本発明は、高強度・高弾性率を有し、かつ耐摩耗性・耐疲労性および耐薬品性に優れたブレンド型複合繊維の製造方法に関するものであり、本発明によって得られる複合繊維は、一般産業用資材、特にロープ、ゴム補強、ジオテキスタイル、FRP用途、コンピューターリボン、プリント基盤用基布、エアーバッグ、バグフィルター、漁網等の水産資材、スクリーン紗等幅広く活用されるものである。
溶融液晶形成性ポリエステルを溶融紡糸して得られる繊維は、高強度・高弾性率、寸法安定性などに優れていることが知られている。
溶融液晶形成性ポリエステル繊維は、分子鎖が繊維軸方向に高度に配向していることによって、高強度・高弾性率を有する反面、繊維軸に直角な方向では弱い分子間力が働くのみであるため、摩擦によってフィブリル化し易く、このフィブリルが発生することにより繊維強度が低下して破損に至ることなどトラブルの原因となっていた。また、座屈によるキンクバンドが発生しやすく、かつそれが局在化する傾向にあることから耐摩耗性に劣るなどの欠点を有するものであった。
そこで、これらの欠点が改善された繊維として、溶融液晶形成性ポリエステルとその他のポリマーからなるブレンド型複合繊維(特許文献1、2および3参照)が提案されている。
このように、溶融液晶形成性ポリエステルと他のポリマーとで構成される複合繊維とすることで、LCPの加工性が改善される。特に、他のポリマーとしてポリフェニレンスルフィドを用いた場合は、耐摩耗性が改善される上、適正な紡糸温度が近似しており、また耐薬品性などの特性をさらに付与することができるため有利である。
しかしながら、ポリフェニレンスルフィドをブレンドした溶融液晶形成性ポリエステルは溶融状態での粘度上昇が大きく、異常滞留部などで長時間にわたって加熱を受けて溶融粘度が高くなったものが異物化して、製糸性を悪化させる原因となったり、紡糸開始から溶融粘度が徐々に高くなり安定化するまでに長時間を要するため均質な製品を得ようとする場合に原料の損失が大きくなるなどの問題があった。
溶融液晶形成性ポリエステルは、ポリマーを生成した後に熱加工を受けると末端基が互いに反応し、ポリマー連鎖が生長し続ける傾向があり、ポリマー連鎖の生長に伴う溶融粘度の上昇が起こる。
このような問題を解決する方法として、重合時に過剰の芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を添加し、溶融液晶形成性ポリエステルのポリマー連鎖末端を実質的にカルボン酸末端基および/またはそのエステル化誘導体とする方法が提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら、該方法によって末端を改質した溶融液晶性ポリエステルを用いても、前述したポリフェニレンスルフィドとの溶融ブレンド状態での粘度上昇を抑制することはできなかった。すなわち、ポリフェニレンスルフィドを溶融混合した状態で長時間加熱したときの溶融粘度の上昇は溶融液晶形成性ポリエステル単体を改質したのみでは解決せず、経時での物性変化や製糸性の悪化を避けることはできなかった。
特開平11−293522号公報(第2頁)
特開2000−119952号公報(第3頁)
特開2003−239137号公報(第6頁 図1)
特開昭60−40127号公報(第6頁)
この問題の原因については、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)との混合ポリマーを溶融状態で加熱処理して、熱処理の前後で溶融液晶形成性ポリエステル(A)中のS(硫黄)含有量を比較した結果、S含有量は加熱処理によって大幅に増加していることがわかり、混合ポリマーを加熱処理することで、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)が何らかの反応をしていることが推測される。
さらに、ポリフェニレンスルフィド(B)の熱分解による生成物や生成ガスが触媒として作用し、両ポリマーを混合した場合に溶融粘度の上昇が顕著になると考えられ、これは、溶融温度を高くすることで溶融粘度の上昇がさらに促進されることから推測できる。例えば、生成ガスとして酸性のガスが生成している場合、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の重合触媒として作用する可能性がある。
本発明はこの問題に対して、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)との反応を抑制することにより、溶融粘度の急激な上昇を抑制し、製糸性を改善し、長時間に渡って安定な製品供給を可能とするものである。
本発明は、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)からなる複合繊維の製造方法であり、溶融液晶形成性ポリエステル(A)および/またはポリフェニレンスルフィド(B)に芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を添加した後、溶融紡糸することを特徴とするブレンド型複合繊維の製造方法である。
本発明によれば、高強度・高弾性率を有し、かつ耐摩耗性、耐薬品性にも優れたブレンド型複合繊維を長時間安定して製造することができる。
本発明に用いる溶融液晶形成性ポリエステル(A)とは、加熱して溶融した際に光学的異方性を呈するポリマーを指す。この特性は、例えば溶融液晶形成性ポリエステル(A)からなる試料をホットステージにのせ窒素雰囲気下で昇温加熱し、試料の透過光を偏光下で観察することにより認定できる。試料を強制的に流動させると透過光量は変化するが、この種の試料は例え静止状態であっても光学的に異方性を示す。これに対して、光学的異方性を示さない一般的なポリマーは、静止状態での検査で実質的に光を透過させることはなく、本質的に等方性である。
本発明に用いる溶融液晶形成性ポリエステル(A)の重合処方は、従来公知の方法を用いることができる。
本発明に用いる溶融液晶形成性ポリエステル(A)としては、例えばa.芳香族オキシカルボン酸の重合物、b.芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、脂肪族ジオールの重合物、c.aとbとの共重合物などが挙げられる。
ここで、a.芳香族オキシカルボン酸としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸など、または上記芳香族オキシカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。
また、b.芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸など、または上記芳香族ジカルボン酸のアルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられる。
さらに、b.芳香族ジオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジオキシジフェニール、ナフタレンジオールなど、または上記芳香族アルキル、アルコキシ、ハロゲン置換体などが挙げられ、脂肪族ジオールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。
本発明に用いる溶融液晶形成性ポリエステル(A)の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸成分とエチレンテレフタレート成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と4,4’−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸またはイソフタル酸とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とが共重合されたもの、p−ヒドロキシ安息香酸成分と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸成分とハイドロキノンとテレフタル酸とが共重合されたものなどが挙げられる。
本発明で用いる溶融液晶形成性ポリエステル(A)の融点(以下MP)は、紡糸、固相重合などでの加工上の問題を生じないよう220〜380℃の範囲のものが好ましく、さらに好ましくはMPが250〜350℃のものである。
本発明は、溶融液晶形成性ポリエステル(A)を1成分とすることにより、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の持つ高強度・高弾性率を示し、寸法安定性に優れたブレンド型複合繊維を提供できる。
本発明は、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の複合対象ポリマーとしてポリフェニレンスルフィド(B)を用いることに特徴を有するものであり、ポリフェニレンスルフィド(B)は、融点が溶融液晶形成性ポリエステル(A)に近く、かつ耐熱性に優れているため、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の紡糸温度においても熱劣化し難く、安定に紡糸が可能である。また、得られた繊維を熱処理するに際して、より高強度とするためには、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の融点近傍の温度で処理を施す必要があるが、このような温度で熱処理した場合にも繊維間融着し難く、製織工程などでの取り扱い性に優れた繊維が得られる。
ポリフェニレンスルフィド(B)には分岐状・直鎖状などの形態があり、本発明は、いずれの形態のポリフェニレンスルフィド(B)を用いた場合にも有効である。良好な製糸性が得られる上、耐薬品性、力学的特性、耐フィブリル化性等についてより良好な物性を得るためには、直鎖状ポリフェニレンスルフィド(B)を用いることが好ましい。
さらに、重合条件により異なるが、一般的にポリフェニレンスルフィド(B)はNa、Ca、Mg、Feなどの金属を含有しており、ポリマー連鎖の末端はこれら金属の他、重合原料および触媒由来の末端基、例えば、重合原料としてp−ジクロロベンゼンを用いた場合にはCl基、重合触媒としてN−メチルピロリドンを用いた場合にはその分解物であるN−アルキルピリジン基やピリジン基などになっている。本発明はいずれの末端を有するポリフェニレンスルフィド(B)を用いた場合にも有効であるが、溶融液晶形成性ポリエステル(A)との複合界面の接着性を高め、海島成分の界面剥離を抑制する効果が得られる点から、これらのポリマー連鎖末端を有したポリフェニレンスルフィド(B)を重合した後、塩酸をはじめとする無機酸、酢酸をはじめとする有機酸などによりポリマーを酸洗浄して、COOH末端としたポリフェニレンスルフィド(B)を用いることが好ましい。
本発明で用いる溶融液晶形成性ポリエステル(A)およびポリフェニレンスルフィド(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で他のポリマーをブレンドしても良い。他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリカプロラクトン等のポリエステル、あるいはこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等のポリオレフィン、あるいはこれらの共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T等のポリアミド、あるいはこれらの共重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリスルホン等を挙げることができる。
本発明で用いる溶融液晶形成性ポリエステル(A)およびポリフェニレンスルフィド(B)には、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種金属酸化物、カオリン、シリカなどの無機物や、着色剤、艶消剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤等の添加剤を少量含有しても良い。
本発明は、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)を溶融紡糸するに際し、溶融液晶形成性ポリエステル(A)および/またはポリフェニレンスルフィド(B)に芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を添加することに特徴を有するものであり、これらを添加することによって、両ポリマーを混合した状態で長時間加熱しても溶融粘度の上昇は見られず、経時での物性変化や製糸性の悪化を改善することができる。これは、紡糸時における溶融液晶形成性ポリエステル(A)自体のポリマー連鎖の生長が抑制されるとともに、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)との反応を抑制して、両ポリマーを混合することで発生する溶融粘度の急激な上昇を抑制することができたためと思われる。われわれはモデル的に両ポリマーを混合した状態で加熱処理したサンプル中の溶融液晶形成性ポリエステル(A)を分離し、S(硫黄)成分含有量を測定すると、加熱前に比較して大幅に増加していることを見出しており、加熱処理によって溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)が何らかの反応をしていると考えられる。さらにポリフェニレンスルフィド(B)の熱分解生成物、特に酸性のガスが触媒として溶融粘度の上昇を引き起こしており、これらが溶融粘度の上昇の複合的な要因になっていると考えている。
本発明では、芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体は、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の末端に反応するだけでなく、ポリフェニレンスルフィド(B)存在下でより起こりやすいと思われる熱分解で発生するエステル結合切断部位に対しても速やかに反応しポリフェニレンスルフィド(B)との結合による分岐鎖の発生を抑制し、この混合ポリマーの溶融粘度の上昇を抑制しているものと思われる。
本発明の添加剤として用いる芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体のうち、芳香族ジカルボン酸モノマーとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2−フェニルテレフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルケトン−4,4’−ジカルボン酸、2,2’―ジフェニルプロパン−4,4’−ジカルボン酸等などが挙げられる。
また芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体とは、上記に示すような芳香族ジカルボン酸と1価または多価アルコールから得られるエステル化合物である。1価アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ペンタノール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールなどの飽和又は不飽和脂肪族1価アルコール、シクロヘキサノールなどの脂環式1価アルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族1価アルコールなどが含まれる。多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオールの他、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなど、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、などの脂環式多価アルコール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホンなどの芳香族ジオールなどの芳香族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのアルキレングリコール類などの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタンなどの3価アルコール、ペンタエリスリトールなどの4価アルコールなどが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体は1種単独でも、2種以上を配合してもよい。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸が入手の容易性から好ましい。
また、芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体の数平均分子量Mnは、1000以下であることが好ましい。1000以下であることにより繊維中に均一分散させることができ、有効に粘度上昇を抑制し製糸性を向上させることができる。芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体の数平均分子量Mnとしてより好ましい範囲は100以上、400以下である。分子量は例えば、GPC装置に紫外/可視吸収検出器を組み入れ、GPC装置でサイズ分別された分子鎖溶液の紫外/可視吸収強度を溶出時間を追って測定することにより、溶質の分子量とその含有量を順次計算することにより求められる。
本発明の添加剤として用いる芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体としては、好ましくはテレフタル酸、テレフタル酸のエステル化誘導体であるジメチルテレフタレートやジフェニルテレフタレートが挙げられる。
本発明においてより好ましくは、テレフタル酸はエステル化せずにそのまま用いる。添加剤としてテレフタル酸を用いた場合に本発明の効果はより顕著に現れる。
本発明において、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)の混合については、固体状態で混合する方法、溶融状態で混合する方法のいずれでもよく、各ポリマーの形態はチップ形状が望ましいが、粉体やフレークであってもよい。また、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)、および芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体の3成分を同時に混合してもよく、2成分を一旦混合した後に残りの1成分を混合してもよい。
また、混練機による混合と紡糸を別工程とした多工程で行う方法、混練機を直接備えた紡糸機を用いて、混合と紡糸を一工程で行う方法のいずれでもよい。具体的な方法として、例えば、3成分を混練機にて混合して3成分混合ポリマーを作製した後、該ポリマーを溶融紡糸する方法、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)を混練機にて混合した2成分混合ポリマーを作製した後、該ポリマーを溶融紡糸する際に芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を添加する方法、混練機を直接備えた紡糸機を用い、3成分を固体状態で同時に混合して投入し、そのまま紡糸する方法などが挙げられる。
本発明においては、ポリマーを溶融状態としている時間は、添加剤が反応できる程度であれば良く、一般的な溶融紡糸の観点からみても、溶融状態である時間は短いほうが好ましいため、混練機を直接備えた紡糸機を用いて、一工程で行う方法が好ましい。
混合に用いる混練機としては、例えば、1軸混練機、2軸混練機、各種のニーダー等が挙げられ、混練性の観点から2軸混練機であることが好ましい。また、繊維の品質を均一に保つためには、ポリマーの熱劣化および加水分解による粘度低下や異常滞留が少なくなるようなスクリュー構成とすることが好ましい。
本発明の添加剤として用いる芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体は、乾燥した溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)の合計重量:WA+WBを100重量部として、0.2〜3.0重量部添加することが好ましい。
添加量を0.2重量部以上とすることにより、溶融粘度上昇の抑制効果が十分となり、製糸性の改善効果が明確となる。一方、3.0重量部以下とすることによって、例えば、テレフタル酸を用いる場合には、溶解しきれないテレフタル酸が紡糸パックの濾過フィルターを通過できずにフィルター上に堆積し濾圧上昇を引き起こすような問題発生の可能性が小さくなるとともに、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の固相重合の反応部位であるポリマー連鎖末端が確保できるため、得られる繊維の強度が充分なものとなる。
これらの効果を充分発揮できる範囲としては、芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体の添加量は、0.5〜2.0重量部添加されることがより好ましい。
本発明により得られるブレンド型複合繊維は、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)から構成された海島構造を有するものであり、島成分の分散状態としては枝分かれを有していても良く、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)が共連続相を形成する部分が含まれていても良い。
該海島構造について、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の特徴である高強度・高弾性率やポリフェニレンスルフィド(B)の特徴である耐薬品性などの両ポリマーの特徴を同時に発現させることができる点から、溶融液晶形成性ポリエステル(A)を島成分、ポリフェニレンスルフィド(B)を海成分とした海島構造を有していることが好ましく、またこのような構造を形成することにより溶融液晶形成性ポリエステル(A)が実質的にポリフェニレンスルフィド(B)に被覆され、良好な耐摩耗性を得ることができる。
本発明における、溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)との複合重量比とは、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の重量をWA、ポリフェニレンスルフィド(B)の重量をWBとしたときのWA/WBで表される値であり、両ポリマーを固体状態または溶融状態で重量換算で計量したときの比である。
本発明においては、WA/WBが1より大きい、すなわち溶融液晶形成性ポリエステル(A)の重量がポリフェニレンスルフィド(B)の重量より大きいことが好ましく、これにより、優れた耐摩耗性を有しながら、各種産業用途への適用が可能となる十分な高強度・高弾性率を得ることができる。
さらに、高強度・高弾性率で、かつ良好な耐摩耗性を得るためには、WA/WBが1.2以上、3.0以下であることがより好ましい。
本発明により得られる島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)のブレンド型複合繊維の横断面においては、繊維径を(R)、島成分径を(r)としたとき、全ての島成分がr/R≦0.3を満足し、かつ繊維横断面全体に分散していることが、耐摩耗性の点で好ましい。ここで繊維径(R)とは、該繊維の外接円の直径であり、島成分径(r)とは、その島成分の外接円の直径である。ここで、海成分と島成分の界面剥離を抑制するために、全ての島成分がr/R≦0.2を満たすものであることがより好ましい。また、両ポリマーは相溶化しないことから、全ての島成分はr/R≧0.00001を満たすものであることが好ましく、より好ましくはr/R≧0.00005を満たすものである。
本発明は、公知の単成分紡糸用口金を用いて製造することも可能であり、得られる繊維の横断面は、丸形・各種異形などいずれの形状とすることも可能である。
本発明において溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)とを溶融紡糸するにあたって、紡糸温度は280〜340℃とすることが好ましい。溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)との反応は温度に比例して促進されるため、この反応を抑制するなどの観点から紡糸温度は320℃以下とすることがより好ましい。
本発明により得られるブレンド型複合繊維は、紡糸しただけで既に十分な強度と弾性率を有しているが、弛緩熱処理あるいは定長熱処理により重合度を向上させ強度、弾性率をさらに向上させる固相重合処理を行うことができる。
この場合、処理は、窒素等の不活性ガス雰囲気中や、空気の如き酸素含有の活性ガス雰囲気中または減圧下、真空中などいずれの条件下においても実施が可能である。熱処理雰囲気は露点が−40℃以下の低湿気体が好ましい。熱処理条件としては、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の融点を基準として、融点より40℃以下の温度から、融点を超えない温度まで順次昇温する温度パターンで行うことが好ましく、熱処理の開始温度は、融点より40℃以下の温度であればいずれの温度でも可能である。このとき、単繊維間の融着を防ぐため、最終的な処理温度として融点の5℃以下程度で処理することが好ましい。さらに処理時間は、目的性能により数分から数十時間行われる。なお、処理温度は融点の5℃以下程度で数十時間にわたり処理した場合には、溶融液晶形成性ポリエステルの融点が向上することがあり、これによってより高い温度での処理も可能となる。
熱処理では、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の固相重合を促進させるため、各種の添加剤を付与しても良い。
熱処理時における熱の供給は、液体および気体等の媒体を用いる方法、加熱板、赤外線ヒーター等による輻射を利用する方法、熱ローラー、熱プレート等に接触させて行う方法、高周波等を利用した内部加熱方法等が使用できる。また、熱処理は目的により緊張下あるいは無緊張下で行ない、熱処理の形状はドラム状、カセ状、トウ状(例えば、金属網等にのせて行う)、あるいはローラー間で連続的に糸条として処理することも可能である。さらに、繊維の形態はフィラメント状あるいはカットファイバー状いずれも可能であり、かつ布帛、織編物などの繊維成型体とした後に熱処理することも可能である。
本発明により得られるブレンド型複合繊維は、溶融液晶形成性ポリエステル(A)の特長である高強度および高弾性率を有するものであり、該繊維の引張強度は12cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは14cN/dtex以上である。
また、種々の用途において製品の寸法安定性および耐久性を充分なものとするため、弾性率は270cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは300cN/dtex以上である。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、本発明の各種特性の評価は次の方法で行った。
・引張強伸度、弾性率:JIS L1013記載の方法に準じ、オリエンテック社製テンシロンUCT−100を用いて測定した。
・溶融粘度:東洋精機(株)製キャピログラフ1B型を用い、測定温度300℃、剪断速度100sec−1の条件で求められた剪断粘度である。
・融点MP:パーキンエルマー(株)製示差走査熱量計(DSC)で行う示差熱量測定において、室温から16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷した後(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点MPとした。
・耐摩耗性:評価サンプルには、紡糸したサンプル(マルチフィラメント)を熱処理し、その後に分繊して得たモノフィラメントを用い、水平移動する滑車上に設置したφ5mmの梨地の金属棒に接触角35°でかけたサンプルの端をストローク装置に把持し、滑車の水平移動方向に2.0cN/dtexの荷重を吊し、ストローク装置をストローク長30mm、速度100回/minで作動させて梨地の金属棒でサンプルを摩擦し、毛羽(成分剥離、フィブリル化)が発生した時点のストローク回数を測定した。測定は5回実施し、5回の測定全て500回以上であった場合を○、500回未満が1回でもあった場合は×として評価した。
・海成分と島成分の分散状態と成分確認、繊維径に対する島成分径の比率r/R:透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM(H−800型))を用いて繊維横断面を観察することにより求めた。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rについては、1サンプルにつき任意に選択された3つの繊維横断面について、繊維横断面において繊維径の外接円(R)と該繊維横断面中で最も大きな島成分において島成分の外接円(r)をそれぞれ求めることにより、両外接円の直径から比率r/Rを算定し、3つの繊維横断面でそれぞれ求められた比率r/Rの平均値を評価値として用いた。
・溶融粘度上昇の抑制効果:ポリマー吐出後、紡糸パック圧が安定してから5時間のパック圧上昇量を溶融粘度上昇の抑制効果の指標とし、上昇量が1.0MPa未満を合格とした。
・製糸性:5時間の紡糸中に紡糸トラブルの発生が無く、安定して巻き取り可能だったものを○、紡糸中に紡糸トラブルが1回でも発生したものは×で評価した。
実施例1
溶融液晶形成性ポリエステル(A)として、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位(1)と6−ヒドロキシ2−ナフトエ酸から生成した構造単位(2)からなり、構造単位(1)が全体の72モル%、構造単位(2)が28モル%を占める溶融液晶形成性ポリエステルを用いた。この溶融液晶形成性ポリエステル(A)の溶融粘度は、測定温度300℃、剪断速度100sec−1の測定条件において115Pa・sで、融点は278℃であった。
ポリフェニレンスルフィド(B)として、ポリマー連鎖末端がCOOH末端である直鎖状のポリフェニレンスルフィドを用いた。このポリフェニレンスルフィド(B)の溶融粘度は、測定温度300℃、剪断速度100sec−1の測定条件において51Pa・sで、融点は280℃であった。
溶融液晶形成性ポリエステル(A)、ポリフェニレンスルフィド(B)ともに、真空下において150℃で10時間の乾燥を実施した。
乾燥した溶融液晶形成性ポリエステル(A)のチップとポリフェニレンスルフィド(B)のチップを複合重量比:WA/WB=60/40(重量%)で、窒素ガスを吹き込みながらチップ混合した。この合計重量:WA+WBを100重量部として、これに対し、芳香族ジカルボン酸モノマーとしてテレフタル酸(TPA)を0.5重量部添加し、窒素を吹き込みながらさらに混合した。
混合したポリマーを溶融紡糸装置に直接接続されるスクリュー径φ30mmの2軸エクストルーダーに供給して溶融混練した後、計量ポンプで計量して紡糸パックへと供給し、紡糸パック内の濾過径15μの不織布フィルターで濾過した後、ノズル径φ0.13mm、ノズル長0.26mm、孔数24ホールの単成分用口金から紡糸温度315℃で吐出して、紡糸速度600m/minで巻き取り、240dtexのフィラメントを得た。
このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:11.5MPa、安定してから5時間経過後:11.8MPaで、0.3MPaの上昇と良好であった。この間、糸切れすること無く、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する最大の島成分径の比率r/Rは0.13であった。
このフィラメントに固相重合用油剤を付与し、250℃で5時間、260℃で4時間、280℃で12時間窒素ガス雰囲気中にて熱処理することで固相重合をおこなった。得られた熱処理糸は以下の性能を有していた。
強度 14.1cN/dtex
伸度 3.9%
弾性率 335cN/dtex
また、熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価したところ、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。
実施例2
溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)の複合重量比:WA/WB=15/85(重量%)に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:7.8MPa、安定してから5時間経過後:8.1MPaで、0.3MPaの上昇であった。この間、糸切れすること無く、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.02であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。各種評価結果を表1に示す。
実施例3
溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)の複合重量比:WA/WB=85/15(重量%)に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:10.4MPa、安定してから5時間経過後:11.1MPaで、0.7MPaの上昇であった。この間、糸切れすること無く、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分がポリフェニレンスルフィド(B)、海成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)で構成されており、実施例1の分散状態と逆の態様を示していた。島成分であるポリフェニレンスルフィド(B)の分散状態は良好であり、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.03であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸は繊維間膠着があり、解舒性が悪かった。また、熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価したところ、フィブリルが容易に発生し、5回の測定全て500回以上の条件を達成できなかったため不合格とした。各種評価結果を表1に示す。
実施例4
ポリフェニレンスルフィド(B)として、測定温度300℃、剪断速度100sec−1の測定条件における溶融粘度が242.0Pa・s、融点が283℃のものを用いたこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:13.8MPa、安定してから5時間経過後:14.6MPaで、0.8MPaの上昇であった。この間、糸切れすること無く、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、分散状態がはっきりしていない共連続相が存在していたが、概ね島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されていた。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価したところ、フィブリルが容易に発生し、5回の測定全て500回以上の条件を達成できなかったため不合格とした。各種評価結果を表1に示す。
実施例5
テレフタル酸の添加量を0.2重量部に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:12.1MPa、安定してから5時間経過後:13.0MPaで、0.9MPaの上昇であった。この間、糸切れすること無く、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.13であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。各種評価結果を表1に示す。
実施例6
テレフタル酸の添加量を3.0重量部に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:12.3MPa、安定してから5時間経過後:13.1MPaで、0.8MPaの上昇であった。この間、糸切れすること無く、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.13であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。各種評価結果を表1に示す。
実施例7
紡糸時に添加する芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体として、テレフタル酸のエステル化物であるジメチルテレフタレート(DMT)を用いたこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:9.5MPa、安定してから5時間経過後:10.4MPaで、0.9MPaの上昇であった。この間、糸切れすることなく、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.13であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。各種評価結果を表1に示す。
実施例8
紡糸時に添加する芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体として、テレフタル酸のエステル化物であるジフェニルテレフタレート(DPT)を用いたこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:9.0MPa、安定してから5時間経過後:9.9MPaで、0.9MPaの上昇であった。この間、糸切れすることなく、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.14であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。各種評価結果を表1に示す。
実施例9
溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)の複合重量比:WA/WB=55/45(重量%)に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:10.9MPa、安定してから5時間経過後:11.3MPaで、0.4MPaの上昇であった。この間、糸切れすることなく、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.11であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。各種評価結果を表1に示す。
実施例10
溶融液晶形成性ポリエステル(A)とポリフェニレンスルフィド(B)の複合重量比:WA/WB=75/25(重量%)に変更したこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸してフィラメントを得た。このとき、吐出孔詰まり、吐出曲がりなど無く製糸性は良好であり、紡糸パック圧は、初期安定時:12.7MPa、安定してから5時間経過後:13.5MPaで、0.8MPaの上昇であった。この間、糸切れすることなく、安定に紡糸することが可能であった。
得られたフィラメントは、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.22であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定のうち、500回以上を達成できたのは3回であり、不合格とした。各種評価結果を表1に示す。
比較例1
芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を添加しなかったこと以外、実施例1と同様の方法により紡糸した。
このとき、紡糸パック圧は、初期安定時:12.0MPa、安定してから5時間経過後:13.9MPaであり、1.9MPaと大きく上昇した。この間、糸切れが数回発生し、巻き取りが困難な状況であった。
巻き取り可能であった部分のフィラメントで海島成分のポリマー構成を評価したところ、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.14であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。各種評価結果を表2に示す。
比較例2
芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を添加しなかったこと以外、実施例2と同様の方法により紡糸した。
このとき、紡糸パック圧は、初期安定時:8.0MPa、安定してから5時間経過後:9.2MPaであり、1.2MPaと大きく上昇した。この間、糸切れが数回発生し、巻き取りが困難な状況であった。
巻き取り可能であった部分のフィラメントで海島成分のポリマー構成を評価したところ、島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されており、海島成分の分散状態は良好であった。また、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.03であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価した結果、5回の測定全て500回以上を達成したので合格とした。各種評価結果を表2に示す。
比較例3
芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を添加しなかったこと以外、実施例3と同様の方法により紡糸した。
このとき、紡糸パック圧は、初期安定時:10.5MPa、安定してから5時間経過後:11.9MPaであり、1.4MPaと大きく上昇した。この間、糸切れが数回発生し、巻き取りが困難な状況であった。
巻き取り可能であった部分のフィラメントで海島成分のポリマー構成を評価したところ、島成分がポリフェニレンスルフィド(B)、海成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)で構成されており、実施例3と同様の分散状態を示していた。また、島成分であるポリフェニレンスルフィド(B)の分散状態は良好であり、繊維径に対する島成分径の比率r/Rは0.03であった。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価したところ、フィブリルが容易に発生し、5回の測定全て500回以上の条件を達成できなかったため不合格とした。各種評価結果を表2に示す。
比較例4
芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を添加しなかったこと以外、実施例4と同様の方法により紡糸した。
このとき、紡糸パック圧は、初期安定時:12.0MPa、安定してから5時間経過後:13.5MPaであり、1.5MPaと大きく上昇した。この間、糸切れが数回発生し、巻き取りが困難な状況であった。
巻き取り可能であった部分のフィラメントで海島成分のポリマー構成を評価したところ、分散状態がはっきりしていない共連続相が存在していたが、概ね島成分が溶融液晶形成性ポリエステル(A)、海成分がポリフェニレンスルフィド(B)で構成されていた。
このフィラメントに実施例1と同様、固相重合用油剤を付与し、熱処理した。得られた熱処理糸を分繊し、モノフィラメントとして耐摩耗性を評価したところ、フィブリルが容易に発生し、5回の測定全て500回以上の条件を達成できなかったため不合格とした。各種評価結果を表2に示す。