JP2004203855A - アレルギー性鼻炎・結膜炎あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療法 - Google Patents

アレルギー性鼻炎・結膜炎あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療法 Download PDF

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Abstract

【課題】アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症など)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療剤の提供、および該予防・治療剤のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症など)の予防・治療法、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療法、川崎病の予防・治療法を開発する手段として、ほくろ・母斑の生成系を促進する方法。ほくろが目立つ人に花粉症になる人が殆どおらず、ほくろのほとんど目立たない人に花粉症に罹る人が多いという、相関関係がある。この知見を利用することにより花粉症等アレルギー疾患の予防又は治療法、治療剤、又は健康食品が提供される。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症など)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療剤、又は健康食品の提供、および該予防・治療剤、又は健康食品の選抜方法を提供する。
【0002】
【従来の技術】
花粉症に罹患する日本人の人口が、年々増加し、特に10台半ば以降の若い層の罹患が多く、学業や、生産活動や社会活動等の日常活動に花粉症は、大きな障害になってきており、卑近な疾患として(非特許文献1によると、全国平均で16.2%)、社会問題化してきている。花粉症の治療法は、症状を改善する対症療法が主であったが、近年、例えば、スギ花粉の抗原蛋白質のT細胞エピトープの決定にともない、原因療法的な減感作療法のペプチド治療法の臨床治験が開始されてきている。また、Th2型T細胞からのサイトカインの産生を抑制し、あるいはTh1型T細胞の活性化を誘導する、DNAワクチン投与法も検討されている(特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】
中村昭彦:花粉症の全国調査、JOHNS 2002 Vol.18No.1 8−11
【特許文献1】
WO98/20902
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
花粉症の発症には、先天的な遺伝的体質と後天的なスギ花粉抗原の暴露量・暴露時間が関与していると言われており、花粉症予防・治療法の開発には、個々人の花粉症への罹りやすさ・罹りにくさ、免疫反応性の差異の検討と、しかるべきパラメーターの探索が必要である。
従って、本発明の目的は、かかるパラメーターを探索して、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症など)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療剤の提供、および該予防・治療剤のスクリーニング方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
一般に、ある病気への罹りやすさや抵抗性の疫学的研究で、世界的に例えば、高塩食を摂取する地方に高血圧患者が多いとか、青みの魚を常食とする地方に、動脈硬化症の患者が少ないとかの報告がある。
ある病気への抵抗性をもつ人々の食事成分を吟味することもさることながら、本発明者は、ある病気への抵抗性を持つそれら人々の共通項を見出し、遺伝学的、生化学的、病理学的背景等を究明・探索することの方が、より生理学的な意味・意義があり、その原理の理解、即ち、本来的に持つその体質の理解の知見を得て、利用することの方が、疾患のより本質的な、原因療法的な治療法の開発に道を開くことになると考える。
【0006】
本発明者は、自身が花粉症にかかりにくい体質であることを自覚している。本発明者は、本発明者自身もそうであるが、「後天性色素細胞母斑であるほくろ・母斑が顔面や首筋(頭頚部)、腕等の太陽光等を日常的に浴びる身体部位に、目立つ人、即ち、数が少なくても顕著なほくろ・母斑のある人、あるいは小さなほくろ・母斑が数多くある人」(ほくろ+群と略記する)に花粉症になる人が殆どいないこと、その逆に「ほくろ・母斑がこれら部分にないか、殆ど、目立たない人」(ほくろ−群と略記する)に花粉症に罹る人が多いことに気がついてきた。
【0007】
この知見をより確実にするため、本発明者は、会合で会う人や、電車、駅等、交通機関で会う人と直接に、花粉症等アレルギーの発生状況についての話題で、会話をしながら、同時にその人の顔面等のほくろ・母斑の存在状態を目視で、観察した。
この野外調査において、上記のほくろ+群とほくろ−群という、典型例を、重点的に選び、知見を収集したところ、ほくろ+群85例中、5名のみ、花粉症になった経験があるとのことであった。他方、ほくろ−群30例中、全例が花粉症等アレルギー疾患(1例は、ハウスダストにも反応するとのこと)に罹患しているという顕著な相関性を示す事実が存在することが明らかになった。
【0008】
これら2つの典型的な群(ほくろ+群とほくろ−群)の間に属するような群の人々、即ち、簡単な目視では、ほくろが少しはあるとか、ほくろが目立つかどうか判断しにくい群を、境界群、中間群として最初の観察対象からは除いた。これらに属する人々については、正確な統計をとるための大規模な調査が必要であり、また胴体や足部分のほくろ・母斑についての調査も必要ではあるが、少なくも、このような典型的な群同士比較の115例の検討が、本発明者の知る限り、学術雑誌の掲載論文や学会報告で、これまで、研究者によってなされていなかった現状においては、1,000例規模の例数がなくても、本発明は最初の報告としての価値があると考えられる。
【0009】
本発明者の上記知見の対象の人々115名(男40名女75名)の年齢は、17歳以上60歳までで、そのうち20代以下の人々が、70名で61%である。
この知見をもとに、本発明者は、各地の協力者に、この事実を伝え、特に、花粉症に罹患している人々につき、ほくろ・母斑の有無、数等につき、調査を依頼したところ、花粉症に罹患している人々は、ほくろ・母斑が頭頚部分にないか、殆ど、目立たない人が殆どであることが、明確に実証された。
これら、文献未知の顕著な、事実から、「ほくろ・母斑の目立つヒトは、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)等に抵抗性である」ということができる。この知見は、「ほくろ・母斑ができない人、できにくい人(ほくろ・母斑の生成系の弱い人)は、花粉症になり易い」あるいは、「ほくろ・母斑の生成系と、花粉症の発症系とは、競合している」あるいは、「ほくろ・母斑は、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)の発症を遅らせる」とも言える。
【0010】
一方、花粉症は、ほくろ・母斑のでき方の遅い人(ほくろ・母斑の生成系の弱い人)に好発はするが、今後、花粉症罹患患者は、ほくろ・母斑が殆どないか、少ない人の日本の人口における割合までは、増加してゆくものの、そこで、頭打ちとなるものと予想される。頭打ち状態になるまでは、ほくろ・母斑の殆どないか、少ない人は、花粉症罹患想定患者の予備軍的存在であるといえ、まだ発症していない、そのような人は、ほくろ形成体質に、いくらかでももってゆくような工夫・対策、皮膚細胞等の活性化などの、予防策を考案し、予防手段をとる必要があると考えられる。
【0011】
ほくろ・母斑を面積的に大きく持つ人の体質、遺伝学的背景、免疫系・リンパ球反応性、代謝・生化学・内分泌学的反応性が、外来の花粉抗原を叩く(排除する)か、花粉症を起こす生体反応の複数のどこかのプロセスを抑制し、発症抵抗性を与えていると考えられる。本発明者は、ほくろ・母斑を量的に持つ人が、ほくろ・母斑を殆ど持たない人に比べて、花粉アレルゲンやハウスダスト等に、過剰な反応をしない免疫系を、いかに獲得しているのか、愁眉の研究の対象と考えた。
【0012】
本発明者の上記知見に基づいて、花粉症の予防・治療のためには、ほくろ・母斑を持つ人の体質を、花粉症体質に導入する方法が、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の根本的な、原因療法的な治療法であることを本発明者は着想し、そして、これまでの医学研究で集積された、知見とを融合させ、ほくろ・母斑を生成する色素細胞、メラノサイトをターゲットとする、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症) の予防・治療法、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の、新たな予防・治療法を、本発明者は、想到し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下のとおりである。
1.ほくろ(母斑)の目立つ人の体質を解析することにより得た知見を利用する、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療法。
2.ほくろ(母斑)の生成系を維持、促進あるいはモジュレートする生体内因子又は天然物や合成物質を用いるアレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
3.前記2のほくろ(母斑)の生成系が、メラノサイト(色素細胞)産生系に関る、又はメラノサイトの代謝系等又はメラノーマ産生系に関る、又はメラノーマの代謝系等である、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
【0014】
4.メラノサイト(色素細胞)産生系に関る、又はメラノサイトの代謝系等で特徴的な、又はメラノーマ産生系に関る、又はメラノーマの代謝系等で特徴的な、遺伝子、遺伝子産物若しくはそのペプチド断片の作用を制御する物質若しくは薬物を用いる、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
5.前記4の遺伝子、遺伝子産物若しくはそのペプチド断片が、チロシナーゼに関わるものである、物質若しくは薬物を用いる、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
6.1の知見が、アレルギー疾患抵抗性、メラノサイトのチロシナーゼ活性および又はTh1/Th2バランスに関する知見である、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療法。
7.Th2型T細胞からのサイトカインの産生を抑制し、又はTh1型T細胞の活性化を誘導する、メラノサイト産生系又は代謝系由来の因子、あるいは該産生系又は代謝系由来ではない生体由来の因子あるいは物質を用いる、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
8.前記7の生体由来の因子あるいは物質が、FTSnonapeptide、十全大補湯等から選ばれるものである、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
9.チロシナーゼ活性促進剤等メラニン色素生成促進剤の中から、Th1/Th2バランスを変化させる活性のある物質を選択することを特徴とする、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品の選抜方法。
【0015】
ほくろ・母斑は、遺伝ないし胎生的素因にもとづき、生涯の様々な時期に顕現し、かつ極めて徐々に発育するところの、皮膚面の色ないし形の異常を主体とする限局性皮膚病変であるとUnna,P.G.は1894年に定義している(池田重雄監修:標準皮膚科学第6版、医学書院、302頁)。また、斎田俊明は、「色素細胞」(松本二郎 溝口昌子 編・慶応義塾大学出版会、2001年)の249頁〜に、後天性色素細胞母斑について、記述している。
【0016】
ほくろ・母斑は、メラノサイトmelanocyte等色素細胞でできており、「ほくろ・母斑が顔面や首筋(頭頚部)、腕等の太陽光等を日常的に浴びる身体部位に、目立つ人、即ち、数が少なくても顕著なほくろ・母斑のある人、あるいは小さなほくろ・母斑が数多くある人」に花粉症になる人が、殆どいないこと、またその逆に「ほくろ・母斑がこれら部分にないか、殆ど、目立たない人」に、花粉症に罹る人が極めて多いという、これまで知られていなかった意外な調査結果は、ほくろ・母斑の生成系が弱いか、発達していない人は、花粉抗原に対する免疫反応を起こしやすいことを意味し、メラノサイトのほくろ・母斑の生成系を促進し、活性化する方法が、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療をめざす、治療戦略として、重要であることを示唆した。
【0017】
この知見と既知の情報とを結合して想到された本発明により、メラノサイト産生系に関る、またはメラノサイトの代謝系等メラノサイトの機能・活動で特徴的な、およびメラノーマ産生系に関る、またはメラノサイトの代謝系等で特徴的な生命現象の解析を行い、即ち、遺伝学的、生化学的、内分泌学的、免疫学的、病理学的検討を加えて、新たに見出される知見を用いて、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)の予防・治療法、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療法を開発する重要性が、初めて開示された。
【0018】
即ち、本発明は、メラノサイト(色素細胞)産生系に関る、またはメラノサイトの代謝系等で特徴的な、およびメラノーマ産生系に関る、またはメラノーマの代謝系等メラノサイトの機能・活動で特徴的な、遺伝子や遺伝子産物、具体的には、メラノサイトやメラノーマが、産生する様々な因子や、免疫反応系からなる、生体内のメカニズムを利用し、予防・治療剤や健康食品を投与することにより、花粉症の発症を遅くしたり、花粉症、ハウスダストアレルギー等のアレルギー疾患への抵抗性を獲得させる方策を提供する。又、平行して、自然発生的に、あるいは遺伝子改変により、皮膚に、ほくろ・母斑や良性腫瘍や悪性腫瘍を発生する動物につき、Th1/Th2バランス等の免疫反応性を検討し、花粉症等アレルギー疾患への抵抗性を明らかにし、その知見を参考にして、Th2に傾く動物個体の免疫反応性を是正するために、投与する予防・治療剤や健康食品の選抜手段・方法を、提供する。
【0019】
【発明の実施の形態】
ここで、メラノサイトにつき若干言及する。メラノサイトにおいて、メラニン合成に必要な酵素類の合成の場であるメラノソームでは、チロシナーゼ、tyrosinase related protein−1(TRP−1)、tyrosinase related protein−2(TRP−2)や、チロシナーゼ陽性白皮症の原因蛋白P蛋白や、メラノーマmelanomaに発現しているgp100蛋白、メラノーマ癌抗原melanoma antigen recognized by T cell−1(MART−1)等がメラノソーム関連蛋白として同定されている。
また、メラノサイトの増殖、メラニン合成に影響を与える因子として、α−melanocyte−stimulating hormone(α−MSH)やfibroblast growth factor(bFGF)やstem cell factor(SCF)/c−kitやhepatocyte growth factor(HGF)やgranulocyte/macrophage colony stimulating factor(GM−CSF)等々が関与している。
【0020】
これら、メラノサイト関連の蛋白質を認識するリンパ球は、普段はsilentな状態にある。ところが、メラノーマ患者から検出される細胞傷害性T細胞cytotoxic Tlymphocyte(CTL)が認識する癌抗原は、正常メラノサイトに発現する蛋白質の、メラノサイト関連抗原蛋白であるチロシナーゼ、TRP−1、TRP−2、gp100、MART−1等そのものであり、その抗原エピトープペプチドのアミノ酸配列も明らかにされ報告されてきた。
【0021】
次いで、花粉症を惹起する花粉抗原につき、述べる。スギ花粉やヒノキ花粉のアレルゲン蛋白質の遺伝子塩基配列やアミノ酸配列は、決定されてきており、T細胞エピートープ・ペプチドを7種類連結した、合成ポリペプチドが、原因療法的な減感作療法のペプチド治療法用剤として、臨床治験が開始されてきている(阪口雅弘:スギ花粉症における次世代治療用ワクチン開発の現状と将来 医学のあゆみ Vol.200 No.5 2002.2.2 443−446および齋藤三郎ら:アレルゲンペプチド免疫療法 アレルギー科,6(6);494−501, 1998)。そして、HLAタイピングにより、花粉抗原エピートープに反応する組織適合性抗原は、決定されている。一方、メラノーマ抗原エピートープに反応する組織適合性抗原も、独立に、解析されている。
【0022】
本発明者は、皮膚免疫ハンドブック(玉置邦彦・塩原哲夫編、中外医学社)26頁に記載されたT細胞に認識されるメラノソーム関連蛋白の抗原エピートープの29種のアミノ酸配列と、Kazuki Hiraharaらの Preclinical evaluation of animmunotherapeutic peptide comprising 7 T−cell determinants of Cry j 1 and Cry j 2, the major Japanese cedar pollen allergens. J Allergy Clin Im munol.2001 Jul;108(1):94−100.に記載のある、スギ花粉アレルゲンの7つのT細胞エピートープを含む96アミノ酸の合成ポリペプチドとの、ホモロジーサーチを行ったところ、連続ではない最大5つの共通のアミノ酸を含むペプチド断片間の相同性が、観察された程度であった。更に、メラノソーム関連蛋白の他の多くのペプチド断片と、スギ花粉アレルゲンとの間の、ホモロジーサーチの実施の結果が待たれる。
【0023】
本発明は、美容上の観点からすると、古今、美白の営みが行われてきており、特に、女性の立場からすると、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療には、ほくろ・母斑を多く保持する人と同様の、体質にすることが、早道であるような方策は、日本においても、なかなか、受け入れがたいことではあるが、ほくろ・母斑の少ないことと、花粉症になりにくいという形質は、両立しえない可能性があることは、本発明の基礎になった事実から、避けえないことかもしれない。
【0024】
メラノサイトが、光線を浴びて、色素形成が盛んになり、日焼けしたり、しみ・そばかすを作ったり(それらが沈着したり)、ほくろ・母斑を作ったり、極端には、メラノーマを生成する過程については、人それぞれにおいて、遺伝的・先天的に、あるいは後天的に、亢進している人、速度の速い人、あるいは遅い人と、バライティーがある。本発明の基礎になった事象は、色素形成の盛んでない人は、様々な背景因子が、絡まっているはずではあるが、花粉症等のアレルギー性疾患にかかり易い体質であるということである。10代に、相当、野外活動で、太陽光を浴びながら、後年に花粉症になる人もいることは、個々人の皮膚組織の光感受性の大小が、色素形成系の強弱を左右する大きな要因であることをうかがわせる。
【0025】
これら知見をもとに、本発明者は、ほくろ・母斑の生成系を維持、促進あるいはモジュレートする方法、具体的には、メラノサイト産生系に関る、またはメラノサイト代謝系等メラノサイトの機能・活動で特徴的な、およびメラノーマ産生系に関る、またはメラノーマの代謝系等で特徴的な、遺伝子、遺伝子産物、そのペプチド断片の作用を制御する薬物等を提供し、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療する物質類を選別する方法を開示するものである。また、本発明者の別な知見を加味することにより、本発明は、川崎病を予防・治療する方法も提供するものである。
【0026】
本発明において記載した、花粉症抗原としては、日本や、米国テキサス州の1地域、地中海沿岸等に多いスギ花粉、またヒノキ花粉、シラカバ花粉、ハンノキ花粉、コナラ花粉、イチョウ花粉等、欧米で多いブタクサ花粉、イネ花粉、ライグラス花粉、また、セイタカアワダチソウ、ハルガヤ、カモガヤ、ヨモギ等、春夏秋冬の草花・木花等花粉の抗原があげられる。皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の抗原としては、ハウスダストや食物アレルゲン等、現在知られている多くのアレルゲンがあげられる。
また、本発明で、ほくろ・母斑の目立つ人(ほくろ・母斑が、頭頚部、腕等に顕著にある人)とは、ほくろ・母斑の数が少なくても、黒くハッキリした、または大きく隆起したほくろ・母斑がある人、あるいは小さな斑点状のほくろ・母斑が、多数ある人等をさす。
【0027】
本明細書において記載の遺伝子とは、特定の蛋白質をコードするDNA断片および、その蛋白質の発現および制御に関る、該DNA断片のその上流部分と下流部分も含むものとする。
上記の、メラノサイト産生系または代謝系に関る遺伝子、遺伝子産物には、本発明では、メラノサイトに特徴的な、成長系(増殖分化系)等の活動系に関る遺伝子、遺伝子産物も含む。遺伝子産物には、単純蛋白質のほか、翻訳後生成する糖蛋白質類も含める。
本発明の、メラノサイト産生系に関る、またはメラノサイトの代謝系等メラノサイトの機能・活動で特徴的な、およびメラノーマ産生系に関る、またはメラノーマの代謝系等で特徴的な、遺伝子、遺伝子産物、そのペプチド断片の作用を制御する薬物とは、それら生体分子に、直接的に、あるいは他の因子を介して、間接的に、働く薬物を広く含むものとする。なお、本発明でいうメラノサイト産生系又はメラノサイトの代謝系等でいうメラノサイトとは特に、ほくろ・母斑となりうる細胞(集団)あるいはほくろ・母斑を含む細胞(集団)を指すものとする。
【0028】
花粉症の発症を防御しているような、生体分子を、メラノサイト等皮膚細胞が、生成している可能性もある。そして、それら因子が、ほくろ・母斑が顔面や首筋(頭頚部)、腕等、太陽光等を日常的に浴びる身体部位に、目立つ人において、現在、花粉症の予防・治療法として、検討されているペプチド治療法以外の、DNAワクチン等のTh1型T細胞の反応性を高める等の方策に符合するような、作用・効果を、発揮しているものと考えられる。花粉症の予防・治療のためには、ほくろ・母斑を顕著に持つ人の体質を、花粉症体質の人にいかに導入するか、その方策が、鋭意検討されてゆくことになる。
【0029】
本発明は、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療剤のスクリーニング方法も提供する。即ち、本発明の人での疫学的事象の観察をもとにして、メラノサイト産生系に関る、またはメラノサイトの代謝系等で特徴的な、およびメラノーマ産生系に関る、またはメラノサイトの代謝系等メラノサイトの機能・活動で特徴的な、遺伝子、遺伝子産物、そのペプチド断片の作用を制御する薬物を、まずは、可能性ある候補(集団)として、選択し、それらにつき、更にTh1/Th2バランスを是正する薬物を検索する等のスクリーニング方法で選別するという、方法論を考案するに到り、ここに開示するものである。
【0030】
又、平行して、自然発生的に、あるいは遺伝子改変により、皮膚に、ほくろ・母斑や良性腫瘍や悪性腫瘍を発生する動物に着目して、Th1/Th2バランス等の免疫反応性を検討し、花粉症等アレルギー疾患への抵抗性を明らかにし、その知見を参考にして、Th2に傾く動物個体の免疫反応性を是正するために、投与する予防・治療剤や健康食品の選抜手段・方法を、本発明は、提供する。
【0031】
即ち、本発明において、Nakashimaらの作製した304系RETトランスジェニックマウス(自発的に腫瘍の発生する系統、下記文献1−4参照)が、本発明者の免疫学的検索により、出生時からのメラノーシス発現状態の腫瘍のない段階でも、もしくは良性腫瘍の段階でも、何らかの変異RET遺伝子発現の影響によって、Th1優位の状態を形成されていることが明らかにされ、RET(+)マウスのメラニン過多の状態がアレルギー抵抗性状態に結びついていることが示唆された。一方、このRET(+)マウス(悪性腫瘍のできたマウス)が悪性腫瘍を発生した段階では、Th1/Th2バランスの逆転が起こっており、この現象が起因となって悪性腫瘍が発生するのか、あるいは悪性腫瘍の影響によってTh1/Th2バランスの変化が起こるのか現在のところ、明確ではないが、マウスがTh2状態に変わってゆくことも示された。つまり、本発明では、ほくろ・母斑体質のマウスが、Th2状態にはなく、アレルギー疾患に強いTh1状態に傾いていることが明らかにされ、本発明者が健常人見出したほくろ・母斑形成体質は、アレルギー疾患に抵抗性であるという、知見を動物で支持する結果を、明らかにし、開示するものである。
【0032】
種々のマウスに本発明者が検討してきたFTSnonapeptide (Effects of a Nonapeptide Thymic Hormone on Intestinal Intraepithelial Lymphocytes in Mice Following Administraion of 5−Fluorouracil. Kyoko Inagaki−Ohara, Noritada Kobayashi,Akira Awaya and Yasunobu Yoshikai et al.: Cellular Immunology 171, 30−40(1996))や、十全大補湯(juzen−taiho−to)等を予め一定の期間投与し、更にスギ花粉等の花粉や、Cryj1やCryj2等のアレルゲンの1μg〜数μgをアジュバント(例えば、アラム500μg)とともに、生食に溶かして、週3回計9回点鼻投与して、花粉症惹起実験を行った。このアレルゲンの感作期間にも、FTSnonapeptideや十全大補湯の投与は続け、アレルゲン最終投与の1週間後、頚部リンパ節等から、T細胞を分離して、花粉を添加して培養し、培養上清のサイトカイン産生量等を測り、T細胞の反応性を調べ、また血清中の抗体価(IgE産生量などの動態)を調べたところ、FTSnonapeptideや十全大補湯等を投与したマウスは、対照群に比較して、Th1傾向にすることが示され、また、花粉症抵抗性であることが分かった。このことから、FTSnonapeptideや十全大補湯等は、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療剤、又は健康食品・健康飲料の有効物質として、好適であることが示された。
【0033】
本発明では、特に、メラノサイトに焦点を当てた記述を行っているが、他の皮膚細胞、ランゲルハンス細胞やケラチノサイト等やリンパ球とメラノサイトの相互作用をも、考慮した、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症など)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療方法や予防・治療薬剤、健康食品も、本発明は含むものである。
【0034】
本発明において、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)の予防・治療法、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療法を開発する手段として、ほくろ・母斑の生成系を促進する方法、具体的には、メラノサイト(色素細胞)産生系に関る、またはメラノサイトの代謝系等メラノサイトの機能・活動で特徴的な、およびメラノーマ産生系に関る、またはメラノーマの生体活動系・代謝系等で特徴的な、生体分子をターゲットとする、研究・治療戦略が、必須であることが、新たに提案された。その具体的な対象として、[0019]に記述してある、酵素類の中で比較的に研究が進んでいる、メラノサイト代謝系等メラノサイトの機能・活動で特徴的な、色素形成に関わる第1段階の酵素のチロシナーゼが、まずは、検討される。
そしてチロシナーゼに関わる遺伝子、遺伝子産物若しくはそのペプチド断片の作用を制御する物質若しくは薬物を、アレルギー疾患の予防・治療剤又は健康食品として、選別することができる。ここで言うチロシナーゼに関わる遺伝子、遺伝子産物には、チロシナーゼの発現を制御している転写因子などの関連因子も含み、それらを制御する物質若しくは薬物も、アレルギー疾患の予防・治療剤又は健康食品として、選択することができる。
【0035】
しみ・そばかすを形成するメラノサイトの色素生成系は、同時に、ほくろ・母斑形成系にも、関わる。美白分野で、メラニン色素形成阻害剤の研究が盛んであるが、作用が逆向きの、チロシナーゼ活性化・チロシナーゼ活性促進作用等のメラニン色素生成促進作用、チロシナーゼの合成を促進する作用(特開平9−263540号等)、サイクリックAMP誘導作用に基づくメラノサイト活性化作用メラノサイトの遊走能力増強作用(特開2000−229889)等を有する物質類等々の研究も、白髪止め目的や、皮膚を積極的に黒化させるためのタンニング剤用途で、相当進んでいる。
【0036】
例えば、特開平5−78222号公報に記載された、オウレンの抽出物や同公報に引用されている、黒ゴマ,黒松の葉,昆布を用いたもの(特開昭56−87515号公報) 、西洋がらし葉エキスを用いたもの(特開昭56−79617号公報) 、千振りの抽出液を用いたもの(特開昭59−70605号公報)、ウコギ抽出エキスを用いたもの(特開昭60−178805号公報)、明日葉の抽出物を用いたもの(特開昭62−77307号公報) 等の植物抽出物を有効成分と物質類に関する研究が、公開されている。特開平7−285874号公報には、コックル、ミドリイガイ、カキ、ヨーロッパガキ、ホタテガイ、アサリ、ハマグリ、バカガイ、イソシジミガイ、アカガイ、アワビ、サザエ、バイから選ばれる貝類のエッセンスの研究が、公開されている。特開平7−316026号公報には、シメジ科、ハリタケ科、サルノコシカケ科、カンゾウタケ科、キコブタケ科、ノボリリュウ科、モエギタケ科およびハラタケ科からなる群より選択される担子菌の培養液又は菌体の抽出液群のメラニン生成亢進成分の研究が、公開されている。特開2001−131025号公報には、サンショウ抽出物、カユラペ、グアコミスト、ピングイカ(Pinguica)、アリタソウ(Epazote)、ザポテ(Zapote)、アクスコパクエ(Axcopaque)からなる群から選ばれた一種または二種以上の植物の溶媒抽出物の研究が、公開されている。
【0037】
特開2002−114700号公報には、クマノギクなどのキク科(Compositae)ネコノシタ属(Wedelia)に属する植物の抽出物に関する研究が、公開されている。また、同公報には、特開平4−124122号公報、特開平5−78222号公報、特開平7−285874号公報、特開平7−316026号公報、特開平7−112918号公報、特開平7−126129号公報等が、引用されている。
特開2002−212039号公報には、ブクリョウ由来物、アズキ由来物、ホップ由来物、ヨクイニン由来物、アンソッコウ抽出物、クロレラ抽出物、シナノキ抽出物及びニンジン由来物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の成分に関する研究が、公開されている。
特開2000−229889号公報には、抗白髪剤のスクリーニング方法において、被験物質の存在下でメラノサイトを培養し、該培養されたメラノサイトを、毛乳頭細胞の培養上清と接触せしめ、そして該メラノサイトが前記培養上清に向って移動するか否か又は移動の程度を観察することを特徴とする方法が開示されている。
特開平11−79951号公報には、サンショウ抽出物に関する研究が、公開されている。
【0038】
特開平11−79950号公報には、サフラン抽出物に関する、特開平11−35430号公報には、キョウチクトウ科(Apocynaceae )インドジャボク属(Rauvolfia )に属する植物からの抽出物に関する、特開平11−35429号公報には、キク科(Compositae)タカサブロウ属(Eclipta)に属する植物由来の抽出物に関する、特開平11−35428号公報には、アオイ科(Malvaceae )ワタ属(Gossypium )、マメ科(Leguminosae)デイコ属(Erythrina )およびシレンゲ科(Loasaceae )メントゼリア属(Mentzelia)に属する植物からの抽出物に関する、特開平11−5720号公報には、ベンゾフェノン誘導体に関する、特開平9−263540号公報には、アキノタムラソウ属(Salvia)、ハナスゲ属(Anemarrhena)およびサツマイモ属(Ipomoea)に属する植物由来の抽出物に関する研究が、公開されている。また、同様の発想の、特許出願がほかにも、公開されている。
【0039】
また、lupane−type triterpene(J.Nat.Prod.2002、65,645−648およびBiol.Pharm.Bull.23(8)962−967(2000))や、コショウ(Piper nigrum L)科植物由来のcubebin類化合物(日本薬学会第123年会要旨集−2、113頁、2003年)が、メラニン産生促進作用を有すると報告されている。
これら公知の物質類が、本発明のアレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療薬剤、健康食品を選別する材料の集団となる。
【0040】
本発明は、これら、メラノサイト活性化作用、チロシナーゼ活性化作用、メラニン産生促進作用を有する物質類の中から、安全性が高く、特に、経口が可能な、物質類につき、ほくろ・母斑や良性腫瘍を有するret遺伝子tgマウスにおける知見をもとに、Th1/Th2バランスをTh2過多から、Th1過多に向かわせるような物質類を選択する過程を加えて、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療薬剤、健康食品の有効成分を選別する方法を提供するものである。
【0041】
「幼児に、川崎病に罹った人は、成人した頃には、花粉症や他のアレルギー疾患に罹っている人が殆どである。また、顔・首にほくろが、殆どないか、全くない人が殆どである。川崎病に罹る人は、アレルギー体質である、即ち、父親あるいは母親の両方、またはどちらかに、アレルギー性素因がある(またほくろが顔・首に殆どないか、全くない)そのカップルの子供は、稀にではあるが、川崎病になることがある。そして川崎病の原因物質は、スギ花粉等花粉である」という、本発明者の、論文投稿中の別の知見から、本発明は、川崎病の予防又は治療法としても、応用が可能である。
【0042】
「脳内ドパミン不足で発症するパーキンソン病患者には、殆どほくろがないか、全くない人が圧倒的である」という、本発明者の、論文投稿中の別の知見から、「ドパミン合成の最初の代謝経路で、チロシンの水酸化の過程等を触媒する酵素であるチロシナーゼの役割は、重要であるが、一方で、このチロシナーゼが、メラニン色素を生成する第1段階の、律速段階に関わる酵素でもあることから、個人個人のチロシナーゼ活性の強弱やチロシナーゼ発現量の多寡と、ほくろの多・無と、様々な疾患への抵抗性・感受性との間には、重要な関連・linkがあること」が、本発明者により示されてきている。このような背景からも、本発明に記述した、ほくろ(母斑)の目立つ人の体質を解析することにより得た知見を利用する、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療法、および川崎病の予防又は治療法に関する、本発明の意義は大きい。
【0043】
本発明のこのような方法・観点から、現在、作用が試されつつある、テンチャ飲み物やリコペン含有トマト成分濃縮物やアストラガリン含有柿葉抽出物やサンショウ抽出物やシソの実、青野菜抽出物等々の健康食品についても、従来の対症療法的作用の利用だけでなく、更なる検討を加えることが望まれる。本発明者の経験から、ヨモギ、スギナ、ユーカリの葉や幹、ナスニン等ナス、ゴマ、センブリ、コショウ、赤シソ等シソ類、サンショウ、ゲンノショウコ、ブドウ種子プロアントシアニジンエキス等ブドウ成分、ビワの葉・実等、イチョウ葉、銀杏、ササ、タケ、ワラビ、ゼンマイ、ショウガ、ムラサキ、アジサイ、クロユリ、ドクダミ、ハチミツ、プラム、アンズ、アズキ、ワサビ、トウガラシ、ヒジキ、コンブ、オカラ、ヌカ、フスマなどの各抽出物が、花粉症等のアレルギー疾患の予防・治療剤又は健康食品として、向いている、良い材料と考えている。
【0044】
【実施例】
以下に実施例を示すが、本発明は、これに限定されない。
実施例1
本発明者は、会合で会う人や、電車、駅等、交通機関で会う人と直接に、花粉症等アレルギーの発生状況についての話題で、会話をしながら、同時にその人の顔面等のほくろ・母斑の存在状態を目視で、観察した。この野外調査において、上記のほくろ+群とほくろ−群という、典型例を、重点的に選び、知見を収集したところ、ほくろ+群85例中、5名のみ、花粉症になった経験があるとのことであった。他方、ほくろ−群30例中、全例が花粉症等アレルギー疾患(1例は、ハウスダストにも反応するとのこと)に罹患しているという顕著な相関性を示す事実が存在することが明らかになった。これら面談した対象の人々115名(男40名女75名)の年齢は、17歳以上60歳までで、そのうち20代の人々が、70名で61%である。内訳は、ほくろ+群85名のうち、5名の花粉症経験者は、男3名(20歳代以下1名)女2名(同1名)、花粉症のない人80名のうち、男28名(同11名)女52名(同34名)であった。一方、ほくろ−群30名のうち、30名全例が花粉症経験者であった。うち、男9名(同4名)女21名(同19名)であった。
その後も、多くの人々に会うが、全く同じ傾向が見られた。
【0045】
実施例2
実施例1の知見をもとに、本発明者は、各地の協力者に、この事実を伝え、特に、花粉症に罹患している人々につき、頭頚部等のほくろ・母斑の有無、数等につき、調査を依頼したところ、A地域、B地域、C地域で、花粉症に罹患している人々は、ほくろ・母斑が頭頚部分にないか、殆ど、目立たない人が殆どであることが、明確に実証された。A地域のこの協力者独自の判定基準で、46名調査した人(殆どが、大学院生)の中で、母斑の少ない人(ほくろ・母斑が小さいのが2、3個以下の人)は32名であった。このうち花粉症に罹っている人は19名、花粉症に罹っていない人は13名で、その花粉症罹患率は60%となるが、残りの13名も花粉症予備軍と考えられる。また、母斑の多い人(大きいものがあるか、ないしは小さくても5個以上である人)と中くらいの人(ほくろ・母斑が、大きなものはなく、5個未満ある人)の合計14名については、花粉症罹患者は5名であった。花粉症罹患者に限った合計24名のうち、母斑の少ない罹患者の割合は約80%であった。前掲の中村昭彦の全国調査によると、この県の有症率は高率の地域である。B地域の花粉症罹患経験者6名男3名(20代前半2名後半1名)女3名(20代前半1名40歳近く2名)には、殆ど、ほくろ・母斑はなかった。C地域(前掲の全国調査で有症率の低い県)の92名の集団中3名の花粉症罹患者では頭頚部に母斑がなく、別の76名の集団(他府県からの転入者が多い集団)中、11名の花粉症罹患者のうち7名は全く母斑がなく、残りの4名については、母斑が1つだけ顔面にポツッと存在していた。
【0046】
実施例3
Nakashimaらの作製した304系RETトランスジェニックマウス(自発的に腫瘍の発生する系統、下記文献1−4参照)でB6に3代以上バッククロスしたマウス(トランスジェニックマウス作製当初はBCF1)で、腫瘍のまだできていないもの、良性腫瘍(径4mm程度、肉眼で良性と判断)のあるもの、悪性腫瘍(肉眼的判断)のできたものの3段階のマウス及び、コントロールとして、系統維持において派生する変異RET遺伝子が受け継がれなかった、ほぼ同週齢のマウス(RET(−)と表示)におけるTh1/Th2バランスを解析した。それぞれのマウスから脾細胞を取り出してPE標識抗CD4抗体(eBioScience社)で染色した後、FACSVantageTMセルソーター(Beckton Dickinson社)を用いて、陽性に染まった細胞を選択的に分取した。いずれのマウスからも4x10個のCD4陽性細胞を得た。ついで、RT−PCRを行うため、RNAZolB(TEL−TEST社)を用いて、細胞からのRNAの抽出を行った。Total RNA約1μgについてSuperScriptTM First−Strand Synthesis System(Invitrogen社)を用いてcDNAを合成し、PCRのテンプレートとした。最初、β−actinのプライマーを用いてPCRを行い、増幅されたβ−actinの量(バンドの濃さ)に従って各cDNAサンプル間のばらつきを調整するためのデータを得た。次に、濃度調整をした各cDNAサンプルをもとに、IFN−γとIL−4のプライマーを用いてPCRを行った。PCRの条件は、94℃45秒、58℃30秒、72℃90秒で25cycles (β−actin)または33cycles (IFN−γおよびIL−4)。各PCRプライマーの配列は以下の通り。
【0047】
β−actin sense, 配列番号1
β−actin anti−sense, 配列番号2
IFN−γsense, 配列番号3
IFN−γanti−sense, 配列番号4
IL−4 sense, 配列番号5
IL−4 anti−sense, 配列番号6
PCR反応後に、1%アガロースゲルで電気泳動を行い、Ethidium Bromideによる発色でバンドを検出した。ゲル撮影装置(TOYOBO社)によって撮影した画像をNIH image softwareで解析した。
実験1の結果では、RET(+)マウスの4週齢、8週齢、20週齢のマウスのIFN−γは、それぞれ34.7、32.3、32.4で、IL−4は、それぞれ0.4、0.0、12.2であった。一方、RET(−)マウスの4週齢、8週齢、18週齢のマウスのIFN−γは、それぞれ5.2、27.4、45.9で、IL−4は、それぞれ18.9、26.5、0.0であった。実験2の結果では、RET(+)マウスの4週齢、12週齢、28週齢のマウスのIFN−γは、それぞれ135、169、110で、IL−4は、それぞれ60.5、88.3、101であった。一方、RET(−)マウスの4週齢、12週齢、24週齢のマウスのIFN−γは、それぞれ143、126、81.0で、IL−4は、それぞれ102、98.7、79.4であった。
【0048】
実験1と実験2を通じて共通に見られる現象として、腫瘍のない段階もしくは良性腫瘍の段階(12〜20週齢ほど以下の若い段階とも言い換えられる)では、RET(+)マウスはRET(−)マウスに比べてIFN−γが高く、IL−4が低い。これは、この段階では何らかの変異RET遺伝子発現の影響によって、Th1優位の状況が作られていることが示唆され、RET(+)マウスのメラニン過多の状態がアレルギー抵抗性状態に結びついていると考えられる。一方、悪性腫瘍が発生した段階では、実験1と実験2の結果に多少の違いが見られるが、RET(+)マウス(悪性腫瘍のできたマウス)では、むしろIL−4 の上昇が見られTh1/Th2バランスの逆転が起こっていると考えられる。この現象が起因となって悪性腫瘍が発生するのか、あるいは悪性腫瘍の影響によってTh1/Th2バランスの変化が起こるのか現在のところ、明確ではない。本発明者は、12〜20週齢ほど以下の若い段階の良性腫瘍は、ヒトの母斑(ほくろ)の動物モデルと考えており、この結果から、母斑(ほくろ)を形成しやすい体質のマウスは、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)等のアレルギー性疾患に抵抗性を有することが、動物モデルでも明らかにされたと考えられた。
【0049】
実施例4
6〜10週齢のB10.S オスマウスにFTSnonapeptide(Carlbiotech社、デンマーク)を1日10μg/マウスずつ連日、実験終了まで皮下注射し、あるいは十全大補湯(ツムラ、カネボウ)を1日、3〜5mgずつ飲料水に混ぜて連日、実験終了まで経口摂取させ、投与開始、14日後、7日後、3日後、1日後あるいは同時に、それぞれの群のマウスに、更にスギ花粉等の花粉や、Cryj1 やCryj2等のアレルゲンの1μg〜数μgをアジュバント(例えば、アラム500μg)とともに、生食に溶かして、週3回計9回点鼻投与して、花粉症惹起実験を行った。アレルゲンの最終投与の1週間後、頚部リンパ節等から、T細胞を分離して、花粉を添加して培養し、実施例3と同様に培養上清のサイトカイン産生量等を測り、T細胞の反応性を調べ、また血清中の抗体価(IgE産生量などの動態)を調べたところ、FTSnonapeptideや十全大補湯等を投与したマウスは、対照群に比較して、Th1傾向にすることが示され、また、花粉症抵抗性であることが、症状観察から分かった。このことから、FTSnonapeptideや十全大補湯等は、アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症など)、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療剤、又は健康食品・健康飲料として、好適であることが示された。
【0050】
文献
1.Iwamoto T, Takahashi M, Ito M, Hamatani K, Ohbayashi M, Wajjwalku W, Isobe K, Nakashima I. Aberrant melanogenesis and melanocytic tumour development in transgenic mice that carry a metallothionein/ret fusion gene. EMBOJ. 1991 Nov;10(11):3167−75.
2.Kato M, Takahashi M, Akhand AA, Liu W, Dai Y,Shimizu S, Iwamoto T, Su zuki H, Nakashima I. Transgenic mouse model forskin malignant melanoma. Oncogene. 1998 Oct 8;17(14):1885−8.
3.Kato M, Liu, Akhand AA, Dai Y, Ohbayashi M, Tuzuki T, Suzuki H, Isob eK, Takahashi M,Nakashima I. between melanocytic tumor development and early burst of Ret protein expression for tolerance induction in metallothionein−I/ret transgenic mouse lines. Oncogene. 1999 Jan 21;18(3):837− 42.
4.Dragani TA,Peissel B, Zanesi N, Aloisi A, Dai Y, Kato M, Suzuki H, Nakashima I.Mapping of melanoma modifier loci in RET transgenic mice. Jpn JCancer Res.2000 Nov;91(11):1142−7.
【0051】
【発明の効果】
アレルギー性鼻炎・結膜炎(花粉症)の予防・治療法、あるいは皮膚アレルギーやアトピー性皮膚炎の予防・治療法、川崎病の予防・治療法を開発する手段として、ほくろ・母斑の生成系を促進する方法、具体的には、メラノサイト(色素細胞)産生系に関る、またはメラノサイトの生体活動系・代謝系等メラノサイトの機能・活動で特徴的な、およびメラノーマ産生系に関る、またはメラノーマの生体活動系・代謝系等で特徴的な、生体分子をtargetとする、研究・治療戦略が、必須であることが、本発明で明らかにされた。多くの診療科、アレルギー科、耳鼻咽喉科、皮膚科、呼吸器科、内科等の医師および基礎医学研究者の、様々な共同研究が行われる、情況を切り開く、波及効果が期待される。本発明は、免疫学研究、アレルギー学研究に、新たな扉を開き、新たな研究対象、研究分野、研究課題を提供することになり、既知の知見との組み合わせによる研究の進展により、免疫現象に関する新たな理論が、構築されることになろう。また、本発明の知見は、未解決の免疫学の多くの課題を解決するヒントを提供することになる。
【0052】
【配列表】
Figure 2004203855
Figure 2004203855

Claims (9)

  1. ほくろ(母斑)の目立つ人の体質を解析することにより得た知見を利用する、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療法。
  2. ほくろ(母斑)の生成系を維持、促進あるいはモジュレートする生体内因子又は天然物や合成物質を用いるアレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
  3. 請求項2のほくろ(母斑)の生成系が、メラノサイト(色素細胞)産生系に関る、又はメラノサイトの代謝系等又はメラノーマ産生系に関る、又はメラノーマの代謝系等である、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
  4. メラノサイト(色素細胞)産生系に関る、又はメラノサイトの代謝系等で特徴的な、又はメラノーマ産生系に関る、又はメラノーマの代謝系等で特徴的な、遺伝子、遺伝子産物若しくはそのペプチド断片の作用を制御する物質若しくは薬物を用いる、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
  5. 請求項4の遺伝子、遺伝子産物若しくはそのペプチド断片が、チロシナーゼに関わるものである、物質若しくは薬物を用いる、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
  6. 請求項1の知見が、アレルギー疾患抵抗性、メラノサイトのチロシナーゼ活性および又はTh1/Th2バランスに関する知見である、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療法。
  7. Th2型T細胞からのサイトカインの産生を抑制し、又はTh1型T細胞の活性化を誘導する、メラノサイト産生系又は代謝系由来の因子、あるいは該産生系又は代謝系由来ではない生体由来の因子あるいは物質を用いる、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
  8. 請求項7の生体由来の因子あるいは物質が、FTSnonapeptide、十全大補湯等から選ばれるものである、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品。
  9. チロシナーゼ活性促進剤等メラニン色素生成促進剤、メラノサイト活性化剤の中から、Th1/Th2バランスを変化させる活性のある物質を選択することを特徴とする、アレルギー性鼻炎若しくは結膜炎又は皮膚アレルギー若しくはアトピー性皮膚炎の予防又は治療剤、又は健康食品の選抜方法。
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