JP2004270096A - 長繊維不織布およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】溶融異方性ポリエステルからなる長繊維不織布は、耐摩耗性が低い等の欠点を有しているが、これらの欠点を著しく改善し、操業的にも優れた長繊維不織布および簡便な製造方法を提案する。
【解決手段】溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなる長繊維不織布において、下記(1)〜(4)の要件を満たし、かつ目付が10g/m2 以上である長繊維不織布。
(1)単繊維の強度が4.5cN/dtex以上。
(2)単繊維100体積部における溶融異方性ポリエステルAの含有量が40〜80体積部。
(3)単繊維100体積部における屈曲性熱可塑性樹脂Bの含有量が20〜60体積部。
(4)繊維軸方向と直交する繊維断面が海島構造を形成し、溶融異方性ポリエステルAが島成分を形成する。
【選択図】図1
【解決手段】溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなる長繊維不織布において、下記(1)〜(4)の要件を満たし、かつ目付が10g/m2 以上である長繊維不織布。
(1)単繊維の強度が4.5cN/dtex以上。
(2)単繊維100体積部における溶融異方性ポリエステルAの含有量が40〜80体積部。
(3)単繊維100体積部における屈曲性熱可塑性樹脂Bの含有量が20〜60体積部。
(4)繊維軸方向と直交する繊維断面が海島構造を形成し、溶融異方性ポリエステルAが島成分を形成する。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は長繊維不織布およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、高強度、高弾性率の長繊維から形成され、また耐熱性、耐摩耗性、寸法安定性などの各種物性にも優れた、防護材、土質改良材、振動材、研磨材、樹脂補強材、電気絶縁材料等の産業用資材として有用な長繊維不織布、および自己融着性の優れた長繊維不織布を得るための新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融異方性ポリエステル繊維は高強度、高弾性率を示し、また耐熱性にも優れているため、フィラメント、紡績糸、ヤーン状でロープ、コード等に用いられているほか、シート状物(織編物、紙、不織布)で各種内張り、防護具、樹脂補強材等に用いられている。特に不織布を製造する方法としては短繊維を用いた湿式不織布及び乾式不織布が主流であるものの、湿式不織布はフィブリル化繊維やバインダー繊維を混繊したのち絡合させ、熱処理や水流絡合処理等を施さなければならず、結果として工程が複雑化し製造コストが上るばかりでなく、各種用途において問題とされる異物(金属・異種繊維)の混入の可能性があった。また乾式不織布は地合が悪く、例えば精度を要求されるプリント配線基板用途には不向きであった。また該溶融異方性ポリエステル繊維が耐屈曲性や耐摩耗性に劣るために織編物、不織布等に加工し使用した際、毛羽や繊維のほつれ、折れ等が発生しやすく、さらに織編物や短繊維不織布は各種使用幅にスリットした場合、端部のほつれやほぐれといった問題が生じる懸念があった。
【0003】
一方で、溶融異方性ポリエステル繊維からなる長繊維不織布においては、かかる問題は生じにくいものの、繊維間で接着やニードルパンチ等による絡合の形成が困難であったため、繊維物性に見合った高強力、高弾性率、耐熱性を有するものは得られていなかった。これはすなわち、ノーバインダーで繊維間を接着しようとしても剛直な分子が高度に配向しているため、温度を上げただけでは繊維間の自己融着、とりわけ緻密な不織布形態を有した形での融着は形成され得ず、また強固に接着すべく温度に加えて高い圧力を作用させた場合、逆に繊維は強度低下を生じ、得られる不織布強力は不十分なものとなるといった理由によるものであった。
【0004】
これら問題を解決すべく、高強力、耐熱性に優れた緻密な構造の溶融異方性ポリエステル長繊維不織布を得るために、圧着ロールを用いてロール線圧、ロール温度、熱処理方法のバランスを取る方法が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
該技術によると、確かに高強力かつ耐熱性に優れた不織布が得られるものの、一方で、繊維を形成する溶融異方性ポリエステルの組成の改善が見られないことから、結果として不織布の耐摩耗性や耐屈曲性については改善されるものではなく、また、熱処理方法のバランスが崩れると、不織布を形成せず直ぐに単繊維同士が離れてしまったり、あるいは圧力が高すぎて不織布自体が融着を起こしフィルム化したり、さらにはロール線圧によりポリマが軟化し不織布がズルズルと伸びてしまう懸念があった
また、溶融異方性ポリエステルの高温における形態安定性を改善するために低粘度の溶融異方性ポリエステルをバインダーとして用いて接着を行う方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。上記方法の場合、確かに溶融異方性ポリエステルが耐熱性に優れることから形態安定性に優れ、またバインダーが不織布を形成する繊維の表面を覆うことで耐摩耗性も改善するものの、一方で、バインダーの含浸性を考慮した緻密な不織布設計が必要であり、またバインダーが流動的になり、得られる不織布がフィルム状となり易いものであった。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−128857号公報(特許請求の範囲、段落[0021])
【0007】
【特許文献2】
特開平7−243162号公報(特許請求の範囲、段落[0014])
【0008】
【特許文献3】
特開平8−170295号公報(特許請求の範囲、段落[0014])
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、高強度、高弾性率の長繊維から形成され、耐熱性、耐摩耗性、寸法安定性など各種物性に優れた長繊維不織布とその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高強度、高弾性率、耐熱性、耐摩耗性など各種物性に優れた、防護材、土質改良材、振動材、研磨材、樹脂補強材、電気絶縁材料、フィルター等の産業用資材として有用な長繊維不織布を得るために鋭意検討を重ね、その中で、特定の組成および物性からなる長繊維を特定の構造体となすことにより従来技術の欠点を解消でき、かつ更なるメリットをも付与しうることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなる長繊維不織布において、下記(1)〜(4)の要件を満たし、かつ目付が10g/m2 以上である長繊維不織布を提供するものである。
(1)単繊維の引張り強度が4.5cN/dtex以上。
(2)単繊維100体積部における溶融異方性ポリエステルAの含有量が40〜80体積部。
(3)単繊維100体積部における屈曲性熱可塑性樹脂Bの含有量が20〜60体積部。
(4)繊維軸方向と直交する繊維断面が海島構造を形成し、溶融異方性ポリエステルAが島成分を形成する。
【0012】
また、本発明は、溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなる長繊維不織布の製造方法において、下記(5)式を満足する溶融紡糸法により得られたブレンド繊維を、ウェブを形成する前、もしくはウェブを形成したのちボンディング処理を施す前、もしくはウェブを形成しボンディング処理を施した後、のいずれかの工程において加熱処理することを特徴とする長繊維不織布の製造方法を提供するものである。
Av/Bv < An/Bn ・・・(5)
(ただし、紡糸温度で剪断速度が100sec−1での溶融異方性ポリエステルAの剪断粘度をAv、屈曲性熱可塑性樹脂Bの剪断粘度をBv、単繊維における溶融異方性ポリエステルAの体積比率をAn、屈曲性熱可塑性樹脂Bの体積比率をBnとする。)
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる溶融異方性ポリエステルAは、芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールなどのモノマーから選ばれた構造単位からなる重合物であり、異方性溶融相を形成するポリエステルである。異方性溶融相とは、例えば溶融異方性ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察した場合、溶融する前に比べ、溶融後に透過光量の増大が観察されることで認定できる。
【0014】
ここで芳香族オキシカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸などが挙げられ、またこれら芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族オキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などが挙げられ、またこれら芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0016】
脂環族ジカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、ビシクロオクタンジカルボン酸などが挙げられ、またこれら脂環族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら脂環族ジカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0017】
芳香族ジオールの具体例としては、特に制限されるものではないものの、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールSなどが挙げられ、またこれら芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族ジオールのうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0018】
脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられ、またこれら脂肪族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら脂肪族ジオールのうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
本発明の溶融異方性ポリエステルAは、上記モノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲でさらに他のモノマーを共重合させることができ、それら他のモノマーとしては特に制限されるものではないものの、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル、ポリシロキサン、芳香族イミノカルボン酸、芳香族ジイミン、および芳香族ヒドロキシイミンなどが挙げられる。
【0020】
本発明における、前記のモノマーなどを重合した溶融異方性ポリエステルの好ましい例としては、特に制限されるものではないものの、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコールとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコールと4,4´−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸とハイドロキノンとテレフタル酸および/またはイソフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、などが挙げられる。
【0021】
本発明における溶融異方性ポリエステルAの製造方法については特に制限されるものではなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造でき、例えば、次の製造方法(1)〜(5)が好ましく挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4´−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とから脱酢酸縮重合反応によって製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とに無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とのジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に、所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
(5)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマ、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で、(1)または(2)の方法により製造する方法。
【0022】
本発明における溶融異方性ポリエステルAの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用して重縮合反応を行うことができる。
【0023】
本発明の溶融異方性ポリエステルAは融点(以下Tma)が250℃以上のものが好ましく、より好ましくはTmaが260〜350℃であり、さらにより好ましくは270〜340℃である。ここで融点とは、実施例C.項で示す示差熱量測定において求められるものである。
【0024】
本発明の溶融異方性ポリエステルAはブレンド繊維の単繊維中における含有量が40〜80体積部であることが重要である。溶融異方性ポリエステルAは本発明の長繊維不織布において、後述する平均裂断長や寸法安定性などの機能を担う成分であって、含有量が40体積部未満である場合、耐熱性や寸法安定性が劣り好ましくない。また、該含有量が80体積部を超える場合、後述するように、紡糸条件を可能な範囲で変更しても溶融異方性ポリエステルAが島成分ではなく海成分を形成してしまい、結果的に得られた繊維は耐摩耗性や後述する自己融着性に劣るものとなる。そして溶融紡糸における混練性が向上し、得られたブレンド繊維が均質性に優れるという点で、本発明における溶融異方性ポリエステルAのブレンド繊維の単繊維中における含有量は50〜70体積部であることが好ましい。なお該含有量は、下記実施例E.記載の方法により求めた値を溶融異方性ポリエステルAのブレンド繊維の単繊維中における含有量とする。
【0025】
また、本発明の溶融異方性ポリエステルAの剪断粘度としては前記した式(5)を満足するものであれば特に制限されるものではないものの、後述のとおりブレンド繊維を形成する際に島成分を形成しうるという点から紡糸温度で100sec−1での剪断速度の条件において、60〜10000ポイズの剪断粘度であることが好ましく、110〜7000ポイズであることがより好ましい。なお、剪断粘度の測定法については後述する。
【0026】
本発明における屈曲性熱可塑性樹脂Bとしては、溶融異方性を示さない屈曲性の分子鎖構造を有する熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではなく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(以下PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリ(シクロヘキサンジメタノールテレフタレート)(PCT)、あるいはこれらの変性体などの非溶融異方性ポリエステルや、ポリオレフィン(PO)やポリスチレン(PS)などのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリスルホン(PSU)、芳香族ポリケトン(PK)、脂肪族ポリケトン、フッ素系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂のうち、耐熱性や溶融異方性ポリエステルとの混練性を考慮すると、PET、PEN、PCT、PS、PI、PPS、PPO、PSU、PKが好ましく、より好ましくはPPSである。特に直鎖状PPSを用いた場合には溶融紡糸における製糸性が良好となり、また耐薬品性、力学的特性、耐フィブリル性等の点でも顕著な効果が得られる。
【0027】
特に制限されるものではないものの、本発明の屈曲性熱可塑性樹脂Bにおいて好ましいとされるPPSとは下記化1に示すフェニレンスルフィド単位を好ましくは70モル%以上より好ましくは90モル%以上主たる繰り返し単位とする重合体である。PPSは一般に、特公昭45−3368号公報で代表される製造法により得られる比較的分子量の小さい重合体や、特公昭52−12240号公報で代表される製造法により得られる本質的に線状で比較的高分子量の重合体等があり、特に前記特公昭45−3368号公報記載の方法で得られた重合体においては、重合後酸素雰囲気下において加熱することにより、あるいは過酸化物などの架橋剤を添加して加熱することにより高重合度化が可能であり、本発明においてはいかなる方法により得られたPPSを用いることも可能であるが、ブレンド繊維における界面剥離などを抑制するため特開平4−174722号公報に示されるように酸洗浄を行ったPPSを用いることが好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
(ただしR1 ,R2 は水酸基もしくはアルキル基)
本発明の屈曲性熱可塑性樹脂Bはブレンド繊維の単繊維中における含有量が20〜60体積部であることが重要である。屈曲性熱可塑性樹脂Bは本発明の長繊維不織布において、後述する自己融着性や耐摩耗性などの機能を担う成分であって、含有量が20体積部未満である場合、自己融着性や耐摩耗性が劣るほかに、紡糸条件を可能な範囲で変更しても屈曲性熱可塑性樹脂Bが海成分ではなく島成分を形成してしまうことになる。また該含有量が60体積部を超える場合、得られるブレンド繊維は確かに自己融着性および耐摩耗性に優れるものの、不織布を形成したときに平均裂断長や寸法安定性などの物性において満足いく性能を有する不織布が得られない。そして溶融紡糸における混練性が向上し、得られたブレンド繊維が均質性に優れるという点で、本発明における屈曲性熱可塑性樹脂Bのブレンド繊維の単繊維中における含有量は30〜50体積部であることが好ましい。なお該含有量は、下記実施例E.記載の方法により求めた値を屈曲性熱可塑性樹脂Bのブレンド繊維の単繊維中における含有量とする。
【0030】
本発明の屈曲性熱可塑性樹脂Bの融点は特に制限されるものではないものの、得られた繊維が耐熱性および形態安定性に優れるという点で、融点(以下Tmb)が250℃以上のものが好ましく、より好ましくはTmbが260〜350℃であり、さらにより好ましくは270〜340℃である。ここで融点(Tm)とは、実施例C.項で示す示差熱量測定において求められるものである。
【0031】
また、本発明の屈曲性熱可塑性樹脂Bの剪断粘度としては、式(5)を満足するものであれば特に制限されるものではないものの、後述のとおりブレンド繊維を形成する際に海成分を形成しうるという点から、紡糸温度で100sec−1での剪断速度の条件において、50〜5000ポイズの剪断粘度であることが好ましく、100〜4500ポイズであることがより好ましい。
【0032】
本発明の長繊維不織布は、溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなるものである。ブレンド繊維とは、溶融紡糸において溶融異方性ポリエステルAと屈曲性熱可塑性樹脂Bとが混練されてなる繊維であり、該ブレンド繊維の繊維軸方向に直交する繊維横断面においては溶融異方性ポリエステルAと屈曲性熱可塑性樹脂Bとから形成される海島構造を有している、すなわちブレンド繊維を繊維軸方向に、通常、単繊維の繊維径の少なくとも10000倍の任意の間隔で単繊維横断面の観察を行った場合、島成分は単繊維の繊維軸方向に不連続に存在することから、それぞれの単繊維横断面の海島構造の形状が異なるものを指すのであって、島成分が繊維軸方向に連続して形成される芯鞘複合紡糸や海島複合紡糸から得られる複合紡糸繊維とは本質的に異なる。
【0033】
そして本発明においては、ブレンド繊維の構成成分である溶融異方性ポリエステルAが上記海島構造において島成分を形成し、屈曲性熱可塑性樹脂Bが海成分を形成するブレンド繊維であることが重要である。溶融異方性ポリエステルAが島成分を、屈曲性熱可塑性樹脂Bが海成分をそれぞれ形成することにより、成分Aに由来する耐熱性や強度といった繊維物性に優れるほか、島成分を海成分として取り囲む樹脂Bが保護材としての役目を果たして繊維の耐摩耗性が向上するほか、後述する不織布の製造においても自己融着性が発現し、かつ寸法安定性に優れた不織布を形成しうるなど非常に好ましい特性が付与される。
【0034】
また、前述の繊維横断面における島成分の大きさに関しては、島成分として存在すれば特に制限されるものではないものの、繊維物性が均質化されるという点から、繊維軸方向と直交する繊維横断面において、繊維径(R)に対する島成分径(r)の比率r/Rが0.30以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましく、0.20以下であることがさらにより好ましい。特に該r/Rは小さい値をとるほど島成分がより緻密な構造を取り得るため好ましい。
【0035】
本発明の溶融紡糸により形成されるブレンド繊維のブレンド方法については、特に制限されるものではなく、例えば、(A)通常の溶融異方性ポリエステルの重合反応において、溶融異方性ポリエステルの重合反応が停止する以前の任意の段階で屈曲性熱可塑性樹脂を添加することにより得たブレンドポリマを溶融紡糸に供する方法、(B)溶融異方性ポリエステルの紡糸時に屈曲性熱可塑性樹脂を添加しエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により常圧もしくは減圧下で溶融混練したのち、そのままもしくは一旦冷却固化した後に溶融紡糸に供する方法、(C)屈曲性熱可塑性樹脂を溶融異方性ポリエステルに添加しエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により常圧もしくは減圧下で高濃度で溶融混練したのち、得たブレンドポリマを一旦冷却固化せしめ、溶融紡糸時に該ブレンドポリマと屈曲性熱可塑性樹脂を添加していない融異方性ポリエステルとをエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機に同時に添加して希釈し、常圧もしくは減圧下で溶融混練した後溶融紡糸に供する方法、(D)溶融異方性ポリエステルの紡糸における吐出以前の任意の段階で屈曲性熱可塑性樹脂の溶融体あるいは溶液をノズル状の管などから吐出し溶融異方性ポリエステル中に含有せしめる方法、などが挙げられるが、好ましくは(B)あるいは(C)の方法が採用される。
【0036】
本発明におけるブレンド繊維の単繊維引張り強度は4.5cN/dtex以上であるものである。本発明の長繊維不織布はブレンド繊維からなり、ブレンド繊維の繊維物性が不織布の物性に直接影響するものではなく、例えば後述するようなボンディング処理におけるボンディングの形態やあるいはウェブを形成する際の繊維の配列なども不織布の物性を左右する因子ではあるものの、本質的な不織布の強度はブレンド繊維の強度によるところが大きいことから、ブレンド繊維の単繊維引張り強度は4.5cN/dtex以上のものである。そして該強度は高いほど寸法安定性などの不織布物性も好ましくなることから、8cN/dtexであることが好ましく、11cN/dtex以上であることがより好ましい。また該強度の上限については特に制限されるものではないものの、概ね50cN/dtex以下のものを製造しえ、40cN/dtex以下のものが汎用的に製造でき好ましい。
【0037】
また、本発明におけるブレンド繊維の単繊維引張り伸度はとくに制限されるものではないものの、前述のとおり不織布となす場合に寸法安定性といった不織布物性が優れることから6%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、4.5%以下であることがさらにより好ましい。また該引張り伸度の下限については特に制限されるものではなく、目的とする用途に応じて適宜設定すればよいものの、0.01%以上であることが好ましく、また0.1%以上とすることで広範な用途に使用できる。
【0038】
本発明におけるブレンド繊維の単繊維引張り弾性率はとくに制限されるものではないものの、前述のとおり不織布となす場合、寸法安定性や衝撃に対する耐久性に優れる点で不織布物性が優れる物性を有することから220cN/dtex以上であることが好ましく、250cN/dtex以上であることがより好ましく、280cN/dtex以上であることがさらにより好ましい。また該引張り弾性率の上限については特に制限されるものではないものの、概ね2500cN/dtex以下のものを製造しえ、2000cN/dtex以下のものが汎用的に製造でき好ましい。
【0039】
本発明における不織布は、例えば、繊維を均一な厚みとなるように分散・堆積させてシート状物を作り、繊維が脱落しないように機械的に絡み合わせたり、化学的あるいは熱処理を行うなどの方法で結合点を作り、形態安定性を持たせたシートあるいはマット状構造を持つ布状の構造を有するものであり、織物や編み物とは異なる。
【0040】
本発明の不織布は長繊維からなる長繊維不織布でである。長繊維とは細長い形状を無限長有している繊維を意味し、長繊維であれば特に制限されることなく採用できる。長繊維不織布は、短繊維不織布や織編物と違って各種使用幅にスリットした場合において、端部にほつれが生じないことから優れている。
【0041】
本発明における長繊維を製造する紡糸方法としては、後述するように、特有の繊維構造を形成せしめるために溶融紡糸法である。ただし溶融紡糸法としては特に制限されるものではなく、溶融した樹脂をノズルから加圧して押し出す従来の溶融紡糸法を採用できるほか、溶融した樹脂を電圧差を設けたノズルと基板の間に吐出することにより比較的細い繊維を得ることが可能なエレクトロスピニング法、あるいは溶融したポリマを高圧の加熱気体で風送することにより細くて無数の無限長の繊維が得られるメルトブロー法などの様々な溶融紡糸法を採用することができ、これらの中でより簡便な操作により所望の繊度の繊維が得られることから、溶融した樹脂をノズルから加圧して押し出す従来の溶融紡糸法が好ましい。
【0042】
また、本発明における長繊維の単繊維直径に関しては特に制限されるものではないが、製造時の工程安定性やウェブ形成性、あるいはボンディング性などが優れるという点で、単繊維直径は0.01〜5000μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜1000μmであり、さらに好ましくは0.5〜500μmである。また長繊維の断面形状についても特に制限されるものではなく、例えば丸形、多角形、多葉型、中空型などが挙げられる。
【0043】
本発明の長繊維不織布を製造する方法の中で、ウェブの形成方法としては特に制限されるものではなく、上記の溶融紡糸法により紡糸された長繊維を一旦巻取る事なくサクションガンなどの吸引・放出装置を用いて引き取ったのち、直接、コロナ放電等による帯電処理によってヤーン状の繊維を帯電させその電気的反発力によって単繊維まで開繊してネット状コンベア上に供給し捕集して積層しウェブとするか、あるいは一旦巻取った後、再度無撚り状態でサクションガンなどの吸引・放出装置を用いて長繊維を引き出し、例えば電気的反発により開繊した後にネット状コンベア上へ供給し捕集して積層しウェブとする方法を採用することができる。そして本発明の長繊維不織布は溶融異方性ポリエステルから構成され、単繊維の繊度が大きくなりやすいことなどを考慮して、サクションガンなどの吸引・放出装置が糸条を吸引・放出する圧力は低いほど好ましく、具体的には15kg/cm2 以下であることが好ましく、10kg/cm2 以下であることがより好ましく、5kg/cm2 以下であることが更により好ましい。
【0044】
また本発明の長繊維不織布を製造する方法の中で、ボンディング処理方法としては特に制限されるものではなくウェブの形成方法により様々な方法を採用することができるものの、製造した長繊維不織布が溶融異方性ポリエステルAに由来する耐熱性に優れ、また工程が簡便であるという点から、熱接着法が好ましい。この好ましいとされる熱接着法については、例えばウェブを構成する繊維そのものを部分的に軟化溶融させて繊維同士を接合させるサーマルボンドあるいはヒートエンボスなどの方法を挙げることができ、これらの方法においてウェブの加熱媒体としては加熱されたロールを用いたり、あるいは加熱された気体を用いたりすることができる。なお加熱媒体として用いる気体は、窒素、アルゴン等の不活性ガス、あるいは、窒素と酸素、炭酸ガス等の混合気体、および空気等を用いることができる。そしてこれらサーマルボンドあるいはヒートエンボスなどの方法における加熱媒体の温度は、220℃〜350℃がより均一かつ確実に接着できるという点で好ましい。
【0045】
そして本発明の不織布を製造する方法としては、これら溶融紡糸法、ウェブの形成方法、ボンディング処理方法を連続して行う、スパンボンド法が好ましい。
【0046】
ところで、本発明の不織布は溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなり、後述するような特有の条件により形成されたブレンド繊維表面には海成分として樹脂Bが存在する。そこで該熱接着法を採用することにより、樹脂Bが熱可塑化してブレンド繊維相互の自己融着が発現し不織布全体が均一に接着されて好ましい不織布形態となる。該自己融着を発現せしめるという点では、加熱媒体として250℃〜350℃に加熱された気体を用い、ローラー間で圧着するという熱接着法がボンディング処理方法としてより好ましい。結果として、該自己融着が不織布全体に均一になされていると、得られる不織布は厚さの均一化も図りやすく、各種の実用において外部より加わる機械的応力に対し、局部的な応力集中を生じないように受けることが可能となる、すなわち見かけの不織布強度が高くなり、物性的に有利となる。
【0047】
本発明の長繊維不織布は、目付が10g/m2 以上であるものである。該目付が10g/m2 以上である場合、防護材、土質改良材、振動材、研磨材、樹脂補強材、電気絶縁材料、フィルター等の産業用資材として有用であり優れている。しかし目付が10g/m2 未満である場合、不織布が形成する繊維間空隙の大きさが過度に大きくなり、用途に制限が生じるやすくなるほか、不織布の各種物性においても物性斑が見られるため好ましくない。また目付の上限は用途に応じて適切な目付のものを採用すれば良く、特に制限されるものではないものの、過度に不織布の厚みが大きくなったり、あるいは厚みを小さくするために不織布を厚み方向に圧縮すると不織布が形成する繊維間空隙が非常に小さくなったり、またあるいは自己融着が大きく表層部がフィルム状になったりして、結果的に用途に制限が生じることが懸念されることから、1000g/m2 を超えないことが好ましい。特に不織布の各種物性が均質化され、かつ様々な用途に不織布を採用可能であるという点で、目付は20〜700g/m2 であることがより好ましく、50〜500g/m2 であることがさらにより好ましい。
【0048】
本発明の長繊維不織布は、特に制限されるものではないものの、不織布の強度が高く、各種用途に展開可能であることから、不織布の縦方向と横方向の平均裂断長が3km以上であることが好ましく、5km以上であることがより好ましく、8km以上であることがさらにより好ましい。
【0049】
なお、本発明における平均裂断長とは、幅15mm、長さ3cm程度の試験片の裂断長をJIS P8113に基づいて測定し、縦方向および横方向の裂断長を相加平均したものである。
【0050】
本発明の長繊維不織布は、
Av/Bv < An/Bn ・・・(5)
(ただし、紡糸温度で剪断速度が100sec−1での溶融異方性ポリエステルAの剪断粘度をAv、屈曲性熱可塑性樹脂Bの剪断粘度をBv、単繊維における溶融異方性ポリエステルAの体積比率をAn、屈曲性熱可塑性樹脂Bの体積比率をBnとする。)
という(5)式を満足する溶融紡糸法により得られた溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維を、ウェブを形成する前、もしくはウェブを形成したのちボンディング処理を施す前、もしくはウェブを形成しボンディング処理を施した後、のいずれかの工程において加熱処理する製造方法により得られる。なお該体積比率An,Bnは、下記実施例E.記載の方法により求められる。
【0051】
上記(5)式は本発明で目的としているブレンド繊維においてAを島成分、Bを海成分としてそれぞれ形成せしめるための関係式であり、該(5)式を満足することで初めてAは島成分となり、Bは海成分となり目的とするブレンド繊維を達成し得る。すなわち(5)式を満足しない限り、Aは海成分を形成し、Bは島成分を形成し、結果的に得られる長繊維不織布は自己接着性が乏しくなり、耐摩耗性をはじめとする不織布の各種物性に劣ってしまい好ましくない。なお、繊維表面に存在する海成分Bの存在する割合については特に制限されるものではないものの、優れた自己接着性が発現するということから、55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0052】
また、本発明の長繊維不織布を製造するにあたり、溶融紡糸により得られたブレンド繊維を、ウェブを形成する前、もしくはウェブを形成したのちボンディング処理を施す前、もしくはウェブを形成しボンディング処理を施した後、のいずれかの工程において加熱処理することが重要である。なおここでいうボンディング処理とは、本発明における長繊維同士を接着させる行為を指す。該加熱処理により溶融異方性ポリエステルAが固相重合され、結果的に長繊維不織布の強度が向上し、優れたものとなる。該加熱処理方法としては特に制限されるものではなく、気体あるいは液体などの加熱された媒体を充填した箱中で該加熱媒体を対流させることにより均一に加熱する方法や、あるいは高周波の電磁波を用いて直接加熱する方法などを採用することができる。該加熱処理は、特に加熱処理における酸化劣化を防ぐ目的で、窒素、アルゴン、炭酸ガス等の加熱された不活性ガスを1種あるいは混合されてなる複数種用いて、その加熱ガス中で加熱処理を行うことが好ましい。また該加熱処理温度は特に制限されるものではないものの、より効果的に固相重合反応を進行させることから220℃以上であることが好ましく、240℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらにより好ましい。また該加熱処理温度の上限は、本発明の溶融異方性ポリエステルAあるいは屈曲性熱可塑性樹脂Bが溶融して繊維の形態が失われることを防止するために、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。さらに該加熱処理時間は特に制限されるものではないものの、均一かつ十分に物性を向上させることから、気体あるいは液体などの加熱された媒体を用いて加熱処理を行う場合には30分〜50時間が好ましく、1時間〜24時間がより好ましい。また高周波の電磁波を用いて直接加熱する場合には3分〜24時間が好ましく、5分〜12時間がより好ましい。
【0053】
また本発明の長繊維不織布は、特に制限されるものではなく、前述の加熱処理において必要に応じて張力を付与してストレッチ状態あるいは延伸状態、または張力を付与せずフリーな状態、すなわちリラックスの状態など、様々な状態で加熱処理を行うことができる。
【0054】
本発明の長繊維不織布は、発明の主旨を損ねない範囲で、通常用いられる不織布の様々な処理加工方法を必要に応じて採用することができ、特に制限されるものではないものの、例えば、艶付けプレス、エンボスプレス、コンパクト加工、柔軟加工、加熱処理などの物理的処理加工や、ボンディング加工、ラミネート加工、コーティング加工、防汚加工、撥水加工、帯電防止加工、防炎加工、防虫加工、衛生加工、泡樹脂加工などの化学的処理加工や、その他にマイクロ波応用や、超音波応用、遠赤外線応用、紫外線応用、低温プラズマ応用などのハイテク技術の応用処理方法を挙げることができる。
【0055】
本発明の長繊維不織布は、発明の主旨を損ねない範囲で、あるいは長繊維不織布に機能を付与する目的で各種金属酸化物やカオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、香料、抗菌剤等の添加剤を含有しても良い。そしてこれらの添加剤の添加時期としては特に制限されるものではなく、添加剤が目的とする機能を効果的に発現せしめるのに適していること、あるいは工程上添加が容易であることなどを勘案して、溶融異方性ポリエステルAあるいは屈曲性熱可塑性樹脂Bがそれぞれ製造される段階から本発明の長繊維不織布が製造されるまでの任意の工程段階において添加できる。またこれらの添加剤の添加方法としては特に制限されるものではなく任意の方法を採用することができるが、例えば本発明の溶融異方性ポリエステルAあるいは屈曲性熱可塑性樹脂Bに練り込む方法、溶融紡糸後の繊維あるいは長繊維不織布に吹き付ける方法、あるいは含浸せしめる方法などの方法を採用できる。
【0056】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。ただし当然ながら本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【0057】
【実施例】
A.単繊維の引張り強伸度、弾性率
JIS L1013に基づいてオリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて試料長10cmで測定した。なお測定値は5回測定した値を平均して用いた。なお下記実施例6〜8において、長繊維ウェブあるいは不織布中の繊維強度を測定する場合のみ、糸が採取可能な長さ(可能であれば5cmを目安に)測定しても良いと判断し、3回以上測定した平均値を測定値とした。
B.溶融剪断粘度
溶融紡糸温度で、剪断速度100sec−1の条件で東洋精機社製キャピログラフ1B(バレル径9.55mm)を用いて、ダイ孔径1.00mm,ダイ孔長10.00mmで測定した。
C.融点(Tm)
パーキンエルマー社製示差走査熱量計(DSC)で行う示差熱量測定において、ポリマを室温から16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷した後(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )をTmとして採用した。
D.繊維の耐摩耗性
熱処理糸を用いて、φ3mmの梨地の金属棒に接触角35°で糸をかけ、金属棒から340mmの所で糸張力を0.1cN/dtexとして把持し、ストローク長30mm、速度100回/minで往復運動を与え、毛羽(剥離、フィブリル化)の発生した回数を測定した。1000回以上を優れる(2重丸)、500回以上を合格(○)とし、500回未満を不合格(×)とした。
E.単繊維断面の海成分と島成分の確認
透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))を用い、超薄切片法により切り出したサンプルについて、倍率5000〜10万倍の間の任意の倍率で、繊維横断面方向に切断したサンプルから海成分と島成分の確認を、また繊維軸方向断面(縦断面)に切断したサンプルから島成分Aが繊維軸方向に不連続であるかどうかをそれぞれ確認した。また島成分径(r)の繊維径(R)に対する比(r/R)は、繊維横断面観察において一番大きな島成分によって求め、0.15未満を二重丸、0.15〜0.3を○、0.3より大きい場合を△で評価した。さらに海成分と島成分の割合(体積部)は、得られた繊維断面写真をデジタル撮影し、見かけ繊維断面積において島成分が占める面積割合(部)を、コンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において繊維略外径および島成分略外径から算出し、該島部の面積割合を3回(3つの断面)測定した平均値を島成分の体積部とし、海成分は100から島成分の体積部を差し引いて海成分の体積部とすることで、それぞれ確認した。
F.長繊維不織布の目付
得られた長繊維不織布を50cm×50cmの大きさに切りだし、測定した重量を4倍することで目付とした。なお測定回数は5回行い、その平均値を目付測定値とした。
G.長繊維不織布の耐摩耗性
JIS L1906に準じ、テーバ形法により等級を判定した。4級以上を2重丸、3級を○、2級以下を△とした。
H.長繊維不織布の裂断長
JIS P8113に準じ、定速伸長型引張試験機を用いて測定した。
I.長繊維不織布の耐熱性
JIS L1906に準じ、250℃で乾熱収縮率を求め耐熱性とした。耐熱性の評価は、収縮率が1%以下を2重丸、1〜3%を○、3%以上を△とした。
J.繊維表面における海成分の割合
X線光電子分光法(XPS)により、励起X線源としてモノクロマティックAlKα1,2線(1486.6eV)、X線径1mm,X線出力10kV、20mAの条件で、C1sメインピーク位置を284.6eVにあわせ、炭素、硫黄をターゲット元素として測定し、繊維表面の元素分析を行うことで繊維表面の海成分Bの割合を求めた。そして繊維表面における海成分Bの割合において、100分率で70%以上を優れる(2重丸)、50%以上を良い(○)、50%未満を劣る(△)、10%未満を不可(×)とした。
K.総合評価
繊維径に対する島成分径の比率r/R、繊維表面に露出している海成分の割合および繊維と不織布のそれぞれの耐摩耗性、不織布の耐熱性の計5項目において、2重丸が2つ以上ある場合は優れる(2重丸)、2重丸が1つある場合は良い(○)、1つでも△もしくは×がある場合は×で評価した。
【0058】
〔実施例1〕
溶融液晶形成性ポリエステルとして、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位(X)と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸から生成した構造単位(Y)からなり、構造単位(X)が全体の72モル%、構造単位(Y)が28モル%を占める溶融液晶形成性ポリエステルを用いた。この溶融液晶形成性ポリエステルの融点は280℃、溶融粘度は、測定温度310℃、剪断速度100sec−1において1110ポイズであった。
【0059】
屈曲性熱可塑性ポリマとしては、酸洗浄を行ったポリフェニレンスルフィドを用いた。このポリフェニレンスルフィドの融点は280℃、溶融粘度は、測定温度310℃、剪断速度100sec−1において424ポイズであった。
【0060】
ペレット状態にて、溶融液晶形成性ポリエステルとポリフェニレンスルフィドを複合体積比70/30で混合し、2軸エクストルーダー(スクリュー径φ30mm)により、スクリュー回転数25rpmで溶融・混練して、ノズル径φ0.13mm、ノズル長0.26mm、48ホールの口金より紡糸温度310℃で吐出して紡糸速度600m/minで引き取ったのち巻き取り、265dtexのフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなどなく製糸性は優れており、得られた紡糸原糸は以下の性能を有していた。
【0061】
強度 7.0cN/dtex
伸度 2.4%
弾性率 391cN/dtex
海島成分のポリマ構成については島成分が溶融液晶形成性ポリエステル、海成分がポリフェニレンスルフィドで構成されていた。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.18、繊維表面に露出している海成分の割合は72%であった。
【0062】
この紡糸原糸を250℃で3時間、260℃で3時間、280℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が殆どなく、解舒性は優れており、以下の性能を有していた。
【0063】
強度 17.8cN/dtex
伸度 4.1%
弾性率 415cN/dtex
また耐摩耗性の評価結果は571回であり、耐摩耗性評価後の糸表面を観察したところ、繊維横断面における表層の島成分が数本剥離している程度であった。
【0064】
得られた加熱処理糸を無撚り状態で解除し、電気反発により開繊しながらエジェクターを用いて捕集し、目付約250gの長繊維ウェブとし、該長繊維ウェブをロール線圧15kg/cm、150℃の窒素雰囲気下でカレンダー処理して目付246g、タテ方向裂断長18.2km、ヨコ方向裂断長12.5kmの長繊維不織布を得た。また耐摩耗性についても優れていた。各種評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
〔実施例2、3〕
溶融液晶形成性ポリエステルとポリフェニレンスルフィドの複合体積比を表1に示すごとく60/40あるいは50/50に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなどなく製糸性は良好であり、海島成分のポリマ構成は実施例1と同様であった。
【0067】
この紡糸原糸を実施例1と同様に加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が殆どなく、解舒性は良好であった。各種評価結果を表1に示す。
【0068】
得られた加熱処理糸を用いて、実施例1と同様の方法により長繊維不織布を得た。不織布の耐摩耗性、裂断長、および耐熱性はいずれも優れていた。各種評価結果を表1に示す。
【0069】
〔実施例4、5〕
実施例1において得られた加熱処理糸を無撚り状態で解除し、電気反発により開繊しながらエジェクターを用いて捕集する際に、それぞれ目付約50g、約500gの長繊維ウェブとし、該長繊維ウェブを実施例4においてはロール線圧5kg/cm、実施例5においては25kg/cmとそれぞれ設定した以外は、実施例1と同様の方法によりそれぞれ目付48.2g、492gの不織布を得た。不織布の耐摩耗性、裂断長、および耐熱性はいずれも優れていた。各種評価結果を表1に示す。
【0070】
〔実施例6〕
実施例1において得られた紡糸原糸を無撚り状態で解除し、電気反発により開繊しながらエジェクターを用いて捕集し、目付約250gの長繊維ウェブとしたのち、250℃で3時間、260℃で3時間、280℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理ウェブは繊維間膠着が殆どなく、ウェブを構成する単繊維は以下の性能を有していた。
【0071】
強度 18.1cN/dtex
伸度 3.8%
弾性率 423cN/dtex
またウェブを形成している単繊維を用いた耐摩耗性の評価結果は540回であり、耐摩耗性評価後の糸表面を観察したところ、繊維横断面における表層の島成分が数本剥離している程度であった。
【0072】
該加熱処理した長繊維ウェブをロール線圧20kg/cm、170℃の窒素雰囲気下でカレンダー処理して目付253g、タテ方向裂断長12.6km、ヨコ方向裂断長10.8kmの長繊維不織布を得た。また耐摩耗性についても優れていた。各種評価結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例7〕
実施例1において得られた紡糸原糸を無撚り状態で解除し、電気反発により開繊しながらエジェクターを用いて捕集し、目付約250gの長繊維ウェブとしたのち、該長繊維ウェブをロール線圧15kg/cm、150℃の窒素雰囲気下でカレンダー処理して長繊維不織布を得て、さらに250℃で3時間、260℃で3時間、280℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理長繊維不織布は目付249gで、タテ方向裂断長32.3km、ヨコ方向裂断長29.7kmであり、また加熱処理長繊維不織布を構成する単繊維を採取して測定した物性は以下の通りであった。
【0074】
強度 10.5cN/dtex
伸度 2.9%
弾性率 455cN/dtex
また加熱処理長繊維不織布の耐摩耗性は優れていたものの、必要な長さの加熱処理糸が得られなかったことから、該不織布を形成している単繊維自体の耐摩耗性評価は行えなかった。その他、各種評価結果を表1に示す。
【0075】
〔実施例8〕
実施例1において、口金から溶融吐出された紡糸原糸をおよそ600m/分となるようにエアーサクションガンにて引き取ったのち、引き取った糸条を電気反発により開繊し捕集して、目付約250gの長繊維ウェブを得た。得られたウェブ中の単繊維の物性は以下の通りであった。
【0076】
強度 6.8cN/dtex
伸度 2.1%
弾性率 402cN/dtex
得られた該長繊維ウェブをロール線圧15kg/cm、150℃の窒素雰囲気下でカレンダー処理して目付252gの長繊維不織布を得て、さらに250℃で3時間、260℃で3時間、280℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理長繊維不織布は目付251gで、タテ方向裂断長38.6km、ヨコ方向裂断長31.5kmであり、また加熱処理長繊維不織布を構成する単繊維を採取して測定した物性は以下の通りであった。
【0077】
強度 12.4cN/dtex
伸度 2.8%
弾性率 461cN/dtex
また加熱処理長繊維不織布の耐摩耗性は優れていたものの、必要な長さの加熱処理糸が得られなかったことから、該不織布を形成している単繊維自体の耐摩耗性評価は行えなかった。その他、各種評価結果を表1に示す。
【0078】
〔実施例9〜11〕
屈曲性熱可塑性ポリマとして、測定温度310℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が515ポイズ、融点260℃のナイロン66を用い、溶融液晶形成性ポリエステルとナイロン66との複合体積比を表2に示すごとく70/30,65/35,60/40と変更し、紡糸温度310℃で吐出したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は優れており、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル、海成分がナイロン66で構成されたフィラメントを得た。
【0079】
【表2】
【0080】
この紡糸原糸を245℃で3時間、260℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が殆ど無く、解舒性は優れていた。各種評価結果を表2に示す。
【0081】
得られた加熱処理糸を用いて、雰囲気温度を130℃とした以外は、実施例1と同様の方法により長繊維不織布を得た。不織布の耐摩耗性、裂断長、および耐熱性はいずれも優れていた。各種評価結果を表2に示す。
【0082】
〔実施例12〜14〕
屈曲性熱可塑性ポリマとして、融点260℃、固有粘度〔η〕=0.97、測定温度310℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が6120ポイズのポリエチレンテレフタレートを用い、溶融液晶形成性ポリエステルとポリエチレンテレフタレートとの複合体積比を表2に示すごとく70/30,60/30,50/50と変更し、紡糸温度310℃で吐出したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなどなく製糸性は優れており、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル、海成分がポリエチレンテレフタレートで構成されたフィラメントを得た。
【0083】
この紡糸原糸を230℃で3時間、240℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が殆どなく、解舒性は優れていた。各種評価結果を表2に示す。
【0084】
得られた加熱処理糸を用いて、雰囲気温度を140℃とした以外は、実施例1と同様の方法により長繊維不織布を得た。不織布の耐摩耗性、裂断長、および耐熱性はいずれも優れていた。各種評価結果を表2に示す。
【0085】
〔比較例1〕
溶融液晶形成性ポリエステルを100%としたこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。
【0086】
この紡糸原糸を実施例1と同様に加熱処理した。得られた熱処理糸は繊維間膠着は見られなかったが、解舒の際にガイド等との摩耗で毛羽が発生した。各種評価結果を表2に示す。また加熱処理糸の耐摩耗性評価後の糸表面を観察したところ、繊維断面における表層の部分はフィブリル化して剥離しており、さらに繊維は大きく割れていた。
【0087】
得られた加熱処理糸を用いて、実施例1と同様の方法により長繊維不織布を得た。不織布中の繊維強度は優れていたものの、不織布の熱接着性に乏しく、得られた不織布は軽度の張力で繊維同士がはがれ易く、また耐摩耗性が非常に悪いものであった。各種評価結果を表2に示す。
【0088】
〔比較例2〕
溶融液晶形成性ポリエステルを芯、ポリフェニレンスルフィドを鞘として、芯鞘の複合体積比65/35、紡糸温度320℃、ノズル径φ0.13mm、ノズル長0.26mm、10ホールの芯鞘複合口金より吐出し、紡糸速度600m/minで巻き取り、110dtexのフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなどなく製糸性は優れていた。
【0089】
この紡糸原糸を実施例1と同様に加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が多く見られ、解舒性が劣っていた。各種評価結果を表2に示す。
【0090】
この繊維の耐摩耗性評価後の糸表面を観察したところ、鞘は大きく割れて剥離しており芯が露出していた。また不織布を形成したところ、表層のポリフェニレンスルフィド層の過度の接着に由来すると思われるシート化が起こり、不織布としての意匠性あるいは外観が非常に劣っていた。
【0091】
【発明の効果】
本発明の長繊維不織布は、繊維中で島成分を形成する溶融異方性ポリエステルの優れた特徴すなわち高強力、高弾性率、非吸湿性、耐熱性、耐薬品性等の性能が十分に発揮され、さらに高温での形態安定性にも優れており、また屈曲性熱可塑性樹脂が海成分を形成していることから、溶融異方性ポリエステル単体のみでは達成し得なかった良好な耐摩耗性および不織布を形成せしめる際の自己融着性を有し、結果的に得られる長繊維不織布は、従来の溶融異方性ポリエステルのみから構成されていた不織布に比べて非常に優れた物性を多数有し、様々な分野で用いることができる。例えば産業資材用途等で広く用いられ、特にブレーキライニング、クラッチフェーシング、軸受け等の摩耗材、パッキング材、ガスケット材、フィルター,研磨材、絶縁紙、耐熱紙、スピーカーコーン、ワイピングクロス、樹脂強化剤、電気絶縁用途等に好適である。また本発明の長繊維不織布の製造方法は、特別な装置を用いる必要のない、極めて簡便な製造方法であり、従来の製造装置が十分活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の長繊維不織布の単繊維横断面形状の具体例である。単繊維中の黒い部分が海成分、白い部分が島成分を表す。
【発明の属する技術分野】
本発明は長繊維不織布およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、高強度、高弾性率の長繊維から形成され、また耐熱性、耐摩耗性、寸法安定性などの各種物性にも優れた、防護材、土質改良材、振動材、研磨材、樹脂補強材、電気絶縁材料等の産業用資材として有用な長繊維不織布、および自己融着性の優れた長繊維不織布を得るための新規な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融異方性ポリエステル繊維は高強度、高弾性率を示し、また耐熱性にも優れているため、フィラメント、紡績糸、ヤーン状でロープ、コード等に用いられているほか、シート状物(織編物、紙、不織布)で各種内張り、防護具、樹脂補強材等に用いられている。特に不織布を製造する方法としては短繊維を用いた湿式不織布及び乾式不織布が主流であるものの、湿式不織布はフィブリル化繊維やバインダー繊維を混繊したのち絡合させ、熱処理や水流絡合処理等を施さなければならず、結果として工程が複雑化し製造コストが上るばかりでなく、各種用途において問題とされる異物(金属・異種繊維)の混入の可能性があった。また乾式不織布は地合が悪く、例えば精度を要求されるプリント配線基板用途には不向きであった。また該溶融異方性ポリエステル繊維が耐屈曲性や耐摩耗性に劣るために織編物、不織布等に加工し使用した際、毛羽や繊維のほつれ、折れ等が発生しやすく、さらに織編物や短繊維不織布は各種使用幅にスリットした場合、端部のほつれやほぐれといった問題が生じる懸念があった。
【0003】
一方で、溶融異方性ポリエステル繊維からなる長繊維不織布においては、かかる問題は生じにくいものの、繊維間で接着やニードルパンチ等による絡合の形成が困難であったため、繊維物性に見合った高強力、高弾性率、耐熱性を有するものは得られていなかった。これはすなわち、ノーバインダーで繊維間を接着しようとしても剛直な分子が高度に配向しているため、温度を上げただけでは繊維間の自己融着、とりわけ緻密な不織布形態を有した形での融着は形成され得ず、また強固に接着すべく温度に加えて高い圧力を作用させた場合、逆に繊維は強度低下を生じ、得られる不織布強力は不十分なものとなるといった理由によるものであった。
【0004】
これら問題を解決すべく、高強力、耐熱性に優れた緻密な構造の溶融異方性ポリエステル長繊維不織布を得るために、圧着ロールを用いてロール線圧、ロール温度、熱処理方法のバランスを取る方法が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
該技術によると、確かに高強力かつ耐熱性に優れた不織布が得られるものの、一方で、繊維を形成する溶融異方性ポリエステルの組成の改善が見られないことから、結果として不織布の耐摩耗性や耐屈曲性については改善されるものではなく、また、熱処理方法のバランスが崩れると、不織布を形成せず直ぐに単繊維同士が離れてしまったり、あるいは圧力が高すぎて不織布自体が融着を起こしフィルム化したり、さらにはロール線圧によりポリマが軟化し不織布がズルズルと伸びてしまう懸念があった
また、溶融異方性ポリエステルの高温における形態安定性を改善するために低粘度の溶融異方性ポリエステルをバインダーとして用いて接着を行う方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。上記方法の場合、確かに溶融異方性ポリエステルが耐熱性に優れることから形態安定性に優れ、またバインダーが不織布を形成する繊維の表面を覆うことで耐摩耗性も改善するものの、一方で、バインダーの含浸性を考慮した緻密な不織布設計が必要であり、またバインダーが流動的になり、得られる不織布がフィルム状となり易いものであった。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−128857号公報(特許請求の範囲、段落[0021])
【0007】
【特許文献2】
特開平7−243162号公報(特許請求の範囲、段落[0014])
【0008】
【特許文献3】
特開平8−170295号公報(特許請求の範囲、段落[0014])
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、高強度、高弾性率の長繊維から形成され、耐熱性、耐摩耗性、寸法安定性など各種物性に優れた長繊維不織布とその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高強度、高弾性率、耐熱性、耐摩耗性など各種物性に優れた、防護材、土質改良材、振動材、研磨材、樹脂補強材、電気絶縁材料、フィルター等の産業用資材として有用な長繊維不織布を得るために鋭意検討を重ね、その中で、特定の組成および物性からなる長繊維を特定の構造体となすことにより従来技術の欠点を解消でき、かつ更なるメリットをも付与しうることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなる長繊維不織布において、下記(1)〜(4)の要件を満たし、かつ目付が10g/m2 以上である長繊維不織布を提供するものである。
(1)単繊維の引張り強度が4.5cN/dtex以上。
(2)単繊維100体積部における溶融異方性ポリエステルAの含有量が40〜80体積部。
(3)単繊維100体積部における屈曲性熱可塑性樹脂Bの含有量が20〜60体積部。
(4)繊維軸方向と直交する繊維断面が海島構造を形成し、溶融異方性ポリエステルAが島成分を形成する。
【0012】
また、本発明は、溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなる長繊維不織布の製造方法において、下記(5)式を満足する溶融紡糸法により得られたブレンド繊維を、ウェブを形成する前、もしくはウェブを形成したのちボンディング処理を施す前、もしくはウェブを形成しボンディング処理を施した後、のいずれかの工程において加熱処理することを特徴とする長繊維不織布の製造方法を提供するものである。
Av/Bv < An/Bn ・・・(5)
(ただし、紡糸温度で剪断速度が100sec−1での溶融異方性ポリエステルAの剪断粘度をAv、屈曲性熱可塑性樹脂Bの剪断粘度をBv、単繊維における溶融異方性ポリエステルAの体積比率をAn、屈曲性熱可塑性樹脂Bの体積比率をBnとする。)
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる溶融異方性ポリエステルAは、芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールなどのモノマーから選ばれた構造単位からなる重合物であり、異方性溶融相を形成するポリエステルである。異方性溶融相とは、例えば溶融異方性ポリエステルからなる試料をホットステージにのせ、窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察した場合、溶融する前に比べ、溶融後に透過光量の増大が観察されることで認定できる。
【0014】
ここで芳香族オキシカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸などが挙げられ、またこれら芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族オキシカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸などが挙げられ、またこれら芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族ジカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0016】
脂環族ジカルボン酸の具体例としては、特に制限されるものではないものの、ビシクロオクタンジカルボン酸などが挙げられ、またこれら脂環族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら脂環族ジカルボン酸のうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0017】
芳香族ジオールの具体例としては、特に制限されるものではないものの、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールSなどが挙げられ、またこれら芳香族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら芳香族ジオールのうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0018】
脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられ、またこれら脂肪族ジオールのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体、光学異性体などが挙げられる。これら脂肪族ジオールのうち1種を単独で用いても良いし、または発明の主旨を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0019】
本発明の溶融異方性ポリエステルAは、上記モノマー以外に、液晶性を損なわない程度の範囲でさらに他のモノマーを共重合させることができ、それら他のモノマーとしては特に制限されるものではないものの、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル、ポリシロキサン、芳香族イミノカルボン酸、芳香族ジイミン、および芳香族ヒドロキシイミンなどが挙げられる。
【0020】
本発明における、前記のモノマーなどを重合した溶融異方性ポリエステルの好ましい例としては、特に制限されるものではないものの、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコールとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸とエチレングリコールと4,4´−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸および/またはイソフタル酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸とハイドロキノンとテレフタル酸および/またはイソフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸とが共重合された溶融異方性ポリエステル、などが挙げられる。
【0021】
本発明における溶融異方性ポリエステルAの製造方法については特に制限されるものではなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造でき、例えば、次の製造方法(1)〜(5)が好ましく挙げられる。
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4´−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とから脱酢酸縮重合反応によって製造する方法。
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とに無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(3)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステルおよび4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物と、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とのジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
(4)p−ヒドロキシ安息香酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に、所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれジフェニルエステルとした後、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により製造する方法。
(5)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマ、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で、(1)または(2)の方法により製造する方法。
【0022】
本発明における溶融異方性ポリエステルAの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用して重縮合反応を行うことができる。
【0023】
本発明の溶融異方性ポリエステルAは融点(以下Tma)が250℃以上のものが好ましく、より好ましくはTmaが260〜350℃であり、さらにより好ましくは270〜340℃である。ここで融点とは、実施例C.項で示す示差熱量測定において求められるものである。
【0024】
本発明の溶融異方性ポリエステルAはブレンド繊維の単繊維中における含有量が40〜80体積部であることが重要である。溶融異方性ポリエステルAは本発明の長繊維不織布において、後述する平均裂断長や寸法安定性などの機能を担う成分であって、含有量が40体積部未満である場合、耐熱性や寸法安定性が劣り好ましくない。また、該含有量が80体積部を超える場合、後述するように、紡糸条件を可能な範囲で変更しても溶融異方性ポリエステルAが島成分ではなく海成分を形成してしまい、結果的に得られた繊維は耐摩耗性や後述する自己融着性に劣るものとなる。そして溶融紡糸における混練性が向上し、得られたブレンド繊維が均質性に優れるという点で、本発明における溶融異方性ポリエステルAのブレンド繊維の単繊維中における含有量は50〜70体積部であることが好ましい。なお該含有量は、下記実施例E.記載の方法により求めた値を溶融異方性ポリエステルAのブレンド繊維の単繊維中における含有量とする。
【0025】
また、本発明の溶融異方性ポリエステルAの剪断粘度としては前記した式(5)を満足するものであれば特に制限されるものではないものの、後述のとおりブレンド繊維を形成する際に島成分を形成しうるという点から紡糸温度で100sec−1での剪断速度の条件において、60〜10000ポイズの剪断粘度であることが好ましく、110〜7000ポイズであることがより好ましい。なお、剪断粘度の測定法については後述する。
【0026】
本発明における屈曲性熱可塑性樹脂Bとしては、溶融異方性を示さない屈曲性の分子鎖構造を有する熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではなく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(以下PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリ(シクロヘキサンジメタノールテレフタレート)(PCT)、あるいはこれらの変性体などの非溶融異方性ポリエステルや、ポリオレフィン(PO)やポリスチレン(PS)などのビニル系重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリスルホン(PSU)、芳香族ポリケトン(PK)、脂肪族ポリケトン、フッ素系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂のうち、耐熱性や溶融異方性ポリエステルとの混練性を考慮すると、PET、PEN、PCT、PS、PI、PPS、PPO、PSU、PKが好ましく、より好ましくはPPSである。特に直鎖状PPSを用いた場合には溶融紡糸における製糸性が良好となり、また耐薬品性、力学的特性、耐フィブリル性等の点でも顕著な効果が得られる。
【0027】
特に制限されるものではないものの、本発明の屈曲性熱可塑性樹脂Bにおいて好ましいとされるPPSとは下記化1に示すフェニレンスルフィド単位を好ましくは70モル%以上より好ましくは90モル%以上主たる繰り返し単位とする重合体である。PPSは一般に、特公昭45−3368号公報で代表される製造法により得られる比較的分子量の小さい重合体や、特公昭52−12240号公報で代表される製造法により得られる本質的に線状で比較的高分子量の重合体等があり、特に前記特公昭45−3368号公報記載の方法で得られた重合体においては、重合後酸素雰囲気下において加熱することにより、あるいは過酸化物などの架橋剤を添加して加熱することにより高重合度化が可能であり、本発明においてはいかなる方法により得られたPPSを用いることも可能であるが、ブレンド繊維における界面剥離などを抑制するため特開平4−174722号公報に示されるように酸洗浄を行ったPPSを用いることが好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
(ただしR1 ,R2 は水酸基もしくはアルキル基)
本発明の屈曲性熱可塑性樹脂Bはブレンド繊維の単繊維中における含有量が20〜60体積部であることが重要である。屈曲性熱可塑性樹脂Bは本発明の長繊維不織布において、後述する自己融着性や耐摩耗性などの機能を担う成分であって、含有量が20体積部未満である場合、自己融着性や耐摩耗性が劣るほかに、紡糸条件を可能な範囲で変更しても屈曲性熱可塑性樹脂Bが海成分ではなく島成分を形成してしまうことになる。また該含有量が60体積部を超える場合、得られるブレンド繊維は確かに自己融着性および耐摩耗性に優れるものの、不織布を形成したときに平均裂断長や寸法安定性などの物性において満足いく性能を有する不織布が得られない。そして溶融紡糸における混練性が向上し、得られたブレンド繊維が均質性に優れるという点で、本発明における屈曲性熱可塑性樹脂Bのブレンド繊維の単繊維中における含有量は30〜50体積部であることが好ましい。なお該含有量は、下記実施例E.記載の方法により求めた値を屈曲性熱可塑性樹脂Bのブレンド繊維の単繊維中における含有量とする。
【0030】
本発明の屈曲性熱可塑性樹脂Bの融点は特に制限されるものではないものの、得られた繊維が耐熱性および形態安定性に優れるという点で、融点(以下Tmb)が250℃以上のものが好ましく、より好ましくはTmbが260〜350℃であり、さらにより好ましくは270〜340℃である。ここで融点(Tm)とは、実施例C.項で示す示差熱量測定において求められるものである。
【0031】
また、本発明の屈曲性熱可塑性樹脂Bの剪断粘度としては、式(5)を満足するものであれば特に制限されるものではないものの、後述のとおりブレンド繊維を形成する際に海成分を形成しうるという点から、紡糸温度で100sec−1での剪断速度の条件において、50〜5000ポイズの剪断粘度であることが好ましく、100〜4500ポイズであることがより好ましい。
【0032】
本発明の長繊維不織布は、溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなるものである。ブレンド繊維とは、溶融紡糸において溶融異方性ポリエステルAと屈曲性熱可塑性樹脂Bとが混練されてなる繊維であり、該ブレンド繊維の繊維軸方向に直交する繊維横断面においては溶融異方性ポリエステルAと屈曲性熱可塑性樹脂Bとから形成される海島構造を有している、すなわちブレンド繊維を繊維軸方向に、通常、単繊維の繊維径の少なくとも10000倍の任意の間隔で単繊維横断面の観察を行った場合、島成分は単繊維の繊維軸方向に不連続に存在することから、それぞれの単繊維横断面の海島構造の形状が異なるものを指すのであって、島成分が繊維軸方向に連続して形成される芯鞘複合紡糸や海島複合紡糸から得られる複合紡糸繊維とは本質的に異なる。
【0033】
そして本発明においては、ブレンド繊維の構成成分である溶融異方性ポリエステルAが上記海島構造において島成分を形成し、屈曲性熱可塑性樹脂Bが海成分を形成するブレンド繊維であることが重要である。溶融異方性ポリエステルAが島成分を、屈曲性熱可塑性樹脂Bが海成分をそれぞれ形成することにより、成分Aに由来する耐熱性や強度といった繊維物性に優れるほか、島成分を海成分として取り囲む樹脂Bが保護材としての役目を果たして繊維の耐摩耗性が向上するほか、後述する不織布の製造においても自己融着性が発現し、かつ寸法安定性に優れた不織布を形成しうるなど非常に好ましい特性が付与される。
【0034】
また、前述の繊維横断面における島成分の大きさに関しては、島成分として存在すれば特に制限されるものではないものの、繊維物性が均質化されるという点から、繊維軸方向と直交する繊維横断面において、繊維径(R)に対する島成分径(r)の比率r/Rが0.30以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましく、0.20以下であることがさらにより好ましい。特に該r/Rは小さい値をとるほど島成分がより緻密な構造を取り得るため好ましい。
【0035】
本発明の溶融紡糸により形成されるブレンド繊維のブレンド方法については、特に制限されるものではなく、例えば、(A)通常の溶融異方性ポリエステルの重合反応において、溶融異方性ポリエステルの重合反応が停止する以前の任意の段階で屈曲性熱可塑性樹脂を添加することにより得たブレンドポリマを溶融紡糸に供する方法、(B)溶融異方性ポリエステルの紡糸時に屈曲性熱可塑性樹脂を添加しエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により常圧もしくは減圧下で溶融混練したのち、そのままもしくは一旦冷却固化した後に溶融紡糸に供する方法、(C)屈曲性熱可塑性樹脂を溶融異方性ポリエステルに添加しエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機により常圧もしくは減圧下で高濃度で溶融混練したのち、得たブレンドポリマを一旦冷却固化せしめ、溶融紡糸時に該ブレンドポリマと屈曲性熱可塑性樹脂を添加していない融異方性ポリエステルとをエクストルーダやスタティックミキサーといった混練機に同時に添加して希釈し、常圧もしくは減圧下で溶融混練した後溶融紡糸に供する方法、(D)溶融異方性ポリエステルの紡糸における吐出以前の任意の段階で屈曲性熱可塑性樹脂の溶融体あるいは溶液をノズル状の管などから吐出し溶融異方性ポリエステル中に含有せしめる方法、などが挙げられるが、好ましくは(B)あるいは(C)の方法が採用される。
【0036】
本発明におけるブレンド繊維の単繊維引張り強度は4.5cN/dtex以上であるものである。本発明の長繊維不織布はブレンド繊維からなり、ブレンド繊維の繊維物性が不織布の物性に直接影響するものではなく、例えば後述するようなボンディング処理におけるボンディングの形態やあるいはウェブを形成する際の繊維の配列なども不織布の物性を左右する因子ではあるものの、本質的な不織布の強度はブレンド繊維の強度によるところが大きいことから、ブレンド繊維の単繊維引張り強度は4.5cN/dtex以上のものである。そして該強度は高いほど寸法安定性などの不織布物性も好ましくなることから、8cN/dtexであることが好ましく、11cN/dtex以上であることがより好ましい。また該強度の上限については特に制限されるものではないものの、概ね50cN/dtex以下のものを製造しえ、40cN/dtex以下のものが汎用的に製造でき好ましい。
【0037】
また、本発明におけるブレンド繊維の単繊維引張り伸度はとくに制限されるものではないものの、前述のとおり不織布となす場合に寸法安定性といった不織布物性が優れることから6%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、4.5%以下であることがさらにより好ましい。また該引張り伸度の下限については特に制限されるものではなく、目的とする用途に応じて適宜設定すればよいものの、0.01%以上であることが好ましく、また0.1%以上とすることで広範な用途に使用できる。
【0038】
本発明におけるブレンド繊維の単繊維引張り弾性率はとくに制限されるものではないものの、前述のとおり不織布となす場合、寸法安定性や衝撃に対する耐久性に優れる点で不織布物性が優れる物性を有することから220cN/dtex以上であることが好ましく、250cN/dtex以上であることがより好ましく、280cN/dtex以上であることがさらにより好ましい。また該引張り弾性率の上限については特に制限されるものではないものの、概ね2500cN/dtex以下のものを製造しえ、2000cN/dtex以下のものが汎用的に製造でき好ましい。
【0039】
本発明における不織布は、例えば、繊維を均一な厚みとなるように分散・堆積させてシート状物を作り、繊維が脱落しないように機械的に絡み合わせたり、化学的あるいは熱処理を行うなどの方法で結合点を作り、形態安定性を持たせたシートあるいはマット状構造を持つ布状の構造を有するものであり、織物や編み物とは異なる。
【0040】
本発明の不織布は長繊維からなる長繊維不織布でである。長繊維とは細長い形状を無限長有している繊維を意味し、長繊維であれば特に制限されることなく採用できる。長繊維不織布は、短繊維不織布や織編物と違って各種使用幅にスリットした場合において、端部にほつれが生じないことから優れている。
【0041】
本発明における長繊維を製造する紡糸方法としては、後述するように、特有の繊維構造を形成せしめるために溶融紡糸法である。ただし溶融紡糸法としては特に制限されるものではなく、溶融した樹脂をノズルから加圧して押し出す従来の溶融紡糸法を採用できるほか、溶融した樹脂を電圧差を設けたノズルと基板の間に吐出することにより比較的細い繊維を得ることが可能なエレクトロスピニング法、あるいは溶融したポリマを高圧の加熱気体で風送することにより細くて無数の無限長の繊維が得られるメルトブロー法などの様々な溶融紡糸法を採用することができ、これらの中でより簡便な操作により所望の繊度の繊維が得られることから、溶融した樹脂をノズルから加圧して押し出す従来の溶融紡糸法が好ましい。
【0042】
また、本発明における長繊維の単繊維直径に関しては特に制限されるものではないが、製造時の工程安定性やウェブ形成性、あるいはボンディング性などが優れるという点で、単繊維直径は0.01〜5000μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜1000μmであり、さらに好ましくは0.5〜500μmである。また長繊維の断面形状についても特に制限されるものではなく、例えば丸形、多角形、多葉型、中空型などが挙げられる。
【0043】
本発明の長繊維不織布を製造する方法の中で、ウェブの形成方法としては特に制限されるものではなく、上記の溶融紡糸法により紡糸された長繊維を一旦巻取る事なくサクションガンなどの吸引・放出装置を用いて引き取ったのち、直接、コロナ放電等による帯電処理によってヤーン状の繊維を帯電させその電気的反発力によって単繊維まで開繊してネット状コンベア上に供給し捕集して積層しウェブとするか、あるいは一旦巻取った後、再度無撚り状態でサクションガンなどの吸引・放出装置を用いて長繊維を引き出し、例えば電気的反発により開繊した後にネット状コンベア上へ供給し捕集して積層しウェブとする方法を採用することができる。そして本発明の長繊維不織布は溶融異方性ポリエステルから構成され、単繊維の繊度が大きくなりやすいことなどを考慮して、サクションガンなどの吸引・放出装置が糸条を吸引・放出する圧力は低いほど好ましく、具体的には15kg/cm2 以下であることが好ましく、10kg/cm2 以下であることがより好ましく、5kg/cm2 以下であることが更により好ましい。
【0044】
また本発明の長繊維不織布を製造する方法の中で、ボンディング処理方法としては特に制限されるものではなくウェブの形成方法により様々な方法を採用することができるものの、製造した長繊維不織布が溶融異方性ポリエステルAに由来する耐熱性に優れ、また工程が簡便であるという点から、熱接着法が好ましい。この好ましいとされる熱接着法については、例えばウェブを構成する繊維そのものを部分的に軟化溶融させて繊維同士を接合させるサーマルボンドあるいはヒートエンボスなどの方法を挙げることができ、これらの方法においてウェブの加熱媒体としては加熱されたロールを用いたり、あるいは加熱された気体を用いたりすることができる。なお加熱媒体として用いる気体は、窒素、アルゴン等の不活性ガス、あるいは、窒素と酸素、炭酸ガス等の混合気体、および空気等を用いることができる。そしてこれらサーマルボンドあるいはヒートエンボスなどの方法における加熱媒体の温度は、220℃〜350℃がより均一かつ確実に接着できるという点で好ましい。
【0045】
そして本発明の不織布を製造する方法としては、これら溶融紡糸法、ウェブの形成方法、ボンディング処理方法を連続して行う、スパンボンド法が好ましい。
【0046】
ところで、本発明の不織布は溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなり、後述するような特有の条件により形成されたブレンド繊維表面には海成分として樹脂Bが存在する。そこで該熱接着法を採用することにより、樹脂Bが熱可塑化してブレンド繊維相互の自己融着が発現し不織布全体が均一に接着されて好ましい不織布形態となる。該自己融着を発現せしめるという点では、加熱媒体として250℃〜350℃に加熱された気体を用い、ローラー間で圧着するという熱接着法がボンディング処理方法としてより好ましい。結果として、該自己融着が不織布全体に均一になされていると、得られる不織布は厚さの均一化も図りやすく、各種の実用において外部より加わる機械的応力に対し、局部的な応力集中を生じないように受けることが可能となる、すなわち見かけの不織布強度が高くなり、物性的に有利となる。
【0047】
本発明の長繊維不織布は、目付が10g/m2 以上であるものである。該目付が10g/m2 以上である場合、防護材、土質改良材、振動材、研磨材、樹脂補強材、電気絶縁材料、フィルター等の産業用資材として有用であり優れている。しかし目付が10g/m2 未満である場合、不織布が形成する繊維間空隙の大きさが過度に大きくなり、用途に制限が生じるやすくなるほか、不織布の各種物性においても物性斑が見られるため好ましくない。また目付の上限は用途に応じて適切な目付のものを採用すれば良く、特に制限されるものではないものの、過度に不織布の厚みが大きくなったり、あるいは厚みを小さくするために不織布を厚み方向に圧縮すると不織布が形成する繊維間空隙が非常に小さくなったり、またあるいは自己融着が大きく表層部がフィルム状になったりして、結果的に用途に制限が生じることが懸念されることから、1000g/m2 を超えないことが好ましい。特に不織布の各種物性が均質化され、かつ様々な用途に不織布を採用可能であるという点で、目付は20〜700g/m2 であることがより好ましく、50〜500g/m2 であることがさらにより好ましい。
【0048】
本発明の長繊維不織布は、特に制限されるものではないものの、不織布の強度が高く、各種用途に展開可能であることから、不織布の縦方向と横方向の平均裂断長が3km以上であることが好ましく、5km以上であることがより好ましく、8km以上であることがさらにより好ましい。
【0049】
なお、本発明における平均裂断長とは、幅15mm、長さ3cm程度の試験片の裂断長をJIS P8113に基づいて測定し、縦方向および横方向の裂断長を相加平均したものである。
【0050】
本発明の長繊維不織布は、
Av/Bv < An/Bn ・・・(5)
(ただし、紡糸温度で剪断速度が100sec−1での溶融異方性ポリエステルAの剪断粘度をAv、屈曲性熱可塑性樹脂Bの剪断粘度をBv、単繊維における溶融異方性ポリエステルAの体積比率をAn、屈曲性熱可塑性樹脂Bの体積比率をBnとする。)
という(5)式を満足する溶融紡糸法により得られた溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維を、ウェブを形成する前、もしくはウェブを形成したのちボンディング処理を施す前、もしくはウェブを形成しボンディング処理を施した後、のいずれかの工程において加熱処理する製造方法により得られる。なお該体積比率An,Bnは、下記実施例E.記載の方法により求められる。
【0051】
上記(5)式は本発明で目的としているブレンド繊維においてAを島成分、Bを海成分としてそれぞれ形成せしめるための関係式であり、該(5)式を満足することで初めてAは島成分となり、Bは海成分となり目的とするブレンド繊維を達成し得る。すなわち(5)式を満足しない限り、Aは海成分を形成し、Bは島成分を形成し、結果的に得られる長繊維不織布は自己接着性が乏しくなり、耐摩耗性をはじめとする不織布の各種物性に劣ってしまい好ましくない。なお、繊維表面に存在する海成分Bの存在する割合については特に制限されるものではないものの、優れた自己接着性が発現するということから、55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0052】
また、本発明の長繊維不織布を製造するにあたり、溶融紡糸により得られたブレンド繊維を、ウェブを形成する前、もしくはウェブを形成したのちボンディング処理を施す前、もしくはウェブを形成しボンディング処理を施した後、のいずれかの工程において加熱処理することが重要である。なおここでいうボンディング処理とは、本発明における長繊維同士を接着させる行為を指す。該加熱処理により溶融異方性ポリエステルAが固相重合され、結果的に長繊維不織布の強度が向上し、優れたものとなる。該加熱処理方法としては特に制限されるものではなく、気体あるいは液体などの加熱された媒体を充填した箱中で該加熱媒体を対流させることにより均一に加熱する方法や、あるいは高周波の電磁波を用いて直接加熱する方法などを採用することができる。該加熱処理は、特に加熱処理における酸化劣化を防ぐ目的で、窒素、アルゴン、炭酸ガス等の加熱された不活性ガスを1種あるいは混合されてなる複数種用いて、その加熱ガス中で加熱処理を行うことが好ましい。また該加熱処理温度は特に制限されるものではないものの、より効果的に固相重合反応を進行させることから220℃以上であることが好ましく、240℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらにより好ましい。また該加熱処理温度の上限は、本発明の溶融異方性ポリエステルAあるいは屈曲性熱可塑性樹脂Bが溶融して繊維の形態が失われることを防止するために、400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。さらに該加熱処理時間は特に制限されるものではないものの、均一かつ十分に物性を向上させることから、気体あるいは液体などの加熱された媒体を用いて加熱処理を行う場合には30分〜50時間が好ましく、1時間〜24時間がより好ましい。また高周波の電磁波を用いて直接加熱する場合には3分〜24時間が好ましく、5分〜12時間がより好ましい。
【0053】
また本発明の長繊維不織布は、特に制限されるものではなく、前述の加熱処理において必要に応じて張力を付与してストレッチ状態あるいは延伸状態、または張力を付与せずフリーな状態、すなわちリラックスの状態など、様々な状態で加熱処理を行うことができる。
【0054】
本発明の長繊維不織布は、発明の主旨を損ねない範囲で、通常用いられる不織布の様々な処理加工方法を必要に応じて採用することができ、特に制限されるものではないものの、例えば、艶付けプレス、エンボスプレス、コンパクト加工、柔軟加工、加熱処理などの物理的処理加工や、ボンディング加工、ラミネート加工、コーティング加工、防汚加工、撥水加工、帯電防止加工、防炎加工、防虫加工、衛生加工、泡樹脂加工などの化学的処理加工や、その他にマイクロ波応用や、超音波応用、遠赤外線応用、紫外線応用、低温プラズマ応用などのハイテク技術の応用処理方法を挙げることができる。
【0055】
本発明の長繊維不織布は、発明の主旨を損ねない範囲で、あるいは長繊維不織布に機能を付与する目的で各種金属酸化物やカオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、香料、抗菌剤等の添加剤を含有しても良い。そしてこれらの添加剤の添加時期としては特に制限されるものではなく、添加剤が目的とする機能を効果的に発現せしめるのに適していること、あるいは工程上添加が容易であることなどを勘案して、溶融異方性ポリエステルAあるいは屈曲性熱可塑性樹脂Bがそれぞれ製造される段階から本発明の長繊維不織布が製造されるまでの任意の工程段階において添加できる。またこれらの添加剤の添加方法としては特に制限されるものではなく任意の方法を採用することができるが、例えば本発明の溶融異方性ポリエステルAあるいは屈曲性熱可塑性樹脂Bに練り込む方法、溶融紡糸後の繊維あるいは長繊維不織布に吹き付ける方法、あるいは含浸せしめる方法などの方法を採用できる。
【0056】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明する。ただし当然ながら本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【0057】
【実施例】
A.単繊維の引張り強伸度、弾性率
JIS L1013に基づいてオリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて試料長10cmで測定した。なお測定値は5回測定した値を平均して用いた。なお下記実施例6〜8において、長繊維ウェブあるいは不織布中の繊維強度を測定する場合のみ、糸が採取可能な長さ(可能であれば5cmを目安に)測定しても良いと判断し、3回以上測定した平均値を測定値とした。
B.溶融剪断粘度
溶融紡糸温度で、剪断速度100sec−1の条件で東洋精機社製キャピログラフ1B(バレル径9.55mm)を用いて、ダイ孔径1.00mm,ダイ孔長10.00mmで測定した。
C.融点(Tm)
パーキンエルマー社製示差走査熱量計(DSC)で行う示差熱量測定において、ポリマを室温から16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1 )の観測後、Tm1 +20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷した後(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2 )をTmとして採用した。
D.繊維の耐摩耗性
熱処理糸を用いて、φ3mmの梨地の金属棒に接触角35°で糸をかけ、金属棒から340mmの所で糸張力を0.1cN/dtexとして把持し、ストローク長30mm、速度100回/minで往復運動を与え、毛羽(剥離、フィブリル化)の発生した回数を測定した。1000回以上を優れる(2重丸)、500回以上を合格(○)とし、500回未満を不合格(×)とした。
E.単繊維断面の海成分と島成分の確認
透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))を用い、超薄切片法により切り出したサンプルについて、倍率5000〜10万倍の間の任意の倍率で、繊維横断面方向に切断したサンプルから海成分と島成分の確認を、また繊維軸方向断面(縦断面)に切断したサンプルから島成分Aが繊維軸方向に不連続であるかどうかをそれぞれ確認した。また島成分径(r)の繊維径(R)に対する比(r/R)は、繊維横断面観察において一番大きな島成分によって求め、0.15未満を二重丸、0.15〜0.3を○、0.3より大きい場合を△で評価した。さらに海成分と島成分の割合(体積部)は、得られた繊維断面写真をデジタル撮影し、見かけ繊維断面積において島成分が占める面積割合(部)を、コンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において繊維略外径および島成分略外径から算出し、該島部の面積割合を3回(3つの断面)測定した平均値を島成分の体積部とし、海成分は100から島成分の体積部を差し引いて海成分の体積部とすることで、それぞれ確認した。
F.長繊維不織布の目付
得られた長繊維不織布を50cm×50cmの大きさに切りだし、測定した重量を4倍することで目付とした。なお測定回数は5回行い、その平均値を目付測定値とした。
G.長繊維不織布の耐摩耗性
JIS L1906に準じ、テーバ形法により等級を判定した。4級以上を2重丸、3級を○、2級以下を△とした。
H.長繊維不織布の裂断長
JIS P8113に準じ、定速伸長型引張試験機を用いて測定した。
I.長繊維不織布の耐熱性
JIS L1906に準じ、250℃で乾熱収縮率を求め耐熱性とした。耐熱性の評価は、収縮率が1%以下を2重丸、1〜3%を○、3%以上を△とした。
J.繊維表面における海成分の割合
X線光電子分光法(XPS)により、励起X線源としてモノクロマティックAlKα1,2線(1486.6eV)、X線径1mm,X線出力10kV、20mAの条件で、C1sメインピーク位置を284.6eVにあわせ、炭素、硫黄をターゲット元素として測定し、繊維表面の元素分析を行うことで繊維表面の海成分Bの割合を求めた。そして繊維表面における海成分Bの割合において、100分率で70%以上を優れる(2重丸)、50%以上を良い(○)、50%未満を劣る(△)、10%未満を不可(×)とした。
K.総合評価
繊維径に対する島成分径の比率r/R、繊維表面に露出している海成分の割合および繊維と不織布のそれぞれの耐摩耗性、不織布の耐熱性の計5項目において、2重丸が2つ以上ある場合は優れる(2重丸)、2重丸が1つある場合は良い(○)、1つでも△もしくは×がある場合は×で評価した。
【0058】
〔実施例1〕
溶融液晶形成性ポリエステルとして、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位(X)と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸から生成した構造単位(Y)からなり、構造単位(X)が全体の72モル%、構造単位(Y)が28モル%を占める溶融液晶形成性ポリエステルを用いた。この溶融液晶形成性ポリエステルの融点は280℃、溶融粘度は、測定温度310℃、剪断速度100sec−1において1110ポイズであった。
【0059】
屈曲性熱可塑性ポリマとしては、酸洗浄を行ったポリフェニレンスルフィドを用いた。このポリフェニレンスルフィドの融点は280℃、溶融粘度は、測定温度310℃、剪断速度100sec−1において424ポイズであった。
【0060】
ペレット状態にて、溶融液晶形成性ポリエステルとポリフェニレンスルフィドを複合体積比70/30で混合し、2軸エクストルーダー(スクリュー径φ30mm)により、スクリュー回転数25rpmで溶融・混練して、ノズル径φ0.13mm、ノズル長0.26mm、48ホールの口金より紡糸温度310℃で吐出して紡糸速度600m/minで引き取ったのち巻き取り、265dtexのフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなどなく製糸性は優れており、得られた紡糸原糸は以下の性能を有していた。
【0061】
強度 7.0cN/dtex
伸度 2.4%
弾性率 391cN/dtex
海島成分のポリマ構成については島成分が溶融液晶形成性ポリエステル、海成分がポリフェニレンスルフィドで構成されていた。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.18、繊維表面に露出している海成分の割合は72%であった。
【0062】
この紡糸原糸を250℃で3時間、260℃で3時間、280℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が殆どなく、解舒性は優れており、以下の性能を有していた。
【0063】
強度 17.8cN/dtex
伸度 4.1%
弾性率 415cN/dtex
また耐摩耗性の評価結果は571回であり、耐摩耗性評価後の糸表面を観察したところ、繊維横断面における表層の島成分が数本剥離している程度であった。
【0064】
得られた加熱処理糸を無撚り状態で解除し、電気反発により開繊しながらエジェクターを用いて捕集し、目付約250gの長繊維ウェブとし、該長繊維ウェブをロール線圧15kg/cm、150℃の窒素雰囲気下でカレンダー処理して目付246g、タテ方向裂断長18.2km、ヨコ方向裂断長12.5kmの長繊維不織布を得た。また耐摩耗性についても優れていた。各種評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
〔実施例2、3〕
溶融液晶形成性ポリエステルとポリフェニレンスルフィドの複合体積比を表1に示すごとく60/40あるいは50/50に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなどなく製糸性は良好であり、海島成分のポリマ構成は実施例1と同様であった。
【0067】
この紡糸原糸を実施例1と同様に加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が殆どなく、解舒性は良好であった。各種評価結果を表1に示す。
【0068】
得られた加熱処理糸を用いて、実施例1と同様の方法により長繊維不織布を得た。不織布の耐摩耗性、裂断長、および耐熱性はいずれも優れていた。各種評価結果を表1に示す。
【0069】
〔実施例4、5〕
実施例1において得られた加熱処理糸を無撚り状態で解除し、電気反発により開繊しながらエジェクターを用いて捕集する際に、それぞれ目付約50g、約500gの長繊維ウェブとし、該長繊維ウェブを実施例4においてはロール線圧5kg/cm、実施例5においては25kg/cmとそれぞれ設定した以外は、実施例1と同様の方法によりそれぞれ目付48.2g、492gの不織布を得た。不織布の耐摩耗性、裂断長、および耐熱性はいずれも優れていた。各種評価結果を表1に示す。
【0070】
〔実施例6〕
実施例1において得られた紡糸原糸を無撚り状態で解除し、電気反発により開繊しながらエジェクターを用いて捕集し、目付約250gの長繊維ウェブとしたのち、250℃で3時間、260℃で3時間、280℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理ウェブは繊維間膠着が殆どなく、ウェブを構成する単繊維は以下の性能を有していた。
【0071】
強度 18.1cN/dtex
伸度 3.8%
弾性率 423cN/dtex
またウェブを形成している単繊維を用いた耐摩耗性の評価結果は540回であり、耐摩耗性評価後の糸表面を観察したところ、繊維横断面における表層の島成分が数本剥離している程度であった。
【0072】
該加熱処理した長繊維ウェブをロール線圧20kg/cm、170℃の窒素雰囲気下でカレンダー処理して目付253g、タテ方向裂断長12.6km、ヨコ方向裂断長10.8kmの長繊維不織布を得た。また耐摩耗性についても優れていた。各種評価結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例7〕
実施例1において得られた紡糸原糸を無撚り状態で解除し、電気反発により開繊しながらエジェクターを用いて捕集し、目付約250gの長繊維ウェブとしたのち、該長繊維ウェブをロール線圧15kg/cm、150℃の窒素雰囲気下でカレンダー処理して長繊維不織布を得て、さらに250℃で3時間、260℃で3時間、280℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理長繊維不織布は目付249gで、タテ方向裂断長32.3km、ヨコ方向裂断長29.7kmであり、また加熱処理長繊維不織布を構成する単繊維を採取して測定した物性は以下の通りであった。
【0074】
強度 10.5cN/dtex
伸度 2.9%
弾性率 455cN/dtex
また加熱処理長繊維不織布の耐摩耗性は優れていたものの、必要な長さの加熱処理糸が得られなかったことから、該不織布を形成している単繊維自体の耐摩耗性評価は行えなかった。その他、各種評価結果を表1に示す。
【0075】
〔実施例8〕
実施例1において、口金から溶融吐出された紡糸原糸をおよそ600m/分となるようにエアーサクションガンにて引き取ったのち、引き取った糸条を電気反発により開繊し捕集して、目付約250gの長繊維ウェブを得た。得られたウェブ中の単繊維の物性は以下の通りであった。
【0076】
強度 6.8cN/dtex
伸度 2.1%
弾性率 402cN/dtex
得られた該長繊維ウェブをロール線圧15kg/cm、150℃の窒素雰囲気下でカレンダー処理して目付252gの長繊維不織布を得て、さらに250℃で3時間、260℃で3時間、280℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理長繊維不織布は目付251gで、タテ方向裂断長38.6km、ヨコ方向裂断長31.5kmであり、また加熱処理長繊維不織布を構成する単繊維を採取して測定した物性は以下の通りであった。
【0077】
強度 12.4cN/dtex
伸度 2.8%
弾性率 461cN/dtex
また加熱処理長繊維不織布の耐摩耗性は優れていたものの、必要な長さの加熱処理糸が得られなかったことから、該不織布を形成している単繊維自体の耐摩耗性評価は行えなかった。その他、各種評価結果を表1に示す。
【0078】
〔実施例9〜11〕
屈曲性熱可塑性ポリマとして、測定温度310℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が515ポイズ、融点260℃のナイロン66を用い、溶融液晶形成性ポリエステルとナイロン66との複合体積比を表2に示すごとく70/30,65/35,60/40と変更し、紡糸温度310℃で吐出したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は優れており、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル、海成分がナイロン66で構成されたフィラメントを得た。
【0079】
【表2】
【0080】
この紡糸原糸を245℃で3時間、260℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が殆ど無く、解舒性は優れていた。各種評価結果を表2に示す。
【0081】
得られた加熱処理糸を用いて、雰囲気温度を130℃とした以外は、実施例1と同様の方法により長繊維不織布を得た。不織布の耐摩耗性、裂断長、および耐熱性はいずれも優れていた。各種評価結果を表2に示す。
【0082】
〔実施例12〜14〕
屈曲性熱可塑性ポリマとして、融点260℃、固有粘度〔η〕=0.97、測定温度310℃、剪断速度100sec−1における溶融粘度が6120ポイズのポリエチレンテレフタレートを用い、溶融液晶形成性ポリエステルとポリエチレンテレフタレートとの複合体積比を表2に示すごとく70/30,60/30,50/50と変更し、紡糸温度310℃で吐出したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなどなく製糸性は優れており、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル、海成分がポリエチレンテレフタレートで構成されたフィラメントを得た。
【0083】
この紡糸原糸を230℃で3時間、240℃で10時間窒素ガス雰囲気中にて加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が殆どなく、解舒性は優れていた。各種評価結果を表2に示す。
【0084】
得られた加熱処理糸を用いて、雰囲気温度を140℃とした以外は、実施例1と同様の方法により長繊維不織布を得た。不織布の耐摩耗性、裂断長、および耐熱性はいずれも優れていた。各種評価結果を表2に示す。
【0085】
〔比較例1〕
溶融液晶形成性ポリエステルを100%としたこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。
【0086】
この紡糸原糸を実施例1と同様に加熱処理した。得られた熱処理糸は繊維間膠着は見られなかったが、解舒の際にガイド等との摩耗で毛羽が発生した。各種評価結果を表2に示す。また加熱処理糸の耐摩耗性評価後の糸表面を観察したところ、繊維断面における表層の部分はフィブリル化して剥離しており、さらに繊維は大きく割れていた。
【0087】
得られた加熱処理糸を用いて、実施例1と同様の方法により長繊維不織布を得た。不織布中の繊維強度は優れていたものの、不織布の熱接着性に乏しく、得られた不織布は軽度の張力で繊維同士がはがれ易く、また耐摩耗性が非常に悪いものであった。各種評価結果を表2に示す。
【0088】
〔比較例2〕
溶融液晶形成性ポリエステルを芯、ポリフェニレンスルフィドを鞘として、芯鞘の複合体積比65/35、紡糸温度320℃、ノズル径φ0.13mm、ノズル長0.26mm、10ホールの芯鞘複合口金より吐出し、紡糸速度600m/minで巻き取り、110dtexのフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなどなく製糸性は優れていた。
【0089】
この紡糸原糸を実施例1と同様に加熱処理した。得られた加熱処理糸は繊維間膠着が多く見られ、解舒性が劣っていた。各種評価結果を表2に示す。
【0090】
この繊維の耐摩耗性評価後の糸表面を観察したところ、鞘は大きく割れて剥離しており芯が露出していた。また不織布を形成したところ、表層のポリフェニレンスルフィド層の過度の接着に由来すると思われるシート化が起こり、不織布としての意匠性あるいは外観が非常に劣っていた。
【0091】
【発明の効果】
本発明の長繊維不織布は、繊維中で島成分を形成する溶融異方性ポリエステルの優れた特徴すなわち高強力、高弾性率、非吸湿性、耐熱性、耐薬品性等の性能が十分に発揮され、さらに高温での形態安定性にも優れており、また屈曲性熱可塑性樹脂が海成分を形成していることから、溶融異方性ポリエステル単体のみでは達成し得なかった良好な耐摩耗性および不織布を形成せしめる際の自己融着性を有し、結果的に得られる長繊維不織布は、従来の溶融異方性ポリエステルのみから構成されていた不織布に比べて非常に優れた物性を多数有し、様々な分野で用いることができる。例えば産業資材用途等で広く用いられ、特にブレーキライニング、クラッチフェーシング、軸受け等の摩耗材、パッキング材、ガスケット材、フィルター,研磨材、絶縁紙、耐熱紙、スピーカーコーン、ワイピングクロス、樹脂強化剤、電気絶縁用途等に好適である。また本発明の長繊維不織布の製造方法は、特別な装置を用いる必要のない、極めて簡便な製造方法であり、従来の製造装置が十分活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の長繊維不織布の単繊維横断面形状の具体例である。単繊維中の黒い部分が海成分、白い部分が島成分を表す。
Claims (9)
- 溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなる長繊維不織布において、下記(1)〜(4)の要件を満たし、かつ目付が10g/m2 以上であることを特徴とする長繊維不織布。
(1)単繊維の引張り強度が4.5cN/dtex以上。
(2)単繊維100体積部における溶融異方性ポリエステルAの含有量が40〜80体積部。
(3)単繊維100体積部における屈曲性熱可塑性樹脂Bの含有量が20〜60体積部。
(4)繊維軸方向と直交する繊維断面が海島構造を形成し、溶融異方性ポリエステルAが島成分を形成する。 - ブレンド繊維相互の自己融着によって不織布全体が接着されていることを特徴とする請求項1記載の長繊維不織布。
- 繊維軸方向と直交する繊維横断面において、繊維径(R)に対する、島成分径(r)がr/R≦0.3であることを特徴とする請求項1または2記載の長繊維不織布。
- 溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bの融点が250℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の長繊維不織布。
- 屈曲性熱可塑性樹脂Bがフェニレンスルフィドを主たる繰り返し単位とする樹脂であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の長繊維不織布。
- 単繊維100体積部における溶融異方性ポリエステルAの含有量が50〜70体積部、かつ屈曲性熱可塑性樹脂Bの含有量が30〜50体積部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の長繊維不織布。
- 縦方向と横方向の平均裂断長が3km以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の長繊維不織布。
- 溶融異方性ポリエステルAおよび屈曲性熱可塑性樹脂Bで構成されるブレンド繊維からなる長繊維不織布の製造方法において、下記(5)式を満足する溶融紡糸法により得られたブレンド繊維を、ウェブを形成する前、もしくはウェブを形成したのちボンディング処理を施す前、もしくはウェブを形成しボンディング処理を施した後、のいずれかの工程において加熱処理することを特徴とする、長繊維不織布の製造方法。
Av/Bv < An/Bn ・・・(5)
(ただし、紡糸温度で剪断速度が100sec−1での溶融異方性ポリエステルAの剪断粘度をAv、屈曲性熱可塑性樹脂Bの剪断粘度をBv、単繊維における溶融異方性ポリエステルAの体積比率をAn、屈曲性熱可塑性樹脂Bの体積比率をBnとする。) - 溶融紡糸により得られたブレンド繊維の繊維表面に屈曲性熱可塑性樹脂Bが存在する割合が50%以上であることを特徴とする請求項8記載の長繊維不織布の製造方法。
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