JP2004256629A - 熱可塑性ポリエステル樹脂組成物 - Google Patents

熱可塑性ポリエステル樹脂組成物 Download PDF

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Noriyuki Suzuki
紀之 鈴木
Yoshitaka Oono
良貴 大野
Junji Miyano
淳司 宮野
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Abstract

【課題】帯電防止性があり表面性に優れ、かつ反り、アウトガス、フィラー等の脱落が少なく、また、剛性や耐熱性にも優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエーテル化合物で処理された層状化合物および炭素化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物であり、更には(a)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物のうち等価面積円直径[D]が3000Å以下である層状化合物の比率が20%以上であること、(b)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に分散する層状化合物の等価面積円直径[D]の平均値が5000Å以下であること、(c)樹脂組成物の面積100μm中に存在する層状化合物の単位重量比率当たりの粒子数を[N]値と定義した場合[N]値が30以上であること、のうち少なくとも一の条件を満たす、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエーテル化合物で処理された層状化合物および炭素化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近の電子技術の発展に伴い、静電記録シート、電子機器ハウジング、静電コンテナー、静電フィルム、クリーンルームの床材や壁材や間仕切り材、電子機器のカバー材、IC等のマガジンの需要が増加している。それらの材料には、寸法精度や低反り性、表面性、剛性、耐熱性が要求されている。一方、熱可塑性ポリエステル樹脂は耐熱性、機械的特性等に優れる為、射出成形材料、シート、フィルムとして多くの工業的用途に利用されているが、通常静電気を帯び易く、そのためフィルム、シートまたは板でできた容器など、静電気の蓄積を嫌う用途にはそのままでは使用できない。そのため、合成樹脂に導電性を付与する技術が広く利用されており、一般に炭素繊維(特許文献1および2参照)やカーボンブラック(特許文献3および4参照)などが利用されている。
【0003】
しかしながら、導電性を付与するために一般の炭素繊維やカーボンブラックを用いた材料では、炭素繊維やカーボンブラックが成形品表面に浮き易い傾向がある。このような材料がコンテナや搬送用トレイなどに用いられると、表面に浮いた炭素繊維がICやその他の電子部品を傷つける問題がある。更に、成形時に炭素繊維が流動方向に配向して異方性が生じ、そのために成形品が反ってしまう問題もある。一方、通常のカーボンブラックを帯電防止剤として用いた場合は、成形品の搬送中の擦れ或いは洗浄時等にカーボンブラックが脱落し、電子部品に付着した場合は、メディアクラッシュ等の原因となる。また、樹脂からのアウトガスによって電子部品等が汚染される問題が挙げられるが、このアウトガスを従来の無機充填材や繊維状強化材で抑制する事は困難である。
【0004】
以上、耐熱性、剛性、表面性に優れ、反りやアウトガスの発生が抑制され、更に帯電防止剤等のフィラーの脱落が抑制された導電性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得る技術は未だ見出されていないのが現状である。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−205310号公報
【0006】
【特許文献2】
特開平10−237316号公報
【0007】
【特許文献3】
特開平11−310701号公報
【0008】
【特許文献4】
特開平7−331029号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的はこのような従来の問題を改善し、表面性に優れ、低反り、低アウトガスであり、帯電防止剤等のフィラーの脱落が少なく、剛性や耐熱性が高い導電性熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成する為に鋭意検討した結果、ポリエーテル化合物で処理された層状化合物および炭素化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は優れた特性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明の第一は、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエーテル化合物で処理された層状化合物および炭素化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0012】
好ましい実施態様は、前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が下記(a)〜(c)のうち少なくとも一の条件を満たす、前記の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。(a)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物のうち、等価面積円直径[D]が3000Å以下である層状化合物の比率が20%以上であること、(b)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に分散する層状化合物の等価面積円直径[D]の平均値が5000Å以下であること、(c)樹脂組成物の面積100μm中に存在する層状化合物の単位重量比率当たりの粒子数を[N]値と定義した場合、[N]値が30以上であること。
【0013】
より好ましい実施態様は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物の平均層厚が500Å以下であることを特徴とする、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0014】
より好ましい実施態様は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物の最大層厚が2000Å以下であることを特徴とする、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0015】
より好ましい実施態様は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物の平均アスペクト比(層長さ/層厚の比)が10〜300であることを特徴とする、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0016】
より好ましい実施態様は、層状化合物が層状ケイ酸塩であることを特徴とする、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0017】
より好ましい実施態様は、ポリエーテル化合物が、主鎖中に下記一般式(1):
【0018】
【化2】
Figure 2004256629
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表される単位を有する事を特徴する、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0019】
より好ましい実施態様は、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエーテル化合物で処理された層状化合物および炭素化合物を溶融混練することによって得られる、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0020】
より好ましい実施態様は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における前記層状化合物の重量比が1重量%以上、30重量%以下であることを特徴とする、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0021】
より好ましい実施態様は、前記炭素化合物が、直径が1μmより大きくかつ長さが50μmよりも大きい繊維状以外であることを特徴とする、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0022】
より好ましい実施態様は、前記炭素化合物が粒状であることを特徴とする、前記の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0023】
より好ましい実施態様は、前記炭素化合物がフィブリル状である事を特徴とする、前記の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0024】
より好ましい実施態様は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における炭素化合物の重量比が0.1重量%以上、30重量%以下であることを特徴とする、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に関する。
【0025】
本発明の第二は、前記何れかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物で全部または一部を形成されている樹脂成形体に関する。
【0026】
より好ましい実施態様は、電子部品用の容器であることを特徴とする、前記の樹脂成形体に関する。
【0027】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられる熱可塑性ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸化合物および/またはジカルボン酸のエステル形成性誘導体を主成分とする酸成分、並びにジオール化合物および/またはジオール化合物のエステル形成性誘導体を主成分とするジオール成分との反応により得られる従来公知の任意の熱可塑性ポリエステル樹脂である。
【0028】
前記主成分とするとは、酸成分又はジオール成分中に占めるそれぞれの割合が80モル%以上、さらには90モル%以上であることを意図し、上限は100モル%である。
【0029】
上記の酸成分のうち芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸等が挙げられ、これらの置換体(例えば、メチルイソフタル酸等のアルキル基置換体など)や誘導体(テレフタル酸ジメチル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル等のようなアルキルエステル化合物など)も使用し得る。また、p−オキシ安息香酸及びp−ヒドロキシエトキシ安息香酸のようなオキシ酸及びこれらのエステル形成性誘導体も使用し得る。これらのモノマーを2種以上混合して用いても良い。得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の特性を損なわない程度の少量であれば、これらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、セバシン酸等のような脂肪族ジカルボン酸を1種以上混合して使用し得る。
【0030】
上記酸成分の中では、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂の結晶性や強度、弾性率の点から、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、およびそれらのエステル形成性誘導体が好ましい。
【0031】
また、上記のジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール等のような脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のような脂環式グリコール等が挙げられ、これらの置換体や誘導体もまた使用し得る。また、ε−カプロラクトンのような環状エステルも使用し得る。これらの内の2種以上を混合して用いても良い。更に、熱可塑性ポリエステル樹脂の弾性率を著しく低下させない程度の少量であるならば、長鎖型のジオール化合物(例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール)、及びビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加重合体等(例えば、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加重合体等)などを組み合わせて使用しても良い。
【0032】
前記ジオール成分の中では、取り扱い性および得られる熱可塑性ポリエステル樹脂の強度、弾性率等の点から、エチレングリコール、ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0033】
熱可塑性ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチルテレフタレート、ネオペンチルテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリヘキサメチレンナフタレート等、またはこれらの共重合ポリエステルを挙げることができる。それらは単独、または2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0034】
上記の熱可塑性ポリエステル樹脂の分子量は、成形工程における成形流動性および最終製品の諸物性を考慮して選択され、低すぎても高すぎても好ましくなく適した分子量を設定する必要がある。すなわち、熱可塑性ポリエステル樹脂の分子量は、フェノール/テトラクロロエタン(5/5重量比)混合溶媒を用いて、25℃で測定した対数粘度が0.3〜2.0(dl/g)であり、好ましくは0.35〜1.9(dl/g)であり、更に好ましくは0.4〜1.8(dl/g)である。対数粘度が0.3(dl/g)未満である場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の成形品の機械的特性が低く、また2.0(dl/g)より大きい場合は成形時の流動性等の加工性に問題が生じる傾向がある。
【0035】
本発明で用いられる層状化合物とは、ケイ酸塩、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩、チタン酸カリウム等のチタン酸塩、タングステン酸ナトリウム等のタングステン酸塩、ウラン酸ナトリウム等のウラン酸塩、バナジン酸カリウム等のバナジン酸塩、モリブデン酸マグネシウム等のモリブデン酸塩、ニオブ酸カリウム等のニオブ酸塩、黒鉛からなる群より選択される1種以上である。入手の容易性、取扱い性等の点から層状ケイ酸塩が好ましく用いられる。
【0036】
上記の層状ケイ酸塩とは、主として酸化ケイ素の四面体シートと、主として金属水酸化物の八面体シートから形成され、例えば、スメクタイト族粘土および膨潤性雲母などが挙げられる。
【0037】
前記のスメクタイト族粘土は下記一般式(2):
X10.20.6Y1Z110(OH)・nHO (2)
(ただし、X1はK、Na、1/2Ca、及び1/2Mgからなる群より選ばれる1種以上であり、Y1はMg、Fe、Mn、Ni、Zn、Li、Al、及びCrから成る群より選ばれる1種以上であり、Z1はSi、及びAlから成る群より選ばれる1種以上である。尚、HOは層間イオンと結合している水分子を表すが、nは層間イオンおよび相対湿度に応じて変動する。)で表される、天然または合成されたものである。該スメクタイト族粘土の具体例としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、鉄サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト及びベントナイト等、またはこれらの置換体、誘導体、あるいはこれらの混合物が挙げられる。前記スメクタイト族粘土の初期の凝集状態における底面間隔は約10〜17Åであり、凝集状態でのスメクタイト族粘土の平均粒径はおおよそ1000Å〜1000000Åである。
【0038】
本発明で用いられる膨潤性フッ素雲母は、タルク並びにナトリウムおよび/またはリチウムの珪フッ化物若しくはフッ化物を含む混合物を加熱処理することにより得る事ができる。その具体的な方法は、例えば、特開平2−149415号公報に開示されている。すなわち、タルクにナトリウムイオンおよび/またはリチウムイオンをインターカレーションして膨潤性雲母を得る方法である。この方法ではタルクに珪フッ化物および/またはフッ化物を混合し、約700〜1200℃で処理することによって得られる。本発明で用いる膨潤性フッ素雲母は特にこの方法で製造されたものが好ましい。膨潤性雲母を得るには、珪フッ化物またはフッ化物を構成する金属はナトリウムあるいはリチウムとすることが必要である。これらは単独でも併用してもよい。タルクと混合する珪フッ化物および/またはフッ化物の量は混合物全体の10〜35重量%が好ましく、この範囲を外れる場合は膨潤性雲母の生成率が低下する。上記方法で製造された膨潤性雲母は一般式として下式(3)で表される構造を有する。
α(MF)・β(aMgF ・bMgO)・γSiO (3)
(ただし,Mはナトリウムまたはリチウムを表し、α,β,γ,aおよびbは各々係数を表し,0.1≦α≦2,2≦β≦3.5,3≦γ≦4,0≦a≦1,0≦b≦1,a+b=1である。)
また本発明で用いる膨潤性雲母を製造する工程において、アルミナ(Al)を少量配合し、生成する膨潤性雲母の膨潤性を調整することも可能である。
【0039】
これらは、水、水と任意の割合で相溶する極性溶媒、及び水と該極性溶媒の混合溶媒中で膨潤する性質を有する物である。本発明でいう膨潤性とは、膨潤性雲母が上記極性分子を層間に吸収することにより層間距離が拡がり、あるいは更に膨潤することにより劈開する特性である。膨潤性雲母の例としては、リチウム型テニオライト、ナトリウム型テニオライト、リチウム型四ケイ素雲母、及びナトリウム型四ケイ素雲母等、またはこれらの置換体、誘導体、あるいはこれらの混合物が挙げられる。前記膨潤性雲母の初期の凝集状態、つまり膨潤前の膨潤性雲母における底面間隔はおおよそ10〜17Åであり、膨潤前の膨潤性雲母の平均粒径は約1000〜1000000Åである。
【0040】
上記の膨潤性雲母の中にはバーミキュライト類と似通った構造を有するものもあり、この様なバーミキュライト類相当品等も使用し得る。該バーミキュライト類相当品には3八面体型と2八面体型があり、下記一般式(4):
(Mg,Fe,Al)(Si4−xAl)O10(OH)・(M,M2+ 1/2・nHO (4)
(ただし、MはNa及びMg等のアルカリまたはアルカリ土類金属の交換性陽イオン、x=0.6〜0.9、n=3.5〜5である)で表されるものが挙げられる。前記バーミキュライト類相当品の初期の凝集状態における底面間隔はおおよそ10〜17Åであり、凝集状態での平均粒径は約1000〜5000000Åである。
【0041】
層状ケイ酸塩の結晶構造は、c軸方向に規則正しく積み重なった純粋度が高いものが望ましいが、結晶周期が乱れ、複数種の結晶構造が混じり合った、いわゆる混合層鉱物も使用され得る。
【0042】
層状ケイ酸塩は単独で用いても良く、2種以上組み合わせて使用しても良い。これらの内では、モンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライトおよび層間にナトリウムイオンを有する膨潤性雲母が、得られるポリエステル樹脂組成物中での分散性およびポリエステル樹脂組成物の物性改善効果の点から好ましい。
【0043】
前記ポリエーテル化合物とは、主鎖がポリオキシエチレンやポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体などのようなポリオキシアルキレンである化合物であることが好ましく、繰り返し単位数が2から100程度のものであることが好ましい。前記ポリエーテル化合物は側鎖および/または主鎖中に、熱可塑性ポリエステル樹脂や層状化合物に悪影響を与えない限りにおいて任意の置換基を有していても良い。該置換基の例としては、炭化水素基、エステル結合で結合している基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、末端にカルボニル基を有する基、アミド基、メルカプト基、スルホニル結合で結合している基、スルフィニル結合で結合している基、ニトロ基、ニトロソ基、ニトリル基、アルコキシシリル基やシラノール基など、Si−O−結合を形成し得る含Si原子官能基、ハロゲン原子および水酸基などが挙げられる。これらの内の1種で置換されていても良く、2種以上で置換されていても良い。
【0044】
上記の炭化水素基とは、直鎖または分岐鎖(すなわち側鎖を有する)の、飽和または不飽和の、一価または多価の、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を意味し、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基、シクロアルキル基等が挙げられる。本発明において、「アルキル基」という場合は、特に規定が無い限り「アルキレン基」等の多価の炭化水素基を包含する。同様にアルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基、及びシクロアルキル基は、それぞれアルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基、及びシクロアルキレン基等を包含する。
【0045】
前記ポリエーテル化合物中の置換基の組成比は特に制限されるものではないが、ポリエーテル化合物が水、水と任意の割合で相溶する極性溶媒、または水を含有する極性溶媒に可溶である事が望ましい。具体的には、例えば、室温の水100gに対する溶解度が1g以上であることが好ましく、より好ましくは2g以上であり、更に好ましくは5g以上であり、特に好ましくは10g以上であり、最も好ましくは20g以上である。上記の極性溶媒とは、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物、その他の溶媒としてピリジン、ジメチルスルホキシドやN−メチルピロリドン等が挙げられる。又、炭酸ジメチルや炭酸ジエチルような炭酸ジエステルも使用できる。これらの極性溶媒は単独で用いても良く2種類以上組み合わせて用いても良い。
【0046】
本発明で用いられるポリエーテル化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジフェニルエーテル、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルアリルエーテル、ポリエチレングリコールグリセリルエーテル、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ビス(ポリエチレングリコール)ブチルアミン、ビス(ポリエチレングリコール)オクチルアミン、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールビスフェノールAエーテル、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールユレイドプロピルエーテル、ポリエチレングリコールメルカプトプロピルエーテル、ポリエチレングリコールフェニルスルホニルプロピルエーテル、ポリエチレングリコールフェニルスルフィニルプロピルエーテル、ポリエチレングリコールニトロプロピルエーテル、ポリエチレングリコールニトロソプロピルエーテル、ポリエチレングリコールシアノエチルエーテル、ポリエチレングリコールシアノエチルエーテルなどが挙げられる。これらのポリエーテル化合物は、単独、又は2種以上組み合わせて使用され得る。
【0047】
本発明のポリエーテル化合物の中では、芳香族炭化水素基や脂環式炭化水素基などの環状炭化水素基を有するものが好ましく、中でも下記一般式(1):
【0048】
【化3】
Figure 2004256629
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
で表される単位を有するものが好ましく、更には下記一般式(5):
【0049】
【化4】
Figure 2004256629
(式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。R、R10はいずれも炭素数1〜5の2価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。R11、R12はいずれも水素原子、炭素数1〜20の1価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。mおよびnはオキシアルキレン単位の繰り返し単位数を示し、1≦m≦25、1≦n≦25、2≦m+n≦50である。)で表されるものが層状化合物の分散性および熱安定性の点から好ましい。
【0050】
前記ポリエーテル化合物の使用量は、前記層状化合物と熱可塑性ポリエステル樹脂との親和性、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中での層状化合物の分散性が充分に高まるように調製し得る。必要であるならば、異種の官能基を有する複数種のポリエーテル化合物を併用し得る。従って、ポリエーテル化合物の使用量は一概に数値で限定されるものではないが、層状化合物100重量部に対するポリエーテル化合物の配合量の下限値は、0.1重量部であり、好ましくは0.2重量部であり、より好ましくは0.3重量部であり、更に好ましくは0.4重量部であり、特に好ましくは0.5重量部である。層状化合物100重量部に対するポリエーテル化合物の配合量の上限値は、200重量部であり、好ましくは180重量部であり、より好ましくは160重量部であり、更に好ましくは140重量部であり、特に好ましくは120重量部である。前記ポリエーテル化合物量の下限値が0.1重量部未満であると層状化合物の微分散化効果が充分で無くなる傾向がある。また、ポリエーテル化合物量の上限が200重量部以上では効果が変わらないので、200重量部より多く使用する必要はない。
【0051】
層状化合物とポリエーテル化合物を混合する方法は特に限定されず、層状化合物とポリエーテル化合物を直接混合する方法や、水あるいは水を含有する極性溶媒中で層状化合物とポリエーテル化合物を混合する方法が挙げられる。混合の効率の点から、後者が望ましい。本発明において、ポリエーテル化合物で層状化合物を処理する方法は特に限定されず、例えば、以下に示した方法で行い得る。
【0052】
まず、層状化合物と分散媒を撹拌混合する。前記分散媒とは水または水を含有する極性溶媒を意図する。具体的には既に上述しているのでここでは省略する。
【0053】
層状化合物と分散媒との攪拌の方法は特に限定されず、例えば、従来公知の湿式撹拌機を用いて行われ得る。該湿式撹拌機としては、撹拌翼が高速回転して撹拌する高速撹拌機、高剪断速度がかかっているローターとステーター間の間隙で試料を湿式粉砕する湿式ミル類、硬質媒体を利用した機械的湿式粉砕機類、ジェットノズルなどで試料を高速度で衝突させる湿式衝突粉砕機類、超音波を用いる湿式超音波粉砕機などを挙げることができる。より効率的に混合したい場合は、撹拌の回転数を1000rpm以上、好ましくは1500rpm以上、より好ましくは2000rpm以上にするか、あるいは500(1/s)以上、好ましくは1000(1/s)以上、より好ましくは1500(1/s)以上の剪断速度を加える。回転数の上限値は約25000rpmであり、剪断速度の上限値は約500000(1/s)である。上限値よりも大きい値で撹拌を行ったり、剪断を加えてもそれ以上効果は変わらない傾向があるため、上限値よりも大きい値で撹拌を行う必要はない。また、混合に要する時間は1〜10分以上である。次いで、ポリエーテル化合物を加えてから同様の条件で更に撹拌を続け、充分に混合する。混合時の温度は室温で充分だが、必要に応じて加温しても良い。加温時の最高温度は用いるポリエーテル化合物の分解温度未満であり、かつ分散媒の沸点未満で有れば任意に設定されうる。その後、乾燥して必要に応じて粉体化する。
【0054】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物において、樹脂組成物100重量%中のポリエーテル化合物で処理された層状化合物の組成比の下限値は、代表的には1重量%であり、好ましくは3重量%であり、より好ましくは5重量%となるように調製され、上限値は、代表的には30重量%であり、好ましくは25重量%であり、より好ましくは20重量%となるように調製される。組成比の下限値が1重量%未満であると耐熱性や剛性の向上、反りやアウトガスの低減などの改善効果が不充分となる場合があり、上限値が30重量%を超えると成形体の表面性が損なわれる場合がある。
【0055】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中で分散している層状化合物の構造は、使用前の層状化合物が有していたような、層が多数積層したミクロンサイズの凝集構造とは全く異なる。すなわち、ポリエーテル化合物で処理される事によって、層同士が劈開し、互いに独立して細分化する。その結果、層状化合物は熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中で非常に細かく互いに独立した薄板状で分散し、その数は、使用前の層状化合物に比べて著しく増大する。この様な薄板状の層状化合物の分散状態は以下に述べる等価面積円直径[D]、アスペクト比(層長さ/層厚の比率)、分散粒子数、最大層厚及び平均層厚で表現され得る。
【0056】
まず、等価面積円直径[D]を、顕微鏡などで得られる像内で様々な形状で分散している個々の層状化合物の該顕微鏡像上での面積と等しい面積を有する円の直径であると定義する。その場合、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に分散した層状化合物のうち、等価面積円直径[D]が3000Å以下である層状化合物の数の比率は、好ましくは20%以上であり、より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは50%以上であり、特に好ましくは65%以上である。等価面積円直径[D]が3000Å以下である比率が20%未満であると熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性や剛性の向上、反りやアウトガスの低減などの効果が充分でなくなる場合がある。また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に分散した層状化合物の等価面積円直径[D]の平均値は、好ましくは5000Å以下であり、より好ましくは4500Å以下であり、さらに好ましくは4000Å以下であり、特に好ましくは3500Å以下である。等価面積円直径[D]の平均値が5000Åより大きいと熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性や剛性の改良効果が十分でなくなり、また表面外観が損なわれる場合がある。下限値は特にないが、おおよそ100Å未満では効果はほとんど変わらなくなるので、100Å未満にする必要はない。
【0057】
等価面積円直径[D]の測定は、顕微鏡などを用いて撮影した像上で、100個以上の層状化合物の層を含む任意の領域を選択し、画像処理装置などを用いて画像化して計算機処理することによって定量化できる。
【0058】
平均アスペクト比を、樹脂中に分散した層状化合物の層長さ/層厚の比の数平均値であると定義すれば、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に分散した層状化合物の平均アスペクト比は、好ましくは10〜300であり、より好ましくは15〜300であり、更に好ましくは20〜300である。層状化合物の平均アスペクト比が10未満であると、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性や剛性の改善効果が十分に得られない場合がある。また、300より大きくても効果はそれ以上変わらないため、平均アスペクト比を300より大きくする必要はない。
【0059】
また[N]値を、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の面積100μmにおける、層状化合物の単位重量比率当たりの分散粒子数であると定義すれば、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に分散した層状化合物の[N]値は、好ましくは30以上であり、より好ましくは45以上であり、さらに好ましくは60以上である。上限値は特にないが、[N]値が1000程度を越えると、それ以上効果は変わらなくなるので、1000より大きくする必要はない。[N]値が30未満であると熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性や剛性や反りの改良効果が充分でなくなる場合がある。[N]値は、例えば、次のようにして求められ得る。すなわち、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を約50μm〜100μm厚の超薄切片に切り出し、該切片を透過型電子顕微鏡(以下、TEMとも言う。)等で撮影した像上で、面積が100μmの任意の領域に存在する層状化合物の粒子数を、用いた層状化合物の重量比率で除すことによって求められ得る。あるいは、TEM像上で、100個以上の粒子が存在する任意の領域(面積は測定しておく)を選んで該領域に存在する粒子数を、用いた層状化合物の重量比率で除し、面積100μmに換算した値を[N]値としてもよい。従って、[N]値は熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のTEM写真等を用いることにより定量化できる。
【0060】
熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中での層状化合物の分散状態のうち、等価面積円直径[D]が3000Å以下である層状化合物の比率が20%以上であること、層状化合物の等価面積円直径[D]の平均値が5000Å以下であること、樹脂組成物の面積100μm中に存在する層状化合物の単位重量比率当たりの粒子数を[N]値と定義した場合、[N]値が30以上であることのうち少なくとも一つの条件を満たせば、層状化合物は十分に細かい粒子として均一分散し、分散粒子数も非常に多くなる。その結果として、耐熱性や剛性の向上、反りやアウトガスの低減などの効果を得ることができる。
【0061】
また、平均層厚を、薄板状で分散した層状化合物の層厚みの数平均値であると定義すれば、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に分散した層状化合物の平均層厚の上限値は、好ましくは500Å以下であり、より好ましくは450Å以下であり、さらに好ましくは400Å以下である。平均層厚が500Åより大きいと、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性や剛性の改良効果が充分に得られない場合がある。平均層厚の下限値は特に限定されないが、好ましくは50Åであり、より好ましくは60Å以上であり、更に好ましくは70Å以上である。
【0062】
また、最大層厚を、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に薄板状に分散した層状化合物の層厚みの最大値であると定義すれば、層状化合物の最大層厚の上限値は、好ましくは2000Å以下であり、より好ましくは1800Å以下であり、さらに好ましくは1500Å以下である。最大層厚が2000Åより大きいと、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の耐熱性や剛性、表面性のバランスが損なわれる場合がある。層状化合物の最大層厚の下限値は特に限定されないが、好ましくは100Åであり、より好ましくは150Å以上であり、更に好ましくは200Å以上である。
【0063】
層厚および層長さは、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を加熱溶融した後に、熱プレス成形あるいは延伸成形して得られるフィルム、および溶融樹脂を射出成形して得られる薄肉の成形品等を、顕微鏡等を用いて撮影される像から求めることができる。
【0064】
すなわち、いま仮に、X−Y面上に上記の方法で調製したフィルムの、あるいは肉厚が約0.5〜2mm程度の薄い平板状の射出成形した試験片を置いたと仮定する。上記のフィルムあるいは試験片をX−Z面あるいはY−Z面と平行な面で約50μm〜100μm厚の超薄切片を切り出し、該切片を透過型電子顕微鏡などを用い、約4〜10万倍以上の高倍率で観察して求められ得る。測定は、上記の方法で得られた透過型電子顕微鏡の像上において、100個以上の層状化合物を含む任意の領域を選択し、画像処理装置などで画像化し、計算機処理する事等により定量化できる。あるいは、定規などを用いて計測しても求めることもできる。
【0065】
本発明で用いられる炭素化合物としては特に限定されず、市販されている粒状、フィブリル状、繊維状、鱗片状のものが用いられ得る。粒状の炭素化合物としてはアセチレンブラックや各種ファーネス系の導電性カーボンブラックが例示され、市販の各種のものが使用できる。例えば、粒状の例としては、ケッチェンブラックインターナショナル社製の商品名ケッチェンブラックなどが挙げられる。また微細なフィブリル状の炭素化合物の例としては、直径が約3.5nm〜75nmの微細糸状のフィブリル状炭素化合物が例示され、いわゆるカーボンナノチューブと称されるものであり、市販の各種のものが使用できる。例えば、ハイピリオンカタリシスインターナショナル社製の商品名ハイペリオンなどが挙げられる。また、繊維状のものの例としては、昭和電工社製の気相法炭素繊維VGCFが挙げられる。上記のように、本発明における炭素化合物の種類は、成形品の表面性を重要視する場合や成形品からの脱落を防止する点から、粒状やフィブリル状、または繊維形状の中でも直径が1μm以下かつ長さが50μm以下のものが好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物に用いられる炭素化合物の重量比の下限値は、好ましくは0.1重量%であり、より好ましくは0.3重量%であり、さらに好ましくは1重量%となるように調製され、上限値は、好ましくは30重量%であり、より好ましくは25重量%であり、さらに好ましくは20重量%となるように調製される。前記炭素化合物の下限値が0.1重量%未満であると導電性が不充分となる場合があり、上限値が30重量%を超えると強度や表面性が損なわれる場合がある。
【0067】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂とポリエーテル化合物で処理した層状化合物および炭素化合物とを、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練する方法をあげることができる。混練機の例としては、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられ、特に、剪断効率の高い混練機が好ましい。前記熱可塑性ポリエステル樹脂と前記ポリエーテル化合物で処理された層状化合物および前記炭素化合物とは、上記の混練機に一括投入して溶融混練しても良いし、あるいは予め溶融状態にした熱可塑性ポリエステル樹脂に層状化合物および炭素化合物を添加して溶融混練しても良い。
【0068】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴム、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、α−オレフィンの単独重合体、2種以上のα−オレフィンの共重合体(ランダム、ブロック、グラフトなど、いずれの共重合体も含み、これらの混合物であっても良い)、またはオレフィン系エラストマーなどの耐衝撃性改良剤を添加することができる。これらは無水マレイン酸等の酸化合物、またはグリシジルメタクリレート等のエポキシ化合物で変性されていても良い。また、機械的特性などの特性を損なわない範囲で、他の任意の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂、例えば、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム質重合体強化スチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリサルフォン樹脂、及びポリアリレート樹脂等を単独または2種以上組み合わせて使用し得る。
【0069】
更に、目的に応じて、顔料や染料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、及び界面活性剤のような帯電防止剤等の添加剤を添加することができる。
【0070】
本発明で得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、特に限定されないが例えば、射出成形して得られる成形品として用いられ得る。該成形品は、導電性や静電防止性を有し、成形収縮の異方性が少ないので複雑な形状の成形品を射出成形しても反り変形が少ない。また熱可塑性ポリエステル樹脂の表面性を損なわず、かつ剛性と耐熱性に優れるので、静電記録シート、電子機器ハウジング、静電コンテナー、静電フィルム、クリーンルームの床材や壁材や間仕切り材、電子機器のカバー材、IC等のマガジン、半導体ウエハ、スライダやヘッドジンバルアッセンブル等の磁気ヘッド関連部品などの電子部品の搬送用トレイなどに好適に利用され得る。
【0071】
その他、本発明で得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、熱プレス成形で成形しても良く、ブロー成形にも使用できる。得られる成形品は外観に優れ、機械的特性や耐熱変形性等に優れる為、例えば、自動車部品、家庭用電気製品部品、家庭日用品、包装資材、その他一般工業用資材に好適に用いられる。
【0072】
【実施例】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0073】
実施例、及び比較例で使用する主要原料を以下にまとめて示す。尚、特に断らない場合は、原料の精製は行っていない。
【0074】
(原料)
・熱可塑性ポリエステル樹脂A(PET):ベルペットEFG70(カネボウ合繊(株)社製)
・熱可塑性ポリエステル樹脂B(PBT):SPESIN KP210(KOLON社製)
・膨潤性雲母C:ソマシフME100(コープケミカル(株)社製)
・ポリエーテル化合物D:ビスオール18EN(東邦化学(株)社製)
・ポリエーテル化合物E:ビスオール20PN(東邦化学(株)社製)
・炭素化合物F:比表面積が1270m/gのケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル(株)社製)
・炭素化合物G:PBTにフィブリル状炭素化合物が15%濃度で分散されたマスターバッチペレット、商品名MB5015−00(ハイペリオンキャタリシスインターナショナルインク社製)
・炭素化合物H:直径=0.15μm、長さ=10〜20μmの繊維状炭素化合物、商品名 気相法炭素繊維VGCF(昭和電工社製)
・炭素化合物I:直径=約13μm、長さ=約3mmの炭素繊維、商品名 ドナカーボS(大阪ガス社製)
【0075】
(分散状態の測定)
凍結切片法で得た厚み50〜100μmの超薄切片を用いた。透過型電子顕微鏡(日本電子JEM−1200EX)を用い、加速電圧80kVで倍率4万〜100万倍で膨潤性雲母の分散状態を観察撮影した。TEM写真において、100個以上の分散粒子が存在する任意の領域を選択し、層厚、層長、粒子数([N]値)、等価面積円直径[D]を、目盛り付きの定規を用いた手計測またはインタークエスト社の画像解析装置PIASIIIを用いて処理する事により測定した。
【0076】
等価面積円直径[D]はインタークエスト社の画像解析装置PIASIIIを用いて処理する事により測定した。
【0077】
[N]値の測定は以下のようにして行った。まず、TEM像上で、選択した領域に存在する膨潤性雲母の粒子数を求める。これとは別に、膨潤性雲母に由来する樹脂組成物の灰分率を測定する。上記粒子数を灰分率で除し、面積100μmに換算した値を[N]値とした。平均層厚は個々の膨潤性雲母の層厚の数平均値、最大層厚は個々の膨潤性雲母の層厚の中で最大の値とした。分散粒子が大きく、TEMでの観察が不適当である場合は、光学顕微鏡(オリンパス光学(株)製の光学顕微鏡BH−2)を用いて上記と同様の方法で[N]値を求めた。ただし、必要に応じて、サンプルはLINKAM製のホットステージTHM600を用いて250〜270℃で溶融させ、溶融状態のままで分散粒子の状態を測定した。平均アスペクト比は個々の膨潤性雲母の層長と層厚の比の数平均値とした。板状に分散しない分散粒子のアスペクト比は、長径/短径の値とした。ここで、長径とは、顕微鏡像等において、対象となる粒子の外接する長方形のうち面積が最小となる長方形を仮定すれば、その長方形の長辺を意図する。また、短径とは、上記最小となる長方形の短辺を意図する。
【0078】
(曲げ特性)
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を乾燥(130℃、6時間)した。型締圧75tの射出成形機を用い、樹脂温度240〜280℃で、寸法約10×100×6mmの試験片を射出成形した。ASTM D−790に従い、得られた試験片の曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
【0079】
(荷重たわみ温度)
曲げ特性で用いた試験片と同じ試験片を用いた。ASTM D−648に従い、得られた試験片の1.86MPaの荷重たわみ温度を測定した。
【0080】
(反り)
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を乾燥(130℃、6時間)した後、樹脂温度240〜280℃の条件で、寸法約120×120×1mm厚の平板状試験片を射出成形した。平面上に上記の平板状試験片を置き、試験片の4隅の内、1カ所を押さえ、残り3隅の内、平面からの距離が最も大きい値をノギス等で測定した。4隅それぞれを押さえ、得られた反り値の平均値を求めた。
【0081】
(成形収縮率)
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を乾燥(130℃、6時間)した後、樹脂温度240〜280℃の条件で、寸法約120×120×2mm厚の平板状試験片を射出成形し、次式により成形収縮率を測定した。なお、MDは樹脂の流れ方向を、TDは樹脂の流れと直角方向を示す。
収縮率(%)=(金型寸法−成形品実寸法)÷(金型寸法)×100
【0082】
(中心線平均粗さ)
上記の試験片を用い、東京精密(株)製の表面粗さ計surfcom1500Aを用いて、中心線平均粗さを測定した。
【0083】
(体積固有抵抗値)
アドバンテスト社製の抵抗値測定器R8340Aを用いた。試験片は、成形収縮率で用いたものと同じものを25℃、50%RHで24時間経ってから測定した。
【0084】
(アウトガス評価)
アウトガスの評価として、フォギングテストを行った。テストは次の方法で行った。広口瓶にペレット状のサンプル約100gを入れた。ガラス板でふたをして、140℃のオイルバスに瓶をつけて、3時間放置した。3時間経過した後にふたとして用いたガラス板の曇りの有無を目視で評価した。
【0085】
(脱落粒子数)
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルの0.001重量%水溶液中で本発明のポリエステル樹脂組成物を60秒間すすいだ。次いで、リオン社製のパーティクルカウンターKL−20を用い、上記水溶液中に脱落したフィラー等の数を測定した。
【0086】
(製造例1)
表1に示した重量比でイオン交換水、ポリエーテル化合物D、ポリエーテル化合物E、膨潤性雲母Cを15〜30分間混合した。その後、乾燥・粉体化してポリエーテル化合物で処理された膨潤性雲母(粘土J−1およびJ−2)を得た。
【0087】
【表1】
Figure 2004256629
【0088】
(実施例1〜10)
表2に示す重量比の熱可塑性ポリエステルA、熱可塑性ポリエステルBおよび製造例1で得た膨潤性雲母(J−1およびJ−2)、炭素化合物F、炭素化合物G、炭素化合物Hを二軸押出機(日本製鋼(株)製、TEX44)を用いて、混練初期からダイスまでの温度を220℃〜270℃に設定し、溶融混練することにより熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得て、これらを評価した。結果を表2に示す。
【0089】
【表2】
Figure 2004256629
【0090】
(比較例1〜7)
表3に示す重量比の熱可塑性ポリエステルA、熱可塑性ポリエステルBおよびタルク、マイカ、ガラス繊維、炭素化合物FおよびIを実施例1と同様に溶融混練することにより熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得て、これらを評価した。結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
Figure 2004256629
【0092】
実施例および比較例から、熱可塑性ポリエステル樹脂、炭素化合物およびポリエーテル化合物で処理された膨潤性雲母を配合した場合は、表面性を損なわずに耐熱性や剛性が上がり、抵抗値やアウトガスが抑制され、更にフィラー等の脱落も抑制されたが、タルクやマイカまたはガラス繊維を配合した場合は、表面性が損なわれ、アウトガスが抑制されなかった。またガラス繊維の場合は、異方性のためか、成形品に反りが生じた。従って、比較例の技術では本発明の目的に添う樹脂組成物が得られない事が判る。
【0093】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、帯電防止性があり表面性に優れかつ反りやアウトガスやフィラー等の脱落が少なく、また、剛性や耐熱性にも優れる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が提供される。

Claims (15)

  1. 熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリエーテル化合物で処理された層状化合物および炭素化合物を含有する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  2. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物が下記(a)〜(c)のうち少なくとも一の条件を満たす、請求項1記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
    (a)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物のうち、等価面積円直径[D]が3000Å以下である層状化合物の比率が20%以上であること
    (b)熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中に分散する層状化合物の等価面積円直径[D]の平均値が5000Å以下であること
    (c)樹脂組成物の面積100μm中に存在する層状化合物の単位重量比率当たりの粒子数を[N]値と定義した場合、[N]値が30以上であること
  3. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物の平均層厚が500Å以下である事を特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  4. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物の最大層厚が2000Å以下である事を特徴とする、請求項1乃至3に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  5. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の層状化合物の平均アスペクト比(層長さ/層厚の比)が10〜300である事を特徴とする、請求項1乃至4に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  6. 前記層状化合物が層状ケイ酸塩であることを特徴とする、請求項1乃至5に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  7. 前記ポリエーテル化合物が、主鎖中に下記一般式(1):
    Figure 2004256629
    (式中、−A−は、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、炭素数1〜20のアルキレン基、または炭素数6〜20のアルキリデン基であり、R、R、R、R、R、R、RおよびRは、いずれも水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、それらはそれぞれ同一であっても異なっていても良い。)
    で表される単位を有する事を特徴する、請求項1乃至6に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  8. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂、前記ポリエーテル化合物で処理された層状化合物および炭素化合物を溶融混練することによって得られる、請求項1乃至7に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  9. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における前記層状化合物の重量比が1重量%以上、30重量%以下であることを特徴とする、請求項1乃至8に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  10. 前記炭素化合物が、直径が1μmより大きくかつ長さが50μmよりも大きい繊維状以外である事を特徴とする、請求項1乃至9に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  11. 前記炭素化合物が粒状であることを特徴とする、請求項10に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  12. 前記炭素化合物がフィブリル状である事を特徴とする、請求項10に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  13. 前記熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中における前記炭素化合物の重量比が0.1重量%以上、30重量%以下であることを特徴とする、請求項1乃至12に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
  14. 請求項1乃至13に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物で全部または一部を形成されている樹脂成形体。
  15. 前記樹脂成形体が電子部品用の容器であることを特徴とする請求項14に記載の樹脂成形体。
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