JP2010107297A - 薄鋼板の遅れ破壊特性の評価方法および応力付加治具 - Google Patents
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Abstract
【課題】V形状に成形加工を施した薄鋼板の遅れ破壊特性を正確に評価する手法を提供する。
【解決手段】V形状に曲げ加工を施した薄鋼板の曲げ加工部に、的確に応力を付加できる応力付加治具を用いて応力を付加し、その状態で水素侵入環境中に保持した時の曲げ加工部の亀裂の発生状況により、遅れ破壊特性を評価する。
【選択図】図1
【解決手段】V形状に曲げ加工を施した薄鋼板の曲げ加工部に、的確に応力を付加できる応力付加治具を用いて応力を付加し、その状態で水素侵入環境中に保持した時の曲げ加工部の亀裂の発生状況により、遅れ破壊特性を評価する。
【選択図】図1
Description
本発明は、主としてプレス加工により製造される、高強度鋼板を適用した自動車のセンターピラーやドアインパクトビームなどの車体構造部材の曲げ加工部における遅れ破壊特性の評価方法および本評価方法に使用して好適な応力付加治具に関するものである。
近年、CO2排出量の増加による地球温暖化への懸念から、特に欧州では、自動車のCO2排出量の規制が進んでおり、CO2排出量に直接関係する燃費の改善が強く求められている。燃費の改善には、車体の軽量化が有効であるが、車体構造部材の重量を低減した場合でも、乗員の安全性の確保のため、衝突安全性を従来以上に確保することが必要とされる。
上述の車体構造部材軽量化および衝突安全性の双方の確保を図るため、高強度材料の適用による鋼板の薄肉化が検討されており、引張強度980MPa〜1180MPaクラスの高強度鋼板のセンターピラーやドアインパクトビームに代表される車体構造部材への適用が進んでいる。また、最近では、さらなる車体軽量化の要求から、1180MPaクラス以上の高強度鋼板を適用する車体の軽量化方策を視野に入れた検討が行われ始めている。
自動車の車体構造部材は、一般にプレス成形により製造されるが、引張強度で980MPaを超える高強度の材料では、プレス成形後の残留応力と使用中の環境から侵入する水素に起因した遅れ破壊が懸念される。そのため、高強度の鋼板を上述のような車体構造部材として適用するためには、遅れ破壊特性に優れることが必要となる。
従来より高強度化の検討が進められてきたボルトやPC鋼棒、ラインパイプなどに使用される鋼材の遅れ破壊特性は、非特許文献1に述べられているように、公的規格を含む種々の手法によって確立されている。これに対し、薄鋼板の遅れ破壊特性評価方法は、いまだ確立されていない。
従来より高強度化の検討が進められてきたボルトやPC鋼棒、ラインパイプなどに使用される鋼材の遅れ破壊特性は、非特許文献1に述べられているように、公的規格を含む種々の手法によって確立されている。これに対し、薄鋼板の遅れ破壊特性評価方法は、いまだ確立されていない。
その理由としては、薄鋼板をプレス加工により種々の形状に成形して使用することが一因として挙げられる。すなわち、薄鋼板は、プレス加工によるひずみや部品として使用される際の組付けなどによる残留応力など、ボルト部材などの使用条件下では考慮しなくて良い、遅れ破壊特性に影響を及ぼす因子がある。従って、ボルト部材などの遅れ破壊特性評価手法を薄鋼板の遅れ破壊特性評価にそのまま適用しても、十分に正しい評価が行えるとはいえない。
従って、より正確に薄鋼板の遅れ破壊特性を評価するためには、加工によるひずみの影響や組付けなどにより発生が予想される残留応力の影響、さらには使用環境からの材料への水素侵入量の影響等を適切に反映できる試験方法が必要となる。
従って、より正確に薄鋼板の遅れ破壊特性を評価するためには、加工によるひずみの影響や組付けなどにより発生が予想される残留応力の影響、さらには使用環境からの材料への水素侵入量の影響等を適切に反映できる試験方法が必要となる。
このような高強度薄鋼板の遅れ破壊特性評価手法として、特許文献1では、高強度薄鋼板をU形状に曲げ加工して薄鋼板にひずみを導入し、この曲げ加工時に発生するスプリングバックをボルトで締込むことで応力を付加した試験片を作製し、電気チャージ法により試験片中に水素を導入し、破壊が生じるまでの時間を測定する手法を提案している。なお、電気チャージ法とは、電解溶液中に試験片が陰極となるように電極対を設置し、電流を流したとき生じる陰極側の電解反応により試験片中に水素を導入する手法である。
しかし、プレス成形される鋼板は、U形状だけではなくV形状に曲げ加工が施される場合がある。
U形状曲げ加工とV形状曲げ加工を比較した場合、曲げ加工により破壊が生じる限界の曲率半径(以下限界曲げ半径と記す)は、V形状曲げ加工の方が小さい。そのため、小さい曲げ半径の必要な部材では、V形状曲げ加工が採用される。
最近では、前述した軽量化の影響で小さい曲げ半径の必要な部材が増え、プレス成形される鋼板の形状は、U形状よりもV形状に曲げ加工される場合が増加している。
なお、本発明におけるV形状曲げ加工とは加工後の鋼板の開いている角度が0度を超え180度未満となる曲げ加工を意味する。
U形状曲げ加工とV形状曲げ加工を比較した場合、曲げ加工により破壊が生じる限界の曲率半径(以下限界曲げ半径と記す)は、V形状曲げ加工の方が小さい。そのため、小さい曲げ半径の必要な部材では、V形状曲げ加工が採用される。
最近では、前述した軽量化の影響で小さい曲げ半径の必要な部材が増え、プレス成形される鋼板の形状は、U形状よりもV形状に曲げ加工される場合が増加している。
なお、本発明におけるV形状曲げ加工とは加工後の鋼板の開いている角度が0度を超え180度未満となる曲げ加工を意味する。
上記V形状に曲げ加工を施した場合の曲げ加工部では、曲げ半径に応じて導入されるひずみ量が異なり、曲げ半径が小さいほどひずみ量は大きくなる。すなわち、限界曲げ半径でV形状に曲げ加工した鋼板では、同じく限界曲げ半径でU形状に曲げ加工した鋼板よりも多量のひずみが導入される。
しかし、特許文献1に開示の手法では、U形状曲げ加工を前提としているため、U形状の限界曲げ半径以下の曲げ半径でV形状に曲げ加工された部位の遅れ破壊特性を正確に評価することはできないという問題がある。
しかし、特許文献1に開示の手法では、U形状曲げ加工を前提としているため、U形状の限界曲げ半径以下の曲げ半径でV形状に曲げ加工された部位の遅れ破壊特性を正確に評価することはできないという問題がある。
一方、特許文献2には、引張強度1180MPa以上の高強度鋼板において、曲げ部の角度が30〜90度となるV形状曲げ加工の耐遅れ破壊特性の評価方法が開示されている。
この方法によれば、試験前に、供試材の実使用条件を想定して鋼板の伸び量に対して20〜80%の塑性ひずみを引張加工により導入することが不可欠である。
しかし、上記のような塑性ひずみを導入するには、大型の引張り装置を必要とし、決して簡便とはいえない。
また、特許文献2に記載の方法に従いV形状曲げ加工を施した鋼板をボルト締めにより応力を付加した場合は、ボルトを貫通させる穴周辺部から、応力を付加したい曲げの頂点部にかけてたわみが生じてしまい、ボルト周辺に付加した応力と曲げの頂点部に付加される応力が異なるため、遅れ破壊特性に及ぼす応力の影響を正確に評価できないという問題がある。
この方法によれば、試験前に、供試材の実使用条件を想定して鋼板の伸び量に対して20〜80%の塑性ひずみを引張加工により導入することが不可欠である。
しかし、上記のような塑性ひずみを導入するには、大型の引張り装置を必要とし、決して簡便とはいえない。
また、特許文献2に記載の方法に従いV形状曲げ加工を施した鋼板をボルト締めにより応力を付加した場合は、ボルトを貫通させる穴周辺部から、応力を付加したい曲げの頂点部にかけてたわみが生じてしまい、ボルト周辺に付加した応力と曲げの頂点部に付加される応力が異なるため、遅れ破壊特性に及ぼす応力の影響を正確に評価できないという問題がある。
「遅れ破壊」日刊工業新聞 1989年8月31日
特許第3892842号公報
特開2007−198895号公報
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、V形状曲げ加工を施した薄鋼板の遅れ破壊特性を正確かつ簡便に評価することができる方法を、この方法に適用して好適な応力付加治具と共に提供することを目的とする。
発明者らは、試験片へのひずみ導入方法および応力付加方法について検討するとともに、ボルトの固定方法、侵入する水素量等についても種々検討した。その結果、2段のV形状曲げ加工をすること、つまり、最初にV形状曲げ加工を行って初期ひずみを導入する時の曲げ角度と、その後に応力を付加した時の試験片の角度(開き角度)を最適化すること、さらに、試験片に対する上記応力の付加を面接触によって行うことにより、薄鋼板がたわむことなく、その曲げ加工部に、正確に応力を集中することができるため、薄鋼板の遅れ破壊特性に及ぼす上記応力の影響を正確に評価できるという知見を得た。
本発明は、上記知見に立脚するものであり、その要旨構成は次のとおりである。
本発明は、上記知見に立脚するものであり、その要旨構成は次のとおりである。
(1)V形状に曲げ加工した薄鋼板の曲げ加工部に、圧縮応力または引張り応力を付加するための応力付加治具であって、該曲げ加工部を挟む該薄鋼板の対向する板面を貫通する軸と、該軸に取付けられ、接近、離隔移動が可能な一対の開き角度調整具を備え、該一対の開き角度調整具は、該軸上を協働移動することにより、該曲げ加工部に圧縮応力または引張り応力を付加することができ、また、該一対の開き角度調整具は、上記圧縮応力または引張り応力を付加する際、該薄鋼板の対向する板面に面接触する傾斜面を有することを特徴とする応力付加治具。
(2)薄鋼板を曲げ角度0度を超え180度未満でV形状に曲げ加工し、該薄鋼板に対し、内側部の開き角度が0度を超え180度未満となるように、前記(1)に記載の応力付加治具により圧縮または引張り方向の応力を付加した状態で、水素侵入環境に保持し、前記曲げ加工部における亀裂の発生状況により評価することを特徴とする薄鋼板の遅れ破壊特性の評価方法。
(3)前記水素侵入環境に保持が、pH0.5〜13.5の溶液中への浸漬であることを特徴とした前記(2)に記載の薄鋼板の遅れ破壊特性の評価方法。
本発明によれば、プレス加工を施された薄鋼板の遅れ破壊特性を正確かつ簡便に評価することができる。
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、本発明の遅れ破壊特性の評価方法に用いて好適な応力付加治具について説明する。
図1に、本発明に従う応力付加治具を模式で示す。図1(a)は、圧縮応力を付加する場合、図1(b)は、引張り応力を付加する場合である。図中符号1は軸、2は開き角度調整具、3はナットであり、4は薄鋼板を示す。
次に、図1(a)に従って、治具の機能を説明する。図示したとおり、開き角度調整具2は、V形状に曲げ加工された薄鋼板4に応力を付加する際、応力を面で伝えられるように傾斜面を有している。また、開き角度調整具2は、ナット3により、接近および離隔移動が可能な仕組みになっている。
まず、本発明の遅れ破壊特性の評価方法に用いて好適な応力付加治具について説明する。
図1に、本発明に従う応力付加治具を模式で示す。図1(a)は、圧縮応力を付加する場合、図1(b)は、引張り応力を付加する場合である。図中符号1は軸、2は開き角度調整具、3はナットであり、4は薄鋼板を示す。
次に、図1(a)に従って、治具の機能を説明する。図示したとおり、開き角度調整具2は、V形状に曲げ加工された薄鋼板4に応力を付加する際、応力を面で伝えられるように傾斜面を有している。また、開き角度調整具2は、ナット3により、接近および離隔移動が可能な仕組みになっている。
予め所定の頂角にV字曲げ加工を施した薄鋼板4に対し、曲げ加工部を挟んで薄鋼板4の対向する板面を貫通させて軸を差渡し、ついで一対の開き角度調整具2を軸1の両側から差込み、薄鋼板4の頂角が所定の開き角度になるまでお互いに接近させて圧縮応力を付加する。上記所定の開き角度となった時点で、開き角度調整具2をナット3で固定するが、その際、開き角度調整具2の傾斜面が薄鋼板4の板面と面接触となるように傾斜面の傾斜角度を設定しておくことが重要である。
上記したように、V形状に曲げ加工を施した薄鋼板に、さらに所定の開き角度になるまで圧縮応力を付加する場合、本発明によれば、従来のように点ではなく、面で力を付加することができ、薄鋼板がたわむことなく、曲げ加工部に的確に応力を集中させることができるので、より正確な遅れ破壊特性の評価が可能となったのである。
次に上記の治具を用いた遅れ破壊特性の評価方法について説明する。
上記したように、V形状に曲げ加工を施した薄鋼板に、さらに所定の開き角度になるまで圧縮応力を付加する場合、本発明によれば、従来のように点ではなく、面で力を付加することができ、薄鋼板がたわむことなく、曲げ加工部に的確に応力を集中させることができるので、より正確な遅れ破壊特性の評価が可能となったのである。
次に上記の治具を用いた遅れ破壊特性の評価方法について説明する。
まず、本発明では、薄鋼板を曲げ角度0度を超え180度未満でV形状に曲げ加工(一次曲げ)する。
実プレス部材において、曲げ角度が180度を超え、0度を下まわることはない。従って、0度を超え180度未満を本発明の曲げ角度とする。より好ましくは、60〜150度の範囲である。
実プレス部材において、曲げ角度が180度を超え、0度を下まわることはない。従って、0度を超え180度未満を本発明の曲げ角度とする。より好ましくは、60〜150度の範囲である。
次に、図1に示すような応力付加治具を用いて試験片の開き角度を調整する。なお、同図に示される治具は、1例に過ぎず、本評価試験雰囲気に耐性がある素材で、試験片の角度を保持できるなど、同等の機能を有するものであれば、いずれもが好適に使用できる。
上記の応力付加治具を用いて、鋼板の曲げ加工部に圧縮または引張り応力を付加する(二次曲げ)。
薄鋼板における遅れ破壊特性は、鋼板に導入されたひずみ量および負荷されている応力に依存する。そのため、遅れ破壊特性に及ぼすひずみおよび応力の影響を適切に評価するには、ひずみが導入されている部位に適切に応力を付加する必要があり、そうでなければ、そのひずみ状態および負荷応力状態における薄鋼板の遅れ破壊特性を正確に評価していることにならない。
薄鋼板を曲げ加工した際に最も大きなひずみが導入されるのは、曲げ加工部の頂点部であることから、遅れ破壊特性評価法において試験片に応力を負荷する場合には、曲げ加工された薄鋼板の頂点部に応力を付加する必要がある。
本発明に従えば、前記した応力付加治具を用いることにより、一様で安定した応力を曲げ加工された薄鋼板の頂点部に付加することができる。また、図1に示したように応力付加治具をV形状に曲げ加工を施した薄鋼板の外側に配置するか内側に配置するかにより、圧縮または引張り方向の応力を発生させることができ、広範囲な使用環境を模擬できる。
薄鋼板における遅れ破壊特性は、鋼板に導入されたひずみ量および負荷されている応力に依存する。そのため、遅れ破壊特性に及ぼすひずみおよび応力の影響を適切に評価するには、ひずみが導入されている部位に適切に応力を付加する必要があり、そうでなければ、そのひずみ状態および負荷応力状態における薄鋼板の遅れ破壊特性を正確に評価していることにならない。
薄鋼板を曲げ加工した際に最も大きなひずみが導入されるのは、曲げ加工部の頂点部であることから、遅れ破壊特性評価法において試験片に応力を負荷する場合には、曲げ加工された薄鋼板の頂点部に応力を付加する必要がある。
本発明に従えば、前記した応力付加治具を用いることにより、一様で安定した応力を曲げ加工された薄鋼板の頂点部に付加することができる。また、図1に示したように応力付加治具をV形状に曲げ加工を施した薄鋼板の外側に配置するか内側に配置するかにより、圧縮または引張り方向の応力を発生させることができ、広範囲な使用環境を模擬できる。
・開き角度:0度を超え180度未満
薄鋼板の曲げ加工部における遅れ破壊特性に対する応力の影響を評価するためには、曲げ頂点部に様々な応力を付加する必要がある。本発明では、薄鋼板の開き角度を応力付加治具を用いて調整することにより、的確かつ定量的に曲げ頂点部に応力を付加することができる。そのため、遅れ破壊特性に対する応力の影響を正確に評価できる。
本発明で、開き角度0度とは、曲げ加工した鋼板が完全に密着した状態であり、開き角度を0度とするために必要な応力以上の応力を付加したとしても、曲げ頂点部には、開き角度を0度とするために必要な応力以上は作用しない。一方、実プレス部材において0〜180度の曲げ角度で加工した後、開き角度が180度を超える部品の組付けが行われることは実質的にない。そのため、本発明では、開き角度が0度を超え180度未満で応力を付加するものとする。より好ましくは、60〜150度の範囲である。
ただし、曲げ頂点部に定量的に応力を付加するには、前記した一次曲げの際における曲げ角度を狭めるかあるいは、広げる必要があり、この角度(開き角度)は、一次曲げ角度に対して5度以上の差を生じさせることが、本特性評価においてはより好ましい。
なお、本発明において、薄鋼板とは、0.5〜20mmの厚みを持つ鋼板を意味し、開き角度とは、試験片が本評価試験中に開いている角度を意味するものであり、曲げ角度より閉じる方向の操作を否定するものではない、また、付加と負荷は、実質的に同じ意味である。
薄鋼板の曲げ加工部における遅れ破壊特性に対する応力の影響を評価するためには、曲げ頂点部に様々な応力を付加する必要がある。本発明では、薄鋼板の開き角度を応力付加治具を用いて調整することにより、的確かつ定量的に曲げ頂点部に応力を付加することができる。そのため、遅れ破壊特性に対する応力の影響を正確に評価できる。
本発明で、開き角度0度とは、曲げ加工した鋼板が完全に密着した状態であり、開き角度を0度とするために必要な応力以上の応力を付加したとしても、曲げ頂点部には、開き角度を0度とするために必要な応力以上は作用しない。一方、実プレス部材において0〜180度の曲げ角度で加工した後、開き角度が180度を超える部品の組付けが行われることは実質的にない。そのため、本発明では、開き角度が0度を超え180度未満で応力を付加するものとする。より好ましくは、60〜150度の範囲である。
ただし、曲げ頂点部に定量的に応力を付加するには、前記した一次曲げの際における曲げ角度を狭めるかあるいは、広げる必要があり、この角度(開き角度)は、一次曲げ角度に対して5度以上の差を生じさせることが、本特性評価においてはより好ましい。
なお、本発明において、薄鋼板とは、0.5〜20mmの厚みを持つ鋼板を意味し、開き角度とは、試験片が本評価試験中に開いている角度を意味するものであり、曲げ角度より閉じる方向の操作を否定するものではない、また、付加と負荷は、実質的に同じ意味である。
次に、応力付加治具により、薄鋼板に応力を付加した状態で水素侵入環境に保持する。
このような応力付加状態で水素侵入環境に保持すると、曲げ加工部に亀裂が発生するが、この亀裂発生までの時間で遅れ破壊特性を評価することができる。また、応力付加状態で水素侵入環境に保持することは、亀裂発生の促進を図り、評価時間を短縮するためである。
本発明では、電気チャージ法や腐食サイクル試験環境下での保持等、既存の水素侵入環境であれば、いずれもが好適に適用できる。
このような応力付加状態で水素侵入環境に保持すると、曲げ加工部に亀裂が発生するが、この亀裂発生までの時間で遅れ破壊特性を評価することができる。また、応力付加状態で水素侵入環境に保持することは、亀裂発生の促進を図り、評価時間を短縮するためである。
本発明では、電気チャージ法や腐食サイクル試験環境下での保持等、既存の水素侵入環境であれば、いずれもが好適に適用できる。
上記した水素侵入環境への保持処理は、pH0.5〜13.5の溶液に浸漬する処理が好ましい。
pH0.5〜13.5の溶液への浸漬は、試験片中への水素の導入を促進させ、遅れ破壊特性の加速評価に好適である。
しかし、pHが13.5より大きい溶液では試験片中への水素の侵入が非常に遅く十分な遅れ破壊の促進効果が期待できないため、pHが13.5以下の溶液を用いることが好ましい。
一方、pH0.5未満の溶液では、あまりに短時間で試験片中に水素が導入されるため、試験結果を適切に判定することが困難となる。また、pH0.5未満の溶液を用いた場合には、試験中に試験片の溶解が過度に生じることにより試験片が損傷する不利もある。
pH0.5〜13.5の溶液への浸漬は、試験片中への水素の導入を促進させ、遅れ破壊特性の加速評価に好適である。
しかし、pHが13.5より大きい溶液では試験片中への水素の侵入が非常に遅く十分な遅れ破壊の促進効果が期待できないため、pHが13.5以下の溶液を用いることが好ましい。
一方、pH0.5未満の溶液では、あまりに短時間で試験片中に水素が導入されるため、試験結果を適切に判定することが困難となる。また、pH0.5未満の溶液を用いた場合には、試験中に試験片の溶解が過度に生じることにより試験片が損傷する不利もある。
上述の理由より、本発明における遅れ破壊特性の加速評価に用いる溶液は、pH0.5〜13.5が好適であり、より好ましくはpH1.0〜7.0である。
また、本発明で用いる溶液の種類は特に限定されないが、取扱いの簡便さおよび過度の試験片の溶解を抑制する観点から、塩酸またはチオシアン酸アンモニウム溶液が有利に適合する。
また、本発明で用いる溶液の種類は特に限定されないが、取扱いの簡便さおよび過度の試験片の溶解を抑制する観点から、塩酸またはチオシアン酸アンモニウム溶液が有利に適合する。
表1に記載の成分組成、引張特性および曲げ特性を有する板厚1.6mmの冷延鋼板を供試材とした。この供試材を110mm×35mmにせん断後、機械研削により試験片長手方向両端を各5mm、幅方向を各2.5mmづつ研削加工し100mm×30mmとした平板を試験片とした。この試験片を、曲げ角度90度および180度(曲げ半径2.5mm〜10mmに対応(相当ひずみ0.24〜0.07))でV形状およびU形状に曲げ加工を施し、試験片の曲げ頂点部に30〜45度の傾斜角を有する一対のステンレス製の開き角度調整具を用いて、開き角度調整具の傾斜面と試験片表面が平行、すなわちV形状曲げ加工された試験片の開き角度が60〜90度となるように表2に示す応力(以下、本発明では、引張応力を正とする)をそれぞれ付加した。なお、曲げ加工によって導入される相当ひずみは、
板厚/(2×曲げ半径+板厚)の式によって得られた数値である。
板厚/(2×曲げ半径+板厚)の式によって得られた数値である。
また、負荷応力は、鋼板に曲げ加工を施して、開き角度調整治具を設定したサンプルについて、曲げ頂点部の板幅中央部のX線回折強度を測定し、純鉄のX線回折強度の半価幅と比較することにより、格子ひずみを求めて、そのひずみ量から応力を算出した。
高強度鋼板を曲げ加工すると、その鋼板のスプリングバックにより、曲げ角度よりも開き角度の方が大きくなるため、曲げ頂点部表層には、圧縮応力が作用する。そのため、曲げ加工のままの(開き角度調整治具を設置していない)状態の場合、曲げ頂点部表層の応力は負となる。このスプリングバックした鋼板に、開き角度が小さくなる方向に応力を付加した場合、曲げ頂点部表層の応力は、スプリングバックによる変形と逆方向に作用することになるため、スプリングバックにより生じる圧縮応力は、負荷応力の増加に伴って軽減することになる。また、スプリングバックにより生じる圧縮応力以上の応力を付加した場合には、曲げ頂点部表層は、引張り応力(即ち正の応力)が作用することとなる。
高強度鋼板を曲げ加工すると、その鋼板のスプリングバックにより、曲げ角度よりも開き角度の方が大きくなるため、曲げ頂点部表層には、圧縮応力が作用する。そのため、曲げ加工のままの(開き角度調整治具を設置していない)状態の場合、曲げ頂点部表層の応力は負となる。このスプリングバックした鋼板に、開き角度が小さくなる方向に応力を付加した場合、曲げ頂点部表層の応力は、スプリングバックによる変形と逆方向に作用することになるため、スプリングバックにより生じる圧縮応力は、負荷応力の増加に伴って軽減することになる。また、スプリングバックにより生じる圧縮応力以上の応力を付加した場合には、曲げ頂点部表層は、引張り応力(即ち正の応力)が作用することとなる。
上記応力を付加した試験片をpH1の塩酸に浸漬し、破壊が生じるまでの時間を測定した。試験開始から100h経過しても破壊が生じなかった場合には、その試験片のひずみおよび応力状態において遅れ破壊は生じないと判断し試験を終了した。
表2に試験結果(遅れ破壊時間)を併せて示す。
表2に試験結果(遅れ破壊時間)を併せて示す。
表2に示したとおり、曲げ半径を2.5mmとし、U形状曲げ(180度)加工した試験片では、限界曲げ半径よりも小さいために、曲げ加工中に試験片が割れ、遅れ破壊特性評価を行うことができなかったが、V形状曲げ(90度)加工した試験片では、割れること無く試験に供することができた。
このV形状曲げ試験では、頂点部に250MPaの応力を付加した場合に51時間後に破壊が生じ、この破壊時間は負荷応力が大きくなるに従って短くなる傾向があることが分かる。
このV形状曲げ試験では、頂点部に250MPaの応力を付加した場合に51時間後に破壊が生じ、この破壊時間は負荷応力が大きくなるに従って短くなる傾向があることが分かる。
曲げ半径を5.0mmとし、U形状曲げ(180度)加工した試験片では、400MPa以上の応力で破壊が生じているのに対し、V形状曲げ(90度)加工した試験片では、800MPaの応力を付加した場合のみ破壊が生じている。その破壊時間は、U形状曲げ加工よりも遅延することが分かる。
曲げ半径を10.0mmとし、V形状曲げ(90度)加工した試験片では、いずれの負荷応力においても破壊が生じなかったのに対し、U形状曲げ(180度)加工した試験片では、800MPaの応力を付加した場合に破壊が生じている。
以上のことから、曲げ加工を施した薄鋼板における遅れ破壊挙動は、曲げ加工により導入されるひずみ量や加工後の負荷応力に依存し、ひずみ量や負荷応力が大きいほど遅れ破壊が生じる危険性が高まることが分かるが、さらに、遅れ破壊が生じない限界のひずみ量および負荷応力値が存在することも分かる。
さらに、本試験では、V形状曲げ加工とU形状曲げ加工において、同じ曲げ半径や負荷応力状態でも遅れ破壊特性が異なった結果となった。この結果は、U形状曲げ加工した試験片を用いた評価方法では、V形状曲げ加工が施された部位の遅れ破壊特性を十分には評価できないことを示唆している。
本発明によれば、プレス加工により製造される高強度薄鋼板を適用したセンターピラーやインパクトビーム等の自動車車体部品において、使用中に生じる遅れ破壊の可能性を部材の設計段階で適切に評価することが可能となり、自動車車体部品を効率的に設計、開発することができる。
1 軸
2 開き角度調整具
3 ナット
4 薄鋼板
2 開き角度調整具
3 ナット
4 薄鋼板
Claims (3)
- V形状に曲げ加工した薄鋼板の曲げ加工部に、圧縮応力または引張り応力を付加するための応力付加治具であって、該曲げ加工部を挟む該薄鋼板の対向する板面を貫通する軸と、該軸に取付けられ、接近、離隔移動が可能な一対の開き角度調整具を備え、該一対の開き角度調整具は、該軸上を協働移動することにより、該曲げ加工部に圧縮応力または引張り応力を付加することができ、また、該一対の開き角度調整具は、上記圧縮応力または引張り応力を付加する際、該薄鋼板の対向する板面に面接触する傾斜面を有することを特徴とする応力付加治具。
- 薄鋼板を曲げ角度0度を超え180度未満でV形状に曲げ加工し、該薄鋼板に対し、内側部の開き角度が0度を超え180度未満となるように、前記請求項1に記載の応力付加治具により圧縮または引張り方向の応力を付加した状態で、水素侵入環境に保持し、前記曲げ加工部における亀裂の発生状況により評価することを特徴とする薄鋼板の遅れ破壊特性の評価方法。
- 前記水素侵入環境に保持が、pH0.5〜13.5の溶液中への浸漬であることを特徴とした請求項2に記載の薄鋼板の遅れ破壊特性の評価方法。
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- 2008-10-29 JP JP2008278346A patent/JP2010107297A/ja not_active Withdrawn
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