JP2004307561A - 環状乳酸オリゴマーの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】所望の縮合度を有する環状乳酸オリゴマーを効率よく得ること。
【解決手段】出発物質の鎖状乳酸m量体オリゴマー(mは、3〜15の整数である。)の末端カルボキシル基に、−100℃〜常温においてホスフィン類の存在下、化合物RSSR’(RおよびR′は同一でも異なってもよく、それぞれ環状または鎖状の有機基である。)と反応させ、次いで触媒の存在下に、n個の該オリゴマーを環化させる。
生成する環状乳酸オリゴマーの縮合度は、鎖状乳酸m量体オリゴマーの縮合度に規定され、m量体の倍数nとなっている。このため、通常、mn量体オリゴマー(すなわち乳酸単位をmn個有するオリゴマー)の混合物が得られる。
【選択図】なし
【解決手段】出発物質の鎖状乳酸m量体オリゴマー(mは、3〜15の整数である。)の末端カルボキシル基に、−100℃〜常温においてホスフィン類の存在下、化合物RSSR’(RおよびR′は同一でも異なってもよく、それぞれ環状または鎖状の有機基である。)と反応させ、次いで触媒の存在下に、n個の該オリゴマーを環化させる。
生成する環状乳酸オリゴマーの縮合度は、鎖状乳酸m量体オリゴマーの縮合度に規定され、m量体の倍数nとなっている。このため、通常、mn量体オリゴマー(すなわち乳酸単位をmn個有するオリゴマー)の混合物が得られる。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、環状乳酸オリゴマーの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、環化する鎖状乳酸オリゴマーの縮合度の倍数となる縮合度を有する環状乳酸オリゴマーを、ジスルフィド含有化合物を用いて製造する方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
有用な用途が期待される環状乳酸オリゴマーを得るために、これまで様々な合成方法が提案されてきた。
所望の鎖長を有する単一の環状乳酸オリゴマーを合成するために、たとえば固相上で目的鎖長を有する鎖状オリゴ乳酸まで逐次合成し、最後に環化する試みがなされている(たとえば、非特許文献1参照。)。このような合成法においては、官能基の保護も含め極めて煩雑であり、しかも最終収率も低くなって実用性に欠けるという問題点があった。
【0003】
減圧下で乳酸の脱水縮合反応を行なうことにより、縮合度3〜19の鎖状および/または環状の乳酸オリゴマー混合物が合成されている(たとえば、特許文献1参照。)。この製造方法では生成する環状ポリ乳酸が一定の組成となるように制御することは容易でない。よってその製造方法は、高重合体を含み、分子量分布が広い、鎖状および環状の乳酸重合体の混合物を与えるものであった。
【0004】
鎖状乳酸オリゴマーを含まない環状乳酸オリゴマーを得る製造方法が本出願の出願人により開示されてきた(たとえば、特許文献2および3参照。)。乳酸2分子が脱水縮合して生成するラクチド(3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)を原料として脱水重合させる製造方法(特許文献2)による場合、アルカリ金属化合物を触媒として使用し、その触媒の種類を選択することにより実質的に環状乳酸オリゴマーのみを選択的に得ることもできる(特許文献3)。その反応生成物は、乳酸単位数が2、3、4、・・・と変化する鎖長となっており、しかも含量も異なる環状乳酸オリゴマーの混合物である。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−227388号公報
【特許文献2】
国際公開第01/21613A1号パンフレット
【特許文献3】
国際公開第01/21612A1号パンフレット
【非特許文献1】
クウィスル O.(Kuisle O.),キノア E.(Quinoa E.)およびリゲラ R. (Riguera R.)有機化学雑誌( J.Org. Chem.)、1999年、64巻 p8063
【0006】
【発明の目的】
単純な重合体組成の生成物を与える環状乳酸重合体の製造方法があれば、これを用いて特定鎖長の環状乳酸オリゴマーを単一化合物として容易に単離できる。したがって、その方法は環状乳酸オリゴマーの新たな用途の開発のためにも有意義である。
【0007】
本発明は、所望の縮合度を有する環状乳酸オリゴマーを主たる成分として含有する混合物を、ジスルフィド含有化合物を用いて合成する方法を提供することを目的とする。
さらに本発明は、特定鎖長を有する環状乳酸オリゴマーを効率よく分離できる生成物を得る方法を提供することを目的とする。
【0008】
【発明の概要】
本発明者らは、一定鎖長を有する環状乳酸オリゴマーを単一化合物として直接的に合成できる製造方法について鋭意検討した。その結果、縮合度が原料の鎖状乳酸オリゴマーの縮合度の倍数となる環状乳酸オリゴマーの混合物を生成する本発明の方法を完成した。
【0009】
本発明の概要は、以下のとおりである。
本発明の製造方法は、
(i)式(1)
【0010】
【化5】
【0011】
で表される鎖状乳酸m量体オリゴマー(mは、3〜15の整数である。)の末端カルボキシル基を、化合物
【0012】
【化6】
【0013】
(式(2)において、RおよびR′は同一でも異なってもよく、それぞれ環状または鎖状の有機基である。)と反応させて、
【0014】
【化7】
【0015】
を形成し、
(ii)次いでn個の鎖状乳酸m量体オリゴマー(3)を環化させる
ことを特徴とする、式(4)で表され、乳酸単位をmn個(nは1以上の整数である。)含有する環状乳酸オリゴマーの製造方法である。
【0016】
【化8】
【0017】
本発明による環状乳酸オリゴマーの製造方法は、上記(i)をホスフィン類の存在下で行なうことを特徴としている。
本発明による環状乳酸オリゴマーの製造方法は、上記式(2)のRおよびR′が、それぞれ独立に脂肪族基、アリール基、ヘテロ環基(これらの基は置換基を有していてもよい。)またはその組み合わせであることを特徴としている。
【0018】
上記ヘテロ環基が、ヘテロ原子として少なくとも1個の窒素を含むことが好ましい。
さらに上記ヘテロ環基は、ピリジル基またはイミダゾリル基(両基とも置換基を有していてもよい。)であることが特に好ましい。
本発明による環状乳酸オリゴマーの製造方法において、上記式(2)で表されるRSSR′は、2,2’−ジピリジルジスルフィド、2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドまたはビス−p−ブロモフェナシルジスルフィドであることが好ましい。
【0019】
本発明による環状乳酸オリゴマーの製造方法において、上記ホスフィン類が、トリフェニルホスフィン、メトキシジフェニルホスフィン、ジヒドロキシ(フェニル)ホスフィン、エチルホスフィン、2−ナフチルホスフィン、またはエチル(フェニル)プロピルホスフィンであることを特徴としている。
本発明の環状乳酸オリゴマーの製造方法は、上記(i)および(ii)を、アルゴンおよび/または窒素の雰囲気下でおこなうことを特徴としている。
【0020】
【発明の具体的説明】
本発明に基づく環状乳酸オリゴマーの製造方法は、以下の工程(i)および(ii)を含む。
(i)式(1)
【0021】
【化9】
【0022】
で表される鎖状乳酸m量体オリゴマー(mは、3〜15の整数である。)の末端カルボキシル基を、化合物
【0023】
【化10】
【0024】
(式(2)において、RおよびR′は同一でも異なってもよく、それぞれ環状または鎖状の有機基である。)と反応させて、
【0025】
【化11】
【0026】
を形成し、
(ii)次いで得られたn個の鎖状乳酸オリゴマー(m量体)(3)を環化させる。
上記(ii)の生成物は、乳酸単位をmn個(nは1以上の整数である。)含有する環状乳酸オリゴマー、
【0027】
【化12】
【0028】
である。
所望する鎖長の環状乳酸オリゴマーを得るためには、出発物質である単一の鎖状乳酸オリゴマーの鎖長を、後記するように適切に選択する必要がある。本発明による上記の製造方法は、少なくともエステル形成の工程(i)および環化の工程(ii)を含む。個々の反応の詳細を次に示す。
【0029】
工程(i)において、式(1)で表される鎖状乳酸m量体オリゴマー(mは、通常、3〜15の整数である。)の末端カルボキシル基を、RSSR′(式(2))で表される化合物の−SR基と反応させる。この反応は、通常ホスフィン類の存在下で、低温(−100〜4℃)で行なうことが好ましい。活性基−SRが鎖状乳酸オリゴマーの末端カルボキシル基に結合して、式(3)で表される鎖状乳酸m量体オリゴマーのチオールエステルが形成する。この中間体は、通常、単離することができる。
【0030】
次の工程(ii)において、好ましくは触媒の存在下、室温またはそれ以下の温度で、上記鎖状乳酸m量体オリゴマーのチオールエステルを環化させる。n個の鎖状乳酸m量体オリゴマーのチオールエステルは、その末端カルボキシル基のチオエステル、−COSRから−SR基が脱離する際、1分子となるように重合し、かつ環化する。その結果、生成物である環状乳酸mn量体オリゴマー(式(4)で表される。nはm量体の倍数を表し、1以上の整数である)の混合物が生成する。
【0031】
本発明の製造方法によれば、単一化合物である鎖状乳酸m量体オリゴマーを原料に用いて、上記工程(i)および(ii)を行なうことにより、生成物として環状乳酸オリゴマーmn量体(これはm量体のn倍体となっている。nは1以上の整数である)の混合物を選択的に得ることができる。生成する環状乳酸オリゴマーmn量体の縮合度は、平均して3〜60、好ましくは3〜24である。
【0032】
本明細書で「縮合度」とは、乳酸縮合物中における反復単位である乳酸単位の個数を意味し、m量体であれば、その縮合度はmとなる。「n倍体」とは、出発物質の乳酸m量体オリゴマー骨格をn個含む乳酸オリゴマーをいう。
具体的には、出発物質として単一化合物の鎖状乳酸3量体オリゴマーを用いて、本発明の方法に従って合成する場合であるならば、3量体(n=1)、6量体(n=2)、9量体(n=3)を主体とし、さらに12量体(n=4)、・・・、3n量体の環状乳酸オリゴマーを含む混合物が生成する(図1)。ただし、その中に各量体が含まれる割合は互いに同一ではない。
【0033】
このように縮合度m、倍数nのとり得る数および生成した環状オリゴマーについて、一般的に表すと、次のようになる。出発物質として単一の鎖状乳酸m量体を使用すれば、上記(4)式により表される環状乳酸オリゴマー生成物は、そのm量体に対しn倍体であるオリゴマー、すなわちmn量体オリゴマー(乳酸単位をmn個有するオリゴマー)の混合物となっている。したがって、生成する混合物に含まれる環状乳酸オリゴマーの縮合度は、m、m+1、m+2、m+3・・・のような連続した数をとらず、出発物質である鎖状乳酸m量体オリゴマーの縮合度に規定される分布となる。さらに、nは1以上の整数であるが、これらの整数のうち、nは一般に2つ以上の値をとる。
【0034】
このように本発明の方法により生成する環状乳酸オリゴマーは、特定鎖長の環状乳酸オリゴマー(mn量体)が主成分として含まれるという特異な組成を有する混合物となる。そうした比較的単純な組成の混合物から、所望の縮合度を有する単一環状乳酸オリゴマーを回収することは、連続した鎖長分布を有する環状乳酸オリゴマー混合物から回収する場合と比べれば格段に容易であると考えられる。したがって、単一の環状乳酸オリゴマーの単離も効率的にできる。さらに出発物質の鎖状m量体乳酸オリゴマーおよび式(2)で表される反応物質の種類を選択することにより、混合物の組成を望みどおりに調節できることは、本発明の利点の一つである。
【0035】
本発明の製造方法で用いる化合物(鎖状乳酸オリゴマーも含む)、または生成する環状乳酸オリゴマーは、特に立体異性の区別をせず、異性体の混合物であってもよい。同様に、これらの化合物において、塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩など)、水和物、溶媒和物、結晶多形といった各種の形態を問わない。
【0036】
以下、本発明の製造方法に使用される化合物として、原料物質の鎖状乳酸オリゴマー、式(2)で表される化合物RSSR′、触媒、溶媒について詳細に説明し、さらに工程および反応についても詳述する。
鎖状乳酸オリゴマー
本発明の製造方法において、環状乳酸オリゴマー(4)を合成するための出発物質として、式(1)で表される単一の鎖状乳酸オリゴマーを用いる。その鎖状乳酸オリゴマーは、乳酸の任意の鎖状m量体縮合物から出発することができ、mは2以上の整数である。mとしてたとえば2〜30の整数であり、通常は、3〜15、好ましくは3〜10、より好ましくは、3〜6の整数である。実際には、所望する鎖長の環状乳酸オリゴマーを得るためには、原料とする単一化合物の鎖状乳酸オリゴマーの鎖長を適切に選択することが望ましい。上記のように出発物質の縮合度mと、生成物が出発物質のn倍体となる関係を考慮して選択すればよい。
【0037】
このような特定鎖長を有する鎖状オリゴ乳酸の製造方法については、すでに本出願と同一の出願人により提案されている(特願2002−042009)。この方法によれば、2量体から20量体の間の一定鎖長を有する鎖状乳酸オリゴマーを単一の化合物として直接的に合成することができる。そこで本発明においては、この方法を使用して、出発物質として望ましい鎖状乳酸オリゴマーを直接的に調製することができる。
化合物RSSR′
鎖状乳酸オリゴマーを環化させる前に、その末端カルボキシル基に特定の活性基を結合させる。その基として−SR基を供与できる化合物、すなわち、上記の一般式(2)で表される化合物であるRSSR′が、鎖状乳酸オリゴマーとの反応のために使用される。
【0038】
RおよびR′は同一でも異なってもよく、それぞれ鎖状または環状の有機基(いずれも置換されていてもよい。)である。「有機基」とは有機化合物の中に含まれる原子団であり、基として振舞うものを指すとする。具体的には、炭素および水素を有する鎖状または環状の基(いずれも置換されていてもよい)である。RおよびR′の基として、好ましくは脂肪族基、アリール基またはヘテロ環基(これらの基は置換基を有していてもよい。)またはその組み合わせが挙げられる。さらに好ましい基としてアルキル基、フェニル基または含窒素芳香族複素環式基(これらの基は置換基を有していてもよい。)が例示される。
【0039】
置換基を有していてもよい脂肪族基として、たとえば低級アルキル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシアルキル基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルキルチオ基、低級アルキルスルフィニル基、低級アルキルスルホニル基、低級アシルオキシ基、低級アルコキシスルホニル基などが挙げられる。脂肪族基の炭素数は、特に限定されないが、一般的には炭素数1〜12であり、好ましくは炭素数1〜6であり、特に好ましくは炭素数1〜4である。その鎖型は特に限定されないが、直鎖、分岐鎖、環状鎖またはこれらの組み合わせのいずれでもよい。
【0040】
上記の脂肪族基について次に具体的に示すが、本発明はこれらの例示だけに限定されない。低級アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、これらの異性体の基など;低級アルケニル基として、ビニル、プロペニル、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基および二重結合による異性を含めた異性体の基など;低級アルキニル基として、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、これらの異性体の基など;低級シクロアルキル基として、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクタニル基など;低級ハロアルキル基には、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ジクロロエチル基、ブロモプロピル基など;低級アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキトキシ基、これらの異性体の基など;低級ハロアルコキシ基として、モノフルオロメトキシ、クロロプロポキシ基、これらの異性体の基など;アルコキシカルボニル基として、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基など;アルキルチオ基として、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、これらの異性体の基;アルキルスルフィニル基として、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、これらの異性体の基など;アルキルスルホニル基として、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、これらの異性体の基などが挙げられる。
【0041】
上記RまたはR′の基に含まれるアリール基として、炭素数は6〜30、好ましくは6〜24、より好ましくは6〜12のアリール基であり、このアリール基は1個以上の置換基を有していてもよい。このようなアリール基の具体例として、フェニル基、トリール基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、キシリル基、メシチル基、フェナシル基、ベンズヒドリル基、キュメニル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0042】
上記RまたはR′の基に含まれるヘテロ環基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはリン原子などを1個以上含有する5〜10員環の飽和もしくは不飽和の単環もしくは縮合環である。ヘテロ環基の具体例として、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾロリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、フタラジニル、トリアジニル、フラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、キサンテニル、フェノキサチイニル、ピラニル、キノリル、イソキノリル、フリル、チエニル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、チアントレニル、トリアゾリル、ベンズイミダゾリル、ピロリジノ、イミダゾリジノ、ピラゾリジノ、ピペリジノ、モルホリノなどの基が挙げられる。これらのヘテロ環基は、1個以上の置換基を有していてもよい。
【0043】
上記の脂肪族基、アリール基またはヘテロ環基が有していてもよい置換基の例として、たとえばハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、チオシアノ基、ウレイド基、チオウレイド基、スルホ基、メルカプト基などの官能基であってもよい。
【0044】
アリール基またはヘテロ環基が有していてもよい置換基には、さらにアルキル基、ハロアルキル基、直鎖または分岐、鎖状または環状のアルケニル基、直鎖または分岐、鎖状または環状のアルキニル基(以上の基は、直鎖または分岐、鎖状または環状である。)、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、カルバモイルオキシ基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、スルファモイル基、N−アシルスルファモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、アリール基、アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アリールスルホニル基、アリールスルホンアミド基、アリールスルフィニル基、アリールチオ基、ヘテロ環基(たとえば窒素、酸素およびイオウなどを少なくとも1個以上含み、3〜12員環の単環、縮合環)、ヘテロ環オキシ基、ヘテロ環チオ基またはシリル基なども含まれる。
【0045】
RおよびR′の基として、鎖状乳酸オリゴマーの末端カルボキシル基に保護基として結合し、そのオリゴマーの環化に際し都合よく脱離する基として、好ましくは電子吸引性の性格を有する置換基を含むものが望ましい。具体的には、RおよびR′は、好ましくは芳香族基であり、特に好ましくは、RおよびR′は1もしくは2個のヘテロ原子を含む5〜10員環の芳香族ヘテロ環基である。なかでもそのヘテロ原子として、少なくとも1個の窒素をもつものが好ましい。
【0046】
したがって、式(2)で表される化合物、RSSR′として窒素を含有するヘテロ芳香環を形成している化合物が好ましく用いられる。窒素を含有するヘテロ環の例として、上記に挙げた環の他に、さらに2−ピリドン、2(3H)−ピラジノン、ピロリドン、オキサゾロン、キノロン、イソキノロン、チアゾロン、チアゾリドン、ピリミジン−2,4(1H,3H)−ジオンなどが挙げられる。また縮合ヘテロ環として、たとえばインドール、イソインドール、ピロリジン、インドリジン、インダゾール、プリン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、カルバゾール、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、ベンゾジアゼピン、トリアゾールなどが挙げられる。
【0047】
上記化合物のうち、式(2)で表される化合物、RSSR′として特に好適な化合物は、2,2’−ジピリジルジスルフィド、2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィド、ビス−p−ブロモフェナシルジスルフィドなどが挙げられる。
式(1)で表される鎖状乳酸オリゴマーと式(2)で表される化合物との使用量のモル比は、特に限定されず、必要に応じて設定できる。そのモル比は、好ましくは1:0.7〜1:5、より好ましくは1:1〜1:3、特に好ましくは1:1〜1:2である。
【0048】
なお、式(2)で表されるジスルフィド含有化合物、RSSR′を用いる代わりに、イオウと類似の化学性質を有するセレンに置き換えることもでき、−SeRを供与し得るセレン含有化合物を用いてもよい。その化合物はエピジセレノ(epidiseleno)基を有し、一般に、RSeSeR′(式中、RおよびR′は同一でも異なってもよく、環状または鎖状の有機基である。)と表される。ここでRおよびR′は、RSSR′について上記に掲げた基のいずれかをとり得る。
触媒
工程(i)のエステル化反応において、触媒としてホスフィン類が用いられる。
具体的にはホスフィンとして、トリフェニルホスフィン、メトキシジフェニルホスフィン、ジヒドロキシ(フェニル)ホスフィン、エチルホスフィン、2−ナフチルホスフィン、エチル(フェニル)プロピルホスフィン、アセチルジエチルホスフィン、カルバモイルホスフィン、(フェニルスルフォニル)ホスフィン、カルボニルビス(ホスフィン)、1,2,4−ブタントリイルトリス(ホスフィン)、メトキシジフェニルホスフィン、クロロジフェニルホスフィン、ジクロロフェニルホスフィン、ジヒドロキシフェニルホスフィン、クロロ(エチルチオ)メチルホスフィン、トリメトキシホスフィン、トリピペリジノホスフィンまたは2−ベンゾフラニルホスフィンなどが挙げられる。このうちトリフェニルホスフィンが好ましく用いられる。
【0049】
触媒の使用量は、一般に鎖状乳酸オリゴマーに対して、0.01〜10当量、好ましくは、0.1〜3当量である。
有機溶媒
本発明の製造方法による反応は、通常、反応溶媒の存在下で実施される。その溶媒としては、上記反応が好ましくは低温条件下で実施されるため、溶媒そのものが凝固しないことが必要である。したがって、その条件下でも原料、反応助剤を溶解し、かつこれらの物質または生成物と反応しない溶媒であれば特に制限はない。ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンまたはキシレンなどの炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、メトキシエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、アニソール、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ジメチルスルホキシドクロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジンなどが例示される。特に、反応物質の溶解性に優れ、かつ凝固点および沸点が比較的低い溶媒が好ましく用いられる。具体的にはベンゼン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジクロロメタン、塩化エチレン、トリクロロエチレン、アセトニトリルなどが好適である。これらの溶媒は、単独でまたは2以上の組み合わせで用いられる。
反応の条件
エステル形成の工程(i)は、反応速度との兼ね合いもあるが、通常、−110〜40℃、好ましくは−100〜4℃、より好ましくは−78〜−50℃で行なわれる。次に環化の工程(ii)では、通常4〜40℃、好ましくは4〜30℃、さらに好ましくは5〜25℃で行なわれる。
【0050】
反応圧力は、特に制約されず、通常は常圧でよい。反応雰囲気として、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気を各工程において使用することができる。反応時間は、一概に決められないが、通常、工程(i)が、2〜24時間、好ましくは2〜12時間であり、また工程(ii)は5〜24時間、好ましくは3〜12時間である。
【0051】
生成した環状乳酸オリゴマー混合物から、所望の鎖長を有する環状乳酸オリゴマー単一化合物は、通常の分離方法、たとえば、液体クロマトグラフィーなどを利用することにより、未反応の出発物質、副生成物、他の鎖長を有する環状乳酸オリゴマーなどから純粋の状態で得ることができる。
本発明の製造方法に基づいて、特定鎖長を有する環状乳酸オリゴマー混合物が生成する機構は、次のように考えられる。もっとも反応機構を説明する何らかの理論に対し、本発明はいかなる意味においても拘束されることはない。
【0052】
上記工程(i)において式(3)で表されるエステルが生成し、この中間体は通常、分離可能である。
【0053】
【化13】
【0054】
続いて行なわれる工程(ii)において、n個の鎖状乳酸m量体オリゴマーは、1分子を形成するように重合するとともに、おそらく「頭部から尾部への縮合」(head−to−tail condensation)方式の環化も起きる。その際に加わるm量体の分子数(すなわちn)に応じ、n倍体の環状オリゴマーが生成すると考えられる。かかる選択的な環化が起きることにより、特異な組成の環状乳酸オリゴマー生成物を与える。
【0055】
本発明の方法による好ましい実施態様を以下に示す。その際、上記式(2)で示される化合物、RSSR′として特に好適な化合物は、2,2’−ジピリジルジスルフィド、2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドまたはビス−p−ブロモフェナシルジスルフィドである。
撹拌機用、原料導入用などの口を備え、窒素またはアルゴンで置換したフラスコに入れた鎖状乳酸3量体のトルエン(またはテトラヒドロフラン)溶液に、ドライアイス−アセトンバスで冷却しながら式(2)で表される化合物、RSSR′(たとえば、2,2’−ジピリジルジスルフィドまたは2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドなど)のトルエン溶液を加え、これにさらにトリフェニルホスフィンのトルエン溶液を加える。冷トルエンを適宜追加して得られた混合物を、還流中のベンゼンに徐々に加えて一定時間撹拌して反応させる。その際、自動滴下装置、たとえばメカニカルシリンジを使用して、時間をかけて徐々に添加することが望ましい。所定時間、撹拌して上記温度を維持すると鎖状オリゴ乳酸の末端カルボキシル基がRSSR′と反応してチオールエステルとなった生成物を得る。窒素またはアルゴンの雰囲気下、これを濾過して減圧下で濃縮した後、水を加えてクロロホルムで数回抽出する。塩析後、硫酸ナトリウムまたは硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで減圧下で濃縮する。このようにして中間体であるチオールエステル(式(3))を得るが、上記精製操作を適宜省いて次の環化へ移行してもよい。上記生成物を適当な溶媒、たとえばトルエン−THF (テトラヒドロフラン)混合溶媒に溶解する。
【0056】
好ましくは触媒、たとえばトリフェニルホスフィンを加えて、5℃で3〜12時間ほど撹拌する。生成物を室温まで戻してから減圧下で濃縮する。その混合物には、3量体の環状乳酸オリゴマーが主に、さらに少量の6および9量体の環状乳酸オリゴマーが含まれている(図1)。
反応終了後、生成物をクロマトグラフィー(展開溶媒としてベンゼン:酢酸エチル系またはジクロロメタン:メタノール系を用いる)などの常法により分離、精製を行なう。これにより未反応の直鎖乳酸オリゴマー、少量の副生成物などが除去され、環状の3量体および6量体を含むフラクションと9量体を含むフラクションを得る。
【0057】
鎖状乳酸4量体オリゴマーを単一の出発物質として用いた場合も同様に反応を行なえば、4、8および12量体が主成分として含まれる混合物を得ることができる。
いずれの場合も、当業者であれば使用物質、使用量、割合、処理内容および手順、反応条件などをそれぞれ適宜に設定もしくは変更することができる。
【0058】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、生成する環状乳酸オリゴマーが出発物質である鎖状乳酸m量体オリゴマーのn倍体となっているため、乳酸単位をmn個有する環状乳酸mn量体オリゴマーの混合物が得られる。
本発明の製造方法によって得られる混合物は、所望の縮合度を有する環状乳酸オリゴマーを効率よく分離できる組成のものである。出発物質の鎖状乳酸m量体オリゴマーの縮合度および反応物質の種類を選択することにより、生成する混合物の組成を調節できる。
【0059】
【実施例】
本発明を以下の実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されることはない。なお、特にことわらない限り、%は重量%を意味する。
【0060】
【実施例1】
【0061】
【化14】
【0062】
窒素雰囲気下、0℃で、0.173g(0.45mmol)の鎖状乳酸4量体の1.5mlトルエン溶液に0.270g(0.675mmol)の2, 2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドの1.5mlトルエン溶液を加え、0.178g(0.675mmol)のトリフェニルホスフィンのトルエン溶液を加え1時間撹拌した。0℃に冷却したトルエン45.5mlを加えて得られた溶液を、メカニカルシリンジを使って、還流中のベンゼン90mlの中に5時間かけて滴下した。滴下終了後2時間還流を続け、室温に戻してから濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ベンゼン:酢酸エチル=15:4)で分離したところ、粗収量80%の環状乳酸の混合物が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、鎖状乳酸3量体からの環状乳酸オリゴマーの合成を示す。
Ph3Pはトリフェニルホスフィン、toluene−THFはトルエン−テトラヒドロフラン、Cat.は触媒を示す。
【発明の技術分野】
本発明は、環状乳酸オリゴマーの製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、環化する鎖状乳酸オリゴマーの縮合度の倍数となる縮合度を有する環状乳酸オリゴマーを、ジスルフィド含有化合物を用いて製造する方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
有用な用途が期待される環状乳酸オリゴマーを得るために、これまで様々な合成方法が提案されてきた。
所望の鎖長を有する単一の環状乳酸オリゴマーを合成するために、たとえば固相上で目的鎖長を有する鎖状オリゴ乳酸まで逐次合成し、最後に環化する試みがなされている(たとえば、非特許文献1参照。)。このような合成法においては、官能基の保護も含め極めて煩雑であり、しかも最終収率も低くなって実用性に欠けるという問題点があった。
【0003】
減圧下で乳酸の脱水縮合反応を行なうことにより、縮合度3〜19の鎖状および/または環状の乳酸オリゴマー混合物が合成されている(たとえば、特許文献1参照。)。この製造方法では生成する環状ポリ乳酸が一定の組成となるように制御することは容易でない。よってその製造方法は、高重合体を含み、分子量分布が広い、鎖状および環状の乳酸重合体の混合物を与えるものであった。
【0004】
鎖状乳酸オリゴマーを含まない環状乳酸オリゴマーを得る製造方法が本出願の出願人により開示されてきた(たとえば、特許文献2および3参照。)。乳酸2分子が脱水縮合して生成するラクチド(3,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン)を原料として脱水重合させる製造方法(特許文献2)による場合、アルカリ金属化合物を触媒として使用し、その触媒の種類を選択することにより実質的に環状乳酸オリゴマーのみを選択的に得ることもできる(特許文献3)。その反応生成物は、乳酸単位数が2、3、4、・・・と変化する鎖長となっており、しかも含量も異なる環状乳酸オリゴマーの混合物である。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−227388号公報
【特許文献2】
国際公開第01/21613A1号パンフレット
【特許文献3】
国際公開第01/21612A1号パンフレット
【非特許文献1】
クウィスル O.(Kuisle O.),キノア E.(Quinoa E.)およびリゲラ R. (Riguera R.)有機化学雑誌( J.Org. Chem.)、1999年、64巻 p8063
【0006】
【発明の目的】
単純な重合体組成の生成物を与える環状乳酸重合体の製造方法があれば、これを用いて特定鎖長の環状乳酸オリゴマーを単一化合物として容易に単離できる。したがって、その方法は環状乳酸オリゴマーの新たな用途の開発のためにも有意義である。
【0007】
本発明は、所望の縮合度を有する環状乳酸オリゴマーを主たる成分として含有する混合物を、ジスルフィド含有化合物を用いて合成する方法を提供することを目的とする。
さらに本発明は、特定鎖長を有する環状乳酸オリゴマーを効率よく分離できる生成物を得る方法を提供することを目的とする。
【0008】
【発明の概要】
本発明者らは、一定鎖長を有する環状乳酸オリゴマーを単一化合物として直接的に合成できる製造方法について鋭意検討した。その結果、縮合度が原料の鎖状乳酸オリゴマーの縮合度の倍数となる環状乳酸オリゴマーの混合物を生成する本発明の方法を完成した。
【0009】
本発明の概要は、以下のとおりである。
本発明の製造方法は、
(i)式(1)
【0010】
【化5】
【0011】
で表される鎖状乳酸m量体オリゴマー(mは、3〜15の整数である。)の末端カルボキシル基を、化合物
【0012】
【化6】
【0013】
(式(2)において、RおよびR′は同一でも異なってもよく、それぞれ環状または鎖状の有機基である。)と反応させて、
【0014】
【化7】
【0015】
を形成し、
(ii)次いでn個の鎖状乳酸m量体オリゴマー(3)を環化させる
ことを特徴とする、式(4)で表され、乳酸単位をmn個(nは1以上の整数である。)含有する環状乳酸オリゴマーの製造方法である。
【0016】
【化8】
【0017】
本発明による環状乳酸オリゴマーの製造方法は、上記(i)をホスフィン類の存在下で行なうことを特徴としている。
本発明による環状乳酸オリゴマーの製造方法は、上記式(2)のRおよびR′が、それぞれ独立に脂肪族基、アリール基、ヘテロ環基(これらの基は置換基を有していてもよい。)またはその組み合わせであることを特徴としている。
【0018】
上記ヘテロ環基が、ヘテロ原子として少なくとも1個の窒素を含むことが好ましい。
さらに上記ヘテロ環基は、ピリジル基またはイミダゾリル基(両基とも置換基を有していてもよい。)であることが特に好ましい。
本発明による環状乳酸オリゴマーの製造方法において、上記式(2)で表されるRSSR′は、2,2’−ジピリジルジスルフィド、2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドまたはビス−p−ブロモフェナシルジスルフィドであることが好ましい。
【0019】
本発明による環状乳酸オリゴマーの製造方法において、上記ホスフィン類が、トリフェニルホスフィン、メトキシジフェニルホスフィン、ジヒドロキシ(フェニル)ホスフィン、エチルホスフィン、2−ナフチルホスフィン、またはエチル(フェニル)プロピルホスフィンであることを特徴としている。
本発明の環状乳酸オリゴマーの製造方法は、上記(i)および(ii)を、アルゴンおよび/または窒素の雰囲気下でおこなうことを特徴としている。
【0020】
【発明の具体的説明】
本発明に基づく環状乳酸オリゴマーの製造方法は、以下の工程(i)および(ii)を含む。
(i)式(1)
【0021】
【化9】
【0022】
で表される鎖状乳酸m量体オリゴマー(mは、3〜15の整数である。)の末端カルボキシル基を、化合物
【0023】
【化10】
【0024】
(式(2)において、RおよびR′は同一でも異なってもよく、それぞれ環状または鎖状の有機基である。)と反応させて、
【0025】
【化11】
【0026】
を形成し、
(ii)次いで得られたn個の鎖状乳酸オリゴマー(m量体)(3)を環化させる。
上記(ii)の生成物は、乳酸単位をmn個(nは1以上の整数である。)含有する環状乳酸オリゴマー、
【0027】
【化12】
【0028】
である。
所望する鎖長の環状乳酸オリゴマーを得るためには、出発物質である単一の鎖状乳酸オリゴマーの鎖長を、後記するように適切に選択する必要がある。本発明による上記の製造方法は、少なくともエステル形成の工程(i)および環化の工程(ii)を含む。個々の反応の詳細を次に示す。
【0029】
工程(i)において、式(1)で表される鎖状乳酸m量体オリゴマー(mは、通常、3〜15の整数である。)の末端カルボキシル基を、RSSR′(式(2))で表される化合物の−SR基と反応させる。この反応は、通常ホスフィン類の存在下で、低温(−100〜4℃)で行なうことが好ましい。活性基−SRが鎖状乳酸オリゴマーの末端カルボキシル基に結合して、式(3)で表される鎖状乳酸m量体オリゴマーのチオールエステルが形成する。この中間体は、通常、単離することができる。
【0030】
次の工程(ii)において、好ましくは触媒の存在下、室温またはそれ以下の温度で、上記鎖状乳酸m量体オリゴマーのチオールエステルを環化させる。n個の鎖状乳酸m量体オリゴマーのチオールエステルは、その末端カルボキシル基のチオエステル、−COSRから−SR基が脱離する際、1分子となるように重合し、かつ環化する。その結果、生成物である環状乳酸mn量体オリゴマー(式(4)で表される。nはm量体の倍数を表し、1以上の整数である)の混合物が生成する。
【0031】
本発明の製造方法によれば、単一化合物である鎖状乳酸m量体オリゴマーを原料に用いて、上記工程(i)および(ii)を行なうことにより、生成物として環状乳酸オリゴマーmn量体(これはm量体のn倍体となっている。nは1以上の整数である)の混合物を選択的に得ることができる。生成する環状乳酸オリゴマーmn量体の縮合度は、平均して3〜60、好ましくは3〜24である。
【0032】
本明細書で「縮合度」とは、乳酸縮合物中における反復単位である乳酸単位の個数を意味し、m量体であれば、その縮合度はmとなる。「n倍体」とは、出発物質の乳酸m量体オリゴマー骨格をn個含む乳酸オリゴマーをいう。
具体的には、出発物質として単一化合物の鎖状乳酸3量体オリゴマーを用いて、本発明の方法に従って合成する場合であるならば、3量体(n=1)、6量体(n=2)、9量体(n=3)を主体とし、さらに12量体(n=4)、・・・、3n量体の環状乳酸オリゴマーを含む混合物が生成する(図1)。ただし、その中に各量体が含まれる割合は互いに同一ではない。
【0033】
このように縮合度m、倍数nのとり得る数および生成した環状オリゴマーについて、一般的に表すと、次のようになる。出発物質として単一の鎖状乳酸m量体を使用すれば、上記(4)式により表される環状乳酸オリゴマー生成物は、そのm量体に対しn倍体であるオリゴマー、すなわちmn量体オリゴマー(乳酸単位をmn個有するオリゴマー)の混合物となっている。したがって、生成する混合物に含まれる環状乳酸オリゴマーの縮合度は、m、m+1、m+2、m+3・・・のような連続した数をとらず、出発物質である鎖状乳酸m量体オリゴマーの縮合度に規定される分布となる。さらに、nは1以上の整数であるが、これらの整数のうち、nは一般に2つ以上の値をとる。
【0034】
このように本発明の方法により生成する環状乳酸オリゴマーは、特定鎖長の環状乳酸オリゴマー(mn量体)が主成分として含まれるという特異な組成を有する混合物となる。そうした比較的単純な組成の混合物から、所望の縮合度を有する単一環状乳酸オリゴマーを回収することは、連続した鎖長分布を有する環状乳酸オリゴマー混合物から回収する場合と比べれば格段に容易であると考えられる。したがって、単一の環状乳酸オリゴマーの単離も効率的にできる。さらに出発物質の鎖状m量体乳酸オリゴマーおよび式(2)で表される反応物質の種類を選択することにより、混合物の組成を望みどおりに調節できることは、本発明の利点の一つである。
【0035】
本発明の製造方法で用いる化合物(鎖状乳酸オリゴマーも含む)、または生成する環状乳酸オリゴマーは、特に立体異性の区別をせず、異性体の混合物であってもよい。同様に、これらの化合物において、塩(ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩など)、水和物、溶媒和物、結晶多形といった各種の形態を問わない。
【0036】
以下、本発明の製造方法に使用される化合物として、原料物質の鎖状乳酸オリゴマー、式(2)で表される化合物RSSR′、触媒、溶媒について詳細に説明し、さらに工程および反応についても詳述する。
鎖状乳酸オリゴマー
本発明の製造方法において、環状乳酸オリゴマー(4)を合成するための出発物質として、式(1)で表される単一の鎖状乳酸オリゴマーを用いる。その鎖状乳酸オリゴマーは、乳酸の任意の鎖状m量体縮合物から出発することができ、mは2以上の整数である。mとしてたとえば2〜30の整数であり、通常は、3〜15、好ましくは3〜10、より好ましくは、3〜6の整数である。実際には、所望する鎖長の環状乳酸オリゴマーを得るためには、原料とする単一化合物の鎖状乳酸オリゴマーの鎖長を適切に選択することが望ましい。上記のように出発物質の縮合度mと、生成物が出発物質のn倍体となる関係を考慮して選択すればよい。
【0037】
このような特定鎖長を有する鎖状オリゴ乳酸の製造方法については、すでに本出願と同一の出願人により提案されている(特願2002−042009)。この方法によれば、2量体から20量体の間の一定鎖長を有する鎖状乳酸オリゴマーを単一の化合物として直接的に合成することができる。そこで本発明においては、この方法を使用して、出発物質として望ましい鎖状乳酸オリゴマーを直接的に調製することができる。
化合物RSSR′
鎖状乳酸オリゴマーを環化させる前に、その末端カルボキシル基に特定の活性基を結合させる。その基として−SR基を供与できる化合物、すなわち、上記の一般式(2)で表される化合物であるRSSR′が、鎖状乳酸オリゴマーとの反応のために使用される。
【0038】
RおよびR′は同一でも異なってもよく、それぞれ鎖状または環状の有機基(いずれも置換されていてもよい。)である。「有機基」とは有機化合物の中に含まれる原子団であり、基として振舞うものを指すとする。具体的には、炭素および水素を有する鎖状または環状の基(いずれも置換されていてもよい)である。RおよびR′の基として、好ましくは脂肪族基、アリール基またはヘテロ環基(これらの基は置換基を有していてもよい。)またはその組み合わせが挙げられる。さらに好ましい基としてアルキル基、フェニル基または含窒素芳香族複素環式基(これらの基は置換基を有していてもよい。)が例示される。
【0039】
置換基を有していてもよい脂肪族基として、たとえば低級アルキル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級アルコキシアルキル基、低級アルコキシカルボニル基、低級アルキルチオ基、低級アルキルスルフィニル基、低級アルキルスルホニル基、低級アシルオキシ基、低級アルコキシスルホニル基などが挙げられる。脂肪族基の炭素数は、特に限定されないが、一般的には炭素数1〜12であり、好ましくは炭素数1〜6であり、特に好ましくは炭素数1〜4である。その鎖型は特に限定されないが、直鎖、分岐鎖、環状鎖またはこれらの組み合わせのいずれでもよい。
【0040】
上記の脂肪族基について次に具体的に示すが、本発明はこれらの例示だけに限定されない。低級アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、これらの異性体の基など;低級アルケニル基として、ビニル、プロペニル、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基および二重結合による異性を含めた異性体の基など;低級アルキニル基として、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、これらの異性体の基など;低級シクロアルキル基として、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクタニル基など;低級ハロアルキル基には、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ジクロロエチル基、ブロモプロピル基など;低級アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキトキシ基、これらの異性体の基など;低級ハロアルコキシ基として、モノフルオロメトキシ、クロロプロポキシ基、これらの異性体の基など;アルコキシカルボニル基として、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基など;アルキルチオ基として、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、これらの異性体の基;アルキルスルフィニル基として、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、これらの異性体の基など;アルキルスルホニル基として、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、これらの異性体の基などが挙げられる。
【0041】
上記RまたはR′の基に含まれるアリール基として、炭素数は6〜30、好ましくは6〜24、より好ましくは6〜12のアリール基であり、このアリール基は1個以上の置換基を有していてもよい。このようなアリール基の具体例として、フェニル基、トリール基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基、キシリル基、メシチル基、フェナシル基、ベンズヒドリル基、キュメニル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
【0042】
上記RまたはR′の基に含まれるヘテロ環基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子またはリン原子などを1個以上含有する5〜10員環の飽和もしくは不飽和の単環もしくは縮合環である。ヘテロ環基の具体例として、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾロリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、フタラジニル、トリアジニル、フラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、キサンテニル、フェノキサチイニル、ピラニル、キノリル、イソキノリル、フリル、チエニル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、チアジアゾリル、チアントレニル、トリアゾリル、ベンズイミダゾリル、ピロリジノ、イミダゾリジノ、ピラゾリジノ、ピペリジノ、モルホリノなどの基が挙げられる。これらのヘテロ環基は、1個以上の置換基を有していてもよい。
【0043】
上記の脂肪族基、アリール基またはヘテロ環基が有していてもよい置換基の例として、たとえばハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、カルバモイル基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、チオシアノ基、ウレイド基、チオウレイド基、スルホ基、メルカプト基などの官能基であってもよい。
【0044】
アリール基またはヘテロ環基が有していてもよい置換基には、さらにアルキル基、ハロアルキル基、直鎖または分岐、鎖状または環状のアルケニル基、直鎖または分岐、鎖状または環状のアルキニル基(以上の基は、直鎖または分岐、鎖状または環状である。)、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、カルバモイルオキシ基、カルボンアミド基、スルホンアミド基、スルファモイル基、N−アシルスルファモイル基、N−スルファモイルカルバモイル基、アリール基、アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アリールスルホニル基、アリールスルホンアミド基、アリールスルフィニル基、アリールチオ基、ヘテロ環基(たとえば窒素、酸素およびイオウなどを少なくとも1個以上含み、3〜12員環の単環、縮合環)、ヘテロ環オキシ基、ヘテロ環チオ基またはシリル基なども含まれる。
【0045】
RおよびR′の基として、鎖状乳酸オリゴマーの末端カルボキシル基に保護基として結合し、そのオリゴマーの環化に際し都合よく脱離する基として、好ましくは電子吸引性の性格を有する置換基を含むものが望ましい。具体的には、RおよびR′は、好ましくは芳香族基であり、特に好ましくは、RおよびR′は1もしくは2個のヘテロ原子を含む5〜10員環の芳香族ヘテロ環基である。なかでもそのヘテロ原子として、少なくとも1個の窒素をもつものが好ましい。
【0046】
したがって、式(2)で表される化合物、RSSR′として窒素を含有するヘテロ芳香環を形成している化合物が好ましく用いられる。窒素を含有するヘテロ環の例として、上記に挙げた環の他に、さらに2−ピリドン、2(3H)−ピラジノン、ピロリドン、オキサゾロン、キノロン、イソキノロン、チアゾロン、チアゾリドン、ピリミジン−2,4(1H,3H)−ジオンなどが挙げられる。また縮合ヘテロ環として、たとえばインドール、イソインドール、ピロリジン、インドリジン、インダゾール、プリン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、カルバゾール、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、フェノチアジン、フェノキサジン、ベンゾジアゼピン、トリアゾールなどが挙げられる。
【0047】
上記化合物のうち、式(2)で表される化合物、RSSR′として特に好適な化合物は、2,2’−ジピリジルジスルフィド、2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィド、ビス−p−ブロモフェナシルジスルフィドなどが挙げられる。
式(1)で表される鎖状乳酸オリゴマーと式(2)で表される化合物との使用量のモル比は、特に限定されず、必要に応じて設定できる。そのモル比は、好ましくは1:0.7〜1:5、より好ましくは1:1〜1:3、特に好ましくは1:1〜1:2である。
【0048】
なお、式(2)で表されるジスルフィド含有化合物、RSSR′を用いる代わりに、イオウと類似の化学性質を有するセレンに置き換えることもでき、−SeRを供与し得るセレン含有化合物を用いてもよい。その化合物はエピジセレノ(epidiseleno)基を有し、一般に、RSeSeR′(式中、RおよびR′は同一でも異なってもよく、環状または鎖状の有機基である。)と表される。ここでRおよびR′は、RSSR′について上記に掲げた基のいずれかをとり得る。
触媒
工程(i)のエステル化反応において、触媒としてホスフィン類が用いられる。
具体的にはホスフィンとして、トリフェニルホスフィン、メトキシジフェニルホスフィン、ジヒドロキシ(フェニル)ホスフィン、エチルホスフィン、2−ナフチルホスフィン、エチル(フェニル)プロピルホスフィン、アセチルジエチルホスフィン、カルバモイルホスフィン、(フェニルスルフォニル)ホスフィン、カルボニルビス(ホスフィン)、1,2,4−ブタントリイルトリス(ホスフィン)、メトキシジフェニルホスフィン、クロロジフェニルホスフィン、ジクロロフェニルホスフィン、ジヒドロキシフェニルホスフィン、クロロ(エチルチオ)メチルホスフィン、トリメトキシホスフィン、トリピペリジノホスフィンまたは2−ベンゾフラニルホスフィンなどが挙げられる。このうちトリフェニルホスフィンが好ましく用いられる。
【0049】
触媒の使用量は、一般に鎖状乳酸オリゴマーに対して、0.01〜10当量、好ましくは、0.1〜3当量である。
有機溶媒
本発明の製造方法による反応は、通常、反応溶媒の存在下で実施される。その溶媒としては、上記反応が好ましくは低温条件下で実施されるため、溶媒そのものが凝固しないことが必要である。したがって、その条件下でも原料、反応助剤を溶解し、かつこれらの物質または生成物と反応しない溶媒であれば特に制限はない。ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンまたはキシレンなどの炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、メトキシエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、アニソール、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ジメチルスルホキシドクロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジンなどが例示される。特に、反応物質の溶解性に優れ、かつ凝固点および沸点が比較的低い溶媒が好ましく用いられる。具体的にはベンゼン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジクロロメタン、塩化エチレン、トリクロロエチレン、アセトニトリルなどが好適である。これらの溶媒は、単独でまたは2以上の組み合わせで用いられる。
反応の条件
エステル形成の工程(i)は、反応速度との兼ね合いもあるが、通常、−110〜40℃、好ましくは−100〜4℃、より好ましくは−78〜−50℃で行なわれる。次に環化の工程(ii)では、通常4〜40℃、好ましくは4〜30℃、さらに好ましくは5〜25℃で行なわれる。
【0050】
反応圧力は、特に制約されず、通常は常圧でよい。反応雰囲気として、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気を各工程において使用することができる。反応時間は、一概に決められないが、通常、工程(i)が、2〜24時間、好ましくは2〜12時間であり、また工程(ii)は5〜24時間、好ましくは3〜12時間である。
【0051】
生成した環状乳酸オリゴマー混合物から、所望の鎖長を有する環状乳酸オリゴマー単一化合物は、通常の分離方法、たとえば、液体クロマトグラフィーなどを利用することにより、未反応の出発物質、副生成物、他の鎖長を有する環状乳酸オリゴマーなどから純粋の状態で得ることができる。
本発明の製造方法に基づいて、特定鎖長を有する環状乳酸オリゴマー混合物が生成する機構は、次のように考えられる。もっとも反応機構を説明する何らかの理論に対し、本発明はいかなる意味においても拘束されることはない。
【0052】
上記工程(i)において式(3)で表されるエステルが生成し、この中間体は通常、分離可能である。
【0053】
【化13】
【0054】
続いて行なわれる工程(ii)において、n個の鎖状乳酸m量体オリゴマーは、1分子を形成するように重合するとともに、おそらく「頭部から尾部への縮合」(head−to−tail condensation)方式の環化も起きる。その際に加わるm量体の分子数(すなわちn)に応じ、n倍体の環状オリゴマーが生成すると考えられる。かかる選択的な環化が起きることにより、特異な組成の環状乳酸オリゴマー生成物を与える。
【0055】
本発明の方法による好ましい実施態様を以下に示す。その際、上記式(2)で示される化合物、RSSR′として特に好適な化合物は、2,2’−ジピリジルジスルフィド、2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドまたはビス−p−ブロモフェナシルジスルフィドである。
撹拌機用、原料導入用などの口を備え、窒素またはアルゴンで置換したフラスコに入れた鎖状乳酸3量体のトルエン(またはテトラヒドロフラン)溶液に、ドライアイス−アセトンバスで冷却しながら式(2)で表される化合物、RSSR′(たとえば、2,2’−ジピリジルジスルフィドまたは2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドなど)のトルエン溶液を加え、これにさらにトリフェニルホスフィンのトルエン溶液を加える。冷トルエンを適宜追加して得られた混合物を、還流中のベンゼンに徐々に加えて一定時間撹拌して反応させる。その際、自動滴下装置、たとえばメカニカルシリンジを使用して、時間をかけて徐々に添加することが望ましい。所定時間、撹拌して上記温度を維持すると鎖状オリゴ乳酸の末端カルボキシル基がRSSR′と反応してチオールエステルとなった生成物を得る。窒素またはアルゴンの雰囲気下、これを濾過して減圧下で濃縮した後、水を加えてクロロホルムで数回抽出する。塩析後、硫酸ナトリウムまたは硫酸マグネシウムで乾燥し、次いで減圧下で濃縮する。このようにして中間体であるチオールエステル(式(3))を得るが、上記精製操作を適宜省いて次の環化へ移行してもよい。上記生成物を適当な溶媒、たとえばトルエン−THF (テトラヒドロフラン)混合溶媒に溶解する。
【0056】
好ましくは触媒、たとえばトリフェニルホスフィンを加えて、5℃で3〜12時間ほど撹拌する。生成物を室温まで戻してから減圧下で濃縮する。その混合物には、3量体の環状乳酸オリゴマーが主に、さらに少量の6および9量体の環状乳酸オリゴマーが含まれている(図1)。
反応終了後、生成物をクロマトグラフィー(展開溶媒としてベンゼン:酢酸エチル系またはジクロロメタン:メタノール系を用いる)などの常法により分離、精製を行なう。これにより未反応の直鎖乳酸オリゴマー、少量の副生成物などが除去され、環状の3量体および6量体を含むフラクションと9量体を含むフラクションを得る。
【0057】
鎖状乳酸4量体オリゴマーを単一の出発物質として用いた場合も同様に反応を行なえば、4、8および12量体が主成分として含まれる混合物を得ることができる。
いずれの場合も、当業者であれば使用物質、使用量、割合、処理内容および手順、反応条件などをそれぞれ適宜に設定もしくは変更することができる。
【0058】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、生成する環状乳酸オリゴマーが出発物質である鎖状乳酸m量体オリゴマーのn倍体となっているため、乳酸単位をmn個有する環状乳酸mn量体オリゴマーの混合物が得られる。
本発明の製造方法によって得られる混合物は、所望の縮合度を有する環状乳酸オリゴマーを効率よく分離できる組成のものである。出発物質の鎖状乳酸m量体オリゴマーの縮合度および反応物質の種類を選択することにより、生成する混合物の組成を調節できる。
【0059】
【実施例】
本発明を以下の実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されることはない。なお、特にことわらない限り、%は重量%を意味する。
【0060】
【実施例1】
【0061】
【化14】
【0062】
窒素雰囲気下、0℃で、0.173g(0.45mmol)の鎖状乳酸4量体の1.5mlトルエン溶液に0.270g(0.675mmol)の2, 2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドの1.5mlトルエン溶液を加え、0.178g(0.675mmol)のトリフェニルホスフィンのトルエン溶液を加え1時間撹拌した。0℃に冷却したトルエン45.5mlを加えて得られた溶液を、メカニカルシリンジを使って、還流中のベンゼン90mlの中に5時間かけて滴下した。滴下終了後2時間還流を続け、室温に戻してから濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ベンゼン:酢酸エチル=15:4)で分離したところ、粗収量80%の環状乳酸の混合物が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、鎖状乳酸3量体からの環状乳酸オリゴマーの合成を示す。
Ph3Pはトリフェニルホスフィン、toluene−THFはトルエン−テトラヒドロフラン、Cat.は触媒を示す。
Claims (7)
- 上記(i)をホスフィン類の存在下で行なうことを特徴とする、請求項1に記載の環状乳酸オリゴマーの製造方法。
- 上記式(2)のRおよびR′が、それぞれ独立に脂肪族基、アリール基、ヘテロ環基(これらの基は置換基を有していてもよい。)またはその組み合わせであることを特徴とする、請求項1または2に記載の環状乳酸オリゴマーの製造方法。
- 上記ヘテロ環基が、ヘテロ原子として少なくとも1個の窒素を含むことを特徴とする、請求項3に記載の環状乳酸オリゴマーの製造方法。
- 上記ヘテロ環基が、ピリジル基またはイミダゾリル基(両基とも置換基を有していてもよい。)であることを特徴とする、請求項4に記載の環状乳酸オリゴマーの製造方法。
- 上記式(2)で表されるRSSR′が、2,2’−ジピリジルジスルフィド、2,2’−ビス−(4−t−ブチル−N−イソプロピル)イミダゾリルジスルフィドまたはビス−p−ブロモフェナシルジスルフィドであることを特徴とする、請求項1に記載の環状乳酸オリゴマーの製造方法。
- 上記ホスフィン類が、トリフェニルホスフィン、メトキシジフェニルホスフィン、ジヒドロキシ(フェニル)ホスフィン、エチルホスフィン、2−ナフチルホスフィン、またはエチル(フェニル)プロピルホスフィンであることを特徴とする、請求項2に記載の環状乳酸オリゴマーの製造方法。
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