JP2004187534A - 微生物または細胞の生理活性の評価方法およびそのためのキット - Google Patents
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Abstract
【解決手段】粘着シートによる接着・転写により微生物または細胞を捕集する工程、カルボキシフルオレセインジアセテートを含む溶液により微生物または細胞の染色を行う工程、染色された微生物または細胞を洗浄液により洗浄する工程を含む、微生物または細胞の生理活性の評価方法であって、該洗浄液が、pHが7.6未満であり、かつ0.5M以上の塩を含むことを特徴とする、微生物または細胞の生理活性の評価方法およびそのためのキット。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は微生物および細胞の生理活性の評価方法に関する。より詳細には、カルボキシフルオレセインジアセテート染色において、微生物および細胞の生細胞を選択的に検出する微生物および細胞の生理活性の評価方法に関する。また、本発明は、該生理活性の評価方法に用いるキットに関する。
【0002】
【従来の技術】
種々の環境における微生物などの細胞量を迅速かつ簡便に見積もることは、食品工業や医療の現場における衛生管理、また製薬工業における品質管理に重要である。
【0003】
従来、被験面上に存在する肉眼では観察することができない細菌等の微生物を観察および計数するには、培養法、すなわち寒天などで賦形した固形の平板培地を被験面に押し当てることにより、被験面上の微生物を寒天平板培地上に転写し、該微生物をそのまま平板培地上で適当な環境のもとで培養することにより出現するコロニーを肉眼で計測する方法が一般的に利用されている。例えば、フードスタンプ(日水製薬社製)を使用したアガースタンプ法等が挙げられる。
【0004】
また、微生物捕捉能力のあるメンブレンフィルター等を用いるメンブレンフィルター法は、被験面を生理食塩水やリン酸緩衝液等を用いて十分に拭き取りながら集積することにより微生物を洗い出し、この洗い出した集積液をメンブレンフィルターで濾過することによって、メンブレンフィルター上に微生物を捕集した後、微生物と液体培地とを十分に接触させて該フィルター上にコロニーを形成させ、コロニーを測定する方法である。
【0005】
これらの培養を伴う方法は、培養そのものに1〜2日またはそれ以上の培養時間を必要とするので、リアルタイムでの微生物モニタリングができないという重大な制約があった。
さらに天然の微生物の多くは、生きてはいるが培養することができない状態にあることが知られており、近年では培養せずに生きた微生物および細胞の量を見積もる手法に注目が集まっている(非特許文献1参照)。
【0006】
こうした培養を伴わない微生物の検出法の中で、生理活性の有無を簡便に調べる方法としてカルボキシフルオレセインジアセテートを用いる方法が知られている(非特許文献2参照)。
【0007】
カルボキシフルオレセインジアセテートは、非極性、非蛍光性の化学物質で、細胞膜を容易に透過する。そして細胞内でエステラーゼにより加水分解され、緑色蛍光を発するカルボキシフルオレセインを生成する。カルボキシフルオレセインは極性を有するため細胞内に蓄積され、青色光で励起すると緑色の蛍光を発する。カルボキシフルオレセイン由来の蛍光を発する細胞は、蛍光顕微鏡下の観測で容易に見分けられるので、細胞内エステラーゼ活性の有無を指標として、培養することなく微生物の生理状態を解析できる。
【0008】
また近年、固体表面の微生物をサンプリングする手法として、粘着シートを用いる方法が示されている。本方法では、粘着シートで固定表面や液中の微生物をトラップしたメンブレンフィルター表面の微生物を捕捉し、粘着面に転写された微生物を蛍光試薬により染色して蛍光顕微鏡下で観察することができる(非特許文献3参照)。
粘着シートを用いる方法はカルボキシフルオレセインジアセテート染色にも適用可能であり、迅速・簡便かつ被験面を汚染しない微生物検査法として有望視されている。
【0009】
しかしながら、カルボキシフルオレセインジアセテートを指標とした生理活性評価法は細胞内エステラーゼを指標としているため、微生物が「死んだ」状態にあっても酵素活性が残存していればカルボキシフルオレセインが生成する。この場合、非特異的な蛍光シグナルにより生理活性を有する微生物の数を過大評価する可能性がある。
したがって、カルボキシフルオレセインジアセテート染色において、細胞の生理活性、特に細胞の生死を的確に判別できる評価方法の開発が望まれている。
【0010】
【非特許文献1】
ロスザック,D.B.(Roszak, D.B)、外2名, Viable but nonrecoverable stage of Salmonella enteritidis in aquatic systems,「カナディアンジャーナルオブマイクロバイオロジー(Canadian Journal of Microbiology)」,(カナダ),カナダ国立研究機構(National Research Council Canada),1984年3月,第30巻,第3号,p334−338.
【非特許文献2】
山口,N.(Yamaguchi, N.)、外2名,Rapid in situ enumeration of physiologically active bacteria in river waters using fluorescent probes,「マイクローブスアンドエンバイロンメンツ(Microbes and Environments)」,日本微生物生態学会,1997年3月,第12巻,第1号,p1−8.
【非特許文献3】
山口進康、外4名,固体表面上の微生物計数を目的とする粘着集菌シートの開発,「日本微生物生態学会第16回大会講演要旨集」,日本微生物生態学会,2000年11月,p57.
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、リアルタイムで微生物等をモニタリングでき、かつ微生物および細胞の生理状態、特に細胞の生死を的確に判別できる評価方法およびそのためのキットを提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、染色後の洗浄操作における洗浄液のpHと塩濃度を制御することにより、微生物および細胞の生理活性、特に生死の有無を的確に判別することができることを見出し本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0013】
(1)粘着シートによる接着・転写により微生物または細胞を捕集する工程、カルボキシフルオレセインジアセテートを含む溶液により微生物または細胞の染色を行う工程、染色された微生物または細胞を洗浄液により洗浄する工程を含む、微生物または細胞の生理活性の評価方法であって、該洗浄液が、pHが7.6未満であり、かつ0.5M以上の塩を含むことを特徴とする、微生物または細胞の生理活性の評価方法。
(2)塩が塩化ナトリウムであることを特徴とする、上記(1)記載の微生物または細胞の生理活性の評価方法。
(3)洗浄液が緩衝液である、上記(1)または(2)記載の微生物または細胞の生理活性の評価方法。
(4)緩衝液に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩およびクエン酸塩からなる群より選ばれることを特徴とする、上記(3)記載の微生物または細胞の生理活性の評価方法。
(5)緩衝液に含まれる緩衝成分の濃度が、1〜500mMであることを特徴とする、上記(3)または(4)記載の微生物または細胞の生理活性の評価方法。
(6)非水溶性高分子化合物を主成分としてなる微生物または細胞捕集用粘着シート、カルボキシフルオレセインジアセテートを含有する溶液およびpHが7.6未満であり、かつ0.5M以上の塩を含有する洗浄液を含む、微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
(7)塩が塩化ナトリウムであることを特徴とする、上記(6)記載の微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
(8)洗浄液が緩衝液である、上記(6)または(7)記載の微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
(9)緩衝液に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩およびクエン酸塩からなる群より選ばれることを特徴とする、上記(8)記載の微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
(10)緩衝液に含まれる緩衝成分の濃度が、1〜500mMであることを特徴とする、上記(8)または(9)記載の微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
【0014】
本発明の評価方法は、粘着シートの粘着層の表面上に捕集された微生物等を、培養することなく該粘着面に保持したままカルボキシフルオレセインジアセテートにより発色させるため、蛍光顕微鏡等を用いて、リアルタイムに微生物等を検出または計数することができる。
【0015】
本発明においては、染色後の洗浄操作における洗浄液のpHを7.6未満とし、かつ洗浄液に含まれる塩の濃度を5.0M以上とすることにより、「生きた」微生物のみが発するカルボキシフルオレセイン由来の緑色蛍光を維持したままで、それ以外の微生物が非特異的に発する蛍光を低く抑えることができる。すなわち、本発明の評価方法においては、「生きた」微生物由来の蛍光シグナルが強く、かつ「死んだ」微生物の非特異的な蛍光シグナルを弱めることができ、微生物の生理状態、特に細胞の生死をより的確に解析できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明において微生物とは、細菌や放線菌などの原核生物、酵母やカビなどの真核生物、下等藻類、ウィルスなどが含まれ、細胞とは、動植物由来の培養細胞などが含まれる。
【0017】
本発明において、「粘着シートによる接着・転写により微生物および細胞を捕集する」とは、粘着シートの粘着層の表面上に微生物または細胞を保持することにより捕集することをいい、例えば、試料が液体であればメンブレンフィルター(Nuclepore Filter;Whatman 製)の濾過によるトラップにより微生物等を濃縮したのち、トラップした面に粘着シートを圧着することにより捕集することができる。
【0018】
また、固体表面からの捕集においては、例えば粘着シートを床、壁、食材などの被験面に圧着して、被験面上に付着している微生物または細胞を効率的に転写、集積することができる。比較的微生物および細胞が少ないと考えられる被験面を圧着する場合は、該粘着シートの同一面で複数回圧着しても良い。この方法はアガースタンプ法のように培養を必要としないので、コロニーのコンタミネーションの心配がなく、培養時における菌相の変化を懸念することもないことから、多重に微生物を集積することができる。したがって、圧着回数を増やすことにより、メンブレンフィルター法において水に分散した微生物および細胞を濾過、濃縮するのと同様に、多くの微生物および細胞を捕集することができる。
【0019】
このような粘着シートは通常、少なくとも高分子化合物を主成分としてなる捕集層が基材上に積層された構造を有する。基材は、非水溶性で捕集層表面に大きな凹凸を形成させず、また、曲面や狭所表面にも自在に圧着させえる柔軟な材質であれば特に限定されないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、布、不織布、紙、ポリエチレンラミネート紙等が例示される。中でも、平滑なポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンが基材として望ましい。また、基材の厚みは、支持体として十分な強度があれば特に制限はないが、5〜200μm程度が好ましい。
【0020】
前述の該捕集層は、被験面上の微生物を捕獲するのに十分な捕集性を有するとともに、微生物染色用の水溶液に浸しても粘着層が溶解しない平滑な表面構造を有する層であれば特に限定されないが、微生物および細胞を蛍光標識する際、蛍光物質が捕集層に含浸し難いこと及び捕集層が溶けて捕捉した微生物および細胞が移動し難いことから、捕集層の成分には非水溶性粘着剤を含むのが好ましい。非水溶性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤やゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤を用いることができ、蛍光画像取得に際して光学特性に影響が少ないという観点からより捕集層の透明性の高いアクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤が好ましい。
【0021】
アクリル系粘着剤としては、モノマーとして(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシルなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを主成分とし、これに(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールといった親水性のモノマーを一種もしくは二種以上共重合させたものが挙げられる。さらに、このような粘着剤層はその粘着特性をより良好にするために、イソシアネート化合物、有機過酸化物、エポキシ基含有化合物、金属キレート化合物といった熱架橋剤による処理や、紫外線、γ線、電子線などの処理を行って架橋を施すことが好適である。
【0022】
ゴム系粘着剤としては、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブデン、スチレン−イソプレン系ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体などの主ポリマーに粘着付与樹脂としてロジン系樹脂やテルペン系樹脂、クロマン−インデン系樹脂、テルペン−フェノール系樹脂、石油系樹脂を配合したものを用いることができる。シリコーン系樹脂としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とする粘着剤が例示される。
【0023】
このような捕集層の厚みは、被験面上への接着性や追従性、微生物捕捉性の観点から5〜100μmとするのが好ましい。また捕集層表面の平滑度(凹凸差)は20μm以下であることが好ましい。平滑度が20μm以下であれば蛍光顕微鏡で観察する際に焦点の合致範囲が広くなり、より正確な観察ができる。平滑度は表面粗さ計あるいは電子顕微鏡などで粘着シートの断面を観察し、粘着剤表面の凸部の頂点から凹部の最低点までの高度差を測定して求めることができる。
【0024】
本発明に使用する粘着シートは、自体既知の方法で製造できる。例えば、捕集層を用いる高分子化合物を含有する溶液を基材上に塗布し、室温から200℃で乾燥させることによって製造される。他に、カレンダー法、キャスティング法や押出し成形法などの方法を用いることもできる。かくして得られたシートは任意の形状に裁断して、使用することができる。
【0025】
本発明においては、粘着シートを電子線あるいはγ線などの放射線を照射することにより、滅菌することと同時に粘着層に用いる高分子化合物に架橋を施すこともできる。また、エチレンオキサイドなどのガスによる滅菌を施すこともでき、滅菌した状態で微生物遮断性包材に封入することなどにより、無菌状態を保持した形態をとることができる。
【0026】
本発明の評価方法において微生物および細胞の染色に用いられるカルボキシフルオレセインジアセテートは、細胞内に吸収された後、エステラーゼにより加水分解されて、蛍光性のカルボキシフルオレセイン構造を分子内に含む化合物を生成するものであれば特に限定はなく、例えば、5−カルボキシフルオレセインジアセテート、6−カルボキシフルオレセインジアセテート、5−カルボキシフルオレセインジアセテート アセトキシメチルエステル、6−カルボキシフルオレセインジアセテート アセトキシメチルエステル等が挙げられ、6−カルボキシフルオレセインジアセテートが好ましい。
【0027】
カルボキシフルオレセインジアセテート染色は、通常、カルボキシフルオレセインジアセテート溶液(アセトン溶液)をリン酸緩衝液中で希釈した染色液を用いる。メンブレンフィルター上にトラップした試料では、粘着シートに微生物等を捕集する前に染色してもよく、その場合、染色液を重層して数分染色し、濾過により染色液を除いたのち、粘着シートを圧着することができる。また粘着シートにて捕集した試料を染色する場合では、接着面に前述の染色液を滴下し、数分静置することにより染色できる。これを蛍光顕微鏡下で観察するとエステラーゼ活性を有する細菌が緑色蛍光を発して観察できる。
【0028】
本発明においては、この染色を行った後の洗浄操作に使用する洗浄液が重要である。とりわけ粘着シート上に捕集された染色細胞を、本発明の洗浄操作、すなわち特定のpHと塩濃度に制御された洗浄液で洗浄操作を行うことにより、生理活性を有する微生物と有しない微生物の発する蛍光強度の差が明確になり、「生死」の判定が容易になる。
【0029】
本発明の評価方法において使用される洗浄液に含有される塩としては、浸透圧の調整が可能なものであれば、特に限定はなく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩が挙げられ、細胞等への適合性の点から、塩化ナトリウムが好ましい。
【0030】
本発明の評価方法に使用される洗浄液に含有される塩の濃度は、含まれる塩の種類にも依存するが、0.5M以上が好ましく、0.6M以上がより好ましい。洗浄液に含有される塩の濃度が、0.5M未満であると、生細胞が充分染色されない。洗浄液に含有される塩の濃度の上限は特に限定はないが、溶解性や塩の析出防止の観点からは、3.0M以下が好ましく、1.0M以下がより好ましい。
【0031】
本発明の評価方法に使用される洗浄液のpHは、pH7.6未満が好ましく、pH7.4未満がより好ましい。洗浄液のpHが7.6以上であると生細胞以外の蛍光も強くなり、生細胞の判別がし難くなるため好ましくない。洗浄液のpHの下限は特に限定はないが、生細胞の安定的な維持の点からは、pH4.0以上が好ましく、pH5.0以上がより好ましい。
【0032】
本発明の評価方法に使用される洗浄液は、pHを安定させるため、緩衝液であることが好ましく、該緩衝液に含まれる緩衝成分としては、例えば、リン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩等が挙げられ、発色安定性の点からは、リン酸塩が好ましい。
【0033】
本発明の評価方法に使用される洗浄液が緩衝液の場合、含有される緩衝成分の濃度としては、1〜500mMが好ましく、5〜200mMがより好ましい。これは、緩衝成分の濃度が低くすぎる場合は、pHの安定性が悪くなる傾向があり、濃度が高すぎる場合は、生細胞へダメージを与える傾向があるため好ましくないためである。
【0034】
洗浄操作は、染色された微生物および細胞を接着捕集した粘着シート上で、洗浄液を粘着面に適量滴下し、余分な染色液とともに洗い流す。洗浄の後にそのまま染色した微生物の観察を行ってもよいし、必要があれば風乾、自然乾燥、減圧乾燥などにより乾燥することもできる。
【0035】
微生物および細胞の観察は、蛍光顕微鏡、レーザー顕微鏡、レーザースキャンニングサイトメーターなどで青色励起光により励起し、緑色の蛍光を検出することにより可能となる。本発明の洗浄操作により、生理活性を有さない微生物および細胞由来の非特異的な蛍光を抑え、生理活性の有無をコントラストよく観察することができる。
【0036】
本発明はまた、上記の微生物および細胞の生理活性の評価方法に使用するための評価用キットを提供する。本発明の細胞の生理活性の評価用キットは、非水溶性高分子化合物を主成分としてなる微生物および細胞捕集用粘着シート、カルボキシフルオレセインジアセテートを含有する溶液およびpHが7.6未満であり、かつ0.5M以上の塩を含有する洗浄液を含む。粘着シート、カルボキシフルオレセインジアセテートを含有する溶液および洗浄液は、それぞれ上記本発明の評価方法において例示したものと同様のものを使用することができる。
【0037】
本発明の応用例の一例として、前培養なしで微生物を染色し、微生物をシングルセルのまま観察できるので、被験体の洗浄度を迅速に測定する環境調査用などに利用できる。さらに粘着シートと組み合わせれば、シングルセルレベルでの回収であるので該粘着シートを被験面に複数回圧着して微生物を集積し、濃縮することも可能であり実用的である。応用分野として、医療、食品などの現場での環境の微生物検査などに適用できる。
【0038】
【実施例】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例1
(1)粘着シートの作成
イソノニルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/アクリル酸(65/30/5仕込重量比)にアゾイソブチロニトリルを重合開始剤として得られたゲル分率40%(w/w)の共重合物トルエン溶液を得た。この溶液を、乾燥時の厚みが20μmとなるように25μm厚の透明ポリエステルフィルムに塗布し130℃で5分間乾燥した。さらに、線量25kグレイのγ線滅菌を行って、粘着シートを得た。
【0040】
(2)微生物サンプルの作成
大腸菌(Escherichia coli)K−12培養液を0.9%(w/v)の食塩水で1000倍希釈した液を生菌サンプルとした。
【0041】
(3)微生物の捕集
上記サンプル1mLを、0.4μmの直孔を有するポリカーボネート膜で濾過した平膜上の微生物を検体とし、(1)で作成した粘着シートを濾過面に押し付けた後に剥離した。
【0042】
(4)染色
6−カルボキシフルオレセインジアセテート(シグマ社製)を10mg/mLとなるようにアセトンに溶解した。この液をリン酸緩衝液で6−カルボキシフルオレセインジアセテートの終濃度が150μg/mLとなるように希釈して染色液を得た。適当量の染色液を(3)で得た粘着シートの粘着面に滴下し、粘着面全面が染色液と接するようにして染色を行った。染色は室温で3分、静置して実施した。
【0043】
(5)洗浄
洗浄は塩化ナトリウムを5%(0.86M)含んだリン酸緩衝液(100mM,pH7.2)からなる洗浄液を用いて行った。(4)で染色を行った後、粘着面から染色液をピペットにより大まかに取り除いた。ここに洗浄液を適量滴下し、粘着シートを斜めに傾けて洗浄液を流失させた。この操作を3回繰り返して洗浄し、最終的には風乾して粘着シートを乾燥させた。
【0044】
(6)観察
蛍光顕微鏡下、青色光で励起を行い、カルボキシフルオレセイン由来の緑色蛍光を400倍の倍率で観測した。
【0045】
比較例1
洗浄液として5%(0.86M)塩化ナトリウム水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0046】
比較例2
洗浄液として3%(0.51M)塩化ナトリウム水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0047】
比較例3
洗浄液として0.9%(0.15M)塩化ナトリウム水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0048】
比較例4
洗浄液として脱イオン水を用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0049】
比較例5
洗浄を行わなかった以外は、実施例1と同様に行った。
実施例1の結果を比較例1〜5とともに表1に示す。なお、表1に示した生菌の染色性を示す記号の意味は以下のとおりである。
+ 蛍光が明瞭に見える。
− 蛍光が微弱でほとんど見えない。
× バックグラウンドが高く、観察困難。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1、比較例1および比較例2では、生菌サンプル中のE.coli K−12の発する蛍光が明瞭に観察できた。
比較例3および比較例4では、生菌サンプル中のE.coli K−12の発する蛍光が微弱であった。
比較例5では、析出したカルボキシフルオレセイン由来のバックグラウンド蛍光が強く、観察が困難であった。
実施例1および比較例1〜5の結果より、カルボキシフルオレセインジアセテート染色を行うにあたり、少なくとも0.50M以上の塩化ナトリウムを含む洗浄液で洗浄を行うことが、生菌を効率よく蛍光観察するために必要であることが分かった。
【0052】
実施例2
実施例1(2)の生菌サンプルの一部を取り、沸騰水中で10分間煮沸処理を行った液を固定菌サンプルA、オートクレーブ処理(121℃、20分)を行った液を固定菌サンプルBとした。
生菌サンプル、固定菌サンプルA、固定菌サンプルBを実施例1と同様に6−カルボキシフルオレセインジアセテートで染色を行ったのち、洗浄を行い、蛍光顕微鏡下観察した。
【0053】
比較例6
洗浄液の組成を、0.1Mリン酸緩衝液、5%塩化ナトリウム、pH7.6として洗浄を行った以外は、実施例2と同様に行った。
【0054】
比較例7
洗浄液の組成を、0.1Mリン酸緩衝液、5%塩化ナトリウム、pH8.1として洗浄を行った以外は、実施例2と同様に行った。
【0055】
実施例2の結果を比較例6および比較例7とともに表2に示す。
なお、表2に示した染色性を示す記号の意味は以下の通りである。
+ 蛍光が明瞭に見える。
± 蛍光が弱いながらも見える。
− 蛍光はほとんど見えない。
N.T. 実験せず。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例2では、生菌サンプルで明瞭な蛍光シグナルが観察でき、固定菌サンプルAおよび固定菌サンプルBでは蛍光を発する菌体はほとんど観察されなかった。
比較例6では生菌サンプルで明瞭な蛍光シグナルが観察できたものの、固定菌サンプルAでも蛍光を発する菌体が観察された。
比較例7では固定菌サンプルAでも菌体が蛍光を発して観察された。
【0058】
実施例2、比較例6および比較例7の結果より、生菌サンプルのみを染色するためには、洗浄液のpHが7.6未満であることが必要であった。
以上の結果より明らかなように、本発明で示すように、洗浄液が少なくとも0.5M以上の塩を含み、かつpHが7.6未満であれば、生菌のみを効率よく染色できる。
【0059】
【発明の効果】
本発明ではカルボキシフルオレセインジアセテートを用いた微生物の生理活性評価において、染色後に用いる洗浄液のpHと塩の濃度を制御することにより、生菌のみを特異的に染色できるようになった。これにより微生物等の生理活性評価、特に細胞の生死の判別を、効率よく行うことが可能となる。
Claims (10)
- 粘着シートによる接着・転写により微生物または細胞を捕集する工程、カルボキシフルオレセインジアセテートを含む溶液により微生物または細胞の染色を行う工程、染色された微生物または細胞を洗浄液により洗浄する工程を含む、微生物または細胞の生理活性の評価方法であって、該洗浄液が、pHが7.6未満であり、かつ0.5M以上の塩を含むことを特徴とする、微生物または細胞の生理活性の評価方法。
- 塩が塩化ナトリウムであることを特徴とする、請求項1記載の微生物または細胞の生理活性の評価方法。
- 洗浄液が緩衝液である、請求項1または2記載の微生物または細胞の生理活性の評価方法。
- 緩衝液に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩およびクエン酸塩からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項3記載の微生物または細胞の生理活性の評価方法。
- 緩衝液に含まれる緩衝成分の濃度が、1〜500mMであることを特徴とする、請求項3または4記載の微生物または細胞の生理活性の評価方法。
- 非水溶性高分子化合物を主成分としてなる微生物または細胞捕集用粘着シート、カルボキシフルオレセインジアセテートを含有する溶液およびpHが7.6未満であり、かつ0.5M以上の塩を含有する洗浄液を含む、微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
- 塩が塩化ナトリウムであることを特徴とする、請求項6記載の微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
- 洗浄液が緩衝液である、請求項6または7記載の微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
- 緩衝液に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩およびクエン酸塩からなる群より選ばれることを特徴とする、請求項8記載の微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
- 緩衝液に含まれる緩衝成分の濃度が、1〜500mMであることを特徴とする、請求項8または9記載の微生物または細胞の生理活性の評価用キット。
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-
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2014192565A1 (ja) * | 2013-05-29 | 2014-12-04 | 株式会社サタケ | 微生物の検査方法 |
JP2014230514A (ja) * | 2013-05-29 | 2014-12-11 | 株式会社サタケ | 微生物の検査方法 |
CN105431544A (zh) * | 2013-05-29 | 2016-03-23 | 株式会社佐竹 | 微生物的检查方法 |
US9856506B2 (en) | 2013-05-29 | 2018-01-02 | Satake Corporation | Method for examining microorganisms |
EP3050886A1 (en) | 2015-02-02 | 2016-08-03 | Bürkert Werke GmbH | Fluorescent dyes and dye precursors |
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