JP5621186B2 - 固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents

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本発明は、カーボンペーパとの接触電気抵抗の低い固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼の製造方法に関するものである。
ステンレス鋼の優れた耐食性は、その製造過程で不動態皮膜が表面に形成されることによって発現される。不動態皮膜は、オキシ水酸化クロムを主体としているので導電性が劣る。そのため、通電部品として使用する場合には金めっき等を施して、接触電気抵抗を低減させる必要がある。
近年、各種の燃料電池(たとえば固体高分子形燃料電池等)が開発され、その燃料電池に装着されるセパレータにはステンレス鋼が広く使用されている。ステンレス鋼は耐食性を有するが、セパレータには耐食性のみならず導電性も求められるので、ステンレス鋼の導電性を改善してセパレータとして使用する技術が種々検討されている。
特許文献1には、ステンレス鋼(たとえばSUS304等)の表面に金めっきを施して接触電気抵抗を低減させ、セパレータとして使用することによって、燃料電池の出力を向上させる技術が開示されている。しかし、金めっきが薄い場合にはピンホールが発生し易いので、金めっきの腐食が進行し、導電性を安定して維持できない。一方で、金めっきが厚い場合には、セパレータの製造コストが上昇する。
特許文献2には、表面にカーボン粉末を分散付着させたフェライト系ステンレス鋼を用いることによって、セパレータの導電性を改善する技術が開示されている。しかし、カーボン粉末を付着させるためには複雑な処理が必要であり、セパレータの製造コストが上昇する。また、セパレータの製造工程あるいは燃料電池の組立て工程でカーボン粉末が剥離すると、導電性を改善する効果が得られない。
特許文献3には、導電性を高める作用を有する析出物(たとえばM236型炭化物,M2B型硼化物等)を表面に析出させることによって、セパレータの導電性を改善する技術が開示されている。しかし、これらの析出物を得るためには、ステンレス鋼に炭素(C)や硼素(B)を添加しなければならないので、ステンレス鋼が硬化し、ステンレス鋼を鋼板として加工する際の製造性やセパレータの製造工程で成形性が著しく劣化する。しかも、ステンレス鋼中のクロム(Cr)がCやBと結合して析出物を生成するので、固溶Crが減少して、ステンレス鋼の耐食性が劣化する。
特開平10-228914号公報 特開2000-277133号公報 特開2000-214186号公報
本発明は、耐食性や成形性を損なうことなく、優れた導電性を有する(すなわちカーボンペーパとの接触電気抵抗の低い)固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼の製造方法を提供することを目的とする。
発明者らは、ステンレス鋼の表面に形成される不動態皮膜の組成とステンレス鋼の接触電気抵抗との関係について鋭意研究を行なった。その結果、不動態皮膜にフッ素(F)を含有させることによって、カーボンペーパとの接触電気抵抗を大幅に低減できることが分かった。さらに、Fを不動態皮膜に含有させるためには、Fイオンを含有した溶液にステンレス鋼を浸漬することが有効であることが分かった。なお、Fイオンを含有した溶液は、酸性水溶液であることが好ましく、その濃度や温度は、所定の溶解速度でステンレス鋼が溶解するように調整する必要があることが判明した。
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、カーボンペーパとの接触電気抵抗の低い固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼の製造方法において、硝酸を0.5〜7.5質量%、フッ酸を5〜15質量%含有した溶液に、ステンレス鋼を溶解速度0.002g/m2秒以上0.05g/m2秒未満で浸漬する固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼の製造方法である。
本発明によれば、耐食性や成形性を損なうことなく、カーボンペーパとの接触電気抵抗の低い固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼を得ることができる。従来の燃料電池では高価なカーボンセパレータや金めっきセパレータを使用していたが、本発明の固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼を使用することによって、安価なセパレータを製造できる。
本発明を適用するステンレス鋼の成分は、特に限定しない。ただし、クロム(Cr)を13質量%以上含有し、表面に形成される不動態皮膜にCrが含有されるステンレス鋼であることが好ましい。
そのステンレス鋼の不動態皮膜にフッ素(F)を含有させる。そのためには、Fイオンを含有した溶液にステンレス鋼を浸漬する。使用する溶液は、酸性水溶液(たとえばフッ酸と硝酸の混合液,フッ化ナトリウムと硝酸の混合液等)が好適である。
Fイオンを含有したステンレス鋼を浸漬することによって、Fが不動態皮膜を一旦破壊し、その後、不動態皮膜に取込まれる。ただし不動態皮膜にFを取込ませるためには、ステンレス鋼の溶解速度を所定の範囲内に維持する必要がある。
ステンレス鋼の溶解速度が0.002g/m2秒未満では、不動態皮膜の破壊が遅れるので、Fが不動態皮膜に取込まれるまでに長時間を要し、セパレータ等の部品の生産性の低下を招く。一方、0.05g/m2秒以上では、不動態皮膜が短時間で破壊されて溶解するので、Fが不動態皮膜に取込まれる現象が生じない。しかも溶解速度が速すぎると、ステンレス鋼中の析出物(たとえば炭化物,窒化物等)や溶液中のフッ化鉄を含むスマットが、ステンレス鋼の表面に付着し、導電性および耐食性を損なう惧れがある。したがって、ステンレス鋼の溶解速度は0.002g/m2秒以上0.05g/m2秒未満の範囲内とする。
ステンレス鋼の溶解速度の調整は、溶液中の酸化剤(たとえば硝酸等)の濃度あるいは溶液の温度を制御して行なう。
ステンレス鋼を溶液に浸漬する時間(以下、浸漬時間という)は、特に限定しない。ただし、不動態皮膜を破壊するためには、浸漬時間を30秒以上とすることが好ましい。浸漬時間が30秒以上であれば、ステンレス鋼の製造過程で強固な不動態皮膜が形成された場合でも、不動態皮膜を破壊することが可能である。一方、浸漬時間を過剰に長くしても、不動態皮膜に含有されるF量が飽和するので、接触電気抵抗の更なる低減を達成できず、しかもセパレータの生産性低下を招く。したがって、浸漬時間は30〜300秒の範囲内が一層好ましい。
このようにして、Fを含有する不動態皮膜が形成される。発明者らの研究によれば、X線光電子分光法(いわゆるXPS法)で不動態皮膜を分析して、Fが含有されていることが認められた場合に接触電気抵抗が大幅に低減された。
不動態皮膜にFを含有させることによってステンレス鋼の接触電気抵抗が低減されるメカニズムは明確ではない。不動態皮膜の主成分であるオキシ水酸化クロムは半導体であるから、Fを含有することによって電子構造が変化し、接触電気抵抗を低減する効果を発現すると推定される。
なお本発明では、不動態皮膜に含有されるF含有量は特に限定しない。以上に説明したようにFイオンを含有した溶液にステンレス鋼を浸漬すれば、接触電気抵抗を低減するために必要かつ十分な量のFを不動態皮膜に含有させることができる。
板厚1mmのステンレス鋼板に酸洗およびスキンパスを施した後、正方形(1辺:30mm)の試験片を切り出した。使用したステンレス鋼板は、SUS316L(18%Cr−12%Ni−2%Mo:単位(%)は質量%)とSUS447J1(30%Cr−2%Mo:単位(%)は質量%)である。得られた試験片をアセトンで脱脂し、次いで下記の(A)〜(F)の酸性水溶液にそれぞれ4枚ずつ浸漬(温度:50℃,浸漬時間:1分)し、さらに純水で洗浄して冷風で乾燥した。
(A)20%硝酸
(B)7.5%硝酸+15%フッ酸
(C)5%硝酸+15%フッ酸
(D)5%硝酸+5%フッ酸
(E)1%硝酸+5%フッ酸
(F)0.5%硝酸+5%フッ酸
上記の(A)〜(F)に示す硝酸とフッ酸の濃度の単位(%)は質量%である。
これらの試験片を酸性水溶液に浸漬する前後の重量を測定し、その重量差から溶解速度を算出した。その平均値を表1に示す。
また、酸性水溶液に浸漬した後の試験片の不動態皮膜をX線光電子分光法で分析し、含有されるFの有無を調査した。X線光電子分光法では、Fe,Cr,F,Oについて得られたスペクトルから、各々の元素の積分強度を測定した。さらにスパッタリングによって試験片の表面を除去しながら、深さ方向にFe,Cr,F,Oの分布を測定した。こうして得られた各元素スペクトルを解析し、Fがピークとして確認できる試験片の不動態皮膜にFが含有されると判定した。その結果を表1に示す。
なお、酸性水溶液に浸漬しない試験片についても、同様に不動態皮膜に含有されるFの有無を調査した。その結果を表1に併せて示す。
さらに、酸性水溶液に浸漬した試験片および浸漬しない試験片について、カーボンペーパとの接触電気抵抗を測定した。接触電気抵抗の測定は、図1に示すように、2枚の試験片1を、両面から同じ大きさのカーボンペーパ2(東レ製TGP-H-120)で交互に挟み、さらに銅板に金めっきを施した電極3を接触させ、単位面積あたり196N/cm2(=20kgf/cm2)の圧力をかけて2枚の試験片1間の抵抗を測定し、接触面積を乗じ、さらに接触面数(=2)で除した値を接触電気抵抗値とした。このようにして、試験片1の組み合わせを変えて各々4回ずつ測定し、その平均値を表1に示す。
また参考例として、グラファイト板(厚さ5mm)、および表面に厚さ0.1μmの金めっきを施したSUS304(厚さ0.3mm)についても同様に接触電気抵抗を測定した。その結果を表1に併せて示す。
表1に示す発明例は、Fイオンを溶解した酸性水溶液に浸漬した試験片1の溶解速度が0.001g/m2秒以上0.05g/m2秒未満の範囲内を満足し、不動態皮膜にFが含有される例である。比較例は、不動態皮膜にFが含有されない例である。
Figure 0005621186
表1から明らかなように、SUS316Lでは、発明例の接触電気抵抗が6.0〜12.3mΩ・cm2であったのに対して、比較例は30.2〜186.3mΩ・cm2であった。SUS447J1では、発明例の接触電気抵抗が5.9〜11.6mΩ・cm2であったのに対して、比較例は35.1〜89.1mΩ・cm2であった。いずれの鋼種も、発明例の接触電気抵抗が大幅に低減された。
次に、上記の(B)の酸性水溶液に浸漬したSUS447J1の試験片(2枚)について、固体高分子形燃料電池のセパレータとして使用することを想定して、pH3の硫酸水溶液(温度:80℃)中で一定の電位(0.6V vs. Ag/AgCl)に1000時間保持した。その後、試験片を回収して不動態皮膜に含有されるFの有無をX線光電子分光法で調査した。調査方法は上記した通りであるから、説明を省略する。そのX線光電子分光法によって得られた結果を図2に示す。図2の横軸はスパッタリングの所要時間(以下、スパッタ時間という)であり、縦軸はスペクトルのピーク強度である。図2(a)は1000時間保持前、図2(b)は1000時間保持後の分析結果である。図2(a)(b)から明らかなように、いずれの試験片もスパッタ時間が60秒以下の範囲でFがピークとして確認された。一方、スパッタ時間が60秒を超えると、不動態皮膜が除去されてステンレス鋼板の基地におけるFを分析することになるが、Fのピーク強度は殆どゼロであった。つまり、固体高分子形燃料電池のセパレータとして使用されることを想定した処理を施した後も、不動態皮膜にFが含有されることが確認された。
さらに、上記の(B)の酸性水溶液に浸漬したSUS447J1の試験片(1枚)について、固体高分子形燃料電池のセパレータとして使用することを想定して、pH3の硫酸水溶液(温度:80℃)中で一定の電位(0.6V vs. Ag/AgCl)に1000時間保持した。その後、試験片を回収して接触電気抵抗を測定した。測定方法は上記した通りであるから、説明を省略する。その結果、接触電気抵抗は7.4mΩ・cm2であった。つまり、固体高分子形燃料電池のセパレータとして使用されることを想定した処理を施した後も、接触電気抵抗が低く保たれ、優れた導電性を有することが確認された。
なお、ここではステンレス鋼板を浸漬する酸性水溶液として、上記の(B)〜(F)に示すようなフッ酸と硝酸との混合液を使用する例について説明したが、フッ酸の代わりにフッ化ナトリウム,フッ化カルシウム,フッ化リチウム等を用いても良い。
また、酸性水溶液の濃度,温度等は、浸漬するステンレス鋼板の成分に応じて、所定の溶解速度となるように調整すれば良い。
接触抵抗の測定方法を模式的に示す断面図である。 X線光電子分光法によって得られたスパッタ時間とピーク強度との関係を示すグラフである。
符号の説明
1 試験片
2 カーボンペーパ
3 電極

Claims (1)

  1. カーボンペーパとの接触電気抵抗の低い固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼の製造方法において、硝酸を0.5〜7.5質量%、フッ酸を5〜15質量%含有した溶液に、ステンレス鋼を溶解速度0.002g/m2秒以上0.05g/m2秒未満で浸漬することを特徴とする固体高分子形燃料電池セパレータ用ステンレス鋼の製造方法。
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