JP2004359613A - アクリル酸の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い捕集率でアクリル酸を捕集し、高濃度のアクリル酸含有溶液を得る、アクリル酸の製造方法を提供する。
【解決手段】プロピレンおよび/またはアクロレインを接触気相酸化反応してアクリル酸含有ガスを得る工程、該アクリル酸含有ガスを捕集用水溶液で捕集しアクリル酸含有溶液を得る工程とを含むアクリル酸の製造方法において、該捕集塔に導入される該アクリル酸含有ガス中のアクリル酸に対して0.2質量倍以上の捕集用水溶液を供給し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度を75質量%以上にする。本発明によれば、アクリル酸捕集率を向上させ、系外に排出されるアクリル酸量が少ないため、生産効率を向上させることができる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクリル酸捕集工程において、捕集塔に供給されるアクリル酸に対する捕集用水溶液量を0.2質量倍以上、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度を75質量%以上にしてアクリル酸を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
工業的なアクリル酸の製造方法は、プロピレンおよび/またはアクロレインを接触気相酸化するプロピレン酸化法が一般的である。このプロピレン酸化法によりアクリル酸を製造する場合、プロピレンの酸化工程で、水や、プロピオン酸、酢酸、マレイン酸などの酸類、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類などの不純物が副生する。これらの副生物を含んだガスは、一般的に捕集溶剤と接触させることにより、アクリル酸含有溶液として捕集後、蒸留などの方法で捕集溶剤を分離し、さらに低沸点成分および高沸点成分を分離して精製される。蒸留で容易に分離できないアルデヒド類などの微量の不純物は、薬剤処理や晶析工程などによって精製される場合もある。しかしながら高度の精製には多くの工程が必要で装置や操作も煩雑となり、アクリル酸の収率が低下する一因となる。
【0003】
例えば、接触気相酸化により得られたアクリル酸を含むガスを、高沸点溶剤で捕集し、蒸留により溶剤と粗製アクリル酸に分離した後、晶析工程によって高純度のアクリル酸を製造する方法がある(特許文献1)。しかしながら、この方法では、アクリル酸含有ガスをベンチュリーで冷却した後に捕集工程を行ない、次いで低沸点化合物除去工程を行い、その後に高沸点物質溶媒を除去するための蒸留を行う必要があり、工程が複雑である。
【0004】
一方、アクリル酸捕集液として、高価な高沸点溶剤に代えて水溶液を使用できれば経済的である。特に、高濃度のアクリル酸溶液を処理できればその後の精製工程の処理量を低減でき、効率的でもある。そこで、アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入し、捕集用水溶液を捕集塔に導入してアクリル酸を捕集し、捕集塔塔底液としてアクリル酸50〜80重量%、酢酸2〜5重量%、残部が水であるアクリル酸含有溶液を調製する方法がある(特許文献2)。なお、この方法では該アクリル酸含有溶液に2種以上の共沸溶媒混合液を用いて共沸脱水し、次いで高沸点物質除去工程などを経て精製し、精製アクリル酸を得ている。
【0005】
また、接触気相酸化反応で得たアクリル酸含有ガスを水溶液捕集する際に、共沸脱水工程から排出した回収水を捕集塔に供給し、得られたアクリル酸含有溶液を放散塔に供給して、該放散塔の塔底からアクリル酸70.9質量%、水25.6質量%、酢酸2.0質量%のアクリル酸溶液を得る方法もある(特許文献3)。この方法では該アクリル酸含有溶液を共沸脱水し、次いでこれを結晶化工程に供給して精製アクリル酸を得ている。
【0006】
【特許文献1】
特開平9−227445号公報
【特許文献2】
特開平5−246941号公報
【特許文献3】
特開2001−199931号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記文献記載の方法では、有機溶媒を捕集溶剤として使用する場合にはその後に溶媒分離工程が必要となる。また、これらによっても十分に高濃度のアクリル酸含有溶液が得られたとはいい難い。例えば、上記文献1では、水より吸収能の低い高沸点溶剤を使用しているため、捕集工程で得られる溶液のアクリル酸濃度は高くても20質量%程度である。
【0008】
一方、捕集工程から得られるアクリル酸含有溶液中のアクリル酸濃度が低ければ、その後の工程で分離されるべき不純物が多くなり、分離のための設備の大型化、必要用役量の増大が避けられない。捕集塔の塔底液として、高濃度にアクリル酸を含有するアクリル酸溶液を得ようとすると捕集効率が低下し、商業的に成立しないのが実情である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高濃度のアクリル酸含有溶液を調整するときに系外に排出されるアクリル酸量、すなわちアクリル酸ロスを低減するアクリル酸の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
アクリル酸含有溶液の濃度はアクリル酸含有溶液中のアクリル酸量と溶媒量とによって決定されるため、高濃度のアクリル酸含有溶液を調整するには、捕集塔に投入する溶媒量を低減すればよい。しかしながら、アクリル酸濃度が75質量%以上の塔底液を得ようとすると、捕集塔からのアクリル酸ロスが増加し、商業的には成り立たない。本発明者らは、高濃度のアクリル酸含有液を調整する際に、捕集工程におけるアクリル酸捕集率を向上させることで系外に排出されるアクリル酸量を低減する条件を検討し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、プロピレンおよび/またはアクロレインを接触気相酸化反応してアクリル酸含有ガスを得る工程、該アクリル酸含有ガスを捕集用水溶液で捕集しアクリル酸含有溶液を得る工程とを含むアクリル酸の製造方法において、該捕集塔に導入される該アクリル酸含有ガス中のアクリル酸に対して0.2質量倍以上の捕集用水溶液を供給し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度を75質量%以上にすることを特徴とするアクリル酸の製造方法である。該方法によれば、アクリル酸捕集率を向上させ、アクリル酸ロスを少なくして高濃度のアクリル酸塔底液を得ることができる。
【0012】
本発明によれば、75質量%以上の高濃度のアクリル酸溶液を調整する際に、アクリル酸ロスが低減できるため、生産率を向上させることができる。また、75質量%以上の高濃度アクリル酸溶液であるために、共沸溶媒を使用せずに脱水処理でき、共沸溶媒を使用しないため、共沸脱水工程、溶剤回収工程、油水分離器の設置などを省略することができる。以下、詳細に説明する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明では、捕集用水溶液を、捕集塔に導入される該アクリル酸含有ガス中のアクリル酸に対して0.2質量倍以上にして、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度を75質量%以上にする。理論的には、捕集率が100%の場合に捕集用水溶液量が0.35倍の場合には、1×100/(1+0.35)=74となり、75質量%以上のアクリル酸濃度の塔底液を調製することはできない。しかしながら、捕集塔では塔頂からアクリル酸捕集後の排ガスが排出され、同時に未捕集のアクリル酸や気体状の捕集用水溶液も排出されるため、塔底に移行する捕集用水溶液量は、捕集塔に供給された捕集用水溶液量と同量ではない。すなわち、捕集用水溶液の内で塔底液となるのは、供給した捕集用水溶液量と、蒸発などによって塔頂から排出される捕集用水溶液量との差になる。このため、アクリル酸含有ガス中のアクリル酸に対して0.2質量倍以上の捕集用水溶液を供給しても、塔頂から系外に排出される捕集用水溶液量を調整することで、75質量%以上のアクリル酸含有溶液を調製することができる。系外に排出する水分量は塔頂温度を調整することで調整することができる。しかし、捕集用水溶液量が少ないと、捕集用水溶液とアクリル酸ガスとの気液接触が十分に達成されずアクリル酸の捕集率が低下し、系外に排出されるアクリル酸量が増加する。また、塔頂温度が高いと、捕集塔に供給されるアクリル酸含有ガスが未捕集のまま塔頂から排出され、やはり系外に排出されるアクリル酸量が増大する。一方、塔頂温度が低いと、系外に排出される捕集用水溶液量が少なく、塔底液のアクリル酸濃度を高めることができない。なお、上記したように、高濃度のアクリル酸溶液を調製できても、アクリル酸捕集率が低下している場合には系外に排出されるアクリル酸が多く、アクリル酸の生産コストが上昇するため商業的には成立しない。そこで本発明では、捕集用水溶液量をアクリル酸の0.2質量倍以上にし、75質量%以上のアクリル酸濃度の塔底液を得ることで、アクリル酸捕集率を向上させて系外に排出されるアクリル酸量を低減することにした。
【0014】
本明細書において、「低沸点物質」とは、標準状態においてアクリル酸よりも沸点が低い物質をいい、「高沸点物質」とは、標準状態においてアクリル酸よりも沸点が高い物質をいう。「凝縮性物質」とは、20℃、大気圧において液体である物質をいう。「蒸留」とは、溶液をその沸点まで加熱し含まれる揮発性成分を分離する方法であり、「晶析」とは、液相および気相から結晶を析出させる操作である。また、「動的結晶化工程」とは、結晶化に際して、ポンプなどの強制対流によって液相を移動させる晶析方法、「静的結晶化工程」とは、ポンプなどを使用せず自然対流だけで液相を移動させる晶析方法をいう。以下、本発明の好ましい態様の一例を図1に基づいて説明する。
【0015】
まず、図示しない除湿装置によって水分量を低減させた空気3などの分子状酸素含有ガス、プロピレンおよび/またはアクロレイン1などのアクリル酸原料、および希釈ガス5とを混合する。この混合ガス(以下、原料ガスとも称する。)を、接触気相酸化触媒10を充填した反応器20に供給し、接触気相酸化反応によってアクリル酸含有ガス25を得る。該ガス25を捕集塔30の塔底に供給し、アクリル酸含有ガスのアクリル酸量に対して0.2質量倍以上の捕集用水溶液33を該捕集塔30の塔頂から供給する。該捕集用水溶液33は塔内を落下しつつ、塔頂に向かって上昇するアクリル酸含有ガス25と接触し、捕集用水溶液中にアクリル酸を捕獲する。なお、捕集されなかったアクリル酸や未反応原料ガスなどは捕集塔の塔頂部から排出される。なお、アクリル酸捕集の際に塔底液を抜き出し、熱交換器37に導入して冷却または加熱した後に塔内に循環させ、捕集塔塔頂温度を調整してもよい。塔頂温度を調節することにより、塔底液として75質量%以上のアクリル酸濃度のアクリル酸含有溶液35が得られる。
【0016】
捕集以降の工程に制限はないが、本発明では高濃度のアクリル酸含有溶液を効率的に精製する方法として、該アクリル酸含有溶液35を第一蒸留塔40に供給し、含まれる低沸点物質を除去した後、粗アクリル酸41を得る。この粗アクリル酸41を晶析器50に供給すると製品アクリル酸60が得られる。捕集塔塔底液の組成によっては、第一蒸留塔を使用せず直接晶析器50に供給してもよい。なお、第一蒸留塔40の塔底液43に含まれる高沸点物質にはアクリル酸二量体が含まれるため、これを塔底に薄膜蒸発器73を併設した第二蒸留塔70に供給してアクリル酸二量体を濃縮し、次いで該二量体を熱分解槽75に滞留させてアクリル酸に熱分解する。このアクリル酸は第二蒸留塔70を介して第一蒸留塔40および/または捕集塔30に循環させ、製品として回収することができる。
【0017】
本発明では、アクリル酸原料ガスとして、プロピレンおよび/またはアクロレインを使用できる。反応器20としては、接触気相酸化反応が行えれば特に制限されないが、反応効率に優れる点で多管式反応器を好ましく使用することができる。該反応器20に、公知の接触気相酸化触媒10を充填し、原料ガスと酸素、空気等の分子状酸素含有ガスとを接触させることにより酸化させる。原料ガスとしてプロピレンを使用する場合には、プロピレン濃度は7〜15体積%、水0〜10体積%、分子状酸素はプロピレン:分子状酸素(体積比)を1:1.0〜2.0の範囲とする。分子状酸素の供給源としては空気を用いることができる。該空気が水分を含んでいる場合には、反応器に供給する前に予め除湿することが好ましい。反応器に導入する水分量、ひいては捕集塔に導入される水分量を低減させることができるからである。なお、空気に代えて酸素富化空気、純酸素を用いることもできる。また、希釈ガス5には、窒素、二酸化炭素、その他の不活性ガスがある。また、場合によっては捕集塔30の塔頂より排出されたガスを使用してもよい。
【0018】
プロピレンを原料とする場合の接触気相酸化反応は、通常二段階で行い、二種類の接触気相酸化触媒10を使用する。一段目の触媒はプロピレンを含む原料ガスを気相酸化して主としてアクロレインを生成し得るものであり、二段目の触媒はアクロレインを含む原料ガスを気相酸化して主としてアクリル酸を生成し得るものである。一段目の触媒としては、鉄、モリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物を、また二段目の触媒としてはバナジウムを必須成分とする触媒を挙げることができる。
【0019】
なお、図1では、上記二段階の反応をシングルリアクターで行なう態様を示したが、異なる2つの反応器を接続したタンデムで行なってもよい。接触気相酸化反応で得られるアクリル酸含有ガス25には、アクリル酸5〜14体積%、酢酸0.1〜2.5体積%、分子状酸素0.5〜3.0体積%、水5〜36体積%の範囲で含まれ、その他は原料ガス中の未反応成分およびプロピオン酸、マレイン酸、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒド、COxなどの反応副生物である。
【0020】
アクリル酸捕集塔30において、アクリル酸含有ガスと捕集用水溶液との接触方法には公知の接触方法を使用することができ、例えば、泡鐘トレイ、ユニフラットトレイ、多孔板トレイ、ジェットトレイ、バブルトレイ、ベンチュリートレイを用いる十字流接触;ターボグリッドトレイ、デュアルフロートレイ、リップルトレイ、キッテルトレイ、ガーゼ型、シート型、グリット型の規則充填物、不規則充填物を用いる向流接触などが挙げられる。
【0021】
本発明で使用する捕集用水溶液33としては、アクリル酸を捕集できる水溶液であれば広く使用することができる。純水、工業用水、アクリル酸製造工程から排出されるプロセス水であってもよい。捕集用水溶液として水を主成分とする捕集溶剤を使用する場合には、製造工程のいずれかでこの水を分離除去する工程を含むこと、および接触気相酸化反応によって必ず水が発生するため、この水もいずれかの工程で除去する必要がある。本発明では、このようなプロセス水を捕集用水溶液として、または捕集用水溶液の一部として使用することができる。従って捕集用水溶液には、水のほかにアクリル酸製造工程で排出される酢酸などの低沸点物質やアクリル酸が、酢酸0.5〜5.0質量%、アクリル酸0.1〜3.0質量%含有する捕集用水溶液であってもよい。
【0022】
捕集塔に導入される該アクリル酸含有ガス中のアクリル酸に対する該捕集用水溶液33の質量比は、目的とする塔底のアクリル酸濃度によって適宜選択することができる。本発明では、捕集塔に導入するアクリル酸含有ガスに含まれるアクリル酸質量の0.2倍以上、好ましくは0.2〜2.0倍、特には0.2〜1.5倍の捕集量水溶液を向流接触させてアクリル酸を捕集する。上記したように、0.2〜0.35質量倍の捕集用水溶液を供給すると、計算上はアクリル酸濃度75質量%の塔底液となるが、塔頂から排出される捕集用水溶液量が0の場合には低沸点物質の全量が塔底液に捕集されることを意味し、通常稼動の捕集塔条件下では実現できない。本発明は、捕集塔に導入されるアクリル酸含有ガス中のアクリル酸に対する捕集用水溶液量を0.2倍以上にして75質量%以上の高濃度アクリル酸溶液にすることで、アクリル酸ロスを低減できる点に特徴がある。0.2質量倍を下回るとアクリル酸捕集塔の極端な効率低下を引き起こす場合がある。
【0023】
捕集塔の塔底に移行する捕集用水溶液量は、供給される捕集用水溶液量と塔頂から排出される捕集用水溶液量との比によって制御され、この比は塔頂温度を変更することで調整でき、塔頂温度の変動によってアクリル酸捕集率自体も変動される。本発明では、捕集塔に供給する捕集用水溶液量を0.2質量倍以上に増やして気−液接触を活発にすると共に、捕集塔塔頂温度を制御することで、塔底液量およびアクリル酸捕集率を調整すれば、簡便に75質量%以上のアクリル酸含有溶液とすることができる。なお、捕集用水溶液には、アクリル酸などの重合性物質の重合を防止するために、特開2001−348360号公報、2001−348358号公報、2001−348359号公報等に記載されるN−オキシル化合物、フェノール化合物、酢酸マンガン等のマンガン塩、ジブチルチオカルバミン酸銅などのジアルキルジチオカルバミン酸銅塩、ニトロソ化合物、アミン化合物およびフェノチアジンからなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有させてもよい。
【0024】
アクリル酸捕集塔は、常圧以上で操作するのが一般的である。本発明では、塔頂圧力(ゲージ圧)としては、0〜0.4MPa、好ましくは0〜0.1MPa、特には0〜0.03MPaである。0MPa(ゲージ圧)より低いと減圧装置が必要となり設備費、用役費がかかる。一方、0.4MPa(ゲージ圧)より高いと塔頂から低沸点物質を排出させるために捕集塔の温度をかなり上げる必要が生じ捕集効率が低下する場合がある。
【0025】
また、塔頂温度としては、一般には30〜85℃、特には40〜80℃であることが好ましい。捕集塔に供給されたアクリル酸含有ガスは、捕集用水溶液と気液接触し、捕集用水溶液中にアクリル酸を捕集するが、捕集されなかったアクリル酸や未反応原料ガス等は塔頂部から排出される。本発明では、アクリル酸に対する捕集用水溶液量を0.2質量倍以上として、アクリル酸との気液接触を十分に行うが、塔頂温度を上記範囲に調整することで、塔頂から排出される捕集用水溶液量とアクリル酸捕集率を変動させ、75質量%以上のアクリル酸濃度に調整することができる。なお、塔頂温度の制御は、塔低液を抜き出して熱交換器37に導入して、冷却、または加熱し塔内に循環することによって行うことができる。
【0026】
塔頂温度が85℃を超えると、アクリル酸捕集率が低下し、および塔内での重合が起こり易くなり、一方、30℃を下回る温度に調整することは、過大な冷却エネルギーが必要となり、かつ塔底に移行する捕集用水溶液量が多くなりすぎる場合がある。
【0027】
本発明では、このような捕集条件によって、アクリル酸濃度:75〜98質量%、好ましくは80〜98質量%、より好ましくは85〜98質量%、水:1.0〜25質量%、およびその他の不純物(酢酸、マレイン酸、プロピオン酸などの酸類およびフルフラール、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類など):1.0〜10質量%のアクリル酸含有溶液35が得られる。
【0028】
本発明では、アクリル酸濃度が75質量%以上と極めて高濃度の捕集塔塔底液を得ることができるため、その後の精製工程を簡便に行なうことができる。このような高濃度のアクリル酸含有溶液の精製方法に制限はないが、含まれる水などの低沸点物質を除去した後に、晶析により精製する方法が例示できる。例えば、アクリル酸含有溶液35を第一蒸留塔40に供給し、実質的に水を含まない粗アクリル酸を塔底流および/または塔側流として分離する。
【0029】
第一蒸留塔40は、アクリル酸が分離できれば特に限定はされないが、充填塔、棚段塔(トレイ塔)等を用いることができる。
【0030】
第一蒸留塔40は、水や酢酸などの低沸点物質を分離する条件で蒸留する。この際、共沸溶媒を使用する必要はない。捕集工程で高濃度のアクリル酸含有溶液を調製できるため、共沸溶媒を使用しなくても含まれる水や酢酸などの低沸点物質を第一蒸留塔40の塔頂留出液45として効率的に分離できるからである。また、共沸溶媒を使用しないために、油水分離することなく該留出液の全量または一部を捕集塔に循環させたり、または廃棄してもよい。蒸留条件は、導入するアクリル酸含有溶液35のアクリル酸濃度や、目的とする粗アクリル酸の純度などによって適宜選択することができ、塔頂圧力(絶対圧)は20〜400hPa、好ましくは30〜300hPa、特には30〜200hPaとすることが好ましい。20hPa(絶対圧)より低いと、塔、コンデンサ、真空装置が大型化し設備費がかかり不利である。一方、400hPa(絶対圧)より高いと蒸留塔40内の温度が高くなり重合の危険性が増し不利である。また、塔頂温度は、一般には30〜70℃、特には40〜60℃である。一方、塔底温度は、一般には70〜120℃、特には80〜110℃である。このような蒸留条件によって、実質的に水を含まず、酢酸の含有量が0〜1.0質量%の粗アクリル酸が、蒸留塔の塔側流として得られる。
【0031】
本発明では、粗アクリル酸の精製工程として、図1の第一蒸留塔40に示す蒸留塔のほかに、特開2000−290221号公報、2001−226320号公報、2001−348360号公報、2001−348358号公報等に開示される、共沸脱水処理、該脱水工程の後に低沸点物質分離工程、高沸点物質分離工程、その他の精製工程等によって精製してもよい。しかしながら、本発明では、高濃度のアクリル酸含有溶液を調製し、これを精製することで共沸溶媒を使用せずに、水や酢酸などの低沸点物質を除去することができ、このため溶媒回収塔や溶媒と回収水とを分離するための油水分離器などの設置を回避できる点に特徴がある。なお、アクリル酸の精製工程としては蒸留精製に限られず、更に、放散、晶析、抽出、吸収、分縮を適宜組み合わせてアクリル酸を精製してもよい。
【0032】
本発明では粗アクリル酸41を晶析器50に供給し、精製アクリル酸60を得る。このような態様は、特開2001−199931号公報に記載の方法に準じて行なうことができる。
【0033】
第二蒸留塔70の塔底液は粘度が高いため、塔底側に薄膜蒸発器73を併設した蒸留塔70を使用することが好ましい。第二蒸留塔70は、理論段数1〜5段にて、10〜150hPa(絶対圧)の減圧下で、塔底温度120℃以下で蒸留するのが好ましい。なお、第一蒸留塔40の塔底液に含まれる高沸点物質には、アクリル酸二量体、マレイン酸、重合防止剤などがある。
【0034】
本発明では、第二蒸留塔70の塔頂からアクリル酸を留出させて晶析器50、第一蒸留塔40および捕集塔30のいずれかにその一部を供給してもよい。
【0035】
一方、上記薄膜蒸発器73の缶液を熱分解槽75に供給する。該熱分解槽75は、アクリル酸二量体を120〜220℃の範囲の温度で分解し、滞留時間(熱分解槽容量/廃油量)は熱分解温度によって変わるが、通常20〜50時間である。また、熱分解槽にアクリル酸ナトリウムなどの触媒を入れ、分解してもよい。アクリル酸二量体がアクリル酸に分解された後、これを薄膜蒸発器73に循環し、第二蒸留塔の塔頂留出液を第一蒸留塔40に供給すると、アクリル酸を有効に利用することができる。本発明では、アクリル酸捕集塔30で高濃度のアクリル酸含有溶液を調製することができるが、高濃度のアクリル酸含有溶液の重合は、重合防止剤の添加によって回避することができる。一方、捕集工程や精製工程ではアクリル酸濃度に比例する重合防止剤が使用されており、本発明ではこの重合防止剤は、熱分解槽75の廃液として系外に除去され、高純度の製品アクリル酸60を製造することができる。
【0036】
なお、晶析器50から回収した残留母液は、全量を第一蒸留塔40、第二蒸留塔70、薄膜蒸発器73、熱分解槽75、捕集塔30などのいずれかに供給してもよいが、一部を廃油として系外に排出してもよい。該残留母液の全量をアクリル酸二量体分解工程に供給した場合には、低沸点物質の濃縮を避けるために、アクリル酸二量体分解工程より回収されるアクリル酸の一部を系外に排出してもよく、アクリル酸二量体分解工程に供給する前にアルデヒド類およびマレイン酸を高沸点物化する為に化学的前処理を施してもよい。これによって、アクリル酸二量体分解工程より回収されるアクリル酸の不純物濃度を低減することができる。このような態様は、特開2001−199931号公報に記載の方法に準じて行なうことができる。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。
【0038】
実施例1
図1に示す装置を使用してアクリル酸を捕集した。
【0039】
プロピレンを酸化触媒の存在下で分子状酸素ガスと接触気相酸化させてアクリル酸7.1体積%、水11.0体積%、不活性ガス78.9体積%、その他3.0体積%を含むアクリル酸含有ガスを得た。
【0040】
このアクリル酸含有ガスを168℃で、計算上の理論段数が21段となるように充填物が充填された捕集塔塔底に供給した。
【0041】
捕集塔塔底から導入されたアクリル酸含有ガスは、捕集用水溶液として塔頂から投入した重合防止剤を含む純水と気液接触させた。捕集用水溶液は、供給ガス中のアクリル酸の0.228質量倍とし、捕集塔塔底液中のアクリル酸を90質量%となるように捕集塔塔頂温度を調節して捕集した。なお捕集塔塔頂圧力は10.8kPa(ゲージ圧)一定となるように制御した。該方法の概要、および該方法によるアクリル酸ロス率および捕集塔塔頂温度を表1に示す。表1において、アクリル酸に対する捕集用水溶液比およびアクリル酸ロス率の算出は下記式に基づいた。
【0042】
【数1】
Figure 2004359613
【0043】
【数2】
Figure 2004359613
【0044】
実施例2〜4、比較例1
供給ガス中のアクリル酸量に対する捕集用水溶液量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様に操作した。なお、捕集塔塔頂圧力は、実施例1と同様に10.8kPa(ゲージ圧)一定となるように制御した。該方法の概要、および該方法によるアクリル酸ロス率および捕集塔塔頂温度を表1に示す。
【0045】
【表1】
Figure 2004359613
【0046】
実施例5、6、比較例2
供給ガス中のアクリル酸に対する捕集用水溶液量を表2に示すように変更し、捕集塔塔底液中のアクリル酸を85質量%に変更した以外は、実施例1と同様に操作した。該方法の概要、および該方法によるアクリル酸ロス率および捕集塔塔頂温度を表2に示す。
【0047】
【表2】
Figure 2004359613
【0048】
実施例7、8、比較例3
供給ガス中のアクリル酸に対する捕集用水溶液量を表3に示すように変更し、捕集塔塔底液中のアクリル酸を80質量%に変更した以外は、実施例1と同様に操作した。該方法の概要、および該方法によるアクリル酸ロス率および捕集塔塔頂温度を表3に示す。
【0049】
【表3】
Figure 2004359613
【0050】
結果
捕集塔塔底液中のアクリル酸濃度が高い場合には、アクリル酸に対する捕集用水溶液比(質量比)が0.2未満では、捕集塔塔頂からのアクリル酸のロスが非常に多かった。これに対し、0.2以上では、捕集塔塔頂からのアクリル酸ロスが低く抑えられた。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、捕集塔に導入される該アクリル酸含有ガス中のアクリル酸質量流量に対して0.2質量倍の捕集用水溶液を使用して、かつ75質量%以上の高濃度アクリル酸を得るとき、アクリル酸ロスを低減してアクリル酸溶液を得ることができ、アクリル酸の生産性を向上させることができる。
【0052】
本発明によれば、75質量%以上という高濃度のアクリル酸含有溶液を得ることができるため、次工程以降で共沸溶媒を使用することなく含まれる水分を除去することができ、共沸脱水工程を省略でき、かつ共沸溶媒が残存することがないため、溶媒分離工程もなくして工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好ましい態様の一例を示す工程図である。
【符号の説明】
1・・・プロピレンおよび/またはアクロレイン、3・・・分子状酸素含有ガス、5・・・希釈ガス、10・・・接触気相酸化触媒、20・・・反応器、25・・・アクリル酸含有ガス、30・・・アクリル酸捕集塔、33・・・捕集用水溶液、35・・・アクリル酸含有溶液、37・・・熱交換器、40・・・第一蒸留塔、41・・・粗アクリル酸、43・・・高沸点物質、45・・・第一蒸留塔留出液、50・・・晶析器、60・・・製品アクリル酸、70・・・第二蒸留塔、73・・・薄膜蒸発器、75・・・熱分解槽。

Claims (2)

  1. プロピレンおよび/またはアクロレインを接触気相酸化反応してアクリル酸含有ガスを得る工程、該アクリル酸含有ガスを捕集用水溶液で捕集しアクリル酸含有溶液を得る工程とを含むアクリル酸の製造方法において、
    該捕集塔に導入される該アクリル酸含有ガス中のアクリル酸に対して0.2質量倍以上の捕集用水溶液を供給し、捕集塔塔底液のアクリル酸濃度を75質量%以上にすることを特徴とする、アクリル酸の製造方法。
  2. 更に、捕集塔塔頂温度を制御して捕集塔塔底液中のアクリル酸濃度を調整することを特徴とする、請求項1記載のアクリル酸の製造方法。
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