JP2005146321A - 微細組織を有する鋼材およびその製造方法 - Google Patents

微細組織を有する鋼材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 製造コストを増加させる合金添加量を低減しつつ微細結晶粒を形成させ、高強度化に加え、一般に鋼材が使用されている自動車、容器、タンク、建築物、造船、土木、レール、電気機器、鋼管等のあらゆる用途で、用途に応じて必要となる、高延性、高靭性、耐脆化割れ、耐磨耗、高疲労、良好な表面処理性との両立を図った高強度鋼材を製造する。
【解決手段】 Cr、Niの含有を必須とせず、Nを0.05〜4.0%含有させ、Mn
を10.0%以下、Si、Alを4.0%以下に制御し、オーステナイト相の存在率が体積率で70%以上となる温度で熱処理を施し、その後冷却することで金属組織中のフェライト相の結晶粒径を3.0μm以下にする。組織の微細化効果をより顕著にするために、加熱温度・時間、加熱・冷却速度等の熱履歴に加え、熱処理回数、熱処理中での歪付与等を行う。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車部材、建築部材、電気機器部品、容器、タンクのみならず、造船、レール、厚板、棒鋼、線材、鋼管等として用いられるあらゆる鋼材およびその製造法に関し、これらの利用時に必要とされる強度、加工性、溶接性、靭性、耐磨耗性、疲労特性等に優れ、またこれらの特性を損なうことなく良好なめっきや塗装などの密着性を付与することが可能な鋼材およびその製法に関するものである。
従来、さまざまな方面で部材として用いられる鋼材においては、構造部材としての強度と部材を形成するための加工性、他の部材との接合時および接合部の強度としての溶接性、使用中の靭性、耐磨耗性、疲労強度さらには耐食性を付与するため表面処理を行う場合の塗装、またはめっきの密着性などさまざまな特性が求められる。これらの特性の向上を考える場合、これらのいくつかは相反する作用を有するため両立が困難となる場合が多い。例えば強度と加工性については、一般に材料の加工性は強度上昇に伴い劣化してしまう。
特に高強度化に関しては近年のエネルギー・環境問題への意識の高まりを背景に、高強度素材の適用による部材の軽量化・使用量抑制が指向されるようになっている。高強度化の方法には転位強化、固溶体強化、組織強化などが適用されているが、上記の様々な特性との両立の観点から組織微細化による強化が注目されている。この方法は特殊元素の多量な添加を必要としないことからリサイクルなどの観点からも広い範囲での適用拡大が期待されている。
本発明が対象とするフェライト相を主体とした鉄鋼材料における細粒化技術としては(社)日本鉄鋼協会 鉄と鋼、85巻691ページ等に開示されているが、従来の技術で実用的に到達できる結晶粒径はせいぜい数μmで、これ以上の微細化には熱間での温度と加工を厳格に制御する必要があり実用が困難である。また、析出物が破壊の起点になることから固溶体強化に比較して延性が低いことや、溶接等の熱影響により析出物が溶解、または粗大化しやすく、溶接部位の結晶粒が粗大化してしまう問題点がある。
近年、フェライト鋼で1μmより小さい結晶粒径を形成させる技術開発が産学協同で進められ(社)日本鉄鋼協会 材料とプロセス、14巻502ページや、特開2000−73034号公報、特開2000−96137号公報等に開示されているが、その手法はメカニカルミリング等により非常に高い歪を付与するものであり、工業的な実用化には困難を伴うばかりでなく、熱的には不安定で溶接を伴う用途への適用においては問題が出る可能性が高い。また微細化に伴い加工性、特に材料加工で絶対的に必要となる均一伸びが顕著に劣化することが報告されており、工業的に製造されたとしても用途が限定されることが予想される。
強度一延性のバランスが優れた高強度鋼としては、フェライト相を主体とした鋼中に残存させたオーステナイト相が加工により硬質なマルテンサイトに変態する加工誘起変態を活用した鋼が開発されている。これは高価な合金元素を含まずに、0.07〜0.4%程度のCと0.3〜2.0%程度のSiおよび0.2〜2.5%程度のMnを基本的な合金元素とし、高温二相域でオーステナイトを生成させた後、400℃程度でベイナイト変態を行うことで室温でも金属組織中にオーステナイトが残留するようにした鋼で、一般に「残留オーステナイト鋼」、「TRIP鋼」などと呼ばれている。その技術は例えば、特開平1−230715号公報や特開平1−79345号公報、特開平9−241788号公報等に開示されている。
しかしながら、これらの鋼はその特異なべイナイト変態を活用しオーステナイトを残留させているため、熱処理条件(温度、時間)を厳格に制御しないと意図する金属組織とならず、良好な強度や伸びの保証や製造時の歩留向上を妨げる原因となっている。さらに、0.3〜2.0%の多量のSi含有が必須であることから亜鉛めっき等においてはめっきの付着性が悪く、溶融めっきではめっき時の熱履歴のため好ましい金属組織が破壊される場合もあり広範な工業的利用が妨げられている。
また、高いNを含有した鋼としては特開平8−134596号公報、特開2000−129401号公報等において高Nステンレス鋼が知られている。しかし、これらはいわゆる通常のステンレス鋼であり、多量のCr、Niの含有が必須であり、高強度における加工性や靭性等の劣化を考慮した材質制御がなされたものではなく、ましてや結晶組織の超微細化による特性の向上を図ったものではない。
これらを解決する技術として本発明者は特願2003−27399号において普通鋼(低Cr、Ni鋼)をベースにこれまででは考えられないほどの多量のNを鋼中に含有させ、その後の簡単な熱処理のみにより結晶粒径が1μm以下にもなる主としてフェライト相からなる鋼に関する技術を開示している。しかし、この時点での開示技術では熱処理の温度や履歴等にあいまいな部分が残っていた。もちろんこのあいまいさは当業者であれば適当な回数の試行により、使用する鋼材成分や用途さらには必要特性に応じて開示範囲内の適当な領域に決定できる程度のものではある。
(社)日本鉄鋼協会 鉄と鋼、85巻691ページ (社)日本鉄鋼協会 材料とプロセス、14巻502ページ 特開2000−73034号公報 特開2000−96137号公報 特開平1−230715号公報 特開平1−79345号公報 特開平9−241788号公報 特開平8−134596号公報 特開2000−129401号公報 特願2003−27399号明細書(先願)
本発明は、特殊な添加元素を使用せず、より簡易かつ生産性の高い熱処理により熱的に安定な微細結晶組織を形成することで、延性をそれほど劣化させずに高強度化、高靭化、高耐磨耗化等を図り、溶接や溶融めっきなどの熱履歴を経てもその特性を失うことなく、使用条件において初期特性を維持し、めっきや塗装等の付着性が良好なため高耐食性表面処理鋼材への適用も可能な高強度鋼材およびその製造方法を提供するものである。その際に、特に熱処理における制御のあいまいさを除外し、メカニズムを含めてより正確な情報を提供することにより、使用者がより適正な熱処理方法を行い、より好ましい特性を、よ
り簡易に得られるようにすることを課題とする。
本発明者らは、上記目的を達成できる高強度鋼材を提供すべく、鋼成分と熱処理前後および熱処理中の結晶粒径の変化について非常に詳細な検討を行い、本発明を完成させたものである。その趣旨は以下のとおりである。
従来よりNはオーステナイト相を安定化させる元素として知られているが、Cr、Ni等をそれほど多量に含有しない普通鋼をベースとした場合、従来の製造法のように溶鋼段階で高濃度のNを含有させる方法では精錬が困難であり、また、鋳造時に鋼片中にガスが発生し凝固後に気泡が残存し良好な鋼材を得ることができない。このため本発明鋼が対象とするような普通鋼をベースとした高N鋼材の加工性、靭性、耐食性などを含めた広い範囲での特性は検討されておらず、未知であった。
そこで本発明者はNを、鋳造後、製品となるまでに含有させる方法を検討し、Nを多量に含有させた後、特定の熱履歴を経ることで非常に微細な結晶組織を得ることが可能で、この微細組織は熱的に非常に安定で、この組織を有する鋼材は高強度であるにもかかわらず非常に良好な加工性を示すことを見出した。この知見をもとに本発明者は特願2003−27399号を出願しているが、本発明はこの知見をもとにさらにN、Si、Mn、C、Al、P等の含有量と熱処理条件の影響を詳細に検討することで、組織の微細化がオーステナイトがフェライトに変態することで達成されることを明確にし、成分範囲、熱処理条件に関しより精緻な制御を可能とし達成されたものである。
本発明の要旨とするところは特願2003−27399号で開示されている超高N鋼に関する技術に加え、
1)熱処理での最高到達温度を完全オーステナイト化温度との兼ね合いで制御する。
2)冷却中の固溶Nによるソリュートドラッグ効果、炭化物と比較し低温で形成される窒化物によるピニング効果、さらには低温で形成し微細に分散する窒化物からの変態核生成を十分活用できるよう熱履歴を精緻に制御する。
3)複合組織としてのオーステナイトの分散状態、低温変態による体積変化に伴う歪の緩和、さらには変態終了後に微細に残存する窒化物の形態制御を考慮し熱履歴を制御することにあり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)鋼材内の特定部位または全部位について、質量%で、C:0.0001〜1.5%、Si:4.0%以下、Mn:0.01〜10.0%、P:0.0001〜0.5%、S:0.0001〜0.1%、Al:4.0%以下、N:0.05〜4.0%を含有し、室温から溶融までの温度範囲にオーステナイト相の存在比率が体積率で70%以上となる温度域が存在し、主としてフェライト相からなる結晶粒径が平均で3.0μm以下である部位を有することを特徴とする微細組織を有する鋼材。
(2)鋼材内の特定部位または全部位について、質量%で、C:0.0001〜1.5%、Si:4.0%以下、Mn:0.01〜10.0%、P:0.0001〜0.5%、S:0.0001〜0.1%、Al:4.0%以下、N:0.05〜4.0%を含有し、
3*(0.5*Mn+Ni)<8+Cr+1.5*Si+1.5*Al+10*P
<4*(0.5*Mn+Ni+2.5)であり、
主としてフェライト相からなる結晶粒径が平均で3.0μm以下である部位を有することを特徴とする微細組織を有する鋼材。
(3)更に、質量%で、Cr:20.0%以下を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の微細組織を有する鋼材。
(4)更に、質量%で、Ni:10.0%以下を含有することを特徴とする(1)乃至(3)に記載の微細組織を有する鋼材。
(5)更に、質量%で、Ti:0.2%以下、B:0.02%以下、Nb:0.2%以下の1種以上を含有することを特徴とする(1)乃至(4)に記載の微細組織を有する鋼材。
(6)N以外の元素についての鋼材内の濃度が実質的に均一であることを特徴とする(1)乃至(5)に記載の微細組織を有する鋼材。
(7)結晶粒径が平均で3.0μm以下である部位に関して、実質的にフェライト相の体積率が50%以上、オーステナイト相の体積率が20%以下であることを特徴とする(1)乃至(6)に記載の微細組織を有する鋼材。
(8)(1)乃至(7)に記載の鋼材を製造するに際し、鋼材を窒化することにより、質量%で、N含有量を0.03%以上増加させ0.05%以上とすることを特徴とする微細組織を有する鋼材の製造方法。
(9)アンモニアを0.5%以上含む雰囲気中に鋼材温度550℃以上で1秒以上保持することにより、質量%で、N含有量を0.03%以上増加させ0.05%以上のNを含有させることを特徴とする(8)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(10)アンモニアを0.5%以上含む550〜800℃の雰囲気中に1秒以上保持することにより、質量%で、N含有量を0.03%以上増加させ0.05%以上のNを含有させることを特徴とする(9)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(11)質量%で、N含有量が0.05%以上であり、厚さ、幅、長さのいずれかが最終製品より小さな部材2つ以上を主として固体状態で合体させる工程を経て最終製品とすることを特徴とする(8)乃至(10)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(12)質量%で、N含有量が0.05%以上であり、厚さ、幅、長さのいずれかが最終製品より小さな部材2つ以上を主として固体状態で合体させる工程として熱間での加工を適用することを特徴とする(11)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(13)質量%で、N含有量が0.05%以上であり、厚さ、幅、長さのいずれかが最終製品より小さな部材2つ以上を主として固体状態で合体させる熱間加工が温度700℃以上、鋼材の特定方向に付与される平均的な歪が対数歪で0.5以上であることを特徴とする(12)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(14)質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、オーステナイト相の存在率が体積率で70%以上となる温度で熱処理を施し、その後冷却することにより、結晶粒径を3.0μm以下とすることを特徴とする(8)乃至(13)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(15)質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、Tmax−50℃以上で熱処理を施し、その後冷却することで結晶粒径を3.0μm以下とすることを特徴とする(8)乃至(14)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
ここに、Tmax:鋼材が完全オーステナイト化する場合は完全オーステナイト化温度、そうでない場合はオーステナイト相の存在率が最大となる温度。
(16)質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、オーステナイト相の存在率が体積率で70%以上となる温度で熱処理を施すに際し、加熱速度を2℃/秒以上、最高到達温度をオーステナイト相の存在率が最大となる温度+200℃以下、冷却速度を2℃/秒以上とすることにより、結晶粒径を3.0μm以下とすることを特徴とする(14)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(17)質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、(14)乃(16)に記載のフェライト−オーステナイト変態を生ずる熱処理を複数回施すことを特徴とする微細組織を有する鋼材の製造方法。
(18)質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、(14)乃至(17)に記載の熱処理の途中で加工を行うことを特徴とする微細組織を有する鋼材の製造方法。
(19)前記熱処理の途中における加工が200℃以上、Tmax+200℃以下の温度域で行われ、かつ付与される特定方向の歪が対数歪で0.1以上であることを特徴とする(18)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(20)質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、50〜550℃の温度域で10秒以上滞在させ、その後550℃を超える温度に保持しないことを特徴とする(8)乃至(19)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
(21)質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、650℃以上の温度から冷却速度10℃/秒以上で400℃以下まで冷却し、さらに50〜550℃の温度域で10秒以上滞在させ、その後550℃を超える温度に保持しないことを特徴とする(20)に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
以上述べたように、本発明に示したごとくCr、Ni等の合金元素を多量には含有しない普通鋼をべ−スとして、従来にない程度までN濃度を高くするとともに高温でのオーステナイト相の生成量が好ましくなるように成分を制御した鋼材に適切な熱処理を施し、主としてフェライト相からなる結晶組織を超微細化することで、高強度化に加え、一般に鋼材が使用されている自動車、容器、タンク、建築物、造船、土木、レール、電気機器、鋼管等のあらゆる用途で、用途に応じて必要となる、高延性、高靭性、耐脆化割れ、耐磨耗、高疲労、良好な表面処理性との両立を図った高強度鋼材を得ることが可能となる。
本発明における鋼成分の限定理由を以下に詳細に説明する。
なお、各成分の含有率(%)は質量%を示す。
Nは、本発明の最も重要な元素である。本発明の特徴である微細組織を得るには従来鋼以上に多量のNが必要である。そのメカニズムは、Nはオーステナイト生成元素であり、同様な性質を有すると考えられ一般に広く活用されているCに比べ鋼への固溶量が高いことに起因している。すなわち、後述のMnの影響も相まって、オーステナイト相が存在する温度域からの冷却過程においてフェライトーオーステナイトの変態がより低温化するとともに変態過程において、多量に存在する固溶Nが変態前のオーステナイト相の粒成長を抑制すると共に変態後のフェライト相の粒成長をも抑制する効果を発現するため必須の元
素である。さらに固溶量が多いことから冷却過程での窒化物形成がCと比較し低温で起きるため形成される窒化物は炭化物より微細なものとなりピニング効果によりフェライト相の粒成長を抑制する。また、オーステナイト相中に存在する微細な窒化物の界面近傍はNの欠乏領域を形成しフェライト変態の核となることも考えられ変態後のフェライト組織の微細化に寄与する効果も有する。N量が0.05%未満ではその効果が見出せないか、効果を得るために高濃度の合金添加または厳格な熱処理が必要となるので下限を0.05%とする。通常、自動車部品等に用いられるいわゆる加工用普通鋼をべ−スとする場合においては0.3%程度は必要となる。一方、過剰なN含有は鋼中に多量のFe窒化物を形成
し易くなり、延性を損ねる場合があるので上限を4.0%とする。通常、自動車部品等に用いられるいわゆる加工用普通鋼をベースとし、通常の1分程度の連続焼鈍ラインを用いてN含有量を高める場合は、大体2%程度まで含有量を高めることができる。下限については他の元素、特に変態温度に強く関係するMn、Si、Al、P、Crとの兼ね合いはあるが、好ましくは0.085%、さらに好ましくは0.10%、さらに好ましくは0.15%さらに好ましくは0.20%、さらに好ましくは0.25%、さらに好ましくは0.30%、さらに好ましくは0.35%とする。上限については好ましくは2.0%、さらに好ましくは1.0%さらに好ましくは0.80%、さらに好ましくは0.60%とする。
Mnも本発明では重要な元素で、Nと同様にオーステナイト安定化元素であることから前述の変態挙動に影響を及ぼし超微細粒生成に寄与している。Nに加え、Mn量を増すことにより有害な過剰な窒化物の形成を抑制しつつ変態温度を効果的に低下させることが可能となる。N量が十分に高く、またC、Ni等の他のオーステナイト安定化元素の効果を活用できる場合にはMn量はそれほど高くする必要がない場合もあるが、Nを高めるためのコストや合金コストを考えるとMnが一番有効な元素であり、鉄鋼原料等から不可避的に含有されることもあり、あえてコストをかけてまで低減する必要はない。下限を0.01%とする。Mn濃度が0.6%未満ではその効果が小さいかあるいは所定の効果を得るために高濃度の合金添加または厳格な熱処理が必要となる。このため0.8%以上が好ましく、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは1.2%、さらに好ましくは1.5%、さらに好ましくは1.9%、さらに好ましくは2.2%、さらに好ましくは2.5%とする。通常、自動車部品等に用いられるいわゆる加工用普通鋼をベースとする場合においては1.7%程度は必要となる。上限は特に限定する必要はないが、過剰な添加はコストの上昇を招くばかりでなく鋳造の問題、表面欠陥または表面処理上の問題が出る傾向があり、またオーステナイトを過剰に安定化させ最終的に常温まで多量のオーステナイト相を残存させ主としてフェライト相からなる結晶粒の微細化効果を損ねる場合もあるため10%を上限とする。より好ましくは6.0%、さらに好ましくは5.0%、さらに好ましくは4.0%、さらに好ましくは3.5%である。
Siは、一般に固溶体強化による高強度化のために添加される元素であるが、冷間圧延を経て製造する場合には冷間圧延性を劣化させるため、過剰な添加は通常の工程での鋼材の製造が困難となる。また本発明鋼のような高N含有鋼では過剰に添加すると窒化物を形成し、延性を低下させるとともにNによる組織微細化効果を低減させるため、過剰な添加は好ましくない。また、添加量が多くなると変態温度が上昇し組織微細化のために高温での熱処理が必要となるばかりでなく、高siを含有する電磁鋼板のように完全非変態となると本発明における変態による微細化効果を得ることが困難となる。一方、適当な量であれば延性をそれほど劣化させず高強度化を達成するには有効な元素であり、0.001〜4.0%とする。窒化物の形成を抑制するには3.0%以下、好ましくは2.0%以下とする。めっき性や表面性状も考慮すると1.0%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
Alは、一般に脱酸材として用いられるが、Si以上に強い窒化物形成元素であるため、また変態に関しても上述のSiと同様に過剰な添加は好ましくない。また、Alを多量に含有する溶鋼は鋳造時にノズルの閉塞等を起こし易く生産性を阻害する。さらに鋼材表面の疵の原因ともなるため4.0%以下とする。好ましい範囲は2.5%以下、さらに好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。
Ti、Nb、およびBも、強い窒化物形成元素であり、過剰な添加は好ましくない。しかし、適当量存在した場合、非常に微細な窒化物を形成し結晶粒の超微細化効果を補う効果を有し、延性の劣化を補って余りあるほど顕著に高強度化させることも可能で、変態を遅らせる効果等も認められるため必要に応じて利用することも有効である。TiおよびNbについては各々0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下とし、Bについては0.02%以下、好ましくは0.005%以下とする。
Cは、過剰に存在するとセメンタイトを形成し延性を劣化させる場合があるだけでなく、セメンタイトの形成およびそれに起因する複雑な変態挙動を制御するために厳格な熱履歴の制御が必要となるので、あえて添加する必要はない。一方、オーステナイト安定化元素であるため適当な量であれば本発明の機構による結晶粒微細化効果に好ましい寄与を有し、発明効果を得るためのN下限を緩和し窒化等によりN含有量を増加させる際の負荷を軽減する。また、あえてパーライト、ベイナイトやマルテンサイトなどの組織を形成させ鋼の強度等を高める目的で添加しても本発明の効果が失われるものではない。Nによる本技術が非常に広い用途への適用が可能なものであるため用途等により適当なC量も大きく変化する。脱炭コストを考えると下限は0.0005%程度であるが、本発明においては窒化の進行とともに脱炭が効果的に起き、通常では達成し難い超極低炭素化が図られる場合もある。このため下限を0.0001%とする。上限はオーステナイト安定化効果とセメンタイト形成を考慮し1.5%とする。好ましくは1.2%以下、通常、ギア、チェーーン等の機械部品やレール、厚板、棒鋼、線材等で用いられる1.0%から0.2%程度でも本発明の効果は有効で、通常、自動車部品等に用いられる高強度鋼板での0.3%から0.1%、さらには加工用普通鋼程度の0.08%以下、容器用鋼板等の0.04%から0.01%、加工性が非常に良好な極低炭素鋼の0.005%から0.001%でも本発明の効果により組織の微細化を達成することが可能である。
NiおよびCrは、本発明において特別な意味を有する。それは本発明の新規性、進歩性とは全く無関係なことではあるが、従来より、NiおよびCrを多量に含有するいわゆるステンレス鋼において0.1%程度以上のNを含有する鋼が製造されていることである。
一般に、本発明鋼が対象としているようなCr,Ni等を多量には含有しないいわゆる普通鋼ではNの含有量は0.03%程度が限度である。これは通常、鋼の成分調整が行なわれる溶鋼段階でのNの溶解量には熱力学的に限界があるとともに、鋳造における凝固時の温度低下にともない鋼中のN固溶可能量が大きく低下しガス化するためブローホールの発生が顕著になり鋼材表面の性状が著しく劣化してしまうことから規制されている。一方、Cr、Ni等を10%程度から数10%含有するいわゆるステンレス鋼では溶鋼を含む鋼中へのN溶解の許容量が熱力学的に格段に大きくなるため多量のN含有鋼の製造が可能となっている。しかし、ステンレス鋼においても通常の製法ではN量の上限はせいぜい0.3%程度である。このような従来の高Nステンレス鋼でもNの多くはCr窒化物を形成してしまうため、また様々な窒化物、炭化物の形成およびそれらにも影響を受ける変態挙動を考慮した制御がなされていないため本発明の重大な進歩性の一つである超微細粒化効果を全く活用していない状況である。本発明鋼では凝固以降にN添加を行なうため上記のような熱力学に起因した原理的な制限がなくなり、Cr、Ni等を高濃度に含有せずとも高いNの含有が可能となっている。とは言え、本発明鋼で例えば耐食性を付与する等の本発明以外の目的でCr、Niを添加することは可能である。
Crは強力な窒化物形成元素であるため過剰な添加は好ましくない。耐食性等への効果と添加コスト、さらにはSiと同様に完全非変態鋼となることを避けるべく変態温度を考え、好ましい範囲を20%以下とする。好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、また3%以下であれば窒化物形成の影響は大幅に軽減される。
Niはオーステナイト安定化元素であり、Mnと同様、本発明の効果に好ましい効果を有する。添加コストを考え10%以下とする。しかし、過剰な添加はオーステナイトを過剰に安定化させ最終的に常温まで多量のオーステナイト相を残存させ主としてフェライト相からなる結晶粒の微細化効果を損ねる場合がある。変態を介した超微細化効果についてはNiとほぼ同等の効果を有するMnを活用したほうがコスト的に大幅に有利であるためNi量は好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下とする。
Pはあえて添加する必要はないが、Siと同様、適当な量であれば延性をそれほど劣化させず高強度化を達成するには有効な元素であり、またNb等と同様に元々結晶粒の微細化効果を有し、本発明による超微細化効果を補う効果を発揮し延性の劣化を補って余りあるほど顕著に高強度化させることも可能であるため必要に応じて利用することも有効である。
ただし、Si、Al、Crと同様に変態温度を上昇させることに注意を要する。また、鋼を窒化してNを高める場合には、Pが鋼の表面、粒界に偏析し窒化効率を低下させることがある点でも注意を払う必要がある。脱Pコストと過剰添加による延性劣化を考慮し0.001〜0.5%とする。窒化効率を考えると0.2%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.08%以下である。
Sも本発明においてはあえて添加する必要はなく、MnSを形成し本発明が必要とするMnの効果を減じる害があるため低い方が好ましい。また粗大なMnSが多量に存在すると延性を劣化させることもあり、0.0001〜0.1%とする。好ましくは0.05%以下、通常は0.02%以下である。
また、本明細書で記述していない様々な使用特性を向上させる目的で、さらには鋳造性、圧延性など製造上の課題を改善する目的でSn,Sb,Bi,Mo,V,W、Ta、Se等の各種元素を適当量添加することは本発明の効果を何ら損なうものではない。ただし、窒化でN量を高める場合にはSn、Sbの添加が窒化効率を低下させる場合があるので注意を要する。
本発明鋼材の具備する特徴は結晶粒径が非常に微細なことである。通常の高強度鋼材が数μm〜10μm程度の粒径を有することから本発明鋼は結晶粒の直径の平均値が3.0μm以下である部位を有する。この存在量は、体積率で5%以上が望ましい。ここで、結晶粒の直径の平均値とは、ある断面の連続する100個以上の結晶粒径の平均値をいう。
前記微細粒領域の直径の平均値は、望ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下であり、組織の微細化に関しては条件を制御することにより0.5μm以下、さらに熱処理条件の精緻な制御や複数回の熱処理さらには加工による歪の影響も組合わせることで0.2μm以下、0.1μm以下、さらなる微細化も可能である。粒径が微細であるほど特性上の特徴も明確になる。また、組織の微細化により、従来知見より向上が期待される特性、例えば、耐摩耗性や疲労特性などについても、好ましい効果を得ることができる。
本発明は、基本的にフェライト相を主要相としているが、オーステナイト安定元素であるN、Mnを比較的多量に含有し、結晶組織の微細化が最終的にオーステナイトからフェライトへの変態により起きていることから、その組織中にオーステナイトが残留する場合がある。残留オーステナイトは強度一延性バランスの改善に有効であることから体積率が相当量になっても微細組織に起因する良好な特性が顕著に阻害されることはない。しかし、残留オーステナイトの体積率が20%を超すような材料に極度に厳しい成形を施した場合、加工中に歪に誘起された変態により生成するマルテンサイト相が応力の集中を招き延性が
低下する場合があることや、プレス成形した状態で存在する多量のマルテンサイト相が二次加工性や衝撃性の低下を引き起こすことがあるので、残留オーステナイトの体積率を20%以下とすることが好ましい。オーステナイト相以外にもマルテンサイト相やベイナイト相などFeを主体とした相、さらにはFeまたは添加元素による窒化物や炭化物など多様な相の存在を勘案すると、好ましい範囲はフェライト相の体積率で50%以上である。
また、オーステナイト相が残存する場合、その大きさも特性に影響する。例えば主とするフェライト相がたとえ1μm以下に微細であってもオーステナイト相が5μm程度であると上述のように応力の集中を招き延性が劣化してしまう傾向がある。このためフェライト相以外のオーステナイト相、マルテンサイト相、ベイナイト相の大きさもフェライト相と同程度であることが好ましい。本発明で開示した熱処理に従えばこの条件はほぼ間違いなく満足される。
成分の調整において重要なのがその鋼材の変態挙動である。本発明では熱処理におけるフェライト−オーステナイト変態を利用して最終的な製品における主としてフェライト相からなる組織の微細化を達成するため、熱処理により鋼中にオーステナイト相が生成する必要がある。その生成量が少ないとフェライト相のままであった部位の組織が粗大化し混粒組織を呈し特性を劣化させる。このため室温から溶融温度までの範囲で少なくとも体積率で70%がオーステナイト相として存在するような成分に調整しておく必要がある。好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは100%(完全オーステナイト)である。ただし、100%と言えども析出物
等も含めれば厳密に完全な100%になることはない。あくまでも通常の判断における実質的な100%である。この変態挙動については当業者であれば通常行われる一般的な熱処理一急冷後の組織観察や自動的な膨張測定、通常用いられるフォーマスター試験機等により容易に知ることができるものであり、これまでの変態に関する膨大な知見による経験式や市販の熱力学的な平衡計算ソフトでも高精度で推定可能なものであり、その結果をもとに成分および後述の熱処理温度等を容易に決定できるものである。
上述のように本発明で必要とする変態挙動を示す鋼成分は現在の技術を用いれば高精度で決定が可能であるが、本発明においては利便性の観点から一応の目安を示しておく。本発明における必要な用件からして基本的な考え方は明確である。つまり、室温では主としてフェライト相が安定ではあるが、温度の上昇に伴い変態が起こり、特定の高温の温度域ではオーステナイト相が主たる組織となるように決定される必要がある。例えば、多量のSiやAlを含有する電磁鋼板や多量のCrを含有するフェライト系ステンレス鋼のように広い温度域でフェライト単相となる成分系や、逆にNiを多量に含有するオーステナイト系ステンレスやMnを多量に含有する非磁性鋼のように室温でも多量のオーステナイト相が残留するものは好ましくない。このことから、目安はフェライト相安定化元素とオーステナイト相安定化元素の含有量の割合で決定できる。ただし、各元素による各相の安定化程度は異なることから、何らかの係数を乗ずる必要がある。この値には様々な要因が影響するが、本発明では
3*(0.5*Mn+Ni)<8+Cr+1.5*Si+1.5*Al+10*P
<4*(0.5*Mn+Ni+2.5)
が目安として提示できる。
成分がこの範囲を大きく外れると本発明が本質的に必要とする変態挙動を得ることが困難となる。ちなみに上述の式にはオーステナイト相安定化元素として強い作用を有するCとNが含まれないが、これはこれらの元素が共析温度の上下で相安定性への影響が大きく変化するため、本発明で提示すべき式の中に入れる目的にそぐわないためである。
次に、本発明鋼材の製造方法について説明する。本発明の特徴は従来のCr,Niを含有しない鋼材では考えられなかったほどの高濃度のNを含有させることである。高N鋼を製造する手段は特に限定されるものではない。現状の設備においてCr、Ni等を多量に含有しない成分系で溶鋼段階で成分調整し多くのNを含有させることは不可能であるが、近年検討されている、溶鋼が入った鍋をNを高圧充填した気密容器中に設置し、その中で凝固させて気泡等の欠陥を含まない鋳造を行う方法で製造が可能である。また従来鋼のように溶鋼段階では低いNのまま成分調整し、気泡等の欠陥のない鋳片を得た後、固相である鋼片または鋼板への窒化を適用することで比較的容易に高濃度のNを含有させることも可能である。この窒化の方法はガスによるもの液体中で行うもの、さらには固体との接触やイオンやプラズマ照射などによるものが考えられ。いずれも固相状態において含有N量を0.05%以下から0.05%以上に増加させることが可能なものである。
注意を要するのは窒化そのものは従来から広く行われており窒化により鋼材を部分的に所定量、例えば0.05%以上、に高めること自体はなんら新規性のない技術であることであるということである。ただし、その条件や目的に関して本発明のような成分、組織の鋼に対して、本発明と同様の効果を想定した窒化が行われることは全く開示されていない。
従来の窒化は主に工具鋼等の表面を硬質化するために行われており、そのメカニズムは主としてCr、Ti等の窒化物を多量に生成させるものである0本発明のように高強度化とともにその他の様々な特性を両立させるために主としてフェライト粒の微細化を目的としたものとは根本的に異なる。また、本発明では窒化後の高N材を熱処理することで変態を活用した組織の微細化効果を発現させるのに対し、従来の窒化を施された鋼においてその後の変態を活用した微細化に関しての考慮はまったくない。むしろ従来の窒化は工具の変形等を抑制するため変態が起きない低温で行われることが普通であり、本発明のように主
としてオーステナイト相が存在する状況下で窒化を行い、その後さらにオーステナイト化するような熱処理を行い、そこからの変態を活用してフェライト組織の微細化を達成する技術とは全く異なるものである。
工業的な生産性等を考慮するとガスによる窒化が実用的である。ガスによる窒化の場合は板温550℃以上でアンモニアを2%以上含む雰囲気中で1秒以上保持、または550〜800℃のアンモニアを2%以上含む雰囲気中で1秒以上保持する。窒化は主として高温の金属表面に雰囲気が接触し雰囲気が分解する際に生じるN原子が金属中に侵入することで生じるので窒化反応が起きる際の温度の制御は重要である。後述するように温度がこの範囲を外れると窒化効率が低下し、必要量のN化に長時間を要する。また低温側に外れた場合は多量の鉄窒化物を形成しそのままでは本発明鋼で必要とする結晶粒の微細化において好ましくNを活用することができない場合もある。好ましい温度域の下限は590℃、
さらに好ましくは620℃である。高温側の温度は鋼材温度のみが雰囲気温度に対して高温である場合と、雰囲気温度そのものが高温に保持される場合で事情が多少異なる。
まず鋼材温度が雰囲気温度に比較し高温になっている場合について説明する。これは例えば雰囲気は特別に加熱することなく、高温に加熱された鋼材を、鋼材温度より低い雰囲気内に挿入する場合であり、例えば連続炉の前半部で通常の窒化がほとんど起きない雰囲気で鋼材を加熱しておき、連続炉の後半部は加熱しない窒化雰囲気にしておきこの中を通過させることで窒化を行なうような設備が想定できる。または連続ラインの途中で通電加熱等で鋼材を加熱し高温のまま室温程度の窒化雰囲気で満たされた槽内を通過させることで窒化するような設備や窒化雰囲気で満たされたバッチ炉中で鋼材のみを通電加熱や誘導加熱またはレーザー加熱するような設備が想定できる。この場合は高温の金属表面、すなわち加熱された鋼材表面で雰囲気の分解が起きNが鋼中に侵入し鋼材の窒化が進行する。この場合には雰囲気の分解および鋼中でのN拡散をより活性化するため鋼材温度は高温であるほど好ましい。鋼材の加熱のための効率やコスト等を考えると通常1200℃以下とする。好ましくは1000℃以下で900℃以下でも窒化効率は実用的に十分なものである。
ただし連続炉を想定した場合、低温雰囲気中への高温鋼材の連続的な挿入により、窒化炉内に新たな低温雰囲気を持続して導入しているとしても、窒化炉内への連続的な熱の持込により窒化雰囲気の温度は多少なりとも上昇する可能性がある。窒化雰囲気の温度があまりに上昇すると後述するように炉材として使用されている金属部での雰囲気の分解が起きるようになり鋼材への窒化効率が低下する場合があるので低温雰囲気中へ高温鋼材を挿入しての窒化を行なう場合には熱の移動および雰囲気温度の管理が重要となる。
もう一つの方法として雰囲気温度そのものを窒化が起きる程度の高温に保持しておきその中に雰囲気と同程度まで加熱された鋼材を挿入する場合について説明する。これは例えば通常の連続焼鈍ラインにおいて、通常高温雰囲気が満たされている加熱炉および保熱炉の炉内の雰囲気のガス成分のみを窒化ガス成分に変更し通常と同様に鋼材を通板するような工程が想定できる。この工程で再結晶も同時に行なう場合は再結晶前半部で鋼材が窒化してしまうと鋼材の再結晶温度が上昇し、熱処理後に鋼材に未再結晶部が残存し加工性を劣化させる場合があるので、加工性等に好ましくない場合には注意が必要である。これを避けるには前半部での温度履歴と雰囲気成分を制御し、再結晶と窒化の時期を適当に制御し、再結晶が十分に起きた後に窒化が進行するようにする必要がある。この工程においては雰囲気温度が高すぎると鋼材の通板とは無関係に炉材の一部として使用されている例えば炉体そのものや各種の通板ガイドロール、加熱のためのバーナーなどの金属部分での雰囲気の分解が頻繁に起きるとともに雰囲気自体でも分解・反応が進行し、雰囲気の窒化能を低下させるため鋼材の窒化効率が低下する。また炉体や各種部品が窒化してしまうため炉そのものの機能を低下させる場合もある。このため好ましい雰囲気温度を800℃以下とする。好ましくは750℃以下である。
ガス組成は特に限定しないが、N化に必要なアンモニアの濃度を窒化効率の観点から0.5%以上とする。窒化自体はアンモニアが0%でも雰囲気中に窒素が存在すれば起きる可能性があるものであり、鋼材が非常に薄くまたは細く、必要なN含有量にするためのN化量も小さい場合には希薄アンモニア雰囲気の適用も可能である。通常の鋼材を想定すればアンモニア濃度は2%以上、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上とする。窒化雰囲気の濃度は窒化が起きることで雰囲気そのものの組成が変化するため一義的には確定できないし、厳密に窒化が進行している鋼材極表面での雰囲気組成を確定することは困難である。本発明では雰囲気組成については窒化炉内に連続的にガスが導入されている場合はそのガスの体積分率を用いることとする。また、炉内に導入している雰囲気と窒化が進行している炉内の雰囲気が異なることが予想される場合には通常の環境測定等で用いられる程度の手法を用い窒化炉内の適当な場所で雰囲気を採取しその体積分率を測定するものとする。アンモニア以外の雰囲気が主としてN2とH2である場合は窒化効率の観点からはN2濃度を高くする方が有利である。
また、窒化に際しての本発明の温度および本発明の雰囲気中での保持時間は必要な鋼中N量との兼ね合いで決定される。連続焼鈍の場合にはせいぜい30分が限度であるが、箱焼鈍などを用いることで数時間以上、数日の処理も可能となる。窒化する時点での鋼材の大きさや厚さにもよるがN量の確保の観点から1秒以上は必要である。上限は操業性や生産性などを考慮し20日以内が望ましい。通常の連続焼鈍ラインを用いて窒化を行なう場合に生産性も考慮すれば300秒以下が好ましい。
N化のタイミングは鋳片〜製品直前の鋼材(板であれば焼鈍板)のいずれでも可能であるが、窒化では表面から鋼内部へのNの拡散を利用しているため鋼材サイズは薄いまたは細いほど高濃度のN化が容易となる。通常は最終製品に近い形状に加工された後に窒化することが有利となる。
鋼板の場合は熱間仕上げ圧延以降の工程で行うことが好ましく、通常の冷延鋼板の製造においては再結晶焼鈍工程中で焼鈍炉の一部または全部を発明雰囲気にすることでN化を行うことが生産上は都合がよい。
工程の前半で高濃度のNを含有させ、その後の高温処理または適当な温度での保定により結晶粒の微細化に都合の良い熱履歴を付与する工程も可能であるし、焼鈍工程の最高温度への到達により再結晶および適当な延性を付与した後にN化を行うような工程も可能である。また、これらを組合わせたり、高温再結晶の後、発明範囲内の低温で窒化を行い、その後再び高温に昇温し組織制御を行うような工程によっても本発明の効果は何ら損なわれるものではない。
以上は通常の製造工程途中での窒化により鋼材のN含有量を高めることを想定して製造法の詳細を記述したが、N含有量を高める方法はこれに限定されるものではない。他の方法として例えば製品よりもサイズの小さな部材をあらかじめ別に窒化しておきこれを合体させることで製品のN量を高めることも可能である。これは部材の合体に手間は要する方法であるが、窒化が材料の表面において起きるため材料の体積に対して表面積が多いものの方が窒化効率が高くなるため、特に効率的に窒化を行いたい場合には有効な手段である。
具体的には例えば0.8mmの鋼板を直接窒化するよりも、0.1mmの板をあらかじめ窒化しておきこれを8枚重ねて合体させるような場合である。または径が1mm以下さらには数μm程度の鉄粉を窒化し、これを合体させて製品形状または半製品の形状を形成させるような場合である。この場合の合体手段は特に限定されるものではないが、たとえば熱間圧延や熱間押し出しに代表される高温での圧着である。この条件は特に限定されるものでなく通常の圧着と同様に行えばよいが、本発明で用いる部材が多量のNを含有していることから部材の溶融を伴うような条件は避け、主として固相状態で合体される必要がある。
とはいえミクロな意味では接合される部材表面は溶融に近い状態になることは問題ではない。このような方法による場合の温度は700℃以上、鋼材の特定方向、特に部材を合体させる方向に付与される平均的な歪が対数歪で0.5以上が目安となる。
結晶粒の微細化は高Nを含有させた後の熱履歴を制御することでより容易に達成できる。
この熱処理は窒化処理と連続している必要はなく、いったん常温まで冷却した後、またはめっき処理や何らかの加工などを行った後に行っても構わない。また特に鋼材表面から窒化した場合にはN濃度の鋼材板厚方向での偏析が考えられるが、高温保持によるNの拡散によりこれを解消する場合には必要な温度と時間を制御する。熱処理条件としては熱処理中のオーステナイト量が体積率で70%に高まる必要がある。好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは100%(完全オーステナイト)である。ただし、前述のように100%とは厳密な意味ではなく、通常の判断に基づく実質的なものである。変態が起きない部位が存在するとこの部位の組織が粗大化し最終製品で混粒組織を呈し特性を劣化させる場合がある。変態挙動は鋼成分やそれまでの熱履歴等、さらには加熱速度や保持時間等にも影響されるため一概には言えないが、完全オーステナイト化する場合は完全オーステナイト化温度、そうでない場合はオーステナイト相の存在率が最大となる温度をTmaxとし、Tmax−50℃以上に到達させるのが望ましい。好ましくはTmax−20℃以上、Tmax以上とすれば本発明の効果を得るのに全く問題はない。保持時間は数秒で十分であるが、必要により数分または数時間以上保持しても構わない。この熱処理における最高到達温度の上限は特に限定されるものではないが、温度が上昇することでフェライト相のままの部位が存在する場合にはこの部分の組織が粗大化し冷却後の混粒組織が顕著になり好ましくない。また、完全オーステナイト化しているとしてもオーステナイト組織の粗粒化が起き、その後の冷却過程でのフェライト変態による組織微細化に好ましくはないし、エネルギー的に無駄となるので何らかの必要性がある場合を除いて不用意に温度を上昇させるのは避けるべきである。上限は、Tmax+200℃、好ましくはTmax+100℃、さらに好ましくはTmax+50℃程度とすべきである。
この熱処理において重要な点が加熱および冷却速度である。一般にC−Mn鋼の変態においては加熱速度または冷却速度が高いほど変態後の組織が微細化することが知られているが、これは本発明においても効果を有する。加熱または冷却速度が低くても本発明の効果が失われるものではなく従来鋼と比較して十分に微細な組織を得ることが可能ではあるが、意味もなくあえてこれらの速度を低くすることは好ましくない。特に冷却速度は本発明においても問題を生じない程度に高くするべきである。鋼材の大きさにもよるがこれらの速度は2℃/秒以上とすることが好ましい。それなりの大きさ(厚さ、太さ)を有する場合、鋼材全体の冷却速度を高めることはできないにしても表層部の冷却速度を高め表層部の組織微細化を図ることも目的によっては重要な意味を有する。薄板や線材のように薄いまたは細い場合には好ましくは10℃/秒、さらに好ましくは30℃/秒、さらに好ましくは100℃/秒の加熱、冷却を行うことで本発明の効果が顕著になる。また、C量が低い場合には高Nではあるけれども高C材に比較し高冷却速度であっても延性、脆性の低下が抑えられる。これは硬質で脆いマルテンサイトの生成が抑制されているためと思われる。
本発明での重要な要点は変態による組織微細化であるが、一般的にC−Mn鋼においてはこのようなフェライトーオーステナイト変態を複数回繰り返すことで組織が微細化することが知られているが、これは本発明においても効果を有する。もちろん同じ繰り返し回数であれば常に本N−Mn鋼が通常のC−Mn鋼よりも微細組織であり、むしろ、本発明鋼すなわちN−Mn鋼では従来のC−Mn鋼以上にこの操作による微細化効果が有効となる。
この原因は上述のように本N−Mn鋼での微細化メカニズムがNがCより鋼中への溶解量が大きいため、変態時の固溶Nによるドラッグ効果、低温で析出する微細な窒化物によるピニング効果、さらには微細な窒化物を核とする変態核の数密度上昇にあることから、温度上昇中のオーステナイト粒の成長、温度下降中のフェライト粒の成長が顕著に抑制されているためである。繰り返し回数に制限はないが、微細化効果の飽和や工業的な生産性を考えると5回以下、好ましくは2または3回である。
また、C−Mn鋼においては変態途中で加工を加えることにより組織が微細化することもよく知られているが、本N−Mn鋼においてもこの処理をおこなうことは組織微細化に有効である。もちろん同じ加工を行えば常に本N−Mn鋼が通常のC−Mn鋼よりも微細組織となる。注目すべきは本N−Mn鋼では通常のC−Mn鋼と比較し同じ温度で同じ変態量であるとしても加工の効果がより顕著に現れることである。これは上述のように本N−Mn鋼では粒成長の抑制効果や核生成効率が格段に高くなっているためと考えられる。また、N−Mn鋼では窒化物の形成挙動がC−Mn鋼の炭化物形成挙動とは異なり、パーライト、ベイナイトのような変態組織が形成しにくいため比較的低い温度までオーステナイトが存在し加工の効果が現れる温度域がC−Mn鋼よりも特に低い温度域に広がるようになる。効果的な温度域は200℃以上、Tma x+200℃以下である。好ましくは350℃以上、Tmax+50℃以下、さらに好ましくは500℃以上、Tmax以下である。
ここで、接着性を確保するためには、付与される歪みは対数歪みで0.1以上であることが望ましい。歪みの付与される方向は特に限定はされない。
また組織微細化熱処理の最終工程において中間温度で保持することで強度延性のバランスをさらに向上させることが可能である。これは鋼中の固溶NおよびFe窒化物の形態を好ましく変化させるとともに変態により鋼中に残留する歪を除去するためである。保持温度は50〜550℃とする。この範囲でも高温域での保持はFe窒化物の生成を過剰に促進させ延性が極端に劣化することがあるので上限は好ましくは500℃、さらに好ましくは450℃とする。低温域では好ましい窒化物の形態変化に長時間を要するため下限は好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上とする。100〜150℃近傍で生成するFe窒化物はFe比率が高いのに対し、350〜450℃近傍の高温で生成するFe窒化物は低温で生成するものよりFe比率が低めで、温度によりFe窒化物の組成および形態が異なることからそれぞれ向上させる特性も異なることが予想されるので用途に応じた温度範囲を選定することが重要である。この温度域での滞在時間は低温ほど長時間とする必要が生ずるのは言うまでもないが、明確な効果を得るには10秒以上が必要である。
また、この中間温度域での保持効果をより顕著にするにはその直前に行なわれた650℃以上に到達した熱処理において650℃以上の温度から400℃以下の温度まで10℃/秒以上の冷却速度で冷却しておくことが効果的である。好ましくは50℃/秒以上である。
ただし、過度に急速な冷却は鋼成分や冷却終了温度にもよるが、鋼中にマルテンサイト相を生成させ延性を劣化させる場合があるので注意が必要である。
上に述べた中間温度域での熱処理により鋼組織を好ましく制御した後は、この組織を保持するため550℃を超えるの温度への加熱は避ける必要がある。550℃を超える温度への加熱を行なうと上記の中間温度での保持による特性向上効果のかなりの部分が消失する。580℃以上では中間温度での保持による特性向上効果はほとんどみられなくなる。
本発明の特徴である微細組織は用途によっては鋼材の全ての部分が微細である必要はなく、耐磨耗性や疲労性の向上には表層のみが微細化されていればかなりの効果を得ることができる。また、部分的に組織が異なることで、強度や靭性など微細粒が有利な特性と、延性など粗大粒が有利な特性を組み合わせた複合機能を持たせることも可能となる。部分的に組織を変化させる方法としては、例えば成分を不均一にすることが考えられ、本発明のように窒化を行うものでは鋼材表面から中心へNの濃度勾配を付与し、他の元素は実質的に均一とする方法が考えられる。
更に、本発明では微細組織の発現は変態温度と関連している。
従って、変態温度が場所的に異なるように、成分、特にC、Mn、Si、Al、P、Cr、Ni量が異なる複数の鋼材を一般に知られている爆着や圧着などの方法を用いて複層鋼として製造しこれを窒化するという方法も有効である。また、組織微細化のために行う調質熱処理において部分的に温度を変化させることでも組織を制御できる。
本発明鋼の用途はその形状などにより何ら限定されるものではなく、鋼材として自動車、容器、タンク、建築物、造船、土木、レール、電気機器、鋼管など一般的に鋼材が使用されている用途に適用し本発明の効果を得ることができる。また、微細粒を形成した後に何らかの加工を施して強度調整、形状調整を行っても発明の効果が失われるものではない。
まず本実施例での共通の特性評価方法を記述する。
結晶粒径の評価は製造した製品によらず行い、通常行われる断面組織観察において特定面積内に観察される結晶粒の数から結晶粒1個あたりの断面積を求め、さらにこの結晶粒の断面形状を円とした場合の直径として求めた。
本発明では微細組織を形成するために少なくともオーステナイト相を90%以上含む組織からの冷却が必要であるが、実質的に微細化組織形成のための変態を開始する直前の温度におけるオーステナイト相の体積率を冷却開始温度から水冷したサンプルの断面組織観察により測定した。
残留オーステナイトの体積率はMoKα線を用いたX線回折の5ピーク法で測定した。
製品が部分的に微細組織を有する場合はその部位について測定した。
本実施例においては発明鋼の中でも好ましい成分範囲、製造条件との兼ね合いで目的とする特性に少なからず差を生ずる。このため発明鋼において一部の特性についての評価は以下のように特性をランク付けることで行なった。
A:最高レベル
B:著しく良好
C:良好(従来鋼以上)
D:従来鋼レベル
(実施例1)
C:0.03%、Si:0.02%、Mn:2.4%、P:0.01%、S:0.01%、
Al:0.06%、N:0.003%含有する鋼片を加熱温度1200℃、巻取温度650℃で4.0mmに熱延し、酸洗後、冷延し得られた厚さ0.6mmの冷延鋼板について、700℃、1分の再結晶焼鈍の後、20%アンモニアガス中で700℃、10分の窒化処理によりN濃度を0.2%とした。次いで700℃〜1100℃で10秒の調質熱処理を行い、冷却速度20℃/秒で冷却した。またC:0.2%、Si:1.5%、Mn:1.0%、P:0.03%、S:0.01%、Al:0.6%、N:0.003%含有する鋼片を加熱温度1200℃、巻取温度650℃で4.0mmに熱延し、酸洗後、冷延し得られた厚さ0.6mmの冷延鋼板について、750℃、1分の再結晶焼鈍の後、100℃/秒で450℃まで冷却し450℃で8分保定した後、空冷した一般的なTRIP鋼も準備した。すべての材料は0.6%で調質圧延し加工性およびめっき性を調査した。加工性の評価は板厚0.6mmの薄鋼板において行い、JIS5号引張試験片によるゲージ長さ50mm、引張速度10mm/minの常温引張試験で評価した。めっき性の評価は板厚0.6mmの薄鋼板において行い、実用的な条件で合金化溶融亜鉛めっきを行った鋼板について不めっき発生とめっき密着性について行い、不めっきは目視で有無を判定し、めっき密着性はめっき鋼板の60度V曲げ試験を実施後テープテストを行い、テープテスト黒化度が20%未満であれば合格とした。
特性の評価結果を表1に示す。
N量を高めオーステナイト域からの熱処理により結晶組織を微細化した本発明鋼は従来、強度一延性バランスが優れていると評価されているTRIP鋼よりも優れた特性を示す。また、比較鋼では合金成分のためめっき性が劣るが本発明鋼ではめっきにおいて何ら問題を生じなかった。
(実施例2)
C:0.08%、Si:1.8%、Mn:1.4%、P:0.01%、S:0.01%、Al:0.8%、Ni:0.2%、N:0.003%含有する鋼片を加熱温度1200℃、巻取温度650℃で2.0mmに熱延した後、40%アンモニアガス中で通電加熱により鋼板を950℃に加熱し、5分の窒化処理によりN濃度を0.5%とした。この窒化処理により、C量は0.005%まで低下した。また、C:0.5%、Si:1.2%、Mn:2.5%、P:0.03%、S:0.01%、A.1:0.6%、N:0.003%含有する鋼片を加熱温度1200℃、巻取温度450℃で2.0mmに熱延した一般的なTRIP鋼も準備した。これらの材料を800℃〜1100℃で加熱した後、ホットプレスを行った。プレス後の冷却速度および途中での熱履歴を変化させ、成形後の部材から試験片を切り出し硬度、靭性および耐遅れ破壊性を調査した。靭性はJISに準拠した方法で、耐遅れ破壊性は破断荷重の0.9倍で負荷をかけ、チオシアン酸アンモニウム溶液中で電解により陰極水素を連続チャージし、破断までの時間で評価した。冷却速度についてはプレスによる金型との接触に起因する材料の温度低下は除外し、材料をプレス成形直後に金型との接触を絶ち、その後の熱履歴について制御した。特性の評価結果を表2に示す。
N量を高めオーステナイト域からの熱処理により結晶組織を微細化した本発明鋼は従来のC−Mn鋼よりも優れた特性を示す。
(実施例3)
C:0.8%、Si:0.1%、Mn:3.2%、P:0.01%、S:0.01%、Al:1.8%、Nb:0.05%、B:0.003%、N:0.004%含有した鋼片を通常の製造工程で太さ1.0mmの鋼線としたものについて、室温程度の40%アンモニアガス中で高周波加熱により鋼材の温度を1000℃とし10秒の処理によりN濃度を1.4%まで上昇させた。この窒化処理により、C量は0.02%まで低下した。窒化した材料は次いで500℃〜950℃で5分の調質熱処理を行うとともに、一部の材料についてはその後900℃10秒の熱処理を1〜5回行った。さらにその後、未窒化材も含めすべての材料を300℃に再加熱し3分保定した後、空冷した。特性は引張変形における破断応力および変形温度を変化させ曲げ試験を行った際の脆化割れ発生温度で評価した。
評価結果を表3に示す。
N量を高めオーステナイト域からの熱処理により結晶組織を微細化した本発明鋼は、高い強度とともに低温での良好な耐脆性を示す。
(実施例4)
Si:0.02%、Mn:2.2%、P:0.01%、S:0.01%、Al:0.06%をベース成分とした溶鋼を、高圧N雰囲気中でインゴットとして凝固させることでC量、N量を変化した鋼片を得た。これらの鋼材から通常の連続熱間加工によりレール鋼を製造した。最終の2段の加工について、加工温度と加工量を変化させた。加熱温度、冷却条件等は一般のレール鋼で適用されるもので、本実施例ではすべて一定とした。特性の評価は、円筒形に成形した基準となる鋼材を試験材に一定の荷重で押し付けながらレール頭面上を滑らせ、1000000回滑らせた時の試験材単位長さあたりの重量変化と接触面での疲労欠陥の発生程度で評価した。
結果を表4に示す。なお、ここで示すオーステナイト体積率は最終の2段加工後、水冷した材料のレール頭面から5mm探さでの値である。
N量を高めオーステナイト域からの熱処理により結晶組織を微細化した本発明鋼は良好な耐磨耗性と耐疲労破壊性を示す。
Figure 2005146321
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Claims (21)

  1. 鋼材内の特定部位または全部位について、質量%で、C:0.0001〜1.5%、Si:4.0%以下、Mn:0.01〜10.0%、P:0.0001〜0.5%、S:0.0001〜0.1%、Al:4.0%以下、N:0.05〜4.0%を含有し、室温から溶融までの温度範囲にオーステナイト相の存在比率が体積率で70%以上となる温度域が存在し、主としてフェライト相からなる結晶粒径が平均で3.0μm以下である部位を有することを特徴とする微細組織を有する鋼材。
  2. 鋼材内の特定部位または全部位について、質量%で、C:0.0001〜1.5%、Si:4.0%以下、Mn:0.01〜10.0%、P:0.0001〜0.5%、S:0.0001〜0.1%、Al:4.0%以下、N:0.05〜4.0%を含有し、
    3*(0.5*Mn+Ni)<8+Cr+1.5*Si+1.5*Al+10*P
    <4*(0.5*Mn+Ni+2.5)であり、
    主としてフェライト相からなる結晶粒径が平均で3.0μm以下である部位を有することを特徴とする微細組織を有する鋼材。
  3. 更に、質量%で、Cr:20.0%以下を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細組織を有する鋼材。
  4. 更に、質量%で、Ni:10.0%以下を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の微細組織を有する鋼材。
  5. 更に、質量%で、Ti:0.2%以下、B:0.02%以下、Nb:0.2%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の微細組織を有する鋼材。
  6. N以外の元素についての鋼材内の濃度が実質的に均一であることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の微細組織を有する鋼材。
  7. 結晶粒径が平均で3.0μm以下である部位に関して、実質的にフェライト相の体積率が50%以上、オーステナイト相の体積率が20%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6に記載の微細組織を有する鋼材。
  8. 請求項1乃至請求項7に記載の鋼材を製造するに際し、鋼材を窒化することにより、質量%で、N含有量を0.03%以上増加させ0.05%以上とすることを特徴とする微細組織を有する鋼材の製造方法。
  9. アンモニアを0.5%以上含む雰囲気中に鋼材温度550℃以上で1秒以上保持することにより、質量%で、N含有量を0.03%以上増加させ0.05%以上のNを含有させることを特徴とする請求項8に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  10. アンモニアを0.5%以上含む550〜800℃の雰囲気中に1秒以上保持することにより、質量%で、N含有量を0.03%以上増加させ0.05%以上のNを含有させることを特徴とする請求項9に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  11. 質量%で、N含有量が0.05%以上であり、厚さ、幅、長さのいずれかが最終製品より小さな部材2つ以上を主として固体状態で合体させる工程を経て最終製品とすることを特徴とする請求項8乃至請求項10に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  12. 質量%で、N含有量が0.05%以上であり、厚さ、幅、長さのいずれかが最終製品より小さな部材2つ以上を主として固体状態で合体させる工程として熱間での加工を適用することを特徴とする請求項11に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  13. 質量%で、N含有量が0.05%以上であり、厚さ、幅、長さのいずれかが最終製品より小さな部材2つ以上を主として固体状態で合体させる熱間加工が温度700℃以上、鋼材の特定方向に付与される平均的な歪が対数歪で0.5以上であることを特徴とする請求項12に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  14. 質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、オーステナイト相の存在率が体積率で70%以上となる温度で熱処理を施し、その後冷却することにより、結晶粒径を3.0μm以下とすることを特徴とする請求項8乃至請求項13に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  15. 質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、Tmax−50℃以上で熱処理を施し、その後冷却することで結晶粒径を3.0μm以下とすることを特徴とする請求項8乃至請求項14に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
    ここに、Tmax:鋼材が完全オーステナイト化する場合は完全オーステナイト化温度、そうでない場合はオーステナイト相の存在率が最大となる温度。
  16. 質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、オーステナイト相の存在率が体積率で70%以上となる温度で熱処理を施すに際し、加熱速度を2℃/秒以上、最高到達温度をオーステナイト相の存在率が最大となる温度+200℃以下、冷却速度を2℃/秒以上とすることにより、結晶粒径を3.0μm以下とすることを特徴とする請求項14に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  17. 質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、請求項14乃至請求項16に記載のフェライト−オーステナイト変態を生ずる熱処理を複数回施すことを特徴とする微細組織を有する鋼材の製造方法。
  18. 質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、請求項14乃至請求項17に記載の熱処理の途中で加工を行うことを特徴とする微細組織を有する鋼材の製造方法。
  19. 前記熱処理の途中における加工が200℃以上、Tmax+200℃以下の温度域で行われ、かつ付与される特定方向の歪が対数歪で0.1以上であることを特徴とする請求項18に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  20. 質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、50〜550℃の温度域で10秒以上滞在させ、その後550℃を超える温度に保持しないことを特徴とする請求項8乃至請求項19に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
  21. 質量%で、N含有量が0.05%以上である部位を形成した後、650℃以上の温度から冷却速度10℃/秒以上で400℃以下まで冷却し、さらに50〜550℃の温度域で10秒以上滞在させ、その後550℃を超える温度に保持しないことを特徴とする請求項20に記載の微細組織を有する鋼材の製造方法。
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