JP2004290808A - 水素分離透過膜およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】全体の厚みが薄く且つ反りが生じにくいと共に、膜厚が薄くてもピンホールや亀裂などの膜欠陥が生じにくい水素分離透過膜、およびこれを安価で且つ確実に製造可能とする水素分離透過膜の製造方法を提供する。
【解決手段】板厚tが0.1mmのステンレス鋼(SUS316L)からなる金属板2における両側の表面3,4に対称に形成された半径Rが0.05mmのほぼ半円球形状の凹部6,6と、係る凹部6,6の各最深部間に位置する透過部5と、少なくとも係る透過部5に形成され且つ水素透過性を有するPd(金属元素)および係るPdと合金化し易いAg(金属元素)とからなるPd−Ag合金膜Mと、を含む、水素分離透過膜1。
【選択図】 図1
【解決手段】板厚tが0.1mmのステンレス鋼(SUS316L)からなる金属板2における両側の表面3,4に対称に形成された半径Rが0.05mmのほぼ半円球形状の凹部6,6と、係る凹部6,6の各最深部間に位置する透過部5と、少なくとも係る透過部5に形成され且つ水素透過性を有するPd(金属元素)および係るPdと合金化し易いAg(金属元素)とからなるPd−Ag合金膜Mと、を含む、水素分離透過膜1。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、改質器、流体用フィルタ、または電解用電極などに用いられ、水素含有ガス中の水素を分離する水素分離透過膜およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水素分離透過膜として、耐熱性を有し且つ高純度の水素が得られるPd膜またはPdをベースとする合金膜が注目されている。係るPd膜などは、膜欠陥や亀裂が少なく、高い水素透過性能を有すると共に、低コストにするため、できる限り薄くすることが求められている。また、係るPd膜などを支持する支持体は、水素含有ガスの圧力損失が可及的に小さく且つPd膜などの透過面積を確保するため、Pd膜などの透過面積が広い多孔質体であることが求められている。
【0003】
水素分離透過膜の形成方法には、(1)Pd板またはPd合金板を冷間圧延によって箔化し、係るPd箔を多孔質の支持体と張り合わせる方法、(2)セラミックス製の多孔質支持体の表面に徐々に粒度の細かなセラミックス粒子を複数の層として積層した後、それらの最表面に無電解Pdメッキにより緻密で均一なPd膜を形成する方法、などが検討されている。
しかしながら、上記(1)の方法では、Pd膜などの膜厚を50μm以下にすると箔化が難しく、亀裂やピンホールなどの膜欠陥が生じ易くなる。
また、上記(2)の方法は、Pd膜の形成前に、上記セラミックス製の多孔質支持体の最表層に緻密なセラミックス層を形成するため、ゾルーゲル法などの高度な成膜技術が必要となり、コスト高になる。しかも、上記多孔質支持体は、耐熱性や耐衝撃性に劣るため、壊れたりPd膜が剥離し易いと共に、溶接できないため、他部材との接合部におけるシール(密封性)が難しい、という難点がある。
【0004】
耐熱性およびPd−Ag合金膜の支持強度を高めるため、エッチングにより孔径10〜500μmの多数の細孔を穿孔した金属支持体の片面に、膜厚1〜50μmのPd−Ag合金膜を被着した水素分離膜(例えば、特許文献1参照)や、上記金属支持体の片面に被着したPd−Ag合金膜の反対側の表面に上記同様の多数の細孔を穿孔した金属支持体を被着した水素分離膜(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
また、水素分離抵抗が小さく且つPd薄膜の損傷を防ぐため、レーザまたはエッチングにより孔明けした金属多孔質支持体の表面にPd含有薄膜を重ね合わせた水素ガス分離膜(例えば、特許文献3参照)も提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−317662号公報 (第1〜6頁、図1)
【特許文献2】
特開平7−124453号公報 (第1〜7頁、図1)
【特許文献3】
特開平5−76738号公報 (第1〜6頁、図10)
【0006】
しかし、特許文献1,2の水素分離膜は、Pd−Ag合金膜の片面または両面に多孔質の金属支持体を積層するため、Pd−Ag合金膜の厚みおよびこれを含む水素分離膜全体の厚みが厚肉になり易いと共に、上記合金膜を単層で形成するなど加工および組立工数が多いため、コスト高になり易い、という問題がある。
しかも、特許文献1では、上記合金膜の片面にのみ多孔質の金属支持体を積層するため、係る金属支持体の厚みが薄いと上記合金膜の内部応力に負けて当該合金膜側に大きく反る、という問題もあった。
また、特許文献3の水素ガス分離膜は、単層のPd含有薄膜や、単層または復数層の金属多孔質支持体をレーザなどにより形成し、これらを積層するため、素材コスト、加工、および組立コストが嵩む、という問題があった。
【0007】
【発明が解決すべき課題】
本発明は、以上にて説明した従来の技術における問題点を解決し、全体の厚みが薄く且つ反りが生じにくいと共に、膜厚が薄くてもピンホールや亀裂などの膜欠陥が生じにくい水素分離透過膜、およびこれを安価で且つ確実に製造可能とする水素分離透過膜の製造方法を提供する、ことを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明は、上記課題を解決するため、単一の金属板における少なくとも一方の表面にほぼ半球形状の凹部および係る凹部の最深部に位置し且つ反対側の表面に露出する水素透過性の金属膜を形成する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の水素分離透過膜(請求項1)は、金属板における少なくとも一方の表面に形成されたほぼ半円球形状の凹部と、係る凹部の最深部と上記金属板の反対側の表面との間、または当該反対側の表面にほぼ対称に形成された別の凹部との間に位置する透過部と、少なくとも係る透過部に形成され且つ水素透過性を有する金属元素からなる金属膜、または係る金属元素およびこれと合金化し易い金属元素からなる合金膜と、を含む、ことを特徴とする。
【0009】
これによれば、1枚の金属板における何れか一方または双方の表面に高密度で形成される複数の凹部の最深部に位置する透過部に、水素透過性を有する金属元素などからなる金属膜または合金膜が形成された全体の厚みが例えば0.1mm以下の薄い水素分離透過膜となる。また、上記金属膜などは、ほぼ半球形状を呈する凹部の最深部に位置する透過部に形成されるため、その膜厚が例えば10μm以下に薄くなっても、亀裂やピンホールなどの膜欠陥を生じににく、安定した水素分離機能を果たすことができる。しかも、上記金属膜などの使用量を少なくできるため、低コストで製造することが可能となる。従って、薄肉で安定した水素分離機能を有するため、当該水素分離透過膜を用いる改質器などの薄肉化および小型化にも寄与でき、燃料電池などの普及に貢献することも可能である。
尚、前記金属板の一方の表面に凹部を形成し且つ係る凹部の最深部と反対側の表面との間に位置する透過部に前記金属膜などを形成した形態では、前記複数の凹部を、互いに隣接する凹部同士が異なる表面に交互に開口するように形成することによって、当該水素分離透過膜の反りを防止することができる。
【0010】
また、本発明には、前記凹部は、前記金属板における両側の表面において、互いに対向し且つほぼ対称にしてそれぞれ形成されていると共に、係る対の凹部における各最深部に位置する透過部に前記金属膜または合金膜が形成されている、水素分離透過膜(請求項2)も含まれる。これによれば、前記薄肉化、前記金属膜などの安定した水素分離機能、および低コスト化に加えて、複数の凹部を金属板の両面にほぼ対称にして形成しているため、当該水素分離透過膜自体の反りを確実に予防することができる。尚、上記「ほぼ対称」には、対で互いに反対向きに開口する凹部の最深部が金属板の平面方向に沿ってややずれて形成されている形態も含まれる。また、対で互いに反対向きに開口する凹部は、平面視が同心で位置し且つ互いの深さが相違する形態や、深さが異なる形態であって両者の最深部が金属板の平面方向に沿ってややずれて形成されている形態も含まれる。
【0011】
更に、本発明には、前記透過部の内径は、50μm以下である、水素分離透過膜(請求項3)も含まれる。これによれば、透過部が小径であるため、前記金属膜などの膜厚が10μm以下と薄くても、ピンホールなどの膜欠陥を生じることなく安定した水素分離機能を確実に発揮することができる。尚、上記透過部の内径が、50μmを越えると、水素含有ガスの圧力の影響を受け易くなるため、係る範囲を除外したものである。但し、上記内径が50μmをやや越える程度であれば、前記金属膜などの膜厚を10μm超とすることで、十分に活用可能である。
【0012】
また、本発明には、前記凹部における最深部の深さは、前記金属板の板厚の半分以上で且つ係る板厚以下である、水素分離透過膜(請求項4)も含まれる。
これによれば、前記金属板の両表面に交互に開口する複数の大きな凹部を交互に配置する形態、前記金属板の両表面に同じ深さの対の凹部を対称で且つ逆向きに形成する形態、深さが僅かに異なる対の凹部をほぼ対称で且つ逆向きに形成する形態、あるいは、深さが相違する対の凹部を金属板の平面方向にややずらし且つ逆向きに形成する形態などの多様な水素分離透過膜を提供することができる。
尚、上記凹部における最深部の深さは、当該凹部が形成する半球形状の半径とほとんど一致するため、係る半径を指称しても良い。
【0013】
更に、本発明には、前記水素透過性の金属元素は、Pd、Ti、Zr、Hf、V、またはNbの何れかであると共に、これらの金属元素と合金化し易い前記金属元素は、Pt、Ru、Ag、Au、Cu、またはNiの少なくとも一種以上である、水素分離透過膜(請求項5)も含まれる。これによれば、前記金属膜などは、水素含有ガスから水素を確実に分離して透過できるため、安定した水素分離機能を果たすことが可能となる。尚、前記合金膜は、水素透過性の金属元素とこれと合金化し易い上記金属元素とを、互いにほぼ対向する対の凹部の内面に個別に被覆し、その後で熱処理することにより係る透過部に形成した形態も含まれる。また、本発明には、前記金属板は、ステンレス鋼、NiまたはNi基合金、AlまたはAl基合金、CuまたはCu基合金、あるいは、TiまたはTi基合金の何れかからなる、水素分離透過膜(請求項6)も含まれる。
これによれば、例えば0.1mm以下の薄板であっても、水素含有ガスや水素に曝されても腐食しにくく、その両表面に開口する多数の凹部が形成されても、それらの最深部に位置する金属膜などを強固に支持することが可能となる。
【0014】
一方、本発明における水素分離透過膜の製造方法(請求項7)は、金属板における少なくとも一方の表面にほぼ半円球形状の凹部を形成し、係る凹部の最深部と上記金属板の反対側の表面との間、または当該反対側の表面にほぼ対称に形成された別の凹部との間に位置する透過部を形成する凹部形成工程と、前記凹部の内面のうち少なくとも透過部に水素透過性を有する金属元素からなる金属膜、または係る金属元素およびこれと合金化し易い金属元素からなる合金膜を形成する成膜工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0015】
これによれば、前記薄肉の金属板、係る金属板の少なくとも一方の表面に高密度で形成され且つその最深部に透過部を有する凹部、および係る凹部の最深部で安定した水素分離機能を果たす前記金属膜などを備えた水素分離透過膜を確実且つ安価に製造することができる。
尚、上記製造方法は、上記成膜工程の後で、熱処理する加熱工程を有する水素分離透過膜の製造方法としても良い。これにより、互いに逆向きの対の凹部間の透過部に位置する対の金属膜を一体化したり、一方の金属膜と他方の異なる金属膜とからなる合金膜を形成することが可能となる。しかも、金属板の内部応力の緩和や金属板と金属膜などとの密着力を高めることも可能となる。
【0016】
また、本発明には、前記凹部は、エッチングによって前記金属板における一方の表面に形成され、係る凹部の内面に前記金属膜または合金膜を形成すると共に、上記金属板における反対側の表面からエッチングによって別の凹部を形成するに際し、上記凹部にほぼ対向し且つ前記金属膜または合金膜が露出するようにしてエッチングする、水素分離透過膜の製造方法(請求項8)も含まれる。
これによれば、エッチングにより半球形状に先に形成した凹部の内面に被覆した金属膜などを、金属板における反対側の表面をエッチングして形成した対の凹部の最深部で露出させる。この結果、係る金属膜などは、両面が厚み方向で隣接する対の凹部の間に露出するため、水素分離作用を確実に果たすことができる。
【0017】
更に、本発明には、前記別の凹部の内面には、前記エッチングの後で、前記金属膜または合金膜が成膜される、水素分離透過膜の製造方法(請求項9)も含まれる。これによれば、金属板の両表面にほぼ対称で且つ逆向きに形成した対の凹部における最深部間の透過部において、両側の凹部の内面に形成した同じ金属膜または異なる金属膜を一体にして所望の厚みにできる。また、異なる金属膜を隣接された場合は、上記成膜工程の後で熱処理することにより合金膜が生成できる。
加えて、本発明には、前記成膜工程は、メッキまたはスパッタリングによって前記金属膜または合金膜を形成する、水素分離透過膜の製造方法(請求項10)も含まれる。これによれば、前記凹部の内面に前記金属元素の薄い金属膜を所望の厚みで精度良く被覆することが可能となる。尚、凹部を除いた金属板の表面に前記金属元素が付着するのを防ぐため、前記成膜工程において、係る表面には金属元素の剥離が容易なマスク(レジスト)が被覆される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下において、本発明の実施に好適な形態を図面と共に説明する。
図1(A)は、本発明における1形態の水素分離透過膜1の部分断面を示す。
水素分離透過膜1は、図1(A)に示すように、金属板2と、その表面(両面)3,4において互いに対向し且つ対称に形成されたほぼ半球形状の凹部6,6と、係る対の凹部6,6の最深部同士の間に位置する透過部5と、係る透過部5を含む凹部6,6の内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPd(金属元素)からなるPd膜(金属膜)7およびPdと合金化し易いAg(金属元素)からなるAg(金属)膜8ならびに少なくとも透過部5付近に位置するPd−Ag合金膜Mと、を備えている。
上記金属板2は、図1(A)に示すように、板厚tが0.1mmのステンレス鋼(SUS316L)からなり、その両面3,4に対の凹部6,6が複数個ずつ平面視で格子状または千鳥状の位置に形成されている。また、各凹部6の半径Rは、0.05mm(上記板厚tの半分)である。尚、透過部5の金属板2の平面方向に沿った内径は約20μmであり、係る透過部5とこれに隣接する部分には、Pd−Ag合金膜Mのみが位置している。
【0019】
上記凹部6,6の内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9またはAu拡散層9が形成され、これらのAu層9またはAu拡散層9の上にPd膜7、Ag膜8、または合金膜Mが形成される。対の凹部6,6の最深部同士の間には、上記ステンレス鋼がなく、Pd−Ag合金膜Mのみが位置する透過部5が位置している。尚、Au層9は、Auストライクメッキにより形成されたメッキ用下地層、Pd膜7は厚みが4μmのPdメッキ膜、Ag膜8は厚みが1μmのAgメッキ膜である。また、Pd膜7およびAg膜8を真空中において、約600℃に1時間加熱(熱処理)することにより、両者が隣接して配置されている透過部5およびこれに隣接する部分には、Pd−Ag合金膜Mが形成される。更に、金属板2の表面3,4において、隣接する凹部6,6間のピッチ(中心間距離)は、0.2mm、即ち隣接する凹部6,6は、0.1mmの距離を隔てて離隔されている。
尚、図1(A)中のカッコ内に示すように、金属板2の表面4側に開口する凹部6の内面には、反対側の表面6に開口する凹部6の内面と同じくPd膜7を形成しても良い。係る形態では、透過部5には、Pd膜7,7のみからなる金属膜が形成されるため、前記合金化のための熱処理は省略しても良い。
【0020】
以上のような水素分離透過膜1によれば、板厚tが薄い金属板2の表面3,4に対の凹部6,6が複数個ずつ対称に形成されているため、後述するように凹部6,6をエッチングによって形成しても当該金属板2が何れかの表面3,4側に反ることなく平坦度を保つことができる。また、前記合金膜Mは、ほぼ半球形状を呈する凹部6,6の最深部の間に位置する少なくとも透過部5に形成されているため、その膜厚が10μm以下の薄さであっても、亀裂やピンホールなどの膜欠陥を生じににく、安定した水素分離(透過)機能を果たすことができる。しかも、上記合金膜Mおよびこれを得るためのPd膜7やAg膜8などの使用量を少なくできるため、低コストで製造することが可能となる。従って、薄肉で安定した水素分離機能を有するため、係る水素分離透過膜1を用いる改質器などの薄肉化および小型化にも寄与することが可能となる。
【0021】
図1(B)は、前記水素分離透過膜1の変形形態である水素分離透過膜1aの部分断面を示す。係る水素分離透過膜1aは、図1(B)に示すように、前記と同じ材質および板厚tの金属板2と、その表面(両面)3,4にほぼ対向し且つ平面方向にややずれて形成されたほぼ半球形状の凹部6,6と、係る凹部6,6の最深部同士の間に位置する透過部5aと、係る透過部5aを含む凹部6,6の内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPdからなる金属膜7およびこれと合金化し易いAgからなる金属膜8ならびにPd−Ag合金膜Mと、を備えている。図1(B)に示すように、金属板2の表面(両面)3,4にややずれて対向する対の凹部6,6の半径Rは、金属板の板厚tの半分よりもわずかに大きく、係る凹部6,6の最深部同士の間に位置する透過部5aは、やや傾くと共にその内径は約25μmと前記水素分離透過膜1の形態よりも大きい。
尚、金属板2の表面3,4に形成された対のずれた凹部6,6は、係る表面3,4に平面視で複数個ずつ格子状または千鳥状の位置に形成されている。
【0022】
図1(B)に示すように、金属板2の表面3,4にずれて開口する凹部6,6の内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9またはAu拡散層9が形成される。
また、金属板2の表面3に開口する凹部6の内面に沿って形成した厚みが4μmのPd膜7が形成され、または当該金属板2の表面4に開口する凹部6の内面に沿って形成した厚みが1μmのAg膜8が形成されている。更に、対のずれた凹部6,6の最深部同士間の透過部5aとその付近には、上記Pd膜7およびAg膜8の合金であり且つ厚みが約5μmのPd−Ag合金膜Mが位置している。
以上のような水素分離透過膜1aによっても、前記水素分離透過膜1と同様の作用および効果を得られ、特に透過部5aには比較的広い面積のPd−Ag合金膜Mが位置しているため、水素分離機能を一層効率良く果たすことができる。
尚、図1(B)中のカッコ内に示すように、金属板2の表面4側に開口する凹部6の内面には、反対側の表面3に開口する凹部6の内面と同じくPd膜7を形成し、透過部5aもPd膜(金属膜)7のみが位置する形態としても良い。
【0023】
図2(A)は、異なる形態の水素分離透過膜1bの部分断面を示す。
水素分離透過膜1bは、図2(A)に示すように、前記と同じ材質および板厚tの金属板2と、その表面(両面)3,4にほぼ対向し且つ対称に形成されたほぼ半球形状で大・小の凹部6a,6bと、係る対の凹部6a,6bの最深部同士の間に位置する透過部5bと、係る透過部5bを含む凹部6a,6bの内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPdからなる金属膜7およびこれと合金化し易いAgからなる金属膜8ならびにPd−Ag合金膜Mと、を備えている。
大・小で対の凹部6a,6bは、金属板2の表面3,4に平面視で格子状または千鳥状に多数配置されると共に、図2(A)に示すように、表面3,4に沿って交互に位置するように形成されている。大きな凹部6aの半径Rと小さな凹部6bの半径rとの合計は、金属板2の板厚t(0.1mm)と同じである。
金属板2は、係る凹部6a,6bを表面3,4に沿って交互に配置しているため、後述するように凹部6a,6bをエッチングによって形成しても、表面3,4の双方への反りが抑制されている。
【0024】
図2(A)に示すように、金属板2の表面3,4に対称に開口する凹部6a,6bの内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9またはAu拡散層9が形成されている。また、金属板2の表面3に沿って開口する凹部6b,6aの内面に沿って厚みが4μmのPd膜7が、当該金属板2の表面4に沿って開口する凹部6a,6bの内面に沿って厚みが1μmのAg膜8がそれぞれ形成され、対の凹部6a,6bの最深部同士間の透過部5bとその付近には、上記Pd膜7およびAg膜8の合金で且つ厚みが約5μmのPd−Ag合金膜Mが位置している。
以上のような水素分離透過膜1bによっても、前記水素分離透過膜1,1aと同様の作用および効果を得られ、水素分離機能を果たすことができる。
尚、図2(A)中のカッコ内に示すように、金属板2の表面4側に開口する凹部6a,6bの内面には、反対側の表面3に開口する凹部6b,6aの内面と同じくPd膜7を形成し、且つ透過部5bもPd膜7のみとしても良い。
【0025】
図2(B)は、前記水素分離透過膜1bの変形形態である水素分離透過膜1cの部分断面を示す。係る水素分離透過膜1cは、図2(B)に示すように、前記と同じ材質および板厚tの金属板2と、その表面(両面)3,4にほぼ対向し且つ平面方向にややずれて形成されたほぼ半球形状で大・小の凹部6a,6bと、係る対の凹部6a,6bの最深部同士の間に位置する透過部5cと、係る透過部5cを含む凹部6a,6bの内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPdからなる金属膜7およびこれと合金化し易いAgからなる金属膜8ならびに少なくとも透過部5c付近に位置するPd−Ag合金膜Mと、を備えている。
図2(B)に示すように、大きな凹部6aの半径Rと小さな凹部6bの半径rとの合計は、金属板2の板厚tの半分よりもわずかに大きく、大・小で対の凹部6a,6bの最深部同士の間に位置する透過部5cは金属板2の平面方向に対してやや傾くと共に、その内径は前記水素分離透過膜1bの形態よりも大きい。
尚、大小の凹部6a,6bは、金属板2の表面3,4に沿って交互に配置され、且つ表面3,4に複数個ずつ格子状または千鳥状の位置に形成されている。
【0026】
図2(B)に示すように、金属板2の表面3,4にややずれて開口する対の凹部6a,6bの内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9またはAu拡散層9が形成されている。また、金属板2の表面3に沿って開口する凹部6b,6aの内面に沿って厚みが4μmのPd膜7が、当該金属板2の表面4に沿って開口する凹部6a,6bの内面に沿って厚みが1μmのAg膜8が形成されている。更に、対凹部6a,6bの最深部同士間の透過部5cとその付近には、上記Pd膜7とAg膜8との合金で且つ厚みが約5μmのPd−Ag合金膜Mが位置している。以上のような水素分離透過膜1cによっても、前記水素分離透過膜1,1aと同様の作用および効果を得られ、水素分離機能を果たすことができる。
尚、図2(B)中のカッコ内に示すように、金属板2の表面4側に開口する凹部6a,6bの内面には、反対側の表面3に開口する凹部6b,6aの内面と同じくPd膜7を形成し、且つ透過部5cもPd膜7のみとても良い。
【0027】
図2(C)は、更に異なる形態の水素分離透過膜1dの部分断面を示す。
水素分離透過膜1dは、図2(C)に示すように、前記と同じ材質および板厚tの金属板2、その表面(両面)3,4に沿って交互に開口する大径で複数の凹部6c、係る凹部6cの最深部と反対側の表面4,3との間に位置する透過部5d、および係る透過部5dを含む凹部6cの内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPdからなる金属膜7、を備えている。図2(C)に示すように、各凹部6cの半径Rは、金属板2の板厚tと一致している。また、複数の凹部6cは、金属板2の表面3,4に沿って格子状または千鳥状に位置し、隣接する凹部6c同士は、当該金属板2の表面3,4に交互に開口する。このため、後述するように凹部6cをエッチングにより形成しても、金属板2の反りを抑制している。
【0028】
図2(C)に示すように、金属板2の表面3,4に交互に開口する複数の凹部6cの内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9が形成されている。係るAu層9の上に沿って、各凹部6cの内面に厚みが4μmのPd膜7が形成されている。各凹部6cの最深部と反対側の表面3,4との間には、内径が30〜40μmの大きな透過部5dが位置すると共に、係る透過部5dとこれに隣接する部分には、上記Pd膜(金属膜)7のみが形成されている。
以上のような水素分離透過膜1dによっても、前記水素分離透過膜1などと同様の作用や効果を得られ、特に透過部5dには比較的広い面積のPd膜7が位置しているため、水素分離機能を更に効率良く果たすことができる。
尚、上記Au層9とPd膜7との間に、前記厚みのAg膜8を被覆し且つ前記熱処理を施すことにより、各凹部6cの内面および透過部5dにPd−Ag合金膜Mを形成することも可能である。
【0029】
図3は、前記水素分離透過膜1の製造方法に関する。
先ず、図3(A)に示すように、所要面積の表面3,4を有し板厚tが0.1mmのステンレス鋼(SUS316L)からな金属板2を用意する。
次に、金属板2の表面4に複数の貫通孔(パターン)を有する図示しない公知のエッチングレジスト(マスク)を配置した状態で、当該表面4をエッチングする。係るエッチングには、例えば塩化第2鉄水溶液(42〜47°Be(ボーメ))を上記表面4にスプレー状に吹き付けて行う。
その結果、図3(B)に示すように、金属板2の表面4に半径Rが0.05mmでほぼ半球形状の凹部6が複数上記貫通孔に隣接する当該表面4に平面視で千鳥状に形成される(凹部形成工程)。尚、互いに隣接する凹部6,6間の最小ピッチ(中心間距離)は、0.1mmである。
【0030】
次いで、上記レジストを配置した状態で、図3(C)に示すように、凹部6の内面に厚みが0.05μmのAu層9をAuストライクメッキにて形成する。
更に、図3(D)に示すように、上記の状態で、凹部6内のAu層9の上に厚みが4μmのPd膜7を、Pdメッキにより形成する(成膜工程)。この際、Au層9はPd膜7を被覆し易くするための下地材の働きを成す。尚、前記レジストは、この直後に剥離される。
更に、金属板2の上記凹部6を形成した表面4と反対側の表面3に、上記同様のレジストを配置し且つエッチングする。その結果、図3(E)に示すように、金属板2の表面3には、反対側の表面4の凹部6と対向し且つ互いに対称な対の凹部6が形成される(凹部形成工程)。
【0031】
この際、図3(e)に拡大して示すように、金属板2の表面3に開口する凹部6の最深部には、前記成膜工程で形成したAu層9およびPd膜7が露出し、金属板2のステンレス鋼がない内径約20μmの透過部5が形成される。
次に、図3(F)に示すように、金属板2の表面3に開口する凹部6の内面に、前記と同様にして厚みが0.05μmのAu層9を形成する。この際、対の凹部6,6のAu層9は、透過部5付近において一体化する。
更に、図3(G)に示すように、金属板2の表面3に開口する凹部6内のAu層9の上に、前記と同様にして厚みが1μmのAg膜8を形成する(成膜工程)。この際、Au層9は、Ag膜8を被覆し易くするための下地材の働きを成す。
【0032】
そして、金属板2の表面3に被覆したレジストを剥離した後、上記対の凹部6,6などを多数形成した当該金属板2を真空中で600℃に1時間加熱(熱処理)する。その結果、Au層9は、金属板2のステンレス鋼中に拡散すると共に、透過部5において隣接していた前記Pd膜7と上記Ag膜8とは互いに拡散しあって、Pd−Ag合金膜Mとなる。この結果、前記図1(A)で示したものと同様な水素分離透過膜1を得ることができる。
以上のような水素分離透過膜1の製造方法によれば、薄肉の金属板2、その表面3,4に高密度で形成され且つ透過部5を最深部に有する対称な凹部6,6、および係る凹部6,6の最深部間の透過部5で安定した水素分離機能を果たす前記合金膜Mを備えた水素分離透過膜1を確実且つ安価に製造することができる。
尚、金属板2の表面3に開口する凹部6の内面にもPd膜7を形成しても良く、この際は前記熱処理を省略ができる。また、Pd膜7、Ag膜8、およびAu層9は、スパッタリングにより形成しても良い。更に、上記製造方法において、金属板2の表面3,4に対の凹部6,6を平面方向にややずらして形成することで、前記図1(B)で示した水素分離透過膜1aを製造することも可能である。
【0033】
図4は、前記水素分離透過膜1bの製造方法に関する。
先ず、図4(A)に示すように、板厚tが0.1mmの前記ステンレス鋼からなる金属板2の表面3,4に前記同様のエッチングレジストを配置し且つエッチングすることにより、比較的大きな半径Rでほぼ半球形状の凹部6a,6aを形成する(凹部形成工程)。表面3の凹部6aと表面4の凹部6aとは、平面視において半径Rよりも長く離れている。尚、上記凹部6aの半径Rは、金属板2の板厚tの半分よりもやや大きく設定されている。
次に、図4(B)に示すように、上記レジストを配置した金属板2の表面3,4に開口する各凹部6aの内面に、厚みが0.05μmのAu層9をAuストライクメッキにより形成する。その後、表面3に開口する凹部6a内のAu層9上に、厚みが4μmのPd膜7をPdメッキにより形成し、表面4に開口する凹部6a内のAu層9上に厚み1μmのAg膜8を、Agメッキで形成する(成膜工程)。尚、上記レジストは、この直後に剥離される。
【0034】
更に、金属板2の表面3,4に別のパターンを有するエッチングレジストを配置し且つエッチングすることにより、図4(C)に示すように、上記各凹部6aに対向し且つ互いに対称で比較的小径の半径rを有するほぼ半球形の凹部6b,6bを形成する(凹部形成工程)。係る凹部6bの半径rと凹部6aの半径Rとの合計は、金属板2の板厚tと一致する。各凹部6bの最深部には、図4(C)に示すように、反対側の凹部6aの最深部に位置するAu層9とPd膜7またはAg膜9が露出する透過部5bが位置する。透過部5bの内径は、約20μmである。
【0035】
次いで、図4(D)に示すように、上記レジストを配置した金属板2の表面3,4開口する各凹部6bの内面に、厚みが0.05μmのAu層9をAuストライクメッキにより形成した後、表面3に開口する凹部6b内のAu層9上に厚みが4μmのPd膜7をPdメッキで形成し、表面4に開口する凹部6b内のAu層9上に厚みが1μmのAg膜8をAgメッキで形成する(成膜工程)。これらの直後に上記レジストを剥離する。
そして、上記凹部6a,6b、Pd膜7、Ag膜8などを有する金属板2を、真空中で600℃に1時間加熱(熱処理)する。その結果、Au層9は、金属板2のステンレス鋼中に拡散すると共に、透過部5で隣接していた前記Pd膜7と上記Ag膜8とは互いに拡散しあって、Pd−Ag合金膜Mとなる。この結果、前記図2(A)で示した水素分離透過膜1bを得ることができる。
【0036】
以上のような水素分離透過膜1bの製造方法によっても、薄肉の金属板2、その表面に3,4に高密度で形成され且つ透過部5bを最深部に有する対称な凹部6a,6b、およびこれらの最深部で安定した水素分離機能を果たす前記合金膜Mを備えた水素分離透過膜1bを確実且つ安価に製造することができる。
尚、前記凹部6bの内面にもPd膜7を形成しても良く、この際には前記熱処理を省略することができる。また、Pd膜7、Ag膜8、およびAu層9は、スパッタリングにより形成しても良い。更に、上記製造方法において、金属板2の表面3,4に対の凹部6a,6bを平面方向にややずらして形成することにより、前記図2(B)で示した水素分離透過膜1cを製造することも可能である。
【0037】
図5は、前記水素分離透過膜1dの製造方法に関する。
先ず、図5(A)に示すように、板厚tが0.1mmの前記ステンレス鋼からな金属板2を用意する。次に、係る金属板2の表面3,4に複数の図示しないエッチングレジスト(マスク)を配置した状態で、当該表面3,4をエッチングする。
その結果、図5(B)に示すように、金属板2の表面3,4に上記金属板2の板厚tと同じ半径Rでほぼ半球形状の凹部6c,6cを形成する(凹部形成工程)。
表面3の凹部6cと表面4の凹部6cとは、平面視において重複しない程度に短い間隔で離れている。また、各凹部6cの最深部には、反対側の表面3,4との間に内径が約30〜40μmの透過部5dが位置している。
【0038】
更に、表面3,4に上記レジストを配置した状態で、図5(C),(D)に示すように、各凹部6cの内面に厚みが0.05μmのAu層9をAuストライクメッキにより形成した後、その上に厚みが4μmのPd膜7を、Pdメッキによって形成する(成膜工程)。この際、各凹部6cの最深部に位置する透過部5dには、上記Pd膜7のみが形成される。
最後に、上記レジストを剥離する。これにより、図5(D)に示すように、前記図2(C)で示した水素分離透過膜1dが得られる。
【0039】
以上のような水素分離透過膜1dの製造方法によっても、薄肉の金属板2、その表面3,4に高密度で形成され且つ透過部5dを最深部に有する対称な凹部6a,6b、およびこれらの最深部の透過部5dで安定した水素分離機能を果たすPd膜7を備えた水素分離透過膜1dを確実且つ安価に製造することができる。
尚、上記各Pd膜7の上に厚みが1μmのAg膜8を形成し、更に前記熱処理を施すことにより、各透過部5dを含む各凹部6cの内面に沿ってPd−Ag合金膜Mを有する水素分離透過膜1dを得ることも可能である。また、Pd膜7やAg膜8は、スパッタリングによって形成しても良い。
【0040】
【実施例】
ここで、本発明の水素分離透過膜の具体的な実施例について説明する。
直径が35mmの円形である表面3,4を有し且つ前記板厚tが0.1mmのステンレス鋼(SUS316L)からなる金属板2を4枚用意した。
このうち、2枚の金属板2を実施例1,2用として、それらの表面3,4に複数の貫通孔を有するエッチングレジストを配置し且つエッチングすることにより、表1に示す直径を有する対の凹部6,6を当該表面3,4に対向して対称に順次形成した。これらの凹部6は、金属板2の表面3,4に平面視で格子状に配置され、隣接する凹部6,6間のピッチは、各凹部6の直径の2倍である。
【0041】
また、対の凹部6,6の最深部同士の間には、表1に示す内径の透過部5が形成されていた。係る透過部5を含む表面3側の各凹部6の内面に、厚み0.05μmのAu層9および厚み4μmのPd膜7を前記メッキにより予め形成し、後で開口された表面4側の各凹部6の内面には、上記Au層9および厚みが1μmのAg膜8を追って前記メッキにより形成した。一方の金属板2を真空中で1時間加熱する熱処理により、各透過部5にPd−Ag膜Mを有する前記図1(A)で示した水素分離透過膜1と同様な実施例2の水素分離透過膜(1)を得た。
尚、上記熱処理をしなかったものを実施例1の水素分離透過膜(1)とした。
【0042】
一方、残り2枚の金属板2を比較例1,2用とし、それぞれの一方の表面3に予め厚みが0.05μmのAu層9、厚みが1μmのAg膜8、および厚みが4μmのPd膜7を前記メッキによって形成した後、他方の表面4から直径0.2mm(最深部の深さ0.1mm)のほぼ半球形の凹部6,6をそれらの直径の2倍のピッチで格子状に形成した。このうち、1枚の金属板2を真空中で600℃に1時間加熱する熱処理を施した。この結果、各凹部6の最深部と反対側の表面3との間に、表1示す内径の透過部が位置し、且つ係る透過部にはPd−Ag合金膜Mが形成されている比較例2の水素分離透過膜を得た。尚、上記熱処理をしなかった残りのものを比較例1の水素分離透過膜とした。
【0043】
実施例1,2および比較例1,2の水素分離透過膜を定盤の表面上に載置し、目視によって反りの有無を調査し、その結果を表1に示した。
また、各例の水素分離透過膜を図示しないVCR構造のホルダに個別にセットし、室温で一方の表面からN2ガスを供給して0.2MPaの圧力をかけ、他方の表面側で当該N2ガスの透過量を測定した。その結果も表1に示した。
更に、上記ホルダと同様の評価装置を用い、各例の水素分離透過膜について個別にH2ガスの透過試験を行った。その結果も表1に示した。尚、係る試験の条件は、測定温度:400℃、N2およびH2ガスの混合ガス供給(一次)側の圧力:0.8MPa、H2ガス透過(二次)側の圧力:0.1MPa、並びに供給ガスの組成比(体積比):H2ガス対N2ガス=64:36であった。
併せて、各例の水素分離透過膜におけるH2ガスの透過後における純度を、ガスクロマトグラフによって個別に測定した。その結果も表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1によれば、実施例1,2の水素分離透過膜(1)には、何れの表面3,4も平坦で反りは確認されなかった。これに対し、比較例1,2の水素分離透過膜には、複数の凹部6,6を片側の表面にのみ形成したため、係る表面側が凹むような反りが確認された。係る結果は、実施例1,2の水素分離透過膜(1)では、金属板2の両面に開口し且つ互いに対称な対の凹部6,6を複数組有し、両面のバランスが保たれたため、何れの表面側へも反らなかったものである。
また、表1によれば、実施例1,2の水素分離透過膜(1)は、N2ガスを全く透過しなかったのに対し、比較例1,2の水素分離透過膜は、相当量のN2ガスを透過していた。係る結果は、比較例1,2におけるPd膜7およびPd−Ag合金膜Mには、上記反りの影響も含めたピンホールや亀裂などの膜欠陥が生じたことに起因しており、実施例1,2のPd膜7およびPd−Ag合金膜Mには、上記膜欠陥がなかったことによる。
【0046】
更に、表1によれば、実施例1,2の水素分離透過膜(1)では、相当量のH2ガスが透過すると共に、これらの純度を極めて高いことが示されている。
一方、比較例1,2の水素分離透過膜では、上記膜欠陥によりH2ガス以外のガスの透過量が多過ぎたため、H2ガスを分離できなかった。
係る結果は、比較例1,2のPd膜7およびPd−Ag合金膜Mは、上記膜欠陥によって水素分離機能が働かなかったのに対し、実施例1,2の健全なPd膜7およびPd−Ag合金膜Mは、十分な水素分離機能を発揮したことによる。
尚、実施例2のPd−Ag合金膜Mは、実施例1のPd膜7よりも水素分離機能が優れていたため、H2ガスの透過量が多く且つその純度もやや高くなった。以上の実施例1,2の結果により、本発明による水素分離透過膜の作用が理解され且つその効果が裏付けられたことも容易に理解されよう。
【0047】
本発明は、以上において説明した実施の形態および実施例に限定されない。
例えば、本発明の金属膜には、前記Pd膜7のほか、Ti、Zr、Hf、V、またはNbの何れからなるものとしても良い。更に、これらの金属元素と合金化し易い前記金属元素には、前記Agに限らず、Pt、Ru、Au、Cu、またはNi、あるいはこれらの少なくとも一種以上を用いても良い。
また、前記金属板の材質は、前記ステンレス鋼(SUS316L)以外のステンレス鋼や、NiまたはNi基合金、AlまたはAl基合金、CuまたはCu基合金、あるいは、TiまたはTi基合金の何れかを適用することも可能である。
更に、前記成膜工程において、予め用意したPd−Ag合金を、スパッタリングによって前記凹部の内面に形成することも可能である。
また、前記凹部のほぼ半球形状には、金属板2の表面3,4寄りが板厚方向に短い円柱形で且つその最深部寄りが半球形を呈する形態も含まれる。
更に、メッキ下地用でストライクメッキにより形成する前記Au層9に替えて、メッキ下地用のAg層、Ni層、Cu層などをストライクメッキで形成しても良い。この場合、ストライクメッキによる上記Ag層などの上に、PdメッキやAgメッキができ、且つ係るPdメッキやAgメッキと合金化した際に水素透過性を低下させないことが肝要である。
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲にて適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明の水素分離透過膜の1形態を示す部分断面図、(B)はその変形形態を示す部分断面図。
【図2】(A)は異なる形態の水素分離透過膜を示す部分断面図、(B)はその変形形態を示す部分断面図、(C)は更に異なる形態の水素分離透過膜を示す部分断面図。
【図3】(A)〜(G)は図1(A)の水素分離透過膜の製造方法を示す模式的断面図、(e)は(E)中の一点鎖線部分eの拡大図。
【図4】(A)〜(D)は図2(A)の水素分離透過膜の製造方法を示す模式的断面図。
【図5】(A)〜(D)は図2(C)の水素分離透過膜の製造方法を示す模式的断面図。
【符号の説明】
1,1a〜1d…水素分離透過膜
2…………………金属板
3,4……………表面
5,5a〜5d…透過部
6,6a〜6c…凹部
7…………………Pd膜(金属膜)
8…………………Ag膜(合金用金属元素の膜)
M…………………Pd−Ag膜(合金膜)
t…………………板厚
【発明の属する技術分野】
本発明は、改質器、流体用フィルタ、または電解用電極などに用いられ、水素含有ガス中の水素を分離する水素分離透過膜およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水素分離透過膜として、耐熱性を有し且つ高純度の水素が得られるPd膜またはPdをベースとする合金膜が注目されている。係るPd膜などは、膜欠陥や亀裂が少なく、高い水素透過性能を有すると共に、低コストにするため、できる限り薄くすることが求められている。また、係るPd膜などを支持する支持体は、水素含有ガスの圧力損失が可及的に小さく且つPd膜などの透過面積を確保するため、Pd膜などの透過面積が広い多孔質体であることが求められている。
【0003】
水素分離透過膜の形成方法には、(1)Pd板またはPd合金板を冷間圧延によって箔化し、係るPd箔を多孔質の支持体と張り合わせる方法、(2)セラミックス製の多孔質支持体の表面に徐々に粒度の細かなセラミックス粒子を複数の層として積層した後、それらの最表面に無電解Pdメッキにより緻密で均一なPd膜を形成する方法、などが検討されている。
しかしながら、上記(1)の方法では、Pd膜などの膜厚を50μm以下にすると箔化が難しく、亀裂やピンホールなどの膜欠陥が生じ易くなる。
また、上記(2)の方法は、Pd膜の形成前に、上記セラミックス製の多孔質支持体の最表層に緻密なセラミックス層を形成するため、ゾルーゲル法などの高度な成膜技術が必要となり、コスト高になる。しかも、上記多孔質支持体は、耐熱性や耐衝撃性に劣るため、壊れたりPd膜が剥離し易いと共に、溶接できないため、他部材との接合部におけるシール(密封性)が難しい、という難点がある。
【0004】
耐熱性およびPd−Ag合金膜の支持強度を高めるため、エッチングにより孔径10〜500μmの多数の細孔を穿孔した金属支持体の片面に、膜厚1〜50μmのPd−Ag合金膜を被着した水素分離膜(例えば、特許文献1参照)や、上記金属支持体の片面に被着したPd−Ag合金膜の反対側の表面に上記同様の多数の細孔を穿孔した金属支持体を被着した水素分離膜(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
また、水素分離抵抗が小さく且つPd薄膜の損傷を防ぐため、レーザまたはエッチングにより孔明けした金属多孔質支持体の表面にPd含有薄膜を重ね合わせた水素ガス分離膜(例えば、特許文献3参照)も提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−317662号公報 (第1〜6頁、図1)
【特許文献2】
特開平7−124453号公報 (第1〜7頁、図1)
【特許文献3】
特開平5−76738号公報 (第1〜6頁、図10)
【0006】
しかし、特許文献1,2の水素分離膜は、Pd−Ag合金膜の片面または両面に多孔質の金属支持体を積層するため、Pd−Ag合金膜の厚みおよびこれを含む水素分離膜全体の厚みが厚肉になり易いと共に、上記合金膜を単層で形成するなど加工および組立工数が多いため、コスト高になり易い、という問題がある。
しかも、特許文献1では、上記合金膜の片面にのみ多孔質の金属支持体を積層するため、係る金属支持体の厚みが薄いと上記合金膜の内部応力に負けて当該合金膜側に大きく反る、という問題もあった。
また、特許文献3の水素ガス分離膜は、単層のPd含有薄膜や、単層または復数層の金属多孔質支持体をレーザなどにより形成し、これらを積層するため、素材コスト、加工、および組立コストが嵩む、という問題があった。
【0007】
【発明が解決すべき課題】
本発明は、以上にて説明した従来の技術における問題点を解決し、全体の厚みが薄く且つ反りが生じにくいと共に、膜厚が薄くてもピンホールや亀裂などの膜欠陥が生じにくい水素分離透過膜、およびこれを安価で且つ確実に製造可能とする水素分離透過膜の製造方法を提供する、ことを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
本発明は、上記課題を解決するため、単一の金属板における少なくとも一方の表面にほぼ半球形状の凹部および係る凹部の最深部に位置し且つ反対側の表面に露出する水素透過性の金属膜を形成する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の水素分離透過膜(請求項1)は、金属板における少なくとも一方の表面に形成されたほぼ半円球形状の凹部と、係る凹部の最深部と上記金属板の反対側の表面との間、または当該反対側の表面にほぼ対称に形成された別の凹部との間に位置する透過部と、少なくとも係る透過部に形成され且つ水素透過性を有する金属元素からなる金属膜、または係る金属元素およびこれと合金化し易い金属元素からなる合金膜と、を含む、ことを特徴とする。
【0009】
これによれば、1枚の金属板における何れか一方または双方の表面に高密度で形成される複数の凹部の最深部に位置する透過部に、水素透過性を有する金属元素などからなる金属膜または合金膜が形成された全体の厚みが例えば0.1mm以下の薄い水素分離透過膜となる。また、上記金属膜などは、ほぼ半球形状を呈する凹部の最深部に位置する透過部に形成されるため、その膜厚が例えば10μm以下に薄くなっても、亀裂やピンホールなどの膜欠陥を生じににく、安定した水素分離機能を果たすことができる。しかも、上記金属膜などの使用量を少なくできるため、低コストで製造することが可能となる。従って、薄肉で安定した水素分離機能を有するため、当該水素分離透過膜を用いる改質器などの薄肉化および小型化にも寄与でき、燃料電池などの普及に貢献することも可能である。
尚、前記金属板の一方の表面に凹部を形成し且つ係る凹部の最深部と反対側の表面との間に位置する透過部に前記金属膜などを形成した形態では、前記複数の凹部を、互いに隣接する凹部同士が異なる表面に交互に開口するように形成することによって、当該水素分離透過膜の反りを防止することができる。
【0010】
また、本発明には、前記凹部は、前記金属板における両側の表面において、互いに対向し且つほぼ対称にしてそれぞれ形成されていると共に、係る対の凹部における各最深部に位置する透過部に前記金属膜または合金膜が形成されている、水素分離透過膜(請求項2)も含まれる。これによれば、前記薄肉化、前記金属膜などの安定した水素分離機能、および低コスト化に加えて、複数の凹部を金属板の両面にほぼ対称にして形成しているため、当該水素分離透過膜自体の反りを確実に予防することができる。尚、上記「ほぼ対称」には、対で互いに反対向きに開口する凹部の最深部が金属板の平面方向に沿ってややずれて形成されている形態も含まれる。また、対で互いに反対向きに開口する凹部は、平面視が同心で位置し且つ互いの深さが相違する形態や、深さが異なる形態であって両者の最深部が金属板の平面方向に沿ってややずれて形成されている形態も含まれる。
【0011】
更に、本発明には、前記透過部の内径は、50μm以下である、水素分離透過膜(請求項3)も含まれる。これによれば、透過部が小径であるため、前記金属膜などの膜厚が10μm以下と薄くても、ピンホールなどの膜欠陥を生じることなく安定した水素分離機能を確実に発揮することができる。尚、上記透過部の内径が、50μmを越えると、水素含有ガスの圧力の影響を受け易くなるため、係る範囲を除外したものである。但し、上記内径が50μmをやや越える程度であれば、前記金属膜などの膜厚を10μm超とすることで、十分に活用可能である。
【0012】
また、本発明には、前記凹部における最深部の深さは、前記金属板の板厚の半分以上で且つ係る板厚以下である、水素分離透過膜(請求項4)も含まれる。
これによれば、前記金属板の両表面に交互に開口する複数の大きな凹部を交互に配置する形態、前記金属板の両表面に同じ深さの対の凹部を対称で且つ逆向きに形成する形態、深さが僅かに異なる対の凹部をほぼ対称で且つ逆向きに形成する形態、あるいは、深さが相違する対の凹部を金属板の平面方向にややずらし且つ逆向きに形成する形態などの多様な水素分離透過膜を提供することができる。
尚、上記凹部における最深部の深さは、当該凹部が形成する半球形状の半径とほとんど一致するため、係る半径を指称しても良い。
【0013】
更に、本発明には、前記水素透過性の金属元素は、Pd、Ti、Zr、Hf、V、またはNbの何れかであると共に、これらの金属元素と合金化し易い前記金属元素は、Pt、Ru、Ag、Au、Cu、またはNiの少なくとも一種以上である、水素分離透過膜(請求項5)も含まれる。これによれば、前記金属膜などは、水素含有ガスから水素を確実に分離して透過できるため、安定した水素分離機能を果たすことが可能となる。尚、前記合金膜は、水素透過性の金属元素とこれと合金化し易い上記金属元素とを、互いにほぼ対向する対の凹部の内面に個別に被覆し、その後で熱処理することにより係る透過部に形成した形態も含まれる。また、本発明には、前記金属板は、ステンレス鋼、NiまたはNi基合金、AlまたはAl基合金、CuまたはCu基合金、あるいは、TiまたはTi基合金の何れかからなる、水素分離透過膜(請求項6)も含まれる。
これによれば、例えば0.1mm以下の薄板であっても、水素含有ガスや水素に曝されても腐食しにくく、その両表面に開口する多数の凹部が形成されても、それらの最深部に位置する金属膜などを強固に支持することが可能となる。
【0014】
一方、本発明における水素分離透過膜の製造方法(請求項7)は、金属板における少なくとも一方の表面にほぼ半円球形状の凹部を形成し、係る凹部の最深部と上記金属板の反対側の表面との間、または当該反対側の表面にほぼ対称に形成された別の凹部との間に位置する透過部を形成する凹部形成工程と、前記凹部の内面のうち少なくとも透過部に水素透過性を有する金属元素からなる金属膜、または係る金属元素およびこれと合金化し易い金属元素からなる合金膜を形成する成膜工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0015】
これによれば、前記薄肉の金属板、係る金属板の少なくとも一方の表面に高密度で形成され且つその最深部に透過部を有する凹部、および係る凹部の最深部で安定した水素分離機能を果たす前記金属膜などを備えた水素分離透過膜を確実且つ安価に製造することができる。
尚、上記製造方法は、上記成膜工程の後で、熱処理する加熱工程を有する水素分離透過膜の製造方法としても良い。これにより、互いに逆向きの対の凹部間の透過部に位置する対の金属膜を一体化したり、一方の金属膜と他方の異なる金属膜とからなる合金膜を形成することが可能となる。しかも、金属板の内部応力の緩和や金属板と金属膜などとの密着力を高めることも可能となる。
【0016】
また、本発明には、前記凹部は、エッチングによって前記金属板における一方の表面に形成され、係る凹部の内面に前記金属膜または合金膜を形成すると共に、上記金属板における反対側の表面からエッチングによって別の凹部を形成するに際し、上記凹部にほぼ対向し且つ前記金属膜または合金膜が露出するようにしてエッチングする、水素分離透過膜の製造方法(請求項8)も含まれる。
これによれば、エッチングにより半球形状に先に形成した凹部の内面に被覆した金属膜などを、金属板における反対側の表面をエッチングして形成した対の凹部の最深部で露出させる。この結果、係る金属膜などは、両面が厚み方向で隣接する対の凹部の間に露出するため、水素分離作用を確実に果たすことができる。
【0017】
更に、本発明には、前記別の凹部の内面には、前記エッチングの後で、前記金属膜または合金膜が成膜される、水素分離透過膜の製造方法(請求項9)も含まれる。これによれば、金属板の両表面にほぼ対称で且つ逆向きに形成した対の凹部における最深部間の透過部において、両側の凹部の内面に形成した同じ金属膜または異なる金属膜を一体にして所望の厚みにできる。また、異なる金属膜を隣接された場合は、上記成膜工程の後で熱処理することにより合金膜が生成できる。
加えて、本発明には、前記成膜工程は、メッキまたはスパッタリングによって前記金属膜または合金膜を形成する、水素分離透過膜の製造方法(請求項10)も含まれる。これによれば、前記凹部の内面に前記金属元素の薄い金属膜を所望の厚みで精度良く被覆することが可能となる。尚、凹部を除いた金属板の表面に前記金属元素が付着するのを防ぐため、前記成膜工程において、係る表面には金属元素の剥離が容易なマスク(レジスト)が被覆される。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下において、本発明の実施に好適な形態を図面と共に説明する。
図1(A)は、本発明における1形態の水素分離透過膜1の部分断面を示す。
水素分離透過膜1は、図1(A)に示すように、金属板2と、その表面(両面)3,4において互いに対向し且つ対称に形成されたほぼ半球形状の凹部6,6と、係る対の凹部6,6の最深部同士の間に位置する透過部5と、係る透過部5を含む凹部6,6の内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPd(金属元素)からなるPd膜(金属膜)7およびPdと合金化し易いAg(金属元素)からなるAg(金属)膜8ならびに少なくとも透過部5付近に位置するPd−Ag合金膜Mと、を備えている。
上記金属板2は、図1(A)に示すように、板厚tが0.1mmのステンレス鋼(SUS316L)からなり、その両面3,4に対の凹部6,6が複数個ずつ平面視で格子状または千鳥状の位置に形成されている。また、各凹部6の半径Rは、0.05mm(上記板厚tの半分)である。尚、透過部5の金属板2の平面方向に沿った内径は約20μmであり、係る透過部5とこれに隣接する部分には、Pd−Ag合金膜Mのみが位置している。
【0019】
上記凹部6,6の内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9またはAu拡散層9が形成され、これらのAu層9またはAu拡散層9の上にPd膜7、Ag膜8、または合金膜Mが形成される。対の凹部6,6の最深部同士の間には、上記ステンレス鋼がなく、Pd−Ag合金膜Mのみが位置する透過部5が位置している。尚、Au層9は、Auストライクメッキにより形成されたメッキ用下地層、Pd膜7は厚みが4μmのPdメッキ膜、Ag膜8は厚みが1μmのAgメッキ膜である。また、Pd膜7およびAg膜8を真空中において、約600℃に1時間加熱(熱処理)することにより、両者が隣接して配置されている透過部5およびこれに隣接する部分には、Pd−Ag合金膜Mが形成される。更に、金属板2の表面3,4において、隣接する凹部6,6間のピッチ(中心間距離)は、0.2mm、即ち隣接する凹部6,6は、0.1mmの距離を隔てて離隔されている。
尚、図1(A)中のカッコ内に示すように、金属板2の表面4側に開口する凹部6の内面には、反対側の表面6に開口する凹部6の内面と同じくPd膜7を形成しても良い。係る形態では、透過部5には、Pd膜7,7のみからなる金属膜が形成されるため、前記合金化のための熱処理は省略しても良い。
【0020】
以上のような水素分離透過膜1によれば、板厚tが薄い金属板2の表面3,4に対の凹部6,6が複数個ずつ対称に形成されているため、後述するように凹部6,6をエッチングによって形成しても当該金属板2が何れかの表面3,4側に反ることなく平坦度を保つことができる。また、前記合金膜Mは、ほぼ半球形状を呈する凹部6,6の最深部の間に位置する少なくとも透過部5に形成されているため、その膜厚が10μm以下の薄さであっても、亀裂やピンホールなどの膜欠陥を生じににく、安定した水素分離(透過)機能を果たすことができる。しかも、上記合金膜Mおよびこれを得るためのPd膜7やAg膜8などの使用量を少なくできるため、低コストで製造することが可能となる。従って、薄肉で安定した水素分離機能を有するため、係る水素分離透過膜1を用いる改質器などの薄肉化および小型化にも寄与することが可能となる。
【0021】
図1(B)は、前記水素分離透過膜1の変形形態である水素分離透過膜1aの部分断面を示す。係る水素分離透過膜1aは、図1(B)に示すように、前記と同じ材質および板厚tの金属板2と、その表面(両面)3,4にほぼ対向し且つ平面方向にややずれて形成されたほぼ半球形状の凹部6,6と、係る凹部6,6の最深部同士の間に位置する透過部5aと、係る透過部5aを含む凹部6,6の内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPdからなる金属膜7およびこれと合金化し易いAgからなる金属膜8ならびにPd−Ag合金膜Mと、を備えている。図1(B)に示すように、金属板2の表面(両面)3,4にややずれて対向する対の凹部6,6の半径Rは、金属板の板厚tの半分よりもわずかに大きく、係る凹部6,6の最深部同士の間に位置する透過部5aは、やや傾くと共にその内径は約25μmと前記水素分離透過膜1の形態よりも大きい。
尚、金属板2の表面3,4に形成された対のずれた凹部6,6は、係る表面3,4に平面視で複数個ずつ格子状または千鳥状の位置に形成されている。
【0022】
図1(B)に示すように、金属板2の表面3,4にずれて開口する凹部6,6の内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9またはAu拡散層9が形成される。
また、金属板2の表面3に開口する凹部6の内面に沿って形成した厚みが4μmのPd膜7が形成され、または当該金属板2の表面4に開口する凹部6の内面に沿って形成した厚みが1μmのAg膜8が形成されている。更に、対のずれた凹部6,6の最深部同士間の透過部5aとその付近には、上記Pd膜7およびAg膜8の合金であり且つ厚みが約5μmのPd−Ag合金膜Mが位置している。
以上のような水素分離透過膜1aによっても、前記水素分離透過膜1と同様の作用および効果を得られ、特に透過部5aには比較的広い面積のPd−Ag合金膜Mが位置しているため、水素分離機能を一層効率良く果たすことができる。
尚、図1(B)中のカッコ内に示すように、金属板2の表面4側に開口する凹部6の内面には、反対側の表面3に開口する凹部6の内面と同じくPd膜7を形成し、透過部5aもPd膜(金属膜)7のみが位置する形態としても良い。
【0023】
図2(A)は、異なる形態の水素分離透過膜1bの部分断面を示す。
水素分離透過膜1bは、図2(A)に示すように、前記と同じ材質および板厚tの金属板2と、その表面(両面)3,4にほぼ対向し且つ対称に形成されたほぼ半球形状で大・小の凹部6a,6bと、係る対の凹部6a,6bの最深部同士の間に位置する透過部5bと、係る透過部5bを含む凹部6a,6bの内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPdからなる金属膜7およびこれと合金化し易いAgからなる金属膜8ならびにPd−Ag合金膜Mと、を備えている。
大・小で対の凹部6a,6bは、金属板2の表面3,4に平面視で格子状または千鳥状に多数配置されると共に、図2(A)に示すように、表面3,4に沿って交互に位置するように形成されている。大きな凹部6aの半径Rと小さな凹部6bの半径rとの合計は、金属板2の板厚t(0.1mm)と同じである。
金属板2は、係る凹部6a,6bを表面3,4に沿って交互に配置しているため、後述するように凹部6a,6bをエッチングによって形成しても、表面3,4の双方への反りが抑制されている。
【0024】
図2(A)に示すように、金属板2の表面3,4に対称に開口する凹部6a,6bの内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9またはAu拡散層9が形成されている。また、金属板2の表面3に沿って開口する凹部6b,6aの内面に沿って厚みが4μmのPd膜7が、当該金属板2の表面4に沿って開口する凹部6a,6bの内面に沿って厚みが1μmのAg膜8がそれぞれ形成され、対の凹部6a,6bの最深部同士間の透過部5bとその付近には、上記Pd膜7およびAg膜8の合金で且つ厚みが約5μmのPd−Ag合金膜Mが位置している。
以上のような水素分離透過膜1bによっても、前記水素分離透過膜1,1aと同様の作用および効果を得られ、水素分離機能を果たすことができる。
尚、図2(A)中のカッコ内に示すように、金属板2の表面4側に開口する凹部6a,6bの内面には、反対側の表面3に開口する凹部6b,6aの内面と同じくPd膜7を形成し、且つ透過部5bもPd膜7のみとしても良い。
【0025】
図2(B)は、前記水素分離透過膜1bの変形形態である水素分離透過膜1cの部分断面を示す。係る水素分離透過膜1cは、図2(B)に示すように、前記と同じ材質および板厚tの金属板2と、その表面(両面)3,4にほぼ対向し且つ平面方向にややずれて形成されたほぼ半球形状で大・小の凹部6a,6bと、係る対の凹部6a,6bの最深部同士の間に位置する透過部5cと、係る透過部5cを含む凹部6a,6bの内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPdからなる金属膜7およびこれと合金化し易いAgからなる金属膜8ならびに少なくとも透過部5c付近に位置するPd−Ag合金膜Mと、を備えている。
図2(B)に示すように、大きな凹部6aの半径Rと小さな凹部6bの半径rとの合計は、金属板2の板厚tの半分よりもわずかに大きく、大・小で対の凹部6a,6bの最深部同士の間に位置する透過部5cは金属板2の平面方向に対してやや傾くと共に、その内径は前記水素分離透過膜1bの形態よりも大きい。
尚、大小の凹部6a,6bは、金属板2の表面3,4に沿って交互に配置され、且つ表面3,4に複数個ずつ格子状または千鳥状の位置に形成されている。
【0026】
図2(B)に示すように、金属板2の表面3,4にややずれて開口する対の凹部6a,6bの内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9またはAu拡散層9が形成されている。また、金属板2の表面3に沿って開口する凹部6b,6aの内面に沿って厚みが4μmのPd膜7が、当該金属板2の表面4に沿って開口する凹部6a,6bの内面に沿って厚みが1μmのAg膜8が形成されている。更に、対凹部6a,6bの最深部同士間の透過部5cとその付近には、上記Pd膜7とAg膜8との合金で且つ厚みが約5μmのPd−Ag合金膜Mが位置している。以上のような水素分離透過膜1cによっても、前記水素分離透過膜1,1aと同様の作用および効果を得られ、水素分離機能を果たすことができる。
尚、図2(B)中のカッコ内に示すように、金属板2の表面4側に開口する凹部6a,6bの内面には、反対側の表面3に開口する凹部6b,6aの内面と同じくPd膜7を形成し、且つ透過部5cもPd膜7のみとても良い。
【0027】
図2(C)は、更に異なる形態の水素分離透過膜1dの部分断面を示す。
水素分離透過膜1dは、図2(C)に示すように、前記と同じ材質および板厚tの金属板2、その表面(両面)3,4に沿って交互に開口する大径で複数の凹部6c、係る凹部6cの最深部と反対側の表面4,3との間に位置する透過部5d、および係る透過部5dを含む凹部6cの内面に沿って形成され且つ水素透過性を有するPdからなる金属膜7、を備えている。図2(C)に示すように、各凹部6cの半径Rは、金属板2の板厚tと一致している。また、複数の凹部6cは、金属板2の表面3,4に沿って格子状または千鳥状に位置し、隣接する凹部6c同士は、当該金属板2の表面3,4に交互に開口する。このため、後述するように凹部6cをエッチングにより形成しても、金属板2の反りを抑制している。
【0028】
図2(C)に示すように、金属板2の表面3,4に交互に開口する複数の凹部6cの内面に沿って厚みが0.05μmのAu層9が形成されている。係るAu層9の上に沿って、各凹部6cの内面に厚みが4μmのPd膜7が形成されている。各凹部6cの最深部と反対側の表面3,4との間には、内径が30〜40μmの大きな透過部5dが位置すると共に、係る透過部5dとこれに隣接する部分には、上記Pd膜(金属膜)7のみが形成されている。
以上のような水素分離透過膜1dによっても、前記水素分離透過膜1などと同様の作用や効果を得られ、特に透過部5dには比較的広い面積のPd膜7が位置しているため、水素分離機能を更に効率良く果たすことができる。
尚、上記Au層9とPd膜7との間に、前記厚みのAg膜8を被覆し且つ前記熱処理を施すことにより、各凹部6cの内面および透過部5dにPd−Ag合金膜Mを形成することも可能である。
【0029】
図3は、前記水素分離透過膜1の製造方法に関する。
先ず、図3(A)に示すように、所要面積の表面3,4を有し板厚tが0.1mmのステンレス鋼(SUS316L)からな金属板2を用意する。
次に、金属板2の表面4に複数の貫通孔(パターン)を有する図示しない公知のエッチングレジスト(マスク)を配置した状態で、当該表面4をエッチングする。係るエッチングには、例えば塩化第2鉄水溶液(42〜47°Be(ボーメ))を上記表面4にスプレー状に吹き付けて行う。
その結果、図3(B)に示すように、金属板2の表面4に半径Rが0.05mmでほぼ半球形状の凹部6が複数上記貫通孔に隣接する当該表面4に平面視で千鳥状に形成される(凹部形成工程)。尚、互いに隣接する凹部6,6間の最小ピッチ(中心間距離)は、0.1mmである。
【0030】
次いで、上記レジストを配置した状態で、図3(C)に示すように、凹部6の内面に厚みが0.05μmのAu層9をAuストライクメッキにて形成する。
更に、図3(D)に示すように、上記の状態で、凹部6内のAu層9の上に厚みが4μmのPd膜7を、Pdメッキにより形成する(成膜工程)。この際、Au層9はPd膜7を被覆し易くするための下地材の働きを成す。尚、前記レジストは、この直後に剥離される。
更に、金属板2の上記凹部6を形成した表面4と反対側の表面3に、上記同様のレジストを配置し且つエッチングする。その結果、図3(E)に示すように、金属板2の表面3には、反対側の表面4の凹部6と対向し且つ互いに対称な対の凹部6が形成される(凹部形成工程)。
【0031】
この際、図3(e)に拡大して示すように、金属板2の表面3に開口する凹部6の最深部には、前記成膜工程で形成したAu層9およびPd膜7が露出し、金属板2のステンレス鋼がない内径約20μmの透過部5が形成される。
次に、図3(F)に示すように、金属板2の表面3に開口する凹部6の内面に、前記と同様にして厚みが0.05μmのAu層9を形成する。この際、対の凹部6,6のAu層9は、透過部5付近において一体化する。
更に、図3(G)に示すように、金属板2の表面3に開口する凹部6内のAu層9の上に、前記と同様にして厚みが1μmのAg膜8を形成する(成膜工程)。この際、Au層9は、Ag膜8を被覆し易くするための下地材の働きを成す。
【0032】
そして、金属板2の表面3に被覆したレジストを剥離した後、上記対の凹部6,6などを多数形成した当該金属板2を真空中で600℃に1時間加熱(熱処理)する。その結果、Au層9は、金属板2のステンレス鋼中に拡散すると共に、透過部5において隣接していた前記Pd膜7と上記Ag膜8とは互いに拡散しあって、Pd−Ag合金膜Mとなる。この結果、前記図1(A)で示したものと同様な水素分離透過膜1を得ることができる。
以上のような水素分離透過膜1の製造方法によれば、薄肉の金属板2、その表面3,4に高密度で形成され且つ透過部5を最深部に有する対称な凹部6,6、および係る凹部6,6の最深部間の透過部5で安定した水素分離機能を果たす前記合金膜Mを備えた水素分離透過膜1を確実且つ安価に製造することができる。
尚、金属板2の表面3に開口する凹部6の内面にもPd膜7を形成しても良く、この際は前記熱処理を省略ができる。また、Pd膜7、Ag膜8、およびAu層9は、スパッタリングにより形成しても良い。更に、上記製造方法において、金属板2の表面3,4に対の凹部6,6を平面方向にややずらして形成することで、前記図1(B)で示した水素分離透過膜1aを製造することも可能である。
【0033】
図4は、前記水素分離透過膜1bの製造方法に関する。
先ず、図4(A)に示すように、板厚tが0.1mmの前記ステンレス鋼からなる金属板2の表面3,4に前記同様のエッチングレジストを配置し且つエッチングすることにより、比較的大きな半径Rでほぼ半球形状の凹部6a,6aを形成する(凹部形成工程)。表面3の凹部6aと表面4の凹部6aとは、平面視において半径Rよりも長く離れている。尚、上記凹部6aの半径Rは、金属板2の板厚tの半分よりもやや大きく設定されている。
次に、図4(B)に示すように、上記レジストを配置した金属板2の表面3,4に開口する各凹部6aの内面に、厚みが0.05μmのAu層9をAuストライクメッキにより形成する。その後、表面3に開口する凹部6a内のAu層9上に、厚みが4μmのPd膜7をPdメッキにより形成し、表面4に開口する凹部6a内のAu層9上に厚み1μmのAg膜8を、Agメッキで形成する(成膜工程)。尚、上記レジストは、この直後に剥離される。
【0034】
更に、金属板2の表面3,4に別のパターンを有するエッチングレジストを配置し且つエッチングすることにより、図4(C)に示すように、上記各凹部6aに対向し且つ互いに対称で比較的小径の半径rを有するほぼ半球形の凹部6b,6bを形成する(凹部形成工程)。係る凹部6bの半径rと凹部6aの半径Rとの合計は、金属板2の板厚tと一致する。各凹部6bの最深部には、図4(C)に示すように、反対側の凹部6aの最深部に位置するAu層9とPd膜7またはAg膜9が露出する透過部5bが位置する。透過部5bの内径は、約20μmである。
【0035】
次いで、図4(D)に示すように、上記レジストを配置した金属板2の表面3,4開口する各凹部6bの内面に、厚みが0.05μmのAu層9をAuストライクメッキにより形成した後、表面3に開口する凹部6b内のAu層9上に厚みが4μmのPd膜7をPdメッキで形成し、表面4に開口する凹部6b内のAu層9上に厚みが1μmのAg膜8をAgメッキで形成する(成膜工程)。これらの直後に上記レジストを剥離する。
そして、上記凹部6a,6b、Pd膜7、Ag膜8などを有する金属板2を、真空中で600℃に1時間加熱(熱処理)する。その結果、Au層9は、金属板2のステンレス鋼中に拡散すると共に、透過部5で隣接していた前記Pd膜7と上記Ag膜8とは互いに拡散しあって、Pd−Ag合金膜Mとなる。この結果、前記図2(A)で示した水素分離透過膜1bを得ることができる。
【0036】
以上のような水素分離透過膜1bの製造方法によっても、薄肉の金属板2、その表面に3,4に高密度で形成され且つ透過部5bを最深部に有する対称な凹部6a,6b、およびこれらの最深部で安定した水素分離機能を果たす前記合金膜Mを備えた水素分離透過膜1bを確実且つ安価に製造することができる。
尚、前記凹部6bの内面にもPd膜7を形成しても良く、この際には前記熱処理を省略することができる。また、Pd膜7、Ag膜8、およびAu層9は、スパッタリングにより形成しても良い。更に、上記製造方法において、金属板2の表面3,4に対の凹部6a,6bを平面方向にややずらして形成することにより、前記図2(B)で示した水素分離透過膜1cを製造することも可能である。
【0037】
図5は、前記水素分離透過膜1dの製造方法に関する。
先ず、図5(A)に示すように、板厚tが0.1mmの前記ステンレス鋼からな金属板2を用意する。次に、係る金属板2の表面3,4に複数の図示しないエッチングレジスト(マスク)を配置した状態で、当該表面3,4をエッチングする。
その結果、図5(B)に示すように、金属板2の表面3,4に上記金属板2の板厚tと同じ半径Rでほぼ半球形状の凹部6c,6cを形成する(凹部形成工程)。
表面3の凹部6cと表面4の凹部6cとは、平面視において重複しない程度に短い間隔で離れている。また、各凹部6cの最深部には、反対側の表面3,4との間に内径が約30〜40μmの透過部5dが位置している。
【0038】
更に、表面3,4に上記レジストを配置した状態で、図5(C),(D)に示すように、各凹部6cの内面に厚みが0.05μmのAu層9をAuストライクメッキにより形成した後、その上に厚みが4μmのPd膜7を、Pdメッキによって形成する(成膜工程)。この際、各凹部6cの最深部に位置する透過部5dには、上記Pd膜7のみが形成される。
最後に、上記レジストを剥離する。これにより、図5(D)に示すように、前記図2(C)で示した水素分離透過膜1dが得られる。
【0039】
以上のような水素分離透過膜1dの製造方法によっても、薄肉の金属板2、その表面3,4に高密度で形成され且つ透過部5dを最深部に有する対称な凹部6a,6b、およびこれらの最深部の透過部5dで安定した水素分離機能を果たすPd膜7を備えた水素分離透過膜1dを確実且つ安価に製造することができる。
尚、上記各Pd膜7の上に厚みが1μmのAg膜8を形成し、更に前記熱処理を施すことにより、各透過部5dを含む各凹部6cの内面に沿ってPd−Ag合金膜Mを有する水素分離透過膜1dを得ることも可能である。また、Pd膜7やAg膜8は、スパッタリングによって形成しても良い。
【0040】
【実施例】
ここで、本発明の水素分離透過膜の具体的な実施例について説明する。
直径が35mmの円形である表面3,4を有し且つ前記板厚tが0.1mmのステンレス鋼(SUS316L)からなる金属板2を4枚用意した。
このうち、2枚の金属板2を実施例1,2用として、それらの表面3,4に複数の貫通孔を有するエッチングレジストを配置し且つエッチングすることにより、表1に示す直径を有する対の凹部6,6を当該表面3,4に対向して対称に順次形成した。これらの凹部6は、金属板2の表面3,4に平面視で格子状に配置され、隣接する凹部6,6間のピッチは、各凹部6の直径の2倍である。
【0041】
また、対の凹部6,6の最深部同士の間には、表1に示す内径の透過部5が形成されていた。係る透過部5を含む表面3側の各凹部6の内面に、厚み0.05μmのAu層9および厚み4μmのPd膜7を前記メッキにより予め形成し、後で開口された表面4側の各凹部6の内面には、上記Au層9および厚みが1μmのAg膜8を追って前記メッキにより形成した。一方の金属板2を真空中で1時間加熱する熱処理により、各透過部5にPd−Ag膜Mを有する前記図1(A)で示した水素分離透過膜1と同様な実施例2の水素分離透過膜(1)を得た。
尚、上記熱処理をしなかったものを実施例1の水素分離透過膜(1)とした。
【0042】
一方、残り2枚の金属板2を比較例1,2用とし、それぞれの一方の表面3に予め厚みが0.05μmのAu層9、厚みが1μmのAg膜8、および厚みが4μmのPd膜7を前記メッキによって形成した後、他方の表面4から直径0.2mm(最深部の深さ0.1mm)のほぼ半球形の凹部6,6をそれらの直径の2倍のピッチで格子状に形成した。このうち、1枚の金属板2を真空中で600℃に1時間加熱する熱処理を施した。この結果、各凹部6の最深部と反対側の表面3との間に、表1示す内径の透過部が位置し、且つ係る透過部にはPd−Ag合金膜Mが形成されている比較例2の水素分離透過膜を得た。尚、上記熱処理をしなかった残りのものを比較例1の水素分離透過膜とした。
【0043】
実施例1,2および比較例1,2の水素分離透過膜を定盤の表面上に載置し、目視によって反りの有無を調査し、その結果を表1に示した。
また、各例の水素分離透過膜を図示しないVCR構造のホルダに個別にセットし、室温で一方の表面からN2ガスを供給して0.2MPaの圧力をかけ、他方の表面側で当該N2ガスの透過量を測定した。その結果も表1に示した。
更に、上記ホルダと同様の評価装置を用い、各例の水素分離透過膜について個別にH2ガスの透過試験を行った。その結果も表1に示した。尚、係る試験の条件は、測定温度:400℃、N2およびH2ガスの混合ガス供給(一次)側の圧力:0.8MPa、H2ガス透過(二次)側の圧力:0.1MPa、並びに供給ガスの組成比(体積比):H2ガス対N2ガス=64:36であった。
併せて、各例の水素分離透過膜におけるH2ガスの透過後における純度を、ガスクロマトグラフによって個別に測定した。その結果も表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1によれば、実施例1,2の水素分離透過膜(1)には、何れの表面3,4も平坦で反りは確認されなかった。これに対し、比較例1,2の水素分離透過膜には、複数の凹部6,6を片側の表面にのみ形成したため、係る表面側が凹むような反りが確認された。係る結果は、実施例1,2の水素分離透過膜(1)では、金属板2の両面に開口し且つ互いに対称な対の凹部6,6を複数組有し、両面のバランスが保たれたため、何れの表面側へも反らなかったものである。
また、表1によれば、実施例1,2の水素分離透過膜(1)は、N2ガスを全く透過しなかったのに対し、比較例1,2の水素分離透過膜は、相当量のN2ガスを透過していた。係る結果は、比較例1,2におけるPd膜7およびPd−Ag合金膜Mには、上記反りの影響も含めたピンホールや亀裂などの膜欠陥が生じたことに起因しており、実施例1,2のPd膜7およびPd−Ag合金膜Mには、上記膜欠陥がなかったことによる。
【0046】
更に、表1によれば、実施例1,2の水素分離透過膜(1)では、相当量のH2ガスが透過すると共に、これらの純度を極めて高いことが示されている。
一方、比較例1,2の水素分離透過膜では、上記膜欠陥によりH2ガス以外のガスの透過量が多過ぎたため、H2ガスを分離できなかった。
係る結果は、比較例1,2のPd膜7およびPd−Ag合金膜Mは、上記膜欠陥によって水素分離機能が働かなかったのに対し、実施例1,2の健全なPd膜7およびPd−Ag合金膜Mは、十分な水素分離機能を発揮したことによる。
尚、実施例2のPd−Ag合金膜Mは、実施例1のPd膜7よりも水素分離機能が優れていたため、H2ガスの透過量が多く且つその純度もやや高くなった。以上の実施例1,2の結果により、本発明による水素分離透過膜の作用が理解され且つその効果が裏付けられたことも容易に理解されよう。
【0047】
本発明は、以上において説明した実施の形態および実施例に限定されない。
例えば、本発明の金属膜には、前記Pd膜7のほか、Ti、Zr、Hf、V、またはNbの何れからなるものとしても良い。更に、これらの金属元素と合金化し易い前記金属元素には、前記Agに限らず、Pt、Ru、Au、Cu、またはNi、あるいはこれらの少なくとも一種以上を用いても良い。
また、前記金属板の材質は、前記ステンレス鋼(SUS316L)以外のステンレス鋼や、NiまたはNi基合金、AlまたはAl基合金、CuまたはCu基合金、あるいは、TiまたはTi基合金の何れかを適用することも可能である。
更に、前記成膜工程において、予め用意したPd−Ag合金を、スパッタリングによって前記凹部の内面に形成することも可能である。
また、前記凹部のほぼ半球形状には、金属板2の表面3,4寄りが板厚方向に短い円柱形で且つその最深部寄りが半球形を呈する形態も含まれる。
更に、メッキ下地用でストライクメッキにより形成する前記Au層9に替えて、メッキ下地用のAg層、Ni層、Cu層などをストライクメッキで形成しても良い。この場合、ストライクメッキによる上記Ag層などの上に、PdメッキやAgメッキができ、且つ係るPdメッキやAgメッキと合金化した際に水素透過性を低下させないことが肝要である。
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲にて適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は本発明の水素分離透過膜の1形態を示す部分断面図、(B)はその変形形態を示す部分断面図。
【図2】(A)は異なる形態の水素分離透過膜を示す部分断面図、(B)はその変形形態を示す部分断面図、(C)は更に異なる形態の水素分離透過膜を示す部分断面図。
【図3】(A)〜(G)は図1(A)の水素分離透過膜の製造方法を示す模式的断面図、(e)は(E)中の一点鎖線部分eの拡大図。
【図4】(A)〜(D)は図2(A)の水素分離透過膜の製造方法を示す模式的断面図。
【図5】(A)〜(D)は図2(C)の水素分離透過膜の製造方法を示す模式的断面図。
【符号の説明】
1,1a〜1d…水素分離透過膜
2…………………金属板
3,4……………表面
5,5a〜5d…透過部
6,6a〜6c…凹部
7…………………Pd膜(金属膜)
8…………………Ag膜(合金用金属元素の膜)
M…………………Pd−Ag膜(合金膜)
t…………………板厚
Claims (10)
- 金属板における少なくとも一方の表面に形成されたほぼ半円球形状の凹部と、
上記凹部の最深部と上記金属板の反対側の表面との間、または当該反対側の表面にほぼ対称に形成された別の凹部との間に位置する透過部と、
少なくとも上記透過部に形成され且つ水素透過性を有する金属元素からなる金属膜、または係る金属元素およびこれと合金化し易い金属元素からなる合金膜と、を含む、ことを特徴とする水素分離透過膜。 - 前記凹部は、前記金属板における両側の表面において、互いに対向し且つほぼ対称にしてそれぞれ形成されていると共に、
上記対の凹部における各最深部に位置する透過部に前記金属膜または合金膜が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の水素分離透過膜。 - 前記透過部の内径は、50μm以下である、ことを特徴とする請求項1または2に記載の水素分離透過膜。
- 前記凹部における最深部の深さは、前記金属板の板厚の半分以上で且つ係る板厚以下である、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の水素分離透過膜。
- 前記水素透過性の金属元素は、Pd、Ti、Zr、Hf、V、またはNbの何れかであると共に、これらの金属元素と合金化し易い前記金属元素は、Pt、Ru、Ag、Au、Cu、またはNiの少なくとも一種以上である、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項に記載の水素分離透過膜。
- 前記金属板は、ステンレス鋼、NiまたはNi基合金、AlまたはAl基合金、CuまたはCu基合金、あるいは、TiまたはTi基合金の何れかからなる、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の水素分離透過膜。
- 金属板における少なくとも一方の表面にほぼ半円球形状の凹部を形成し、係る凹部の最深部と上記金属板の反対側の表面との間、または当該反対側の表面にほぼ対称に形成された別の凹部との間に位置する透過部を形成する凹部形成工程と、
上記凹部の内面のうち少なくとも透過部に水素透過性を有する金属元素からなる金属膜、または係る金属元素およびこれと合金化し易い金属元素からなる合金膜を形成する成膜工程と、を含む、ことを特徴とする水素分離透過膜の製造方法。 - 前記凹部は、エッチングによって前記金属板における一方の表面に形成され、係る凹部の内面に前記金属膜または合金膜を形成すると共に、
上記金属板における反対側の表面からエッチングによって別の凹部を形成するに際し、上記凹部にほぼ対向し且つ上記金属膜または合金膜が露出するようにしてエッチングする、ことを特徴とする請求項7に記載の水素分離透過膜の製造方法。 - 前記別の凹部の内面には、前記エッチングの後で、前記金属膜または合金膜が成膜される、ことを特徴とする請求項8に記載の水素分離透過膜の製造方法。
- 前記成膜工程は、メッキまたはスパッタリングによって前記金属膜または合金膜を形成する、ことを特徴とする請求項7乃至9の何れか一項に記載の水素分離透過膜の製造方法。
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2003
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