JP2004241007A - 光記録媒体及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光を用いて情報を記録および再生する、テープ状の光記録媒体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、光記録方式を利用した記録媒体として、より多くの情報を記録し得るテープ状光記録媒体が提案されている。このテープ状光記録媒体は、テープ状の高分子支持体の上に光記録層を形成したものである。現在、汎用されている光記録媒体は、例えば、厚さ1.2mmのポリカーボネート基板に記録層等を形成して成るディスク状媒体である。これに対し、テープ状の光記録媒体は、柔軟で薄いポリマーフィルム、特にポリエステルフィルムを用いて構成されるから、通常のオーディオテープのように巻回してパッケージに収容できる。したがって、テープ状の光記録媒体は、一般の光ディスクと同等の記録密度を有しつつ、長尺化することによって光ディスクよりも格段に大きい記録面積を実現できる。即ち、テープ状の光記録媒体によれば、光ディスクよりも記録容量の大きい記録媒体製品を提供し得る。さらに、最近では、より薄いフィルム(例えば厚さ20μm以下)も開発され、所定寸法のパッケージにより多くのテープ状記録媒体を収容することが可能となっている。このことは、テープ状光記録媒体製品の大容量化にさらに寄与する。
【0003】
以下に、これまでに提案されてきたテープ状光記録媒体の構成の一例を、図面を参照して説明する。図2にテープ状光記録媒体の断面を模式的に示す。図示した光記録媒体110においては、高分子支持体11の一方の面に記録層12および保護層13がこの順に積層され、高分子支持体11の記録層12形成された面とは反対側の面にバックコート層14が形成されている。
【0004】
高分子支持体11として、一般的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートまたはポリアミド等から成るポリマーフィルムが用いられる。記録層12は、光ディスクの記録層を構成する材料として一般的に用いられている材料で構成される。記録層12は、例えば、有機色素記録材料、光磁気記録材料、または相変化記録材料等で形成される。保護層13は、金属酸化物、窒化物、硫化物、または炭化物等で構成される。バックコート層14は、テープ状の光記録媒体110の記録層側表面とは反対側の面(即ち、裏面)の走行性を向上させるために設けられる。バックコート層14は、例えば、カーボン粒子および硫酸バリウムがポリウレタン樹脂中に分散されて成る層である。かかる層においてポリウレタン樹脂は、バインダーとして作用する。
【0005】
テープの走行性および耐久性を向上させる目的で、保護層13の上に潤滑剤層を形成したテープ状光記録媒体も既に提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、潤滑剤層を、末端へテロ環パーフルオロポリエーテルを使用して形成することが開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平2−139731号公報(特許請求の範囲、実施例)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1でも言及されているように、テープ状光記録媒体は、ディスク媒体とは異なり、記録再生システムにおいて走行させられ、走行中にドライブの走行系部材とテープ面とが接触する。即ち、記録再生システムにおいて、テープ状光記録媒体は、種々の部材上を摺動する。そのため、テープ状光記録媒体の表面には耐久性が要求される。かかる要求を満たすために、上記のように潤滑剤層が設けられる。しかしながら、テープ状光記録媒体の表面に対しては、より良好な耐久性が常に求められている。また、テープ状光記録媒体の記録、再生および/または消去は、一般に、記録層の上方から光を照射して(即ち、高分子支持体中に光を透過させずに)実施する。したがって、記録層の上方に位置する潤滑剤層に対しては、記録再生に使用する特定波長の光(一般にはレーザ光)をより良好に透過させることが要求される。
【0008】
このように、テープ状光記録媒体の表面に位置する潤滑剤層の材料は、テープに所望の耐久性および走行性を付与するとともに、良好な光透過性を有するように選択する必要がある。本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、テープ状の光記録媒体において、テープの走行性をより向上させ、且つ優れた光透過性を有する潤滑剤層を構成することを課題としてなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明者らが検討を重ねた結果、潤滑剤層を均一に形成することによって、即ち、潤滑剤を均一に成膜することによって、光記録媒体の走行耐久性が向上することが判った。さらに、本発明者らは、潤滑剤層の均一性を評価するために、後述する飛行時間型二次イオン質量分析を用いた表面分析を採用し、これに基づいて判断される均一性の良否がテープ状光記録媒体の走行耐久性の良否と対応することを見出した。この知見に基づき、本発明者らは、前記特定の表面分析により評価される均一性が良好となる膜を形成する材料を検討した。その結果、特定の含フッ素化合物が潤滑剤層を形成する材料として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、上記課題を解決するために、本発明は、高分子支持体と、高分子支持体の一方の面に形成された記録層と、当該記録層の上に形成された保護層と、当該保護層の上に形成された潤滑剤層と、高分子支持体の他方の面に形成されたバックコート層とを有する光記録媒体であって、潤滑剤層が一般式(a)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むテープ状光記録媒体を提供する:
【化5】
(式中、R1は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R2はフルオロアルキル基、またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、aは0または1であり、bは0から20の整数である。)
【0011】
一般式(a)で示される化合物を使用すれば、テープ状光記録媒体の保護層の上に、均一な潤滑剤層を形成することが可能である。それにより、良好な走行性を有するテープ状光記録媒体が得られる。また、一般式(a)で示される化合物を使用すれば、良好な光透過性を有する潤滑剤層が形成されるので、レーザ光による記録、再生、および消去に支障を来さない。
なお、本発明のテープ状光記録媒体は、光の照射により、情報の記録、再生および消去のうち、少なくとも1つが実行されるものである。
【0012】
本発明のテープ状光記録媒体は、潤滑剤層が、上記一般式(a)で示される化合物に加えて、下記の一般式(b)〜(d)で示される化合物から選択される、少なくとも1種の化合物を含むものであることが好ましい。
【化6】
(式中、Xは−OH、−COOH、−COOR4、または−OCOR4であり、ここでR4は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、iおよびjは1以上の整数であり、hは0〜12の整数である。)
【化7】
(式中、R5は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R6はフルオロアルキル基、またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、cは0から20の整数である。)
【化8】
(式中、R8は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R9はフルオロアルキル基、またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、R10は脂肪族アルキル基、脂肪族アルケニル基、フルオロアルキル基、またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、xは0または1であり、yおよびzはそれぞれ0から20の整数である。)
【0013】
本発明のテープ状光記録媒体を構成する潤滑剤層は、飛行時間型二次イオン質量分析(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry;TOF−SIMS)による表面分析により、優れた均一性を有するものであることが確認された。
TOF−SIMSによる表面分析は、具体的には、潤滑剤層の表面についてマッピング分析を実施することにより、表面イメージ像を観察して、フラグメント(例えば−CF2−)の分布状態から潤滑剤を構成する分子の存在状態を確認して行う。フラグメントの分布状態が均一であれば、分子も均一に分布していると判断でき、したがって潤滑剤層が均一に形成されていると判断され得る。
【0014】
また、フラグメントの分布状態から、分子の配向状態を確認できる。特に、潤滑剤層が1種類の化合物から成る場合において、フラグメントが均一に分布しているときは、各分子のフラグメントが表面に同じように露出しており、したがって各分子が一定の方向に配列していると判断される。
【0015】
潤滑剤層が2種以上の化合物から成る場合において、フラグメントが均一に分布しているときは、面方向において、ある化合物が局在化しておらず、表面状態が均一であると判断される。例えば、2種類の化合物から成る潤滑剤層が2層構造の形態をとる場合にも、フラグメントが均一に分布することとなる。
【0016】
本発明のテープ状光記録媒体において、潤滑剤層は分子が均一に配向されたものであることが好ましい。ここで「分子が均一に配向された」とは、潤滑剤層の表面をTOF−SIMSによってマッピング分析したときに、フラグメントが均一に分布している状態を意味する。即ち、ここでいう「配向」には、同一種類の分子が同一方向に配列している状態のほか、異なる2種以上の分子を含む潤滑剤層の表面が均一である状態も含まれる。均一に配向された潤滑剤層は、良好な光透過性を有する。上述の一般式(a)で示される化合物は、均一に配向しやすい性質を有し、したがって、本発明のテープ状光記録媒体において、潤滑剤層を構成する必須の化合物として用いられる。また、上述の一般式(b)〜(d)で示される化合物は、一般式(a)で示される化合物とともに用いられると、表面状態が均一な層を形成する性質を有することから、好ましく使用される。
【0017】
なお、潤滑剤層のTOF−SIMSによる表面分析は、例えば、PHYSICAL ELECTRONICS社製のTRIFT IIを用い、一次イオンをGa+イオンとし、一次イオンエネルギーを12keVおよび18keVとし、一次イオン電流量(DC)を600pAとし、一次イオン照射量を1012ion/cm2以下とし、分析時間をマッピング分析時において10分とし、分析領域を80μm×80μmとし、測定範囲を1〜2000amuとして実施できる。このとき、質量分解能はM/ΔM=5000〜9000レベル(質量数28)である。
【0018】
本発明のテープ状光記録媒体において、上記一般式(a)で示される化合物を含む潤滑剤層は、好ましくは、SiOx(xは0.1〜2.0)で示される酸化ケイ素を50モル%以上含む材料から成る保護層の上に形成される。換言すれば、上記一般式(a)で示される化合物は、酸化ケイ素を含む保護層の上に形成される潤滑剤層を構成するのに適している。
【0019】
本発明のテープ状光記録媒体において、上記一般式(a)で示される化合物を含む潤滑剤層は、好ましくは、記録再生に使用される波長のレーザ光に対して80%以上の透過率を有するように形成される。透過率が80%未満であると、記録層に到達する光の量が少なくなり、記録再生に支障を来す。テープ状光記録媒体の記録再生に使用されるレーザ光は、一般に波長が850nm以下のものである。一般式(a)で示される化合物を使用すれば、波長が850nm以下、より具体的には波長が300〜850nmの範囲内にあるレーザ光に対して80%以上の透過率を有する潤滑剤層を形成できる。
【0020】
本発明はまた、上記本発明のテープ状光記録媒体を製造する方法を提供する。
本発明のテープ状光記録媒体の製造方法は、保護層の上に潤滑剤層を形成する工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液を、保護層上に塗布することを含む。この製造方法によれば、保護層の上に薄い潤滑剤層を均一に形成することができる。
【0021】
本発明のテープ状光記録媒体の別の製造方法は、保護層の上に潤滑剤層を形成する工程が、真空蒸着法により潤滑剤を成膜することを含む。この製造方法によれば、保護層の上に薄い潤滑剤層を均一に形成できるとともに、得られる潤滑剤層の光透過性をより良好にすることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
以下の説明を含む本明細書において、テープ状光記録媒体(以下、単に「光記録媒体」とも呼ぶ)の構成に関して、光記録媒体を構成する各層の「表面」とは、各層が形成されたときに露出している面、即ち、各層の高分子支持体から遠い側の面を意味する。光記録媒体の構成に関して、光記録媒体を構成する各層の「上」というときもまた、特に断りのない限り、各層の高分子支持体から遠い側の面を意味する。したがって、例えば、「保護層の上に」というときは、「保護層の高分子支持体から遠い側の面に隣接する位置に」を意味する。また、各層または膜の「上方に」というときは、各層または膜から「高分子支持体から遠ざかる方向に離れた位置に」を意味する。
【0023】
本発明の光記録媒体は、潤滑剤層が特定の含フッ素化合物を含むことを特徴とする。かかる特徴により、摺動走行耐久性が良好であり、且つ光透過性の高い潤滑剤層を有する光記録媒体が提供される。以下に、本発明の光記録媒体の潤滑剤層を構成するのに適した化合物をそれぞれ説明する。
【0024】
本発明の光記録媒体の潤滑剤層には、一般式(a):
【化9】
で示される化合物が含まれる。一般式(a)で示される化合物は、含フッ素アルキルジカルボン酸のモノエステル化合物とも呼べるものである。より詳細には、一般式(a)で示される化合物は、同一分子内に1個の含フッ素末端基、すなわちフルオロアルキル基またはフルオロエーテル末端基またはフルオロポリエーテル末端基R2と、1個の脂肪族炭化水素末端基、すなわち脂肪族アルキル末端基または脂肪族アルケニル末端基R1と、1個のカルボキシル基を有する構造である。
【0025】
この化合物は、カルボキシル基の部分が、保護層に吸着されやすい性質を有する。そのため、この化合物は、潤滑剤層において、保護層の表面にカルボキシル基が結合し、R1−と、R2(CH2)bOCO(CH2)a−が上方に向かって延びるような形態で(即ち、R1−と、R2(CH2)bOCO(CH2)a−とがV字を形成するように)存在すると推察される。このように推察することは、TOF−SIMSによるマッピング分析の結果を見ても妥当である。かかる形態で分子が存在すると、潤滑剤層の表面にはフッ素を含む基R2が位置し、それにより光記録媒体の良好な走行性が確保されることとなる。また、カルボキシル基が保護層表面に強く吸着するため、繰り返し走行させた場合でも、潤滑剤層が劣化しにくく、したがって優れた耐久性をテープ状光記録媒体に付与する。
【0026】
一般式(a)において、R1はアルキル基またはアルケニル基である。R1の炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または炭素数が30である場合、当該化合物が呈する潤滑性能が低下することがある。R1は直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。R1は、具体的には、−C12H25、−C14H29、−C16H33、−C18H37、およびC20H41のいずれかであることが好ましい。
【0027】
一般式(a)において、R2はフルオロアルキル基またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基である。R2がフルオロアルキル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基は直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。また、フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。フルオロアルキル基は、具体的には、−C6F13、−C7F15、−C8F17、−C9F19、および−C10F21のいずれかであることが好ましい。
【0028】
R2がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合または6000を超える場合には、光記録媒体の潤滑性及び信頼性が低下する場合がある。また、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0029】
一般式(a)において、aは0または1である。bは0から20の整数であり、好ましくは0から12の整数である。
【0030】
R2がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、R2は下記の一般式(e)、(f)及び(g)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0031】
一般式(e):
【化10】
において、kは1以上の整数であり、好ましくは1〜8の整数である。
【0032】
一般式(f):
【化11】
において、pおよびqは1以上の整数である。pおよびqはそれぞれ、1〜30であることが好ましく、1〜8であることがより好ましい。
【0033】
一般式(f)において−(OCF(CF3)CF2)P(OCF2)q−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当し、pおよびqは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OCF(CF3)CF2)とオキシフルオロアルキレン単位(OCF2)から成る共重合体は、p個の(OCF(CF3)CF2)のブロックとq個の(OCF2)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(f)で示される基は、−(OCF(CF3)CF2)p(OCF2)q−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0034】
一般式(g):
【化12】
において、R3はフルオロアルキル基を示し、mは1から6の整数であり、nは1から30の整数である。R3は、好ましくはパーフルオロアルキル基である。
R3の炭素数は好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜8である。nは、より好ましくは1〜8の整数である。
【0035】
一般式(e)、(f)及び(g)におけるk、p及びqならびm及びnがこれらの範囲外である場合、光記録媒体の潤滑性および保存信頼性が低下することがある。
【0036】
一般式(a)で示される化合物の合成方法は、米国特許明細書第1902885号、日本国特開昭61−257226号公報および日本国特開2000−16968号公報において詳細に記載されており、これらの公報に記載された内容は、この引用により本発明の明細書の一部を構成する。
【0037】
本発明の光記録媒体において、潤滑剤層は、一般式(a)で示される化合物のみで構成されてもよいが、下記の一般式(b)、(c)および(d)で示される化合物から選択される化合物を1種または2種以上含んでいてもよい。一般式(b)、(c)および(d)で示される化合物から選択される化合物を使用することによって、走行系の部材(ポスト)に対する耐摩耗性が向上し、実用信頼性が向上する。
【0038】
一般式(b):
【化13】
で示される化合物は、フルオロポリエーテル系化合物である。当該フルオロポリエーテル系化合物の分子量は、約1000〜約20000であることが好ましく、約1000〜約4000であることがより好ましい。
【0039】
一般式(b)におけるXは、水酸基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR4)またはアシルオキシル基(−OCOR4)である。Xが−COOR4または−OCOR4である場合、R4は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である。R4の炭素数は1〜24であることが好ましく、12〜20であることがより好ましい。R4は、具体的には、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基およびイコシル基のいずれかであることが好ましい。
【0040】
一般式(b)において、iおよびjは1以上の整数である。iおよびjはそれぞれ、1〜30の整数であることが好ましく、1〜8の整数であることがより好ましい。hは0〜12の整数であり、好ましくは0〜6の整数である。
【0041】
一般式(b)において−(OC2F4)i(OCF2)j−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当し、iおよびjは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OC2F4)とオキシフルオロアルキレン単位(OCF2)から成る共重合体は、i個の(OC2F4)のブロックとj個の(OCF2)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(b)で示される化合物には、−(OC2F4)i(OCF2)j−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0042】
一般式(b)で示される化合物に相当するものとしては、Ausimont社製のFomblin Z Dol(商品名)およびFomblin Z Diac(商品名)がある。Fomblin Z Dolは、一般式(b)において、Xが水酸基であり、hが1〜11の整数、iが1〜15の整数、およびjが1〜15の整数で示される化合物に相当する。Fomblin Z Diacは、一般式(b)において、Xがカルボキシル基であり、hが0〜10の整数、iが1〜15の整数、およびjが1〜15の整数で示される化合物に相当する。
【0043】
分子の両末端にアルコキシカルボニル基を有するフルオロポリエーテル系化合物は、分子の両末端にカルボキシル基を有するパーフルオロエーテル系化合物(例えば、前述のFomblin Z Diac(商品名))とR4OHで示されるアルコールをエステル化反応させることにより生成できる。
【0044】
分子の両末端にアシルオキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物は、分子の両末端に水酸基を有するパーフルオロエーテル系化合物(例えば、前述のFomblin Z Dol(商品名))とR4COOHで示されるカルボン酸をエステル化反応させることにより生成できる。
【0045】
あるいは、一般式(b)で示される化合物は、所定の骨格を有する炭化水素ポリエーテルをフッ化水素掃去剤の存在下で直接フッ素化法によりフッ素化して両末端が酸フルオライド(−COF)に変性したフルオロポリエーテル系化合物を得、これを所定の反応に付して分子の両末端に所定の基を結合させることにより生成できる。炭化水素ポリエーテルの骨格は、一般式(b)のh、i、およびjに基づいて選択される。
【0046】
末端が酸フルオライドであるフルオロポリエーテル系化合物を加水分解すると、両末端にカルボキシル基が結合したものが得られる。このカルボキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物を還元するとカルボキシル基が−CH2OHとなり、水酸基を有するフルオロポリエーテル系化合物が得られる。カルボキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物をアルコールと反応させれば、両末端にアルコキシカルボニル基が結合した化合物を得ることができる。水酸基を有するフルオロポリエーテル系化合物をカルボン酸と反応させれば、両末端にアシルオキシル基が結合した化合物を得ることができる。
【0047】
炭化水素ポリエーテル系化合物を直接フッ素化する方法は、日本国特公平7−64929号公報において詳細に説明されている。実際の製造に際しては当該公報の記載を参照することができる。当該公報に開示された内容はこの引用により本明細書の一部を構成する。
【0048】
一般式(c):
【化14】
で示される化合物は、同一分子内に1個の含フッ素末端基、すなわちフルオロアルキル末端基、フルオロエーテル末端基またはフルオロポリエーテル末端基と、1個の脂肪族炭化水素末端基、すなわち脂肪族アルキル末端基または脂肪族アルケニル末端基と、1個のエステル結合を有する構造の含フッ素モノエステルである。
【0049】
一般式(c)において、R5は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である。R5の炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または30を超える場合には、潤滑性能が低下することがある。R5は直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。R5は、具体的には、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、1−ドデセニル基、1−トリデセニル基、1−テトラデセニル基、1−ペンタデセニル基、1−ヘキサデセニル基、1−へプタデセニル基、1−オクタデセニル基、1−ノナデセニル基、1−イコセニル基、1−ヘンイコセニル基および1−ドコセニル基のいずれかであることが好ましい。
【0050】
一般式(c)において、R6はフルオロアルキル基、フルオロエーテル基、またはフルオロポリエーテル基である。
【0051】
R6がフルオロアルキル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。フルオロアルキル基は、具体的には、パーフルオロへキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、またはパーフルオロデシル基であることが好ましい。
【0052】
R6がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合または6000を超える場合、光記録媒体の潤滑性および信頼性が低下することがある。フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0053】
R6がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、R6は上記一般式(a)のR2と同様、上記一般式(e)、(f)および(g)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0054】
一般式(c)において、cはメチレン(−CH2−)の数に相当する。cは好ましくは0〜20の整数であり、より好ましくは0〜12の整数である。一般式(c)で示される化合物にメチレン鎖が存在しない場合でも、この化合物を含む潤滑剤の性能に悪影響が及ぶことはない。したがって、cは0を含む。
【0055】
一般式(c)で示される化合物は、含フッ素アルコールと脂肪酸とを反応させることにより合成できる。この反応は、含フッ素アルコールおよび脂肪酸を、触媒の存在下で、溶媒中にて加熱しながら混合攪拌すると、都合良く進行させることができる。溶媒として、ヘプタン、オクタンまたはトルエンを用いることが好ましい。また、加熱温度が低いと未反応物が多量に残る傾向にあり、加熱温度が高いと副生成物が生成される傾向にある。したがって、加熱温度は、80〜150℃とすることが好ましく、120〜130℃とすることがより好ましい。触媒は、酸触媒であることが好ましく、例えば、p−トルエンスルホン酸を用いることができる。
【0056】
一般式(d):
【化15】
で示される化合物は、含フッ素アルキルジカルボン酸のジエステルとも呼べるものである。より詳細には、一般式(d)で示される化合物は、同一分子内に、1個または2個の含フッ素末端基、すなわちフルオロアルキル基またはフルオロエーテル末端基またはフルオロポリエーテル末端基(R9またはR10)と、1個または2個の脂肪族炭化水素末端基、すなわち脂肪族アルキル末端基または脂肪族アルケニル末端基(R8またはR10)と、2個のエステル結合を有する構造である。
【0057】
一般式(d)において、R8は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である。R8の炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または炭素数が30である場合、当該化合物が呈する潤滑性能が低下することがある。R8は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。具体的に好ましいR8は、一般式(a)におけるR1に関連して例示したものと同じである。
【0058】
一般式(d)において、R9は、フルオロアルキル基またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基である。R9がフルオロアルキル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
フルオロアルキル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。具体的に好ましいフルオロアルキル基は、一般式(a)におけるR2に関連して例示したものと同じである。
【0059】
R9がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合または6000を超える場合には、光記録媒体の潤滑性及び信頼性が低下する場合がある。また、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0060】
R9がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、R9は上記一般式(a)のR2と同様、上記一般式(e)、(f)および(g)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0061】
一般式(d)において、R10がフルオロアルキル基またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基である場合、その好ましい炭素数および分子量等は、先にR9に関連して説明したとおりである。
【0062】
一般式(d)において、R10が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である場合には、(CH2)zとR10との境界を定めるのが困難であることもある。そのため、かかる場合には、z=0とみなす。したがって、R10が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である場合、R10は、先にR8に関連して説明した好ましい炭素数を有する脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基に、0〜20個の−CH2−が結合した基として表されるものであることが好ましい。
【0063】
一般式(d)において、xは0または1である。yおよびzはそれぞれ0から20の整数であり、好ましくは0から12の整数である。yおよびzは、同じ整数であってよく、あるいは異なる整数であってよい。上述したとおり、R10が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である場合には、z=0とみなす。
【0064】
一般式(d)で示される化合物は、特許第2574622号明細書に記載の方法に従って製造される。この公報に記載された内容は、この引用により本発明の明細書の一部を構成する。
【0065】
本発明の光記録媒体の潤滑剤層において、一般式(a)で示される化合物と、一般式(b)〜(d)で示される化合物から選択される化合物とは、好ましくは重量比で2:8〜8:2の割合で含まれ、より好ましくは7:3〜4:6の割合で含まれる。
【0066】
潤滑剤層は、一般式(a)で示される化合物を2種以上含んでいてよい。潤滑剤層が、一般式(b)〜(d)で示される化合物から選択される化合物を含む場合、例えば、一般式(b)で示される化合物を2種以上含んでよく、または一般式(b)で示される化合物を1種以上と一般式(c)で示される化合物1種以上とを含んでよく、または一般式(b)で示される化合物1種以上と一般式(d)で示される化合物1種以上とを含んでよく、または一般式(b)で示される化合物1種以上と一般式(c)で示される化合物1種以上と一般式(d)で示される化合物1種以上とを含んでよい。いずれの場合も、一般式(a)で示される化合物の群と、一般式(b)〜(d)で示される化合物の群とは、上記の割合で潤滑剤層中に存在することが好ましい。
【0067】
潤滑剤層は、上記一般式(a)〜(d)で示される特定の含フッ素化合物以外の成分として、その他の潤滑剤、防錆剤および/または極圧剤等を含んでよい。
その場合、そのような成分が潤滑剤層に占める割合は、60重量%未満であることが好ましく、40重量%未満であることがより好ましい。上記特定の含フッ素化合物以外の成分が60重量%以上存在すると、本発明の効果を得ることが困難となる。
【0068】
潤滑剤層中に含まれる、上記特定の含フッ素化合物の量(2種以上含まれる場合はそれらを合わせた量)は、潤滑剤層の表面1m2当たり0.05〜100mgであることが好ましく、0.1〜50mgであることがより好ましい。潤滑剤層にこのような少量の含フッ素化合物を均一に存在させるために、本発明の光記録媒体の潤滑剤層は次の方法で形成することが望ましい。
【0069】
潤滑剤層は、常套の材料および手段を用いて高分子支持体の上に記録層および保護層をこの順に形成した後、保護層の上に形成する。潤滑剤層の形成工程は、アルコール系溶媒と炭化水素系溶媒との混合溶媒に、上記特定の含フッ素化合物を含む潤滑剤を溶解して調製した塗布液を保護層の上に塗布する工程、ならびに混合溶媒を乾燥させる工程を含む。最終的に混合溶媒が蒸発することにより、保護層の上には、溶媒に溶解した潤滑剤が残って潤滑剤層を形成する。従って、塗布液を厚く塗布しても、溶媒の蒸発により保護層上には均一で非常に薄い潤滑剤層、すなわち少量の潤滑剤組成物が保護層を均一に被覆した潤滑剤層が形成される。
【0070】
本発明で使用できるアルコール系溶媒は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコールおよびブチルアルコール等の低級アルコールであり、本発明で使用できる炭化水素系溶媒は、例えば、トルエン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、キシレン、ケトン等である。好ましいアルコール系溶媒/炭化水素系溶媒の組み合わせは、エチルアルコール/トルエン、エチルアルコール/オクタン、およびイソプロピルアルコール/ヘキサン等である。アルコール系溶媒の割合が大きすぎると塗布ムラが生じやすく、一方、炭化水素系溶媒の割合が大きすぎると不経済であるため、両者は、混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲、好ましくは3:7〜7:3の範囲となるように混合して使用することが好ましい。この混合有機溶媒を用いることにより、保護膜を均一に被覆する塗布ムラのない均一な厚みの潤滑剤層が形成され、その結果、潤滑性能に優れた摺動走行性の高い光記録媒体が得られる。
【0071】
塗布液を塗布する方法としては、バーコーティング法、グラビアコーティング法、リバースコーティング法、ダイコーティング法、ディッピング法およびスピンコート法等があり、いずれの方法を採用してもよい。
【0072】
あるいは、本発明の光記録媒体の潤滑剤層を形成する工程は、真空蒸着法により潤滑剤層を形成することを含むものであってよい。真空蒸着法によれば、分子がより均一に配向した潤滑剤層を形成することができる。真空蒸着法は、蒸着すべき含フッ素化合物が分解しない条件にて実施する。具体的には、0.01〜100Paの真空槽内で、蒸着すべき化合物を30〜300℃に加熱して実施する。化合物は抵抗加熱法で加熱することが好ましい。真空蒸着は、好ましくは、保護層まで形成された高分子支持体を適当な搬送装置を使用して走行させながら実施する。搬送装置としては、キャン状回転体またはベルト状支持体が使用される。
【0073】
上記において説明した潤滑剤層は、構成分子が均一に配向された膜であるため、高い光透過性を有する。潤滑剤層の光透過性は、例えば、高分子支持体(PETフィルム)に潤滑剤層を形成し、分光光度計(可視紫外近赤外分光光度計;例えばUV−3100PC、島津製作所社製)を用い、潤滑剤層側から光を照射して、透過した光の量を高分子支持体側から測定して、照射光の量に対する透過光の量の比から求めることができる。本発明の光記録媒体において、潤滑剤層は、前述のように、波長850nm以下である光、具体的には波長300〜850nmの範囲内にある光に対して、80%以上の透過率を有するものであることが好ましい。
【0074】
本発明の光記録媒体は、潤滑剤層以外の構成に関しては特に限定されない。したがって、上記において説明した潤滑剤層以外の光記録媒体の要素、例えば、高分子支持体、記録層、保護層およびバックコート層は常套の材料および方法を用いて構成することができる。以下、それらの要素を図面を参照して説明する。
【0075】
図1に示すように、本発明のテープ状光記録媒体10は、高分子支持体1の上に、記録層2、保護層3および潤滑剤層5がこの順に積層され、高分子支持体1の記録層2が形成された面とは反対側の面にバックコート層4が形成された構成を有する。
【0076】
高分子支持体1としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレンまたはポリアミド等から成る高分子フィルムが用いられる。高分子支持体1の厚さは、2〜10μmであることが好ましい。厚さが2μm未満である場合には、高分子支持体の強度が弱すぎる。また、厚さが10μmを越えると、テープ状光記録媒体全体の厚さが大きくなるため記録容量の大容量化に不利である。
【0077】
記録層2は、一般に光ディスクの記録層を構成する材料として用いられているもので形成される。記録層2を構成する材料としては、具体的には、シアニン色素、フタロシアニン色素、キノン色素、スクワリウム色素、アズレニウム色素、メロシアニン色素、アゾ色素、ナフトキノン色素、ポルフィリン色素、オキソノール色素、アゾメチン色素、アントラキノン色素、インジゴ色素、またはフォルマザン色素等の有機色素記録材料、TbFeCo、GdTbFe、GdTbFeCo、GdDyFeCo、またはNdDyFeCo等の光磁気記録材料、GeTe、GeSbTe、InSbTe、AgInSbTe、SbInSn、TeAsSe、TeSe、SeInSb、またはAgZn等の相変化記録材料が挙げられる。記録層の形成方法としては、塗布、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングおよびプラズマCVD等が挙げられる。また、記録層2と高分子支持体1との間には、図示していない誘電体層、反射層、保護層および接着層を形成してもよい。記録層2は、例えば、10〜400nmの厚さを有するように形成される。上記の材料、形成方法および厚さは、例示にすぎない。記録層2として、光記録媒体の分野において常套的に採用されている種々の材料から選択される材料を用いて、適切な方法に従って、適切な厚さとなるように形成された種々の層を使用できる。
【0078】
保護層3は、ポリカーボネート系およびフッ素系等のポリマー、Al2O3、Ta2O5、SiO、SiO2、ZnO、SnO2、TiO2、In2O3、MgO、ZrO2およびAlTaO等の酸化物、AlN、Si3N4、TiN、BN、ZrN、SiNbN、およびSiTaN等の窒化物、ZnS、In2S3およびTaS4等の硫化物、SiC、TaC、B4C、WC、TiCおよびZrC等の炭化物、ダイヤモンド状カーボン、ならびにこれらの材料から選択される2またはそれ以上の材料を混合したもの(例えば、ZnS−SiO2)で形成される。保護層3は、蒸着、スパッタ、イオンプレーティングまたはプラズマCVD等によって形成できる。いずれの材料を用いて保護層3を形成する場合も、保護層3は厚さ2〜500nmの薄膜とすることが好ましい。
【0079】
本発明のテープ状光記録媒体においては、保護層3は、SiOx(xは0.1〜2)を50モル%以上含む材料から成ることが好ましい。そのような材料から成る保護層は、その表面に、上述の一般式(a)で示される化合物を含む潤滑剤が、均一に配向された潤滑剤層を形成するのに適している。ここで、xは0.1〜2の範囲内にある数であり、整数でない場合もある。xが整数でない場合としては、例えば、SiOとSiO2とがともに保護層3内に存在する場合、ならびに保護層3にSiと結合していない酸素が存在する場合等が挙げられる。
【0080】
バックコート層4は、テープ状光記録媒体10の裏面側の走行性を向上させるために設けられる。バックコート層4は、例えば、カーボン粒子、バリウムフェライトおよび酸化チタン、ならびにそれらのバインダーとしてポリウレタン樹脂を含む。カーボン粒子はバックコート層に強度を付与し、バリウムフェライトはバックコート層のヤング率を調節し、ポリウレタン樹脂はカーボン粒子およびバリウムフェライトを結合するバインダーとしての役割を果たす。カーボン粒子に代えて、あるいはカーボン粒子とともに、金属粒子、金属酸化物粒子および金属窒化物粒子から選択される1または複数種の粒子を用いてよい。また、ポリウレタン樹脂に代えて、あるいはポリウレタン樹脂とともに、ポリエステル樹脂、またはニトロセルロース樹脂を用いてよい。このようなバックコート層4は、カーボン粒子、バリウムフェライトおよびポリウレタン樹脂を、適当な溶媒(例えば、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒)に溶解しおよび/または分散させた塗布液を、高分子支持体1の記録層2を形成した面とは反対側の面に塗布した後、乾燥して溶媒を蒸発させることにより形成できる。バックコート層の厚さは好ましくは0.2〜2.0μmである。
【0081】
以上のようにして、テープ状光記録媒体10が製造される。上記において説明した高分子支持体、記録層、保護層およびバックコート層は、例示的なものである。それらは上記において例示した材料以外の任意の適切な材料を用いて、適切な方法により形成してよい。また、テープ状光記録媒体の構成は、図示した形態のものに限定されず、常套的に採用されている任意の構成としてよい。
【0082】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0083】
(実施例1)
図1に示す態様の光記録媒体を以下の手順で作成した。まず、高分子支持体1として、厚さ8.0μm、幅150mm、長さ2000mのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。この高分子支持体1の一方の面に、GeSbTeから成る厚さ50nmの相変化型の記録層2をスパッタ法により形成した。さらに、この記録層2の上に、ZnS−SiO2(SiO2の混合割合50モル%)から成る厚さ70nmの保護層3をスパッタ法により形成した。
【0084】
この保護層3の上に潤滑剤層5を次の手順により形成した。まず、下記化学式(a1)で示される化合物から成る潤滑剤を、イソプロピルアルコールとトルエンとを1:1(重量比)の割合で混合した混合有機溶媒に、その濃度が2000ppmとなるように溶解して塗布液を調製した。この塗布液を保護層3の表面にリバースコータを用いて湿式塗布法により約80μmの厚さになるように塗布した後、乾燥させた。最終的に保護層3の上には、1m2あたり5mgの潤滑剤が含まれる厚さ5nmの潤滑剤層5が形成された。
【0085】
さらに、高分子支持体1の他方の面に、約1.0μmの厚さのバックコート層4を湿式塗布法により形成した。塗布液として、溶媒としてのトルエンとメチルエチルケトンをそれぞれ500重量部、バインダーとしてのポリウレタンを100重量部、カーボン粒子を20重量部、および硫酸バリウムを60重量部混合したものを用いた。以上のようにして作成した試料を1/2インチ幅にスリットしてテープ状の光記録媒体を得た。
【0086】
【化16】
【0087】
(実施例2〜8)
上記化学式(a1)で示される化合物と下記化学式(b1)で示される化合物とを重量比で1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例2)、化学式(a1)で示される化合物と下記化学式(c1)で示される化合物とを重量比で1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例3)、化学式(a1)で示される化合物と下記化学式(d1)で示される化合物とを重量比で1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例4)、化学式(a1)で示される化合物と化学式(b1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物とを重量比で1:1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例5)、化学式(a1)で示される化合物と化学式(b1)で示される化合物と化学式(d1)で示される化合物とを重量比で1:1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例6)、化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物と化学式(d1)で示される化合物とを重量比で1:1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例7)、化学式(a1)で示される化合物と化学式(b1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物と化学式(d1)で示される化合物とを1:1:1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例8)をそれぞれ使用したこと以外は、実施例1と同様にして、テープ状の光記録媒体を作製した。
【0088】
【化17】
【化18】
【化19】
【0089】
(実施例9〜16の作製)
化学式(a1)で示される化合物に代えて、下記化学式(a2)で示される化合物を用いたこと以外は、それぞれ実施例1〜8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【化20】
【0090】
(実施例17〜20の作製)
化学式(b1)で示される化合物に代えて、下記化学式(b2)で示される化合物を用いたこと以外は、それぞれ実施例2、5、6および8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【化21】
【0091】
(実施例21〜24の作製)
化学式(c1)で示される化合物に代えて、下記化学式(c2)で示される化合物を用いたこと以外は、それぞれ実施例3、5、7および8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【化22】
【0092】
(実施例25〜28の作製)
化学式(d1)で示される化合物に代えて、下記化学式(d2)で示される化合物を用いたこと以外は、それぞれ実施例4、6、7および8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【化23】
【0093】
(実施例29−36の作製)
保護層3を、ZnS−SiO2に代えて、SiOを用いて、スパッタリングにより形成したことを除いては、それぞれ実施例1〜8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【0094】
(実施例37〜44の作製)
潤滑剤層の形成方法として、湿式塗布法に代えて有機真空蒸着法を採用したこと以外は、実施例1〜8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。真空蒸着は1Paの真空槽内にて、化合物を100℃に加熱して蒸発させるとともに、高分子支持体を5m/分の速度にて走行させながら実施した。また、2種類以上の化合物から成る潤滑剤層は、化合物ごとにるつぼを用意し、各るつぼを同時に加熱して各化合物を蒸発させることにより形成した。
【0095】
(比較例1の作製)
保護層の上に潤滑剤層を形成しなかったことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状光記録媒体を作製した。
【0096】
(比較例2の作製)
市販のフッ素系潤滑剤であるFomblin AM2001(商品名;Ausimont社製)を潤滑剤として使用し、これで潤滑剤層を形成したことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状光記録媒体を作製した。
【0097】
(比較例3の作製)
市販の脂肪族カルボン酸潤滑剤であるステアリン酸(商品名;和光純薬工業社製)を潤滑剤として使用し、これで潤滑剤層を形成したことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状の光記録媒体を作製した。
【0098】
(比較例4の作製)
潤滑剤を溶解する有機溶媒として、イソプロピルアルコールのみを用いたことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状光記録媒体を作製した。
【0099】
(比較例5の作製)
潤滑剤を溶解する有機溶媒として、トルエンのみを用いたことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状光記録媒体を作製した。
【0100】
実施例1〜実施例44及び比較例1〜比較例5で得られた1/2インチ幅のテープ状の試料について、それぞれ評価試験(a),(b)及び(c)を行った。得られた結果を表1および表2に示す。
【0101】
(a)塗布状態の観察
潤滑剤層表面において潤滑剤の塗布状態を観察した。各試料を所定の大きさ(10×10mm)に裁断し、TOF−SIMSによるCF2フラグメントのマッピング分析により、表面イメージ像から塗布状態を観察し、潤滑剤層の均一性を評価した。
【0102】
(b)透過率の測定
潤滑剤層の透過率を分光光度計(UV−3100PC)により調べた。表1に波長850nmの光に対する透過率を示す。なお、波長が300〜850nmの範囲内にあるいずれの光についても同様の透過特性を示すことを確認した。
【0103】
(c)走行性試験
潤滑剤層側表面の動摩擦係数μkを測定した。各試料を、摩擦部材(ステンレス製(SUS420J2、表面粗さ0.2S)、外径6mm)への巻き付け角90°で巻き付け、テンション0.2Nの条件で、試料を18mm/秒の速度で巻き出し、同じ速度で巻き取って、往復走行させた。100パス目の巻き取り側の張力を測定し、巻き出し側のテンションとの比からオイラーの式より計算して求めた。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表1から明らかなように、比較例1〜5との比較において、実施例1〜44の試料の潤滑剤層の塗布状態は均一であり、潤滑剤層の透過率も高く、且つ動摩擦係数μkはいずれも0.25以下であって摺動走行性も良好であった。特に、真空蒸着により潤滑剤層を形成した実施例37〜44の試料は、高い光透過性を示した。このことは、真空蒸着によれば、分子がより均一に配向された膜を形成することができることを示している。
【0107】
【発明の効果】
本発明の光記録媒体は、高分子支持体の一方の面に形成された記録層、保護層および潤滑剤層を有するテープ状光記録媒体であって、潤滑剤層が特定の含フッ素化合物を含むことを特徴とする。この特徴により、本発明のテープ状光記録媒体は、光を潤滑剤層を通過させて記録層に照射して情報を記録、再生および/または消去するのに支障を来すことなく、優れた摺動走行性を示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光記録媒体の一形態を模式的に示す断面図である。
【図2】従来の光記録媒体の一形態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1、11...高分子支持体
2、12...記録層
3、13...保護層
4、14...バックコート層
5...潤滑剤層
10、110...テープ状光記録媒体
【発明の属する技術分野】
本発明は、光を用いて情報を記録および再生する、テープ状の光記録媒体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、光記録方式を利用した記録媒体として、より多くの情報を記録し得るテープ状光記録媒体が提案されている。このテープ状光記録媒体は、テープ状の高分子支持体の上に光記録層を形成したものである。現在、汎用されている光記録媒体は、例えば、厚さ1.2mmのポリカーボネート基板に記録層等を形成して成るディスク状媒体である。これに対し、テープ状の光記録媒体は、柔軟で薄いポリマーフィルム、特にポリエステルフィルムを用いて構成されるから、通常のオーディオテープのように巻回してパッケージに収容できる。したがって、テープ状の光記録媒体は、一般の光ディスクと同等の記録密度を有しつつ、長尺化することによって光ディスクよりも格段に大きい記録面積を実現できる。即ち、テープ状の光記録媒体によれば、光ディスクよりも記録容量の大きい記録媒体製品を提供し得る。さらに、最近では、より薄いフィルム(例えば厚さ20μm以下)も開発され、所定寸法のパッケージにより多くのテープ状記録媒体を収容することが可能となっている。このことは、テープ状光記録媒体製品の大容量化にさらに寄与する。
【0003】
以下に、これまでに提案されてきたテープ状光記録媒体の構成の一例を、図面を参照して説明する。図2にテープ状光記録媒体の断面を模式的に示す。図示した光記録媒体110においては、高分子支持体11の一方の面に記録層12および保護層13がこの順に積層され、高分子支持体11の記録層12形成された面とは反対側の面にバックコート層14が形成されている。
【0004】
高分子支持体11として、一般的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートまたはポリアミド等から成るポリマーフィルムが用いられる。記録層12は、光ディスクの記録層を構成する材料として一般的に用いられている材料で構成される。記録層12は、例えば、有機色素記録材料、光磁気記録材料、または相変化記録材料等で形成される。保護層13は、金属酸化物、窒化物、硫化物、または炭化物等で構成される。バックコート層14は、テープ状の光記録媒体110の記録層側表面とは反対側の面(即ち、裏面)の走行性を向上させるために設けられる。バックコート層14は、例えば、カーボン粒子および硫酸バリウムがポリウレタン樹脂中に分散されて成る層である。かかる層においてポリウレタン樹脂は、バインダーとして作用する。
【0005】
テープの走行性および耐久性を向上させる目的で、保護層13の上に潤滑剤層を形成したテープ状光記録媒体も既に提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、潤滑剤層を、末端へテロ環パーフルオロポリエーテルを使用して形成することが開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平2−139731号公報(特許請求の範囲、実施例)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1でも言及されているように、テープ状光記録媒体は、ディスク媒体とは異なり、記録再生システムにおいて走行させられ、走行中にドライブの走行系部材とテープ面とが接触する。即ち、記録再生システムにおいて、テープ状光記録媒体は、種々の部材上を摺動する。そのため、テープ状光記録媒体の表面には耐久性が要求される。かかる要求を満たすために、上記のように潤滑剤層が設けられる。しかしながら、テープ状光記録媒体の表面に対しては、より良好な耐久性が常に求められている。また、テープ状光記録媒体の記録、再生および/または消去は、一般に、記録層の上方から光を照射して(即ち、高分子支持体中に光を透過させずに)実施する。したがって、記録層の上方に位置する潤滑剤層に対しては、記録再生に使用する特定波長の光(一般にはレーザ光)をより良好に透過させることが要求される。
【0008】
このように、テープ状光記録媒体の表面に位置する潤滑剤層の材料は、テープに所望の耐久性および走行性を付与するとともに、良好な光透過性を有するように選択する必要がある。本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、テープ状の光記録媒体において、テープの走行性をより向上させ、且つ優れた光透過性を有する潤滑剤層を構成することを課題としてなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明者らが検討を重ねた結果、潤滑剤層を均一に形成することによって、即ち、潤滑剤を均一に成膜することによって、光記録媒体の走行耐久性が向上することが判った。さらに、本発明者らは、潤滑剤層の均一性を評価するために、後述する飛行時間型二次イオン質量分析を用いた表面分析を採用し、これに基づいて判断される均一性の良否がテープ状光記録媒体の走行耐久性の良否と対応することを見出した。この知見に基づき、本発明者らは、前記特定の表面分析により評価される均一性が良好となる膜を形成する材料を検討した。その結果、特定の含フッ素化合物が潤滑剤層を形成する材料として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、上記課題を解決するために、本発明は、高分子支持体と、高分子支持体の一方の面に形成された記録層と、当該記録層の上に形成された保護層と、当該保護層の上に形成された潤滑剤層と、高分子支持体の他方の面に形成されたバックコート層とを有する光記録媒体であって、潤滑剤層が一般式(a)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むテープ状光記録媒体を提供する:
【化5】
(式中、R1は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R2はフルオロアルキル基、またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、aは0または1であり、bは0から20の整数である。)
【0011】
一般式(a)で示される化合物を使用すれば、テープ状光記録媒体の保護層の上に、均一な潤滑剤層を形成することが可能である。それにより、良好な走行性を有するテープ状光記録媒体が得られる。また、一般式(a)で示される化合物を使用すれば、良好な光透過性を有する潤滑剤層が形成されるので、レーザ光による記録、再生、および消去に支障を来さない。
なお、本発明のテープ状光記録媒体は、光の照射により、情報の記録、再生および消去のうち、少なくとも1つが実行されるものである。
【0012】
本発明のテープ状光記録媒体は、潤滑剤層が、上記一般式(a)で示される化合物に加えて、下記の一般式(b)〜(d)で示される化合物から選択される、少なくとも1種の化合物を含むものであることが好ましい。
【化6】
(式中、Xは−OH、−COOH、−COOR4、または−OCOR4であり、ここでR4は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、iおよびjは1以上の整数であり、hは0〜12の整数である。)
【化7】
(式中、R5は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R6はフルオロアルキル基、またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、cは0から20の整数である。)
【化8】
(式中、R8は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基を示し、R9はフルオロアルキル基、またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、R10は脂肪族アルキル基、脂肪族アルケニル基、フルオロアルキル基、またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基を示し、xは0または1であり、yおよびzはそれぞれ0から20の整数である。)
【0013】
本発明のテープ状光記録媒体を構成する潤滑剤層は、飛行時間型二次イオン質量分析(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry;TOF−SIMS)による表面分析により、優れた均一性を有するものであることが確認された。
TOF−SIMSによる表面分析は、具体的には、潤滑剤層の表面についてマッピング分析を実施することにより、表面イメージ像を観察して、フラグメント(例えば−CF2−)の分布状態から潤滑剤を構成する分子の存在状態を確認して行う。フラグメントの分布状態が均一であれば、分子も均一に分布していると判断でき、したがって潤滑剤層が均一に形成されていると判断され得る。
【0014】
また、フラグメントの分布状態から、分子の配向状態を確認できる。特に、潤滑剤層が1種類の化合物から成る場合において、フラグメントが均一に分布しているときは、各分子のフラグメントが表面に同じように露出しており、したがって各分子が一定の方向に配列していると判断される。
【0015】
潤滑剤層が2種以上の化合物から成る場合において、フラグメントが均一に分布しているときは、面方向において、ある化合物が局在化しておらず、表面状態が均一であると判断される。例えば、2種類の化合物から成る潤滑剤層が2層構造の形態をとる場合にも、フラグメントが均一に分布することとなる。
【0016】
本発明のテープ状光記録媒体において、潤滑剤層は分子が均一に配向されたものであることが好ましい。ここで「分子が均一に配向された」とは、潤滑剤層の表面をTOF−SIMSによってマッピング分析したときに、フラグメントが均一に分布している状態を意味する。即ち、ここでいう「配向」には、同一種類の分子が同一方向に配列している状態のほか、異なる2種以上の分子を含む潤滑剤層の表面が均一である状態も含まれる。均一に配向された潤滑剤層は、良好な光透過性を有する。上述の一般式(a)で示される化合物は、均一に配向しやすい性質を有し、したがって、本発明のテープ状光記録媒体において、潤滑剤層を構成する必須の化合物として用いられる。また、上述の一般式(b)〜(d)で示される化合物は、一般式(a)で示される化合物とともに用いられると、表面状態が均一な層を形成する性質を有することから、好ましく使用される。
【0017】
なお、潤滑剤層のTOF−SIMSによる表面分析は、例えば、PHYSICAL ELECTRONICS社製のTRIFT IIを用い、一次イオンをGa+イオンとし、一次イオンエネルギーを12keVおよび18keVとし、一次イオン電流量(DC)を600pAとし、一次イオン照射量を1012ion/cm2以下とし、分析時間をマッピング分析時において10分とし、分析領域を80μm×80μmとし、測定範囲を1〜2000amuとして実施できる。このとき、質量分解能はM/ΔM=5000〜9000レベル(質量数28)である。
【0018】
本発明のテープ状光記録媒体において、上記一般式(a)で示される化合物を含む潤滑剤層は、好ましくは、SiOx(xは0.1〜2.0)で示される酸化ケイ素を50モル%以上含む材料から成る保護層の上に形成される。換言すれば、上記一般式(a)で示される化合物は、酸化ケイ素を含む保護層の上に形成される潤滑剤層を構成するのに適している。
【0019】
本発明のテープ状光記録媒体において、上記一般式(a)で示される化合物を含む潤滑剤層は、好ましくは、記録再生に使用される波長のレーザ光に対して80%以上の透過率を有するように形成される。透過率が80%未満であると、記録層に到達する光の量が少なくなり、記録再生に支障を来す。テープ状光記録媒体の記録再生に使用されるレーザ光は、一般に波長が850nm以下のものである。一般式(a)で示される化合物を使用すれば、波長が850nm以下、より具体的には波長が300〜850nmの範囲内にあるレーザ光に対して80%以上の透過率を有する潤滑剤層を形成できる。
【0020】
本発明はまた、上記本発明のテープ状光記録媒体を製造する方法を提供する。
本発明のテープ状光記録媒体の製造方法は、保護層の上に潤滑剤層を形成する工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液を、保護層上に塗布することを含む。この製造方法によれば、保護層の上に薄い潤滑剤層を均一に形成することができる。
【0021】
本発明のテープ状光記録媒体の別の製造方法は、保護層の上に潤滑剤層を形成する工程が、真空蒸着法により潤滑剤を成膜することを含む。この製造方法によれば、保護層の上に薄い潤滑剤層を均一に形成できるとともに、得られる潤滑剤層の光透過性をより良好にすることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
以下の説明を含む本明細書において、テープ状光記録媒体(以下、単に「光記録媒体」とも呼ぶ)の構成に関して、光記録媒体を構成する各層の「表面」とは、各層が形成されたときに露出している面、即ち、各層の高分子支持体から遠い側の面を意味する。光記録媒体の構成に関して、光記録媒体を構成する各層の「上」というときもまた、特に断りのない限り、各層の高分子支持体から遠い側の面を意味する。したがって、例えば、「保護層の上に」というときは、「保護層の高分子支持体から遠い側の面に隣接する位置に」を意味する。また、各層または膜の「上方に」というときは、各層または膜から「高分子支持体から遠ざかる方向に離れた位置に」を意味する。
【0023】
本発明の光記録媒体は、潤滑剤層が特定の含フッ素化合物を含むことを特徴とする。かかる特徴により、摺動走行耐久性が良好であり、且つ光透過性の高い潤滑剤層を有する光記録媒体が提供される。以下に、本発明の光記録媒体の潤滑剤層を構成するのに適した化合物をそれぞれ説明する。
【0024】
本発明の光記録媒体の潤滑剤層には、一般式(a):
【化9】
で示される化合物が含まれる。一般式(a)で示される化合物は、含フッ素アルキルジカルボン酸のモノエステル化合物とも呼べるものである。より詳細には、一般式(a)で示される化合物は、同一分子内に1個の含フッ素末端基、すなわちフルオロアルキル基またはフルオロエーテル末端基またはフルオロポリエーテル末端基R2と、1個の脂肪族炭化水素末端基、すなわち脂肪族アルキル末端基または脂肪族アルケニル末端基R1と、1個のカルボキシル基を有する構造である。
【0025】
この化合物は、カルボキシル基の部分が、保護層に吸着されやすい性質を有する。そのため、この化合物は、潤滑剤層において、保護層の表面にカルボキシル基が結合し、R1−と、R2(CH2)bOCO(CH2)a−が上方に向かって延びるような形態で(即ち、R1−と、R2(CH2)bOCO(CH2)a−とがV字を形成するように)存在すると推察される。このように推察することは、TOF−SIMSによるマッピング分析の結果を見ても妥当である。かかる形態で分子が存在すると、潤滑剤層の表面にはフッ素を含む基R2が位置し、それにより光記録媒体の良好な走行性が確保されることとなる。また、カルボキシル基が保護層表面に強く吸着するため、繰り返し走行させた場合でも、潤滑剤層が劣化しにくく、したがって優れた耐久性をテープ状光記録媒体に付与する。
【0026】
一般式(a)において、R1はアルキル基またはアルケニル基である。R1の炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または炭素数が30である場合、当該化合物が呈する潤滑性能が低下することがある。R1は直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。R1は、具体的には、−C12H25、−C14H29、−C16H33、−C18H37、およびC20H41のいずれかであることが好ましい。
【0027】
一般式(a)において、R2はフルオロアルキル基またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基である。R2がフルオロアルキル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基は直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。また、フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。フルオロアルキル基は、具体的には、−C6F13、−C7F15、−C8F17、−C9F19、および−C10F21のいずれかであることが好ましい。
【0028】
R2がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合または6000を超える場合には、光記録媒体の潤滑性及び信頼性が低下する場合がある。また、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0029】
一般式(a)において、aは0または1である。bは0から20の整数であり、好ましくは0から12の整数である。
【0030】
R2がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、R2は下記の一般式(e)、(f)及び(g)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0031】
一般式(e):
【化10】
において、kは1以上の整数であり、好ましくは1〜8の整数である。
【0032】
一般式(f):
【化11】
において、pおよびqは1以上の整数である。pおよびqはそれぞれ、1〜30であることが好ましく、1〜8であることがより好ましい。
【0033】
一般式(f)において−(OCF(CF3)CF2)P(OCF2)q−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当し、pおよびqは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OCF(CF3)CF2)とオキシフルオロアルキレン単位(OCF2)から成る共重合体は、p個の(OCF(CF3)CF2)のブロックとq個の(OCF2)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(f)で示される基は、−(OCF(CF3)CF2)p(OCF2)q−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0034】
一般式(g):
【化12】
において、R3はフルオロアルキル基を示し、mは1から6の整数であり、nは1から30の整数である。R3は、好ましくはパーフルオロアルキル基である。
R3の炭素数は好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜8である。nは、より好ましくは1〜8の整数である。
【0035】
一般式(e)、(f)及び(g)におけるk、p及びqならびm及びnがこれらの範囲外である場合、光記録媒体の潤滑性および保存信頼性が低下することがある。
【0036】
一般式(a)で示される化合物の合成方法は、米国特許明細書第1902885号、日本国特開昭61−257226号公報および日本国特開2000−16968号公報において詳細に記載されており、これらの公報に記載された内容は、この引用により本発明の明細書の一部を構成する。
【0037】
本発明の光記録媒体において、潤滑剤層は、一般式(a)で示される化合物のみで構成されてもよいが、下記の一般式(b)、(c)および(d)で示される化合物から選択される化合物を1種または2種以上含んでいてもよい。一般式(b)、(c)および(d)で示される化合物から選択される化合物を使用することによって、走行系の部材(ポスト)に対する耐摩耗性が向上し、実用信頼性が向上する。
【0038】
一般式(b):
【化13】
で示される化合物は、フルオロポリエーテル系化合物である。当該フルオロポリエーテル系化合物の分子量は、約1000〜約20000であることが好ましく、約1000〜約4000であることがより好ましい。
【0039】
一般式(b)におけるXは、水酸基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(−COOR4)またはアシルオキシル基(−OCOR4)である。Xが−COOR4または−OCOR4である場合、R4は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である。R4の炭素数は1〜24であることが好ましく、12〜20であることがより好ましい。R4は、具体的には、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基およびイコシル基のいずれかであることが好ましい。
【0040】
一般式(b)において、iおよびjは1以上の整数である。iおよびjはそれぞれ、1〜30の整数であることが好ましく、1〜8の整数であることがより好ましい。hは0〜12の整数であり、好ましくは0〜6の整数である。
【0041】
一般式(b)において−(OC2F4)i(OCF2)j−で示される部分は、2種のオキシフルオロアルキレン単位が共重合している部分に相当し、iおよびjは共重合体中の各オキシフルオロアルキレン単位の数を示す。オキシフルオロアルキレン単位(OC2F4)とオキシフルオロアルキレン単位(OCF2)から成る共重合体は、i個の(OC2F4)のブロックとj個の(OCF2)のブロックとから成るブロック共重合体もしくは他のブロック共重合体、ランダム共重合体、または交互共重合体であってよい。したがって、一般式(b)で示される化合物には、−(OC2F4)i(OCF2)j−で示される部分がブロック共重合体、ランダム共重合体および交互共重合体であるものを含む。
【0042】
一般式(b)で示される化合物に相当するものとしては、Ausimont社製のFomblin Z Dol(商品名)およびFomblin Z Diac(商品名)がある。Fomblin Z Dolは、一般式(b)において、Xが水酸基であり、hが1〜11の整数、iが1〜15の整数、およびjが1〜15の整数で示される化合物に相当する。Fomblin Z Diacは、一般式(b)において、Xがカルボキシル基であり、hが0〜10の整数、iが1〜15の整数、およびjが1〜15の整数で示される化合物に相当する。
【0043】
分子の両末端にアルコキシカルボニル基を有するフルオロポリエーテル系化合物は、分子の両末端にカルボキシル基を有するパーフルオロエーテル系化合物(例えば、前述のFomblin Z Diac(商品名))とR4OHで示されるアルコールをエステル化反応させることにより生成できる。
【0044】
分子の両末端にアシルオキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物は、分子の両末端に水酸基を有するパーフルオロエーテル系化合物(例えば、前述のFomblin Z Dol(商品名))とR4COOHで示されるカルボン酸をエステル化反応させることにより生成できる。
【0045】
あるいは、一般式(b)で示される化合物は、所定の骨格を有する炭化水素ポリエーテルをフッ化水素掃去剤の存在下で直接フッ素化法によりフッ素化して両末端が酸フルオライド(−COF)に変性したフルオロポリエーテル系化合物を得、これを所定の反応に付して分子の両末端に所定の基を結合させることにより生成できる。炭化水素ポリエーテルの骨格は、一般式(b)のh、i、およびjに基づいて選択される。
【0046】
末端が酸フルオライドであるフルオロポリエーテル系化合物を加水分解すると、両末端にカルボキシル基が結合したものが得られる。このカルボキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物を還元するとカルボキシル基が−CH2OHとなり、水酸基を有するフルオロポリエーテル系化合物が得られる。カルボキシル基を有するフルオロポリエーテル系化合物をアルコールと反応させれば、両末端にアルコキシカルボニル基が結合した化合物を得ることができる。水酸基を有するフルオロポリエーテル系化合物をカルボン酸と反応させれば、両末端にアシルオキシル基が結合した化合物を得ることができる。
【0047】
炭化水素ポリエーテル系化合物を直接フッ素化する方法は、日本国特公平7−64929号公報において詳細に説明されている。実際の製造に際しては当該公報の記載を参照することができる。当該公報に開示された内容はこの引用により本明細書の一部を構成する。
【0048】
一般式(c):
【化14】
で示される化合物は、同一分子内に1個の含フッ素末端基、すなわちフルオロアルキル末端基、フルオロエーテル末端基またはフルオロポリエーテル末端基と、1個の脂肪族炭化水素末端基、すなわち脂肪族アルキル末端基または脂肪族アルケニル末端基と、1個のエステル結合を有する構造の含フッ素モノエステルである。
【0049】
一般式(c)において、R5は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である。R5の炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または30を超える場合には、潤滑性能が低下することがある。R5は直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。R5は、具体的には、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、1−ドデセニル基、1−トリデセニル基、1−テトラデセニル基、1−ペンタデセニル基、1−ヘキサデセニル基、1−へプタデセニル基、1−オクタデセニル基、1−ノナデセニル基、1−イコセニル基、1−ヘンイコセニル基および1−ドコセニル基のいずれかであることが好ましい。
【0050】
一般式(c)において、R6はフルオロアルキル基、フルオロエーテル基、またはフルオロポリエーテル基である。
【0051】
R6がフルオロアルキル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。フルオロアルキル基は、具体的には、パーフルオロへキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、またはパーフルオロデシル基であることが好ましい。
【0052】
R6がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合または6000を超える場合、光記録媒体の潤滑性および信頼性が低下することがある。フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0053】
R6がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、R6は上記一般式(a)のR2と同様、上記一般式(e)、(f)および(g)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0054】
一般式(c)において、cはメチレン(−CH2−)の数に相当する。cは好ましくは0〜20の整数であり、より好ましくは0〜12の整数である。一般式(c)で示される化合物にメチレン鎖が存在しない場合でも、この化合物を含む潤滑剤の性能に悪影響が及ぶことはない。したがって、cは0を含む。
【0055】
一般式(c)で示される化合物は、含フッ素アルコールと脂肪酸とを反応させることにより合成できる。この反応は、含フッ素アルコールおよび脂肪酸を、触媒の存在下で、溶媒中にて加熱しながら混合攪拌すると、都合良く進行させることができる。溶媒として、ヘプタン、オクタンまたはトルエンを用いることが好ましい。また、加熱温度が低いと未反応物が多量に残る傾向にあり、加熱温度が高いと副生成物が生成される傾向にある。したがって、加熱温度は、80〜150℃とすることが好ましく、120〜130℃とすることがより好ましい。触媒は、酸触媒であることが好ましく、例えば、p−トルエンスルホン酸を用いることができる。
【0056】
一般式(d):
【化15】
で示される化合物は、含フッ素アルキルジカルボン酸のジエステルとも呼べるものである。より詳細には、一般式(d)で示される化合物は、同一分子内に、1個または2個の含フッ素末端基、すなわちフルオロアルキル基またはフルオロエーテル末端基またはフルオロポリエーテル末端基(R9またはR10)と、1個または2個の脂肪族炭化水素末端基、すなわち脂肪族アルキル末端基または脂肪族アルケニル末端基(R8またはR10)と、2個のエステル結合を有する構造である。
【0057】
一般式(d)において、R8は脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である。R8の炭素数は6〜30であることが好ましく、10〜24であることがより好ましい。炭素数が6未満である場合、または炭素数が30である場合、当該化合物が呈する潤滑性能が低下することがある。R8は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。具体的に好ましいR8は、一般式(a)におけるR1に関連して例示したものと同じである。
【0058】
一般式(d)において、R9は、フルオロアルキル基またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基である。R9がフルオロアルキル基である場合、その炭素数は1〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。フルオロアルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
フルオロアルキル基は、直鎖状および枝分れ鎖のいずれであってもよい。具体的に好ましいフルオロアルキル基は、一般式(a)におけるR2に関連して例示したものと同じである。
【0059】
R9がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、その分子量は約200〜約6000であることが好ましく、約300〜約4000であることがより好ましい。分子量が200未満である場合または6000を超える場合には、光記録媒体の潤滑性及び信頼性が低下する場合がある。また、フルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基は、パーフルオロエーテル基またはパーフルオロポリエーテル基であることが好ましい。
【0060】
R9がフルオロエーテル基またはフルオロポリエーテル基である場合、R9は上記一般式(a)のR2と同様、上記一般式(e)、(f)および(g)のいずれかで示されるものであることが好ましい。
【0061】
一般式(d)において、R10がフルオロアルキル基またはフルオロエーテル基もしくはフルオロポリエーテル基である場合、その好ましい炭素数および分子量等は、先にR9に関連して説明したとおりである。
【0062】
一般式(d)において、R10が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である場合には、(CH2)zとR10との境界を定めるのが困難であることもある。そのため、かかる場合には、z=0とみなす。したがって、R10が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である場合、R10は、先にR8に関連して説明した好ましい炭素数を有する脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基に、0〜20個の−CH2−が結合した基として表されるものであることが好ましい。
【0063】
一般式(d)において、xは0または1である。yおよびzはそれぞれ0から20の整数であり、好ましくは0から12の整数である。yおよびzは、同じ整数であってよく、あるいは異なる整数であってよい。上述したとおり、R10が脂肪族アルキル基または脂肪族アルケニル基である場合には、z=0とみなす。
【0064】
一般式(d)で示される化合物は、特許第2574622号明細書に記載の方法に従って製造される。この公報に記載された内容は、この引用により本発明の明細書の一部を構成する。
【0065】
本発明の光記録媒体の潤滑剤層において、一般式(a)で示される化合物と、一般式(b)〜(d)で示される化合物から選択される化合物とは、好ましくは重量比で2:8〜8:2の割合で含まれ、より好ましくは7:3〜4:6の割合で含まれる。
【0066】
潤滑剤層は、一般式(a)で示される化合物を2種以上含んでいてよい。潤滑剤層が、一般式(b)〜(d)で示される化合物から選択される化合物を含む場合、例えば、一般式(b)で示される化合物を2種以上含んでよく、または一般式(b)で示される化合物を1種以上と一般式(c)で示される化合物1種以上とを含んでよく、または一般式(b)で示される化合物1種以上と一般式(d)で示される化合物1種以上とを含んでよく、または一般式(b)で示される化合物1種以上と一般式(c)で示される化合物1種以上と一般式(d)で示される化合物1種以上とを含んでよい。いずれの場合も、一般式(a)で示される化合物の群と、一般式(b)〜(d)で示される化合物の群とは、上記の割合で潤滑剤層中に存在することが好ましい。
【0067】
潤滑剤層は、上記一般式(a)〜(d)で示される特定の含フッ素化合物以外の成分として、その他の潤滑剤、防錆剤および/または極圧剤等を含んでよい。
その場合、そのような成分が潤滑剤層に占める割合は、60重量%未満であることが好ましく、40重量%未満であることがより好ましい。上記特定の含フッ素化合物以外の成分が60重量%以上存在すると、本発明の効果を得ることが困難となる。
【0068】
潤滑剤層中に含まれる、上記特定の含フッ素化合物の量(2種以上含まれる場合はそれらを合わせた量)は、潤滑剤層の表面1m2当たり0.05〜100mgであることが好ましく、0.1〜50mgであることがより好ましい。潤滑剤層にこのような少量の含フッ素化合物を均一に存在させるために、本発明の光記録媒体の潤滑剤層は次の方法で形成することが望ましい。
【0069】
潤滑剤層は、常套の材料および手段を用いて高分子支持体の上に記録層および保護層をこの順に形成した後、保護層の上に形成する。潤滑剤層の形成工程は、アルコール系溶媒と炭化水素系溶媒との混合溶媒に、上記特定の含フッ素化合物を含む潤滑剤を溶解して調製した塗布液を保護層の上に塗布する工程、ならびに混合溶媒を乾燥させる工程を含む。最終的に混合溶媒が蒸発することにより、保護層の上には、溶媒に溶解した潤滑剤が残って潤滑剤層を形成する。従って、塗布液を厚く塗布しても、溶媒の蒸発により保護層上には均一で非常に薄い潤滑剤層、すなわち少量の潤滑剤組成物が保護層を均一に被覆した潤滑剤層が形成される。
【0070】
本発明で使用できるアルコール系溶媒は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコールおよびブチルアルコール等の低級アルコールであり、本発明で使用できる炭化水素系溶媒は、例えば、トルエン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、キシレン、ケトン等である。好ましいアルコール系溶媒/炭化水素系溶媒の組み合わせは、エチルアルコール/トルエン、エチルアルコール/オクタン、およびイソプロピルアルコール/ヘキサン等である。アルコール系溶媒の割合が大きすぎると塗布ムラが生じやすく、一方、炭化水素系溶媒の割合が大きすぎると不経済であるため、両者は、混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲、好ましくは3:7〜7:3の範囲となるように混合して使用することが好ましい。この混合有機溶媒を用いることにより、保護膜を均一に被覆する塗布ムラのない均一な厚みの潤滑剤層が形成され、その結果、潤滑性能に優れた摺動走行性の高い光記録媒体が得られる。
【0071】
塗布液を塗布する方法としては、バーコーティング法、グラビアコーティング法、リバースコーティング法、ダイコーティング法、ディッピング法およびスピンコート法等があり、いずれの方法を採用してもよい。
【0072】
あるいは、本発明の光記録媒体の潤滑剤層を形成する工程は、真空蒸着法により潤滑剤層を形成することを含むものであってよい。真空蒸着法によれば、分子がより均一に配向した潤滑剤層を形成することができる。真空蒸着法は、蒸着すべき含フッ素化合物が分解しない条件にて実施する。具体的には、0.01〜100Paの真空槽内で、蒸着すべき化合物を30〜300℃に加熱して実施する。化合物は抵抗加熱法で加熱することが好ましい。真空蒸着は、好ましくは、保護層まで形成された高分子支持体を適当な搬送装置を使用して走行させながら実施する。搬送装置としては、キャン状回転体またはベルト状支持体が使用される。
【0073】
上記において説明した潤滑剤層は、構成分子が均一に配向された膜であるため、高い光透過性を有する。潤滑剤層の光透過性は、例えば、高分子支持体(PETフィルム)に潤滑剤層を形成し、分光光度計(可視紫外近赤外分光光度計;例えばUV−3100PC、島津製作所社製)を用い、潤滑剤層側から光を照射して、透過した光の量を高分子支持体側から測定して、照射光の量に対する透過光の量の比から求めることができる。本発明の光記録媒体において、潤滑剤層は、前述のように、波長850nm以下である光、具体的には波長300〜850nmの範囲内にある光に対して、80%以上の透過率を有するものであることが好ましい。
【0074】
本発明の光記録媒体は、潤滑剤層以外の構成に関しては特に限定されない。したがって、上記において説明した潤滑剤層以外の光記録媒体の要素、例えば、高分子支持体、記録層、保護層およびバックコート層は常套の材料および方法を用いて構成することができる。以下、それらの要素を図面を参照して説明する。
【0075】
図1に示すように、本発明のテープ状光記録媒体10は、高分子支持体1の上に、記録層2、保護層3および潤滑剤層5がこの順に積層され、高分子支持体1の記録層2が形成された面とは反対側の面にバックコート層4が形成された構成を有する。
【0076】
高分子支持体1としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレンまたはポリアミド等から成る高分子フィルムが用いられる。高分子支持体1の厚さは、2〜10μmであることが好ましい。厚さが2μm未満である場合には、高分子支持体の強度が弱すぎる。また、厚さが10μmを越えると、テープ状光記録媒体全体の厚さが大きくなるため記録容量の大容量化に不利である。
【0077】
記録層2は、一般に光ディスクの記録層を構成する材料として用いられているもので形成される。記録層2を構成する材料としては、具体的には、シアニン色素、フタロシアニン色素、キノン色素、スクワリウム色素、アズレニウム色素、メロシアニン色素、アゾ色素、ナフトキノン色素、ポルフィリン色素、オキソノール色素、アゾメチン色素、アントラキノン色素、インジゴ色素、またはフォルマザン色素等の有機色素記録材料、TbFeCo、GdTbFe、GdTbFeCo、GdDyFeCo、またはNdDyFeCo等の光磁気記録材料、GeTe、GeSbTe、InSbTe、AgInSbTe、SbInSn、TeAsSe、TeSe、SeInSb、またはAgZn等の相変化記録材料が挙げられる。記録層の形成方法としては、塗布、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングおよびプラズマCVD等が挙げられる。また、記録層2と高分子支持体1との間には、図示していない誘電体層、反射層、保護層および接着層を形成してもよい。記録層2は、例えば、10〜400nmの厚さを有するように形成される。上記の材料、形成方法および厚さは、例示にすぎない。記録層2として、光記録媒体の分野において常套的に採用されている種々の材料から選択される材料を用いて、適切な方法に従って、適切な厚さとなるように形成された種々の層を使用できる。
【0078】
保護層3は、ポリカーボネート系およびフッ素系等のポリマー、Al2O3、Ta2O5、SiO、SiO2、ZnO、SnO2、TiO2、In2O3、MgO、ZrO2およびAlTaO等の酸化物、AlN、Si3N4、TiN、BN、ZrN、SiNbN、およびSiTaN等の窒化物、ZnS、In2S3およびTaS4等の硫化物、SiC、TaC、B4C、WC、TiCおよびZrC等の炭化物、ダイヤモンド状カーボン、ならびにこれらの材料から選択される2またはそれ以上の材料を混合したもの(例えば、ZnS−SiO2)で形成される。保護層3は、蒸着、スパッタ、イオンプレーティングまたはプラズマCVD等によって形成できる。いずれの材料を用いて保護層3を形成する場合も、保護層3は厚さ2〜500nmの薄膜とすることが好ましい。
【0079】
本発明のテープ状光記録媒体においては、保護層3は、SiOx(xは0.1〜2)を50モル%以上含む材料から成ることが好ましい。そのような材料から成る保護層は、その表面に、上述の一般式(a)で示される化合物を含む潤滑剤が、均一に配向された潤滑剤層を形成するのに適している。ここで、xは0.1〜2の範囲内にある数であり、整数でない場合もある。xが整数でない場合としては、例えば、SiOとSiO2とがともに保護層3内に存在する場合、ならびに保護層3にSiと結合していない酸素が存在する場合等が挙げられる。
【0080】
バックコート層4は、テープ状光記録媒体10の裏面側の走行性を向上させるために設けられる。バックコート層4は、例えば、カーボン粒子、バリウムフェライトおよび酸化チタン、ならびにそれらのバインダーとしてポリウレタン樹脂を含む。カーボン粒子はバックコート層に強度を付与し、バリウムフェライトはバックコート層のヤング率を調節し、ポリウレタン樹脂はカーボン粒子およびバリウムフェライトを結合するバインダーとしての役割を果たす。カーボン粒子に代えて、あるいはカーボン粒子とともに、金属粒子、金属酸化物粒子および金属窒化物粒子から選択される1または複数種の粒子を用いてよい。また、ポリウレタン樹脂に代えて、あるいはポリウレタン樹脂とともに、ポリエステル樹脂、またはニトロセルロース樹脂を用いてよい。このようなバックコート層4は、カーボン粒子、バリウムフェライトおよびポリウレタン樹脂を、適当な溶媒(例えば、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒)に溶解しおよび/または分散させた塗布液を、高分子支持体1の記録層2を形成した面とは反対側の面に塗布した後、乾燥して溶媒を蒸発させることにより形成できる。バックコート層の厚さは好ましくは0.2〜2.0μmである。
【0081】
以上のようにして、テープ状光記録媒体10が製造される。上記において説明した高分子支持体、記録層、保護層およびバックコート層は、例示的なものである。それらは上記において例示した材料以外の任意の適切な材料を用いて、適切な方法により形成してよい。また、テープ状光記録媒体の構成は、図示した形態のものに限定されず、常套的に採用されている任意の構成としてよい。
【0082】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0083】
(実施例1)
図1に示す態様の光記録媒体を以下の手順で作成した。まず、高分子支持体1として、厚さ8.0μm、幅150mm、長さ2000mのポリエチレンテレフタレートフィルムを用意した。この高分子支持体1の一方の面に、GeSbTeから成る厚さ50nmの相変化型の記録層2をスパッタ法により形成した。さらに、この記録層2の上に、ZnS−SiO2(SiO2の混合割合50モル%)から成る厚さ70nmの保護層3をスパッタ法により形成した。
【0084】
この保護層3の上に潤滑剤層5を次の手順により形成した。まず、下記化学式(a1)で示される化合物から成る潤滑剤を、イソプロピルアルコールとトルエンとを1:1(重量比)の割合で混合した混合有機溶媒に、その濃度が2000ppmとなるように溶解して塗布液を調製した。この塗布液を保護層3の表面にリバースコータを用いて湿式塗布法により約80μmの厚さになるように塗布した後、乾燥させた。最終的に保護層3の上には、1m2あたり5mgの潤滑剤が含まれる厚さ5nmの潤滑剤層5が形成された。
【0085】
さらに、高分子支持体1の他方の面に、約1.0μmの厚さのバックコート層4を湿式塗布法により形成した。塗布液として、溶媒としてのトルエンとメチルエチルケトンをそれぞれ500重量部、バインダーとしてのポリウレタンを100重量部、カーボン粒子を20重量部、および硫酸バリウムを60重量部混合したものを用いた。以上のようにして作成した試料を1/2インチ幅にスリットしてテープ状の光記録媒体を得た。
【0086】
【化16】
【0087】
(実施例2〜8)
上記化学式(a1)で示される化合物と下記化学式(b1)で示される化合物とを重量比で1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例2)、化学式(a1)で示される化合物と下記化学式(c1)で示される化合物とを重量比で1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例3)、化学式(a1)で示される化合物と下記化学式(d1)で示される化合物とを重量比で1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例4)、化学式(a1)で示される化合物と化学式(b1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物とを重量比で1:1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例5)、化学式(a1)で示される化合物と化学式(b1)で示される化合物と化学式(d1)で示される化合物とを重量比で1:1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例6)、化学式(a1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物と化学式(d1)で示される化合物とを重量比で1:1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例7)、化学式(a1)で示される化合物と化学式(b1)で示される化合物と化学式(c1)で示される化合物と化学式(d1)で示される化合物とを1:1:1:1の割合で混合して調製した潤滑剤(実施例8)をそれぞれ使用したこと以外は、実施例1と同様にして、テープ状の光記録媒体を作製した。
【0088】
【化17】
【化18】
【化19】
【0089】
(実施例9〜16の作製)
化学式(a1)で示される化合物に代えて、下記化学式(a2)で示される化合物を用いたこと以外は、それぞれ実施例1〜8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【化20】
【0090】
(実施例17〜20の作製)
化学式(b1)で示される化合物に代えて、下記化学式(b2)で示される化合物を用いたこと以外は、それぞれ実施例2、5、6および8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【化21】
【0091】
(実施例21〜24の作製)
化学式(c1)で示される化合物に代えて、下記化学式(c2)で示される化合物を用いたこと以外は、それぞれ実施例3、5、7および8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【化22】
【0092】
(実施例25〜28の作製)
化学式(d1)で示される化合物に代えて、下記化学式(d2)で示される化合物を用いたこと以外は、それぞれ実施例4、6、7および8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【化23】
【0093】
(実施例29−36の作製)
保護層3を、ZnS−SiO2に代えて、SiOを用いて、スパッタリングにより形成したことを除いては、それぞれ実施例1〜8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。
【0094】
(実施例37〜44の作製)
潤滑剤層の形成方法として、湿式塗布法に代えて有機真空蒸着法を採用したこと以外は、実施例1〜8と同様にして、テープ状光記録媒体を得た。真空蒸着は1Paの真空槽内にて、化合物を100℃に加熱して蒸発させるとともに、高分子支持体を5m/分の速度にて走行させながら実施した。また、2種類以上の化合物から成る潤滑剤層は、化合物ごとにるつぼを用意し、各るつぼを同時に加熱して各化合物を蒸発させることにより形成した。
【0095】
(比較例1の作製)
保護層の上に潤滑剤層を形成しなかったことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状光記録媒体を作製した。
【0096】
(比較例2の作製)
市販のフッ素系潤滑剤であるFomblin AM2001(商品名;Ausimont社製)を潤滑剤として使用し、これで潤滑剤層を形成したことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状光記録媒体を作製した。
【0097】
(比較例3の作製)
市販の脂肪族カルボン酸潤滑剤であるステアリン酸(商品名;和光純薬工業社製)を潤滑剤として使用し、これで潤滑剤層を形成したことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状の光記録媒体を作製した。
【0098】
(比較例4の作製)
潤滑剤を溶解する有機溶媒として、イソプロピルアルコールのみを用いたことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状光記録媒体を作製した。
【0099】
(比較例5の作製)
潤滑剤を溶解する有機溶媒として、トルエンのみを用いたことを除いては、実施例1と同様にしてテープ状光記録媒体を作製した。
【0100】
実施例1〜実施例44及び比較例1〜比較例5で得られた1/2インチ幅のテープ状の試料について、それぞれ評価試験(a),(b)及び(c)を行った。得られた結果を表1および表2に示す。
【0101】
(a)塗布状態の観察
潤滑剤層表面において潤滑剤の塗布状態を観察した。各試料を所定の大きさ(10×10mm)に裁断し、TOF−SIMSによるCF2フラグメントのマッピング分析により、表面イメージ像から塗布状態を観察し、潤滑剤層の均一性を評価した。
【0102】
(b)透過率の測定
潤滑剤層の透過率を分光光度計(UV−3100PC)により調べた。表1に波長850nmの光に対する透過率を示す。なお、波長が300〜850nmの範囲内にあるいずれの光についても同様の透過特性を示すことを確認した。
【0103】
(c)走行性試験
潤滑剤層側表面の動摩擦係数μkを測定した。各試料を、摩擦部材(ステンレス製(SUS420J2、表面粗さ0.2S)、外径6mm)への巻き付け角90°で巻き付け、テンション0.2Nの条件で、試料を18mm/秒の速度で巻き出し、同じ速度で巻き取って、往復走行させた。100パス目の巻き取り側の張力を測定し、巻き出し側のテンションとの比からオイラーの式より計算して求めた。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表1から明らかなように、比較例1〜5との比較において、実施例1〜44の試料の潤滑剤層の塗布状態は均一であり、潤滑剤層の透過率も高く、且つ動摩擦係数μkはいずれも0.25以下であって摺動走行性も良好であった。特に、真空蒸着により潤滑剤層を形成した実施例37〜44の試料は、高い光透過性を示した。このことは、真空蒸着によれば、分子がより均一に配向された膜を形成することができることを示している。
【0107】
【発明の効果】
本発明の光記録媒体は、高分子支持体の一方の面に形成された記録層、保護層および潤滑剤層を有するテープ状光記録媒体であって、潤滑剤層が特定の含フッ素化合物を含むことを特徴とする。この特徴により、本発明のテープ状光記録媒体は、光を潤滑剤層を通過させて記録層に照射して情報を記録、再生および/または消去するのに支障を来すことなく、優れた摺動走行性を示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光記録媒体の一形態を模式的に示す断面図である。
【図2】従来の光記録媒体の一形態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1、11...高分子支持体
2、12...記録層
3、13...保護層
4、14...バックコート層
5...潤滑剤層
10、110...テープ状光記録媒体
Claims (10)
- 潤滑剤層が、波長850nm以下のレーザ光に対して80%以上の透過率を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のテープ状光記録媒体。
- 潤滑剤層が、分子が均一に配向された膜である請求項1〜4のいずれか1項に記載のテープ状光記録媒体。
- 保護層が、SiOx(xは0.1〜2.0)を50モル%以上含む材料から成る請求項1〜6のいずれか1項に記載のテープ状光記録媒体。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載のテープ状光記録媒体を製造する方法であって、保護層の上に潤滑剤層を形成する工程が、炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合有機溶媒に潤滑剤を溶解して調製した塗布液を、保護層上に塗布することを含む、テープ状光記録媒体の製造方法。
- 炭化水素系溶媒とアルコール系溶媒との混合割合が重量比で1:9〜9:1の範囲にある請求項8に記載のテープ状光記録媒体の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載のテープ状光記録媒体を製造する方法であって、保護層の上に潤滑剤層を形成する工程が、真空蒸着法により潤滑剤を成膜することを含む、テープ状光記録媒体の製造方法。
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WO2006043625A1 (ja) * | 2004-10-20 | 2006-04-27 | Fujifilm Corporation | 光記録媒体 |
CN111423739A (zh) * | 2020-03-14 | 2020-07-17 | 华中科技大学 | 一种可拉伸的柔性相变复合材料及其制备方法与应用 |
-
2003
- 2003-02-03 JP JP2003025805A patent/JP2004241007A/ja active Pending
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