JP2006302731A - 固体高分子型燃料電池用ステンレス鋼製セパレータ及び固体高分子型燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 Cr:10〜40質量%,Mo:1〜6質量%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、その表面の全面に非酸化性酸溶液への浸漬処理を施して、カーボンペーパとの接触抵抗が、測定圧力20kgf/cm2で10mΩ・cm2以下である不動態皮膜を形成する。
【選択図】 なし
Description
不動態皮膜は、耐食性の向上には有効であるものの、半導体的な特性を呈し、下地鋼と比べて電気伝導性が劣っている。このため、通常の不動態皮膜が生成しているステンレス鋼をセパレータに用いると、電極との接触抵抗が大きく、電池反応で生じた電気エネルギーがジュール熱として消費され、燃料電池の発電効率が低下する。
しかしながら、高価な貴金属のコーティングは、燃料電池のコストを上昇させることになり、経済面から燃料電池の普及に制約を加える。しかも、貴金属コーティング法では孔食を引き起こすピンホールが皮膜に形成されやすいため、厳重な製品管理が必要になる。厚めっきによってピンホールの無い貴金属皮膜は形成されるが、高価な貴金属の多量消費はコスト低減のネックとなる。
接触抵抗を下げる他の手段として、酸浸漬法が挙げられる。酸溶液にステンレス鋼を浸漬すると、不動態皮膜が溶解し、酸溶液中で新しい不動態皮膜が形成される。この不動態皮膜は、ごく薄い皮膜であり、自然発生した不動態皮膜と比べて接触抵抗が低下している。しかし、酸溶液から取出して大気中で放置すると、大気中の酸素と反応して不動態皮膜が成長し、接触抵抗が増加する。また、燃料電池の酸化極側はpH値の低い酸性湿潤雰囲気であり、このような雰囲気にステンレス鋼が曝されると接触抵抗が一層増加し、燃料電池の効率を低下させる原因となる。
そして、得られたステンレス鋼製セパレータとしては、カーボンペーパとの接触抵抗が、測定圧力20kgf/cm2で10mΩ・cm2以下のものが好ましい。さらに、70℃,相対湿度98%中に72時間放置した後のカーボンペーパとの接触抵抗が、測定圧力20kgf/cm2で25mΩ・cm2以下であるものが好ましい。
このようなセパレータを実機に搭載すると、発電効率の高い固体高分子型燃料電池が得られる。
その結果、安価で、長期耐食性に優れ、発電効率が高位に安定した燃料電池が構築される。
オーステナイト系ステンレス鋼は、鋼板状態でプレス加工性に優れるため、ガス流路等を有する複雑形状のセパレータが容易にプレス成形できる。オーステナイト系ステンレス鋼は、また、燃料電池のセル内環境にみられる酸性の湿潤雰囲気で優れた耐食性を示し、イオン交換膜や触媒電極に悪影響を及ぼすNi,Cu等の溶出金属も少ない。特に少量のMoを含有させたオーステナイト系ステンレス鋼は、含有Crとの複合作用により耐孔食性が改善される。
これにより、優れた耐食性,加工性を維持しつつ所望の低接触抵抗を呈するセパレータ用の材料が提供される。
オーステナイト系ステンレス鋼の接触抵抗が低位で維持される理由は次のように考えられる。
本発明が対象とするステンレス鋼は、Crを10〜40質量%含有するオーステナイト系ステンレス鋼である。
Crは、Niとともにステンレス鋼の耐食性を確保する上での主要元素であり、含有量が多くなるほど耐食性は向上する。燃料電池のセル内は、酸性物質に起因して低いpH値を呈する腐食性の強い湿潤環境であるため、10質量%以上のCrが必要である。さらに高温多湿環境に長期間曝されても低接触抵抗を維持させるためには19質量%以上含有させることが好ましい。Cr含有量の増加に伴って加工性が低下するので、Ni含有オーステナイト系ステンレス鋼を対象とする本発明では、上限を40質量%、好ましくは35質量%以下に設定した。
C,Nはオーステナイト系ステンレス鋼の加工性,低温靭性を低下させるので可能な限り少なくするべきであり、好ましくは、C,N含有量ともに0.02質量%以下に規制する。
Siは、ステンレス鋼を硬質化して加工性を低下させるので、好ましくは0.5質量%以下に規制する。
Pは、セパレータが曝される燃料電池の内部環境における耐食性向上に有効な成分であるが、過剰に含まれると加工性に悪影響を及ぼす。したがって、その上限は0.08質量%とする。
Sは、耐食性に有害な成分であるので、可能な限り少なくする必要がある。好ましくは0.005質量%以下に規制する。
Nの固定にAlを使用する場合には、3.0質量%の範囲でAl添加量を調整する。
Vは、燃料電池の内部環境における耐食性を改善する作用があり、必要に応じて1.0質量%以下で添加する。
Bは、酸性環境における耐食性を改善する作用があり、必要に応じて1.0質量%以下で添加する。
燃料電池のセパレータとして組込んだときに優れた発電効率を得るためには、電極となるガス拡散層を形成するカーボンペーパ(例えば、東レ社製、TGP‐H‐120)との接触抵抗を、測定圧力20kgf/cm2において10mΩ・cm2以下、好ましくは5mΩ・cm2以下に調整することが望ましい。
したがって、ステンレス鋼の種類に応じて酸の種類や濃度、或いは液温,浸漬時間等の浸漬条件を、上記所望の接触抵抗が得られるように選定する。
まず、セパレータと接触する電極を構成するカーボンペーパの変形を考慮した。燃料電池を圧力20kgf/cm2で締結した場合、カーボンペーパは、2000時間運転後も全く変形を生じないが、圧力40kgf/cm2で締結した場合では、2000時間運転後にセパレータとの接触部に圧痕が認められた。
次に、セパレータの変形や破損を考慮した。ステンレス鋼製セパレータの場合、圧力40kgf/cm2で締結しても全く問題はない。
したがって、長期の燃料電池の運転によってセルの変形や破損を生じさせないための締結圧力は、ステンレス鋼製セパレータを用いる場合、20kgf/cm2が妥当であると判断した。
10mΩ・cm2以下であれば、接触抵抗に起因する出力損失は微量であり、燃料電池の出力にほとんど影響しないからである。好ましくは5mΩ・cm2以下とした理由は、競合する黒鉛製セパレータやステンレス鋼へ金めっきを施したセパレータの接触抵抗と対抗できるレベルと考えられるからである。
さらに、劣化試験としての湿潤試験後の接触抵抗値を25mΩ・cm2以下と設定した理由は、このレベルの接触抵抗増大であれば、顕著な出力低下が見られないからである。
まず、濃度5質量%,液温60℃のオルトケイ酸ソーダ溶液に上記各鋼板を浸漬し、電流密度5A/dm2で10秒間陰極電解脱脂した後、水洗、中和処理を行った。次に、接触抵抗の低減化処理として、濃度10質量%,液温50℃の塩酸溶液中に浸漬する処理を施した。浸漬処理の時間は、表1に併せて示すような各鋼種で低接触抵抗が得られる時間を採用した。浸漬処理後、直ちに水洗し、脱スマット処理後、ドライヤーで乾燥させた。
その結果を表1に併せて示す。この結果、非酸化性の酸溶液に浸漬することにより、いずれの鋼板も低接触抵抗値を得ることが可能であることがわかった。
その結果も表1に併せて示す。
その結果、Crが10質量%以上の鋼板では、湿潤環境に放置しても接触抵抗の増加は抑制されている。特に15質量%以上の鋼板は、接触抵抗の増加が少なかった。燃料電池にセパレータとして組込んだ場合に、出力低下が小さくなることが期待できる。
これに対して、Cr含有量が10質量%に満たない鋼板では、湿潤試験後に赤錆が発生し、接触抵抗さえ測定できる状態ではなかった。
燃料電池の運転条件によっては「膜−電極接合体」より酸液が燃料電池内に溶出する。燃料電池セル内に溶出した酸溶液は、電池の起動,停止に伴うセル温度の変化や燃料ガス及び酸化剤の流量変化等により、その濃度が変化する。したがって、セパレータは、運転条件によってはかなり濃縮した酸液と接触される状態となり得る。セパレータ表面への酸液の付着・乾燥が起こり、結果としてセパレータ上に高度に濃縮したフッ酸や硫酸等の酸液が存在することになる。酸液の付着・乾燥が繰り返されると濃縮した酸液が長時間セパレータ上に滞留することになり、セパレータは孔食を発生しやすい状態となる。
そこで、セパレータ上の濃縮酸液に接触した状況を模擬し、各種供試材を80℃、1質量%の硫酸中に浸漬し、減量を調査した。
各種供試材の減量測定結果は表1に併せて示したとおりである。
表1にみられるように、鋼中にMoを添加した供試材は、濃縮した酸液中での耐酸性に優れ、セパレータ材として好ましいことが判明した。
Claims (4)
- Cr:10〜40質量%,Mo:1〜6質量%を含有するオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、その表面の全面に非酸化性酸溶液への浸漬処理が施されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ。
- カーボンペーパとの接触抵抗が、測定圧力20kgf/cm2で10mΩ・cm2以下である請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
- 70℃,相対湿度98%中に72時間放置した後のカーボンペーパとの接触抵抗が、測定圧力20kgf/cm2で25mΩ・cm2以下である請求項2に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
- 請求項1〜3のいずれかに記載のセパレータが搭載されている固体高分子型燃料電池。
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