JP2004230770A - インクジェットヘッド - Google Patents
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Abstract
【解決手段】インクジェットヘッド10は、発熱抵抗体20aを有し、この発熱抵抗体20aを通電することにより、発熱抵抗体近傍のインクの一部を沸騰して気泡を発生させる発熱ヒータ20と、発生した気泡の膨張によりインクを液滴として吐出する吐出ノズル12とを備え、発熱ヒータ20は、発熱抵抗体20aと気泡の発生するインクとの間に積層された保護膜を持たず、かつ、発熱抵抗体20aの厚さが2〜5(μm)である。また、発熱抵抗体20aの厚さに対する体積抵抗率の比が100〜4×104 (Ω)である。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、発熱ヒータを通電することによって沸騰したインクに発生する気泡の膨張力によってインクを液滴として吐出させる、サーマルインクジェット方式のインクジェットヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
今日、発熱ヒータを通電することによってインクを沸騰させて発生する気泡の膨張力によってインクを液滴として吐出させるサーマルインクジェット方式のプリンタが広く用いられている。
この方式のプリンタに用いられるインクジェットヘッドのヘッド構成では、発熱ヒータを極めて短時間に通電してインクを加熱すればよいので、ヘッド構成が比較的簡単で済み、しかも印刷自体も正確に行うことができる他、さらに、発熱ヒータを基板上に大規模高密度に配置することもできるので、一般家庭用プリンタのみならず、捺染やオンデマンド印刷のような連続的にプリントする業務用プリンタとして用いられることも求められている。
【0003】
ところで、サーマルインクジェット方式のインクジェットヘッドでは、インクを吐出させるために発生した気泡が消滅する場合のキャビテーションにより発熱ヒータが損傷を受ける場合が多いため、耐キャビテーション用保護膜を発熱ヒータの発熱抵抗体の上に積層して発熱抵抗体を保護することが一般的に行われている。しかし、この保護膜は、発熱抵抗体とインクとの間に位置する積層膜であるため、発熱ヒータの熱がインクに瞬時に伝達されることが好ましいにもかかわらず、インクの加熱速度が鈍くなるといった不都合がある。
これに対して、下記特許文献1では、発熱抵抗体と気泡の発生するインクとの間に保護膜を積層することを必要とせず、発熱抵抗体に積層した保護膜を持たない発熱ヒータが提案されている。
【0004】
特許文献1によると、所定範囲の組成比率から成る膜厚が0.1μm(1000Å)のTa−Si−O三元合金薄膜抵抗体を発熱ヒータの発熱抵抗体として用いることで、電蝕がなく、108 回のパルス通電においてもキャビテーション破壊に耐え得るインクジェットヘッドを構成することができるとされている。
一方、下記特許文献2には、Ta−Si−Oからなる約7000Åの2層構造の膜を形成し、上部層に100Å以上500Å以下の自己酸化保護層を形成したサーマルインクジェットヘッドが記載されている。これにより、キャビテーション損傷と電蝕に強く、耐性の強いヘッドができるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−174848号公報
【特許文献2】特開2000−168088号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、今日サーマルインクジェット方式のプリンタは、上述したように、一般家庭用プリンタとしてのみならず、捺染やオンデマンド印刷のような連続的にプリントする寿命の長い耐久性に優れた業務用プリンタとして用いられることも求められている。一般家庭用プリンタとして用いる場合、インクジェットヘッドの発熱ヒータが故障して使用できなくなるまでに、少なくとも108 回のパルス通電が寿命として補償されることが必要とされてきた。しかし、一般家庭用プリンタに比べて耐久性の向上が必要とされる業務用プリンタでは、寿命が一般家庭用プリンタに比べて格段に向上した、例えば1010回のパルス通電に耐え得るインクジェットヘッドが望まれている。
【0007】
しかし、上記特許文献1の発熱ヒータは、パルス通電による寿命はせいぜい108 回程度であり、1010回を越えるものではない。このため、上記特許文献1では、1010回のパルス通電に耐え得るインクジェットヘッドが得られないといった問題があった。上記特許文献2においても、同様に、パルス通電による寿命が1010回を越えるものではない。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、発熱抵抗体の上に積層された保護層を持たず、一般家庭用プリンタに比べて寿命が格段に延びた、例えば1010回のパルス通電に耐え得るインクジェットヘッドを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、発熱抵抗体を有し、この発熱抵抗体を通電することにより、発熱抵抗体近傍のインクの一部を沸騰して気泡を発生させる発熱ヒータと、発生した気泡の膨張によりインクを液滴として吐出する吐出ノズルと、を備えるインクジェットヘッドであって、前記発熱ヒータは、前記発熱抵抗体と気泡の発生するインクとの間に積層された保護膜を持たず、かつ、前記発熱抵抗体の厚さが2〜5(μm)であることを特徴とするインクジェットヘッドを提供する。
【0010】
ここで、前記発熱抵抗体の前記厚さに対する前記発熱抵抗体の体積抵抗率の比が100〜4×104 (Ω)であるのが好ましい。
また、前記発熱抵抗体は、Ta−Si−O3元合金、Cr−Si−O3元合金、あるいは、Ta,Cr,SiおよびOからなる合金材料で構成されたものであるのが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のインクジェットヘッドについて、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0012】
図1(a)は本発明のインクジェットヘッドの一例であるインクジェットヘッド(以降、ヘッドという)10の概略斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示すヘッド10のA−A’線に沿った矢視断面図である。
ヘッド10は、一方向に一定間隔で複数の円形状の吐出口11を有する吐出ノズル12が複数形成され、この吐出口11からインクを液滴として吐出する装置である。吐出口11のそれぞれに対して、吐出口11からインク液滴を吐出させるための吐出ユニットが形成されている。
【0013】
ヘッド10は、図1(a)に示すように、Siあるいはガラス等からなるヘッド基板14と隔壁層16とノズルプレート18とが積層されたヘッドであり、ヘッド基板14に対して略垂直方向にインク液滴を吐出させるトップシュータ型のヘッド構造を有する。
図1(b)に示すように、ヘッド基板14の面上には、インクに熱エネルギを与えて部分的に沸騰させ気泡を発生させる発熱ヒータ20が形成され、このヘッド基板14の上に隔壁層16が積層され、この隔壁層16の上にノズルプレート18が積層されて構成される。
隔壁層16とノズルプレート18とは、ノズルプレート18側に熱硬化型接着剤が塗布されて形成された接着層22によって接着されている。
【0014】
隔壁層16は、感光性ポリイミドをヘッド基板14に塗布した後所望のインク供給流路24が形成されるようにフォトドライエッチングにてパターニングして設けられたもので、厚さが例えば10μmである。隔壁層16とヘッド基板14とノズルプレート18とがインク供給流路24の壁面となっており、また、ヘッド基板14に形成された発熱ヒータ20もインク供給流路24の壁面の一部分となっている。インク供給流路24は図示されないインク貯蔵タンクに連通し、インク供給流路24を介して常時発熱ヒータ20に向けてインクが供給されるようになっている。
隔壁層16とノズルプレート18とを接着する接着層22は、熱硬化型接着剤が用いられる他、紫外線硬化型接着剤や熱可塑性接着剤が用いられてもよい。
【0015】
ノズルプレート18は、アラミド等を材料とする厚さが例えば10μmのものであり、このノズルプレート18には、インク供給流路24を挟んで発熱ヒータ20と対向する位置に吐出口11をインク吐出側先端に備える円筒状の吐出ノズル12が設けられている。
なお、ノズルプレート18は、アラミドの他、PEN(ポリエーテルニトリル)やポリイミド等のポリマフイルムを用いてもよい。
【0016】
ヘッド基板14に形成される発熱ヒータ20は、例えば、最下層にTa2 O5 やSiO2 等からなる図示されない断熱層が設けられ、この上に、組成がTa−Si−Oからなる発熱抵抗体20aが設けられ、さらに、この上に発熱抵抗体20aに電圧を印加するNiからなる配線電極20b,20cが設けられ、発熱抵抗体20aに電圧を印加することで発熱し発熱抵抗体20a近傍に位置するインク供給流路24中のインクの一部を加熱する発熱ヒータ20が形成されている。なお、発熱抵抗体20aは、例えば20μm×20μm等の正方形形状を成し、表面には、厚さが例えば0.1μm以下の発熱抵抗体20aの自己酸化被膜が形成され、発熱抵抗体20aの厚さが2〜3μmとなっている。
【0017】
図2は、発熱ヒータ20を詳細に説明した拡大断面図である。
発熱ヒータ20は、配線電極20b,20cと発熱抵抗体20aとを有して構成され、配線電極20cは、図1(b)に示される駆動回路28に接続され、発熱ヒータ20の発熱のための駆動信号が供給される。一方、配線電極20cは、配線電極20cと同様の各吐出ユニットの配線電極とまとめられて共通電極となって接地されている。
ヘッド基板14には、最下層にTa2 O5 やSiO2 等からなる図示されない断熱層が設けられ、この上に、組成がTa−Si−Oからなる発熱抵抗体層30が形成される。
【0018】
発熱抵抗体層30は、例えば、TaおよびSiからなる酸化物の含まれないHIP法焼結ターゲットを用いてRFマグネトロンスパッタにより成膜されたものである。
なお、成膜直前の真空チャンバ内のベース圧を10−5(Pa)とした後、ArとO2 とからなるガス雰囲気(Arに対するO2 の原子%の比が0.1〜0.2)のガス圧を0.6(Pa)とし、RFマグネトロンスパッタにより、投入エネルギを15〜50(kW/m2 )として、ヘッド基板14を加熱、冷却することなく成膜する。
この後、高磁場中での高速スパッタ法で電極層を形成し、この電極層をフォトエッチングで配線電極20b,20cの形状に加工して、発熱抵抗体20aが表面に露出した発熱ヒータ20が作られる。
【0019】
なお、発熱抵抗体20aの最表面には、Ta−Si−Oの3元合金の自己酸化被膜が形成されている。この自己酸化被膜は耐キャビテーション性に優れた被膜であり、電蝕を防止することができる。発熱抵抗体20aは、この自己酸化被膜を含めた厚さが2〜5μmであることを特徴とし、これにより、後述するように1010回のパルス通電に耐え得ることができる。
【0020】
なお、発熱抵抗体20aの厚さは2〜5μmであり厚膜となっているので、抵抗値自体が低下する傾向にある。それ故、発熱抵抗体20aの厚さに対する発熱抵抗体20aの体積抵抗率の比率を100(Ω)より小さくすると、インクを加熱して気泡を発生させる程度の熱エネルギーを投入するために多大の電流を流す必要が生じ、この多大の電流を流すことができるように配線電極20b,20cの幅や厚さ等のサイズを限定したり駆動回路28の構成を定めなければならず、コストが増大し実用的なインクジェットヘッドを提供することができない。一方、発熱抵抗体20aの厚さに対する発熱抵抗体20aの体積抵抗率の比率を4×104 (Ω)より大きくすると、発熱抵抗体20aの抵抗値自体が高くなるため、駆動電圧が高くなり駆動回路28のコストが増大し、実用的なインクジェットヘッドを提供することはできない。
これより、発熱抵抗体20aの厚さに対する発熱抵抗体20aの体積抵抗率の比率は100〜4×104 (Ω)であるのが好ましい。なお、体積抵抗率に電流の流れる発熱抵抗体20aの距離を乗算し、発熱抵抗体20aの電流の流れる断面積で除算することで発熱抵抗体の抵抗値が得られる。
これにより、例えば20μm×20μm等の正方形形状の発熱抵抗体20aの抵抗値を、上限として4×104 (Ω)とすることができ、インクの吐出に必要な電力を1Wとすると、駆動電圧を実用範囲の上限である200(V)に設定することができる。
【0021】
【実施例】
このような発熱ヒータのヒータサイズを20μm□、隔壁層16の隔壁高さを10μmとし、ノズルプレート18の厚さを10μmとし、吐出口11の径を15μmとしたトップシュータ型のヘッドを、発熱抵抗体の厚さを0.75〜5μmの範囲で種々変えて作製し(実施例1,2と比較例1,2)、各ヘッドの寿命を調べた。なお、発熱抵抗体の厚さを5μmを越すものは、安定して作製することができなかった。
【0022】
なお、発熱抵抗体層をRFマグネトロンスパッタにより成膜する際のスパッタに用いるパワーを1(kW)とし、Arに対するO2 の原子%の比を0.2とした雰囲気中で、TaおよびSiからなる酸化物の含まれないHIP法焼結ターゲットを用いてスパッタを行った。発熱抵抗体は、予めRFマグネトロンスパッタによる発熱抵抗体の積層レートを求めておき、この積層レートを基にスパッタ時間を制御することによって、所望の厚さのものを作製した。
発熱抵抗体の抵抗値を直接測定し、さらに、吐出したインク液滴の吐出速度を測定して吐出速度が10%減少した時のパルス通電回数の時点を寿命と定めて寿命を測定した。
下記表1には、発熱抵抗体の厚さと抵抗値および寿命の測定結果が示されている。
【0023】
【表1】
【0024】
上記表1より、発熱抵抗体の厚さが2〜5(μm)の場合、パルス通電回数の寿命が1010を越え、厚さが(2μm)より小さい場合、寿命が1010回を下回っている。
【0025】
これは、キャビーテーションにより発熱抵抗体の表層に形成されている自己酸化被膜が一部損傷し、内部の発熱抵抗体が一部露出したとしても、インク吐出のための発熱により電蝕を防止する程度の自己酸化被膜が短時間で新たに形成されて依然としてインク液滴を吐出させる発熱抵抗体としての機能を有するものと考えられる。このため、パルス通電による発熱抵抗体は、キャビテーションにより発熱抵抗体の深さ方向にある程度削り取られ、気泡の発生のための発熱作用を部分的に起こさなくなって発生する気泡のサイズが実質的に減少した場合、初めて寿命を迎えるものといえる。したがって、本発明では、パルス通電の寿命を1010回以上とするために、発熱抵抗体の厚さは2μm以上であることが必要である。
一方、発熱抵抗体の厚さが5(μm)を越えると、発熱抵抗体の内部応力が大きくなり、発熱抵抗体がヘッド基板から自ら剥離したり割れが発生し、安定して発熱抵抗体を得ることができない。たとえ、厚さが5(μm)を越える発熱抵抗体を得ることができたとしても、発熱抵抗体の厚さが厚くなることにより抵抗値が低下し、このため、上述したように印加する電圧および電流を考慮して配線電極のサイズおよび駆動回路の構成を設定しなければならず、コストが増大し実用的インクジェットヘッドを提供できなくなる。
【0026】
なお、上記実施形態の発熱抵抗体は、Ta−Si−O3元合金を用いたものであるが、本発明においては、これに限定されず、耐電蝕性、耐キャビテーション性に優れた合金材料であればよい。例えば、Cr−Si−O3元合金を発熱抵抗体に用いてもよい。例えば、CrおよびSiからなる酸化物の含まれないHIP法焼結ターゲットを用いてRFマグネトロンスパッタにより成膜される。
さらには、Ta,Cr,SiおよびOからなる合金材料で構成された発熱抵抗体であってもよい。
【0027】
以上、本発明のインクジェットヘッドについて詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。例えば、発熱ヒータの形成されたヘッド基板に対して平行な方向にインク液滴を吐出させるサイドシュータ型のインクジェットヘッドであってもよい。
【0028】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明のインクジェットヘッドは、発熱抵抗体と気泡の発生するインクとの間に積層された保護膜を持たない発熱ヒータであって、発熱抵抗体の厚さを2〜5(μm)とするので、一般家庭用プリンタに比べて寿命が格段に延びた、例えば1010回のパルス通電に耐え得るインクジェットヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、本発明のインクジェットヘッドの一例であるヘッドの概略斜視図であり、(b)は(a)に示すヘッドのA−A’矢視断面図である。
【図2】図1(b)に示す発熱ヒータの拡大断面図である。
【符号の説明】
10 インクジェットヘッド
11 吐出口
12 吐出ノズル
14 ヘッド基板
16 隔壁層
18 ノズルプレート
20 発熱ヒータ
20a 発熱抵抗体
20b,20c 配線電極
22 接着層
24 インク供給流路
28 駆動回路
30 発熱抵抗体層
Claims (3)
- 発熱抵抗体を有し、この発熱抵抗体を通電することにより、発熱抵抗体近傍のインクの一部を沸騰して気泡を発生させる発熱ヒータと、発生した気泡の膨張によりインクを液滴として吐出する吐出ノズルと、を備えるインクジェットヘッドであって、
前記発熱ヒータは、前記発熱抵抗体と気泡の発生するインクとの間に積層された保護膜を持たず、かつ、前記発熱抵抗体の厚さが2〜5(μm)であることを特徴とするインクジェットヘッド。 - 前記発熱抵抗体の前記厚さに対する前記発熱抵抗体の体積抵抗率の比が100〜4×104 (Ω)である請求項1に記載のインクジェットヘッド。
- 前記発熱抵抗体は、Ta−Si−O3元合金、Cr−Si−O3元合金、あるいは、Ta,Cr,SiおよびOからなる合金材料で構成されたものである請求項1または2に記載のインクジェットヘッド。
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