JP4195722B1 - インパクトビームの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】遅れ破破壊が生じることなく、ドアの補強部材として必要な強度を確保し、また、遅れビーム本体部と取付部のブラケットとを一体成形するとともに、低コスト化を実現し、かつ、電気エネルギーを削減し、地球温暖化防止のためにCOの発生を抑えた冷間加工によるインパクトビームの製造方法を提供する。
【解決手段】 軟質なフェライトとマルテンサイトを微細に分散させ、引張強度1480〜1160MPaであり、降伏強度710MPa〜1215MPaと、伸び9%〜18%を有する高張力鋼板を使用した冷間プレス加工によるインパクトビームの製造方法であって、板取りした高張力鋼板のブランクWを中央部の断面形状が凹形ワークW1に成形する第1プレス工程S1と、凹形ワークW1の底部に深い谷でつないだ2つ山を設けたM字状ワークW2に成形をする第2プレス工程S2と、を含むインパクトビームの製造方法。
【選択図】 図2

Description

本発明は、インパクトビームの製造方法に係り、特に、冷間プレスによるインパクトビームの製造方法に関する。
自動車のドアの強度を向上させる方法の一つとして、ドアの内部、インナーパネルの内側にインパクトビームを装着することが行われている。図1は、インパクトビームを示し、(a)は全体の外観を示す斜視図、(c)は完成品の形状を示すA−A線の断面図である。図1の(a)に示すように、このインパクトビーム1は、中央部に位置するビーム本体1aと左右に位置する取付部(ブラケット)1b,1cが一体に形成されている。
図1の(c)に示すように、インパクトビーム1の中央部の幅Bが73mm、高さHが26.5mmであり、底部に近づけた深い谷の深さh1が23.5mm、h2が3mmである。また、コーナーR1とR2が5mmである。このように深い谷を有するM字状が成形されている。
図20は、従来の熱間プレスによるインパクトビームの製造工程を示す工程図である。図20に示すように、従来の製造方法は、高張力鋼板をロール材から引き出しながら打抜きプレスによって、ブランクに打ち抜く。その後、加熱装置により850℃以上でそのブランク20の融点未満の温度に加熱する加熱工程と、850℃以上の高温状態にあるブランク20に対し、所望形状を成形するプレス型を用いて熱間プレス加工を施す熱間プレス工程とを行い、インパクトビームを製造している(例えば、特許文献1参照)。
このような従来の熱間プレス加工では、熱処理のための加熱装置が必要なため、電気エネルギーを多く使用しなければならず、地球温暖化の元凶とされるCOを発生させるという問題があった。
この加熱装置によるCOの発生量は、電力量1kwh当りCO0.36kg発生であるから、1日の使用電力量1000kwh×0.36kg/kwhとなり、1日360kgのCOを発生させている。年間250日稼動とすれば、360kg×250日となり、年間90.0ton発生させていることになる。
また、このような高張力鋼の熱間プレス加工(ホットスタンプともいう)では、加工時間が1個当たり25秒と長いため、生産性が悪く、高コストであるという問題があった。
一方、短時間で加工ができる高張力鋼の冷間プレス加工(コールドスタンプともいう)には、従来から3つの問題が指摘されていた。
1)高張力鋼に冷間プレスを施した場合、応力の影響が製品に残留し、時間が経つと遅れ破壊(製品が自己崩壊する現象)が生じ、品質の確保が困難になる恐れがある。
2)単にプレス加工を施して高張力鋼からインパクトビーム等のドア補強材を製造しようとしても、ドアの補強部品として必要な強度の不足が生じ、その加工も困難である。
3)こうした事情からインパクトビームは、本体部と取付部(ブラケット)とを2ピースにしており、冷間プレス加工により一体成形は困難である。
特許3389562号公報(段落[0005]〜[0007]、図3〜図5)
そこで、本発明は、前記問題点に鑑み創案されたものであり、遅れ破壊が生じることなく、ドアの補強部材として必要な強度を確保し、また、ビーム本体部と取付部のブラケットとを一体成形するとともに、低コスト化を実現し、かつ、電気エネルギーを削減し、地球温暖化防止のためのCOの発生を抑えたインパクトビームの製造方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決した請求項1に記載されたインパクトビームの製造方法の発明は、軟質なフェライトとマルテンサイトを微細に分散させ、引張強度1480〜1160MPaであり、降伏強度710MPa〜1215MPaと、伸び9%〜18%を有する高張力鋼板を使用した冷間プレス加工によるインパクトビームの製造方法であって、板取りした高張力鋼板のブランク(W)を中央部の断面形状が凹形ワーク(W1)に成形する第1プレス工程(S1)と、前記凹形ワーク(W1)の底部に深い谷でつないだ2つ山を設け、その2つの山を前記凹形ワーク(W1)の谷深さと略同一の高さのM字状ワーク(W2)に成形をする第2プレス工程(S2)と、を含むことを特徴とする。
請求項1に係る発明によれば、軟質なフェライトとマルテンサイトを微細に分散させ、引張強度1480〜1160MPa、降伏強度710MPa〜1215MPaと、従来比で2倍の延性である伸び9%〜18%を有する高張力鋼板を使用したことにより、加熱装置を必要としない冷間プレス加工による製造方法により製造することができる。すなわち、従来、冷間プレス加工では困難であるとされた問題点の残留応力を抑え、遅れ破壊の発生を抑えるために、従来の一回による冷間プレス加工を二回に分割し、凹部状に成形する第1プレス工程と、M字状の2つ山の成形をする第2プレス工程とする。これにより、ドアの補強部材としての必要な強度が確保でき、また、ビーム本体部とブラケット部とを一体成形を可能にするとともに、インパクトビームの製造時間を短縮して低コスト化を可能にし、かつ、電気エネルギーを削減し、地球温暖化防止のためのCOの発生を抑えたインパクトビームの製造方法を提供することができる。この冷間プレスの加工方法により、従来の過熱装置が不要になったことから、CO発生の低減量は、年間85.7ton削減することができる。
以下、本発明の一実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、インパクトビームを示し、(a)は全体の外観を示す斜視図、(b)は第1プレス工程での加工形状を示すA−A線の断面図、(c)は第2プレス工程での完成品の形状を示すA−A線の断面図である。このインパクトビーム1は、軟質なフェライトFとマルテンサイトMを微細に分散させて高い延性を有し、高い引張強度1180MPaとを兼ね備えた高張力鋼を開発したことにより、これまでの定説を覆して冷間プレス加工による量産加工を実現した。
図1の(a)に示すように、このインパクトビーム1は、中央部に位置するビーム本体1aと左右に位置する取付部(ブラケット)1b,1cが一体に形成されている。さらに、この取付部(ブラケット)1b,1cは、例えば、リアドアの内部にスポット溶接により装着される。また、冷間加工のため、1dにはを設けることにより、残留応力を減らし、これにより平面のしわ防止にもなり、平面のフランジ部への影響を少なくしている。

<製造工程>
図2は、本発明のインパクトビームの冷間プレスによる製造工程を示す工程図である。図2に示すように、高延性で、高引張強度(1480〜1160MPa)を兼ね備えた高張力鋼板を使用した冷間プレス加工によるインパクトビームの製造方法を説明する。ここでは、1180MPaの高張力鋼板での試験結果も紹介しながら、詳細に説明する。
ステップSのブランク工程は、高張力鋼板のロールから引出しながらブランクWに板取りする。または、高張力鋼板のシートからブランクWに板取りしてもよい。
ステップS1の第1プレス工程は、ブランクWを凹部状の第1ワークW1に成形する。図1の(b)に示すように、A−A線の断面形状は、横断面形状が凹形状の第1ワークW1にして2工程に分けることによって、残留応力を抑えることができる。
ステップS2の第2プレス工程は、前記凹部状の第1ワークW1をさらにM字状、2つ山状の第2ワークW2へ成形をする。図1の(c)に示すように、断面形状がRを大きくした2つ山を有するM字状のインパクトビームで完成となる。
この結果、従来の加工時間25秒に対しは、3秒という短時間(約1/8)に短縮できるため、低コスト化、および、量産化に顕著な効果を発揮する。また、熱処理工程が不要にできることから、従来の加熱装置(図20参照)が不要となり、電気エネルギーを削減し、地球温暖化防止のためのCOの発生を抑えたプレス加工ができる。その効果は、両者を比較検証した表1で詳細に説明する。
表1は、従来工法の熱間プレスと、本願工法の冷間プレスとを比較した比較表である。表1に示すように、第1工程の打抜きプレス1と第1工程の打抜きプレスSは同等である。また、第3工程の成形プレス3と第3工程の第2プレスS2も、ほぼ同等である、と見ることができるため、これらのプレス加工機の稼動に伴う消費電力量は同じである。
したがって、第2工程の比較でよいことになる。
本願工法の第2工程の第1プレスS1の電力使用量は1日当たり48kwhである。
1日当たりのCOの発生量を求めると、1kwh当たりCOを0.36kg発生させるから、48kwh×0.36kg/kwhとなり、1日17.3kgのCOを発生させることになる。年間250日稼動とすれば、17.3kg×250日は、年間4.3tonとなる。従来の熱間プレス加工の加熱装置によるCOの発生量の年間90.0tonと差を求めると、年間90.0ton−年間4.3tonであるから、年間85.7ton(95%)のCOの発生を抑えることができる。
[表1]
さて、従来部品(TS1470MPa)と同等の衝突強度を確保するためには、1470MPa級の高張力鋼板を使用するのが望ましいが、現状、1470MPa級の高張力鋼板は、複雑な冷間プレス加工に耐えうるだけの十分な延性を有しておらず、また、強度レベルが高くなると、遅れ破壊の発生が増す恐れがある。
そこで、従来の高張力鋼板の引張強度を少々犠牲にして降伏強度を下げ、より延性の高い1180MPa級の高張力鋼板を用いて、部品断面形状の最適化、および、冷間プレスによる加工硬化を活用することにより部品強度の確保を図ることができた。
この冷間プレスによる加工硬化の活用とは、高い延性を利用し、可能なレベルでプレス加工時の加工硬化による引張強度を増加させるものである。素材強度以上の部品の強度を高めることにより、構造と材料そのものの強度に対する相乗効果を得ることができる。
図3は、出願人が製造した従来品と本発明のインパクトビームの断面形状を示し、(a)は従来部品の断面図、(b)は本発明(開発部品という)のインパクトビームの断面図である。開発部品(b)は断面係数の増加を狙い、深いM字形を採用した。また、部品質量を従来比で同等以下とするため、部品の板取りの幅が増える分、板厚を薄くしている。
図4は、本発明のインパクトビームの冷間プレス加工した際の歪を有限要素法(FEM:Finite Element Method)により計算し、その結果を濃淡で表した斜視図である。歪量の高いところほど明るい色になっている。インパクトビームは、図3の(b)に示すような深いM字形の断面形状にした場合、図4に示すように、しかも厳しい部位で10%程度の板厚減少が見られた。また、従来の高張力鋼板では、全伸びが7%しかないため、このような厳しい加工は困難であり、プレス時に割れが生じることは不可避であると考えられる。
そこで、インパクトビームの冷間プレス加工用の材料として新たに開発した高張力鋼板(高延性1180MPa級)を適用した。表2は、今回開発した高張力鋼板(以下、開発の高張力鋼板という)と従来の高張力鋼板の引張特性の比較表である。表2に示すように、板厚は双方とも1.4mmで同じ、引張り強さ(TS)も1230MPaと1210MPaで互角であるが、降伏強度(YS)は1030MPaに対して860MPaと約83%であり、延性を示すEl(%)は14%あり、従来(7%)の2倍になっている。
[表2]
図5は、インパクトビームに使用する高張力鋼材の鋼組織を比較して示す電子顕微鏡(SEM)組織写真であり、(a)は開発した高張力鋼板、(b)は従来の高延性1180MPa級の高張力鋼板である。深いM字状の断面を有するインパクトビームを開発するには、高い伸び特性が要求されるが、従来の1180MPa級鋼がマルテンサイト単相組織であるのに対し、開発の高張力鋼板は軟質なフェライトFとマルテンサイトMを最適な比率で微細に分散させている。これにより、高い強度と約2倍の高い延性を達成している。

図6は、インパクトビームに使用する高張力鋼板の加工硬化量(WH)と焼付硬化量(BH)の定義をする説明図である。
図6に示すように、縦軸に応力、横軸に歪(ひずみ)を取り、応力−歪曲線を示す。
永久歪を0.2%とした破線と曲線との交点が降伏強度のYSである。
YS′は、加工硬化後の降伏応力 を示し、△YSは、その増加量を示している。
加工硬化(WH)は、素材の引張応力からプレス加工により増加される引張応力であり、焼付硬化(BH)は、塗装前後にて増加する引張応力である。
このように、開発高張力鋼板は、高い加工硬化(WH)特性および焼付硬化(BH)特性を示している。一般に延性の低い高張力鋼板は、単軸引張やプレス加工において割れが発生することから、このような効果は、望めるものではない。
図7は、インパクトビームに使用する高張力鋼板の焼付硬化(BH)特性を示すグラフであり、縦軸が降伏強度(△YS)、横軸が予歪(%)である。図7に示すように、これは、板厚1.4mm、YS=940MPa、TS(引張強度)が1270MPaの開発の高張力鋼板から、圧延直角方向に平行に採取したJIS5号試験片を用い、一軸引張試験にて1〜6%の予歪を付与し、塗装後の焼付け処理を模擬して180℃×20分の熱処理を施し、その後、再び引張試験を行ったときの、WH量およびBH量に及ぼす予歪量の影響を示すグラフである。WH量は予歪量と共に増加し、予歪2%で250MPaに達する。また、BH量は予歪1%以上で150MPaを超えており、高いBH特性を示していることが判る。
図8は、インパクトビームに使用する鋼材を細分化した引張試験片の位置を示す説明図である。図8に示すように、インパクトビームの上面には、A1,A2,B1,B2,C1,C2,D1,D2の8箇所の引張試験片の位置を示している。有限要素法(FEM)による成形解析の結果、冷間プレス加工によるM字断面縦壁部には約3%の歪が導入されることが判明した。そこで、図8に示す各位置から米国材料試験協会(ASTM:American Society of Testing and Materials)のサブサイズの引張試験片を採取し、180℃×20分の熱処理後に引張試験を行った。
図9は、インパクトビームに使用する鋼材の位置に対する各引張試験片の降伏強度(YS)を示すグラフである。なお、値は3部品の平均値である。図9に示すように、インパクトビームに使用する開発部品の加工、熱処理後の降伏強度(YS)は、ダイクエンチ材のYSの報告値(約1050MPa)に比べて高い値になっている。
つぎに、実際にインパクトビームのプレス部品の三点曲げ試験を実施した結果を示す。
図10は、インパクトビームの曲げ試験の方法を説明する模式図である。図10に示すように、支持スパンLは500mmであり、荷重Pを掛ける加圧部の円弧形状R1は152.5mm、両端支持部の円弧形状R2は12.5mmである。試験片の中央部に荷重Pを掛け、移動量dまで移動してインパクトビームを曲げる。
図11は、この曲げ試験でのインパクトビームのプレス部品の荷重変位曲線を示すグラフである。図11に示すように、比較できるように、従来のダイクエンチ(熱間プレス)成形(上)と本願の冷間プレス(下)の場合を示している。従来のダイクエンチ成形(上)では最高荷重が20kNであるのに対し、インパクトビームの開発部品の冷間スタンプ(下)は約19kNとなっている。また、インパクトビームは、高い加工硬化(WH)と焼付硬化(BH)を示す高延性1180MPa級の高張力鋼板を用いたことにより、さらに、深いM字形状とすることができ、しかも、従来部品と同等以下の質量で、ほぼ同等の耐衝撃特性が達成させることができる。
<遅れ破壊に対する安全性の確認>
インパクトビームは、本開発部品に限らず、引張強度(TS)が1180MPa以上の高張力鋼板を使用する場合、使用中の遅れ破壊が懸念されている。このため、遅れ破壊に対する安全性の確認を行った。
図12は、インパクトビームに使用する材料の遅れ破壊の発生領域を示す説明図である。下面の縦軸に応力、横軸に歪、高さ方向に侵入水素量を取る。プレス加工後に使用される自動車用薄高張力鋼板の遅れ破壊特性評価に関する報告は少ないが、薄高張力鋼板においては、冷間プレスによる加工歪の影響を考慮した遅れ破壊特性評価方法が必要と考えられる。すなわち、材料に応じて遅れ破壊が懸念される使用条件(歪、応力、侵入水素)の領域を示す。このように、予めラボサンプルにより明確にした。これにより、実際のプレス部品の加工状態、応力状態、侵入水素量と比較することで、プレス部品の実使用環境での破壊の危険性を予測できる。
図13は、インパクトビームに使用する材料からなる試験片の形状を示す説明図である。試験片は、M字形状の部品では、M字断面の頂点の加工が最も厳しく、かつ、加工による残留応力も高くなると考えられることから、図13に示すように、試験片は、板厚1.4mmの高張力鋼板から試験片の長手を圧延方向に平行に採取した30mm×100mmのサンプルに、2個のボルト通穴(φ10mm)を設け、U形曲げ加工を行い、ボルト通穴にボルトを通してナット(図示せず)により締付けて曲げ応力を負荷した。そして、試験片を30℃、0.1規定の塩酸(HCL)中に最大300時間まで浸漬して破壊時間および侵入水素量を調査した。
破壊時間に及ぼす加工歪量の影響を曲げ半径を変化させることで、また、負荷応力の影響を、ボルト締付け間隔d(図13参照)を変化させることで評価した。U曲げ頂点部の表層の応力は、X線微小応力測定装置(Cr−Kα線、管電圧35kv、管電流25mA、回折面α−Fe(211))で測定した。塩酸浸漬により鋼中に侵入する拡散性水素量は四重極質量分析計を用いた昇温分析法(昇温速度600℃/h)により測定した。なお、せん断加工の影響を排除するために、試験片長手の端面には機械研削加工を施した。
供試材をU形曲げ加工したときに外観上良好に成形できるきる最小の曲げ半径(極限曲げ半径)は2mmで、曲げ半径1.5mmでは試験片の外表面に微小クラックが発生した。
図14は、インパクトビームに使用する材料からなる試験片の破壊時間と曲げ半径の関係を示すグラフであり、縦軸が破壊時間(h)、横軸が曲げ半径(mm)である。図14は、U字形に曲げ加工後、スプリングバック分をボルトで締付けた試験片を0.1規定塩酸中に浸漬したときの破壊時間に及ぼす曲げ半径の影響を示している。例えば、曲げ半径(R)が4mm以上では破壊していないが、2mmでは短時間で破壊している。
図15は、試験片の曲げ加工後、塩酸浸漬前のU形に曲げ頂点部の断面の組織を示す電子顕微鏡(SEM)写真であり、(a)はR=2mmの試験片、(b)はR=4mmの試験片である。(a)に示すように、短時間の塩酸浸漬で破壊したR=2mmの試験片では、試験片内部の至る所にマイクロボイド(微小空孔:△印で示す)が生成しているのが判る。
一方、(b)に示すように、R=4mmの試験片では、マイクロボイドは観察されない。このことから、高延性で、引張強度1180MPaの高張力を有する材料において、限界曲げ半径の近傍の強加工領域では、加工により高張力鋼板内部にマイクロボイドが生成しており、破壊が促進された可能性がある。
このように、インパクトビームの材料を曲げ加工する際、加工限界に近い強加工領域では、遅れ破壊が促進される可能性があるので、注意が必要である。
図16は、R=2mmの試験片の破壊時間に及ぼす表層負荷応力の影響を示すグラフであり、縦軸が破壊時間(h)、横軸が表層負荷応力(MPa)である。図16に示すように、表層負荷応力が約800MPa(ボルト締付け間隔、d=4mm)では破壊しているが、約230MPa(d=12.5mm)と、−320MPa(d=21mm、ボルト締付け無し)では、加工条件の厳しいR=2mmにおいても破壊は発生していない。
図17は、インパクトビームに使用する材料の水素放出線を示すグラフであり、縦軸が水素放出速度wtppb・s-1、横軸が温度(℃)である。図17に示すように、水素放出速度は、160℃を中心に100℃〜300℃まで突出しているのが判る。つまり、図17は、0.1規定塩酸20時間浸漬後の試験片(R=5mm)の、破壊が発生するU曲げ頂点部から採取したサンプルの昇温分析法により分析したときの水素放出線を示す。拡散性水素は、この300℃以下で高張力鋼から放出される水素をいい、遅れ破壊に影響を及ぼすと考えられている。
図18は、インパクトビームに使用する材料における拡散性水素量と塩酸浸漬時間の関係を示すグラフである。つまり、図18は、0.1規定の塩酸に浸漬したR=5mmの試験片U字曲げ頂点部の拡散性水素量と塩酸浸漬時間の関係を示している。図18に示すように、拡散性水素量は24時間で、約0.6wtppmで飽和することが判る。
なお、鋼中の水素量は、負荷応力によって変化すると一般に言われているが、曲げ加工では静水圧応力がゼロになるため、水素量への負荷応力の影響を考慮する必要がないと考えられる。実験においても、侵入水素量への負荷応力の影響が認められなかったことから、水素分析はボルト締付け無しのサンプルについて行った。
図19は、対象鋼において遅れ破壊の発生領域をまとめた説明図である。下面から少し上に記載の平面は実環境を示し、さらに上昇した平面は、0.1規定のHCL(塩酸)の環境を示している。また、球の印は、300時間破壊無しを示し、×印は破壊発生を示している。図19に示すように、遅れ破壊の発生領域を回避するためには、曲げ半径を4mm以下にしないこと。負荷応力を400MPa以下に抑えることで可能であることが判る。
したがって、インパクトビームに使用する材料の使用条件(曲げ半径、応力、侵入水素量)は、M字状の曲げ半径が6.4mmであり、開発部品の応力、歪の状態は、遅れ破壊の発生領域から十分離れていると考えられる。つまり、開発部品の加工歪、応力状態は、ラボサンプルで評価した開発の高張力鋼板の遅れ破壊危険領域から外れている。また、0.1規定塩酸浸漬による侵入水素量約0.6ppmと実環境での腐食に伴う侵入水素量より高いと推定されることから、開発部品の実使用環境での遅れ破壊の危険性は小さいことが確認された。
また、実際に開発部品の塩酸浸漬試験も実施したが、曲げ頂点付近、ならびに引張応力となっていると考えられる曲げ頂点の内側(X線応力測定では凹部の応力測定はできない)においても破壊は発生していない。さらに、実際の使用環境での後半の腐食に伴う侵入水素量の報告は薄高張力鋼板では少ないが、高強度ボルトなどの調査結果において、0.1ppm程度であるとの報告があり、実環境では0.1規定塩酸浸漬と比べて遅れ破壊の危険性は小さいと考えられる。確認のため、インパクトビームが使用される実環境に近い、腐食サイクル試験での破壊の有無も調査したが、U曲げサンプル、開発部品ともに破壊しなかった。
なお、本検討では、0.1規定塩酸300時間浸漬という実環境と比較すると厳しい(侵入水素量が多い)条件での評価を実施したが、実部品の遅れ破壊のリスクを過不足なく評価するためには、浸漬液、浸漬時間の最適化が必要と考える。
以上のように、今回開発した高延性タイプの1180MPa級の高張力鋼板で製造されたインパクトビームの加工歪、応力状態は、実環境での腐食に伴う水素侵入による遅れ破壊に対して十分安全な領域にあることが確認された。
なお、本確認作業においては、0.1規定塩酸300時間浸漬という実環境と比較すると厳しい(侵入水素量が多い)条件での評価を実施した。
<まとめ>
(1)高い加工硬化量(WH)、および、焼付硬化量(BH)特性を示す高延性タイプの1180MPa級鋼を用いたインパクトビームの加工方法は、低コスト化が可能な冷間プレスとし、インパクトビームの断面形状は深いM字形状とすることにより、従来部品と同等以下の重量で、ほぼ同等の耐衝撃特性が得られ、かつ低コスト化が達成された。
(2)開発部品の加工歪、応力状態は、ラボサンプルで評価した開発の高張力鋼板の遅れ破壊危険領域から外れており、また、0.1規定塩酸浸漬による侵入水素量約0.6ppmと実環境での腐食に伴う侵入水素量より高いと推定されることから、開発部品の実使用環境での遅れ破壊の危険性は小さいことが確認された。
(3)従来の熱間プレスから、冷間プレスにすることにより、加熱装置が不要となり、電気エネルギーを削減し、地球温暖化防止のためのCOの発生を年間85.7ton(95%)抑えることができる。
なお、本発明は、その技術思想の範囲内で種々の改造、変更が可能であり、自動車用ドアの内部に装着される補強部材として最適であるが、その他の補強部材として利用可能である。例えば、ここではリアドア(後部のドア)で説明したが、フロントドア(前席のドア)や、バックドア、スライドドアのほかに、跳ね上げ式のドア用の補強部材としてもよい。
インパクトビームを示し、(a)は全体の外観を示す斜視図、(b)は第1プレス工程での加工形状を示すA−A線の断面図、(c)は第2プレス工程での完成品の形状を示すA−A線の断面図である。 本発明のインパクトビームの製造工程を示す工程図である。 出願人が製造する従来品と本発明のインパクトビームの断面形状を示し、(a)は従来部品の断面図、(b)は本発明のインパクトビームの断面図である。 本発明のインパクトビームの冷間プレス加工した際の歪を濃淡で表した斜視図である。 鋼組織を比較して示す電子顕微鏡写真であり、(a)は従来の高張力鋼板、(b)は高延性1180MPa級の高張力鋼板である。 加工硬化量(WH)と焼付硬化量(BH)の定義をする説明図である。 焼付硬化(BH)特性を示すグラフである。 細分化した引張試験片の位置を示す説明図である。 各引張試験片の降伏強度(YS)を示すグラフである。 曲げ試験の方法を説明する模式図である。 この曲げ試験での荷重変位曲線を示すグラフである。 遅れ破壊の発生領域を示す説明図である。 試験片の形状を示す説明図である。 破壊時間と曲げ半径の関係を示すグラフである。 試験片の曲げ加工後、塩酸浸漬前のU形に曲げ頂点部の断面の組織を示す電子顕微鏡写真である。 R=2mmの試験片の破壊時間に及ぼす表層負荷応力の影響を示すグラフである。 水素放出線を示すグラフである。 拡散性水素量と塩酸浸漬時間の関係を示すグラフである。 対象鋼において遅れ破壊の発生領域をまとめた説明図である。 従来の熱間プレスによる製造工程を示す工程図である。
符号の説明
1 インパクトビーム
1a ビーム本体
1b,1c 取付部(ブラケット)
2 可動型
3 固定型
d 間隔
W ロール状ワーク(シート状ワーク)
W1 ブランク
W2 第1ワーク
W3 第2ワーク

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  1. 軟質なフェライトとマルテンサイトを微細に分散させ、引張強度1480〜1160MPaであり、降伏強度710MPa〜1215MPaと、伸び9%〜18%を有する高張力鋼板を使用した冷間プレス加工によるインパクトビームの製造方法であって、
    板取りした高張力鋼板のブランク(W)を中央部の断面形状が凹形ワーク(W1)に成形する第1プレス工程(S1)と、
    前記凹形ワーク(W1)の底部に深い谷でつないだ2つ山を設け、その2つの山を前記凹形ワーク(W1)の谷深さと略同一の高さのM字状ワーク(W2)に成形をする第2プレス工程(S2)と、
    を含むことを特徴とするインパクトビームの製造方法。
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