JP2004224947A - 吸着処理カーボンブラックの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた分散安定性を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を吸着処理したカーボンブラックの製造方法を提供する。
【解決手段】酸性もしくは塩基性官能基を有する有機色素誘導体または酸性もしくは塩基性官能基を有するトリアジン誘導体と、カーボンブラックとを水中で、上記有機色素誘導体の有機色素骨格部分またはトリアジン誘導体のトリアジン部分を吸着部位と仮定した場合の吸着面積がカーボンブラックのBET比表面積の50%以上となる量で吸着処理することを特徴とする吸着処理カーボンブラックの製造方法である。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酸性および塩基性官能基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体で吸着処理されたカーボンブラックおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】カーボンブラックは、着色顔料、遮光材料、導電材料として、印刷インキ、塗料、プラスチック形成材料などの幅広い分野で使用されている。これらの用途への要求品質を満たすには、カーボンブラックを微分散することが一般的であるが、通常の分散方法では満足な分散体は得られない。そこで、各種の添加剤、例えば界面活性剤などの分散剤や顔料分散樹脂を用いてカーボンブラックを分散する方法が検討されてきた。しかし、分散剤、分散樹脂のカーボンブラック粒子表面への吸着が不十分な場合には、粒子同士が容易に再凝集する、また、分散剤、分散樹脂とインキ、塗料化用の樹脂との相溶性が悪い場合にはインキ、塗料の性能低下を招くといった問題があり、汎用性に欠ける。
【0003】
カーボンブラックの分散性を改善するためには、表面の極性や親油性を変えるための表面処理が種々検討されている。その一つとしてカーボンブラックの酸化処理がある。酸化処理方法としてはオゾン処理、プラズマ処理などの気相酸化法と硝酸や過酸化水素水などを用いる液相酸化法が考案されている。しかし、一般的な酸化処理条件を比較すると気相酸化より液相酸化の方が効果が高く、液相酸化では過酸化水素水より硝酸の方が表面の酸性度が大きくなることが知られている。しかしながら、気相酸化では処理効率の低さや、処理装置が高価である等の問題があり、液相処理では、強酸を使用するため作業安全性等に問題がある。特に硝酸処理によって酸化されたカーボンブラックについては変異原生の問題が指摘されている。
【0004】
以上のような種々の問題点を解決するために、有機色素を母体骨格として側鎖に酸性基や塩基性基を置換基として有する有機色素誘導体を分散剤として使用する方法が知られている。
【0005】
この有機色素誘導体の作用機構としては、極性官能基を有する有機色素誘導体と、有機色素誘導体の有する官能基と逆極性を有する樹脂が酸−塩基相互作用により塩を形成し溶媒中に溶解し、この塩が有機色素部分を吸着部位としてカーボンブラックに吸着して、樹脂層が立体反発効果を示し、カーボンブラックの分散安定化を図ると考えられている。この有機色素誘導体を用いた方法では、ほとんどの場合、インキ、塗料化用の樹脂をそのまま分散樹脂として使用できるので、分散剤に起因する相溶性の問題がなく、汎用性に優れる。しかし、非水系で樹脂と併用で使用する場合は、有機色素部分も溶媒和されるため、有機色素誘導体の溶解性が高くなり、カーボンブラックへの吸着率が劣り、分散安定化に必要な表面被覆率にするには、有機色素誘導体の処理量を増やす必要があり、結果として、未吸着の有機色素誘導体が増えることになり、この未吸着の有機色素誘導体は耐水性やブリード等に悪影響を与えると考えられる。逆に、水系では、樹脂の官能基を中和しているので、有機色素誘導体−樹脂の塩を形成しづらく、また、一般に中性付近のpHである場合が多く、吸着処理に必要な有機色素誘導体の溶解量を得ることは困難である。
【0006】
特許文献1、特許文献2、特許文献3では、顔料に対する未吸着の有機色素誘導体を取り除き、一層吸着とすることで、ブリードや混色、耐溶剤性を改善するとともに、耐水性と耐光性の両立した性能を有する顔料型インクジェット用記録液が開示されているが、未吸着の有機色素誘導体を取り除く方法として、遠心分離、限外濾過により分離を行うため、生産性が損なわれているばかりでなく、過剰の有機色素誘導体が排出されることによる環境負荷の増加と、有機色素誘導体の使用効率が低く、高価格となる欠点があった。
【0007】
【特許文献1】
特開2000−273383号公報
【0008】
【特許文献2】
特開2000−303014号公報
【0009】
【特許文献3】
特開2000−313837号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、これらの欠点がない優れた分散安定性を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を吸着処理したカーボンブラックの製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は酸性もしくは塩基性官能基を有する有機色素誘導体または酸性もしくは塩基性官能基を有するトリアジン誘導体と、カーボンブラックとを水中で、上記有機色素誘導体の有機色素骨格部分またはトリアジン誘導体のトリアジン部分を吸着部位と仮定した場合の吸着面積がカーボンブラックのBET比表面積の50%以上となる量で吸着処理することを特徴とする吸着処理カーボンブラックの製造方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】以下本発明について詳細に説明する。本発明に用いるカーボンブラックとしては、市販のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどの各種のものを用いることができる。また、通常行われている各種前処理(気相プラズマ処理、液相酸化処理等)されたカーボンブラックも使用できる。また、本発明に使用するカーボンブラックは、粉状品、粒状品いずれの形態であってもよい。
【0013】
有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の吸着性、脱着性を考えた場合、表面官能基の少ない中性カーボンの方が好ましい。また、カーボンブラックの粒径としては、通常のインキや塗料に用いるカーボンブラックの粒径範囲と同様に0.01〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.1μmが好ましい。ただし、ここでいう粒径とは電子顕微鏡などで測定された平均一次粒子径を示し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理的特性を表すのに用いられている。
【0014】
本発明に用いる、塩基性官能基を有する有機色素誘導体および、塩基性官能基を有するトリアジン誘導体は、下記一般式(1)または(3)で表される。
一般式(1)
【0015】
【化1】
Figure 2004224947
【0016】
式中の記号は下記の意味を表す。
;有機色素残基、アントラキノン残基またはアミノ基を有するアリール基
;直接結合,−CONH−Y−,−SO NH−Y− または−CH NHCOCH NH−Y −(Y;置換基を有してもよいアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
;−NH−または−O−
;水酸基、アルコキシ基または下記一般式(2)で示される基で、nは1〜4の整数を表す。またn=1の場合、−NH−X−Qであってもよい。
、R;それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基
m;1〜6の整数
一般式(2)
【0017】
【化2】
Figure 2004224947
【0018】
式中の記号は下記の意味を表す。
;−NH−または−O−
、R;それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基またはRとRとが一体となって形成されたヘテロ環。
o;1〜6の整数。
一般式(3)
−(−X−Y
式中の記号は下記の意味を表す。
;有機色素残基またはアントラキノン残基
;直接結合、−CONH−Y−,−SONH−Y−または−CHNHCOCHNH−Y−(Yは置換基を有してもよいアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
;下記一般式(4)で示される基
p;1〜4の整数。
一般式(4)
【0019】
【化3】
Figure 2004224947
【0020】
式中の記号は下記の意味を表す。
、R;それぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基。
q;1〜6の整数。
【0021】
上記一般式(1)のQ、(3)のQにおける有機色素残基としてはフタロシアニン系色素、アゾ系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、アントラピリミジン系色素、アンサンスロン系色素、インダンスロン系色素、フラバンスロン系色素、ペリレン系色素、ペリノン系色素、チオインジコ系色素、イソインドリノン系色素、トリフェニルメタン系色素等の顔料または染料が挙げられる。上記一般式(1)のQ におけるアミノ基を有するアリール基としては、例えばアミノフェニル基、アミノナフチル基などが挙げられ、この時ベンゼン環にはアミノ基に加え、他の置換可能な場所にハロゲン基、アミノ基、ニトロ基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、アルコキシ基、置換または無置換のアルキル基の何れかの置換基を有してもよい。
【0022】
本発明に用いる、酸性官能基を有する有機色素誘導体及び、酸性官能基を有するトリアジン誘導体は、下記一般式(5)、または(6)で表される。
一般式(5)
【0023】
【化4】
Figure 2004224947
【0024】
式中の記号は下記の意味を表す。
;有機色素残基、またはアントラキノン残基、または置換基を有していてもよい複素環、または置換基を有していてもよい芳香族環
;−O−R、−NH−R、ハロゲン基、−X−R、−X−Y−Z(Rは水素原子または置換基を有していてもよいアルキル基、アルケニル基を表す。)
;−NH−、−O−、−CONH−、−SONH−、−CHNH−、−CHNHCOCHNH−または−X−Y−X−(X及びXはそれぞれ独立に−NH−または−O−を表す。)
;−CONH−、−SONH−、−CHNH−、−NHCO−または−NHSO
;炭素数1〜20で構成された、置換基を有してもよいアルキレン基、あるいは置換基を有してもよいアルケニレン基、あるいは置換基を有してもよいアリーレン基
;−SOM、−COOM(Mは1〜3価のカチオンの1当量を表す。)
上記一般式(5)のQにおける有機色素残基としてはフタロシアニン系色素、アゾ系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、アントラピリミジン系色素、アンサンスロン系色素、インダンスロン系色素、フラバンスロン系色素、ペリレン系色素、ペリノン系色素、チオインジコ系色素、イソインドリノン系色素、トリフェニルメタン系色素等の顔料または染料が挙げられる
上記一般式(5)のQにおける複素環または芳香族環としては例えば、チオフェン、フラン、ピリジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ベンズチアゾール、ベンズトリアゾール、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン等が挙げられる。
一般式(6)
−(−X−Z
式中の記号は下記の意味を表す。
;有機色素残基またはアントラキノン残基
;直接結合、−NH−、−O−、−CONH−、−SONH−、−CHNH−、−CHNHCOCHNH−または−X−Y−X−(X及びXはそれぞれ独立に−NH−または−O−を表し、Yは置換基を有していてもよいアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
;−SOM、−COOM(Mは1〜3価のカチオンの1当量を表す。)
r;1〜4の整数
上記一般式(6)のQにおける有機色素残基としてはフタロシアニン系色素、アゾ系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、アントラピリミジン系色素、アンサンスロン系色素、インダンスロン系色素、フラバンスロン系色素、ペリレン系色素、ペリノン系色素、チオインジコ系色素、イソインドリノン系色素、トリフェニルメタン系色素等の顔料または染料が挙げられる
吸着処理に使用する分散機としては、特に限定されるものではないが、例えば、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノーミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル、バスケットミル、ホモミキサー、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」等)、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)等を用いることができる。コスト、処理能力等を考えた場合、メディア型分散機を使用するのが好ましい。また、メディアとしてはガラスビーズ、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、磁性ビーズ、ステンレスビーズ等を用いることができる。
【0025】
吸着処理は、酸性基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を処理する場合は、水、あるいはpH7〜11程度の塩基性水溶液に溶解させる。好ましくはpH8〜10である。その誘導体水溶液中にカーボンブラックを添加して、混合、分散することで吸着処理が進行するものである。
酸性基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を溶解させる為に添加する塩基としては、アルカリ金属等の金属水酸化物類、弱酸と強塩基の反応によって得られる塩類、アンモニア、アミン基含有有機化合物等、水に溶解して塩基性を示す化合物を用いることが出来る。アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アミン基含有有機化合物が好ましい。
【0026】
酸性基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を溶解させる為に添加する塩基量としては、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体に含まれる酸性官能基量に対して0.1〜10当量添加することが出来る。より好ましくは0.5〜5当量であり、1〜2当量が特に好ましい。
【0027】
塩基性を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の場合、水、あるいはpH3〜7程度の酸性水溶液に溶解させる。好ましくはpH3〜5である。その誘導体水溶液中にカーボンブラックを添加して混合、分散することで吸着処理が進行するものである。
【0028】
塩基性官能基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を溶解させるための酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、強酸と弱塩基の反応によって得られる塩類の無機化合物、カルボン酸類、スルホン酸類の有機酸等、水に溶解して酸性を示す化合物を用いることが出来る。有機酸類が好ましく、カルボン酸類が特に好ましい。
【0029】
塩基性基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を溶解させる為に添加する酸量としては、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体に含まれる塩基性官能基量に対して0.1〜10当量添加することが出来る。0.5〜5当量が好ましく、1〜2当量が特に好ましい。
【0030】
酸性および塩基性官能基を有する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体水溶液の濃度は、1〜100mmol/Lであり、1〜50mmol/Lが好ましい。さらに好ましくは5〜20mmol/Lである。
【0031】
カーボンブラックの水分散体のスラリー濃度は、カーボンブラックの表面官能基量等のカーボンブラック固有の特性値や、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を溶解させるために添加する酸量、塩基量によって適正濃度が変動するため、特に限定されるものではないが、5〜15%が好ましい。
【0032】
分散安定化を図るには、カーボンブラック表面をより多くの有機色素誘導体またはトリアジン誘導体で被覆し、樹脂との親和性を上げることが必要である。具体的には、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体部分を吸着部位と考えた場合、カーボンブラックのBET比表面積の50%以上となる量を吸着させる必要がある。例えば、フタロシアニン誘導体を使用した場合では、フタロシアニン残基の1分子あたりの分子占有面積は106Åとして計算を行い、以下、同様の計算方法によって、ベンズイミダゾロン残基の1分子あたりの分子占有面積は111Å、トリアジン残基とアリール基1分子あたりの分子占有面積は55Åとして計算を行った。
【0033】
カーボンブラックに対する有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の飽和吸着量は、カーボンブラックのBET吸着比表面積と、計算から求められる、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の1分子あたりの分子占有面積から計算される値であり、各誘導体はカーボンブラック表面に対して、単層吸着するものと考える。
【0034】
本発明は、計算によって導かれた飽和吸着量に対して、50%以上に相当する量の有機色素誘導体またはトリアジン誘導体をカーボンブラックに処理するものである。
また、本発明によって得られるカーボンブラックは、実測吸着量が、上記飽和吸着量に対して50%以上の有機色素誘導体またはトリアジン誘導体が吸着していることを特徴とする。
【0035】
実測吸着量とは、吸着処理後のスラリーを遠心分離によって、吸着処理されたカーボンブラックを沈降させて上澄みの吸光度を測定することによって得られる値である。吸光度の測定には、汎用の分光光度計が使用できる(例えば日本分光製V570−DS)。
【0036】
分散機によって吸着処理したカーボンブラックは、同時に、その性能を発揮させるために、分散粒径として0.5μm以下、好ましくは0.2μm以下に微細化するのが望ましい。ここでいう分散粒径とは、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(例えば日機装社製「マイクロトラックUPA」)で測定される平均粒子径(D50値)である。
【0037】
未吸着の有機色素誘導体またはトリアジン誘導体−樹脂塩は、溶解状態のため、塗膜にした後も、耐水性、ブリード等への悪影響が懸念される。インクジェット、自動車塗料等のような耐水性、ブリードへの要求が高い用途に使用する場合は、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の濃度と、カーボンブラックの量を調整し、仕込み有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の90%以上が吸着するような条件とし、未吸着の有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の量をカーボンブラック1g当たり0.005g以下とするのが望ましい。この方法によれば、遠心分離、限外濾過等の操作により未吸着の有機色素誘導体またはトリアジン誘導体を除去する必要がなくなり、低コストで耐水性、ブリード等の問題がない処理カーボンブラックを得ることができる。
【0038】
酸性もしくは塩基性官能基を有する、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体と逆極性の官能基を持つ樹脂とは、アミノ基を含む樹脂、あるいは酸性官能基を含む樹脂である。アミノ基を含む樹脂としては、アミン変性樹脂、あるいは高分子分散剤から選ばれる少なくとも1種であり、アミン変性樹脂としては、アミン変性ポリビニル樹脂、アミン変性アクリル樹脂、アミン変性ポリエステル樹脂およびアミン変性ポリウレタン樹脂等である。酸性官能基とは、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等であり、それら酸性官能基を含む樹脂としては、これら酸性官能基から選ばれる1種で、ポリビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂等を変性させたもの、あるいは高分子分散剤から選ばれる少なくとも1種である。これら有機色素誘導体またはトリアジン誘導体色素と逆極性を持つ樹脂が、カーボンブラックに吸着した有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の官能基とがイオン結合した構造で、カーボンブラックの表面が樹脂で被覆されることにより、カーボンブラックの分散性が向上すると考えられ、樹脂の添加量としては、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の官能基を中和する量の1〜5倍が好ましく、1.1〜2倍が特に好ましい。
【0039】
本発明によって得られる吸着処理カーボンブラックは溶剤系または水系のワニスによって分散することにより、インキ、塗料等用のカーボンブラック分散体とすることができる。ワニスに含有される樹脂の例としては、石油樹脂、カゼイン、セラック、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート、環化ゴム、塩化ゴム、酸化ゴム、塩酸ゴム、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ビニル樹脂、塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、乾性油、合成乾性油、スチレン変性マレイン酸、ポリアミド樹脂、塩素化ポリプロピレン、ブチラール樹脂、塩化ビニリデン樹脂等が使用できる。吸着処理された有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の酸性および塩基性官能基と逆極性をもつことが好ましい。
【0040】
この吸着処理カーボンブラックは、水を除去して使用しても良いし、水系で使用する場合は、この組成物にインキ、塗料用の樹脂を混合しても使用できる。また、油系で使用する場合は、この吸着処理カーボンブラック組成物に、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の有する官能基と逆極性の官能基を有する樹脂を含むワニスを加熱しながら添加、混合し、インキ、塗料系の使用溶剤を添加し、水を取り除いた方が微細な分散体を得ることができる。
【0041】
水を除去し、粉体として使用する場合には、吸着処理後の水分散液に、処理した有機色素誘導体またはトリアジン誘導体が有する官能基と逆極性の酸性または塩基性水溶液で中和して不溶化した後、濾過するのが好ましい。中和剤としての酸は、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、強酸と弱塩基の反応によって得られる塩類の無機化合物、カルボン酸類、スルホン酸類の有機酸等、水に溶解して酸性を示す化合物を用いることが出来る。有機酸類が好ましく、カルボン酸類が特に好ましい。中和剤としての塩基は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属等の金属水酸化物類、弱酸と強塩基の反応によって得られる塩類、アンモニア、アミン基含有有機化合物、金属アルコキシド等、水に溶解して塩基性を示す化合物を用いることが出来る。アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、アミン基含有化合物およびアルカリ金属の金属アルコキシドが好ましく、アンモニアおよびアミン含有化合物が特に好ましい。
【0042】
本発明によって得られる吸着処理カーボンブラック組成物は、非水系または水系の各種インキや塗料、プラスチックなどの着色剤、トナー、電気泳動型電子ペーパー等広範囲の分野に利用することができる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に特に限定されるものではない。実施例中、部および%は、それぞれ重量部および重量%を表す。なお、実施例、比較例で得られたカーボンブラック分散体の粒径の測定および貯蔵安定性、光沢値の測定、耐水性の評価は下記の方法で行った(詳細については表1、2を参照)。
【0044】
・ 動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて平均粒子径(D50の値)を測定した。
【0045】
・ 貯蔵安定性は、水性カーボンブラック分散体を40℃で10日間保存した後の粒径および粘度の変化から保存安定性を評価した。尚、粘度の測定にはB型粘度計を使用した。
【0046】
・ アクリル樹脂とメラミン樹脂を用いて塗料を作製し、中塗り板に塗工、焼き付けを行い、20゜光沢値を測定した。
【0047】
・ (3)の塗板に上塗り用のクリヤーコートを塗工し、60℃のイオン交換水中で10日間保存し、塗面状態を観察した。
本実施例および比較例で使用した有機色素誘導体および、トリアジン誘導体の化学構造式を以下に示す。
【0048】
実施例1 Printex25(デグサ社製:BET比表面積46m/g)24g、一般式(7)で示される銅フタロシアニン誘導体1.2g、イオン交換水74.8gを225ccのガラス瓶に仕込み、混合した後、pH=9.5になるようにジメチルエタノールアミンを添加し、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェカーを用いて1時間分散を行い、本発明の吸着処理カーボンブラックの水分散体を得た。カーボンブラック濃度を1%になるまでイオン交換水で希釈し、超遠心分離機(日立工機社製:70P−72)を用いて50000rpmで1時間カーボンブラックを沈降させ、上澄みを0.5μmのメンブランフィルターを通した後、吸光度の測定を行い、上澄みのフタロシアニン誘導体の濃度を決定した。この上澄み濃度と仕込み量の差からフタロシアニン誘導体の吸着量を求めた。吸着量は0.55mg/mであり、フタロシアニンの分子占有面積を1.06×10−18とすると、表面被覆率は52%となる。希釈前の表面処理カーボンブラック水分散体10gに水溶性アクリル樹脂A(NV=35%、酸価65、OH価50、Mw=15000)91.2gとサイメル325(三井サイテック社製メラミン樹脂)17.1gとイオン交換水73.7gを添加し、ディスパーで均一になるように攪拌、混合し、水性カーボンブラック塗料を得た。
一般式(7)
【0049】
【化5】
Figure 2004224947
【0050】
実施例2 #47(三菱化学社製:BET比表面積132m/g)22.5g、一般式(8)で示されるトリアジン誘導体2.5g、イオン交換水75gを225ccのガラス瓶に仕込み、混合した後、pH=9.5になるようにジメチルエタノールアミンを添加し、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェカーを用いて1時間分散を行い、本発明の吸着処理カーボンブラックの水分散体を得た。実施例1と同様の操作で得られる吸着量は0.82mg/mであり、トリアジン部分とアリール基の占有面積を5.5×10−18とすると、表面被覆率は58%となる。希釈前の表面処理カーボンブラック水分散体10gに水溶性アクリル樹脂A(NV=35%、酸価65、OH価50、Mw=15000)91.2gとサイメル325(三井サイテック社製メラミン樹脂)17.1gとイオン交換水73.7gを添加し、ディスパーで均一になるように攪拌、混合し、水性カーボンブラック塗料を得た。
一般式(8)
【0051】
【化6】
Figure 2004224947
【0052】
実施例3 リーガル250R(キャボット社製:BET比表面積50m/g)30g、一般式(9)で示されるトリアジン誘導体2.0g、イオン交換水68gを225ccのガラス瓶に仕込み、混合した後、pH=5になるように酢酸を添加し、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーを用いて1時間分散を行い、本発明の吸着処理カーボンブラックの水分散体を得た。実施例1と同様の操作で得られた吸着量は1.01mg/mであり、トリアジン部分とアリール基の占有面積を5.5×10−19とすると、表面被覆率は86%となる。
希釈前の表面処理カーボンブラック水分散体を105℃の熱風オーブンで加熱して水を除去し、吸着処理カーボンブラックを得た。この吸着処理カーボンブラック4.0gと油溶性アクリル樹脂B(NV=50%、酸価8、OH価22、Mw=35000)12.0g、トルエン68.1gを225ccのガラス瓶に仕込み、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェカーを用いて1時間分散を行った。さらに、アクリル樹脂B38.4gとサイメル303(三井サイテック社製メラミン樹脂)10.8gを加え、さらに10分間分散を行い、塗料を得た。
一般式(9)
【0053】
【化7】
Figure 2004224947
【0054】
実施例4 モナーク800(キャボット社製:BET比表面積210m/g)25g、一般式(10)で示されるベンズイミダゾロン誘導体4.5g、イオン交換水75.5gを225ccのガラス瓶に仕込み、混合した後、pH=5になるように酢酸を添加し、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーを用いて1時間分散を行った。実施例1と同様の操作で得られた吸着量は0.84mg/mであり、ベンズイミダゾロンの分子占有面積を1.11×10−18とすると、表面被覆率は81%となる。希釈前の表面処理カーボンブラック水分散体10gに水溶性アクリル樹脂A 91.2gとサイメル325 17.1gとイオン交換水73.7gを添加し、ディスパーで均一になるように攪拌、混合し、水性カーボンブラック塗料を得た。
一般式(10)
【0055】
【化8】
Figure 2004224947
【0056】
【比較例】
表に示した通り、本発明のカーボンブラック分散体は、比較例に対して微細な分散粒径、良好な保存安定性、耐水性を示した。
【0057】
比較例1 Printex25 10g、一般式(7)で示される銅フタロシアニン誘導体0.5g、水溶性アクリル樹脂A 28.6gとイオン交換水40.9gを225ccのガラス瓶に仕込み、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーを用いて1時間分散を行った。実施例1と同様の操作で得られた表面被覆率は20%となる。希釈前のカーボンブラック水分散体10gに水溶性アクリル樹脂A 35.1gとサイメル325 7.1gとイオン交換水27.8gを添加し、ディスパーで均一になるように攪拌、混合し、水性カーボンブラック塗料を得た。
【0058】
比較例2 #47 10g、一般式(8)で示されるトリアジン誘導体0.5g、水溶性アクリル樹脂A 28.6gとイオン交換水40.9gを225ccのガラス瓶に仕込み、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーを用いて1時間分散を行った。実施例1と同様の操作で得られた表面被覆率は35%となる。希釈前のカーボンブラック水分散体10gに水溶性アクリル樹脂A 35.1gとサイメル325 7.1gとイオン交換水27.8gを添加し、ディスパーで均一になるように攪拌、混合し、水性カーボンブラック塗料を得た。
【0059】
比較例3 リーガル250R 3.7gと一般式(9)で示されるトリアジン誘導体0.3g、油溶性アクリル樹脂B12.0g、トルエン68.1gを225ccのガラス瓶に仕込み、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェカーを用いて1時間分散を行った。さらに、アクリル樹脂B38.4gとサイメル303(三井サイテック社製メラミン樹脂)10.8gを加え、さらに10分間分散を行い、塗料を得た。カーボンブラック濃度を1%に希釈するのにトルエンを使用した以外は、実施例1と同様の操作により表面被覆率を求めた結果は38%であった。
【0060】
比較例4 モナーク800 25g、一般式(10)で示されるベンズイミダゾロン誘導体0.5g、イオン交換水74.5gを225ccのガラス瓶に仕込み、混合した後、pH=5になるように酢酸を添加し、ジルコニアビーズをメディアとしてペイントシェーカーを用いて1時間分散を行った。実施例1と同様の操作で得られた吸着量は0.09mg/mであり、ベンズイミダゾロンの分子占有面積を1.11×10−18とすると、表面被覆率は9%となる。希釈前の表面処理カーボンブラック水分散体10gに水溶性アクリル樹脂A 91.2gとサイメル325 17.1gとイオン交換水73.7gを添加し、ディスパーで均一になるように攪拌、混合し、水性カーボンブラック塗料を得た。
【0061】
【表1】
Figure 2004224947
【0062】
【発明の効果】
本発明によって得られる表面吸着処理カーボンブラックを使用した分散体は、分散剤としての顔料誘導体を混合する手法で得られる分散体および顔料誘導体の表面被覆率が50%以下の吸着処理カーボンブラックと比較して、極めて良好な分散性、保存安定性を示し、未吸着誘導体量が少ないことから良好な耐水性を示した。

Claims (5)

  1. 酸性もしくは塩基性官能基を有する有機色素誘導体または酸性もしくは塩基性官能基を有するトリアジン誘導体と、カーボンブラックとを水中で、上記有機色素誘導体の有機色素骨格部分またはトリアジン誘導体のトリアジン部分もしくはトリアジン誘導体がアリール基またはアントラキノン残基を有する場合はトリアジン部分とアリール基もしくはアントラキノン残基部分を吸着部位と仮定した場合の吸着面積がカーボンブラックのBET比表面積の50%以上となる量で吸着処理することを特徴とする吸着処理カーボンブラックの製造方法。
  2. 未吸着の有機色素誘導体またはトリアジン誘導体の量が、カーボンブラック1g当たり0.005g以下とする請求項1記載の製造方法。
  3. 吸着処理がメディア型分散機を用いる請求項1または2記載の製造方法。
  4. 請求項1ないし3いずれか記載の製造方法で得られた吸着処理カーボンブラック。
  5. 請求項4記載の吸着処理カーボンブラックと、有機色素誘導体またはトリアジン誘導体が有する官能基と逆極性の官能基を有する樹脂とからなることを特徴とするカーボンブラック組成物。
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