JP2011033600A - 鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法 - Google Patents

鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】複雑なプレス加工が施された高強度鋼板成形品において、種々の加工部位の耐遅れ破壊性を適切かつ正確に判定することができる評価方法を提供する。
【解決手段】鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法は、遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、を対応付けた関係を用いて、鋼板成形品の評価部位の組織内における結晶粒の歪みに対応した水素量を求めることで、評価部位に遅れ破壊を発生させる水素量を推定する遅れ破壊水素量推定工程を行なう。
【選択図】図1

Description

本発明は、高強度鋼板にプレス加工を施した鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法に関する。
近年、地球環境を保護する観点から自動車の低燃費化が求められており、これを実現するための方法の一つとして、車体重量の軽量化が求められている。また同時に、自動車の衝突安全性の向上も求められているが、従来の鋼板を用いた場合は車体重量の増加が懸念される。そこで、この二つの相反する課題を解決するために、薄肉化が可能で高強度な鋼板が開発されており、近年では、自動車部品用鋼板の分野にも引張強度が1180MPaを超えるような超高強度鋼板が適用されはじめている。
このような高強度鋼板は、自動車部品の分野においては、曲げ加工や、絞り加工等の複雑なプレス加工が施され、自動車用のバンパーやインパクトビームを構成する部品等として用いられているが、近年では成形性の向上に対する要求も強くなっている。すなわち、高強度かつ、それぞれの用途に応じて適切な成形性を兼ね備えた高強度鋼板の提供が切望されている。
一方、鋼板の高強度化に伴い、鋼板成形品の遅れ破壊の問題が懸念されている。遅れ破壊とは、鋼板成形品の使用環境において内部に水素が侵入することにより、使用開始から一定期間を経た後に、塑性変形を伴うことなく突然脆性的に破壊される現象のことをいう。従って、実際の使用環境において鋼板成形品に遅れ破壊が発生しにくいこと(耐遅れ破壊性)を評価する方法が求められてきた。
そこで、従来から高強度化が進められてきたボルト、PC鋼線、ラインパイプといった部品分野では、特許文献1や非特許文献1に記載されたような、鋼材に人為的に水素を導入して当該鋼材を水素脆化させる耐遅れ破壊性の評価方法が用いられてきた。例えば、特許文献1に係る評価方法では、ボルト、PC鋼線用鋼の耐遅れ破壊性評価に用いられる代表的な手法が開示されている。これら手法は、水溶液環境中にて引張試験片に張力を加え、鋼中に水素を導入することによって引張試験片を人為的に水素脆化させ、引張試験片に付与した応力や引張試験片中の水素濃度を分析し、遅れ破壊が起こる条件の目安として評価するものであった。
しかし、鋼板(特に薄鋼板)の分野における耐遅れ破壊性の評価方法と、前記ボルト等の部品での評価方法とは異なる。すなわち、ボルト等の部品は完成品として使用されるため、評価に際し加工度、付加応力、残留応力及び端面状態等の影響を考慮する必要がない。これに対し鋼板は、プレス加工等を行ってから部品として使用されるため、加工度、付加応力、残留応力及び端面状態等の影響も加味しなければ正確な評価とはならない。
そこで、特許文献2には、鋼板を切り出してU字型に曲げ加工した後、両端をボルト及びナットで締め付けることで応力を付加して試験片として評価する方法が記載されている。この試験片を酸性溶液中で電解チャージすることにより水素脆化させ、その際の試験片中の水素量を測定して、遅れ破壊が起こる条件の目安として評価する構成とするものであった。特許文献2に係る評価装置及び評価方法は、このような構成とすることにより、鋼板成形品の使用環境、加工度、付加応力、残留応力、端面状態及び曲げ半径等の影響を考慮して耐遅れ破壊性を評価することができた。
また、特許文献3には、鋼板を短冊状に切り出して長手方向両端部付近に穴を開け、U字型に曲げ加工して試験片として評価する方法が記載されている。そして、この試験片の加工部位表面に歪ゲージを貼り、当該穴にボルトを通し、歪ゲージで歪を観察しながら当該ボルトを締めて所望の応力を付加し、試験片を希硫酸中に浸漬させた。そして、当該試験片に負の電圧を付与して希硫酸を電解して水素を発生させ、該歪ゲージの値に変化が現れるまでの時間(遅れ破壊発生までの時間)を測定する構成とするものであった。
また、非特許文献2では、遅れ破壊が懸念される強度レベルである1180MPa級鋼板の実部品について、部品の加工部位における曲げ半径、残留応力、遅れ破壊水素量を用いた耐遅れ破壊性評価マップが提案されている。この耐遅れ破壊性評価マップは、遅れ破壊が生じた際の曲げ半径、残留応力、遅れ破壊が生じた際の水素量を3次元グラフにプロットしてマップ化することにより、遅れ破壊が生じる条件を視覚的に表したものである。
特開2004−309197号公報 特開2005−134152号公報 特開平7−146225号公報
松山晋作著 「遅れ破壊」日刊工業新聞社 1989年8月31日発行 P159−161 自動車技術論文集Vol.39,No.5 「1180MPa級鋼板の冷間プレスによる一体型ドアインパクトビームの開発」 2008年9月 P133−138
昨今の急速な車体軽量化・衝突安全性向上のニーズの高まりから、複雑なプレス加工・曲げ加工が施される鋼板成形品にも、1180MPa以上の超高強度鋼板が適用され始めている。これらの鋼板成形品は、従来のような単純な丸棒形状への加工や単純な曲げ加工以外にも、プレス加工によって深絞り加工、張出し加工、伸びフランジ加工等が施されており、鋼材組織自体に結晶レベルの変化が生じている。すなわち、鋼材組織には、加工に伴って結晶粒の歪み、転位、欠陥の増加、結晶粒及び組織形態の崩壊等が生じている。そのため、材料流入(深絞り加工)や材料流出(伸びフランジ加工、張出し加工)が生じる縦壁部や、打ち抜き加工を施した打ち抜き孔近傍、複数回の曲げ−曲げ戻し加工を受けた部位では、従来の単純な曲げ加工以上に遅れ破壊の発生が懸念されることになる。
しかし、前記した従来の評価方法は、評価可能な部位が単純な曲げ加工を施した部位のみであるため、プレス加工が施された実際の鋼板成形品において遅れ破壊が生じやすい縦壁部、打ち抜き孔近傍、複数回の曲げ−曲げ戻し加工を受けた部位については、評価することができなかった。また、特許文献2、非特許文献2に記載された評価方法のように、耐遅れ破壊性の評価を「曲げ半径−残留応力−水素量」の関係で行なおうとすると、仮に評価結果が良好と判定された鋼板成形品であっても、実際には遅れ破壊が生じる場合があり、評価の正確性に欠けていた。
また、特許文献3に係る評価方法では、曲げ半径15mm、負荷応力1000MPaで曲げ加工を施した鋼板成形品のみしか評価することができず、これ以外の条件で加工された鋼板成形品の耐遅れ破壊性を評価することが困難であった。さらに、特許文献3に係る評価方法も、評価可能な部位が単純な曲げ加工を施した部位のみであるため、プレス加工が施された実際の鋼板成形品において遅れ破壊が生じやすい縦壁部、打ち抜き孔近傍、複数回の曲げ−曲げ戻し加工を受けた部位については、評価することができなかった。
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであって、複雑なプレス加工が施された高強度鋼板成形品において、種々の加工部位の耐遅れ破壊性を適切かつ正確に判定することができる評価方法を提供することを目的とする。
本発明者は、前記した課題を解決するため、高強度鋼板を用いた鋼板成形品における耐遅れ破壊性の評価方法について、鋭意研究を行なった。高強度鋼板の分野では、耐遅れ破壊性評価の方法はいまだ確立されておらず、前記したようなボルトに張力を付加して行なう方法や、プレス成形品を模して単純な曲げ加工を施した試験片に応力を付加して行なう方法が用いられている。しかし、プレス成形品には、主な加工方法として例えば、曲げ加工の他にも深絞り加工、張出し加工、伸びフランジ加工等があり、従来の方法ではこれらの加工方法に対応することができなかった。すなわち、従来は、遅れ破壊に影響を及ぼす鋼板成形品の加工度の指標として、「曲げ半径」のみを用いてきた。
一方、本発明では、プレス加工によって生じた鋼材組織の変化に着目し、鋼板成形品の加工度の指標として「結晶粒の歪み」を用いることで、従来は評価できなかった複雑なプレス加工が施された鋼板成形品についても、正確に耐遅れ破壊性を評価することができることを見出した。すなわち、鋼板成形品の加工度を表す指標として、鋼板成形品の形状のみに着目した「曲げ半径」ではなく、鋼板成形品の加工度をより本質的に示す「結晶粒の歪み」を用いることで、単純な曲げ加工以外のあらゆる加工方法、すなわち、鋼板成形品の縦壁部、打ち抜き孔近傍、複数回の曲げ−曲げ戻し加工を受けた部位等についても、評価が可能であることを見出した。
すなわち、本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法は、鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法であって、遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、を対応付けた関係を用いて、前記鋼板成形品の評価部位の組織内における結晶粒の歪みに対応した水素量を求めることで、前記評価部位に前記遅れ破壊を発生させる水素量を推定する遅れ破壊水素量推定工程を行なう構成とする。
このような構成を備える耐遅れ破壊性の評価方法は、遅れ破壊が発生する際における試験片中の水素量及び結晶粒の歪みを対応付けた関係に、鋼板成形品の加工部位(評価部位)における結晶粒の歪みを照らし合わせることで、その結晶粒の歪みに対応した水素量を迅速かつ簡易に求めることができ、遅れ破壊水素量を正確に推定することができる。なお、遅れ破壊水素量とは、鋼板成形品に遅れ破壊が生じる際の鋼板成形品中の水素量のことを指す。
さらに、本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法は、鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法であって、遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、を対応付けた関係を用いて、前記鋼板成形品の評価部位に含有される水素量に対応した結晶粒の歪みを求めることで、前記評価部位に前記遅れ破壊を発生させる結晶粒の歪みを推定する遅れ破壊結晶粒歪み推定工程を行なう構成とする。
このような構成を備える耐遅れ破壊性の評価方法は、遅れ破壊が発生する際における試験片中の水素量及び結晶粒の歪みを対応付けた条件に、鋼板成形品の加工部位における水素量を照らし合わせることで、その水素量に対応した結晶粒の歪みを迅速かつ簡易に求めることができ、遅れ破壊結晶粒歪みを正確に推定することができる。なお、遅れ破壊結晶粒歪みとは、鋼板成形品に遅れ破壊が生じる際の鋼板成形品の組織内における結晶粒の歪みのことを指す。
また、本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法は、前記遅れ破壊水素量推定工程において、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の残留応力と、を対応付けた関係を用いて、前記鋼板成形品の評価部位の組織内における結晶粒の歪み及び当該評価部位の残留応力に対応した水素量を求めることが好ましい。
このような構成を備える耐遅れ破壊性の評価方法は、鋼板成形品の水素量または結晶粒の歪みを求めるための条件に、さらに残留応力のデータを加えることにより、試験片に遅れ破壊が発生するより正確な関係を導出することができる。そして、鋼板成形品の加工部位における結晶粒の歪み及び残留応力をこの関係に照らし合わせることで、これらに対応する遅れ破壊水素量をより正確に求めることができる。
また、本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法は、前記遅れ破壊結晶粒歪み推定工程において、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の残留応力と、を対応付けた関係を用いて、前記鋼板成形品の評価部位に含有される水素量及び当該評価部位の残留応力に対応した結晶粒の歪みを求めることが好ましい。
このような構成を備える耐遅れ破壊性の評価方法は、鋼板成形品の水素量または結晶粒の歪みを求めるための条件に、さらに残留応力のデータを加えることにより、試験片に遅れ破壊が発生するより正確な関係を導出することができる。そして、鋼板成形品の加工部位に含有される水素量及び残留応力をこの関係に照らし合わせることで、これらに対応する結晶粒の歪みをより正確に求めることができる。
また、本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法は、前記遅れ破壊水素量推定工程または前記遅れ破壊結晶粒歪み推定工程の前に、成形加工を施した試験片を作成し、当該試験片に遅れ破壊が発生するまで、その内部に水素を導入する試験片水素導入工程と、前記遅れ破壊が発生する際における前記試験片の水素量及び結晶粒の歪みを測定する試験片測定工程と、前記試験片測定工程で測定した前記試験片の水素量及び結晶粒の歪みを対応付けて、前記関係を導出する遅れ破壊条件導出工程と、を行なうことが好ましい。
このような構成を備える耐遅れ破壊性の評価方法は、様々な成形加工が施された試験片を用いて、予め遅れ破壊発生時における水素量及び結晶粒の歪みを測定し、これらのデータを対応付けた関係を導出する。そして、鋼板成形品の加工部位における結晶粒の歪みまたは水素量を測定してこの関係に照らし合わせることで、これらに対応する遅れ破壊水素量または結晶粒の歪みをより正確に求めることができる。
また、本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法は、前記遅れ破壊水素量推定工程または前記遅れ破壊結晶粒歪み推定工程の前に、成形加工を施した試験片を作成し、当該試験片に残留応力を付与するとともに、当該試験片に遅れ破壊が発生するまで、その内部に水素を導入する試験片水素導入工程と、前記遅れ破壊が発生する際における前記試験片の水素量及び結晶粒の歪みを測定する試験片測定工程と、前記試験片測定工程で測定した前記試験片の水素量及び結晶粒の歪み並びに前記試験片に付与された残留応力を対応付けて、前記関係を導出する遅れ破壊条件導出工程とを行なうことが好ましい。
このような構成を備える耐遅れ破壊性の評価方法は、様々な成形加工が施された試験片を用いて、予め遅れ破壊発生時における水素量及び結晶粒の歪みを測定し、これらのデータ及び残留応力を対応付けた関係を導出する。そして、鋼板成形品の加工部位における結晶粒の歪みまたは水素量を測定してこの関係に照らし合わせることで、これらに対応する遅れ破壊水素量または結晶粒の歪みをより正確に求めることができる。
そして、本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法は、前記加工歪みが、EBSPにおける方位決定のCI(Confidence Index)が0.1以下となる面積率、EBSPにおける方位決定のIQ(Image Quality)、EBSPにおける方位決定のKAM(Kernel Average Misorientation)、XRD(X-ray diffraction)によって測定される歪み、のいずれかによって表されたものであることが好ましい。
このような構成を備える耐遅れ破壊性の評価方法は、EBSPまたはXRDを用いることで、鋼板成形品における鋼組織の結晶構造、すなわち結晶粒の歪みの大きさを迅速かつ正確に測定することができる。
本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法によれば、従来の耐遅れ破壊性の評価指標である「曲げ半径」の代わりに「結晶粒の歪み」を評価指標とすることにより、「結晶粒の歪み−残留応力−水素量」の関係において、鋼板成形品の耐遅れ破壊性をより正確に評価することができる。すなわち、鋼板成形品の結晶粒の歪みを測定することで、加工に伴う結晶粒の歪み、転位、欠陥の増加、結晶粒及び組織形態の崩壊等を加味した、緻密な耐遅れ破壊性の評価を行なうことができる。従って、単純な丸棒形状への加工や単純な曲げ加工以外にも、材料流入(深絞り加工)や材料流出(伸びフランジ加工、張出し加工)が生じる縦壁部や、打ち抜き加工を施した打ち抜き孔近傍、複数回の曲げ−曲げ戻し加工を受けた部位の耐遅れ破壊性を正確に評価することができる。また、EBSP・XRDによって結晶方位を測定・解析することで、従来の「曲げ半径」を用いた評価方法よりも迅速に耐遅れ破壊性の評価を行なうことができる。
本発明の一実施形態に係る評価方法を示すフローチャートである。 プレス加工の代表的な加工方法を示す図であり、(a)は、深絞り加工を示す図、(b)は、張出し加工を示す図、(c)は、伸びフランジ加工を示す図、(d)は、曲げ加工を示す図、である。 加工による鋼材の組織内における結晶粒の歪みを示す図であり、(a)は、加工前の結晶粒の状態を示す図、(b)は、加工後の結晶粒の状態を示す図、である。 EBSPの測定部位を示す図であり、(a)は、平坦部におけるEBSPの測定部位を示す図、(b)は、曲げ加工部におけるEBSPの測定部位を示す図である。 耐遅れ破壊性の作成工程を示す図であり、(a)は、遅れ破壊発生境界領域を作成する工程を示す図、(b)は、遅れ破壊推定境界領域を作成する工程を示す図、(c)は、実際の鋼板成形品の測定値をプロットする工程を示す図である。 本発明に係る評価方法に用いたプレス成形品を示す図であり、(a)は、A鋼を用いた形状イのプレス成形品を示す図、(b)は、B鋼を用いた形状ロのプレス成形品を示す図、(c)は、C鋼を用いた形状ハのプレス成形品を示す図、である。 従来の評価方法において、「曲げ半径」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップを示す図である。 本発明に係る評価方法において、「CI≦0.1となる面積率」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップを示す図である。 本発明に係る評価方法において、「IQ」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップを示す図である。 本発明に係る評価方法において、「KAM」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップを示す図である。 本発明に係る評価方法において、「XRDによる歪み測定」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップを示す図である。
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係る評価方法について説明する。本実施形態に係る評価方法は、図1に示すように、遅れ破壊を発生させるために試験片に水素を導入する試験片水素導入工程(ステップS1)と、試験片中の水素量を測定する試験片水素量測定工程(ステップS2)と、試験片の結晶粒の歪みを測定する試験片結晶粒歪み測定工程(ステップS3)と、試験片中の水素量及び結晶粒の歪みの対応関係を求めて遅れ破壊が発生する条件を抽出する遅れ破壊条件導出工程(ステップS4)と、鋼板成形品の結晶粒の歪みを測定する成形品結晶粒歪み測定工程(ステップS5)と、遅れ破壊が発生する条件に基づいて遅れ破壊が発生する水素量を推定する遅れ破壊水素量推定工程(ステップS6)と、を主な構成として有している。
ここで、試験片水素量測定工程(ステップS2)と試験片結晶粒歪み測定工程(ステップS3)は、どちらを先に行なってもよい。また、ステップS1からステップS4は、後記するように、遅れ破壊が発生する際の見本・基準となるデータを測定する工程であるため、一度データを測定すれば、以後はステップS5以降のみを行なってもよい。以下、各工程について、詳細に説明する。
(1)試験片水素導入工程
本工程は、様々な成形加工が施された複数の試験片に水素を導入し、当該試験片に人為的に遅れ破壊を発生させる工程である。このように、予め複数の試験片を用いて遅れ破壊性を調査することで、遅れ破壊が発生する際の鋼材中の水素量、鋼材組織内における結晶粒の歪み等の見本・基準となるデータを得ることができる。本工程をより詳細に説明すると、以下の通りである。
(1−1)試験片の作成
試験片は、前記したように耐遅れ破壊性を評価するための見本・基準となるデータを得るためのものであるため、多様な条件で成形加工して作成することが好ましい。本実施形態に係る評価方法では、例として、3種の組成及び、プレス加工における4種の代表的な加工区分からなる試験片を作成するが、これ以上の組成・加工区分を用いることももちろん可能である。
本実施形態に係る評価方法は、どのような引張強度を有する鋼板であっても評価が可能である。従って、高強度な鋼板成形品を模して、1180MPa以上の引張強度を有する高強度鋼板から試験片を切り出して、評価の見本・基準とすることもできる。
本実施形態において、試験片の組成は、評価を行なう鋼板成形品と同じ組成とする。ここで、試験片と鋼板成形品の組成を一致させるのは、鋼材の組成も遅れ破壊水素量に影響を及ぼすため、正確な評価を行なうためにこれらを一致させることが好ましいからである。ただし、本発明はこれに限定されず、試験片の組成が鋼板成形品の組成と同じ遅れ破壊特性を示すことが予め分かっている場合は、試験片の組成と鋼板成形品の組成とが異なっていても問題はない。また、鋼板成形品と試験片の組成及び遅れ破壊特性は完全に一致している必要はなく、評価結果に悪影響を及ぼさない程度の差異は許容される。なお、試験片の製造方法については、従来公知の方法を用い、加工度等の製造条件については、評価を行なう鋼板成形品の部位や母材鋼板の変形限界曲線等を参考にして設定することができる。
試験片は、例えば図2に示すように、様々な加工区分で作成することができる。図2において、(a)は、実際の鋼板成形品における縦壁部(深絞り加工)を模擬するための、絞り比を変化させた深絞り加工試験片である。また、(b)は、実際の鋼板成形品における絞り加工部(張出し加工)を模擬するための、エリクセン試験片である。また、(c)は、実際の鋼板成形品における打ち抜き加工孔近傍(伸びフランジ加工)を模擬するための、伸びフランジ試験片である。また、(d)は、実際の鋼板成形品における曲げ加工を模擬するための、曲げ半径及び曲げ加工部位に対する付加応力を変化させたU曲げ試験片である。本実施形態に係る評価方法では、結晶粒の歪みに基づいて遅れ破壊特性を評価するため、試験片の加工区分と、鋼板成形品における評価部位の加工区分とを一致させる必要はない。従って、深絞り加工を施した試験片から得た測定データに基づいて、鋼板成形品の曲げ加工部位の遅れ破壊特性を評価するようなことももちろん可能である。
本実施形態に係る評価方法は、このような試験片を用いることにより、深絞り性、張出し性、伸びフランジ性及び曲げ性によって鋼材組織に生じる歪みを考慮した測定データを予め得ることができる。すなわち、後記するように、これらの測定データを対応付けてその関係を導出することで、同じ特性を有する実際の鋼板成形品の耐遅れ破壊性を評価することができる。
(1−2)試験片に対する水素の導入
次に、水素導入手段によって各試験片を構成する鋼材中に人為的に水素を導入する。この際、遅れ破壊特性は鋼材の残留応力の影響も受けるため、残留応力が互いに異なる複数の試験片を使用する。なお、試験片に与える残留応力と、鋼板成形品の評価部位の残留応力とを一致させる必要はなく、耐遅れ破壊性の評価は可能である。
水素導入手段としては、試験片を塩酸等の酸溶液に浸漬する酸浸漬法、電解液中で試験片を陰極に、白金を陽極とし、陰極と陽極間に電流を流すことにより溶液を電気分解し、その際に発生した水素を鋼材中に導入する陰極チャージ法、中性塩化物水溶液の散布と温度湿度を制御した環境を繰り返すことによって鋼材中に腐食を発生させ、腐食反応に起因して発生する水素を鋼材中に導入する複合サイクル法、試験片を実際の大気環境下に設置し、自然環境下で生じる腐食反応に起因して発生する水素を鋼材中に導入する大気暴露法等、の手段を用いることができる。
但し、複合サイクル法と大気暴露法は、導入に要する時間が長期間にわたるとともに、腐食反応によって鋼材中に侵入する水素量が0.数ppm程度と微量であるため、試験片に割れ(遅れ破壊)が生じない場合がある。従って、試験片に対する水素の導入方法としては、試験時間の短縮及び鋼材中の水素量を制御する観点から、酸浸漬法または陰極チャージを用いることが好ましい。
酸浸漬法で用いる溶液としては、例えば塩酸水溶液が挙げられる。ここで、塩酸水溶液の濃度は、0.01〜10%の範囲内であることが好ましい。塩酸水溶液の濃度が10%を超えると、塩酸水溶液中での試験片の溶解反応、水素発生反応が活発となりすぎ、鋼材中に急激かつ多量に水素が導入されてしまう。一方、塩酸水溶液の濃度が0.01%未満の場合は、試験片の溶解反応は抑制されるものの、同時に水素発生反応も抑制されてしまうため、鋼材中への水素侵入がほとんど生じず、試験片に割れが生じないことがある。
陰極チャージ法は、電解質を含む溶液濃度を制御し、印加する負の電流密度及び時間を制御することで、鋼材中に導入する水素量をコントロールすることができる。従って、鋼材中の水素量との相関がある耐遅れ破壊現象を評価する手法として簡便であり、かつ、前記したように鋼材中の水素量を任意にコントロールできるという利点を有している。なお、印加する電流の制御には、既存のポテンショスタット等の電流制御装置を用いれば良い。
陰極チャージ法では、鋼材中に水素を効率的に導入するために、電解質を含む溶液のpHを6以下とすることが好ましい。pHが6を超えると、鋼材中に水素を効率的に導入することができない場合がある。さらに、電解質を含む溶液としては、鋼材中への水素導入の触媒作用があることが知られているチオシアン酸塩(チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム等)を含む弱酸性から酸性の水溶液を使用することが好ましい。
(2)試験片測定工程
本工程は、遅れ破壊が発生する際の試験片に含有される水素量と、結晶粒の歪み(加工歪み)を測定する工程である。本工程は、試験片水素量測定工程と、試験片結晶粒歪み測定工程と、試験片残留応力測定工程とに分けることができ、どちらの工程を先に行なっても構わない。またこれらの工程では、試験片測定手段として、試験片水素量測定工程では水素量測定手段を、試験片結晶粒歪み測定工程では加工歪み測定手段を、試験片残留応力測定工程では、残留応力測定手段を用いる。以下、各工程について説明する。
(2−1)試験片水素量測定工程
本工程は、水素量測定手段によって試験片中の水素量を測定する工程である。すなわち、前記したいずれかの方法で、試験片に割れ(遅れ破壊)が発生するまで水素を導入し、割れが発生したことが確認できた時点で水素の導入を中止する。なお、割れの有無の判断は、試験片の割れが線として目視で確認できるか否かによって行なうが、その他にも、割れ部近傍に歪みゲージを貼り、その値の変化で割れを判定する方法や、割れ発生時に生じる電位変化によって割れを判定する方法等を用いても良い。
そして、導入した水素が飛散しないように、試験片から迅速に水素量分析用試験片を切り出す。水素量分析用試験片の切り出しに際しては、切り出し時に生じた熱で鋼材中に導入した水素が飛散しないように、冷却水を散布しながら回転砥石により切り出す方法を用いることが好ましい。
なお、このような方法で切り出した試験片中に含有される水素のうちで、遅れ破壊に影響を与えるのは、比較的低温であっても鋼材内を自由に移動することができる拡散性水素と呼ばれるものである。本工程では、割れが発生した水素量分析用試験片から測定したこの拡散性水素の量(以下、単に水素量という)を測定の対象としている。
水素量測定手段としては、例えば、大気圧イオン化質量分析計(API−MS)による測定が挙げられる。測定条件としては、測定の際の昇温速度を1℃/min以上20℃/min以下とすることが好ましい。これは、昇温速度が1℃/min未満だと拡散性水素の測定に非常に時間がかかって効率が悪化するため好ましくなく、昇温速度が20℃/minを超える場合は、鋼板からの水素放出効率が低下するとともに、温度制御が困難となって拡散性水素を正確に測定することができなくなるからである。なお、測定効率の観点から、昇温速度は5℃/min以上15℃/min以下とすることがより好ましい。また、拡散性水素の定量は、室温〜300℃までの温度範囲で放出される水素の全量(積分値)とすることが好ましい。
(2−2)試験片結晶粒歪み測定工程
本工程は、試験片の組織内における結晶粒の加工歪みを、加工歪み測定手段によって測定する工程である。このように、試験片の組織内における結晶粒の歪みを測定することで、加工に伴う結晶粒の歪み、転位、欠陥の増加、結晶粒及び組織形態の崩壊等を加味した、より緻密な耐遅れ破壊性の評価が可能となる。従って、単純な丸棒形状への加工や単純な曲げ加工以外にも、材料流入(深絞り加工)や材料流出(伸びフランジ加工、張出し加工)が生じる縦壁部や、打ち抜き加工を施した打ち抜き孔近傍、複数回の曲げ−曲げ戻し加工を受けた部位の耐遅れ破壊性を正確に評価することができる。
図3を参照しながら試験片を構成する鋼材の結晶粒の歪みについて説明する。図3(a)に示すように、プレス加工等が施されていない鋼材の結晶粒は、結晶粒の方位が一方向に揃っている状態である。従って、結晶粒において水素が侵入する要因が少なく、遅れ破壊も発生しにくい。
一方、図3(b)に示すように、プレス加工等が施された鋼材の結晶粒は、結晶粒の方位が乱れた状態である。また、結晶粒に歪みAが生じるとともに、結晶粒にボイド(空孔)Bが発生している。さらに、結晶粒界には、結晶粒の転位によるセル壁Cも形成されている。従って、歪みAやボイドBに水素が侵入する可能性が高くなり、遅れ破壊が発生しやすくなる。本実施形態に係る評価方法は、このように、鋼材の加工に伴う結晶粒の歪みが遅れ破壊に影響を与える点に着目し、結晶粒の歪みを耐遅れ破壊性の指標として用いる点を特徴としている。
各試験片の結晶粒の歪みを測定する加工歪み測定手段としては、EBSP(電子後方散乱パターン:Electron Back Scatter diffraction Pattern)による評価、あるいは、XRD(X線回折:X-ray diffraction)による測定があり、これらいずれかの手法を用いて結晶粒の歪みを測定することが好ましい。以下、各測定手段について詳細に説明する。
(2−2−1)EBSPによる結晶粒の加工歪みの測定
EBSPとは、試験片表面に電子線を入射させたときに発生する反射電子から得られた菊池パターン(菊池線)のことであり、このパターンを解析することにより、電子線入射位置の結晶方位を決定することができるものである。また、菊池パターンとは、結晶に当たった電子線が散乱して回折された際に、白黒一対の平行線や帯状もしくはアレイ状に電子回折像の背後に現れるパターンのことを指す。
EBSPによる結晶方位の決定は、通常の顕微鏡観察では同一と判断される組織であって結晶方位差の異なる板厚方向の鋼材組織を、色調差によって識別できる、TEM(透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)では難しいバルク(塊状)試料の測定が可能である、観察用の薄膜試料の作成が不要であること、測定・解析時間を飛躍的に短縮することが可能である、等の利点がある。
EBSPによる結晶粒の歪みの測定は、EBSP検出器を備えたFE−SEM(電界放射型 走査型電子顕微鏡:Field Emission-Scanning Electron Microscope)を用いた組織評価によって行なうことが好ましい。FE−SEMによって試験片の表面に電子線を2次元で走査し、所定のピッチごとに結晶方位を測定することで、試験片表面における結晶の方位分布(結晶粒の歪み)を解析することができる。なお、測定に用いるEBSP検出器を備えたFE−SEMとしては、例えば、「日本電子社製 電界放出型走査電子顕微鏡 JSM−6500F」を用いることができる。
測定部位としては、図4に示すように、試験片100の板厚の1/4の位置を中心とした測定面積(約150μm×150μm、測定間隔は0.1μm)を対象とし、測定部位まで研磨する研磨法によってEBSP測定用試料を作成する。但し、測定部位まで研磨する際には、研磨による組織変化の影響を防ぐため電解研磨を行なうことが好ましい。なお、試験片の平坦部を測定する場合は、図4(a)に示すように、表面から板厚方向に1/4進んだ位置における任意の面積を測定する。また、試験片の加工部位(例えば曲げ加工部)を測定する場合は、図4(b)に示すように、表面から板厚方向に1/4進んだ位置における加工部位を測定する。
次に、FE−SEMの鏡筒内に試験片をセットして測定部位に電子線を照射し、スクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影してコンピュータに画像データとして取り込む。そして、EBSPの画像解析を行ない、既知の結晶系(FCC:面心立方格子、BCC:体心立方格子)を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、認識した結晶系の方位決定を行なう。なお、解析には電子計算機を用い、解析に用いるソフトウェアとしては、例えば、「EDAX−TSL社製 OIM(Orientation Imaging Microscooy)Analysis5.2」を用いることができる。
EBSPによる結晶粒の歪みの測定では、鋼板に加えた加工による鋼材組織の変化を定量的に評価する指標(パラメータ)として、CI(信頼性評価指数:Confidence Index)、IQ(Image Quality)、KAM(Kernel Average Misorientation)を用いることが好ましい。なおIQ以外の解析に関しては、粒界等を含む方位角決定の信頼性が著しく低いCI=0.1以下のデータを除外して解析することが好ましい。以下、各指標について詳細に説明する。
[EBSP指標:CI≦0.1となる面積率の評価]
CIは、信頼性評価指数と呼ばれるパラメータであり、解析領域における結晶方位決定確度を示した数値である。結晶の方位決定は、与えられた結晶系の回折パターンと比較して最も一致する場合の方位を算出する。従って、方位決定の確度を信頼性評価指数(CI)として数値化(1〜0)することで、データの信頼性を統計的に評価することが可能となる。なお、CI値は、1に近いほど結晶方位決定確度が高く、0に近いほど結晶方位決定確度が低い。
EBSPによる結晶粒の歪みの測定では、ビーム状態や試験片状態によって、実際とは異なった結晶方位を算出することがあるため、限られた回折パターン、重畳した回折パターン、不明瞭なパターンの場合でも、その中で最も可能性の高い方位付けを自動的に行ってしまう。例えば、高強度鋼板に対して曲げや絞り等の加工を加えた場合、加工に起因して結晶粒の転位や歪みが増加し、結晶粒の方位が崩れたりすることが考えられる。これらの部分はOIMで結晶方位を決定することは困難であり、方位決定されず、CI値が低くなる(前記したIQとの関連については、一般的にIQ値が低い場合は方位決定が困難である事が多い)。従って、測定部位において、このような方位決定ができなかった(CI値が0.1以下となる)箇所の面積率を算出して「CI≦0.1となる面積率」とし、加工により鋼材組織に生じた変化の指標とした。
[EBSP指標:IQの評価]
IQは、EBSPの画像処理(ハフ変換)後の菊池パターンの強度に関する値で、測定部位における結晶の完全性をパラメータ化した数値である。結晶の完全性が高ければIQ値は高く、完全性が低ければIQ値は低くなる。IQ値の劣化は、解析領域におけるすべり線や転位セル境界における欠陥、弾性歪み場による結晶の完全性の低下等加工による因子に影響を受ける。なおIQは、EBSPにおける回折パターンの鮮明度を数値化したものであり、結果を示すマップではこの数値に対応して白(高)〜黒(低)のグラデーションで表示している。IQ分布はこの数値の分布状態を示しており、測定視野全体のIQ平均値を、加工によって組織に生じた変化の指標とした。
[EBSP指標:KAMの評価]
KAMは、局所的な方位変化に基づく歪分布を示すものであり、結果を示すマップにおいて、隣り合う6つのピクセル間の方位差の平均値によって表されるものである。前記した解析ソフトのOIMでは、ピクセル間の方位差を基準として、測定試験片の加工状況や内部の残留歪等に関連した特性を表現できないかを模索している。そして、ピクセル間に微小な角度変化がある場合は、結晶がその部分で加工による変形を受けており、残留歪に関連している、という仮定に基づいてマップを作図している。そこで、このマップにおけるピクセル間の方位差の平均を計算し、その平均値をKAM値として局所的な方位変化に基づく歪分布を表している。
ここで、隣接する測定点間で5°以上の方位差があった場合は、その方位差は亜粒界やセル壁と考えてKAMの計算から除いている。従って、5°以下の方位差のみを結晶粒内の方位揺らぎと考えて解析を行ない、測定視野全体のKAM平均値を、加工によって鋼材組織に生じた変化の指標とした。
(2−2−2)XRDによる結晶粒の歪みの測定
本実施形態に係る評価方法では、前記したEBSPの他に、XRD(X線回折)によって鋼材中の結晶粒の歪みを直接測定することもできる。XRDは、X線が結晶格子によって回折される現象を利用して物質の結晶構造を解析する手法である。各試験片における歪みの測定部位としては、深絞り加工試験片(図2(a))は、縦壁部先端から10mm下の部分における鋼板表層部10、エリクセン試験片(同図(b))は、球形状頭頂部20、伸びフランジ試験片(同図(c))は、打ち抜き加工孔近傍30、U曲げ試験片(同図(d))は、曲げ加工の頭頂部40、である。
XRDによる結晶粒の歪み測定に用いる分析装置としては、例えば、「理学電気製 X線回折装置 RAD−RU330」を用いることができる。また、測定条件としては、例えば、θ/2θ走査連続測定とし、ターゲットにCo、単色化にモノクロメーター(Kα線)を使用し、走査速度:2°/min、サンプリング幅:0.02°、測定角度(2θ):30〜130°とすることが好ましい。
そして、これらの条件によって得られた測定データからピーク分離(フィッティング)によって半価幅を計算し、Hall−Williamson法(ρ=(14.4×ε2)/b2、ρ:転位密度、b:バーガースベクトル)によって鋼板の加工部位の歪みを算出することができる。このようなXRDによる結晶粒の歪み測定は、簡便で迅速な方法であるため、多量のサンプルを評価する場合に好適な測定手法である。
(2−3)試験片残留応力測定工程
本実施形態に係る評価方法では、試験片残留応力測定工程をさらに行なうこともできる。試験片残留応力測定工程は、残留応力測定手段により、遅れ破壊が発生した試験片の残留応力を測定する工程である。ここで、残留応力とは、加工後の金属内部に残留する応力のことをいう。試験片の残留応力測定手段としては、XRDや歪みゲージを用いることができる。
このように、本実施形態に係る評価方法では、様々な成形加工が施された試験片の残留応力を測定することにより、評価に用いる鋼板成形品の残留応力がどのような値であっても、耐遅れ破壊性を正確に評価することができる。すなわち、「結晶粒の歪み−残留応力−水素量」の関係において、鋼板成形品の耐遅れ破壊性をより正確に評価することができる。
(3)遅れ破壊条件導出工程
本工程は、これまでの工程で測定した試験片中の水素量と、試験片の組織内における結晶粒の歪みと、試験片に付与された残留応力と、を対応付けた関係を用いて、試験片に遅れ破壊が発生すると推定される条件を導出する工程である。ここでは、遅れ破壊特性の評価対象となる鋼板成形品と同様に様々な成形加工が施された試験片から採取した測定データ、すなわち遅れ破壊が発生する際の水素量、結晶粒の歪み及び残留応力の関係を公知の算出手段を用いて関数化して対応関係を導出する。この工程により、遅れ破壊が発生する際の水素量と結晶粒の歪みと残留応力との対応関係を、水素量、結晶粒の歪み及び残留応力の3つの因子を変数として含む関数として得ることができる。
(4)成形品測定工程
(4−1)成形品結晶粒歪み測定工程
本工程は、遅れ破壊特性の評価対象となる鋼板成形品において、評価部位の組織内における結晶粒の歪みを測定する工程である。鋼板成形品の結晶粒の歪みの測定は、前記試験片と同じ加工歪み測定手段(EBSP、XRD)を用いて行なう。
(4−2)成形品残留応力測定工程
本工程は、遅れ破壊特性の評価対象となる鋼板成形品において、評価部位の組織内における残留応力を測定する工程である。鋼板成形品の残留応力の測定は、前記試験片と同じ加工歪み測定手段(XRD、歪みゲージ)を用いて行なう。
(5)遅れ破壊水素量推定工程
本工程は、遅れ破壊条件導出工程で導出した関係を用いて、成形品結晶粒歪み測定工程で測定した鋼板成形品の結晶粒の加工歪みまたは、それに加えて、成形品残留応力測定工程で測定した鋼板成形品の残留応力に対応した水素量を求め、遅れ破壊を発生させる水素量(鋼板成形品に蓄積することが予想される水素量)を推定する工程である。
遅れ破壊水素量の推定値は、遅れ破壊条件導出工程で導出した関係、すなわち、試験片の水素量、結晶粒の歪み及び残留応力の3つの因子を変数とする関数(関係)に、鋼板成形品の評価部位における残留応力及び結晶粒の歪みの値を入れることにより、算出することができる。遅れ破壊が発生する水素量は、後記する遅れ破壊性評価マップを用いることで、より視覚的に容易に推定することができる。遅れ破壊性評価マップによる推定方法については、後記する。
本実施形態に係る評価方法は、前記したように、まず様々な成形加工が施された試験片を用いて遅れ破壊が発生する際の水素量、結晶粒の歪み、残留応力を測定し、これらを対応付けた関係を導出する。そして、評価の対象となる鋼板成形品の結晶粒の歪み及び残留応力を測定し、予め求めた関係と照らし合わせることにより、当該鋼板成形品の遅れ破壊水素量(当該鋼板成形品に蓄積すると予想される水素量)を簡易に推定することができる。ここで、遅れ破壊水素量が大きければ大きいほど、その鋼材の耐遅れ破壊特性が優れていることが分かる。
前記したように、遅れ破壊水素量に対しては、鋼板成形品の組成や残留応力、加工条件(加工度)が影響を与える。従って、評価の対象となる鋼板成形品に蓄積すると予想される水素量が、上記の方法で推定した遅れ破壊水素量に達する(超える)場合には、鋼板の組成や加工条件、鋼板成形品の形状などの見直しを検討する。また、組成の異なる複数の鋼材について、遅れ破壊条件導出工程によって遅れ破壊が発生する際の水素量、結晶粒の歪み及び残留応力の対応関係を求め、それらを比較することで、鋼板成形品に使用する組成として、どの組成が好ましいかを評価することもできる。
なお、本実施形態に係る評価方法では、鋼板成形品に蓄積する水素量を予測することが困難な場合は、前記した成形品結晶粒歪み測定工程及び遅れ破壊水素量推定工程の代わりに、成形品水素量測定工程及び遅れ破壊結晶粒歪み推定工程を行なうことができる。ここで、成形品水素量測定工程は、試験片と同じ水素量測定手段により実際の鋼板成形品に含有される水素量を実測する工程である。また、遅れ破壊結晶粒歪み推定工程は、遅れ破壊条件導出工程で導出した関係を用いて、成形品水素量測定工程で測定した鋼板成形品の水素量または、それに加えて、成形品残留応力測定工程で測定した鋼板成形品の残留応力に対応した結晶粒の歪みを求め、遅れ破壊を発生させる結晶粒の歪みを推定する工程である。
(耐遅れ破壊性評価マップの作成)
本実施形態に係る評価方法では、各工程で求めた値、関係を元に、耐遅れ破壊性評価マップを作成することもできる。耐遅れ破壊性評価マップを作成することにより、耐遅れ破壊性をより視覚的に評価することができる。
耐遅れ破壊性評価マップは、結晶粒の歪み、残留応力、水素量をそれぞれX軸、Y軸、Z軸とする3次元グラフを用いて作成する。以下では、3次元グラフを用いた耐遅れ破壊性評価マップについて、簡単に説明する。
[試験片中の水素量、結晶粒の歪み、残留応力のプロット及びマップ化]
まず、図5(a)に示すように、試験片測定工程で測定した遅れ破壊が発生する際における試験片中の水素量、結晶粒の歪み及び残留応力を3次元グラフに▲でプロットし、各点を結び、図に濃い色で示された遅れ破壊発生境界領域8を作成する。ここで、遅れ破壊発生境界領域8とは、遅れ破壊が発生する条件を視覚的に示したものであり、鋼板成形品中の水素量がこの領域内にあるか、あるいは、この領域よりZ軸方向における上方にあれば(水素量が多ければ)、遅れ破壊が発生すると考えることができる。なお、図5(a)では測定した試験片を9個とし、9点を▲でプロットしているが、より多くの測定値をプロットしても構わない。
次に、図5(b)に示すように、遅れ破壊発生境界領域8の外側に、図に薄い色で示した遅れ破壊推定境界領域9を作成する。ここで、遅れ破壊推定境界領域9とは、第2、第3工程等で測定した試験片中の水素量、結晶粒の歪み、残留応力から求めた関数を元に、遅れ破壊が発生すると推定される条件を視覚的に示したものであり、鋼板成形品中の水素量がこの領域内にあるか、あるいは、この領域よりZ軸方向における上方にあれば(水素量が多ければ)、遅れ破壊が発生すると推定することができる。
このように、遅れ破壊推定境界領域9は、同じ関数を元にして遅れ破壊発生境界領域8を拡張することにより形成する。また、好ましくは、遅れ破壊発生境界領域8を作成するために使用したプロット点と同じ結晶粒の歪みを有し、かつ、残留応力を変化させたサンプルをさらに用意して遅れ破壊水素量を測定して同様にプロットした後、最小自乗法によるフィッティングを行って、遅れ破壊推定境界領域9を作成する。
[鋼板成形品中の水素量、結晶粒の歪み、残留応力のプロット]
次に、図5(c)に示すように、成形品測定工程で測定した鋼板成形品中の評価部位における結晶粒の歪み及び残留応力、ならびに、鋼板成形品に蓄積することが予想される水素量に対応する点を3次元グラフにプロットする。ここで、○のプロット点は、鋼板成形品の測定値が、遅れ破壊発生境界領域8及び遅れ破壊推定境界領域9の内部に含まれず、かつ、これらの領域のZ軸方向における下方に位置することを示している。すなわち、遅れ破壊が発生しない鋼板成形品の測定値を示している。なお、○のプロット点は、図上において遅れ破壊発生境界領域8または遅れ破壊推定境界領域9に含まれるように見える場合であっても、実際にはこれらの領域の下に位置している。
また、×のプロット点は、鋼板成形品の測定値は、遅れ破壊発生境界領域8または遅れ破壊推定境界領域9の内部に含まれるか、これらの領域のZ軸方向における上方に位置することを示している。すなわち、遅れ破壊が発生すると推定される鋼板成形品の測定値を示している。なお、×のプロット点は、図上において遅れ破壊発生境界領域8または遅れ破壊推定境界領域9に含まれないように見える場合であっても、実際にはこれらの領域の内部に位置している。
図5(c)において、測定値a,bは、遅れ破壊発生境界領域8及び遅れ破壊推定境界領域9のZ軸方向における下方にプロットされている。従って、測定値a,bに対応する鋼板成形品の加工部位は、遅れ破壊が生じないと推定される。また、測定値cは、遅れ破壊発生境界領域8内にプロットされ、測定値dは、遅れ破壊推定境界領域9内にプロットされ、測定値e,fは、遅れ破壊発生境界領域8及び遅れ破壊推定境界領域9のZ軸方向における上方にプロットされている。従って、測定値c,d,e,fに対応する鋼板成形品の加工部位は、遅れ破壊が生じると推定することができる。
耐遅れ破壊性評価マップは、遅れ破壊が発生するための条件を視覚的に表したものであるため、実際の鋼板成形品の加工部位における結晶粒の歪みを測定し、遅れ破壊発生境界領域8及び遅れ破壊推定境界領域9に照らし合わせることで、その加工部位に遅れ破壊を発生させるための遅れ破壊水素量を推定することができる。あるいは、実際の鋼板成形品の加工部位における水素量を測定し、遅れ破壊発生境界領域8及び遅れ破壊推定境界領域9に照らし合わせることで、その加工部位に遅れ破壊を発生させるための結晶粒の歪みを推定することができる。
なお、本実施形態では、好ましい実施の形態として、遅れ破壊条件導出工程おいて、遅れ破壊が発生する水素量、結晶粒の歪み及び残留応力の3つの要因の対応関係を求めているが、本発明はこれに限定されない。例えば、試験片測定工程において、鋼板成形品の評価部位に付与される残留応力と同じ残留応力を各試験片に付与し、遅れ破壊が発生した時点での試験片の水素量及び結晶粒の歪みを測定する。そして、遅れ破壊条件導出工程おいて、遅れ破壊が発生する水素量及び結晶粒の歪みの2つの因子の対応関係を求めることができる。
この変形例の場合、遅れ破壊条件導出工程によって得られる関数は、水素量及び結晶粒の歪みを変数とするものとなる。また、耐遅れ破壊性評価マップは、水素量及び結晶粒の歪みをそれぞれ軸とする2次元のものであり、境界条件が面ではなく線によって規定されることになる。そして、遅れ破壊水素量推定工程では、遅れ破壊条件導出工程で導出した関係、すなわち水素量及び結晶粒の歪みを変数とする関数に、鋼板成形品の評価部位の組織内における結晶粒の歪みの値を入れることにより、遅れ破壊水素量の推定値を算出する。なお、試験片に付与される残留応力は、鋼板成形品の評価部位に付与される残留応力と必ずしも完全に一致させる必要はなく、評価結果に悪影響を及ぼさない程度の差異は許容される。
また、本実施形態では、試験片水素導入工程、試験片測定工程、遅れ破壊条件導出工程を実際に行うことによって、遅れ破壊が発生する際の水素量、結晶粒の歪み及び残留応力の対応関係を求めたが、本発明はこれに限定されず、各種の文献から上記の対応関係を求めてもよい。さらに、本実施形態では、耐遅れ破壊性評価マップを作成して耐遅れ破壊性の評価を行なったが、耐遅れ破壊性評価マップは遅れ破壊の有無を視覚的に容易に把握するために用いるものであるため、耐遅れ破壊性評価マップを用いずに、耐遅れ破壊性を評価することもできる。なお、これらの変形例は、以下に示す第2の実施形態についても同様に適用することができる。
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態に係る評価方法について説明する。本実施形態に係る評価方法は、図1のステップS1〜S4については前記した第1の実施形態と同じである。従って、ステップS4以降について説明する。
本実施形態では、ステップS4の遅れ破壊条件導出工程によって、遅れ破壊が発生する際の水素量、結晶粒の歪み及び残留応力の対応関係を求めた後、鋼板成形品に対する蓄積が許容される水素量に基づいて、限界加工歪みを求める(ステップS5’(図示せず))。具体的には、水素量、結晶粒の歪み及び残留応力を変数とする関数に、鋼板成形品の評価部位に対する蓄積が許容される水素量の値を代入して、結晶粒の歪みを算出することにより、限界加工歪みの推定値を得ることができる。
ここで、結晶粒の歪みを示す指標が加工量に応じて増加する性質のものである場合、限界加工歪みの推定値が大きければ大きいほど、その鋼材の耐遅れ破壊特性が優れていることが分かる。また、限界加工歪みに対しては、鋼板成形品の組成や残留応力が影響を与える。従って、実際の鋼板成形品に適用される加工量に対応する結晶粒の歪みが、上記の方法で推定した限界加工歪みに達する(超える)場合には、鋼板の組成や加工条件、鋼板成形品の形状の見直しを検討する。
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例によって制限されず、本発明の趣旨に適合しうる範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
(供試材)
本実施例で用いる試験片及び鋼板成形品を構成する鋼板としては、表1に示す1180〜1470MPa級の強度レベルを有する3種類の鋼板(A〜C鋼)を用いた。なお3種の鋼板は、従来公知の方法を用いて製造した。
(試験片の作成)
A〜C鋼をプレス加工した鋼板成形品(以下、プレス成形品という)において、加工によって鋼板が受ける材料組織の変化を模擬するため、前記した図2(a),(b),(d)に示す試験片を作成した。すなわち、A〜C鋼ごとに(a)深絞り加工試験片、(b)エリクセン試験片、(d)U曲げ試験片、の3種類を作成した。ここで、後記する比較例1では、従来の評価方法(曲げ半径に着目した評価方法)との比較のために、(d)の試験片のみを使用した。一方、後記する実施例1〜4では、本発明に係る評価方法の効果を示すために、(a),(b),(d)の3種類の試験片を使用した。各試験片の詳細な作成方法は以下の通りである。
(a)深絞り加工試験片については、表1に記載の鋼板A〜Cからφ90の試験片を切り出し、ダイスとしわ抑え(しわ抑え圧:10kN)で当該試験片を拘束し、ポンチ肩:R10、ポンチ径:φ60/φ45、成形速度:5mm/minで、絞り比が1.5及び2となるように、2種類の試験片を作成した(計6種)。なお、潤滑剤としてプレス油を用いた。
(b)エリクセン試験片については、表1に記載の鋼板A〜Cから90mm×90mmの試験片を切り出し、ダイスとしわ抑え(しわ抑え圧:10kN)で当該試験片を拘束し、穴径:27mmのダイス穴内に、球径:20mmのポンチを5mm/minの速度で5mm押し込むことによって作成した(計3種)。なお、潤滑剤としてプレス油を用いた。
(d)U曲げ試験片は、1180MPaを超える高強度鋼板を用いた数種類のプレス成形品の調査結果から、曲げ半径を5mm、10mm、15mmの3通りとし、それぞれの曲げ加工部への付加応力(プレス成形品における残留応力を模擬)は、500MPa、1000MPa、1500MPaの3通りとした。そして、曲げ半径5mm−付加応力1500MPa、曲げ半径10mm−付加応力1000MPa、曲げ半径15mm−付加応力500MPaの条件で、表1に記載の鋼板A〜Cを用いて3種類のU曲げ試験片を作成した(計9種)。
(d)U曲げ試験片については、表1に記載の鋼板A〜Cから、圧延方向を長手として30mm×150mmの試験片を切り出した。そして、切り出した試験片の長手方向の両端部からそれぞれ45mmの位置にφ12の穴を加工し、前記した3通りの曲げ半径で曲げ加工を行なった後、φ12の穴にボルトを通し、ナットによる締め付けにより曲げ加工部に前記した3通りの応力を付加した。ここで、曲げ加工部への付加応力値は、歪みゲージの歪量とヤング率から計算した値とした。
(試験片に対する水素の導入)
各試験片に対する水素の導入法については、試験時間及び鋼材中水素量を容易に制御することができるという観点から、陰極チャージを用いた。陰極チャージの条件については、試験溶液を0.5M−HSO+0.01M−KSCNとし、0.1mA/mmの電流密度で試験片に割れ(遅れ破壊)が発生するまで電流を印加した。
(試験片中の水素量の測定)
割れ部分を含むように試験片を切り出した後、大気圧イオン化質量分析計(API−MS)で鋼材中の水素量を測定した。大気圧イオン化質量分析計の昇温速度は、12℃/minとした。
(試験片の残留応力及び結晶粒の歪みの測定)
(a),(b),(d)の各試験片について、XRDによって残留応力を測定した。また、割れ(遅れ破壊)が発生した各試験片に対して、EBSPによる結晶粒の歪みの組織解析(CI≦0.1となる面積率の評価、IQ、KAM)及び、XRDによる結晶粒の歪みの測定を行なった。なお、(d)U曲げ試験片については、加工後組織の解析例として、前記したように曲げ半径5mm−付加応力1500MPa、曲げ半径10mm−付加応力1000MPa、曲げ半径15mm−付加応力500MPaの3種類について解析を実施した。
EBSPによる結晶粒の歪みの測定は、「日本電子社製 電界放出型走査電子顕微鏡 JSM−6500F」で行ない、解析ソフトウェアは、「EDAX−TSL社製 OIM」を用いた。また、測定に際しては、図4(a)、(b)に示す測定部位まで、電界研磨による研磨を行なった。
XRDによる結晶粒の歪みの測定は、「理学電気製 X線回折装置 RAD−RU330」を用いて行なった。測定は、θ/2θ走査連続測定とし、ターゲットにCo、単色化にモノクロメーター(Kα線)を使用し、走査速度:2°/min、サンプリング幅0.02°、測定角度(2θ):30〜130°で行なった。測定部位としては、深絞り加工試験片は、図2(a)に示すように縦壁部先端から10mm下の部分における鋼板表層部10、エリクセン試験片は、同図(b)に示すように球形状頭頂部20、伸びフランジ試験片は、同図(c)に示すように打ち抜き加工孔近傍30、U曲げ試験片は、同図(d)に示すように曲げ加工の頭頂部40とした。
表2に、試験片の水素量、残留応力、結晶粒の歪み(CI≦0.1となる面積率、IQ、KAM)、XRD歪みをそれぞれ示す。
(プレス成形品の作成)
次に、従来公知の製造方法を用いて、表1に記載の鋼板A〜Cから図6に示すような実際のプレス成形品101,102,103を作成した。図6(a)のプレス成形品101は、表1のA鋼を形状イにプレス加工したものである。また、図6(b)のプレス成形品102は、表1のB鋼を形状ロにプレス加工したものである。また、図6(c)のプレス成形品103は、表1のC鋼を形状ハにプレス加工したものである。
プレス成形品101,102,103は、代表的なプレス加工が施された7つの部位(破線○で囲った部位1〜7)を選定し、後記する水素量、結晶粒の歪み、残留応力の測定部位とした。ここで、図6に示す部位1,2は曲げ加工部、部位3,4は絞り加工部、部位5は打抜き加工部、部位6は縦壁部、部位7は平坦部である。
(プレス成形品に対する水素の導入、水素量の測定及び割れの有無の確認)
プレス成形品101,102,103は、その大きさから陰極チャージによる水素導入が困難なため、3%HCl溶液に100時間浸漬し、鋼材組織内に水素を導入した。そして、割れの有無を目視にて確認し、割れが確認された時点でプレス成形品101,102,103を3%HCl溶液から取り出し、大気圧イオン化質量分析計(API−MS)で部位1〜7中の水素量を測定した。その際の大気圧イオン化質量分析計の昇温速度は、12℃/minとした。
(プレス成形品の残留応力及び曲げ半径の測定)
プレス成形品101,102,103の部位1〜7について、XRDによって残留応力を測定した。また、従来技術と本願発明との比較のために、従来公知の方法により、プレス成形品101,102,103の部位1〜7の曲げ半径を測定した。表3の「測定結果」の欄に、プレス成形品101,102,103の部位1〜7の水素量、割れの有無、残留応力、曲げ半径を測定した実測値を示す。なお、「割れの有無」の項目では、○は当該部位に割れが生じていないことを、×は当該部位に割れが生じていることを示している。
表3に示すように、プレス成形品101,102,103の部位1〜7に含有される水素量は、0.49〜0.66ppmの範囲内であった。また、プレス成形品101(鋼材A−形状イ)では、部位6(縦壁部)に割れが発生した。プレス成形品102(鋼材B−形状ロ)では、部位7(平坦部)以外の全ての部位に割れが発生した。プレス成形品103(鋼材C−形状ハ)では、部位3(絞り加工部)、部位6(縦壁部)に割れが発生した。
プレス成形品101,102,103の部位1〜7の残留応力は、300〜1200MPaの範囲内であった。また、プレス成形品101,102,103の部位1〜7の曲げ半径は、7〜20mmの範囲内であった。但し、曲げ加工を行なった部位1,2、絞り加工を行なった部位3以外の部位4〜7については、プレス成形品の形状の都合上、曲げ半径の測定ができなかった。
(プレス成形品の結晶粒の歪みの測定)
プレス成形品101,102,103の部位1〜7について、EBSPによる結晶粒の歪みの組織解析(CI≦0.1となる面積率の評価、IQ、KAM)及び、XRDによる結晶粒の歪みの測定を行なった。ここで、測定機器、測定方法、測定条件は、前記した試験片の場合と同様である。表3に測定結果を示す。
(耐遅れ破壊性評価マップの作成)
前記測定結果に基づいて、耐遅れ破壊性評価マップを作成した。具体的には、各試験片中の水素量、曲げ半径または結晶粒の歪み、残留応力を3次元グラフにプロットし、マトリクス状に各点を結び、遅れ破壊発生境界領域8を作成した。また、試験片中の水素量、曲げ半径または結晶粒の歪み、残留応力から求めた関数を元に、遅れ破壊発生境界領域8の外側に、遅れ破壊推定境界領域9を作成した。そして、鋼板成形品中の水素量、曲げ半径または結晶粒の歪み、残留応力を3次元グラフにプロットした。
耐遅れ破壊性評価マップの作成結果を図7〜11に示す。ここで、本実施例における耐遅れ破壊性評価マップは、比較例1(「曲げ半径」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法)、実施例1(「CI≦0.1となる面積率」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法)、実施例2(「IQ」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法)、実施例3(「KAM」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法)実施例4(「XRD歪み」耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法)の5通り作成した。なお、比較例1は、従来の「曲げ半径」を指標に用いた評価方法であり、実施例1〜4は、本発明に係る評価方法である。
図7〜11において、▲でプロットされたものは各試験片の測定値、○あるいは×でプロットされたものは、プレス成形品101,102,103の部位1〜7の測定値である。そして、○は、割れが生じないと推定される部位の測定値を、×は、割れが生じると推定される部位の測定値を示している。
○のプロット点は、図上において遅れ破壊発生境界領域8または遅れ破壊推定境界領域9に含まれるように見える場合であっても、実際にはこれらの領域の下に位置しており、×のプロット点は、図上において遅れ破壊発生境界領域8または遅れ破壊推定境界領域9に含まれないように見える場合であっても、実際にはこれらの領域の内部に位置している。なお、図7〜11では図示を省略したが、図5と同様の軸をX軸、Y軸、Z軸とする。以下、個々の評価結果について説明する。
(比較例1)
図7は、従来の評価方法において、「曲げ半径」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップである。図7(a)、(b)、(c)において、X軸は曲げ半径、Y軸は残留応力、Z軸は水素量(拡散性水素量)である。ここで、図7(a)、(b)、(c)を参照すると、いずれのマップにおいても、○及び×の測定点の合計が、6つ以下であることが分かる。ここで、マップにおける○及び×の測定点は、プレス成形品101,102,103の部位1〜7に対応している。従って、「曲げ半径」を耐遅れ破壊性の指標として用いると、プレス成形品101,102,103の部位1〜7の一部の部位について、耐遅れ破壊性を適切に評価できないことがわかる。
表3の「評価結果」の欄の「比較例1」の列に、比較例1に係る評価方法によって推定したプレス成形品101,102,103の割れの評価結果を示す。ここで、表3の「測定結果」の欄に示した「割れの有無」は、プレス成形品101,102,103に実際に割れが生じているかどうかを示したものである。従って、仮に耐遅れ破壊性の評価が正確であれば、表3の「測定結果」の欄と「評価結果」の欄は、完全に一致していなければならない。なお、表3において、測定結果と評価結果が一致しない箇所は太枠で示している。
表3を参照すると、プレス成形品101,102,103のいずれにおいても、部位5(打抜き部)、部位6(縦壁部)、部位7(平坦部)の耐遅れ破壊性を評価することができなかった。すなわち、部位5と部位6は、加工に伴う曲げ半径がいずれも非常に大きく、曲げ加工が加えられていないと判定される形状であったため、前記した図7のマップにプロットできなかった。また、部位7は、曲げ加工自体が加えられていないため、前記した図7のマップにプロットできなかった。さらに、C鋼−形状ハ(プレス成形品103)の部位3については、実際には割れが生じているものの、割れなし「○」と誤って評価されている。従って、「曲げ半径」を耐遅れ破壊性の指標として用いると、プレス成形品101,102,103の部位1〜7の一部の部位について、耐遅れ破壊性を評価できないことがわかる。
(実施例1)
図8は、本発明に係る評価方法において、「CI≦0.1となる面積率」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップである。図8(a)、(b)、(c)において、X軸はCI≦0.1となる面積率、Y軸は残留応力、Z軸は水素量(拡散性水素量)である。ここで、図8(a)、(b)、(c)を参照すると、いずれのマップにおいても、○及び×の測定点の合計が7つであることが分かる。従って、「CI≦0.1となる面積率」を耐遅れ破壊性の指標に用いることで、全ての部位の耐遅れ破壊性を評価できることが分かる。また、表3の「評価結果」の欄の「実施例1」の列を参照すると、いずれの評価結果においても、表3の「測定結果」と同様であることが分かる。従って、「CI≦0.1となる面積率」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法が、正確であることが分かる。
(実施例2)
図9は、本発明に係る評価方法において、「IQ」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップである。図9(a)、(b)、(c)において、X軸はIQ、Y軸は残留応力、Z軸は水素量(拡散性水素量)である。ここで、図9(a)、(b)、(c)を参照すると、いずれのマップにおいても、○及び×の測定点の合計が7つであることが分かる。従って、「IQ」を耐遅れ破壊性の指標に用いることで、全ての部位の耐遅れ破壊性を評価できることが分かる。また、表3の「評価結果」の欄の「実施例2」の列を参照すると、いずれの評価結果においても、表3の「測定結果」と同様であることが分かる。従って、「IQ」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法が、正確であることが分かる。
(実施例3)
図10は、本発明に係る評価方法において、「KAM」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップである。図10(a)、(b)、(c)において、X軸はKAM、Y軸は残留応力、Z軸は水素量(拡散性水素量)である。ここで、図10(a)、(b)、(c)を参照すると、いずれのマップにおいても、○及び×の測定点の合計が7つであることが分かる。従って、「KAM」を耐遅れ破壊性の指標に用いることで、全ての部位の耐遅れ破壊性を評価できることが分かる。また、表3の「評価結果」の欄の「実施例3」の列を参照すると、いずれの評価結果においても、表3の「測定結果」と同様であることが分かる。従って、「KAM」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法が、正確であることが分かる。
(実施例4)
図11は、本発明に係る評価方法において、「XRD歪み(X線回折による結晶粒の歪み)」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価結果に基づいて作成した耐遅れ破壊性評価マップである。図11(a)、(b)、(c)において、X軸はXRD歪み、Y軸は残留応力、Z軸は水素量(拡散性水素量)である。ここで、図11(a)、(b)、(c)を参照すると、いずれのマップにおいても、○及び×の測定点の合計が7つであることが分かる。従って、「XRD歪み」を耐遅れ破壊性の指標に用いることで、全ての部位の耐遅れ破壊性を評価できることが分かる。また、表3の「評価結果」の欄の「実施例4」の列を参照すると、いずれの評価結果においても、表3の「測定結果」と同様であることが分かる。従って、「XRD歪み」を耐遅れ破壊性の指標に用いた評価方法が、正確であることが分かる。
このように、本発明に係る鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法によれば、従来の耐遅れ破壊性の評価指標である「曲げ半径」の代わりに「結晶粒の歪み」評価指標とすることにより、「結晶粒の歪み−残留応力−水素量」の関係において、鋼板成形品の耐遅れ破壊性をより正確に評価することができる。すなわち、鋼板成形品の結晶粒の歪みを測定することで、加工に伴う結晶粒の歪み、転位、欠陥の増加、結晶粒・組織形態の崩壊等を加味したより緻密な耐遅れ破壊性の評価を行なうことができる。
1 部位
2 部位
3 部位
4 部位
5 部位
6 部位
7 部位
8 遅れ破壊発生境界領域
9 遅れ破壊推定境界領域
10 鋼板表層部
20 球形状頭頂部
30 打ち抜き加工孔近傍
40 頭頂部
100 試験片
101 プレス成形品(A鋼−形状イ)
102 プレス成形品(B鋼−形状ロ)
103 プレス成形品(C鋼−形状ハ)
A 歪み
B ボイド
C セル壁
a 測定値
b 測定値
c 測定値
d 測定値
e 測定値
f 測定値
S1 試験片水素導入工程
S2 試験片水素量測定工程
S3 試験片結晶粒歪み測定工程
S4 遅れ破壊条件導出工程
S5 成形品結晶粒歪み測定工程
S6 遅れ破壊水素量推定工程

Claims (10)

  1. 鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法であって、
    遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、を対応付けた関係を用いて、前記鋼板成形品の評価部位の組織内における結晶粒の歪みに対応した水素量を求めることで、前記評価部位に前記遅れ破壊を発生させる水素量を推定する遅れ破壊水素量推定工程を行なうことを特徴とする鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  2. 鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法であって、
    遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、を対応付けた関係を用いて、前記鋼板成形品の評価部位に含有される水素量に対応した結晶粒の歪みを求めることで、前記評価部位に前記遅れ破壊を発生させる結晶粒の歪みを推定する遅れ破壊結晶粒歪み推定工程を行なうことを特徴とする鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  3. 前記遅れ破壊水素量推定工程において、
    前記遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の残留応力と、を対応付けた関係を用いて、前記鋼板成形品の評価部位の組織内における結晶粒の歪み及び当該評価部位の残留応力に対応した水素量を求めることを特徴とする請求項1に記載の鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  4. 前記遅れ破壊結晶粒歪み推定工程において、
    前記遅れ破壊が発生する際の鋼材に含有される水素量と、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の組織内における結晶粒の歪みと、前記遅れ破壊が発生する際の鋼材の残留応力と、を対応付けた関係を用いて、前記鋼板成形品の評価部位に含有される水素量及び当該評価部位の残留応力に対応した結晶粒の歪みを求めることを特徴とする請求項2に記載の鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  5. 前記遅れ破壊水素量推定工程または前記遅れ破壊結晶粒歪み推定工程の前に、
    成形加工を施した試験片を作成し、当該試験片に遅れ破壊が発生するまで、その内部に水素を導入する試験片水素導入工程と、
    前記遅れ破壊が発生する際における前記試験片の水素量及び結晶粒の歪みを測定する試験片測定工程と、
    前記試験片測定工程で測定した前記試験片の水素量及び結晶粒の歪みを対応付けて、前記関係を導出する遅れ破壊条件導出工程と、
    を行なうことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  6. 前記遅れ破壊水素量推定工程または前記遅れ破壊結晶粒歪み推定工程の前に、
    成形加工を施した試験片を作成し、当該試験片に残留応力を付与するとともに、当該試験片に遅れ破壊が発生するまで、その内部に水素を導入する試験片水素導入工程と、
    前記遅れ破壊が発生する際における前記試験片の水素量及び結晶粒の歪みを測定する試験片測定工程と、
    前記試験片測定工程で測定した前記試験片の水素量及び結晶粒の歪み並びに前記試験片に付与された残留応力を対応付けて、前記関係を導出する遅れ破壊条件導出工程と
    を行なうことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  7. 前記結晶粒の歪みは、EBSPにおける方位決定のCI(Confidence Index)が0.1以下となる面積率によって表されたものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  8. 前記結晶粒の歪みは、EBSPにおける方位決定のIQ(Image Quality)によって表されたものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  9. 前記結晶粒の歪みは、EBSPにおける方位決定のKAM(Kernel Average Misorientation)によって表されたものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
  10. 前記結晶粒の歪みは、XRD(X-ray diffraction)によって測定される歪みによって表されたものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の鋼板成形品の耐遅れ破壊性の評価方法。
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