JP2004211134A - 変形特性に優れた高強度テーラードブランク材料 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】残留オーステナイト分率が2体積%未満で強度が650MPa以上である高強度鋼板と、残留オーステナイトが2%以上の変態誘起塑性型鋼板との異種材料を接合したテーラードブランク材料であり、前記高強度鋼板同士を接合したテーラードブランク材料よりも延性または成形性が良好なものである。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的特性の異なる2種以上の金属材料を溶接接合したテーラードブランク材料に関するものであり、殊に溶接継ぎ手部を含む材料全体の変形特性の改善を図ったテーラードブランク材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車等の車体軽量化と衝突安全性の向上を目的に開発された高強度鋼板のなかで、残留オーステナイト(準安定オーステナイト)の変態誘起塑性(TRIP)を有効に利用したTRIP型複合組織鋼板(以下、「TDP鋼板」と呼ぶことがある)は特に優れたプレス成形性を有することが知られている。
【0003】
また自動車等のフレームにおいては、各部分によって要求される強度や異なることがあり、こうした背景の下で機械的特性の異なる金属材料を溶接によって接合して一体化する必要が生じる。このような異種材料接合部材は、テーラードブランク材料と呼ばれている。こうしたテーラードブランク材料は、一体化した後プレス成形されるものであるが、プレス成形性が素材鋼板よりも劣化し、母材や溶接部で破断が生じるという問題がある。
【0004】
こうした問題を解決するために、例えば接合する異種金属の夫々の加工硬化指数(n1,n2)の比(n1/n2)を適切な範囲内に制御することによって、溶接によるブランク材料の成形性劣化を抑制する技術も提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、高強度側の金属材料の強度が650MPaを超え、且つ素材鋼板の溶接性が劣化するような状況下(例えば、高強度化のために炭素当量を大きくすると溶接性が劣化する)では、テーラードブランク材全体の溶接性が劣化することになり、高延性化や高成形性を実現することは困難であった。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−222643号公報 特許請求の範囲
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、こうした状況の下でなされたものであって、その目的とするところは、溶接継ぎ手部を含む材料全体の変形特性の向上を図ったテーラードブランク材料を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明のテーラードブランク材料とは、残留オーステナイト分率Vγが2体積%未満で強度が650MPa以上である高強度鋼板と、残留オーステナイト分率Vγが2%以上の変態誘起塑性型鋼板との異種材料を接合したテーラードブランク材料であり、前記高強度鋼板同士を接合したテーラードブランク材料よりも延性または成形性が良好なものである点に要旨を有するものである。
【0009】
上記テーラードブランク材料にいては、前記高強度鋼板および変態誘起塑性型鋼板における下記(1)式で示される炭素当量Ceqがいずれも0.55質量%以下であると共に、両者の前記炭素当量Ceqの平均値が0.42〜0.50質量%の範囲内にあり、且つ両者の残留オーステナイト分率Vγの平均値:1〜8体積%、残留オーステナイト中の炭素濃度の平均値:0.6〜1.2質量%であることが好ましい。
【0010】
Ceq=[C]+1/6[Mn]+1/24[Si] ‥(1)
但し、[C],[Mn]および[Si]は、夫々C,MnおよびSiの含有量(質量%)を示す。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、上記課題を解決し得るテーラードブランク材料の構成について様々な角度から検討した。その結果、単一材料としては高強度高延性であるTRIP鋼板と汎用されている高強度鋼板(例えば、汎用高張力鋼板)をブランキングすれば、TRIP鋼板における歪誘起変態を有効に活用でき、テーラードブランキング材料全体としての延性や成形性が改善できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
特に、本発明のテーラードブランク材料によれば、その一方の高強度鋼板同士を接合したテーラードブランク材料よりも延性または成形性が更に良好なものになるという、これまでには全く予期されることがなかった特性が発揮できたのである。
【0013】
本発明によってこうした効果が得られた理由については、その全てを解明し得た訳ではないが、おそらく次のように考えることができた。即ち、TRIP鋼の長所である高延性を生かしつつ、短所である溶接性を残留オーステナイト分率Vγが2体積%未満の複合組織鋼(Dual−phase steel)の低炭素当量Ceq材と掛け合わせることで、溶接部(ビード)強度を過度に硬くせずにできたことでテーラードブランク材として最適な構造が可能となり、これによって良好な成形性が達成されたものと推察できる。
【0014】
本発明で用いるTRIP鋼板は、その良好な成形性を確保するために、残留オーステナイト分率Vγは2体積%以上を確保する必要がある。これに対して、TRIP鋼板にブランキングする高強度鋼板については、その要求される特性を考慮してその強度を650MPa以上とすると共に、残留オーステナイト分率Vγを2体積%未満とする必要がある。この高強度鋼板の残留オーステナイト分率Vγが2体積%以上となると、残留オーステナイト分率Vγを高めるために必然的に炭素当量Ceqが高くなってしまい(C,Si,Mnを或る程度必要になる)、テーラードブランク材としての延性、成形性が劣化する。
【0015】
上記のような特性を発揮することのできる本発明のテーラードブランク材料を実現するための具体的な要件としては、夫々の素材鋼板の炭素当量Ceq、両者(高強度鋼板とTRIP鋼板)の炭素当量Ceqの平均値、両者の残留オーステナイト分率Vγの平均値、残留オーステナイト中の炭素濃度の平均値等を適切に制御することが好ましい。これらの要件における好ましい範囲およびその理由は下記の通りである。
【0016】
夫々の鋼板の炭素当量Ceqがいずれも0.55質量%以下
この炭素当量Ceqは、余り高くなると鋼板そのものの溶接性が劣化することは知られているが、本発明のテーラードブランク材料においては、その溶接性を確保するという観点から、上記炭素当量Ceqは0.55質量%以下に制御することが好ましい。即ち、この炭素当量Ceqが、被接合材のいずれかで0.55質量%を超えると、テーラードブランク材料の溶接性が劣化することになる。この炭素当量Ceqのより好ましい範囲は、いずれも0.45質量%以下である。尚、この炭素当量Ceqの下限については、特に限定されるものではないが、後述する炭素当量Ceqの両者の平均値を適切な範囲に制御することによって、自ずと決まってくる。
【0017】
両者の炭素当量Ceqの平均値が0.42〜0.50質量%
前記炭素当量Ceqが全体的に高くなると延性を発現するために必要な残留オーステナイト分率が十分に高くなるが、接合部分(ビード)の溶接性が悪くなり、結果的にブランク材としての延性が劣化することになる。また、全体的な炭素当量Ceqが低くなると、溶接性は良くなるが、延性発現に必要な残留オーステナイトが十分に確保できず、ブランク材としての延性が劣化する。こうした観点から、両者(例えば、被接合材としての高張力鋼板とTRIP鋼板)の炭素当量Ceqの平均値を適切な範囲内に制御することが好ましい。即ち、テーラードブランク材料における溶接性を確保しつつ良好な延性や成形性を得るためには、両者の炭素当量Ceqの平均値が0.42〜0.50質量%の範囲となるように制御することが好ましい。
【0018】
両者の残留オーステナイト分率Vγの平均値:1〜8体積%
上述の如く、TRIP効果によるブランク材の成形性を確保するためには、全体的な炭素当量Ceqを適切な範囲に制御して、適切な量の残留オーステナイト量の範囲にする必要がある。こうした観点からして、両者の残留オーステナイト分率Vγの平均値は1〜8体積%の範囲とすることが好ましい。
【0019】
残留オーステナイト中の炭素濃度Cγの平均値:0.6〜1.2質量%
残留オーステナイト中の炭素濃度Cγが全体的に高くなると、溶接部の強度が高くなり過ぎて、テーラードブランク材としての延性、成形性が劣化する。低くなりすぎると残留オーステナイトが不足して、溶接部以外の延性、成形性が劣化し、この場合においても結果としてテーラードブランク材の延性、成形性を劣化させることになる。こうしたことから、両者の上記炭素濃度Cγの平均値は、0.6〜1.2質量%の範囲とすることが好ましい。
【0020】
本発明のテーラードブランク材料における被接合材は、TRIP鋼板と高強度鋼板である。このうち、650MPa以上の強度を有する高強度鋼板は、基本的には溶接構造物として汎用されている高張力鋼(ハイテン)を想定したものであり、この鋼板は上記の強度を有する他、溶接性、低温靭性、耐候性の点で優れた特性を発揮するものである。またその化学成分組成は、通常の基本成分(C:0.06〜0.25%、Mn:0.5〜2.5%、Si:0.2〜2.0%程度)の他、Nb,V,Ti,Ni等の強度向上元素を含んでいるものであっても良い。
【0021】
一方、変態誘起塑性鋼板(TRIP鋼板)は、TRIP型複合組織鋼板(TDP)が最も代表的なものとして挙げられるが、このTRIP鋼板は変態誘起塑性現象を利用できるものであれば、例えばベイナイト母材型や焼戻しマルテンサイト型、或はそれらとポリゴナルフェライト型との複合型のTRIP鋼板であっても適用できるものである。また、このTRIP鋼板の化学成分組成は、これまで一般的に知られているものであれば適用できるが、代表的なものとしてはC:0.01〜0.25%、Mn:0.5〜3.0%、Si:0.5〜2.5%の他、Ni,Cr,Mo等を所定量(例えば、夫々1%程度)含んでいるものが挙げられる。
【0022】
上記の両接合材を接合するための溶接方法については、被接合材を相互に接合できる方法であれば特に限定するものではなく、後記実施例に示したレーザ溶接法(例えば、YAGレーザ法)の他、シーム溶接法、アーク溶接法、電子ビーム溶接法のいずれも採用できるものである。
【0023】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0024】
【実施例】
実施例1
下記表1に示す化学成分組成を有する供試材を用い、各種組み合わせて(下記表2)突合せ溶接し、その機械的特性について調査した。尚、下記表1中、MSは通常の軟鋼であり、TDP1〜3は冷延まま鋼板に(2相焼きなまし+オーステンパ処理)を施し、フェライト+ベイナイト+残留オーステナイト(γR)の3相組織としたTRIP鋼板である。また、MDP0は、残留オーステナイト(γR)を含まないフェライト・複合組織鋼板であり、MDP4は同複合組織鋼板を400℃で焼き戻した鋼板である。また残留オーステナイト分率Vγ、残留オーステナイト中の炭素濃度CγについてはX線回折によって決定した。
【0025】
このときの突合せ溶接は、熱処理後の各素材をファインカッターにより切断し、パルスYAGレーザ加工機によって溶接した。このときの加工条件は、下記の通りである。
【0026】
(レーザ溶接加工条件)
パルスエネルギー:6J/P
パルス幅:3.8ms
パルス繰り返し数:45Hz
平均出力:270W(最大平均出力350W、最大ピーク出力4.5kW)
溶接方法:片側溶接(I型開先)
溶接速度:100〜900mm/min
シールドガス:N2
【0027】
【表1】
【0028】
得られた各接合材(テーラードブランク材)について、引張試験を行なって機械的特性を測定すると共に、張出し試験を行って成形性について評価した。このときの引張試験条件および張り出し試験条件は、下記の通りである。
【0029】
(引張試験条件)
図1に示すJIS13号B材試験片を用い(標点距離:50mm、幅:12.5mm)、溶接線(ビード部)に対して垂直な方向で引張試験を行い、機械的特性(引張強度TS、伸びEL)を測定した。このときの試験機は、インスロン型万能試験機を用い、クロスヘッド速度:1mm/minとした。
【0030】
(張出し試験条件)
張り出し試験の状態を図2[図2(a)は試験装置の断面図、同(b)は試験片の平面図]に示す。2種類の鋼板を接合(ビード部)した試験片を用い、張り出し試験装置によって、室温(25℃)にてパンチで変形(変形速度1mm/min)したときに、破断するまでの高さ(最大張出し高さ:Hmax)によって評価した。
【0031】
その結果を、組織因子(被接合材の平均Vγ、平均Cγ、平均Ceq)と共に下記表2に示す。尚、表2のNo.1〜6のものは、素材鋼板をそのまま(接合せず)、引張試験および張出し試験を行った結果(前記表1と同じ)を示したものである。
【0032】
【表2】
【0033】
この結果から明らかなように、TDP1〜3とMDP0,4を接合したテーラードブランク材料(No.8〜12)では、TDP(TRIP鋼板)同士のものに比べて、成形性(Hmax)および延性(伸びEL)のいいずれも良好な値を示していることが分かる。特に、残留オーステナイト分率Vγ、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγおよび炭素当量Ceqが本発明の好ましい範囲を満足するもの(No.8,9,11)では、一方の被接合材(MDP0、MDP4)に比べて、延性および成形性のいずれかが更に向上していることが分かる。
【0034】
実施例2
上記表2に示したNo.8のサンプルを用い、試験実施温度(変形温度)を変化させて張り出し試験を行った。その結果を、下記表3に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
まず、変形温度が−50℃および300℃のものでは(No.13および20)、TS×Hmaxの値が3600未満となっているが、それ以外の変形温度では3600以上の優れた値が得られていた。
【0037】
この結果から、本発明のテーラードブランク材の加工に際しては、−50℃超〜300℃未満、好ましくは−25℃〜275℃、更に好ましくは0℃〜250℃の範囲を採用するのが良いことが分かる。
【0038】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、溶接継ぎ手部を含む材料全体の変形特性の向上を図ったテーラードブランク材料が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】引張試験片の形状を示す概略説明図である。
【図2】張り出し試験の状態を示す概略説明図である。
Claims (2)
- 残留オーステナイト分率Vγが2体積%未満で強度が650MPa以上である高強度鋼板と、残留オーステナイト分率Vγが2%以上の変態誘起塑性型鋼板との異種材料を溶接接合したテーラードブランク材料であり、前記高強度鋼板同士を接合したテーラードブランク材料よりも延性または成形性が良好なものであることを特徴とする変形特性に優れた高強度テーラードブランク材料。
- 前記高強度鋼板および変態誘起塑性型鋼板における下記(1)式で示される炭素当量Ceqがいずれも0.55質量%以下であると共に、両者の前記炭素当量Ceqの平均値が0.42〜0.50質量%の範囲内にあり、且つ両者の残留オーステナイト分率Vγの平均値:1〜8体積%、残留オーステナイト中の炭素濃度の平均値:0.6〜1.2質量%である請求項1に記載の高強度テーラードブランク材料。
Ceq=[C]+1/6[Mn]+1/24[Si] ‥(1)
但し、[C],[Mn]および[Si]は、夫々C,MnおよびSiの含有量(質量%)を示す。
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