JP2004316860A - 無段変速機の制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】無段変速機のトルク容量を設定する挟圧力を低下させて滑りの生じる限界圧を検出する無段変速機の制御装置であって、予め定めた所定時間内で前記挟圧力を低下させるとともに、その挟圧力の低下に伴って生じる滑りの限界圧を検出する限界圧検出手段(ステップS15,S16)を備えている。したがって検出制御時間が制限されていることにより、その過程で外乱などによる誤差要因を取り込む可能性が少なくなり、検出精度を向上させることができる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、挟圧力に応じてトルク容量の変化する無段変速機を対象とした制御装置に関し、特に挟圧力を低下させて滑り限界圧を検出するように構成された制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベルト式無段変速機やトラクション式無段変速機は、ベルトとプーリーとの間の摩擦力や、ディスクとローラとの間のトラクションオイルのせん断力を利用してトルクを伝達している。したがってこれらの無段変速機のトルク容量は、そのトルクの伝達が生じる箇所に作用する圧力に応じて設定される。
【0003】
無段変速機における上記の圧力は挟圧力と称され、その挟圧力を高くすれば、トルク容量を増大させて滑りを回避できるが、その反面、高い圧力を生じさせるために動力を必要以上に消費したり、あるいは動力の伝達効率が低下するなどの不都合がある。そのため、一般的には、意図しない滑りが生じない範囲で、挟圧力を可及的に低く設定している。
【0004】
例えば、無段変速機を搭載した車両では、エンジンの回転数を無段変速機によって制御して燃費の向上を図ることができるので、その利点を損なわないために、無段変速機での動力伝達効率を可及的に向上させるべく、挟圧力を、滑りが生じない範囲で可及的に低く設定するように制御されている。そのためには、滑りの生じ始める圧力(すなわち滑り限界圧)を検出する必要があり、従来では、種々の方法で滑りを検出し、また滑り限界圧力を検出している。
【0005】
その一例を挙げると、摩擦接触して動力を伝達する無段変速機あるいはその伝動システムを対象とした滑り検出方法であって、圧着力(すなわち挟圧力あるいは係合圧)を低下させることに伴う摩擦効率の上昇(具体的には油温の上昇)を検出してスリップを判定する方法が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された方法では、伝達する力や速度あるいは伝達比がほぼ一定の状態で圧着力を徐々に低下させてスリップ限界を決定し、次いでスリップを存在させないように、あるいは予め規定したスリップ限界値を超えないように圧着力を調整している。
【0006】
また、特許文献2には、ベルト式無段変速機における実変速比変化率と理論変速変化率とを比較することによりベルト滑りの有無を検出し、ベルト滑りが検出された場合にはライン圧を増加させるように構成した装置が記載されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−12593号公報(請求項1,2、図11)
【特許文献2】
特開平6−11022号公報(要約)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
無段変速機におけるトルク容量は、無段変速機に入力されるトルクに対応させて設定するから、前記挟圧力あるいは圧着力は入力トルクに対応したものとなる。したがって特許文献1に記載されているように圧着力(すなわち挟圧力)を低下させてスリップ限界を決定する制御は、多様な入力トルクとなる実際の走行状態で実行することになる。
【0009】
その場合、伝達する力や伝達比などが一定であることを、圧着力を低下させる前提条件としているが、車両が走行している状態では、車速やトルクなどの運転条件が僅かながらとも変化しているのが通常である。そのため、上記の特許文献1に記載された方法でスリップ限界を決定するにあたり、圧着力の低下からスリップの検出あるいはスリップ限界の決定までの時間が長いに場合には、その間での運転状態もしくは走行状態の変化にスリップ限界の検出精度が低下する可能性があった。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、挟圧力を低下させることに伴う滑りもしくは挟圧力の滑り限界圧を精度良く検出することのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、挟圧力を低下させることに伴う挙動の変化から滑り限界圧を検出する制御を所定時間内に制限するように構成したことを特徴とするものである。すなわち、請求項1の発明は、無段変速機のトルク容量を設定する挟圧力を低下させて滑りの生じる限界圧を検出する無段変速機の制御装置において、予め定めた所定時間内で前記挟圧力を低下させるとともに、その挟圧力の低下に伴って生じる滑りの限界圧を検出する限界圧検出手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
【0012】
したがって請求項1の発明では、所定時間の間に挟圧力が低下させられ、かつそれに伴う滑りや滑り限界圧の検出がおこなわれる。言い換えれば、運転状態や駆動状態などの変化の可能性が少ない短時間のうちに滑りや滑り限界圧が検出され、その結果、滑り限界圧の検出精度が向上する。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記滑りの限界圧を現在時点より前の変速比もしくは変速速度から推定した推定値と現在時点における変速比もしくは変速速度とに基づいて判定する滑り限界判定手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0014】
したがって請求項2の発明では、挟圧力を低下させることに伴う滑りの限界圧が、変速比もしくは変速速度の推定値と現在時点の変速比もしくは変速速度とに基づいて判定される。その判定が所定時間内におこなわれるので、推定値や実際値の誤差が少なく、滑りの判定やそれに伴う滑り限界圧の検出の精度が向上する。
【0015】
さらに、請求項3の発明は、請求項2の発明における前記推定値を前記挟圧力の低下開始時に所定時間を考慮して求める推定値算出手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0016】
したがって請求項3の発明では、挟圧力の低下指令の出力の後、挟圧力が実際に低下し始めるまでの無駄時間や応答性など、挟圧力の低下開始時に所定時間を考慮して推定値が求められる。そのため、推定値に含まれる誤差が少なくなり、また滑りの判定精度や滑り限界圧の検出精度が向上する。
【0017】
さらにまた、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記滑りの限界圧に基づいて前記挟圧力の学習値を求める学習手段と、その学習値に基づいて前記挟圧力を設定してから所定時間後の実際の変速比と推定された変速比とを比較する比較手段と、実際の変速比と推定された変速比との前記比較手段での比較結果の値が所定範囲外の場合に前記学習値を挟圧力制御に使用しないようにする学習値不採用手段とを更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0018】
したがって請求項4の発明では、検出された滑りの限界圧に基づいて挟圧力の学習値が求められ、その学習値に基づく挟圧力を設定してから所定時間後の変速比と推定変速比との比較がおこなわれ、例えば両者の差などの両者を比較した結果としての値が所定値より大きい場合のように、その比較結果によっては前記学習値が挟圧力制御に採用されない。すなわち学習値の適否が判断され、適正でない学習値は制御に反映させないので、挟圧力の誤設定が回避もしくは防止される。
【0019】
また一方、請求項5の発明は、請求項2の発明における前記滑り限界判定手段が、前記変速速度の推定値を、現在時点に対して直前の時点における変速速度とする手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0020】
したがって請求項5の発明では、変速速度の推定値として現在時点に対して直前の時点における変速速度が採用され、その推定値に基づいて滑りの限界圧が検出される。その結果、変速比もしくは変速速度が変化している変速中であっても、変速速度の推定値の誤差が僅少になり、滑り限界圧の検出精度が向上する。
【0021】
またさらに、請求項6の発明は、請求項2の発明における前記滑り限界判定手段が、前記挟圧力の低下を開始する時点を含む所定範囲の時点における変速速度を、前記変速速度の推定値とする手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0022】
したがって請求項6の発明では、変速速度の推定値として、挟圧力の低下を開始する時点に近い時点での変速速度が採用され、その値と現在時点の変速速度とを対比することにより、滑りの限界圧が検出される。そのため、変速速度の推定値の誤差が少なく、滑り限界圧の検出精度が向上する。
【0023】
そしてまた、請求項7の発明は、請求項1ないし6のいずれかの発明において、前記滑り限界圧の検出制御の終了判定を、滑り限界検出前の変速指令値もしくは変速速度と、滑り限界圧検出時の変速比とに基づいて判定する終了判定手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0024】
したがって請求項7の発明では、滑り限界圧が検出されると、その時点の変速比とそれより以前の変速指令値もしくは変速速度とに基づいて、滑り限界圧の検出制御の終了が判定される。そのため、変速中での滑り限界圧の検出制御の終了判定が適切におこなわれる。
【0025】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする無段変速機を含む駆動機構について説明すると、この発明は、車両に搭載される無段変速機を対象とすることができ、その無段変速機は、ベルトをトルク伝達部材としたベルト式の無段変速機や、パワーローラをトルク伝達部材とするとともにオイル(トラクション油)のせん断力を利用してトルクを伝達するトロイダル型(トラクション式)無段変速機である。図11には、ベルト式無段変速機1を含む車両用駆動機構の一例を模式的に示しており、この無段変速機1は、前後進切換機構2およびトルクコンバータ3を介して、動力源4に連結されている。
【0026】
その動力源4は、一般の車両に搭載されている動力源と同様のものであって、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどの内燃機関や、電動機、あるいは内燃機関と電動機とを組み合わせた機構などを採用することができる。なお、以下の説明では、動力源4をエンジン4と記す。
【0027】
エンジン4の出力軸に連結されたトルクコンバータ3は、従来一般の車両で採用しているトルクコンバータと同様の構造であって、エンジン4の出力軸が連結されたフロントカバー5にポンプインペラー6が一体化されており、そのポンプインペラー6に対向するタービンランナー7が、フロントカバー5の内面に隣接して配置されている。これらのポンプインペラー6とタービンランナー7とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラー6が回転することによりフルードの螺旋流を生じさせ、その螺旋流をタービンランナー7に送ることによりタービンランナー7にトルクを与えて回転させるようになっている。
【0028】
また、ポンプインペラー6とタービンランナー7との間でこれらの内周側の位置には、タービンランナー7から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラー6に流入させるステータ8が配置されている。このステータ8は、一方向クラッチ9を介して所定の固定部10に連結されている。
【0029】
このトルクコンバータ3は、ロックアップクラッチ11を備えている。ロックアップクラッチ11は、ポンプインペラー6とタービンランナー7とステータ8とからなる実質的なトルクコンバータに対して並列に配置されたものであって、フロントカバー5の内面に対向した状態で前記タービンランナー7に保持されており、油圧によってフロントカバー5の内面に押し付けられることにより、入力部材であるフロントカバー5から出力部材であるタービンランナー7に直接、トルクを伝達するようになっている。なお、その油圧を制御することによりロックアップクラッチ11のトルク容量を制御できる。
【0030】
前後進切換機構2は、エンジン4の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図11に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。
【0031】
すなわち、サンギヤ12と同心円上にリングギヤ13が配置され、これらのサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛合したピニオンギヤ14とそのピニオンギヤ14およびリングギヤ13に噛合した他のピニオンギヤ15とが配置され、これらのピニオンギヤ14,15がキャリヤ16によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ12とキャリヤ16と)を一体的に連結する前進用クラッチ17が設けられ、またリングギヤ13を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ18が設けられている。
【0032】
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリー19と従動プーリー20とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ21,22によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリー19,20の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリー19,20に巻掛けたベルト23の巻掛け半径(プーリー19,20の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリー19が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ16に連結されている。これらの各プーリー19,20およびベルト23が無段変速部を構成している。
【0033】
なお、従動プーリー20における油圧アクチュエータ22には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリー20における各シーブがベルト23を挟み付けることにより、ベルト23に張力が付与され、各プーリー19,20とベルト15との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。言い換えれば、挟圧力に応じたトルク容量が設定される。これに対して駆動プーリー19における油圧アクチュエータ21には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0034】
無段変速機1の出力部材である従動プーリー20がギヤ対24およびディファレンシャル25に連結され、さらにそのディファレンシャル25が左右の駆動輪26に連結されている。
【0035】
上記の無段変速機1およびエンジン4を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、エンジン4の出力軸回転速度(ロックアップクラッチ11の入力軸回転速度)Ne を検出して信号を出力するエンジン回転速度センサー27、タービンランナー7の回転速度を検出して信号を出力するタービン回転速度センサー28、駆動プーリー19の回転速度Ninを検出して信号を出力する入力軸回転速度センサー29、従動プーリー20の回転速度Nout を検出して信号を出力する出力軸回転速度センサー30などが設けられている。
【0036】
上記の前進用クラッチ17および後進用ブレーキ18の係合・解放の制御、および前記ベルト23の挟圧力の制御、ならびにロックアップクラッチ11の係合・解放を含むトルク容量の制御、さらには変速比の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)31が設けられている。この電子制御装置31は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。また、エンジン4を制御するエンジン用電子制御装置(E−ECU)32が設けられ、これらの電子制御装置31,32の間で相互にデータを通信するようになっている。
【0037】
前述したように無段変速機における挟圧力は、滑りを生じることなくトルクを伝達できる範囲で可及的に低い圧力であることが好ましい。そこで上記の無段変速機1を対象とするこの発明の制御装置は、前記従動プーリー20側のアクチュエータ22に供給する油圧に基づく挟圧力を低下させ、その結果生じた滑りを検出して滑り限界圧(すなわち入力トルクに釣り合う限界挟圧力)を求め、その滑り限界圧に基づいて挟圧力を設定するように構成されている。その場合、油圧の応答遅れや変速中であれば変速比の変化などが検出精度に影響するので、この発明の制御装置は、以下に説明する制御を実行するように構成されている。
【0038】
図1ないし図3はその制御例を示すフローチャートであって、先ず、従動プーリー20側のアクチュエータ22における実油圧Pdact(i) 、入力回転数Nin(i) および出力回転数Nout(i)が計測され、かつその入力回転数Ninと出力回転数Nout とに基づいて変速比γ(i) が算出される(ステップS1)。ついで、限界挟圧力の検出制御が開始された後の時間を計測するカウンタ(限界挟圧力開始カウンタ)g_cntがインクリメントされ、かつ低下開始基本圧力Pdbse(i) が算出される(ステップS2)。
【0039】
この低下開始基本圧力Pdbse(i) は、その時点の入力トルクを滑りを生じることなく伝達するために必要な挟圧力を設定する油圧指令値であり、
Pdbse(i) =Pdcal(i) +Pd_b(i)−Pdh(i) +ΔgPd
で算出される。なお、Pdcal(i) は理論挟圧力であって、入力トルク、および変速比(もしくはベルト23の巻掛け半径)、ならびにベルト23と各プーリー19,20との間の摩擦係数に基づいて算出される。また、Pd_b(i)は油圧制御装置の個体差などの各種のバラツキ分補正油圧である。さらに、Pdh(i) はハード補正油圧であって、従動プーリー20側のアクチュエータ22で生じる遠心油圧およびそのアクチュエータ22に内蔵されているリターンスプリングの弾性力(圧縮荷重)に相当する油圧によって定めることができる。そして、ΔgPdは、初期上乗せ分油圧であって、滑りが生じないように安全を見込んで予め設定してある油圧である。
【0040】
ついで、上記のカウンタg_cntの値が、終了時間を規定している所定値e_time を超えており、かつ限界挟圧力検出フラグgPd_flag の前回値gPd_flag(i)が“0”か否かが判断される(ステップS3)。その所定値e_time は、挟圧力を低下させて滑り限界圧を検出する過程で変速による影響や外乱の影響などを受けたり、それに伴って検出精度が低下したりすることを回避するために、制御の継続時間を制限するために設定された時間である。また、限界挟圧力検出フラグgPd_flag は、無段変速機1での滑りが検出されて、低下させた挟圧力を復帰させる制御が実行されることにより“1”にセットされるフラグであり、当初は“0”に設定されている。
【0041】
したがって制御の開始当初はステップS3で否定的に判断され、その場合は、制御開始からの経過時間が所定時間s_time を経過したか否か、すなわち前記カウンタg_cntの値が所定値s_time を超えたか否かが判断される(ステップS4)。なお、この所定時間s_time は、挟圧力の安定状態を確実なものとするなどのために、制御開始の判断が成立した後、その判断を確定させて挟圧力の低下指令を出力するまでの時間として予め設定されている時間である。
【0042】
このステップS4で否定的に判断された場合には、挟圧力を低下させる指令信号が出力されず、制御開始前の状態を維持することになるので、前記従動プーリー20側のアクチュエータ22の目標油圧Pdtgt(i) として、上記のステップS2で算出された低下開始基本油圧Pdbse(i) が採用される(ステップS5)。ついで、図2に示すステップS6に進んでフラグγ_flag がゼロリセットされ、その後にリターンする。すなわちこのルーチンを一旦終了する。なお、ステップS6のフラグγ_flag は、挟圧力の低下指令信号を出力するとともに所定時間が経過した後に、変速比γの算出を開始することにより“1”にセットされるいわゆる推定変速比算出フラグである。したがって制御開始当初におけるステップS6では、推定変速比算出フラグγ_flag が未だ“0”のままであるから、いわゆる空制御となる。
【0043】
一方、制御開始後、所定時間s_time が経過すれば、ステップS4で肯定的に判断される。これは、図4のタイムチャートにおけるA時点である。その場合は、現在時点の直前に限界挟圧力検出フラグgPd_flag(i−1)が“0”に設定されているか否かが判断される(ステップS7)。挟圧力の低下指令信号を出力していない制御開始当初では、通常、滑りが発生しないので、この限界挟圧力検出フラグgPd_flag が“0”にセットされていてステップS7で肯定的に判断される。したがって挟圧力を所定勾配ΔPdsで低下させる指令信号が出力される(ステップS8)。すなわち、従動プーリー20側のアクチュエータ22についての目標値Pdtgt(i) が、
Pdtgt(i) =Pdbse(i) −ΔPds*(g_cnt(i) −s_time )
に設定される。すなわち図1ないし図3に示すルーチンを実行するサイクルタイム毎にΔPdsずつ、挟圧力が低下させられる。
【0044】
その後、所定制御が実行される(ステップS9)。このステップS9の制御は、挟圧力を上記のように徐々に低下させる過程で無段変速機1で滑りが発生したか否かの判断、および滑りの発生が検出されないまま、挟圧力が所定の下限値に達した場合の制御を含む。その詳細は後述する。
【0045】
ステップS9における所定制御が無段変速機1の滑りが検出されなかった場合には、挟圧力を徐々に低下させる指令信号が継続して出力される。その場合、制御開始からの経過時間すなわち前記カウンタg_cntの値g_cnt(i) が、前記所定時間s_time と無駄時間md_timeとを加算した時間を経過したか否かが判断される(ステップS10)。この無駄時間md_timeは、挟圧力の低下指令を出力してから従動プーリー20側のアクチュエータ22における実際の油圧すなわち実際の挟圧力が低下し始めるまでのいわゆる油圧の応答遅れ時間であり、一定値もしくはマップ値として設定されている。
【0046】
このステップS10で否定的に判断された場合には、実際の挟圧力が未だ低下し始めていないので、図2に示すステップS6に進んで推定変速比算出フラグγ_flag がゼロリセットされ、その後にリターンする。すなわちこのルーチンを一旦終了する。これに対して、無駄時間md_timeが経過している場合には、ステップS10で肯定的に判断される。これは、図4のB時点である。その場合には、推定変速比算出フラグγ_flag が“0”か否かが判断される(ステップS11)。すなわち、既に実挟圧力が低下しているか否かが判断される。
【0047】
制御開始当初では全てのフラグが“0”に設定されているので、このステップS11で肯定的に判断される。言い換えれば、このステップS11で肯定的に判断される状態は、実挟圧力が滑り限界圧検出のために低下させられていない状態、あるいは実質的な制御が開始していない状態である。そして、その状態で最新の(現在時点の直前の)N個の変速比γからその平均勾配Δγが算出される(ステップS12)。このステップS12は実際の挟圧力が低下し始めていない状態で実行されるから、その平均勾配Δγが正もしくは負の所定の値となれば、図1ないし図3に示す滑り限界圧の検出制御の実行中にアップもしくはダウンの変速が生じていることになる。なお、図4のタイムチャートには、変速比γが僅か低下するアップシフトの状態を示してある。
【0048】
そして、その時点より一回前の時点(言い換えれば、直前の時点)における推定変速比γ_k(i−1) として、その時点の実際の変速比γ(i−1) が採用され、また推定変速比算出フラグγ_flag が“1”にセットされ、さらに低下開始基本油圧Pdbse_sとしてその時点の油圧Pdbse(i) が採用され、そして低下開始時における従動プーリー20側のアクチュエータ22の実油圧Pdact_sとしてその時点の実際の油圧Pdact(i) が採用される(ステップS13)。これに続けて現在時点の推定変速比γ_k(i) が、直前の推定変速比γ_k(i−1) と平均勾配Δγとから算出される(ステップS14)。その演算は、一例として
γ_k(i) =γ_k(i−1) +Δγ
である。
【0049】
こうして求めた推定変速比γ_k(i−1) と入出力回転数の比として求めた変速比γ(i) とが比較される(ステップS15)。具体的には、その差(γ(i) −γ_k(i−1) )が判断しきい値γgmaxより大きいか否かが判断される。このステップS15で否定的に判断された場合には、無段変速機1に滑りが生じていないことになるので、特に制御をおこなうことなくリターンする。これとは反対にステップS15で肯定的に判断された場合には、滑りがない状態での変速比として推定された値γ_k(i−1) に対して実際の変速比γ(i) が大きく異なっていることになるので、滑りが生じていると判断され、したがって限界挟圧力検出判定が成立する(ステップS16)。これは、図4のタイムチャートにおけるD時点である。すなわち限界挟圧力検出フラグgPd_flag(i)が“1”に設定され、かつ変数mが“1”にセットされる。なお、この変数mは、過去の検出時点に遡るための変数である。
【0050】
上記の判断しきい値γgmaxは、変速比γの一時的な乱れもしくは変化を滑りの発生と誤判定しないようにするためにある程度大きい値に設定されている。したがって実際の滑りは、変速比γと推定変速比γ_k(i−1) との差が判断しきい値γgmaxを超える前に既に発生していることになる。言い換えれば、変速比γと推定変速比γ_k(i−1) との差が判断しきい値γgmaxを超えるまでの変速比γの変化は、滑りに起因するものであると判断できる。そのため、変速比γを過去に遡って推定変速比γ_kと比較すれば、実際に滑りが発生した時点を特定することができる。
【0051】
そのため、ステップS17では、ステップS15で肯定的に判断されてステップS16の判定がおこなわれた時点の直前の時点から過去に順に遡って、変速比γと推定変速比γ_kとが比較される。すなわちm回前の変速比γ(i−m) と推定変速比γ_k(i−m) との差が、所定のしきい値γgPd 以下か否かが判断される。このしきい値γgPd は、上記のステップS15における判断しきい値γgmaxより小さい値である。
【0052】
このステップS17で否定的に判断された場合には、変速比γ(i−m) と推定変速比γ_k(i−m) との差が大きく、変数mで特定される時点が、滑り発生からある程度時間が経過した時点であることになる。したがってこの場合は、変数mをインクリメント(ステップS18)した後、ステップS17に戻って再度、変速比γ(i−m) と推定変速比γ_k(i−m) との差がしきい値γgPd 以下か否かが判断される。すなわち、変速比γ(i−m) と推定変速比γ_k(i−m) との差がしきい値γgPd 以下になるまで、判断時点を順に過去に遡る。
【0053】
このような判断を繰り返しおこなうことにより、ついにはステップS17で肯定的に判断される。すなわち、ステップS17で肯定的に判断された際の変数mで特定される時点(図4のタイムチャートにおけるC時点)に無段変速機1に滑りが発生したことになる。したがってその変数mで特定される過去の時点における挟圧力についての実油圧および基本油圧に基づいて補正油圧Pdhoseiが算出され、かつ格納(記憶)される(ステップS19)。
【0054】
その補正油圧Pdhoseiは、一例として、制御開始時の実油圧Pdact_sと変数mで特定されるC時点の実油圧Pdact(i−m) との差から、制御開始時の基本油圧Pdbse_sと変数mで特定されるC時点の基本指令油圧Pdbse(i−m) との差を減算して求められる。なお、これら基本油圧Pdhoseiの差は、変速に伴ってプーリー19,20に対するベルト27の巻掛け半径が変化したことにより生じたものである。そして、この補正油圧Pdhoseiは、車両が定常走行状態もしくは準定常走行状態になるなど、挟圧力を低下させ得る条件が成立した場合に、その時点の通常の挟圧力に対する油圧の低下量の算定基礎として読み出され、挟圧力を低下させるための補正に使用される。
【0055】
無段変速機1のトルク容量は、挟圧力に応じて設定されるから、挟圧力は入力されるトルクに応じた圧力とすることになるから、上記のようにして求めた補正油圧Pdhoseiは、その時点の入力トルクもしくは入力トルク領域に対応したものとなる。したがってその時点の入力トルクの属する領域が既学習領域に設定される(ステップS20)。
【0056】
ついで、油圧アップ量Pdup が算出される(ステップS21)。この油圧アップ量Pdup は、滑りを解消するとともに現在時点での必要挟圧力をある程度上回る挟圧力に迅速に到達するのに必要な油圧指令値を設定するためのものであって、現在時点における入力トルクや変速比などから算出される前記の基本指令油圧Pdbseに加算する油圧である。これは、例えば滑り判定時の実油圧Pdact(i) に予め定めた加算油圧ΔPdup を加え、さらにその時点の基本指令油圧Pdbse(i) を減算して求められる。
【0057】
上述のようにして滑り限界圧に検出に伴って補正油圧Pdhoseiおよび油圧アップ量Pdup が算出されると、限界挟圧力検出フラグgPd_flag(i)が“1”に設定されているので、つぎのサイクルで前記ステップS3で否定的に判断され、かつステップS4で肯定的に判断された場合には、これに続くステップS7で否定的に判断される。その結果、その時点の指令油圧Pdtgt(i) として、その時点の基本指令油圧Pdbse(i) に前記ステップS21で算出された油圧アップ量Pdup を加算した油圧が設定される(ステップS22)。ついで、直前の推定変速比γ_k(i−1) に前記平均勾配Δγを加算して、現在時点の推定変速比γ_k(i) が算出される(ステップS23)。
【0058】
このステップS23に続く各ステップを図3に示してあり、ステップS23で求められた推定変速比γ_k(i) と変速比γ(i) との差が、所定の終了判定しきい値γgminより小さいか否かが判断される(ステップS24)。これは、滑りの収束を判断するためのステップであり、したがってステップS24で肯定的に判断された場合には、限界挟圧力検出フラグgPd_flag(i)がゼロリセットされ、かつ終了判定カウンタe_cntがゼロリセットされる(ステップS25)。これは、図4のタイムチャートにおけるE時点である。
【0059】
この終了判定カウンタe_cntは、滑りの収束の時点の適否を判定するためのものであって、限界挟圧力検出判定のおこなわれた前記ステップS15の時点(図4のD時点)からの経過時間をカウントする。すなわち、変速比γ(i) と推定変速比γ_k(i) との差が大きいためにステップS24で否定的に判断されると、終了判定カウンタe_cntでカウントされた到達した現在時点の時間が、終了時間を規定している所定値eg_timeで定まる時間を超えたか否かが判断される(ステップS26)。そして、このステップS26で否定的に判断された場合に、終了判定カウンタe_cntがインクリメントされる(ステップS27)。
【0060】
このように終了判定が成立していない場合には、終了判定カウンタe_cntが時間の積算を継続し、その値が終了時間を規定している所定値eg_timeを超えてステップS26で肯定的に判断されると、前記ステップS19で算出した補正油圧Pdhoseiをクリアし、その補正油圧Pdhoseiを算出した時点の入力トルクが属するトルク領域が未学習領域とされる(ステップS28)。すなわち、限界挟圧力やそれに基づく補正油圧Pdhoseiが算出されたとしても、その後の油圧のいわゆる復帰制御によっても無段変速機1の滑りが所定時間内に収束しない場合には、何らかの異常の可能性があるので、その補正油圧Pdhoseiを挟圧力制御に反映させないようにしたのである。
【0061】
このようないわゆる制御の中止は、無段変速機1の滑り限界圧が制御開始後所定時間内に検出されない場合も同様である。すなわち、挟圧力を所定の勾配で低下させ、その間に無段変速機1の滑り限界圧が検出されなければ、図1および図2に示すルーチンが繰り返し実行され、前記カウンタg_cntが逐次インクリメントされる。そして、滑り限界圧が検出されないまま、そのカウンタg_cntの値が終了時間を規定している所定値e_time を超えると、前記ステップS3で肯定的に判断される。
【0062】
その場合は、通常挟圧力が算出される(ステップS29)。すなわち、基本指令油圧Pdbse(i) が、その時点の入力トルクや変速比などで求まる理論挟圧力Pdcal(i) に所定の安全率SFを掛け、さらにハード補正油圧Pdh(i) を減算するとともにバラツキ分補正油圧Pd_b(i)を加算して求められる。これを演算式で記載すれば、
Pdbse(i) =Pdcal(i) *SF−Pdh(i) +Pd_b(i)
である。
【0063】
そして、各種フラグがリセット(ステップS30)された後、前述したステップS5に進んで、上記のステップS28で求められた基本指令油圧Pdbse(i) が指令油圧Pdtgt(i) とされる。その後、ステップS6を経てリターンする。なおその場合、ステップS29でフラグがリセットされているので、ステップS6での制御はいわゆる空制御となる。
【0064】
すなわち、この発明に係る制御装置では、限界挟圧力の検出制御の開始の後、所定時間内に限界挟圧力が検出されない場合には、制御が一旦終了される。その結果、制御の過程で変速比γが大きく変化したり、あるいは車両の運転状態が変化したりすることによる誤差要因を取り込む可能性が少なくなり、限界挟圧力の検出精度や補正油圧Pdhoseiの算定精度などが向上する。
【0065】
ここで、前述したステップS9における所定制御について説明する。この所定制御は、挟圧力が下限値に達した場合の制御であり、その例を図5に示してある。この所定制御では、先ず、実油圧Pdact(i) が予め定めた下限圧力gPdmin より低くなったか否かが判断される(ステップS91)。その下限圧力gPdmin は、機構上設定された圧力あるいは安全を見込んで予め設定した圧力などの既定値である。このステップS91で否定的に判断されれば、通常の制御状態であるから、前述した図1に示すステップS10に進む。
【0066】
これとは反対にステップS91で肯定的に判断された場合には、限界挟圧力検出判定が成立し、かつ限界挟圧力検出フラグgPd_flag(i)が“1”にセットされる(ステップS92)。無段変速機1の滑りが発生せずに実油圧が下限値に達したからである。したがってこれに続くステップS93では、補正油圧Pdhoseiが算出されて格納される。具体的には、制御開始時の実油圧Pdact_sと現在時点の実油圧Pdact(i) との差から、制御開始時の基本油圧Pdbse_sと現在時点の基本指令油圧Pdbse(i) との差を減算して求められる。そして、前述したステップS20と同様に、その時点の入力トルクが属するトルク領域が既学習領域に設定される(ステップS93)。
【0067】
さらに、油圧アップ量Pdup が算出される(ステップS95)。その演算は、図2に示すステップS21について説明したのと同様である。このようにして油圧アップ量Pdup が算出された後は、前述したステップS22に進み、終了の判定をおこなう。
【0068】
上述した図1ないし図3および図5に示す制御を実行するように構成したこの発明の制御装置によれば、挟圧力を漸減させることによる限界挟圧力の検出を、予め定めた所定時間内におこなうから、外乱などの誤差要因を取り込んだり、影響を受けたりする可能性が少なくなり、滑りの検出精度や限界挟圧力の検出精度が向上する。また、滑りの判定のために推定変速比を使用するにあたり、油圧指令の出力の後の無駄時間や前記所定時間s_time を考慮するので、変速比の推定値に誤差が少なくなり、その結果、滑りの検出精度や限界挟圧力の検出精度が向上する。さらに、限界挟圧力あるいはそれに基づく補正油圧を検出した後であっても、変速比が所定値に達しないなど、滑りの収束状況が条件を満たさない場合には、その限界挟圧力あるいはそれに基づく補正油圧などのいわゆる学習値を削除するなど、その学習値をその後の制御に採用しないので、挟圧力の誤設定を回避もしくは防止することができる。
【0069】
つぎにこの発明の制御装置で実行される他の制御例について説明する。図6ないし図9に示す制御例は、変速速度に基づいて無段変速機1の滑りや限界挟圧力を判定し、また終了判定を状況に応じておこなうように構成した例である。先ず、図6において、制御の開始条件が成立しているか否かが判断される(ステップS101)。限界挟圧力は滑りを生じることなく入力トルクを伝達できる限界圧力であるから、これを検出するためには、入力トルクや無段変速機1に作用するトルクが安定していることが必要である。ステップS101ではそのような状態が成立しているか否かを判断しており、具体的には、平坦良路を大きく加減速することなく走行しているか否か、言い換えれば、定常走行状態もしくは準定常走行状態か否かが判断される。
【0070】
このステップS101で否定的に判断された場合には、挟圧力の低下を伴う限界圧検出制御を実行しないことになるので、限界挟圧力検出実行カウンタg_cnt、限界挟圧力検出フラグgPd_flag(i)、終了判定しきい値算出フラグγ_flag 、ならびに終了判定カウンタgpd_cntのそれぞれがリセットされる(ステップS102)。
【0071】
これに対して制御開始条件が成立していると、ステップS101で肯定的に判断される。これは、図10のタイムチャートにおける0時点である。その場合には、入力回転数Nin(i) および出力回転数Nout(i)が計測され、かつその入力回転数Ninと出力回転数Nout とに基づいて変速比γ(i) が算出される(ステップS103)。こうして算出されかつ保持されている最新(直前)のN個の変速比γから現在時点の変速速度Δγ(i) が算出される(ステップS104)。
【0072】
ついで、限界挟圧力検出実行カウンタg_cntのカウント値が所定時間s_time を超えたか否かが判断される(ステップS105)。その所定時間s_time は、図1を参照して説明したのと同様であり、制御開始条件が成立してから挟圧力の低下指令を出力するまでの時間である。したがって図6には記載していないが、挟圧力を所定の勾配で低下させる低下指令が出力される。その指令油圧Pdtgtを図10のタイムチャートに実線で示してある。
【0073】
このステップS105で否定的に判断された場合には、カウンタg_cntをインクリメント(ステップS115)した後、リターンする。時間が経過してステップS105で肯定的に判断された場合には、所定制御が実行される(ステップS106)。これは、図10のタイムチャートにおけるB時点である。
【0074】
この所定制御の例を図7ないし図9に示してある。図7に示す例は、変速指令値vdqscに基づいて、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e を決定し、かつ制御開始時の変速速度を推定変速速度とするように構成した例である。先ず、直前の終了判定しきい値算出フラグγ_flag(i−1)が“1”か否かが判断される(ステップS201)。すなわち、既に終了判定しきい値補正分Δγgpd_e が算出されているか否かが判断される。制御開始当初は、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e が算出されていないから、ステップS201で否定的に判断され、変速指令値vdqscが所定の判断基準値vdqsc1 より大きいか否かが判断される(ステップS202)。
【0075】
変速指令値vdqscが判断基準値vdqsc1 より大きいことによりステップS202で肯定的に判断された場合には、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e として予め定めた値Δγgpd_upが設定される(ステップS203)。これとは反対に変速指令値vdqscが判断基準値vdqsc1 より相対的に小さいことによりステップS202で否定的に判断された場合には、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e として予め定めた値Δγgpd_dwn が設定される(ステップS204)。
【0076】
これらステップS203およびステップS204のいずれかで終了判定しきい値補正分Δγgpd_e を設定した後、終了判定しきい値算出フラグγ_flag が“1”にセットされる(ステップS205)。そして、変速速度Δγ(i) と推定変速速度との差Δγdif(i)が算出される(ステップS206)。その推定変速速度は、図7に示す例では、挟圧力の低下指令を出力する時点、すなわち図10のタイムチャートにおけるA時点での変速速度(制御開始時の変速速度)Δγ(i−s_time)が採用される。なお、ステップS201で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS205に進む。
【0077】
所定制御の他の例を図8に示してある。ここに示す例は、現在時点の変速速度Δγ(i) に基づいて、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e を決定し、かつその時点の変速速度Δγ(i) を制御の過程での推定変速速度とするように構成した例である。先ず、図7に示す制御例と同様に、直前の終了判定しきい値算出フラグγ_flag(i−1)が“1”か否かが判断される(ステップS301)。すなわち、既に終了判定しきい値補正分Δγgpd_e が算出されているか否かが判断される。制御開始当初は、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e が算出されていないから、ステップS301で否定的に判断され、現在時点の変速速度Δγ(i) が所定の判断基準値Δγupより大きいか否かが判断される(ステップS302)。
【0078】
変速速度Δγ(i) が判断基準値Δγupより大きいことによりステップS302で肯定的に判断された場合には、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e として予め定めた値Δγgpd_upが設定される(ステップS303)。これとは反対に変速速度Δγ(i) が判断基準値Δγupより相対的に小さいことによりステップS302で否定的に判断された場合には、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e として予め定めた値Δγgpd_dwn が設定される(ステップS304)。
【0079】
これらステップS303およびステップS304のいずれかで終了判定しきい値補正分Δγgpd_e を設定した後、その時点の変速速度Δγ(i) がその後の制御における推定変速速度Δγdif_s とされる(ステップS305)。そして、終了判定しきい値算出フラグγ_flag が“1”にセットされる(ステップS306)。ついで、変速速度Δγ(i) と推定変速速度Δγdif_s との差Δγdif(i)が算出される(ステップS307)。なお、ステップS301で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS306に進む。
【0080】
所定制御の更に他の例を図9に示してある。ここに示す例は、現在時点の変速速度Δγ(i) に基づいて、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e を決定し、かつ変速速度Δγ(i) のなまし処理値(一次遅れ処理を施した値)を制御の過程での推定変速速度とするように構成した例である。先ず、図8に示す制御例と同様に、直前の終了判定しきい値算出フラグγ_flag(i−1)が“1”か否かが判断される(ステップS401)。すなわち、既に終了判定しきい値補正分Δγgpd_e が算出されているか否かが判断される。制御開始当初は、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e が算出されていないから、ステップS401で否定的に判断され、現在時点の変速速度Δγ(i) が所定の判断基準値Δγupより大きいか否かが判断される(ステップS402)。
【0081】
変速速度Δγ(i) が判断基準値Δγupより大きいことによりステップS402で肯定的に判断された場合には、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e として予め定めた値Δγgpd_upが設定される(ステップS403)。これとは反対に変速速度Δγ(i) が判断基準値Δγupより相対的に小さいことによりステップS402で否定的に判断された場合には、終了判定しきい値補正分Δγgpd_e として予め定めた値Δγgpd_dwn が設定される(ステップ404)。
【0082】
これらステップS403およびステップS404のいずれかで終了判定しきい値補正分Δγgpd_e を設定した後、終了判定しきい値算出フラグγ_flag が“1”にセットされる(ステップS405)。ついで、変速速度Δγ(i) のなまし処理値Δγlo(i) が算出される(ステップS406)。そして、変速速度Δγ(i) と上記のなまし処理値Δγlo(i) との差Δγdif(i)が算出される(ステップS407)。すなわち、上記のなまし処理値Δγlo(i) が制御過程における推定変速速度として採用される。なお、ステップS401で肯定的に判断された場合には、直ちにステップS405に進む。
【0083】
図6に示すフローチャートのステップS106では、上述した図7ないし図9のいずれかの所定制御が実行され、その所定制御で得られた変速速度Δγ(i) と推定変速速度との差Δγdif(i)が開始判定しきい値Δγdif_s より大きいか否か、あるいは限界挟圧力検出フラグgPd_flag の前回値gPd_flag(i−1)が“1”になっているか否かが判断される(ステップS107)。すなわち限界挟圧力検出判定が成立しているか否かが判断される。
【0084】
限界挟圧力検出判定が成立していないことによりステップS107で否定的に判断された場合には、前述したステップS115に進んで、限界挟圧力検出実行カウンタg_cntをインクリメントした後、リターンする。これとは反対に無段変速機1に滑りが生じるなどのことによって変速速度Δγが推定変速速度より大きくなると、ステップS107で肯定的に判断される。すなわち限界挟圧力検出判定が成立する。これは、図10のタイムチャートにおけるC時点である。また、既に限界挟圧力検出判定が成立している場合には、ステップS107で肯定的に判断される。
【0085】
ステップS107で肯定的に判断された場合には、限界挟圧力検出フラグgPd_flag の前回値gPd_flag(i−1)が“1”になっているか否かが再度判断される(ステップS108)。すなわち限界挟圧力の判定が不成立から成立に変化したか、あるいは既に成立していたかが判断される。限界挟圧力の判定が不成立から成立に変化したことにより上記のステップS107で肯定的に判断された場合には、直前の限界挟圧力検出フラグgPd_flag(i−1)が“0”であるから、ステップS108で否定的に判断される。その場合、終了判定しきい値γgpd_e として、その時点の変速比γ(i) に前述した終了判定しきい値補正分Δγgpd_e を加算した値が設定される(ステップS109)。その終了判定しきい値補正分Δγgpd_e は、前述したように、変速指令値や変速速度に基づいて設定されているから、変速指令値や変速速度などによる変速状況あるいは車両の駆動状況が、終了判定に反映されることになる。
【0086】
上記のステップS109の制御を実行した後、あるいはステップS108で肯定的に判断された場合、現在の限界挟圧力検出フラグgPd_flag(i)が“1”にセットされる(ステップS110)。ついで、現時点の変速比γ(i) が上記の終了判定しきい値補正分Δγgpd_e より小さく、かつ終了判定カウンタgpd_cntが所定時間gpd_cnt1 を超えたか否かが判断される(ステップS111)。この終了判定カウンタgpd_cntは、限界挟圧力検出判定が成立した時点を始点とするカウンタである。すなわち、変速比はスティックスリップなどが原因となって大小に振動しつつ変化することがあるから、無段変速機1に滑りが生じた直後およびその滑りが収束する直前のいずれの場合であっても、変速比γ(i) が終了判定しきい値γgpd_e より小さくなることがある。そのため、滑りの収束過程で変速比γ(i) が終了判定しきい値γgpd_e を下回った場合にステップS111の判断を成立させるために、上記の終了判定カウンタgpd_cntが設けられている。
【0087】
このステップS111で否定的に判断された場合には、挟圧力を漸減することに伴う滑りが検出されて限界挟圧力検出判定が成立した直後の状態であるから、補正油圧が算出され、また挟圧力を設定する油圧のアップ制御が実行され、さらに無段変速機1に対する入力トルクを低下させるためのエンジン4についての点火時期遅角制御などが実行される(ステップS112)。なお、補正油圧の算出や油圧のアップ制御は、図1ないし図3を参照して説明した制御例と同様にして実行される。
【0088】
ついで、終了判定カウンタgpd_cntがインクリメントされ(ステップS113)、さらにステップS115に進んで限界挟圧力検出実行カウンタg_cntがインクリメントされ、その後、リターンする。
【0089】
滑りの開始直後では、終了判定カウンタgpd_cntでカウントした時間が短く、また滑りが収束に向かっていない状態では、変速比γ(i) が終了判定しきい値γgpd_e 以上のためにステップS111で否定的に判断され、したがって終了判定カウンタgpd_cntが逐次インクリメントされる。こうしてある程度時間が経過すると、終了判定カウンタgpd_cntで計測した時間が所定時間gpd_cnt1 を超える。その状態で滑りが収束に向かって変速比γ(i) が終了判定しきい値γgpd_e より小さくなると、ステップS111で肯定的に判断される。
【0090】
すなわち、検出終了の判定が成立する(ステップS114)。これは、図10のタイムチャートにおけるD時点である。そして、各フラグgPd_flag(i),γ_flag 、ならびに終了判定カウンタgpd_cntがリセットされる。その後、ステップS115に進む。
【0091】
上記の図6ないし図9に示す制御を実行するように構成したこの発明に係る制御装置によれば、挟圧力を低下させることに基づく無段変速機1の滑りあるいは限界挟圧力(入力トルクと釣り合う挟圧力)を、変速速度Δγと推定変速速度との対比の結果に基づいて検出するので、その検出精度が向上する。特に、推定変速速度として、変速速度のなまし処理値を採用し、あるいは現在時点に対して所定時間前の時点の変速速度を採用し、さらには挟圧力の低下指令の開始時などの制御開始時点近傍での変速速度を採用した場合には、変速速度の推定誤差が小さくなって無段変速機1の滑りや限界挟圧力などの検出精度が向上する。また、滑りの収束あるいは滑りの収束に伴う限界挟圧力の検出制御の終了を判定する場合に、それ以前の時点における変速指令値や変速速度を終了判定に反映させるから、制御の終了判定の精度が向上する。
【0092】
ここで上述した各具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS15およびステップS16、あるいはステップS107およびステップS112の各機能的手段が、この発明の限界圧検出手段に相当し、ステップS15、ステップS107、ステップS206、ステップS307、ステップS407の各機能的手段が、この発明の滑り限界判定手段に相当し、さらにステップS10ないしステップS13の機能的手段が、この発明の推定値算出手段に相当する。また、ステップS19あるいはステップS112の機能的手段が、この発明の学習手段に相当し、ステップS24の機能的手段が、この発明の比較手段に相当し、ステップS28の機能的手段が、この発明の学習値不採用手段に相当する。そして、ステップS111およびステップS114、ステップS202ないしステップS204、ステップS302ないしステップS304、ステップS402ないしステップS404の各機能的手段が、この発明の終了判定手段に相当する。
【0093】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、ベルト式無段変速機以外にトラクション式の無段変速機を対象とする制御装置にも適用することができる。
【0094】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、運転状態や駆動状態などの変化の可能性が少ない短時間のうちに滑りや滑り限界圧(限界挟圧力)が検出されるので、その検出精度を向上させることができる。
【0095】
また、請求項2の発明によれば、挟圧力を低下させることに伴う滑りが、変速比もしくは変速速度の推定値と実際値とに基づいて判定され、その判定が所定時間内におこなわれるので、推定値や実際値の誤差が少なく、滑りの判定やそれに伴う滑り限界圧の検出精度を向上させることができる。
【0096】
さらに、請求項3の発明によれば、挟圧力の低下時の無駄時間を考慮して推定値を求めるから、推定値に含まれる誤差が少なくなり、また滑りの判定精度や滑り限界圧の検出精度を向上させることができる。
【0097】
さらにまた、請求項4の発明によれば、挟圧力の学習値の適否を判断し、適正でない学習値は制御に反映させないので、挟圧力の誤設定を回避もしくは防止することができる。
【0098】
また一方、請求項5の発明によれば、変速速度の推定値として現在時点に対して直前の時点における変速速度を採用し、その推定値に基づいて滑り限界圧を検出するので、変速比もしくは変速速度が変化している変速中であっても、変速速度の推定値の誤差が僅少になり、滑り限界圧の検出精度を向上させることができる。
【0099】
またさらに、請求項6の発明によれば、変速速度の推定値として、挟圧力の低下を開始する時点に近い時点での変速速度を採用し、その値と現在時点の変速速度とを対比することにより、滑り限界圧を検出するため、変速速度の推定値の誤差が少なく、滑り限界圧の検出精度を向上させることができる。
【0100】
そしてまた、請求項7の発明によれば、滑り限界圧が検出されると、その時点の変速比とそれより以前の変速指令値もしくは変速速度とに基づいて、滑り限界圧の検出制御の終了を判定するため、変速中での滑り限界圧の検出制御の終了判定を適切におこなうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートの一部を示す図である。
【図2】図1に示すフローチャートに続く部分を示す図である。
【図3】図1のフローチャートに続く他の部分を示す図である。
【図4】図1ないし図3に示す制御をおこなった場合の油圧や変速比などの変化を示すタイムチャートである。
【図5】図1のフローチャートにおける所定制御の一例を示すフローチャートである。
【図6】この発明の制御装置による他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6に示すフローチャートにおける所定制御の一例を示すフローチャートである。
【図8】図6に示すフローチャートにおける所定制御の他の例を示すフローチャートである。
【図9】図6に示すフローチャートにおける所定制御の更に他の例を示すフローチャートである。
【図10】図6に示す制御をおこなった場合の油圧や変速比などの変化を示すタイムチャートである。
【図11】この発明で対象とする無段変速機を含む駆動系統の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機、 4…エンジン(動力源)、 19…駆動プーリー、 20…従動プーリー、 23…ベルト、 29…入力軸回転速度センサー、 30…出力軸回転速度センサー、 31…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。
Claims (7)
- 無段変速機のトルク容量を設定する挟圧力を低下させて滑りの生じる限界圧を検出する無段変速機の制御装置において、
予め定めた所定時間内で前記挟圧力を低下させるとともに、その挟圧力の低下に伴って生じる滑りの限界圧を検出する限界圧検出手段を備えていることを特徴とする無段変速機の制御装置。 - 前記滑りの限界圧を現在時点より前の変速比もしくは変速速度から推定した推定値と現在時点における変速比もしくは変速速度とに基づいて判定する滑り限界判定手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
- 前記推定値を前記挟圧力の低下開始時に所定時間を考慮して求める推定値算出手段を更に備えていることを特徴とする請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
- 前記滑りの限界圧に基づいて前記挟圧力の学習値を求める学習手段と、
その学習値に基づいて前記挟圧力を設定してから所定時間後の実際の変速比と推定された変速比とを比較する比較手段と、
実際の変速比と推定された変速比との前記比較手段での比較結果の値が所定範囲外の場合に前記学習値を挟圧力制御に使用しないようにする学習値不採用手段とを更に備えていることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の無段変速機の制御装置。 - 前記滑り限界判定手段は、前記変速速度の推定値を、現在時点に対して直前の時点における変速速度とする手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
- 前記滑り限界判定手段は、前記挟圧力の低下を開始する時点を含む所定範囲の時点における変速速度を、前記変速速度の推定値とする手段を含むことを特徴とする請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
- 前記滑り限界圧の検出制御の終了判定を、滑り限界検出前の変速指令値もしくは変速速度と、滑り限界圧検出時の変速比とに基づいて判定する終了判定手段を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
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