JP2004352661A - 難治性炎症性疾患治療剤 - Google Patents
難治性炎症性疾患治療剤 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004352661A JP2004352661A JP2003152536A JP2003152536A JP2004352661A JP 2004352661 A JP2004352661 A JP 2004352661A JP 2003152536 A JP2003152536 A JP 2003152536A JP 2003152536 A JP2003152536 A JP 2003152536A JP 2004352661 A JP2004352661 A JP 2004352661A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- group
- inflammatory disease
- compound
- trimethylhydroquinone
- agent
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Landscapes
- Acyclic And Carbocyclic Compounds In Medicinal Compositions (AREA)
Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は難治性炎症性疾患の治療剤に関し、さらに詳しくは、抗酸化作用および一酸化窒素(NO)産生阻害作用を有するハイドロキノン誘導体を有効成分とし、慢性関節リウマチや非特異的炎症性腸疾患等の炎症性疾患に対し十分な治療効果を有し、かつ、安全性の高い難治性炎症性疾患治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
慢性関節リウマチ、非特異的炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスなどの難治性炎症性疾患は、局所ないし全身の広い範囲にわたる部位の炎症に、自己抗体の産生などの免疫異常を伴う疾患で、寛解と再燃を繰り返し慢性の経過をたどることから、患者の苦痛は心身ともに計り知れないものがある。前述の慢性関節リウマチ、非特異的炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスの他に、糸球体腎炎、強皮症、皮膚筋炎、多発性硬化症、ベーチェット病、乾癬などが難治性炎症性疾患に含まれる。これらの疾患は、近年、患者数が増加しているにもかかわらず、未だ原因が不明で根本的な治療法は見つかっていない。
【0003】
炎症性反応は、本来、外的刺激に対する生体の防御反応である。しかし、刺激因子排除の過程において、なんらかの原因で過剰な反応が起きたり、炎症反応を制御する機構に異常が生じることにより、炎症範囲の拡大や免疫機能の亢進、さらには自己に対する抗体の産生とそれに伴う炎症反応へと連鎖し、難治性の疾患へと発展するものと考えられている。
【0004】
このような過剰な反応が起こる原因や、炎症反応の制御機構の異常を起こす原因は明確になっていないものの、炎症局所においては活性酸素種や活性窒素種などのラジカル分子種が直接的に作用していることが明らかになってきている。近年、特にNOおよびその代謝産物であるペルオキシナイトライト(ONOO−)等の活性窒素種の炎症反応への関与が重要視されている。
【0005】
NOはもともと内皮由来血管弛緩因子として同定されたが、その後、生体内の他のラジカル分子種との相互作用が明らかとなるにつれて、その多彩な作用が注目されてきた。NOはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)が活性酸素(O2 −)を処理するよりも速くO2 −と反応し、非常に傷害性の強いONOO−を生じる。炎症局所においてNOを産生する誘導型NO合成酵素(iNOS)は、3種類あるNOSアイソザイムのうち最も大量のNOを発生させる。このため、炎症性細胞によって産生されるO2 −との反応により次々と傷害性の強いラジカル分子種が生成されることになり、炎症部位の拡大を招くのである。したがって、これらのラジカル分子種の消去やNO産生抑制作用を有する薬剤が、連鎖的な病態の進行を止めるのに有効であると考えられる。しかしながら、試験管内の試験では強力な作用を示す化合物でも、病態モデル動物のような丸ごとの動物を用いた試験では明らかな効果が得られないことが多く、臨床の場にまで至らなかった化合物が多いのが現実である。
【0006】
一方、これまで薬物療法としては、非ステロイド性消炎鎮痛剤が長く使われてきたが、プロスタグランディン合成阻害作用による胃粘膜障害などの副作用があり、また、効果の面でも不十分なため、その役割は縮小されつつある。一方、ステロイド剤、免疫抑制剤は一定の効果はあるものの、いずれも副作用のため長期にわたる使用は困難である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、炎症性疾患の病態形成に深く関与していると思われるラジカル分子種を消去し、特に炎症部位において過剰なNOを産生するiNOSの産生を強力に阻害するいわゆる抗酸化剤であって、生体に対しても十分な治療効果を有し、かつ、安全性の高い薬剤を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、2,3,5−トリメチルハイドロキノンから誘導される特定の構造を有する化合物またはそのシクロデキストリン包接体が、前述の難治性炎症性疾患の治療剤として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、化1(式中、R1は炭素数4〜8のアルキル基、R2は水素原子、炭素数2〜6のアルキルカルボニル基または炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基を示す。)で表される化合物またはそのシクロデキストリン包接体からなるハイドロキノン誘導体を有効成分として含有することを特徴とする難治性炎症性疾患の治療剤を提供するものである。
【0010】
上記化1のハイドロキノン誘導体は、抗酸化作用を有し、発癌抑制作用、肝障害抑制作用などが認められる公知の化合物で、またLDLコレステロールの酸化を防止することにより動脈硬化治療剤として生体内で十分な効果を発揮し、しかも安全性が高いことが特開2002−241366号公報に記載されている。さらに、化1のハイドロキノン誘導体のうち、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルは、ビタミンEと比較して2倍の強さの抗酸化作用を有し、同じく500倍の強さのNO産生抑制作用を有することが石川らによって明らかにされている(Journal of Pharmacy and Pharmacology 2002,54:383−389)。
【0011】
【発明の実施の形態】
上記化1におけるR1で示される炭素数4〜8のアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などを挙げることができる。このアルキル基としては、薬理活性の面から、炭素数4〜7の直鎖状のものが好ましく、特にn−ヘキシル基が好適である。また、R2のうちの炭素数2〜6のアルキルカルボニル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基などが挙げられる。さらに、R2のうちの炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基などが挙げられる。
【0012】
上記化1で表される化合物としては、薬理活性の点から、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ブチルエーテル、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルおよび2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル 4−アセテートを好ましく挙げることができる。
【0013】
上記化1で表される化合物およびそのシクロデキストリン包接体は特開2002−241366号公報に記載の方法で製造することができる。
【0014】
本発明の難治性炎症性疾患治療剤は、前述の化1で表される化合物またはそのシクロデキストリン包接体からなるハイドロキノン誘導体を有効成分として含むものであって、従来慣用されている方法により種々の形態に調製することができる。この場合、通常製剤用担体や賦形剤など、医薬品の添加剤として許容されている添加剤を用いて、製剤化される。
【0015】
上記組成物を経口投与製剤として用いる場合、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、内服用液剤等の形態で用いることができるが、消化管からの吸収に適した形態で用いることが好ましい。また、流通性、保存性などの理由から所望する形態の製剤を提供する場合も従来の製剤技術を用いることができる。また、非経口投与剤として用いる場合、注射剤、坐剤およびテープ、パップなどの経皮吸収剤等の形態で用いることができるが、流通性、保存性などの理由から固形製剤を使用時に適当な溶剤で溶解してから用いることも可能であり、液剤および半固形剤の形態で提供することも従来の製剤技術で可能である。
【0016】
投与量は目標とする治療効果、投与方法、年齢、体重などによって変化するので一概には規定できないが、通常一日の非経口的な投与量は体重当たり、有効成分として約0.01〜100mgであり、好ましくは約0.05〜10mgであり、経口的には約0.1〜300mgであり、好ましくは約0.5〜100mgであり、これを1〜5回に分割して投与すればよい。
【0017】
【実施例】
次に、本発明を実施例および試験例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0018】
製造例1
トリメチルハイドロキノン3.4gをn−ブチルアルコール40mLに溶解させた溶液にリンモリブデン酸0.7gを加え攪拌し120℃で6時間加熱した。次いで、この溶液に水および酢酸エチルを各々300mL加え振盪した。その後有機層を分取し、これを無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付してヘキサンと酢酸エチルとの混液で溶出して2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ブチルエーテルの粗生成物を得た。これをヘキサンで再結晶し、式
【0019】
【化2】
で示される2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ブチルエーテル[化合物(1)]3.19g(mp65.5〜66.5℃)を得た。
【0020】
製造例2
トリメチルハイドロキノン3.4gをn−ヘキシルアルコール40mlに溶解させた溶液にリンモリブデン酸0.7gを加え、攪拌し120℃で6時間加熱した。次いで、この溶液に水および酢酸エチルを各々300ml加え振とうした。その後有機層を分取し、これを無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付してヘキサンと酢酸エチルとの混液で溶出して2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルの粗生成物を得た。これをヘキサンで再結晶し、式
【0021】
【化3】
で示される2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル[化合物(2)]3.17g(mp72.5〜73℃)を得た。
【0022】
製造例3
製造例2で得られた化合物(2)500mgと、界面活性剤であるスパン1500mgを混合し80℃に加温して完全に溶解させた。これをβ−シクロデキストリン2500mgに少しずつ加えて練合し、真空検体乾燥機で約24時間乾燥させてβ−シクロデキストリン包接体(dp約195℃)3700mgを得た。
【0023】
試験例1(MRL/lマウスの自然発症リンパ節腫脹、関節炎、血管炎に対する作用)
腹腔常在性マクロファージの活性酸素産生能が著しく亢進し、自然発症的にヒト全身性エリテマトーデス類似の各種の病変を発現することが知られているMRL/l系雌マウス(日本クレア)を用いて、本発明化合物(2)の薬効を検討した。被験物質は2%アラビアゴム水溶液で懸濁して0.3W/V%とし、体重1kgあたり10mL(30mg/kg)を、13週齢から9週間にわたり連日経口投与した。投与期間中毎週1回ずつ肉眼的観察と触診によりリンパ節腫脹および関節炎をそれぞれ以下に示す評価表にしたがって評価した。また、動物は最終投与の翌日にエーテル麻酔下で放血屠殺し、常法にしたがって耳介、皮膚、肺、肝臓および腎臓のHE染色標本を作製して、病理組織学的検査を実施した。リンパ節腫脹および関節炎のスコアに対し、対照群と被験物質投与群の間で順位和検定を実施した。
【0024】
リンパ節腫脹の程度
スコア 所 見
0 触診で腫脹を認めない
1 触診でわずかに腫脹を認める
2 触診で容易に腫脹を認める
3 肉眼観察でわずかに腫脹を認める
4 肉眼観察で容易に腫脹を認める
5 肉眼観察で顕著な腫脹を認める
個体の最高スコア:15
【0025】
関節炎の程度
スコア 所 見
0 異常を認めない
1 四肢など小関節の1本のみの発赤腫脹
2 小関節2本以上、あるいは手・足根関節など比較的大きな関節の発赤腫脹
3 四肢の1本全体の発赤腫脹
4 四肢の1本全体の極限的な腫脹
個体の最高スコア:16
【0026】
各群のリンパ節腫脹スコアおよび関節炎スコアをそれぞれ表1、2に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表1、2より、化合物(2)はリンパ節の腫脹および関節炎を軽減する効果のあることが明らかである。また、病理組織学的検査では、対照群においてMRL/lマウスに特徴的な病変である血管炎が、腎臓の弓状動脈などに多発し、一部の個体では耳介および背部皮膚の動脈にも発症した。被験物質投与群では腎臓の弓状動脈を主とした血管炎の程度が軽減されており、背部皮膚には全く病変を認めなかった。以上の結果から、本発明化合物が難治性炎症性疾患モデルに対しきわめて有効であることが明らかである。
【0030】
試験例2(ラットを用いた酢酸誘発潰瘍性大腸炎モデルに対する作用)
18週齢のFischer系雄ラットを用い、本発明化合物(2)の酢酸誘発潰瘍性大腸炎モデルに対する作用を検討した。動物をエーテル麻酔し、肛門から5cm上方に4%酢酸1.0mLをゾンデを用いて注入し、潰瘍を作製した。酢酸注入から15分後に1回,翌日から6日間毎日1回2%アラビアゴム水溶液に懸濁した被験物質5mg/mLを体重1kgあたり2mL(10mg/kg)、潰瘍作製部位に注腸投与した。溶媒対照群には2%アラビアゴム水溶液を同様に投与した。最終投与の翌日にエーテル麻酔下で放血屠殺し、大腸を肛門から10cm上方まで摘出した。大腸を正中線に沿って腸間膜の付け根を切開して粘膜を露出させ、濾紙に付着させてホルマリン固定後、常法にしたがってHE染色標本を作製、鏡検し、標本毎に以下に示す観察基準で評点をつけ、個体毎の合計評点を算出した。
【0031】
【0032】
各例の評点毎の標本数と合計評点を表3に示した。
【0033】
【表3】
【0034】
表3より、化合物(2)は潰瘍性大腸炎の形成を抑制する作用のあることがことが明らかである。
【0035】
試験例3(安全性試験)
ラットを用い化合物(2)の単回経口投与毒性試験を実施した。その結果、最高用量である2000mg/kg投与群において、投与後15日間の観察で毒性兆候は全く観察されなかった。また、化合物(2)の4週間反復経口投与毒性試験においては、1000mg/kg投与群においても重大な毒性変化は認められなかった。さらに、ラットの器官形成期投与試験においても化合物(1)の600mg/kgの経口投与で、母体、胎児および出生児の生殖発生過程における悪影響は全く認められなかった。
【0036】
【発明の効果】
以上詳述したように、化1で表される化合物またはそのシクロデキストリン包接体からなる本発明のハイドロキノン誘導体は、各種炎症性疾患モデルに対し優れた治療効果を有し、かつ、安全性が高いので、このハイドロキノン誘導体を有効成分とする本発明の組成物は、難治性炎症性疾患治療剤として好ましく用いられる。
【発明の属する技術分野】
本発明は難治性炎症性疾患の治療剤に関し、さらに詳しくは、抗酸化作用および一酸化窒素(NO)産生阻害作用を有するハイドロキノン誘導体を有効成分とし、慢性関節リウマチや非特異的炎症性腸疾患等の炎症性疾患に対し十分な治療効果を有し、かつ、安全性の高い難治性炎症性疾患治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
慢性関節リウマチ、非特異的炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスなどの難治性炎症性疾患は、局所ないし全身の広い範囲にわたる部位の炎症に、自己抗体の産生などの免疫異常を伴う疾患で、寛解と再燃を繰り返し慢性の経過をたどることから、患者の苦痛は心身ともに計り知れないものがある。前述の慢性関節リウマチ、非特異的炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデスの他に、糸球体腎炎、強皮症、皮膚筋炎、多発性硬化症、ベーチェット病、乾癬などが難治性炎症性疾患に含まれる。これらの疾患は、近年、患者数が増加しているにもかかわらず、未だ原因が不明で根本的な治療法は見つかっていない。
【0003】
炎症性反応は、本来、外的刺激に対する生体の防御反応である。しかし、刺激因子排除の過程において、なんらかの原因で過剰な反応が起きたり、炎症反応を制御する機構に異常が生じることにより、炎症範囲の拡大や免疫機能の亢進、さらには自己に対する抗体の産生とそれに伴う炎症反応へと連鎖し、難治性の疾患へと発展するものと考えられている。
【0004】
このような過剰な反応が起こる原因や、炎症反応の制御機構の異常を起こす原因は明確になっていないものの、炎症局所においては活性酸素種や活性窒素種などのラジカル分子種が直接的に作用していることが明らかになってきている。近年、特にNOおよびその代謝産物であるペルオキシナイトライト(ONOO−)等の活性窒素種の炎症反応への関与が重要視されている。
【0005】
NOはもともと内皮由来血管弛緩因子として同定されたが、その後、生体内の他のラジカル分子種との相互作用が明らかとなるにつれて、その多彩な作用が注目されてきた。NOはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)が活性酸素(O2 −)を処理するよりも速くO2 −と反応し、非常に傷害性の強いONOO−を生じる。炎症局所においてNOを産生する誘導型NO合成酵素(iNOS)は、3種類あるNOSアイソザイムのうち最も大量のNOを発生させる。このため、炎症性細胞によって産生されるO2 −との反応により次々と傷害性の強いラジカル分子種が生成されることになり、炎症部位の拡大を招くのである。したがって、これらのラジカル分子種の消去やNO産生抑制作用を有する薬剤が、連鎖的な病態の進行を止めるのに有効であると考えられる。しかしながら、試験管内の試験では強力な作用を示す化合物でも、病態モデル動物のような丸ごとの動物を用いた試験では明らかな効果が得られないことが多く、臨床の場にまで至らなかった化合物が多いのが現実である。
【0006】
一方、これまで薬物療法としては、非ステロイド性消炎鎮痛剤が長く使われてきたが、プロスタグランディン合成阻害作用による胃粘膜障害などの副作用があり、また、効果の面でも不十分なため、その役割は縮小されつつある。一方、ステロイド剤、免疫抑制剤は一定の効果はあるものの、いずれも副作用のため長期にわたる使用は困難である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情のもとで、炎症性疾患の病態形成に深く関与していると思われるラジカル分子種を消去し、特に炎症部位において過剰なNOを産生するiNOSの産生を強力に阻害するいわゆる抗酸化剤であって、生体に対しても十分な治療効果を有し、かつ、安全性の高い薬剤を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、2,3,5−トリメチルハイドロキノンから誘導される特定の構造を有する化合物またはそのシクロデキストリン包接体が、前述の難治性炎症性疾患の治療剤として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、化1(式中、R1は炭素数4〜8のアルキル基、R2は水素原子、炭素数2〜6のアルキルカルボニル基または炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基を示す。)で表される化合物またはそのシクロデキストリン包接体からなるハイドロキノン誘導体を有効成分として含有することを特徴とする難治性炎症性疾患の治療剤を提供するものである。
【0010】
上記化1のハイドロキノン誘導体は、抗酸化作用を有し、発癌抑制作用、肝障害抑制作用などが認められる公知の化合物で、またLDLコレステロールの酸化を防止することにより動脈硬化治療剤として生体内で十分な効果を発揮し、しかも安全性が高いことが特開2002−241366号公報に記載されている。さらに、化1のハイドロキノン誘導体のうち、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルは、ビタミンEと比較して2倍の強さの抗酸化作用を有し、同じく500倍の強さのNO産生抑制作用を有することが石川らによって明らかにされている(Journal of Pharmacy and Pharmacology 2002,54:383−389)。
【0011】
【発明の実施の形態】
上記化1におけるR1で示される炭素数4〜8のアルキル基は直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などを挙げることができる。このアルキル基としては、薬理活性の面から、炭素数4〜7の直鎖状のものが好ましく、特にn−ヘキシル基が好適である。また、R2のうちの炭素数2〜6のアルキルカルボニル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えばアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基などが挙げられる。さらに、R2のうちの炭素数2〜6のアルコキシカルボニル基は直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基などが挙げられる。
【0012】
上記化1で表される化合物としては、薬理活性の点から、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ブチルエーテル、2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルおよび2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル 4−アセテートを好ましく挙げることができる。
【0013】
上記化1で表される化合物およびそのシクロデキストリン包接体は特開2002−241366号公報に記載の方法で製造することができる。
【0014】
本発明の難治性炎症性疾患治療剤は、前述の化1で表される化合物またはそのシクロデキストリン包接体からなるハイドロキノン誘導体を有効成分として含むものであって、従来慣用されている方法により種々の形態に調製することができる。この場合、通常製剤用担体や賦形剤など、医薬品の添加剤として許容されている添加剤を用いて、製剤化される。
【0015】
上記組成物を経口投与製剤として用いる場合、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、内服用液剤等の形態で用いることができるが、消化管からの吸収に適した形態で用いることが好ましい。また、流通性、保存性などの理由から所望する形態の製剤を提供する場合も従来の製剤技術を用いることができる。また、非経口投与剤として用いる場合、注射剤、坐剤およびテープ、パップなどの経皮吸収剤等の形態で用いることができるが、流通性、保存性などの理由から固形製剤を使用時に適当な溶剤で溶解してから用いることも可能であり、液剤および半固形剤の形態で提供することも従来の製剤技術で可能である。
【0016】
投与量は目標とする治療効果、投与方法、年齢、体重などによって変化するので一概には規定できないが、通常一日の非経口的な投与量は体重当たり、有効成分として約0.01〜100mgであり、好ましくは約0.05〜10mgであり、経口的には約0.1〜300mgであり、好ましくは約0.5〜100mgであり、これを1〜5回に分割して投与すればよい。
【0017】
【実施例】
次に、本発明を実施例および試験例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0018】
製造例1
トリメチルハイドロキノン3.4gをn−ブチルアルコール40mLに溶解させた溶液にリンモリブデン酸0.7gを加え攪拌し120℃で6時間加熱した。次いで、この溶液に水および酢酸エチルを各々300mL加え振盪した。その後有機層を分取し、これを無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付してヘキサンと酢酸エチルとの混液で溶出して2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ブチルエーテルの粗生成物を得た。これをヘキサンで再結晶し、式
【0019】
【化2】
で示される2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ブチルエーテル[化合物(1)]3.19g(mp65.5〜66.5℃)を得た。
【0020】
製造例2
トリメチルハイドロキノン3.4gをn−ヘキシルアルコール40mlに溶解させた溶液にリンモリブデン酸0.7gを加え、攪拌し120℃で6時間加熱した。次いで、この溶液に水および酢酸エチルを各々300ml加え振とうした。その後有機層を分取し、これを無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付してヘキサンと酢酸エチルとの混液で溶出して2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテルの粗生成物を得た。これをヘキサンで再結晶し、式
【0021】
【化3】
で示される2,3,5−トリメチルハイドロキノン−1−ヘキシルエーテル[化合物(2)]3.17g(mp72.5〜73℃)を得た。
【0022】
製造例3
製造例2で得られた化合物(2)500mgと、界面活性剤であるスパン1500mgを混合し80℃に加温して完全に溶解させた。これをβ−シクロデキストリン2500mgに少しずつ加えて練合し、真空検体乾燥機で約24時間乾燥させてβ−シクロデキストリン包接体(dp約195℃)3700mgを得た。
【0023】
試験例1(MRL/lマウスの自然発症リンパ節腫脹、関節炎、血管炎に対する作用)
腹腔常在性マクロファージの活性酸素産生能が著しく亢進し、自然発症的にヒト全身性エリテマトーデス類似の各種の病変を発現することが知られているMRL/l系雌マウス(日本クレア)を用いて、本発明化合物(2)の薬効を検討した。被験物質は2%アラビアゴム水溶液で懸濁して0.3W/V%とし、体重1kgあたり10mL(30mg/kg)を、13週齢から9週間にわたり連日経口投与した。投与期間中毎週1回ずつ肉眼的観察と触診によりリンパ節腫脹および関節炎をそれぞれ以下に示す評価表にしたがって評価した。また、動物は最終投与の翌日にエーテル麻酔下で放血屠殺し、常法にしたがって耳介、皮膚、肺、肝臓および腎臓のHE染色標本を作製して、病理組織学的検査を実施した。リンパ節腫脹および関節炎のスコアに対し、対照群と被験物質投与群の間で順位和検定を実施した。
【0024】
リンパ節腫脹の程度
スコア 所 見
0 触診で腫脹を認めない
1 触診でわずかに腫脹を認める
2 触診で容易に腫脹を認める
3 肉眼観察でわずかに腫脹を認める
4 肉眼観察で容易に腫脹を認める
5 肉眼観察で顕著な腫脹を認める
個体の最高スコア:15
【0025】
関節炎の程度
スコア 所 見
0 異常を認めない
1 四肢など小関節の1本のみの発赤腫脹
2 小関節2本以上、あるいは手・足根関節など比較的大きな関節の発赤腫脹
3 四肢の1本全体の発赤腫脹
4 四肢の1本全体の極限的な腫脹
個体の最高スコア:16
【0026】
各群のリンパ節腫脹スコアおよび関節炎スコアをそれぞれ表1、2に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表1、2より、化合物(2)はリンパ節の腫脹および関節炎を軽減する効果のあることが明らかである。また、病理組織学的検査では、対照群においてMRL/lマウスに特徴的な病変である血管炎が、腎臓の弓状動脈などに多発し、一部の個体では耳介および背部皮膚の動脈にも発症した。被験物質投与群では腎臓の弓状動脈を主とした血管炎の程度が軽減されており、背部皮膚には全く病変を認めなかった。以上の結果から、本発明化合物が難治性炎症性疾患モデルに対しきわめて有効であることが明らかである。
【0030】
試験例2(ラットを用いた酢酸誘発潰瘍性大腸炎モデルに対する作用)
18週齢のFischer系雄ラットを用い、本発明化合物(2)の酢酸誘発潰瘍性大腸炎モデルに対する作用を検討した。動物をエーテル麻酔し、肛門から5cm上方に4%酢酸1.0mLをゾンデを用いて注入し、潰瘍を作製した。酢酸注入から15分後に1回,翌日から6日間毎日1回2%アラビアゴム水溶液に懸濁した被験物質5mg/mLを体重1kgあたり2mL(10mg/kg)、潰瘍作製部位に注腸投与した。溶媒対照群には2%アラビアゴム水溶液を同様に投与した。最終投与の翌日にエーテル麻酔下で放血屠殺し、大腸を肛門から10cm上方まで摘出した。大腸を正中線に沿って腸間膜の付け根を切開して粘膜を露出させ、濾紙に付着させてホルマリン固定後、常法にしたがってHE染色標本を作製、鏡検し、標本毎に以下に示す観察基準で評点をつけ、個体毎の合計評点を算出した。
【0031】
【0032】
各例の評点毎の標本数と合計評点を表3に示した。
【0033】
【表3】
【0034】
表3より、化合物(2)は潰瘍性大腸炎の形成を抑制する作用のあることがことが明らかである。
【0035】
試験例3(安全性試験)
ラットを用い化合物(2)の単回経口投与毒性試験を実施した。その結果、最高用量である2000mg/kg投与群において、投与後15日間の観察で毒性兆候は全く観察されなかった。また、化合物(2)の4週間反復経口投与毒性試験においては、1000mg/kg投与群においても重大な毒性変化は認められなかった。さらに、ラットの器官形成期投与試験においても化合物(1)の600mg/kgの経口投与で、母体、胎児および出生児の生殖発生過程における悪影響は全く認められなかった。
【0036】
【発明の効果】
以上詳述したように、化1で表される化合物またはそのシクロデキストリン包接体からなる本発明のハイドロキノン誘導体は、各種炎症性疾患モデルに対し優れた治療効果を有し、かつ、安全性が高いので、このハイドロキノン誘導体を有効成分とする本発明の組成物は、難治性炎症性疾患治療剤として好ましく用いられる。
Claims (2)
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003152536A JP2004352661A (ja) | 2003-05-29 | 2003-05-29 | 難治性炎症性疾患治療剤 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2003152536A JP2004352661A (ja) | 2003-05-29 | 2003-05-29 | 難治性炎症性疾患治療剤 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004352661A true JP2004352661A (ja) | 2004-12-16 |
Family
ID=34047733
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2003152536A Pending JP2004352661A (ja) | 2003-05-29 | 2003-05-29 | 難治性炎症性疾患治療剤 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004352661A (ja) |
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
EP2052719A1 (en) | 2007-10-23 | 2009-04-29 | Nippon Hypox Laboratories Incorporated | Curative drug for neurodegenerative diseases |
EP2110127A1 (en) | 2008-04-14 | 2009-10-21 | Nippon Hypox Laboratories Incorporated | Hepatic Fibrosis Inhibitor |
WO2016171102A1 (ja) * | 2015-04-23 | 2016-10-27 | 株式会社日本ハイポックス | 慢性呼吸器疾患治療剤及び心臓の線維化抑制組成物 |
-
2003
- 2003-05-29 JP JP2003152536A patent/JP2004352661A/ja active Pending
Cited By (8)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
EP2052719A1 (en) | 2007-10-23 | 2009-04-29 | Nippon Hypox Laboratories Incorporated | Curative drug for neurodegenerative diseases |
JP2009102262A (ja) * | 2007-10-23 | 2009-05-14 | Nippon Hypox Lab Inc | 神経変性疾患治療薬 |
EP2110127A1 (en) | 2008-04-14 | 2009-10-21 | Nippon Hypox Laboratories Incorporated | Hepatic Fibrosis Inhibitor |
US7847132B2 (en) | 2008-04-14 | 2010-12-07 | Nippon Hypox Laboratories Incorporated | Hepatic fibrosis inhibitor |
WO2016171102A1 (ja) * | 2015-04-23 | 2016-10-27 | 株式会社日本ハイポックス | 慢性呼吸器疾患治療剤及び心臓の線維化抑制組成物 |
WO2016170704A1 (ja) * | 2015-04-23 | 2016-10-27 | 株式会社日本ハイポックス | 慢性呼吸器疾患治療剤及び心臓の線維化抑制組成物 |
KR20170117174A (ko) * | 2015-04-23 | 2017-10-20 | 니폰 하이폭스 라보레토리즈 인코포레이티드 | 만성 호흡기 질환 치료제 및 심장의 섬유화 억제 조성물 |
KR101969451B1 (ko) | 2015-04-23 | 2019-04-16 | 니폰 하이폭스 라보레토리즈 인코포레이티드 | 만성 호흡기 질환 치료제 및 만성 호흡기 질환의 예방 또는 개선용 식품 조성물. |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP3179494B2 (ja) | プロブコールの可溶性類似体 | |
CA1311416C (en) | Composition comprising an oxygenated cholesterol and use thereof for topical treatment of diseases | |
JP2022504601A (ja) | Mst1キナーゼ阻害剤及びその使用 | |
CN102482315A (zh) | 肝x受体激动剂 | |
JPH0112727B2 (ja) | ||
TW200918550A (en) | Synthetic bile acid composition, method, and preparation | |
JP2020526511A (ja) | ニコチンアミドリボシドの合成方法 | |
KR20150088302A (ko) | 피부염 치료법 | |
FI88509B (fi) | 9-alfa,11-beta-nitro-substituerade och 11-beta-nitro-substituerade estraner | |
GB2053924A (en) | Immunosuppressive 3-hemiesters of7-oxygenated cholesterol | |
JP2016512238A (ja) | 脂肪肝疾患の治療方法 | |
JP2004352661A (ja) | 難治性炎症性疾患治療剤 | |
JP2602456B2 (ja) | 子宮内膜症治療剤 | |
WO2004026298A1 (fr) | Derives de triptolide presentant un puissant effet immunosuppresseur et une forte solubilite dans l'eau, utilisations de ces derives de triptolide | |
JP5203644B2 (ja) | 自己免疫疾病の治療に用いるベニクスノキタケ由来の化合物 | |
FR2510583A1 (fr) | Derives nouveaux d'acide ursodesoxycholique, leur procede de preparation et leur application en therapeutique | |
CA1203234A (fr) | PROCEDE DE PREPARATION DE NOUVEAUX DERIVES DICHLORES DE LA SERIE 16.alpha.-METHYL PREGNANE | |
FR2510558A1 (fr) | Derives nouveaux d'acide chenodesoxycholique | |
Mourelle et al. | Induction of chronic cholangitis in the rat by trinitrobenzenesulfonic acid | |
FR2987264A1 (fr) | Methodes et compositions pour le traitement des metastases cancereuses | |
JP2791673B2 (ja) | 5α―リダクターゼ阻害剤 | |
JP4749562B2 (ja) | ハイドロキノン誘導体および動脈硬化治療用組成物 | |
RU2225208C1 (ru) | Фармацевтическая композиция, обладающая противовоспалительным и антиаллергическим действием | |
MXPA02004357A (es) | Profarmacos de acido 6-metoxi-2-naftilacetico para el tratamiento de la inflamacion. | |
CH641475A5 (fr) | Derives acetyleniques de l'androst-4-ene, leur procede de preparation et medicament les renfermant. |