(A)本発明の第1の態様
本発明の第1の態様における光記録媒体は、基板上に反射層と相変化記録層とがこの順に設けられ、前記相変化記録層に対して前記基板側とは反対側から前記相変化記録層にレーザー光を入射することにより情報の記録及び再生を行う光記録媒体であって、
前記相変化記録層に対して前記基板側とは反対側に、拡散防止層が前記相変化記録層に接して設けられてなり、
前記拡散防止層に接して硫黄を含有する保護層が設けられてなり、
前記拡散防止層が非ガス元素と窒素及び/又は酸素とを主成分とする2以上の層から構成され、
前記拡散防止層を構成する2以上の層のうち、前記相変化記録層と接する層を第1拡散防止層、前記保護層と接する層を第2拡散防止層としたときに、
前記第2拡散防止層に含有される窒素及び/又は酸素の量(原子%)が、前記第1拡散防止層に含有される窒素及び/又は酸素の量(原子%)よりも多いことを特徴とする。
本発明の第1の態様においては、このように拡散防止層を2以上の層とすることにより、光記録媒体の繰り返し書き換え特性と耐候性とを両立させることができる。
尚、本発明において、保護層と記録層との間に設ける「拡散防止層」とは、記録層と保護層との間に存在し、記録層と保護層との間での構成原子の相互拡散または化学反応を防止することによって、結果として光記録媒体の書き換え可能回数を向上させるような層をいう。また、本発明において、「非ガス元素と窒素及び/又は酸素とを主成分とする」とは、拡散防止層中において、非ガス元素と窒素及び/又は酸素との合計含有量が50原子%以上であることを意味する。
光記録媒体の繰り返し記録を行っていくと、記録層と保護層との構成元素の拡散が起こる。具体的には、保護層中に硫黄または硫化物が含まれる場合、繰り返し記録を重ねると硫黄原子が記録層中に拡散していく現象が起こる。本発明の第1の態様において、第1拡散防止層及び第2拡散防止層は、これらの成分の拡散防止を主な目的として設けるものである。このような目的の下、第1拡散防止層及び第2拡散防止層を非ガス元素と窒素及び/又は酸素とが主成分となるようにしつつ、前記第1拡散防止層の組成を記録層と構成元素の相互拡散が生じず、記録層との接着性を向上させるようにし、前記第2拡散防止層の組成を保護層と構成元素の相互拡散が生じないものとすれば結果として保護層と記録層との間の構成元素の拡散の防止と、記録層及び拡散防止層の密着性とを両立させることができる。
本発明の第1の態様においては、上述のように、拡散防止層は、非ガス元素と窒素及び/又は酸素とを主成分とする2以上の層から構成される。つまり、拡散防止層は、第1拡散防止層と第2拡散防止層とを有する2層以上とすればよく、繰り返し記録を行っても記録層と保護層との構成元素の拡散を効果的に防止できるものであれば、その層構成は特に限定されるものではないが、生産効率や生産コスト上好ましいのは、拡散防止層を、第1拡散防止層と第2拡散防止層との2つの層から構成されるようにすることである。以下、拡散防止層が第1拡散防止層と第2拡散防止層との2層構造である場合を例にとって、本発明の第1の態様における光記録媒体について説明する。
上述のように、本発明の第1の態様においては、拡散防止層は第1拡散防止層と第2拡散防止層とから構成されることが好ましい。
一般に光記録媒体に用いられる拡散防止層としては、記録層と構成元素の拡散がないこと、保護層と構成元素の拡散がないこと、記録層と剥離が生じないことの3点が求められる。ここで、前述のとおり構成元素の拡散が生じないことと剥離が生じないこととは、拡散防止層の組成としては相反するため両立が困難である。特に、同一組成からなる単層の拡散防止層において、記録層と構成元素の拡散がないこと、及び記録層との剥離が生じないことまでは両立可能であるが、保護層と構成元素の拡散がないことと記録層との剥離が生じないことの両立は特に困難となる。このため、拡散防止層を2層構成とすれば、記録層と接する第1拡散防止層には記録層と構成元素の相互拡散がないことと記録層との剥離が生じないことの機能のみを付与し、保護層と接する第2拡散防止層には保護層との拡散防止機能のみを付与すればよくなる。また、このように拡散防止層を2層構成として拡散防止層の機能を分離する分、層構成や材料選択の自由度が広がる利点もある。
具体的には、記録層と接する第1拡散防止層中の窒素及び/または酸素の含有量(原子%)を小さくし、保護層と接する第2拡散防止層中の窒素及び/または酸素の含有量(原子%)を大きくすることで拡散防止の機能と記録層との接着性(耐候性)を両立させることが可能となる。
特に、前記第1拡散防止層及び第2拡散防止層において、それぞれに含まれる非ガス元素を同一とすることが好ましい。非ガス元素を同一とすることによって、同一のターゲットから第1拡散防止層、第2拡散防止層を作成することができ、製造上簡略化を図ることができる。
以下に、拡散防止層を第1拡散防止層と第2拡散防止層との2層構成とし、それぞれの層に用いる非ガス元素を同一にした、本発明の第1の態様における光記録媒体の具体例について、図面を参照しながら説明する。いうまでもないが、本発明は、下記具体例に限定されるものではない。
図3(a)〜(d)は、本発明の第1の態様における光記録媒体の層構成の一例を示す模式図である。例えば、図3(a)の光記録媒体は、基板1上に、反射層5、保護層2、記録層3、第1拡散防止層10、第2拡散防止層11、保護層4、及び光透過層9をこの順に積層してなり、レーザー光100が光透過層9の上面から光記録媒体に入射する。
上記膜面入射型の光記録媒体においては、保護層2と比較して、保護層4は、放熱性の高い反射層と接することがない分、記録時のレーザー照射による蓄熱が非常に大きくなる。このため、図2(a)のような構成の光記録媒体とすると、繰り返し書き換えによる記録層3と保護層4との間の構成原子の拡散が顕著となる。加えて、上記膜面入射型の光記録媒体は、従来の光記録媒体より記録密度を高密度にする分、光記録媒体の小さな劣化がより顕著に発現しやすい。このため、上記膜面入射型の光記録媒体においては、繰り返し書き換えによる記録層3と保護層4との間の構成原子の相互拡散を原因とする光記録媒体の信号品質の劣化が特に激しくなる。
また、記録層3と保護層4との間に拡散防止層13を設けた図2(b)のような構成の光記録媒体とすることもできるが、前述のように、膜面入射型の光記録媒体においては、短波長のレーザー光100の入射側における保護層4の蓄熱が激しい分、入射側の拡散防止層13において記録層3と保護層4での構成元素の相互拡散を防止する機能がより強力に求められる。これは拡散防止層13を窒化物、酸化物、窒酸化物で構成する場合、拡散防止層13の窒素及び/又は酸素の含有量を大きくすることを意味するが、一方で拡散防止層13は記録層3の後に成膜することになり窒素及び/又は酸素の含有量を大きくすると記録層3と拡散防止層13との剥離が特に生じやすくなる。すなわち、より高密度記録可能な膜面入射型の光記録媒体においては、繰り返し書き換え記録時の安定性と耐候性とのバランスをとることは非常に重要となる。従って、図3(a)〜(d)のように拡散防止層を機能分離することによる効果は、本発明のような膜面入射型の光記録媒体に適用する場合に顕著なものとなる。
次に、本発明の第1の態様における光記録媒体を構成する各層の材料、膜厚、及び製造方法等について説明する。
(1)第1拡散防止層10、第2拡散防止層11
第1拡散防止層及び第2拡散防止層は、非ガス元素と窒素及び/又は酸素とを主成分とし、前記第1拡散防止層及び第2拡散防止層において非ガス元素を同一とする。ここで、第1拡散防止層及び第2拡散防止層に含有される非ガス元素の種類は、1種類であっても2種類以上であってもよい。
また、第1拡散防止層中及び第2拡散防止層中には、非ガス元素と共に、窒素、酸素、又は、窒素及び酸素のいずれかを存在させてもよいが、好ましいのは、窒素、又は、窒素及び酸素のいずれか用いることであり、より好ましいのは窒素を用いることである。
非ガス元素は、常温・常圧(25℃・1気圧)において単体又は分子の状態で気体および液体ではないような元素であればよく、水素(H)、窒素(N)、酸素(O)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の元素は除外される。
前記非ガス元素としては、具体的には、Si、Ge、Al、Ti、Ta、Cr、Mo、Sb、Sn、Nb、Y、Zr、及びHfからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を用いることが好ましい。これら非ガス元素の窒化物、酸化物、窒酸化物は安定であるため、光記録媒体の保存安定性が向上する。また、非ガス元素は複数種類用いることもできる。具体的には、上記元素を複数種類、又は上記元素と上記元素以外の非ガス元素とを複数種類用いればよい。非ガス元素としてより好ましくは、より透明性が高く密着性に優れたSi、Ge、Al、Crである。用いる非ガス元素として特に好ましいのは、Ge及び/又はCrである。
非ガス元素の種類を1つ用いる場合、非ガス元素と窒素及び/又は酸素とが形成する材料として、非ガス元素単体の窒化物及び酸化物を挙げることができる。より具体的には、Si3N4、Ge3N4、CrN、AlN、SiO2、GeO、GeO2、CrO、Cr2O3、Al2O3等の近傍組成が挙げられるが、これらの中でも、共晶系の記録層に対する拡散防止効果がより高いという観点からは、Si3N4、Ge3N4、AlNを用いることが好ましい。また、窒酸化物を用いる場合は、上記非ガス元素単体の窒化物及び酸化物の混合物を用いればよい。
非ガス元素を2つ以上用いる場合、非ガス元素と窒素及び/又は酸素とが形成する材料として、非ガス元素の複合の窒化物及び酸化物を挙げることができる。このような化合物として代表的にGe−Nを用いた例を示すと、Ge−Si−N、Ge−Sb−N、Ge−Cr−N、Ge−Al−N、Ge−Mo−N、Ge−Ti−N等のように、Geと共に、Al、B、Ba、Bi、C、Ca、Ce、Cr、Dy、Eu、Ga、In、K、La、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Si、Sb、Sn、Ta、Te、Ti、V、W、Yb、Zn、及びZr等を含有したものが挙げられる。これらの中でも理由は明らかではないが経験的には、Ge−Cr−N、Ge−Al−N、Ge−Mo−Nを用いることが好ましく、Ge−Cr−Nを用いることが特に好ましい。また、窒酸化物を用いる場合は、上記非ガス元素複合の窒化物及び酸化物の混合物を用いればよい。
第1拡散防止層10中及び第2拡散防止層11中における、非ガス元素と窒素及び/又は酸素との合計含有量は、通常70原子%以上、好ましくは90原子%以上、より好ましくは95原子%以上、最も好ましくは99原子%以上である。このようにすることで記録層との剥離を有効に抑制し、繰り返し書き換え特性を向上させることができるようになる。
第1拡散防止層10中及び第2拡散防止層11中には、必要に応じ、層の特性を損なわない程度に他の元素を含んでいてもよい。他の元素を含む場合、前記元素の含有量は、好ましくは10原子%以下、より好ましくは5原子%以下、特に好ましくは1原子%以下である。また、前記元素としては、特に制限はないものの、硫黄等のように層内を拡散していく性質を有する元素である場合は、その含有量は1原子%以下とすることが好ましい。
ここで、第1拡散防止層10の窒素及び/又は酸素の含有量は、通常3原子%以上、好ましくは5原子%以上、より好ましくは10原子%以上とする。上記範囲とすれば光学的にも吸収の少ない拡散防止層を得ることができるようになる。一方、第1拡散防止層10の窒素及び/又は酸素の含有量は、通常50原子%以下、好ましくは45原子%以下、より好ましくは40原子%以下とする。上記範囲とすれば、記録層3と第1拡散防止層10との剥離を防止することができるようになる。
また、第2拡散防止層11の窒素及び/又は酸素の含有量は、通常40原子%以上であり、一方、通常70原子%以下、好ましくは65原子%以下、より好ましくは60原子%以下である。この範囲とすれば、保護層4と第2拡散防止層11との間での構成原子の拡散及び化学反応を抑制できるようになる。
本発明においては、第1拡散防止層10中及び第2拡散防止層11中の窒素及び/又は酸素の含有量を上記範囲にしつつ、前記第2拡散防止層11に含有される窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)を、前記第1拡散防止層10に含有される窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)よりも多くする。
第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11のそれぞれに含まれる窒素及び/又は酸素の含有量の比率、つまり、(第1拡散防止層10中の窒素及び/又は酸素の含有量)/(第2拡散防止層11中の窒素及び/又は酸素の含有量)は、通常1よりも小さくするが、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.4以下である。上記範囲とすれば、光記録媒体の繰り返し書き換え特性及び耐候性のバランスが良好となる。
第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11の組成の分析は、オージェ電子分光法(AES)、ラザーフォード・バック・スキャッタリング法(RBS)、誘導結合高周波プラズマ分光法(ICP)等を組み合わせて同定することができる。そして、上記組成分析によって、第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11中の窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)を求めることができる。
第1拡散防止層10と第2拡散防止層11の膜厚は、それぞれ通常1nm以上とする。この範囲とすれば、保護層に広く使用されているZnS−SiO2を用いた場合においても硫黄の拡散を抑制できるようになる。また過度に膜厚が薄いと均一な拡散防止層が得られない場合がある。一方、第1拡散防止層10と第2拡散防止層11の膜厚は、それぞれ、通常20nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは7nm以下、更に好ましくは5nm以下、特に好ましくは3nm以下である。上記範囲とすれば、記録層と保護層との構成原子の拡散を防止できるようになるだけでなく、膜応力を小さく抑えて剥離を起こさない耐候性の良好な拡散防止層を確実に得ることができるようになる。また、第1拡散防止層10の窒素及び/又は酸素の含有量を少なくすると透明性が確保されにくくなることがあるが、上記膜厚範囲とすることで第1拡散防止層10の透明性が確保されやすくなる。
第1拡散防止層10の膜厚と第2拡散防止層11の膜厚の比率、つまり、(第1拡散防止層10の膜厚)/(第2拡散防止層11の膜厚)は、通常0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、一方、通常10以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下であればよい。
第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11は、それぞれ真空チャンバー内で微量のArガスを流し、所定の真空圧力にして、窒素及び/又は酸素の含有量が異なる非ガス元素単体の窒化物、酸化物、窒酸化物のいずれか、又は窒素及び/又は酸素の含有量が異なる非ガス元素の複合の窒化物、酸化物、窒酸化物からなるターゲットに電圧を加え放電させ成膜するスパッタリング法によって製造することができる。
また、第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11は、それぞれ真空チャンバー内で微量のAr、N2及び/又はO2の混合ガスを流し、所定の真空圧力にして、非ガス元素単体、又は非ガス元素の複合からなるターゲットに電圧を加え放電させ弾きだされた非ガス元素単体または非ガス元素の複合をN2及び/又はO2で反応させ窒化物、酸化物、窒酸化物にして成膜する反応性スパッタリング法により形成してもよい。
この反応性スパッタリングを用いると真空チャンバー内に流すAr、N2及び/又はO2混合ガスのN2分圧及び/又はO2分圧を変化させることで窒化量、酸化量を変化させることが可能であり、第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11のそれぞれに含まれる非ガス元素を同一なものとする場合には、第1拡散防止層10、第2拡散防止層11を同一チャンバー内にて同一ターゲットを使用し連続して成膜できるため製造を容易におこなうことが可能となる。
例えば、第1拡散防止層中及び第2拡散防止層中のガス成分として窒素を用いる場合は、第1拡散防止層を成膜する際のN2/(Ar+N2)流量比は、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下である。一方、第1拡散防止層を成膜する際のN2/(Ar+N2)流量比は、通常0.01以上とする。上記範囲とすれば、第1拡散防止層中の窒素の含有量(原子%)を所望の値にすることができる。これに対し、第2拡散防止層中を成膜する際のN2/(Ar+N2)流量比は、通常0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上とする。一方、第2拡散防止層を成膜する際のN2/(Ar+N2)流量比は、通常0.8以下とする。上記範囲とすれば、第2拡散防止層中の窒素の含有量(原子%)を所望の値にすることができる。
尚、図3(c)に示すように、記録層3の両側に、第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11をそれぞれ設けることもできる。即ち、保護層2、第2拡散防止層11、第1拡散防止層10、記録層3、第1拡散防止層10、第2拡散防止層11、保護層4の層構成とすれば、繰り返し書き換え特性及び耐候性を非常に高いレベルで満足することができるようになる。
また、本発明の第1の態様においては、第1拡散防止層及び第2拡散防止層は、それぞれGe、Cr及びNを含有し、第2拡散防止層に含有されるNの含有量(原子%)が第1拡散防止層に含有されるNの含有量(原子%)よりも多くなっており、第2拡散防止層に接してZnSを含有する保護層が設けられていることが好ましい。すなわち、上記第1拡散防止層10と第2拡散防止層11としては、例えば、保護層にZnS−SiO2、記録層にSb0.7Te0.3近傍組成を主成分として用いる場合、材料としてGeCrNを用い、第1拡散防止層10における窒素含有量を小さく、第2拡散防止層11における窒素含有量を大きくして用いればよい。第1拡散防止層10と第2拡散防止層11とに上記材料を用いることにより、保護層と記録層との間の構成元素拡散を有効に防止しつつ、記録層と第1拡散防止層10との剥離を防止して耐候性に優れる光記録媒体を得ることができるようになる。
すなわち、単層の拡散防止層のみを用いる場合、拡散防止層としてGeCrNを選択して、その窒化量を小さくすれば高温・高湿下においても剥離の生じない膜を得ることが可能である。しかしながら、この窒化量の少ないGeCrNを単層の拡散防止層として用いると、拡散防止層と記録層との間では直接に構成元素の相互拡散が生じることはないが、拡散防止層と保護層に用いるZnS−SiO2との構成元素の相互拡散を抑制することができず、ZnS−SiO2中の硫黄が単層のGeCrNからなる拡散防止層中に拡散した後に記録層にも拡散するため良好な繰り返し記録特性を得ることができない。
逆に、単層の拡散防止層のみを用いる場合、窒化量の大きなGeCrNを単層の拡散防止層として用いると、記録層及び保護層との間では構成元素の相互拡散を抑制し良好な繰り返し記録特性が得られる一方で、高温・高湿下において拡散防止層と記録層との間に剥離が生じ良好な耐候性を得ることができない。
このため、本発明の第1の態様においては、拡散防止層を2層化し、記録層と接する第1拡散防止層10の窒化、酸化、又は窒酸化の程度を小さくして記録層との界面での剥離を抑制し、保護層と接する第2拡散防止層11の窒化、酸化、又は窒酸化の程度を大きくして保護層との界面での構成元素の拡散を抑制することで、繰り返し記録特性と耐候性を同時に向上することが可能となる。
(2)基板1
図3(a)〜(d)における基板1には、ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィンなどの樹脂、あるいはガラスを用いることができる。なかでもポリカーボネート樹脂はCDにおいて最も広く用いられている実績もあり安価でもあるので最も好ましい。尚、本発明においては、膜面入射型の光記録媒体を用いるため、基板1はレーザー光に対して透明である必要はない。基板の厚さは、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、一方、通常3.0mm以下、好ましくは1.5mm以下である。一般的には1.2mm程度もしくは0.6mm程度とされる。
(3)保護層2及び保護層4
図3(a)〜(d)における保護層2及び保護層4は、記録層での相変化時に発生する熱が基板等の他の層に拡散するのを防止する役割や、光記録媒体の反射率を制御したり、高温・高湿での保存試験における水分を遮断するバリアー層としての役割を果たす。保護層2及び保護層4として異なった材料を用いても良いが、生産性の観点からは同一の材料を用いることが好ましい。
保護層を形成する材料としては、通常、誘電体材料を挙げることができる。誘電体材料としては、例えば、Sc、Y、Ce、La、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Al、Cr、In、Si、Ge、Sn、Sb、及びTe等の酸化物、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Sb、及びPb等の窒化物、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、B、Al、Ga、In、及びSi等の炭化物、又はこれらの混合物を挙げることができる。また、誘電体材料としては、Zn、Y、Cd、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、及びBi等の硫化物、セレン化物もしくはテルル化物、Mg、Ca等のフッ化物、又はこれらの混合物を挙げることができる。
さらに誘電体材料の具体例としては、ZnS−SiO2、SiN、SiO2、TiO2、CrN、TaS2、Y2O2S等を挙げることができる。これら材料の中でも、ZnS−SiO2は、成膜速度の速さ、膜応力の小ささ、温度変化による体積変化率の小ささ及び優れた耐候性から広く利用される。しかしながら、ZnS−SiO2は、記録層と反応しやすい硫黄原子が含有されている。このため、この材料を保護層に用いた場合に本願発明を適用すると、本発明の効果が顕著に発揮されるようになる。また、保護層に用いられる材料で硫黄を含有するものとしては、TaS2、Y2O2Sを挙げることができる。これら材料を用いた場合も本発明の効果が顕著に発揮されるようになる。尚、本発明の第1の態様においては、記録層に対して基板側とは反対側の拡散防止層に接して設けられる保護層は硫黄を含有するものであるので、図3(a)〜(d)における第2拡散防止層11上に形成された保護層4には、上記硫黄を含有する材料を含有させることとなる。
保護層の膜厚は、光記録媒体中で保護層が用いられる位置によりその膜厚が異なる。但し一般的には、保護層の膜厚は、記録層の変形防止効果を十分なものとし保護層として機能するために、2nm以上が好ましい。一方、保護層を構成する誘電体自体の内部応力や接している膜との弾性特性の差を小さくし、クラックが発生しにくくするためには、膜厚を500nm以下とするのが好ましい。一般に、保護層を構成する材料は成膜レートが小さく成膜時間が長い。成膜時間を短くし製造時間を短縮しコストを削減するためには、保護層膜厚を300nm以下に抑えるのが好ましい。より好ましくは200nm以下である。このように、光記録媒体中で保護層が用いられる位置により、保護層に求められる機能が異なるので、保護層が用いられる位置によりその膜厚が異なる。
図3(a)〜(d)における保護層4の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上である。上記範囲とすれば、基板や記録層の熱による変形を抑制する効果が十分となり、保護層の役目を十分果たすようになる。一方、保護層4の膜厚は、通常500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。膜厚が過度に厚すぎると、膜自体の内部応力によりクラックが発生しやすくなり生産性も劣ることとなるが、上記範囲とすればクラックの発生及び生産性を良好に保つことができるようになる。
さらに、レーザー光入射側の保護層4についてはその膜厚dを、保護層の屈折率をn、入射光の波長をλとしたとき、λ/2n以上とすることが好ましい。保護層の厚さは、入射光の多重干渉効果により媒体が適当な反射率となるよう膜厚を選択できるが、反射率は膜厚dに対しλ/2nで周期的となる。また保護層の膜厚を厚くすれば、光記録媒体に侵入してくる水分を遮蔽できるようになるので、膜厚が厚い方が耐候性に有利である。特に膜面入射型の光記録媒体では保護層と外界の間に基板と比較して極めて薄い光透過層しかないため保護層による水分の遮蔽効果が重要である。一方で膜厚が厚すぎると媒体面内での膜厚分布から生じる反射率分布が顕著となる傾向があるため、膜厚dはλ/n以下にすることが好ましい。従って、この耐候性と反射率分布を両立させるために膜厚dをλ/2n以上、λ/n以下の範囲にすることが好ましい。
一方、図3(a)〜(c)における保護層2の膜厚は、通常2nm以上、好ましくは4nm以上、より好ましくは6nm以上とする。この範囲とすれば、記録層の変形を有効に抑制できるようになる。一方、保護層2の膜厚は、通常60nm以下、好ましくは30nm以下である。この範囲とすれば、繰り返し記録中において保護層内部に微視的な塑性変形が蓄積されることがなくなる。また、記録層の冷却速度も十分確保できるようになる。
保護層は通常スパッタ法で形成されるが、ターゲットそのものの不純物量や、成膜時に混入する水分や酸素量も含めて全不純物量を2原子%未満とするのが好ましい。このために保護層をスパッタリングによって形成する際、プロセスチャンバの到達真空度は1×10−3Pa未満とすることが望ましい。
尚、本発明において記録層を挟んで保護層が2層設けられる場合は、記録層3に対して第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11を介して位置する保護層4とは反対側の保護層2を、第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11と同じ材料で均一組成の界面層8(例えばGeCrN)におきかえてもよい。このような例を図3(d)に示す。
(4)記録層3
図3(a)〜(d)における記録層3は、結晶相−非晶質相間の相変化可能な材料であれば特に制限はない。例えば、In−Ge−Sb−Teからなる合金の他、例えば金属間化合物近傍組成のGe2Sb2Te5系、Te−Sn−Ge、Te−Sb−Ge−Sn、Te−Sn−Ge−Se、Te−Sn−Ge−Au、Ag−In−Sb−Te、In−Sb−Se、In−Te−Se等種々の材料を用いることが可能である。
現在すでに製品化された相変化型光記録媒体における記録層組成としては、金属間化合物近傍組成のGe2Sb2Te5近傍組成、及び、In−Ge−Sb−Te系、Ag−In−Sb−Te系などのSb2Te3−Sbの共晶点Sb70Te30近傍組成が主に使用されている。この二つの組成を比較すると、共晶点Sb70Te30近傍組成のようにSbを主成分とする相変化記録材料は、記録密度を高くした場合においても良好な特性を示すことが知られている(Technical Digest,ISOM/ODS'99(1999)(SPIE Vol. 3864) p.191−193)。これは、Sb70Te30近傍組成が共晶点近傍のため、結晶粒径を小さくすることができ、記録マークの大きさや形状を精度よく制御することが可能となるためであると考えられる。
一方で、本発明者等の検討によれば、共晶点Sb70Te30近傍組成のようにSbを主成分とする相変化記録材料は、Ge2Sb2Te5近傍組成の相変化記録材料と比較して、拡散防止層材料との剥離が生じやすいことが判明した。例えば、本発明者等は、記録層に共晶点Sb70Te30近傍組成を用いた光記録媒体、及び記録層にGe2Sb2Te5近傍組成を用いた光記録媒体のそれぞれに対し、記録層上に拡散防止層としてGeCrNを積層して、GeCrNの窒素の割合を詳細に変化させて検討を行った。その結果、Ge2Sb2Te5近傍組成を記録層に用いた光記録媒体は、拡散防止層中の窒素含有量を広範に変化させた場合においても、高温高湿下の環境において優れた耐候性を示した。これに対して、共晶点Sb70Te30近傍組成を記録層に用いた光記録媒体は、拡散防止層中の窒素割合が低い範囲以外においては高温高湿の環境下での拡散防止層と記録層との間の剥離が生じる。そして、剥離が生じないような窒素割合の低い範囲においては、繰り返し書き換え特性を良好にすることができなかった。
共晶点Sb70Te30近傍組成のようにSbを主成分とする組成とGe2Sb2Te5近傍組成との間で保存安定性(記録層と拡散防止層との剥離性)に差異が現れる原因は、記録層の膜応力、表面張力、結晶格子の型など様々な可能性が考えられる。一つの原因としては、拡散防止層としてGeCrNなどGeを主成分とする材料を用いた場合には、共晶点Sb70Te30近傍組成のようにSbを主成分とする組成を用いた記録層材料と比較して、記録層材料中にGeがより多く含まれているGe2Sb2Te5近傍組成を用いた記録層材料の方が、記録層材料と拡散防止層の材料との親和性が高くなることを挙げることができる。
以上のことから、記録層の組成を共晶点Sb70Te30近傍組成などのSbを主成分とする組成としたときには、拡散防止層を2層以上で構成することにより繰り返し書き換え特性を維持しつつ、拡散防止層と記録層との剥離を防止するという本発明の効果がより顕著に発揮される。このため、記録層の組成は、一般に相変化型光記録媒体における記録層に用いられるものであれば特に限定されるものではないが、本発明においては、Sbを主成分とすることが好ましい。尚、本発明において、「記録層がSbを主成分とする」とは、記録層全体のうち、Sbの含有量が50原子%以上であることを意味する。Sbを主成分とする材料を用いる記録層は、非常に高速で結晶化でき、非晶質マークの短時間での結晶化による消去が可能となる利点もある。
また、記録層に含有されるSbを主成分とする材料は、記録層全体のうち、好ましくは60原子%以上、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上、特に好ましくは90原子%以上、最も好ましくは95%以上含有される。含有量が高ければ高いほど本発明の効果が顕著に発揮されるようになるが、記録層の成膜時に酸素や窒素等の他の成分が含有されたとしても数原子%から20原子%の範囲内であれば、良好な記録特性を得ることができるようになる。
しかし一方で、Sb単独で用いるよりも、非晶質形成を促進させ非晶質を安定化させるための添加元素を、記録層全体のうち少なくとも1原子%、好ましくは5原子%以上、より好ましくは10原子%以上、添加して用いるのが好ましい。一方、添加元素は、通常30原子%以下とする。
非晶質形成を促進させ、かつ非晶質状態の経時安定性を高める上記添加元素は、結晶化温度を高める効果もある。このような添加元素としては、Ge、Te、In、Ga、Sn、Pb、Si、Ag、Cu、Au、希土類元素、Ta、Nb、V、Hf、Zr、W、Mo、Cu、Cr、Co、窒素、酸素、及びSe等を用いることができる。これら添加元素のうち、非晶質形成の促進、非晶質状態の経時安定性の向上、及び結晶化温度を高める観点から、好ましいのはGe、Te、In、Ga、及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1つとすることであり、特に好ましいのは、Ge及び/又はTeを用いるか、In、Ga、及びSnの少なくとも1つを用いることである。
高密度化及び高速記録化を実現するうえでは、記録層の材料として、SbとGe及び/又はTeとを併用することが特に好ましい。Ge及び/又はTeをSbに添加する際に、Ge及び/又はTeの合計含有量は、通常1原子%以上、好ましくは3原子%以上、より好ましくは5原子%以上であり、一方、好ましくは40原子%以下、より好ましくは35原子%以下、さらに好ましくは30原子%以下、特に好ましくは20原子%以下、最も好ましくは15原子%以下である。上記範囲に満たない場合は、非晶質マークを安定化する効果が不十分となる場合があり、Ge及び/又はTeが上記範囲を超えると、非晶質が安定になりすぎ、逆に結晶化が遅くなりすぎる傾向がある。
上記Sbを主成分とする組成は、記録層中に含有されるTeの量によって、2種類に分類することができる。一つは、Teを10原子%以上含有する組成であり、もう一つはTeを10原子%未満含有する組成(Teを含有しない場合を含む)である。
そのひとつは、記録層材料を、Teを概ね10原子%以上含みつつ、Sb70Te30共晶組成よりも過剰のSbを含有する合金が主成分である組成範囲とすることである。この記録層材料を、以下において、SbTe共晶系と呼ぶ。ここで、Sb/Teは3以上とすることが好ましく、4以上とすることがより好ましい。
記録層中に含有されるTeの量によって分類することができる、上記Sbを主成分とするもう一つの組成としては以下のものをあげることができる。すなわち、記録層の組成を、Sbを主成分としつつ、Teを10原子%未満とし、さらにGeを必須成分として含有するようにするのである。上記記録層の組成の具体例としては、Sb90Ge10近傍組成の共晶合金を主成分とし、Teを10原子%未満含有する合金(本明細書においては、この合金をSbGe共晶系と呼ぶ。)を好ましく挙げることができる。
Te添加量が10原子%未満の組成は、SbTe共晶系ではなく、SbGe共晶系としての性質を有するようになる。このSbGe共晶系の合金は、Ge含有量が10原子%程度と高くても、初期結晶化後の多結晶状態の結晶粒径は比較的微細なために結晶状態が単一相となりやすく、ノイズが低い。SbGe共晶系の合金においては、Teは、付加的に添加されるにすぎず必須元素とはならない。
SbGe共晶系合金では、Sb/Ge比を相対的に高くすることで、結晶化速度を速めることができ、再結晶化による非晶質マークの再結晶化が可能である。
記録層にSbを主成分とする組成を用い、結晶状態を未記録・消去状態とし、非晶質マークを形成して記録を行う場合、冷却効率を良くすることが非常に重要となる。これは以下の理由による。
すなわち、上記SbTe共晶系又はSbGe共晶系等のSbを主成分とする記録層は、高速記録に対応するために、Sb70Te30共晶点あるいはSb90Ge10共晶点近傍よりもさらにSbを過剰に添加して、結晶核生成速度ではなく結晶成長速度を高めることにより結晶化速度を高めている。このため、これら記録層においては、記録層の冷却速度を速くして、再結晶化による非晶質マークの変化(非晶質マークが所望のサイズよりも小さくなること)を抑制することが好ましい。従って、記録層を溶融した後に非晶質マークを確実に形成するために記録層を急冷することが重要となり、記録層の冷却効率を良くすることが非常に重要となるのである。そのため、上記記録層組成においては、反射層に放熱性の高いAg又はAg合金を用いることが特に好ましい。
本発明では、上記、SbTe共晶系又はSbGe共晶系等のSbを主成分とする組成を用いる記録層において、さらに、In、Ga、及びSnの少なくとも1つを含有し、前記記録層中におけるIn、Ga、及びSnのそれぞれの含有量が1原子%以上30原子%以下であることが特に好ましい。
以下、Sbを主成分とする組成の具体例についてさらに詳しく説明する。
(SbTe共晶系)
SbTe共晶系の具体例としては、Sb2Te3−Sbの共晶点Sb70Te30近傍組成が挙げられる。このSb70Te30近傍組成は、高密度化及び高速記録化した光記録媒体を得ることには非常に有効であるが、光記録媒体の繰り返し特性と耐候性とのバランスがより高いレベルで取れなくなる傾向が顕著になる。従って、上記Sb2Te3−Sbの共晶点Sb70Te30近傍組成を主成分とする記録層を用いた場合に、拡散防止層を二層化して機能分離を図るという本発明の効果が顕著に発揮される。
Sb70Te30近傍組成としては、(SbxTe1−x)1−yMy組成(ただし、0.6≦x≦0.9、0.5≦1−y≦1、Mは、Ge、Ag、In、Ga、Zn、Sn、Si、Cu、Au、Pd、Pt、Pb、Cr、Co、N、O、S、Se、V、Nb、希土類元素、Zr、Hf、及びTaからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)を挙げることができる。この組成を主成分とする記録層は、結晶・非晶質いずれの状態も安定で、かつ、両状態間の高速の相転移が可能である。
上記の(SbxTe1−x)1−yMy組成においては、Mとしては、オーバーライト特性等の記録特性の観点から、Ge、In、Ga、及びSnが特に好ましく、Geが最も好ましい。
上記の(SbxTe1−x)1−yMy組成においては、xは、通常0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.75以上であり、一方、通常0.9以下とする。また、1−yは、通常0.5以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、特に好ましくは0.9以上であり、一方、通常1以下、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.97以下である。x、yを上記範囲とすれば、高速記録に対応可能な記録層を得ることができるようになる。
上記(SbxTe1−x)1−yMy組成においてMとしてGeを用いる組成について更に説明する。この組成としては、Sb70Te30共晶点組成を基本として大幅に過剰のSbを含むSb70Te30合金を母体とし、さらにGeを含む、Gey(SbxTe1−x)1−y(ただし、0.01≦y≦0.06、0.82≦x≦0.9)で表される組成(以下、GeSbTe共晶系という場合がある。)を用いることが好ましい。Ge量は、Gey(SbxTe1−x)1−yにおけるyの値として0.01以上、特に、0.02以上であることが好ましい。一方、このようにSb含有量が多いSbTe共晶系では、Ge量が多すぎると、GeTeやGeSbTe系の金属間化合物が析出するとともに、SbGe合金も析出しうるために、記録層中に光学定数の異なる結晶粒が混在すると推定される。そして、この結晶粒の混在により、記録層のノイズが上昇しジッタが増加することがある。また、Geをあまりに多く添加しても非晶質マークの経時安定性の効果が飽和する。このため、通常Ge量は、Gey(SbxTe1−x)1−yにおけるyの値として、0.06以下、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.04以下である。
上記GeSbTe共晶系の組成においては、さらにIn、Ga、Snを含有させることが特に好ましい。すなわち、M1y2Gey1(SbxTe1−x)1−y1−y2(0.01≦y2≦0.4、0.01≦y1≦0.06、0.82≦x≦0.9であり、M1は、In、Ga及びSnからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を表す。)で表される組成を用いることが特に好ましい。上記M1、すなわち、Ga、In、Snで示される一群の元素のうち少なくとも1種を添加することによりさらに特性が改善される。In、Ga、Snの元素は、結晶状態と非晶質状態の光学的コントラストを大きくでき、ジッタを低減する効果もある。M1の含有量を示すy2は、通常0.01以上、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.05以上、一方、通常0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下とする。この範囲とすれば、上記特性改善の効果が良好に発揮されるようになる。Geの含有量を示すy1は、通常0.01以上、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上であり、一方、通常0.2以下、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.06以下、特に好ましくは0.05以下とする。
上記GeSbTe共晶系の組成においてIn、Ga、Sn以外に含みうる元素としては、窒素、酸素及び硫黄を挙げることができる。これら元素は、繰返しオーバーライトにおける偏析の防止や光学特性の微調整ができるという効果がある。窒素、酸素及び硫黄の含有量は、Sb、Te及びGeの合計量に対して5原子%以下であることがより好ましい。
また、Cu、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Coを上記GeSbTe共晶系の組成に含有させることも好ましい。これら元素は、ごく微量の添加により、結晶成長速度を低下させることなく、結晶化温度を上昇させ、さらなる経時安定性の改善に効果がある。ただし、これら元素の量が多すぎると特定の物質の経時的偏析や繰返しオーバーライトによる偏析が起こりやすくなるため、添加量は、Sb、Te及びGeの合計量に対して5原子%以下、特に3原子%以下とするのが好ましい。偏析が生じると、記録層が初期に有する非晶質の安定性や再結晶化速度等が変化して、オーバーライト特性が悪化することがある。
(SbGe共晶系)
Sbを主成分としてGe及び/又はTeを併用する記録層材料の好適な組成のもう一つは、Teを記録層全体のうち10原子%未満(Teを含有しない場合を含む)とし、Geを必須成分として含有するSbGe共晶系である。このSbGe共晶系の具体例としては、Sb90Ge10近傍組成の共晶合金を主成分とする合金が挙げられる。本発明者の検討によれば、SbGe共晶系合金は、高速結晶化が可能でありながら、非晶質マークは、上記GeSbTe共晶系よりさらに安定であることがわかった。また、上記GeSbTe共晶系で、Sb/Te比を高めた場合に見られるノイズの増加がなく、低ノイズでの記録が可能になるなどの特徴があることも見出した。このSbGe共晶系合金を主成分とする場合には、Geの含有量は記録層全体のうち3原子%以上、30原子%以下とするのが好ましい。
より好ましくは、In、Ga乃至は、Snを添加した、InGeSb、GaGeSb系あるいはSnGeSb系3元合金を主成分として用いる。In、Ga、Snには、SbGe共晶系合金よりも、結晶状態と非晶質状態の光学的特性差を大きくする効果が顕著であり、光記録媒体として高い変調度を得るために特に有効である。
このようなSbGe共晶系合金の好ましい組成としては、TeγM2δ(GeεSb1−ε)1−δ−γ(ただし、0.01≦ε≦0.3、0≦δ≦0.3、0≦γ<0.1、2≦δ/γ、0<δ+γ≦0.4であり、M2はIn、Ga、及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)を挙げることができる。SbGe共晶系合金に、In、Ga、又はSnを添加することにより、結晶状態と非晶質状態との光学的特性差を大きくできる効果を顕著とすることができる。
元素M2としてIn、Gaを用いることで、超高速記録におけるジッタが改善され、光学的なコントラスト(結晶状態と非晶質状態の反射率差)も大きくすることができるようになる。このため、In及び/又はGaの含有量を示すδは、通常0以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上とする。ただし、In又はGaが過度に多いと、消去状態として使用する結晶相とは別に、非常に低反射率のIn−Sb系、又はGa−Sb系の他の結晶相が形成される場合がある。従って、δは、通常0.3以下、好ましくは、0.2以下とする。尚、InとGaとを比較すると、Inの方がより低ジッタを実現できるため、上記M2はInとすることが好ましい。
一方、元素M2としてSnを用いることで、超高速記録におけるジッタが改善され、光学的なコントラスト(結晶状態と非晶質状態の反射率差)が大きくとれるようになる。このため、Snの含有量を示すδは、通常0以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上とする。ただし、Snが過度に多いと、記録直後の非晶質相が、低反射率の他の非晶質相に変化する場合がある。特に、長時間保存した場合に、この安定化非晶質相が析出して消去性能が低下する傾向がある。従って、δは、通常0.3以下、好ましくは0.2以下とする。
元素M2として、In、Ga、及びSnのうち複数の元素を用いることもできるが、特に、In及びSnを含有させることが好ましい。In及びSnを含有させる場合、これら元素の合計含有量は、通常1原子%以上、好ましくは5原子%以上とし、通常40原子%以下、好ましくは30原子%以下、より好ましくは25原子%以下とする。
上記TeM2GeSbの組成においては、Teを含有することで超高速記録における消去比の経時的変化を改善することができるようになる。このため、Teの含有量を示すγは、通常0以上とするが、好ましくは0.01以上、特に好ましくは0.05以上とする。ただし、Teが過度に多いと、ノイズが高くなる場合があるため、γは、通常0.1より小さくする。
尚、上記TeM2GeSbの組成において、Teと元素M2とを含有させる場合は、これらの合計含有量を制御することが有効である。従って、Te及び元素M2の含有量を示すδ+γは、通常0より大きくするが、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上とする。δ+γを上記範囲とすることで、Te及び元素M2を同時に含有させる効果が良好に発揮されるようになる。一方、SbGe共晶系合金を主成分とする効果を良好に発揮されるために、δ+γは、通常0.4以下、好ましくは0.35以下、より好ましくは0.3以下とする。一方、元素M2とTeとの原子数比を表すδ/γは2以上とする。Teを含有させることによって光学的コントラストが低下する傾向にあるため、Teを含有させた場合には、元素M2の含有量を若干多くする(δを若干大きくする)ことが好ましい。
上記TeM2GeSbの組成に添加しうる他の元素としては、Au、Ag、Pd、Pt、Si、Pb、Bi、Ta、Nb、V、Mo、希土類元素、N、O等があり、光学特性や結晶化速度の微調整等に使われるが、その添加量は、最大で10原子%程度である。
以上において最も好ましい組成の一つは、InpSnqTerGesSbt(ただし、0≦p≦0.3、0≦q≦0.3、0<p+q≦0.3、0≦r<0.1、0<s≦0.2、0.5≦t≦0.9,p+q+r+s+t=1)なる合金系を主成分とする組成である。TeとIn及び/又はSnとを併用する場合は、(p+q)/r≧2とするのが好ましい。
記録層3の膜厚は、十分な光学的コントラストを得、また結晶化速度を速くし短時間での記録消去を達成するためには5nm以上あるのが好ましい。また反射率を十分に高くするために、より好ましくは10nm以上とする。
一方、クラックを生じにくく、かつ十分な光学的コントラストを得るためには、記録層膜厚は100nm以下とするのが好ましい。より好ましくは50nm以下とする。熱容量を小さくし記録感度を上げるためである。また、相変化に伴う体積変化を小さくし、記録層自身や上下の保護層に対して、繰り返し書き換えによる繰り返し体積変化の影響を小さくすることもできる。ひいては、不可逆な微視的変形の蓄積が抑えられノイズが低減され、繰り返し書き換え耐久性が向上する。高密度記録用媒体では、ノイズに対する要求が一層厳しいため、より好ましくは記録層膜厚を30nm以下とする。
上記記録層3は合金ターゲットを不活性ガス、特にArガス中でスパッタして得られることが多い。なお、記録層および保護層の厚みは、上記機械的強度、信頼性の面からの制限の他に、多層構成に伴う干渉効果も考慮して、レーザー光の吸収効率が良く、記録信号の振幅すなわち記録状態と未記録状態のコントラストが大きくなるように選ばれる。
(5)反射層5
図3(a)〜(d)における反射層5は、Ag又はAg合金の他、例えばAl、Au及びこれらを主成分とする合金など種々の材料を用いることができる。
反射層の材料としては、熱伝導率が高く放熱効果が大きいAgあるいはAlを主成分とする合金を用いるのが好ましい。
Ag、Alを主成分とする反射層におけるAg、Alの含有量は、通常50原子%以上、好ましくは80原子%以上であり、より好ましくは90原子%以上であり、特に好ましくは95原子%以上である。Agを主成分とする反射層においては、Agの含有量を多くすればするほど反射層の熱伝導率を大きくすることができる。従って、より熱伝導率を高くするために反射層はAgのみ(純銀)を用いてもよい。
本発明に適した反射層の材料をより具体的に述べると、純Ag、又はAgにTi、V、Ta、Nb、W、Co、Cr、Si、Ge、Sn、Sc、Hf、Pd、Rh、Au、Pt、Mg、Zr、Mo、Cu、Nd及びMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含むAg合金を挙げることができる。経時安定性をより重視する場合には添加成分としてはTi、Mg、Au、Cu、Nd又はPdが好ましい。
また、反射層材料の他の好ましい例としては、AlにTa、Ti、Co、Cr、Si、Sc、Hf、Pd、Pt、Mg、Zr、Mo及びMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含むAl合金を挙げることができる。これらの合金は、耐ヒロック性が改善されることが知られているので、耐久性、体積抵抗率、成膜速度等を考慮して用いることができる。
上記AgやAlに含有させる他の元素の量は、通常0.1原子%以上、好ましくは0.2原子%以上である。Al合金に関しては、上記元素の含有量が少なすぎると、成膜条件にもよるが、耐ヒロック性は不十分であることが多い。一方、上記元素の含有量は、通常5原子%以下、好ましくは2原子%以下、より好ましくは1原子%以下である。多すぎると反射層の抵抗率が高くなる(熱伝導率が小さくなる)場合がある。
Al合金を用いる場合は、Siを0〜2重量%、Mgを0.5〜2重量%、Tiを0〜0.2重量%含有するAl合金を使用することもできる。Siは微細剥離欠陥を抑制するのに効果があるが、含有量が多すぎると経時的に熱伝導率が変化することがあるので、通常2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下とする。またMgは、反射層の耐食性を向上させるが、含有量が多すぎて経時的に熱伝導率が変化することがあるので、通常2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下とする。Tiは、スパッタリングレートの変動を防ぐという効果があるが、含有量が多すぎると、熱伝導率を低下させるとともに、Tiがミクロレベルで均一に固溶したバルクの鋳造が困難となり、ターゲットコストを上昇させるので通常0.2重量%以下とする。
反射層の厚さは、通常40nm以上、好ましくは50nm以上、一方、通常300nm以下、好ましくは200nm以下とする。厚すぎると面積抵抗率を下げることはできても十分な放熱効果は得られないのみならず、記録感度が悪化しやすい。厚い膜では単位面積当たりの熱容量が増大しそれ自体の放熱に時間がかかってしまい、放熱効果がかえって小さくなるためと考えられる。また、このような厚膜では成膜に時間がかかり、材料費も増える傾向にある。また、膜厚が小さすぎると、一部膜成長初期の島状構造の影響が出やすく、反射率や熱伝導率が低下することがある。
反射層は通常スパッタ法や真空蒸着法で形成されるが、ターゲットや蒸着材料そのものの不純物量や、成膜時に混入する水分や酸素量も含めて全不純物量を2原子%未満とするのが好ましい。このために反射層をスパッタリングによって形成する際、プロセスチャンバの到達真空度は1×10−3Pa未満とすることが望ましい。
また、10−4Paより悪い到達真空度で成膜する場合、成膜レートを1nm/秒以上、好ましくは10nm/秒以上として不純物が取り込まれるのを防ぐことが望ましい。あるいは、意図的な添加元素を1原子%より多く含む場合は、成膜レートを10nm/秒以上として付加的な不純物混入を極力防ぐことが望ましい。
さらなる高熱伝導と高信頼性を得るために反射層を多層化することも有効である。この場合、少なくとも1層は全反射層膜厚の50%以上の膜厚を有する上記Ag又はAlを含有する材料とするのが好ましい。この層は実質的に放熱効果を司り、他の層が耐食性や保護層との密着性、耐ヒロック性の改善に寄与するように構成される。
(6)光透過層9
図3(a)〜(d)における光透過層9は、スパッタ膜を水分や塵埃から保護すると同時に薄い入射基板としての役割も必要とされる。従って、記録・再生に用いられるレーザー光に対して透明であると同時にその厚さは50μm以上150μm以下が好ましく、光記録媒体内で5μm以内の均一な厚み分布を実現することが好ましい。
光透過層9は、通常、未硬化の光硬化性樹脂をスピンコート法により塗布し光照射により硬化させる方法、あるいは透明シートを貼り合わせる方法で形成される。光硬化性樹脂としては、安定性、耐水性、硬化性、硬化時の低収縮率といった点で優れている、アクリル酸エステル系の紫外線硬化樹脂が好ましい。一方、透明シートとしては、ポリカーボネートからなるものを用いることが透明性、平坦性、価格といった点で優れている。
(7)下地層12
図3(b)は、図3(a)に示した構成から、基板1と反射層5の間に下地層12を設けたものである。
下地層12には基板1と金属反射層5の間の剥離を抑制する効果があり、より耐候性に優れた媒体を得ることが可能となるため、下地層12を基板と反射層との間に設けることが好ましい。前述の通り、下地層12は、温度変化時に生じる基板1と反射層5の界面で膜剥離を抑制する目的で形成されている。従って、この目的を満たすものであればよく、その材料は制限されないが、基板及び反射層に対し良好な密着性をもち、反射層を腐蝕させず、また反射層に対して拡散せず、成膜表面の平坦性に優れたものが好ましく、これらの条件を満たす限り、金属、半導体、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、半導体酸化物、半導体窒化物、半導体炭化物、フッ化物、非晶質カーボン等などの単体もしくは混合物から適宜選択して用いることができる。
上記を満たす金属及び半導体としては、例えばSi、Ti、Cr、Ta、Nb、Pd、Ni、Co、Mo、及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素等が挙げられる。これらの中では、密着性及び反射層との反応性が低い点からCr、Ta、Nb、Ni、Moが好ましく、Ta、Nb、Moを用いるのがより好ましい。また化合物としては、SiN、SiO2、SiC、GeN、ZnO、Al2O3、Ta2O5、TaN、Nb2O5、ZrO2、希土類元素酸化物、TiN、CrN、CaF2、MgF2等が挙げられる。これらの中では、密着性及び反射層と反応性が低い点からSiN、GeN、ZnO、Nb2O5、CrNが好ましく、GeN、CrNを用いるのがより好ましい。特に好ましくは、GeN及びCrNを同時に用いることである。
以上1種の元素又は2種の元素からなる例を挙げたがこれらの混合物も挙げることができる。このような化合物として代表的にGe−Nを用いた例を示すと、Ge−Si−N、Ge−Sb−N、Ge−Cr−N、Ge−Al−N、Ge−Mo−N、Ge−Ti−N等のように、Geと共に、Al、B、Ba、Bi、C、Ca、Ce、Cr、Dy、Eu、Ga、In、K、La、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Si、Sb、Sn、Ta、Te、Ti、V、W、Yb、Zn、及びZr等を含有したものが挙げられる。これらのうちで好ましいのは、Ge−Cr−Nを用いることである。
また下地層は必ずしも単一材料の1層構成である必要はなく、複数の材料を積層した多層構造であってもよい。例えば基板上にZnS−SiO2の混合物、GeCeNを積層した2層構成が考えられる。この構成ではZnS−SiO2が基板との密着性に優れ、さらにGeCrNが存在することで反射層に銀や銀合金を用いた場合においてもZnS−SiO2中の硫黄により銀の腐蝕を防止することができる。
下地層12は基板1上に均一に形成される厚さで十分であり、逆に厚くなると製造コスト・製造時間の増大の他、基板1の溝形状の変化などが生じる。よって膜厚は2nm以上20nm以下が好ましい。また他の層と同じくスパッタリングおよび反応性スパッタリングより作成する。
尚、図3(a)〜(d)における光記録媒体の構成は、上記構成に限定されるものではなく、保護層2又は保護層代替の界面層8と反射層5の間に他の材料からなる層を設ける構成、反射層が2層である構成など、種々の構成に適用することが可能である。
(B)本発明の第2の態様
本発明の第2の態様における光記録媒体は、基板上に反射層と相変化記録層とがこの順に設けられ、前記相変化記録層に対して前記基板側とは反対側から前記相変化記録層にレーザー光を入射することにより情報の記録及び再生を行う光記録媒体であって、
前記相変化記録層に対して前記基板側とは反対側に、拡散防止層が前記相変化記録層に接して設けられてなり、
前記拡散防止層に接して硫黄を含有する保護層が設けられてなり、
前記拡散防止層が非ガス元素と窒素及び/又は酸素とを主成分とし、
前記拡散防止層と前記保護層との界面における窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)が、前記拡散防止層と前記相変化記録層との界面における窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)よりも多いことを特徴とする。
第1の態様においては、拡散防止層を2層に分けて、それぞれの拡散防止層に別の機能を持たせることによって、繰り返し書き換え特性及び耐候性に優れる光記録媒体を得たが、第2の態様においては、単層の拡散防止層において、記録層の界面での組成及び保護層の界面での組成を変化させることにより、拡散防止層に、記録層との間で必要とされる機能及び保護層との間で必要とされる機能を付与する。
そして、記録層と拡散防止層界面における接着性を向上させる結果、高温・高湿下においても剥離の生じない優れた耐候性が得られ、拡散防止層と保護層の間で構成元素の相互拡散を抑制するため良好な繰り返し記録特性を得ることができる。
ここで、拡散防止層と保護層との界面とは、保護層と拡散防止層との接する面から拡散防止層側に1nmまでの領域をいう。また、拡散防止層と相変化記録層との界面とは、記録層と拡散防止層との接する面から拡散防止層側に1nmまでの領域をいう。
以下に、本発明の第2の態様における光記録媒体の具体例について、図面を参照しながら説明する。いうまでもないが、本発明は、下記具体例に限定されるものではない。
図4は、本発明の第2の態様における好ましい光記録媒体の層構成の一例を示す模式図である。図4の光記録媒体は、基板1上に、反射層5、保護層2、記録層3、拡散防止層7、保護層4、及び光透過層9をこの順に積層してなり、レーザー光100が光透過層9の上面から光記録媒体に入射する。
本発明の効果が膜面入射型の光記録媒体において顕著に発揮されることは、上記「本発明の第1の態様」で説明した通りである。また、図4における、基板1、反射層5、保護層2、記録層3、保護層4、光透過層9の各層の材料、膜厚、及び製造方法等については、上記「本発明の第1の態様」で説明した通りであり、本発明の第1の態様におけるものと同じものを使用することができる。
また、基板1と反射層5との間に下地層を入れても良いことや、保護層2を単一組成の界面層8に置き換えても良い点等は上記「本発明の第1の態様」で説明した通りである。従って、以下、拡散防止層7についてのみ説明する。
拡散防止層7は、非ガス元素と、窒素及び/又は酸素とを主成分とする。ここで、非ガス元素や非ガス元素と窒素及び/又は酸素とが形成する材料については、上記「本発明の第1の態様」で説明した通りである。
拡散防止層7中における非ガス元素と窒素及び/又は酸素との合計含有量は、通常70原子%以上、好ましくは90原子%以上、より好ましくは95原子%以上、最も好ましくは99原子%以上である。このようにすることで記録層との剥離を有効に抑制し、繰り返し書き換え特性を向上させることができるようになる。
拡散防止層7中には、必要に応じ、層の特性を損なわない程度に他の元素を含んでいてもよい。他の元素を含む場合、前記元素の含有量は、好ましくは10原子%以下、より好ましくは5原子%以下、特に好ましくは1原子%以下である。また、前記元素としては、特に制限はないものの、硫黄等のように層内を拡散していく性質を有する元素である場合は、その含有量は1原子%以下とすることが好ましい。
ここで、拡散防止層7と記録層3との界面における窒素及び/又は酸素の含有量は、通常3原子%以上、好ましくは5原子%以上、より好ましくは10原子%以上とする。上記範囲とすれば光学的な吸収を小さくすることができるようになる。一方、拡散防止層7と記録層3との界面における窒素及び/又は酸素の含有量は、通常50原子%以下、好ましくは45原子%以下、より好ましくは40原子%以下とする。上記範囲とすれば、記録層と拡散防止層との剥離を防止することができるようになる。
また、拡散防止層7と保護層4との界面における窒素及び/又は酸素の含有量は、通常40原子%以上であり、一方、通常70原子%以下、好ましくは65原子%以下、より好ましくは60原子%以下である。この範囲とすれば、保護層と拡散防止層との間での構成原子の拡散及び化学反応を抑制できるようになる。
但し、本発明においては、拡散防止層7と保護層4との界面における窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)を、拡散防止層7と記録層3との界面における窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)よりも多くする。
拡散防止層7と保護層4との界面及び拡散防止層7と記録層3との界面以外の拡散防止層7の領域においては、窒素及び/又は酸素の含有量を一定としてもよい。また、拡散防止層7と保護層4との界面及び拡散防止層7と記録層3との界面以外の拡散防止層7の領域においては、拡散防止層の膜厚方向で窒素及び/又は酸素の含有量を連続的又は段階的に変化させてもよい。これらのうち好ましいのは、拡散防止層の膜厚方向で窒素及び/又は酸素の含有量を連続的又は段階的に変化させることである。
拡散防止層7と記録層3との界面と、拡散防止層7と保護層4との界面とにおける窒素及び/又は酸素の含有量の比率、つまり、(拡散防止層7と記録層3との界面の窒素及び/又は酸素の含有量)/(拡散防止層7と保護層4との界面の窒素及び/又は酸素の含有量)は、通常1よりも小さくするか、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.5以下、最も好ましくは0.4以下である。上記範囲とすれば、光記録媒体の繰り返し書き換え特性及び耐候性のバランスが良好となる。
上記拡散防止層7の組成の分析は、オージェ電子分光法(AES)、ラザーフォード・バック・スキャッタリング法(RBS)、誘導結合高周波プラズマ分光法(ICP)等を組み合わせて同定することができる。そして、上記組成分析により、拡散防止層7と記録層3との界面での窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)、及び拡散防止層7と保護層4との界面での窒素及び/又は酸素の含有量(原子%)を求めることができる。
拡散防止層7の膜厚は、通常2nm以上とする。この範囲とすれば、保護層に広く使用されているZnS−SiO2を用いた場合においても硫黄の拡散を抑制できるようになる。また過度に膜厚が薄いと均一な拡散防止層が得られない場合がある。一方、拡散防止層7の膜厚は、通常10nm以下、好ましくは7nm以下、より好ましくは4nm以下である。上記範囲とすれば、記録層と保護層との構成原子の拡散を防止できるようになるだけでなく、膜応力を小さく抑えて剥離を起こさない耐候性の良好な拡散防止層を確実に得ることができるようになる。
拡散防止層7は、非ガス元素単体又は、非ガス元素の複合からなるターゲットを用いた反応性スパッタリングにより作成できる。このとき真空チャンバー内に流すAr、N2及び/又はO2混合ガスのN2分圧またはO2分圧を成膜の最初と最後とで変化させればよいが、好ましいのは成膜の間、連続的に変化させることである。N2分圧及び/又はO2分圧を連続的に変化させれば、拡散防止層の組成(窒化量、酸化量)を膜厚方向に連続的に変化させることが可能となり好ましい。
拡散防止層7を成膜する際の条件としては、例えば、拡散防止層中のガス成分として窒素を用いる場合は、記録層と接する拡散防止層7の界面を成膜する際におけるN2/(Ar+N2)流量比は、通常0.4以下、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.2以下、最も好ましくは0.1以下である。一方、通常0.01以上とする。上記範囲とすれば、記録層と拡散防止層との界面における窒素の含有量(原子%)を所望の値にすることができる。
一方、保護層と接する拡散防止層7の界面を成膜する際におけるN2/(Ar+N2)流量比は、通常0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上とする。一方、通常0.8以下とする。上記範囲とすれば、保護層と拡散防止層との界面における窒素の含有量(原子%)を所望の値にすることができる。
このような拡散防止層の具体例としては、例えば、拡散防止層にGeCrNを用い、保護層との界面におけるN成分の割合を、記録層との界面におけるN成分の割合よりも多くすれば、保護層と記録層との間の構成元素拡散を有効に防止しつつ耐候性に優れる光記録媒体を得ることができるようになる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
本実施の形態の例として、図3(d)に示した構成の光記録媒体を製造した。
基板1には、厚さ1.1mm、直径120mmのディスク状ポリカーボネート樹脂を用いた。保護層4には、ZnS−SiO2からなる混合物を用いた。記録層3には、In−Ge−Sb−Teからなる合金を用いた。反射層5には、Ag−Cu−Auからなる合金を用いた。保護層代替の界面層8及び下地層12にはGeCrNを用い、さらに第1拡散防止層10、第2拡散防止層11には、GeCrN(N成分の濃度を変化させたもの)を用いた。
光透過層9については、粘度3000mPa・sの未硬化(未重合)のアクリル酸エステル系紫外線硬化剤を、保護層4の中央付近に2.5g滴下し、1500rpmで6秒間回転延伸した後に、紫外線を照射し硬化(重合)することで作成した。紫外線照射時には酸素による重合阻害作用を防止するため、窒素パージにより酸素濃度を5%以下として紫外線照射をおこなった。光透過層9の膜厚は、95〜105μmの範囲になるようにした。尚、膜厚の測定は、光透過層9の硬化後に機械的に光透過層を剥離しマイクロメーターを用いて測定した。
基板1と光透過層9以外の多層膜作成にはスパッタリング法を用いた。各層の成膜条件及び膜厚は、以下のとおりとした。
(A)下地層12
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.18Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.5
・膜厚 10nm
(B)金属反射層5
・スパッタリングターゲット Ag97Cu1Au2(原子%)
・スパッタ電力 DC1000W
・Arガス圧 0.12Pa
・膜厚 100nm
(C)保護層代替の界面層8
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.18Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.5
・膜厚 14nm
(D)記録層3
・スパッタリングターゲット In3Ge5Sb69Te23(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Arガス圧 0.15Pa
・膜厚 12nm
(E)第1拡散防止層10
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.18Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.1
・膜厚 2nm
(F)第2拡散防止層11
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.18Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.5
・膜厚 2nm
(G)保護層4
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO2)20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 42nm
上記構成の相変化型光記録媒体をディスク1として、さらにディスク1において第1拡散防止層10の成膜条件におけるN2/(Ar+N2)流量比を0.1から0.2、0.3、及び0.4と変えた他は同じ構成をもつディスク2〜ディスク4を作成した。
以上の媒体を評価した結果を、表−1に示す。特性評価は耐候性及び繰り返し記録特性について行った。耐候性の評価は、ディスク1〜4の各ディスクを5枚ずつ用意して、加速試験前後に、それぞれのディスクの0°、90°、180°、270°の半径方向の4方向を光学顕微鏡で観察することによって行った。加速試験は、80℃/85%の環境下に250時間保持する条件、110℃/90%の環境下に5時間保持する条件の2通りにて行った。そして、5枚のディスク全てにおいて50μm以上の剥離が観察されなかったものを◎、5枚のディスクのうち1又は2枚のディスクにおいて1方向のみに50μm以上の剥離が観察されたものを○、5枚のディスク全てにおいて1方向のみに50μm以上の剥離が観察されたものを△、5枚のディスク全ての4方向に50μm以上の剥離が発生したものを×と判断した。
繰り返し記録特性は、波長404nm、開口数NA=0.85からなるピックアップテスタを用いて、線速5.7m/sにて、RLL(1、7)信号方式により最短マーク長が0.173μmとなる場合について、3万回と5万回との繰り返し記録を行なった。3万回後と5万回後との繰り返し記録後の記録信号を、波形等化器にて波形等価を実施した後、さらに2値化した信号の立ち上がり及び立下りと、クロック信号の立ち上がりとのタイミング差のジッタをウィンドウ幅Tで割った値(ジッタ値)を評価した。そして、3万回及び5万回記録後のジッタ値が7%を超えないものを○、ジッタ記録後のジッタ値は7%を越えないが5万回記録後のジッタ値は7%を越えるものを△、3万回記録後のジッタ値が7%を超えたものを×と判断した。
ディスク1〜4すべてにおいて、3万回繰り返し記録後のジッタ値は7%以下と良好であり、さらに第1拡散防止層成膜時のAr/(Ar+N2)流量比の小さいディスク1及びディスク2にジッタ速試験による膜剥離が観察されず耐候性も良好であった。
[比較例1]
比較例として、図3(d)において、第1拡散防止層10及び第2拡散防止層11を、単一組成で1層からなる拡散防止層13(図2(b)参照)に置き換えた他は、実施例1と全く同じ構成の相変化型光ディスクを作成した。拡散防止層13の成膜条件及び膜厚は以下のとおりとした。
(H)拡散防止層13
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.18Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.1
・膜厚 4nm
上記構成の相変化型光記録媒体をディスク5として、さらにN2/(Ar+N2)流量比を0.1から0.2、0.3、0.4、及び0.5と変えた他は同じ構成をもつディスク6〜ディスク9を作成した。
上記ディスク5〜ディスク9に対して、実施例1と同様に耐候性及び繰り返し記録特性について評価を行った結果を、表−2に示す。
拡散防止層13を成膜する際に、N2/(Ar+N2)流量比の小さい媒体では、耐候性は良好であるが繰り返し記録特性が不十分であり、逆にN2/(Ar+N2)流量比の大きい媒体では、繰り返し記録特性は良好であるが耐候性が不十分となり、耐候性と繰り返し記録特性を両立するN2/(Ar+N2)流量比は存在しなかった。
実施例1及び比較例1から以下のことが推測される。
まず、耐候性を向上させるためには記録層に接するGeCrNはその成膜時のN2/(Ar+N2)流量比が小さい、すなわち窒化の程度が小さいことが要求される。ただし1層からなる拡散防止層GeCrNでは、耐候性を満足するような窒化の程度では、繰り返し記録特性を十分満足するような光記録媒体を得ることができない。これは、GeCrNからなる拡散防止層と記録層との間で構成元素の拡散が生じているのではなく、拡散防止層GeCrNと保護層ZnS−SiO2との間での構成元素の拡散が生じ、さらに拡散防止層中に拡散した保護層の構成元素が記録層にも拡散することが原因と考えられる。
一方、1層からなる拡散防止層GeCrNにおいて窒化の度合いが大きい場合には、繰り返し記録特性は良好となるが、耐候性を満足するような光記録媒体を得ることができない。これは、GeCrNからなる拡散防止層と保護層ZnS−SiO2との間での構成元素の拡散は抑制されているが、窒化が大きい分、記録層と拡散防止層とが剥がれやすくなっていることが原因と考えられる。
以上から、窒化の度合いと耐候性及び繰り返し記録特性とは相反する関係にあり、1層からなる拡散防止層を用いた光記録媒体では、両特性を満足する光記録媒体を得ることができない。
従って、拡散防止層GeCrNを2層化し、記録層と接する第1拡散防止層は窒化の程度を小さくして耐候性を向上させる一方で、保護層と接する第2拡散防止層は窒化の程度を大きくして第2拡散防止層と保護層の元素の拡散を抑制するという、本発明の有効性が明らかになった。
[実施例2]
次に、膜面入射型の光記録媒体における下地層の有無及び入射側の保護層の厚みの効果を明らかにするため以下のディスク10〜13を作成した。
ディスク10として図3(d)から下地層12を取り除いた構成の光記録媒体を作成した。基板1及び光透過層9については実施例1と全く同様である。保護層4、反射層5、保護層代替の界面層8、記録層3、第1拡散防止層10、第2拡散防止層11についても実施例1と同様の材料を用い、スパッタリング法により作成した。各層の成膜条件及び膜厚は以下のとおりである。
(B)金属反射層5
・スパッタリングターゲット Ag97Cu1Au2(原子%)
・スパッタ電力 DC1000W
・Arガス圧 0.15Pa
・膜厚 100nm
(C)保護層代替の界面層8
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.20Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.6
・膜厚 14nm
(D)記録層3
・スパッタリングターゲット In3Ge5Sb70Te22(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Arガス圧 0.18Pa
・膜厚 12nm
(E)第1拡散防止層10
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.20Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.1
・膜厚 2nm
(F)第2拡散防止層11
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.20Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.6
・膜厚 2nm
(G)保護層4
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO2)20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.28Pa
・膜厚 43nm
さらに上記構成の相変化型光記録媒体ディスク10において保護層4の厚みを129nmと変えた他は同じ構成をもつディスク11を作成した。これらの光記録媒体を波長404nmのレーザー光で記録再生をおこなう場合、保護層4に(ZnS)80(SiO2)20(mol%)を用いるとその屈折率nはn=2.3であるからλ/2n=88nmとなり、保護層4の膜厚をdとしたとき、ディスク10においてはd<λ/2nとなり、ディスク11においてはd≧λ/2nとなる。
またディスク11において下地層12としてGeCrNからなる層を加えたディスク12、又はTaからなる層を加えたディスク13を作成した。それぞれの下地層12の成膜条件は以下のとおりである。
(I)ディスク12における下地層12
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF500W
・Ar+N2ガス圧 0.20Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.5
・膜厚 10nm
(J)ディスク13における下地層12
・スパッタリングターゲット Ta(99.9原子%以上)
・スパッタ電力 RF500W
・Arガス圧 0.18Pa
・膜厚 10nm
以上のディスク10〜13の層構成を表−3に、ディスク10〜13を評価した結果を表−4に示す。特性評価は耐候性及び繰り返し記録特性について行った。耐候性の評価については、80℃/85%の環境下に100時間保持する加速試験を行い、エラーレートの測定を行った。エラーレートの測定は前記加速試験前に記録した信号の測定(アーカイバル)、及び前記加速試験後に記録した信号の測定(シェルフ)について行った。また110℃/90%の環境下に3時間保持する加速試験を行い、アーカイバルのエラーレート測定を行った。
繰り返し記録特性は実施例1及び比較例1と同じ記録条件において1万回、5万回及び10万回の繰り返し記録後の記録信号のジッタ値を測定した。
ディスク10〜13のすべてにおいて10万回繰り返し記録後のジッタ値は7%程度と良好であった。
耐候性については80℃/85%の加速試験におけるアーカイバルエラーレートについてはディスク10〜13のすべてにおいて1.0×10−5以下と良好であった。また、80℃/85%の加速試験におけるシェルフエラーレート及び110℃/90%の加速試験におけるアーカイバルエラーレートについてはディスク11〜13がディスク10に比較して良好であり、さらに、110℃/90%の加速試験におけるアーカイバルエラーレートについてディスク12及び13がディスク10及び11に比較して良好であった。特に、下地層があり保護層4の膜厚がλ/2nより大きいディスク12及び13ではすべての測定に対し良好であった。
これらのことから入射側の保護層4の膜厚を厚くすることで光記録媒体に侵入してくる水分を遮蔽できるようになり耐候性に有利になっていること、また下地層を設けることで基板1と反射層5での剥離を防止することで耐候性に有利になっていることが推測される。
[比較例2]
次に拡散防止層を記録層の入射側に設けた場合と、記録層の基板側に設けた場合の差異を明らかにするため図5のような光記録媒体を作成した。
図5に示す構成は、図2(a)に示された構成において記録層3の基板側に単層からなる拡散防止層13を設け、さらに下地層12と反射層界面層14を設けた構成である。反射層界面層14は保護層2と反射層5の間での構成元素の拡散防止を目的とする。基板1及び光透過層9については実施例1と全く同様である。保護層2、保護層4、記録層3、反射層5、下地層12についても実施例1と同様の材料を用い、スパッタリング法により作成した。各層の成膜条件及び膜厚は以下のとおりである。
(A)下地層12
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.18Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.5
・膜厚 10nm
(B)金属反射層5
・スパッタリングターゲット Ag97Cu1Au2(原子%)
・スパッタ電力 DC1000W
・Arガス圧 0.12Pa
・膜厚 100nm
(C)反射層界面層14
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.18Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.5
・膜厚 3nm
(D)保護層2
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO2)20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 5nm
(E)拡散防止層13
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+N2ガス圧 0.18Pa
・N2/(Ar+N2)流量比 0.1
・膜厚 4nm
(D)記録層3
・スパッタリングターゲット In3Ge5Sb69Te23(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Arガス圧 0.15Pa
・膜厚 12nm
(G)保護層4
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO2)20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 40nm
上記光記録媒体をディスク14として、さらにディスク14において拡散防止層13の成膜条件におけるN2/(Ar+N2)流量比を0.1から0.2、0.3、0.4及び0.5と変えた他は同じ構成をもつディスク15〜ディスク18を作成した。
上記ディスク14〜ディスク18に対して、実施例1及び比較例1と同様に耐候性及び繰り返し記録特性について評価をおこなった。但し、耐候性については、環境条件は80℃/85%のみとし、保持時間は300時間とした。評価結果を表−5に示す。
表−5に示すように、ディスク14〜ディスク18のすべてにおいて、耐候性は良好である一方、繰り返し記録特性は不十分であった。繰り返し記録特性においては5,000回の繰り返し記録で信号振幅が非常に小さくなり測定ができなくなった。
この比較例から以下のことが推測される。
まず、耐候性については、膜面入射型の光記録媒体において記録層に対して反入射側である基板側に拡散防止層を設ける場合、拡散防止層を成膜した後に記録層を成膜することとなる。このとき、記録層成膜前に真空排気工程が入るため、拡散防止層上の余剰なガス成分(例えば窒素や酸素)が排気され、拡散防止層と記録層との界面に残留ガスがなくなり良好な耐候性を示すようになる。
また、繰り返し記録特性については、膜面入射型の光記録媒体において記録層に対して反入射側である基板側にのみ拡散防止層を設けても繰り返し記録特性は向上しない。これは記録層の基板側に位置する保護層は、反射層に近いため、反射層の放熱効果により温度上昇が顕著でないのに対して、記録層の入射側に位置する保護層では放熱が不十分なため温度上昇が顕著なものとなり、記録層と入射側保護層との間での構成原子の相互拡散が繰り返し記録時の特性悪化の主因となるからである。
したがって、拡散防止層を多層化、あるいは連続的ガス元素含有量を連続的に変化させて、記録層界面と保護層界面でガス元素含有量を変化させるという手法は膜面入射型の光記録媒体の入射側に採用してはじめてその効果が発揮されるといえる。