JP4063598B2 - 相変化型情報記録媒体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、書換え可能なDVR等の相変化型記録層を有する高密度記録用の光記録媒体(相変化型記録媒体)に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にコンパクトディスク(CD)やDVDは、凹ピットの底部および鏡面部からの反射光の干渉により生じる反射率変化を利用して2値信号の記録およびトラッキング信号を検出することにより行なわれている。近年、CDと再生互換性(互換性)のある媒体として、相変化型の書換え可能なコンパクトディスク(CD−RW:CD−Rewritable)が広く使用されつつあるほか、DVDについても相変化型の書換え可能なDVDが各種提案されている。また、DVDの容量が4.7GBであるのに対して、記録再生波長を390nm〜420nmと短波長化し、開口数NA(Numerical Aperture)を上げて20GB以上の容量とするシステムDVRが提案されている{例えば、ISOMTechnical Digest,'00(2000),210}。
【0003】
これら相変化型の書換え可能なCD、DVDおよびDVRは、非晶質と結晶状態の屈折率差によって生じる反射率差および位相差変化を利用して記録情報信号の検出を行なう。通常の相変化媒体は、基板上に下部保護層、相変化型記録層、上部保護層、反射層を設けた構造を有し、これら構成層の多重干渉を利用して反射率差および位相差を制御し、CDやDVDとの互換性を持たせることができる。CD−RWにおいては、反射率を15〜25%程度に落とした範囲内ではCDと記録信号および溝信号の互換性が確保でき、反射率の低いことをカバーする増幅系を付加したCDドライブでは再生が可能である。なお、相変化型記録媒体は消去と再記録過程を1つの集束光ビームの強度変調のみによって行なうことができるため、CD−RWや書換え可能DVD等の相変化型記録媒体において、記録とは記録と消去を同時に行なうオーバーライト(O/W)記録を含む。
【0004】
相変化を利用した情報の記録には、結晶、非晶質またはそれらの混合状態を用いることができ、複数の結晶相を用いることもできるが現在実用化されている書換可え可能相変化型記録媒体は、未記録・消去状態を結晶状態とし、非晶質のマークを形成して記録するのが一般的である。
【0005】
相変化型記録層の材料としてはいずれもカルコゲン元素、すなわちS、Se、Teを含むカルコゲナイド系合金を用いることが多い。例えば、GeTe−Sb2Te3疑似二元合金を主成分とするGeSbTe系、InTe−SbTe疑似二元合金を主成分とするInSbTe系、Sb0.7Te0.3共晶合金を主成分とするAgInSbTe系、GeSbTe系などである。このうち、GeTe−SbTe疑似二元合金に過剰のSbを添加した系、特にGeSbTe、もしくはGeSbTeなどの金属間化合物近傍組成が主に実用化されている。これら組成は、金属間化合物特有の相分離を伴わない結晶化を特徴とし、結晶成長速度が速いために初期化が容易で、消去時の再結晶化速度が速い。このため、従来から実用的なオーバーライト(O/W)特性を示す記録層としては、疑似二元合金系や金属間化合物近傍組成が注目されていた{文献Jpn.J.Appl.Phys.,vol.69(1991),p2849、あるいは、SPIE,vol.2514(1995),pp294−301等}。
【0006】
また、従来からGeSbTe三元組成、もしくはこの三元組成を母体として添加元素を含有する記録層組成に関して報告がなされている(特開昭61−258787号公報、特開昭62−53886号公報、特開昭62−152786号公報、特開平1−63195号公報、特開平1−211249号公報、特開平1−277338号公報等)。しかしながら、このような組成の材料を書換え可能なDVRなどの高密度記録用の光記録媒体へ適用するにはまだ開発が始まったばかりであり、解決しなければならない問題が多々ある。
【0007】
また、特開2001−297482号公報には、初期設定段階またはブレンディング段階を経ることなく使用されうる相変化型の再書き込み可能な光学式記録素子として記録層が2つのサブ層からなるものが記載されているが、この刊行物に具体的に記載されているものは実質的にSbからなるサブ層とTeInからなるサブ層の組み合わせのみであり、しかも実施例(例1)によればSbターゲットとTeIn0.37ターゲットを用いて記録ディスクを作製したところ、反射率は約7%と低く、16時間の室温保持で10.5%まで増加したと記載(段落[0035]〜[0036])されており、実用的には不充分な反射率である。さらに、この公報には、本発明における第3保護層と緩衝層を設けることは記載されていない。
【0008】
特に、青色レーザーなど短波長の光学系の場合にはビーム出力が低く、そのため記録層にノイズが出やすいという欠点があり、オーバーライト(O/W)特性を満足することが難しく、高速高密度記録化における課題となっている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述の如き実情に鑑みてなされたもので、その目的は青色レーザーなど短波長の低出力光に対しても、ジッタなどのノイズが発生せず、O/W特性が優れ、アーカイバル特性も良好な高密度で記録可能な相変化型記録媒体を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
すなわち、上記課題は本発明の(1)「基板上に少なくとも第1の記録構成層と樹脂中間層と第2の記録構成層とが順次設けられ、該第1の記録構成層は基板側から順に反射放熱層、第1保護層、第1記録層、第2保護層から構成され、該第2の記録構成層は樹脂中間層側から順に緩衝層、第3保護層としてITO、AgまたはAg合金層、第4保護層、第2記録層、第5保護層から構成された相変化型記録媒体であって、前記第1記録層と第2記録層が少なくともSbTeを含有し、前記緩衝層が隣接する前記第3保護層に対してオーバーライトによるITOの酸素欠乏を補う酸化物で構成されていることを特徴とする相変化型記録媒体」、(2)「前記緩衝層の形成成分がInであることを特徴とする前記第(1)項に記載の相変化型記録媒体」、(3)「前記緩衝層の形成成分がAlとSiOとの混合系組成であることを特徴とする前記第(1)項に記載の相変化型記録媒体」、(4)「前記緩衝層の形成成分がMgOとSiOとの混合系組成であることを特徴とする前記第(1)項に記載の相変化型記録媒体」、(5)「前記緩衝層の形成成分がInとZnOとの混合系組成であることを特徴とする前記第(1)項に記載の相変化型記録媒体」、(6)「前記緩衝層の形成成分がInとVとの混合系組成であることを特徴とする前記第(1)項に記載の相変化型記録媒体」、(7)「前記緩衝層の形成成分がInとZnOとSnOとの混合系組成であることを特徴とする前記第(1)項に記載の相変化型記録媒体」によって解決される。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る相変化型記録媒体は、基板上に少なくとも第1の記録構成層と樹脂中間層と第2の記録構成層とを設けた層構成からなり、該第1の記録構成層は基板側から順に反射放熱層、第1保護層、第1記録層、第2保護層から構成され、該第2の記録構成層は樹脂中間層側から順に緩衝層、第3保護層としてITO、AgまたはAg合金層、第4保護層、第2記録層、第5保護層から構成されており、前記第1記録層と第2記録層が少なくともSbTeを含有し、前記緩衝層が隣接する前記第3保護層に対してオーバーライトによるITOの酸素欠乏を補う酸化物で構成されていることにより、第3保護層のITOの酸素を補うことで放熱性を保ち、ジッタなどのノイズが発生せず、O/W特性、アーカイバル特性、高密度記録性能を向上させたものである。
【0012】
すなわち、前記第(1)項の記録媒体は、光照射による結晶とアモルファスの相転移現象を利用した相変化型記録媒体であって、前記構成層が順次構成される。例えば、案内用の溝を形成した基板上にAg合金からなる反射放熱層を設け、第1保護層と第2保護層とを、例えばZnSとSiOの混合系組成とし、SbTeを主たる構成元素として含有する第1記録層を積層構成した、いわゆる反射放熱層から第2保護層までを第1記録層に記録するための第1の記録構成層として備えている。そして、第2保護層の上にUV樹脂等の透明樹脂にて溝を形成した中間層を介して、さらに酸化物の緩衝層を設け、この第3保護層と緩衝層の光の透過率が80%以上で、緩衝層と隣接して第3の保護層であるITO膜、さらにAgあるいはAg合金層を設け、第4保護層と第5保護層を、例えばZnSとSiOの混合系組成とし、SbTeを主たる構成元素として含有する第2記録層を積層構成した、いわゆる第3保護層から第5保護層までを第2記録層に記録するための第2の記録構成層として備えた構成となっている。
【0013】
上記のように記録層は2層構成され、各記録層がSbTeを少なくとも含むことにより、小さいマークを形成しやすくして高密度記録への対応を図り、2つの記録層の中間に第3の保護層であるITO膜とAgあるいはAg合金層を厚さ20nm以下にて形成することにより放熱性を良くし、酸化物である緩衝層を第3保護層のITOに隣接して、O/WでITO膜の酸素欠乏を緩衝層で補い、前記緩衝層が隣接する前記第3保護層に対してオーバーライトによるITOの酸素欠乏を補う酸化物で構成されていること、すなわち、記録波長405nm付近で光の透過率、熱伝導率が高いAgあるいはAg合金を用い、ITO膜の放熱性を保つことによって放熱性をO/Wで保ち、O/W特性を良くし、かつ高密度での記録を可能とするものである。
【0014】
また、本発明の相変化型記録媒体における緩衝層の形成成分をIn{前記第(2)項}、あるいはAlとSiOとの混合系組成{前記第(3)項}、あるいはMgOとSiOとの混合系組成{前記第(4)項}、あるいはInとZnOとの混合系組成{前記第(5)項}、あるいはInとVとの混合系組成{前記第(6)項}、あるいはInとZnOとSnOとの混合系組成{前記第(7)項}とすることにより、O/W時の第3保護層の酸素欠乏に対応して酸素を供給できるようにし、これによってO/W特性が改善され高密度記録が実現されるとともにアーカイバル特性の向上が達成される。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の相変化型記録媒体の一例を示す層構成断面図を模式的に描いたものであり、基板(1)/反射放熱層(2)/第1保護層(3)/第1記録層(4)/第2保護層(5)/樹脂中間層(6)/緩衝層(14)/第3保護層(7)/AgまたはAg合金層(8)/第4保護層(9)/第2記録層(10)/第5保護層(11)/接着層(12)/カバー基板(13)の構成を有している。図1のような各層の順序は、透明カバー基板(13)を介して記録再生用の集束光ビーム,例えばレーザ光を各記録層に照射する場合に適している。
【0016】
本発明の相変化型記録媒体における基板(1)の材料としては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどの透明樹脂、あるいは透明ガラスを用いることができる。なかでも、ポリカーボネート樹脂はCDにおいて最も広く用いられているなど実績もあり、また安価でもあるため最も好ましい材料である。基板(1)には通常、記録再生光を案内するピッチ0.8μm以下の溝を設けるが、この溝は必ずしも幾何学的に矩形あるいは台形状の溝である必要はなく、例えばイオン注入などによって、屈折率の異なる導波路のようなものを形成して光学的に溝が形成されていてもよい。
【0017】
次に、本発明の相変化型記録媒体における第1記録層(4)および第2記録層(10)の材質は、SbおよびTeを主たる構成元素として含有する合金を主成分とする薄膜からなるものであり、このような合金としては、例えばGe、Sb、Teを構成元素とするものがある。このような構成元素からなる上記各記録層には必要に応じて他の元素を、合計10原子%程度まで添加してもよい。また、各記録層にさらにO、NあるいはSから選ばれる少なくとも一つの元素を0.1原子%以上、5原子%以下添加することにより、記録層の光学定数を微調整することができる。しかし、5原子%を越えて添加することは結晶化速度を低下させ、消去性能を悪化させるので好ましくない。
【0018】
また、オーバーライト(O/W)時の結晶化速度を低下させずに経時安定性を増すため、V、Nb、Ta、Cr、Co、PtあるいはZrから選ばれる少なくとも一種を8原子%以下添加するのが好ましく、より好ましくは0.1原子%以上、5原子%以下である。SbTeに対する、上記添加元素とGeの合計添加量は15原子%以下であることが望ましい。15原子%より過剰に含まれるとSb以外の相分離を誘起してしまう。特に、Ge含有量が3原子%以上、5原子%以下の場合には添加効果が大きい。
【0019】
経時安定性の向上と屈折率の微調整のために、Si、SnあるいはPbの少なくとも一種を5原子%以下添加するのが好ましい。これら添加元素とGeの合計の添加量は15原子%以下が好ましい。なお、Si、SnあるいはPbの各元素は、Geと同じく4配位ネットワークを持った元素である。
【0020】
また、Al、Ga、Inを8原子%以下添加することにより、結晶化温度を上昇させると同時にジッタを低減させたり、記録感度を改善する効果もあるが、偏析も生じやすいため、6原子%以下とするのが好ましい。Al、Ga、Inの各添加量は、Geと合わせた合計添加量として15原子%以下、好ましくは13%以下とすることが望ましい。Agを8原子%以下の量で添加することは、記録感度を改善する上で効果があり、特にGe原子量が5原子%を越える場合に用いれば効果が顕著である。しかし、Agの添加量が8原子%を越えるとジッタを増加させたり、非晶質マークの安定性を損ねるので好ましくない。また、Geと合わせた合計添加量が15原子%を越えると偏析を生じやすいので好ましくない。Agの含有量として最も好ましいのは5原子%以下である。
【0021】
本発明の相変化型記録媒体の第1記録層(4)および第2記録層(10)は、相変化型の記録層であり、その厚さは一般的に5nm〜100nmの範囲が好ましい。第1記録層(4)および第2記録層(10)の厚みが5nmより薄いと充分なコントラストが得られ難く、また結晶化速度が遅くなる傾向があり、短時間での消去が困難となりやすい。一方、100nmを越すとやはり光学的なコントラストが得にくくなり、またクラックが生じやすくなる。コントラストとしては、DVDなど再生専用ディスクと互換性が取れる必要がある。
【0022】
また、最短マーク長が0.5μm以下となるような高密度記録では、上記記録層は5nm以上、25nm以下が好ましい。5nm未満では反射率が低くなり過ぎ、また膜成長初期の不均一な組成、疎な膜の影響が現れやすいので好ましくない。一方、25nmより厚いと熱容量が大きくなり記録感度が悪くなる他、結晶成長が3次元的になるため、非晶質マークのエッジが乱れジッタが高くなる傾向にある。さらに、第1記録層(4)および第2記録層(10)の相変化による体積変化が顕著になり、繰返しオーバーライト(O/W)耐久性が悪くなるので好ましくない。マーク端のジッタおよび繰返しオーバーライト(O/W)耐久性の観点からは20nm以下とすることがより望ましい。
【0023】
各第1記録層(4)および第2記録層(10)の密度はバルク密度の80%以上、より好ましくは90%以上であることが望ましい。
第1記録層(4)および第2記録層(10)の密度は、スパッタ成膜法においては、成膜時のスパッタガス(Ar等の希ガス)の圧力を低くする、あるいはターゲット正面に近接して基板を配置するなどして記録層に照射される高エネルギーAr量を多くすることが必要である。高エネルギーArは、スパッタのためにターゲットに照射されるArイオンが、一部跳ね返されて基板側に到達するもの、あるいはプラズマ中のArイオンが基板全面のシース電圧で加速されて基板に達するものかのいずれかである。このような高エネルギーの希ガスの照射効果を「atomic peening効果」という。一般的に使用されるArガスでのスパッタでは、atomic peening効果によってArがスパッタ膜に混入される。この混入された膜中のAr量により、atomic peening効果を見積もることができる。すなわち、Ar量が少なければ高エネルギーAr照射効果が少ないことを意味し、密度の疎な膜が形成されやすい。一方、Ar量が多ければ高エネルギーArの照射が激しく、密度は高くなるものの膜中に取り込まれたArが繰返しオーバーライト(O/W)時にvoidとなって析出し、繰返しの耐久性を劣化させる。記録層膜中の適当なAr量は、0.1原子%以上、1.5原子%以下である。さらに、直流スパッタリングよりも高周波スパッタリングを用いた方が、膜中Ar量を少なくして高密度膜が得られるので好ましい。
【0024】
また、本発明の相変化型記録媒体の第1記録層(4)および第2記録層(10)は、成膜後の状態は通常、非晶質である。したがって、成膜後に各記録層全面を結晶化して初期化された状態(未記録状態)とする必要がある。初期化方法としては、固相でのアニールによる初期化も可能であるが、一旦記録層を溶融させ再凝固時に徐冷して結晶化させる、いわゆる溶融再結晶化による初期化が望ましい。上記各記録層は成膜直後には結晶成長の核がほとんどなく、固相での結晶化は困難であるが、溶融再結晶化によれば少数の結晶核が形成されて後、溶融して結晶成長が主体となって高速で再結晶化が進む。
第1記録層(4)および第2記録層(10)における溶融再結晶化による結晶と固相でのアニールによる結晶とは反射率が異なるため、混在するとノイズの原因となる。そして、実際のオーバーライト(O/W)記録の際には、消去部は溶融再結晶化による結晶となるため、初期化も溶融再結晶化により行なうのが好ましい。
【0025】
溶融再結晶化による初期化の際、記録層を溶融するのは局所的かつ1ミリ秒程度以下の短時間で行なうのがよい。この理由は、溶融領域が広かったり、溶融時間あるいは冷却時間が長過ぎると熱によって各層が破壊されたり、プラスチック基板表面が変形したりするためである。初期化に適した熱履歴を与えるには、波長600〜1000nm程度の高出力半導体レーザー光を長軸100〜300μm、短軸1〜3μmに集束して照射し、短軸方向を走査軸として1〜10m/sの線速度で走査することが望ましい。同じ集束光でも円形に近いと溶融領域が広すぎ、再非晶質化が起きやすく、また多層構成や基板へのダメージが大きく好ましくない。
【0026】
初期化が溶融再結晶化によって行なわれたことは以下のようにして確認できる。すなわち、該初期化後の媒体に直径約1.5μmより小さいスポット径に集束された記録層を溶融するにたる記録パワーPwの記録光を、直流的に一定線速度で照射する。案内溝がある場合は、その溝もしくは溝間からなるトラックにトラッキングサーボおよびフォーカスサーボをかけた状態で行なう。
その後、同じトラック上に消去パワーPe(≦Pw)の消去光を直流的に照射して得られる消去状態の反射率が全く未記録の初期状態の反射率とほとんど同じであれば、該初期化状態は溶融再結晶状態と確認できる。なぜなら、記録光照射により記録層は一旦溶融されており、それを消去光照射で完全に再結晶化した状態は、記録光による溶融と消去光による再結晶化の過程を経ており、溶融再結晶化された状態にあるからである。なお、初期化状態の反射率Riniと溶融再結晶化状態の反射率Rcryがほぼ同じであるとは、(Rini−Rcry)/{(Rini+Rcry)/2}で定義される両者の反射率差が20%以下であることを云う。通常、アニール等の固相結晶化だけでは,その反射率差は20%より大きい。
【0027】
このような本発明の第1記録層(4)および第2記録層(10)は、それぞれ図1に示すように、第1記録層(4)は、第1保護層(3)と第2保護層(5)との間に、また第2記録層(10)は、第4保護層(9)と第5保護層(11)との間に挟み込まれた構成となって、基板(1)表面(溝形成面)上に設けられている。
【0028】
本発明の第1保護層(3)、第2保護層(5)、第4保護層(9)、第5保護層(11)の各保護層について以下に説明する。
第1の記録構成層(100)の第1保護層(3)は第1記録層(4)と反射放熱層(2)の相互拡散を防止し、第1記録層(4)の変形を抑制しつつ、反射放熱層(2)へ効率的に熱を逃がすという機能を併せ持つ。また、第2保護層(5)は、主として記録時の高温による樹脂中間層(6)の表面の変形を防止するのに有効である。第2の記録構成層(200)の第4保護層(9)は、第2記録層(10)とAgまたはAg合金層(8)と第3保護層(7)および緩衝層(14)に熱を逃がす機能と、第2記録層(10)とAgまたはAg合金層(8)の相互拡散を防止する機能を併せ持つ。また、第5保護層(11)は、反射率の調整と記録時の高温による接着層(12)とカバー基板(13)の変形を防止するのに有効である。
【0029】
第1保護層(3)、第2保護層(5)、第4保護層(9)、第5保護層(11)の材料としては、屈折率、熱伝導率、化学的安定性、機械的強度あるいは密着性等に留意して決定される。上記各保護層を形成する材料としては熱伝導特性が低い方が望ましいが、その目安は1×10−3pJ/(μm・K・nsec)である。なお、このような低熱伝導率材料の薄膜状態の熱伝導率を直接測定するのは困難であり、直接測定に代わるものとして熱シミュレーションと実際の記録感度の測定結果から目安を得ることができる。
【0030】
好ましい結果をもたらす低熱伝導率の上記各保護層用材料としては、ZnS、ZnO、TaSまたは希土類硫化物のうちの少なくとも一種を50mol%以上、90mol%以下含み、透明性が高く、かつ融点または分解点が1000℃以上の耐熱性化合物とを含む複合誘電体が望ましい。より具体的にはLa、Ce、Nd、Y等の希土類の硫化物を60mol%以上、90mol%以下含む複合誘電体が望ましい。あるいは、ZnS、ZnOもしくは希土類硫化物の組成の範囲を70〜90mol%とすることが望ましい。
これらと混合されるべき、融点または分解点が1000℃以上の耐熱化合物材料としては、Mg、Ca、Sr、Y、La、Ce、Ho、Er、Yb、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Al、Si、Ge、Pb等の酸化物、窒化物、炭化物やCa、Mg、Li等のフッ化物を用いることができる。
なお、上記酸化物、硫化物、窒化物、炭化物、フッ化物は必ずしも化学量論的組成をとる必要はなく、屈折率等の制御のために組成を制御したり、混合して用いることも有効である。
【0031】
本発明の第1保護層(3)、第2保護層(5)、第4保護層(9)、第5保護層(11)の各保護層としては、上記留意点および本発明の第1記録層(4)および第2記録層(10)を構成する材料との整合性を考慮すると、ZnSとSiOとの混合系組成が最も好ましい。
本発明においては,上記のように各保護層ともZnSとSiOとを混合したものとしているが、このように同じ材料にすると製造上のコスト低減の面からも有利である。
【0032】
前記各保護層の機能等について、さらに詳述する。
本発明の層構成は、急冷構造と呼ばれる層構成の一種に属する。急冷構造は、放熱を促進して記録層再凝固時の冷却速度を高める層構成を採用することで、非晶質マーク形成の際における再結晶化の問題を回避しつつ、高速結晶化による高消去比を実現する。
【0033】
本発明の第1保護層(3)および第4保護層(9)の膜厚は、繰り返しオーバーライト(O/W)における耐久性に大きく影響し、特にジッタの悪化を抑制する上でも重要である。膜厚は一般的に5nm以上、30nm以下である。5nm未満では、上記保護層部での熱伝導の遅延効果が不充分で記録感度低下が著しくなり好ましくない。膜厚が30nmより厚いとマーク幅方向の温度分布の充分な平坦化効果が得られないほか、記録時にそれぞれ第2保護層(5)および第5保護層(11)の各記録側と放熱層側とで温度差が大きくなり、保護層の両側における熱膨張差から保護層自体が非対称に変形しやすくなる。この繰り返しは、保護層内部に微視的塑性変形を蓄積させ、ノイズの増加を招くので好ましくない。
第1保護層(3)および第4保護層(9)の詳細な厚さは、記録レーザー光の波長が600〜700nmでは15〜25nmが好ましく、波長が350〜600nmでは5〜20nmが好ましく、より好ましくは5〜15nmである。
【0034】
また、第2の保護層(5)および第5の保護層(11)の膜厚は、5nm以上30nm以下とする必要がある。5nmより薄いと、記録層溶融時の変形等によって破壊されやすく、また放熱効果が大きすぎて記録に要するパワーが不必要に大きくなってしまう。
【0035】
上記のような相変化型記録層材料を用いると、最短マーク長0.3μm以下の高密度記録において低ジッタを実現できるが、本発明者らの検討によれば高密度記録を実現するために短波長のレーザーダイオード(例えば,波長410nm以下)を用いる場合には、上記急冷構造の層構成についても一層の留意が必要になる。特に、波長が500nm以下、開口数NAが0.55以上の小さな集束光ビームを用いた1ビームオーバーライト特性の検討において、マーク幅方向の温度分布を平坦化することが高消去比および消去パワーマージンを広く取るために重要であることが判った。上記傾向は、波長390〜420nm、NA=0.85前後の光学系を用いた、DVR対応の光学系においても同様である。
【0036】
本発明者らは前記要求に適合するように2層記録構造の相変化型記録媒体の適切な層構成を検討し、光透過性があるとともに放熱性もあり、かつO/Wによる熱変形に耐えられるように第3保護層(7)と緩衝層(14)を構成し、記録再生特性、特にO/W特性を良好にする設計を行なった。
【0037】
前記のような光学系を用いた高密度マーク長変調記録においては、特に熱伝導特性の低いものが第2保護層(5)として用いられ、好ましくはその膜厚を7nm以上、25nm以下とすることが重要である。このため、第2保護層(5)上に設けられる第3保護層(7)は、高熱伝導率であることが必要となり、この構成によって高速記録時に熱が急激に逃げず、かつ熱傾斜ができていることから高速記録が可能となる。第3保護層(7)は、熱を逃がすとともに樹脂中間層(6)の表面の変形を防止する機能を有するものである。第3保護層(7)はITOであり酸化物の酸素がO/Wをすることによって酸素が欠乏する、酸素が偏析される現象が起き、放熱性を保てないので酸化物である緩衝層を設けて酸素を供給することでO/W1000回程度なら問題なく放熱性を保て、O/W特性が良好となる。
【0038】
上記において、熱伝導性のみを考えた場合には、第1保護層(3)あるいは第4保護層(9)の熱伝導係数を高くしても放熱効果は促進されるが、あまり放熱が促進されると記録に要する照射パワーが高くなり、記録感度が著しく低下してしまうという問題が生ずるため、低熱伝導率である必要がある。
低熱伝導率の薄膜保護層を用いることにより、記録パワー照射開始時点の数nsec〜数10nsecにおいて記録層から放熱層への熱伝導に時間的な遅延を与え、その後に放熱層への放熱を促進することができるため、保護層の熱伝導特性により必要以上に記録感度を低下させることがない。このような理由から、従来知られているSiO、Ta、Al、AlNあるいはSiN等を主成分とする保護層材料は、それ自身の熱伝導率が高すぎるために単体で使用することは好ましくない。
【0039】
本発明においては、第3保護層(7)としてITOからなる保護層を形成し、後述のように、さらに放熱効果を向上させるために該保護層と隣接してAgまたはAg合金層(20nm以下)を形成することと、隣接する前記第3保護層に対してオーバーライトによるITOの酸素欠乏を補う酸化物で構成されている緩衝層を設けて、第2記録層(10)のO/W特性を良くした。この場合、第3保護層(7)と緩衝層の光透過率が80%以上であると、第1の記録構成層(100)の透過率が50%であるとしても、第2の記録構成層(200)からの反射率として、基板の反射率以上に値がとれるので第1記録層(4)および第2記録層(10)のいずれの記録層とも記録再生が可能である。
【0040】
一例として緩衝層(14)厚さ10nm、ITOからなる第3保護層(7){InOとSnOの混合系組成(ITO)}と厚さ10nmのAg層を設けた、本発明の構成からなる相変化型記録媒体の第2記録層(10)のO/W特性を図1に示した。
緩衝層が酸化物で第2記録層(10)の良好なO/W特性を示している。このことから、隣接する前記第3保護層に対してオーバーライトによるITOの酸素欠乏を補う酸化物で構成されている緩衝層があるために第3保護層(7)の放熱性がO/Wしても保たれていることが判る。
【0041】
第3保護層(7)としてInを用いて、上記特性を少なくとも満足する条件で保護層を形成すると、Inは熱伝導率が高いので、第2記録層(10)で記録される際に発生する熱がAgおよびAg合金層を経由して、第3保護層(7)で放熱される。これによって、急激な冷却が必要とされる相変化材料SbTeを主成分とする記録層は最適な急冷状態となり、小さなアモルファスマークが形成可能となる。
【0042】
また、第3の保護層(7)としてInOとSnOとの混合系(ITO)組成を用いて保護層を形成すると、保存性(アーカイバル特性)が良好となる。特に、樹脂中間層の材料中に塩素等が微量でもあるとAgまたはAg合金層だけでなく記録層まで侵食されてしまうので、保存性の良好な材料選定が必要となる。本発明ではアーカイバル保存性に注目して第3保護層(7)の選定を行なった結果、上記材料が良好な特性を示した。
【0043】
また、緩衝層(14)としてIn単体あるいはAlとSiOとの混合系組成、MgOとSiOとの混合系組成、InとZnOとの混合系組成、InとVとの混合系(ITO)組成あるいはInとZnOとSnOとの混合系組成を用いて緩衝層を形成すると、第3保護層でO/Wにより酸素が偏析され、実質酸素量が不足が起きたのを補うことでO/W特性もよくなり、かつITOが直接樹脂中間層に接していると、樹脂中間層の材料中に塩素等が微量でもあるとAgまたはAg合金層だけでなく記録層まで侵食されてしまうので、保存性の良好な材料選定が必要となり、本発明の緩衝層はO/W特性のみならず、保存特性をも向上させるものである。本発明ではアーカイバル保存性に注目して緩衝層(14)の選定を行なった結果、上記材料が良好な特性を示した。
【0044】
しかし、第2の記録構成層(200)の放熱性としては、前述のように第3保護層(7)の放熱性だけでは不充分でAgおよびAg合金層(8)が熱の放熱性を改善して、特にSbTeをべースにした記録層では熱の最初の急冷性がアモルファスマークを形成するので、AgおよびAg合金層(8)と第3保護層(7)と緩衝層を組み合わせた構成とすることにより、高密度とO/W特性と保存性が改善される。
以下に、放熱機能を担う反射放熱層(2)とAgまたはAg合金層(8)についてそれぞれ説明する。
【0045】
反射放熱層(2)はとりわけ高熱伝導率の材料とすることにより、消去比および消去パワーマージンを改善できる。検討の結果、広い消去パワー範囲において本発明の記録層が持つ良好な消去特性を発揮させるには、単に膜厚方向の温度分布や時間変化のみならず膜面方向(記録ビーム走査方向に対して垂直方向)の温度分布をできるだけ平坦化できるような層構成を用いるのが好ましい。本発明においては、非常に高熱伝導率で300nm以下の薄い反射放熱層(2)を用いて、横方向の放熱効果を促進するのが特徴である。
一般には薄膜の熱伝導率はバルク状態の熱伝導率と大きく異なり、小さくなっているのが普通である。特に、40nm未満の薄膜では成長初期の島状構造の影響で熱伝導率が1桁以上小さくなる場合があり好ましくない。さらに、成膜条件によって結晶性や不純物量が異なり、これによって同じ組成でも熱伝導率が異なる要因になる。
【0046】
第1の記録構成層(100)の反射放熱層(2)における放熱は、反射放熱層(2)の厚みを厚くしても達成できるが、反射放熱層(2)の厚みが300nmを越えると第1記録層(4)膜面方向よりも膜厚方向の熱伝導が顕著になり、膜面方向の温度分布改善効果が得られない。また、反射放熱層(2)自体の熱容量が大きくなり、反射放熱層(2)ばかりでなく、ひいては第1記録層(4)の冷却に時間がかかるようになって非晶質マークの形成が阻害される。最も好ましいのは、高熱伝導率の反射放熱層(2)を薄く設けて横方向への放熱を選択的に促進することである。従来用いられていた急冷構造は、膜厚方向の1次元的な熱の逃げにのみ注目し、第1記録層(4)から反射放熱層(2)に早く熱を逃がすことのみを意図しており、この平面方向の温度分布の平坦化に充分な留意が払われていなかった。
【0047】
本発明に適した反射放熱層(2)の材料としてはAgまたはAg合金、Cu合金、Al合金等が挙げられる。
Ag合金としては、後述のAgまたはAg合金層(8)に用いられると同様のAg合金が挙げられる。Ag合金を反射放熱層(2)として用いる場合、好ましい膜厚は30nm以上、200nm以下である。30nm未満では純Agでも放熱効果は不充分である。200nmを越えると熱が水平方向より垂直方向に逃げて水平方向の熱分布改善に寄与しないし、不必要な厚膜は生産性を低下させる。また、膜表面の微視的な平坦性も悪くなる。
【0048】
Cu合金としては、例えばCuを0.3重量%以上、5.0重量%以下含有するAl−Cu系合金がある。特に、ZnSとSiOとの混合系組成とTaとを組み合わせた2層構成保護層とする場合には、Cuを0.5重量%以上、4.0重量%以下含有するAl−Cu系合金が耐食性、密着性、高熱伝導率の全てをバランス良く満足する反射放熱層として望ましい。また、Siを0.3重量%以上、0.8重量%以下、Mgを0.3重量%以上、1.2重量%以下含有するAl−Mg−Si系合金も有効である。
【0049】
Al合金としては、例えばAlにTa、Ti、Co、Cr、Si、Sc、Hf、Pd、Pt、Mg、Zr、MoあるいはMnを0.2原子%以上、2原子%以下含む合金などがあり、これらは添加元素濃度に比例して体積抵抗率が増加し、また耐ヒロック性が改善され、耐久性、体積抵抗率、成膜速度等考慮して用いることができる。Al合金に関しては、添加不純物量0.2原子%未満では成膜条件にもよるが、耐ヒロック性は不充分であることが多い。また、2原子%より多いと上記の低抵抗率が得られにくい。経時安定性をより重視する場合には添加成分としてはTaが好ましい。
【0050】
上記Al合金を反射放熱層(2)として用いる場合、好ましい膜厚は150nm以上、300nm以下である。150nm未満では純Alでも放熱効果は不充分である。前記のように300nmを越えると熱が水平方向より垂直方向に逃げて水平方向の熱分布改善に寄与しないし、反射放熱層そのものの熱容量が大きく、そのため記録層の冷却速度が遅くなってしまう。また、膜表面の微視的な平坦性も悪くなる。
【0051】
次にAgまたはAg合金層(8)について説明する。
本発明の第2記録層(10)はTm近傍での再凝固時の結晶成長が再結晶化の律速になっている。Tm近傍での冷却速度を極限まで大きくして非晶質マークおよびそのエッジの形成を確実かつ明確なものとするには、超急冷構造が有効であり、かつ膜面方向の温度分布の平坦化で、もともとTm近傍で高速消去可能であったものがより高消去パワーまで確実に再結晶化による消去を確保できる。このため、いわゆる「第3保護層(7)での熱伝導遅延効果を考慮した超急冷構造」を本発明に係る第2の記録構成層(200)に適用すると、従来のGeTe−SbTe記録層に比べて一層効果がある。
【0052】
このような超急冷のための放熱構成層としてAgまたはAg合金層(8)が用いられる。AgまたはAg合金層(8)の形成する場合については製膜時のデポレート反射放熱層(2)よりも遅くして膜厚不均一性をなくして形成する。AgまたはAg合金層(8)の膜厚は、5nm以上、20nm以下が望ましい。5nm以下はデポレートを遅くしても不均一になる。
Ag合金としては、AgにCu、Ti、V、Ta、Nb、W、Co、Cr、Si、Ge、Sn、Sc、Hf、Pd、Rh、Au、Pt、Mg、Zr、MoあるいはMnを0.2原子%以上、5原子%以下含む合金も望ましい。経時安定性をより重視する場合には添加成分としてはTi、Mgが好ましい。
【0053】
本発明者らは前記反射放熱層(2)およびAgまたはAg合金層(8)における、Alへの添加元素あるいはAgへの添加元素は、その添加元素濃度に比例して体積抵抗率が増加することを確認している。一方、不純物の添加は一般的に結晶粒径を小さくし、粒界の電子散乱を増加させて熱伝導率を低下させると考えられる。添加不純物量を調節することは、結晶粒径を大きくすることで材料本来の高熱伝導率を得るために必要である。
【0054】
なお、反射放熱層(2)およびAgまたはAg合金層(8)は通常スパッタ法や真空蒸着法で形成されるが、ターゲットや蒸着材料そのものの不純物量もさることながら、成膜時に混入する水分や酸素量も含めて全不純物量を2原子%以下とする必要がある。このためにプロセスチャンバの到達真空度は1×10−3Pa以下とすることが望ましい。また、10−4Paより悪い到達真空度で成膜する場合には、成膜レートを1nm/秒以上、好ましくは10nm/秒以上として不純物が取り込まれるのを防ぐことが望ましい。あるいは、意図的な添加元素を1原子%より多く含む場合は、成膜レートを10nm/秒以上として付加的な不純物混入を極力防ぐことが望ましい。
【0055】
成膜条件は不純物量とは無関係に結晶粒径に影響を及ぼす場合もある。例えば、AlにTaを2原子%程度混入した合金膜は、結晶粒の間に非晶質相が混在するが結晶相と非晶質相の割合は成膜条件に依存する。また、低圧でスパッタするほど結晶部分の割合が増え、体積抵抗率が下がり、熱伝導率が増加する。
膜中の不純物組成あるいは結晶性は、スパッタに用いる合金ターゲットの製法やスパッタガス(Ar、Ne、Xe等)にも依存する。このように薄膜状態の体積抵抗率は、金属材料、組成のみによっては決まらない。高熱伝導率を得るためには、上記のように不純物量を少なくするのが望ましいが、一方でAlやAgの純金属は耐食性や耐ヒロック性に劣る傾向があるため、両者のバランスを考慮して最適組成を決める必要がある。
【0056】
さらなる高熱伝導と高信頼性を得るために反射放熱層(2)およびAgまたはAg合金層(8)を多層化することも有効である。この場合、少なくとも1層は全層膜厚の50%以上の膜厚を有する前記高熱伝導性材料(低体積抵抗率材料)からなり、実質的に放熱効果に寄与し、他の層が耐食性や保護層との密着性、耐ヒロック性の改善に寄与するように構成される。
より具体的には、金属中最も高熱伝導率および低体積抵抗率であるAgを用いた場合に、Agに隣接する保護層中にS(硫化物等)を含むと相性が悪くて、硫化による腐食を起こしやすく、繰り返しオーバーライト(O/W)した場合の劣化がやや速いという傾向がある。また、高温高湿の加速試験環境下で腐食を生じやすい傾向がある。そこで、低体積抵抗率材料としてAgまたはAg合金を用いる際には、隣接保護層との間に界面層としてAlを主成分とする合金層を1nm以上、100nm以下設けることも有効である。この厚さを5nm以上とすれば、層が島状構造とならず均一に形成されやすい。
【0057】
上記Al合金としては前述と同様に、例えばTa、Ti、Co、Cr、Si、Sc、Hf、Pd、Pt、Mg、Zr、MoまたはMnを0.2原子%以上、2原子%以下含むAl合金が挙げられる。界面層の厚さは1nm未満では保護効果が不充分で、100nmを越えると放熱効果が犠牲になる。
【0058】
さらに、Ag合金反射層とAl合金界面層を用いる場合、AgとAlは比較的相互拡散しやすい組み合わせであるので、Al表面を1nmより厚く酸化して界面酸化層を設けることが一層好ましい。なお、界面酸化層が5nm、特に10nmを越えるとそれが熱抵抗となり本来の趣旨である極めて放熱性の高い反射放熱層としての機能が損なわれるので好ましくない。
【0059】
本発明において良好な特性を示す高熱伝導率の反射放熱層(2)、およびAgまたはAg合金層(8)を規定するために、それぞれの熱伝導率を直接測定することも可能であるが、その熱伝導の良否を電気抵抗を利用して見積もることができる。金属膜のように電子が熱もしくは電気伝導を主として司る材料においては熱伝導率と電気伝導率は良好な比例関係があるためである。薄膜の電気抵抗は、その膜厚や測定領域の面積で規格化された抵抗率値で表わす。体積抵抗率と面積抵抗率は、通常の4探針法で測定でき、JIS K 7194によって規定されている。本法により、薄膜の熱伝導率そのものを実測するよりもはるかに簡便かつ再現性の良いデータが得られる。
【0060】
本発明において好ましい反射放熱層(2)、およびAgまたはAg合金層(8)の特性としては、体積抵抗率が20nΩ・m以上、150nΩ・m以下であり、より好ましくは20nΩ・m以上、100nΩ・m以下である。体積抵抗率20nΩ・m未満の材料は薄膜状態では実質的に得にくい。体積抵抗率150nΩ・mより体積抵抗率が大きい場合でも、例えば300nmを越える厚膜とすれば面積抵抗率を下げることはできるが、本発明者らの検討によれば、このような高体積抵抗率材料で面積抵抗率のみ下げても充分な放熱効果は得られなかった。厚膜では単位面積当たりの熱容量が増大してしまうためと考えられる。また、このような厚膜では成膜に時間がかかり、材料費も増えるため製造コストの観点から好ましくないばかりでなく、さらに膜表面の微視的な平坦性も悪くなってしまう。膜厚300nm以下で面積抵抗率0.2以上、0.9Ω/□以下が得られるような低体積抵抗率材料を用いるのが好ましく、0.5Ω/□が最も好ましい。AgまたはAg合金層(8)の場合は、透過率の関係から20nm以下が望ましい。
【0061】
反射放熱層(2)あるいはAgまたはAg合金層(8)の前記多層化については、高体積抵抗率材料と低体積抵抗率材料を組み合わせて所望の膜厚で所望の面積抵抗率を得るためにも有効である。合金化による体積抵抗率調節は、合金ターゲットの使用によりスパッタ工程を簡素化できるが、ターゲット製造コスト、ひいては媒体の原材料比を上昇させる要因にもなる。従って、純Alや純Agの薄膜と上記添加元素そのものの薄膜を多層化して所望の体積抵抗率を得ることも有効である。層数が3層程度までであれば初期の装置コストは増加するものの、個々の媒体コストはかえって抑制できる場合がある。反射放熱層(2)を複数の金属膜からなる多層反射放熱層とし、全膜厚を40nm以上、300nm以下とし、多層反射放熱層の厚さの50%以上が体積抵抗率20nΩ・m以上、150nΩ・m以下の金属薄膜層(多層であってもよい)とするのが好ましい。
【0062】
次に、図1に示すようにカバー基板(13)を設ける構成で、高NAの対物レンズを用いる場合には、カバー基板(13)の厚さは0.3mm以下、より好ましくは0.06〜0.20mmの厚さが要求されるため、シート状であることが好ましい。材料としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられるが、光学特性、コストの点で優れるポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂が好ましい。上記透明シートを用いて薄型基板を形成する方法としては、紫外線硬化性樹脂あるいは透明な両面粘着シートを介して、透明シートを貼り付ける方法が挙げられる。また、紫外線硬化性樹脂を保護層上に塗布してこれを硬化させて薄型基板を形成してもよい。
【0063】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明はなんら実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
図2に示す層構成で、ポリカーボネート製基板(21)上に、反射放熱層(22)(AgCuPtPd)、第1保護層(23)(ZnSSiO)、第1記録層(24)(AgInSb75Te25)、第2保護層(25)(ZnSSiO)、樹脂中間層(26)(ポリカーボネート)、緩衝層(34)(In)、第3保護層(27)(ITO)、AgまたはAg合金層(28)(AgCuPtPd)、第4保護層(29)(ZnSSiO)、第2記録層(30)(GeAgSb80Te23)、第5保護層(31)(ZnSSiO)、接着層(32)(アクリル系両面接着)、カバー基板(33)(ポリカーボネート)からなる各層を形成して評価用相変化型記録媒体を作製した。なお、ポリカーボネート製樹脂中間層(26)とアクリル系両面接着層(32)以外はスパッタ法により厚さを制御しながら基板(21)側から順次各層を形成して作製した。
【0065】
なお、各構成層の厚さは下記の通りに制御して作製した。
基板(21):1.1mm、反射放熱層(22):120nm、第1保護層(23):10nm、第1記録層(24):10nm、第2保護層(25):100nm、樹脂中間層(26):30μm、緩衝層(34):10nm,第3保護層(27):120nm、AgまたはAg合金層(28):10nm、第4保護層(29):10nm、第2記録層(30):6nm、第5保護層(31):100nm、、接着層(32):アクリル系両面粘着を使用、カバー基板(33):60μm。
【0066】
(実施例2)
実施例1において、緩衝層(34)のの材質をInからAlとSiOの混合系組成に変えたほかは、実施例1の構成と厚さとを全く同様にして評価用相変化型記録媒体を作製した。
【0067】
(実施例3)
実施例1において、緩衝層(34)のの材質をInからMgOとSiOの混合系組成に変えたほかは、実施例1の構成と厚さとを全く同様にして評価用相変化型記録媒体を作製した。
【0068】
(実施例4)
実施例1において、緩衝層(34)の材質をInからInOとZnOの混合系組成に変えたほかは、実施例1の構成と厚さとを全く同様にして評価用相変化型記録媒体を作製した。
【0069】
(実施例5)
実施例1において、緩衝層(34)の材質をInからInOとZnOとSnOの混合系組成に変えたほかは、実施例1の構成と厚さとを全く同様にして評価用相変化型記録媒体を作製した。
【0070】
(比較例1)
実施例1において、緩衝層(34)のの材質をInのかわりにSiNに変えたほかは、実施例1の構成と厚さとを全く同様にして評価用相変化型記録媒体を作製した。
【0071】
前記実施例1〜5および比較例1における評価用相変化型記録媒体の各層の構成材料をまとめて表1に示す。
【0072】
【表1】
Figure 0004063598
【0073】
<評価>
上記実施例1〜5および比較例1で作製した評価用相変化型記録媒体について、波長402nm、開口数NA0.85の光学系を用いて集束光ビームを照射し、線速:6m/s、0.130μm/bitの条件で、初期ジッタ(Jitter)、アーカイバル特性、O/W特性を評価した。結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
Figure 0004063598
【0075】
評価判断基準は下記による。
アーカイバル特性:80℃、85%(RH)の保存でジッタ(Jitter)上昇が20%以上となる時間(H)。
O/W特性:オーバーライト(O/W)によるジッタ(Jitter)上昇が20%に到達したオーバーライト(O/W)回数(回)。
【0076】
上記評価試験の結果、実施例1〜5の本発明にある評価用相変化型記録媒体はいずれも優れたアーカイバル特性(1000H〜2000H)、O/W特性(10000回〜20000回)を示し、比較例のそれぞれの特性100H(アーカイバル特性)、1000回(O/W特性)に較べていずれも10倍以上の性能を示した。
【0077】
【発明の効果】
以上、詳細且つ具体的な説明により明らかなように、本発明の、基板上に少なくとも第1の記録構成層と樹脂中間層と第2の記録構成層とを設けた層構成とし、該第1の記録構成層は基板側から順に反射放熱層、第1保護層、第1記録層、第2保護層から構成し、該第2の記録構成層は樹脂中間層側から順に緩衝層、第3保護層、AgまたはAg合金層、第4保護層、第2記録層、第5保護層から構成し、前記第1記録層と第2記録層が少なくともSbTeを含有し、緩衝層が酸化物であり、かつ第3保護層と緩衝層の光の透過率が80%以上とする構成により、ジッタなどのノイズが発生せず、優れたO/W特性、アーカイバル特性、高密度記録性能を発揮する相変化型記録媒体が提供される。
また、本発明の緩衝層の形成成分をIn、あるいはAlとSiOとの混合系組成、あるいはMgOとSiOとの混合系組成、あるいはInとZnOとの混合系組成、あるいはInとVとの混合系組成、あるいはInとZnOとSnOとの混合系組成とすることによって、第3保護層のITOのO/W時の酸素欠乏を補うことによってO/W特性がよく、アーカイバル特性が改善された高密度記録の可能な相変化型記録媒体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の相変化型記録媒体を説明するための一例を示す層構成断面図である。
【図2】本発明の実施例における評価用相変化型記録媒体の層構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 反射放熱層
3 第1保護層
4 第1記録層
5 第2保護層
6 樹脂中間層
7 第3保護層
8 AgまたはAg合金層
9 第4保護層
10 第2記録層
11 第5保護層
12 接着層
13 カバー基板
14 緩衝層
21 基板(ポリカーボネート)
22 反射放熱層(AgCuPtPd)
23 第1保護層(ZnSSiO
24 第1記録層(AgInSb75Te25
25 第2保護層(ZnSSiO
26 樹脂中間層(ポリカーボネート)
27 第3保護層(In
28 AgまたはAg合金層(AgCuPtPd)
29 第4保護層(ZnSSiO
30 第2記録層(GeAgSb80Te23
31 第5保護層(ZnSSiO
32 接着層(アクリル系両面接着)
33 カバー基板(ポリカーボネート)
34 緩衝層(In)
100 第1の記録構成層
200 第2の記録構成層

Claims (7)

  1. 基板上に少なくとも第1の記録構成層と樹脂中間層と第2の記録構成層とが順次設けられ、該第1の記録構成層は基板側から順に反射放熱層、第1保護層、第1記録層、第2保護層から構成され、該第2の記録構成層は樹脂中間層側から順に緩衝層、第3保護層としてITO、AgまたはAg合金層、第4保護層、第2記録層、第5保護層から構成された相変化型記録媒体であって、前記第1記録層と第2記録層が少なくともSbTeを含有し、前記緩衝層が隣接する前記第3保護層に対してオーバーライトによるITOの酸素欠乏を補う酸化物で構成されていることを特徴とする相変化型記録媒体。
  2. 前記緩衝層の形成成分がInであることを特徴とする請求項1に記載の相変化型記録媒体。
  3. 前記緩衝層の形成成分がAlとSiOとの混合系組成であることを特徴とする請求項1に記載の相変化型記録媒体。
  4. 前記緩衝層の形成成分がMgOとSiOとの混合系組成であることを特徴とする請求項1に記載の相変化型記録媒体。
  5. 前記緩衝層の形成成分がInとZnOとの混合系組成であることを特徴とする請求項1に記載の相変化型記録媒体。
  6. 前記緩衝層の形成成分がInとVとの混合系組成であることを特徴とする請求項1に記載の相変化型記録媒体。
  7. 前記緩衝層の形成成分がInとZnOとSnOとの混合系組成であることを特徴とする請求項1に記載の相変化型記録媒体。
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