JP2004327210A - 酸化物イオン伝導体およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】1000℃を下回る低温度領域〜中温度領域における酸化物イオン伝導度が著しく優れ、このために燃料電池等の運転温度を引き下げることが可能な酸化物イオン伝導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】例えば、La2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末を、最終的に得られるLasGe6−tTitO1.5s+12におけるsの値が8〜10、tの値が3未満となる割合で混合して成形した後に焼結し、酸化物イオン伝導体とする。このLasGe6−tTitO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)の結晶の構造は、アパタイト型構造に属する。そして、その単位格子10では、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)の結晶の単位格子に比して、C軸の格子定数cが短くなるか、または、A軸およびB軸の各格子定数a、bが大きくなる。換言すれば、Geの一部をTiで置換した後のc/aまたはc/bは、置換前のc/aまたはc/bから低下する。
【選択図】図1
【解決手段】例えば、La2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末を、最終的に得られるLasGe6−tTitO1.5s+12におけるsの値が8〜10、tの値が3未満となる割合で混合して成形した後に焼結し、酸化物イオン伝導体とする。このLasGe6−tTitO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)の結晶の構造は、アパタイト型構造に属する。そして、その単位格子10では、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)の結晶の単位格子に比して、C軸の格子定数cが短くなるか、または、A軸およびB軸の各格子定数a、bが大きくなる。換言すれば、Geの一部をTiで置換した後のc/aまたはc/bは、置換前のc/aまたはc/bから低下する。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物イオン伝導体およびその製造方法に関し、一層詳細には、酸化物イオンの移動方向であるC軸の格子定数が他の軸に比して小さく、このために酸化物イオンの伝導度に優れる酸化物イオン伝導体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Y2O3が添加された安定化ジルコニア(いわゆるYSZ)やCe4+サイトの一部にSm3+が置換固溶したCeO2(いわゆるSDC)等の蛍石型酸化物、または、LaSrGaMgO(いわゆるランタンガレート)等のペロブスカイト型酸化物の結晶格子中には、酸化物イオン(O2−)の空孔が存在する。この空孔が酸化物イオンと位置を入れ替えながら順次移動していくことにより、巨視的には、酸化物イオンが移動する。すなわち、酸化物イオンの伝導が生じる。このような特性を有する物質は酸化物イオン伝導体と指称され、例えば、センサや燃料電池を構成する電解質として利用することが提案されている。
【0003】
しかしながら、このような酸化物イオン伝導体においては、結晶格子中で空孔を移動させるために高温が必要となる。このため、例えば、該酸化物イオン伝導体を燃料電池の電解質とした場合、この燃料電池の運転温度を1000℃程度の高温に設定しなければならないという不具合を招く。
【0004】
これに対し、特許文献1および特許文献2において、希土類元素とSiとの複合酸化物からなり、かつアパタイト型構造をなす物質が、500〜700℃程度の中温度領域であっても比較的優れた酸化物イオン伝導度を示すことが報告されている。また、本出願人は、特許文献1または特許文献2に記載された酸化物イオン伝導体に比して優れた酸化物イオン伝導度を示す物質として、希土類元素とGeとの複合酸化物からなり、かつアパタイト型構造をなす酸化物イオン伝導体を特許文献3で提案している。
【0005】
このような酸化物イオン伝導体を燃料電池の電解質とした場合、上記のYSZやSDC、ランタンガレートを電解質とする燃料電池に比して運転温度を低温にすることができ、加熱に要するエネルギ等を省力化することができるという利点がある。特に、特許文献3に記載された技術においては、酸化物イオン伝導体を作製する際の焼結温度を低温にすることもできる。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−208333号公報(段落[0010]〜[0012])
【特許文献2】
特開平11−130595号公報(段落[0021]〜[0027])
【特許文献3】
特開2002−252005号公報(段落[0020]、[0022])
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した技術に関連してなされたもので、酸化物イオンが移動することが著しく容易であり、このために酸化物イオン伝導度が著しく優れる酸化物イオン伝導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、結晶に含まれる単位格子がA軸、B軸およびC軸の座標軸を有し、前記C軸方向に酸化物イオンが移動することによって酸化物イオン伝導が発現する酸化物イオン伝導体であって、
前記単位格子におけるA軸方向の格子定数をa、B軸方向の格子定数をb、C軸方向の格子定数をcとするとき、c<aかつc<bが成立することを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明に係る酸化物イオン伝導体は、酸化物イオン(O2−)が移動するC軸の格子定数がA軸およびB軸に比して短い。このため、酸化物イオンの移動距離が短くなるので、酸化物イオンが移動することが著しく容易となる。その結果、酸化物イオン伝導度が向上する。
【0010】
C軸の格子定数がA軸およびB軸に比して短い酸化物イオン伝導体の好適な例としては、3価の元素Xと、酸素Oとともに四面体を形成する4価の元素Yと、酸素Oとともに四面体を形成しかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな4価の元素Zとを構成元素として有し、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物を挙げることができる。
【0011】
上記したようなアパタイト型構造となる結晶においては、2aサイトに存在するO2−がC軸方向に移動することに伴って、酸化物イオン伝導が起こる。上記したように、本発明においては、C軸の格子定数が小さいので酸化物イオンの移動距離が短くなり、このためにO2−の移動度が向上する。これにより、酸化物イオン伝導度を向上させることができる。
【0012】
なお、この複合酸化物における元素Zは、組成式がXsY6O1.5s+12(8≦s≦10)で表される複合酸化物のYに置換して存在する。これにより単位格子の体積が置換前に比して大きくなり、その結果、単位格子が疎となることに伴って酸化物イオンに作用する力が減少する。このため、酸化物イオンが移動することが一層容易となる。
【0013】
この場合、酸素Oとともに四面体を形成する元素の一部を置換することによってC軸の格子定数を置換前に比して短くしたり、またはA軸およびB軸の格子定数を置換前に比して長くすることによって、(該C軸の格子定数)/(該A軸の格子定数)、および(該C軸の格子定数)/(該B軸の格子定数)を低下させる。
【0014】
ここで、sが8未満であると、結晶がアパタイト型構造をとらなくなる。このため、酸化物イオン伝導度が低下する。また、10を超える場合、アパタイト型構造の複合酸化物中にそれ以外の構造の複合酸化物、例えば、X2YO5等が不純物として含まれるようになる。結局、この場合も酸化物イオン伝導度が低下する。
【0015】
一方、tは、0を超え3未満に設定される。tが3〜6では、X2ZO5やX2Z2O7等が不純物として含まれるようになり、アパタイト型構造の結晶が得られなくなるのみならず、酸化物イオン伝導度が低下する。tは、0.5以下であることが好ましい。この場合、不純物が含まれないので、酸化物イオン伝導度が良好となるからである。
【0016】
元素Xの好適な例としては、Laを挙げることができる。一方、元素Yの好適な例としては、SiまたはGeを挙げることができる。この場合、酸化物イオン伝導度が特に優れた酸化物イオン伝導体を得ることが可能となる。
【0017】
そして、結晶中で元素Yに置換して存在し、かつ該元素Yに比してイオン半径が大きい4価の元素Zの好適な例としては、Ti、ZrまたはHfを挙げることができる。
【0018】
さらに、結晶の晶系が六方晶系に属し、かつ該結晶の空間群をヘルマン・モーガンの記号で表すときにP63/mとなることが特に好ましい。このような晶系をとるとき、酸化物イオン伝導度が最も大きくなるからである。
【0019】
いずれの場合においても、c/a、c/bがともに0.79以下であることが好ましい。この場合、充分な酸化物イオン伝導度を確保することができるからである。
【0020】
さらにまた、前記格子定数a、bおよびcを乗じて求められる六方晶系の格子体積は、他の元素に置換されていないLa10Si6O27の六方晶系の格子体積である1792Å3よりも大きくなる。六方晶系の格子体積は、他の元素に置換されていないLa10Ge6O27の六方晶系の格子体積である1850Å3よりも大きいことが一層好ましい。この場合、A軸およびB軸の格子定数が大きくなるので、例えば、アパタイト型構造の結晶の場合、2aサイトに存在するO2−と他のイオンとの離間距離が大きくなる。このため、6hサイトに存在するイオンや四面体等が、C軸方向に沿うO2−の移動を妨げることが抑制される。換言すれば、立体障害が小さくなるのでO2−の移動度が向上し、結局、酸化物イオン伝導度を向上させることができる。
【0021】
ここで、六方晶系の格子体積は、後述する図1に示す単位格子の体積に換算して表すこともできる。この場合、単位格子の体積は、六方晶系の体積を3で除すことによって算出される。例えば、La10Ge6O27の単位格子の格子体積は、616Å3となる。
【0022】
また、本発明は、3価の元素Xを構成元素として含有する物質と、4価の元素Yを構成元素として含有する物質と、4価であってかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな元素Zを構成元素として含有する物質とを、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物が生成する割合で混合された混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を成形して成形体とする成形工程と、
前記成形体を焼結することにより、結晶の構造がアパタイト型構造に属しかつ組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表される複合酸化物からなる酸化物イオン伝導体とする焼結工程と、
を有することを特徴とする。
【0023】
このように、元素X、YまたはZを含有する各物質の粉末が所定の割合で混合された混合粉末を成形した後に焼結することによって、結晶がアパタイト型構造、すなわち、優れた酸化物イオン伝導度を示すXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)を容易に得ることができる。
【0024】
さらに、本発明は、3価の元素Xを構成元素として含有する物質と、4価の元素Yを構成元素として含有する物質と、4価であってかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな元素Zを構成元素として含有する物質とを、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物が生成する割合で混合された混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を熱処理することにより、結晶の構造がアパタイト型構造に属しかつ組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表される複合酸化物の粒体とする造粒工程と、
前記粒体を粉砕して複合酸化物粉末とする粉砕工程と、
前記複合酸化物粉末を成形して成形体とする成形工程と、
前記成形体を焼結することにより、前記複合酸化物からなる酸化物イオン伝導体とする焼結工程と、
を有することを特徴とする。なお、ここでいう粒体とは、粉砕工程において粉砕することが可能な程度に凝集ないし結合した粉末の集合体のことである。
【0025】
この場合においても、上記と同様に、結晶がアパタイト型構造のXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)を容易に得ることができる。しかも、この場合、各原材料物質の相互固溶と、粉末の粒成長とが個別に行われるので、全体に亘りアパタイト型構造のXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)が生成し、他の相を含まない均質でかつ緻密な酸化物イオン伝導体を得ることができる。
【0026】
なお、前記造粒工程での熱処理温度は、粉末同士を粉砕可能に凝集ないし結合させることができる温度とすればよく、具体的には、700〜1200℃とすれば充分である。
【0027】
いずれの場合においても、前記焼結工程での焼結温度は、1400〜1800℃とすることが好ましい。すなわち、本発明によれば、焼結温度を1700℃以下とすることも可能である。このため、反応炉の長寿命化を図ることができ、結局、酸化物イオン伝導体の製造コストを低廉化することができる。なお、1400℃未満では粒成長が効率よく進行しない。
【0028】
ランタン(La)を含有する複合酸化物を得るには、混合工程で、元素Xを含有する物質として、例えば、酸化ランタン(La2O3)、水酸化ランタン(La(OH)3)、塩化ランタン(LaCl3)、炭酸ランタン(La2CO3)等のランタン化合物を使用すればよい。このうち、酸化ランタンが最も好ましい。
【0029】
また、SiまたはGeを含有する複合酸化物を得るには、混合工程で、元素Yを含有する物質として、SiO2等のケイ素化合物またはGeO2等のゲルマニウム化合物を使用すればよい。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る酸化物イオン伝導体およびその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
本実施の形態に係る酸化物イオン伝導体は、ランタン(La)、ゲルマニウム(Ge)、および4価の元素Zとの複合酸化物からなる焼結体である。そして、この複合酸化物の組成式はLasGe6−tZtO1.5s+12で表され、sとtのとり得る値は、それぞれ、8≦s≦10、0<t<3である。
【0032】
LasGe6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)の結晶の単位格子を図1に示す。この単位格子10は、6個の四面体12と、2aサイトを占有するO2−14aと、4fサイトまたは6hサイトをそれぞれ占有するLa3+16a、16bとを含むアパタイト型構造である。
【0033】
この単位格子10の晶系は、六方晶系に属する。すなわち、図1において、単位格子10は、各々の格子定数がa、bまたはcであるA軸、B軸およびC軸からなる座標軸を有し、かつa、b、cの間には、a=b≠cの関係が成立する。ここで、図1に示す単位格子10では、後述するように、cがa、bに比して短く設定されている。
【0034】
また、A軸とC軸とがなす角度α、B軸とC軸とがなす角度β、A軸とB軸とがなす角度γは、それぞれ、90°、90°、120°である。なお、図1の単位格子10は、視点をC軸方向として示したものである。
【0035】
このような単位格子10が含まれる六方晶系格子(図示せず)は、単純格子である。そして、この六方晶系格子は、仮想的ならせん軸(図示せず)を中心として1/3回転動作させ、かつ前記らせん軸に沿って辺YFの長さの1/2だけ並進動作させた場合に、動作前後における各イオンの位置が一致する。しかも、このらせん軸には六方晶系格子の鏡映面が直交する。すなわち、LasGe6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)の結晶の空間群をヘルマン・モーガンの記号で表した場合、P63/mとなる。
【0036】
ここで、四面体12は、図2に示すように、各頂点にO2−が位置し、かつ該四面体12の中心にGe4+18またはZ4+20が位置することによって構成される。すなわち、四面体12は、GeO4またはZO4と表すことができる。なお、図1中には、四面体12を構成するGe4+18、Z4+20およびO2−14bは図示していない。
【0037】
このことから諒解されるように、本実施の形態に係る複合酸化物であるLasGe6−tZtO1.5s+12は、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)における結晶の単位格子中のGeO4四面体(図2参照)をなすGe4+18の一部がZ4+20に置換されてなる。Z4+20の置換量は、LasGe6−tZtO1.5s+12におけるtが0より大きくかつ3未満となるように設定される。
【0038】
このようにGeと置換される元素Zとしては、Ge4+20に比してイオン半径が大きくなる元素が選定される。この場合、C軸の格子定数cをA軸の格子定数aまたはB軸の格子定数bに比して短くしたり、A軸の格子定数aやB軸の格子定数bをC軸の格子定数cに比して大きく設定することができるため、未置換のアパタイト型構造酸化物イオン伝導体に比してc/aまたはc/bを低下させることができる。すなわち、置換後のc<a、c<bは、置換前のc<a、c<bに比して小さくなる。
【0039】
元素Zは、Geと置換してO2−14bとともに四面体12を形成し、かつc/a、c/bを低下させることが可能な4価の元素であれば特に限定されるものではないが、Ti、ZrまたはHfを好適な例として挙げることができる。この場合、c/a(=c/b)は0.74以下となり、GeをSiに代替した場合では0.79以下となる。
【0040】
結晶が上記したような単位格子10を有するアパタイト型構造であるLasGe6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)においては、四面体12またはLa3+16a、16bと、2aサイトのO2−14aとの間にさほど大きな引力は作用しない。換言すれば、O2−14aに対する拘束力は比較的小さく、このため、該O2−14aは、2aサイトに束縛されることなくC軸に沿って移動することが可能である。この移動に伴い、単位格子10を有する結晶に酸化物イオン伝導が生じる。
【0041】
そして、本実施の形態に係る酸化物イオン伝導体においては、C軸の格子定数cがa、bよりも短い。このため、C軸方向に沿う酸化物イオンの移動が容易に生じる。
【0042】
しかも、単位格子10におけるC軸の格子定数cは、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)の結晶の単位格子におけるC軸の格子定数よりも短いか、または、単位格子10におけるA軸、B軸の各格子定数a、bは、前記結晶の単位格子におけるA軸、B軸の各格子定数よりも長い。このため、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)に比して、C軸方向に沿う酸化物イオンの移動が容易に生じる。このため、LasGe6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)においては、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)に比して酸化物イオン伝導度が高くなる。
【0043】
LasGe6−tZtO1.5s+12で表される複合酸化物であっても、単位格子が上記単位格子10とは異なる構造をとるもの、換言すれば、結晶の構造がアパタイト構造ではないものは、酸化物イオン伝導度が低い。このような複合酸化物における単位格子中では、O2−が移動することが困難となるからである。
【0044】
そこで、本実施の形態では、複合酸化物の結晶の主たる構造が図1に示されるアパタイト型構造となるように、LasGe6−tZtO1.5s+12におけるsが8〜10の範囲内に設定される。sが8未満であると結晶の構造がアパタイト型構造とはならず、したがって、酸化物イオン伝導度が低下する。また、10を超える場合、アパタイト型構造の複合酸化物に、その他の構造の複合酸化物、例えば、La2GeO5等が不純物として含まれるようになる。結局、この場合も酸化物イオン伝導度が低下する。
【0045】
より好ましいsの範囲は、8〜9.33である。この場合、結晶の大多数がアパタイト型構造(図1参照)となり、その他の構造の不純物相はほとんど認められなくなる。すなわち、酸化物イオン伝導度が最も高くなる。
【0046】
一方、tは、上記したように、0を超え3未満に設定される。tが3を超える場合、結晶がアパタイト型構造をとらなくなり、La2ZO5やLa2Z2O7等が不純物として含まれるようになるので、酸化物イオン伝導度が低下する。tの好ましい範囲は、0を超え0.5以下である。
【0047】
この酸化物イオン伝導体は、後述するように、1000℃を下回る低温度領域〜中温度領域で優れた酸化物イオン伝導度を示す。したがって、例えば、本実施の形態に係る酸化物イオン伝導体を固体電解質とする燃料電池では、従来技術に係る酸化物イオン伝導体を固体電解質とする燃料電池に比して、低温で運転する場合においても同等の発電特性を得ることができる。このため、燃料電池の運転コストを低廉化することができる。
【0048】
次に、この酸化物イオン伝導体の製造方法につき、Laを含有する物質として酸化ランタン(La2O3)、Geを含有する物質として酸化ゲルマニウム(GeO2)を選定し、かつ元素ZとしてのTiを含有する物質に酸化チタン(TiO2)を選定した場合を例示して説明する。
【0049】
第1の実施形態に係る酸化物イオン伝導体の製造方法(以下、第1の製法という)のフローチャートを図3に示す。第1の製法は、各原材料粉末を混合して混合粉末とする混合工程S1と、前記混合粉末を成形して成形体とする成形工程S2と、前記成形体を焼結して酸化物イオン伝導体(焼結体)とする焼結工程S3とを有する。
【0050】
まず、混合工程S1において、La2O3粉末と、GeO2粉末と、TiO2粉末とを混合する。
【0051】
この際、原材料粉末における組成比は、最終的に得られるLasGe6−tTitO1.5s+12におけるsが8〜10の範囲内となり、かつtが3未満となるように設定される。例えば、La10Ge5.975Ti0.025O27を得る場合、La2O3、GeO2、TiO2のモル比が5:5.975:0.025となるように各粉末を秤量して混合すればよい。また、La10Ge5.9Ti0.1O27を得る場合、La2O3、GeO2、TiO2のモル比が5:5.9:0.1となるように各粉末を秤量して混合すればよい。
【0052】
次いで、成形工程S2において、この混合粉末を成形する。この際の成形方法は特定の方法に限定されるものではなく、プレス成形法や泥しょう鋳込み法、押出成形法等、公知の成形方法を採用することができる。成形体の形状は、使用形態に応じた形状とすればよい。
【0053】
次いで、焼結工程S3において、前記成形体を焼結することによりLa2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末を粒成長させる。すなわち、互いに接触した粒子同士の接合部を成長させ、最終的に当該粒子同士を併合させて大粒子とする。また、La2O3、GeO2およびTiO2を互いに固溶させ、組成式がLasGe6−tTitO1.5s+12で表される複合酸化物とする。これにより、LasGe6−tTitO1.5s+12の焼結体、すなわち、酸化物イオン伝導体が得られるに至る。
【0054】
焼結温度は、1400〜1800℃とすることが好ましい。1400℃未満では粒成長が効率よく進行せず、また、1800℃を超える温度では、焼結に使用される反応炉を構成する発熱体や断熱材、反応管等の耐久性が急激に低下してしまうからである。元素YとしてSiを選択する場合、より好ましい焼結温度は1450〜1700℃であり、1700℃が特に好ましい。また、元素YとしてGeを選択する場合、好ましい焼結温度は1500℃である。
【0055】
このように、第1の製法においては、1700℃以下の比較的低温で焼結を行った場合であっても、焼結体(酸化物イオン伝導体)を得ることが可能である。このため、反応炉の長寿命化を図ることができ、かつ製造コストを低廉化することもできる。
【0056】
この酸化物イオン伝導体(LasGe6−tTitO1.5s+12)は、混合工程S1において設定された組成比に応じた組成比を有する。勿論、sは8〜10の範囲内であり、かつtは0より大きく3未満である。このため、六方晶系に属しかつ空間群がP63/mで表されるアパタイト型構造の結晶を有し、このために優れた酸化物イオン伝導度を示す複合酸化物が得られる。
【0057】
しかも、この場合、c/a(=c/b)を0.79以下とすることができるので、酸化物イオンをC軸に沿って移動させることが容易となる。
【0058】
ところで、La2O3、GeO2またはTiO2と、LasGe6−tTitO1.5s+12とは、結晶の構造が互いに異なる。例えば、La2O3の結晶の構造はルチル型構造であり、アパタイト型構造とは大きく相違する。このため、第1の製法のように成形体を直接焼結する場合、La2O3、GeO2およびTiO2の固溶に伴う結晶の構造変化と、粒成長とが同時に進行するので、焼結における駆動力が小さいと、結晶の構造変化または粒成長が充分に進行しないことがある。このような事態を確実に回避するべく、La2O3、GeO2およびTiO2を互いに固溶させる工程は、以下に説明するように、粒成長させる工程とは別の工程とすることが望ましい。
【0059】
第2の実施形態に係る酸化物イオン伝導体の製造方法(以下、第2の製法という)のフローチャートを図4に示す。なお、第1の製法と同様の操作を行う工程については同一の名称を付し、その詳細な説明を省略する。
【0060】
第2の製法は、各原材料粉末を混合して混合粉末とする混合工程S10と、前記混合粉末を熱処理することによりランタン、ゲルマニウムおよびチタンの複合酸化物の粒体とする造粒工程S20と、前記粒体を粉砕して複合酸化物粉末とする粉砕工程S30と、前記複合酸化物粉末を成形して成形体とする成形工程S40と、前記成形体を焼結することにより酸化物イオン伝導体とする焼結工程S50とを有する。
【0061】
まず、上記第1の製法における混合工程S1に準拠して、La2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末を混合する。勿論、この場合においても、各粉末は、最終的に得られるLasGe6−tTitO1.5s+12におけるsの値が8〜10の範囲内となり、かつtが0より大きく3未満となる割合で混合される。
【0062】
次いで、造粒工程S20において、この混合粉末を熱処理することによって粉砕可能な程度まで互いに融着させる。すなわち、粉末同士を粉砕可能に凝集ないし結合させて粒体とする。この時点で緻密な焼結体とすると、粉砕することが著しく困難となる。
【0063】
換言すれば、造粒工程S20における熱処理温度は、混合粉末の著しい粒成長が起こらない程度に設定される。この場合、La2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末であるので、700〜1200℃とすれば充分である。
【0064】
この際、La2O3、GeO2およびTiO2が互いに固溶し合う。すなわち、第2の製法においては、この時点でLasGe6−tTitO1.5s+12が生成する。造粒工程S20における熱処理は、LasGe6−tTitO1.5s+12の生成が終了するまで行うようにすればよく、具体的には2時間程度とすればよい。なお、sが8〜10の範囲内であり、かつtが0より大きく3未満であることはいうまでもない。
【0065】
なお、上記したような温度および時間で混合粉末の熱処理を行った場合、得られたLasGe6−tTitO1.5s+12の粒体における凝集力ないし結合力は、乳鉢であっても容易に粉砕することが可能な程度である。
【0066】
次いで、粉砕工程S30において、LasGe6−tTitO1.5s+12の粒体を粉砕して粉末とする。粉砕方法は特に限定されるものではなく、乳鉢で行うようにしてもよいが、ボールミル等、粉末の粒径を略均一に揃えることが可能な方法であることが好ましい。これにより焼結体に気孔が残留し難くなるので、結局、強度および靱性に優れた酸化物イオン伝導体を得ることができるからである。
【0067】
次いで、成形工程S40において、上記第1の製法の成形工程S2に準拠して成形体を作製する。
【0068】
最後に、焼結工程S50において、上記焼結工程S3に準拠して成形体を焼結し、酸化物イオン伝導体とする。第2の製法においても、焼結工程S3と同様、元素YとしてSiを選択する場合、より好ましい焼結温度は1450〜1700℃であり、1700℃が特に好ましい。また、元素YとしてGeを選択する場合、好ましい焼結温度は1500℃である。
【0069】
この場合、La2O3、GeO2およびTiO2を互いに固溶させる工程(造粒工程S20)と、粒成長させる工程(焼結工程S50)とを個別に行っている。このため、結晶の構造変化に要する駆動力と粒成長に要する駆動力とが小さくなる。したがって、全体に亘りアパタイト型構造のLasGe6−tTitO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)が生成した均質な酸化物イオン伝導体を得ることができる。すなわち、この場合、アパタイト型構造ではない不純物相が生成して酸化物イオン伝導度が低下してしまうという懸念がない。
【0070】
しかも、粉砕工程S30において粒径が略均一に揃うように粒体を粉砕することにより、原材料として用いたLa2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末の粒径が互いに大きく異なる場合であっても、酸化物イオン伝導体を緻密な焼結体として得ることができる。このような緻密な焼結体は、実使用に充分耐え得る程度の強度および靱性を有する。
【0071】
このように、第1および第2の製法によれば、La2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末を所定の割合で混合して成形した後に焼結することによって、結晶の構造がアパタイト型構造であり、このために優れた酸化物イオン伝導度を示すLasGe6−tTitO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)を容易に得ることができる。しかも、焼結温度を1700℃以下とすることも可能であるので、酸化物イオン伝導体の製造コストの低廉化を図ることもできる。
【0072】
なお、上記した第1および第2の製法においては、成形工程S2、S40と焼結工程S3、S50とを個別に行うようにしているが、ホットプレス法や熱間等圧成形(HIP)法を採用して成形と焼結とを同時に行うようにしてもよい。
【0073】
また、第1および第2の製法につき、元素ZとしてTiを選定した場合を例示して説明したが、その他の4価の元素、例えば、ZrやHf等を選定するようにしてもよいことはいうまでもない。この場合、原材料粉末としては、例えば、ZrO2粉末やHfO2粉末を使用すればよい。
【0074】
さらに、原材料は酸化物粉末に限定されるものではなく、例えば、ランタン、ゲルマニウム、チタンの各炭酸塩等、酸化物以外の物質の粉末を使用して混合粉末を得るようにしてもよい。
【0075】
さらにまた、元素Xとしてランタノイド等の3価の元素の2種類以上を同時に用いてもよいし、元素YとしてSiとGeとを同時に混合して使用してもよい。
【0076】
いずれの場合においても、各粉末の混合割合は、sが8以上10以下であり、かつtが0より大きく3未満であるLasGe6−tZtO1.5s+12が得られるように設定される。
【0077】
【実施例】
1.元素Zの組成比t
La2O3粉末、GeO2粉末およびHfO2粉末を、モル比を5:5.975:0.025、5:5.95:0.05、5:5.9:0.1、または5:3:3として、エチルアルコール100gを溶媒とする湿式ボールミルで16時間混合した。その後、ロータリエバポレータにて溶媒を揮散除去し、モル比が互いに異なる4種の混合粉末を得た。
【0078】
次いで、熱処理炉において、各混合粉末を1200℃で2時間、大気雰囲気中で熱処理して粒体とした。そして、該粒体に対して上記と同様の条件下で湿式ボールミルによる粉砕を行い、粉末とした。この粉末につきX線回折測定を行ったところ、各々の粒体が上記のモル比に対応する組成比を有する複合酸化物、すなわち、La10Ge5.975Hf0.025O27、La10Ge5.95Hf0.05O27、La10Ge5.9Hf0.1O27、またはLa10Ge3Hf3O27からなることと、La10Ge3Hf3O27を除いては結晶がアパタイト型構造であることとが判明した。
【0079】
さらに、各粉末を金型プレスおよび静水圧成形法により直径10mm、厚み3mmのディスク体に成形した後、熱処理炉内で大気雰囲気中にて1500℃で6時間焼結させ、これにより上記の組成を有する焼結体からなる酸化物イオン伝導体とした。
【0080】
このようにして作製した各酸化物イオン伝導体を厚み1mmまで研削加工した後、Ptペーストを介して両端面にPtリード線を焼き付け接合した。
【0081】
さらに、Ptリード線をヒューレットパッカード社製のインピーダンスアナライザ4192Aに接続した後、周波数を5Hz〜4kHzとして、各酸化物イオン伝導体の交流インピーダンスを400〜900℃の温度範囲で測定し、この測定結果からコール−コールプロットを作成した。その後、このコール−コールプロットから酸化物イオン伝導体のインピーダンスを求め、該インピーダンスから酸化物イオン伝導度を算出した。
【0082】
各酸化物イオン伝導体における酸化物イオン伝導度を、温度の関数として図5に示す。この図5から、Hfの組成比(t)が3と著しく大きい場合、酸化物イオン伝導度が低いことが諒解される。ここで、500℃での酸化物イオン伝導度は10−6未満であり、したがって、グラフには現れていない。
【0083】
なお、La2O3粉末とHfO2粉末のみ、またはLa2O3粉末とZrO2粉末とを5:6のモル比で混合して上記と同様の操作を行い、得られた粉末についてX線回折測定を行ったところ、前者ではLa2Hf2O7とLa2O3、後者ではLa2Zr2O7、La2O3およびZrO2に帰属するピークが出現したのみで、アパタイト型構造に帰属するピークは認められなかった。
【0084】
さらに、HfO2粉末に代替してTiO2粉末またはZrO2粉末を使用し、上記に準拠した操作を行うことによって、La10Ge5.975Ti0.025O27、La10Ge5.95Ti0.05O27、La10Ge5.9Ti0.1O27、La10Ge0.5Ti0.5O27、La10Ge5.975Zr0.025O27、La10Ge5.95Zr0.05O27、La10Ge5.9Zr0.1O27の焼結体を得た。
【0085】
2.単位格子
まず、上記のようにしてGeをHfに置換することによって単位格子の体積に変化が生じるか否かをX線回折測定の結果から調べた。具体的には、ミラー指数が(1,1,0)、(2,0,0)、(0,0,2)、(1,0,2)、(2,1,0)、(2,1,1)、(3,0,0)の各格子面によるピークに基づき、下記の式(1)を使用した。
【0086】
【数1】
【0087】
なお、式(1)中、dは格子面間隔、(h,k,l)はミラー指数、a、cは上記の格子定数を表す。
【0088】
以上のようにして求められた、Ti、ZrまたはHfのモル比(t)と格子体積との関係を図6示す。この図6から、tが大きくなるにつれ格子体積が大きくなることが諒解される。このように格子体積が上昇することは、単位格子10が疎となることを意味する。
【0089】
一方、tとc/aとの関係を図7に示す。この図7から諒解されるように、c/aは、tが大きくなるにつれて小さくなる。
【0090】
このように、GeをTi、ZrまたはHf等で置換することにより、単位格子10を疎とすることができる。このため、O2−14a(図1参照)に作用する力が一層小さくなり、また、A軸またはB軸が延伸することによってイオン間距離が広がるので、O2−14aが移動することが容易となる。しかも、c/aが小さいので、O2−14aがC軸方向に沿って移動する距離が小さくなる。以上の理由から、該O2−14aの移動度が向上し、このために酸化物イオン伝導度が向上すると推察される。
【0091】
3.焼結体の酸化物イオン伝導度
上記のようにして得たLa10Ge6−tHftO27、La10Ge6−tTitO27、La10Ge6−tZrtO27(t=0.025、0.05、0.1、0.5)の各焼結体につき、温度と酸化物イオン伝導度との関係を調べた。各々の焼結体における結果を、グラフにして図8〜図10に示す。なお、各グラフには、t=0の場合、すなわち、La10Ge6O27の酸化物イオン伝導度を併せて示した。
【0092】
さらに、La10Ge6−tTitO27、La10Ge6−tZrtO27における各tの値と酸化物イオン伝導度との関係を500℃および700℃において調べた結果をグラフにして図11および図12に示す。なお、各グラフにおけるt=0、すなわち、y軸切片における値は、La10Ge6O27の酸化物イオン伝導度を表す。
【0093】
これら図8〜図12から、Geの所定量をTi、ZrまたはHfに置換することによって、置換前に比して酸化物イオン伝導度を向上させることができることが明らかである。この理由は、上記したように、置換することによって単位格子10が疎となり、かつアパタイト型構造におけるc/aが低下するためであると考えられる。
【0094】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る酸化物イオン伝導体によれば、酸化物イオンの移動方向であるC軸の格子定数を、残余のA軸およびB軸に比して小さくしている。このため、酸化物イオンの移動度が向上するので、該酸化物イオン伝導体は、1000℃を下回る低温度領域〜中温度領域であっても、優れた酸化物イオン伝導度を示す。このような酸化物イオン伝導体は、例えば、好適な固体電解質として燃料電池に採用することができる。
【0095】
この効果は、結晶がアパタイト型構造に属する複合酸化物において一層顕著となる。
【0096】
また、本発明に係る酸化物イオン伝導体の製造方法によれば、原材料粉末を所定の割合で混合して成形した後に焼結することによって、結晶の構造がアパタイト型構造であり、かつYの一部がZに置換されることに伴いc<a、c<bが低下することに起因して優れた酸化物イオン伝導度を示すXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)を容易に得ることができる。しかも、焼結温度を1700℃以下とすることも可能であるので、酸化物イオン伝導体の製造コストの低廉化を図ることもできるという効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る酸化物イオン伝導体を構成するXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)の単位格子の概略構成図である。
【図2】図1の単位格子を構成する四面体の概略構成図である。
【図3】第1の実施形態に係る酸化物イオン伝導体の製造方法(第1の製法)のフローチャートである。
【図4】第2の実施形態に係る酸化物イオン伝導体の製造方法(第2の製法)のフローチャートである。
【図5】La10Ge6−tHftO27(t=0、0.025、0.05、0.1、3)における酸化物イオン伝導度と、温度との関係を示すグラフである。
【図6】La10Ge6−tHftO27、La10Ge6−tTitO27、La10Ge6−tZrtO27における各tの値と、単位格子の体積との関係を示すグラフである。
【図7】La10Ge6−tHftO27、La10Ge6−tTitO27、La10Ge6−tZrtO27における各tの値と、単位格子におけるc/aとの関係を示すグラフである。
【図8】La10Ge6−tHftO27(t=0.025、0.05、0.1、0.5)の各焼結体における酸化物イオン伝導度と、温度との関係を示すグラフである。
【図9】La10Ge6−tTitO27(t=0.025、0.05、0.1、0.5)の各焼結体における酸化物イオン伝導度と、温度との関係を示すグラフである。
【図10】La10Ge6−tZrtO27(t=0.025、0.05、0.1、0.5)の各焼結体における酸化物イオン伝導度と、温度との関係を示すグラフである。
【図11】500℃および700℃でのLa10Ge6−tTitO27におけるtの値と、酸化物イオン伝導度との関係を示すグラフである。
【図12】500℃および700℃でのLa10Ge6−tZrtO27におけるtの値と、酸化物イオン伝導度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10…単位格子 12…四面体
14a、14b…酸化物イオン(O2−)
16a、16b…ランタンイオン(La3+)
18…Ge4+ 20…Z4+
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物イオン伝導体およびその製造方法に関し、一層詳細には、酸化物イオンの移動方向であるC軸の格子定数が他の軸に比して小さく、このために酸化物イオンの伝導度に優れる酸化物イオン伝導体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Y2O3が添加された安定化ジルコニア(いわゆるYSZ)やCe4+サイトの一部にSm3+が置換固溶したCeO2(いわゆるSDC)等の蛍石型酸化物、または、LaSrGaMgO(いわゆるランタンガレート)等のペロブスカイト型酸化物の結晶格子中には、酸化物イオン(O2−)の空孔が存在する。この空孔が酸化物イオンと位置を入れ替えながら順次移動していくことにより、巨視的には、酸化物イオンが移動する。すなわち、酸化物イオンの伝導が生じる。このような特性を有する物質は酸化物イオン伝導体と指称され、例えば、センサや燃料電池を構成する電解質として利用することが提案されている。
【0003】
しかしながら、このような酸化物イオン伝導体においては、結晶格子中で空孔を移動させるために高温が必要となる。このため、例えば、該酸化物イオン伝導体を燃料電池の電解質とした場合、この燃料電池の運転温度を1000℃程度の高温に設定しなければならないという不具合を招く。
【0004】
これに対し、特許文献1および特許文献2において、希土類元素とSiとの複合酸化物からなり、かつアパタイト型構造をなす物質が、500〜700℃程度の中温度領域であっても比較的優れた酸化物イオン伝導度を示すことが報告されている。また、本出願人は、特許文献1または特許文献2に記載された酸化物イオン伝導体に比して優れた酸化物イオン伝導度を示す物質として、希土類元素とGeとの複合酸化物からなり、かつアパタイト型構造をなす酸化物イオン伝導体を特許文献3で提案している。
【0005】
このような酸化物イオン伝導体を燃料電池の電解質とした場合、上記のYSZやSDC、ランタンガレートを電解質とする燃料電池に比して運転温度を低温にすることができ、加熱に要するエネルギ等を省力化することができるという利点がある。特に、特許文献3に記載された技術においては、酸化物イオン伝導体を作製する際の焼結温度を低温にすることもできる。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−208333号公報(段落[0010]〜[0012])
【特許文献2】
特開平11−130595号公報(段落[0021]〜[0027])
【特許文献3】
特開2002−252005号公報(段落[0020]、[0022])
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した技術に関連してなされたもので、酸化物イオンが移動することが著しく容易であり、このために酸化物イオン伝導度が著しく優れる酸化物イオン伝導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、結晶に含まれる単位格子がA軸、B軸およびC軸の座標軸を有し、前記C軸方向に酸化物イオンが移動することによって酸化物イオン伝導が発現する酸化物イオン伝導体であって、
前記単位格子におけるA軸方向の格子定数をa、B軸方向の格子定数をb、C軸方向の格子定数をcとするとき、c<aかつc<bが成立することを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明に係る酸化物イオン伝導体は、酸化物イオン(O2−)が移動するC軸の格子定数がA軸およびB軸に比して短い。このため、酸化物イオンの移動距離が短くなるので、酸化物イオンが移動することが著しく容易となる。その結果、酸化物イオン伝導度が向上する。
【0010】
C軸の格子定数がA軸およびB軸に比して短い酸化物イオン伝導体の好適な例としては、3価の元素Xと、酸素Oとともに四面体を形成する4価の元素Yと、酸素Oとともに四面体を形成しかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな4価の元素Zとを構成元素として有し、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物を挙げることができる。
【0011】
上記したようなアパタイト型構造となる結晶においては、2aサイトに存在するO2−がC軸方向に移動することに伴って、酸化物イオン伝導が起こる。上記したように、本発明においては、C軸の格子定数が小さいので酸化物イオンの移動距離が短くなり、このためにO2−の移動度が向上する。これにより、酸化物イオン伝導度を向上させることができる。
【0012】
なお、この複合酸化物における元素Zは、組成式がXsY6O1.5s+12(8≦s≦10)で表される複合酸化物のYに置換して存在する。これにより単位格子の体積が置換前に比して大きくなり、その結果、単位格子が疎となることに伴って酸化物イオンに作用する力が減少する。このため、酸化物イオンが移動することが一層容易となる。
【0013】
この場合、酸素Oとともに四面体を形成する元素の一部を置換することによってC軸の格子定数を置換前に比して短くしたり、またはA軸およびB軸の格子定数を置換前に比して長くすることによって、(該C軸の格子定数)/(該A軸の格子定数)、および(該C軸の格子定数)/(該B軸の格子定数)を低下させる。
【0014】
ここで、sが8未満であると、結晶がアパタイト型構造をとらなくなる。このため、酸化物イオン伝導度が低下する。また、10を超える場合、アパタイト型構造の複合酸化物中にそれ以外の構造の複合酸化物、例えば、X2YO5等が不純物として含まれるようになる。結局、この場合も酸化物イオン伝導度が低下する。
【0015】
一方、tは、0を超え3未満に設定される。tが3〜6では、X2ZO5やX2Z2O7等が不純物として含まれるようになり、アパタイト型構造の結晶が得られなくなるのみならず、酸化物イオン伝導度が低下する。tは、0.5以下であることが好ましい。この場合、不純物が含まれないので、酸化物イオン伝導度が良好となるからである。
【0016】
元素Xの好適な例としては、Laを挙げることができる。一方、元素Yの好適な例としては、SiまたはGeを挙げることができる。この場合、酸化物イオン伝導度が特に優れた酸化物イオン伝導体を得ることが可能となる。
【0017】
そして、結晶中で元素Yに置換して存在し、かつ該元素Yに比してイオン半径が大きい4価の元素Zの好適な例としては、Ti、ZrまたはHfを挙げることができる。
【0018】
さらに、結晶の晶系が六方晶系に属し、かつ該結晶の空間群をヘルマン・モーガンの記号で表すときにP63/mとなることが特に好ましい。このような晶系をとるとき、酸化物イオン伝導度が最も大きくなるからである。
【0019】
いずれの場合においても、c/a、c/bがともに0.79以下であることが好ましい。この場合、充分な酸化物イオン伝導度を確保することができるからである。
【0020】
さらにまた、前記格子定数a、bおよびcを乗じて求められる六方晶系の格子体積は、他の元素に置換されていないLa10Si6O27の六方晶系の格子体積である1792Å3よりも大きくなる。六方晶系の格子体積は、他の元素に置換されていないLa10Ge6O27の六方晶系の格子体積である1850Å3よりも大きいことが一層好ましい。この場合、A軸およびB軸の格子定数が大きくなるので、例えば、アパタイト型構造の結晶の場合、2aサイトに存在するO2−と他のイオンとの離間距離が大きくなる。このため、6hサイトに存在するイオンや四面体等が、C軸方向に沿うO2−の移動を妨げることが抑制される。換言すれば、立体障害が小さくなるのでO2−の移動度が向上し、結局、酸化物イオン伝導度を向上させることができる。
【0021】
ここで、六方晶系の格子体積は、後述する図1に示す単位格子の体積に換算して表すこともできる。この場合、単位格子の体積は、六方晶系の体積を3で除すことによって算出される。例えば、La10Ge6O27の単位格子の格子体積は、616Å3となる。
【0022】
また、本発明は、3価の元素Xを構成元素として含有する物質と、4価の元素Yを構成元素として含有する物質と、4価であってかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな元素Zを構成元素として含有する物質とを、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物が生成する割合で混合された混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を成形して成形体とする成形工程と、
前記成形体を焼結することにより、結晶の構造がアパタイト型構造に属しかつ組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表される複合酸化物からなる酸化物イオン伝導体とする焼結工程と、
を有することを特徴とする。
【0023】
このように、元素X、YまたはZを含有する各物質の粉末が所定の割合で混合された混合粉末を成形した後に焼結することによって、結晶がアパタイト型構造、すなわち、優れた酸化物イオン伝導度を示すXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)を容易に得ることができる。
【0024】
さらに、本発明は、3価の元素Xを構成元素として含有する物質と、4価の元素Yを構成元素として含有する物質と、4価であってかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな元素Zを構成元素として含有する物質とを、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物が生成する割合で混合された混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を熱処理することにより、結晶の構造がアパタイト型構造に属しかつ組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表される複合酸化物の粒体とする造粒工程と、
前記粒体を粉砕して複合酸化物粉末とする粉砕工程と、
前記複合酸化物粉末を成形して成形体とする成形工程と、
前記成形体を焼結することにより、前記複合酸化物からなる酸化物イオン伝導体とする焼結工程と、
を有することを特徴とする。なお、ここでいう粒体とは、粉砕工程において粉砕することが可能な程度に凝集ないし結合した粉末の集合体のことである。
【0025】
この場合においても、上記と同様に、結晶がアパタイト型構造のXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)を容易に得ることができる。しかも、この場合、各原材料物質の相互固溶と、粉末の粒成長とが個別に行われるので、全体に亘りアパタイト型構造のXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)が生成し、他の相を含まない均質でかつ緻密な酸化物イオン伝導体を得ることができる。
【0026】
なお、前記造粒工程での熱処理温度は、粉末同士を粉砕可能に凝集ないし結合させることができる温度とすればよく、具体的には、700〜1200℃とすれば充分である。
【0027】
いずれの場合においても、前記焼結工程での焼結温度は、1400〜1800℃とすることが好ましい。すなわち、本発明によれば、焼結温度を1700℃以下とすることも可能である。このため、反応炉の長寿命化を図ることができ、結局、酸化物イオン伝導体の製造コストを低廉化することができる。なお、1400℃未満では粒成長が効率よく進行しない。
【0028】
ランタン(La)を含有する複合酸化物を得るには、混合工程で、元素Xを含有する物質として、例えば、酸化ランタン(La2O3)、水酸化ランタン(La(OH)3)、塩化ランタン(LaCl3)、炭酸ランタン(La2CO3)等のランタン化合物を使用すればよい。このうち、酸化ランタンが最も好ましい。
【0029】
また、SiまたはGeを含有する複合酸化物を得るには、混合工程で、元素Yを含有する物質として、SiO2等のケイ素化合物またはGeO2等のゲルマニウム化合物を使用すればよい。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る酸化物イオン伝導体およびその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
本実施の形態に係る酸化物イオン伝導体は、ランタン(La)、ゲルマニウム(Ge)、および4価の元素Zとの複合酸化物からなる焼結体である。そして、この複合酸化物の組成式はLasGe6−tZtO1.5s+12で表され、sとtのとり得る値は、それぞれ、8≦s≦10、0<t<3である。
【0032】
LasGe6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)の結晶の単位格子を図1に示す。この単位格子10は、6個の四面体12と、2aサイトを占有するO2−14aと、4fサイトまたは6hサイトをそれぞれ占有するLa3+16a、16bとを含むアパタイト型構造である。
【0033】
この単位格子10の晶系は、六方晶系に属する。すなわち、図1において、単位格子10は、各々の格子定数がa、bまたはcであるA軸、B軸およびC軸からなる座標軸を有し、かつa、b、cの間には、a=b≠cの関係が成立する。ここで、図1に示す単位格子10では、後述するように、cがa、bに比して短く設定されている。
【0034】
また、A軸とC軸とがなす角度α、B軸とC軸とがなす角度β、A軸とB軸とがなす角度γは、それぞれ、90°、90°、120°である。なお、図1の単位格子10は、視点をC軸方向として示したものである。
【0035】
このような単位格子10が含まれる六方晶系格子(図示せず)は、単純格子である。そして、この六方晶系格子は、仮想的ならせん軸(図示せず)を中心として1/3回転動作させ、かつ前記らせん軸に沿って辺YFの長さの1/2だけ並進動作させた場合に、動作前後における各イオンの位置が一致する。しかも、このらせん軸には六方晶系格子の鏡映面が直交する。すなわち、LasGe6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)の結晶の空間群をヘルマン・モーガンの記号で表した場合、P63/mとなる。
【0036】
ここで、四面体12は、図2に示すように、各頂点にO2−が位置し、かつ該四面体12の中心にGe4+18またはZ4+20が位置することによって構成される。すなわち、四面体12は、GeO4またはZO4と表すことができる。なお、図1中には、四面体12を構成するGe4+18、Z4+20およびO2−14bは図示していない。
【0037】
このことから諒解されるように、本実施の形態に係る複合酸化物であるLasGe6−tZtO1.5s+12は、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)における結晶の単位格子中のGeO4四面体(図2参照)をなすGe4+18の一部がZ4+20に置換されてなる。Z4+20の置換量は、LasGe6−tZtO1.5s+12におけるtが0より大きくかつ3未満となるように設定される。
【0038】
このようにGeと置換される元素Zとしては、Ge4+20に比してイオン半径が大きくなる元素が選定される。この場合、C軸の格子定数cをA軸の格子定数aまたはB軸の格子定数bに比して短くしたり、A軸の格子定数aやB軸の格子定数bをC軸の格子定数cに比して大きく設定することができるため、未置換のアパタイト型構造酸化物イオン伝導体に比してc/aまたはc/bを低下させることができる。すなわち、置換後のc<a、c<bは、置換前のc<a、c<bに比して小さくなる。
【0039】
元素Zは、Geと置換してO2−14bとともに四面体12を形成し、かつc/a、c/bを低下させることが可能な4価の元素であれば特に限定されるものではないが、Ti、ZrまたはHfを好適な例として挙げることができる。この場合、c/a(=c/b)は0.74以下となり、GeをSiに代替した場合では0.79以下となる。
【0040】
結晶が上記したような単位格子10を有するアパタイト型構造であるLasGe6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)においては、四面体12またはLa3+16a、16bと、2aサイトのO2−14aとの間にさほど大きな引力は作用しない。換言すれば、O2−14aに対する拘束力は比較的小さく、このため、該O2−14aは、2aサイトに束縛されることなくC軸に沿って移動することが可能である。この移動に伴い、単位格子10を有する結晶に酸化物イオン伝導が生じる。
【0041】
そして、本実施の形態に係る酸化物イオン伝導体においては、C軸の格子定数cがa、bよりも短い。このため、C軸方向に沿う酸化物イオンの移動が容易に生じる。
【0042】
しかも、単位格子10におけるC軸の格子定数cは、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)の結晶の単位格子におけるC軸の格子定数よりも短いか、または、単位格子10におけるA軸、B軸の各格子定数a、bは、前記結晶の単位格子におけるA軸、B軸の各格子定数よりも長い。このため、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)に比して、C軸方向に沿う酸化物イオンの移動が容易に生じる。このため、LasGe6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)においては、LasGe6O1.5s+12(8≦s≦10)に比して酸化物イオン伝導度が高くなる。
【0043】
LasGe6−tZtO1.5s+12で表される複合酸化物であっても、単位格子が上記単位格子10とは異なる構造をとるもの、換言すれば、結晶の構造がアパタイト構造ではないものは、酸化物イオン伝導度が低い。このような複合酸化物における単位格子中では、O2−が移動することが困難となるからである。
【0044】
そこで、本実施の形態では、複合酸化物の結晶の主たる構造が図1に示されるアパタイト型構造となるように、LasGe6−tZtO1.5s+12におけるsが8〜10の範囲内に設定される。sが8未満であると結晶の構造がアパタイト型構造とはならず、したがって、酸化物イオン伝導度が低下する。また、10を超える場合、アパタイト型構造の複合酸化物に、その他の構造の複合酸化物、例えば、La2GeO5等が不純物として含まれるようになる。結局、この場合も酸化物イオン伝導度が低下する。
【0045】
より好ましいsの範囲は、8〜9.33である。この場合、結晶の大多数がアパタイト型構造(図1参照)となり、その他の構造の不純物相はほとんど認められなくなる。すなわち、酸化物イオン伝導度が最も高くなる。
【0046】
一方、tは、上記したように、0を超え3未満に設定される。tが3を超える場合、結晶がアパタイト型構造をとらなくなり、La2ZO5やLa2Z2O7等が不純物として含まれるようになるので、酸化物イオン伝導度が低下する。tの好ましい範囲は、0を超え0.5以下である。
【0047】
この酸化物イオン伝導体は、後述するように、1000℃を下回る低温度領域〜中温度領域で優れた酸化物イオン伝導度を示す。したがって、例えば、本実施の形態に係る酸化物イオン伝導体を固体電解質とする燃料電池では、従来技術に係る酸化物イオン伝導体を固体電解質とする燃料電池に比して、低温で運転する場合においても同等の発電特性を得ることができる。このため、燃料電池の運転コストを低廉化することができる。
【0048】
次に、この酸化物イオン伝導体の製造方法につき、Laを含有する物質として酸化ランタン(La2O3)、Geを含有する物質として酸化ゲルマニウム(GeO2)を選定し、かつ元素ZとしてのTiを含有する物質に酸化チタン(TiO2)を選定した場合を例示して説明する。
【0049】
第1の実施形態に係る酸化物イオン伝導体の製造方法(以下、第1の製法という)のフローチャートを図3に示す。第1の製法は、各原材料粉末を混合して混合粉末とする混合工程S1と、前記混合粉末を成形して成形体とする成形工程S2と、前記成形体を焼結して酸化物イオン伝導体(焼結体)とする焼結工程S3とを有する。
【0050】
まず、混合工程S1において、La2O3粉末と、GeO2粉末と、TiO2粉末とを混合する。
【0051】
この際、原材料粉末における組成比は、最終的に得られるLasGe6−tTitO1.5s+12におけるsが8〜10の範囲内となり、かつtが3未満となるように設定される。例えば、La10Ge5.975Ti0.025O27を得る場合、La2O3、GeO2、TiO2のモル比が5:5.975:0.025となるように各粉末を秤量して混合すればよい。また、La10Ge5.9Ti0.1O27を得る場合、La2O3、GeO2、TiO2のモル比が5:5.9:0.1となるように各粉末を秤量して混合すればよい。
【0052】
次いで、成形工程S2において、この混合粉末を成形する。この際の成形方法は特定の方法に限定されるものではなく、プレス成形法や泥しょう鋳込み法、押出成形法等、公知の成形方法を採用することができる。成形体の形状は、使用形態に応じた形状とすればよい。
【0053】
次いで、焼結工程S3において、前記成形体を焼結することによりLa2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末を粒成長させる。すなわち、互いに接触した粒子同士の接合部を成長させ、最終的に当該粒子同士を併合させて大粒子とする。また、La2O3、GeO2およびTiO2を互いに固溶させ、組成式がLasGe6−tTitO1.5s+12で表される複合酸化物とする。これにより、LasGe6−tTitO1.5s+12の焼結体、すなわち、酸化物イオン伝導体が得られるに至る。
【0054】
焼結温度は、1400〜1800℃とすることが好ましい。1400℃未満では粒成長が効率よく進行せず、また、1800℃を超える温度では、焼結に使用される反応炉を構成する発熱体や断熱材、反応管等の耐久性が急激に低下してしまうからである。元素YとしてSiを選択する場合、より好ましい焼結温度は1450〜1700℃であり、1700℃が特に好ましい。また、元素YとしてGeを選択する場合、好ましい焼結温度は1500℃である。
【0055】
このように、第1の製法においては、1700℃以下の比較的低温で焼結を行った場合であっても、焼結体(酸化物イオン伝導体)を得ることが可能である。このため、反応炉の長寿命化を図ることができ、かつ製造コストを低廉化することもできる。
【0056】
この酸化物イオン伝導体(LasGe6−tTitO1.5s+12)は、混合工程S1において設定された組成比に応じた組成比を有する。勿論、sは8〜10の範囲内であり、かつtは0より大きく3未満である。このため、六方晶系に属しかつ空間群がP63/mで表されるアパタイト型構造の結晶を有し、このために優れた酸化物イオン伝導度を示す複合酸化物が得られる。
【0057】
しかも、この場合、c/a(=c/b)を0.79以下とすることができるので、酸化物イオンをC軸に沿って移動させることが容易となる。
【0058】
ところで、La2O3、GeO2またはTiO2と、LasGe6−tTitO1.5s+12とは、結晶の構造が互いに異なる。例えば、La2O3の結晶の構造はルチル型構造であり、アパタイト型構造とは大きく相違する。このため、第1の製法のように成形体を直接焼結する場合、La2O3、GeO2およびTiO2の固溶に伴う結晶の構造変化と、粒成長とが同時に進行するので、焼結における駆動力が小さいと、結晶の構造変化または粒成長が充分に進行しないことがある。このような事態を確実に回避するべく、La2O3、GeO2およびTiO2を互いに固溶させる工程は、以下に説明するように、粒成長させる工程とは別の工程とすることが望ましい。
【0059】
第2の実施形態に係る酸化物イオン伝導体の製造方法(以下、第2の製法という)のフローチャートを図4に示す。なお、第1の製法と同様の操作を行う工程については同一の名称を付し、その詳細な説明を省略する。
【0060】
第2の製法は、各原材料粉末を混合して混合粉末とする混合工程S10と、前記混合粉末を熱処理することによりランタン、ゲルマニウムおよびチタンの複合酸化物の粒体とする造粒工程S20と、前記粒体を粉砕して複合酸化物粉末とする粉砕工程S30と、前記複合酸化物粉末を成形して成形体とする成形工程S40と、前記成形体を焼結することにより酸化物イオン伝導体とする焼結工程S50とを有する。
【0061】
まず、上記第1の製法における混合工程S1に準拠して、La2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末を混合する。勿論、この場合においても、各粉末は、最終的に得られるLasGe6−tTitO1.5s+12におけるsの値が8〜10の範囲内となり、かつtが0より大きく3未満となる割合で混合される。
【0062】
次いで、造粒工程S20において、この混合粉末を熱処理することによって粉砕可能な程度まで互いに融着させる。すなわち、粉末同士を粉砕可能に凝集ないし結合させて粒体とする。この時点で緻密な焼結体とすると、粉砕することが著しく困難となる。
【0063】
換言すれば、造粒工程S20における熱処理温度は、混合粉末の著しい粒成長が起こらない程度に設定される。この場合、La2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末であるので、700〜1200℃とすれば充分である。
【0064】
この際、La2O3、GeO2およびTiO2が互いに固溶し合う。すなわち、第2の製法においては、この時点でLasGe6−tTitO1.5s+12が生成する。造粒工程S20における熱処理は、LasGe6−tTitO1.5s+12の生成が終了するまで行うようにすればよく、具体的には2時間程度とすればよい。なお、sが8〜10の範囲内であり、かつtが0より大きく3未満であることはいうまでもない。
【0065】
なお、上記したような温度および時間で混合粉末の熱処理を行った場合、得られたLasGe6−tTitO1.5s+12の粒体における凝集力ないし結合力は、乳鉢であっても容易に粉砕することが可能な程度である。
【0066】
次いで、粉砕工程S30において、LasGe6−tTitO1.5s+12の粒体を粉砕して粉末とする。粉砕方法は特に限定されるものではなく、乳鉢で行うようにしてもよいが、ボールミル等、粉末の粒径を略均一に揃えることが可能な方法であることが好ましい。これにより焼結体に気孔が残留し難くなるので、結局、強度および靱性に優れた酸化物イオン伝導体を得ることができるからである。
【0067】
次いで、成形工程S40において、上記第1の製法の成形工程S2に準拠して成形体を作製する。
【0068】
最後に、焼結工程S50において、上記焼結工程S3に準拠して成形体を焼結し、酸化物イオン伝導体とする。第2の製法においても、焼結工程S3と同様、元素YとしてSiを選択する場合、より好ましい焼結温度は1450〜1700℃であり、1700℃が特に好ましい。また、元素YとしてGeを選択する場合、好ましい焼結温度は1500℃である。
【0069】
この場合、La2O3、GeO2およびTiO2を互いに固溶させる工程(造粒工程S20)と、粒成長させる工程(焼結工程S50)とを個別に行っている。このため、結晶の構造変化に要する駆動力と粒成長に要する駆動力とが小さくなる。したがって、全体に亘りアパタイト型構造のLasGe6−tTitO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)が生成した均質な酸化物イオン伝導体を得ることができる。すなわち、この場合、アパタイト型構造ではない不純物相が生成して酸化物イオン伝導度が低下してしまうという懸念がない。
【0070】
しかも、粉砕工程S30において粒径が略均一に揃うように粒体を粉砕することにより、原材料として用いたLa2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末の粒径が互いに大きく異なる場合であっても、酸化物イオン伝導体を緻密な焼結体として得ることができる。このような緻密な焼結体は、実使用に充分耐え得る程度の強度および靱性を有する。
【0071】
このように、第1および第2の製法によれば、La2O3粉末、GeO2粉末およびTiO2粉末を所定の割合で混合して成形した後に焼結することによって、結晶の構造がアパタイト型構造であり、このために優れた酸化物イオン伝導度を示すLasGe6−tTitO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)を容易に得ることができる。しかも、焼結温度を1700℃以下とすることも可能であるので、酸化物イオン伝導体の製造コストの低廉化を図ることもできる。
【0072】
なお、上記した第1および第2の製法においては、成形工程S2、S40と焼結工程S3、S50とを個別に行うようにしているが、ホットプレス法や熱間等圧成形(HIP)法を採用して成形と焼結とを同時に行うようにしてもよい。
【0073】
また、第1および第2の製法につき、元素ZとしてTiを選定した場合を例示して説明したが、その他の4価の元素、例えば、ZrやHf等を選定するようにしてもよいことはいうまでもない。この場合、原材料粉末としては、例えば、ZrO2粉末やHfO2粉末を使用すればよい。
【0074】
さらに、原材料は酸化物粉末に限定されるものではなく、例えば、ランタン、ゲルマニウム、チタンの各炭酸塩等、酸化物以外の物質の粉末を使用して混合粉末を得るようにしてもよい。
【0075】
さらにまた、元素Xとしてランタノイド等の3価の元素の2種類以上を同時に用いてもよいし、元素YとしてSiとGeとを同時に混合して使用してもよい。
【0076】
いずれの場合においても、各粉末の混合割合は、sが8以上10以下であり、かつtが0より大きく3未満であるLasGe6−tZtO1.5s+12が得られるように設定される。
【0077】
【実施例】
1.元素Zの組成比t
La2O3粉末、GeO2粉末およびHfO2粉末を、モル比を5:5.975:0.025、5:5.95:0.05、5:5.9:0.1、または5:3:3として、エチルアルコール100gを溶媒とする湿式ボールミルで16時間混合した。その後、ロータリエバポレータにて溶媒を揮散除去し、モル比が互いに異なる4種の混合粉末を得た。
【0078】
次いで、熱処理炉において、各混合粉末を1200℃で2時間、大気雰囲気中で熱処理して粒体とした。そして、該粒体に対して上記と同様の条件下で湿式ボールミルによる粉砕を行い、粉末とした。この粉末につきX線回折測定を行ったところ、各々の粒体が上記のモル比に対応する組成比を有する複合酸化物、すなわち、La10Ge5.975Hf0.025O27、La10Ge5.95Hf0.05O27、La10Ge5.9Hf0.1O27、またはLa10Ge3Hf3O27からなることと、La10Ge3Hf3O27を除いては結晶がアパタイト型構造であることとが判明した。
【0079】
さらに、各粉末を金型プレスおよび静水圧成形法により直径10mm、厚み3mmのディスク体に成形した後、熱処理炉内で大気雰囲気中にて1500℃で6時間焼結させ、これにより上記の組成を有する焼結体からなる酸化物イオン伝導体とした。
【0080】
このようにして作製した各酸化物イオン伝導体を厚み1mmまで研削加工した後、Ptペーストを介して両端面にPtリード線を焼き付け接合した。
【0081】
さらに、Ptリード線をヒューレットパッカード社製のインピーダンスアナライザ4192Aに接続した後、周波数を5Hz〜4kHzとして、各酸化物イオン伝導体の交流インピーダンスを400〜900℃の温度範囲で測定し、この測定結果からコール−コールプロットを作成した。その後、このコール−コールプロットから酸化物イオン伝導体のインピーダンスを求め、該インピーダンスから酸化物イオン伝導度を算出した。
【0082】
各酸化物イオン伝導体における酸化物イオン伝導度を、温度の関数として図5に示す。この図5から、Hfの組成比(t)が3と著しく大きい場合、酸化物イオン伝導度が低いことが諒解される。ここで、500℃での酸化物イオン伝導度は10−6未満であり、したがって、グラフには現れていない。
【0083】
なお、La2O3粉末とHfO2粉末のみ、またはLa2O3粉末とZrO2粉末とを5:6のモル比で混合して上記と同様の操作を行い、得られた粉末についてX線回折測定を行ったところ、前者ではLa2Hf2O7とLa2O3、後者ではLa2Zr2O7、La2O3およびZrO2に帰属するピークが出現したのみで、アパタイト型構造に帰属するピークは認められなかった。
【0084】
さらに、HfO2粉末に代替してTiO2粉末またはZrO2粉末を使用し、上記に準拠した操作を行うことによって、La10Ge5.975Ti0.025O27、La10Ge5.95Ti0.05O27、La10Ge5.9Ti0.1O27、La10Ge0.5Ti0.5O27、La10Ge5.975Zr0.025O27、La10Ge5.95Zr0.05O27、La10Ge5.9Zr0.1O27の焼結体を得た。
【0085】
2.単位格子
まず、上記のようにしてGeをHfに置換することによって単位格子の体積に変化が生じるか否かをX線回折測定の結果から調べた。具体的には、ミラー指数が(1,1,0)、(2,0,0)、(0,0,2)、(1,0,2)、(2,1,0)、(2,1,1)、(3,0,0)の各格子面によるピークに基づき、下記の式(1)を使用した。
【0086】
【数1】
【0087】
なお、式(1)中、dは格子面間隔、(h,k,l)はミラー指数、a、cは上記の格子定数を表す。
【0088】
以上のようにして求められた、Ti、ZrまたはHfのモル比(t)と格子体積との関係を図6示す。この図6から、tが大きくなるにつれ格子体積が大きくなることが諒解される。このように格子体積が上昇することは、単位格子10が疎となることを意味する。
【0089】
一方、tとc/aとの関係を図7に示す。この図7から諒解されるように、c/aは、tが大きくなるにつれて小さくなる。
【0090】
このように、GeをTi、ZrまたはHf等で置換することにより、単位格子10を疎とすることができる。このため、O2−14a(図1参照)に作用する力が一層小さくなり、また、A軸またはB軸が延伸することによってイオン間距離が広がるので、O2−14aが移動することが容易となる。しかも、c/aが小さいので、O2−14aがC軸方向に沿って移動する距離が小さくなる。以上の理由から、該O2−14aの移動度が向上し、このために酸化物イオン伝導度が向上すると推察される。
【0091】
3.焼結体の酸化物イオン伝導度
上記のようにして得たLa10Ge6−tHftO27、La10Ge6−tTitO27、La10Ge6−tZrtO27(t=0.025、0.05、0.1、0.5)の各焼結体につき、温度と酸化物イオン伝導度との関係を調べた。各々の焼結体における結果を、グラフにして図8〜図10に示す。なお、各グラフには、t=0の場合、すなわち、La10Ge6O27の酸化物イオン伝導度を併せて示した。
【0092】
さらに、La10Ge6−tTitO27、La10Ge6−tZrtO27における各tの値と酸化物イオン伝導度との関係を500℃および700℃において調べた結果をグラフにして図11および図12に示す。なお、各グラフにおけるt=0、すなわち、y軸切片における値は、La10Ge6O27の酸化物イオン伝導度を表す。
【0093】
これら図8〜図12から、Geの所定量をTi、ZrまたはHfに置換することによって、置換前に比して酸化物イオン伝導度を向上させることができることが明らかである。この理由は、上記したように、置換することによって単位格子10が疎となり、かつアパタイト型構造におけるc/aが低下するためであると考えられる。
【0094】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る酸化物イオン伝導体によれば、酸化物イオンの移動方向であるC軸の格子定数を、残余のA軸およびB軸に比して小さくしている。このため、酸化物イオンの移動度が向上するので、該酸化物イオン伝導体は、1000℃を下回る低温度領域〜中温度領域であっても、優れた酸化物イオン伝導度を示す。このような酸化物イオン伝導体は、例えば、好適な固体電解質として燃料電池に採用することができる。
【0095】
この効果は、結晶がアパタイト型構造に属する複合酸化物において一層顕著となる。
【0096】
また、本発明に係る酸化物イオン伝導体の製造方法によれば、原材料粉末を所定の割合で混合して成形した後に焼結することによって、結晶の構造がアパタイト型構造であり、かつYの一部がZに置換されることに伴いc<a、c<bが低下することに起因して優れた酸化物イオン伝導度を示すXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)を容易に得ることができる。しかも、焼結温度を1700℃以下とすることも可能であるので、酸化物イオン伝導体の製造コストの低廉化を図ることもできるという効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る酸化物イオン伝導体を構成するXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)の単位格子の概略構成図である。
【図2】図1の単位格子を構成する四面体の概略構成図である。
【図3】第1の実施形態に係る酸化物イオン伝導体の製造方法(第1の製法)のフローチャートである。
【図4】第2の実施形態に係る酸化物イオン伝導体の製造方法(第2の製法)のフローチャートである。
【図5】La10Ge6−tHftO27(t=0、0.025、0.05、0.1、3)における酸化物イオン伝導度と、温度との関係を示すグラフである。
【図6】La10Ge6−tHftO27、La10Ge6−tTitO27、La10Ge6−tZrtO27における各tの値と、単位格子の体積との関係を示すグラフである。
【図7】La10Ge6−tHftO27、La10Ge6−tTitO27、La10Ge6−tZrtO27における各tの値と、単位格子におけるc/aとの関係を示すグラフである。
【図8】La10Ge6−tHftO27(t=0.025、0.05、0.1、0.5)の各焼結体における酸化物イオン伝導度と、温度との関係を示すグラフである。
【図9】La10Ge6−tTitO27(t=0.025、0.05、0.1、0.5)の各焼結体における酸化物イオン伝導度と、温度との関係を示すグラフである。
【図10】La10Ge6−tZrtO27(t=0.025、0.05、0.1、0.5)の各焼結体における酸化物イオン伝導度と、温度との関係を示すグラフである。
【図11】500℃および700℃でのLa10Ge6−tTitO27におけるtの値と、酸化物イオン伝導度との関係を示すグラフである。
【図12】500℃および700℃でのLa10Ge6−tZrtO27におけるtの値と、酸化物イオン伝導度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10…単位格子 12…四面体
14a、14b…酸化物イオン(O2−)
16a、16b…ランタンイオン(La3+)
18…Ge4+ 20…Z4+
Claims (15)
- 結晶に含まれる単位格子がA軸、B軸およびC軸の座標軸を有し、前記C軸方向に酸化物イオンが移動することによって酸化物イオン伝導が発現する酸化物イオン伝導体であって、
前記単位格子におけるA軸方向の格子定数をa、B軸方向の格子定数をb、C軸方向の格子定数をcとするとき、c<aかつc<bが成立することを特徴とする酸化物イオン伝導体。 - 請求項1記載の伝導体において、当該伝導体は、3価の元素Xと、酸素Oとともに四面体を形成する4価の元素Yと、酸素Oとともに四面体を形成しかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな4価の元素Zとを構成元素として有し、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物であることを特徴とする酸化物イオン伝導体。
- 請求項2記載の伝導体において、前記元素XがLaであることを特徴とする酸化物イオン伝導体。
- 請求項2または3記載の伝導体において、前記元素YがSiまたはGeであることを特徴とする酸化物イオン伝導体。
- 請求項4記載の伝導体において、前記元素ZがTi、ZrまたはHfであることを特徴とする酸化物イオン伝導体。
- 請求項2〜5のいずれか1項に記載の伝導体において、前記複合酸化物の結晶の晶系が六方晶系に属することを特徴とする酸化物イオン伝導体。
- 請求項6記載の伝導体において、前記複合酸化物の結晶の空間群をヘルマン・モーガンの記号で表すときにP63/mとなることを特徴とする酸化物イオン伝導体。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の伝導体において、c/a≦0.79が成立し、かつc/b≦0.79が成立することを特徴とする酸化物イオン伝導体。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の伝導体において、前記格子定数a、bおよびcを乗じて求められる六方晶系の格子体積が1792Å3よりも大きいことを特徴とする酸化物イオン伝導体。
- 3価の元素Xを構成元素として含有する物質と、4価の元素Yを構成元素として含有する物質と、4価であってかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな元素Zを構成元素として含有する物質とを、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物が生成する割合で混合された混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を成形して成形体とする成形工程と、
前記成形体を焼結することにより、結晶の構造がアパタイト型構造に属しかつ組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表される複合酸化物からなる酸化物イオン伝導体とする焼結工程と、
を有することを特徴とする酸化物イオン伝導体の製造方法。 - 3価の元素Xを構成元素として含有する物質と、4価の元素Yを構成元素として含有する物質と、4価であってかつ前記元素Yに比してイオン半径が大きな元素Zを構成元素として含有する物質とを、組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表されるとともに、結晶構造がアパタイト型構造である複合酸化物が生成する割合で混合された混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を熱処理することにより、結晶の構造がアパタイト型構造に属しかつ組成式がXsY6−tZtO1.5s+12(8≦s≦10、0<t<3)で表される複合酸化物の粒体とする造粒工程と、
前記粒体を粉砕して複合酸化物粉末とする粉砕工程と、
前記複合酸化物粉末を成形して成形体とする成形工程と、
前記成形体を焼結することにより、前記複合酸化物からなる酸化物イオン伝導体とする焼結工程と、
を有することを特徴とする酸化物イオン伝導体の製造方法。 - 請求項11記載の製造方法において、前記造粒工程での熱処理温度を700〜1200℃とすることを特徴とする酸化物イオン伝導体の製造方法。
- 請求項10〜12のいずれか1項に記載の製造方法において、前記焼結工程での焼結温度を1400〜1800℃とすることを特徴とする酸化物イオン伝導体の製造方法。
- 請求項10〜13のいずれか1項に記載の製造方法において、前記混合工程で、前記元素Xを含有する物質としてランタン化合物を使用することを特徴とする酸化物イオン伝導体の製造方法。
- 請求項10〜14のいずれか1項に記載の製造方法において、前記混合工程で、前記元素Yを含有する物質としてケイ素化合物またはゲルマニウム化合物を使用することを特徴とする酸化物イオン伝導体の製造方法。
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