対照表面である。Bは、サラチン(5μl)の局所投与を受けた表面である。対照表面には、フィブリン鎖、赤血球、および血小板を含む多量の細胞要素が認められる。サラチン処置表面は、細胞要素の顕著な減少を示している。
【図7】頚動脈内膜切除術後24時間目の動脈内膜切除されたラット頚動脈の電子顕微鏡写真(2000x)である。Aは対照表面である。Bは、サラチン(5μl)の局所投与を受けた表面である。対照表面には、多数の赤血球および血小板が認められる。サラチン処置表面は、血小板粘着の顕著な減少を示している。
【図8】頚動脈内膜切除術後2週間目における、内膜過形成に続発した内腔狭窄パーセントを示した図である。サラチン群(n=15)および対照群(n=10)を示した。サラチン群は、露出した内皮下層表面に5μlのサラチン溶液の局所適用を受けた。星印は、P値0.004を示す。
【図9】頚動脈の断面を示した写真である。ラットにおいて、サラチン処置動脈(B)では、無処置対照(A)に比べ内膜過形成が低減していることを示している。IH=内膜過形成。
Claims (19)
- 血小板粘着を予防する治療有効量のサラチンを血管組織に投与することを含む、血管損傷または動脈内膜切除術後における血小板集積の抑制、それによる血栓症および再狭窄抑制のための医薬の製造へのポリペプチドサラチンの使用。
- 血管損傷が、動脈硬化、心臓移植血管症、冠動脈インターベンションに続発した冠動脈再狭窄、バルーン血管形成術、ステント留置、ロータブレータ、頚動脈内膜切除術を含む動脈内膜切除術、透析グラフトのシャントおよび他のグラフトの吻合、不安定狭心症、急性心筋梗塞、卒中、良性肥大症、または良性前立腺肥大症に関連している、請求項1に記載の使用。
- ヒドロゲルで被覆された表面および抗血栓原性表面を提供するためのコーティングに関する手段を有するデバイスであって、該ヒドロゲルに、生物学的に活性な量のサラチンが、そこから局所に送達されるために組込まれている、前記デバイス。
- サラチンがカテーテルを介して局所投与され、または、サラチンが、組織に局所的に向けられたカテーテルの内腔内ペイビング中に組込まれている、請求項1に記載の使用。
- サラチンが、サラチンの局所における持続的放出を可能にする局所投与されたポリマー中に組込まれている、請求項1に記載の使用。
- ポリマーに製剤されたサラチンが、カテーテルを介して局所投与される、請求項5に記載の使用。
- ポリマー材料がデバイスの一部であり、かつサラチンを含有することを特徴とする、カテーテルデバイス。
- サラチンが、組織上または組織中に局所留置されるステントまたはステントのコーティングに組込まれている、請求項1に記載の使用。
- サラチンが、組織上または組織中に局所留置される血管内グラフトまたは血管内グラフトのコーティングに組込まれている、請求項1に記載の使用。
- 請求項1〜9のいずれかに記載の事項を含むキット。
- 損傷血管組織を処置する方法であって、治療上有効な、血小板粘着を抑制する量のサラチンを該損傷血管組織に局所投与し、それにより該損傷血管組織を処置する、前記方法。
- 血管損傷が、動脈硬化、心臓移植血管症、冠動脈インターベンションに続発した冠動脈再狭窄、バルーン血管形成術、ステント留置、ロータブレータ、頚動脈内膜切除術を含む動脈内膜切除術、透析グラフトのシャントおよび他のグラフトの吻合、不安定狭心症、急性心筋梗塞、卒中、良性肥大症、または良性前立腺肥大症に関連している、請求項9に記載の方法。
- 血管損傷が、動脈硬化または再狭窄に関連している、請求項9に記載の方法。
- サラチンが、カテーテルを介して局所投与される、請求項9に記載の方法。
- サラチンが、組織に局所的に向けられたカテーテルの内腔内ペイビング中に組込まれている、請求項14に記載の方法。
- サラチンが、サラチンの局所における持続的放出を可能にする局所投与されたポリマー中に組込まれている、請求項9に記載の方法。
- ポリマーに製剤されたサラチンが、カテーテルを介して局所投与される、請求項9に記載の方法。
- サラチンが、組織上または組織中に局所留置されるステントまたはステントのコーティングに組込まれている、請求項9に記載の方法。
- サラチンが、組織上または組織中に局所留置される血管内グラフトまたは血管内グラフトのコーティングに組込まれている、請求項1に記載の方法。
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