JP2004307526A - カチオン電着塗料 - Google Patents
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Abstract
【課題】水溶液中で安定な3価セリウム塩を形成するものであり、硬化触媒、耐食性付与剤として好適に機能し、更に優れた平滑性を有する塗膜を得ることができるカチオン電着塗料を提供する。
【解決手段】樹脂組成物及び3価セリウム塩からなるカチオン電着塗料であって、上記樹脂組成物は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有するものであり、上記3価セリウム塩は、3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の塩であることを特徴とするカチオン電着塗料。
【選択図】 なし
【解決手段】樹脂組成物及び3価セリウム塩からなるカチオン電着塗料であって、上記樹脂組成物は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有するものであり、上記3価セリウム塩は、3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の塩であることを特徴とするカチオン電着塗料。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオン電着塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】
電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができることから、自動車車体等の大型で複雑な形状を有し、高い防錆性が要求される被塗物の下塗り塗装方法として汎用されている。
【0003】
また、他の塗装方法と比較して、塗料の使用効率が極めて高いことから経済的であり、工業的な塗装方法として広く普及している。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる。このようなカチオン電着塗料には、耐食性付与剤や硬化触媒としてセリウム化合物が使用される場合がある。
【0004】
しかしながら、酢酸セリウム(III)等のセリウム化合物は、水性溶液中で安定性に劣り、電着塗料組成物に添加されると比較的短時間の内に、3価のセリウムイオンが容易に4価のセリウムイオンに酸化されるため、水酸化セリウム(IV)又は酸化セリウム(IV)となって溶存できなくなる。
【0005】
このため、電着塗装工程の間に塗料浴中のセリウム濃度が経時的に低下し、これに伴って、電着塗膜に取り込まれるセリウム化合物の量も経時的に低下する。従って、硬化塗膜を効率的に得ることができず、また、得られる硬化塗膜も長期間にわたって耐食性に優れたものとすることは困難であった。更に、生成した水酸化セリウム(IV)、酸化セリウム(IV)が形成される塗膜中に取り込まれることが原因と考えられる塗膜の平滑性の低下も見られていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、水溶液中で安定な3価セリウム塩を形成するものであり、硬化触媒、耐食性付与剤として好適に機能し、更に優れた平滑性を有する塗膜を得ることができるカチオン電着塗料を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、樹脂組成物及び3価セリウム塩からなるカチオン電着塗料であって、上記樹脂組成物は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有するものであり、上記3価セリウム塩は、3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の塩であることを特徴とするカチオン電着塗料である。
【0008】
上記還元性有機酸は、アスコルビン酸であることが好ましい。
上記3価セリウム塩は、下記式(1);
【0009】
【化2】
【0010】
で表されるものであることが好ましい。
上記3価セリウム塩は、セリウム(III)化合物と還元性有機酸とを反応させることにより得られるものであることが好ましい。
上記セリウム(III)化合物は、炭酸セリウムであることが好ましい。
【0011】
上記樹脂組成物は、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、スルホニウム基を5〜400ミリモル及びプロパルギル基を10〜495ミリモル含有し、かつ、スルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量が500ミリモル以下であることが好ましい。
【0012】
上記樹脂組成物は、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、スルホニウム基を5〜250ミリモル及びプロパルギル基を20〜395ミリモル含有し、かつ、スルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量が400ミリモル以下であることが好ましい。
【0013】
上記樹脂組成物は、エポキシ樹脂を骨格とするものであることが好ましい。
上記エポキシ樹脂は、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂であり、かつ、数平均分子量が700〜5000であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のカチオン電着塗料は、3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の3価セリウム塩を含有するものである。上記3価セリウム塩は、水溶液中において、3価のセリウムイオンとして安定に存在することができるものであり、4価のセリウムイオンに酸化されにくいものであることから、電着浴中で3価のセリウムイオンとして安定に存在することができる。従って、上記カチオン電着塗料を使用して電着工捏を行うと、形成された塗膜中に、上記3価セリウム塩が取り込まれ、硬化の際に、硬化触媒として好適に機能することができる。また、得られた塗膜は、上記3価セリウム塩を含むものであるため、耐食性に優れたものとなる。更に、水酸化セリウム、酸化セリウムを生成することが少ないため、これらが塗膜中に取り込まれることによる塗膜の平滑性の低下も少ないものである。
【0015】
通常、例えば、酢酸セリウム(III)のような水溶化することによって3価のセリウムイオンを供給することができるセリウム化合物を水に溶解し、3価のセリウムイオンが溶解する水溶液を調製すると、その水溶液の調製後、比較的短時間のうちに、水溶液中の3価のセリウムイオンが4価のセリウムイオンに酸化されてしまう。水溶液中では、4価のセリウムイオンは安定性が低く、水と容易に反応して水酸化セリウム(IV)又は酸化セリウム(IV)に変化し、不溶化してしまう。従って、3価のセリウムイオンを含有する安定な水溶液を調製することは困難であった。
【0016】
一方、上記3価セリウム塩は、3個以上の配位部位を持つ有機酸の塩である。
これにより、3価セリウムイオンにこの配位部位が配位することによって水溶液中での3価のセリウムイオンは安定化している。また、上記3価セリウム塩は、還元性を有する塩でもあることから、抗酸化能を有し、3価のセリウムイオンは、4価に酸化されることが抑制されている。即ち、上記3価セリウム塩の水溶液は、生成する3価のセリウムイオンに3個以上の配位部位を有する還元性有機酸がキレート状に配位し、その結果、セリウムイオンが3価として安定に存在する水溶液を得ることができる。このため、このような3価セリウム塩の水溶液をカチオン電着塗料中に含有させても、電着浴中で安定に存在し、硬化触媒として好適に機能させることができ、また、得られる塗膜は、耐食性及び平滑性に優れるものである。
【0017】
上記配位部位は、水溶液中における3価のセリウムイオンに配位することができる還元性有機酸中の部位である。
上記配位部位としては、例えば、−OH、−CO−、−O−、−NH2、−NH−、−N<、−SH、−S−等を挙げることができる。上記配位部位は、同種のものであってもよく、異種のものであってもよい。なお、上記配位部位は、中性状態であってもよく、イオン化された状態であってもよい。
【0018】
上記還元性とは、3価のセリウムイオンが4価に酸化されることを抑制することができる性質である。
【0019】
上記還元性有機酸としては、例えば、以下の構造を有する有機酸を挙げることができる。
【0020】
【化3】
【0021】
上記還元性有機酸としては、3個以上の配位部位を有し、還元性を有する有機酸であれば特に限定されず、アスコルビン酸、グルクロン酸、没食子酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、2−ヒドロキシ酪酸、グリオキシル酸等を挙げることができる。なかでも、還元能が高く、かつ熱的にも安定で、3価のセリウムイオンを安定に存在させることができる点から、アスコルビン酸を用いるのが好ましい。上記の酸のうち、光学異性体を有するものがあるがD−体、L−体やこれらの混合物のいずれも好適に用いることができる。アスコルビン酸の場合、より入手しやすいL−アスコルビン酸を用いることが経済的な観点からより好適に用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
アスコルビン酸は3価のセリウムイオンの抗酸化能は高いが、分子量が大きいためアスコルビン酸のみと3価のセリウムの塩は水への溶解度自体は高くない。これは、比較的分子量の大きいアスコルビン酸の3分子が3価のセリウムイオン1分子に配位し、安定なキレート状態を維持すると、形成された塩が水への溶存状態を保持できずに固体として析出する傾向となるためである。そこで、セリウムイオンの還元能はアスコルビン酸より劣るものの、分子量が小さい還元性を有する酸とアスコルビン酸を併用して3価のセリウムとの塩を調製すると水への溶解度が高く、かつ、水溶液中でより安定に溶解させることができる。アスコルビン酸と併用する酸としては、溶解度の向上の観点から乳酸、2−ヒドロキシ酪酸が好ましい。経済的な観点から乳酸をアスコルビン酸と併用するのが更に好ましい。アスコルビン酸と乳酸を併用する場合、アスコルビン酸:乳酸をmol比でおよそ1:2〜2.6とするのが、溶解度と溶解安定性を両立させる点から好ましい。
【0023】
上記3価セリウム塩が還元性有機酸と還元性有機酸以外の有機酸とを含んでなるものである場合には、上記セリウム塩の調製において、セリウム(III)化合物におけるセリウム量と、還元性有機酸量と還元性有機酸以外の有機酸量との合計モル比としては、3価のセリウムイオンとして水溶液中で安定化させることから、およそ1:3となるように使用することが好ましい。還元性有機酸量と還元性有機酸以外の有機酸量との比は、得られる3価セリウム塩の水溶性に応じて適宜決定すればよい。これにより、3価のセリウムイオン1モルと、還元性有機酸と還元性有機酸以外の有機酸とが合計で3モルとによってなる3価セリウム塩を得ることができ、3価のセリウムイオンの水溶液中での安定性を向上させることができる。
【0024】
上記還元性有機酸以外の有機酸としては、得られる3価セリウム塩を水溶液中において安定化させることができるものであれば特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロトン酸、グルコン酸、シュウ酸、コハク酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、安息香酸、フタル酸等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記3価セリウム塩は、上記式(1)で表されるものであることが好ましい。
上記式(1)で表される3価セリウム塩は、3価のセリウムイオン1モルに対して、アスコルビン酸1モル及び乳酸2モルから形成される塩である。3個以上の配位部位を有し、還元性も有するアスコルビン酸が水溶液中で配位することにより、3価のセリウムイオンが4価に酸化されることが抑制され、更に、乳酸が配位することによって得られる3価セリウム塩の水溶性が高められ、結果として、3価のセリウムイオンを水溶液中に長期間安定に存在させることができる。
【0026】
上記3価セリウム塩は、セリウム(III)化合物と還元性有機酸とを反応させることにより得られるものであることが好ましい。例えば、炭酸セリウムの水和物[Ce2(CO3)3・8H2O]とアスコルビン酸と乳酸とを、水中で1:2:4(モル比)で混合し、加熱して反応させることにより上記式(1)で表される3価セリウム塩の水溶液を調製できる。
【0027】
上記セリウム(III)化合物としては、上記還元性有機酸の水溶液に溶解させることができ、上記還元性有機酸よりも弱酸のセリウム塩であれば特に限定されず、例えば、炭酸セリウム、ホウ酸セリウム、トリス−アセチルアセトナトセリウム、ステアリン酸セリウム等を挙げることができる。なかでも、溶解後に炭酸ガスとなって水溶液中に残存することがない点から、炭酸セリウムが好ましい。
【0028】
上記3価セリウム塩は、セリウム(III)化合物と還元性有機酸及び還元性有機酸以外の有機酸とを反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0029】
上記3価セリウム塩の配合量は、上記カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gに対して、セリウム金属換算で下限0.1ミリモル、上限10ミリモルであることが好ましい。0.1ミリモル未満であると、硬化触媒、耐食性付与剤としての機能が充分発揮されないおそれがあり、10ミリモルを超えると、経済的でない。上記下限は、0.5ミリモルであることがより好ましく、上記上限は、5ミリモルであることがより好ましい。
【0030】
本発明のカチオン電着塗料は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有する樹脂組成物を含んでなるものである。上記樹脂組成物を構成する樹脂は、一分子中にスルホニウム基及びプロパルギル基の両者を有していてもよいが、必ずしもその必要はなく、例えば、一分子中にスルホニウム基又はプロパルギル基のいずれか一方だけを有していてもよい。この後者の場合には、樹脂組成物全体として、これら2種の硬化性官能基のすべてを有している。即ち、上記樹脂組成物は、スルホニウム基及びプロパルギル基を有する樹脂からなるか、スルホニウム基だけを有する樹脂及びプロパルギル基だけを有する樹脂の混合物からなるか、又は、これらすべての混合物からなるものであってもよい。上記樹脂組成物は、上述の意味においてスルホニウム基及びプロパルギル基を有する。
【0031】
上記スルホニウム基は、上記樹脂組成物の水和官能基である。スルホニウム基は、電着工程で一定以上の電圧又は電流を与えられると、電極上で電解還元反応をうけてイオン性基が消失し、不可逆的に不導体化することができる。上記カチオン電着塗料は、このことにより高度のつきまわり性を発揮することができるものと考えられる。
【0032】
また、この電着工捏においては、電極反応が引き起こされ、生じた水酸化物イオンをスルホニウム基が保持することにより電解発生塩基が電着被膜中に発生するものと考えられる。この電解発生塩基は、電着被膜中に存在する加熱による反応性の低いプロパルギル基を、加熱による反応性の高いアレン結合に変換することができる。
【0033】
上記樹脂組成物の骨格となる樹脂としては特に限定されないが、エポキシ樹脂が好適に用いられる。
上記エポキシ樹脂としては、1分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有するものが好適に用いられ、例えば、エピビスエポキシ樹脂、これをジオール、ジカルボン酸、ジアミン等により鎖延長したもの;エポキシ化ポリブタジエン;ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂;ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂;ポリグリシジルアクリレート;脂肪族ポリオール又はポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル;多塩基性カルボン酸のポリグリシジルエステル等のポリエポキシ樹脂を挙げることができる。なかでも、硬化性を高めるための多官能基化が容易であるので、ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂、ポリグリシジルアクリレートが好ましい。なお、上記エポキシ樹脂の一部は、モノエポキシ樹脂であってもかまわない。
【0034】
上記樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂を骨格とする樹脂からなり、数平均分子量は、下限500、上限20000であることが好ましい。500未満であると、電着工程の塗装効率が悪くなり、20000を超えると、基板表面で良好な被膜を形成することができない。上記数平均分子量は樹脂骨格に応じてより好ましい分子量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、下限700、上限5000であることが好ましい。
【0035】
上記樹脂組成物中のスルホニウム基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、下限5ミリモル、上限400ミリモルである。5ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。400ミリモル/100gを超えると、基板表面への被膜の析出が悪くなる。上記スルホニウム基の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、上記下限は、5ミリモルであることがより好ましく、10ミリモルであることが更に好ましい。また、上記上限は、250ミリモルであることが好ましく、150ミリモルであることが更に好ましい。
【0036】
上記樹脂組成物の有するプロパルギル基は、上記カチオン電着塗料において、硬化官能基として作用する。また、理由は不明であるが、スルホニウム基と併存することにより、カチオン電着塗料のつきまわり性を一層向上させることができる。
【0037】
上記樹脂組成物の有するプロパルギル基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限495ミリモルである。10ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、495ミリモル/100gを超えると、電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。上記プロパルギル基の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、上記下限は、20ミリモルであることがより好ましく、上記上限は、395ミリモルであることがより好ましい。
【0038】
上記樹脂組成物の有するスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100gを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。上記樹脂組成物の有するスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0039】
上記樹脂組成物中のプロパルギル基の一部は、アセチリド化されていてもよい。アセチリドは、塩類似の金属アセチレン化物である。上記樹脂組成物中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限0.1ミリモル、上限40ミリモルであることが好ましい。0.1ミリモル未満であると、アセチリド化による効果が充分発揮されず、40ミリモルを超えると、アセチリド化が困難である。この含有量は、使用する金属に応じてより好ましい範囲を設定することが可能である。
【0040】
上記アセチリド化されたプロパルギル基に含まれる金属としては、触媒作用を発揮する金属であれば特に限定されず、例えば、銅、銀、バリウム等の遷移金属を挙げることができる。これらのうち、環境適合性を考慮するならば、銅、銀が好ましく、入手容易性から、銅がより好ましい。銅を使用する場合、上記樹脂組成物中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり0.1〜20ミリモルであることがより好ましい。
【0041】
上記樹脂組成物中のプロパルギル基の一部をアセチリド化することにより、硬化触媒を樹脂中に導入することができる。このようにすれば、一般に、有機溶媒や水に溶解又は分散しにくい有機遷移金属錯体を使用する必要がなく、遷移金属であっても容易にアセチリド化して導入可能であるので、難溶性の遷移金属化合物であっても自由に塗料組成物に使用可能である。また、遷移金属有機酸塩を使用する場合のように、有機酸塩がアニオンとして電着浴中に存在することを回避でき、更に、金属イオンが限外ろ過によって除去されることはなく、浴管理や電着塗料の設計が容易となる。
【0042】
上記樹脂組成物には、所望により、炭素−炭素二重結合を含有させてもよい。上記炭素−炭素二重結合は、反応性が高いので硬化性を一層向上させることができる。
【0043】
上記炭素−炭素二重結合の含有量は、後述するプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の含有量の条件を充たした上で、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限485ミリモルが好ましい。10ミリモル/100g未満であると、添加により充分な硬化性を発揮することができず、485ミリモル/100gを超えると、電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。上記炭素−炭素二重結合の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限20ミリモル、上限375ミリモルであることが好ましい。
【0044】
上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限80ミリモル、上限450ミリモルの範囲内であることが好ましい。80ミリモル/100g未満であると硬化性が不充分となるおそれがあり、450ミリモル/100gを超えるとスルホニウム基の含有量が少なくなり、つきまわり性が不充分となるおそれがある。上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限100ミリモル、上限395ミリモルであることがより好ましい。
【0045】
また、上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100gを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じて、より好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0046】
上記樹脂組成物は、例えば、一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物を反応させて、プロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物を得る工捏(i)、工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する工程(ii)により好適に製造することができる。
【0047】
上記エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物(以下、「化合物(A)」と称する)としては、例えば、水酸基やカルポキシル基等のエポキシ基と反応する官能基とプロパルギル基とをともに含有する化合物であってよく、具体的には、プロパルギルアルコール、プロパルギル酸等を挙げることができる。これらのうち、入手の容易性及び反応の容易性から、プロパルギルアルコールが好ましい。
【0048】
上記樹脂組成物に、必要に応じて、炭素−炭素二重結合を持たせる場合には、上記工程(i)において、エポキシ基と反応する官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、「化合物(B)」と称する)を、上記化合物(A)と併用すればよい。上記化合物(B)としては、例えば、水酸基やカルポキシル基等のエポキシ基と反応する官能基と炭素−炭素二重結合とをともに含有する化合物であってよい。具体的には、エポキシ基と反応する基が水酸基である場合、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール等を挙げることができる。エポキシ基と反応する基がカルポキシル基である場合、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸;マレイン酸エチルエステル、フマル酸エチルエステル、イタコン酸エチルエステル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル等のハーフエステル類;オレイン酸、リノール酸、リシノール酸等の合成不飽和脂肪酸;アマニ油、大豆油等の天然不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0049】
上記工捏(i)においては、上記一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に上記化合物(A)を反応させて、プロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物を得るか、又は、上記化合物(A)と、必要に応じて、上記化合物(B)とを反応させてプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を有するエポキシ樹脂組成物を得る。この後者の場合、工捏(i)においては、上記化合物(A)と上記化合物(B)とは、両者を予め混合してから反応に用いてもよく、又は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを別々に反応に用いてもよい。なお、上記化合物(A)が有するエポキシ基と反応する官能基と、上記化合物(B)が有するエポキシ基と反応する官能基とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
上記工捏(i)において、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを反応させる場合の両者の配合北率は、所望の官能基含有量となるように設定すればよく、例えば、上述したプロパルギル基と炭素−炭素二重結合の含有量となるように設定すればよい。
【0051】
上記工捏(i)の反応条件は、通常、室温又は80〜140℃にて数時間である。また、必要に応じて触媒や溶媒等の反応を進行させるために必要な公知の成分を使用することができる。反応の終了は、エポキシ当量の測定により確認することができ、得られた樹脂組成物の不揮発分測定や機器分析により、導入された官能基を確認することができる。このようにして得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基を一つ又は複数有するエポキシ樹脂の混合物であるか、又は、プロパルギル基と炭素−炭素二重結合とを一つ又は複数有するエポキシ樹脂の混合物である。この意味で、上記工程(i)によりプロパルギル基、又は、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を有する樹脂組成物が得られる。
【0052】
工捏(ii)においては、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する。スルホニウム基の導入は、スルフィド/酸混合物とエポキシ基を反応させてスルフィドの導入及びスルホニウム化を行う方法や、スルフィドを導入した後、更に、酸又はフッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル等のアルキルハライド等により、導入したスルフィドのスルホニウム化反応を行い、必要によりアニオン交換を行う方法等により行うことができる。反応原料の入手容易性の観点からは、スルフィド/酸混合物を使用する方法が好ましい。
【0053】
上記スルフィドとしては特に限定されず、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、環状スルフィド等を挙げることができる。具体的には、例えば、ジェチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、ジフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノール等を挙げることができる。
【0054】
上記酸としては特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、ホウ酸、酪酸、ジメチロールプロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、N−アセチルグリシン、N−アセチルーβ−アラニン等を挙げることができる。
【0055】
上記スルフィド/酸混合物における上記スルフィドと上記酸との混合比率は、通常、モル比率でスルフィド/酸=100/40〜100/100軽度が好ましい。
【0056】
上記工程(ii)の反応は、例えば、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物と、例えば、上述のスルホニウム基含有量になるように設定された所定量の上記スルフィド及び上記酸との混合物とを、使用するスルフィドの5〜10倍モルの水と混合し、通常、50〜90℃で数時間攪拌して行うことができる。反応の終了点は、残存酸価が5以下となることを目安とすればよい。得られた樹脂組成物中のスルホニウム基導入の確認は、電位差滴定法により行うことができる。
【0057】
スルフィドの導入後にスルホニウム化反応を行う場合も、上記に準じて行うことができる。上述のように、スルホニウム基の導入を、プロパルギル基の導入の後に行うことにより、加熱によるスルホニウム基の分解を防止することができる。
【0058】
上記樹脂組成物の有するプロパルギル基の一部をアセチリド化する場合は、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物に、金属化合物を反応させて、上記エポキシ樹脂組成物中の一部のプロパルギル基をアセチリド化する工程によって行うことができる。上記金属化合物としては、アセチリド化が可能な遷移金属化合物であることが好ましく、例えば、銅、銀又はバリウム等の遷移金属の錯体又は塩を挙げることができる。具体的には、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸銅、アセチルアセトン銀、酢酸銀、硝酸銀、アセチルアセトンバリウム、酢酸バリウム等を挙げることができる。これらのうち、環境適合性の観点から、銅又は銀の化合物が好ましく、入手容易性の観点から、銅の化合物がより好ましく、例えば、アセチルアセトン銅が、浴管理の容易性に鑑み、好適である。
【0059】
プロパルギル基の一部をアセチリド化する反応条件としては、通常、40〜70℃にて数時間である。反応の進行は、得られた樹脂組成物が着色することや、核磁気共鳴スペクトルによるメチンプロトンの消失等により確認することができる。かくして、樹脂組成物中のプロパルギル基が所望の割合でアセチリド化する反応時点を確認して、反応を終了させる。得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基の一つ又は複数がアセチリド化されたエポキシ樹脂の混合物である。このようにして得られたプロパルギル基の一部をアセチリド化したエポキシ樹脂組成物に対して、上記工程(ii)によってスルホニウム基を導入することができる。
【0060】
なお、エポキシ樹脂組成物の有するプロパルギル基の一部をアセチリド化する工程と上記工程(ii)とは、反応条件を共通に設定可能であるので、両工程を同時に行うことも可能である。両工程を同時に行う方法は、製造プロセスを簡素化することができるので有利である。
【0061】
このようにして、プロパルギル基及びスルホニウム基、必要に応じて、炭素−炭素二重結合、プロパルギル基の一部がアセチリド化したものを有する樹脂組成物を、スルホニウム基の分解を抑制しつつ、製造することができる。なお、アセチリドは、乾燥状態で爆発性を有するが、水性媒体中で実施され、水性組成物として目的物質を得ることができるので、安全上の問題は発生しない。
【0062】
上記カチオン電着塗料は、上述の樹脂組成物を含有しており、樹脂組成物自体が硬化性を有するので、上記カチオン電着塗料中において、硬化剤の使用は必ずしも必要ない。しかし、硬化性のさらなる向上のために使用してもよい。このような硬化剤としては、例えば、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合のうち少なくとも1種を複数個有する化合物、例えば、ノボラックフェノール等のポリエポキシドやペンタエリスリットテトラグリシジルエーテル等に、プロパルギルアルコール等のプロパルギル基を有する化合物やアクリル酸等の炭素−炭素二重結合を有する化合物を付加反応させて得た化合物等を挙げることができる。
【0063】
また、上記カチオン電着塗料は、上述した3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の3価セリウム塩を含有するものであり、これにより硬化触媒の効果は発揮される。しかし、硬化反応条件により、更に硬化性を向上させる必要がある場合には、必要に応じて、通常用いられる遷移金属化合物等を適宜添加してもよい。このような化合物としては特に限定されず、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウム、ロジウム等の遷移金属に対して、シクロペンタジエンやアセチルアセトン等の配位子や酢酸等のカルボン酸等が結合したもの等を挙げることができる。このようなものを添加する場合には、硬化触媒の合計配合量は、カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gあたり、下限0.1ミリモル、上限20ミリモルであることが好ましい。
【0064】
上記カチオン電着塗料には、アミンを配合することができる。上記アミンの配合により、電着過程における電解還元によるスルホニウム基のスルフィドへの変換率が増大する。上記アミンとしては特に限定されず、例えば、1級〜3級の単官能及び多官能の脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等のアミン化合物を挙げることができる。これらのうち、水溶性又は水分散性のものが好ましく、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の炭素数2〜8のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジメタノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、N{メチルモルホリン、ピリジン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾリン、イミダゾール等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、水分散安定性が優れているので、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のヒドロキシアミンが好ましい。
【0065】
上記アミンは、直接、上記カチオン電着塗料中に配合することができる。従来の中和型アミン系の電着塗料では、遊離のアミンを添加すると、樹脂中の中和酸を奪うことになり、電着溶液の安定性が著しく悪化するが、本発明においては、このような浴安定性の阻害が生じることはない。
【0066】
上記アミンの配合量は、カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gあたり、下限0.3meq、上限25meqが好ましい。0.3meq/100g未満であると、つきまわり性に対して充分な効果を得ることができず、25meq/100gを超えると、添加量に応じた効果を得ることができず不経済である。上記下限は、1meq/100gであることがより好ましく、上記上限は、15meq/100gであることがより好ましい。
【0067】
上記カチオン電着塗料には、脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物を配合することもできる。上記脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物の配合により、得られる塗膜の耐衝撃性が向上する。上記脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物としては、樹脂組成物の固形分100gあたりスルホニウム基5〜400ミリモル、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基80〜135ミリモル及び炭素数3〜7の不蝕和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基のうち少なくとも1種10〜315ミリモルを含有し、かつ、スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及び炭素数3〜7の不能和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基の合計含有量が樹脂組成物の固形分100gあたり500ミリモル以下であるものを挙げることができる。
【0068】
上記カチオン電着塗料に対して、脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物を配合する場合、カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gあたり、スルホニウム基5〜400ミリモル、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基10〜300ミリモル及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計10〜485ミリモルを含有し、かつ、スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計含有量が、カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gあたり、500ミリモル以下であり、上記炭素数8〜24の不蝕和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基の含有割合が、電着塗料中の樹脂固形分の3〜30質量%であることが好ましい。
【0069】
上記カチオン電着塗料に対して、脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物を配合する場合、スルホニウム基が5ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。400ミリモル/100gを超えると、基板表面への被膜の析出が悪くなる。また、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基が80ミリモル/100g未満であると、耐衝撃性の改善が不充分であり、350ミリモル/100gを超えると、樹脂組成物の取扱性が困難となる。プロパルギル基及び炭素数3〜7の不蝕和二重結合を末端に有する有機基の合計が10ミリモル/100g未満であると、他の樹脂や硬化剤と組み合わせて使用する場合であっても、充分な硬化性を発揮することができず、315ミリモル/100gを超えると、耐衝撃性の改善が不充分となる。スルホニウム基、炭素数8〜24の不蝕和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり500ミリモル以下である。500ミリモルを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。
【0070】
上記カチオン電着塗料は、更に、必要に応じて、通常のカチオン電着塗料に用いられるその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては特に限定されず、例えば、顔料、防錆剤、顔料分散樹脂、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0071】
上記顔料としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、ペンガラ等の着色顔料;塩基性ケイ酸鉛、リンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料;カオリン、クレー、タルク等の体質顔料等を挙げることができる。上記防錆剤としては、具体的には、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛カルシウム、カルシウム担持シリカ、カルシウム担持ゼオライト等を挙げることができる。上記顔料と防錆剤との合計配合量は、カチオン電着塗料中、固形分として、下限0質量%、上限50質量%であることが好ましい。
【0072】
上記顔料分散樹脂は上記顔料をカチオン電着塗料中に安定して分散させるために用いられる。顔料分散樹脂としては、特に限定されるものではなく、一般に使用されている顔料分散樹脂を使用することができる。また、樹脂中にスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂を使用してもよい。このようなスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂とハーフブロック化イソシアネートとを反応させて得られる疎水性エポキシ樹脂に、スルフィド化合物を反応させるか、又は、上記樹脂に、一塩基酸及び水酸基含有二塩基酸の存在下でスルフィド化合物を反応させる方法等により得ることができる。上記非重金属防錆剤についても上記顔料分散樹脂によってカチオン電着塗料中に安定して分散させることができる。
【0073】
上記カチオン電着塗料は、例えば、上記樹脂組成物に、必要に応じて、上述の各成分を混合し、水に溶解又は分散すること等により得ることができる。電着工程に使用する際には、不揮発分が下限10質量%、上限30質量%の溶液となるように調製されることが好ましい。また、電着塗料中のプロパルギル基、炭素−炭素二重結合及びスルホニウム基の含有量が、上述の樹脂組成物のところで示した範囲を逸脱しないように調製されることが好ましい。
【0074】
上記3価セリウム塩の具体的な製造方法としては、例えば、先ずアスコルビン酸及び乳酸を水に溶解させて50〜90℃まで昇温し、炭酸セリウムの水和物を徐々に添加し、その温度を保持したまま4〜5時間攪拌を続けて上記式(1)で表される3価セリウム塩の水溶液を得ることができる。
【0075】
上記のようにして得られた3価セリウム塩を塗料中に含有させる方法としては、例えば、得られた水溶液をそのまま(反応生成物から溶液を分離しないで)電着塗料組成物に加えてもよいし、その後、反応生成物を溶液から分離する工程を行い、分離した反応生成物を電着塗料組成物に加えてもよい。反応生成物の分離は、一般には、反応溶液を常温減圧濃縮し、結晶として析出させて行うことができる。
【0076】
上記カチオン電着塗料の電着塗装は、被塗装物を陰極とし、陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。上記印加電圧が50V未満であると、電着が不充分となり、450Vを超えると、消費電力が大きくなり、経済的でない。上記カチオン電着塗料を使用して上述の範囲内で電圧を印加すると、電着過程における急激な膜厚の上昇を生じることなく、素材の表面全体に均一な皮膜を形成することができる。上記電圧を印加する場合の上記カチオン電着塗料の溶液温度は、通常、10〜45℃が好ましい。
【0077】
上記カチオン電着塗料を塗装することができる被塗物としては、カチオン電着塗装工程を行うことが可能な導電性を示すものであれば特に限定されないが、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等及びこれらの金属を含む合金等を挙げることができる。
【0078】
本発明のカチオン電着塗料において、塗料中の3価セリウム塩は3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の塩であることから、電着浴中において3価のセリウムイオンが長期間安定に溶存状態を維持することができるものである。また、還元性有機酸のみが配位した3価セリウム塩が電着浴中において安定に溶存状態を維持することができないものである場合には、還元性有機酸以外の有機酸も配位させることによって、得られる塩の水溶性を高めることができ、より安定な溶存状態を維持させることができるようになる。従って、スルホニウム基とプロパルギル基とを有する樹脂組成物及び上記3価セリウム塩からなる本発明のカチオン電着塗料は、電着浴中に上記3価のセリウム塩が安定に溶解するものであり、これにより、上記3価セリウム塩が硬化触媒として好適に機能するものである。また、3価セリウム塩を含む塗膜を得ることができることから、耐食性に優れた塗膜を得ることができる。更に、塗料中の3価のセリウムイオンが安定であることから平滑性に優れた塗膜を得ることができる。
【0079】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0080】
製造例1
攪拌機、温度計、冷却器を装備したフラスコに、L−アスコルビン酸(キシダ化学社製)370部、イオン交換水4020部を加え湯浴中で約50℃に加熱しながら、L−アスコルビン酸を溶解し、L−アスコルビン酸水溶液を調製した。これに50%乳酸溶液(昭和加工社製)757部を加え、混合水溶液が相溶して透明になるまでよく攪拌した。フラスコ中の混合水溶液を攪拌しながら、これに炭酸セリウム八水和物(新日本金属化学社製)604部を徐々に加えた。炭酸セリウム八水和物の添加後、湯浴を用いて75℃になるまで加熱した。75℃となった時点から攪拌しながら5時間反応を行った。淡黄色できわめて透明性の高い液体を得た後、これを濾過して、淡黄色で完全に透明なL−アスコルビン酸と乳酸のセリウム(III)塩の水溶液を得た。
【0081】
製造例2 スルホニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物の製造
エポキシ当量200.4のエポトートYDCN−701(東都化成社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂)100.0質量部にプロパルギルアルコール23.6質量部、ジメチルペンジルアミン0.3質量部を攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、3時間反応させてエポキシ当量が1580のプロパルギル基を含有する樹脂組成物を得た。このものに銅アセチルアセトナート2.5質量部を加え50℃で1.5時間反応させた。プロトン(1H)NMRで付加プロパルギル基末端水素の一部が消失していることを確認した(14ミリモル/100g樹脂固形分相当量のアセチリド化されたプロパルギル基を含有)。このものに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6質量部、氷酢酸4.7質量部、脱イオン水7.0質量部を入れ75℃で保温しつつ6時間反応させ、残存酸価が5以下であることを確認した後、脱イオン水43.8質量部を加え、目的の樹脂組成物溶液を得た。このものの固形分濃度は70.0質量%、スルホニウム価は28.0ミリモル/100gワニスであった。数平均分子量(ポリスチレン換算GPC)は2443であった。
【0082】
製造例3
(酢酸セリウム水溶液の調製)
攪拌機、温度計、冷却器を装備したフラスコに、酢酸35部及びイオン交換水6062部を入れ、よく攪拌してこれらを相溶させた。この酢酸水溶液を湯浴中で50℃となるように加熱した。次にフラスコ内の酢酸水溶液を攪拌しながら、これに酢酸セリウム一水和物(新日本金属化学社製)804部を徐々に添加した。その後、50℃で5時間攪拌して懸濁液を得た。この懸濁液を濾過して無色透明の酢酸セリウム(III)水溶液を得た。
【0083】
製造例4
(ギ酸セリウム水溶液の調製)
攪拌機、温度計、冷却器を装備したフラスコに、ギ酸(キシダ化学社製)331部、イオン交換水4816部を加えて攪拌し、ギ酸水溶液を調製した。このフラスコ中の混合水溶液を攪拌しながら、これに炭酸セリウム八水和物604部を徐々に加えた。炭酸セリウム八水和物の添加後、湯浴を用いて75℃になるまで加熱した。75℃となった時点から攪拌しながら5時間反応を行った。得られた懸濁液を濾過して、無色透明なギ酸セリウム(III)水溶液を得た。
【0084】
製造例5
(グルコン酸セリウム水溶液の調製)
攪拌機、温度計、冷却器を装備したフラスコに、50%グルコン酸水溶液(キシダ化学社製)2825部、イオン交換水2322部を加えて攪拌し、グルコン酸水溶液を調製した。このフラスコ中の混合水溶液を攪拌しながら、これに炭酸セリウム八水和物604部を徐々に加えた。炭酸セリウム八水和物の添加後、湯浴を用いて75℃になるまで加熱した。75℃となった時点から攪拌しながら5時間反応を行った。得られた懸濁液を濾過して、無色透明なグルコン酸セリウム(III)水溶液を得た。
【0085】
実施例1
カチオン電着塗料の製造
製造例2で得られたエポキシ樹脂組成物142.9部、脱イオン水157.1質量部を加えた後、製造例1で得られた3価セリウム塩水溶液を、セリウム金属換算で樹脂固形分100gに対して2.5mmolとなるように加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に脱イオン水373.3質量部を加え、固形分濃度が15質量%となるように調製して、カチオン電着塗料を得た。
【0086】
比較例1
製造例1で得られた水溶液の代わりに、製造例3で得られた酢酸セリウム(III)水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料を得た。
【0087】
比較例2
製造例1で得られた水溶液の代わりに、製造例4で得られたギ酸セリウム(III)水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料を得た。
【0088】
比較例3
製造例1で得られた水溶液の代わりに、製造例5で得られたグルコン酸セリウム(III)水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料を得た。
【0089】
〔塗膜形成〕
実施例1、比較例1〜3で得られたカチオン電着塗料をステンレス容器に移して電着浴とし、ここに被塗装物として、リン酸亜鉛処理した冷間圧延銅板(JISG3141SPCC−SD、日本ペイント社製のリン酸亜鉛処理剤サーフダインSD−5000で処理)が陰極となるようにして、乾燥膜厚が30μmとなるように電着塗装を行った。電着塗装後、被塗装物をステンレス容器内の電着浴から引き上げ、水洗し、カチオン電着未硬化塗膜を形成し、180℃で20分焼き付けることにより、電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
また、焼付硬化温度を190℃、200℃にした被塗装物も同様に作成した。
【0090】
評価試験
実施例1、比較例1〜3で得られた被塗装物を下記の項目(初期、試験後)について評価した。評価結果は、表1に示した。
<肌(Ra値)>
表面粗度計「SJ−201」(ミットヨ社製)を用いて、被塗装物表面の肌(Ra値)を測定した。測定条件は、カットオフを0.8mm、2.5mmとした。なお、180℃で得られた被塗装物を評価した。
【0091】
<SDT(塩水浸漬試験)>
素地に至る長さ約10cmの傷を3cm間隔で被塗装物に入れたものを3%NaCl水溶液に浸漬し、密閉後55℃で10日間放置した後、テープを密着させて剥がし、電着塗膜の剥離幅を測定し、防食性を評価した。なお、180℃、190℃、200℃で得られた被塗装物をそれぞれ評価した。
【0092】
<SST(塩水噴霧試験)>
被塗装板にNTカッターを用いてクロス状に2本、長さ10cmのカップを入れた。これをJIS−Z−2371に準拠して、塩水噴霧試験(5%食塩水、35℃で840時間)を行った。取り出した被塗装板の表面の錆剥離幅を測定した。なお、180℃、190℃、200℃で得られた被塗装物をそれぞれ評価した。
【0093】
【表1】
【0094】
表1から、実施例1に関しては、初期及び4週間後のカチオン電着塗料により得られた塗膜のRa値の変化がほとんどなく、塗膜の平滑性の低下がみられなかった。経時によって電着浴中の3セリウム塩が水酸化セリウム、酸化セリウムとなって析出することがないものであるため、得られる塗膜の平滑性も維持されていたものと思われた。また、SDT(塩水漫漬試験)、SST(塩水噴霧試験)でも良好な結果が得られており、耐食性にも優れるものであった。一方、比較例1〜3に関しては、4週間後の塗料により得られた塗膜は、初期に比べてRa値が高く、塗膜の平滑性が低下しており、また、耐食性にも劣るものであった。従って、実施例1により得られたカチオン電着塗料は、長期間安定性に優れ、好適に用いることができるものであった。
【0095】
【発明の効果】
本発明のカチオン電着塗料は、上述した構成よりなるので、水溶液中で安定な3価セリウム塩を形成するものであり、硬化触媒、耐食性付与剤として好適に機能し、更に優れた平滑性を有する塗膜を得ることができるものである。従って、上記カチオン電着塗料は、自動車等の被塗物に対して好適に用いることができるものである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオン電着塗料に関する。
【0002】
【従来の技術】
電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができることから、自動車車体等の大型で複雑な形状を有し、高い防錆性が要求される被塗物の下塗り塗装方法として汎用されている。
【0003】
また、他の塗装方法と比較して、塗料の使用効率が極めて高いことから経済的であり、工業的な塗装方法として広く普及している。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる。このようなカチオン電着塗料には、耐食性付与剤や硬化触媒としてセリウム化合物が使用される場合がある。
【0004】
しかしながら、酢酸セリウム(III)等のセリウム化合物は、水性溶液中で安定性に劣り、電着塗料組成物に添加されると比較的短時間の内に、3価のセリウムイオンが容易に4価のセリウムイオンに酸化されるため、水酸化セリウム(IV)又は酸化セリウム(IV)となって溶存できなくなる。
【0005】
このため、電着塗装工程の間に塗料浴中のセリウム濃度が経時的に低下し、これに伴って、電着塗膜に取り込まれるセリウム化合物の量も経時的に低下する。従って、硬化塗膜を効率的に得ることができず、また、得られる硬化塗膜も長期間にわたって耐食性に優れたものとすることは困難であった。更に、生成した水酸化セリウム(IV)、酸化セリウム(IV)が形成される塗膜中に取り込まれることが原因と考えられる塗膜の平滑性の低下も見られていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、水溶液中で安定な3価セリウム塩を形成するものであり、硬化触媒、耐食性付与剤として好適に機能し、更に優れた平滑性を有する塗膜を得ることができるカチオン電着塗料を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、樹脂組成物及び3価セリウム塩からなるカチオン電着塗料であって、上記樹脂組成物は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有するものであり、上記3価セリウム塩は、3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の塩であることを特徴とするカチオン電着塗料である。
【0008】
上記還元性有機酸は、アスコルビン酸であることが好ましい。
上記3価セリウム塩は、下記式(1);
【0009】
【化2】
【0010】
で表されるものであることが好ましい。
上記3価セリウム塩は、セリウム(III)化合物と還元性有機酸とを反応させることにより得られるものであることが好ましい。
上記セリウム(III)化合物は、炭酸セリウムであることが好ましい。
【0011】
上記樹脂組成物は、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、スルホニウム基を5〜400ミリモル及びプロパルギル基を10〜495ミリモル含有し、かつ、スルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量が500ミリモル以下であることが好ましい。
【0012】
上記樹脂組成物は、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、スルホニウム基を5〜250ミリモル及びプロパルギル基を20〜395ミリモル含有し、かつ、スルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量が400ミリモル以下であることが好ましい。
【0013】
上記樹脂組成物は、エポキシ樹脂を骨格とするものであることが好ましい。
上記エポキシ樹脂は、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂であり、かつ、数平均分子量が700〜5000であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のカチオン電着塗料は、3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の3価セリウム塩を含有するものである。上記3価セリウム塩は、水溶液中において、3価のセリウムイオンとして安定に存在することができるものであり、4価のセリウムイオンに酸化されにくいものであることから、電着浴中で3価のセリウムイオンとして安定に存在することができる。従って、上記カチオン電着塗料を使用して電着工捏を行うと、形成された塗膜中に、上記3価セリウム塩が取り込まれ、硬化の際に、硬化触媒として好適に機能することができる。また、得られた塗膜は、上記3価セリウム塩を含むものであるため、耐食性に優れたものとなる。更に、水酸化セリウム、酸化セリウムを生成することが少ないため、これらが塗膜中に取り込まれることによる塗膜の平滑性の低下も少ないものである。
【0015】
通常、例えば、酢酸セリウム(III)のような水溶化することによって3価のセリウムイオンを供給することができるセリウム化合物を水に溶解し、3価のセリウムイオンが溶解する水溶液を調製すると、その水溶液の調製後、比較的短時間のうちに、水溶液中の3価のセリウムイオンが4価のセリウムイオンに酸化されてしまう。水溶液中では、4価のセリウムイオンは安定性が低く、水と容易に反応して水酸化セリウム(IV)又は酸化セリウム(IV)に変化し、不溶化してしまう。従って、3価のセリウムイオンを含有する安定な水溶液を調製することは困難であった。
【0016】
一方、上記3価セリウム塩は、3個以上の配位部位を持つ有機酸の塩である。
これにより、3価セリウムイオンにこの配位部位が配位することによって水溶液中での3価のセリウムイオンは安定化している。また、上記3価セリウム塩は、還元性を有する塩でもあることから、抗酸化能を有し、3価のセリウムイオンは、4価に酸化されることが抑制されている。即ち、上記3価セリウム塩の水溶液は、生成する3価のセリウムイオンに3個以上の配位部位を有する還元性有機酸がキレート状に配位し、その結果、セリウムイオンが3価として安定に存在する水溶液を得ることができる。このため、このような3価セリウム塩の水溶液をカチオン電着塗料中に含有させても、電着浴中で安定に存在し、硬化触媒として好適に機能させることができ、また、得られる塗膜は、耐食性及び平滑性に優れるものである。
【0017】
上記配位部位は、水溶液中における3価のセリウムイオンに配位することができる還元性有機酸中の部位である。
上記配位部位としては、例えば、−OH、−CO−、−O−、−NH2、−NH−、−N<、−SH、−S−等を挙げることができる。上記配位部位は、同種のものであってもよく、異種のものであってもよい。なお、上記配位部位は、中性状態であってもよく、イオン化された状態であってもよい。
【0018】
上記還元性とは、3価のセリウムイオンが4価に酸化されることを抑制することができる性質である。
【0019】
上記還元性有機酸としては、例えば、以下の構造を有する有機酸を挙げることができる。
【0020】
【化3】
【0021】
上記還元性有機酸としては、3個以上の配位部位を有し、還元性を有する有機酸であれば特に限定されず、アスコルビン酸、グルクロン酸、没食子酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、2−ヒドロキシ酪酸、グリオキシル酸等を挙げることができる。なかでも、還元能が高く、かつ熱的にも安定で、3価のセリウムイオンを安定に存在させることができる点から、アスコルビン酸を用いるのが好ましい。上記の酸のうち、光学異性体を有するものがあるがD−体、L−体やこれらの混合物のいずれも好適に用いることができる。アスコルビン酸の場合、より入手しやすいL−アスコルビン酸を用いることが経済的な観点からより好適に用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
アスコルビン酸は3価のセリウムイオンの抗酸化能は高いが、分子量が大きいためアスコルビン酸のみと3価のセリウムの塩は水への溶解度自体は高くない。これは、比較的分子量の大きいアスコルビン酸の3分子が3価のセリウムイオン1分子に配位し、安定なキレート状態を維持すると、形成された塩が水への溶存状態を保持できずに固体として析出する傾向となるためである。そこで、セリウムイオンの還元能はアスコルビン酸より劣るものの、分子量が小さい還元性を有する酸とアスコルビン酸を併用して3価のセリウムとの塩を調製すると水への溶解度が高く、かつ、水溶液中でより安定に溶解させることができる。アスコルビン酸と併用する酸としては、溶解度の向上の観点から乳酸、2−ヒドロキシ酪酸が好ましい。経済的な観点から乳酸をアスコルビン酸と併用するのが更に好ましい。アスコルビン酸と乳酸を併用する場合、アスコルビン酸:乳酸をmol比でおよそ1:2〜2.6とするのが、溶解度と溶解安定性を両立させる点から好ましい。
【0023】
上記3価セリウム塩が還元性有機酸と還元性有機酸以外の有機酸とを含んでなるものである場合には、上記セリウム塩の調製において、セリウム(III)化合物におけるセリウム量と、還元性有機酸量と還元性有機酸以外の有機酸量との合計モル比としては、3価のセリウムイオンとして水溶液中で安定化させることから、およそ1:3となるように使用することが好ましい。還元性有機酸量と還元性有機酸以外の有機酸量との比は、得られる3価セリウム塩の水溶性に応じて適宜決定すればよい。これにより、3価のセリウムイオン1モルと、還元性有機酸と還元性有機酸以外の有機酸とが合計で3モルとによってなる3価セリウム塩を得ることができ、3価のセリウムイオンの水溶液中での安定性を向上させることができる。
【0024】
上記還元性有機酸以外の有機酸としては、得られる3価セリウム塩を水溶液中において安定化させることができるものであれば特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロトン酸、グルコン酸、シュウ酸、コハク酸、グリシン、アラニン、グルタミン酸、安息香酸、フタル酸等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記3価セリウム塩は、上記式(1)で表されるものであることが好ましい。
上記式(1)で表される3価セリウム塩は、3価のセリウムイオン1モルに対して、アスコルビン酸1モル及び乳酸2モルから形成される塩である。3個以上の配位部位を有し、還元性も有するアスコルビン酸が水溶液中で配位することにより、3価のセリウムイオンが4価に酸化されることが抑制され、更に、乳酸が配位することによって得られる3価セリウム塩の水溶性が高められ、結果として、3価のセリウムイオンを水溶液中に長期間安定に存在させることができる。
【0026】
上記3価セリウム塩は、セリウム(III)化合物と還元性有機酸とを反応させることにより得られるものであることが好ましい。例えば、炭酸セリウムの水和物[Ce2(CO3)3・8H2O]とアスコルビン酸と乳酸とを、水中で1:2:4(モル比)で混合し、加熱して反応させることにより上記式(1)で表される3価セリウム塩の水溶液を調製できる。
【0027】
上記セリウム(III)化合物としては、上記還元性有機酸の水溶液に溶解させることができ、上記還元性有機酸よりも弱酸のセリウム塩であれば特に限定されず、例えば、炭酸セリウム、ホウ酸セリウム、トリス−アセチルアセトナトセリウム、ステアリン酸セリウム等を挙げることができる。なかでも、溶解後に炭酸ガスとなって水溶液中に残存することがない点から、炭酸セリウムが好ましい。
【0028】
上記3価セリウム塩は、セリウム(III)化合物と還元性有機酸及び還元性有機酸以外の有機酸とを反応させることにより得られるものであることが好ましい。
【0029】
上記3価セリウム塩の配合量は、上記カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gに対して、セリウム金属換算で下限0.1ミリモル、上限10ミリモルであることが好ましい。0.1ミリモル未満であると、硬化触媒、耐食性付与剤としての機能が充分発揮されないおそれがあり、10ミリモルを超えると、経済的でない。上記下限は、0.5ミリモルであることがより好ましく、上記上限は、5ミリモルであることがより好ましい。
【0030】
本発明のカチオン電着塗料は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有する樹脂組成物を含んでなるものである。上記樹脂組成物を構成する樹脂は、一分子中にスルホニウム基及びプロパルギル基の両者を有していてもよいが、必ずしもその必要はなく、例えば、一分子中にスルホニウム基又はプロパルギル基のいずれか一方だけを有していてもよい。この後者の場合には、樹脂組成物全体として、これら2種の硬化性官能基のすべてを有している。即ち、上記樹脂組成物は、スルホニウム基及びプロパルギル基を有する樹脂からなるか、スルホニウム基だけを有する樹脂及びプロパルギル基だけを有する樹脂の混合物からなるか、又は、これらすべての混合物からなるものであってもよい。上記樹脂組成物は、上述の意味においてスルホニウム基及びプロパルギル基を有する。
【0031】
上記スルホニウム基は、上記樹脂組成物の水和官能基である。スルホニウム基は、電着工程で一定以上の電圧又は電流を与えられると、電極上で電解還元反応をうけてイオン性基が消失し、不可逆的に不導体化することができる。上記カチオン電着塗料は、このことにより高度のつきまわり性を発揮することができるものと考えられる。
【0032】
また、この電着工捏においては、電極反応が引き起こされ、生じた水酸化物イオンをスルホニウム基が保持することにより電解発生塩基が電着被膜中に発生するものと考えられる。この電解発生塩基は、電着被膜中に存在する加熱による反応性の低いプロパルギル基を、加熱による反応性の高いアレン結合に変換することができる。
【0033】
上記樹脂組成物の骨格となる樹脂としては特に限定されないが、エポキシ樹脂が好適に用いられる。
上記エポキシ樹脂としては、1分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有するものが好適に用いられ、例えば、エピビスエポキシ樹脂、これをジオール、ジカルボン酸、ジアミン等により鎖延長したもの;エポキシ化ポリブタジエン;ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂;ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂;ポリグリシジルアクリレート;脂肪族ポリオール又はポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル;多塩基性カルボン酸のポリグリシジルエステル等のポリエポキシ樹脂を挙げることができる。なかでも、硬化性を高めるための多官能基化が容易であるので、ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂、ポリグリシジルアクリレートが好ましい。なお、上記エポキシ樹脂の一部は、モノエポキシ樹脂であってもかまわない。
【0034】
上記樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂を骨格とする樹脂からなり、数平均分子量は、下限500、上限20000であることが好ましい。500未満であると、電着工程の塗装効率が悪くなり、20000を超えると、基板表面で良好な被膜を形成することができない。上記数平均分子量は樹脂骨格に応じてより好ましい分子量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、下限700、上限5000であることが好ましい。
【0035】
上記樹脂組成物中のスルホニウム基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、下限5ミリモル、上限400ミリモルである。5ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。400ミリモル/100gを超えると、基板表面への被膜の析出が悪くなる。上記スルホニウム基の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、上記下限は、5ミリモルであることがより好ましく、10ミリモルであることが更に好ましい。また、上記上限は、250ミリモルであることが好ましく、150ミリモルであることが更に好ましい。
【0036】
上記樹脂組成物の有するプロパルギル基は、上記カチオン電着塗料において、硬化官能基として作用する。また、理由は不明であるが、スルホニウム基と併存することにより、カチオン電着塗料のつきまわり性を一層向上させることができる。
【0037】
上記樹脂組成物の有するプロパルギル基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限495ミリモルである。10ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、495ミリモル/100gを超えると、電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。上記プロパルギル基の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、上記下限は、20ミリモルであることがより好ましく、上記上限は、395ミリモルであることがより好ましい。
【0038】
上記樹脂組成物の有するスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100gを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。上記樹脂組成物の有するスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0039】
上記樹脂組成物中のプロパルギル基の一部は、アセチリド化されていてもよい。アセチリドは、塩類似の金属アセチレン化物である。上記樹脂組成物中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限0.1ミリモル、上限40ミリモルであることが好ましい。0.1ミリモル未満であると、アセチリド化による効果が充分発揮されず、40ミリモルを超えると、アセチリド化が困難である。この含有量は、使用する金属に応じてより好ましい範囲を設定することが可能である。
【0040】
上記アセチリド化されたプロパルギル基に含まれる金属としては、触媒作用を発揮する金属であれば特に限定されず、例えば、銅、銀、バリウム等の遷移金属を挙げることができる。これらのうち、環境適合性を考慮するならば、銅、銀が好ましく、入手容易性から、銅がより好ましい。銅を使用する場合、上記樹脂組成物中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり0.1〜20ミリモルであることがより好ましい。
【0041】
上記樹脂組成物中のプロパルギル基の一部をアセチリド化することにより、硬化触媒を樹脂中に導入することができる。このようにすれば、一般に、有機溶媒や水に溶解又は分散しにくい有機遷移金属錯体を使用する必要がなく、遷移金属であっても容易にアセチリド化して導入可能であるので、難溶性の遷移金属化合物であっても自由に塗料組成物に使用可能である。また、遷移金属有機酸塩を使用する場合のように、有機酸塩がアニオンとして電着浴中に存在することを回避でき、更に、金属イオンが限外ろ過によって除去されることはなく、浴管理や電着塗料の設計が容易となる。
【0042】
上記樹脂組成物には、所望により、炭素−炭素二重結合を含有させてもよい。上記炭素−炭素二重結合は、反応性が高いので硬化性を一層向上させることができる。
【0043】
上記炭素−炭素二重結合の含有量は、後述するプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の含有量の条件を充たした上で、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限485ミリモルが好ましい。10ミリモル/100g未満であると、添加により充分な硬化性を発揮することができず、485ミリモル/100gを超えると、電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。上記炭素−炭素二重結合の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限20ミリモル、上限375ミリモルであることが好ましい。
【0044】
上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限80ミリモル、上限450ミリモルの範囲内であることが好ましい。80ミリモル/100g未満であると硬化性が不充分となるおそれがあり、450ミリモル/100gを超えるとスルホニウム基の含有量が少なくなり、つきまわり性が不充分となるおそれがある。上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、下限100ミリモル、上限395ミリモルであることがより好ましい。
【0045】
また、上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100gを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じて、より好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物の固形分100gあたり、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0046】
上記樹脂組成物は、例えば、一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物を反応させて、プロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物を得る工捏(i)、工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する工程(ii)により好適に製造することができる。
【0047】
上記エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物(以下、「化合物(A)」と称する)としては、例えば、水酸基やカルポキシル基等のエポキシ基と反応する官能基とプロパルギル基とをともに含有する化合物であってよく、具体的には、プロパルギルアルコール、プロパルギル酸等を挙げることができる。これらのうち、入手の容易性及び反応の容易性から、プロパルギルアルコールが好ましい。
【0048】
上記樹脂組成物に、必要に応じて、炭素−炭素二重結合を持たせる場合には、上記工程(i)において、エポキシ基と反応する官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、「化合物(B)」と称する)を、上記化合物(A)と併用すればよい。上記化合物(B)としては、例えば、水酸基やカルポキシル基等のエポキシ基と反応する官能基と炭素−炭素二重結合とをともに含有する化合物であってよい。具体的には、エポキシ基と反応する基が水酸基である場合、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール等を挙げることができる。エポキシ基と反応する基がカルポキシル基である場合、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸;マレイン酸エチルエステル、フマル酸エチルエステル、イタコン酸エチルエステル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル等のハーフエステル類;オレイン酸、リノール酸、リシノール酸等の合成不飽和脂肪酸;アマニ油、大豆油等の天然不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0049】
上記工捏(i)においては、上記一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に上記化合物(A)を反応させて、プロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物を得るか、又は、上記化合物(A)と、必要に応じて、上記化合物(B)とを反応させてプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を有するエポキシ樹脂組成物を得る。この後者の場合、工捏(i)においては、上記化合物(A)と上記化合物(B)とは、両者を予め混合してから反応に用いてもよく、又は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを別々に反応に用いてもよい。なお、上記化合物(A)が有するエポキシ基と反応する官能基と、上記化合物(B)が有するエポキシ基と反応する官能基とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
上記工捏(i)において、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを反応させる場合の両者の配合北率は、所望の官能基含有量となるように設定すればよく、例えば、上述したプロパルギル基と炭素−炭素二重結合の含有量となるように設定すればよい。
【0051】
上記工捏(i)の反応条件は、通常、室温又は80〜140℃にて数時間である。また、必要に応じて触媒や溶媒等の反応を進行させるために必要な公知の成分を使用することができる。反応の終了は、エポキシ当量の測定により確認することができ、得られた樹脂組成物の不揮発分測定や機器分析により、導入された官能基を確認することができる。このようにして得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基を一つ又は複数有するエポキシ樹脂の混合物であるか、又は、プロパルギル基と炭素−炭素二重結合とを一つ又は複数有するエポキシ樹脂の混合物である。この意味で、上記工程(i)によりプロパルギル基、又は、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を有する樹脂組成物が得られる。
【0052】
工捏(ii)においては、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する。スルホニウム基の導入は、スルフィド/酸混合物とエポキシ基を反応させてスルフィドの導入及びスルホニウム化を行う方法や、スルフィドを導入した後、更に、酸又はフッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル等のアルキルハライド等により、導入したスルフィドのスルホニウム化反応を行い、必要によりアニオン交換を行う方法等により行うことができる。反応原料の入手容易性の観点からは、スルフィド/酸混合物を使用する方法が好ましい。
【0053】
上記スルフィドとしては特に限定されず、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、環状スルフィド等を挙げることができる。具体的には、例えば、ジェチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、ジフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノール等を挙げることができる。
【0054】
上記酸としては特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、ホウ酸、酪酸、ジメチロールプロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、N−アセチルグリシン、N−アセチルーβ−アラニン等を挙げることができる。
【0055】
上記スルフィド/酸混合物における上記スルフィドと上記酸との混合比率は、通常、モル比率でスルフィド/酸=100/40〜100/100軽度が好ましい。
【0056】
上記工程(ii)の反応は、例えば、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物と、例えば、上述のスルホニウム基含有量になるように設定された所定量の上記スルフィド及び上記酸との混合物とを、使用するスルフィドの5〜10倍モルの水と混合し、通常、50〜90℃で数時間攪拌して行うことができる。反応の終了点は、残存酸価が5以下となることを目安とすればよい。得られた樹脂組成物中のスルホニウム基導入の確認は、電位差滴定法により行うことができる。
【0057】
スルフィドの導入後にスルホニウム化反応を行う場合も、上記に準じて行うことができる。上述のように、スルホニウム基の導入を、プロパルギル基の導入の後に行うことにより、加熱によるスルホニウム基の分解を防止することができる。
【0058】
上記樹脂組成物の有するプロパルギル基の一部をアセチリド化する場合は、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を有するエポキシ樹脂組成物に、金属化合物を反応させて、上記エポキシ樹脂組成物中の一部のプロパルギル基をアセチリド化する工程によって行うことができる。上記金属化合物としては、アセチリド化が可能な遷移金属化合物であることが好ましく、例えば、銅、銀又はバリウム等の遷移金属の錯体又は塩を挙げることができる。具体的には、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸銅、アセチルアセトン銀、酢酸銀、硝酸銀、アセチルアセトンバリウム、酢酸バリウム等を挙げることができる。これらのうち、環境適合性の観点から、銅又は銀の化合物が好ましく、入手容易性の観点から、銅の化合物がより好ましく、例えば、アセチルアセトン銅が、浴管理の容易性に鑑み、好適である。
【0059】
プロパルギル基の一部をアセチリド化する反応条件としては、通常、40〜70℃にて数時間である。反応の進行は、得られた樹脂組成物が着色することや、核磁気共鳴スペクトルによるメチンプロトンの消失等により確認することができる。かくして、樹脂組成物中のプロパルギル基が所望の割合でアセチリド化する反応時点を確認して、反応を終了させる。得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基の一つ又は複数がアセチリド化されたエポキシ樹脂の混合物である。このようにして得られたプロパルギル基の一部をアセチリド化したエポキシ樹脂組成物に対して、上記工程(ii)によってスルホニウム基を導入することができる。
【0060】
なお、エポキシ樹脂組成物の有するプロパルギル基の一部をアセチリド化する工程と上記工程(ii)とは、反応条件を共通に設定可能であるので、両工程を同時に行うことも可能である。両工程を同時に行う方法は、製造プロセスを簡素化することができるので有利である。
【0061】
このようにして、プロパルギル基及びスルホニウム基、必要に応じて、炭素−炭素二重結合、プロパルギル基の一部がアセチリド化したものを有する樹脂組成物を、スルホニウム基の分解を抑制しつつ、製造することができる。なお、アセチリドは、乾燥状態で爆発性を有するが、水性媒体中で実施され、水性組成物として目的物質を得ることができるので、安全上の問題は発生しない。
【0062】
上記カチオン電着塗料は、上述の樹脂組成物を含有しており、樹脂組成物自体が硬化性を有するので、上記カチオン電着塗料中において、硬化剤の使用は必ずしも必要ない。しかし、硬化性のさらなる向上のために使用してもよい。このような硬化剤としては、例えば、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合のうち少なくとも1種を複数個有する化合物、例えば、ノボラックフェノール等のポリエポキシドやペンタエリスリットテトラグリシジルエーテル等に、プロパルギルアルコール等のプロパルギル基を有する化合物やアクリル酸等の炭素−炭素二重結合を有する化合物を付加反応させて得た化合物等を挙げることができる。
【0063】
また、上記カチオン電着塗料は、上述した3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の3価セリウム塩を含有するものであり、これにより硬化触媒の効果は発揮される。しかし、硬化反応条件により、更に硬化性を向上させる必要がある場合には、必要に応じて、通常用いられる遷移金属化合物等を適宜添加してもよい。このような化合物としては特に限定されず、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウム、ロジウム等の遷移金属に対して、シクロペンタジエンやアセチルアセトン等の配位子や酢酸等のカルボン酸等が結合したもの等を挙げることができる。このようなものを添加する場合には、硬化触媒の合計配合量は、カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gあたり、下限0.1ミリモル、上限20ミリモルであることが好ましい。
【0064】
上記カチオン電着塗料には、アミンを配合することができる。上記アミンの配合により、電着過程における電解還元によるスルホニウム基のスルフィドへの変換率が増大する。上記アミンとしては特に限定されず、例えば、1級〜3級の単官能及び多官能の脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等のアミン化合物を挙げることができる。これらのうち、水溶性又は水分散性のものが好ましく、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の炭素数2〜8のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジメタノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、N{メチルモルホリン、ピリジン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾリン、イミダゾール等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、水分散安定性が優れているので、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のヒドロキシアミンが好ましい。
【0065】
上記アミンは、直接、上記カチオン電着塗料中に配合することができる。従来の中和型アミン系の電着塗料では、遊離のアミンを添加すると、樹脂中の中和酸を奪うことになり、電着溶液の安定性が著しく悪化するが、本発明においては、このような浴安定性の阻害が生じることはない。
【0066】
上記アミンの配合量は、カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gあたり、下限0.3meq、上限25meqが好ましい。0.3meq/100g未満であると、つきまわり性に対して充分な効果を得ることができず、25meq/100gを超えると、添加量に応じた効果を得ることができず不経済である。上記下限は、1meq/100gであることがより好ましく、上記上限は、15meq/100gであることがより好ましい。
【0067】
上記カチオン電着塗料には、脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物を配合することもできる。上記脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物の配合により、得られる塗膜の耐衝撃性が向上する。上記脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物としては、樹脂組成物の固形分100gあたりスルホニウム基5〜400ミリモル、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基80〜135ミリモル及び炭素数3〜7の不蝕和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基のうち少なくとも1種10〜315ミリモルを含有し、かつ、スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及び炭素数3〜7の不能和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基の合計含有量が樹脂組成物の固形分100gあたり500ミリモル以下であるものを挙げることができる。
【0068】
上記カチオン電着塗料に対して、脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物を配合する場合、カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gあたり、スルホニウム基5〜400ミリモル、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基10〜300ミリモル及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計10〜485ミリモルを含有し、かつ、スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計含有量が、カチオン電着塗料中の樹脂固形分100gあたり、500ミリモル以下であり、上記炭素数8〜24の不蝕和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基の含有割合が、電着塗料中の樹脂固形分の3〜30質量%であることが好ましい。
【0069】
上記カチオン電着塗料に対して、脂肪族炭化水素基を有する樹脂組成物を配合する場合、スルホニウム基が5ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。400ミリモル/100gを超えると、基板表面への被膜の析出が悪くなる。また、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基が80ミリモル/100g未満であると、耐衝撃性の改善が不充分であり、350ミリモル/100gを超えると、樹脂組成物の取扱性が困難となる。プロパルギル基及び炭素数3〜7の不蝕和二重結合を末端に有する有機基の合計が10ミリモル/100g未満であると、他の樹脂や硬化剤と組み合わせて使用する場合であっても、充分な硬化性を発揮することができず、315ミリモル/100gを超えると、耐衝撃性の改善が不充分となる。スルホニウム基、炭素数8〜24の不蝕和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計含有量は、樹脂組成物の固形分100gあたり500ミリモル以下である。500ミリモルを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。
【0070】
上記カチオン電着塗料は、更に、必要に応じて、通常のカチオン電着塗料に用いられるその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては特に限定されず、例えば、顔料、防錆剤、顔料分散樹脂、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。
【0071】
上記顔料としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、ペンガラ等の着色顔料;塩基性ケイ酸鉛、リンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料;カオリン、クレー、タルク等の体質顔料等を挙げることができる。上記防錆剤としては、具体的には、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛カルシウム、カルシウム担持シリカ、カルシウム担持ゼオライト等を挙げることができる。上記顔料と防錆剤との合計配合量は、カチオン電着塗料中、固形分として、下限0質量%、上限50質量%であることが好ましい。
【0072】
上記顔料分散樹脂は上記顔料をカチオン電着塗料中に安定して分散させるために用いられる。顔料分散樹脂としては、特に限定されるものではなく、一般に使用されている顔料分散樹脂を使用することができる。また、樹脂中にスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂を使用してもよい。このようなスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂とハーフブロック化イソシアネートとを反応させて得られる疎水性エポキシ樹脂に、スルフィド化合物を反応させるか、又は、上記樹脂に、一塩基酸及び水酸基含有二塩基酸の存在下でスルフィド化合物を反応させる方法等により得ることができる。上記非重金属防錆剤についても上記顔料分散樹脂によってカチオン電着塗料中に安定して分散させることができる。
【0073】
上記カチオン電着塗料は、例えば、上記樹脂組成物に、必要に応じて、上述の各成分を混合し、水に溶解又は分散すること等により得ることができる。電着工程に使用する際には、不揮発分が下限10質量%、上限30質量%の溶液となるように調製されることが好ましい。また、電着塗料中のプロパルギル基、炭素−炭素二重結合及びスルホニウム基の含有量が、上述の樹脂組成物のところで示した範囲を逸脱しないように調製されることが好ましい。
【0074】
上記3価セリウム塩の具体的な製造方法としては、例えば、先ずアスコルビン酸及び乳酸を水に溶解させて50〜90℃まで昇温し、炭酸セリウムの水和物を徐々に添加し、その温度を保持したまま4〜5時間攪拌を続けて上記式(1)で表される3価セリウム塩の水溶液を得ることができる。
【0075】
上記のようにして得られた3価セリウム塩を塗料中に含有させる方法としては、例えば、得られた水溶液をそのまま(反応生成物から溶液を分離しないで)電着塗料組成物に加えてもよいし、その後、反応生成物を溶液から分離する工程を行い、分離した反応生成物を電着塗料組成物に加えてもよい。反応生成物の分離は、一般には、反応溶液を常温減圧濃縮し、結晶として析出させて行うことができる。
【0076】
上記カチオン電着塗料の電着塗装は、被塗装物を陰極とし、陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。上記印加電圧が50V未満であると、電着が不充分となり、450Vを超えると、消費電力が大きくなり、経済的でない。上記カチオン電着塗料を使用して上述の範囲内で電圧を印加すると、電着過程における急激な膜厚の上昇を生じることなく、素材の表面全体に均一な皮膜を形成することができる。上記電圧を印加する場合の上記カチオン電着塗料の溶液温度は、通常、10〜45℃が好ましい。
【0077】
上記カチオン電着塗料を塗装することができる被塗物としては、カチオン電着塗装工程を行うことが可能な導電性を示すものであれば特に限定されないが、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等及びこれらの金属を含む合金等を挙げることができる。
【0078】
本発明のカチオン電着塗料において、塗料中の3価セリウム塩は3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の塩であることから、電着浴中において3価のセリウムイオンが長期間安定に溶存状態を維持することができるものである。また、還元性有機酸のみが配位した3価セリウム塩が電着浴中において安定に溶存状態を維持することができないものである場合には、還元性有機酸以外の有機酸も配位させることによって、得られる塩の水溶性を高めることができ、より安定な溶存状態を維持させることができるようになる。従って、スルホニウム基とプロパルギル基とを有する樹脂組成物及び上記3価セリウム塩からなる本発明のカチオン電着塗料は、電着浴中に上記3価のセリウム塩が安定に溶解するものであり、これにより、上記3価セリウム塩が硬化触媒として好適に機能するものである。また、3価セリウム塩を含む塗膜を得ることができることから、耐食性に優れた塗膜を得ることができる。更に、塗料中の3価のセリウムイオンが安定であることから平滑性に優れた塗膜を得ることができる。
【0079】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0080】
製造例1
攪拌機、温度計、冷却器を装備したフラスコに、L−アスコルビン酸(キシダ化学社製)370部、イオン交換水4020部を加え湯浴中で約50℃に加熱しながら、L−アスコルビン酸を溶解し、L−アスコルビン酸水溶液を調製した。これに50%乳酸溶液(昭和加工社製)757部を加え、混合水溶液が相溶して透明になるまでよく攪拌した。フラスコ中の混合水溶液を攪拌しながら、これに炭酸セリウム八水和物(新日本金属化学社製)604部を徐々に加えた。炭酸セリウム八水和物の添加後、湯浴を用いて75℃になるまで加熱した。75℃となった時点から攪拌しながら5時間反応を行った。淡黄色できわめて透明性の高い液体を得た後、これを濾過して、淡黄色で完全に透明なL−アスコルビン酸と乳酸のセリウム(III)塩の水溶液を得た。
【0081】
製造例2 スルホニウム基とプロパルギル基とを有するエポキシ樹脂組成物の製造
エポキシ当量200.4のエポトートYDCN−701(東都化成社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂)100.0質量部にプロパルギルアルコール23.6質量部、ジメチルペンジルアミン0.3質量部を攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、3時間反応させてエポキシ当量が1580のプロパルギル基を含有する樹脂組成物を得た。このものに銅アセチルアセトナート2.5質量部を加え50℃で1.5時間反応させた。プロトン(1H)NMRで付加プロパルギル基末端水素の一部が消失していることを確認した(14ミリモル/100g樹脂固形分相当量のアセチリド化されたプロパルギル基を含有)。このものに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6質量部、氷酢酸4.7質量部、脱イオン水7.0質量部を入れ75℃で保温しつつ6時間反応させ、残存酸価が5以下であることを確認した後、脱イオン水43.8質量部を加え、目的の樹脂組成物溶液を得た。このものの固形分濃度は70.0質量%、スルホニウム価は28.0ミリモル/100gワニスであった。数平均分子量(ポリスチレン換算GPC)は2443であった。
【0082】
製造例3
(酢酸セリウム水溶液の調製)
攪拌機、温度計、冷却器を装備したフラスコに、酢酸35部及びイオン交換水6062部を入れ、よく攪拌してこれらを相溶させた。この酢酸水溶液を湯浴中で50℃となるように加熱した。次にフラスコ内の酢酸水溶液を攪拌しながら、これに酢酸セリウム一水和物(新日本金属化学社製)804部を徐々に添加した。その後、50℃で5時間攪拌して懸濁液を得た。この懸濁液を濾過して無色透明の酢酸セリウム(III)水溶液を得た。
【0083】
製造例4
(ギ酸セリウム水溶液の調製)
攪拌機、温度計、冷却器を装備したフラスコに、ギ酸(キシダ化学社製)331部、イオン交換水4816部を加えて攪拌し、ギ酸水溶液を調製した。このフラスコ中の混合水溶液を攪拌しながら、これに炭酸セリウム八水和物604部を徐々に加えた。炭酸セリウム八水和物の添加後、湯浴を用いて75℃になるまで加熱した。75℃となった時点から攪拌しながら5時間反応を行った。得られた懸濁液を濾過して、無色透明なギ酸セリウム(III)水溶液を得た。
【0084】
製造例5
(グルコン酸セリウム水溶液の調製)
攪拌機、温度計、冷却器を装備したフラスコに、50%グルコン酸水溶液(キシダ化学社製)2825部、イオン交換水2322部を加えて攪拌し、グルコン酸水溶液を調製した。このフラスコ中の混合水溶液を攪拌しながら、これに炭酸セリウム八水和物604部を徐々に加えた。炭酸セリウム八水和物の添加後、湯浴を用いて75℃になるまで加熱した。75℃となった時点から攪拌しながら5時間反応を行った。得られた懸濁液を濾過して、無色透明なグルコン酸セリウム(III)水溶液を得た。
【0085】
実施例1
カチオン電着塗料の製造
製造例2で得られたエポキシ樹脂組成物142.9部、脱イオン水157.1質量部を加えた後、製造例1で得られた3価セリウム塩水溶液を、セリウム金属換算で樹脂固形分100gに対して2.5mmolとなるように加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に脱イオン水373.3質量部を加え、固形分濃度が15質量%となるように調製して、カチオン電着塗料を得た。
【0086】
比較例1
製造例1で得られた水溶液の代わりに、製造例3で得られた酢酸セリウム(III)水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料を得た。
【0087】
比較例2
製造例1で得られた水溶液の代わりに、製造例4で得られたギ酸セリウム(III)水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料を得た。
【0088】
比較例3
製造例1で得られた水溶液の代わりに、製造例5で得られたグルコン酸セリウム(III)水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料を得た。
【0089】
〔塗膜形成〕
実施例1、比較例1〜3で得られたカチオン電着塗料をステンレス容器に移して電着浴とし、ここに被塗装物として、リン酸亜鉛処理した冷間圧延銅板(JISG3141SPCC−SD、日本ペイント社製のリン酸亜鉛処理剤サーフダインSD−5000で処理)が陰極となるようにして、乾燥膜厚が30μmとなるように電着塗装を行った。電着塗装後、被塗装物をステンレス容器内の電着浴から引き上げ、水洗し、カチオン電着未硬化塗膜を形成し、180℃で20分焼き付けることにより、電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
また、焼付硬化温度を190℃、200℃にした被塗装物も同様に作成した。
【0090】
評価試験
実施例1、比較例1〜3で得られた被塗装物を下記の項目(初期、試験後)について評価した。評価結果は、表1に示した。
<肌(Ra値)>
表面粗度計「SJ−201」(ミットヨ社製)を用いて、被塗装物表面の肌(Ra値)を測定した。測定条件は、カットオフを0.8mm、2.5mmとした。なお、180℃で得られた被塗装物を評価した。
【0091】
<SDT(塩水浸漬試験)>
素地に至る長さ約10cmの傷を3cm間隔で被塗装物に入れたものを3%NaCl水溶液に浸漬し、密閉後55℃で10日間放置した後、テープを密着させて剥がし、電着塗膜の剥離幅を測定し、防食性を評価した。なお、180℃、190℃、200℃で得られた被塗装物をそれぞれ評価した。
【0092】
<SST(塩水噴霧試験)>
被塗装板にNTカッターを用いてクロス状に2本、長さ10cmのカップを入れた。これをJIS−Z−2371に準拠して、塩水噴霧試験(5%食塩水、35℃で840時間)を行った。取り出した被塗装板の表面の錆剥離幅を測定した。なお、180℃、190℃、200℃で得られた被塗装物をそれぞれ評価した。
【0093】
【表1】
【0094】
表1から、実施例1に関しては、初期及び4週間後のカチオン電着塗料により得られた塗膜のRa値の変化がほとんどなく、塗膜の平滑性の低下がみられなかった。経時によって電着浴中の3セリウム塩が水酸化セリウム、酸化セリウムとなって析出することがないものであるため、得られる塗膜の平滑性も維持されていたものと思われた。また、SDT(塩水漫漬試験)、SST(塩水噴霧試験)でも良好な結果が得られており、耐食性にも優れるものであった。一方、比較例1〜3に関しては、4週間後の塗料により得られた塗膜は、初期に比べてRa値が高く、塗膜の平滑性が低下しており、また、耐食性にも劣るものであった。従って、実施例1により得られたカチオン電着塗料は、長期間安定性に優れ、好適に用いることができるものであった。
【0095】
【発明の効果】
本発明のカチオン電着塗料は、上述した構成よりなるので、水溶液中で安定な3価セリウム塩を形成するものであり、硬化触媒、耐食性付与剤として好適に機能し、更に優れた平滑性を有する塗膜を得ることができるものである。従って、上記カチオン電着塗料は、自動車等の被塗物に対して好適に用いることができるものである。
Claims (9)
- 樹脂組成物及び3価セリウム塩からなるカチオン電着塗料であって、
前記樹脂組成物は、スルホニウム基とプロパルギル基とを有するものであり、
前記3価セリウム塩は、3個以上の配位部位を持つ還元性有機酸の塩であることを特徴とするカチオン電着塗料。 - 還元性有機酸は、アスコルビン酸である請求項1記載のカチオン電着塗料。
- 3価セリウム塩は、セリウム(III)化合物と還元性有機酸とを反応させることにより得られるものである請求項1、2又は3記載のカチオン電着塗料。
- セリウム(III)化合物は、炭酸セリウムである請求項4記載のカチオン電着塗料。
- 樹脂組成物は、前記樹脂組成物の固形分100gあたり、スルホニウム基を5〜400ミリモル及びプロパルギル基を10〜495ミリモル含有し、かつ、スルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量が500ミリモル以下である請求項1、2、3、4又は5記載のカチオン電着塗料。
- 樹脂組成物は、前記樹脂組成物の固形分100gあたり、スルホニウム基を5〜250ミリモル及びプロパルギル基を20〜395ミリモル含有し、かつ、スルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量が400ミリモル以下である請求項1、2、3、4又は5記載のカチオン電着塗料。
- 樹脂組成物は、エポキシ樹脂を骨格とするものである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のカチオン電着塗料。
- エポキシ樹脂は、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂又はノボラックフェノール型エポキシ樹脂であり、かつ、数平均分子量が700〜5000である請求項8記載のカチオン電着塗料。
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