JP2004309197A - 耐遅れ破壊性の評価方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】種々の環境に於けるボルト等の耐遅れ破壊の安全性を迅速且つ的確に評価できる、耐遅れ破壊性の評価方法を提供する。
【解決手段】耐遅れ破壊性の評価方法は、ボルト(引張試験片)1に張力を加えるステップと、電解質を含む水溶液Aの中に張力を加えたボルト1を対極5と共に配置して、ボルト1に負の電位を付与するステップと、水溶液Aの電解にて発生する水素により、ボルト1が水素脆化して破断するのを待つステップとを含むことを特徴とする。ボルト1に付与する負の電位が、銀塩化銀電極に対して−0.8乃至−1.5Vの範囲を周期的に変動しても良い。
【選択図】 図1
【解決手段】耐遅れ破壊性の評価方法は、ボルト(引張試験片)1に張力を加えるステップと、電解質を含む水溶液Aの中に張力を加えたボルト1を対極5と共に配置して、ボルト1に負の電位を付与するステップと、水溶液Aの電解にて発生する水素により、ボルト1が水素脆化して破断するのを待つステップとを含むことを特徴とする。ボルト1に付与する負の電位が、銀塩化銀電極に対して−0.8乃至−1.5Vの範囲を周期的に変動しても良い。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、産業機械、又は建物等に使用されるボルト等について、その耐遅れ破壊性の評価を行うための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や産業機械の軽量化、建築構造物の大型化に伴い、高い締め付け力に耐える高力ボルトの需要が高まっている。一般に使用される高力ボルトは、例えばJISG4105(1989)に規定される引張強度1000MPa級のボルトである。これ以上の引張強度、例えば引張強度1100〜1200MPa級のボルトとなると、破壊し易いことが知られている。
【0003】
このような破壊の現象は遅れ破壊と呼ばれ、ボルトが締め付けられてから一定時間経過した後に、ボルトのネジ部や首下等の応力の集中する部分が脆性的に破壊し、同ボルトが突然破断する現象である。実情として、遅れ破壊がボルトによる締め付けの強化を妨げている。近年の研究で、遅れ破壊は、ボルトの腐食に伴いこの表面から、ボルトの素材である鋼材の内部へ水素が浸透し、同鋼材の脆化を引き起こす水素脆化の一種であることが判明しつつある。
【0004】
従って、高力ボルトを適切に使用するには、遅れ破壊に対する安全性の評価が不可欠である。今までに種々の評価方法が提案されてきた。最も確実な方法として、実際にボルトにナット等を締結し、これらのボルトとナットを大気中に一定期間放置し、この間にボルトが破断するか否か確認することが周知である。このような所謂曝露試験は、その開始から数年後に遅れ破壊によるボルトの破断が起こることもあり、試験を一通り終えるのに数年の歳月を要する。
【0005】
これを少しでも短縮できる方法の一例として、下記の特許文献1が挙げられる。即ち、評価の対象となるボルトに代えてダミーボルトを準備し、このダミーボルトをサンプルとして曝露試験を実行する。そして、同ダミーボルトが破断するまでに要した期間等の結果に基づいて、本来のボルトが破断するまでの期間を推測する。上記のダミーボルトは、評価の対象となるボルトよりも高い強度の材料から成るものであっても良いが、評価の対象となるボルトと同材質のものであっても良い。また、上記のダミーボルトに、評価の対象となるボルトが実用される状況よりも、更に強い張力を加えつつ曝露試験を実行しても良い。
【0006】
更に、試験の期間を短縮するための実験室的な促進試験法も今まで多く検討されている。例えば、切欠を形成した丸棒引張試験片に引張応力を負荷しつつ、水素が侵入し易い酸環境に浸漬する、ワルポール緩衝浴試験(酢酸ナトリウム+塩酸)、FIP(Federation
Internationale de la Precontraite)標準浴試験(チオシアン酸アンモニウム水溶液)等が挙げられる。
【0007】
また、近年の研究で、遅れ破壊と水素脆化との関係が裏付けられつつある背景から、環境からの水素侵入の速度や、ボルトを構成する鋼材中の水素濃度に着目した評価法も提案されている。これは、ボルトの応力が高い程、又は鋼材へ浸透する水素の量が多い程、遅れ破壊が起こり易いという傾向に着目したものである。
【0008】
具体的には、鋼材中の水素濃度(環境の過酷度)が一定であれば、ボルトの材質や強度に応じて遅れ破壊に対する限界応力、言い換えれば、遅れ破壊が起こらない範囲で許容される最大の締付力が決まる。逆に、ボルトの締付力が一定であれば、遅れ破壊に対する限界水素濃度、言い換えれば、遅れ破壊が起こらない範囲で許容される鋼材中の最大の水素濃度が決まる。
【0009】
上記の限界応力又は限界水素濃度を測量する方法の一例として、『鉄と鋼Vol.82,No.4(1996)』のp297に、促進評価法が記載されている。これは、切欠を形成した丸棒引張試験片に引張応力を負荷しつつ、実際の環境で想定し得る最も過酷な条件を模擬した食塩水中において、陰極チャージにより同試験片に水素を添加し、200時間後の破断の有無により限界応力を求めるものである。
【0010】
更に他の例が、『鉄と鋼Vol.83,No.7(1997)』のp454に記載されている。これは、切欠を形成した丸棒引張試験片を食塩水中に浸漬し、陰極チャージにより同試験片に水素を添加した後、同試験片にCd鍍金を施し水素の逃散を防止し、その後、所望の引張応力を同試験片に負荷し、100時間後の破断の有無を判定しつつ、試験後の試験片中の水素量を分析し、破断しなかった最大の水素濃度を限界水素濃度として求めるものである。また、下記の特許文献2には、空洞を有する棒状試験片を酸環境に浸漬し引張応力を負荷して破断の有無を確認しつつ、空洞に浸透した水素量を測定し、限界水素濃度をオンラインで測定する方法が開示されている。
【0011】
【特許文献1】
特開平2002−365202号公報
【特許文献2】
特開平8−145862号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
使用環境に於ける曝露試験がその環境中に於ける耐遅れ破壊性の評価としては確実な方法であるが、遅れ破壊が発生するまでに数年の期間を要することもあるため、高力ボルトの安全性に係る評価方法としては時間がかかり過ぎる欠点がある。
【0013】
また、切欠を形成した丸棒引張試験片を用いた促進試験法に基づく結果は、必ずしも曝露試験で評価した遅れ破壊の時期、又はボルト材質の優劣等に係る遅れ破壊の発生傾向に合致しない場合があり、信頼性に問題がある。また、曝露試験を行う環境としては、内陸部、飛来塩分の影響を受けやすい沿岸地域、又は海水に頻繁に浸かる干満帯に、概ね分けられる。これら環境毎の過酷度の差異が遅れ破壊の結果に大きく影響する筈であるが、上記の促進試験法では、今のところ環境の過酷度を反映した結果は得られない。
【0014】
そこで、本発明は、種々の環境に於ける耐遅れ破壊の安全性を迅速且つ的確に評価できる方法を提供することを目的とする。
【0015】
即ち、本発明者らは、上記の切欠を形成した丸棒引張試験片を用いた評価法の欠点を鋭意検討した。その結果、切欠を形成した丸棒から成る試験片に張力を加えても、実際のボルトのような応力状態には至らず、ボルトの首下及びネジ部近傍に起こるような応力集中や、これら応力集中部へ水素が集中すること(濃化)を完全に再現することは困難であると考えた。
【0016】
また、遅れ破壊は、ボルトにおける応力が集中した部分の表層近傍で発生しそこから進展するため、表層組織の耐遅れ破壊性を積極的に評価しなければならない。ボルトを製造する工程で、ボルト形成のための鍛造時に生じるメタルフローや、脱炭や浸炭による組織変化等の諸条件も遅れ破壊に影響すると考えられる。しかしながら、上記の丸棒引張試験片はボルトを素材として切出し加工して得られるものであるため、実際のボルトの表層組織を評価していることにならない。
【0017】
以上を踏まえて、本発明者らは、ボルトの締結時の応力集中を正確に再現し、且つボルトの表層部の耐遅れ破壊性を的確に評価するために、以下に述べる電気化学的な手法による遅れ破壊試験法を検討した。更に、種々の環境による過酷度を再現することを試みた。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、引張試験片に張力を加えるステップと、電解質を含む水溶液の中に前記張力を加えたボルトを対極と共に配置して、該引張試験片に負の電位を付与するステップと、前記水溶液の電解にて発生する水素により、前記引張試験片が水素脆化するのを待つステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
引張試験片はボルトであっても良い。この場合、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、被締結材を貫通したボルト挿通孔に、前記被締結材の一方から前記ボルトを挿通し、前記被締結材の他方から突出する前記ボルトのネジ部に、ナットを締め付けることにより、前記ボルトに張力を加えるものである。また、前記ボルトに前記水溶液が接触する部分を、機械的に研磨するステップを含むものである。
【0020】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、前記引張試験片に付与する負の電位が、銀塩化銀電極に対して−0.8乃至−1.5Vの範囲で定まる定電位であることを特徴とする。
【0021】
或いは、前記引張試験片に付与する負の電位が、銀塩化銀電極に対して−0.8乃至−1.5Vの範囲を周期的に変動させることを特徴とする。また、前記引張試験片に付与する負の電位が、24時間周期で変動させることを特徴とする。
【0022】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、前記負の電位を、前記引張試験片に継続又は通算して720時間付与することを特徴とする。
【0023】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、前記引張試験片に浸透した前記水素を検出し計量するステップを含むことを特徴とする。
【0024】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、前記引張試験片と同材質の試料の一面を電解質を含む水溶液に浸すステップと、前記試料の電位を、前記水溶液の中に配置した銀塩化銀電極に対して0Vに保持するステップと、前記試料の他面から前記一面へ透過する水素が前記水溶液の中でイオン化することにより、前記試料と前記対極との間に流れる電流を、水素透過電流として計測するステップとを含むモニタリング試験を実施し、前記水素透過電流を基に、前記引張試験片に付与する負の電位の値を定めることを特徴とする。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態に係る耐遅れ破壊性の評価方法について図1乃至図4に基づき説明する。図1は本発明に係る試験装置の要部の構成を示している。図中の符号は、それぞれ、1が高力ボルト、2がナット、3がワッシャ、4が被締結材、5が白金から成る対極、6が参照電極、7がポテンショスタット、8が導線、Aが電解質を含む水溶液を指している。水溶液Aとして、摂氏25度に於ける電気伝導度が0.01S/m以上で、且つpH値が7以下、好ましくは5以下の酸性のものを適用する。
【0026】
図2は、電位負荷条件の3つの典型例を示している。e1は、−1.2Vの定電位を表し、e2は、−1.5Vを下らない範囲で24時間周期で変動させる負の電位を表している。e3は、サインカーブに従って任意の周期で変動させる負の電位を表している。e4は、任意の負の電位と、これより相対的に高い電位を、所定の時間毎に繰り返す負の電位を表している。
【0027】
図3は、水素透過速度のモニタリング試験装置Eの構成を示している。図中の符号は、それぞれ、9が上記のボルト1と同じ材料から成る厚さ0.5乃至1mmの円盤試験片、50が対極、60が参照電極、70がポテンショスタット、80が導線、BがNaOHの水溶液、Cが外部環境となる領域を指している。円盤試験片9の矢印aで指した内面にはNi鍍金が施され、矢印bで指した外面は材料の素地が露出している。水溶液Bとして、摂氏25度に於ける電気伝導度が0.01S/m以上で、且つpH値が7以下、好ましくは5以下の酸性のものを適用する。
【0028】
図4は、モニタリング試験装置Eの使用例を示している。図1乃至図3に対応する構成要件には、同符号を付しその説明を省略する。図5は、切欠を形成した丸棒引張試験片の形状を示している。
【0029】
本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法を行う手順として、先ず、被締結材4を貫通した図に表れていないボルト挿通孔に、この一方からボルト1を挿通し、被締結材4の他方から突出したボルト1のネジ部に、ナット2を締結する。このようにして試験片Sを幾つか組み立てる。組立の過程で、ナット2と被締結材4の間にワッシャ3を咬ませても良い。ワッシャ3として剛性を有する材質のものを適用すれば、締結時の応力の調整の観点から望ましい。一般的に、ワッシャ3の材質は鋼材が最適である。ボルト1にナット2を締め付けることにより、ボルト1には負荷応力(張力)が発生する。この負荷応力は、ボルト1の実使用に即した値に設定しても良いが、試験時間の一層の短縮化を企図するならば、負荷応力をボルト1の材料の降伏点の80%以上の値に設定するのが望ましい。
【0030】
続いて、ボルト1の表面に製造工程で発生する酸化スケールが付着している場合には、酸化スケールの除去(脱スケール処理)を行う必要がある。酸化スケールは、ボルト1の材料中への水素の侵入を阻害し試験の支障となる。これを防止するため、ボルト1にナット2を締結した後に、ボルト1及びナット2における被締結材4から露出した部分に、ブラスト処理を施すことにより、上記の酸化スケールを除去する。ブラスト処理は、例えばサンドブラスト、又はアルミナショット処理等の方法で行えば良いが、機械的研磨方法であれば特に限定されない。
【0031】
また、被締結材4として導電性を有する材料を適用する場合、水溶液A中でボルト1と被締結材4との間に電気的又は化学的作用が働き、ボルト1への水素の侵入を妨げることがある。更には、被締結材4に多くの水素が侵入する事態となった場合、その分、ボルト1の材料中への水素の侵入が減少し、試験の進行が遅延することが考えられる。この観点から、導電性を有する材料、例えば鋼材等を被締結材4として用いる場合は、ボルト1とナット2とを締結した後に、被締結材4の水溶液Aに接触する部分をシリコン等の絶縁性の樹脂等で被覆する。
【0032】
以上の工程を経て本評価方法の準備を終える。ボルト1の材料中へ水素を添加する手順としては、第1に、試験片Sを水溶液Aに浸漬させる。
【0033】
図中に試験片Sは1個しか表れていないが、幾つかの試験片Sを水溶液Aに同時に浸漬させても良い。この状態で、水溶液A中には、例えば銀塩化銀電から成る参照電極6、例えば白金から成る対極5が浸漬され、これらがポテンショスタット7に導線8を介して予め接続されている。そして、ポテンショスタット7を機能させ、試験片Sに電位を付与することにより、電気化学的にボルト1の表面で水素を発生させる。試験片Sの電位とは、参照電極6である銀塩化銀電極との電位差を指す。
【0034】
試験片Sに電位を付与する過程で、水溶液Aに電流が良好に流れるように、水溶液Aの電気伝導度は0.01S/m以上でなければならない。更に、ボルト1の表面で十分な量の水素が発生するように、水溶液A中の水素イオン濃度が高くなければならない。従って、水溶液AのpH値を7以下とする。電解質として、例えば、NaCl又はNa2SO4を挙げられるが、好ましくは、水溶液Aの全体としてのpH値を5以下にする。また、ボルト1の材料中への水素の侵入を促進するために、触媒として、例えば0.1乃至1重量%のチオシアン酸アンモニウムを水溶液Aに添加しても良い。
【0035】
第2に、ポテンショスタット7により試験片Sの電位を調節して、ボルト1の材料中への水素の侵入量を制御する。
【0036】
試験片Sの電位を適切に保つことで、ボルト1の材料中へ連続的に水素が浸透することになる。例えば、海水浸漬環境に置かれたボルト1に水素が浸透するような条件を設定する場合には、試験片Sを定電位に保持する。或いは、大気環境のような24時間周期で温度や湿度が変化する条件を設定する場合には、間欠的に水素が浸透する条件を設定する。
【0037】
具体的に前者の場合は、試験片Sの電位を定電位(例えば−1.2V)に保持する。後者の場合は、試験片Sの電位を、一定の周期で、低電位(−0.8乃至−1.5V)と高電位(−0.8V)とを繰り返すようにする。この周期は、任意の時間に設定しても良いが、実環境では1日(24時間)であるため、試験片Sの電位を、上記に例示した低電位と高電位との間で24時間サイクルで変動させる。
【0038】
以上に述べた電位条件は、実環境に於いて水素がボルト1の材料中へ浸透する透過速度を、後述のモニタリング試験を行うことにより測定し、実環境に於ける水素の透過速度と同等の速度で水素を試験片Sに浸透させるのに必要な試験片Sの電位を決定する。更に、実環境の1乃至10倍の水素透過速度を達成させるのに必要な試験片Sの電位を決定する。また、このような定電位又は周期的に変動させる電位を試験片Sに付与する時間は、任意に定めても良いが、好ましくは720時間(30日)、又は720時間を超える範囲とする。また、ここに例示した時間は、必ずしも継続した時間に限らず、互いに断続した幾つかの時間を通算したものであっても良い。
【0039】
第3に、上記に例示した720時間の経過後、言い換えれば、所定量の水素がボルト1の材料中へ浸透することにより、ボルト1が水素脆化するのを待って、個々のボルト1の破断の有無を目視で確認し、それぞれのボルト1の材料中に侵入した水素量を分析する。
【0040】
水素量の分析方法は、遅れ破壊に寄与すると考えられている拡散性水素をボルト1から分離して測定する必要があるため、『鉄と鋼Vol.82,No.4(1996)』のp297に記されているように、昇温脱離法により測定するのが望ましい。例えば、四重極質量分析計を用いるのであれば、ボルト1を切断して得られる試験片を真空チャンバー内に投入し、同試験片を真空中で10℃/分の割合で摂氏1000度まで加熱して、水素放出曲線を得る。その水素放出曲線上で常温から400℃までに放出された水素を、遅れ破壊に有害な拡散性水素として計測する。
【0041】
第4に、破断しなかった幾つかのボルト1から検出された拡散性水素濃度の値を、相互に比較し、これらのうちから検出された最大の水素濃度を「未破断最大水素濃度」として定義する。更に、破断した幾つかのボルト1から検出された拡散性水素濃度の値を、相互に比較し、これらのうち最小の水素濃度を「破断最小水素濃度」として定義する。「未破断最大水素濃度」及び「破断最小水素濃度」は、何れも遅れ破壊が起こる条件の目安となる。
【0042】
次に、上記に例示した電位条件を正確に決めるためのモニタリング試験装置Eについて説明する。図3及び図4に示すように、ボルト1と同材質から成る試料として、厚さ0.5乃至1mmの円盤試験片9を準備する。円盤試験片9の表面を600番の粗さのエメリーを付着した紙等を用いて研磨した後、その一面aにNi鍍金を施し、一面aをセル容器10に挿入して、一面aを水溶液Bに浸すようにする。更に、一面aの反対面である他面bをセル容器10の外側に露出させる。この状態で、円盤試験片9の周縁とセル容器10の間にOリング等を挟み込む等して、水溶液Bのセル容器10外への液漏れを防止する。
【0043】
NaOHの水溶液Bの濃度は0.1乃至5重量%の範囲に設定すれば良い。セル容器10には、NaOHの水溶液Bの中に、例えば白金から成る対極50と、例えば銀塩化銀から成る参照電極60とが各々挿入されている。円盤試験片9、対極50、及び参照電極60は、それぞれ導線80を介してポテンショスタット70に接続している。
【0044】
モニタリング試験装置Eによる測定の手順として、先ず、ポテンショスタット70により円盤試験片9の電位を参照電極60に対して0ボルト(V)に保持する。この状態で、セル容器10の外部の環境Cから円盤試験片9を透過してセル容器10の内部へ浸透する水素が、NaOHの水溶液Bの中で水素イオンに酸化され、この酸化によって放出される電子が、円盤試験片9と対極50との間に流れる電流として検出される。この電流をポテンショスタット70が「水素透過電流」として計測する。
【0045】
環境Cとしては、ボルト1の曝露試験が行える実環境であることが最も望ましく、例えば沖縄県へモニタリング試験装置Eを持って行き、このような実環境に於いて上記の「水素透過電流」を計測しても良いが、同県の平年の温度、湿度、又は飛来塩分の履歴等を恒温恒湿装置を用いて実験室にて再現し、このような空間にモニタリング試験装置Eを置いても良い。或いは、図4に示すように、セル容器10の全体を水溶液Aに没入し、水溶液Aを環境Cと見做しても良い。
【0046】
このように、セル容器10を水溶液Aに没入する場合、円盤試験片9はポテンショスタット7,70の両方に各々接続する。そして、ポテンショスタット7によって水溶液Aの中の参照電極6に対して円盤試験片9に負の電位を付与する一方で、ポテンショスタット70によって円盤試験片9と水溶液Bの中の参照電極60との電位差は相対的に0ボルト(V)に保持する。これにより、参照電極6に対して負の電位を付与された円盤試験片9の他面bに、水溶液Aの水素イオンが引き付けられ、水素が発生する。この水素量は、円盤試験片9に付与した負の電位を調整すれば所望に増減できる。従って、円盤試験片9の他面bにおける水素の発生量を徐々に増大し、水溶液Aからセル容器10内へ向かって円盤試験片9を透過する水素の透過速度が、上記に例示した実環境における速度の1乃至10倍に達した時点で、ポテンショスタット70によって円盤試験片9と対極50との間に流れる電流を「水素透過電流」として計測する。この電流値を基に、図1に表した試験片Sに付与すべき電位(−0.8乃至−1.5V)を決定する。
【0047】
次に、本発明に係る実施例について説明する。本実施例では、表1の成分を含有するボルト又は鋼軸をサンプルとして、周知の曝露試験、本発明の実施の形態として既述した評価方法、及び、図5に例示した丸棒引張試験片11を用いた周知の評価方法を個別に実施し、これら3種類の評価方法によって得られた結果を、それぞれ表2乃至表4に記している。
【0048】
【表1】
【0049】
サンプルとしてボルトを採用する場合には、表1に示す化学成分を含有し、ネジ軸の直径が22mmのボルト(M22)を採用する。サンプルとして鋼軸を採用する場合には、同成分を含有する丸棒引張試験片11を採用する。このようなサンプルは、通常の製造工程で冷間転造により成形された後、焼入れ又は焼戻し等の熱処理により、3通りの強度水準(表の「引張強度」の欄)に調整したものを各々準備する。更に、これら3通りの強度水準に調整済みのサンプルに、同サンプルの降伏点の値の85%、100%、又は同サンプルの引張強度の100%の3通りの応力(表の「応力」の欄)を付与する。
【0050】
つまり、3通りの強度水準のサンプルを、更に3通りの応力水準に分けれ条件設定する。これら9通りに条件設定したサンプルを対象として、上記の3種類の評価方法を個別に実施する。以下、3種類の評価方法について順を追って説明する。
【0051】
第1に、曝露試験は、複数本のボルトについて、兵庫県尼崎市(内陸地域)、沖縄県名護市(海浜地域)、及び同県名護(海水に殆どの時間浸かる海岸)にて、2年間継続して実施する。その後、個々のボルトの破断を確認する。サンプルとしたボルトの総計は、同ボルトの強度水準及び応力水準毎に100本ずつ、合計900本とした。
【0052】
【表2】
【0053】
表2は、実環境に於ける曝露試験の結果を示している。これにより、サンプルの引張強度が高くなる程、且つ負荷応力が増す程に破損本数が増加する傾向が認められる。
【0054】
第2に、本発明の実施の形態に係る評価方法は、上記サンプルと同条件に設定した合計90本のボルトについて実施する。図1に示すように、ボルト1にナット2を締め付ける。これらから酸化物スケールをアルミナショットにより除去し、被締結材4をシリコン樹脂により被覆する。一方、ボルト1の頭部に、導線8を半田付けによって接続し、ボルト1と導線8との接続部及び導線8をシリコン樹脂で被覆したものを試験片Sとする。試験片Sを、銀塩化銀電極及び白金対極と共に、3%食塩と0.1%のチオシアン酸アンモニウム水溶液Aに浸漬し、ポテンショスタット7により試験片Sの電位を制御する。
【0055】
試験片Sの電位の設定について具体的に述べる。即ち、環境設定として、例えば兵庫県尼崎市の内陸地域を想定する場合、試験片Sの電位が−0.8V乃至−1.0Vの間で24時間周期で変動させるよう設定する。環境設定として、例えば沖縄県名護市の海浜地域を想定する場合、試験片Sの電位が−0.8V乃至−1.2Vの間で24時間周期で変動させるよう設定する。更に、同県名護市の海岸を想定する場合、試験片Sの電位が−1.2Vで一定になるよう保持する。以上の電位条件は、それぞれの実環境に於ける水素の透過速度を既述のモニタリング試験に基づき決定したものである。以上の数値は、水素の透過速度が実環境に於けるそれの10倍となるように、試験片Sの電位を定めたものである。
【0056】
続いて、以上の数値に従って試験片Sに電位を付与する。これを720時間継続し、ボルト1が水素脆化するのを待って、個々のボルト1の破断を確認する。そして、個々のボルト1の材料中の拡散性水素濃度を、既述の四重極質量分析計を用いて分析する。これにより、破断しなかったボルト1と、破断したボルトとから、それぞれ「未破断限界水素濃度」及び「破断最小水素濃度」を判定する。これらの値が遅れ破壊が起こるか否かを見極める指標となる。
【0057】
【表3】
【0058】
表3は、本発明の実施の形態に係る評価方法の結果を示している。これにより、サンプルの引張強度が高くなる程、且つ負荷応力が増す程に破損本数が増加する傾向が認められる。従って、本実施の形態に係る評価方法の結果は、表2に示す曝露試験の結果に一致する。また、表3の「水素濃度」の欄に、引張強度及び負荷応力の条件下における「未破断最大水素濃度」及び「破断最小水素濃度」をそれぞれ記している。これらの数値から「未破断最大水素濃度」及び「破断最小水素濃度」の両方が高く検出されるボルトは、破断し難い傾向にあることが認められる。
【0059】
第3に、比較試験として、図5に示すような軸部に切欠20を形成した丸棒引張試験片11を準備し、これについて『鉄と鋼Vol.82,No.4(1996)』のp297に記された方法に従って耐遅れ破壊性を評価する。丸棒引張試験片11を9通りに条件設定する点は、サンプルとしてボルトを採用する場合と同様である。そして、9通りに条件設定された丸棒引張試験片11を、3%の食塩水(水溶液Aに相当)の中に浸漬し、丸棒引張試験片11の電位を、銀塩化銀電極に対して−1.5Vの定電位に保持する。これを200時間継続した後、丸棒引張試験片11の破断を確認する。更に、上記の要領で「未破断最大水素濃度」及び「破断最小水素濃度」を判定する。
【0060】
【表4】
【0061】
表4は、丸棒引張試験片11をサンプルとした評価方法の結果を示している。表4によれば、丸棒引張試験片11が破断する傾向は必ずしも曝露試験の結果とは一致しないことが認められる。即ち、曝露試験では、表2に示すように、引張強度を1491kg/mm2としたボルトの方が、引張強度を1363kg/mm2としたボルトよりも、破断した本数の割合が高いのに対して、丸棒引張試験片11をサンプルとした評価方法では、表4に示すように、引張強度を1491kg/mm2としたボルトの方が、引張強度を1363kg/mm2としたボルトよりも、破断した本数の割合が低くなっている。つまり、表2と表4は互いに逆の傾向を示し、曝露試験の結果と丸棒引張試験片11をサンプルとした評価方法の結果との間に食い違いのあることが認められる。
【0062】
従って、表2乃至表4に記した試験結果を統括して述べると、丸棒引張試験片11をサンプルとした評価方法によっては、必ずしも曝露試験のような正確な耐遅れ破壊性の評価結果を得ることができないのに対して、本発明の実施の形態に係る評価方法によれば、曝露試験と同様に正確な耐遅れ破壊性の評価が可能である。しかも、本発明の実施の形態に係る評価方法によれば、720時間前後の短期間で一通りの試験を終えられるので、曝露試験の難点であった数年に及ぶ試験期間を、大幅に短縮できるという利点がある。
【0063】
【発明の効果】
本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法によれば、電解質を含む水溶液の中で、引張試験片として選択したボルトに張力を加え、このボルトに負の電位を付与することにより、同ボルトの表面に水素を発生させることができる。このような水素をボルトの材料に積極的に浸透させられるので、周知の曝露試験のように自然界にある水素が徐々にボルトの材料に浸透する期間に比較して、格段に早くボルトを水素脆化させることができる。従って、ボルトの評価に要する試験期間を大幅に短縮することができる。
【0064】
更に、ボルトに浸透した水素を検出し計量すれば、破断したボルトから検出された水素量(破断最小水素濃度)と、破断しなかったボルトから検出された水素量(未破断最大水素濃度)に基づき、ボルトが明らかに破断、又は破断する危険性の高い水素量を認識できる。このような水素量から、実際にボルトが置かれる環境で起こり得るボルトの水素脆化の度合いを推測することができる。これに併せてボルトに加わる張力を勘案すれば、例えば、内陸地、海岸付近、湿地帯、又は寒冷地といったあらゆる環境下の実用に際して、遅れ破壊の起こらないボルトの規格を的確に選択することができる。また、当該評価方法の種々の環境設定において起こるボルトの破断と、これと同等の実環境における曝露試験により起こるボルトの破断とが対応することから、当該評価方法の信頼性が高いことが認められる。
【0065】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、モニタリング試験によって得られる水素透過電流から、ボルトに付与する負の電位の値を定めることができるので、ボルトが実際に使用される環境と同じ条件で、サンプルのボルトを水素脆化させられる。このため、当該試験方法によって実用に即したボルトの脆性破壊を再現することができる。
【0066】
しかも、モニタリング試験によって得られる水素透過電流に基づき、自然界で起こり得るボルトの水素脆化を、その数倍の速度で起こるような電位を探ることもできる。これにより、ボルトの水素脆化を飛躍的に促進させることが可能である。特に、ボルトに付与する負の電位を−0.8乃至−1.5Vの範囲に設定すれば、周知の曝露試験では数年を要したボルトの破断を、概ね720時間で達成することができる。
【0067】
また、ボルトに付与する負の電位を、−0.8乃至−1.5Vの範囲で周期的に変動させれば、溜め池やダム湖のように時期によって水位が変化する環境で、水に漬かる状態と大気中の条件とを、交互に再現することができる。特に、電位が変動させる周期を24時間に設定すれば、同周期で海水への出没を繰り返す干満帯に置かれるボルトについて、遅れ破壊の危険性を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る耐遅れ破壊性の評価方法を実施する試験装置の構成を示す概略図。
【図2】本発明の実施の形態に係る耐遅れ破壊性の評価方法のサンプルに付与する電位と時間との関係を示すグラフ。
【図3】本発明の実施の形態に係るモニタリング試験を実施するモニタリング装置の構成を示す概略図。
【図4】本発明の実施の形態に係るモニタリング試験の使用例を示す概略図。
【図5】本発明に係る実施例で適用した丸棒引張試験片の側面図、及び同丸棒引張試験片に形成した切欠を表す断面図。
【符号の説明】
1:ボルト
2:ナット
3:ワッシャ
4:被締結材
5,50:対極
6,60:参照電極
7,70:ポテンショスタット
8,80:導線
9:円盤試験(試料)
10:セル容器
11:丸棒引張試験片
20:切欠
S:試験片
A,B:水溶液
C:環境
E:モニタリング試験装置
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車、産業機械、又は建物等に使用されるボルト等について、その耐遅れ破壊性の評価を行うための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や産業機械の軽量化、建築構造物の大型化に伴い、高い締め付け力に耐える高力ボルトの需要が高まっている。一般に使用される高力ボルトは、例えばJISG4105(1989)に規定される引張強度1000MPa級のボルトである。これ以上の引張強度、例えば引張強度1100〜1200MPa級のボルトとなると、破壊し易いことが知られている。
【0003】
このような破壊の現象は遅れ破壊と呼ばれ、ボルトが締め付けられてから一定時間経過した後に、ボルトのネジ部や首下等の応力の集中する部分が脆性的に破壊し、同ボルトが突然破断する現象である。実情として、遅れ破壊がボルトによる締め付けの強化を妨げている。近年の研究で、遅れ破壊は、ボルトの腐食に伴いこの表面から、ボルトの素材である鋼材の内部へ水素が浸透し、同鋼材の脆化を引き起こす水素脆化の一種であることが判明しつつある。
【0004】
従って、高力ボルトを適切に使用するには、遅れ破壊に対する安全性の評価が不可欠である。今までに種々の評価方法が提案されてきた。最も確実な方法として、実際にボルトにナット等を締結し、これらのボルトとナットを大気中に一定期間放置し、この間にボルトが破断するか否か確認することが周知である。このような所謂曝露試験は、その開始から数年後に遅れ破壊によるボルトの破断が起こることもあり、試験を一通り終えるのに数年の歳月を要する。
【0005】
これを少しでも短縮できる方法の一例として、下記の特許文献1が挙げられる。即ち、評価の対象となるボルトに代えてダミーボルトを準備し、このダミーボルトをサンプルとして曝露試験を実行する。そして、同ダミーボルトが破断するまでに要した期間等の結果に基づいて、本来のボルトが破断するまでの期間を推測する。上記のダミーボルトは、評価の対象となるボルトよりも高い強度の材料から成るものであっても良いが、評価の対象となるボルトと同材質のものであっても良い。また、上記のダミーボルトに、評価の対象となるボルトが実用される状況よりも、更に強い張力を加えつつ曝露試験を実行しても良い。
【0006】
更に、試験の期間を短縮するための実験室的な促進試験法も今まで多く検討されている。例えば、切欠を形成した丸棒引張試験片に引張応力を負荷しつつ、水素が侵入し易い酸環境に浸漬する、ワルポール緩衝浴試験(酢酸ナトリウム+塩酸)、FIP(Federation
Internationale de la Precontraite)標準浴試験(チオシアン酸アンモニウム水溶液)等が挙げられる。
【0007】
また、近年の研究で、遅れ破壊と水素脆化との関係が裏付けられつつある背景から、環境からの水素侵入の速度や、ボルトを構成する鋼材中の水素濃度に着目した評価法も提案されている。これは、ボルトの応力が高い程、又は鋼材へ浸透する水素の量が多い程、遅れ破壊が起こり易いという傾向に着目したものである。
【0008】
具体的には、鋼材中の水素濃度(環境の過酷度)が一定であれば、ボルトの材質や強度に応じて遅れ破壊に対する限界応力、言い換えれば、遅れ破壊が起こらない範囲で許容される最大の締付力が決まる。逆に、ボルトの締付力が一定であれば、遅れ破壊に対する限界水素濃度、言い換えれば、遅れ破壊が起こらない範囲で許容される鋼材中の最大の水素濃度が決まる。
【0009】
上記の限界応力又は限界水素濃度を測量する方法の一例として、『鉄と鋼Vol.82,No.4(1996)』のp297に、促進評価法が記載されている。これは、切欠を形成した丸棒引張試験片に引張応力を負荷しつつ、実際の環境で想定し得る最も過酷な条件を模擬した食塩水中において、陰極チャージにより同試験片に水素を添加し、200時間後の破断の有無により限界応力を求めるものである。
【0010】
更に他の例が、『鉄と鋼Vol.83,No.7(1997)』のp454に記載されている。これは、切欠を形成した丸棒引張試験片を食塩水中に浸漬し、陰極チャージにより同試験片に水素を添加した後、同試験片にCd鍍金を施し水素の逃散を防止し、その後、所望の引張応力を同試験片に負荷し、100時間後の破断の有無を判定しつつ、試験後の試験片中の水素量を分析し、破断しなかった最大の水素濃度を限界水素濃度として求めるものである。また、下記の特許文献2には、空洞を有する棒状試験片を酸環境に浸漬し引張応力を負荷して破断の有無を確認しつつ、空洞に浸透した水素量を測定し、限界水素濃度をオンラインで測定する方法が開示されている。
【0011】
【特許文献1】
特開平2002−365202号公報
【特許文献2】
特開平8−145862号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
使用環境に於ける曝露試験がその環境中に於ける耐遅れ破壊性の評価としては確実な方法であるが、遅れ破壊が発生するまでに数年の期間を要することもあるため、高力ボルトの安全性に係る評価方法としては時間がかかり過ぎる欠点がある。
【0013】
また、切欠を形成した丸棒引張試験片を用いた促進試験法に基づく結果は、必ずしも曝露試験で評価した遅れ破壊の時期、又はボルト材質の優劣等に係る遅れ破壊の発生傾向に合致しない場合があり、信頼性に問題がある。また、曝露試験を行う環境としては、内陸部、飛来塩分の影響を受けやすい沿岸地域、又は海水に頻繁に浸かる干満帯に、概ね分けられる。これら環境毎の過酷度の差異が遅れ破壊の結果に大きく影響する筈であるが、上記の促進試験法では、今のところ環境の過酷度を反映した結果は得られない。
【0014】
そこで、本発明は、種々の環境に於ける耐遅れ破壊の安全性を迅速且つ的確に評価できる方法を提供することを目的とする。
【0015】
即ち、本発明者らは、上記の切欠を形成した丸棒引張試験片を用いた評価法の欠点を鋭意検討した。その結果、切欠を形成した丸棒から成る試験片に張力を加えても、実際のボルトのような応力状態には至らず、ボルトの首下及びネジ部近傍に起こるような応力集中や、これら応力集中部へ水素が集中すること(濃化)を完全に再現することは困難であると考えた。
【0016】
また、遅れ破壊は、ボルトにおける応力が集中した部分の表層近傍で発生しそこから進展するため、表層組織の耐遅れ破壊性を積極的に評価しなければならない。ボルトを製造する工程で、ボルト形成のための鍛造時に生じるメタルフローや、脱炭や浸炭による組織変化等の諸条件も遅れ破壊に影響すると考えられる。しかしながら、上記の丸棒引張試験片はボルトを素材として切出し加工して得られるものであるため、実際のボルトの表層組織を評価していることにならない。
【0017】
以上を踏まえて、本発明者らは、ボルトの締結時の応力集中を正確に再現し、且つボルトの表層部の耐遅れ破壊性を的確に評価するために、以下に述べる電気化学的な手法による遅れ破壊試験法を検討した。更に、種々の環境による過酷度を再現することを試みた。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、引張試験片に張力を加えるステップと、電解質を含む水溶液の中に前記張力を加えたボルトを対極と共に配置して、該引張試験片に負の電位を付与するステップと、前記水溶液の電解にて発生する水素により、前記引張試験片が水素脆化するのを待つステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
引張試験片はボルトであっても良い。この場合、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、被締結材を貫通したボルト挿通孔に、前記被締結材の一方から前記ボルトを挿通し、前記被締結材の他方から突出する前記ボルトのネジ部に、ナットを締め付けることにより、前記ボルトに張力を加えるものである。また、前記ボルトに前記水溶液が接触する部分を、機械的に研磨するステップを含むものである。
【0020】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、前記引張試験片に付与する負の電位が、銀塩化銀電極に対して−0.8乃至−1.5Vの範囲で定まる定電位であることを特徴とする。
【0021】
或いは、前記引張試験片に付与する負の電位が、銀塩化銀電極に対して−0.8乃至−1.5Vの範囲を周期的に変動させることを特徴とする。また、前記引張試験片に付与する負の電位が、24時間周期で変動させることを特徴とする。
【0022】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、前記負の電位を、前記引張試験片に継続又は通算して720時間付与することを特徴とする。
【0023】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、前記引張試験片に浸透した前記水素を検出し計量するステップを含むことを特徴とする。
【0024】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、前記引張試験片と同材質の試料の一面を電解質を含む水溶液に浸すステップと、前記試料の電位を、前記水溶液の中に配置した銀塩化銀電極に対して0Vに保持するステップと、前記試料の他面から前記一面へ透過する水素が前記水溶液の中でイオン化することにより、前記試料と前記対極との間に流れる電流を、水素透過電流として計測するステップとを含むモニタリング試験を実施し、前記水素透過電流を基に、前記引張試験片に付与する負の電位の値を定めることを特徴とする。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態に係る耐遅れ破壊性の評価方法について図1乃至図4に基づき説明する。図1は本発明に係る試験装置の要部の構成を示している。図中の符号は、それぞれ、1が高力ボルト、2がナット、3がワッシャ、4が被締結材、5が白金から成る対極、6が参照電極、7がポテンショスタット、8が導線、Aが電解質を含む水溶液を指している。水溶液Aとして、摂氏25度に於ける電気伝導度が0.01S/m以上で、且つpH値が7以下、好ましくは5以下の酸性のものを適用する。
【0026】
図2は、電位負荷条件の3つの典型例を示している。e1は、−1.2Vの定電位を表し、e2は、−1.5Vを下らない範囲で24時間周期で変動させる負の電位を表している。e3は、サインカーブに従って任意の周期で変動させる負の電位を表している。e4は、任意の負の電位と、これより相対的に高い電位を、所定の時間毎に繰り返す負の電位を表している。
【0027】
図3は、水素透過速度のモニタリング試験装置Eの構成を示している。図中の符号は、それぞれ、9が上記のボルト1と同じ材料から成る厚さ0.5乃至1mmの円盤試験片、50が対極、60が参照電極、70がポテンショスタット、80が導線、BがNaOHの水溶液、Cが外部環境となる領域を指している。円盤試験片9の矢印aで指した内面にはNi鍍金が施され、矢印bで指した外面は材料の素地が露出している。水溶液Bとして、摂氏25度に於ける電気伝導度が0.01S/m以上で、且つpH値が7以下、好ましくは5以下の酸性のものを適用する。
【0028】
図4は、モニタリング試験装置Eの使用例を示している。図1乃至図3に対応する構成要件には、同符号を付しその説明を省略する。図5は、切欠を形成した丸棒引張試験片の形状を示している。
【0029】
本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法を行う手順として、先ず、被締結材4を貫通した図に表れていないボルト挿通孔に、この一方からボルト1を挿通し、被締結材4の他方から突出したボルト1のネジ部に、ナット2を締結する。このようにして試験片Sを幾つか組み立てる。組立の過程で、ナット2と被締結材4の間にワッシャ3を咬ませても良い。ワッシャ3として剛性を有する材質のものを適用すれば、締結時の応力の調整の観点から望ましい。一般的に、ワッシャ3の材質は鋼材が最適である。ボルト1にナット2を締め付けることにより、ボルト1には負荷応力(張力)が発生する。この負荷応力は、ボルト1の実使用に即した値に設定しても良いが、試験時間の一層の短縮化を企図するならば、負荷応力をボルト1の材料の降伏点の80%以上の値に設定するのが望ましい。
【0030】
続いて、ボルト1の表面に製造工程で発生する酸化スケールが付着している場合には、酸化スケールの除去(脱スケール処理)を行う必要がある。酸化スケールは、ボルト1の材料中への水素の侵入を阻害し試験の支障となる。これを防止するため、ボルト1にナット2を締結した後に、ボルト1及びナット2における被締結材4から露出した部分に、ブラスト処理を施すことにより、上記の酸化スケールを除去する。ブラスト処理は、例えばサンドブラスト、又はアルミナショット処理等の方法で行えば良いが、機械的研磨方法であれば特に限定されない。
【0031】
また、被締結材4として導電性を有する材料を適用する場合、水溶液A中でボルト1と被締結材4との間に電気的又は化学的作用が働き、ボルト1への水素の侵入を妨げることがある。更には、被締結材4に多くの水素が侵入する事態となった場合、その分、ボルト1の材料中への水素の侵入が減少し、試験の進行が遅延することが考えられる。この観点から、導電性を有する材料、例えば鋼材等を被締結材4として用いる場合は、ボルト1とナット2とを締結した後に、被締結材4の水溶液Aに接触する部分をシリコン等の絶縁性の樹脂等で被覆する。
【0032】
以上の工程を経て本評価方法の準備を終える。ボルト1の材料中へ水素を添加する手順としては、第1に、試験片Sを水溶液Aに浸漬させる。
【0033】
図中に試験片Sは1個しか表れていないが、幾つかの試験片Sを水溶液Aに同時に浸漬させても良い。この状態で、水溶液A中には、例えば銀塩化銀電から成る参照電極6、例えば白金から成る対極5が浸漬され、これらがポテンショスタット7に導線8を介して予め接続されている。そして、ポテンショスタット7を機能させ、試験片Sに電位を付与することにより、電気化学的にボルト1の表面で水素を発生させる。試験片Sの電位とは、参照電極6である銀塩化銀電極との電位差を指す。
【0034】
試験片Sに電位を付与する過程で、水溶液Aに電流が良好に流れるように、水溶液Aの電気伝導度は0.01S/m以上でなければならない。更に、ボルト1の表面で十分な量の水素が発生するように、水溶液A中の水素イオン濃度が高くなければならない。従って、水溶液AのpH値を7以下とする。電解質として、例えば、NaCl又はNa2SO4を挙げられるが、好ましくは、水溶液Aの全体としてのpH値を5以下にする。また、ボルト1の材料中への水素の侵入を促進するために、触媒として、例えば0.1乃至1重量%のチオシアン酸アンモニウムを水溶液Aに添加しても良い。
【0035】
第2に、ポテンショスタット7により試験片Sの電位を調節して、ボルト1の材料中への水素の侵入量を制御する。
【0036】
試験片Sの電位を適切に保つことで、ボルト1の材料中へ連続的に水素が浸透することになる。例えば、海水浸漬環境に置かれたボルト1に水素が浸透するような条件を設定する場合には、試験片Sを定電位に保持する。或いは、大気環境のような24時間周期で温度や湿度が変化する条件を設定する場合には、間欠的に水素が浸透する条件を設定する。
【0037】
具体的に前者の場合は、試験片Sの電位を定電位(例えば−1.2V)に保持する。後者の場合は、試験片Sの電位を、一定の周期で、低電位(−0.8乃至−1.5V)と高電位(−0.8V)とを繰り返すようにする。この周期は、任意の時間に設定しても良いが、実環境では1日(24時間)であるため、試験片Sの電位を、上記に例示した低電位と高電位との間で24時間サイクルで変動させる。
【0038】
以上に述べた電位条件は、実環境に於いて水素がボルト1の材料中へ浸透する透過速度を、後述のモニタリング試験を行うことにより測定し、実環境に於ける水素の透過速度と同等の速度で水素を試験片Sに浸透させるのに必要な試験片Sの電位を決定する。更に、実環境の1乃至10倍の水素透過速度を達成させるのに必要な試験片Sの電位を決定する。また、このような定電位又は周期的に変動させる電位を試験片Sに付与する時間は、任意に定めても良いが、好ましくは720時間(30日)、又は720時間を超える範囲とする。また、ここに例示した時間は、必ずしも継続した時間に限らず、互いに断続した幾つかの時間を通算したものであっても良い。
【0039】
第3に、上記に例示した720時間の経過後、言い換えれば、所定量の水素がボルト1の材料中へ浸透することにより、ボルト1が水素脆化するのを待って、個々のボルト1の破断の有無を目視で確認し、それぞれのボルト1の材料中に侵入した水素量を分析する。
【0040】
水素量の分析方法は、遅れ破壊に寄与すると考えられている拡散性水素をボルト1から分離して測定する必要があるため、『鉄と鋼Vol.82,No.4(1996)』のp297に記されているように、昇温脱離法により測定するのが望ましい。例えば、四重極質量分析計を用いるのであれば、ボルト1を切断して得られる試験片を真空チャンバー内に投入し、同試験片を真空中で10℃/分の割合で摂氏1000度まで加熱して、水素放出曲線を得る。その水素放出曲線上で常温から400℃までに放出された水素を、遅れ破壊に有害な拡散性水素として計測する。
【0041】
第4に、破断しなかった幾つかのボルト1から検出された拡散性水素濃度の値を、相互に比較し、これらのうちから検出された最大の水素濃度を「未破断最大水素濃度」として定義する。更に、破断した幾つかのボルト1から検出された拡散性水素濃度の値を、相互に比較し、これらのうち最小の水素濃度を「破断最小水素濃度」として定義する。「未破断最大水素濃度」及び「破断最小水素濃度」は、何れも遅れ破壊が起こる条件の目安となる。
【0042】
次に、上記に例示した電位条件を正確に決めるためのモニタリング試験装置Eについて説明する。図3及び図4に示すように、ボルト1と同材質から成る試料として、厚さ0.5乃至1mmの円盤試験片9を準備する。円盤試験片9の表面を600番の粗さのエメリーを付着した紙等を用いて研磨した後、その一面aにNi鍍金を施し、一面aをセル容器10に挿入して、一面aを水溶液Bに浸すようにする。更に、一面aの反対面である他面bをセル容器10の外側に露出させる。この状態で、円盤試験片9の周縁とセル容器10の間にOリング等を挟み込む等して、水溶液Bのセル容器10外への液漏れを防止する。
【0043】
NaOHの水溶液Bの濃度は0.1乃至5重量%の範囲に設定すれば良い。セル容器10には、NaOHの水溶液Bの中に、例えば白金から成る対極50と、例えば銀塩化銀から成る参照電極60とが各々挿入されている。円盤試験片9、対極50、及び参照電極60は、それぞれ導線80を介してポテンショスタット70に接続している。
【0044】
モニタリング試験装置Eによる測定の手順として、先ず、ポテンショスタット70により円盤試験片9の電位を参照電極60に対して0ボルト(V)に保持する。この状態で、セル容器10の外部の環境Cから円盤試験片9を透過してセル容器10の内部へ浸透する水素が、NaOHの水溶液Bの中で水素イオンに酸化され、この酸化によって放出される電子が、円盤試験片9と対極50との間に流れる電流として検出される。この電流をポテンショスタット70が「水素透過電流」として計測する。
【0045】
環境Cとしては、ボルト1の曝露試験が行える実環境であることが最も望ましく、例えば沖縄県へモニタリング試験装置Eを持って行き、このような実環境に於いて上記の「水素透過電流」を計測しても良いが、同県の平年の温度、湿度、又は飛来塩分の履歴等を恒温恒湿装置を用いて実験室にて再現し、このような空間にモニタリング試験装置Eを置いても良い。或いは、図4に示すように、セル容器10の全体を水溶液Aに没入し、水溶液Aを環境Cと見做しても良い。
【0046】
このように、セル容器10を水溶液Aに没入する場合、円盤試験片9はポテンショスタット7,70の両方に各々接続する。そして、ポテンショスタット7によって水溶液Aの中の参照電極6に対して円盤試験片9に負の電位を付与する一方で、ポテンショスタット70によって円盤試験片9と水溶液Bの中の参照電極60との電位差は相対的に0ボルト(V)に保持する。これにより、参照電極6に対して負の電位を付与された円盤試験片9の他面bに、水溶液Aの水素イオンが引き付けられ、水素が発生する。この水素量は、円盤試験片9に付与した負の電位を調整すれば所望に増減できる。従って、円盤試験片9の他面bにおける水素の発生量を徐々に増大し、水溶液Aからセル容器10内へ向かって円盤試験片9を透過する水素の透過速度が、上記に例示した実環境における速度の1乃至10倍に達した時点で、ポテンショスタット70によって円盤試験片9と対極50との間に流れる電流を「水素透過電流」として計測する。この電流値を基に、図1に表した試験片Sに付与すべき電位(−0.8乃至−1.5V)を決定する。
【0047】
次に、本発明に係る実施例について説明する。本実施例では、表1の成分を含有するボルト又は鋼軸をサンプルとして、周知の曝露試験、本発明の実施の形態として既述した評価方法、及び、図5に例示した丸棒引張試験片11を用いた周知の評価方法を個別に実施し、これら3種類の評価方法によって得られた結果を、それぞれ表2乃至表4に記している。
【0048】
【表1】
【0049】
サンプルとしてボルトを採用する場合には、表1に示す化学成分を含有し、ネジ軸の直径が22mmのボルト(M22)を採用する。サンプルとして鋼軸を採用する場合には、同成分を含有する丸棒引張試験片11を採用する。このようなサンプルは、通常の製造工程で冷間転造により成形された後、焼入れ又は焼戻し等の熱処理により、3通りの強度水準(表の「引張強度」の欄)に調整したものを各々準備する。更に、これら3通りの強度水準に調整済みのサンプルに、同サンプルの降伏点の値の85%、100%、又は同サンプルの引張強度の100%の3通りの応力(表の「応力」の欄)を付与する。
【0050】
つまり、3通りの強度水準のサンプルを、更に3通りの応力水準に分けれ条件設定する。これら9通りに条件設定したサンプルを対象として、上記の3種類の評価方法を個別に実施する。以下、3種類の評価方法について順を追って説明する。
【0051】
第1に、曝露試験は、複数本のボルトについて、兵庫県尼崎市(内陸地域)、沖縄県名護市(海浜地域)、及び同県名護(海水に殆どの時間浸かる海岸)にて、2年間継続して実施する。その後、個々のボルトの破断を確認する。サンプルとしたボルトの総計は、同ボルトの強度水準及び応力水準毎に100本ずつ、合計900本とした。
【0052】
【表2】
【0053】
表2は、実環境に於ける曝露試験の結果を示している。これにより、サンプルの引張強度が高くなる程、且つ負荷応力が増す程に破損本数が増加する傾向が認められる。
【0054】
第2に、本発明の実施の形態に係る評価方法は、上記サンプルと同条件に設定した合計90本のボルトについて実施する。図1に示すように、ボルト1にナット2を締め付ける。これらから酸化物スケールをアルミナショットにより除去し、被締結材4をシリコン樹脂により被覆する。一方、ボルト1の頭部に、導線8を半田付けによって接続し、ボルト1と導線8との接続部及び導線8をシリコン樹脂で被覆したものを試験片Sとする。試験片Sを、銀塩化銀電極及び白金対極と共に、3%食塩と0.1%のチオシアン酸アンモニウム水溶液Aに浸漬し、ポテンショスタット7により試験片Sの電位を制御する。
【0055】
試験片Sの電位の設定について具体的に述べる。即ち、環境設定として、例えば兵庫県尼崎市の内陸地域を想定する場合、試験片Sの電位が−0.8V乃至−1.0Vの間で24時間周期で変動させるよう設定する。環境設定として、例えば沖縄県名護市の海浜地域を想定する場合、試験片Sの電位が−0.8V乃至−1.2Vの間で24時間周期で変動させるよう設定する。更に、同県名護市の海岸を想定する場合、試験片Sの電位が−1.2Vで一定になるよう保持する。以上の電位条件は、それぞれの実環境に於ける水素の透過速度を既述のモニタリング試験に基づき決定したものである。以上の数値は、水素の透過速度が実環境に於けるそれの10倍となるように、試験片Sの電位を定めたものである。
【0056】
続いて、以上の数値に従って試験片Sに電位を付与する。これを720時間継続し、ボルト1が水素脆化するのを待って、個々のボルト1の破断を確認する。そして、個々のボルト1の材料中の拡散性水素濃度を、既述の四重極質量分析計を用いて分析する。これにより、破断しなかったボルト1と、破断したボルトとから、それぞれ「未破断限界水素濃度」及び「破断最小水素濃度」を判定する。これらの値が遅れ破壊が起こるか否かを見極める指標となる。
【0057】
【表3】
【0058】
表3は、本発明の実施の形態に係る評価方法の結果を示している。これにより、サンプルの引張強度が高くなる程、且つ負荷応力が増す程に破損本数が増加する傾向が認められる。従って、本実施の形態に係る評価方法の結果は、表2に示す曝露試験の結果に一致する。また、表3の「水素濃度」の欄に、引張強度及び負荷応力の条件下における「未破断最大水素濃度」及び「破断最小水素濃度」をそれぞれ記している。これらの数値から「未破断最大水素濃度」及び「破断最小水素濃度」の両方が高く検出されるボルトは、破断し難い傾向にあることが認められる。
【0059】
第3に、比較試験として、図5に示すような軸部に切欠20を形成した丸棒引張試験片11を準備し、これについて『鉄と鋼Vol.82,No.4(1996)』のp297に記された方法に従って耐遅れ破壊性を評価する。丸棒引張試験片11を9通りに条件設定する点は、サンプルとしてボルトを採用する場合と同様である。そして、9通りに条件設定された丸棒引張試験片11を、3%の食塩水(水溶液Aに相当)の中に浸漬し、丸棒引張試験片11の電位を、銀塩化銀電極に対して−1.5Vの定電位に保持する。これを200時間継続した後、丸棒引張試験片11の破断を確認する。更に、上記の要領で「未破断最大水素濃度」及び「破断最小水素濃度」を判定する。
【0060】
【表4】
【0061】
表4は、丸棒引張試験片11をサンプルとした評価方法の結果を示している。表4によれば、丸棒引張試験片11が破断する傾向は必ずしも曝露試験の結果とは一致しないことが認められる。即ち、曝露試験では、表2に示すように、引張強度を1491kg/mm2としたボルトの方が、引張強度を1363kg/mm2としたボルトよりも、破断した本数の割合が高いのに対して、丸棒引張試験片11をサンプルとした評価方法では、表4に示すように、引張強度を1491kg/mm2としたボルトの方が、引張強度を1363kg/mm2としたボルトよりも、破断した本数の割合が低くなっている。つまり、表2と表4は互いに逆の傾向を示し、曝露試験の結果と丸棒引張試験片11をサンプルとした評価方法の結果との間に食い違いのあることが認められる。
【0062】
従って、表2乃至表4に記した試験結果を統括して述べると、丸棒引張試験片11をサンプルとした評価方法によっては、必ずしも曝露試験のような正確な耐遅れ破壊性の評価結果を得ることができないのに対して、本発明の実施の形態に係る評価方法によれば、曝露試験と同様に正確な耐遅れ破壊性の評価が可能である。しかも、本発明の実施の形態に係る評価方法によれば、720時間前後の短期間で一通りの試験を終えられるので、曝露試験の難点であった数年に及ぶ試験期間を、大幅に短縮できるという利点がある。
【0063】
【発明の効果】
本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法によれば、電解質を含む水溶液の中で、引張試験片として選択したボルトに張力を加え、このボルトに負の電位を付与することにより、同ボルトの表面に水素を発生させることができる。このような水素をボルトの材料に積極的に浸透させられるので、周知の曝露試験のように自然界にある水素が徐々にボルトの材料に浸透する期間に比較して、格段に早くボルトを水素脆化させることができる。従って、ボルトの評価に要する試験期間を大幅に短縮することができる。
【0064】
更に、ボルトに浸透した水素を検出し計量すれば、破断したボルトから検出された水素量(破断最小水素濃度)と、破断しなかったボルトから検出された水素量(未破断最大水素濃度)に基づき、ボルトが明らかに破断、又は破断する危険性の高い水素量を認識できる。このような水素量から、実際にボルトが置かれる環境で起こり得るボルトの水素脆化の度合いを推測することができる。これに併せてボルトに加わる張力を勘案すれば、例えば、内陸地、海岸付近、湿地帯、又は寒冷地といったあらゆる環境下の実用に際して、遅れ破壊の起こらないボルトの規格を的確に選択することができる。また、当該評価方法の種々の環境設定において起こるボルトの破断と、これと同等の実環境における曝露試験により起こるボルトの破断とが対応することから、当該評価方法の信頼性が高いことが認められる。
【0065】
更に、本発明に係る耐遅れ破壊性の評価方法は、モニタリング試験によって得られる水素透過電流から、ボルトに付与する負の電位の値を定めることができるので、ボルトが実際に使用される環境と同じ条件で、サンプルのボルトを水素脆化させられる。このため、当該試験方法によって実用に即したボルトの脆性破壊を再現することができる。
【0066】
しかも、モニタリング試験によって得られる水素透過電流に基づき、自然界で起こり得るボルトの水素脆化を、その数倍の速度で起こるような電位を探ることもできる。これにより、ボルトの水素脆化を飛躍的に促進させることが可能である。特に、ボルトに付与する負の電位を−0.8乃至−1.5Vの範囲に設定すれば、周知の曝露試験では数年を要したボルトの破断を、概ね720時間で達成することができる。
【0067】
また、ボルトに付与する負の電位を、−0.8乃至−1.5Vの範囲で周期的に変動させれば、溜め池やダム湖のように時期によって水位が変化する環境で、水に漬かる状態と大気中の条件とを、交互に再現することができる。特に、電位が変動させる周期を24時間に設定すれば、同周期で海水への出没を繰り返す干満帯に置かれるボルトについて、遅れ破壊の危険性を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る耐遅れ破壊性の評価方法を実施する試験装置の構成を示す概略図。
【図2】本発明の実施の形態に係る耐遅れ破壊性の評価方法のサンプルに付与する電位と時間との関係を示すグラフ。
【図3】本発明の実施の形態に係るモニタリング試験を実施するモニタリング装置の構成を示す概略図。
【図4】本発明の実施の形態に係るモニタリング試験の使用例を示す概略図。
【図5】本発明に係る実施例で適用した丸棒引張試験片の側面図、及び同丸棒引張試験片に形成した切欠を表す断面図。
【符号の説明】
1:ボルト
2:ナット
3:ワッシャ
4:被締結材
5,50:対極
6,60:参照電極
7,70:ポテンショスタット
8,80:導線
9:円盤試験(試料)
10:セル容器
11:丸棒引張試験片
20:切欠
S:試験片
A,B:水溶液
C:環境
E:モニタリング試験装置
Claims (10)
- 引張試験片に張力を加えるステップと、
電解質を含む水溶液の中に前記張力を加えた引張試験片を対極と共に配置して、該引張試験片に負の電位を付与するステップと、
前記水溶液の電解にて発生する水素により、前記引張試験片が水素脆化するのを待つステップと、
を含むことを特徴とする耐遅れ破壊性の評価方法。 - 前記引張試験片がボルトである請求項1に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 被締結材を貫通したボルト挿通孔に、前記被締結材の一方から前記ボルトを挿通し、前記被締結材の他方から突出する前記ボルトのネジ部に、ナットを締め付けることにより、前記ボルトに張力を加えることを特徴とする請求項2に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記ボルトに前記水溶液が接触する部分を、機械的に研磨するステップを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記引張試験片に付与する負の電位が、銀塩化銀電極に対して−0.8乃至−1.5Vの範囲で定まる定電位であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記引張試験片に付与する負の電位が、銀塩化銀電極に対して−0.8乃至−1.5Vの範囲を周期的に変動させることを特徴とする請求項1乃至5に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記引張試験片に付与する負の電位が、24時間周期で変動させることを特徴とする請求項6に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記負の電位を、前記引張試験片に継続又は通算して720時間付与することを特徴とする請求項1乃至7に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記引張試験片に浸透した前記水素を検出し計量するステップを含むことを特徴とする請求項1乃至8に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
- 前記引張試験片と同材質の試料の一面を電解質を含む水溶液に浸すステップと、
前記試料の電位を、前記水溶液の中に配置した銀塩化銀電極に対して0Vに保持するステップと、
前記試料の他面から前記一面へ透過する水素が前記水溶液の中でイオン化することにより、前記試料と前記対極との間に流れる電流を、水素透過電流として計測するステップと、を含むモニタリング試験を実施し、
前記水素透過電流を基に、前記引張試験片に付与する負の電位の値を定めることを特徴とする請求項1乃至9に記載の耐遅れ破壊性の評価方法。
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