JP6970495B2 - ステンレス鋼板カーボン複合材及びその製造方法 - Google Patents

ステンレス鋼板カーボン複合材及びその製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、ステンレス鋼板カーボン複合材及びその製造方法に係り、特にステンレス鋼製の板状基材の表面に炭素粉末及び樹脂粉末を含むカーボン層が積層されていることにより、例えば、固体高分子形燃料電池用等の燃料電池用セパレータを始めとして、レドックスフロー型2次電池用の集電板や、石油精製用、石油化学用等のガスケットやパッキン等においても使用可能な、導電性、耐食性及び可撓性等に優れたステンレス鋼板カーボン複合材及びその製造方法に関する。
近年、固体高分子形燃料電池が注目されている。斯かる燃料電池及び燃料電池用セパレータの一例を図5及び図6(a)、(b)に示す。
ここで、図5は、燃料電池16を構成する単位セルの構成を示す分解図であり、図6は、図5に示す燃料電池用セパレータ5の構成を示す図である。図6(a)は、平面図であり、図6(b)は、図6(a)の線X−Yにとった断面図である。
固体高分子形燃料電池16は、固体高分子電解質膜6とアノード(燃料電極)7とカソード(酸化剤電極)8とからなるMEA(membrane electrode assembly:膜/電極接合体)を2枚の燃料電池用セパレータ5によって、ガスケット9を介して挟持した構成10を単位セルとして、これを数十個〜数百個積層し、アノード7に流体である燃料ガス(水素ガス)を、カソード8に流体である酸化ガス(酸素ガス)を供給することにより、外部回路から電流を取り出す構成となっている。そして、燃料電池用セパレータ5は、図6(a)、(b)に示すように、薄肉の板状体の片面又は両面に複数個のガス供給排出用溝11と、ガス供給排出用溝11に燃料ガス又は酸化ガスを供給する開口部12と、MEAを並設するための固定穴13とを有する形状であり、燃料電池内を流れる燃料ガスと酸化ガスとが混合しないように分離する働きを有すると共に、MEAで発電した電気エネルギーを外部へ伝達したり、MEAで生じた熱を外部へ放熱したりするという重要な役割を担っている。
そのため、固体高分子形燃料電池用セパレータに求められる特性としては、特に、組立時におけるボルト締め付けや自動車などの振動に対しても割れない強度やフレキシブル性(可撓性)があること、燃料電池内の使用環境(高温、腐食性、低pH等)下における長期の耐久性(耐食性)があること、発電ロスを少なくするために電気抵抗を小さくて導電性に優れること、及び燃料ガスと酸化ガスをその両面で完全に分離して電極に供給するためのガス不透過性などの特性が求められている。
そして、このような要請に応えるために、以下に示すような様々な取り組みが行われている。
すなわち、固体高分子形燃料電池用セパレータとしては、ガラス状カーボンを中心としたカーボン製セパレータが従来から検討されていたが、このようなカーボン製のセパレータは、非常に割れやすく、可撓性・柔軟性が乏しく、また、車載用の燃料電池等としての用途を考えると、ガスバリア性・気密性に乏しく、更には、小型化が困難で加工コストも高い等といった問題もあることから、実用性に問題があるとされている。
そのため、カーボン製セパレータに替えて、金属素材を適用する試みがなされ、特に、機械的強度、加工性、コストの点から、ステンレス鋼を素材とするセパレータが検討されているが、一般的にステンレス鋼表面にはその製造過程などに起因して形成された比較的厚い不動態皮膜を有しており、耐食性に優れるものの、この不動態皮膜は電気抵抗が大きくて導電性に乏しい。そのため、このようにステンレス鋼製のセパレータの導電性を向上(接触抵抗を低減)させる観点から、いくつかの報告がなされている。
例えば、特許文献1においては、フッ素イオンを含有した溶液にステンレス鋼を所定の溶解速度で浸漬し、表面の不動態被膜にフッ素を含有させて導電性を改善した(接触抵抗の低い)通電部品用ステンレス鋼が提案されているが、この通電部品用ステンレス鋼においては、フッ素イオンが不動態被膜中に存在するため、ステンレス鋼に劣化が起き易く、その結果として燃料電池の使用環境下で腐食し易く、使用途中での劣化が避けられない。
また、特許文献2においては、オーステナイト系ステンレス鋼の表面を、第1の酸と第2の酸とで処理することにより、表面にクロム酸化物組成比が大きい不導体被膜を形成して得られた固体高分子形燃料電池セパレータ用のステンレス部材が提案されており、耐食性に優れ、かつ、接触抵抗が低いとされているが、このステンレス部材においては、クロム酸化物組成比が大きくて不導体被膜の抵抗率が高いだけでなく、フッ化水素酸及び硝酸(以下、「フッ硝酸」等と表す場合がある。)溶液中の過多な硝酸に起因して表面の酸化が起き易く、このステンレス部材だけをセパレータとして用いると、経時的に接触抵抗が変化し易いという問題がある。
更に、特許文献3においては、16質量%のクロムを含有するステンレス鋼に対して、電解処理を施した後、フッ化水素酸やフッ硝酸などのフッ素を含有する溶液に浸漬することで、接触抵抗が低減され、且つ耐食性にも優れる燃料電池セパレータ用ステンレス鋼が提案されているが、このステンレス鋼についても、不動態皮膜を除去するための処理を行ったあとは、何らの処理も行なわれていないため表面の酸化が起き易く、このステンレス部材だけをセパレータとして用いると、燃料電池の使用環境下で経時的に接触抵抗が変化し易いという問題がある。
このように、ステンレス鋼製のセパレータについても、例えば、燃料電池の使用環境下においては、十分な導電性や耐食性を経時的に発揮させることは難しく、また、割れや亀裂などの発生がなく可撓性にも優れて、それらを満足するステンレス鋼製のセパレータはこれまでは見出されていない。
一方で、金属製の基材に対して、炭素粉末と樹脂粉末とを混合した混合粉末を含んだ塗料を塗布して、金属基材の表面に導電性塗膜を形成した塗装金属や、前記混合粉末を成型したカーボン板を金属製の基材に積層させた複合カーボン板を、燃料電池用のセパレータとして使用することもこれまで検討されている。
例えば、特許文献4においては、酸洗したステンレス鋼板の基材表面に、グラファイト粉末及びカーボンブラックの混合粉末からなる導電剤とポリオレフィン樹脂とを含む水分散性塗料を塗布した表面塗装金属セパレータ材料が提案されており、塗膜欠陥がなく塗膜密着性や接触抵抗を向上させたものであるとされているが、この表面塗装金属セパレータ材料においては、ステンレス表面の不動態皮膜を酸洗により除去する方法を用いたものであるものの、具体的に使用されている塩酸洗浄では十分ではなく、導電材との間が接触し難くなり、所望の低い接触抵抗を達成できないという問題や、また、塗装部分の形成材料が黒鉛粒子、カーボンブラックという組合せでは可撓性に劣るといった問題がある。
同じく塗装金属を用いた特許文献5においては、ステンレス鋼板の表面に、カーボンブラック及びグラファイトの混合物からなる導電剤とエポキシ樹脂又はフェノール樹脂からなる熱硬化性樹脂とを含む導電性塗料を塗布した塗装ステンレス鋼板が提案されているが、この塗装ステンレス鋼板は、衝撃に対して比較的弱くて割れ易く、その結果、例えば自動車用等の固体高分子形燃料電池のセパレータとして使用中の震動等に起因して表面の塗膜に亀裂が入り、燃料電池の使用環境下において、腐食してステンレス鋼板と塗膜との間の接触抵抗が大きく悪化することが懸念される。
更に、特許文献6においては、炭素粉末として膨張黒鉛粉末と黒鉛粉末とを特定の割合で混合し、これにアンモニアを含まない特定量のフェノール樹脂とを共に圧縮成型したカーボン板を金属基材に積層した複合カーボン板が提案されているが、この複合カーボン板においては、使用されている金属基材であるステンレス鋼は何らの処理はなされていないことから、接触抵抗が比較的高くなる可能性があるといった問題がある。また、この特許文献6で使用されているカーボン板は、膨張黒鉛粉末の量が30wt%以上と多く使用されているため、粒子内に空隙を多く持つ膨張黒鉛の中に樹脂が包埋してしまい、それによりカーボン板と金属箔との接着力が低下して接触抵抗が増加してしまうことが懸念される。
特開2010-013684号公報 特開2013-129896号公報 WO 2012/098689号公報 特開平11-345618号公報 特開2010-248474号公報 WO 2014/148649号公報
このように、燃料電池用のセパレータとして、カーボン製、金属(ステンレス鋼板)製、又はカーボンと金属とを積層させたものがそれぞれ提案されてきたものの、いずれも実用上で要求されるフレキシブル性(可撓性)、耐久性(耐食性)及び導電性などの特性を全て満足するものは見出されていなかった。
そこで、このような状況の下、本発明者らが鋭意検討した結果、ステンレス鋼製の板状基材の表面には、EDS元素分析で測定された酸素(O)と鉄(Fe)との元素比(O/Fe)が所定の範囲である酸素欠損性の酸化皮膜を形成し、導電性が発現する酸素欠損性の酸化皮膜を介して板状基材の表面にカーボン層を積層することにより、導電性、耐食性及び可撓性が共に優れたステンレス鋼板カーボン複合材が得られることを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明の目的は、例えば、固体高分子形燃料電池用等の燃料電池用セパレータを始めとして、レドックスフロー型2次電池用の集電板や、石油精製用、石油化学用等のガスケットやパッキン等においても使用可能な、導電性、耐食性及び可撓性等が共に優れたステンレス鋼板カーボン複合材を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、当該、導電性、耐食性及び可撓性等が共に優れたステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法を提供することにある。
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) ステンレス鋼製の板状基材の少なくとも片面に、炭素粉末と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末とを含むカーボン層が積層されたステンレス鋼板カーボン複合材であり、前記カーボン層は、前記炭素粉末(C)と樹脂粉末(R)とを体積比(C/R)で6/4〜9/1の割合で含み、且つ前記板状基材の表面に形成された酸化皮膜を介して積層されており、また、前記酸化皮膜はEDS元素分析で測定された酸素(O)と鉄(Fe)との元素比(O/Fe)が0.07〜0.26の範囲内であることを特徴とするステンレス鋼板カーボン複合材。
(2) 前記板状基材が、オーステナイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする前記(1)に記載のステンレス鋼板カーボン複合材。
(3) 前記熱可塑性樹脂からなる樹脂粉末が、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種か又は2種以上の混合物からなる樹脂粉末であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のステンレス鋼板カーボン複合材。
(4) 前記熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末が、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種か又は2種以上の混合物からなる樹脂粉末であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のステンレス鋼板カーボン複合材。
(5) 前記板状基材の表面とこの表面に積層されるカーボン層との間が、接着剤層を介して接合されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材。
(6) ステンレス鋼製の板状基材の少なくとも片面に、炭素粉末と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末とを含むカーボン層を積層してステンレス鋼板カーボン複合材を製造する方法であり、
前記板状基材の少なくとも片面に、表面処理液として、1〜8質量%のフッ化水素酸水溶液、又は、フッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO3)との濃度比(HF/HNO3)が2以上であってHF濃度が2質量%以上のフッ化水素酸・硝酸混合水溶液を接触させる表面処理工程と、
この表面処理後の板状基材の表面に前記炭素粉末(C)と樹脂粉末(R)との体積比(C/R)が6/4〜9/1の割合であるカーボン層を積層する積層工程とを有することを特徴とするステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
(7) 前記表面処理工程に先駆けて、前記板状基材の少なくとも片面に、前処理液として、酸濃度25質量%以上及び塩化鉄濃度20質量%以上の塩化鉄含有酸水溶液を接触させる前処理工程を有することを特徴とする前記(6)に記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
(8) 前記積層工程では、前記炭素粉末と樹脂粉末とを含む粉末混合物をホットプレスしてカーボン層を形成し、得られたカーボン層を表面処理後の板状基材の表面にホットプレスして積層することを特徴とする前記(6)又は(7)に記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
(9) 前記積層工程に先駆けて、表面処理後の板状基材の表面に接着剤組成物を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程を有し、積層工程ではこの接着剤層を介して表面処理後の板状基材の表面にカーボン層が積層されることを特徴とする前記(6)〜(8)のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
(10) 前記熱可塑性樹脂からなる樹脂粉末が、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種か又は2種以上の混合物からなる樹脂粉末であることを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
(11) 前記熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末が、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種か又は2種以上の混合物からなる樹脂粉末であることを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
(12) 前記板状基材が、オーステナイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする前記(6)〜(11)のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
本発明によれば、導電性、耐食性及び可撓性が共に優れたステンレス鋼板カーボン複合材を提供することができる。
また、本発明によれば、導電性、耐食性及び可撓性が共に優れたステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法を提供することができる。
図1は、ステンレス鋼製板状基材及びその表面に形成された酸化皮膜のTEM観察断面を示す説明図(写真)である。 図2はカーボン層又はステンレス鋼板カーボン複合材を製造するための成型方法の概略説明図である。 図3は、本発明のステンレス鋼板カーボン複合材の製造におけるカーボン層、接着剤層及びステンレス鋼製の板状基材の積層方法の概略説明図である。 図4は、接触抵抗を測定する方法の概略説明図である。 図5は、燃料電池を構成する単位セルの構成を示す分解図である。 図6(a)は燃料電池用セパレータの一例を示す平面図であり、図6(b)は図6(a)の線X−Y断面を示す断面図である。
以下、本発明のステンレス鋼板カーボン複合材及びその製造方法について、詳細に説明する。
本発明のステンレス鋼板カーボン複合材は、ステンレス鋼製の板状基材の少なくとも片面に、炭素粉末と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末とを含むカーボン層が積層されたステンレス鋼板カーボン複合材であって、前記カーボン層は、前記炭素粉末(C)と樹脂粉末(R)とを体積比(C/R)で6/4〜9/1の割合で含み、且つ板状基材の表面に形成された酸化皮膜を介して積層されており、また、前記酸化皮膜はEDS元素分析で測定された酸素(O)と鉄(Fe)との元素比(O/Fe)が0.07〜0.26の範囲内であることにその特徴を有する。
本発明において、板状基材を構成するステンレス鋼については、特に制限されるものではないが、好ましくは、オーステナイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼であるのがよい。オーステナイト系ステンレス鋼については、例えばSUS316Lは質量%割合でC:0.015、Si:0.56、Mn:0.84、P:0.027、S:0.001、Cr:17.14、Ni:12.11、Mo:2.03、及び、残部:Fe及び微量の不可避的不純物からなる組成を有し、また、フェライト系ステンレス鋼については、例えばSUS430は質量%割合でC:0.08、Si:0.28、Mn:0.64、P:0.024、S:0.001、Cr:16.26、Ni:0.09、及び、残部:Fe及び微量の不可避的不純物からなる組成を有し、SUS444は質量%割合でC:0.04、Si:0.13、Mn:0.13、P:0.028、S:0.001、Cr:19.1、Mo:1.8、Nb:0.18、Ti:0.14、N:0.012、及び、残部:Fe及び微量の不可避的不純物からなる組成を有する。なお、このようなステンレス鋼製の板状基材の表面に形成された酸化皮膜は、素材のステンレス鋼に含有される元素と酸素(O)とから構成されるが、このうち含有比率の最も多いのがFeとOとからなる鉄酸化物であり、酸化皮膜の性質は、実質的にこの鉄酸化物の性質に依存するものと考えられる。非酸化性の酸を過多に含む溶液で処理したステンレスは大気中での酸化皮膜形成の際に、酸素分子の拡散律速により酸素欠損性の酸化皮膜が形成され易くなるため、時間経過のなかでも導電性が劣化しない。一方、酸化性の酸が過多に含む溶液で処理すると、金属の溶解と同時に酸化皮膜が表面に形成されるため、比較的薄く緻密な酸素欠損の少ない酸化皮膜が形成されやすい。この酸化皮膜は緻密であるため時間経過に伴う酸化皮膜厚みの増加は非常に小さいが、酸化皮膜の少しの成長でも導電性の悪化程度は大きくなってしまう。
そして、前記板状基材の表面に形成される酸化皮膜については、EDS元素分析で測定されたその酸素(O)と鉄(Fe)との元素比(O/Fe)が0.07以上0.26以下であり、好ましくは0.07以上0.20以下であるのがよい。また、この酸化皮膜の厚さについては、通常6nm以上25nm以下である。この元素比(O/Fe)が0.07より小さいと酸化皮膜の耐食性が低下し、その結果導電性も劣化する問題がある。また、この元素比(O/Fe)が0.26を超えて高くなると板状基材の表面に形成された酸化皮膜の導電性が低下し、得られたステンレス鋼板カーボン複合材の接触抵抗が10mΩ・cm2を超えて高くなる虞がある。また、この元素比(O/Fe)が0.20以下になると、酸化皮膜は更にその導電性が向上し、得られたステンレス鋼板カーボン複合材の接触抵抗が9mΩ・cm2よりも小さくなるという利点が生じる。また、酸化皮膜の厚さが、6nmよりも小さくなると燃料電池作動環境中の腐食性液に対する耐久性が低下するという虞があり、反対に、25nmを超えて大きくなると接触抵抗が10mΩ・cm2よりも高くなるという虞がある。
ここで、本発明において、EDS元素分析による板状基材表面の酸化皮膜における酸素(O)と鉄(Fe)との元素比(O/Fe)は、例えば、以下のように測定することができる。すなわち、集束イオンビーム(FIB)法等の方法を用いて作製したTEM観察用の薄膜断面試料を観察し、エネルギー分散形X線分析装置(EDS)により、酸化皮膜の領域を点分析し、ステンレス表面の酸化皮膜における酸素(O)のKα線のカウントピーク面積と、FeのLα線のカウントピーク面積との面積比から算出する。測定点については、TEM観察断面(図1)において、EDS元素分析のFeのKα線とCrのKα線とのカウントピーク面積比が母材(ステンレス)のFeとCrとの組成比(モル比)になる層は図1中の基材(2)であるため、その基材の表面に形成されている皮膜層を酸化皮膜層〔図1中の(1)〕とし、その酸化皮膜層における任意の測定点を測定して平均値を求めることで元素比(O/Fe)として算出することができる。
なお、表面酸化皮膜厚みの測定方法については、例えば、電解放出型透過電子顕微鏡を用いて前記と同様にTEM観察断面(図1)から酸化皮膜(1)の厚みを任意に3か所以上測定し、その平均値を求めることにより、ステンレス表面の酸化皮膜厚みとする。
本発明においては、前記板状基材がこのような表面状態を有するものであることから、好ましくはその接触抵抗が10mΩ・cm2以下であることがよく、より好ましくは8mΩ・cm2以下、さらに好ましくは5mΩ・cm2以下、さらにより好ましくは3mΩ・cm2以下であり、尚且つ、その接触抵抗が30日経過後においても実質的に変化しないことが好ましい。
そして、このステンレス鋼製の板状基材の厚さについては、ステンレス鋼板カーボン複合材の用途によっても異なるので特に制限されるものではないが、通常10μm以上150μm以下、好ましくは20μm以上70μm以下であるのがよく、この板状基材の厚さが10μm未満であると機械的強度が低下する虞があり、反対に、150μmを超えて厚くなると柔軟性や可撓性の点で問題が生じる虞がある。
また、上記の板状基材の表面に積層されるカーボン層については、炭素粉末と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末とを含むものであり、炭素粉末(C)と樹脂粉末(R)とを体積比(C/R)で6/4〜9/1、好ましくは7/3〜8/2の割合で含み、また、その厚さが0.05mm以上2.0mm以下、好ましくは0.1mm以上1.0mm以下である。この炭素粉末(C)と樹脂粉末(R)との体積比(C/R)については、6/4より小さくなって炭素粉末の比率が低下すると導電性が低下する虞があり、反対に、9/1より大きくなると熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の比率が低いために柔軟性、可撓性および耐食性に劣る虞がある。また、カーボン層の厚さについては、0.05mmより薄くなるとカーボン層の僅かなクラックから腐食が始まる可能性があり、反対に、2.0mmより厚くなると可撓性に悪影響を及ぼす可能性がある。
ここで、前記カーボン層を形成する炭素粉末については、例えば、天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末、膨張化黒鉛粉末、鱗片状黒鉛粉末、球状黒鉛粉末などの粉末等から選ばれたいずれか1種か、又は2種以上の混合物を挙げることができ、好ましくは、可撓性及び導電性の点から、少なくとも膨張黒鉛粉末及び/又は膨張化黒鉛粉末を含む方が良い。その場合、当該膨張黒鉛粉末及び/又は膨張化黒鉛粉末の含有量は、炭素粉末と樹脂粉末との混合粉末中4体積%以上51体積%未満が好ましく、5体積%以上21体積%未満がより好ましい。4体積%未満の場合、可撓性が低くなる虞があり、一方、51体積%以上の場合、本来、粒子同士、又は粒子と金属板との接着に寄与する樹脂がうまく機能することができずに、接触抵抗が大きくなる虞がある。なお、この範囲において炭素粉末中の膨張黒鉛粉末及び/又は膨張化黒鉛粉末の質量含有量としては、膨張黒鉛粉末及び/又は膨張化黒鉛粉末の真比重を他の黒鉛粉末と同じ2.2g/cmとして計算することができ、5質量%以上73質量%未満が好ましく、7質量%以上30質量%未満がより好ましい。
そして、この炭素粉末の粒子径については、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、Malvern社製商品名「Mastersizer2000」等)を用いて測定されるD50(累積50体積%径)の値(平均粒子径)が、通常4μm以上200μm以下、好ましくは10μm以上30μm以下であるのがよく、4μmより小さいと比表面積が大きいため樹脂が粒子同士またはSUS板との接着に使用されにくく可撓性に劣る虞があり、反対に、200μmより大きくなるとカーボン層を形成する際に平滑な面が得られにくく不良率が大きくなる虞がある。
また、前記カーボン層を形成する樹脂粉末については、熱可塑性樹脂であっても、また、熱硬化性樹脂であってもよく、前記熱可塑性樹脂としては、用途に応じて選択できるものであって特に制限されるものではないが、好ましくはポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)及びポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、液晶ポリマー樹脂(LCP)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリスルホン樹脂(PSU)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)及びポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)からなる群から選ばれたいずれか1種か又は2種以上の混合物を挙げることができ、また、前記熱硬化性樹脂についても、用途に応じて選択できるものであって特に制限されるものではないが、好ましくはフェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種か又は2種以上の混合物を挙げることができる。
ここで、前記PP、PE、PMPなどのポリオレフィン樹脂については、不飽和カルボン酸又はその誘導体の一部又は全部が当該ポリオレフィン樹脂にグラフトされて変性された変性ポリオレフィン樹脂を使用することも可能である。このような変性ポリオレフィン樹脂を使用することにより、カーボン層やそれを備えたステンレス鋼板カーボン複合材としての可撓性の向上や、SUSとの密着性及び炭素粒子との密着性が向上することが期待され、それにより接触抵抗が低下するため好ましい。そして、変性ポリオレフィン樹脂全体に占めるグラフト量(グラフト率)としては通常、0.05〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜3質量%とされる。変性前のポリオレフィン樹脂にグラフトするために使用される前記不飽和カルボン酸又はその誘導体の具体的なものとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、4−メチルシクロヘキセ−4−エン−1,2−ジカルボン酸無水物、α−エチルアクリル酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドシス−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(ナジック酸〔商標〕)、ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、1,2,3,4,5,8,9,10−オクタヒドロナフタレン−2,3−ジカルボン酸無水物、2−オクタ−1,3−ジケトスピロ[4.4]ノン−7−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、マレオピマル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、x−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、x−メチル−ノルボルネン−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(xはメチル基の置換位置を示す)、及びノルボルン−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物などを使用することができる。また、上記不飽和カルボン酸の酸ハライド、アミド、イミド、エステル等の誘導体なども使用可能である。これらの中では不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物が好ましく、特に無水マレイン酸又は無水ハイミック酸が好ましい。このような不飽和カルボン酸又はその誘導体を1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。ハロゲン基としては、塩素或いは臭素を好適に使用することができる。
そして、前記した樹脂粉末については、その平均粒子径が通常5μm以上300μm以下、好ましくは20μm以上200μm以下であるのがよく、5μmより小さいと樹脂粒子の凝集が起きる虞があり、反対に、300μmより大きくなると温間圧縮成型(ホットプレス)中の樹脂流れが悪くなりカーボン層の形成に問題が起きる虞がある。平均粒子径については、前記炭素粉末の場合と同様に定義される。
本発明においては、ステンレス鋼製の板状基材の表面とこの表面に積層されるカーボン層との間が、通常0.1μm以上10μm以下の接着剤層を介して接合されていてもよい。このような接着剤層を形成するための接着剤組成物については、特に制限されるものではないが、好ましくは不飽和カルボン酸若しくはその誘導体の一部又は全部がポリオレフィン樹脂にグラフトした変性ポリオレフィン樹脂を含むもの(例えば、特開2005-146,178号公報参照)であるのがよく、具体的には、接着性ポリオレフィン樹脂を含む接着剤組成物(三井化学株式会社製商品名:アドマー)、不飽和カルボン酸によりグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂を含む接着剤組成物(三井化学株式会社製商品名:ユニストール)等が挙げられる。なお、ハロゲンによりグラフト変性された変性ポリオレフィン樹脂を含む接着剤組成物(東洋紡株式会社製商品名:トーヨータック)等も使用することができ、また、5wt%-フェノール樹脂接着剤組成物(溶媒:イソプロピルアルコール、フェノール樹脂:リグナイト株式会社製商品名:AH-1148)やエポキシ樹脂接着剤組成物(新日鉄住金化学株式会社製商品名:YSLV-80XY)等も使用することができる。この接着剤層の層厚が0.1μm未満だと接着強度が低下する虞があり、反対に、10μmを超えると作製されたステンレス鋼板カーボン複合材の導電性が低下する虞がある。
そして、本発明のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法については、ステンレス鋼製の板状基材の少なくとも片面に、炭素粉末と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末とを含むカーボン層を積層してステンレス鋼板カーボン複合材を製造するに際し、好ましくは、前記板状基材の少なくとも片面に、表面処理液として、1〜8質量%濃度のフッ化水素酸水溶液、又は、フッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO3)との濃度比(HF/HNO3)が2以上であってHF濃度が2質量%以上のフッ化水素酸・硝酸混合水溶液を接触させる表面処理工程と、この表面処理後の板状基材の表面に、前記炭素粉末(C)と樹脂粉末(R)との体積比(C/R)が6/4〜9/1の割合であるカーボン層を積層する積層工程とを有する方法であるのがよい。この際、更に、好ましくは、前記表面処理工程を行なうことに先駆けて、前記板状基材の少なくとも片面に、前処理液として、酸濃度25質量%以上及び塩化鉄濃度20質量%以上の塩化鉄含有酸水溶液を接触させる前処理工程を行なってもよい。
前記表面処理工程で表面処理液として用いるフッ化水素酸については、濃度1質量%以上8質量%以下、好ましくは3質量%以上8質量%以下のフッ化水素酸水溶液を用いる。ここで、表面処理液として用いるフッ化水素酸水溶液のフッ化水素酸濃度が1質量%より低いと、ステンレス表面の酸化皮膜中の前記O/Fe比を所定の範囲とすることができない虞があり、反対に、8質量%より高くなると、母材のステンレスの溶出が大きく、その表面に形成される酸化皮膜の厚みが厚くなり、接触抵抗が大きくなる虞がある。
また、表面処理液として、フッ化水素酸・硝酸の混合水溶液を用いる場合には、フッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO3)との濃度比(HF/HNO3)が2以上、好ましくは、2.5以上とし、尚且つHF濃度が2質量%以上、好ましくは3質量%以上とする。フッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO3)との濃度比(HF/HNO3)が2未満であると、接触抵抗が10mΩ・cm2より大きくなる虞があり、また、HF濃度が2質量%未満の場合には、ステンレス表面の酸化皮膜中のO/Fe比が0.26より大きくなり接触抵抗が10mΩ・cm2より大きくなる虞がある。混合水溶液として使用する場合においても、フッ化水素酸の上限濃度については、前記同様に、濃度8質量%以下とする。なお、処理温度については、温度30℃以上60℃以下及び時間1分以上20分以下の処理条件で板状基材を浸漬し、その後に純水等で洗浄する。
ここで、前記表面処理工程に先駆けて行なってもよい前処理工程では、前処理液としてFeCl3等の塩化鉄を塩酸やフッ化水素酸等の非酸化性の酸水溶液中に溶解させて得られた塩化鉄含有酸水溶液を用い、この塩化鉄含有酸水溶液中に板状基材を浸漬し、その後に純水等で洗浄する前処理が行われる。ここで、塩化鉄含有酸水溶液については、使用する酸の種類や塩化鉄の種類によっても異なるが、酸濃度が通常25質量%以上、好ましくは30質量%以上40質量%以下であり、また、塩化鉄濃度が通常20質量%以上、好ましくは20質量%以上30質量%以下であるものが用いられ、また、板状基材を塩化鉄含有酸水溶液中に浸漬する前処理条件については、通常温度30℃以上60℃以下及び時間30秒以上3分以下の処理条件で行われる。この前処理により、ステンレス鋼の製造過程で行なわれる焼鈍工程でステンレス表面に形成された比較的厚い酸化皮膜に予め孔食を形成し、もしくは当該酸化皮膜を薄膜化させることで、その後の表面処理工程において、当該酸化皮膜の構造を制御することが容易となるため好ましい。
そして、表面処理後の板状基材の表面にカーボン層を積層する積層工程では、表面処理後の板状基材の表面に炭素粉末と樹脂粉末とを含むカーボン層が積層され、この際のカーボン層を積層する方法については、特に制限されるものではなく、例えば、表面処理後の板状基材の表面に炭素粉末と樹脂粉末とを含む粉末混合物を充填しホットプレスする方法、樹脂粉末と炭素粉末とを溶剤中に分散させたスラリーを、ドクターブレード等を使い表面処理後の板状基材の表面に塗布し、乾燥後にホットプレスする方法等が例示できるが、好ましくは、炭素粉末と樹脂粉末とを含む粉末混合物を温間圧縮成型(ホットプレス)して予めカーボン層を形成し、得られたカーボン層を表面処理後の板状基材の表面に再びホットプレスして積層させるホットプレス法で行うのがよい。このホットプレス法でカーボン層を形成し、また、積層することにより、連続的に炭素層を表面処理後の板状基材の表面に形成することができるという利点がある。
本発明の製造方法においては、前記積層工程に先駆けて、表面処理後の板状基材の表面に前記接着剤組成物を塗布し、表面処理後の板状基材の表面に接着剤層を形成する接着剤層形成工程を実施してもよく、前記積層工程では、この接着剤層を介してカーボン層が積層される。積層工程に先駆けて接着剤層形成工程を実施することにより、板状基材とカーボン層との間の密着性が向上することや、板状基材のステンレス表面を接着層で被覆することから、例えば、固体高分子形燃料電池として使用する場合には腐食性環境に対する耐久性が向上するという利点がある。
本発明の方法によって得られた本発明のステンレス鋼板カーボン複合材は、圧縮強度が3MPa以上であって、曲げ歪が0.8%以上で割れが無く、また、接触抵抗が10mΩ・cm2以下であることが好ましく、より好ましくは8mΩ・cm2以下、さらに好ましくは5mΩ・cm2以下、さらにより好ましくは3mΩ・cm2以下であって、尚且つ、その接触抵抗が燃料電池の使用環境に相当する環境下(例えば、後述の実施例で示すようなフッ素イオンを含んだ酸溶液中に浸漬させる耐久試験)においても実質的に変化しないものであることが好ましい。
本発明のステンレス鋼板カーボン複合材は、柔軟性や可撓性、圧縮強度、成形性、気密性等において優れているだけでなく、導電性(低接触抵抗)と耐食性とが共に優れており、例えば、固体高分子形燃料電池用等の燃料電池用セパレータ、レドックスフロー型2次電池用の集電板、石油精製用、石油化学用等のガスケットやパッキン等の用途において好適に用いられる。
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明のステンレス鋼板カーボン複合材、その製造方法、及び各性能評価について具体的に説明する。
<実施例1〜4>
1.ステンレス鋼製の板状基材の調製
〔ステンレス鋼製の板状基材〕
以下の各実施例及び比較例においては、SUS430ステンレス鋼板(以下、「M1」という。)、SUS444ステンレス鋼板(以下、「M2」という。)、及びSUS316Lステンレス鋼板(以下、「M3」という。)から切り出された50μm厚み×幅100mm×長さ100mmの大きさの板状基材(M1〜M3)を用いた。
〔板状基材の表面処理工程:酸化皮膜の形成〕
上で得られた板状基材(M1〜M3)について、それぞれ、表面処理液として表1に示すように4質量%のフッ化水素酸水溶液を用い、この表面処理液中に50℃及び10分間の処理条件で浸漬し、次いで超純水を用いて表面を洗浄し、板状基材の表面に酸化皮膜からなる表面層が形成された表面処理後の板状基材(M1〜M3)を調製した。
〔酸化皮膜の元素比(O/Fe)の測定と算出〕
表面処理後の板状基材(M1〜M3)について、集束イオンビーム加工装置(日立ハイテクサイエンス社製のSMI3050SE)を用い、メッシュとしてMo製メッシュを使用し、また、表面保護膜としてカーボンデポ膜を使用し、FIB-マイクロサンプリング法にてTEM観察用の薄膜断面試料を作製した。
また、TEM観察には電解放出型透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJEM-2100F)を用いて、断面観察の加速電圧は200kVとし、また、EDS元素分析にはエネルギー分散形X線分析装置(日本電子株式会社製のJED-2300T)を用いて、EDS元素分析時には加速電圧200kVで実施した。EDS測定を実施する酸化皮膜は、TEM観察断面(図1)において、EDSによる点分析のFeのKα線とCrのKα線とのカウントピーク面積比が母材(ステンレス)のFeとCrとの組成比(モル比)になる基材部分(2)の表面に形成されている酸化皮膜層(1)を対象とした。
そして、酸素Oと鉄Feの元素比(O/Fe)は、EDSによる点分析の酸素(O)のKα線及び鉄(Fe)のLα線のカウントピーク面積比から算出した。なお、この面積の解析には日本電子株式会社製のAnalysis Programを使用した。
実際の測定及び算出に際しては、酸化皮膜の4ヶ所以上の点において、それぞれのEDSのピーク比率を算出し、その平均値を求めた。なお、この測定は表面処理後大気中で30日経過した試料を用いて測定した。
〔酸化皮膜の厚さ測定〕
表面処理後の板状基材(M1〜M3)について、集束イオンビーム加工装置(日立ハイテクサイエンス社製のSMI3050SE)を用い、メッシュとしてMo製メッシュを使用し、また、表面保護膜としてカーボンデポ膜を使用し、FIB-マイクロサンプリング法にてTEM観察用の薄膜断面試料を作製した。
また、TEM観察には電解放出型透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJEM-2100F)を用い、1視野につき任意の3箇所の酸化皮膜の厚みを測定しその平均をすることで酸化皮膜の厚さを測定した。なお、上記同様にTEM観察断面において、EDSによる点分析のFeのKα線とCrのKα線とのカウントピーク面積比が母材(ステンレス)のFeとCrとの組成比(モル比)になる基材部分(2)の表面に形成されている酸化皮膜層(1)を対象とした。なお、上記同様、この測定についても表面処理後大気中で30日経過した試料を用いて測定した。
2.カーボン層の積層工程
〔接着剤層形成工程〕
接着剤層を形成するための接着剤組成物としては、後述の実施例及び比較例の場合も含めて、樹脂粉末として熱可塑性樹脂〔ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、液晶ポリマー樹脂(LCP)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリスルホン樹脂(PSU)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)〕を使用する場合には、変性ポリオレフィン樹脂接着剤(三井化学株式会社製、ユニストール)を用い、また、樹脂粉末として熱硬化性樹脂を使用する場合において、当該熱硬化性樹脂がフェノール樹脂(PF)の場合には、イソプロピルアルコールに5wt%になる様にフェノール樹脂を溶解させたフェノール樹脂接着剤(リグナイト株式会社製フェノール樹脂、商品名:AH-1148)を用い、一方で、当該熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂(EP)の場合には、エポキシ樹脂接着剤(新日鉄住金化学株式会社製商品名:YSLV-80XY)を用いた。
そして、上で得られた表面処理後30日経過後の板状基材(M1〜M3)の表面に、卓上コーターを用いて塗布厚10μmとなるように前記接着剤組成物を塗布し、室温中で10分乾燥させて接着剤層を形成し、接着剤層付きの板状基材(M1〜M3)を得た。
〔カーボン層の形成〕
炭素粉末としては、球状黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製商品名:SG-BH、平均粒子径:20μm)及び膨張黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製商品名:EC100、平均粒子径:160μm)を使用した。
また、樹脂粉末としては、後述の実施例及び比較例の場合も含めて、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン樹脂(PP)(住友精化株式会社製商品名:フローブレンHP-8522)、ポリエチレン樹脂(PE)(住友精化株式会社製商品名:フローセンUF-20S)、ポリアミド樹脂(PA)(東レ株式会社製商品名:TR-2)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)(東レ株式会社製商品名:A900)、及びポリメチルペンテン樹脂(PMP)(三井化学株式会社製商品名:MX002)、変性ポリメチルペンテン樹脂(m-PMP)〔開発品、無水マレイン酸変性(変性量:1.0質量%)〕、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)(クオドラントポリペンコジャパン株式会社製商品名:ケトロン1000)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)(旭化成ケミカルズ株式会社製商品名:ザイロン300H)、液晶ポリマー樹脂(LCP)(JX日鉱日石エネルギー株式会社製商品名:ザイダーNX−101)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)(東レ株式会社製商品名:TI−5013)、ポリスルホン樹脂(PSU)(BASF社製商品名:ウルトラゾーンS2010)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)(株式会社帝人製:TRN−MTJ)、及びポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製商品名:ノバデュラン5010R5)を使用し、また、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂(PF)(リグナイト株式会社製商品名:AH-1148)、及びエポキシ樹脂(EP)(新日鉄住金化学株式会社製商品名:YSLV-80XY)を使用した。
そして、上記の炭素粉末と樹脂粉末とを表1に示す比率で混合して粉末混合物とし、この粉末混合物1.6gを、図2に示すように(この場合は、接着剤層付きステンレス鋼製板状基材4は用いない。)プレス装置(東洋精機製作所社製卓上ホットプレスMP-SCL)の50×50×20mmの容積を持つ雌型金型に均等になるように投入し、前プレスとしてのホットプレス〔圧力:2MPa、温度:180℃(PP)、80℃(PF)〕によりカーボン層3(厚さ:0.4mm)とした。次いで、図2及び図3のように、この得られたカーボン層3と、前記で準備した接着剤層付きの板状基材4とを重ね、加熱温度150℃180℃(PP)又は150℃(PF)(T)及び圧力5MPa(P)で押圧し(本プレス、成型時間10分)、ステンレス鋼板カーボン複合材15として得た。
上で得られた実施例1〜4に係る表面処理後30日経過後の板状基材、及びそれを用いて作製されたステンレス鋼板カーボン複合材について、以下の評価を行なった。
〔接触抵抗測定方法〕
図4に接触抵抗の測定方法を示す。先ず、表面処理後30日経過後の板状基材又はステンレス鋼板カーボン複合材を、それぞれ長さ17〜20mm、幅3〜5mmに加工して試験片S又はS’とし、これと標準とするカーボンペーパ(東レ株式会社製商品名:TGP-H-120)301とを重ねた。そして、これを2つの金メッキした銅製金具302で挟み込み、圧縮応力0.9MPa(P’)を付加した状態で2つの金メッキ銅製金具の間に試験片S/カーボンペーパ接触面積値(単位cm2)と同じ値の直流電流(単位A)を流して、金メッキ銅金具302/カーボンペーパ301/試験片S又はS’の接続部に生ずる電圧降下を測定することで得られる接触抵抗値(単位:mΩ・cm2)で確認した。測定は10点測定を行い、最大値と最小値を省いた8点の平均値を測定値とした。なお、表面処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。
〔耐久性試験方法〕
耐久性試験は、前記の試験片S’(ステンレス鋼板カーボン複合材)を、予め20ppmのフッ素(F)イオンを含んだ80℃のpH3の硫酸溶液中に4日間浸漬した上で、処理後の試験片S’を超純水で洗浄し、乾燥した後、上記と同様の方法で接触抵抗値(単位:mΩ・cm2)を測定した。浸漬前後の接触抵抗値の変化を評価することで耐久性(耐食性)を評価した。
得られた結果を下記の表2に示す。
〔可撓性評価(曲げ強度評価)〕
実施例1〜4で得られた各ステンレス鋼板カーボン複合材から、それぞれ50mm×5mm×0.6mmの大きさの試験片として切り出し、この各試験片を、JIS K7171に準拠して、万能試験機(島津製作所社製AUTOGRAPH AG-IS型)によりStress-Strain曲線を測定し、歪み1.5%又は0.8%の時における各試験片の破壊(亀裂)の発生の有無を目視で観察し、下記の基準で評価した。
得られた結果を下記の表2に示す。
◎:1.5%歪みで破壊しない場合
○:0.8%歪みで破壊しない場合
×:0.8%歪みで破壊する場合
<実施例5〜7>
前記板状基材(M1)を用いて、先ず、前処理液として塩酸(関東化学社製特級)及び塩化鉄(FeCl3)(関東化学社製特級)をそれぞれ30質量%の濃度で溶解された塩化鉄含有酸溶液を用い、この前処理液中に50℃及び1分間の処理条件で浸漬し、次いで超純水を用いて表面を洗浄し、前処理後の板状基材(M1)を調製した。
〔板状基材の表面処理工程:酸化被膜の形成〕
上で得られた前処理後の板状基材(M1)について、それぞれ、表面処理液として表1に示す濃度のフッ化水素酸水溶液を用い、この表面処理液中に50℃及び10分間の処理条件で浸漬し、次いで超純水を用いて表面を洗浄し、板状基材の表面に酸化皮膜からなる表面層が形成された表面処理後の板状基材(M1)を調製した。
その後、得られた表面処理後の各板状基材(M1)について、前述の実施例1〜4と同様に、表面処理後30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定し、また、同じように、当該板状基材に接着剤層及びカーボン層(樹脂粉末としてPPを使用)を積層させてステンレス鋼板カーボン複合材を得ると共に、接触抵抗値の測定、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。なお、表面処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。
得られた結果を下記の表2に示す。
<実施例8〜10、比較例1〜4>
前記実施例5〜7において、表面処理液として使用したフッ化水素酸水溶液に代えて、表面処理液として硝酸(関東化学社製特級)及びフッ化水素酸(関東化学社製特級)を表1に示す割合で含有するフッ化水素酸・硝酸混合水溶液を用いた以外は、実施例5〜7と同様の方法で前処理及び表面処理を行った板状基材(M1)を調製し、同じように、表面処理後30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定し、また、同じように、表面処理後30日経過後の板状基材に接着剤層及びカーボン層を積層させてステンレス鋼板カーボン複合材を得ると共に、接触抵抗値の測定、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。なお、表面処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。
得られた結果を下記の表2に示す。
<実施例11〜32>
前記実施例5〜7において、表面処理液として使用したフッ化水素酸水溶液の濃度4質量%とした以外は、実施例5〜7と同様の方法で前処理及び表面処理を行なった板状基材(M1)を調製し、同じように、表面処理後30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定した。なお、表面処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。そして、実施例5〜7において使用した樹脂粉末に代えて、表1に記載の通り、樹脂粉末をそれぞれPE、PA、PPS、PMP、m-PMP、PEEK、PSU、LCP、PET、PAI、PPE、PBT、PF又はEPとすると共に、カーボン層を形成する際の前プレスの温度をそれぞれ130℃(PE)、250℃(PA、PBT、PPE、m-PMP)、300℃(PPS、PET、PAI)、350℃(LCP)、400℃(PEEK、PSU)、250℃(PMP)及び80℃(PF及びEP)とした以外は、実施例5〜7と同様にカーボン層を形成し、また、同じように、表面処理後30日経過後の板状基材に接着剤層及びカーボン層を積層させてステンレス鋼板カーボン複合材を得ると共に、接触抵抗値の測定、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。なお、表面処理後30日経過後の板状基材に接着剤層付きのカーボン層を積層させてステンレス鋼板カーボン複合材を得る際の本プレスの温度は、それぞれ130℃(PE)、250℃(PA、PBT、PPE、m-PMP)、300℃(PPS、PET、PAI)、350℃(LCP)、400℃(PEEK、PSU)、150℃(PF及びEP)とした。
得られた結果を下記の表2に示す。
<実施例33〜35、比較例5〜6>
前記実施例5〜7において、表面処理液として使用したフッ化水素酸水溶液の濃度4質量%とした以外は、実施例5〜7と同様の方法で前処理及び表面処理を行なった板状基材(M1)を調製し、同じように、表面処理後30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定した。なお、表面処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。そして、実施例5〜7において使用した炭素粉末及び樹脂粉末の配合比率を表1に示す比率とした以外は、実施例5〜7と同様にカーボン層を形成し、同じように、表面処理後30日経過後の板状基材に接着剤層及びカーボン層を積層させてステンレス鋼板カーボン複合材を得ると共に、接触抵抗値の測定、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。
得られた結果を下記の表2に示す。
<実施例36〜39>
前記実施例5〜7において、表面処理液として使用したフッ化水素酸水溶液の濃度4質量%とした以外は、実施例5〜7と同様の方法で前処理及び表面処理を行なった板状基材(M1)を調製し、同じように表面処理後30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定した。なお、表面処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。そして、実施例5〜7において使用した炭素粉末の配合比率を表1に示す比率とした以外は、実施例5〜7と同様にカーボン層を形成し、同じように、表面処理後30日経過後の板状基材に接着剤層及びカーボン層を積層させてステンレス鋼板カーボン複合材を得ると共に、接触抵抗値の測定、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。
得られた結果を下記の表2に示す。
<実施例40〜46>
前記実施例5〜7において、前処理液として、塩酸及び塩化鉄(FeCl3)が表1に記載の通りの濃度で溶解された塩化鉄含有酸溶液を用い、且つ、表面処理液として使用したフッ化水素酸水溶液の濃度4質量%とした以外は、実施例5〜7と同様の方法で前処理及び表面処理を行なった板状基材(M1)を調製し、同じように、表面処理後30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定した。なお、表面処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。そして、実施例5〜7と同じように、表面処理後30日経過後の板状基材に接着剤層及びカーボン層を積層させてステンレス鋼板カーボン複合材を得ると共に、接触抵抗値の測定、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。
得られた結果を下記の表2に示す。
<比較例7>
前記板状基材(M3)を用いて、これを2質量%硫酸(関東化学社製)中に浸漬させて、温度30℃において、+2A/dm2×1秒、-2A/dm2×1秒、+2A/dm2×1秒、-2A/dm2×1秒、及び+2A/dm2×1秒(+がアノード電極、-がカソード電極)の順に電解処理(前処理)を行った。次いで、表面処理液として5質量%のフッ化水素酸水溶液と3質量%の硝酸を混合した酸溶液を用い、前記電解処理後の板状基材を55℃及び90秒間の処理条件で浸漬し、次いで超純水を用いて表面を洗浄し、板状基材の表面に酸化皮膜からなる表面層が形成された表面処理後の板状基材(M3)を調製した。
その後、得られた表面処理後の板状基材(M3)について、前述の実施例1〜4と同様に、表面処理後30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定した。なお、表面処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。接着剤層及びカーボン層の積層は行なわず、当該表面処理後の各板状基材(M3)としたまま、実施例1〜4と同様の方法を用いて、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。
得られた結果を下記の表2に示す。
<比較例8>
前記板状基材(M3)を用いて、これを、前処理として濃度5質量%、液温60℃のオルソケイ酸ナトリウム溶液に浸漬し、電流密度5A/dmでアノード電解脱脂を10秒間実施した後、中和処理のため、濃度5質量%、常温の塩酸酸洗を10秒間実施した。そして、温度50℃の15質量%FeCl3(関東化学社製)中に浸漬させ、アノード電流密度は3.0kA/m、カソード電流密度は0.5kA/m、交番サイクル2.5Hzの電解処理を60秒実施し、次いで超純水を用いて表面を洗浄した。
その後、得られた電解処理後の板状基材(M3)について、前述の実施例1〜4と同様に、表面処理後30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定した。なお、電解処理直後の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している。一方で、フェノール樹脂(リグナイト株式会社製商品名:AH-1148)と天然黒鉛粉(伊藤黒鉛株式会社製商品名:SG-BH8)とカーボンブラック(ライオン株式会社製商品名:ECP-600JD)とをそれぞれ3g、6g又は1g(質量比で3:6:1)で混合し、これに、イソシアネート架橋剤(旭化成ケミカルズ株式会社製商品名:MF-B60X)を前記フェノール樹脂質量に対して3倍量添加し、これを混練した。これに酢酸エチレングリコールモノブチルエーテルを添加しスラリー状にした後、前記電解処理後の板状基材(M3)にバーコーターで塗布し275℃で60秒焼き付け処理を経てステンレス鋼板カーボン複合材とした。乾燥後の被覆層厚さは6μmとした。その後、得られたステンレス鋼板カーボン複合材について、実施例1〜4と同様の方法で、接触抵抗値の測定、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。
得られた結果を下記の表2に示す(なお、この比較例8については、表2における「表面処理直後」は『電解処理直後』と読み替え、また、「表面処理30日後」は『電解処理30日後』と読み替えるものとする)。
<比較例9>
前記板状基材(M1)を用いて、表面処理を行わなかった以外は、前述の実施例1と同様にして、30日経過後の酸化皮膜の厚み、元素比(O/Fe)及び接触抵抗値を測定し、また、同じように、当該板状基材に接着剤層及びカーボン層(樹脂粉末としてPPを使用)を積層させてステンレス鋼板カーボン複合材を得ると共に、接触抵抗値の測定、耐久性試験及び可撓性評価を行なった。なお、30日経過前の板状基材についても、同様の方法で接触抵抗値を測定している(なお、この比較例9については、表面処理を行っていないが、表2における「表面処理直後」は『30日経過前』と読み替え、また、「表面処理30日後」は『30日経過後』と読み替えるものとする)。
Figure 0006970495
Figure 0006970495
1…酸化皮膜層、2…ステンレス鋼製板状基材層、3…カーボン層、4…接着剤層付きステンレス鋼製板状基材、5…燃料電池用セパレータ、6…固体高分子電解質膜、7…アノード(燃料電極)、8…カソード(酸化剤電極)、9…ガスケット、10…単位セル、11…ガス供給排出用溝、12…開口部、13…固定穴、14…接着剤層、15…ステンレス鋼板カーボン複合材、16…固体高分子形燃料電池、100…プレス装置、101…雄型、102…雌型、103…金型、104…機枠、105…油圧シリンダ、301…カーボンペーパ、302…銅製金具、303…測定装置

Claims (7)

  1. ステンレス鋼製の板状基材の少なくとも片面に、炭素粉末と熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末とを含むカーボン層を積層してステンレス鋼板カーボン複合材を製造する方法であり、
    前記板状基材の少なくとも片面に、表面処理液として、1〜8質量%のフッ化水素酸水溶液、又は、フッ化水素酸(HF)と硝酸(HNO3)との濃度比(HF/HNO3)が2以上であってHF濃度が2質量%以上8質量%以下のフッ化水素酸・硝酸混合水溶液を接触させて、表面に厚さが6nm以上25nm以下である酸化皮膜が形成された表面処理後の板状基材を得る表面処理工程と、
    この表面処理後の板状基材の表面に、前記炭素粉末(C)と樹脂粉末(R)との体積比(C/R)が6/4〜9/1の割合であると共に厚さが0.05mm以上2.0mm以下であるカーボン層を積層する積層工程とを有することを特徴とするステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
  2. 前記表面処理工程に先駆けて、前記板状基材の少なくとも片面に、前処理液として、酸濃度25質量%以上及び塩化鉄濃度20質量%以上の塩化鉄含有酸水溶液を接触させる前処理工程を有することを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
  3. 前記積層工程では、前記炭素粉末と樹脂粉末とを含む粉末混合物をホットプレスしてカーボン層を形成し、得られたカーボン層を表面処理後の板状基材の表面にホットプレスして積層することを特徴とする請求項1又は2に記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
  4. 前記積層工程に先駆けて、表面処理後の板状基材の表面に接着剤組成物を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程を有し、積層工程ではこの接着剤層を介して表面処理後の板状基材の表面にカーボン層が積層されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
  5. 前記熱可塑性樹脂からなる樹脂粉末が、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種か又は2種以上の混合物からなる樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
  6. 前記熱硬化性樹脂からなる樹脂粉末が、フェノール樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選ばれたいずれか1種か又は2種以上の混合物からなる樹脂粉末であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
  7. 前記板状基材が、オーステナイト系ステンレス鋼又はフェライト系ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のステンレス鋼板カーボン複合材の製造方法。
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