JP2004298836A - 複層塗膜の形成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】水性中塗り塗料を用いる3コート1ベーク複層塗膜形成方法において、中塗り塗膜の物性を向上させて複層塗膜の耐チッピング性を改善すること。
【解決手段】(1)電着塗膜が形成された被塗物を提供する工程;(2)電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する工程;(3)中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料、及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成する工程;(4)中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程;を含む複層塗膜形成方法において、該水性中塗り塗料が、アクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及び有機物処理二酸化チタン顔料を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【選択図】 なし
【解決手段】(1)電着塗膜が形成された被塗物を提供する工程;(2)電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する工程;(3)中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料、及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成する工程;(4)中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程;を含む複層塗膜形成方法において、該水性中塗り塗料が、アクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及び有機物処理二酸化チタン顔料を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は複層塗膜の形成方法に関し、特に3コート1ベーク法を用いて自動車車体に水性中塗り塗膜及び上塗り塗膜を形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車車体の塗装は、基本的には電着塗膜、中塗り塗膜、及びベース塗膜とクリヤー塗膜とから成る上塗り塗膜を被塗物である鋼板の上に順次積層して行われる。従来、これらの塗膜は、それぞれ塗膜の機能に応じて組成が調整された塗料組成物を塗布し、中塗り塗膜の形成後とクリヤートップ塗膜形成後の双方において焼き付け硬化工程が行われてきた。
【0003】
しかし、作業効率を上げ、特に近年要請が強い省エネルギーを実現するために、中塗り塗膜の形成後における焼付け硬化工程を省略し、従来の2回の焼付け硬化工程を1回とする複層塗膜形成方法が次第に望まれるようになってきた。つまり、電着塗膜以外の中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜をウェットオンウェットで塗り重ね、3層を焼き付け硬化させる3コート1ベーク複層塗膜形成方法である。このように、中塗り塗膜の形成後における焼付け硬化工程を省略することにより、大きな省エネルギーが得られると共に塗装工程時間が短縮され、コストダウン効果が得られる。その反面、焼き付け回数の減少によって中塗り塗膜の物性低下を招かないよう、中塗り塗料にはより良い硬化性が要求される。
【0004】
他方では、近年、地球環境問題や省資源の観点から、塗料中に使用されている有機溶剤の一部もしくは全量を水に置き換えた環境対応型の水系塗料が、自動車塗料等の工業塗装用塗料や建築・建材塗料分野で広く応用されるようになってきた。しかしながら、従来の水系塗料は、塗膜の機械的性質、耐溶剤性、耐水性に劣っていた。
【0005】
特に、従来の水系塗料を3コート1ベーク複層塗膜形成方法に応用した場合、塗膜の耐チッピング性が弱く、下塗り塗装である電着塗膜との界面や上塗り塗装であるベースコートとの界面での剥離が生じたり、耐溶剤性が弱く塗膜の安定性が不適であったり、塗膜の耐水性と耐久性が劣るという問題があった。
【0006】
特開平4−284881号公報(特許文献1)には、被塗物の上に電着塗膜を形成した後に、水性下塗り塗料、水性上塗り塗料及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで塗り重ね、3層の塗膜を同時に硬化させる、3コート1ベーク複層塗膜形成方法が記載されている。しかしながら、ここでは電着塗膜の上に、従来の逐次焼き付け用水性塗料を3層塗り重ねている。かかる方法では、内部に積層された塗膜は硬化が不十分となり、塗膜の物性は低下してしまう。
【0007】
特開2001−170559号公報(特許文献2)には、被塗物の上に電着塗膜及び中塗り塗膜を形成した後に、ベース塗料、光輝材含有ベース塗料及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで塗り重ね、3層を焼き付け硬化させる3コート1ベーク複層塗膜形成方法が記載されている。しかしながら、この方法では、中塗り塗膜はベース塗料等を塗り重ねる前に一旦焼き付け硬化されており、省エネルギーや作業の効率化が十分でない。
【0008】
また、特開2001−205175号公報(特許文献3)には、被塗物の上に電着塗膜を形成した後に、水性中塗り塗料、水性メタリックベース塗料及びクリヤー塗料を塗り重ね、3層の塗膜を同時に硬化させる3コート1ベーク複層塗膜形成方法が記載されている。ここでは、水性中塗り塗料にアミド基含有エチレン性不飽和モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとを乳化重合して得られるアミド基含有アクリル樹脂粒子の水分散体を含有させて、塗膜層の界面でのなじみや反転を制御し、複層塗膜の外観が向上されている。しかしながら、この水性中塗り塗料は、自己架橋性と反応硬化性の両機能の兼備という点については不十分であり、複層塗膜の耐チッピング性の改善は不十分である。
【0009】
【特許文献1】
特開平4−284881号公報
【特許文献2】
特開2001−170559号公報
【特許文献3】
特開2001−205175号公報
【0010】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、被塗物の上に電着塗膜を形成した後に、水性下塗り塗料、水性上塗り塗料及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで塗り重ね、3層の塗膜を同時に硬化させる、3コート1ベーク複層塗膜形成方法において、中塗り塗膜の物性を向上させて複層塗膜の耐チッピング性を改善することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)電着塗膜が形成された被塗物を提供する工程;(2)電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する工程;(3)中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料、及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成する工程;(4)中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程;を含む複層塗膜形成方法において、
該水性中塗り塗料が、ガラス転移温度−50〜20℃、酸価2〜60mgKOH/g及び水酸基価10〜120mgKOH/gを有するアクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及びシリカまたはアルミナで被覆した後に、ポリオール化合物、アミン系化合物、及びカルボン酸系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機物で被覆した有機物処理二酸化チタン顔料を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0012】
【発明の実施の形態】
水性中塗り塗料
本発明の方法で用いる水性中塗り塗料は、水性媒体中に分散または溶解された状態で、アクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及び有機物処理二酸化チタン顔料を含有する。
【0013】
アクリル樹脂エマルジョンは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)、及び水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。尚、モノマー混合物の成分として以下に例示される化合物は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用してよい。
【0014】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)はアクリル樹脂エマルジョンの主骨格を構成するために使用する。
【0015】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0016】
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)は、得られるアクリル樹脂エマルジョンの保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性を向上させ、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応を促進するために使用する。酸基は、カルボキシル基、スルホン酸基及びリン酸基等から選ばれることが好ましい。特に好ましい酸基は上記諸安定性向上や硬化反応促進機能の観点から、カルボキシル基である。
【0017】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。スルホン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−アクリルアミドプロパンスルホン酸、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。リン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステル等のライトエステルPM(共栄社化学製)等が挙げられる。
【0018】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)は、水酸基に基づく親水性をアクリル樹脂エマルジョンに付与し、これを塗料として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性を増すと共に、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性を付与するために使用する。
【0019】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマー等が挙げられる。
【0020】
ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業(株)製の「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFA−4」、「プラクセルFA−5」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、「プラクセルFM−3」、「プラクセルFM−4」及び「プラクセルFM−5」等が挙げられる。
【0021】
モノマー混合物は、任意成分として、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでよい。スチレン系モノマーとしては、スチレンのほかにα−メチルスチレン等が挙げられる。
【0022】
また、モノマー混合物は、カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマー等の架橋性モノマーを含んでよい。その場合、得られるアクリル樹脂エマルジョンは自己架橋性となる。
【0023】
カルボニル基含有モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するアルキルビニルケトン(例えばメチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン)等のケト基を含有するモノマーが挙げられる。これらのうちジアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。このようなカルボニル基含有モノマーを用いる場合には、アクリル樹脂エマルジョン中に架橋助剤としてヒドラジン系化合物を添加して、塗膜形成時に架橋構造が形成されるようにする。
【0024】
ヒドラジン系化合物としては、例えば、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジド又はテトラヒドラジド;ニトリロトリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド、カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジン又はヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させて得られるポリヒドラジド;炭酸ジヒドラジド、ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート又はそれより誘導されるポリイソシアネート化合物にヒドラジン化合物や上記例示のジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド等が挙げられる。
【0025】
加水分解重合性シリル基含有モノマーとしては、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を含有するモノマーが挙げられる。
【0026】
多官能ビニル系モノマーは、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物であり、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート等のジビニル化合物が挙げられ、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等も挙げられる。
【0027】
乳化共重合は、上記モノマー混合物を水性液中で、ラジカル重合開始剤及び乳化剤の存在下で、攪拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30〜100℃程度として、反応時間は例えば1〜10時間程度が好ましく、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物又はモノマープレ乳化液の一括添加又は暫時滴下によって反応温度の調節を行うとよい。
【0028】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が水溶液の形で使用される。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が水溶液の形で使用される。
【0029】
乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系の乳化剤が用いられる。このうちアニオン乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。またこれら一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども適宜、単独又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0030】
また乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコールなどの分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)の併用は、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させる観点から、好ましい場合も多く、適宜状況に応じて行われる。
【0031】
また乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法もとることができる。
【0032】
このようにして本発明で用いられるアクリル樹脂エマルジョンが調製される。得られたアクリル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に5万〜100万程度であり、例えば10万〜80万程度である。
【0033】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は−50℃〜20℃、好ましくは−40℃〜10℃、さらに好ましくは−30℃〜0℃の範囲とする。この範囲の樹脂のTgとすることにより、アクリル樹脂エマルジョンを含む水性中塗り塗料をウェットオンウェット方式において用いた場合に、下塗り塗料及び上塗り塗料との親和性や密着性が良好となり、ウェット状態の上側塗膜との界面でのなじみが良く反転が起こらない。また、最終的に得られる塗膜の適度な柔軟性が得られ、耐チッピング性が高められる。これらの結果、非常に高外観を有する複層塗膜が形成できる。樹脂のTgが−50℃未満では塗膜の機械的強度が不足し、耐チッピング性が弱い。一方、樹脂のTgが20℃を超えると、塗膜が硬くて脆くなるため、耐衝撃性に欠け、耐チッピング性が弱くなる。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂のTgが上記範囲となるように選択する。
【0034】
アクリル樹脂の酸価は2〜60mgKOH/g、好ましくは5〜50mgKOH/gの範囲とする。この範囲の樹脂の酸価とすることにより、樹脂エマルジョンやそれを用いた水性中塗り塗料の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性が向上し、また、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が向上する。樹脂の酸価が2mgKOH/g未満では、上記諸安定性が劣り、また、メラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分行われず、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が劣る。一方、樹脂の酸価が60mgKOH/gを超えると、樹脂の重合安定性が悪くなったり、上記諸安定性が逆に悪くなったり、得られた塗膜の耐水性が劣るものとなる。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の酸価が上記範囲となるように選択する。前述したように、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の内でもカルボキシル基含有モノマーを用いることが重要であり、モノマー(b)の内、カルボキシル基含有モノマーが好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含まれる。
【0035】
アクリル樹脂の水酸基価は10〜120mgKOH/g、好ましくは20〜100mgKOH/gの範囲とする。この範囲の樹脂の水酸基価とすることにより、樹脂が適度な親水性を有し、樹脂エマルジョンを含む塗料組成物として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性が増すと共に、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性も十分である。水酸基価が10mgKOH/g未満では、前記硬化剤との硬化反応が不十分で、塗膜の機械的性質が弱く、耐チッピング性に欠け、耐水性及び耐溶剤性にも劣る。一方、水酸基価が120mgKOH/gを超えると、逆に得られた塗膜の耐水性が低下したり、前記硬化剤との相溶性が悪く、塗膜にひずみが生じ硬化反応が不均一に起こり、その結果、塗膜の諸強度、特に耐チッピング性、耐溶剤性及び耐水性が劣る。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の水酸基価が上記範囲となるように選択する。
【0036】
得られたアクリル樹脂エマルジョンに対し、カルボン酸の一部又は全量を中和してアクリル樹脂エマルジョンの安定性を保つため、塩基性化合物が添加される。これら塩基性化合物としては、通常アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属などが用いられ、本発明においても適宜使用される。
【0037】
硬化剤は、エマルジョンとして含まれるアクリル樹脂やウレタン樹脂と硬化反応を生じ、水性中塗り塗料中に配合することができるものであれば特に限定されず、例えば、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂、オキサゾリン系化合物あるいはカルボジイミド系化合物等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。
【0038】
メラミン樹脂としては特に限定されず、硬化剤として通常用いられるものを使用することができる。例えば、アルキルエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂が好ましく、メトキシ基及び/又はブトキシ基で置換されたメラミン樹脂がより好ましい。このようなメラミン樹脂としては、メトキシ基を単独で有するものとして、サイメル325、サイメル327、サイメル370、マイコート723;メトキシ基とブトキシ基との両方を有するものとして、サイメル202、サイメル204、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル254、サイメル266、サイメル267(何れも商品名、三井サイテック社製);ブトキシ基を単独で有するものとして、マイコート506(商品名、三井サイテック社製)、ユーバン20N60、ユーバン20SE(何れも商品名、三井化学社製)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、サイメル325、サイメル327、マイコート723がより好ましい。
【0039】
イソシアネート樹脂は、ジイソシアネート化合物を適当なブロック剤でブロックしたものである。上記ジイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等の脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族−脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート類;ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水素化されたTDI(HTDI)、水素化されたXDI(H6XDI)、水素化されたMDI(H12MDI)等の水素添加ジイソシアネート類、及び以上のジイソシアネート類のアダクト体及びヌレート体等を挙げることができる。さらに、これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0040】
ジイソシアネート化合物をブロックするブロック剤としては、特に限定されず、例えば、メチルエチルケトオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;m−クレゾール、キシレノール等のフェノール類;ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ε−カプロラクタム等のラクタム類;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステル等のジケトン類;チオフェノール等のメルカプタン類;チオ尿酸等の尿素類;イミダゾール類;カルバミン酸類等を挙げることができる。なかでも、オキシム類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、ジケトン類が好ましい。
【0041】
オキサゾリン系化合物は、2個以上の2−オキサゾリン基を有する化合物であることが好ましく、例えば、下記のオキサゾリン類やオキサゾリン基含有重合体等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。オキサゾリン系化合物は、アミドアルコールを触媒の存在下で加熱して脱水環化する方法、アルカノールアミンとニトリルとから合成する方法、或いはアルカノールアミンとカルボン酸とから合成する方法等を用いることによって得られる。
【0042】
オキサゾリン類としては、例えば、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0043】
オキサゾリン基含有重合体は、付加重合性オキサゾリン及び必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を重合したものである。付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされて使用される。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0044】
付加重合性オキサゾリンの使用量は特に限定されるものではないが、オキサゾリン基含有重合体中、1重量%以上であることが好ましい。1重量%未満の量では硬化の程度が不充分となる傾向にあり、耐久性、耐水性等が損なわれる傾向にある。
【0045】
他の重合性単量体としては、付加重合性オキサゾリンと共重合可能で、かつ、オキサゾリン基と反応しない単量体であれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化α,β−不飽和単量体類;スチレン、α−メチルスチレン等のα,β−不飽和芳香族単量体類等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0046】
オキサゾリン基含有重合体は付加重合性オキサゾリン及び必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を、従来公知の重合法、例えば懸濁重合、溶液重合、乳化重合等により製造できる。上記オキサゾリン基含有化合物の供給形態は、有機溶剤溶液、水溶液、非水ディスパーション、エマルジョン等が挙げられるが、特にこれらの形態に限定されない。
【0047】
カルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成して得られたものを挙げることができる。より具体的には、ポリカルボジイミド化合物の製造において、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するポリカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、上記ポリカルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量が上記ポリオールの水酸基のモル量を上回る比率で反応させる工程と、上記工程で得られた反応生成物に、活性水素及び親水性部分を有する親水化剤を反応させる工程とにより得られた親水化変性カルボジイミド化合物が好ましいものとして挙げることができる。
【0048】
1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物としては、特に限定されないが、反応性の観点から、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物であることが好ましい。両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物の製造方法は当業者によってよく知られており、例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
【0049】
顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを少量の水性媒体に予め分散して得られる。顔料分散剤の固形分中には、揮発性の塩基性物質が全く含まれていないか、又は3重量%以下の割合で含まれている。本発明で用いる水性中塗り塗料においては、このような顔料分散剤を用いることによって、水性中塗り塗料から形成される塗膜中の揮発性塩基性物質の量が少なくなり、得られる複層塗膜の黄変を抑えることができる。従って、顔料分散剤の固形分中に揮発性の塩基性物質が3重量%を超えて含まれていると、得られる複層塗膜が黄変し、仕上がり外観が悪くなる傾向にあるため好ましくない。
【0050】
揮発性の塩基性物質とは、沸点が300℃以下の塩基性物質を意味するものであり、無機及び有機の窒素含有塩基性物質を挙げることができる。無機の塩基性物質としては、例えば、アンモニア等が挙げられる。有機の塩基性物質としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルドデシルアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基含有1〜3級アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状ヒドロキシアルキル基含有1〜3級アミン;ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基及び炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のヒドロキシアルキル基を含有する1〜3級アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の炭素数1〜20の置換又は非置換鎖状ポリアミン;モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状モノアミン;ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N,N−ジメチルピペラジン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状ポリアミン等のアミン類を挙げることができる。
【0051】
本発明で用いる水性中塗り塗料には、上記顔料分散剤以外の成分にも、揮発性の塩基性物質が含まれる場合がある。従って、上記顔料分散剤に含まれる揮発性の塩基性物重量は、より少なく抑える程、より好ましい。すなわち、揮発性の塩基性物質を実質的に含まない顔料分散剤を用いて分散することが好ましい。また、従来一般的に使用されているアミン中和型の顔料分散樹脂を使用しないことが更に好ましい。そして、複層塗膜形成時に、単位面積1mm2あたりの揮発性の塩基性物質が7×10−6mmol以下になるように顔料分散剤を用いることが好ましい。
【0052】
顔料分散剤は、顔料親和部分及び親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分及び親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性及びアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。
【0053】
ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基等が挙げられる。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基等が挙げられる。また、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。このような顔料分散剤は、当業者にとってよく知られた方法によって製造することができる。
【0054】
顔料分散剤としては、その固形分中に揮発性の塩基性物質を含まないか、又は3重量%以下の含有量であるものであれば特に限定されないが、少量の顔料分散剤によって効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。例えば、市販されているもの(以下いずれも商品名)を使用することもでき、具体的には、ビックケミー社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるDisperbyk 190、Disperbyk 181、Disperbyk 182(高分子共重合物)、Disperbyk 184(高分子共重合物)、EFKA社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるEFKAPOLYMER4550、アビシア社製のノニオン系分散剤であるソルスパース27000、アニオン系分散剤であるソルスパース41000、ソルスパース53095等を挙げることができる。
【0055】
顔料顔料分散剤の数平均分子量は、下限1000、上限10万であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではない場合があり、10万を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。より好ましくは、下限2000、上限5万であり、更に好ましくは、下限4000、上限5万である。
【0056】
前記顔料分散ペーストは、顔料分散剤と顔料とを公知の方法に従って混合分散することにより得られる。顔料分散ペースト製造時の顔料分散剤の割合は、顔料分散ペーストの固形分に対して、下限1重量%、上限20重量%であることが好ましい。1重量%未満であると、顔料を安定に分散しにくく、20重量%を超えると、塗膜の物性に劣る場合がある。好ましくは、下限5重量%、上限15重量%である。
【0057】
顔料としては、有機物処理二酸化チタンを使用する。有機物処理二酸化チタンとは、通常塗料の顔料として用いられる粉体状の二酸化チタンをシリカまたはアルミナで被覆した後に、ポリオール化合物、アミン系化合物、及びカルボン酸系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機物で更に被覆した二酸化チタンをいう。このような二酸化チタンの製造方法は、例えば、特開平10−110115号公報に記載されている。
【0058】
すなわち、二酸化チタン顔料の水性スラリーのpHを1〜4に保持しながらケイ酸塩及び/又はアルミン酸塩と酸を添加し、その後アルカリを添加して多孔質シリカ及び/又は多孔質アルミナを被覆する。被覆された二酸化チタンを、ポリオール化合物、アミン系化合物、及びカルボン酸系化合物等の有機物単独もしくは複数で被覆処理すればよい。
【0059】
有機物の具体例には、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールやトリエタノールアミンなどのアルカノールアミンまたはその誘導体またはそれらの混合物やシロキサン、シランカップリング剤などの有機シリコン系化合物、ステアリン酸などの高級脂肪酸などが挙げられる。このような有機物処理二酸化チタンは市販されており、石原産業株式会社製、タイペーク(商品名)CR−90−2、同CR−95、同CR−953、同CR−63等がこれに該当する。
【0060】
二酸化チタン以外の顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料等の有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック等の無機着色顔料等が挙げられる。これら顔料に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等の体質顔料を併用しても良い。
【0061】
また顔料として、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料とした標準的なグレーの塗料を用いることもできる。他にも、上塗り塗料と明度又は色相等を合わせた塗料や各種の着色顔料を組み合わせた塗料を用いることもできる。
【0062】
増粘剤としては特に限定されないが、例えば、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、市販されているものとしては、チローゼMH及びチローゼH(いずれもヘキスト社製、商品名)等のセルロース系のもの;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、市販されているもの(以下いずれも商品名)としては、プライマルASE−60、プライマルTT−615、プライマルRM−5(いずれもローム&ハース社製)、ユーカーポリフォーブ(ユニオンカーバイト社製)等のアルカリ増粘型のもの;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、市販されているもの(以下いずれも商品名)としては、アデカノールUH−420、アデカノールUH−462、アデカノールUH−472、UH−540、アデカノールUH−814N(旭電化工業社製)、プライマルRH−1020(ローム&ハース社製)、クラレポバール(クラレ社製)等の会合型のものを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
増粘剤を含有することにより、水性中塗り塗料の粘度を高くすることができ、水性中塗り塗料を塗装する際に、タレが発生することを抑制することができる。また、中塗り塗膜とベース塗膜との間での混層をより抑制することができる。その結果、増粘剤を含まない場合に比べて、塗装時の塗装作業性が向上し、得られる塗膜の仕上がり外観を優れたものとすることができる。
【0064】
その他の添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;消泡剤;表面調整剤;ピンホール防止剤等が挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0065】
本発明で使用する水性中塗り塗料は、上述のアクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及び顔料分散ペースト等を混合して調製される。
【0066】
硬化剤は、硬化剤、アクリル樹脂エマルジョンの固形分に対して下限2重量%、上限50重量%、好ましくは下限4重量%、上限40重量%、より好ましくは下限5重量%、上限30重量%となるように使用する。2重量%より少ないと、得られる塗膜の耐水性が低下する傾向がある。また、50重量%を超えると、得られる塗膜のチッピング性が低下する傾向がある。
【0067】
追加の樹脂成分、顔料分散ペーストやその他の添加剤は、適量混合すれば良い。但し、追加の樹脂成分は、水性中塗り塗料用組成物中に含まれる全ての樹脂の固形分を基準として、50重量%以下の割合で配合することが好ましい。50重量%を越えて配合した場合は、塗料中の固形分濃度を高くすることが困難になるため、好ましくない。
【0068】
また、有機物処理二酸化チタン顔料は、水性中塗り塗料中に含まれる全ての樹脂の固形分及び顔料の合計重量に対する顔料濃度(PWC;pigment weight content)が、10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%となる量で中塗り塗料に含有される。有機物処理二酸化チタン顔料のPWCが10重量%未満であると顔料が果たすべき隠蔽性が不十分になる。また、このPWCが60重量%を越えると硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下することがある。
【0069】
増粘剤の含有量は、上記水性中塗り塗料の樹脂固形分(水性中塗り塗料に含まれる全ての樹脂の固形分)100重量部に対して、下限0.01重量部、上限20重量部であることが好ましく、下限0.1重量部、上限10重量部であることがより好ましい。0.01重量部未満であると、増粘効果が得られず、塗装時のタレが発生するおそれがあり、20重量部を超えると、外観及び得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
【0070】
これら成分を加える順番は、エマルジョンに硬化剤を加える前でもよいし、後でも良い。水性中塗り塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルジョン等の形態であればよい。
【0071】
水性ベース塗料
本発明の方法で用いる水性ベース塗料は自動車車体用水性中塗り塗料として通常使用される塗料組成物であればよい。例えば、水性媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、硬化剤、光輝性顔料、着色顔料や体質顔料等の顔料、各種添加剤等を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂及びエポキシ樹脂等を使用することができる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とメラミン樹脂との組み合わせが好ましい。硬化剤、顔料、各種添加剤も、通常用いられるものを使用することができる。
【0072】
水性ベース塗料中に含まれる顔料濃度(PWC)は、一般的には、下限0.1重量%、上限50重量%であり、より好ましくは、下限0.5重量%、上限40重量%であり、更に好ましくは、下限1重量%、上限30重量%である。上記顔料濃度が0.1重量%未満であると、顔料による効果が得られず、50重量%を超えると、得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。
【0073】
水性ベース塗料は、中塗り塗料と同様の方法によって調製することができる。また、水性ベース塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルジョン等の形態であればよい。
【0074】
クリヤー塗料
本発明の方法で用いるクリヤー塗料は自動車車体用クリヤー塗料として通常使用される塗料組成物であればよい。例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成性樹脂、硬化剤及びその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらはアミノ樹脂及び/又はイソシアネート樹脂等の硬化剤と組み合わせて用いると良い。透明性又は耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂及び/若しくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、又は、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/若しくはポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0075】
クリヤー塗料の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルジョン)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含有させても良い。
【0076】
複層塗膜の形成方法
本発明の複層塗膜の形成方法では、まず、電着塗膜が形成された被塗物を提供する。電着塗膜は被塗物に対して電着塗料を塗装し、焼き付け硬化して形成する。被塗物は、電着塗装可能な金属製品であれば特に制限されない。例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛及びこれらの金属を含む合金、並びに、これらの金属によるメッキ又は蒸着製品等を挙げることができる。
【0077】
電着塗料は、特に限定されるものではなく公知のカチオン電着塗料やアニオン電着塗料を使用することができる。但し、防食性に優れるカチオン電着塗料を用いることが好ましい。また、電着塗装及び焼き付けは、自動車車体を電着塗装するのに通常用いられる方法及び条件で行なえばよい。
【0078】
次いで、電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する。水性中塗り塗料は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」等と言われる回転霧化式の静電塗装機等を用いてスプレーして塗布することができる。
【0079】
塗布量は、硬化後の塗膜の膜厚が10〜40μm、好ましくは15〜30μmになるように調節する。膜厚が10μm未満であると得られる塗膜の外観及び耐チッピング性が低下するおそれがあり、40μmを越えると塗装時のタレや焼付け硬化時のピンホール等の不具合が起こることがある。
【0080】
この中塗り塗膜は、水性ベース塗料を塗布する前に、加熱または送風することによって乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、一般に、温度40〜100℃、及び時間30秒〜10分とする。
【0081】
ついで、中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料、及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成する。ここで、ウェットオンウェット塗布とは、複数の塗膜を硬化させることなく塗り重ねることをいう。
【0082】
水性ベース塗料は、通常、塗膜の硬化後の膜厚が10〜30μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が10μm未満である場合、下地の隠蔽が不充分になったり、色ムラが発生するおそれがあり、また、30μmを超える場合、塗装時にタレや、加熱硬化時にピンホールが発生したりするおそれがある。
【0083】
水性ベース塗膜は、中塗塗膜同様、クリヤー塗料を塗布する前に加熱または送風することによって乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、一般に、温度40〜100℃、及び時間30秒〜10分とする。クリヤー塗料は、通常、塗膜の乾燥硬化後の膜厚が10〜70μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が10μm未満であると複層塗膜のつや感などの外観が低下し、70μmを越えると鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、流れ等の不具合が起こったりする。
【0084】
次いで、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる。焼き付けは、通常110〜180℃、好ましくは120〜160℃の温度に加熱して行われる。これにより、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。加熱温度が110℃未満であると、硬化が不充分になる傾向があり、180℃を超えると、得られる塗膜が固く脆くなるおそれがある。加熱する時間は、上記温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、温度が120〜160℃である場合、10〜60分間である。
【0085】
【実施例】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「重量部」を意味する。
【0086】
実施例1
(A)水性中塗り塗料の製造
(顔料分散ペーストの調製)
有機物処理二酸化チタン顔料(石原産業社製「タイペークCR−90−2」)72.1部、市販分散剤(ビックケミー社製「Disperbyk190」)4.5部、脱イオン水23.4部を予備混合後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下になるまで混合分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0087】
(アクリル樹脂エマルジョンの調製)
反応容器に脱イオン水35.75部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。次いでα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物として、スチレン10部、メタクリル酸メチル24.02部、アクリル酸ブチル28.94部、アクリル酸エチル20.11部、アクリル酸−4−ヒドロキシブチル15.40部、メタクリル酸1.53部、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル(第一工業製薬社製「アクアロンHS−10」)3.0部、乳化剤(旭電化社製「アデカリアソープNE−20」)0.5部、及び脱イオン水50部からなるモノマー乳化物と、過流酸アンモニウム0.30部、及び脱イオン水15.0部からなる開始剤溶液とを2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了、後同温度で2時間熟成を行った。次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターでろ過し、粒径200nm、不揮発分50%、酸価10、水酸基価60、重量平均分子量200000のアクリル樹脂エマルジョンを得た。
【0088】
得られたアクリル樹脂エマルジョンは、30%ジメチルアミノエタノール水溶液を用いてpHを7.2に調整した。
【0089】
(水性中塗り塗料の調製)
上述のようにして得られた顔料分散ペースト55.5部、アクリル樹脂エマルジョン96部、及び硬化剤としてメラミン樹脂(三井サイテック社製「サイメル327」)13.3部を混合した後、ウレタン会合型増粘剤(旭電化工業社製「アデカノールUH−814N」、有効成分30%)1.0部を混合攪拌し、水性中塗り塗料を得た。
【0090】
(B)塗膜の形成
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス110(日本ペイント社製カチオン電着塗料、商品名)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、鋼板基板を準備した。
【0091】
得られた基板に、上記水性中塗り塗料をエアースプレー塗装にて20μm塗装し、80℃で5分プレヒートを行った後、アクアレックスAR−2000シルバーメタリック(日本ペイント社製水性メタリックベース塗料、商品名)をエアースプレー塗装にて10μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板にクリヤー塗料として、マックフロー O−1800W−2クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料、商品名)をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、試験片を得た。
【0092】
以下の様にして、加熱硬化後に得られた複層塗膜の性能評価を行った。結果を表3に示す。
【0093】
外観(ウエーブスキャン(SW)値)
得られた複層塗膜をビックケミー社製「ウエーブスキャン」を用いて、SW値を測定することにより、仕上り外観を評価した。尚、SW値は主に艶感及び微小な肌を評価する指標であり低いほど良好であることを示す。
【0094】
耐チッピング性
得られた複層塗膜をグラベロテスター試験機(スガ試験機社製)を用いて、7号砕石100gを30cmの距離から空気圧3kgf/cm2で塗膜に45°の角度で衝突させた後、ニチバン社製工業用ガムテープを用いて剥離テストを行い、塗膜のはがれ程度を以下の基準により目視で評価した。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例2〜4及び比較例1及び2
使用する顔料の種類を表2及び表3に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして複層塗膜を形成し、評価した。結果を表3に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【発明の効果】
本発明の塗膜形成方法によれば、中塗り塗膜の物性が向上し、複層塗膜の耐チッピング性が改善される。
【発明の属する技術分野】
本発明は複層塗膜の形成方法に関し、特に3コート1ベーク法を用いて自動車車体に水性中塗り塗膜及び上塗り塗膜を形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車車体の塗装は、基本的には電着塗膜、中塗り塗膜、及びベース塗膜とクリヤー塗膜とから成る上塗り塗膜を被塗物である鋼板の上に順次積層して行われる。従来、これらの塗膜は、それぞれ塗膜の機能に応じて組成が調整された塗料組成物を塗布し、中塗り塗膜の形成後とクリヤートップ塗膜形成後の双方において焼き付け硬化工程が行われてきた。
【0003】
しかし、作業効率を上げ、特に近年要請が強い省エネルギーを実現するために、中塗り塗膜の形成後における焼付け硬化工程を省略し、従来の2回の焼付け硬化工程を1回とする複層塗膜形成方法が次第に望まれるようになってきた。つまり、電着塗膜以外の中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜をウェットオンウェットで塗り重ね、3層を焼き付け硬化させる3コート1ベーク複層塗膜形成方法である。このように、中塗り塗膜の形成後における焼付け硬化工程を省略することにより、大きな省エネルギーが得られると共に塗装工程時間が短縮され、コストダウン効果が得られる。その反面、焼き付け回数の減少によって中塗り塗膜の物性低下を招かないよう、中塗り塗料にはより良い硬化性が要求される。
【0004】
他方では、近年、地球環境問題や省資源の観点から、塗料中に使用されている有機溶剤の一部もしくは全量を水に置き換えた環境対応型の水系塗料が、自動車塗料等の工業塗装用塗料や建築・建材塗料分野で広く応用されるようになってきた。しかしながら、従来の水系塗料は、塗膜の機械的性質、耐溶剤性、耐水性に劣っていた。
【0005】
特に、従来の水系塗料を3コート1ベーク複層塗膜形成方法に応用した場合、塗膜の耐チッピング性が弱く、下塗り塗装である電着塗膜との界面や上塗り塗装であるベースコートとの界面での剥離が生じたり、耐溶剤性が弱く塗膜の安定性が不適であったり、塗膜の耐水性と耐久性が劣るという問題があった。
【0006】
特開平4−284881号公報(特許文献1)には、被塗物の上に電着塗膜を形成した後に、水性下塗り塗料、水性上塗り塗料及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで塗り重ね、3層の塗膜を同時に硬化させる、3コート1ベーク複層塗膜形成方法が記載されている。しかしながら、ここでは電着塗膜の上に、従来の逐次焼き付け用水性塗料を3層塗り重ねている。かかる方法では、内部に積層された塗膜は硬化が不十分となり、塗膜の物性は低下してしまう。
【0007】
特開2001−170559号公報(特許文献2)には、被塗物の上に電着塗膜及び中塗り塗膜を形成した後に、ベース塗料、光輝材含有ベース塗料及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで塗り重ね、3層を焼き付け硬化させる3コート1ベーク複層塗膜形成方法が記載されている。しかしながら、この方法では、中塗り塗膜はベース塗料等を塗り重ねる前に一旦焼き付け硬化されており、省エネルギーや作業の効率化が十分でない。
【0008】
また、特開2001−205175号公報(特許文献3)には、被塗物の上に電着塗膜を形成した後に、水性中塗り塗料、水性メタリックベース塗料及びクリヤー塗料を塗り重ね、3層の塗膜を同時に硬化させる3コート1ベーク複層塗膜形成方法が記載されている。ここでは、水性中塗り塗料にアミド基含有エチレン性不飽和モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとを乳化重合して得られるアミド基含有アクリル樹脂粒子の水分散体を含有させて、塗膜層の界面でのなじみや反転を制御し、複層塗膜の外観が向上されている。しかしながら、この水性中塗り塗料は、自己架橋性と反応硬化性の両機能の兼備という点については不十分であり、複層塗膜の耐チッピング性の改善は不十分である。
【0009】
【特許文献1】
特開平4−284881号公報
【特許文献2】
特開2001−170559号公報
【特許文献3】
特開2001−205175号公報
【0010】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、被塗物の上に電着塗膜を形成した後に、水性下塗り塗料、水性上塗り塗料及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで塗り重ね、3層の塗膜を同時に硬化させる、3コート1ベーク複層塗膜形成方法において、中塗り塗膜の物性を向上させて複層塗膜の耐チッピング性を改善することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)電着塗膜が形成された被塗物を提供する工程;(2)電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する工程;(3)中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料、及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成する工程;(4)中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程;を含む複層塗膜形成方法において、
該水性中塗り塗料が、ガラス転移温度−50〜20℃、酸価2〜60mgKOH/g及び水酸基価10〜120mgKOH/gを有するアクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及びシリカまたはアルミナで被覆した後に、ポリオール化合物、アミン系化合物、及びカルボン酸系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機物で被覆した有機物処理二酸化チタン顔料を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0012】
【発明の実施の形態】
水性中塗り塗料
本発明の方法で用いる水性中塗り塗料は、水性媒体中に分散または溶解された状態で、アクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及び有機物処理二酸化チタン顔料を含有する。
【0013】
アクリル樹脂エマルジョンは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)、及び水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。尚、モノマー混合物の成分として以下に例示される化合物は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用してよい。
【0014】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)はアクリル樹脂エマルジョンの主骨格を構成するために使用する。
【0015】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(a)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0016】
酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)は、得られるアクリル樹脂エマルジョンの保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性を向上させ、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応を促進するために使用する。酸基は、カルボキシル基、スルホン酸基及びリン酸基等から選ばれることが好ましい。特に好ましい酸基は上記諸安定性向上や硬化反応促進機能の観点から、カルボキシル基である。
【0017】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。スルホン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、p−ビニルベンゼンスルホン酸、p−アクリルアミドプロパンスルホン酸、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸等が挙げられる。リン酸基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレートのリン酸モノエステル、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのリン酸モノエステル等のライトエステルPM(共栄社化学製)等が挙げられる。
【0018】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)は、水酸基に基づく親水性をアクリル樹脂エマルジョンに付与し、これを塗料として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性を増すと共に、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性を付与するために使用する。
【0019】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(c)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、ε−カプロラクトン変性アクリルモノマー等が挙げられる。
【0020】
ε−カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業(株)製の「プラクセルFA−1」、「プラクセルFA−2」、「プラクセルFA−3」、「プラクセルFA−4」、「プラクセルFA−5」、「プラクセルFM−1」、「プラクセルFM−2」、「プラクセルFM−3」、「プラクセルFM−4」及び「プラクセルFM−5」等が挙げられる。
【0021】
モノマー混合物は、任意成分として、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでよい。スチレン系モノマーとしては、スチレンのほかにα−メチルスチレン等が挙げられる。
【0022】
また、モノマー混合物は、カルボニル基含有エチレン性不飽和モノマー、加水分解重合性シリル基含有モノマー、種々の多官能ビニルモノマー等の架橋性モノマーを含んでよい。その場合、得られるアクリル樹脂エマルジョンは自己架橋性となる。
【0023】
カルボニル基含有モノマーとしては、例えば、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ホルミルスチロール、4〜7個の炭素原子を有するアルキルビニルケトン(例えばメチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン)等のケト基を含有するモノマーが挙げられる。これらのうちジアセトン(メタ)アクリルアミドが好適である。このようなカルボニル基含有モノマーを用いる場合には、アクリル樹脂エマルジョン中に架橋助剤としてヒドラジン系化合物を添加して、塗膜形成時に架橋構造が形成されるようにする。
【0024】
ヒドラジン系化合物としては、例えば、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等の2〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸ジヒドラジド;フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ピロメリット酸のジヒドラジド、トリヒドラジド又はテトラヒドラジド;ニトリロトリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド、カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジン又はヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラード)と反応させて得られるポリヒドラジド;炭酸ジヒドラジド、ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート又はそれより誘導されるポリイソシアネート化合物にヒドラジン化合物や上記例示のジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド等が挙げられる。
【0025】
加水分解重合性シリル基含有モノマーとしては、例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基を含有するモノマーが挙げられる。
【0026】
多官能ビニル系モノマーは、分子内に2つ以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物であり、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート等のジビニル化合物が挙げられ、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等も挙げられる。
【0027】
乳化共重合は、上記モノマー混合物を水性液中で、ラジカル重合開始剤及び乳化剤の存在下で、攪拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30〜100℃程度として、反応時間は例えば1〜10時間程度が好ましく、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物又はモノマープレ乳化液の一括添加又は暫時滴下によって反応温度の調節を行うとよい。
【0028】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が水溶液の形で使用される。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸などの還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が水溶液の形で使用される。
【0029】
乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系の乳化剤が用いられる。このうちアニオン乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。またこれら一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども適宜、単独又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0030】
また乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコールなどの分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)の併用は、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させる観点から、好ましい場合も多く、適宜状況に応じて行われる。
【0031】
また乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法や、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法もとることができる。
【0032】
このようにして本発明で用いられるアクリル樹脂エマルジョンが調製される。得られたアクリル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に5万〜100万程度であり、例えば10万〜80万程度である。
【0033】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は−50℃〜20℃、好ましくは−40℃〜10℃、さらに好ましくは−30℃〜0℃の範囲とする。この範囲の樹脂のTgとすることにより、アクリル樹脂エマルジョンを含む水性中塗り塗料をウェットオンウェット方式において用いた場合に、下塗り塗料及び上塗り塗料との親和性や密着性が良好となり、ウェット状態の上側塗膜との界面でのなじみが良く反転が起こらない。また、最終的に得られる塗膜の適度な柔軟性が得られ、耐チッピング性が高められる。これらの結果、非常に高外観を有する複層塗膜が形成できる。樹脂のTgが−50℃未満では塗膜の機械的強度が不足し、耐チッピング性が弱い。一方、樹脂のTgが20℃を超えると、塗膜が硬くて脆くなるため、耐衝撃性に欠け、耐チッピング性が弱くなる。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂のTgが上記範囲となるように選択する。
【0034】
アクリル樹脂の酸価は2〜60mgKOH/g、好ましくは5〜50mgKOH/gの範囲とする。この範囲の樹脂の酸価とすることにより、樹脂エマルジョンやそれを用いた水性中塗り塗料の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性が向上し、また、塗膜形成時におけるメラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が向上する。樹脂の酸価が2mgKOH/g未満では、上記諸安定性が劣り、また、メラミン樹脂等の硬化剤との硬化反応が十分行われず、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が劣る。一方、樹脂の酸価が60mgKOH/gを超えると、樹脂の重合安定性が悪くなったり、上記諸安定性が逆に悪くなったり、得られた塗膜の耐水性が劣るものとなる。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の酸価が上記範囲となるように選択する。前述したように、酸基含有エチレン性不飽和モノマー(b)の内でもカルボキシル基含有モノマーを用いることが重要であり、モノマー(b)の内、カルボキシル基含有モノマーが好ましくは50重量%以上、より好ましくは80重量%以上含まれる。
【0035】
アクリル樹脂の水酸基価は10〜120mgKOH/g、好ましくは20〜100mgKOH/gの範囲とする。この範囲の樹脂の水酸基価とすることにより、樹脂が適度な親水性を有し、樹脂エマルジョンを含む塗料組成物として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性が増すと共に、メラミン樹脂やイソシアネート系硬化剤との硬化反応性も十分である。水酸基価が10mgKOH/g未満では、前記硬化剤との硬化反応が不十分で、塗膜の機械的性質が弱く、耐チッピング性に欠け、耐水性及び耐溶剤性にも劣る。一方、水酸基価が120mgKOH/gを超えると、逆に得られた塗膜の耐水性が低下したり、前記硬化剤との相溶性が悪く、塗膜にひずみが生じ硬化反応が不均一に起こり、その結果、塗膜の諸強度、特に耐チッピング性、耐溶剤性及び耐水性が劣る。前記各モノマー成分の種類や配合量を、樹脂の水酸基価が上記範囲となるように選択する。
【0036】
得られたアクリル樹脂エマルジョンに対し、カルボン酸の一部又は全量を中和してアクリル樹脂エマルジョンの安定性を保つため、塩基性化合物が添加される。これら塩基性化合物としては、通常アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属などが用いられ、本発明においても適宜使用される。
【0037】
硬化剤は、エマルジョンとして含まれるアクリル樹脂やウレタン樹脂と硬化反応を生じ、水性中塗り塗料中に配合することができるものであれば特に限定されず、例えば、メラミン樹脂、イソシアネート樹脂、オキサゾリン系化合物あるいはカルボジイミド系化合物等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされ使用される。
【0038】
メラミン樹脂としては特に限定されず、硬化剤として通常用いられるものを使用することができる。例えば、アルキルエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂が好ましく、メトキシ基及び/又はブトキシ基で置換されたメラミン樹脂がより好ましい。このようなメラミン樹脂としては、メトキシ基を単独で有するものとして、サイメル325、サイメル327、サイメル370、マイコート723;メトキシ基とブトキシ基との両方を有するものとして、サイメル202、サイメル204、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル254、サイメル266、サイメル267(何れも商品名、三井サイテック社製);ブトキシ基を単独で有するものとして、マイコート506(商品名、三井サイテック社製)、ユーバン20N60、ユーバン20SE(何れも商品名、三井化学社製)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、サイメル325、サイメル327、マイコート723がより好ましい。
【0039】
イソシアネート樹脂は、ジイソシアネート化合物を適当なブロック剤でブロックしたものである。上記ジイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等の脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族−脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート類;ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水素化されたTDI(HTDI)、水素化されたXDI(H6XDI)、水素化されたMDI(H12MDI)等の水素添加ジイソシアネート類、及び以上のジイソシアネート類のアダクト体及びヌレート体等を挙げることができる。さらに、これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0040】
ジイソシアネート化合物をブロックするブロック剤としては、特に限定されず、例えば、メチルエチルケトオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;m−クレゾール、キシレノール等のフェノール類;ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;ε−カプロラクタム等のラクタム類;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステル等のジケトン類;チオフェノール等のメルカプタン類;チオ尿酸等の尿素類;イミダゾール類;カルバミン酸類等を挙げることができる。なかでも、オキシム類、フェノール類、アルコール類、ラクタム類、ジケトン類が好ましい。
【0041】
オキサゾリン系化合物は、2個以上の2−オキサゾリン基を有する化合物であることが好ましく、例えば、下記のオキサゾリン類やオキサゾリン基含有重合体等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。オキサゾリン系化合物は、アミドアルコールを触媒の存在下で加熱して脱水環化する方法、アルカノールアミンとニトリルとから合成する方法、或いはアルカノールアミンとカルボン酸とから合成する方法等を用いることによって得られる。
【0042】
オキサゾリン類としては、例えば、2,2’−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−メチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−トリメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−テトラメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2、2’−ヘキサメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−オクタメチレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−エチレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2’−p−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、2,2’−m−フェニレン−ビス−(4,4’−ジメチル−2−オキサゾリン)、ビス−(2−オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス−(2−オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0043】
オキサゾリン基含有重合体は、付加重合性オキサゾリン及び必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を重合したものである。付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上が適宜組み合わされて使用される。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0044】
付加重合性オキサゾリンの使用量は特に限定されるものではないが、オキサゾリン基含有重合体中、1重量%以上であることが好ましい。1重量%未満の量では硬化の程度が不充分となる傾向にあり、耐久性、耐水性等が損なわれる傾向にある。
【0045】
他の重合性単量体としては、付加重合性オキサゾリンと共重合可能で、かつ、オキサゾリン基と反応しない単量体であれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化α,β−不飽和単量体類;スチレン、α−メチルスチレン等のα,β−不飽和芳香族単量体類等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0046】
オキサゾリン基含有重合体は付加重合性オキサゾリン及び必要に応じて少なくとも1種の他の重合性単量体を、従来公知の重合法、例えば懸濁重合、溶液重合、乳化重合等により製造できる。上記オキサゾリン基含有化合物の供給形態は、有機溶剤溶液、水溶液、非水ディスパーション、エマルジョン等が挙げられるが、特にこれらの形態に限定されない。
【0047】
カルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができるが、基本的には有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応によりイソシアネート末端ポリカルボジイミドを合成して得られたものを挙げることができる。より具体的には、ポリカルボジイミド化合物の製造において、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するポリカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、上記ポリカルボジイミド化合物のイソシアネート基のモル量が上記ポリオールの水酸基のモル量を上回る比率で反応させる工程と、上記工程で得られた反応生成物に、活性水素及び親水性部分を有する親水化剤を反応させる工程とにより得られた親水化変性カルボジイミド化合物が好ましいものとして挙げることができる。
【0048】
1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するカルボジイミド化合物としては、特に限定されないが、反応性の観点から、両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物であることが好ましい。両末端にイソシアネート基を有するカルボジイミド化合物の製造方法は当業者によってよく知られており、例えば、有機ジイソシアネートの脱二酸化炭素を伴う縮合反応を利用することができる。
【0049】
顔料分散ペーストは、顔料と顔料分散剤とを少量の水性媒体に予め分散して得られる。顔料分散剤の固形分中には、揮発性の塩基性物質が全く含まれていないか、又は3重量%以下の割合で含まれている。本発明で用いる水性中塗り塗料においては、このような顔料分散剤を用いることによって、水性中塗り塗料から形成される塗膜中の揮発性塩基性物質の量が少なくなり、得られる複層塗膜の黄変を抑えることができる。従って、顔料分散剤の固形分中に揮発性の塩基性物質が3重量%を超えて含まれていると、得られる複層塗膜が黄変し、仕上がり外観が悪くなる傾向にあるため好ましくない。
【0050】
揮発性の塩基性物質とは、沸点が300℃以下の塩基性物質を意味するものであり、無機及び有機の窒素含有塩基性物質を挙げることができる。無機の塩基性物質としては、例えば、アンモニア等が挙げられる。有機の塩基性物質としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジメチルドデシルアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基含有1〜3級アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状ヒドロキシアルキル基含有1〜3級アミン;ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基及び炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状のヒドロキシアルキル基を含有する1〜3級アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の炭素数1〜20の置換又は非置換鎖状ポリアミン;モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状モノアミン;ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N,N−ジメチルピペラジン等の炭素数1〜20の置換又は非置換環状ポリアミン等のアミン類を挙げることができる。
【0051】
本発明で用いる水性中塗り塗料には、上記顔料分散剤以外の成分にも、揮発性の塩基性物質が含まれる場合がある。従って、上記顔料分散剤に含まれる揮発性の塩基性物重量は、より少なく抑える程、より好ましい。すなわち、揮発性の塩基性物質を実質的に含まない顔料分散剤を用いて分散することが好ましい。また、従来一般的に使用されているアミン中和型の顔料分散樹脂を使用しないことが更に好ましい。そして、複層塗膜形成時に、単位面積1mm2あたりの揮発性の塩基性物質が7×10−6mmol以下になるように顔料分散剤を用いることが好ましい。
【0052】
顔料分散剤は、顔料親和部分及び親水性部分を含む構造を有する樹脂である。顔料親和部分及び親水性部分としては、例えば、ノニオン性、カチオン性及びアニオン性の官能基を挙げることができる。顔料分散剤は、1分子中に上記官能基を2種類以上有していてもよい。
【0053】
ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アミド基、ポリオキシアルキレン基等が挙げられる。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ヒドラジノ基等が挙げられる。また、アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。このような顔料分散剤は、当業者にとってよく知られた方法によって製造することができる。
【0054】
顔料分散剤としては、その固形分中に揮発性の塩基性物質を含まないか、又は3重量%以下の含有量であるものであれば特に限定されないが、少量の顔料分散剤によって効率的に顔料を分散することができるものが好ましい。例えば、市販されているもの(以下いずれも商品名)を使用することもでき、具体的には、ビックケミー社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるDisperbyk 190、Disperbyk 181、Disperbyk 182(高分子共重合物)、Disperbyk 184(高分子共重合物)、EFKA社製のアニオン・ノニオン系分散剤であるEFKAPOLYMER4550、アビシア社製のノニオン系分散剤であるソルスパース27000、アニオン系分散剤であるソルスパース41000、ソルスパース53095等を挙げることができる。
【0055】
顔料顔料分散剤の数平均分子量は、下限1000、上限10万であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではない場合があり、10万を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。より好ましくは、下限2000、上限5万であり、更に好ましくは、下限4000、上限5万である。
【0056】
前記顔料分散ペーストは、顔料分散剤と顔料とを公知の方法に従って混合分散することにより得られる。顔料分散ペースト製造時の顔料分散剤の割合は、顔料分散ペーストの固形分に対して、下限1重量%、上限20重量%であることが好ましい。1重量%未満であると、顔料を安定に分散しにくく、20重量%を超えると、塗膜の物性に劣る場合がある。好ましくは、下限5重量%、上限15重量%である。
【0057】
顔料としては、有機物処理二酸化チタンを使用する。有機物処理二酸化チタンとは、通常塗料の顔料として用いられる粉体状の二酸化チタンをシリカまたはアルミナで被覆した後に、ポリオール化合物、アミン系化合物、及びカルボン酸系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機物で更に被覆した二酸化チタンをいう。このような二酸化チタンの製造方法は、例えば、特開平10−110115号公報に記載されている。
【0058】
すなわち、二酸化チタン顔料の水性スラリーのpHを1〜4に保持しながらケイ酸塩及び/又はアルミン酸塩と酸を添加し、その後アルカリを添加して多孔質シリカ及び/又は多孔質アルミナを被覆する。被覆された二酸化チタンを、ポリオール化合物、アミン系化合物、及びカルボン酸系化合物等の有機物単独もしくは複数で被覆処理すればよい。
【0059】
有機物の具体例には、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールやトリエタノールアミンなどのアルカノールアミンまたはその誘導体またはそれらの混合物やシロキサン、シランカップリング剤などの有機シリコン系化合物、ステアリン酸などの高級脂肪酸などが挙げられる。このような有機物処理二酸化チタンは市販されており、石原産業株式会社製、タイペーク(商品名)CR−90−2、同CR−95、同CR−953、同CR−63等がこれに該当する。
【0060】
二酸化チタン以外の顔料としては、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料等の有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック等の無機着色顔料等が挙げられる。これら顔料に、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等の体質顔料を併用しても良い。
【0061】
また顔料として、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料とした標準的なグレーの塗料を用いることもできる。他にも、上塗り塗料と明度又は色相等を合わせた塗料や各種の着色顔料を組み合わせた塗料を用いることもできる。
【0062】
増粘剤としては特に限定されないが、例えば、ビスコース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、市販されているものとしては、チローゼMH及びチローゼH(いずれもヘキスト社製、商品名)等のセルロース系のもの;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、市販されているもの(以下いずれも商品名)としては、プライマルASE−60、プライマルTT−615、プライマルRM−5(いずれもローム&ハース社製)、ユーカーポリフォーブ(ユニオンカーバイト社製)等のアルカリ増粘型のもの;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、市販されているもの(以下いずれも商品名)としては、アデカノールUH−420、アデカノールUH−462、アデカノールUH−472、UH−540、アデカノールUH−814N(旭電化工業社製)、プライマルRH−1020(ローム&ハース社製)、クラレポバール(クラレ社製)等の会合型のものを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
増粘剤を含有することにより、水性中塗り塗料の粘度を高くすることができ、水性中塗り塗料を塗装する際に、タレが発生することを抑制することができる。また、中塗り塗膜とベース塗膜との間での混層をより抑制することができる。その結果、増粘剤を含まない場合に比べて、塗装時の塗装作業性が向上し、得られる塗膜の仕上がり外観を優れたものとすることができる。
【0064】
その他の添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;消泡剤;表面調整剤;ピンホール防止剤等が挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0065】
本発明で使用する水性中塗り塗料は、上述のアクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及び顔料分散ペースト等を混合して調製される。
【0066】
硬化剤は、硬化剤、アクリル樹脂エマルジョンの固形分に対して下限2重量%、上限50重量%、好ましくは下限4重量%、上限40重量%、より好ましくは下限5重量%、上限30重量%となるように使用する。2重量%より少ないと、得られる塗膜の耐水性が低下する傾向がある。また、50重量%を超えると、得られる塗膜のチッピング性が低下する傾向がある。
【0067】
追加の樹脂成分、顔料分散ペーストやその他の添加剤は、適量混合すれば良い。但し、追加の樹脂成分は、水性中塗り塗料用組成物中に含まれる全ての樹脂の固形分を基準として、50重量%以下の割合で配合することが好ましい。50重量%を越えて配合した場合は、塗料中の固形分濃度を高くすることが困難になるため、好ましくない。
【0068】
また、有機物処理二酸化チタン顔料は、水性中塗り塗料中に含まれる全ての樹脂の固形分及び顔料の合計重量に対する顔料濃度(PWC;pigment weight content)が、10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%となる量で中塗り塗料に含有される。有機物処理二酸化チタン顔料のPWCが10重量%未満であると顔料が果たすべき隠蔽性が不十分になる。また、このPWCが60重量%を越えると硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が低下することがある。
【0069】
増粘剤の含有量は、上記水性中塗り塗料の樹脂固形分(水性中塗り塗料に含まれる全ての樹脂の固形分)100重量部に対して、下限0.01重量部、上限20重量部であることが好ましく、下限0.1重量部、上限10重量部であることがより好ましい。0.01重量部未満であると、増粘効果が得られず、塗装時のタレが発生するおそれがあり、20重量部を超えると、外観及び得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
【0070】
これら成分を加える順番は、エマルジョンに硬化剤を加える前でもよいし、後でも良い。水性中塗り塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルジョン等の形態であればよい。
【0071】
水性ベース塗料
本発明の方法で用いる水性ベース塗料は自動車車体用水性中塗り塗料として通常使用される塗料組成物であればよい。例えば、水性媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、硬化剤、光輝性顔料、着色顔料や体質顔料等の顔料、各種添加剤等を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、カーボネート樹脂及びエポキシ樹脂等を使用することができる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂とメラミン樹脂との組み合わせが好ましい。硬化剤、顔料、各種添加剤も、通常用いられるものを使用することができる。
【0072】
水性ベース塗料中に含まれる顔料濃度(PWC)は、一般的には、下限0.1重量%、上限50重量%であり、より好ましくは、下限0.5重量%、上限40重量%であり、更に好ましくは、下限1重量%、上限30重量%である。上記顔料濃度が0.1重量%未満であると、顔料による効果が得られず、50重量%を超えると、得られる塗膜の外観が低下するおそれがある。
【0073】
水性ベース塗料は、中塗り塗料と同様の方法によって調製することができる。また、水性ベース塗料は、水性であれば形態は特に限定されず、例えば、水溶性、水分散型、水性エマルジョン等の形態であればよい。
【0074】
クリヤー塗料
本発明の方法で用いるクリヤー塗料は自動車車体用クリヤー塗料として通常使用される塗料組成物であればよい。例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成性樹脂、硬化剤及びその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらはアミノ樹脂及び/又はイソシアネート樹脂等の硬化剤と組み合わせて用いると良い。透明性又は耐酸エッチング性等の点から、アクリル樹脂及び/若しくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、又は、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂及び/若しくはポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0075】
クリヤー塗料の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルジョン)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含有させても良い。
【0076】
複層塗膜の形成方法
本発明の複層塗膜の形成方法では、まず、電着塗膜が形成された被塗物を提供する。電着塗膜は被塗物に対して電着塗料を塗装し、焼き付け硬化して形成する。被塗物は、電着塗装可能な金属製品であれば特に制限されない。例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛及びこれらの金属を含む合金、並びに、これらの金属によるメッキ又は蒸着製品等を挙げることができる。
【0077】
電着塗料は、特に限定されるものではなく公知のカチオン電着塗料やアニオン電着塗料を使用することができる。但し、防食性に優れるカチオン電着塗料を用いることが好ましい。また、電着塗装及び焼き付けは、自動車車体を電着塗装するのに通常用いられる方法及び条件で行なえばよい。
【0078】
次いで、電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する。水性中塗り塗料は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」等と言われる回転霧化式の静電塗装機等を用いてスプレーして塗布することができる。
【0079】
塗布量は、硬化後の塗膜の膜厚が10〜40μm、好ましくは15〜30μmになるように調節する。膜厚が10μm未満であると得られる塗膜の外観及び耐チッピング性が低下するおそれがあり、40μmを越えると塗装時のタレや焼付け硬化時のピンホール等の不具合が起こることがある。
【0080】
この中塗り塗膜は、水性ベース塗料を塗布する前に、加熱または送風することによって乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、一般に、温度40〜100℃、及び時間30秒〜10分とする。
【0081】
ついで、中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料、及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成する。ここで、ウェットオンウェット塗布とは、複数の塗膜を硬化させることなく塗り重ねることをいう。
【0082】
水性ベース塗料は、通常、塗膜の硬化後の膜厚が10〜30μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が10μm未満である場合、下地の隠蔽が不充分になったり、色ムラが発生するおそれがあり、また、30μmを超える場合、塗装時にタレや、加熱硬化時にピンホールが発生したりするおそれがある。
【0083】
水性ベース塗膜は、中塗塗膜同様、クリヤー塗料を塗布する前に加熱または送風することによって乾燥させることが好ましい。乾燥条件は、一般に、温度40〜100℃、及び時間30秒〜10分とする。クリヤー塗料は、通常、塗膜の乾燥硬化後の膜厚が10〜70μmとなるように塗布量が調節される。硬化後の膜厚が10μm未満であると複層塗膜のつや感などの外観が低下し、70μmを越えると鮮映性が低下したり、塗装時にムラ、流れ等の不具合が起こったりする。
【0084】
次いで、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる。焼き付けは、通常110〜180℃、好ましくは120〜160℃の温度に加熱して行われる。これにより、高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。加熱温度が110℃未満であると、硬化が不充分になる傾向があり、180℃を超えると、得られる塗膜が固く脆くなるおそれがある。加熱する時間は、上記温度に応じて適宜設定することができるが、例えば、温度が120〜160℃である場合、10〜60分間である。
【0085】
【実施例】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「重量部」を意味する。
【0086】
実施例1
(A)水性中塗り塗料の製造
(顔料分散ペーストの調製)
有機物処理二酸化チタン顔料(石原産業社製「タイペークCR−90−2」)72.1部、市販分散剤(ビックケミー社製「Disperbyk190」)4.5部、脱イオン水23.4部を予備混合後、ペイントコンディショナー中でガラスビーズ媒体を加え、室温で粒度5μm以下になるまで混合分散し、顔料分散ペーストを得た。
【0087】
(アクリル樹脂エマルジョンの調製)
反応容器に脱イオン水35.75部を加え、窒素気流中で混合攪拌しながら80℃に昇温した。次いでα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物として、スチレン10部、メタクリル酸メチル24.02部、アクリル酸ブチル28.94部、アクリル酸エチル20.11部、アクリル酸−4−ヒドロキシブチル15.40部、メタクリル酸1.53部、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル(第一工業製薬社製「アクアロンHS−10」)3.0部、乳化剤(旭電化社製「アデカリアソープNE−20」)0.5部、及び脱イオン水50部からなるモノマー乳化物と、過流酸アンモニウム0.30部、及び脱イオン水15.0部からなる開始剤溶液とを2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了、後同温度で2時間熟成を行った。次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターでろ過し、粒径200nm、不揮発分50%、酸価10、水酸基価60、重量平均分子量200000のアクリル樹脂エマルジョンを得た。
【0088】
得られたアクリル樹脂エマルジョンは、30%ジメチルアミノエタノール水溶液を用いてpHを7.2に調整した。
【0089】
(水性中塗り塗料の調製)
上述のようにして得られた顔料分散ペースト55.5部、アクリル樹脂エマルジョン96部、及び硬化剤としてメラミン樹脂(三井サイテック社製「サイメル327」)13.3部を混合した後、ウレタン会合型増粘剤(旭電化工業社製「アデカノールUH−814N」、有効成分30%)1.0部を混合攪拌し、水性中塗り塗料を得た。
【0090】
(B)塗膜の形成
リン酸亜鉛処理したダル鋼板に、パワーニクス110(日本ペイント社製カチオン電着塗料、商品名)を、乾燥塗膜が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間の加熱硬化後冷却して、鋼板基板を準備した。
【0091】
得られた基板に、上記水性中塗り塗料をエアースプレー塗装にて20μm塗装し、80℃で5分プレヒートを行った後、アクアレックスAR−2000シルバーメタリック(日本ペイント社製水性メタリックベース塗料、商品名)をエアースプレー塗装にて10μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板にクリヤー塗料として、マックフロー O−1800W−2クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料、商品名)をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分間の加熱硬化を行い、試験片を得た。
【0092】
以下の様にして、加熱硬化後に得られた複層塗膜の性能評価を行った。結果を表3に示す。
【0093】
外観(ウエーブスキャン(SW)値)
得られた複層塗膜をビックケミー社製「ウエーブスキャン」を用いて、SW値を測定することにより、仕上り外観を評価した。尚、SW値は主に艶感及び微小な肌を評価する指標であり低いほど良好であることを示す。
【0094】
耐チッピング性
得られた複層塗膜をグラベロテスター試験機(スガ試験機社製)を用いて、7号砕石100gを30cmの距離から空気圧3kgf/cm2で塗膜に45°の角度で衝突させた後、ニチバン社製工業用ガムテープを用いて剥離テストを行い、塗膜のはがれ程度を以下の基準により目視で評価した。
【0095】
【表1】
【0096】
実施例2〜4及び比較例1及び2
使用する顔料の種類を表2及び表3に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして複層塗膜を形成し、評価した。結果を表3に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【発明の効果】
本発明の塗膜形成方法によれば、中塗り塗膜の物性が向上し、複層塗膜の耐チッピング性が改善される。
Claims (3)
- (1)電着塗膜が形成された被塗物を提供する工程;(2)電着塗膜の上に水性中塗り塗料を塗布して中塗り塗膜を形成する工程;(3)中塗り塗膜を硬化させないで中塗り塗膜の上に水性ベース塗料、及びクリヤー塗料をウェットオンウェットで順次塗布してベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成する工程;(4)中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を同時に焼き付け硬化させる工程;を含む複層塗膜形成方法において、
該水性中塗り塗料が、ガラス転移温度−50〜20℃、酸価2〜60mgKOH/g及び水酸基価10〜120mgKOH/gを有するアクリル樹脂エマルジョン、硬化剤、及びシリカまたはアルミナで被覆した後に、ポリオール化合物、アミン系化合物、及びカルボン酸系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機物で被覆した有機物処理二酸化チタン顔料を含有することを特徴とする複層塗膜の形成方法。 - 前記アクリル樹脂エマルジョンが、(a)(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(b)酸基含有エチレン性不飽和モノマー、及び(c)水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを含むモノマー混合物が乳化重合されてなるものである、請求項1記載の方法。
- 前記有機物処理二酸化チタン顔料が、水性中塗り塗料中に含まれる全ての樹脂の固形分及び顔料の合計重量に対する顔料濃度(PWC)10〜60重量%となる量で中塗り塗料に含有される、請求項1または2記載の方法。
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