JP2004137364A - カチオン電着塗料及び電着塗膜の光沢値制御方法 - Google Patents

カチオン電着塗料及び電着塗膜の光沢値制御方法 Download PDF

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Kazuo Morichika
森近 和生
Toshitaka Kawanami
川浪 俊孝
Hiroyuki Sakamoto
坂本 裕之
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Abstract

【課題】低光沢値を示す電着塗膜を形成することができ、更に、平滑性が良好な電着塗膜を得ることができるカチオン電着塗料及び電着塗膜の光沢値制御方法を提供する。
【解決手段】サリチル酸、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなるカチオン電着塗料。
【選択図】   なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カチオン電着塗料及び電着塗膜の光沢値制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
物品には、質感や高級感を付与することを目的として、低光沢の塗膜を形成することができる塗料を表面に塗布されることがある。
自動車塗装においては、電着塗装を行った後、通常、中塗り塗装及び上塗り塗装を行って複層塗膜が形成されている。ところで、この電着塗装の平滑性は目視によって検査されるが、形成された電着塗膜の光沢値が高い場合には、光沢によって平滑性の検査を行うことが困難になり、不具合を見落とす場合がある。
【0003】
電着塗膜を低光沢化する方法としては、例えば、電着塗料中に内部架橋した微小樹脂粒子を添加すること、塗料の顔料濃度を高めること、電着塗膜形成における硬化速度を高めることによりちぢみ肌を意図的に作ること等を挙げることができる。しかしながら、内部架橋した微小樹脂粒子を添加したり、塗料の顔料濃度を高めたり、硬化速度を高めたりする場合には、加熱硬化途中での塗料粘度の上昇が急激であるため、熱時フローが充分に行われずに硬化するため、得られる電着塗膜の平滑性が不充分となりやすい。また、このような方法で得られる電着塗膜は目視による平滑性を低下させて光沢値を低下させるものであるため、美観という観点から不充分であった。さらに自動車用外板に用いる場合、このような電着塗膜上に、更に、中塗り塗装、上塗り塗装を順次行うため、得られる複層塗膜の外観が、低下したり、ゆがみ、うねり等の問題が起こる恐れがあった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、低光沢値を示す電着塗膜を形成することができ、更に、平滑性が良好な電着塗膜を得ることができるカチオン電着塗料及び電着塗膜の光沢値制御方法を提供することを目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、サリチル酸、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなることを特徴とするカチオン電着塗料である。
上記サリチル酸は、上記カチオン電着塗料の樹脂固形分に対して、0.1〜1.0質量%の含有量であることが好ましい。
本発明は、上記スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなるカチオン電着塗料に対して、サリチル酸を添加することを特徴とする電着塗膜の光沢値制御方法でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0006】
本発明のカチオン電着塗料は、サリチル酸を含有するものである。理由は明らかではないが、上記カチオン電着塗料がサリチル酸を含むものである場合には、サリチル酸を含まないものである場合に比べて、電着塗装することにより形成される電着塗膜の光沢値を低下させることができる。従って、上記カチオン電着塗料から得られる電着塗膜は平滑性に優れた低光沢塗膜となるので、例えば、電着塗装のみを行う1コート仕上げに用いた場合には質感の高い、また、高級感のある電着塗膜を得ることができる。あるいは、自動車塗装に用いた場合には、電着塗膜の平滑性を容易に検査することができ、更に、中塗り塗装及び上塗り塗装からなる複層塗膜の外観も良好であることから、自動車塗装のような分野にも好適に用いることができる。
【0007】
上記サリチル酸は、カチオン電着塗料の樹脂固形分に対して、下限0.1質量%、上限1.0質量%の含有量であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光沢値を低下させる効果が見られないおそれがあり、1.0質量%を超えても、効果の向上は見られず、経済的でない。上記下限は、0.2質量%であることがより好ましく、0.3質量%であることが更に好ましい。上記上限は、0.8質量%であることがより好ましく、0.7質量%であることが更に好ましい。
【0008】
本発明のカチオン電着塗料は、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物を含有するものである。上記樹脂組成物を構成する樹脂は、一分子中にスルホニウム基及びプロパルギル基の両者を持っていてもよいが、必ずしもその必要はなく、例えば、一分子中にスルホニウム基又はプロパルギル基のいずれか一方だけを持っていてもよい。この後者の場合には、樹脂組成物全体として、これら2種の硬化性官能基の全てを持っている。即ち、上記樹脂組成物は、スルホニウム基及びプロパルギル基を持つ樹脂からなるか、スルホニウム基だけを持つ樹脂及びプロパルギル基だけを持つ樹脂の混合物からなるか、又は、これらすべての混合物からなるものであってもよい。本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物は、上述の意味においてスルホニウム基及びプロパルギル基を持つ。
【0009】
上記スルホニウム基は、上記樹脂組成物の水和官能基である。スルホニウム基は、電着塗装過程で一定以上の電圧又は電流を与えられると、電極上で電解還元反応をうけてイオン性基が消失し、不可逆的に不導体化することができる。本発明のカチオン電着塗料は、このことにより高度のつきまわり性を発揮することができるものと考えられる。
【0010】
また、この電着塗装過程においては、電極反応が引き起こされ、生じた水酸化物イオンをスルホニウム基が保持することにより電解発生塩基が電着被膜中に発生するものと考えられる。この電解発生塩基は、電着被膜中に存在する加熱による反応性の低いプロパルギル基を、加熱による反応性の高いアレン結合に変換することができる。
【0011】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物の骨格となる樹脂としては特に限定されないが、エポキシ樹脂が好適に用いられる。
上記エポキシ樹脂としては、1分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有するものが好適に用いられ、例えば、エピビスエポキシ樹脂、これをジオール、ジカルボン酸、ジアミン等により鎖延長したもの;エポキシ化ポリブタジエン;ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂;ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂;ポリグリシジルアクリレート;脂肪族ポリオール又はポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル;多塩基性カルボン酸のポリグリシジルエステル等のポリエポキシ樹脂を挙げることができる。なかでも、硬化性を高めるための多官能基化が容易であるので、ノボラックフェノール型ポリエポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型ポリエポキシ樹脂、ポリグリシジルアクリレートが好ましい。なお、上記エポキシ樹脂の一部は、モノエポキシ樹脂であってもかまわない。
【0012】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物は、上記エポキシ樹脂を骨格とする樹脂からなり、数平均分子量は、下限500、上限20000であることが好ましい。500未満であると、カチオン電着塗装の塗装効率が悪くなり、20000を超えると、被塗物表面で良好な被膜を形成することができない。上記数平均分子量は樹脂骨格に応じてより好ましい分子量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、下限700、上限5000であることが好ましい。
【0013】
上記樹脂組成物中のスルホニウム基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、下限5ミリモル、上限400ミリモルである。5ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。400ミリモル/100gを超えると、被塗物表面への被膜の析出が悪くなる。上記スルホニウム基の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、上記下限は、5ミリモルであることがより好ましく、10ミリモルであることが更に好ましい。また、上記上限は、250ミリモルであることが好ましく、150ミリモルであることが更に好ましい。
【0014】
上記樹脂組成物の持つプロパルギル基は、本発明のカチオン電着塗料において、硬化官能基として作用する。また、理由は不明であるが、スルホニウム基と併存することにより、カチオン電着塗料のつきまわり性を一層向上させることができる。
【0015】
上記樹脂組成物の持つプロパルギル基の含有量は、後述するスルホニウム基及びプロパルギル基の含有量の条件を充たした上で、上記樹脂組成物の固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限495ミリモルである。10ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、495ミリモル/100gを超えると、カチオン電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。上記プロパルギル基の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、上記下限は、20ミリモルであることがより好ましく、上記上限は、395ミリモルであることがより好ましい。
【0016】
上記樹脂組成物の持つスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100gを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。上記樹脂組成物の持つスルホニウム基及びプロパルギル基の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物中のプロパルギル基の一部は、アセチリド化されていてもよい。アセチリドは、塩類似の金属アセチレン化物である。上記樹脂組成物中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり、下限0.1/100g、上限40ミリモルであることが好ましい。0.1ミリモル未満であると、アセチリド化による効果が充分発揮されず、40ミリモルを超えると、アセチリド化が困難である。この含有量は、使用する金属に応じてより好ましい範囲を設定することが可能である。
【0018】
上記アセチリド化されたプロパルギル基に含まれる金属としては、触媒作用を発揮する金属であれば特に限定されず、例えば、銅、銀、バリウム等の遷移金属を挙げることができる。これらのうち、環境適合性を考慮するならば、銅、銀が好ましく、入手容易性から、銅がより好ましい。銅を使用する場合、上記樹脂組成物中のアセチリド化されるプロパルギル基の含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり0.1〜20ミリモルであることがより好ましい。
【0019】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物中のプロパルギル基の一部をアセチリド化することにより、硬化触媒を樹脂中に導入することができる。このようにすれば、一般に、有機溶媒や水に溶解又は分散しにくい有機遷移金属錯体を使用する必要がなく、遷移金属であっても容易にアセチリド化して導入可能であるので、難溶性の遷移金属化合物であっても自由に塗料組成物に使用可能である。また、遷移金属有機酸塩を使用する場合のように、有機酸塩がアニオンとして電着浴中に存在することを回避でき、更に、金属イオンが限外ろ過によって除去されることはなく、浴管理やカチオン電着塗料の設計が容易となる。
【0020】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物には、所望により、炭素−炭素二重結合を含有させてもよい。上記炭素−炭素二重結合は、反応性が高いので硬化性を一層向上させることができる。
【0021】
上記炭素−炭素二重結合の含有量は、後述するプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の含有量の条件を充たした上で、樹脂組成物固形分100gあたり、下限10ミリモル、上限485ミリモルが好ましい。10ミリモル/100g未満であると、添加により充分な硬化性を発揮することができず、485ミリモル/100gを超えると、カチオン電着塗料として使用した場合の水和安定性に悪影響を及ぼすおそれがある。上記炭素−炭素二重結合の含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、下限20ミリモル、上限375ミリモルであることが好ましい。
【0022】
上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり、下限80ミリモル、上限450ミリモルの範囲内であることが好ましい。80ミリモル/100g未満であると硬化性が不充分となるおそれがあり、450ミリモル/100gを超えるとスルホニウム基の含有量が少なくなり、つきまわり性が不充分となるおそれがある。上記プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じてより好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、下限100ミリモル、上限395ミリモルであることがより好ましい。
【0023】
また、上記炭素−炭素二重結合を含有する場合、上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり、500ミリモル以下であることが好ましい。500ミリモル/100gを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。上記スルホニウム基、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合の合計含有量は、用いられる樹脂骨格に応じて、より好ましい含有量を設定可能であり、例えば、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、ノボラッククレゾール型エポキシ樹脂の場合には、樹脂組成物固形分100gあたり、400ミリモル以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物は、例えば、一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に、エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物を反応させて、プロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物を得る工程(i)、工程(i)で得られたプロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する工程(ii)により好適に製造することができる。
【0025】
上記エポキシ基と反応する官能基及びプロパルギル基を有する化合物(以下、「化合物(A)」と称する)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基とプロパルギル基とをともに含有する化合物であってよく、具体的には、プロパルギルアルコール、プロパルギル酸等を挙げることができる。これらのうち、入手の容易性及び反応の容易性から、プロパルギルアルコールが好ましい。
【0026】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物に、必要に応じて、炭素−炭素二重結合を持たせる場合には、上記工程(i)において、エポキシ基と反応する官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物(以下、「化合物(B)」と称する)を、上記化合物(A)と併用すればよい。上記化合物(B)としては、例えば、水酸基やカルボキシル基等のエポキシ基と反応する官能基と炭素−炭素二重結合とをともに含有する化合物であってよい。具体的には、エポキシ基と反応する基が水酸基である場合、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、アリルアルコール、メタクリルアルコール等を挙げることができる。エポキシ基と反応する基がカルボキシル基である場合、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸;マレイン酸エチルエステル、フマル酸エチルエステル、イタコン酸エチルエステル、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、フタル酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル等のハーフエステル類;オレイン酸、リノール酸、リシノール酸等の合成不飽和脂肪酸;アマニ油、大豆油等の天然不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0027】
上記工程(i)においては、上記一分子中に少なくとも2つのエポキシ基を有するエポキシ樹脂に上記化合物(A)を反応させて、プロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物を得るか、又は、上記化合物(A)と、必要に応じて、上記化合物(B)とを反応させてプロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を持つエポキシ樹脂組成物を得る。この後者の場合、工程(i)においては、上記化合物(A)と上記化合物(B)とは、両者を予め混合してから反応に用いてもよく、又は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを別々に反応に用いてもよい。なお、上記化合物(A)が有するエポキシ基と反応する官能基と、上記化合物(B)が有するエポキシ基と反応する官能基とは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0028】
上記工程(i)において、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを反応させる場合の両者の配合比率は、所望の官能基含有量となるように設定すればよく、例えば、上述したプロパルギル基と炭素−炭素二重結合の含有量となるように設定すればよい。
【0029】
上記工程(i)の反応条件は、通常、室温又は80〜140℃にて数時間である。また、必要に応じて触媒や溶媒等の反応を進行させるために必要な公知の成分を使用することができる。反応の終了は、エポキシ当量の測定により確認することができ、得られた樹脂組成物の不揮発分測定や機器分析により、導入された官能基を確認することができる。このようにして得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基を一つ又は複数持つエポキシ樹脂の混合物であるか、又は、プロパルギル基と炭素−炭素二重結合とを一つ又は複数持つエポキシ樹脂の混合物である。この意味で、上記工程(i)によりプロパルギル基、又は、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合を持つ樹脂組成物が得られる。
【0030】
工程(ii)においては、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物中の残存エポキシ基に、スルフィド/酸混合物を反応させて、スルホニウム基を導入する。スルホニウム基の導入は、スルフィド/酸混合物とエポキシ基を反応させてスルフィドの導入及びスルホニウム化を行う方法や、スルフィドを導入した後、更に、酸又はフッ化メチル、塩化メチル、臭化メチル等のアルキルハライド等により、導入したスルフィドのスルホニウム化反応を行い、必要によりアニオン交換を行う方法等により行うことができる。反応原料の入手容易性の観点からは、スルフィド/酸混合物を使用する方法が好ましい。
【0031】
上記スルフィドとしては特に限定されず、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、環状スルフィド等を挙げることができる。具体的には、例えば、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、ジフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−ブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−3−ブトキシ−1−プロパノール等を挙げることができる。
【0032】
上記酸としては特に限定されず、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、ホウ酸、酪酸、ジメチロールプロピオン酸、塩酸、硫酸、リン酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−β−アラニン等を挙げることができる。
【0033】
上記スルフィド/酸混合物における上記スルフィドと上記酸との混合比率は、通常、モル比率でスルフィド/酸=100/40〜100/100程度が好ましい。
【0034】
上記工程(ii)の反応は、例えば、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物と、例えば、上述のスルホニウム基含有量になるように設定された所定量の上記スルフィド及び上記酸との混合物とを、使用するスルフィドの5〜10倍モルの水と混合し、通常、50〜90℃で数時間攪拌して行うことができる。反応の終了点は、残存酸価が5以下となることを目安とすればよい。得られた樹脂組成物中のスルホニウム基導入の確認は、電位差滴定法により行うことができる。
【0035】
スルフィドの導入後にスルホニウム化反応を行う場合も、上記に準じて行うことができる。上述のように、スルホニウム基の導入を、プロパルギル基の導入の後に行うことにより、加熱によるスルホニウム基の分解を防止することができる。
【0036】
本発明のカチオン電着塗料に含まれる樹脂組成物の持つプロパルギル基の一部をアセチリド化する場合は、上記工程(i)で得られたプロパルギル基を持つエポキシ樹脂組成物に、金属化合物を反応させて、上記エポキシ樹脂組成物中の一部のプロパルギル基をアセチリド化する工程によって行うことができる。上記金属化合物としては、アセチリド化が可能な遷移金属化合物であることが好ましく、例えば、銅、銀又はバリウム等の遷移金属の錯体又は塩を挙げることができる。具体的には、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸銅、アセチルアセトン銀、酢酸銀、硝酸銀、アセチルアセトンバリウム、酢酸バリウム等を挙げることができる。これらのうち、環境適合性の観点から、銅又は銀の化合物が好ましく、入手容易性の観点から、銅の化合物がより好ましく、例えば、アセチルアセトン銅が、浴管理の容易性に鑑み、好適である。
【0037】
プロパルギル基の一部をアセチリド化する反応条件としては、通常、40〜70℃にて数時間である。反応の進行は、得られた樹脂組成物が着色することや、核磁気共鳴スペクトルによるメチンプロトンの消失等により確認することができる。かくして、樹脂組成物中のプロパルギル基が所望の割合でアセチリド化する反応時点を確認して、反応を終了させる。得られる反応生成物は、一般には、プロパルギル基の一つ又は複数がアセチリド化されたエポキシ樹脂の混合物である。このようにして得られたプロパルギル基の一部をアセチリド化したエポキシ樹脂組成物に対して、上記工程(ii)によってスルホニウム基を導入することができる。
【0038】
なお、エポキシ樹脂組成物の持つプロパルギル基の一部をアセチリド化する工程と上記工程(ii)とは、反応条件を共通に設定可能であるので、両工程を同時に行うことも可能である。両工程を同時に行う方法は、製造プロセスを簡素化することができるので有利である。
【0039】
このようにして、プロパルギル基及びスルホニウム基、必要に応じて、炭素−炭素二重結合、プロパルギル基の一部がアセチリド化したものを持つ樹脂組成物を、スルホニウム基の分解を抑制しつつ、製造することができる。なお、アセチリドは、乾燥状態で爆発性を有するが、水性媒体中で実施され、水性組成物として目的物質を得ることができるので、安全上の問題は発生しない。
【0040】
本発明のカチオン電着塗料は、上述の樹脂組成物を含有している。本発明におけるカチオン電着塗料には、上述の樹脂組成物自体が硬化性を有するので、硬化剤の使用は必ずしも必要ない。しかし、硬化性のさらなる向上のために使用してもよい。このような硬化剤としては、例えば、プロパルギル基及び炭素−炭素二重結合のうち少なくとも1種を複数個有する化合物、例えば、ノボラックフェノール等のポリエポキシドやペンタエリスリットテトラグリシジルエーテル等に、プロパルギルアルコール等のプロパルギル基を有する化合物やアクリル酸等の炭素−炭素二重結合を有する化合物を付加反応させて得た化合物等を挙げることができる。
【0041】
また、本発明のカチオン電着塗料には、硬化触媒を必ずしも使用する必要はない。しかし、硬化反応条件により、更に硬化性を向上させる必要がある場合には、必要に応じて、通常用いられる遷移金属化合物等を適宜添加してもよい。このような化合物としては特に限定されず、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、パラジウム、ロジウム等の遷移金属に対して、シクロペンタジエンやアセチルアセトン等の配位子や酢酸等のカルボン酸等が結合したもの等を挙げることができる。上記硬化触媒の配合量は、カチオン電着塗料樹脂固形分100gあたり、下限0.1、上限20ミリモルであることが好ましい。
【0042】
本発明のカチオン電着塗料には、アミンを配合することができる。上記アミンの配合により、電着過程における電解還元によるスルホニウム基のスルフィドへの変換率が増大する。上記アミンとしては特に限定されず、例えば、1級〜3級の単官能及び多官能の脂肪族アミン、脂環族アミン、芳香族アミン等のアミン化合物を挙げることができる。これらのうち、水溶性又は水分散性のものが好ましく、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリブチルアミン等の炭素数2〜8のアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジメタノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾリン、イミダゾール等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、水分散安定性が優れているので、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のヒドロキシアミンが好ましい。
【0043】
上記アミンは、直接、本発明におけるカチオン電着塗料中に配合することができる。従来の中和型アミン系のカチオン電着塗料では、遊離のアミンを添加すると、樹脂中の中和酸を奪うことになり、電着溶液の安定性が著しく悪化するが、本発明においては、このような浴安定性の阻害が生じることはない。
【0044】
上記アミンの配合量は、カチオン電着塗料樹脂固形分100gあたり、下限0.3meq、上限25meqが好ましい。0.3meq/100g未満であると、つきまわり性に対して充分な効果を得ることができず、25meq/100gを超えると、添加量に応じた効果を得ることができず不経済である。上記下限は、1meq/100gであることがより好ましく、上記上限は、15meq/100gであることがより好ましい。
【0045】
本発明のカチオン電着塗料には、また、脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物を配合することができる。上記脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物の配合により、得られる塗膜の耐衝撃性が向上する。上記脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物としては、樹脂組成物固形分100gあたりスルホニウム基5〜400ミリモル、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基80〜135ミリモル及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基のうち少なくとも1種10〜315ミリモルを含有し、かつ、スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基及びプロパルギル基の合計含有量が樹脂組成物固形分100gあたり500ミリモル以下であるものを挙げることができる。
【0046】
上記カチオン電着塗料に対して、脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物を配合する場合、カチオン電着塗料樹脂固形分100gあたり、スルホニウム基5〜400ミリモル、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基10〜300ミリモル及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計10〜485ミリモルを含有し、かつ、スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計含有量が、カチオン電着塗料樹脂固形分100gあたり、500ミリモル以下であり、上記炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基の含有割合が、カチオン電着塗料樹脂固形分の3〜30質量%であることが好ましい。
【0047】
上記カチオン電着塗料に対して、脂肪族炭化水素基を持つ樹脂組成物を配合する場合、スルホニウム基が5ミリモル/100g未満であると、充分なつきまわり性や硬化性を発揮することができず、また、水和性、浴安定性が悪くなる。400ミリモル/100gを超えると、被塗物表面への被膜の析出が悪くなる。また、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基が80ミリモル/100g未満であると、耐衝撃性の改善が不充分であり、350ミリモル/100gを超えると、樹脂組成物の取扱性が困難となる。プロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計が10ミリモル/100g未満であると、他の樹脂や硬化剤と組み合わせて使用する場合であっても、充分な硬化性を発揮することができず、315ミリモル/100gを超えると、耐衝撃性の改善が不充分となる。スルホニウム基、炭素数8〜24の不飽和二重結合を鎖中に含んでいてもよい脂肪族炭化水素基及びプロパルギル基及び炭素数3〜7の不飽和二重結合を末端に有する有機基の合計含有量は、樹脂組成物固形分100gあたり500ミリモル以下である。500ミリモルを超えると、樹脂が実際には得られなかったり、目的とする性能が得られないことがある。
【0048】
本発明のカチオン電着塗料は、更に、必要に応じて、通常のカチオン電着塗料に用いられるその他の成分を含んでいてもよい。上記その他の成分としては特に限定されず、例えば、顔料、防錆剤、顔料分散樹脂、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の塗料用添加剤等を挙げることができる。
【0049】
上記顔料としては特に限定されず、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;塩基性ケイ酸鉛、リンモリブデン酸アルミニウム等の防錆顔料;カオリン、クレー、タルク等の体質顔料等の一般にカチオン電着塗料に使用されるもの等を挙げることができる。上記防錆剤としては、具体的には、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛カルシウム、カルシウム担持シリカ、カルシウム担持ゼオライト等を挙げることができる。上記顔料と防錆剤との合計配合量は、カチオン電着塗料中、固形分として、下限0質量%、上限50質量%であることが好ましい。
【0050】
上記顔料分散樹脂は上記顔料をカチオン電着塗料中に安定して分散させるために用いられる。顔料分散樹脂としては、特に限定されるものではなく、一般に使用されている顔料分散樹脂を使用することができる。また、樹脂中にスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂を使用してもよい。このようなスルホニウム基と不飽和結合とを含有する顔料分散樹脂は、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂とハーフブロック化イソシアネートとを反応させて得られる疎水性エポキシ樹脂に、スルフィド化合物を反応させるか、又は、上記樹脂に、一塩基酸及び水酸基含有二塩基酸の存在下でスルフィド化合物を反応させる方法等により得ることができる。上記非重金属防錆剤についても上記顔料分散樹脂によってカチオン電着塗料中に安定して分散させることができる。
【0051】
本発明のカチオン電着塗料の硬化温度は、下限130℃、上限220℃に設定されていることが好ましい。硬化温度が130℃未満であると、複層塗膜を形成する場合に、複層塗膜の平滑性が低下するおそれがある。硬化温度が220℃を超えると、複層塗膜を形成する場合に、複層塗膜の物性が低下したり、それに上塗り塗料を塗装して得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。硬化温度の設定は、硬化官能基、硬化剤及び触媒の種類や量等の調製といった当業者によって知られた方法で行うことができる。
【0052】
なお、本発明における硬化温度とは、30分間の加熱でゲル分率85%の塗膜を得るための温度のことをいう。上記ゲル分率の測定は、試験塗板をアセトンに浸漬し5時間還流させた時の、試験前後における試験塗板の質量差から算出する方法により行われる。
【0053】
本発明のカチオン電着塗料は、例えば、上述の樹脂組成物に、上記サリチル酸を添加し、更に必要に応じて、上述のその他の成分を混合し、水に溶解又は分散すること等により得ることができる。上記サリチル酸の添加の方法としては特に限定されず、例えば、上記樹脂組成物に練り込むことによって行うことができる。
【0054】
本発明のカチオン電着塗料は、例えば、カチオン電着塗装に用いる場合は、不揮発分が下限10質量%、上限30質量%の浴液となるように調製されることが好ましい。また、カチオン電着塗料中のプロパルギル基、炭素−炭素二重結合及びスルホニウム基の含有量が、上述の樹脂組成物のところで示した範囲を逸脱しないように調製されることが好ましい。
【0055】
本発明の電着塗膜の光沢値制御方法は、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなるカチオン電着塗料に対して、サリチル酸を添加するものである。上記カチオン電着塗料がサリチル酸を含有するものであることにより、これを塗装することによって形成される電着塗膜の光沢値を低下させること等の制御ができるようになる。即ち、本発明の光沢値制御方法は、カチオン電着塗料中のサリチル酸の含有量を規定することによって形成される電着塗膜の光沢値を制御することができる方法であることから、要求される光沢値に応じてカチオン電着塗料を設計し、所望の電着塗膜を得ることができる。これにより、例えば、自動車塗装において、電着塗装後の塗装不良等の検査に好適に適用することができる方法である。
【0056】
本発明のカチオン電着塗料は、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物だけでなく、サリチル酸を含有するものであることから、上記カチオン電着塗料により形成される電着塗膜は、サリチル酸を含有しないものに比べて、低光沢値を示すものである。このため、電着塗装のみで低光沢値が要求される用途に対して、好適に用いることができるものであり、また、例えば、電着塗装、中塗り塗装、ベース塗装及びクリヤー塗装からなる自動車塗装における電着塗装において、低光沢値を示す電着塗膜を得ることができることから、形成された電着塗膜の平滑性を容易に検査することができるようになる。従って、本発明のカチオン電着塗料を使用することによって、光沢値を低下させた電着塗膜を形成することができ、優れた外観を有する複層塗膜を得ることができる。
【0057】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0058】
製造例1 スルホニウム基とプロパルギル基とを持つエポキシ樹脂組成物の製造エポキシ当量200.4のエポトートYDCN−701(東都化成社製のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂)100.0質量部にプロパルギルアルコール23.6質量部、ジメチルベンジルアミン0.3質量部を攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却管を備えたセパラブルフラスコに加え、105℃に昇温し、3時間反応させてエポキシ当量が1580のプロパルギル基を含有する樹脂組成物を得た。このものに銅アセチルアセトネート2.5質量部を加え50℃で1.5時間反応させた。プロトン(1H)NMRで付加プロパルギル基末端水素の一部が消失していることを確認した(14ミリモル/100g樹脂固形分相当量のアセチリド化されたプロパルギル基を含有)。このものに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2,3−プロパンジオール10.6質量部、氷酢酸4.7質量部、脱イオン水7.0質量部を入れ75℃で保温しつつ6時間反応させ、残存酸価が5以下であることを確認した後、脱イオン水43.8質量部を加え、目的の樹脂組成物溶液を得た。このものの固形分濃度は70.0質量%、スルホニウム価は28.0ミリモル/100gワニスであった。数平均分子量(ポリスチレン換算GPC)は2443であった。
【0059】
実施例1 カチオン電着塗料の製造
製造例1で得られたエポキシ樹脂組成物142.9質量部、サリチル酸(和光純薬社製)0.5質量部、脱イオン水157.1質量部を加え、高速回転ミキサーで1時間攪拌後、更に脱イオン水200.2質量部を加え、固形分濃度が20質量%となるように水溶液を調製し、カチオン電着塗料を得た。このカチオン電着塗料の硬化温度を測定したところ、150℃であった。
【0060】
〔塗膜形成〕
実施例1で得られたカチオン電着塗料をステンレス容器に移して電着浴とし、ここに被塗装物として、リン酸亜鉛処理した冷間圧延鋼板(JIS G3141SPCC−SD、日本ペイント社製のリン酸亜鉛処理剤サーフダインSD−5000で処理)が陰極となるようにして、乾燥膜厚が30μmとなるように電着塗装を行った。電着塗装後、被塗装物をステンレス容器内の電着浴から引き上げ、水洗し、カチオン電着未硬化塗膜を形成し、180℃で20分焼き付けることにより、電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
【0061】
実施例2及び3
サリチル酸を各々0.05質量部、1.5質量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてカチオン電着塗料を得た後、電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
【0062】
比較例1
サリチル酸を含有させなかったこと以外は、実施例1と同様にして電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
【0063】
比較例2
パワートップVシリーズ(日本ペイント社製イソシアネート硬化型エポキシ樹脂系カチオン電着塗料)に、塗料樹脂固形分に対して、サリチル酸を0.5質量%となるように添加してカチオン電着塗料を得た後、実施例1と同様にして電着塗膜が形成された被塗装物を得た。
【0064】
〔評価試験〕
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた被塗装物について、下記の項目を評価した。結果を表1に示した。
【0065】
<肌(Ra値)>
表面粗度計「SJ−201」(ミツトヨ社製)を用いて、被塗装物表面の肌(Ra値)を測定した。測定条件は、カットオフを0.8mmとした。
【0066】
<光沢値>
得られた被塗装物の光沢値を「Micro−TRI−gloss」(BYK−ガードナー社製)を使用して測定した。
【0067】
<SDT(塩水浸漬試験)>
素地に至る長さ約10cmの傷を3cm間隔で被塗装物に入れたものを3%NaCl水溶液に浸漬し、密閉後55℃で10日間放置した後、テープを密着させて剥がし、電着塗膜の剥離幅を測定し、防食性を評価したところ、いずれも剥離幅が片側3mm以下であり、合格であった。
更に、上記により得られた各電着塗料を40℃で1ヶ月間攪拌しながら貯蔵した後、同様にして被塗装物を作成し、1ヶ月後の防食性を評価したところ、初期と同様に、いずれも剥離幅が片側3mm以下であり、合格であった。
【0068】
【表1】
Figure 2004137364
【0069】
表1から、実施例1〜3により得られた被塗装物は、比較例1により得られたものと同等のRa値を示すものであり、比較例2により得られたものに比べて小さな値を示すものであった。また、防食性に優れるものでもあった。また、実施例1〜3により得られたものは、比較例1〜2により得られたものに比べて、光沢値が小さいものであった。このため、例えば、自動車塗装において、表面の平滑性を検査することが容易になるものであることが明らかとなった。
【0070】
【発明の効果】
本発明のカチオン電着塗料は、上述した構成よりなるので、光沢値を低下させた電着塗膜を形成することができ、更に、優れた外観を有する複層塗膜を得ることができるものである。従って、電着塗装のみで低光沢値が要求される用途に対して、好適に用いることができるものであり、また、例えば、電着塗装、中塗り塗装、ベース塗装及びクリヤー塗装からなる自動車塗装における電着塗装において、低光沢値を示す電着塗膜を得ることができることから、形成された電着塗膜の平滑性を容易に検査することができるようになり、優れた外観を有する複層塗膜を得ることができる。これは、上記カチオン電着塗料は、加熱硬化時における塗料粘度の急激な上昇が抑制されたためであると考えられる。

Claims (3)

  1. サリチル酸、及び、スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなることを特徴とするカチオン電着塗料。
  2. サリチル酸は、カチオン電着塗料の樹脂固形分に対して、0.1〜1.0質量%の含有量である請求項1記載のカチオン電着塗料。
  3. スルホニウム基とプロパルギル基とを持つ樹脂組成物からなるカチオン電着塗料に対して、サリチル酸を添加することを特徴とする電着塗膜の光沢値制御方法。
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