JP7235607B2 - 複合材並びにそれを用いた燃料電池用のセパレータ、セル及びスタック - Google Patents
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Description
ここで、図7は、燃料電池17を構成する単位セルの構成を示す分解図であり、図8は、図7に示す燃料電池用セパレータ5の構成を示す図である。図8(a)は、平面図であり、図8(b)は、図8(a)の線X-Yにとった断面図である。
ここで、上記特許文献1~3のような樹脂層やカーボン層を設ける技術によって、特に、耐食性の改善が図られているものの、本願の発明者らの更なる検討によれば、カーボン層を密着性良く金属基材上に形成させることは難しい技術であることが分ってきており、実際、金属基材とカーボン層との間に接着剤層を設けて密着性の向上を図っているものの、場合によっては、燃料電池環境下でカーボン層が剥がれてしまうことが懸念されている。例えば、上記特許文献1に記載の樹脂層に関しては、長い時間のポストキュアにより樹脂の劣化を引き起こして、密着強度を低下させる要因になる虞がある。このような密着性の懸念を解消するための方策としては、種々考えられるものの、カーボン層における炭素質材やマトリックス樹脂の配合割合を変更すると、密着性以外の特性〔例えば、接触抵抗(導電性)や耐食性〕に比較的大きな影響を与えることが懸念され、カーボン層の組成の改良から、抜本的な改善を図るには制限がある。また、金属基材側においても、金属種や組成の改良は多くの試行を生じさせることに繋がるし、また、例えば別途の表面処理を行おうとすると、工程が複雑になったり、密着性以外の特性〔例えば、接触抵抗(導電性)や耐食性〕に影響を与えたりすることが懸念される。
(1)板状の金属製基材の少なくとも片面に、導電性を有するカーボン層を備えた複合材であって、
前記カーボン層は、炭素質材と熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂とを含むと共に、以下の(*)を満足することを特徴とする複合材。
(*)カーボン層を、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分として示差熱分析を実施したとき、得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)の温度微分曲線(DDTA曲線)において、温度200℃における強度値が0.035μV/℃以下であり、尚且つ温度300℃における強度値が0.050~0.080μV/℃であること。
(2)前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂であることを特徴とする(1)に記載の複合材。
(3)前記カーボン層の厚みが、30μm~200μmであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の複合材。
(4)前記金属製基材が、ステンレス鋼材又はチタン材からなることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の複合材。
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の複合材を備えた燃料電池用セパレータ。
(6)前記(5)に記載の燃料電池用セパレータを備えた燃料電池用セル。
(7)前記(6)に記載の燃料電池用セルを備えた燃料電池スタック。
本実施形態の複合材は、板状の金属基材の少なくとも片面に、導電性を有するカーボン層を備えるものであって、カーボン層は、炭素質材と熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂とを含み、また、後述のとおり、カーボン層に対して示差熱分析を行ったときに、得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)を温度で微分した微分曲線(DDTA曲線)において所定の特性を有するものであり、特に、このようなカーボン層の構成を採っていることにその特徴を有する。
本実施形態で使用される基材については、板状に加工されたものであり、金属製であれば特に制限されない。例えば、ステンレス鋼材、チタン材、炭素鋼などが挙げられるが、耐食性が比較的良好なチタン材、ステンレス鋼材が好ましい。ステンレス鋼はクロム(Cr)含有量が10.5質量%以上の鋼を指し、例えば、オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系又はオーステナイト系とフェライト系との二相系であってよい。また、チタン材は、純チタン及びチタン合金のいずれであってもよい。
次に、前記で得られた基材の少なくとも片面に対して、導電性を有するカーボン層を形成させる。カーボン層は、炭素質材と熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂とを含むものである。
そして、この炭素質粉末の粒子径については、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、Malvern製「Mastersizer2000」等)の粒度測定計において算出されたD50(累積50体積%径)の値で表される平均粒子径が、通常4μm以上150μm以下、好ましくは10μm以上30μm以下であるのがよく、4μmより小さいと比表面積が大きいため樹脂が粒子同士または基材との接着に使用されにくく、可撓性に劣る虞があり、反対に、150μmより大きくなるとカーボン層を形成する際に平滑な面が得られにくく、不良率が大きくなる虞がある。
すなわち、先ず、示差熱分析装置に試料(カーボン層)を設置し、窒素雰囲気下において、10℃/分の昇温速度とした際の示差熱分析(DTA)を行う。これにより得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)は、図1~3に示す通り温度を上げていくにつれて緩やかな上昇が見られるものであり、詳細は掴めていないものの、これは、樹脂の硬化が進むことを示すものと推測される。このDTA曲線においては、特段の特徴がとらえられないが、このDTA曲線を温度で微分すると、同じ図1~3中に示されるような微分曲線(DDTA曲線)が得られる。
すなわち、先ず、図2のように、温度200℃付近において強いピークが観察されることが分かった。これは、後述の試験例1等と比較して、カーボン層形成の際のホットプレスの時間が短い例(後述の試験例4)である。この温度200℃付近に現れるピークについては、使用した熱硬化性樹脂(フェノール樹脂)の融点に近いものでもあることから、ホットプレス条件との関係で考察すると、未硬化の樹脂成分に由来するものと推測される。一方で、図3のように、温度300℃付近において強いピークが観察されることも分かった。これは、後述の試験例1等と比較して、カーボン層形成の際のホットプレスの時間を長くした例(後述の試験例5)であり、樹脂の硬化が十分な状態で現れるピークであることから、後述の評価結果を参酌するに、樹脂の硬化が過剰に進んでしまっている状態であると推測される。
基材は、以下の3種類の市販品を用い、いずれも酸水溶液(4質量%フッ化水素酸)を用いて、温度80℃で5分の表面処理(浸漬)を施した。
(1)純チタン材(JIS1種、厚さ50μm)
(2)オーステナイト系ステンレス鋼材(SUS316L、厚さ50μm)
(3)フェライト系ステンレス鋼材(SUS444、厚さ50μm)
〔接着剤層の形成〕
上記酸水溶液による表面処理後の基材の表面に、接着剤層を形成させ、接着剤層付きの基材を得た。詳細には、アプリケータを用い、塗布厚10μmとなるように接着剤組成物を基材表面に塗布し、室温で10分乾燥させて、接着剤層を形成させた。
接着剤組成物としては、レゾール型フェノール樹脂(リグナイト株式会社製商品名:AH-1305)をエチレングリコールモノブチルエーテルに1wt%になるように溶解させたものを用いた。
炭素質材として、95質量%の球状黒鉛粉末(Y.A.S.社製、SG6、平均粒子径:6.74μm)と、5質量%のアセチレンブラック(デンカ株式会社製、Li-100、平均粒子径35nm)との混合材を使用し、また、マトリックス樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂(リグナイト株式会社製、AH-1305)を使用した。そして、上記炭素質材とマトリックス樹脂とを、マトリック樹脂の3倍質量の溶媒(エチレングリコールモノブチルエーテル)に溶解させ、スラリーとした。なお、炭素質材とマトリックス樹脂との合計質量に対するマトリックス樹脂の質量が14質量%、22質量%、及び45質量%の3種類のスラリーを作製した。
そして、これらの各スラリーを、前記の接着層が形成された基材の接着層形成面に塗布し、ホットプレートを用いて80℃で5分間加熱して溶剤を乾燥し、基材上のスラリー部(符号3)が予備硬化した各プリフォーム体(符号1’)とした(図5)。続いて、この各プリフォーム体(符号1’)を、図4に示すプレス装置(東洋精機製作所社製卓上ホットプレスMP-SCL)を用いてホットプレスすることにより、前記プリフォーム体が本硬化されたカーボン層とし、それにより本実施形態の各複合材として得た。ホットプレスの圧力は20MPaとし、温度及び時間が表1のとおりとした。得られた複合材のカーボン層の片面の厚さは、表1のとおりであった。なお、片側の基材面についても、同様に接着剤層及びカーボン層を形成させた。
〔カーボン層の示差熱分析〕
ピンセットを用いて、各複合材からカーボン層のみを30mg程度削り取った。削り取った試料をφ4mm、高さ2.5mmのアルミ製容器に封入した。そして、アルミ性容器に封入した各試料について、以下の条件で示差熱分析を実施し、示差熱分析曲線(DTA曲線)を得、さらにこのDTA曲線の温度微分曲線(DDTA曲線)を得た。
・測定装置:株式会社日立ハイテクサイエンス製示差熱熱重量同時測定装置TG/DTA7300
・雰囲気ガス:窒素
・雰囲気ガス流量:200mL/min
・昇温条件:10℃/min
・到達温度:1000℃
結果を表1に示す。
各試験材の断面を、SEM(日本電子製、JSM-7800F)を用いて観察した。カーボン層について、10視野をランダムに測定し、測定視野の画像から樹脂が存在する割合と炭素質材が存在する割合とを測定・計算して、樹脂の平均体積含有率を求めた。そして、樹脂および炭素質材の密度を、それぞれ1.2g/cm3、0.85g/cm3として、それぞれを質量%に計算し直した。
結果を表1に示す。
燃料電池模擬環境に試験材を浸漬し、溶液中の沈殿物の有無によって耐食性を評価した。具体的には、各複合材を20mm×20mmに加工し、これを300ppmの塩化物イオン(Cl-)を含んだ80℃の硫酸溶液中(pH3)に240時間浸漬した後の溶液の沈殿物の有無を確認し、以下の基準で評価した。
得られた結果を下記の表2に示す。
◎:沈殿物が無く、溶液に変色も見られない
○:沈殿物は無いが溶液に変色が見られる
×:沈殿物あり
カーボンペーパとの接触抵抗を測定した。図6は、試験材の接触抵抗を測定する装置の構成を示す図であり、この装置を用いて接触抵抗を測定した。
まず、各複合材を15mm×15mmに加工して作製した試験材(符号14)を、燃料電池用のガス拡散層として使用される1対のカーボンペーパ(符号15)〔東レ(株)製 TGP-H-90〕で挟み込み、これを金めっきした1対の白金電極(符号16)で挟んだ。各カーボンペーパ15の面積は、1cm2であった。次に、この1対の白金電極16の間に、10kgf/cm2(9.81×105Pa)の荷重を加えた。図6に、荷重の方向を白抜き矢印で示す。この状態で、1対の白金電極16間に一定の電流を流し、このとき生じるカーボンペーパ15と試験材14との間の電圧降下を測定した。この結果に基づいて抵抗値を求めた。得られた抵抗値は、試験材14の両面の接触抵抗を合算した値となるため、これを2で除して、試験材14の片面あたりの接触抵抗値とし、以下の基準で評価した。
得られた結果を下記の表2に示す。
◎:5mΩ・cm2未満
○:5mΩ・cm2以上、10mΩ・cm2未満
×:10mΩ・cm2以上
各複合材を作製後、24時間以内にそれぞれを50mm×50mmの大きさに加工して各試験片とした。この試験片について、クロスカット法を用いて密着強度を評価した。試験片に対して、カッターナイフを用いてカーボン層の被覆面側から芯材である基材に達する切れ込みを2mm間隔で平行に11本付けた。そして、それに垂直になるように更に11本の切れ込みを入れ、100個の碁盤目を形成させた。この碁盤目の箇所に対して、テープ剥離試験を行った。テープとして、ニチバン社製のセロテープ(登録商標)を用いた。評価面に貼り付けたテープを剥がしたときに、カーボン層が剥離した程度により、密着性を評価した。
得られた結果を下記の表2に示す。
◎:いずれの格子目も剥離が見られない
○:カーボン層が0以上5%未満で剥離している
×:カーボン層が5%以上剥離している
各複合材を20mm×20mmの試験片に加工し、これを300ppmの塩化物イオン(Cl-)を含んだ80℃の硫酸溶液中(pH3)に240時間浸漬した。その後、取り出した試験片について、前記同様のクロスカット法を用いて、密着性を評価した。
得られた結果を下記の表2に示す。
◎:いずれの格子目も剥離が見られない
○:カーボン層が0以上5%未満で剥離している
×:カーボン層が5%以上剥離している
Claims (7)
- 板状の金属製基材の少なくとも片面に、導電性を有するカーボン層を備えた複合材であって、
前記カーボン層は、炭素質材と熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂とを含むと共に、以下の(*)を満足することを特徴とする複合材。
(*)カーボン層を、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分として示差熱分析を実施したとき、得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)の温度微分曲線(DDTA曲線)において、温度200℃における強度値が0.035μV/℃以下であり、尚且つ温度300℃における強度値が0.050~0.080μV/℃であること。 - 前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の複合材。
- 前記カーボン層の厚みが、30μm~200μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材。
- 前記金属製基材が、ステンレス鋼又はチタンからなることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の複合材。
- 請求項1~4のいずれかに記載の複合材を備えた燃料電池用セパレータ。
- 請求項5に記載の燃料電池用セパレータを備えた燃料電池用セル。
- 請求項6に記載の燃料電池用セルを備えた燃料電池スタック。
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