つぎにこの発明を図を参照してより具体的に説明する。先ず、全体的な制御系統について説明すると、図2は、原動機の一例としてのエンジン1および自動変速機2についての制御系統図を示しており、アクセルペダル3の踏み込み量に応じた信号がエンジン用電子制御装置4に入力されている。
またエンジン1の吸気配管には、スロットルアクチュエータ5によって駆動される電子スロットルバルブ6が設けられている。そしてこの電子スロットルバルブ6は、アクセルペダル3の踏み込み量に応じてエンジン用電子制御装置4からスロットルアクチュエータ5に制御信号が出力され、その制御量に応じて開度が制御されるようになっている。
エンジン1を制御するためのエンジン用電子制御装置4は、中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM,ROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするものであって、このエンジン用電子制御装置4には、上記のアクセルペダル3の踏み込み量に応じた信号に加えて、エンジン回転速度Ne、吸入空気量Q、吸入空気温度、電子スロットルバルブ6の開度を検出するアイドルスイッチ、車速、エンジン水温、ブレーキスイッチの出力信号などが、制御データとして入力されている。
また、エンジン用電子制御装置4は、上記のスロットルアクチュエータ5の制御に加えて、自動変速機2の変速時などにおいて、エンジン1のトルク制御のために燃料噴射装置7や点火時期を変更するイグナイタ8などに信号を出力するように構成されている。
上記エンジン1に連結された自動変速機2は、油圧を電気的に制御して変速やロックアップクラッチの係合・解放の制御などを行ういわゆる電子制御式の自動変速機である。そして、自動変速機2の油圧を制御する油圧制御装置9は、主として変速を実行するための3つのシフトソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL3と、主としてエンジンブレーキ状態を制御するソレノイドバルブSOL4と、主としてロックアップクラッチを制御するリニアソレノイドバルブSLUと、スロットル開度に応じてライン圧を制御するリニアソレノイドバルブSLTと、主としてアキュームレータの背圧を制御するリニアソレノイドバルブSLNとを備えている。
この油圧制御装置9における各ソレノイドバルブに制御信号を出力する自動変速機用電子制御装置10が設けられている。この自動変速機用電子制御装置10は、前述したエンジン用電子制御装置4と同様に、中央演算処理装置(CPU)および記憶装置(RAM,ROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするものである。したがって、必要に応じてエンジン用電子制御装置4と、自動変速機用電子制御装置10とを統合・一体化することができる。
この自動変速機用電子制御装置10には、自動変速機2の変速やロックアップクラッチを制御するために、予め変速マップや演算式が記憶されている。この変速マップは、スロットル開度および車速を基準とするものであり、変速マップには、低速段から高速段にアップシフトすることを許可するアップダウンシフト線、高速段から低速段にダウンシフトすることを許可するダウンシフト線、ロックアップクラッチの係合・解放領域などが設定されている。そして、自動変速機用電子制御装置10に入力されるデータに基づく演算を行い、その演算結果に基づいた制御信号を前記各ソレノイドバルブに出力して変速やロックアップクラッチの係合・解放の制御ならびに変速時の過渡油圧の制御などを実行するように構成されている。
そして自動変速機用電子制御装置10には、制御データとして、上記の電子スロットルバルブ6の開度、車速、エンジン水温、ブレーキスイッチの出力信号に加えて、自動変速機2のレンジを選択するシフト装置(図示せず)のマニュアルシフトスイッチの出力信号、パターンセレクトスイッチの出力信号、後述するクラッチC0の回転数を検出するC0センサからの出力信号、第2クラッチC2の回転数を検出するC2センサの出力信号、自動変速機2の油温、オーバードライブスイッチの出力信号などが入力されている。
上記各電子制御装置4,10は、相互にデータ通信可能に接続されており、特に自動変速機用電子制御装置10からエンジン用電子制御装置4には、各変速段を設定する信号が送信されており、またエンジン用電子制御装置4から自動変速機用電子制御装置10には、エンジン1の一回転当たりの吸入空気量(Q/Ne)が送信されている。
上記の自動変速機2は、前進5段・後進1段の変速段を設定することができ、そのギヤトレーンの一例を図3に示してある。図3において、自動変速機2はトルクコンバータ13を介してエンジン1に連結されている。このトルクコンバータ13は、エンジン1のクランク軸14に連結されたポンプインペラ15と、自動変速機2の入力軸16に連結されたタービンランナー17と、これらポンプインペラ5とタービンランナー17との間を直結するロックアップクラッチ18と、一方向クラッチ19によって一方向の回転が阻止されているステータ20とを備えている。
上記自動変速機2は、ハイおよびローの2段の切り換えを行う副変速部21と、後進段および前進4段の切り換えが可能な主変速部22とを備えている。副変速部21は、サンギヤS0、リングギヤR0、およびキャリヤK0に回転可能に支持されてそれらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合わされているピニオンP0からなる遊星歯車装置23と、サンギヤS0とキャリヤK0との間に設けられたクラッチC0および一方向クラッチF0と、サンギヤS0とハウジング29との間に設けられたブレーキB0とを備えている。
主変速部22は、サンギヤS1、リングギヤR1、およびキャリヤK1に回転可能に支持されてそれらサンギヤS1およびリングギヤR1に噛み合わされているピニオンP1からなる第1遊星歯車装置24と、サンギヤS2、リングギヤR2、およびキャリヤK2に回転可能に支持されてそれらサンギヤS2およびリングギヤR2に噛み合わされているピニオンP2からなる第2遊星歯車装置25と、サンギヤS3、リングギヤR3、およびキャリヤK3に回転可能に支持されてそれらサンギヤS3およびリングギヤR3に噛み合わされているピニオンP3からなる第3遊星歯車装置26とを備えている。
上記サンギヤS1とサンギヤS2とは互いに一体的に連結され、リングギヤR1とキャリヤK2とキャリヤK3とが一体的に連結され、そのキャリヤK3は出力軸27に連結されている。また、リングギヤR2がサンギヤS3に一体的に連結されている。そして、リングギヤR2およびサンギヤS3と中間軸28との間に第1クラッチC1が設けられ、サンギヤS1およびサンギヤS2と中間軸28との間に第2クラッチC2が設けられている。
またブレーキ手段として、サンギヤS1およびサンギヤS2の回転を止めるためのバンド形式の第1ブレーキB1がハウジング29に設けられている。また、サンギヤS1およびサンギヤS2とハウジング29との間には、第1一方向クラッチF1およびブレーキB2が直列に設けられている。この第1一方向クラッチF1は、サンギヤS1およびサンギヤS2が入力軸6と反対の方向へ逆回転しようとする際に係合させられるように構成されている。
キャリヤK1とハウジング29との間には第3ブレーキB3が設けられており、リングギヤR3とハウジング29との間には、第4ブレーキB4と第2一方向クラッチF2とが並列に設けられている。この第2一方向クラッチF2は、リングギヤR3が逆回転しようとする際に係合させられるように構成されている。上記クラッチC0,C1,C2、ブレーキB0,B1,B2,B3,B4は、油圧が作用することにより摩擦材が係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして副変速部23におけるクラッチC0の回転数、すなわち入力回転数を検出するC0センサ30と、主変速部22における第2クラッチC2の回転数を検出するC2センサ31が設けられている。なお、これらのセンサ30,31は、前述したように自動変速機用電子制御装置10に接続されている。
上記の自動変速機2では、前進5段と後進段とを設定することができ、これらの変速段を設定するための各摩擦係合装置の係合・解放の状態を図4の係合作動図表に示してある。なお、図4において○印は係合状態、◎印は係合してもトルク伝達に関係しないことを、●印はエンジンブレーキを効かせるために係合することを、空欄は解放状態をそれぞれ示す。
すなわち、上記構成の自動変速機2においては、リバースレンジからドライブレンジにマニュアルシフトされた場合は、第2クラッチC2および第4ブレーキB4が解放され、第1クラッチC1が係合されるように構成されている。このための油圧回路の一部が図5に示されている。各レンジを設定するためのマニュアルバルブ32は、従来使用されているものと同様である。このマニュアルバルブ32は、シフト装置(図示せず)によってスプールが移動され、入力ポート32AをDレンジポート33やRレンジポート34などに選択的に連通させるように構成されている。このRレンジポート34には、第2クラッチC2および第4ブレーキB4が接続されている。
また、Dレンジポート33には油圧回路35を介して第1クラッチC1が接続されている。さらに油圧回路35に並列して油圧回路36が配置され、油圧回路36が、オリフィスコントロールバルブ37の入力ポート38に接続されている。このオリフィスコントロールバルブ37は、スプリングにより所定方向に押圧されるスプールを備えた公知の構造のものである。
そして、オリフィスコントロールバルブ38の信号圧入力ポート39には、リニアソレノイドバルブSLUの信号圧PSLUが入力されるように構成されている。また、オリフィスコントロールバルブ37の出力ポート40および制御ポート41が、第1クラッチC1に接続されている。
なお、リニアソレノイドバルブSLUは、デューティ制御されてデューティ比DSLUに応じた信号圧PSLUを出力するバルブである。そのデューティ比DSLUと信号圧PSLUとの関係は、図5に付記してあるとおりであり、デューティ比DSLUが大きくなるに従って信号圧PSLUが上昇するように構成されている。
前記油圧回路35の中途部位には、オリフィス42を介してアキュームレータ43が配置されている。このアキュームレータ43はスプリングおよびピストンを備えた公知の構造のものである。なお、前記油圧回路35における油圧回路36との分岐位置とアキュームレータ42との間には、オリフィス43が配置されている。
上記構成において、リニアソレノイドバルブSLUの信号圧PSLUが信号圧入力ポート39に入力された場合は、オリフィスコントロールバルブ37のスプールがスプリングの弾性力に抗して移動し、入力ポート38と出力ポート40とが遮断される。一方、リニアソレノイドバルブSLUの信号圧PSLUが信号圧入力ポート39に入力されなくなった場合は、オリフィスコントロールバルブ37のスプールがスプリングの弾性力により移動し、入力ポート38と出力ポート40とが接続される。
ところで、図3に示されたクラッチやブレーキなどの摩擦係合装置は、負荷されるトルクによって滑りを生じない範囲で必要十分なトルク容量を持つように構成され、また変速時には、実際のトルクに適したトルク容量になるように制御される。
具体的には、後進(リバース)レンジからニュートラルレンジを経て前進(ドライブ)レンジにマニュアルシフトした場合、変速過渡期の摩擦係合装置の油圧の制御は、それぞれの後進段または前進段に関与する摩擦係合装置に付設してあるアキュームレータの背圧を制御することにより行われる。このアキュームレータの背圧の制御は、単一のアキュームレータコントロールバルブの出力圧によって制御されている。
そして、図3に示されたギヤトレーンは後進段の変速比が大きいため、第2クラッチC2および第4ブレーキB4を急激に解放したのではシフトショックが生じるため、摩擦係合装置の解放を緩慢に行っている。具体的には第2クラッチC2のアキュームレータ背圧を低くしてその解放を促すとともに、第4ブレーキB4の油圧のドレーン速度を制御することにより、自動変速機2の出力トルクの変動割合を小さくし、そのショックを防止している。
これに対して、ドライブレンジで設定される第1速は、第1クラッチC1を係合することにより達成され、第1速を迅速に達成してトルク容量を確保する必要から、第1クラッチC1のアキュームレータ背圧を高く設定し、第1クラッチC1の係合を速めるように制御している。つまり、リバースレンジからニュートラルレンジを経てドライブレンジにマニュアルシフトした場合、リバースレンジからニュートラルレンジへのシフトの際のアキュームレータ背圧と、それに続くニュートラルレンジからドライブレンジへのシフトに伴うアキュームレータ背圧とを異ならせる制御が行われる。
このような変速過渡期における油圧制御を行うために、油圧制御装置9には、トルクに応じた油圧を発生させるための構成が組み込まれている。その一例を図6に示してある。
図6において、オイルポンプ60によって汲み上げたオイルをライン圧PLに調圧するプライマリーレギュレータバルブ61が設けられている。このプライマリレギュレータバルブ61はスプールタイプのバルブであって、入出力ポート62にオイルポンプ60が連通されている。また、入出力ポート62に、オリフィス63を介して連通させたフィードバックポート64が、スプールを挟んでスプリング65とは反対側に形成されている。また、スプリング65による押圧力と同方向に信号圧PSLTが作用するように、リニアソレノイドバルブSLTが接続されている。したがって、スプリング力および信号圧PSLTによる軸方向力と、フィードバック圧とを対抗させ、フィードバック圧による軸方向力の方が大きい場合に、入出力ポート62をドレーンポート66に連通させることにより、スプリング力および信号圧PSLTに応じたライン圧PLをライン圧油路67に発生させるように構成されている。
なお、リニアソレノイドバルブSLTは、デューティ制御されてデューティ比DSLTに応じた信号圧PSLTを出力するバルブである。そのデューティ比DSLTと信号圧PSLTとの関係は、図6に付記してあるとおりであり、デューティ比DSLTが大きくなるに従って信号圧PSLTが低下するように構成されている。
このデューティ比DSLTを決定する項目には、スロットル開度に応じて決められる項目を含んでおり、スロットル開度が増大するに従ってデューティ比DSLTが小さくなるように制御される。すなわちスロットル開度が増大してエンジン出力が大きくなった場合には、プライマリーレギュレータバルブ61の調圧レベルが高くなり、その結果、ライン圧PLが高くなって摩擦係合装置の係合圧、すなわちトルク容量が増大する。したがって、摩擦係合装置のトルク容量が負荷されるトルクに適した値になり、所定の変速段を設定でき、また同時に過剰な油圧を発生させないので、動力損失が防止される。
また図6に示すように、上記の油圧制御装置9には、アキュームレータコントロールバルブ68が設けられている。このアキュームレータコントロールバルブ68は、前述した第1クラッチC1,第2クラッチC2や、ブレーキB0,第2ブレーキB2に連通させてあるアキュームレータ69,70,71,72の背圧PACCを制御する調圧バルブである。このアキュームレータコントロールバルブ68は、前記リニアソレノイドバルブSLNによって過渡的な調圧レベルを変更するとともに、基本油圧をリニアソレノイドバルブSLTによって変更するように構成されている。
すなわちこのアキュームレータコントロールバルブ68は、ライン圧PLの入力される入力ポート73を出力ポート74とドレーンポート75とに選択的に連通させるスプールを備えており、その一端側にスプリング76が配置されるとともに、このスプリング76と同方向に信号圧PSLTによる押圧力が生じるようにリニアソレノイドバルブSLTが接続されている。これとは反対側の端部には、出力ポート74にオリフィス77を介して連通させたフィードバックポート78が形成されている。そして出力ポート74が各アキュームレータ69,70,71,72の背圧室に連通されている。
したがって、リニアソレノイドバルブSLTの信号圧PSLTが高くなると、アキュームレータコントロールバルブ68の調圧レベルが高くなり、アキュームレータコントロールバルブ68の出力圧、すなわちアキュームレータ背圧PACCが高くなるように構成されている。前記リニアソレノイドバルブSLNは、デューティ制御されてデューティ比DSLNに応じた信号圧PSLNを出力するバルブである。そのデューティ比DSLNと信号圧PSLNとの関係は、図6に付記してあるとおりであり、デューティ比DSLNが大きくなるに従って信号圧PSLNが上昇するように構成されている。
(第1制御例)
つぎに、上記ハード構成を有する自動変速機の制御装置の一制御例を、図1のフローチャートおよび図5の油圧回路図、ならびに図7のタイムチャートに基づいて説明する。まず、シフト装置がリバースレンジに設定されている場合は、入力ポート32に入力されたライン圧PLが、Rレンジポート34を介して第2クラッチC2および第4ブレーキB4に供給され、第2クラッチC2および第4ブレーキB4が係合している。
そして、シフト装置がリバースレンジからドライブレンジにマニュアルシフトされたか否かが判断される(ステップ1)。このステップ1の判断は、リバースレンジスイッチがONからOFFに切り換えられたこと、ニュートラルレンジスイッチがONからOFFに切り換えられたこと、電子スロットルバルブ6のアイドルスイッチがONされていること、ブレーキスイッチがONされていること、の条件に基づいて行われる。
上記全ての条件が満たされた場合、言い換えれば、シフト装置がリバースレンジからドライブレンジにマニュアルシフトされ、かつ、マニュアルシフトの時点で運転者に車両を加速させる意図がない場合にはステップ1で肯定判断され、ステップ2に進む。シフト装置がドライブレンジに設定された場合は、第2クラッチC2および第4ブレーキB4に作用していた油圧がドレーンされ、第2クラッチC2および第4ブレーキB4が解放される。これと同時に、入力ポート32Aに入力されたライン圧PLが、Dレンジポート33に供給される。
そして、ステップ2では、上記条件が全て成立した時点から所定時間TMRDの間、リニアソレノイドバルブSLUから所定の信号圧PSLUが出力され、この信号圧PSLUがオリフィスコントロールバルブ37の信号圧入力ポート39に入力される。ここで、所定時間TMRDは、自動変速機2の油温をパラメータとするマップ値であり、予め自動変速機用電子制御装置10に設定されている。すなわち、自動変速機2の油温の低下にともなってその粘度が上昇し、油圧の伝達応答性が低下するからである。したがって、自動変速機2の油温が低下するほど、所定時間TMRDが可及的に短くなるような傾向のマップが設定されている。
上記信号圧PSLUが信号圧入力ポート39に入力されると、オリフィスコントロールバルブ37のスプールが、スプリングの弾性力に抗して移動し、入力ポート38と出力ポート40とが遮断される。このため、Dレンジポート33から出力されたライン圧PLが油圧回路35を介して第1クラッチC1に供給され、第1クラッチC1が係合される。ここで、油圧回路35を流れる油の量がオリフィス43により制限されるため、図7に実線で示すように、第1クラッチC1の係合が遅延されて可及的に低速度で係合される。また、第1クラッチC1に供給されるライン圧PLは、アキュームレータ43により一定の圧力に減圧され、変速に伴うショックが軽減される。
そして、所定時間TMRDが経過した後、リニアソレノイドバルブSLUの信号圧DSLUを零にする制御と、スクォート制御とが行われ(ステップ3)リターンされる。リニアソレノイドバルブSLUの信号圧DSLUが零に制御された場合は、オリフィスコントロールバルブ37の入力ポート38と出力ポート40とが接続され、Dレンジポートから出力されたライン圧PLが、油圧回路36および入力ポート38ならびに出力ポート40を介して第1クラッチC1に供給される。
また、スクォート制御が行われた場合は、直ちに第1速に設定せずに、一旦第2速または第3速、あるいはオーバードライブなどに設定した後、その後に第1速が設定されてショックが緩和される。
なお、ステップ1において、電子スロットルバルブ6のアイドルスイッチがOFFされ、かつ、ブレーキスイッチがOFFされていることが検出された場合は、運転者に車両を加速させる意図があることになる。したがって、自動変速機2に入力されるトルクの増大に応じたトルク容量を確保するため、第1クラッチC1の遅延制御を行うことなくリターンする。
以上のように、第1制御例によれば、リバースレンジからドライブレンジにマニュアルシフトされたことが検出された時点から、所定時間TMRDの間、第1クラッチC1に供給されるライン圧PLの油量が制限され、第1クラッチC1の係合が遅延される。このため、後進段を設定していた第2クラッチC2および第4ブレーキB4と、前進段を設定する第1クラッチC1とが、共に大きなトルク容量をもつこと、つまりタイアップが抑制されてショックを軽減できる。
ちなみに、図7に点線で示すクラッチ油圧は比較例を示している。この比較例では、後進段を設定する摩擦係合装置の油圧をドレーンする制御と、前進段の第1速を設定するクラッチに油圧を供給する制御とがほぼ並行して行われる。このため、後進段を設定する摩擦係合装置と、前進段の第1速を設定するクラッチとが、共に大きなトルク容量をもつ、いわゆるタイアップ状態になりショックが生じる。
なお、図1の制御例は、リバースレンジからニュートラルレンジにマニュアルシフトされた場合における第2クラッチC2のアキュームレータ(図示せず)の背圧と、ニュートラルレンジからドライブレンジにマニュアルシフトされた場合における第1クラッチC1のアキュームレータ43の背圧との関係に関わりなく適用可能である。すなわち、一方の背圧が他方の背圧よりも高く設定されている場合、または両方の背圧がほぼ同一に設定されている場合のいずれにも適用可能である。
また、図1のステップ2,3の制御内容の代わりに、C2センサ31により第2クラッチのC2の解放完了を検出した後に、第1クラッチC1の係合を開始させる制御内容の遅延手段を採用することも可能である。
(第2制御例)
つぎに、上記ハード構成を有する自動変速機の制御装置の他の制御例を、図6の油圧回路図および図8のフローチャートならびに図9のタイムチャートに基づいて説明する。この第2制御例は、この発明に対応する制御例である。まず、マニュアルシフトスイッチの検出信号に基づいて、リバースレンジが設定されていることを示すフラグ1が立てられているか否かが判断される(ステップ1)。ステップ1で肯定判断された場合は、その後にリバースレンジスイッチがOFFされたか否かが判断される(ステップ2)。
ここで、リバースレンジからニュートラルレンジにマニュアルシフトされた場合はステップ2で肯定判断され、ステップ3に進む。リバースレンジからニュートラルレンジにマニュアルシフトされた時点から、第2クラッチC2に作用する油圧PC2、および第4ブレーキB4に作用する油圧PB4が低下し、かつ、リニアソレノイドバルブSLNのデューティ比DSLNが、ほぼ一定の値αに制御される。
つまり、アキュームレータ背圧PACCが低圧に維持され、第2クラッチC2が緩やかに解放される。なお、第4ブレーキB4に作用する油圧PB4の低下割合は、第2クラッチC2に作用する油圧PC2の低下割合よりも小さく設定されている。この状態では、自動変速機2の出力トルクは負側でほぼ一定に維持される。
そして、ステップ3では、ドライブレンジスイッチがONされたか否か、つまり、ニュートラルレンジからドライブレンジにマニュアルシフトされたか否かが判断される。ニュートラルレンジに維持されたままであれば、ステップ3で否定判断され、リニアソレノイドバルブSLNのデューティ比DSLNの値がαに維持される(ステップ4)。
ついで、リバースレンジスイッチがOFFされてからs秒以内であるか否かが判断され(ステップ5)、ステップ5で肯定判断された場合はリターンされる。また、リバースレンジスイッチがOFFされてからs秒を越えた場合はニュートラルレンジが維持されていることになるため、ステップ5で否定判断されてステップ6に進む。ステップ6ではフラグ1が零に戻され(ステップ6)、リターンされる。
また、ステップ3で肯定判断された場合は、前進段の第1速を設定する第1クラッチC1に油圧PC1の供給が開始され、かつ、リバースレンジスイッチがOFFされてからt秒以内か否かが判断される(ステップ7)。ステップ7で肯定判断された場合は、自動変速機2の入力回転数NCOが、基準回転数Arpm未満であるか否かが判断される(ステップ8)。この基準回転数Arpmは、予め自動変速機用電子制御装置10に記憶されている。ステップ8で肯定判断された場合は、運転者が加速を意図していないことになるため、リニアソレノイドバルブSLUのデューティ比DSLUの値を、αからγに変更する制御が行われる(ステップ9)。ここで、値γは、前記値αよりも若干低い値である。
このため、アキュームレータコントロールバルブ68の制御ポート75に入力される信号圧PSLNが、リバースレンジの場合とほぼ近似する値に維持され、アキュームレータコントロールバルブ68の調圧レベルの低下割合が小さく制御される。つまり、アキュームレータコントロールバルブ68の出力圧、すなわち、アキュームレータ背圧PACCが低圧に維持される。したがって、リバースレンジからニュートラルレンジを経てドライブレンジにマニュアルシフトされた場合のアキュームレータ背圧PACCの上昇割合が小さく維持されて、第2クラッチC2の油圧PC2が、図9に実線で示すように緩やかに低下する。また、前進段の第1速を設定する第1クラッチC1の油圧PC1が、図9に実線で示すように緩やかに上昇する。したがって、自動変速機2の出力トルクが実線で示すように緩やかに正側に変化し、ショックが低減される。
その後、第1速への変速が終了したか否か、またはニュートラルレンジからドライブレンジに変更された時点を基準とする所定時間が経過したか否かが判断される(ステップ10)。ここで、入力回転数NC0が基準回転数B未満になった場合は第1速への変速が終了したことになる。この基準回転数Brpmは、予め自動変速機用電子制御装置10に設定されている。この基準回転数Brpmは、基準回転数Aよりも小さく、かつ、零に近い値である。また、ステップ10で用いられる所定時間は、自動変速機用電子制御装置10に予め記憶されている。
そして、ステップ10で否定判断された場合は制御ルーチンを終了する。また、ステップ10で肯定判断された場合は、図9に実線で示すように出力トルクがほぼ一定に維持されるとともに、フラグ1を零に戻す制御が行われ(ステップ6)、制御ルーチンを終了する。
前記ステップ7で否定判断された場合、またはステップ8で否定判断された場合は、加速要求が発生していないことになるため、リニアソレノイドバルブDSLNのデューティ比DSLNの値を、αからβに変更する制御が行われ(ステップ11)、ステップ10に進む。この値βは、値γよりも低い値である。
すなわち、リニアソレノイドバルブDSLNのデューティ比DSLNの値がβに設定された場合は、アキュームレータコントロールバルブ68の調圧レベルが高められてアキュームレータ背圧PACCが高くなる。このため、第1速を設定する第1クラッチC1に供給される油圧PC1の上昇割合が大きくなり、第1クラッチC1の係合が迅速に行われる。前述したように、ステップ7,8で否定判断された場合は加速要求があるため、第1クラッチC1の係合が速められてショックが生じたとしても、このショックは加速感に含まれるものとして容認される。
また、前記ステップ2で否定判断された場合は、リバースレンジに維持されていることになり、この制御ルーチンを終了する。さらに、前記ステップ1で否定判断された場合は、その後にリバースレンジスイッチがONされたか否かが判断される(ステップ12)。ステップ12で肯定判断された場合は、フラグ1が立てられ(ステップ13)、この制御ルーチンを終了する。さらにまた、ステップ12で否定判断された場合は、ステップ6に進む。
ここで、図8の制御例に示された機能的手段と、この発明の請求項1の構成との対応関係を説明する。
すなわち、ステップ2,3,7,8が、請求項1の加速要求検出手段に相当し、ステップ9,11が、請求項1のアキュームレータ背圧制御手段に相当する。
以上のように、第2制御例によれば、リバースレンジからニュートラルレンジを経てドライブレンジにマニュアルシフトされる動作が連続的に行なわれた場合において、入力回転数NC0が基準回転数Arpm未満の状態におけるアキュームレータ背圧PACCを、入力回転数NC0が基準回転数Arpmを越えた状態におけるアキュームレータ背圧PACCよりも低く設定する制御が行われる。
つまり、車両の加速要求が発生していない状態では、後進段を設定する第2クラッチC2の解放が緩やかに行われ、かつ、前進段を設定する第1クラッチC1の係合が緩やかに行われる。したがって、リバースレンジからニュートラルレンジを経てドライブレンジにマニュアルシフトされた場合において、出力軸27以降に配置された動力伝達系のトルク伝達方向の急激な変化が抑制され、シフトショックが軽減される。
なお、第2制御例において、車両の加速要求の有無を判断する基準として、アクセルペダル3の踏み込み量、または電子スロットルバルブ6の開度を用いることも可能である。
ちなみに、図9のタイムチャートには、比較例の制御内容が破線で示されている。すなわち、比較例においては、ニュートラルレンジでリニアソレノイドバルブのデューティ比がαに制御され、ニュートラルレンジからドライブレンジにマニュアルシフトされた時点で、リニアソレノイドバルブのデューティ比がβに変更されている。このため、後進段を設定していた摩擦係合装置の油圧が低下する途中で一旦上昇し、その後、油圧が再度低下することになる。
したがって、後進段を設定していた摩擦係合装置の油圧の上昇により、後進段を設定する摩擦係合装置の係合圧が一旦高められて、出力トルクが負側に変化し、その後、前進段を設定する摩擦係合装置の係合により出力トルクが急激に正側に変化し、最終的にほぼ一定に維持されている。このように、比較例の制御内容においては、リバースレンジからニュートラルレンジを経てドライブレンジにマニュアルシフトされる動作が連続して行なわれた場合、大きなショックが生じることが分かる。
ここで、上記の具体例に基づいて開示したこの発明に特徴的な構成を記載すれば、以下のとおりである。すなわち、前進段を設定する第1の摩擦係合装置と、後進段を設定する第2の摩擦係合装置と、前記第1の摩擦係合装置に作用する油圧を制御する第1のアキュームレータと、前記第2の摩擦係合装置に作用する油圧を制御する第2のアキュームレータとを備え、後進レンジからニュートラルレンジにマニュアルシフトされた場合における前記第1のアキュームレータおよび第2のアキュームレータの背圧よりも、ニュートラルレンジから前進レンジにマニュアルシフトされた場合における前記第1のアキュームレータおよび第2のアキュームレータの背圧を高く設定する制御が行われる自動変速機の制御装置において、ニュートラルレンジから前進レンジにマニュアルシフトされた状態での自動変速機の入力回転数が所定値未満か否かを検出する入力回転数検出手段と、前記入力回転数が所定値未満である場合における前記第1のアキュームレータおよび第2のアキュームレータの背圧を、前記入力回転数が所定値を越えていた場合における前記第1のアキュームレータおよび第2のアキュームレータの背圧よりも低く設定するアキュームレータ背圧制御手段とを備えていることを特徴とする自動変速機の制御装置。この場合、第2制御例のステップ2,3,7,8が、上記入力回転数検出手段に相当し、第2制御例のステップ9,11が、上記アキュームレータ背圧制御手段に相当する。
1…エンジン、 2…自動変速機、 4…エンジン用電子制御装置、 10…自動変速機用電子制御装置、 69,71…アキュームレータ、 C1…第1クラッチ、 C2…第2クラッチ、 B4…第4ブレーキ。