JP2004353041A - 高耐食二相ステンレス鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】オーステナイト相比が20〜80 %の二相ステンレス鋼において、その表層部に、オーステナイト相比が90 %以上の、窒素を吸収してなるオーステナイト富化層を有することを特徴とする高耐食二相ステンレス鋼である。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高耐食性が要求される二相ステンレス鋼の鋼板、鋼管、鍛造棒、鋳造品、またはそれらの部品などに適用され、成分設計から期待される耐食性を上回る耐食性を有すると共に、それを安価に得ることができる二相ステンレス鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
二相ステンレス鋼は、フェライト相とオーステナイト相との2相組織からなり、フェライト系ステンレス鋼とオーステナイト系ステンレス鋼の利点を兼ね備えた高耐食ステンレス鋼として知られている。この二相ステンレス鋼の幾つかは、JISにおいて、例えばSUS 329J1, SUS 329J3L, SUS 329J4Lなどとして規格化されているが、その他にも例えば、特許文献1として示す公報には、高Mo、W含有二相ステンレス鋼など、より高耐食性を有する二相ステンレス鋼の提案がある。
【0003】
上記の二相ステンレス鋼を含む一般的なステンレス鋼は、その表面に金属光沢を現出させるため、表面酸化を起させない光輝熱処理を行うのが普通である。この光輝熱処理は、大気中での通常の熱処理とは異なり、水素、水素と窒素の混合ガス、あるいはアンモニア分解ガスなどが用いられ、露点を下げた雰囲気において表面酸化を抑制した雰囲気中で行われる熱処理であり、熱処理後の酸洗が不要になるために表面が荒れず、光沢度の高い表面が得られるという特徴がある。
【0004】
ところで、光輝熱処理は、上述したように、鋼の表面酸化を抑制するために行われる方法であるが、その他にも、例えば、窒素を含まない水素雰囲気での処理によって表面からの脱窒素を目的とした処理があり、また、窒素を含む雰囲気中で行う方法の場合であっても、表面への窒素の吸収を抑制し耐食性の劣化を防止する方法(例えば、特許文献2)も知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−132741号公報
【特許文献2】特開平11−100613号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に示すような技術の場合、耐食性を向上させるためにMoやWを多く含有させるために鋼の製造コストを上昇させるという問題がある。また、特許文献2に示すような技術の場合、含有合金成分に対応した耐食性が期待できる反面、その添加成分以上の耐食性を期待することはできないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、従来技術が抱えている上述した問題に鑑み、合金設計のみによって耐食性の向上を図るのではなく、従来の二相ステンレス鋼の成分組成のままでも従来得られていたよりもさらに優れた耐食性を示し、かつ、それが安価である高耐食二相ステンレス鋼を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的の実現に向けて研究の中で、上記課題解決のためには、二相ステンレス鋼を後述する光輝熱処理を施すと、鋼材表面の最表層部のみに適量窒素を吸収させることができ、とくにそれが適量であれば耐食性の劣化を招くと考えられている窒化物を生成させることなく窒素の含有量の多いオーステナイト量が相対的に多い層とすることができるため、もともとの二相ステンレス鋼の含有成分の下で得られる耐食性以上の特性が得られることを知見し、本発明を開発するに到った。
【0009】
即ち、本発明は、オーステナイト相比が20〜80%の二相ステンレス鋼において、その表層部に、オーステナイト相比が90%以上のオーステナイト富化層を有することを特徴とする高耐食二相ステンレス鋼である。
【0010】
本発明において、前記オーステナイト富化層は、母材N含有量の1.0倍、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上を越える窒素を吸収した層であり、1μm以上の厚みを有することが好ましい。
【0011】
また、本発明にかかる二相ステンレス鋼において、オーステナイト相比が20〜80 wt%である母材部分の成分組成は、C:0.030 wt%以下、Si:0.01〜1.00%、Mn:1.50 wt%以下、P:0.040 wt%以下、S:0.030 wt%以下、Ni:3.00〜10.00 wt%、Cr:16.00〜30.00 wt%、Mo:2.00〜4.00 wt%、N:0.08〜0.50 wt%を含有し、残部が実質的にFe及び不可避的不純物よりなるものであり、好ましくはさらに、W:0.01〜1.00 wt%、Cu:0.01〜1.00 wt%、V:0.01〜1.00 wt%、Co:0.01〜1.00 wt%、Nb:0.01〜1.00 wt%、Ti:0.01〜1.00 wt%、B:0.001〜0.0050 wt%、Al:0.01〜0.10 wt%、Ca:0.0001〜0.0050 wt%およびMg:0.0001〜0.0050 wt%から1選ばれるいずれか1種、または2種以上を含むものであることが好ましい。
【0012】
上記の説明において、オーステナイト相比とは、断面金属組織を光学顕微鏡で観察し、フェライト相とオーステナイト相との面積割合を、JIS G 0555で規定される格子を用いて算出したものである。
また、母材のオーステナイト相比は、母材の厚み方向の中心部を3回測定した平均値であり、表層部のオーステナイト相比は、幅1.0 mmのオーステナイト富化層を上記格子により3回測定して得られた値の平均値である。
【0013】
【発明の実施の形態】
所定の成分組成からなる本発明にかかる二相ステンレス鋼は、窒素を含有する雰囲気において、雰囲気中の窒素含有量や熱処理温度、加熱時間などを制御して光輝熱処理を行うことにより、窒化物を析出させないようにして、鋼の表層部に窒素を積極的に吸収させ、このことによって該表層部のオーステナイト相を増加させて耐食性の向上を図るようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
即ち、本発明に係る二相ステンレス鋼の特徴の第1は、この鋼の表層部に、オーステナイト相比が90%以上であるオーステナイト富化層を形成したことにある。そして、その表層部はまた、所定量の窒素、即ち、母材のN含有量を越えるNを吸収したオーステナイト富化層であり、その厚みは1μm以上とする。なお、実用的な厚みの上限は、50μm程度、好ましくは40μm程度、さらに好ましくは30μm程度である。
以下に、このような表層部を有する二相ステンレス鋼の耐食性が優れる理由を、発明者らが行った実験に基づいて説明する。
【0015】
図1は、75 vol%水素と25 vol%窒素の混合ガス、露点−47 ℃中において1100 ℃で30秒間加熱保持したNi:6.7 wt%、Cr:24.7 wt%、Mo:3.3 wt%、N:0.16 wt%を含有する二相ステンレス鋼と、950 ℃で30秒間加熱保持した同ステンレス鋼との断面光学顕微鏡写真を示すものである。これらの鋼を1100 ℃加熱した場合、厚み中央部(母材)の組織はフェライト相が約70 wt%、オーステナイト相が約30 wt%であるが、表面から約1μmまでの表層部においてはオーステナイト相がほぼ100 wt%であり、フェライト相が消失している。
一方、これらの鋼を950 ℃に加熱した場合、厚み中心部と表層部の組織はどちらもフェライト相約60 %、オーステナイト相約40 %であった。
【0016】
このような組織を有する2種類の二相ステンレス鋼の耐食性を、20%NaClを含有する80 ℃水溶液中において、JIS G 0577に準じた孔食電位測定を実施したところ、表層部がオーステナイト相である1100℃加熱材では孔食の発生が認められなかったのに対し、950 ℃加熱材は約0V(対飽和カロメル電極)で孔食が発生した。このことから、窒素を吸収した鋼の表層部は、組織が、オーステナイト相優先となり、母材のオーステナイト相比、即ち鋼材の厚み中心部に比べその表層部ではオーステナイト相比が高いことが明らかであって、このことによって、二相ステンレス鋼の耐食性は大幅に向上することがわかった。
【0017】
なお、鋼材表層部のオーステナイト相比が90 %以下のオーステナイト相を有する場合は、窒素吸収があっても耐食性の向上は十分ではない。その理由は、オーステナイト相比が90 %に至るまでは母材に比べて耐食性が劣化するためである。
従って、本発明における二相ステンレス鋼は、表層部のオーステナイト相比が90 %以上からなるオーステナイト富化層であると同時に、所定量の窒素を吸収したオーステナイト富化層であることが必要である。また、オーステナイト富化層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは1.5μm以上、さらに、好ましくは2μm以上である。本発明において、前記富化層の厚みを限定する理由は、富化層の厚みが厚いほど耐食性が向上するためである。
【0018】
次に、本発明で用いられる二相ステンレス鋼について、好適な成分組成の範囲を説明する。
C:0.030 wt%以下
Cは、溶接時に鋭敏化を誘発し耐食性を低下させる元素であるので少ない方が望ましいが、極端に低減させることは強度の低下を招くと共に製造コストの上昇を招く、このことからCの含有量は、0.030 wt%までは許容できるのでこの値を上限値とした。好ましいC含有量は、0.025 wt%以下である。
【0019】
Si:0.01〜1.00 wt%以下
Siは、脱酸のために有効な元素であり、0.01 wt%以上の添加が必要である。しかしながら、あまりに過剰に添加しても、その効果が飽和すると共に、延性の低下や強度の上昇を招き、さらにはσ相やχ相などの金属間化合物の析出を助長して耐食性を劣化させるため、その上限を1.00 wt%とした。好ましくは、0.01〜0.50 wt%とする。
【0020】
Mn:1.50 wt%以下
Mnは、オーステナイト生成元素であり、二相ステンレス鋼の耐食性、加工性の適正化を図るためのオーステナイト相/フェライト相の相比率を調整するのに有効な元素である。一方でσ相やχ相などの金属間化合物の析出を抑制し、また耐食性劣化を抑制するにはあまり多くない方が望ましい。しかしながら、極端に低減させることは製造コストが増加するので、その上限を1.50 wt%とした。好ましいMn含有量は、0.01〜1.00 wt%以下である。
【0021】
P:0.040 wt%以下
Pは、不純物として不可避的に混入する元素であり、結晶粒界に偏析しやすく耐食性および熱間加工性の観点からは少ない方が望ましい。しかしながら、Pの含有量を極端に低減させることは製造コストの増加を招く。Pの含有量は0.040 wt%までは許容できるのでこの値を上限値とした。ただし、望ましくは0.030 wt%以下がよい。
【0022】
S:0.030 wt%以下
Sは、Pと同様に不純物として不可避的に混入する元素であり、結晶粒界に偏析しやすく耐食性および熱間加工性の観点からは少ない方が望ましい。特に、0.030 wt%を超えて含有すると、その有害性が顕著に現れるので、S含有量は0.030 wt%以下とした。望ましくは0.020 wt%以下がよい。
【0023】
Ni:3.00〜10.00 wt%
Niは、オーステナイト生成元素であり、高耐食化のためにフェライト生成元素であるCrやMoを多量に含有したステンレス鋼の構成組織をフェライト相/オーステナイト相の二相にするためには3.00 wt%以上の添加が必要である。しかし、10.00 wt%を越えると、オーステナイト相の増加と共にフェライト相の減少を招き、二相ステンレス鋼を維持するのが難しくなるため、その上限を10.00 wt%とした。好ましくは4.0〜8.0 wt%である。
【0024】
Cr:16.00〜30.00 wt%
Crは、耐食性を向上させる元素であると共に、フェライト生成元素でもあるので積極的に添加する元素である。耐食性を向上させるためには16.00 wt%以上含有させる必要があるが、26.00 wt%を超えて含有するとσ相やχ相などの金属間化合物の形成を助長し、かえって耐食性を劣化させる。また、フェライト相の増加を招き二相組織を維持するのが困難になる。そこでCrの含有量を16.00〜30.00 wt%とした。なお、Crの含有量は20.00 wt%以上であることが好ましく、23.00 wt%以上であればさらに好ましい。
【0025】
Mo:2.00〜4.00 wt%
Moも耐食性を向上させるのに有効な元素であり、その効果を得るためには2.00 wt%以上含有する必要がある。しかしながら、4.00 wt%を超えて含有すると、金属間化合物の析出を助長し、耐食性を逆に劣化させてしまうので、その範囲を2.00〜4.00 wt%とした。なお、Moの含有量は3.00 wt%以上であることが好ましい。
【0026】
N:0.08〜0.50 wt%
Nは、強力なオーステナイト生成元素であると共に、耐食性を向上させる元素である。このNは0.08 wt%以下の含有量ではCrやMoが多量に含有された場合に、オーステナイト相の生成が不十分になると共に耐食性の向上も期待できなくなる。一方、N含有量がまた0.50 wt%を越えると、特に窒素を含む雰囲気中での輝熱処理においてN固溶限を越えてしまい窒化物を形成しやすくなり、耐食性の劣化を招くので、その範囲を0.08〜0.50 wt%とした。なお、Nの含有量は0.10 wt%以上が好ましく、0.15 wt%以上であればなお好ましい。
【0027】
W:0.01〜1.00 wt% 、Cu:0.01〜1.00 wt%、V:0.01〜1.00 wt%、Co:0.01〜1.00 wt%、Nb:0.01〜1.00 wt%、Ti:0.01〜1.00 wt%
本発明において、使用可能な二相ステンレス鋼は、上記成分に加えてさらに、W:0.01〜1.00 wt%、Cu:0.01〜1.00 wt%、V:0.01〜1.00 wt%、Co:0.01〜1.00 wt%、Nb:0.01〜1.00 wt%、Ti:0.01〜1.00 wt%の1種または2種以上を含有させることができる。これら元素は一般的な耐食性の向上に有効であるが、その効果を得るためには0.01 wt%以上含有させる必要がある。一方、1.0 wt%を超えて含有するとσ相やχ相などの金属間化合物の析出を助長して耐食性が劣化し、また熱間加工性を阻害するので、それぞれの含有量を0.01〜1.00 wt%とした。
【0028】
B:0.001〜0.0050 wt%
本発明では、上記成分に加えて、B:0.001〜0.0050 wt%を含有することができる。Bは、熱間加工性の向上に極めて有効であるが、0.0001 wt%以下ではその効果が少なく、0.050 wt%を上回ると逆に熱間加工性が劣化する。よって、Bの含有量は0.001〜0.0050 wt%とした。
【0029】
Al:0.01〜0.10 wt%
本発明では、上記成分に加えて、Al:0.01〜0.10 wt%を含有することができる。Alは強力な脱酸剤であるが、0.01 wt%以下ではその効果はなく、また0.10 wt%を超えて含有させるとその効果が飽和すると共に、金属間化合物の析出を助長させるので、その含有量を0.01〜0.10 wt%とした。
【0030】
Ca:0.0001〜0.0050 wt%、Mg:0.0001〜0.0050 wt%
本発明では、上記成分に加えて、Ca:0.0001〜0.0050 wt%、Mg:0.0001〜0.0050 wt%を含有することができる。Ca、Mgは脱酸剤であるが、それぞれ0.0001 wt%以下ではその効果はなく、また0.0050 wt%を越えて含有するとその効果が飽和すると共に、非金属介在物として鋼中に多量に析出して腐食の起点となり耐食性劣化を招くので、それぞれ含有量を0.0001〜0.0050 wt%とした。
【0031】
次に、本発明に係る高耐食二相ステンレス鋼を得るための光輝熱処理の条件について説明する。
熱処理温度:本発明の高耐食二相ステンレス鋼が得られるために光輝熱処理に当たっては、その温度は1050〜1150 ℃に制御する。窒素を含有する雰囲気においては、その雰囲気温度が1050 ℃以下の温度では最表層部への窒素の吸収が十分に行われないため、耐食性向上の効果が得られなくなる。一方、1150 ℃を越えると最表層部への窒素吸収が過剰になり、鋼中の窒素量が固溶限を越えて耐食性の劣化を招く窒化物が析出するようになる。
【0032】
加熱保持時間:上記の光輝熱処理において、加熱保持時間は120秒以下とする。その理由は、窒素を含有する雰囲気においては、1050〜1150 ℃の範囲で120秒を越えずに加熱すると、前記最表層部に十分な窒素の吸収が生じ、耐食性が向上するが、120秒を超えて加熱すると、最表層部への窒素吸収が過剰になり、鋼中の窒素量が固溶限を越えて耐食性の劣化を招く窒化物が析出するようになるからである。
なお、所定の温度まで達したら直ちに冷却しても、最表層部への窒素吸収は達成され、耐食性の向上が認められるので、1050〜1150 ℃の温度に達していれば、保持時間が実質的に数秒(2〜3秒)であっても本発明の目的は達せられる。
【0033】
光輝熱処理雰囲気:上記光輝熱処理の雰囲気は、窒素ガスを10.0〜50.0 vol%、残部が実質的に水素ガスと不活性ガスを含む不可避的な不純物ガスで構成されるか、あるいはアンモニア分解ガスからなり、露点が−10 ℃以下の雰囲気ガスとする。その理由は、窒素ガスが10.0 vol%以下だと、最表層部への窒素吸収が不十分で、耐食性の向上が得られない。一方、窒素ガスが50.0vol%を越えると最表層部への窒素吸収が過剰になり、鋼中の窒素量が固溶限を越えて耐食性の劣化をもたらす窒化物が析出するようになるからである。
【0034】
なお、上記の雰囲気は、アンモニア分解ガス中でも同様の効果が得られる。これは、高温でアンモニアが分解すると、体積%でおよそ75 %の水素と25 %の窒素に相当する混合ガス雰囲気になるからである。
なお、雰囲気ガスの露点は−10 ℃以下であるが、これはそれ以上の露点雰囲気では表面の酸化が優先的になり、表面に形成される酸化皮膜が窒素の最表層部への吸収を妨げ、耐食性の向上が阻害されるからである。好ましくは−30 ℃以下である。
【0035】
【実施例】
次に、本発明を以下に示す実施例に基づいて説明する。
まず、通常の製造方法により、表1に示す成分組成を有する二相ステンレス鋼からなる厚さ0.3 mmの冷延板を作製した。次いで、その冷延板から、30 mm×20 mm×0.3 mm、及び25 mm×25 mm×0.3 mmの供試片をそれぞれ採取して、エメリー紙400番にて湿式研磨、脱脂後、以下の条件にて光輝熱処理を行い、以下の腐食試験と熱処理後試片の断面金属組織観察を実施した。
雰囲気:窒素ガス 5 %、10 %、25 %、50 %、70 %、残部は水素ガス(体積%)
温度:1000 ℃、1050 ℃、1100 ℃、1150 ℃、1200 ℃
加熱保持時間(加熱温度に達した後の温度):0秒、30秒、60秒、120秒、600秒
腐食試験条件:20 %NaCl、80 ℃水溶液中での孔食電位測定。濃度、温度以外はJSC G 0577に準拠。
断面金属組織観察条件:10規定水酸化カリウム水溶液中で、10 mA/cm2の電流密度になるように電圧印加を5秒間行い、断面のオーステナイト相及びフェライト相を現出させる。
上記オーステナイト相比は、断面金属組織を400倍の光学顕微鏡で観察し、JIS G 0555で規定される格子による格子点法により算出した。なお、JIS G 0555は、介在物の面積率を測定するための規定であるが、この面積率を相比測定のための格子点法に利用したのである。
また、オーステナイト富化層とは、オーステナイト相比が母材より多くなっている部分の厚みのことであって、前記顕微鏡観察により直接計測した値である。
【0036】
【表1】
【0037】
表2に光輝熱処理条件、及び孔食電位測定による腐食試験結果を示す。
この表2から明らかなように、本発明鋼においては、10〜50 vol%窒素ガス+残水素ガス雰囲気、温度1050〜1150 ℃、加熱保持時間0〜120秒の光輝熱処理した本発明鋼の表層部は、オーステナイト相90 wt%以上の富化層を有し、かつ1μm以上の厚みを有する金属学的組織であり、明らかに耐食性の向上が認められた。なお、上記腐食試験条件では、通常、孔食の発生が認められる。
【0038】
【表2】
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の二相ステンレス鋼は、窒素を含有する雰囲気において、光輝熱処理を行うことにより、窒化物を析出させない範囲で表層部に窒素を積極的に吸収させ、表層部のオーステナイト相を増加させることで耐食性を向上させたものである。従って、本発明によれば、二相ステンレス鋼の鋼板、鋼管、鍛造棒、鋳造品、及びそれらからなる部品に適用された場合、含有成分から期待される耐食性を上回る耐食性を示す二相ステンレス鋼を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】75 %水素と25 %窒素の混合ガス、露点−47 ℃中において1100 ℃で30秒間加熱保持した二相ステンレス鋼と、950 ℃で30秒間加熱保持した同ステンレス鋼の断面光学顕微鏡写真である。
Claims (5)
- オーステナイト相比が20〜80%の二相ステンレス鋼において、その表層部に、オーステナイト相比が90%以上のオーステナイト富化層を有することを特徴とする、高耐食二相ステンレス鋼。
- 前記オーステナイト富化層は、母材N含有量の1.0倍を越える窒素を吸収した層であることを特徴とする、請求項1に記載の高耐食二相ステンレス鋼。
- 前記オーステナイト富化層は、1μm以上の厚みを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の二相ステンレス鋼。
- 前記二相ステンレス鋼は、オーステナイト相比が20〜80 wt%である母材の成分組成が、C:0.030 wt%以下、Si:0.01〜1.00%、Mn:1.50 wt%以下、P:0.040 wt%以下、S:0.030 wt%以下、Ni:3.00〜10.00 wt%、Cr:16.00〜30.00 wt%、Mo:2.00〜4.00 wt%、N:0.08〜0.50 wt%を含有し、残部が実質的にFe及び不可避的不純物よりなるものであることを特徴とする、請求項1〜3に記載の高耐食二相ステンレス鋼。
- 母材は、さらに、W:0.01〜1.00 wt%、Cu:0.01〜1.00 wt%、V:0.01〜1.00 wt%、Co:0.01〜1.00 wt%、Nb:0.01〜1.00 wt%、Ti:0.01〜1.00 wt%、B:0.001〜0.0050 wt%、Al:0.01〜0.10 wt%、Ca:0.0001〜0.0050 wt%およびMg:0.0001〜0.0050 wt%から1選ばれるいずれか1種、または2種以上を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高耐食二相ステンレス鋼。
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