JP5114283B2 - 2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾアートの製造方法及びそれを用いる重合方法 - Google Patents

2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾアートの製造方法及びそれを用いる重合方法 Download PDF

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Description

本発明は、可逆的付加−解裂型連鎖移動重合の連鎖移動剤として用いられる2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾアートの製造方法、及びそれを用いる重合方法に関する。
分子量分布が狭い重合体は、同じ数平均分子量で分子量分布が広い重合体と比べ、粘度が低くなる等の特徴を有している。また、ブロック共重合体は、ランダム共重合体と比べて各ブロックが有する物理的及び化学的特徴を保持しており、例えば水溶性−非水溶性ジブロック共重合体は、水溶液中で低分子界面活性剤と同様、水溶性ブロックを水相に向け、非水溶性ブロックをコアとした、ミセルを形成する等の特徴を有している。
分子量分布の狭い重合体及びブロック共重合体を得るには、高度な重合制御機能が必要とされる。
リビングラジカル重合(制御ラジカル重合と称されることもある。)は、高度な重合制御機能を有し、分子量分布が狭い重合体及びブロック共重合体を得るための重合方法として有用である。
リビングラジカル重合としては、その重合機構により数種の重合方法が知られているが、中でも、重合中の連鎖移動が可逆的に進行する重合機構は、分子量分布が狭い重合体及びブロック共重合体を得るための重合方法として有用である。このような重合方法として、可逆的付加−開裂型連鎖移動(以下、「RAFT」という。)重合が提案されている(特許文献1)。
RAFT重合は、通常のラジカル重合に、連鎖移動剤として特定構造のチオカルボニルチオ化合物を併用することにより、重合中の連鎖移動を可逆的に進行させることを可能としている。RAFT重合による重合制御は、伸長中のラジカルが特定構造のチオカルボニルチオ化合物と反応して中間体ラジカル種を生成する変性連鎖移動メカニズムを介して達成されると考えられている。
RAFT重合は、金属触媒等を必要としないことから、得られる重合体から金属を除去する必要がないことを特徴とする。
RAFT重合では、特定構造のチオカルボニルチオ化合物を用いるが、その中でも、2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾアート(以下、「RAFT−1」という。)は、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル単量体等の多くの単量体に適用できる非常に有効なRAFT用連鎖移動剤(以下、「RAFT剤」という。)である。
Figure 0005114283
[Phはフェニル基を示す。]
RAFT−1の合成方法としては、フェニルグリニャール(Ph−MgBr)と二硫化炭素とから合成した中間体(フェニルジチオカルボン酸マグネシウムブロミド(Ph−C(=S)−S−MgBr))と、α−ブロモイソブチロニトリル(2−ブロモ−2−シアノプロパン)とを反応させる方法が提案されている(特許文献1の例9(第46頁))。
この方法は、フェニルグリニャールと二硫化炭素から合成した中間体を、そのまま次の段階の反応に用いることができる点が優れており、RAFT−1の製造法として最も適している。
しかしながら、特許文献1の方法で得られるRAFT−1は、収率が43質量%と低く、RAFT剤として使用するには、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等を用いて精製することが必要であった。
国際公開第98/01478号パンフレット
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、RAFT−1を高収率で製造でき、得られるRAFT−1を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等による精製を行なうことなくRAFT剤として使用できるRAFT−1の製造方法、及び該製造方法により得られたRAFT−1を用いる重合方法を提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意検討した結果、以下のことを見出した。
特許文献1の例9の方法では、J.Roczniki Chem.,1927年 7巻 74頁の記載に従い、アセトンシアンヒドリンに三臭化燐を添加する方法でα−ブロモイソブチロニトリルを合成している。しかし、この方法で得られるα−ブロモイソブチロニトリルは、不純物としてハロゲン化合物を多く含有しており、このハロゲン化合物が、得られるRAFT−1の収率を低下させていた。
不純物として含まれるハロゲン化合物の量を所定値以下に低減したα−ブロモイソブチロニトリルを原料として用いることにより、RAFT−1を高収率で得ることができる。
即ち、上記課題を解決する本発明の第一の態様は、不純物として含まれるハロゲン化合物の含有率が1%以下(但し、ガスクロマトグラフィー分析により検出されるピーク面積の合計を100%とする)のα−ブロモイソブチロニトリルと、フェニルジチオカルボン酸マグネシウムブロミドとを反応させるRAFT−1の製造方法である。
本発明の第二の態様は、可逆的付加−解裂型連鎖移動重合における連鎖移動剤として、請求項1又は2に記載の製造方法により得られるRAFT−1の未精製品を用いる重合方法である。
本発明のRAFT−1の製造方法によれば、RAFT−1を高収率で製造でき、得られるRAFT−1を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等による精製を行なうことなくRAFT剤として使用できる。
本発明の重合方法によれば、分子量分布が狭い重合体、又はブロック共重合体を効率良く重合することができる。
本発明において、RAFT−1を高純度で収率良く得るには、フェニルジチオカルボン酸マグネシウムブロミド(以下、「フェニルジチオカルボン酸MgBr」という。)と、α−ブロモイソブチロニトリル(以下、「BriB」という。)とを反応させる際に、BriBとして、不純物として含まれるハロゲン化合物(以下、「不純物X」ということがある。)の含有率が1%以下(但し、ガスクロマトグラフィー分析により検出されるピーク面積の合計を100%とする)のものを用いることが必要である。
ここで、「不純物X」は、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、弗素原子、沃素原子)を含み、かつα−ブロモイソブチロニトリルに該当しない化合物である。
BriB中の不純物Xの含有率は、ガスクロマトグラフィー分析により検出されるピーク面積値として求められる。具体的には、該含有率は、水素炎イオン化検出器(FID)を備えたガスクロマトグラフを用いて当該BriBについて分析した際に検出されるピークの全ピーク面積の合計(100%)に対する不純物Xのピーク面積の割合(%)として求められる。
該含有率が1%以下であれば、RAFT−1の収率が向上し、高純度のRAFT−1を得ることができる。そのため、得られたRAFT−1を、精製することなくRAFT剤として用いることができる。これは、当該含有率が1%以下であれば、BriBとフェニルジチオカルボン酸MgBrの反応において、不純物Xとフェニルジチオカルボン酸MgBrとの副反応が抑制されるためと考えられる。
一方、BriB中の不純物Xの含有率が1%を越えれば、BriBとフェニルジチオカルボン酸MgBrの反応において、不純物Xとフェニルジチオカルボン酸MgBrとの副反応が起こり、RAFT−1の収率が低下し、得られるRAFT−1の純度が低下する。純度の低いRAFT−1をRAFT剤として用いた場合には、重合を制御することが非常に困難となるため、これをRAFT剤として用いるには、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等による精製を行なうことが必要となる。
BriB中の不純物Xの含有率は、本発明の効果に優れることから、0.6%以下が好ましく、0.3%以下がより好ましい。該含有率の下限は、特に限定されず、0%であってもよいが、製造しやすさ、BriBの収率低下等を考慮すると、0.01%以上が好ましい。
不純物Xとして、具体的には、当該BriBを合成する際に用いられる四塩化炭素等の含ハロゲン溶媒が挙げられる。
不純物Xの含有率が1%以下のBriBを得るための方法としては、N−ブロモコハク酸イミド(以下、「NBS」という。)を用いて、イソブチロニトリルを溶媒中で臭素化する方法が適している。この方法は、臭素化後、濾過、洗浄、蒸留工程だけで不純物Xの含有率が1%以下のBriBを合成できるので、簡便な合成法として最も好ましい。
NBSを用いてイソブチロニトリルの臭素化を行なう反応において、NBSに対するイソブチロニトリルの使用量は、イソブチロニトリルの使用量と等モルであってもよいが、NBSを効率的に用いられることから、イソブチロニトリルを、NBSの使用量に対して1.5〜2倍モル使用することが好ましい。
臭素化反応の溶媒としては、NBSが分解して生成するコハク酸イミドの溶解性が低く、BriB(沸点:138〜140℃)との蒸留による分離が容易であり、且つ、NBSと反応しない脱水された溶剤であれば限定されず、たとえば四塩化炭素、四臭化炭素、ヘキサクロロエタン、テトラクロロエチレン等の含ハロゲン溶媒が挙げられる。これらの中でも、取扱い性及び沸点の観点から、四塩化炭素を用いることが好ましい。四塩化炭素を用いた場合、得られたBriB中に、不純物Xとして、四塩化炭素が含まれる。
溶媒の使用量は特に限定されないが、用いるイソブチロニトリルの質量に対して5〜10倍程度が好ましい。
また、臭素化反応を効率的に行なうには、NBS1モルに対して2〜4モルの2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」という。)を添加して上記反応を行なうことが好ましい。AIBNが無添加の場合、2〜3時間反応させても、反応がほとんど進行しない場合がある。
イソブチロニトリルの臭素化反応終了後、反応液の濾過を行なう。これにより、反応液からコハク酸イミドを除去できる。濾過方法は、減圧濾過であってもよく加圧濾過であってもよい。
次に、得られた濾液を洗浄する。洗浄は、重亜硫酸ナトリウムの5〜10質量%程度の水溶液を用いて行なうことが出来る。
洗浄後、常圧で蒸留を行なう。これにより、得られたBriBと、溶媒及び過剰のイソブチロニトリルとを分離することができる。
このとき、減圧で蒸留を行なうと、四塩化炭素等の溶媒と共にBriBが留出してしまうため、BriBの収率が低下してしまう。BriBと溶媒とを蒸留により効率よく分離するには、ビグリュー管、オールダーショー、充填塔等を用いることが好ましい。
上記BriBと反応させるフェニルジチオカルボン酸MgBrは、フェニルグリニャールと二硫化炭素とから合成できる。
また、フェニルグリニャールは、ブロモベンゼンを原料として用い、一般的なグリニャール試薬と同様の製法により調製できる。具体的には、アルゴンで置換してアルゴン雰囲気とした反応容器に、マグネシウムと、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒とを入れ、ここに沃素等の活性化剤を添加し、ブロモベンゼンのエーテル系溶媒溶液を滴下、反応させることにより調製できる。
これらの反応を行なう際、フェニルグリニャールの原料であるブロモベンゼン、反応に用いられる溶媒(THF等)、二硫化炭素を、それぞれ、脱水しておくことが好ましい。これにより、得られるフェニルジチオカルボン酸MgBrやRAFT−1の収率が向上する。脱水が不十分な場合、フェニルグリニャールと水との副反応や、フェニルジチオカルボン酸MgBrと水との副反応等により、フェニルジチオカルボン酸MgBrやRAFT−1の収率が低下するおそれがある。
また、フェニルグリニャールと二硫化炭素との反応時、及びフェニルジチオカルボン酸MgBrとBriBとの反応時においては、反応系内のアルゴン置換を充分に行なっておくことが好ましい。アルゴン置換が不充分で反応系内に空気が残存する場合、空気中の水分とフェニルグリニャール又はフェニルジチオカルボン酸MgBrとの副反応が生じて、フェニルジチオカルボン酸MgBrやRAFT−1の収率が低下するおそれがある。
フェニルグリニャールの調製において、ブロモベンゼンに対するマグネシウムの仕込みは、マグネシウムが酸化されている場合を考慮して3〜10モル%程度過剰に使用するのが一般的である。しかし、RAFT−1を合成する場合、過剰のマグネシウムが残存しているとブロモベンゼン等と反応して副生物を生成する可能性があることから、マグネシウムの仕込み量は、ブロモベンゼンの使用量(モル)に対して1〜5モル%過剰な量に留めることが好ましい。
フェニルグリニャールの生成反応が開始したら、反応を効率良く進行させるため、反応液へのブロモベンゼンの滴下速度は一定に保ち、反応温度が40〜45℃を保つようにすることが好ましい。
ブロモベンゼンの滴下速度が速すぎる場合、反応温度の制御が困難となり、副反応が生じるおそれがある。また、滴下速度が遅すぎる場合、生成したフェニルグリニャールと原料であるブロモベンゼンとが反応する副反応が生じ、結果としてRAFT−1の収率が低下する。
また、反応温度が45℃を超えると、反応温度の制御が困難となり、副反応が生じるおそれがあり、40℃を下回ると、生成したフェニルグリニャールと原料のブロモベンゼンとが反応する副反応が生じるおそれがある。
ブロモベンゼンの滴下が終了した後、反応を充分に進めるため、30〜60分程度、反応液を40〜45℃に保って熟成することが好ましい。
フェニルグリニャールと二硫化炭素との反応は、上記のようにしてフェニルグリニャールを合成した後、反応液をアルゴン雰囲気に保ちながら、40℃程度に反応液を暖めながら二硫化炭素を滴下することにより実施できる。このとき、二硫化炭素の滴下が始まると、内温が1〜2℃上昇するが、適宜冷却し、内温を40〜43℃に保つことが好ましい。
反応温度が高すぎる場合、二硫化炭素が蒸発し、フェニルジチオカルボン酸MgBrの収率、更にはRAFT−1の収率が低下するおそれがある。反応温度が低すぎる場合、フェニルグリニャールと二硫化炭素との反応が進行しにくく、RAFT−1の収率が低下するおそれがある。
二硫化炭素の使用量は、フェニルグリニャールの原料であるブロモベンゼンの使用量に対し、等モルから10モル%過剰な量であることが好ましい。
二硫化炭素の滴下が終了した後、反応を充分に進めるため、1〜2時間程度、反応液を40℃に保って熟成することが好ましい。
フェニルジチオカルボン酸MgBrとBriBとの反応は、アルゴン雰囲気下、フェニルジチオカルボン酸MgBrを合成した反応液中に直接BriBを滴下することにより行なうことが好ましい。該BriBは、フェニルグリニャールを合成する前に予め滴下ロートに仕込み、その内部をアルゴン置換しておくことが好ましい。
フェニルジチオカルボン酸MgBrとBriBとを反応させる際の反応温度は、53℃以上が好ましく、55〜60℃がより好ましい。前記特許文献1の例9では反応は50℃で実施するとしているが、50℃では反応が遅く、収率の向上効果が充分に得られないおそれがある。
反応時間は、特に限定されないが、15〜30時間であることが好ましい。反応時間が15時間未満である場合、未反応のBriB又はフェニルジチオカルボン酸MgBrが存在し、RAFT−1の収率が悪くなるおそれがある。反応時間が30時間以上である場合、反応の進行と共に塩が析出し、攪拌が困難となるおそれがある。より好ましい反応時間は、20時間から25時間の間である。
反応終了後、反応液中のRAFT−1を回収する。RAFT−1の回収は、公知の方法により実施できる。たとえば、反応液を冷却して氷水を加え、THF等の溶媒を留去した反応処理液に、ジエチルエーテル等のエーテル系溶剤を加えてRAFT−1をエーテル相に抽出する。
該エーテル相は、5〜10質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄することが好ましい。これにより、未反応のフェニルジチオカルボン酸MgBrと水との反応から生じるジチオ安息香酸を抽出、除去することができる。
次いで、該エーテル相を、飽和食塩水で洗浄してから無水硫酸マグネシウム等で乾燥し、濾過後に濾液を減圧で濃縮することでRAFT−1を得ることができる。
上記の製造方法によれば、RAFT−1を高収率(たとえば90質量%以上)に製造できる。
このRAFT−1は、そのまま、精製することなく、RAFT剤としてRAFT重合に供することが可能である。
次に、本発明の重合方法について説明する。
本発明の重合方法は、RAFT重合における連鎖移動剤(RAFT剤)として、本発明の製造方法により得られたRAFT−1の未精製品を用いること以外は公知のRAFT重合と同様の方法により実施できる。
本発明において、「RAFT−1の未精製品」とは、本発明の製造方法により得られたRAFT−1の、精製処理を施されていないものを意味する。
ここでいう、「精製処理」とは、前述の抽出、洗浄、濾過等の処理では除けない成分の分離・除去を意味する。
精製方法として具体的には、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーによる分取、蒸留精製、晶析、再結晶等が挙げられる。
本発明のRAFT重合に用いられるRAFT−1の使用量は、重合させようとする単量体の合計量1モルに対し、0.00005〜1モルが好ましい。
本発明の重合方法においては、ラジカル重合可能な単量体であれば、RAFT重合することが可能である。ただし、第一級アミン又は第二級アミン基を有する単量体を用いた場合、RAFT重合だけでなく、RAFT−1と第一級アミン又は第二級アミン基との反応が競争反応として生じ、結果としてRAFT剤の分解が生じるため、好ましくない。
以上の点から、本発明においてRAFT重合により重合させる単量体として、好ましいものとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸、フマル酸等のα,β−不飽和カルボン酸又はそのエステル;ブタジエン、イソプレン等のジエン化合物;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有ビニル単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有ビニル単量体;スチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体が挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
RAFT重合において、RAFT−1とともに、ラジカル重合開始剤が用いられる。単量体と、ラジカル重合開始剤により発生するラジカルとの反応生成物が重合制御剤となって、単量体の重合が進行すると考えられる。
両者の併用割合は特に限定はないが、RAFT−1 1モルに対し、ラジカル重合開始剤0.1〜10モルが適切である。
ラジカル重合開始剤としては、種々の化合物を使用することができるが、重合温度条件下でラジカルを発生し得る有機過酸化物及び/又はアゾ化合物が好ましい。
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド;ジクミルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のアルキルパーエステルが挙げられる。これらの中では、ベンゾイルパーオキシドが好ましい。
アゾ化合物としては、例えば、AIBN、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。
RAFT重合は、無溶媒中で(塊状重合)行なってもよく、各種の溶媒中で行なってもよい。
溶媒としては、例えば、トルエン等の炭化水素系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;水溶液を用いることができる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合は、室温〜200℃の範囲、好ましくは50〜150℃の範囲で行なうことができる。
RAFT重合により得られる重合体の数平均分子量は、用いる用途によって適宜決定することができ、特に限定されないが、得られる重合体の取扱い性の観点から、その数平均分子量が1000〜1000000であることが好ましい。数平均分子量が1000以上であれば、取扱い性が良好であり、1000000以下であれば、成形性が良好である。
また、該重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.0〜2.0が好ましく、1.0〜1.8がより好ましい。
本発明の製造方法により得られたRAFT−1は、純度が高いため、精製することなく、RAFT剤としてRAFT重合に使用することが可能である。
純度の低いRAFT−1を精製することなくRAFT重合に用いて場合、得られる重合体の分子量分布が広くなったり、単量体の重合転化率から計算された理論上の分子量と実測の分子量が大きく異なったりするという不具合が生じるが、本発明の重合方法においては、RAFT−1を精製しないにも関わらず、これらの不具合を生じることなく、分子量分布の狭い重合体を製造できる。
従って、本発明の重合方法により得られた重合体は、各種用途に使用することができる。該用途としては特に限定されないが、例えば、分子量分布が狭いことを利用した塗料用組成物、ブロックポリマーが合成可能であることを利用した熱可塑性組成物、熱又は光による硬化性組成物、粘着剤用組成物、接着剤用組成物、更には、フィルムやシート等の成形材料が挙げられる。
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
以下の各実施例及び比較例においては、以下の(1)〜(4)の各種測定を行なった。
(1.BriBのガスクロマトグラフィー(GC)分析)
GC分析を以下の分析条件により行ない、そのピーク面積比から、BriBの純度及びBriBに含まれる不純物の濃度を求めた。
カラム :キャピラリーカラムDB−1(ジーエルサイエンス(株)製、カラム長:30m、カラム内径:0.53mm、キャピラリー内フィルム厚:5μm)。
キャリアガス:ヘリウム。
カラム温度 :50℃で3分保持、10℃/分で昇温、200℃で10分間保持。
注入口温度 :220℃。
検出器温度 :220℃。
検出器 :FID。
(2.重合転化率)
重合転化率は、H−NMRにより求めた。分析条件は以下の通り。
装置:JNM−EX270(日本電子(株)製)。
溶媒:重クロロホルム。
メタクリル酸メチルとアクリル酸n−ブチルの重合では、重合体と単量体由来のアルコキシル基の水素と、単量体由来のC−C二重結合の水素のピークの積分比から計算した。
スチレンの重合では重合体と単量体由来のベンゼン環の水素と、単量体由来のC−C二重結合の水素のピークの積分比から計算した。
(3.重合体の数平均分子量及び分子量分布)
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ポリメタクリル酸メチルをスタンダードとしてゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
装置 :HLC−8220(東ソー(株)製)
カラム :TSK GUARD COLUMN SUPER HZ−L(東ソー(株)製、4.6×35mm)、TSK−GEL SUPER HZM−N(東ソー(株)製、6.0×150mm)×2直列接続。
溶離液 :クロロホルム。
測定温度:40℃。
流速 :0.6mL/分。
(4.RAFT−1の収率)
ブロモベンゼンの使用量から換算したRAFT−1の理論生成量を100質量%として収率を求めた。
(実施例1:RAFT−1−1の製造)
冷却管、温度計を備えた3000mlの四口フラスコに、四塩化炭素1790g、NBS275g(1.5mol)、イソブチロニトリル121.9g(1.75mol)、AIBN3.75gを投入し、オイルバスにてバス温を85℃になるまでゆっくりと昇温させた。
10時間還流してNBSの分解物の結晶が浮いてきたので反応を終了し、反応液を冷却した。
減圧濾過でコハク酸イミドを除去した濾液を、重亜硫酸ナトリウム10質量%水溶液で洗浄し、更に水で洗浄してから硫酸マグネシウムで乾燥した。
硫酸マグネシウムを濾別した後、反応液を常圧にて蒸留した。
102〜130℃の留分を集めると、BriBが175g得られた。
GC分析の結果、上記BriBの純度は92.5%であり、不純物として、イソブチロニトリル:7.2%、四塩化炭素:0.1%、AIBNの分解物(2,3−ジシアノ−2,3−ジメチルブタン):0.2%が含まれていた。
次に、風船を付けた冷却管、温度計を備えた2000mlの四口フラスコに、マグネシウムを24.3g(1.0mol)、脱水THFを750ml、沃素0.1gを投入した。次いで、ブロモベンゼン158g(1.0mol)を入れた滴下ロート、及び、先に合成したBriB161g(純度92%として1.0mol)を入れた滴下ロートをフラスコにセットし、反応系内をアルゴンで置換した。
室温でブロモベンゼンの20質量%を滴下すると、反応が開始して内温が上がってきたのでフラスコを氷浴で冷却し、反応液を40℃に保つように残りのブロモベンゼンを滴下した。
滴下終了後、氷浴を外し、反応液を37〜40℃で1時間攪拌した。その後、ブロモベンゼンのなくなった滴下ロートにシリンジで二硫化炭素61ml(1.0mol)を投入し、40℃のオイルバスで加温しながら内温が42℃を超えないようにゆっくり二硫化炭素を滴下した。
滴下終了後、38〜40℃で60分間保持した後、オイルバスに浸けたままBriBを滴下した。
BriB滴下終了後、内温(反応温度)を56℃に昇温させ、24時間攪拌を続けた。
24時間後に反応液中に氷水を投入し、反応液を減圧で濃縮し、THF約500mlを留去してからジエチルエーテル1500mlで2回抽出した。
抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮すると、225gのRAFT−1−1(粗生物)が得られた(収率100質量%)。
このRAFT−1−1(粗生物)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(粗生物の10倍量のシリカゲルを用い、ジエチルエーテル:ヘキサン=1:20(vol/vol)の混合溶媒で流出)で精製し、162.5gのRAFT−1−1(精製品)を得た(収率72質量%)。
結果を表1に示す。
(実施例2:RAFT−1−2の製造)
蒸留する際に110〜142℃の留分を集めた以外は実施例1と同様に行ない、BriBを得た。
GC分析の結果、上記BriBの純度は92.0%であり、不純物として、イソブチロニトリル:6.3%、四塩化炭素:0.4%、AIBNの分解物(2,3−ジシアノ−2,3−ジメチルブタン):1.3%が含まれていた。
このBriBを用い、BriB滴下終了後に内温を53〜55℃に昇温させたこと以外は、実施例1と同様にしてRAFT−1の製造を行なった。
その結果、210gのRAFT−1−2(粗生物)が得られた(収率95質量%)。
このRAFT−1−2(粗生物)を、実施例1と同様、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、157.6gのRAFT−1−2(精製品)を得た(収率71質量%)。
結果を表1に示す。
(比較例1:RAFT−1−3の製造)
蒸留する際に90〜130℃の留分を集めた以外は実施例1と同様に行ない、BriBを得た。
GC分析の結果、上記BriBの純度は90.5%であり、不純物として、イソブチロニトリル:8.0%、四塩化炭素:1.2%、AIBNの分解物(2,3−ジシアノ−2,3−ジメチルブタン):0.3%が含まれていた。
このBriBを164.5g(純度90%として1.0モル)用い、BriB滴下終了後に内温を50℃に昇温させたこと以外は、実施例1と同様にしてRAFT−1の製造を行なった。
その結果、94.4gのRAFT−1−3(粗生物)が得られた(収率47質量%)。
このRAFT−1−3(粗生物)を、実施例1と同様、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、60.5gのRAFT−1−3(精製品)を得た(収率30質量%)。
結果を表1に示す。
(比較例2:RAFT−1−4の製造)
BriB滴下終了後に内温を53℃に昇温させたこと以外は、比較例1と同様にしてRAFT−1の製造を行なった。
その結果、176.7gのRAFT−1−4(粗生物)が得られた(収率88質量%)。
このRAFT−1−4(粗生物)を、実施例1と同様、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、60.3gのRAFT−1−4(精製品)を得た(収率30質量%)。
結果を表1に示す。
Figure 0005114283
(実施例3:RAFT−1−1(粗生物)を用いたRAFT重合)
50mLシュレンクに、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」という。)10.7g(0.107mol)、トルエン10.7g、及び実施例1で得られたRAFT−1−1(粗生物)75mg(0.34mmol)を投入し、窒素バブリングにより雰囲気を窒素置換した。
次いで、AIBN28mg(0.17mmol)を添加した後、内温が65℃になるまで昇温させ、6時間保持し重合を行なった。
6時間後、重合温度を低下させ、室温まで下げた。
得られた重合溶液を用い、H−NMR測定及びGPC測定を行なった。H−NMR測定により重合転化率を求めると54質量%であった。また、GPC測定結果より、得られたポリメタクリル酸メチル(以下、「PMMA」という。)のMnは17,600、Mw/Mnは1.23であった。
結果を表2に示す。
(実施例4:RAFT−1−1(粗生物)を用いたRAFT重合)
MMA10.7g(0.107mol)及びトルエン10.7gの代わりに、アクリル酸n−ブチル(以下、「nBA」という。)13.7g(0.107mol)及びトルエン13.7gを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、ポリアクリル酸n−ブチル(以下、「PnBA」という。)を得た。
6時間後の重合転化率は46質量%であり、得られたPnBAのMnは17,000、Mw/Mnは1.33であった。
結果を表2に示す。
(実施例5:RAFT−1−1(粗生物)を用いたRAFT重合)
MMA10.7g(0.107mol)及びトルエン10.7gの代わりに、スチレン(以下、「St」という。)11.1g(0.107mol)及びトルエン11.1gを用いたこと、重合温度を90℃にしたこと以外は、実施例3と同様にして、ポリスチレン(以下、「PSt」という。)を得た。
6時間後の重合転化率は33質量%であり、得られたPStのMnは8,200、Mw/Mnは1.25であった。
結果を表2に示す。
(参考例1:RAFT−1−1(精製品)を用いたRAFT重合)
RAFT−1−1(粗生物)75mg(0.34mmol)の代わりに、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製後のRAFT−1−1(精製品)75mg(0.34mmol)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、PMMAを得た。
6時間後の重合転化率は57質量%であり、得られたPMMAのMnは16,100、Mw/Mnは1.22であった。
結果を表2に示す。
(比較例3:RAFT−1−3(粗生物)を用いたRAFT重合)
RAFT−1−1(粗生物)75mg(0.34mmol)の代わりに、比較例1で合成したRAFT−1−3(粗生物)75mg(0.34mmol)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、PMMAを得た。
6時間後の重合転化率は32質量%であり、得られたPMMAのMnは15,500、Mw/Mnは1.45であった。
結果を表2に示す。
Figure 0005114283
表1から明らかなように、実施例1、2で得られたRAFT−1は、比較例1、2で得られたRAFT−1よりも収率が高く、該収率は、特に精製前において非常に高いものであった。これらの結果から、BriB中に含まれる不純物Xが少ないことが非常に有効であることが確認できた。
また、表2から明らかなように、不純物Xの含有率が1%以下のBriBを用いて合成したRAFT−1を用いることにより、カラムクロマトグラフィーによる精製前の粗生物を用いた場合でも、実施例3〜5に示すように、非常に分子量分布の狭いPMMA、PnBA、及びPStが得られた。この結果は、カラムクロマトグラフィーによる精製後のRAFT−1による重合結果である参考例1と比較しても遜色ない結果であり、この結果から、本発明の製造方法により得られるRAFT−1が、RAFT剤として用いる際に精製の手間が必要ないことが確認できた。
本発明の製造方法は、MMA等のRAFT重合に用いられるRAFT剤として有用な2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾアートを高純度で収率良く合成することが可能である。特に、フェニルジチオカルボン酸マグネシウムブロミドにα−ブロモイソブチロニトリルを反応させる反応を53℃以上で行なうことによって、2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾアートの収率を大幅に向上できる。

Claims (3)

  1. 不純物として含まれるハロゲン化合物の含有率が1%以下(但し、ガスクロマトグラフィー分析により検出されるピーク面積の合計を100%とする)のα−ブロモイソブチロニトリルと、フェニルジチオカルボン酸マグネシウムブロミドとを反応させる2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾアートの製造方法。
  2. 前記α−ブロモイソブチロニトリルとフェニルジチオカルボン酸マグネシウムブロミドとを反応させる際の反応温度が53℃以上である請求項1に記載の製造方法。
  3. 可逆的付加−解裂型連鎖移動重合における連鎖移動剤として、請求項1又は2に記載の製造方法により得られる2−シアノプロプ−2−イルジチオベンゾアートの未精製品を用いる重合方法。
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