JP4374196B2 - 加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents
加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板及びその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車部材、建築部材、電気機器部品、容器等として用いられる鋼板及びその製造法に関し、これらの利用時に必要とされる強度、加工性、溶接性、靱性に優れ、また、これらの特性を損なうことなく良好なめっきや塗装などの密着性を付与することが可能な鋼板及びその製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、さまざまな方面で部材として用いられる鋼板においては、構造部材としての強度と部材を形成するための加工性、他の部材との接合時および接合部の強度としての溶接性、使用中の靱性、さらには耐食性を付与するため表面処理を行う場合の塗装、またはめっきの密着性などさまざまな特性が求められる。強度と加工性については、一般に材料の加工性は強度上昇に伴い劣化するので、加工性と強度を両立する鋼板が求められている。高強度化の方法には転位強化、固溶体強化、組織強化などが適用されるが、現状の技術では以下に述べるようにそれぞれの方法の短所を解消するには到っていない。
【0003】
転位強化は加工やマルテンサイト変態等により組織中に大量の転位を導入したものであるが、一般に延性そのものが転位密度が上昇する過程で発現するものであるため、加工開始時にすでに大量の転位が存在する転位強化材では延性が顕著に劣化する。また、温度の上昇により転位が急速に消滅するため溶接部での軟化が大きく溶接強度が低いなどの欠点がある。Si、Mn、Pなどによる固溶体硬化は強度−延性バランスについては比較的良好であるが酸化物形成による表面欠陥が発生しやすいことや塗装、めっきの密着性が劣るという欠点がある。
【0004】
組織強化としては大別して単相の組織を微細化し結晶粒界により強化する、いわゆる細粒化強化と、第二相を活用するものがある。このうち、細粒化を利用するものではフェライト鋼では析出物を活用した技術が(社)日本鉄鋼協会「鉄と鋼」85巻691ページ(非特許文献1)等に開示されているが、従来の技術で実用的に到達できる結晶粒径はせいぜい数μmで、これ以上の微細化には熱間での温度と加工を厳格に制御する必要があり実用が困難である。また、析出物が破壊の起点になることから固溶体強化に比較して延性が低いことや、溶接等の熱影響により析出物が溶解、または粗大化しやすく、溶接部位の結晶粒が粗大化してしまう問題点がある。
【0005】
また、オーステナイト鋼では2μm程度の微細組織を安定的に得る技術(社)日本鉄鋼協会「材料とプロセス」15巻450ページ(非特許文献2)に開示されているが多量のCrやメカニカルアロイング処理、さらには1000℃を超える高温での熱処理が必要でありコストが高くなる。
近年、フェライト鋼で1μmより小さい結晶粒径を形成させる技術開発が産学協同で進められ(社)日本鉄鋼協会「材料とプロセス」14巻502ページ(非特許文献3)や、特開2000−73034号公報(特許文献1)、特開2000−96137号公報(特許文献2)等に開示されているが、その手法はメカニカルミリング等により非常に高い歪を付与するものであり熱的には不安定で、溶接を伴う用途への適用においては問題が出る可能性が高い。
【0006】
強度−延性のバランスが優れた高強度鋼板としては、鋼板に残存させたオーステナイト相が加工により硬質なマルテンサイトに変態する加工誘起変態を活用した鋼板が開発されている。これは高価な合金元素を含まずに、0.07〜0.4%程度のCと0.3〜2.0%程度のSi及び0.2〜2.5%程度のMnを基本的な合金元素とし、高温二相域でオーステナイトを生成させた後、400℃程度でベイナイト変態を行うことで室温でも金属組織中にオーステナイトが残留するようにした鋼板で、一般に「残留オーステナイト鋼」、「TRIP鋼」などと呼ばれている。その技術は例えば、特開平1−230715号公報(特許文献3)や特開平1−79345号公報(特許文献4)、特開平9−241788号公報(特許文献5)等に開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの鋼板はその特異なベイナイト変態を活用しオーステナイトを残留させているため、熱処理条件(温度、時間)を厳格に制御しないと意図する金属組織とならず、良好な強度や伸びの保証や製造時の歩留向上を妨げる原因となっている。さらに、0.3〜2.0%の多量のSi含有が必要であることから亜鉛めっき等においてはめっきの付着性が悪く、溶融めっきではめっき時の熱履歴のため好ましい金属組織が破壊される場合もあり広範な工業的利用が妨げられている。
【0008】
また、高いNを含有した鋼として特開平8−134596号公報(特許文献6)、特開2000−129401号公報(特許文献7)等において、高Nステンレス鋼が知られている。しかし、これらはいわゆる通常のステンレス鋼であり、多量のCr、Niの含有が必須であり、高強度における加工性や靱性等の劣化を考慮した材質制御がなされたものではなく、ましてや結晶組織の超微細化による特性の向上を図ったものではない。
【0009】
【引用文献】
(1)特許文献1(特開2000−73034号公報)
(2)特許文献2(特開2000−96137号公報)
(3)特許文献3(特開平1−230715号公報)
(4)特許文献4(特開平1−79345号公報)
(5)特許文献5(特開平9−241788号公報)
(6)特許文献6(特開平8−134596号公報)
(7)特許文献7(特開2000−129401号公報)
(8)非特許文献1((社)日本鉄鋼協会「鉄と鋼」85巻691ページ)
(9)非特許文献2((社)日本鉄鋼協会「材料とプロセス」15巻450ページ)
(10)非特許文献3((社)日本鉄鋼協会「材料とプロセス」14巻502ページ)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特殊な添加元素を使用せず、より簡易かつ生産性の高い熱処理により熱的に安定な微細結晶組織を形成することで、延性をそれほど劣化させずに高強度化、高靱化を図り、溶接や溶融めっきなどの熱履歴を経てもその特性を失うことなく、使用条件において初期特性を維持し、めっきの付着性が良好なため高耐食性表面処理鋼板への適用も可能な高強度鋼板およびその製造方法を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成できる高強度鋼板を提供すべく、結晶粒径およびその安定性と鋼成分との関係について鋭意検討を行い、本発明を完成させたものである。その趣旨は以下のとおりである。
従来よりNはオーステナイト相を安定化させる元素として知られているが、従来の製造法のように溶鋼段階で高濃度のNを含有させる方法では精錬が困難であり、また、鋳造時に鋼片中にガスが発生し凝固後に気泡が残存し良好な鋼板を得ることができない。このため本発明鋼が対象とするような高N鋼板の加工性、靱性、耐食性などを含めた広い範囲での特性は検討されておらず、未知であった。
【0012】
そこで本発明者はNを、鋳造後、製品となるまでに含有させる方法を検討し、Nを多量に含有させた後、特定の熱履歴を経ることで非常に微細な結晶組織を得ることが可能で、この微細組織は熱的に非常に安定で、この組織を有する鋼板は高強度であるにもかかわらず非常に良好な加工性を示すことを見出した。本発明はこの知見をもとにさらにSi、Mn、C、Al等の元素およびTi、Bなどの微量元素の影響および窒化条件および目的とする金属組織に制御するための熱履歴などを検討し達成されたものである。
【0013】
本発明の要旨とするところは
(1)Nを高濃度に含有させる。
(2)変態挙動を制御するためMn量を適当な範囲に制御する。
(3)窒化物を形成するSi、Al、B、Tiなどの含有量を適当な範囲に制御する。
(4)金属組織を形成する各相の強度を調整し、鋼板としての強度と伸びを調整するためC、Si、Mn、Pなどの強化元素量を制御する。
(5)複合組織を活用する場合には、オーステナイト、マルテンサイト、ベイナイトなどの存在量を調整するように熱履歴を制御することにある。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明における鋼成分の限定理由を以下に詳細に説明する。
Nは、本発明の最も重要な元素である。本発明の特徴である微細組織を得るには従来鋼以上に多量のNが必要である。そのメカニズムは必ずしも明確ではないが、Nはオーステナイト生成元素であり、後述のMnの影響も考慮するとフェライト−オーステナイトの変態が本発明の特徴である超微細粒生成に寄与しているものと考えられる。N濃度が0.05%未満ではその効果が見出せないか、効果を得るために高濃度の合金添加または厳格な熱処理が必要となるので下限を0.05%とする。通常、自動車部品等に用いられる、いわゆる加工用普通鋼をベースとする場合においては0.3%程度は必要となる。
【0015】
一方、N含有量を高めるにはN化処理時間が長くなるとともに、過剰なN含有は鋼中に多量のFe窒化物を形成し易くなり、延性を損ねる場合があるので上限を4.0%とする。通常、自動車部品等に用いられる、いわゆる加工用普通鋼をベースとし、通常の1分程度の連続焼鈍ラインを用いてN含有量を高める場合は、大体2%程度まで含有量を高めることができる。下限については、好ましくは0.10%、さらに好ましくは0.20%、さらに好ましくは0.30%、さらに好ましくは0.35%とする。上限については、好ましくは2.0%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.80%、さらに好ましくは0.60%とする。
【0016】
Mnも本発明では重要な元素で、Nと同様にオーステナイト安定化元素であることから前述の変態挙動に影響を及ぼし超微細粒生成に寄与していると考えられる。N量が十分に高く、また、C、Ni等の他のオーステナイト安定化元素の効果を活用できる場合にはMn量はそれほど高くする必要がない場合もある。鉄鋼原料等から不可避的に含有されることもあり、あえてコストをかけてまで低減する必要はない。下限は0.01%とする。一方、Ni等をそれほど含まない、いわゆる普通鋼においては、Mnは結晶粒の微細化効果を効率的に発現させるため非常に有効な元素である。
【0017】
Mn濃度が0.6%未満ではその効果が小さいか、あるいは所定の効果を得るには高濃度の合金添加または厳格な熱処理が必要となる。このため0.8%以上が望ましく、さらに好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.2%以上、さらに好ましくは1.5%以上とする。通常、自動車部品等に用いられる、いわゆる加工用普通鋼をベースとする場合においては1.7%程度は必要となる。上限は特に限定する必要はないが、過剰な添加はコストの上昇を招くばかりでなく表面欠陥または表面処理上の問題が出る傾向であり、オーステナイトを過剰に安定化させ最終的に常温まで多量のオーステナイト相を残存させ主としてフェライト相からなる結晶粒の微細化効果を損ねる場合もあるため10%を上限とする。より好ましくは6.0%、さらに好ましくは4.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは2.5%である。
【0018】
Siは、一般に固溶体強化による高強度化のために添加される元素であるが、冷間圧延を経て製造する場合には冷間圧延性が劣化するため、過剰な添加は通常の工程での鋼板の製造が困難となる。また、本発明鋼のような高N含有鋼では過剰に添加すると窒化物を形成し、延性を低下させるとともにNによる組織微細化効果を低減させるため、過剰な添加は好ましくない。一方、適当な量であれば延性をそれほど劣化させず高強度化を達成するには有効な元素であり、0.001〜4.0%とする。窒化物の形成を抑制するには、3.0%以下、好ましくは2.0%以下とする。めっき性や表面性状も考慮すると1.0%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。
【0019】
Alは、一般に脱酸材として用いられるが、Si以上に強い窒化物形成元素であるため、上述のSiと同様に過剰な添加は好ましくない。また、Alを多量に含有する溶鋼は鋳造時にノズルの閉塞等を起こし易く生産性を阻害する。さらに鋼板表面の疵の原因ともなるため4.0%以下とする。好ましい範囲は2.5%以下、さらに好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。
【0020】
Ti、Nb、およびBも、強い窒化物形成元素であり、過剰な添加は好ましくない。しかし、適当量存在した場合、非常に微細な窒化物を形成し結晶粒の超微細化効果を補う効果を有し、延性の劣化を補って余りあるほど顕著に高強度化させることも可能であるため必要に応じて利用することも有効である。TiおよびNbについては、各々0.2%以下、さらに好ましくは0.1%以下とし、Bについては、0.02%以下、好ましくは0.005%以下とする。
【0021】
Cは、過剰に存在するとセメンタイトを形成し延性を劣化させる場合があるだけでなく、セメンタイトの形成およびそれに起因する複雑な変態挙動を制御するために厳格な熱履歴の制御が必要となるので、あえて添加する必要はない。一方、オーステナイト安定化元素であるため適当な量であれば本発明の機構による結晶粒微細化効果に好ましい影響を与え、発明効果を得るためのN下限を緩和し窒化等によるN含有量を増加させる際の負荷を軽減する。脱炭コストを考えると下限は0.0005%程度であるが、本発明においては窒化の進行とともに脱炭が効果的に起き、通常では達成し難い超極低炭素化が図られる場合もある。このため下限を0.0001%とする。上限はオーステナイト安定化効果とセメンタイト形成を考慮し0.2%とする。好ましは0.1%以下、通常、自動車部品等に用いられる、いわゆる加工用普通鋼程度の0.05%以下でも全く問題はない。
【0022】
NiおよびCrは、本発明において特別な意味を有する。従来より、NiおよびCrを多量に含有する、いわゆるステンレス鋼において0.1%程度以上のNを含有する鋼が製造されている。一般に、本発明鋼が対象としているような自動車部品等に使用されるCr、Ni等を多量には含有しない、いわゆる普通鋼ではNの含有量は0.03%程度が限度である。これは通常、鋼の成分調整が行われる溶鋼段階でのNの溶解量には熱力学的に限界があるとともに、鋳造における凝固時の温度低下にともない鋼中のN固溶可能量が大きく低下しガス化するためブローホールの発生が顕著になり鋼板表面の性状が著しく劣化してしまうことからの規制である。
【0023】
一方、Cr、Ni等を10%程度から数10%含有する、いわゆるステンレス鋼では溶鋼を含む鋼中へのN溶解の許容量が熱力学的に格段に大きくなるため多量のN含有鋼の製造が可能となっている。しかし、ステンレス鋼においても通常の製法ではN量の上限はせいぜい0.3%程度である。このような、従来の高Nステンレス鋼でもNの多くはCr窒化物を形成してしまうため、また、様々な窒化物、炭化物の形成およびそれらにも影響を受ける変態挙動を考慮した制御がなされていないため、本発明の重大な進歩性の一つである超微細粒化効果を全く活用していない状況である。本発明鋼では凝固移行にN添加を行なうため上記のような熱力学に起因した原理的な制限がなくなり、Cr、Ni等を高濃度に含有せずとも高いNの含有が可能となっている。とは言え、本発明鋼で例えば耐食性を付与する等の本発明以外の目的でCr、Niを添加することは可能である。
【0024】
Crは強力な窒化物形成元素であるため過剰な添加は好ましくない。耐食性等への効果と添加コストを考え、好ましい範囲を20%以下とする。好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、また、3%以下であれば窒化物形成の影響は大幅に軽減される。より好ましくは0.1%以下とする。
Niはオーステナイト安定化元素であり、本発明の効果に好ましい影響を与える。添加コストを考え10%以下とする。しかし、過剰な添加はオーステナイトを過剰に安定化させ最終的に常温まで多量のオーステナイト相を残存させ主としてフェライト相からなる結晶粒の微細化効果を損ねる場合がある。変態を介した超微細化効果についてはNiとほぼ同等の効果を有するMnを活用した方がコスト的に大幅に有利であるためNi量は好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下とする。より好ましくは0.5%以下とする。
【0025】
Pは特に限定する必要はないが、Siと同様、適量な量であれば延性をそれほど劣化させず高強度化を達成するには有効な元素であり、また、Nb等と同様に元々結晶粒の微細化効果を有し、本発明による超微細化効果を補う効果を発揮し延性の劣化を補って余りあるほど顕著に高強度化させることも可能であるため必要に応じて利用することも有効である。脱Pコストと過剰添加による延性劣化を考慮し、0.001〜0.5%とする。
【0026】
Sも本発明においては、あえて添加する必要はなく、MnSを形成し本発明が必要とするMnの効果を減じる害があるため低い方が好ましい。従って、0.0001〜0.1%とする。
また、深絞り、張出し、めっき、耐食、溶接、靱性に限らず、耐磨耗性やデント性など様々な使用特性を向上させる目的で、さらには鋳造性、圧延性など製造上の課題を改善する目的でSn、Sb、Bi、Mo、V、W、Ta、Se等の各種元素を適当量添加することは本発明の効果を何ら損なうものではない。
【0027】
本発明鋼板の具備する特徴は結晶粒径が非常に微細なことである。通常の高強度鋼板が数μm〜10μm程度の粒径を有することから本発明鋼の結晶粒の直径を5.0μm以下と限定する。望ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下であり、組織の微細化に関しては条件を制御することにより0.5μmおよび0.1μm以下、さらなる微細化も可能である。粒径が微細であるほど特性上の特徴も明確になる。また、組織の微細化により、従来知見より向上が期待される特性、例えば、耐摩耗性や疲労特性などについても、好ましい効果を得ることができる。
【0028】
本発明は、基本的にフェライト相を主要相としているが、オーステナイト安定元素であるN、Mnを比較的多量に含有し、結晶組織の微細化に変態が関与していることが予想されることから、その組織中にオーステナイトが残留する場合がある。残留オーステナイトは強度−延性バランスの改善に有効であることから体積率が相当量になっても微細組織に起因する良好な特性が顕著に阻害されることはない。
【0029】
しかし、残留オーステナイトの体積率が20%を超すような材料に極度に厳しい成形を施した場合、加工中に歪に誘起された変態により生成するマルテンサイト相が応力の集中を招き延性が低下する場合があることや、プレス成形した状態で存在する多量のマルテンサイト相が二次加工性や衝撃性の低下を引き起こすことがあるので、残留オーステナイトの体積率を20%以下とすることが好ましい。オーステナイト相以外にもマルテンサイト相やベイナイト相などFeを主体とした相、さらにはFeまたは添加元素による窒化物や炭化物など多様な相の存在を勘案すると、好ましい範囲はフェライト相の体積率で50%以上である。
【0030】
次に、本発明鋼板の製造方法について説明する。本発明の特徴は従来の加工用鋼板では考えられなかったほどの高濃度のNを含有させることである。従来鋼のように溶鋼段階で成分調整し多くのNを含有させることは困難であるが鋼片または鋼板への窒化を適用すると比較的容易に高濃度のNを含有させることが可能になる。この窒化の方法はガスによるもの液体中で行うもの、さらには固体との接触やイオンやプラズマ照射などによるものが考えられる。いずれも窒化処理において含有N量を0.05%以下から、例えばNを0.05%以上増加させることが可能なものである。
【0031】
工業的な生産性等を考慮するとガスによる窒化が実用的である。ガスによる窒化の場合は板温550℃以上でアンモニアを2%以上含む雰囲気中で1秒以上保持、または550〜800℃のアンモニアを2%以上含む雰囲気中で1秒以上保持する。窒化は主として高温の金属表面に雰囲気が接触し雰囲気が分解する際に生じるN原子が金属中に侵入することで生じるので窒化反応が起きる際の温度の制御が重要である。後述するように温度がこの範囲を外れると窒化効率が低下し、必要量のN化に長時間を要する。また、低温側に外れた場合は多量の鉄窒化物を形成しそのままでは本発明鋼で必要とする結晶粒の微細化において好ましくNを活用することができない場合もある。好ましい温度域の下限は590℃、さらに好ましくは620℃である。高温側の温度は板温度のみが雰囲気温度に対して高温である場合と、雰囲気温度そのものが高温に保持される場合で事情が多少異なる。
【0032】
先ず、板温度が雰囲気温度に比較し高温になっている場合について説明する。これは、例えば雰囲気は特別に加熱することなく、高温に加熱された鋼板を、鋼板温度より低い雰囲気内に挿入する場合であり、例えば連続炉の前半部で通常の窒化が殆ど起きない雰囲気で鋼板を加熱しておき、連続炉の後半部は加熱しない窒化雰囲気にしておき、この中を通板させることで窒化を行なうような設備が想定できる。または連続ラインの途中で通電加熱等で鋼板を加熱し高温のまま室温程度の窒化雰囲気で満たされた槽内を通過させることで窒化するような設備が想定できる。この場合は高温の金属表面、すなわち加熱された鋼板表面で雰囲気の分解が起き、Nが鋼中に侵入し鋼板の窒化が進行する。
【0033】
この場合には雰囲気の分解および鋼中でのN拡散をより活性化するため板温度は高温であるほど好ましい。鋼板の加熱のための効率やコスト等を考えると通常1000℃以下とする。好ましくは900℃以下で800℃以下でも窒化効率は実用的に十分なものである。ただし、連続炉を想定した場合、低温雰囲気中への高温鋼板の連続的な挿入により、窒化炉内に新たな雰囲気を持続して導入しているとしても、窒化炉内への連続的な熱の持込により窒化雰囲気の温度は多少なりとも上昇する可能性がある。窒化雰囲気の温度があまりに上昇すると後述するように炉材として使用されている金属部での雰囲気の分解が起きるようになり鋼板への窒化効率が低下する場合があるので低温雰囲気中へ高温鋼板を挿入しての窒化を行なう場合には熱の移動および雰囲気温度の管理が重要である。
【0034】
もう一つの方法として雰囲気温度そのものを窒化が起きる程度の高温に保持しておき、その中に雰囲気と同程度まで加熱された鋼板を挿入する場合について説明する。これは、例えば通常の連続焼鈍ラインにおいて、通常高温雰囲気が満たされている加熱炉および保熱炉の炉内に雰囲気のガス成分のみを窒化ガス成分に変更し、通常と同様に鋼板を通板するような工程が想定できる。この工程で再結晶も同時に行なう場合は再結晶前半部で鋼板が窒化してしまうと鋼板の再結晶温度が上昇し、熱処理後に鋼板に未再結晶部が残存し加工性を劣化させる場合があるので、加工性等に好ましくない場合には注意が必要である。
【0035】
これを避けるには前半部での温度履歴と雰囲気成分を制御し、再結晶と窒化の時期を適当に制御し、再結晶が十分に起きた後に窒化が進行するようにする必要がある。この工程においては雰囲気温度が高すぎると鋼板の通板とは無関係に炉材の一部として使用される、例えば炉体そのものや各種の通板ガイドロール、加熱のためのバーナーなどの金属部分での雰囲気の分解が頻繁に起きるとともに雰囲気自体でも分解・反応が進行し、雰囲気の窒化能を低下させるため鋼板の窒化効率が低下する。また、炉体や各種部品が窒化してしまうため炉そのものの機能を低下させる場合もある。このため、好ましい雰囲気温度を800℃以下とする。好ましくは750℃以下である。
【0036】
ガス組成は特に限定しないが、N化に必要なアンモニアの濃度を窒化効率の観点から0.5%以上とする。窒化自体はアンモニアが0%でも雰囲気中に窒素が存在するば起きる可能性があるものであり、鋼板が非常に薄く必要なN含有量にするためのN化量も小さい場合には希薄アンモニア雰囲気の適用も可能である。通常の加工用鋼板を想定すればアンモニア濃度は2%以上、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上、さらに好ましくは20%以上とする。窒化雰囲気の濃度は窒化が起きることで雰囲気そのものの組成が変化するため一義的には確定できないし、厳格に窒化が進行している鋼板極表面での雰囲気組成を確定することは困難である。
【0037】
本発明では雰囲気組成については、窒化炉内に連続的にガスが導入されている場合はそのガスの体積分率を用いることとする。また、炉内に導入している雰囲気と窒化が進行している炉内の雰囲気が異なることが想定される場合には通常の環境測定等で用いられる程度の手法を用い窒化炉内の適当な場所で雰囲気を採取しその体積分率を測定するものとする。アンモニア以外の雰囲気が主としてN2 とH2 である場合は窒化効率の観点からはN2 濃度を高くする方が有利である。
【0038】
また、窒化に際しての本発明の温度および本発明の雰囲気中での保持時間は必要な鋼中N量との兼ね合いで決定される。連続焼鈍の場合にはせいぜい30分が限度であるが、箱焼鈍などを用いることで数時間以上、数日の処理も可能となる。板厚にもよるがN量の確保の観点から1秒以上は必要である。上限は操業性や生産性などを考慮し20日以内が望ましい。通常の連続焼鈍ラインを用いて窒化を行なう場合に生産性も考慮すれば300秒以下が好ましい。
【0039】
N化のタイミングは鋳片〜焼鈍板のいずれでも可能であるが、窒化では表面から鋼内部へのNの拡散を利用しているため板厚は薄いほど高濃度のN化が容易となる。通常は最終製品に近い形状に加工された後に窒化することが有利となる。鋼板の場合は熱間仕上げ圧延以降の工程で行うことが好ましく、通常の冷延鋼板の製造においては最結晶焼鈍工程中で焼鈍炉の一部または全部を発明雰囲気にすることでN化を行うことが生産上は都合がよい。
【0040】
工程の前半で高濃度のNを含有させ、その後の高温処理または適当な温度での保定により結晶粒の微細化に都合の良い熱履歴を付与する工程も可能であるし、焼鈍工程の最高温度への到達により再結晶および適当な延性を付与した後にN化を行うような工程も可能である。また、これらを組合わせたり、高温再結晶の後、発明範囲内の低温で窒化を行い、その後再び高温に昇温し組織制御を行うような工程によっても本発明の効果は何ら損なわれるものではない。
【0041】
結晶粒の微細化は高Nを含有させた後の熱履歴を制御することでより容易に達成できる。この熱処理は窒化処理と連続している必要はなく、いったん常温まで冷却した後、またはめっき処理や何らかの加工などを行った後に行っても構わない。また、特に鋼板表面から窒化した場合にはN濃度の鋼板板厚方向での偏析が考えられるが、高温保持によるNの拡散によりこれを解消する場合には必要な温度と時間を制御する。熱処理条件としては最高到達温度の制御が重要で、800℃以上に到達させるのが望ましい。好ましくは850℃以上、さらに好ましくは900℃以上である。保持時間は数秒で十分であるが、必要により数分または数時間以上保持しても構わない。
【0042】
また、窒化後の熱処理の最終工程において中間温度で保持することで強度延性のバランスをさらに向上させることが可能である。これは鋼中の固溶NおよびFe窒化物の形態が好ましく変化させるためと考えられる。保持温度は50〜550℃とする。この範囲でも高温域での保持はFe窒化物の生成を過剰に促進させ延性が極端に劣化することがあるので上限は好ましくは500℃、さらに好ましくは450℃とする。低温域では好ましい窒化物の形態変化に長時間を要するため下限は好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上とする。
【0043】
100〜150℃近傍で生成するFe窒化物はFe比率が高いのに対し、350〜450℃近傍の高温で生成するFe窒化物は低温で生成するものよりFe比率が低めで、温度によりFe窒化物の組成および形態が異なることからそれぞれ向上させる特性も異なることが予想されるので用途に応じた温度範囲を選定することが重要である。この温度域での滞在時間は低温ほど長時間とする必要が生ずるのは言うまでもないが、明確な効果を得るには10秒以上が必要である。
【0044】
また、この中間温度域での保持効果をより顕著にするにはその直前に行われた650℃以上に到達した熱処理において650℃以上の温度から400℃以下の温度まで10℃/秒以上の冷却速度で冷却しておくことが効果的である。好ましくは50℃/秒以上である。ただし、過度に急速な冷却は鋼成分や冷却終了温度にもよるが、鋼中にマルテンサイト相を生成させ延性を劣化させる場合があるので注意が必要である。上に述べた中間温度域での熱処理により鋼組成を好ましく制御した後は、この組織を保持するため550℃を超える温度への加熱は避けるのが望ましい。550℃を超える温度への加熱を行なうと上記の中間温度での保持による特性向上効果のかなりの部分が消失する。580℃以上では中間温度での保持による特性向上効果は殆どみられなくなる。
【0045】
本発明の特徴である微細組織は用途によっては鋼板の全ての部分が微細である必要はなく、耐摩耗性や疲労性の向上には表層のみが微細化されていればかなりの効果を得ることができる。また、部分的に組織が異なることで、強度や靱性など微細粒が有利な特性と、延性など粗大粒が有利な特性を組み合わせた複合機能を持たせることも可能となる。部分的に組織を変化させる方法としては、例えば成分を不均一にすることが考えられ、本発明のように窒化を行うものでは鋼板表面から中心へNの濃度勾配を付与し、他の元素は実質的に均一とする方法が考えられる。
【0046】
更に、本発明においては微細組織の発現にN以外のMn等の成分の影響が見られる。従って、Mn濃度が場所的に異なる鋼を一般に知られている爆着や圧着などの方法を用いて複層鋼として製造しこれを窒化するという方法も有効である。また、窒化後に行う調質熱処理において部分的に温度を変化させることでも組織を制御できる。本発明鋼の用途はその形状などにより何ら限定されるものではなく、鋼板として自動車、容器、建材など一般的に鋼板が使用されている用途に適用し本発明の効果を得ることができる。また、微細粒を形成した後に何らかの加工を施して強度調整、形状調整を行っても発明の効果が失われるものではない。
【0047】
【実施例】
(実施例1)
Nを0.010%以下含有する鋼片を通常の条件で熱延、冷延し得られた厚さ0.6mmの冷延鋼板について、鋼A−Eは800℃、1分の再結晶焼鈍、650〜700℃、5〜10分の窒化処理、900℃、2分の調質熱処理を行い、鋼F−Iは800℃、1分の再結晶焼鈍の後、すべて0.6%で調質圧延し各種特性を調査した。成分を表1に示すが、鋼A−Eにおいてはアンモニアガスを含む高温雰囲気で保持することによりN化を行い高濃度にNを含有させており、表1中のN量は最終製品での値である。鋼中N量は窒化処理での上記の範囲の温度、時間および表1に示すアンモニアガス濃度で調整した。特性の評価結果を表2に示す。一般に強度レベルが異なると成分等も異なり各種特性も大きく異なる場合があるため本実施例では強度レベルを550〜650MPaの範囲のものについて比較する。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
本発明鋼はいずれも特性が良好である。これに対し、比較鋼では合金成分のためめっき性が低いものや、溶接やめっき処理などを行った後には何らかの特性が劣化してしまう。加工性はJIS5号引張試験片によるゲージ長さ50mm、引張速度10mm/minの常温引張試験で評価した。結晶粒径は通常行われる断面組織観察において、特定面積内に観察される結晶粒の数から結晶粒1個あたりの断面積を求め、さらにこの結晶粒の断面形状を円とした場合の直径として求めた。
【0051】
微細組織の熱履歴に対する安定性は以下の二つの熱履歴に対し、熱履歴前後の結晶粒径を上述の方法で求め顕著な組織粗大化が起きていないものを合格とした。熱履歴の一つは溶接前後の変化を検討した。具体的には実用的な溶接条件でスポット溶接を行った場合の熱影響部の組織を観察した。もう一つは溶融めっき工程など比較的高温の熱処理を想定したもので、700℃、2分の熱処理後の組織を観察した。
○:変化なし
△:変化小
×:変化大
【0052】
さらに熱履歴に対する材質特性の安定性として、実用的な条件で合金化溶融亜鉛めっきを行った鋼板についてJIS5号引張試験片によるゲージ長さ50mm、引張速度10mm/minの常温引張試験で強度と伸びを評価し、めっき前の特性と強度−延性バランスの変化を比較した。
○:変化なし
×:軟化、延性劣化の一方または両方
【0053】
めっき性は実用的な条件で合金化溶融亜鉛めっきを行った鋼板について不めっき発生とめっき密着性について行い、不めっきは目視で有無を判定し、めっき密着性はめっき鋼板の60度V曲げ試験を実施後テープテストを行い、テープテスト黒化度が20%未満であれば合格とした。靱性はJISに準じた方法で評価した。鋼板中の残留オーステナイトの体積率はMoKα線を用いたX線回折の5ピーク法で測定した。
【0054】
(実施例2)
Nを0.010%以下含有する鋼片を通常の条件で熱延、冷延し得られた厚さ0.8mmの冷延鋼板について、鋼A−Eは800℃、1分の再結晶焼鈍、650〜700℃、5〜10分の窒化処理、900℃、2分の調質熱処理を行い、鋼F−Iは800℃、1分の再結晶焼鈍の後、すべて0.6%で調質圧延し各種特性を調査した。成分を表3に示すが、鋼A−Eにおいてはアンモニアガスを含む高温雰囲気で保持することによりN化を行い高濃度にNを含有させており、表3中のN量は最終製品での値である。鋼中N量は窒化処理での上記の範囲の温度、時間および表3に示すアンモニアガス濃度で調整した。
【0055】
特性の評価結果を表4に示す。一般に強度レベルが異なると成分等も異なり各種特性も大きく異なる場合があるため本実施例では強度レベルを900〜1100MPaの範囲のものについて比較する。尚、加工性等の評価方法は実施例1と同じ方法とした。本発明鋼はいずれも特性が良好である。これに対し、比較鋼では合金成分のためめっき性が低いものや、溶接やめっき処理などを行った後には何らかの特性が劣化してしまう。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
(実施例3)
Nを0.010%以下含有する鋼片を通常の条件で熱延、冷延し得られた厚さ0.4mmの冷延鋼板について、800℃、1分の再結晶焼鈍、650〜700℃、1〜5分の窒化処理、900℃、30秒の調質熱処理の後、すべて0.6%で調質圧延し各種特性を調査した。成分を表5に示すが、全ての鋼はアンモニアガスを含む高温雰囲気で保持することによりN化を行い高濃度にNを含有させており、表5中のN量は最終製品での値である。鋼中N量は窒化処理での上記の範囲の温度、時間および表5に示すアンモニアガス濃度で調整した。本実施例は鋼A−CでMnの効果、鋼D−GでSiの効果、鋼H−JでNbの効果を見るために行なったものである。なお、加工性等の評価方法は実施例1と同じ方法とした。特性の評価結果を表6に示す。
【0059】
【表5】
【0060】
【表6】
【0061】
Mnの効果を示している鋼A−Cの比較より過剰なMn添加がオーステナイトを過度に安定化し多量に残存させ延性にとって不都合な混相・混粒組織を形成し材質が劣化することがわかる。また、鋼D−Gの比較より過剰なSi添加により混粒組織が発生し延性が低下することがわかる。鋼Gでは鋼中に多量のSi窒化物が生成しており、主として固溶Nによると考えられる熱的に安定な微細結晶粒の生成効果が低下していると推測される。さらに、鋼H−Jの比較よりNb添加による結晶粒微細化効果の増長がわかる。なお、データは省略するが、本発明でMnと同様の効果を有すると考えているNiについてはMnと同様の傾向を示す結果を、本発明でSiと同様の効果を有すると考えているAlについてはSiと同様の傾向を示す結果を、本発明でNbと同様の効果を有すると考えているTiおよびBについてはNbと同様の傾向を示す結果をそれぞれ得ている。
【0062】
(実施例4)
C:0.002%、Si:0.02%、Mn:2.4%、P:0.01%、S:0.01%、Al:0.04%、CrおよびNi:0.1%以下、N:0.003%を含有する鋼片を通常の条件で熱延、冷延し得られた厚さ0.2mmの冷延鋼板について、800℃、1分の再結晶焼鈍の後、通電加熱で790℃に加熱した鋼板の両表面に40%のアンモニアガスを含む室温のガスを吹き付けることで5分間の窒化処理を行い、その後空冷で室温まで冷却したNを0.4%含む鋼板を用いて、その後の熱処理の影響を示す。この窒化後の熱処理として請求項10に関連する熱処理として900℃、2分の熱処理を行い、その後の冷却速度を請求項12との関連で変化させ、その後さらに請求項11および12に関連する熱処理として450℃または100℃での保持、さらに引続き同じく請求項11および12に関連する550℃を超える温度に保持する熱処理として650℃、30秒の熱処理を行った。
【0063】
各熱処理は窒化処理も含め各熱処理間で室温程度まで冷却することなく連続的に施すことも可能であるが、本実施例においては各熱処理の影響を見るため各熱処理終了時点での材質を評価する必要があるため、各熱処理後は室温まで冷却し、次の熱処理のための加熱を行なうように独立して行なった。熱処理条件および特性の評価結果を表7に示す。表7中の熱処理2および熱処理3における冷却は空冷とした。本実施例においては鋼成分が同一であり、かつ全ての材料が実用的に十分な本発明内となる熱的に安定な超微細粒組織になっていることを確認しており、溶接等による熱的な安定性についての評価結果は省略する。本実施例においては主として強度延性バランスの変化および靱性の評価に重点を起き評価を行なった。全ての材料が本発明鋼となるため評価は特性をランク付けることで以下のように行なった。
A:最高レベル
B:著しく良好
C:良好(従来鋼以上)
この結果からわかるように窒化処理後の熱処理を適当に行なうことで特性のさらなる向上が可能となる。
【0064】
【表7】
【0065】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により高強度化、高靱性を図り、溶接や溶融めっきなどの熱履歴を経てもその特性を失うことなく、使用条件においても初期特性を維持し、めっき付着性が良好なため高耐食性表面処理鋼板への適用も可能な高強度鋼板およびその製造方法を提供することが出来る。
Claims (10)
- 質量%で、
C:0.0001〜0.2%、
Si:4.0%以下、
Mn:0.01〜10.0%、
P:0.001〜0.5%、
S:0.0001〜0.1%、
Al:4.0%以下、
N:0.05〜4.0%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなる鋼であって、フェライト相の体積率が50%以上、オーステナイト相の体積率が20%以下であり、結晶粒径が平均で5.0μm以下であることを特徴とする加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板。 - Cr:0.1%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板。
- Ni:0.5%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板。
- さらに、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、B:0.02%以下の1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板。
- 請求項1〜4の鋼板を製造するに際し、鋼板を窒化することによりN含有量を0.03%以上増加させ、0.05%以上とすることを特徴とする加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板の製造方法。
- アンモニアを0.5%以上含む雰囲気中に鋼板温度550℃以上、1秒以上保持することでN含有量を0.03%以上増加させ、0.05%以上のNを含有させることを特徴とする請求項5に記載の加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板の製造方法。
- アンモニアを0.5%以上含む550〜800℃の雰囲気中に1秒以上保持することでN含有量を0.03%以上増加させ、0.05%以上のNを含有させることを特徴とする請求項6に記載の加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板の製造方法。
- 窒化処理によりN含有量を0.05%以上とした後、800℃以上の温度で熱処理を施し、結晶粒径を5.0μm以下とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板の製造方法。
- 窒化処理によりN含有量を0.05%以上とした後、50〜550℃の温度域で10秒以上滞在させることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板の製造方法。
- 窒化処理によりN含有量を0.05%以上とした後、650℃以上の温度から冷却速度10℃/秒以上で400℃以下まで冷却し、さらに50〜550℃の温度域で10秒以上滞在させることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の加工性、めっき性および靱性に優れた微細組織を有する高強度鋼板の製造方法。
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