JP2004350535A - 酒類の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】玄米を99〜90%の高精米歩合で、胚芽を残すように精米し、水に浸漬して発芽させる。この発芽米を水切りを行わずに又は行った後、液化酵素及びリパーゼを添加して95℃まで昇温し、この温度を一定時間保持した後冷却して55℃まで降温し、糖化酵素を添加しかつこの温度を一定時間保持することにより、液化糖化物を得る。これを、清酒醸造の常法通りに製造した清酒醪に使用し、上槽することにより、米の発芽作用及び発芽米の液化糖化過程において生成・増加したGABAを多く含有する清酒様の酒類が製造される。また、清酒醸造工程に従って、発芽米を蒸米にし、これを掛米として酒醪を仕込み又は更に糖化したものを四段として用いることができる。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、発芽米を利用することにより特にγ−アミノ酪酸(以下、GABAと称する)を含有する清酒様の酒類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自然界に広く分布する非蛋白質構成アミノ酸であるGABAは、哺乳動物において抑圧系の神経伝達物質の1つとして重要な役割を果たし、脳代謝を亢進させる働きや血圧降下作用などを示すことが知られている(例えば、非特許文献1を参照。)。更に、米の胚芽を一定条件で水に浸漬して発芽させると、米に含まれるグルタミン酸がGABAに転換し、増加して胚芽の中に蓄積されること、及び米の中で蛋白質や澱粉、フィチン酸の成分に変化が起こり、それによって発芽米にはGABA以外にイノシトールなどの人体に有用な成分が多く含まれることが明らかになっている。このような血圧降下その他の健康効果を期待して、最近は、GABA含量の高い発芽玄米等の食品が販売されている。
【0003】
また、GABA含有の清酒を製造しようとする試みもなされている。例えば、発芽させた玄米に麹菌、酒酵母菌を混ぜ、発酵させて健康酒を作る方法が提案されている(特許文献1を参照。)。しかし、この提案には、発芽玄米をどのように処理して発酵させるのか、具体的な方法の記載が無い。
【0004】
他方、清酒の醸造において、玄米の外表部分は蛋白質・脂肪・無機質・ビタミンなどが多く、できた清酒の香味・色沢を劣化させることから、これを取り除くために原料の玄米は精米処理する。この精米歩合は、主食用の白米が90%程度であるのに対し、普通酒で70%程度、吟醸酒などの特定名称清酒は60%以下であり、高精米歩合のものでも80〜90%であるから(例えば、特許文献2、3を参照。)、清酒原料の精白米に発芽玄米のような高いGABA含量は期待できない。
【0005】
そこで、GABA高生産麹菌を用いたGABA高含有清酒の開発が報告されている(非特許文献2を参照。)。この方法では、紫外線照射による変異処理によってGABA生成能を有する麹菌を取得し、これを用いて調製した麹を糖化し、発酵醪に添加して上槽することにより、GABAを高含有する清酒を醸造する。
【0006】
【非特許文献1】大坪研一編,「米飯食品ビジネス事典」,(株)サイエンスフォーラム,2001年4月,p.184−190
【非特許文献2】池上亜希子,外5名,「γ−アミノ酪酸(GABA)高含有清酒の開発」,社団法人日本醸造学会,平成14年度日本醸造学会大会講演要旨集,平成14年8月9日,p.11
【特許文献1】特開2001−231501号公報
【特許文献2】特開平11−18751号公報
【特許文献3】特開平11−313665号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記非特許文献2に記載の清酒製造方法では、GABA生成能を有する特別な麹菌の使用が必要で、そのような麹菌を育種しなければならないという問題がある。そのため、GABA高含有清酒を安定して醸造することは容易でなく、実用化に多大な困難が予想される。
【0008】
また、上記特許文献1には、上述したように発芽玄米の具体的な処理方法が開示されておらず、本願発明者らが同特許文献1記載の方法に従って実験したところ、発芽玄米をそのまま仕込む場合及び清酒醸造の常法通りに蒸煮して仕込む場合のいずれでも、できた酒には発芽玄米由来の異味・異臭が感じられた。
【0009】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、米の胚芽に生成・蓄積されるGABAを利用することにより、GABAを多く含有し、しかも香味に優れた清酒様の酒類を製造できる実用的な方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、上記目的を達成するために、玄米をその胚芽を残して精米し、水に浸漬して発芽させた米を清酒醸造工程に用いる酒類の製造方法が提供される。胚芽を残して精米した米は、玄米に比して吸水性が大幅に向上しかつ発芽能を有するから、これを水に浸漬して発芽させた発芽米は、GABAが生成されかつ蓄積されると共に、清酒醸造工程を利用して酒類を製造するための原料米として十分な水分含量が得られる。従って、この発芽米を用いて清酒様の酒類を製造することが可能になり、最終的な製成酒は多くのGABAを含有する。
【0011】
前記米の精米歩合は、発芽能を発揮させるという点から99〜90%が好ましく、特に精米歩合99〜98%において、米中に蓄積されるGABAの増加が良好であることが、本願発明者らにより確認された。
【0012】
或る実施例では、前記米を液化させかつ糖化させて液化糖化物を製造し、これを四段として清酒醪に添加するなど、清酒仕込み工程に使用する。これにより、発芽米に蓄積されたGABA及び/またはその前駆物質をそのまま損失なく、液化糖化物に抽出させて利用できるので、製成酒のGABA含量をより高くし、かつ酒化率の向上を図ることができる。更に、液化糖化物の清酒醪への添加量を変えることにより、製成酒のGABA含量を調整することが可能になる。
【0013】
更に、前記米を液化させる工程において、リパーゼを添加すると、前記米に含まれる脂肪を分解でき、玄米由来の糠臭などの異臭を製成酒からなくし又は抑制できるので、香味に優れた優良な品質の清酒様の酒類が得られる。
【0014】
また、或る実施例では、清酒醸造工程において、前記米を蒸米にして用いることができる。この場合、前記蒸米を掛米として酒醪の仕込みに用いることができ、又は前記蒸米を糖化させ、これを四段として前記酒醪又は常法通りの清酒醪に添加することもできる。このように蒸米として使用する場合、胚芽を残した精米後の米を水に浸漬する工程においてリパーゼを添加することによって、同様に玄米由来の異臭を製成酒からなくし又は低減させることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明による清酒様酒類の製造方法の第1実施例を、その工程に従って詳細に説明する。尚、ここでいう清酒様の酒類とは、我国酒税法上、発芽米を原料に用いた酒は、清酒醸造工程の常法通りに製造したものでも、清酒として取扱われないことから、清酒に近い又は同等の香味を備えた酒類を意味するものである。
先ず、発芽能を有する精白米を準備する。使用する米は、発芽によるGABAの増加を得るためには玄米が望ましいが、玄米は吸水が悪い。そこで、玄米を短時間だけ、胚芽を残すように精米する。この精米歩合は、例えば99〜98%が、米中に蓄積されるGABAの増加が良好な発芽作用を発揮することから特に好ましく、主食用と同程度の約92〜90%までの範囲でも、発芽能を有するという点で有効である。この精米工程により、玄米表面から果種皮が少なくとも部分的に削られるので、発芽能を残しつつ、吸水性が玄米に比して大幅に向上し、後述する液化・糖化工程に十分適した精白米が得られる。
【0016】
この精白米を、例えば15℃程度の水に24時間程度浸漬して発芽させ、GABAを生成・蓄積させる。次に、この発芽米をそのまま、水切りを行わないで液化・糖化させる。場合によって、浸漬水の香りが悪くなれば、水切りを行いかつその後に液化糖化を行う。浸漬する水の温度及び時間は、発芽の速度や程度によって適当に決定する。本実施例では、清酒醸造において公知の液化仕込みの手法を用いて、以下の手順で発芽米の液化・糖化を行う。
【0017】
前記発芽米に液化酵素及びリパーゼを添加して、素早く例えば95℃まで昇温する。この温度95℃を一定時間保持して液化した後、冷却して55℃まで降温する。次に糖化酵素を添加し、55℃を一定時間保持して糖化させることにより、発芽米液化糖化物を得る。リパーゼの添加によって、発芽米表層に多く残存する脂肪が分解され、玄米由来の糠臭などの異臭が無い発芽米糖化物を製造することが可能になる。
【0018】
この液化工程で昇温中に、上記発芽作用で蓄積されたGABAが更に増加することが認められた。特に約15〜40℃で良好にGABAが生成され、また約30〜40℃で米に含まれる酵素の働きが良好であることが確認された。尚、この液化・糖化工程における上記昇温・降温温度は単なる例示であり、条件に応じて適当に設定することができる。
【0019】
本実施例では、清酒醸造において蒸米を製造する場合と異なり、液化・糖化工程で発芽米を水切りする必要がない。従って、発芽米から浸漬水中に溶出・蓄積したGABA及び/またはその前駆物質は、実質的に全く損なうことなく有効に利用でき、より多くのGABAを含む発芽米液化糖化物が得られる。
【0020】
これとは別に、約70%又はそれ以下の精米歩合で精米した米から蒸米を作り、清酒醸造の常法に従って清酒醪を製造する。これに、本発明による前記発芽米液化糖化物を四段として添加し、上槽することにより、GABAを多く含有する清酒様の酒類が製造される。また、前記発芽米液化糖化物の添加量を変えることにより、GABA含量や日本酒度など各種成分が異なり、健康を考慮した様々な清酒様の酒類を製造することが可能となる。
【0021】
本実施例によれば、上述したように清酒醸造工程において異臭の無い発芽米液化糖化物を四段として添加することによって、特に香味に優れた優良な品質でGABA高含有酒類の製造が可能である。更に、前記発芽米には、胚芽由来の有効成分、例えばチアミンなどのビタミン類やフェルラ酸などが多く含まれているので、これら有効成分が製成酒に含まれる量も併せて高くなる。また、精米歩合の高い発芽米を液化糖化物として使用することによって、酒化率を向上させることができる。
【0022】
また、本願発明者らによれば、GABAを含有する本発明の発芽米液化糖化物を、清酒醸造工程の醪仕込み工程で留時に添加したところ、上槽酒中のGABA含量は7.5ppmであった。上述した本発明の工程に従って上槽前に添加した場合、上槽酒中のGABA含量が35.9ppmであったことから、GABAは、醪の発酵中に酵母による取り込みや分解を受け、製成酒中に多く残らなかったものと考えられる。このことから、上記特許文献1に記載の方法により製造される健康酒は、GABA含量が少ないであろうことが予想される。
【0023】
本発明の第2実施例では、上記第1実施例で準備した発芽能を有する精白米を、清酒醸造の常法に従って蒸米として使用する。具体的には、第1実施例と同様に前記精白米を水に浸漬して発芽させた後、水切りする。この発芽米を蒸して蒸米を作り、従来の清酒醸造設備を利用して清酒醸造の常法通りに掛米としてそのまま仕込みに使用し、でき上がった酒醪を上槽して本発明の清酒様酒類を製造する。本実施例では、前記精白米を水に浸漬する際に、リパーゼを添加する。これにより前記精白米に残る脂肪が分解されるので、製造された酒類から玄米由来の異臭をなくしまたは低減させることができる。
【0024】
更に、本発明の第3実施例では、この蒸米を糖化し、四段として酒醪に添加することができる。この酒醪は、第2実施例と同様に、前記発芽米を蒸米にして清酒醸造工程に従って仕込んだものでも、第1実施例のように、常法に従って約70%又はそれ以下の精米歩合で精米した米から仕込んだ清酒醪であっても良い。第2、第3実施例の場合、前記発芽米を液化する工程を含まないから、第1実施例ほど高いGABA含量は期待できないが、前記発芽米の利用によってGABA含有の清酒様酒類を製造することができる。
【0025】
【実施例】
(実施例1)
本発明による精米歩合99%の精白米と従来の精米歩合70%の精白米とについてそれぞれ液化糖化物を製造し、そのGABA含量を測定・比較した。いずれも用いた米の品種は日本晴であった。99%精白米及び70%精白米各100gにそれぞれ200mlの水を加え、15℃で24時間浸漬した。その後、液化用酵素剤「コクゲンA(商品名)」、「コクゲンT(商品名)」(いずれも大和化成(株)製)を各24.6mg添加し、95℃まで3時間20分かけて昇温した。95℃を40分間保持した後、1時間20分かけて55℃まで降温した。糖化酵素「コクゲンK(商品名)」(大和化成(株)製)を50mg添加し、55℃を15時間保持して、液化糖化物を得た。
【0026】
液化糖化物のGABA含量は、99%精白米が45.1ppmであったのに対し、70%精白米は僅かに5.0ppmであった。また、浸漬工程を省略して発芽操作を行わなかった99%精白米を、同様に調製して液化糖化物を得たところ、そのGABA含量は43.7ppmであった。これらの結果から、GABAは、発芽能を有する米を液化糖化することにより蓄積されること、及び、GABAは、発芽の過程よりも液化糖化の過程でより多く生産されることが確認された。
【0027】
(実施例2)
上記実施例1の方法を用いて、本発明による精米歩合99%の精白米240gから調製した液化糖化物を四段として、常法通り精米歩合70%の精白米960gで製造した清酒醪に添加し、上槽した。得られた酒類の成分及びGABA含量を、前記液化糖化物の添加の前後で測定した。比較のため、上記実施例1の精米歩合70%の精白米から調製した液化糖化物を、同様に常法通り製造した清酒醪に添加して清酒様の酒類を製造し、その成分及びGABA含量を測定した。これらの結果を以下の表1に示す。表1から、本発明の液化糖化物を清酒醪に添加することによって、GABA含量が従来より30ppm以上も高い清酒様の酒類を得られることが分かった。
【0028】
【表1】
【0029】
(実施例3)
上記実施例1と同様にして、精米歩合99%の精白米を浸漬しかつ発芽させた後、液化糖化させる工程において、脂肪分解酵素のリパーゼ「スミチームNLS(商品名、登録商標)」(新日本化学工業(株)製)30mgを添加した。その結果得られた液化糖化物は、実施例1のリパーゼ無添加のものに比べて、官能的に玄米由来の糠臭などの異臭が抑制されていた。更に、この液化糖化物を使用して、上記実施例2と同様に清酒醪に添加して製造した清酒様の酒類も、官能的に異臭が抑えられることが確認された。
【0030】
(実施例4)
日本晴の玄米を精米歩合99.2%に精米し、実施例1と同様の操作で液化糖化物を得た。比較のため、精米していない日本晴の玄米そのものから、実施例1と同様の操作で液化糖化物を得た。これらの液化糖化物のGABA含量と固液比(即ち、液化糖化物を遠心分離したときの固形分と液体分との比)とを以下の表2に示す。この結果から、本発明による高精米歩合の、玄米表面を僅かに削った米を使用した場合、固液比が玄米の場合より低下しており、米の溶解が良くなっていることが分かる。しかも、GABAの生成は、玄米の場合と何ら遜色なく、良好であった。
【0031】
【表2】
【0032】
(実施例5)
実施例1の方法を用いて、精米歩合99.3%の精白米(品種「吟おうみ」)から液化糖化物を製造し、清酒醸造工程において仕込の掛米として使用した。麹は常法通り精米歩合70%の精白米(品種「オオセト」)を用いて製造した。この仕込配合を以下の表3に示す。比較のため、清酒醸造の常法通りに掛米に精米歩合70%の蒸米を使用した仕込みを実施した。この仕込配合を以下の表4に示す。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
このようにして仕込みを行ない、上槽して得られた酒の成分を以下の表5に示す。表5から、本発明の発芽米の液化糖化物を掛米として使用することで、香味に特徴のある清酒様酒類を得られることが分かった。
【0036】
【表5】
【0037】
【発明の効果】
本発明は、上述したように高い精米歩合で、胚芽を残すように玄米表面を削ることにより、吸水性及び発芽能を有する精白米が得られ、これを水に浸漬して発芽させた米はGABAを多く含有するから、これを用いて、例えば液化・糖化させたものを清酒仕込み工程に使用し、四段として清酒醪に添加したり、蒸米にしたものを掛米としてまたは更に糖化させて四段として用いることにより、GABAを多く含有する清酒様の酒類を製造することができる。
Claims (5)
- 玄米をその胚芽を残して精米し、水に浸漬して発芽させた米を清酒醸造工程に用いることを特徴とする酒類の製造方法。
- 前記米を液化させかつ糖化させて液化糖化物を製造し、これを清酒仕込み工程に使用することを特徴とする請求項1に記載の酒類の製造方法。
- 清酒醸造工程において、前記米を蒸米にし、これを掛米としてまたは糖化させたものを四段として用いることを特徴とする請求項1に記載の酒類の製造方法。
- 前記米を液化させる工程または前記水に浸漬する工程において、リパーゼを添加することを特徴とする請求項2または3に記載の酒類の製造方法。
- 前記米の精米歩合が99〜90%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の酒類の製造方法。
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