JP2004307296A - ゼオライト種結晶の製造方法、ゼオライト種結晶及びゼオライト膜の製造方法 - Google Patents

ゼオライト種結晶の製造方法、ゼオライト種結晶及びゼオライト膜の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】複層化された高配向なゼオライト種結晶を基体表面にその場形成できる種結晶の製造方法、この方法により得られた種結晶、及び、複層化されたゼオライト膜を1つの系内で安定して形成できゼオライト膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本種結晶の製造方法は、水とゼオライト原料と構造規定成分とを配合してなり、SiO成分は0.6〜4.0質量部である水溶液内に、基体を浸漬し、基体表面に対して所定の方向に配向する複層化された種結晶を析出させる工程を備える。本種結晶は、本種結晶の製造方法によって、基体表面に形成されている。本ゼオライト膜の製造方法は、同一容器内において、ゼオライト種結晶を浸漬した付近から上方をより高温に保温して溶液状態に保持し、下方をより低温に保温してゲル及び/又は固形分を含有する混合液状態に保持し、ゼオライト種結晶を成長させて複層化されたゼオライト膜を得る工程を備える。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はゼオライト種結晶の製造方法、ゼオライト種結晶及びゼオライト膜の製造方法に関する。更に詳しくは、複層化された高配向なゼオライト種結晶を基体表面にその場(in situ)形成できるゼオライト種結晶の製造方法、この方法により得られたゼオライト種結晶、及び、複層化されたゼオライト膜を1つの系内で安定して形成できるゼオライト膜の製造方法に関する。
本発明は、発光素子、化学センサ、ガス分離膜及び量子効果素子等に利用できる。また、自動車関連分野(排ガス浄化、各種センサ、発光素子及び燃料ガス精製等)、合成化学関連分野(触媒、分離及び精製等)、石油関連分野(精製、分離及び触媒等)、家電関連分野(吸着、乾燥、脱臭及び抗菌等)、環境関連分野(吸着、乾燥、脱臭及び抗菌等)及び、医療関連分野等において広く利用できる。
【0002】
【従来の技術】
ゼオライトは、分子ふるい(分子ふるい式気体分離膜)特性、固体酸性、イオン交換能、吸着分離能及び分子レベルの細孔を有すること等、特異な性質を有するため近年注目されている材料である。これらのゼオライトの特性は、天然から得られるゼオライトでは十分に発揮され難く、数多くあるゼオライトの種々の結晶構造の中から目的にあった構造の結晶を選択的に得る必要がある。特に、この結晶を膜状に安定的に形成でき、更には、基体に強固に固定された膜が簡便に得られる方法の開発が望まれている。
しかし、ゼオライトは自己焼結性がなく、一般的な水熱合成で膜化することができない。このため、種結晶を形成する種結晶形成工程と、この種結晶を成長させて膜化する緻密化工程とを経て得ることが一般的である。このようなゼオライト結晶の製造方法として、下記特許文献1及び2等に開示された方法が知られている。
【0003】
【特許文献1】
特表2000−507909号公報
【特許文献2】
特表平8−509453号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1におけるゼオライト種結晶は、予め得られた大きな形状異方性を有する微細な結晶を、基板上に塗布するものである。即ち、微細な結晶を形成する工程と、これを基体に塗布する工程との2工程を要し、製造に手間を要する。また、基体として用いる材料が限定される場合もあり、製造上制限を伴う。更に、基体表面に塗布された微細な結晶を安定化するために加熱等を行う必要があるが、基体により強固に密着されたゼオライト種結晶を簡便に得ることができる方法が求められている。一方、上記特許文2におけるゼオライト種結晶も、同様に2工程を経て得られるものであり、上記と同様な問題がある。また、高配向なゼオライト種結晶の形成を目的としているものでは無く、高配向なゼオライト種結晶を得ることは困難である。
【0005】
また、上記特許文献1及び上記特許文献2において、得られたゼオライト種結晶を緻密化させる工程については従来の方法の開示に留まっている。従来の方法とは、主にゼオライト種結晶を結晶成長に適した環境の溶液に浸漬して成長させるものである。しかし、この溶液は、高塩基性且つ低溶質濃度(原料イオンが少ない)等の限られた条件化でその環境を保持できるものであり、例えば、結晶成長に伴う原料イオンの消費により組成及び濃度が変化すること等でその環境の維持は困難となる。このため、例えば、溶液の交換や循環を行う等の煩雑な操作や装置が必要である。
更に、この溶液は、全体が結晶成長に適した環境に保たれており、溶液のいたるところでゼオライトの微結晶が生成される。このため、本来その生成を防がなければならないゼオライト結晶の副生成を誘発することとなり、多量の原料が無駄に消費される等の問題を生じる。
また、高配向なゼオライト膜を得ようとする場合には、種結晶として高配向なゼオライト種結晶を用いたとしても、上記の配向性が制御されていない副生成された結晶のために、得られるゼオライト膜では配向性が低下したり、配向性が失われたりするという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、複層化された高配向なゼオライト種結晶を基体表面にその場形成できるゼオライト種結晶の製造方法及びこの方法により得られたゼオライト種結晶を提供することを目的とする。更に、複層化されたゼオライト膜を1つの系内で安定して形成でき、更には、高配向なゼオライト膜が得られるゼオライト膜の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、所定の割合でゼオライト原料が配合された水溶液を所定の温度に保持することで、高配向な複層化されたゼオライト種結晶が得られることを見出し、本発明のゼオライト種結晶の製造方法及びゼオライト種結晶を完成させた。
また、1つの容器内にあるゼオライト原料が配合されたゼオライト膜形成液において、上方を結晶生成に適した溶液状態に制御し、下方をゼオライト原料がゲル及び/又は固形分として多量に保持できる不均一液状態に制御し、ゼオライト種結晶を溶液状態の部分に浸漬することで、安定して且つ高精度にゼオライト種結晶が成長されることを見出し、本発明のゼオライト膜の製造方法を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
(1) 密閉容器内に保持され、水と、SiO成分、Al成分及びNa成分を含むゼオライト原料と、構造規定成分とを配合してなり、該SiO成分の配合量は水100質量部に対して0.6〜4.0質量部である水溶液内に、基体を浸漬し、該基体表面に対して所定の方向に配向する複層化された種結晶を析出させる工程を備えることを特徴とするゼオライト種結晶の製造方法。
(2) 上記水溶液の温度は150〜220℃である上記(1)記載のゼオライト種結晶の製造方法。
(3) 上記構造規定成分は、テトラプロピルアンモニウムイオンである上記(1)又は(2)に記載のゼオライト種結晶の製造方法。
(4) 上記種結晶は、上記基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したものである上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載のゼオライト種結晶の製造方法。
(5) 上記(1)乃至(4)のうちのいずれかに記載のゼオライト種結晶の製造方法によって、基体表面に形成されていることを特徴とするゼオライト種結晶。
(6) 水と、SiO成分を含むゼオライト原料と、構造規定剤とが配合されたゼオライト膜形成液内に複層化されたゼオライト種結晶を浸漬し、該ゼオライト種結晶を成長させて複層化されたゼオライト膜を得る工程を備えるゼオライト膜の製造方法であって、
同一容器内において、上記ゼオライト膜形成液の該ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方をより高温に保温して溶液状態に保持し、該ゼオライト種結晶を浸漬した部分から下方をより低温に保温してゲル及び/又は固形分を含有する不均一液状態に保持することを特徴とするゼオライト膜の製造方法。
(7) 上記ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方は120〜220℃の間の所定の温度範囲に保たれている上記(6)記載のゼオライト膜の製造方法。
(8) 上記浸漬は、上記ゼオライト膜を形成する面が下方を向くように行う上記(6)又は(7)記載のゼオライト膜の製造方法。
(9) 上記ゼオライト種結晶は、上記(5)記載のゼオライト種結晶である上記(6)乃至(8)のうちのいずれかに記載のゼオライト膜の製造方法。
(10) 上記ゼオライト膜は、基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向した複層化結晶膜である上記(8)又は(9)に記載のゼオライト膜の製造方法。
【0009】
【発明の効果】
本発明のゼオライト種結晶の製造方法によれば、複層化された高配向なゼオライト種結晶を、安定して得ることができる。
水溶液の温度が150〜220℃である場合は、水溶液の溶液状態を特に安定して保持できる。このため、ゼオライト種結晶も配向性良く、高精度なものが得られる。
構造規定成分がテトラプロピルアンモニウムイオンである場合は、特にMFI型のゼオライト種結晶を安定して得ることができる。
種結晶が基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したものである場合は、これを用いることで得られるゼオライト膜も同様な配向性を有するものにできる。
本発明のゼオライト種結晶によれば、複層化された高配向なゼオライト膜を安定して得るための種結晶として有用である。
本発明のゼオライト膜の製造方法によれば、複層化されたゼオライト膜を1つの系内で安定して形成でき、更には、高配向なゼオライト膜を安定して得ることができる。また、結晶成長環境を幅広く設定できる。
ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方は120〜220℃の間の所定の温度範囲に保たれている場合は、特にゼオライト膜形成液を溶液状態に安定して保つことができる。このため、ゼオライト膜も安定して高精度に得ることができる。
ゼオライト膜を形成する面が下方を向くようにして浸漬する場合は、特に高配向なゼオライト膜を容易に且つ安定して得ることができる。
ゼオライト種結晶が本発明のゼオライト種結晶である場合は、特に高配向なゼオライト膜を容易に且つ安定して得ることができる。
ゼオライト膜が基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したものである場合は、特に工業的に有用性の高いゼオライト膜を得ることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下詳細に説明する。
[1]ゼオライト種結晶の製造方法
本発明のゼオライト種結晶の製造方法は、密閉容器内に保持された所定条件の水溶液内に、基体を浸漬し、基体表面に複層化された種結晶を析出させてその場形成できる方法である。
上記「密閉容器」は、後述する水溶液を保持する容器である。この容器は、ゼオライト種結晶を析出させる際の加温により生じる圧力に少なくとも耐えられる強度を要する。密閉容器を構成する材料は、上記強度を有する材料であれば特に限定されない。但し、容器の内壁はゼオライト結晶が付着しない材料で構成されていることが好ましい。内壁に結晶が付着すると、後にこの結晶(配向性が制御されていない)が剥離して基体表面に落下して成長し、ゼオライト種結晶の配向性を乱す原因となる場合がある。また、このような結晶の生成は原料を無駄に消費することとなる。この内壁を構成する材料としては、例えば、フッ素樹脂{例えば、テフロン(登録商標)等}などを用いることができる。
【0011】
上記「水溶液」は、水と、SiO成分、Al成分及びNa成分を含むゼオライト原料と、構造規定成分とが少なくとも配合された液体である。
この水溶液に配合する水、ゼオライト原料及び構造規定成分の各々の配合順序は特に限定されない。更に、ゼオライト原料の配合においても、SiO成分等の各成分を別々に配合してもよく、これらの成分をまとめて配合してもよく、更には、必要な全ての成分を含有する固形物を配合してもよい。
【0012】
上記「ゼオライト原料」は、ゼオライト種結晶を構成することとなる各種原料である。このゼオライト原料は、少なくともSiO成分、Al成分及びNa成分の3成分を含むものである。
上記「SiO成分」は、ゼオライト種結晶のSi骨格を形成、及び/又は、Si骨格を形成する成分を生成する。SiO成分としては、所定条件で水に溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、シリカ(ヒュームドシリカ及びコロイダルシリカ等)、ケイ酸塩(ナトリウム塩及びカリウム塩のアルカリ金属塩等)、ケイ素を含むアルコキシド類等が挙げられる。これらのなかでも安価に入手できるためシリカが好ましい。SiO成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのSiO成分から生成される上記Si骨格を形成する成分とは、例えば、水溶性ケイ素酸化物(ポリケイ酸イオン、メタケイ酸イオン及びオルトケイ酸イオンなど)等のSi骨格を形成する成分等である。
また、SiO成分の配合量は、SiOに換算した場合に水100質量部に対して0.6〜4.0質量部(より好ましくは1.0〜4.0質量部、更に好ましくは1.5〜3.0質量部)である。0.6質量部未満又は4.0質量部を超えてもゼオライト種結晶を得ることはできるが、高配向なものを得ることが困難となり、また、高密度なものも得られ難く、適度な大きさの結晶粒子が得られ難くなる。
【0013】
上記「Al成分」は、ゼオライト種結晶を構成するAlを供給するものである。Al成分としては、所定条件で水に溶解させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Al(NO、Al(OH)、AlCl及びAlBr等の各種アルミニウム塩及びAlを含有するアルコキシド等が挙げられる。これらのなかでも水に対する溶解性に優れるため、Al(NO等が好ましい。これらのAl成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、Al成分の配合量は、モル比換算でSi/Alが80〜1000(より好ましくは140〜800、更に好ましくは200〜800)である。この範囲では特に種結晶サイズが安定し易く、高い配向性が得られる。
【0014】
上記「Na成分」は、ゼオライト種結晶を構成するNaを供給するものである。Na成分としては、所定条件で水に溶解させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、NaOH、NaNO、NaCl、NaSO及びNa(COOH)等のナトリウム塩及びNaを含有するアルコキシド等が挙げられる。これらのなかでも水に対する溶解性に優れ、配合により同時にpH調整を行うことができるためNaOHが好ましい。これらのNa成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、Na成分の配合量は、NaOHに換算した場合に水100質量部に対して0.05〜2.0質量部(より好ましくは0.2〜1.5質量部、更に好ましくは0.25〜0.3質量部)である。0.05〜2.0質量部の範囲内であれば得られるゼオライト種結晶を構成する結晶粒子の大きさがより均一になる。
【0015】
ゼオライト原料として、SiO成分、Al成分及びNa成分以外にも他の成分を配合することができる。他の成分としては、例えば、K成分を挙げることができる。K成分としては、KOH、KNO、KCl、KSO及びK(COOH)等のカリウム塩及びKを含有するアルコキシド等を挙げることができる。これらのなかでも水に対する溶解性に優れ、配合によりpH調整を行うことができるためKOHが好ましい。これらのK成分は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
尚、本発明には含まれないが、上記K成分はNa成分に変えて用いることができる。即ち、密閉容器内に保持され、水と、SiO成分、Al成分及びK成分を含むゼオライト原料と、構造規定成分とを配合してなり、該SiO成分の配合量は水100質量部に対して0.6〜4.0質量部である水溶液内に、基体を浸漬し、該基体表面に対して所定の方向に配向する複層化された種結晶を析出させる工程を備えるゼオライト種結晶の製造方法である。この方法によると、Na成分を用いた場合と同様に高配向なゼオライト種結晶を得ることができる。但し、上記K成分の配合量は、KOH換算で水100質量部に対して0.07〜2.8質量部であることが好ましく、0.28〜2.1質量部であることがより好ましい。
【0017】
上記「構造規定成分」は、得られるゼオライト種結晶の構造を規定する成分である。構造規定成分としては、通常、水溶液中において四級アンモニウムイオンを生成する化合物を用いる。四級アンモニウムイオンとしては、テトラプロピルアンモニウム(TPA)イオンが好ましい。水溶液がテトラプロピルアンモニウムイオンを含有する場合は、特に高配向なゼオライト種結晶を密に析出させることができるからである。
また、テトラプロピルアンモニウムイオンを生成する構造規定成分としては、例えば、テトラプロピルアンモニウムイオンのハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物)及び水酸化物を用いることができる。これら構造規定成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
この構造規定成分の含有量は、特に限定されないが、テトラプロピルアンモニウムブロミド(以下、単に「TPABr」という)換算で、水100質量部に対して0.3質量部以上(より好ましくは0.45質量部以上、更に好ましくは0.80〜2.0質量部)含有されることが好ましい。0.3〜2.0質量部の範囲内であれば、特に安定してゼオライト種結晶を形成でき、更に、特に原料消費量を小さく抑えることができる。
【0018】
また、水溶液の温度は、ゼオライト原料及び構造規定成分を溶解させることができる温度であれば特に限定されないが、通常、150〜220℃(150〜200℃がより好ましく、150〜180℃が特に好ましい)が好ましい。この温度が150〜220℃であることによりゼオライト原料を溶質の状態に保持し易い。尚、SiO成分量が多目であり、且つ、Na成分量が少な目である場合には、150〜220℃の範囲であってもゼオライト種結晶を析出させる液中に固形分を生じる場合があり得るが、この状態においてもゼオライト種結晶の形成は可能である。
【0019】
上記「基体」は、ゼオライト種結晶を高配向に析出させることができるものであれば、材料、形状及び大きさは特に限定されない。基体を構成する材料としては、ジルコニア、金属(ステンレス及びニッケル等)、アルミナ(α−アルミナ、γ−アルミナ及び陽極酸化アルミナ等)及びガラス等を用いることができる。これらの中でも、ジルコニア及び金属が好ましい。また、基体の形状は特に限定されないが、例えば、板形状及び管形状(断面形状も限定されず、円形、三角形、四角形及びその他の多角形等とすることができる)等とすることができる。尚、基体にアルミナを用いる場合には、基体自身がゼオライト種結晶を構成するAlを供給する成分となる場合がある。この場合、水溶液中のAl成分量がモル比換算のSi/Alにおいて上記好ましい範囲となるように上記Al成分の配合量を減らすことが好ましい。
【0020】
上記「浸漬」は、通常、基体全体を水溶液に沈めることにより行うが、基体のうちゼオライト種結晶を析出させる面が少なくとも水溶液内に浸漬される状態であればよい。また、一部のみを先に浸漬し、他部を後から浸漬することにより異なる部位の両方に析出させてもよい。更に、まんべんなく析出するように、ゆっくりと水溶液内で回転等させることもできる。
また、浸漬させる時間は、特に限定されないが、通常、少なくとも5時間以上(好ましくは8時間以上、より好ましくは18時間以上、通常48時間以下)である。5時間以上とすることにより、十分に結晶化された種結晶を密に析出させることができるからである。
【0021】
本発明の製造方法により得られるゼオライト種結晶は、基体表面に形成された複層化された種結晶である。
上記「複層化された」とは、複層部分を有することをいう。この複層部分とは、結晶のいずれの面も基体に接することなく形成されたゼオライト結晶からなる部分である。通常、各層は連続する1つの層ではなく、例えば、第1層は基体表面に直接接して島状に形成された不連続なゼオライト種結晶であり、第2層は第1層の基体と接する面とは反対面に少なくとも一部が接することで積層された島状の不連続なゼオライト種結晶である。また、第3層以上を有する場合は同様に直下の層に積層されている。複層部分の面積率は特に限定されないが、通常、ゼオライト種結晶の全面積の80%以上(更には90%以上)である。尚、複層化された部分の面積率は、ゼオライト種結晶が形成された基体表面のSEMによる拡大像において、無作為に選択した実測20μm四方の像内の複層部分の面積率を計測することで得られる。
【0022】
このゼオライト種結晶は、通常、十分に結晶粒同士が繋がっておらず、平面方向に更に結晶成長する余地があるものである。また、ゼオライト種結晶を構成する各結晶粒子の大きさは特に限定されないが、通常、最大平均長さ2μm以下であり、平均厚さは1μm以上である。
ゼオライト種結晶は十分に結晶粒同士が繋がっていないため、分離膜として用いるとそのゼオライト種結晶が有するチャンネルを通過しないはずの大きな分子も通過できる。このため、この種結晶を構成する各結晶粒を主に平面方向に成長させてゼオライト膜とすることができ、上記の大きな分子をほとんど通過さないゼオライト膜を得ることができる。
【0023】
また、本発明の製造方法により得られるゼオライト種結晶の構造は、通常、MFI型である。但し、水溶液内の各成分(特に構造規定成分)の含有量及び温度等によってはMFI型に換えてその他の構造のゼオライト(例えば、MOR型)が得られる場合がある。本発明の製造方法により得られるこの種結晶は、上記本発明のゼオライト種結晶である。
【0024】
また、本発明のゼオライト種結晶の製造方法では、基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したゼオライト種結晶を特に容易に得ることができる。上記「ストレートチャンネル」とは、例えば、MFI型ゼオライト結晶においては、(010)面に開口する10員環により構成されている細孔をいう。この基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したゼオライト種結晶であることは、形成されたゼオライト種結晶を備える基体表面をX線回折測定することにより確認できる。例えば、MFI型ゼオライト結晶においては、(010)系列のピークしか実質的に得られないことにより確認される。
【0025】
本発明のゼオライト種結晶の製造方法では、水溶液内で基体表面に複層化された種結晶を析出させる工程を行う以外にも他の工程を備えることができる。その他の工程として、例えば、洗浄工程及び乾燥工程等が挙げられる。これらの工程を行うことにより、構造規定成分及び付着した水溶液等を除去することができる。しかし、本発明のゼオライト種結晶ではこれらの煩雑な工程を行わなくとも、ゼオライト膜を形成する結晶成長の工程へ移ることもできる。
【0026】
[2]ゼオライト膜の製造方法
本発明のゼオライト膜の製造方法は、同一容器内において、ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方を溶液状態に保持し、下方をゲル及び/又は固形分(以下、単に「固形分等」ともいう)を含有する不均一液状態に保持し、ゼオライト種結晶を成長させるものである。
上記「ゼオライト原料」は、少なくともSiO成分を含むこと以外は、前記ゼオライト種結晶におけるゼオライト原料をそのまま適用できる。また、このゼオライト原料としては、SiO成分以外に、例えば、Al成分、Na成分及びK成分等のうちの少なくとも1種を用いることができる。これらの各ゼオライト原料は、配合量を除いて前記ゼオライト種結晶における各成分をそのまま適用できる。また、上記「構造規定成分」は、前記ゼオライト種結晶の製造方法における構造規定成分をそのまま適用できる。
【0027】
上記「ゼオライト膜形成液」は、水と、ゼオライト原料と、構造規定成分とが少なくとも配合されたものである。このゼオライト膜形成液を構成する媒体は、水だけであってもよく、他の媒体(アルコール類等)を含有してもよい。また、これら水、ゼオライト原料及び構造規定成分の各々の配合順序は特に限定されない。更に、ゼオライト原料の配合においても、SiO成分等の各成分を別々に配合してもよく、これらの成分をまとめて配合してもよく、更には、必要な全ての成分を含有する固形物を配合してもよい。
【0028】
更に、このゼオライト膜形成液は、同一容器内において、ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方が溶液状態に保持され、下方がゲル及び/又は固形分を含有する不均一液状態に保持されたものである。
上記「溶液状態」は、不均一液状態に比べてより高温に保温され、配合されたゼオライト原料及び構造規定成分が溶解され、固形分等が含有されない状態をいう。一方、上記「不均一液状態」は、溶液液状態に比べてより低温に保温され、ゼオライト原料を主成分とする固形分等が含有される状態をいう。
【0029】
上記「ゲル」及び上記「固形分」は、ゼオライト原料成分を主成分とし、溶解するとゼオライト結晶を構成する成分を生成できる。また、ゼオライト原料成分が2種以上である場合は、通常、少なくともSiO成分を主成分とするが、その他の成分は含有されてもよく、含有されなくてもよい。ゲルとしては、例えば、SiOがゲル化することにより形成されるもの等が挙げられ、固形分としては、粉末状のゼオライト原料成分を打錠して得られる錠剤(各ゼオライト原料を別々に含有する錠剤であってもよく、全てのゼオライト原料を含有する錠剤であってもよい)等が挙げられる。
【0030】
上記「ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方」を溶液状態に保持するのは、ゼオライト膜に成長させようとするゼオライト種結晶が溶液状態の部分内に配置されるようにするためである。即ち、成長させようとするゼオライト種結晶部分が溶液状態のゼオライト膜形成液内にあればよく、ゼオライト種結晶からどの程度下方から不均一液状態とすればよいかは限定されない。製造規模等によって適宜の距離とすることが好ましい。
【0031】
従来、結晶成長に適した環境(以下、単に「結晶成長環境」という)は、低溶質濃度の環境であるとされた。高溶質濃度の環境は、低溶質濃度の環境に比べて結晶成長速度が大きいが、同時に新たな結晶核(微結晶)形成も盛んである。条件によっては、溶質が結晶成長よりも新たな結晶核形成のために多く費やされることもある。このため、従来のように溶質の供給が行われない状態で、新たな結晶核が形成され易い高溶質濃度の環境を用いると、溶質が新たな結晶核形成に消費され、結晶成長に適した溶質濃度を短時間で保持できなくなるためである。
【0032】
これに対して、本発明のゼオライト膜の製造方法では、結晶成長を行う結晶成長環境(溶液状体)と、多量のゼオライト原料(固形分等)が貯留された原料貯留環境(不均一液状態)と、を同一系内(ゼオライト膜形成液内)に有する。従って、結晶成長環境で消費された溶質は、常に原料貯留環境から補われる。更に、新たな結晶核が形成されたとしても下方に沈降し、再びゼオライト原料として利用されることとなる。このため、高溶質濃度の環境を用いても溶質濃度が過度に低下することはなく、低溶質濃度の環境から高溶質濃度の環境までの広い環境を利用できる。また、ゼオライト原料の無駄を生じることなく効率がよい。更に、他の系から、別途、結晶成長環境に調整した溶液を供給する必要がなく、簡便な装置でゼオライト膜を形成できる。
上方と下方とは、なんら境界を有さない容器内で形成することができるが、多孔体及び透過性膜等により仕切りを設けることもできる。
【0033】
この同一系内(ゼオライト膜形成液内)に2つの環境を形成する方法は、温度勾配を利用する方法が簡便であり好ましい。即ち、上方は溶液状態となる温度(下方より高温である)に保持し、下方は固形分等が形成される温度(上方より低温である)に保持する方法である。
温度勾配を形成する方法は特に限定されないが、例えば、▲1▼系全体を加温できる恒温槽内に置き、ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方を更に加熱する方法、▲2▼系全体を加温できる恒温槽内に置き、ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方を更に加熱し、下方を冷却する方法、▲3▼ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方を加熱し且つ下方を上方よりも低温に加熱する方法、▲4▼系全体を加温できる恒温槽内に置き、下方のみを冷却する方法等を用いることができる。
また、各々の方法における加熱及び冷却はどのような方法で行ってもよい。例えば、加熱は、各種のヒータ(電熱線等)を用いる方法、恒温槽を用いる方法、並びに、高温の熱媒(液体、粘性体、固液共存体及びガス等の各種流体)を配管内に循環させる方法等で行うことができる。また、各々を行う場合のヒータ及び配管等はゼオライト膜形成液を保持する容器の外側に設置してもよく、内側に設置してもよい。同様に、冷却は、低温の冷媒(液体、粘性体、固液共存体及びガス等の各種流体)を配管内に循環させる方法、並びに、恒温槽を用いる方法等で行うことができる。
【0034】
ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方及び下方に各々適した温度範囲は、ゼオライト膜形成液内に含まれる各成分及びその配合により適宜のものとすることができるが、上方の温度範囲は120℃以上且つ220℃以下の間の所定範囲であることが好ましい。この範囲であれば十分にゼオライト種結晶の成長に適した環境を得ることができる。更に、上方の温度範囲は120℃以上且つ190℃以下とすることがより好ましく、120℃以上且つ180℃以下とすることが更に好ましく、120℃以上且つ175℃以下とすることが特に好ましい。
一方、下方の温度範囲は上方の最低温度よりも低い温度であり、固形分等を生じる温度であれば特に限定されず、製造規模等によって適宜のものとすることが好ましい。例えば、ゼオライト種結晶表面から120℃未満となる下方までの距離は40mm以下(更に30mm以下、特に20mm以下)とすることができる。この範囲であれば安定してゼオライト原料を貯留でき、上方の環境を乱すこともない。
【0035】
上方が120℃以上且つ200℃以下であり、下方が120℃未満である環境は、水と、SiO成分、Al成分及びNa成分を含むゼオライト原料と、構造規定成分とが配合され、このうちSiO成分が水100質量部に対して0.6〜8.0質量部(より好ましくは1.0〜4.0質量部、更に好ましくは1.0〜2.0質量部)配合されたゼオライト膜形成液を用いる場合に効果的である。更に、これらの条件に加えて、Al成分はSi/Alモル比換算で30〜1000(より好ましくは100〜800、更に好ましくは150〜800)配合され、且つ、Na成分は水100質量部に対して0.05〜4.0質量部(より好ましくは0.05〜2.0質量部、更に好ましくは0.05〜0.8質量部)配合されたゼオライト膜形成液を用いる場合に特に効果的である。この環境及びゼオライト膜形成液を用いた製造方法はMFI型のゼオライト膜の形成に効果的である。
また、ゼオライト膜形成液に配合される構造規定成分の含有量は、特に限定されないが、TPABr換算で、水100質量部に対して0.3質量部以上(より好ましくは0.4質量部以上、更に好ましくは0.4〜0.8質量部)含有されることが好ましい。更に、ゼオライト膜形成液のpHは特に限定されないが、温度30℃の固形分等を含む不均一状態において、通常、10.0〜13.5(好ましくは10.0〜12.5、より好ましくは10.0〜12.0)である。
【0036】
上記「ゼオライト種結晶」は、ゼオライトの微細な結晶(通常、平均最大長さが2μm以下)であり、複層化されたものである。このゼオライト種結晶を構成する各結晶粒を成長させることでゼオライト膜が得られる。このゼオライト種結晶は高配向なものであっても、配向性を有しないものであってもよいが、高配向なものを用いた場合には得られるゼオライト膜も高配向なものとすることができる。また、このゼオライト種結晶は、通常、基体に形成されているが、自立型のものを得ることができればこれを用いることもできる。
上記「複層化された」とは、前記本発明のゼオライト種結晶の場合と同様である。また、本発明の製造方法に用いることができるゼオライト種結晶の構造は、特に限定されず、例えば、MFI型及びMOR型等を用いることができる。
【0037】
ゼオライト種結晶が、基体に形成されている場合には、ゼオライト膜を形成する面は、ゼオライト膜形成液の溶液状態の部分内において、上下左右等のどの方向を向けて浸漬してもよい。しかし、高配向なゼオライト膜を得る場合には、ゼオライト種結晶として高配向なものを用い、更に、基体のゼオライト膜を形成する面を下方に向けて、ゼオライト膜形成液の溶液状態の部分内に浸漬することが好ましい。
【0038】
結晶成長中に、ゼオライト膜形成液内で新たに形成される結晶核は、結晶方位が不均一である。このため、新たな結晶核が成長途中のゼオライト種結晶に付着し成長すると、得られるゼオライト膜の配向性が低下することとなる。従って、前述のように結晶成長が盛んであり、且つ、新たな結晶核の形成も盛んである高溶質濃度の環境を用いると、例え高配向なゼオライト種結晶を用いたとしても、配向性の低下が避けられない。
これに対して、上記のようにゼオライト膜形成面を下方に向けて浸漬した場合は、ゼオライト膜形成面に新たな結晶核が堆積しないため、ゼオライト種結晶の配向性を極めて効果的に維持できる。従って、高配向性なゼオライト種結晶を用いた場合には、高配向なゼオライト膜が得られる。
更に、本発明のゼオライト膜の製造方法は、結晶成長環境(溶液状体)を上方に有し、原料貯留環境(不均一液状態)を下方に有するものである。このため、新たな結晶核は下方に沈降し、再びゼオライト原料として利用され、ゼオライト原料を無駄無く利用できる。
また、このように新たに形成される結晶核に影響されないため、高配向なゼオライト膜を得る際に、高溶質濃度の環境を用いても配向性を低下させることなく、低溶質濃度の環境から高溶質濃度の環境までの広い環境を利用できる。
【0039】
用いるゼオライト種結晶は、どのような方法により得られたものであってもよい。例えば、通常、ゼオライト種結晶は基体表面に形成されているが、本発明のゼオライト種結晶の製造方法のように基体表面に直接種結晶を析出させたものであってもよく、また、別途得られたゼオライト種結晶を基体表面に付着させることで得られたものであってよい。
更に、基体表面に直接種結晶を析出させたゼオライト種結晶を用いる場合には、本発明のゼオライト種結晶を用いることができる。即ち、前記ゼオライト種結晶の製造方法における複層化された種結晶を析出させる工程を行い、その後、本発明のゼオライト膜の製造方法における複層化されたゼオライト膜を得る工程を行うものである。前記ゼオライト種結晶は特に高配向であるため、高配向なゼオライト膜を安定して得ることができる。
また、本発明のゼオライト種結晶の中でも、基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したゼオライト種結晶を用いた場合には、基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したゼオライト膜を得ることができる。基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したゼオライト膜であるとは、前記ゼオライト種結晶における場合と同様であり、その確認方法も同様である。
上記「基体」は、前記ゼオライト種結晶における基体をそのまま適用できる。
【0040】
上記「浸漬」は、通常、ゼオライト種結晶全体が溶液状態の部分内に浸かるように行うが、少なくともゼオライト種結晶のゼオライト膜を形成したい部位がゼオライト膜形成液の溶液状態の部分内に浸かるように行えばゼオライト膜を得ることができる。また、一部のみを先に浸漬し、他部を後から浸漬することにより、ゼオライト種結晶の異なる部位に析出させることもできる。更に、まんべんなく析出するように、ゆっくりとゼオライト膜形成液内で回転等させることもできる。
また、浸漬させる時間は、特に限定されないが、通常、少なくとも5時間以上(より好ましくは24時間以上、更に好ましくは40時間以上)である。ゼオライト膜形成液の組成及びpH等によっても異なるが、通常、5時間以上とすることにより、十分なゼオライト膜とすることができる。
【0041】
本発明のゼオライト膜の製造方法において、ゼオライト膜形成液を入れる容器は特に限定されないが、通常、密閉容器を用いる。密閉容器であることで水の蒸発及び高い保温効果が得られ、ゼオライト膜形成液の溶液状態の部分をゼオライト膜の形成に適したものに保持し易いからである。この密閉容器については、前記ゼオライト種結晶の製造方法における密閉容器をそのまま適用できる。但し、本発明のゼオライト膜の製造方法で用いる場合には、ゼオライト種結晶の製造と異なり、容器内の上方にゼオライト種結晶を固定する必要がある。この固定はどのような方法によるものであってもよい。
【0042】
本発明のゼオライト膜の製造方法により得られるゼオライト膜は、複層化されたゼオライト膜である。
上記「複層化された」とは、複層部分を有することをいう。この複層部分とは、ゼオライト膜の断面を電子顕微鏡で観察した場合に、連結するゼオライト結晶により構成されるゼオライト単層膜が少なくとも2層以上認められる部分をいう。但し、下層が上層の一部に入り込んでいる部分があってもよく、同様に上層が下層の一部に入り込んでいる部分があってもよい。複層部分の面積率は特に限定されず、通常、用いるゼオライト種結晶における複層部分の面積率が維持される。
【0043】
また、このゼオライト膜は、ゼオライト種結晶の結晶粒子が成長されたものである。ゼオライト種結晶は各結晶粒子の多くが独立して存在し、多角形状を呈する。これに対して、ゼオライト膜は、隣接する結晶粒子同士が連続的に繋がって形成された膜状であり、繋がっていない部分の結晶の端辺は丸みを帯びた形状となっている。尚、複層化されたゼオライト膜を構成する各層には、各層を貫通する孔が形成されている場合もあるが、複層化されているためゼオライト膜を全体を貫通する孔は認められないものである。
本発明のゼオライト膜の製造方法によると、ゼオライト種結晶の各結晶粒子の平面積を1.2倍以上(更には1.3倍以上、特に1.5倍以上)に成長させることができる。また、得られるゼオライト膜は、通常、平均膜厚が1μm以上(更には1〜5μm)である。
【0044】
本発明のゼオライト膜の製造方法では、ゼオライト膜形成液の溶液状態の部分内でゼオライト種結晶を成長させて複層化されたゼオライト膜を得る工程を備える以外に、他の工程を備えることができる。他の工程としては、例えば、得られたゼオライト膜から構造規定成分を除去する工程、得られたゼオライト膜の細孔内に種々の化学物質を固定する工程、及び、ゼオライト膜内の陽イオンを他の陽イオンと交換する工程等が挙げられる。
【0045】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]ゼオライト種結晶
(1)ゼオライト種結晶の作製
実施例1(本発明の製造方法)
表1に示す量の各ゼオライト原料を配合した水溶液(実施例1−1〜1−6)を調製した。その後、内底から1cmの高さに基体を固定できる足場を備え、内壁がフッ素樹脂で被覆された加圧可能なステンレス製の反応容器(内高さ8.5cm、内径3.4cm、内容積60ml)内に調製した水溶液を投入した。次いで、反応容器内の足場に表面研磨されたジルコニア製の基体(板状:縦0.5cm、横0.5cm、厚さ0.2cm)を固定した。その後、反応容器に蓋をして密閉し、オートクレーブ内静置し、反応容器内を175℃(自己加圧される)に保温して18時間保持し、実施例1−1〜1−6のゼオライト種結晶を得た。以下に、上記水溶液の調製に用いた水、SiO成分と構造規定成分は以下の通りである。
水:脱イオン水
SiO成分:酸化珪素(ヒュームドシリカ)、粉末状、(シグマアルドリッチジャパン社製、品名「SILICA FUMED」)
TPABr:臭化テトラプロピルアンモニウム、粉末状(Aldrich Chemical Company社製、品名「Tetrepropylammonium bromide」)
【0046】
比較例1−1(SiO成分の含有量が過度に多い場合)
各ゼオライト原料の配合量を表1に示すように変化させた(SiO成分の含有量が本発明の範囲を超えている)他は、実施例1と同様に水溶液(pH11)を調製した。その後、反応容器に蓋をして密閉し、オートクレーブ内静置し、反応容器内を170℃(自己加圧される)に保温して42時間保持し、比較例1−1のゼオライト種結晶を得た。
【0047】
比較例1−2(SiO成分の含有量が過度に少ない場合)
各ゼオライト原料の配合量を表1に示すように変化させた(SiO成分の含有量が本発明の範囲を超えている)他は、実施例1と同様に水溶液(pH11)を調製した。その後、反応容器に蓋をして密閉し、オートクレーブ内静置し、反応容器内を170℃(自己加圧される)に保温して42時間保持し、比較例1−2のゼオライト種結晶を得た。
【0048】
【表1】
Figure 2004307296
尚、表1における( )内の数値は、SiO成分に関しては水100質量部に対するSiO換算の配合量を表し、Na成分に関しては水100質量部に対するNaOH換算の配合量を表し、構造規定成分に関してはTPABr換算の配合量を表す。また、Al成分に関しては配合したAl成分中に含まれるAlのモル量に対するSiO成分中に含まれるSiのモル量を表す。
【0049】
(2)ゼオライト種結晶の観察
各基体に形成された実施例1−1〜1−6、比較例1−1及び比較例1−2のゼオライト種結晶をSEM及びX線回折測定装置(以下、単に「XRD」という)を用いて観察した。この際、各ゼオライト種結晶は、反応容器内において下面側であった表面(以下、単に「種結晶形成面」という)において観察した。このうち実施例1−1、比較例1−1及び比較例1−2の各基体の種結晶形成面のSEMを用いたデジタル画像(以下、単に「SEM像」という)による説明図を図2、図3及び図4に示した。更に、実施例1−1の種結晶形成面のXRDを用いた測定結果を図5に示した。尚、図5では各ピークを帰属し、ゼオライト種結晶に由来するピークには結晶面のミラー指数を付し、基体であるZrOに起因するピークには▼を付した。
【0050】
(3)ゼオライト種結晶の評価(実施例1−1〜1−6、比較例1−1及び比較例1−2)
比較例1−1に関する図3から、種結晶が積み重なった複層化されたものであることが見てとれる。しかし、各結晶粒子は一定の方向に配向しておらず、配向方向がまちまちである。また、比較例1−2に関する図4から、種結晶が球状化しており、配向性が認められない。
これに対して、実施例1−1に関する図2から、種結晶が積み重なった複層化されたものであることが見てとれる。更に、結晶粒子が一定の形を示していることから高配向であることが見てとれる。このことは、XRD測定結果からも分かる。即ち、図5より、得られた種結晶がMFI型構造を示しており、このMFI型ゼオライトに起因するピークは、(010)の系列反射ピークしか認められないことから、基体表面に対して垂直方向に(010)面が正確に配向した種結晶であることが分かる。従って、実施例1−1で得られた種結晶は、MFI型ゼオライト結晶のストレートチャンネルが基体に対して垂直方向に極めて高度に配向されたゼオライト種結晶であることが分かる。
実験結果より、このように高配向なゼオライト種結晶が得られたのは、水溶液中に含有されるSiO成分の量が適正な範囲にあるためであり、適正な範囲にない比較例1−1及び比較例1−2では配向性が認められないことが分かる。尚、参考としてMFI型ゼオライトの粉末のXRD測定結果を図10に示す。このXRD測定結果は、無配向のMFI型ゼオライト結晶の測定結果に相当するものである。
【0051】
また、その他の実施例については、以下の通りであった。
実施例1−2は、SiO成分の配合量がSiO換算で3.2質量部であり、実施例1−1の1.9質量部に対して1.68倍と多い。このため実施例1−1のゼオライト種結晶よりも各結晶粒子が大きいものであった。
実施例1−3は、Al成分の配合量がSi/Al換算で914であり、実施例1−1の424に対して2.15倍と多い。このため実施例1−1のゼオライト種結晶よりも各結晶粒子がやや大きいものであった。
実施例1−4は、Al成分の配合量がSi/Al換算で99であり、実施例1−1の424に対して0.23倍と少ない。このため実施例1−1のゼオライト種結晶よりも各結晶粒子がやや小さく、配向性が低いものであった。
実施例1−5は、Na成分の配合量がNaOH換算で0.08質量部であり、実施例1−1の1.0質量部に対して0.08倍と少ない。このため実施例1−1のゼオライト種結晶よりも各結晶粒子が大きく、その大きさがやや不揃いであった。
実施例1−6は、Na成分の配合量がNaOH換算で1.8質量部であり、実施例1−1の1.0質量部に対して1.8倍と多い。このため実施例1−1のゼオライト種結晶よりも各結晶粒子が小さく、また、凝集した状態であった。
【0052】
[2]ゼオライト膜
(1)反応装置の説明
図1に示す反応装置Aは、内壁がフッ素樹脂で被覆された加圧可能なステンレス製の反応容器10と、反応容器の上部外周に巻いて用いられ通電により発熱するヒータ20と、反応容器の下部外周を囲って用いられ冷媒の循環により冷却作用を発揮する冷却ジャケット30とを備える。
【0053】
反応容器10は、本体部11と蓋部12とを備える。
本体部11は、外高約9.5cm、外径約4.5cmであり、内高約8.5cm、内径約3.5cmである。また、外底から約6cmの位置に鍔部111を備え、外底から約8〜9.5cmの位置に蓋部12を螺合するための螺子部を備える。
蓋部12は、外高約4.5cm、外径約6.5cmであり、内高約4.0cm、内径約5.5cmである。また、蓋部は本体部に取り付けたときに、本体部内底から約2cmまで届く、温度計挿入用ケース部121を備える。この温度計挿入用ケース部121は反応容器内が加圧状態であっても圧抜けしないように溶接されている。この温度計挿入用ケース部121内には、温度計40を挿入し、温度計をケース内で上下させることにより容器内の高さ方向の所望の位置における温度を測定できるようになっている。更に、ゼオライト種結晶が形成された基体を内底から6〜8cmの位置に固定する種結晶固定部122を備える。
【0054】
ヒータ20は、通電により発熱する熱線と、熱線の温度を制御する制御部とを備える。このヒータ20は、本体部11と蓋部12とを螺合した後に、本体部11の鍔部111上端から蓋部12の外側を覆うように螺旋状に熱線を巻いて使用した。
冷却ジャケット30は、オートクレーブ外に配置されたポンプにより、その内部の冷媒31を循環できる。また、冷却ジャケット30は反応容器10の本体部11の鍔部111下端より下方を覆って使用した。
【0055】
(2)ゼオライト膜の作製
実施例2−1〜2−3(本発明の製造方法)
表2に示す量の各ゼオライト原料を配合したゼオライト膜形成液(pH10.4)を調製した。その後、図1に示す容器の本体部11内にこのゼオライト膜形成液70を投入した。次いで、種結晶固定部122に、上記[1]の実施例1で得られたゼオライト種結晶が形成された基体50を、種結晶形成面が反応容器の底を向くように(下方を向くように)固定した。次いで、蓋部12を本体部11に螺合し、ヒータ20の熱線を鍔部111より上方に巻き、鍔部111より下方は冷却ジャケット30内に入れ、更に、この反応装置A全体をオートクレーブ内に載置した。そして、ゼオライト膜形成液において、ゼオライト種結晶60を浸漬した部分から上方(図1中D1)の温度を表2に示す温度に保温し、ゼオライト種結晶60を浸漬した部分から下方(図1中D2)の温度を表2に示す温度に保温した。ゼオライト種結晶60を浸漬した部分から下方は、具体的には、ゼオライト種結晶60の表面から反応容器内底方向に1cmの位置から下方とした。また、この下方にはゲル71が形成された。この状態で表2に示す時間静置し、実施例2−1〜2−3のゼオライト膜を得た。
【0056】
比較例2−1(反応容器内を均一に加熱した場合)
実施例2−1と同じゼオライト膜形成液(pH10.4)を調製し、実施例1−1で得られたゼオライト種結晶60が形成された基体50を同様に反応容器内に固定した。次いで、実施例2−1と同様に反応装置A全体を組み立てオートクレーブ内に載置した。そして、ヒータ20及び冷却ジャケット30を稼働させず、反応容器内のゼオライト膜形成液70全体の温度が140℃となるように温度調整を行った。この状態で42時間静置し、比較例2のゼオライト膜を得た。
【0057】
【表2】
Figure 2004307296
尚、表2における( )内の数値は表1におけると同様である。
【0058】
(2)ゼオライト膜の観察
上記[2](1)で得られた実施例2−1と比較例2−1の各ゼオライト膜について、上記[1](2)と同様にして得られたSEM像による説明図を図6及び図8に示した。更に、上記[1](2)と同様にして得られたXRDを用いた測定結果を図7及び図9に示した。尚、図7では各ピークを帰属し、ゼオライト種結晶に由来するピークには結晶面のミラー指数を付し、基体であるZrOに起因するピークには▼を付した。
【0059】
(3)ゼオライト膜の評価(実施例2及び比較例2)
比較例2−1に関する図8から、結晶粒子が様々な方向を向いて形成されていることが見てとれる。即ち、ゼオライト種結晶の状態では高配向性であったにも関わらず、その後の緻密化の方法が適当でないために配向性が失われていることが分かる。このことは、図9で様々な系列反射ピークが認められていることからも分かる。
これに対して、実施例2−1に関する図6から、結晶粒子が長方形状又はこの長方形状が粒成長した楕円形状であり、一定の方向を向いていることが見てとれる。また、複層化されていることも見てとれる。このことは、XRD測定結果からも分かる。即ち、図7より、得られたゼオライト膜を構成する結晶がMFI型構造を示しており、このMFI型ゼオライトに起因するピークは、(010)の系列反射ピークしか認められないことから、基体表面に対して垂直方向に(010)面が正確に配向した結晶からなることが分かる。従って、実施例2−1で得られたゼオライト膜は、MFI型ゼオライト結晶のストレートチャンネルが基体に対して垂直方向に極めて高度に配向されたゼオライト膜であることが分かる。
実験結果より、このように高配向なゼオライト膜が得られたのは、ゼオライト膜形成液の温度を所定領域内の温度を各々異なるように調整したからであることが分かる。これは、ゼオライト膜形成液内で新たな種結晶が析出し、この種結晶が付着することが防止されたために得られた結果であると考えられる。
また、実施例2−1では、反応終了後の反応容器内には、ゼオライト原料であるゲル状物が認められたのみであった。これに対して、比較例2−1では、反応容器内底に粉末が認められた。この粉末を回収して、上記[1](2)と同様にして得られたSEM像による説明図を図11に示す。この図11より、ゼオライト膜形成液内においてゼオライトの結晶が生じていたことが分かる。
【0060】
また、その他の実施例については、以下の通りであった。
実施例2−2は、ゼオライト種結晶60を浸漬した部分から上方の温度は175℃であり、実施例2−1の140℃に対して35℃高い。更に、浸漬時間は6時間であり、実施例2−1の42時間に対して0.14倍と短い。このため実施例2−1のゼオライト膜よりも短時間で、ほぼ同質のゼオライト膜を得ることができた。
実施例2−3は、ゼオライト種結晶60を浸漬した部分から上方の温度が120℃であり、実施例2−1の140℃に対して20℃低くい。更に、浸漬時間は72時間であり、実施例2−1の42時間に対して1.7倍と長い。このため実施例2−1のゼオライト膜よりも、ゼオライト種結晶の成長速度が遅く長時間を要するが、ほぼ同質のゼオライト膜を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】ゼオライト膜の作製に用いた反応装置Aを説明する説明図である。
【図2】実施例1−1のゼオライト種結晶のSEM像による説明図である。
【図3】比較例1−1のゼオライト種結晶のSEM像による説明図である。
【図4】比較例1−2のゼオライト種結晶のSEM像による説明図である。
【図5】実施例1−1のゼオライト種結晶のXRD測定による説明図である。
【図6】実施例2−1のゼオライト膜のSEM像による説明図である。
【図7】実施例2−1のゼオライト種結晶のXRD測定による説明図である。
【図8】比較例2−1のゼオライト膜のSEM像による説明図である。
【図9】比較例2−1のゼオライト膜のXRD測定による説明図である。
【図10】MFI型ゼオライト粉末のXRD測定による説明図である。
【図11】比較例2−1で得られた反応容器内で析出した粉末のSEM像による説明図である。
【符号の説明】
A;反応装置、10;密閉容器、11;本体部、111;鍔部、12;蓋部、121;温度計挿入用ケース部、122;種結晶固定部、20;ヒータ、30;冷却ジャケット、31;冷媒、40;温度計、50;基体、60;ゼオライト種結晶、70;ゼオライト膜形成液。

Claims (10)

  1. 密閉容器内に保持され、水と、SiO成分、Al成分及びNa成分を含むゼオライト原料と、構造規定成分とを配合してなり、該SiO成分の配合量は水100質量部に対して0.6〜4.0質量部である水溶液内に、基体を浸漬し、該基体表面に対して所定の方向に配向する複層化された種結晶を析出させる工程を備えることを特徴とするゼオライト種結晶の製造方法。
  2. 上記水溶液の温度は150〜220℃である請求項1記載のゼオライト種結晶の製造方法。
  3. 上記構造規定成分は、テトラプロピルアンモニウムイオンである請求項1又は2に記載のゼオライト種結晶の製造方法。
  4. 上記種結晶は、上記基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向したものである請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のゼオライト種結晶の製造方法。
  5. 請求項1乃至4のうちのいずれかに記載のゼオライト種結晶の製造方法によって、基体表面に形成されていることを特徴とするゼオライト種結晶。
  6. 水と、SiO成分を含むゼオライト原料と、構造規定剤とが配合されたゼオライト膜形成液内に複層化されたゼオライト種結晶を浸漬し、該ゼオライト種結晶を成長させて複層化されたゼオライト膜を得る工程を備えるゼオライト膜の製造方法であって、
    同一容器内において、上記ゼオライト膜形成液の該ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方をより高温に保温して溶液状態に保持し、該ゼオライト種結晶を浸漬した部分から下方をより低温に保温してゲル及び/又は固形分を含有する不均一液状態に保持することを特徴とするゼオライト膜の製造方法。
  7. 上記ゼオライト種結晶を浸漬した部分から上方は120〜220℃の間の所定の温度範囲に保たれている請求項6記載のゼオライト膜の製造方法。
  8. 上記浸漬は、上記ゼオライト膜を形成する面が下方を向くように行う請求項6又は7記載のゼオライト膜の製造方法。
  9. 上記ゼオライト種結晶は、請求項5記載のゼオライト種結晶である請求項6乃至8のうちのいずれかに記載のゼオライト膜の製造方法。
  10. 上記ゼオライト膜は、基体表面に対して垂直な方向にストレートチャンネルが配向した複層化結晶膜である請求項8又は9に記載のゼオライト膜の製造方法。
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