JP2004224708A - メルカプトプロピオン酸エステル化合物、その製造方法及び連鎖移動剤 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、メルカプトプロピオン酸エステル化合物、その製造方法及び連鎖移動剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、塗料、接着剤、粘着剤、トナー等の樹脂として、ラジカル共重合系樹脂が広く一般に利用されており、このラジカル共重合系樹脂の製造時においては、連鎖移動剤(分子量調整剤)として、メルカプト化合物がよく知られている。
【0003】
連鎖移動剤として使用されているメルカプト化合物としては、アルキルメルカプタン類が広く一般に使用されており、特に、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等を使用したスチレン−アクリル系樹脂の工業的製法が確立している。
【0004】
これらアルキルメルカプタン類の連鎖移動効果(分子量調整効果)は比較的高く、特に、低分子量の樹脂を製造する上では必要不可欠な化合物であることは従来から知られており、種々の技術が開示されている(非特許文献1、2、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、近年目覚しく発展する樹脂の用途開発において、樹脂の分子量をより精密に制御することが必要とされる分野からの要求を満たしているわけではなく、現在もより効果の高い分子量調整能をもつ化合物の探索が進められている。
【0006】
また、これらアルキルメルカプタン類は強い悪臭を放つ比較的揮発性の高い化合物であるため、製造時の取り扱い上の制約はもちろんのこと、製造従事者に対する健康被害や作業環境の悪化を招くことがあった。更に、これを使用することにより得られた重合物にも臭気があるため、樹脂の加工及び使用時においても臭気の問題が発生し、健康、環境上の問題が生じることがあった。
【0007】
一方、不快臭の少ない連鎖移動剤としては、メルカプトカルボン酸のアルキルエステルを用いた技術も種々提案されている(例えば、特許文献2、3、4、5、6参照。)。しかしながら、これらに開示されている連鎖移動剤は、臭気の問題を解消しつつ、分子量調整能を満足させるには充分なものではなかった。
【0008】
【非特許文献1】「高分子学実験講座10 重合と解重合反応」、共立出版、昭和39年、p.20−28
【非特許文献2】「高分子工学講座3 高分子生成反応」、共立出版、昭和43年、p.62−75
【特許文献1】特開昭52−129794号公報(第1頁)
【特許文献2】特開昭54−021485号公報(第3頁)
【特許文献3】特開平10−158344号公報(第2頁)
【特許文献4】特開昭61−247712号公報(第1頁)
【特許文献5】特表平05−500678号公報(第5頁)
【特許文献6】特開2001−040012号公報(第2頁)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、ラジカル重合において、連鎖移動効果を有し、その化合物自体の臭気が少なく、また、連鎖移動剤として使用する場合に得られる重合体の不快臭気の発生を抑制することができるメルカプトプロピオン酸エステル化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記式(1);
【0011】
【化4】
【0012】
(Rは、炭素数6の直鎖、分岐又は環状炭化水素基を表す。)
で表されることを特徴とするメルカプトプロピオン酸エステル化合物である。
【0013】
本発明は、下記式(2);
【0014】
【化5】
【0015】
で表される3−メルカプトプロピオン酸と、下記式(3);
【0016】
【化6】
【0017】
(Rは、炭素数6の直鎖、分岐又は環状炭化水素基を表す。)で表されるアルコール類とを反応させることを特徴とするメルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法である。
【0018】
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法は、酸触媒存在下で反応させるものであることが好ましい。
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法は、有機溶媒中で反応させるものであることが好ましい。
【0019】
本発明はまた、ラジカル重合性モノマーのラジカル重合に用いられる連鎖移動剤であって、上記連鎖移動剤は、上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物であることを特徴とする連鎖移動剤でもある。
【0020】
上記ラジカル重合は、塊状重合法、乳化重合法又は懸濁重合法であることが好ましい。
上記ラジカル重合は、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明のメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、上記式(1)で表される新規化合物である。上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、化合物の揮発性が比較的低い化合物であり、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類に比べ、不快な臭気であるイオウ臭が極端に少ない化合物である。また、臭気自体が少ない化合物でもある。
【0022】
また、後述するように、上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物は、ラジカル重合において、連鎖移動剤として使用した場合には、現在、工業的に主に使用されている上記アルキルメルカプタン類を使用する場合に比べ、分子量調整効果に優れている。
【0023】
上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物におけるRは、炭素数6の直鎖、分岐又は環状炭化水素基である。なかでも、臭気の問題がより抑制される点、連鎖移動剤として使用した場合の分子量調整効果に優れる点から、飽和直鎖状又は飽和分岐状アルキル基、芳香族又は脂環族であることが好ましく、飽和直鎖状アルキル基又は脂環族であることがより好ましく、脂環族であることが更に好ましい。上記Rが6以外である場合、例えば、4、8等である場合には、連鎖移動剤として用いると、臭気の問題を抑制すること、及び、充分な分子量調整能を有することを両立することはできないおそれがある。
【0024】
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物としては、上記式(1)で表される化合物であれば特に限定されず、例えば、n−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネート、1−メチルペンチル−3−メルカプトプロピオネート、2−メチルペンチル−3−メルカプトプロピオネート、3−メチルペンチル−3−メルカプトプロピオネート、4−メチルペンチル−3−メルカプトプロピオネート、1−エチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、1.1−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、1.2−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、1.3−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、2.2−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、2.3−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、3.3−ジメチルブチル−1−メルカプトプロピオネート、1−メチル−2.2−ジメチルプロピル−3−メルカプトプロピオネート、1−エチル−2−メチル−3−メルカプトプロピオネート、1−エチル−1−メチル−3−メルカプトプロピオネート、フェニル−3−メルカプトプロピオネート、シクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネート等を挙げることができる。なかでも、連鎖移動剤として使用した場合の分子量調整効果に優れる点から、n−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネート、シクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネートであることが好ましい。
上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法としては特に限定されず、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0025】
本発明のメルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法は、上記式(2)で表される3−メルカプトプロピオン酸と、上記式(3)で表されるアルコール類とを反応させるものである。上記製造方法を用いることにより、上記式(1)で表される化合物を得ることができる。このようなエステル化反応は、脱水エステル化反応であっても、エステル交換反応であってもよい。
【0026】
上記式(3)で表されるアルコール類におけるRは、炭素数6の直鎖、分岐又は環状炭化水素基である。なかでも、得られるメルカプトプロピオン酸エステル化合物の臭気の問題がより抑制される点、連鎖移動剤として使用した場合の分子量調整効果に優れる点から、飽和直鎖状又は飽和分岐状アルキル基、芳香族又は脂環族であることが好ましく、飽和直鎖状アルキル基又は脂環族であることがより好ましく、脂環族であることが更に好ましい。上記Rが6以外である場合、例えば、4、8等である場合には、得られる化合物を連鎖移動剤として用いると、臭気の問題を抑制すること、及び、充分な分子量調整能を有することを両立することはできないおそれがある。
【0027】
上記式(3)で表されるアルコール類としては特に限定されず、例えば、1−ヘキサノール、1−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、1−エチル−1−ブタノール、1.1−ジメチル−1−ブタノール、1.2−ジメチル−1−ブタノール、1.3−ジメチル−1−ブタノール、2.2−ジメチル−1−ブタノール、2.3−ジメチル−1−ブタノール、3.3−ジメチル−1−ブタノール、1−メチル−2.2−ジメチル−1−プロパノール、1−エチル−2−メチル−1−プロパノール、シクロヘキサノール、及び、フェノール等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記式(2)で表される3−メルカプトプロピオン酸と、上記式(3)で表されるアルコール類とを反応させる反応は、生成する水及び反応系内に共存する水が蒸留留去によって除かれるまで加熱することにより行うことができる。
【0029】
上記反応において、上記式(2)で表される3−メルカプトプロピオン酸と、上記式(3)で表されるアルコール類との配合比は、モル比で、1/1.10〜1/0.90であることが好ましい。1/1.10未満であると、収率が低下し経済的に不利である。1/0.90を超えると、収率の向上は見られず不経済であるだけでなく、残ったアルコールの除去が難しく収率が低下する可能性がある。1.00/1.00〜1.00/0.95であることがより好ましい。
【0030】
上記反応の条件としては、上記式(1)で表される化合物を得ることができる条件であれば特に限定されず、反応温度、反応時間等を適宜設定して行うことができる。
【0031】
上記反応における反応温度としては特に限定されず、例えば、下限50℃、上限200℃で行うことができる。50℃未満であると、反応が進行しない又は進行が遅いおそれがある。200℃を超えると、副生物が生成し、収率が低下するおそれがあり、経済的に不利になるおそれがある。上記下限は、70℃であることが好ましく、上記上限は、150℃であることが好ましい。
【0032】
上記反応における反応時間としては特に限定されず、例えば、下限1時間、上限24時間で行うことができる。1時間未満であると、反応が充分に進行しないおそれがある。24時間を超えると、経済的に不利になるおそれがある。上記下限は、3時間であることが好ましく、上記上限は、10時間であることが好ましい。
【0033】
上記反応は、無触媒又は酸触媒存在下で行うことができる。即ち、無触媒でエステル化反応を行うこともできるが、通常は、酸触媒を使用して行う。酸触媒を使用することによって、より効率的に反応を進行させることができる。
【0034】
上記反応で使用する酸触媒としては特に限定されず、例えば、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ラウリルスルホン酸等の有機酸;塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記酸触媒の配合量は、通常、反応に用いる原料の総質量100質量%に対して0.1〜10質量%である。0.1質量%未満であると、触媒の添加効果が見られないおそれがあり、10質量%を超えても、効果の向上は見られず、経済的に不利となるおそれがある。
【0036】
上記反応は、例えば、無溶媒又は有機溶媒中で行うことができる。即ち、無溶媒で反応を行うこともできるが、水と共沸混合物を作りうる有機溶媒を使用して行うことが好ましい。有機溶媒中で反応を行うことによって、より効率的に反応を進行させることができる。
【0037】
上記有機溶媒としては特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記反応により得られた反応液は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液及び水により中和、洗浄することにより、酸触媒、原料3−メルカプトプロピオン酸、その他副生不純物等が除去される。
【0039】
不純物を除去した反応液から、常圧又は必要に応じて減圧にて、溶媒及び水を除去分離する。このようにして得られた目的物(メルカプトプロピオン酸エステル化合物)の純度は、95%以上であるが、必要に応じて、更に減圧にて蒸留することにより高純度の目的物(メルカプトプロピオン酸エステル化合物)を得ることができる。
【0040】
上述した上記式(1)で表される化合物は、ラジカル重合性モノマーのラジカル重合において、ポリマーの分子量を調整するための連鎖移動剤として好適に用いることができる化合物であり、上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物である。上記連鎖移動剤も本発明の1つである。
【0041】
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物は、連鎖移動剤として使用する場合に、従来から連鎖移動剤として、一般的に使用されているアルキルメルカプタン類に比べて、同等以上の高い分子量調整効果を発揮する。このため、樹脂の分子量をより精密に制御することができ、塗料、接着剤、粘着剤、トナー等の樹脂の合成に用いる連鎖移動剤として好適に用いることができる。
【0042】
また、上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用して得られる重合体は、アルキルメルカプタン類を使用して得られる重合体に比べて、樹脂の加工及び使用時においても、臭気の問題が比較的少ない。また、製造時の取り扱い上の制約を受けることがなく、製造従事者に対する健康被害、作業環境の悪化が抑制される。
【0043】
上記ラジカル重合性モノマーとしては特に限定されず、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−terキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン等のスチレン類(スチレン系モノマー);アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のα−メチル脂肪酸モノカルボン酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸、メタクリル酸及びその誘導体(アクリル系モノマー);マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸等の有機酸類等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記ラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーとして、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとを用いる共重合であることが好ましい。この場合、ラジカル重合において、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、より優れた分子量調整効果を示し、このようなモノマーを用いて得られる重合体は、臭気の問題が少ないものである。
【0045】
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物をラジカル重合において連鎖移動剤として用いるとき、上記連鎖移動剤の配合量としては特に限定されないが、一般的には、ラジカル重合に使用されるモノマー全量100質量%に対して、下限0.1質量%、上限10質量%である。0.1%未満であると、得られる樹脂の平均分子量が比較的大きくなってしまうおそれがあり、10質量%を超えると、得られる樹脂に残存する連鎖移動剤の量が多くなるため、樹脂の加工又は使用時に不快臭を発生するおそれがある。また、上記連鎖移動剤として用いられるメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記ラジカル重合性モノマーのラジカル重合は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができ、例えば、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法等を挙げることができる。上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物の分子量調整効果がより優れている点から、乳化重合法、懸濁重合法により重合することが好ましく、乳化重合法により重合することがより好ましい。上記乳化重合法又は上記懸濁重合法を用いたラジカル重合反応において、適当な媒体は、通常の乳化剤又は懸濁剤と適量の水との混合物である。
【0047】
上記乳化剤としては特に限定されず、例えば、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホン酸エステル、高級脂肪酸塩、ロジン酸のアルカリ金属塩、長鎖脂肪酸、アルコール又はメルカプタンのエチレンオキサイド縮合物等を挙げることができる。
【0048】
上記懸濁剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、でん粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、タルク、粘土、けいそう土、金属酸化物粉末等を挙げることができる。
【0049】
上記乳化剤又は上記懸濁剤の配合量は、混合する水100質量%に対して、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。0.1質量%未満であると、ラジカル重合が効率的に進行しないおそれがあり、10質量%を超えても、効果の向上は見られず、経済的に不利となるおそれがある。
【0050】
上記ラジカル重合性モノマーのラジカル重合に使用される重合開始剤としては特に限定されず、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオクトエート等の過酸化物系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化物系重合開始剤等を挙げることができる。
【0051】
上記ラジカル重合性モノマーのラジカル重合において、上記重合開始剤の配合量は、ラジカル重合に使用されるモノマー全量100質量%に対して、下限0.1質量%、上限10質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、ラジカル重合が効率的に進行しないおそれがあり、10質量%を超えても、効果の向上は見られず、不経済となるおそれがある。
【0052】
上記ラジカル重合性モノマーのラジカル重合において、重合温度としては特に限定されないが、塊状重合の場合には、通常50〜150℃の範囲であり、乳化又は懸濁重合の場合には、通常40〜100℃の範囲である。
【0053】
上記ラジカル重合により得られる重合体は、主として、重量平均分子量20000以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分散度(Mw/Mn)3.0以下を有する樹脂である。従って、上記連鎖移動剤は、分子量調整効果に優れるものであり、比較的低分子量であり、分散度の値が小さい樹脂を得ることができる。特に、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとからなるラジカル重合性モノマーを、塊状重合法、乳化重合法又は懸濁重合法によりラジカル共重合反応させる場合には、より高い分子量調整効果が発揮される。また、得られる樹脂は、臭気の問題も抑制されたものである。
【0054】
本発明のメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、上記式(1)で表される化合物であるため、不快な臭気であるイオウ臭が極端に少ない化合物であり、また、臭気自体が少ない化合物である。即ち、臭気自体の低いメルカプト化合物の構造を検討した結果、分子構造内にオキシカルボニル基を有する化合物、つまり、エステル結合を有する化合物は、揮発性が比較的低く、イオウ臭気が著しく低く、更には臭気自体が少ない化合物であることを見出し、なかでも、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、イオウ臭が極端に少ない化合物である。
【0055】
また、塊状重合法、乳化重合法又は懸濁重合法等によるラジカル重合において、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用した場合には、現在工業的に主に使用されている上記アルキルメルカプタン類を使用する場合に比べて、分子量調整効果が高いものである。特に、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとをラジカル共重合させる際に、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用すると、より高い分子調整効果が発揮される。
【0056】
また、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用して得られる樹脂は、アルキルメルカプタン類を使用する場合に比べて、樹脂の加工及び使用時においても臭気の問題が抑制されている。即ち、上述の製造方法は、揮発性が比較的低く、イオウ臭気が著しく低く、更には臭気自体が少ないメルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用するものであるため、製造時の取り扱い上の制約を受けることなく、製造従事者に対する健康被害、作業環境の悪化が抑制される。このため、得られる樹脂の加工及び使用時においても臭気の問題が抑制される。
【0057】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0058】
実施例1 (n−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの製造)
3−メルカプトプロピオン酸700.00g(6.60モル)、n−ヘキサノール701.63g(6.87モル)、トルエン639.00g、p−トルエンスルホン酸8.00gを、攪拌機、窒素吹き込み管、上部に還流冷却器を付けた水分離器及び温度計を取り付けた3L四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下、内温を95〜135℃まで上昇させ、留出する水を捕集した。加熱開始から6時間で水の留出が少なくなったので加熱を停止し、室温まで冷却し、無色の液体を得た。分液ロートに移し、水439gと15%炭酸ナトリウム水溶液69gにて中和を行い、水槽を分離除去した。続いて、水500gで2回水洗、分離を行った後、攪拌機、窒素吹き込み管、蒸留装置を取り付けた3L四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下、内温を95℃まで上昇させ、5torrの真空条件下で蒸留を行い、無色透明液体1027gを収率82%で得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、純度は99.9%であった。元素質量分析の結果C56.69、H9.55、O16.87、S16.89%(理論元素質量C56.80、H9.53、O16.82、S16.85%)であった。また、ヨード法により測定したSH濃度は17.33%(理論濃度17.38%)であった。よって、以上の結果から、得られた無色透明液体が、目的とするn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートであることが同定できた。
【0059】
実施例2
(乳化重合)500mLの丸底フラスコに撹拌装置、温度計、冷却管、窒素導入装置を装着し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.88gをイオン交換水267.1gに溶解させた溶液を添加し、窒素気流下にて250rpmの撹拌速度で撹拌しつつ、内温を60℃に昇温させた。次いで、過硫酸カリウム1.24gをイオン交換水56.6gに溶解させた溶液を添加した。一方で、メタクリル酸メチル38.0g、スチレン23.4g、アクリル酸エチル5.2g、アクリル酸2.6gからなるモノマーに、連鎖移動剤として得られたn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネート2.25gを加えたモノマー溶液を調整し、フラスコに1時間かけて滴下した。その後、60℃にて2時間、次いで80℃にて2時間加熱撹拌した。次に、過硫酸カリウム0.14gをイオン交換水6.4gに溶解させた溶液を添加し、80℃にて1時間加熱撹拌させた後、室温まで冷却し、樹脂の分散水溶液を得た。得られた水溶液に塩化ナトリウムを適量加えた後、樹脂粒子を濾過、水洗の後、減圧で乾燥した。
【0060】
得られた樹脂試料をテトラヒドロフランに溶解し、カラムとしてTSKgel GMHR−Hを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)にてスチレンポリマーを標準品として測定したところ、数平均分子量(Mn)は4910、重量平均分子量(Mw)は11900、分散度(Mw/Mn)は2.56であった。
【0061】
得られた樹脂試料の臭気を次の方法で測定した。測定は8名のパネラーテストによる採点法で行った。臭気の強さにより、「強い臭気」、「やや強い臭気」、「普通の臭気」、「弱い臭気」、「臭気なし」にそれぞれ5、4、3、2、1点を付加した採点点数の平均点により評価した結果、1.4点であった。
【0062】
実施例3 (シクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの製造)
3−メルカプトプロピオン酸210.00g(1.98モル)、シクロヘキサノール206.33g(2.06モル)、トルエン167.91g、p−トルエンスルホン酸2.40gを、攪拌機、窒素吹き込み管、上部に還流冷却器を付けた水分離器及び温度計を取り付けた1L四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下、内温を100〜130℃まで上昇させ、留出する水を捕集した。加熱開始から5時間で水の留出が少なくなったので加熱を停止し、室温まで冷却し、無色の液体を得た。分液ロートに移し、水123gと15%炭酸ナトリウム水溶液32gにて中和を行い、水槽を分離除去した。続いて、水150gで2回水洗、分離を行った後、攪拌機、窒素吹き込み管、蒸留装置を取り付けた1L四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下、内温を137℃まで上昇させ、19torrの真空条件下で蒸留を行い、無色透明液体301gを収率81%で得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、純度は99.8%であった。元素質量分析の結果C57.37、H8.55、O17.02、S17.06%(理論元素質量C57.41、H8.57、O16.99、S17.03%)であった。また、ヨード法により測定したSH濃度は17.53%(理論濃度17.56%)であった。よって、以上の結果から、得られた無色透明液体が、目的とするシクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネートであることが同定できた。
【0063】
実施例4
連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの代わりに実施例3で得られたシクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネート2.23g
を用いた以外は、実施例2と同様の方法でにより樹脂粒子を得た。得られた樹脂試料を実施例2と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0064】
比較例1
連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの代わりに、工業的に一般に使用されているアルキルメルカプタンの一種であるt−ドデシルメルカプタン2.39gを用いた以外は、実施例2と同様の方法でにより樹脂粒子を得た。得られた樹脂試料を実施例2と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0065】
比較例2
連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの代わりに、n−ブチル−3−メルカプトプロピオネート1.92gを用いた以外は、実施例2と同様の方法でにより樹脂粒子を得た。得られた樹脂試料を実施例2と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0066】
比較例3
連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの代わりに、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート2.58gを用いた以外は、実施例2と同様の方法でにより樹脂粒子を得た。得られた樹脂試料を実施例2と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、実施例2及び4で得られた樹脂は、比較例1〜3で得られた樹脂に比べて、分子量調整能に優れているものであった。また、比較例1で得られた樹脂に比べて、臭気についても、低いものであり、臭気の低い樹脂が得られることがわかった。従って、連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネート又はシクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネートを使用する場合は、従来から使用されているt−ドデシルメルカプタンを使用する場合に比べて、分子量調整効果、臭気の点から、好ましいものであることが明らかとなった。また、n−ブチル−3−メルカプトプロピオネート又はn−オクチル−3−メルカプトプロピオネートを使用する場合に比べて、分子量調整効果の点から好ましいものであることも明らかとなった。
【0069】
【発明の効果】
本発明のメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、上述の構成よりなるので、臭気が低く、また、重合の結果得られる重合体の不快臭気の発生を抑制することができる化合物である。特に、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとのラジカル共重合用の連鎖移動剤として使用した場合には、特に優れた分子量調整効果を発揮するものである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、メルカプトプロピオン酸エステル化合物、その製造方法及び連鎖移動剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、塗料、接着剤、粘着剤、トナー等の樹脂として、ラジカル共重合系樹脂が広く一般に利用されており、このラジカル共重合系樹脂の製造時においては、連鎖移動剤(分子量調整剤)として、メルカプト化合物がよく知られている。
【0003】
連鎖移動剤として使用されているメルカプト化合物としては、アルキルメルカプタン類が広く一般に使用されており、特に、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等を使用したスチレン−アクリル系樹脂の工業的製法が確立している。
【0004】
これらアルキルメルカプタン類の連鎖移動効果(分子量調整効果)は比較的高く、特に、低分子量の樹脂を製造する上では必要不可欠な化合物であることは従来から知られており、種々の技術が開示されている(非特許文献1、2、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、近年目覚しく発展する樹脂の用途開発において、樹脂の分子量をより精密に制御することが必要とされる分野からの要求を満たしているわけではなく、現在もより効果の高い分子量調整能をもつ化合物の探索が進められている。
【0006】
また、これらアルキルメルカプタン類は強い悪臭を放つ比較的揮発性の高い化合物であるため、製造時の取り扱い上の制約はもちろんのこと、製造従事者に対する健康被害や作業環境の悪化を招くことがあった。更に、これを使用することにより得られた重合物にも臭気があるため、樹脂の加工及び使用時においても臭気の問題が発生し、健康、環境上の問題が生じることがあった。
【0007】
一方、不快臭の少ない連鎖移動剤としては、メルカプトカルボン酸のアルキルエステルを用いた技術も種々提案されている(例えば、特許文献2、3、4、5、6参照。)。しかしながら、これらに開示されている連鎖移動剤は、臭気の問題を解消しつつ、分子量調整能を満足させるには充分なものではなかった。
【0008】
【非特許文献1】「高分子学実験講座10 重合と解重合反応」、共立出版、昭和39年、p.20−28
【非特許文献2】「高分子工学講座3 高分子生成反応」、共立出版、昭和43年、p.62−75
【特許文献1】特開昭52−129794号公報(第1頁)
【特許文献2】特開昭54−021485号公報(第3頁)
【特許文献3】特開平10−158344号公報(第2頁)
【特許文献4】特開昭61−247712号公報(第1頁)
【特許文献5】特表平05−500678号公報(第5頁)
【特許文献6】特開2001−040012号公報(第2頁)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、ラジカル重合において、連鎖移動効果を有し、その化合物自体の臭気が少なく、また、連鎖移動剤として使用する場合に得られる重合体の不快臭気の発生を抑制することができるメルカプトプロピオン酸エステル化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、下記式(1);
【0011】
【化4】
【0012】
(Rは、炭素数6の直鎖、分岐又は環状炭化水素基を表す。)
で表されることを特徴とするメルカプトプロピオン酸エステル化合物である。
【0013】
本発明は、下記式(2);
【0014】
【化5】
【0015】
で表される3−メルカプトプロピオン酸と、下記式(3);
【0016】
【化6】
【0017】
(Rは、炭素数6の直鎖、分岐又は環状炭化水素基を表す。)で表されるアルコール類とを反応させることを特徴とするメルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法である。
【0018】
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法は、酸触媒存在下で反応させるものであることが好ましい。
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法は、有機溶媒中で反応させるものであることが好ましい。
【0019】
本発明はまた、ラジカル重合性モノマーのラジカル重合に用いられる連鎖移動剤であって、上記連鎖移動剤は、上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物であることを特徴とする連鎖移動剤でもある。
【0020】
上記ラジカル重合は、塊状重合法、乳化重合法又は懸濁重合法であることが好ましい。
上記ラジカル重合は、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合であることが好ましい。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明のメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、上記式(1)で表される新規化合物である。上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、化合物の揮発性が比較的低い化合物であり、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類に比べ、不快な臭気であるイオウ臭が極端に少ない化合物である。また、臭気自体が少ない化合物でもある。
【0022】
また、後述するように、上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物は、ラジカル重合において、連鎖移動剤として使用した場合には、現在、工業的に主に使用されている上記アルキルメルカプタン類を使用する場合に比べ、分子量調整効果に優れている。
【0023】
上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物におけるRは、炭素数6の直鎖、分岐又は環状炭化水素基である。なかでも、臭気の問題がより抑制される点、連鎖移動剤として使用した場合の分子量調整効果に優れる点から、飽和直鎖状又は飽和分岐状アルキル基、芳香族又は脂環族であることが好ましく、飽和直鎖状アルキル基又は脂環族であることがより好ましく、脂環族であることが更に好ましい。上記Rが6以外である場合、例えば、4、8等である場合には、連鎖移動剤として用いると、臭気の問題を抑制すること、及び、充分な分子量調整能を有することを両立することはできないおそれがある。
【0024】
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物としては、上記式(1)で表される化合物であれば特に限定されず、例えば、n−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネート、1−メチルペンチル−3−メルカプトプロピオネート、2−メチルペンチル−3−メルカプトプロピオネート、3−メチルペンチル−3−メルカプトプロピオネート、4−メチルペンチル−3−メルカプトプロピオネート、1−エチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、1.1−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、1.2−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、1.3−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、2.2−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、2.3−ジメチルブチル−3−メルカプトプロピオネート、3.3−ジメチルブチル−1−メルカプトプロピオネート、1−メチル−2.2−ジメチルプロピル−3−メルカプトプロピオネート、1−エチル−2−メチル−3−メルカプトプロピオネート、1−エチル−1−メチル−3−メルカプトプロピオネート、フェニル−3−メルカプトプロピオネート、シクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネート等を挙げることができる。なかでも、連鎖移動剤として使用した場合の分子量調整効果に優れる点から、n−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネート、シクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネートであることが好ましい。
上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法としては特に限定されず、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0025】
本発明のメルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法は、上記式(2)で表される3−メルカプトプロピオン酸と、上記式(3)で表されるアルコール類とを反応させるものである。上記製造方法を用いることにより、上記式(1)で表される化合物を得ることができる。このようなエステル化反応は、脱水エステル化反応であっても、エステル交換反応であってもよい。
【0026】
上記式(3)で表されるアルコール類におけるRは、炭素数6の直鎖、分岐又は環状炭化水素基である。なかでも、得られるメルカプトプロピオン酸エステル化合物の臭気の問題がより抑制される点、連鎖移動剤として使用した場合の分子量調整効果に優れる点から、飽和直鎖状又は飽和分岐状アルキル基、芳香族又は脂環族であることが好ましく、飽和直鎖状アルキル基又は脂環族であることがより好ましく、脂環族であることが更に好ましい。上記Rが6以外である場合、例えば、4、8等である場合には、得られる化合物を連鎖移動剤として用いると、臭気の問題を抑制すること、及び、充分な分子量調整能を有することを両立することはできないおそれがある。
【0027】
上記式(3)で表されるアルコール類としては特に限定されず、例えば、1−ヘキサノール、1−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、1−エチル−1−ブタノール、1.1−ジメチル−1−ブタノール、1.2−ジメチル−1−ブタノール、1.3−ジメチル−1−ブタノール、2.2−ジメチル−1−ブタノール、2.3−ジメチル−1−ブタノール、3.3−ジメチル−1−ブタノール、1−メチル−2.2−ジメチル−1−プロパノール、1−エチル−2−メチル−1−プロパノール、シクロヘキサノール、及び、フェノール等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記式(2)で表される3−メルカプトプロピオン酸と、上記式(3)で表されるアルコール類とを反応させる反応は、生成する水及び反応系内に共存する水が蒸留留去によって除かれるまで加熱することにより行うことができる。
【0029】
上記反応において、上記式(2)で表される3−メルカプトプロピオン酸と、上記式(3)で表されるアルコール類との配合比は、モル比で、1/1.10〜1/0.90であることが好ましい。1/1.10未満であると、収率が低下し経済的に不利である。1/0.90を超えると、収率の向上は見られず不経済であるだけでなく、残ったアルコールの除去が難しく収率が低下する可能性がある。1.00/1.00〜1.00/0.95であることがより好ましい。
【0030】
上記反応の条件としては、上記式(1)で表される化合物を得ることができる条件であれば特に限定されず、反応温度、反応時間等を適宜設定して行うことができる。
【0031】
上記反応における反応温度としては特に限定されず、例えば、下限50℃、上限200℃で行うことができる。50℃未満であると、反応が進行しない又は進行が遅いおそれがある。200℃を超えると、副生物が生成し、収率が低下するおそれがあり、経済的に不利になるおそれがある。上記下限は、70℃であることが好ましく、上記上限は、150℃であることが好ましい。
【0032】
上記反応における反応時間としては特に限定されず、例えば、下限1時間、上限24時間で行うことができる。1時間未満であると、反応が充分に進行しないおそれがある。24時間を超えると、経済的に不利になるおそれがある。上記下限は、3時間であることが好ましく、上記上限は、10時間であることが好ましい。
【0033】
上記反応は、無触媒又は酸触媒存在下で行うことができる。即ち、無触媒でエステル化反応を行うこともできるが、通常は、酸触媒を使用して行う。酸触媒を使用することによって、より効率的に反応を進行させることができる。
【0034】
上記反応で使用する酸触媒としては特に限定されず、例えば、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ラウリルスルホン酸等の有機酸;塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記酸触媒の配合量は、通常、反応に用いる原料の総質量100質量%に対して0.1〜10質量%である。0.1質量%未満であると、触媒の添加効果が見られないおそれがあり、10質量%を超えても、効果の向上は見られず、経済的に不利となるおそれがある。
【0036】
上記反応は、例えば、無溶媒又は有機溶媒中で行うことができる。即ち、無溶媒で反応を行うこともできるが、水と共沸混合物を作りうる有機溶媒を使用して行うことが好ましい。有機溶媒中で反応を行うことによって、より効率的に反応を進行させることができる。
【0037】
上記有機溶媒としては特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記反応により得られた反応液は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液及び水により中和、洗浄することにより、酸触媒、原料3−メルカプトプロピオン酸、その他副生不純物等が除去される。
【0039】
不純物を除去した反応液から、常圧又は必要に応じて減圧にて、溶媒及び水を除去分離する。このようにして得られた目的物(メルカプトプロピオン酸エステル化合物)の純度は、95%以上であるが、必要に応じて、更に減圧にて蒸留することにより高純度の目的物(メルカプトプロピオン酸エステル化合物)を得ることができる。
【0040】
上述した上記式(1)で表される化合物は、ラジカル重合性モノマーのラジカル重合において、ポリマーの分子量を調整するための連鎖移動剤として好適に用いることができる化合物であり、上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物である。上記連鎖移動剤も本発明の1つである。
【0041】
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物は、連鎖移動剤として使用する場合に、従来から連鎖移動剤として、一般的に使用されているアルキルメルカプタン類に比べて、同等以上の高い分子量調整効果を発揮する。このため、樹脂の分子量をより精密に制御することができ、塗料、接着剤、粘着剤、トナー等の樹脂の合成に用いる連鎖移動剤として好適に用いることができる。
【0042】
また、上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用して得られる重合体は、アルキルメルカプタン類を使用して得られる重合体に比べて、樹脂の加工及び使用時においても、臭気の問題が比較的少ない。また、製造時の取り扱い上の制約を受けることがなく、製造従事者に対する健康被害、作業環境の悪化が抑制される。
【0043】
上記ラジカル重合性モノマーとしては特に限定されず、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−terキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン等のスチレン類(スチレン系モノマー);アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のα−メチル脂肪酸モノカルボン酸エステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸、メタクリル酸及びその誘導体(アクリル系モノマー);マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸等の有機酸類等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記ラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーとして、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとを用いる共重合であることが好ましい。この場合、ラジカル重合において、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、より優れた分子量調整効果を示し、このようなモノマーを用いて得られる重合体は、臭気の問題が少ないものである。
【0045】
上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物をラジカル重合において連鎖移動剤として用いるとき、上記連鎖移動剤の配合量としては特に限定されないが、一般的には、ラジカル重合に使用されるモノマー全量100質量%に対して、下限0.1質量%、上限10質量%である。0.1%未満であると、得られる樹脂の平均分子量が比較的大きくなってしまうおそれがあり、10質量%を超えると、得られる樹脂に残存する連鎖移動剤の量が多くなるため、樹脂の加工又は使用時に不快臭を発生するおそれがある。また、上記連鎖移動剤として用いられるメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記ラジカル重合性モノマーのラジカル重合は、特に限定されず、従来公知の方法により行うことができ、例えば、塊状重合法、乳化重合法、懸濁重合法等を挙げることができる。上記メルカプトプロピオン酸エステル化合物の分子量調整効果がより優れている点から、乳化重合法、懸濁重合法により重合することが好ましく、乳化重合法により重合することがより好ましい。上記乳化重合法又は上記懸濁重合法を用いたラジカル重合反応において、適当な媒体は、通常の乳化剤又は懸濁剤と適量の水との混合物である。
【0047】
上記乳化剤としては特に限定されず、例えば、アルキルアリールスルホネート、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホン酸エステル、高級脂肪酸塩、ロジン酸のアルカリ金属塩、長鎖脂肪酸、アルコール又はメルカプタンのエチレンオキサイド縮合物等を挙げることができる。
【0048】
上記懸濁剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、でん粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、タルク、粘土、けいそう土、金属酸化物粉末等を挙げることができる。
【0049】
上記乳化剤又は上記懸濁剤の配合量は、混合する水100質量%に対して、0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。0.1質量%未満であると、ラジカル重合が効率的に進行しないおそれがあり、10質量%を超えても、効果の向上は見られず、経済的に不利となるおそれがある。
【0050】
上記ラジカル重合性モノマーのラジカル重合に使用される重合開始剤としては特に限定されず、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;ラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオクトエート等の過酸化物系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化物系重合開始剤等を挙げることができる。
【0051】
上記ラジカル重合性モノマーのラジカル重合において、上記重合開始剤の配合量は、ラジカル重合に使用されるモノマー全量100質量%に対して、下限0.1質量%、上限10質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、ラジカル重合が効率的に進行しないおそれがあり、10質量%を超えても、効果の向上は見られず、不経済となるおそれがある。
【0052】
上記ラジカル重合性モノマーのラジカル重合において、重合温度としては特に限定されないが、塊状重合の場合には、通常50〜150℃の範囲であり、乳化又は懸濁重合の場合には、通常40〜100℃の範囲である。
【0053】
上記ラジカル重合により得られる重合体は、主として、重量平均分子量20000以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分散度(Mw/Mn)3.0以下を有する樹脂である。従って、上記連鎖移動剤は、分子量調整効果に優れるものであり、比較的低分子量であり、分散度の値が小さい樹脂を得ることができる。特に、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとからなるラジカル重合性モノマーを、塊状重合法、乳化重合法又は懸濁重合法によりラジカル共重合反応させる場合には、より高い分子量調整効果が発揮される。また、得られる樹脂は、臭気の問題も抑制されたものである。
【0054】
本発明のメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、上記式(1)で表される化合物であるため、不快な臭気であるイオウ臭が極端に少ない化合物であり、また、臭気自体が少ない化合物である。即ち、臭気自体の低いメルカプト化合物の構造を検討した結果、分子構造内にオキシカルボニル基を有する化合物、つまり、エステル結合を有する化合物は、揮発性が比較的低く、イオウ臭気が著しく低く、更には臭気自体が少ない化合物であることを見出し、なかでも、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、イオウ臭が極端に少ない化合物である。
【0055】
また、塊状重合法、乳化重合法又は懸濁重合法等によるラジカル重合において、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用した場合には、現在工業的に主に使用されている上記アルキルメルカプタン類を使用する場合に比べて、分子量調整効果が高いものである。特に、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとをラジカル共重合させる際に、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用すると、より高い分子調整効果が発揮される。
【0056】
また、上記式(1)で表されるメルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用して得られる樹脂は、アルキルメルカプタン類を使用する場合に比べて、樹脂の加工及び使用時においても臭気の問題が抑制されている。即ち、上述の製造方法は、揮発性が比較的低く、イオウ臭気が著しく低く、更には臭気自体が少ないメルカプトプロピオン酸エステル化合物を連鎖移動剤として使用するものであるため、製造時の取り扱い上の制約を受けることなく、製造従事者に対する健康被害、作業環境の悪化が抑制される。このため、得られる樹脂の加工及び使用時においても臭気の問題が抑制される。
【0057】
【実施例】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0058】
実施例1 (n−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの製造)
3−メルカプトプロピオン酸700.00g(6.60モル)、n−ヘキサノール701.63g(6.87モル)、トルエン639.00g、p−トルエンスルホン酸8.00gを、攪拌機、窒素吹き込み管、上部に還流冷却器を付けた水分離器及び温度計を取り付けた3L四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下、内温を95〜135℃まで上昇させ、留出する水を捕集した。加熱開始から6時間で水の留出が少なくなったので加熱を停止し、室温まで冷却し、無色の液体を得た。分液ロートに移し、水439gと15%炭酸ナトリウム水溶液69gにて中和を行い、水槽を分離除去した。続いて、水500gで2回水洗、分離を行った後、攪拌機、窒素吹き込み管、蒸留装置を取り付けた3L四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下、内温を95℃まで上昇させ、5torrの真空条件下で蒸留を行い、無色透明液体1027gを収率82%で得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、純度は99.9%であった。元素質量分析の結果C56.69、H9.55、O16.87、S16.89%(理論元素質量C56.80、H9.53、O16.82、S16.85%)であった。また、ヨード法により測定したSH濃度は17.33%(理論濃度17.38%)であった。よって、以上の結果から、得られた無色透明液体が、目的とするn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートであることが同定できた。
【0059】
実施例2
(乳化重合)500mLの丸底フラスコに撹拌装置、温度計、冷却管、窒素導入装置を装着し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.88gをイオン交換水267.1gに溶解させた溶液を添加し、窒素気流下にて250rpmの撹拌速度で撹拌しつつ、内温を60℃に昇温させた。次いで、過硫酸カリウム1.24gをイオン交換水56.6gに溶解させた溶液を添加した。一方で、メタクリル酸メチル38.0g、スチレン23.4g、アクリル酸エチル5.2g、アクリル酸2.6gからなるモノマーに、連鎖移動剤として得られたn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネート2.25gを加えたモノマー溶液を調整し、フラスコに1時間かけて滴下した。その後、60℃にて2時間、次いで80℃にて2時間加熱撹拌した。次に、過硫酸カリウム0.14gをイオン交換水6.4gに溶解させた溶液を添加し、80℃にて1時間加熱撹拌させた後、室温まで冷却し、樹脂の分散水溶液を得た。得られた水溶液に塩化ナトリウムを適量加えた後、樹脂粒子を濾過、水洗の後、減圧で乾燥した。
【0060】
得られた樹脂試料をテトラヒドロフランに溶解し、カラムとしてTSKgel GMHR−Hを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)にてスチレンポリマーを標準品として測定したところ、数平均分子量(Mn)は4910、重量平均分子量(Mw)は11900、分散度(Mw/Mn)は2.56であった。
【0061】
得られた樹脂試料の臭気を次の方法で測定した。測定は8名のパネラーテストによる採点法で行った。臭気の強さにより、「強い臭気」、「やや強い臭気」、「普通の臭気」、「弱い臭気」、「臭気なし」にそれぞれ5、4、3、2、1点を付加した採点点数の平均点により評価した結果、1.4点であった。
【0062】
実施例3 (シクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの製造)
3−メルカプトプロピオン酸210.00g(1.98モル)、シクロヘキサノール206.33g(2.06モル)、トルエン167.91g、p−トルエンスルホン酸2.40gを、攪拌機、窒素吹き込み管、上部に還流冷却器を付けた水分離器及び温度計を取り付けた1L四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下、内温を100〜130℃まで上昇させ、留出する水を捕集した。加熱開始から5時間で水の留出が少なくなったので加熱を停止し、室温まで冷却し、無色の液体を得た。分液ロートに移し、水123gと15%炭酸ナトリウム水溶液32gにて中和を行い、水槽を分離除去した。続いて、水150gで2回水洗、分離を行った後、攪拌機、窒素吹き込み管、蒸留装置を取り付けた1L四つ口フラスコに仕込み、窒素気流下、内温を137℃まで上昇させ、19torrの真空条件下で蒸留を行い、無色透明液体301gを収率81%で得た。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、純度は99.8%であった。元素質量分析の結果C57.37、H8.55、O17.02、S17.06%(理論元素質量C57.41、H8.57、O16.99、S17.03%)であった。また、ヨード法により測定したSH濃度は17.53%(理論濃度17.56%)であった。よって、以上の結果から、得られた無色透明液体が、目的とするシクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネートであることが同定できた。
【0063】
実施例4
連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの代わりに実施例3で得られたシクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネート2.23g
を用いた以外は、実施例2と同様の方法でにより樹脂粒子を得た。得られた樹脂試料を実施例2と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0064】
比較例1
連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの代わりに、工業的に一般に使用されているアルキルメルカプタンの一種であるt−ドデシルメルカプタン2.39gを用いた以外は、実施例2と同様の方法でにより樹脂粒子を得た。得られた樹脂試料を実施例2と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0065】
比較例2
連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの代わりに、n−ブチル−3−メルカプトプロピオネート1.92gを用いた以外は、実施例2と同様の方法でにより樹脂粒子を得た。得られた樹脂試料を実施例2と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0066】
比較例3
連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネートの代わりに、n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート2.58gを用いた以外は、実施例2と同様の方法でにより樹脂粒子を得た。得られた樹脂試料を実施例2と同様に評価し、結果を表1に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、実施例2及び4で得られた樹脂は、比較例1〜3で得られた樹脂に比べて、分子量調整能に優れているものであった。また、比較例1で得られた樹脂に比べて、臭気についても、低いものであり、臭気の低い樹脂が得られることがわかった。従って、連鎖移動剤としてn−ヘキシル−3−メルカプトプロピオネート又はシクロヘキシル−3−メルカプトプロピオネートを使用する場合は、従来から使用されているt−ドデシルメルカプタンを使用する場合に比べて、分子量調整効果、臭気の点から、好ましいものであることが明らかとなった。また、n−ブチル−3−メルカプトプロピオネート又はn−オクチル−3−メルカプトプロピオネートを使用する場合に比べて、分子量調整効果の点から好ましいものであることも明らかとなった。
【0069】
【発明の効果】
本発明のメルカプトプロピオン酸エステル化合物は、上述の構成よりなるので、臭気が低く、また、重合の結果得られる重合体の不快臭気の発生を抑制することができる化合物である。特に、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとのラジカル共重合用の連鎖移動剤として使用した場合には、特に優れた分子量調整効果を発揮するものである。
Claims (7)
- 酸触媒存在下で反応させる請求項2記載のメルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法。
- 有機溶媒中で反応させる請求項2又は3記載のメルカプトプロピオン酸エステル化合物の製造方法。
- ラジカル重合性モノマーのラジカル重合に用いられる連鎖移動剤であって、
前記連鎖移動剤は、請求項1記載のメルカプトプロピオン酸エステル化合物であることを特徴とする連鎖移動剤。 - ラジカル重合は、塊状重合法、乳化重合法又は懸濁重合法である請求項5記載の連鎖移動剤。
- ラジカル重合は、スチレン系モノマーとアクリル系モノマーとの共重合である請求項5又は6記載の連鎖移動剤。
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-
2003
- 2003-01-20 JP JP2003011449A patent/JP2004224708A/ja active Pending
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