JP2005006567A - 微生物または細胞の検出・計数方法およびそのためのキット - Google Patents
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Abstract
【課題】蛍光染色剤を用いて微生物または細胞の検出・計数する方法において、微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤にて染色、検出する際に検出のシグナルを強化する方法およびそのためのキットの提供。
【解決手段】蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法であって、蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを含む方法。
【選択図】 なし
【解決手段】蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法であって、蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを含む方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法に関する。より詳細には、細胞を染色する過程で染色性を強化する為に試薬にアジ化ナトリウムを添加する、微生物または細胞を検出・計数する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、被験面上に存在する肉眼では観察することのできない細菌等の微生物を観察および計数するには、培養法、すなわち、寒天などで賦形した固形の平板培地を被験面に押し当てることにより、被験面上の微生物を平板培地上に転写し、該微生物をそのまま平板培地上で至適環境下に培養することにより出現するコロニーを肉眼または実体顕微鏡等で見定めながら計測する方法が一般的に利用されている。例えば、フードスタンプ(日水製薬(株)製)を使用したアガースタンプ法等が挙げられる。
【0003】
また、微生物捕捉能力のあるメンブレンフィルタ等を用いるメンブレンフィルタ法は、被験面を生理食塩水やリン酸緩衝液等を用いて十分に拭き取りながら集積することにより微生物を洗い出し、この洗い出した集積液をメンブレンフィルタで濾過することによって、メンブレンフィルタ上に微生物を捕集した後、微生物と液体培地とを十分に接触させて該フィルタ上にコロニーを形成させ、コロニー数を計測する方法である。
【0004】
しかしながら、アガースタンプ法等では、通常、一つの被験面に対して一度しか使用できないので、寒天培地の含水率によって捕集効率が変化し、再現性に劣るなど、微生物の捕集効率において不都合を来たす場合があった。また、培養法の共通の課題として、微生物間のコンタミネーションが起こり、培地上での微生物間の相互作用により純粋培養ができないために、その後の判定に不都合を来たす場合があった。加えて、培養法では当然のことながら、生菌のみに限定されるという制約があり、検出もれが起こるという問題があった。さらに、培養法では少なくとも一晩以上の培養時間を必要とするので、リアルタイムでの微生物モニタリングができないという重大な制約があった。
【0005】
本出願人は上述の方法における諸欠点を解消しうる方法として、固形表面の微生物を粘着シートの粘着層を被検体の表面に圧着、剥離して微生物を集積した後に、微生物を染色し得る1種以上の発色性物質を含有する水溶液を該粘着層の表面に接触させ、染色された菌体を観察・計数(画像解析)することにより、迅速且つ簡便に固体表面上の微生物を検出する微生物試験方法を提案した(特許文献1参照)。また、上述したメンブレンフィルタ法は、フィルタ上に捕集した微生物を適当な発色性物質と接触させて、発色した菌体数を顕微鏡等で計数することにより、培養を行わずに微生物を検出する方法としても利用することができる。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−142797号公報
【0007】
【本発明が解決しようとする課題】
従来の蛍光染色剤による微生物または細胞の測定は、励起光照射による蛍光の退色・消光が否めず、測定の最中にシグナルが検出以下になってしまう場合がある。また微生物または細胞のフューズによって染色性が異なり、対数増殖期においては弱いシグナルしか検出できず、正確な微生物数および細胞数を測定できないことが問題となっている。測定の精度、および自動機器の読み取り能力の向上にはシグナルの増強(強化)が必至である。本発明の目的は、蛍光染色剤による微生物および細胞の検出・計数において、例えば、粘着シートを被検体表面に圧着、剥離して或いはフィルタ上にトラップして微生物または細胞を捕集した後、当該微生物または細胞を蛍光染色剤にて染色し、検出・計数する際に、検出シグナルを増強する方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、当該方法に使用するための微生物および細胞検出・計数用キットを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、捕集した微生物または細胞を染色する際に蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加し、染色性(検出シグナル)を増強することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法であって、蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを含む方法。
(2)アジ化ナトリウムの濃度が0.04%以上になるように添加する上記(1)記載の方法。
(3)粘着シートを被検体の表面に圧着、剥離して或いはフィルタ上にトラップして微生物または細胞を捕集することを含む上記(1)または(2)記載の方法。
(4)蛍光染色剤のpHの範囲が6.5〜9.0の間にある上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)蛍光染色剤に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩の中から選ばれる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)蛍光染色剤に含まれる緩衝成分の濃度が1〜500mMである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)蛍光染色剤に含まれる蛍光性物質がカルボキシフルオレセインジアセテートである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)微生物または細胞捕集用粘着シートまたはフィルタと、蛍光染色剤と、アジ化ナトリウムを含む微生物または細胞検出・計数用キット。
(9)アジ化ナトリウムが蛍光染色剤中に含まれる上記(8)記載のキット。
(10)アジ化ナトリウムの濃度が0.04%以上である上記(9)記載のキット。
(11)蛍光染色剤のpHの範囲が6.5〜9.0の間にある上記(8)〜(10)のいずれかに記載のキット。
(12)蛍光染色剤に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩の中から選ばれる上記(8)〜(11)のいずれかに記載のキット。
(13)蛍光染色剤に含まれる緩衝成分の濃度が1〜500mMである上記(8)〜(12)のいずれかに記載のキット。
(14)蛍光染色剤に含まれる蛍光性物質がカルボキシフルオレセインジアセテートである上記(8)〜(13)のいずれかに記載のキット。
(15)蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを含む、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する際に検出シグナルを増強する方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明における蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法は、微生物または細胞を検出・計数する際に蛍光染色剤を用いる方法であれば特に限定されないが、例えば、(1)粘着シートを被検体の表面に圧着、剥離して微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を染色して検出・計数する方法(以下、「粘着シート法」とも称する)、(2)フィルタ(例えば、メンブレンフィルタ)上にトラップして微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を染色して検出・計数する方法(以下、「フィルタ法」とも称する)、などが挙げられる。好ましくは、後述するように利点が多いことから(1)粘着シート法が挙げられる。
【0010】
本発明における検出・計数の対象となる微生物には、細菌や放線菌などの原核生物、酵母やカビなどの真核生物、下等藻類、ウィルスなどが含まれ、細胞には、動植物由来の培養細胞及びスギやヒノキなどの花粉などが含まれる。
【0011】
本発明の検出・計数方法においては、検出対象となる微生物または細胞を染色し得る1種以上の蛍光染色剤にて染色を施すことができる。蛍光染色剤としては、検査対象である微生物または細胞に作用して蛍光を発する物質(蛍光性物質)であれば特に限定されない。なお、ここでいう蛍光性物質にはそれ自身蛍光を発する物質に加え、それ自身は蛍光を発しないが、微生物または細胞の作用により変換され、蛍光を発するようになる物質も含まれる。蛍光染色剤の代表的なものとして、核酸やタンパク質を染色する蛍光染色液が挙げられる。
【0012】
さらに具体的な蛍光染色剤としては、蛍光性物質それ自身や蛍光性物質を含有する各種の染色液が挙げられ、例えば、微生物一般を対象とする場合は、蛍光性核酸塩基類似体、核酸を染色する蛍光染色剤、タンパク質を染色する染色液、タンパク質などの構造解析に用いられる環境性蛍光プローブ、細胞膜や膜電位の解析に用いられる染色液、蛍光抗体の標識に用いられる染色液などが、好気性細菌を対象とする場合は細胞の呼吸によって発色する染色液などが、真核微生物を対象とする場合はミトコンドリアを染色する染色液、ゴルジ体を染色する染色液、小胞体を染色する染色液、細胞内エステラーゼと反応する染色液及びその修飾化合物などが、高等動物細胞を対象とする場合は骨組織の観察に用いられる染色液などが挙げられ、これらは蛍光顕微鏡で観察できる。
【0013】
これらの蛍光染色剤(およびそれに含まれる蛍光性物質)の種類を選択することによって、すべての微生物を検出する全菌数測定、呼吸活性を持つ微生物のみを染色し計数する検定、エステラーゼ活性を持つ微生物のみを染色し計数する検定、あるいは複数の発色性物質を組み合わせた二重染色法を用いることによる特定の属や種の微生物を染色し計数する検定など、幅広い分野への適用が可能である。
【0014】
上述のような方法で蛍光染色した微生物または細胞の蛍光観察像を得る好適な例としては、粘着シートで捕集した微生物または細胞にエステラーゼ活性によって蛍光化する試薬、例えばカルボキシフルオレセインジアセテート(以下CFDAと略す)を反応させることが挙げられる。得られた蛍光像から、微生物または細胞を認識、検出する。
【0015】
上記CFDAとしては、細胞内に吸収された後、エステラーゼにより加水分解されて、蛍光性のカルボキシフルオレセイン構造を分子内に含む化合物を生成するものであれば特に限定はなく、例えば、5−カルボキシフルオレセインジアセテート、6−カルボキシフルオレセインジアセテート、5−カルボキシフルオレセインジアセテート アセトキシメチルエステル、6−カルボキシフルオレセインジアセテート アセトキシメチルエステル等が挙げられ、なかでも6−カルボキシフルオレセインジアセテートが好ましい。
【0016】
本発明に使用される蛍光染色剤のpHは、pH6.5〜9.0の間が望ましく、pH7.0以上が更に望ましい。また、その上限はpH8.5がより望ましい。pH6.5未満であると、発色性が低下する虞がある。またpH9.0を超えると蛍光染色剤のpH安定性が損なわれる虞がある。すなわち、蛍光染色剤のpHが上記範囲であれば微生物または細胞の染色性を十分に高めることができるため好ましい。
【0017】
本発明に用いる蛍光染色剤には、pHを安定させるため、緩衝液を含ませることが好ましい。該緩衝液に含まれる緩衝成分としては、例えば、リン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩等が挙げられ、発色安定性の点からは、リン酸塩が好ましい。
【0018】
また、上記緩衝成分の濃度としては、1〜500mMが好ましく、5〜200mMがより好ましい。これは、緩衝成分の濃度が低くすぎる場合は、pHの安定性が悪くなる傾向があり、濃度が高すぎる場合は、生細胞へダメージを与える傾向があるので好ましくないためである。
【0019】
本発明は、上述した蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを特徴とするものである。
【0020】
アジ化ナトリウムは本発明の目的を達成することができる限り特に限定されないが、0.04%以上になるように蛍光染色剤に添加するのが好ましい。アジ化ナトリウムの濃度が0.04%未満であると蛍光染色剤による検出シグナルを十分に増強することができない虞がある。また、添加するアジ化ナトリウムの濃度に上限は特にないが、それ以上加えても上記検出シグナルの増強の効果が向上されにくい傾向にあるため1%以下が好ましい。
【0021】
アジ化ナトリウムの添加の態様(時機または方法)としては、本発明の目的を達成することができる限り特に限定されない。例えば、あらかじめ蛍光染色剤に含ませておいてもよいし、微生物または細胞に対して蛍光染色剤を付与した後に添加してもよい。あるいは微生物または細胞のろ液に添加してもよい。
【0022】
以下、本発明の方法の好適な態様を具体的に説明する。
【0023】
(1)粘着シート法
本方法は、粘着シートを被検体の表面に圧着、剥離して微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を染色して検出・計数する方法である。粘着シートを用いて微生物または細胞を捕集する方法は、メンブレンフィルタ法で必要な綿棒でのサンプリング、洗い出し液の調整といったような労力を必要とせず、また、洗い出しおよび濾過操作といった作業により微生物または細胞以外の捕集物が膨潤することもないので、微生物または細胞を捕集する方法として好適な方法である。
【0024】
本方法に使用する微生物または細胞試験用粘着シートは、非水溶性高分子化合物を主成分としてなる粘着層が基材上に積層された構造を有する。前述の該粘着層は、被験面上の微生物または細胞を捕獲するに十分な粘着性を有するとともに、微生物または細胞染色用の水溶液に浸しても粘着剤が溶解しないことを特徴とする、平滑な表面構造を有する層であれば特に限定されない。ただし、微生物または細胞を蛍光標識する際、蛍光物質が粘着層に含侵し難いこと及び粘着層が溶けて捕捉した微生物または細胞が移動し難いことから、粘着層の成分には非水溶性粘着剤を含むのが好ましい。非水溶性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤やゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤が挙げられる。また、蛍光画像取得に際して光学特性に影響が少ないという観点から、基材層および粘着層については、透明性が高く無蛍光性のアクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤が好ましい。
【0025】
アクリル系粘着剤としては、モノマーとして(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デジルなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを主成分とし、これに(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールといった親水性のモノマーを一種もしくは二種以上共重合させたものが挙げられる。さらに、このような粘着層はその粘着特性をより良好にするために、イソシアネート化合物、有機過酸化物、エポキシ基含有化合物、金属キレート化合物といった熱架橋剤による処理や、紫外線、γ線、電子線などの処理を行って架橋を施すことが好適である。
【0026】
ゴム系粘着剤としては、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブデン、スチレン−イソプレン系ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体などの主ポリマーに粘着付与樹脂としてロジン系樹脂やテルペン系樹脂、クロマン−インデン系樹脂、テルペン−フェノール系樹脂、石油系樹脂を配合したものを用いることができる。シリコーン系樹脂としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とする粘着剤が例示される。
【0027】
このような捕集層の厚みは、被験面上への接着性や追従性、微生物捕捉性の観点から5〜100μmとするのが好ましい。また、捕捉した微生物または細胞の蛍光画像の取得に際しては、捕集層表面の平滑度(凹凸差)は20μm以下であることが好ましい。平滑度が20μm以下であれば蛍光画像取得手段の焦点の合致範囲が広くなり、より正確な観察ができる。平滑度は表面粗さ計あるいは電子顕微鏡などで粘着シートの断面を観察し、粘着剤表面の凸部の頂点から凹部の最低点までの高度差を測定して求めることができる。
【0028】
粘着シートの基材は、非水溶性で、捕集層表面に大きな凹凸を形成させず、また、曲面や狭所表面にも自在に圧着させ得る柔軟な材質であれば特に限定されないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、塩化ビニル、布、不織布、紙、ポリエチレンラミネート紙等が例示される。中でも、平滑なポリエステル、ポリエチレン、塩化ビニル、ポリウレタンが基材として望ましい。また、基材の厚みは、支持体として十分な強度があれば特に制限はないが、約5〜200μm程度が好ましい。
【0029】
本方法に使用する粘着シートは、既知の方法で製造できる。例えば、捕集層を用いる高分子化合物を含有する溶液を基材上に塗布し、室温から200℃で乾燥させることによって製造される。他に、カレンダー法、キャスティング法や押出し成形法などの方法を用いることもできる。得られたシートは任意の形状に裁断して、使用することができる。
【0030】
本方法においては、粘着シートを電子線あるいはγ線などの放射線を照射することにより、滅菌することと同時に粘着層に用いる高分子化合物に架橋を施すこともできる。また、エチレンオキサイドなどのガスによる滅菌を施すこともでき、滅菌した状態で微生物遮断性包材に封入することなどにより、無菌状態を保持した形態をとることができる。
【0031】
本方法の操作過程について説明する。粘着シートを床、壁、食材などの被検体の被験面に圧着して、被験面上に付着している微生物または細胞を効率的に転写、集積する。比較的微生物または細胞が少ないと考えられる被験面を圧着する場合は、該粘着シートの同一面で複数回圧着しても良い。圧着回数を増やすことにより、メンブレンフィルタ法において水に分散した微生物または細胞を濾過・濃縮するのと同様に、多くの微生物または細胞を捕集することができる。
【0032】
次に、微生物または細胞を集積した該粘着シートを必要に応じて所定の大きさに切断し、微生物または細胞を集積した面を、蛍光性物質を含有する染色用水溶液に浸して、微生物または細胞を染色する。余剰な蛍光性物質を除去する必要があれば、無菌水などで微生物または細胞を集積した面を濯いで洗浄する。また、微生物または細胞を染色後に微生物または細胞を集積した面を乾燥する必要がある場合は、風乾、自然乾燥、減圧乾燥などにより乾燥することができる。
【0033】
さらに、微生物または細胞の検出および計数は、肉眼による自動合焦機能を有する光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、レーザー顕微鏡、レーザースキャンニングサイトメーターもしくは他の適当な光学機器を用いて光学的画像を取得し、この像を画像解析することにより行う。本方法の操作により実質的に、例えば該粘着シートで捕集した微生物または細胞を、数分〜十数分以内に検出できる。
【0034】
(2)フィルタ法
本方法は、フィルタ(例えば、メンブレンフィルタ)上にトラップして微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を染色して検出・計数する方法である。
【0035】
本方法に使用するフィルタとしては、微生物または細胞捕捉能力を備えた公知のフィルタ(例えば、ポリカーボネート製、ポリエステル製など)を使用することができる。好ましくは、Nuclepore filter (Whatman)が挙げられる。
【0036】
本方法においては、具体的には次のような操作を行う。例えば、フィルタとしてメンブレンフィルタを使用する場合、被検体の被験面を生理食塩水やリン酸緩衝液等を用いて十分に拭き取りながら集積することにより微生物または細胞を洗い出し、この洗い出した集積液をメンブレンフィルタで濾過することによって、メンブレンフィルタ上に微生物または細胞を捕集する。次いで、当該捕集した微生物または細胞を上述した粘着シートを用いる方法と同様にして蛍光染色剤を用いて蛍光染色し、検出および計数を行う。
【0037】
本発明はまた、上記本発明の微生物または細胞検出・計数方法を簡便且つ迅速に実施するのに適した微生物または細胞検出・計数用キットを提供する。当該キットは、微生物または細胞捕集用粘着シートまたはフィルタと、蛍光染色剤と、アジ化ナトリウムを含む。粘着シート、フィルタ、蛍光染色剤およびアジ化ナトリウムの種類、使用量などの条件は、上記本発明の検出・計数方法と同様にすることができる。また、当該キットにおいて、アジ化ナトリウムは、予め蛍光染色剤中に含まれてなるのが好ましい。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0039】
実施例1
1)粘着シートの作製
イソノニルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/アクリル酸(65/30/5仕込み重量比)にアゾイソブチロニトリルを重合開始剤として得られたゲル分率40%(w/w)の共重合物トルエン溶液を得た。この溶液を、乾燥時の厚みが20μmとなるように25μm厚の透明ポリエステルフィルムに塗布し130℃で5分乾燥した。さらに、線量25kグレイのγ線滅菌を行って、粘着シートを得た。
【0040】
2)微生物の捕集および染色
表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)IFO3762培養液を無菌水で100倍希釈した溶液0.1mLを0.4μmの直孔を有するポリカーボネート膜で濾過し無菌リン酸緩衝液で洗浄した平膜上の微生物を検体とし、1)で作製した粘着シートを濾過面に押し付けた後に剥離した。次に6−CFDAと各アジ化ナトリウム含有リン酸緩衝液(100mM、pH8.0)を染色液として微生物を捕集した面に滴下し、3分間室温に放置して染色した後、リン酸緩衝液(100mM、pH8.0)で微生物捕集面を洗浄した。染色の過程において各濃度のアジ化ナトリウム含有染色液(実施例1:▲1▼−▲5▼)を用いた。
【0041】
3)計測
蛍光顕微鏡で測定を行う。所定の波長を有する励起光を照射し、微生物ないし細胞を蛍光画像中の輝点として捉えることができる。
【0042】
比較例1
実施例1と同様の方法にて、粘着シートを作製、微生物を捕集したのち、アジ化アトリウムを含有しない染色液(100mM、pH8.0)、洗浄液(100mM、pH8.0)を用いて検出を行った。
実施例1の結果を比較例1とともに表1、図1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
測定結果より観測される菌の総数はいずれの測定条件の場合においても10の9乗オーダーであるが、菌の染色性レベルがアジ化ナトリウムの含有量により異なった。本測定では菌全体が明瞭に発色している発色(++)とわずかな発色をしている微弱発色(+)の2段階で評価を行った。菌の染色性はアジ化ナトリウム含量が0.04%以上含有の場合に菌が強く染まる割合が40%以上となっており、染色の増強剤として有効である。
【0045】
実施例2
微生物を大腸菌(Escherichia coli) K−12とし、各アジ化ナトリウム0.1%含有染色液・洗浄液のpHを変更した以外は実施例1と同様の手順で検討した。
【0046】
比較例2
実施例2と同じ被験物を比較例1と同様にして検出を行った。結果を実施例2とともに表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
菌数カウント値の上昇がアジ化ナトリウム0.1%含有する染色液:pH6.5〜8.5からのすべてのpH範囲内において見受けられた。高pH(pH8.5)では既に菌の染色性が高く、アジ化ナトリウム0.1%含有による菌数カウント値の上昇は約60%であった。一方、低pH(pH6.5)ではpH感受性の高い染料であるため、全体的にはカウント値は低く、アジ化ナトリウム添加のみでは予測される10の9乗オーダーの菌数を検出できない。よって染色液にアジ化ナトリウム添加することにより、pH6.5〜8.5の範囲で菌の染色性が高まるが、pH範囲7.0以上が更に望ましい。
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する際に、アジ化ナトリウムを蛍光染色剤に添加することによって、蛍光染色剤による検出シグナルを増強させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アジ化ナトリウムの含有量に対して強く染まった菌の割合(強染色菌/染色菌)を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法に関する。より詳細には、細胞を染色する過程で染色性を強化する為に試薬にアジ化ナトリウムを添加する、微生物または細胞を検出・計数する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、被験面上に存在する肉眼では観察することのできない細菌等の微生物を観察および計数するには、培養法、すなわち、寒天などで賦形した固形の平板培地を被験面に押し当てることにより、被験面上の微生物を平板培地上に転写し、該微生物をそのまま平板培地上で至適環境下に培養することにより出現するコロニーを肉眼または実体顕微鏡等で見定めながら計測する方法が一般的に利用されている。例えば、フードスタンプ(日水製薬(株)製)を使用したアガースタンプ法等が挙げられる。
【0003】
また、微生物捕捉能力のあるメンブレンフィルタ等を用いるメンブレンフィルタ法は、被験面を生理食塩水やリン酸緩衝液等を用いて十分に拭き取りながら集積することにより微生物を洗い出し、この洗い出した集積液をメンブレンフィルタで濾過することによって、メンブレンフィルタ上に微生物を捕集した後、微生物と液体培地とを十分に接触させて該フィルタ上にコロニーを形成させ、コロニー数を計測する方法である。
【0004】
しかしながら、アガースタンプ法等では、通常、一つの被験面に対して一度しか使用できないので、寒天培地の含水率によって捕集効率が変化し、再現性に劣るなど、微生物の捕集効率において不都合を来たす場合があった。また、培養法の共通の課題として、微生物間のコンタミネーションが起こり、培地上での微生物間の相互作用により純粋培養ができないために、その後の判定に不都合を来たす場合があった。加えて、培養法では当然のことながら、生菌のみに限定されるという制約があり、検出もれが起こるという問題があった。さらに、培養法では少なくとも一晩以上の培養時間を必要とするので、リアルタイムでの微生物モニタリングができないという重大な制約があった。
【0005】
本出願人は上述の方法における諸欠点を解消しうる方法として、固形表面の微生物を粘着シートの粘着層を被検体の表面に圧着、剥離して微生物を集積した後に、微生物を染色し得る1種以上の発色性物質を含有する水溶液を該粘着層の表面に接触させ、染色された菌体を観察・計数(画像解析)することにより、迅速且つ簡便に固体表面上の微生物を検出する微生物試験方法を提案した(特許文献1参照)。また、上述したメンブレンフィルタ法は、フィルタ上に捕集した微生物を適当な発色性物質と接触させて、発色した菌体数を顕微鏡等で計数することにより、培養を行わずに微生物を検出する方法としても利用することができる。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−142797号公報
【0007】
【本発明が解決しようとする課題】
従来の蛍光染色剤による微生物または細胞の測定は、励起光照射による蛍光の退色・消光が否めず、測定の最中にシグナルが検出以下になってしまう場合がある。また微生物または細胞のフューズによって染色性が異なり、対数増殖期においては弱いシグナルしか検出できず、正確な微生物数および細胞数を測定できないことが問題となっている。測定の精度、および自動機器の読み取り能力の向上にはシグナルの増強(強化)が必至である。本発明の目的は、蛍光染色剤による微生物および細胞の検出・計数において、例えば、粘着シートを被検体表面に圧着、剥離して或いはフィルタ上にトラップして微生物または細胞を捕集した後、当該微生物または細胞を蛍光染色剤にて染色し、検出・計数する際に、検出シグナルを増強する方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、当該方法に使用するための微生物および細胞検出・計数用キットを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、捕集した微生物または細胞を染色する際に蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加し、染色性(検出シグナル)を増強することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法であって、蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを含む方法。
(2)アジ化ナトリウムの濃度が0.04%以上になるように添加する上記(1)記載の方法。
(3)粘着シートを被検体の表面に圧着、剥離して或いはフィルタ上にトラップして微生物または細胞を捕集することを含む上記(1)または(2)記載の方法。
(4)蛍光染色剤のpHの範囲が6.5〜9.0の間にある上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)蛍光染色剤に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩の中から選ばれる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)蛍光染色剤に含まれる緩衝成分の濃度が1〜500mMである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)蛍光染色剤に含まれる蛍光性物質がカルボキシフルオレセインジアセテートである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)微生物または細胞捕集用粘着シートまたはフィルタと、蛍光染色剤と、アジ化ナトリウムを含む微生物または細胞検出・計数用キット。
(9)アジ化ナトリウムが蛍光染色剤中に含まれる上記(8)記載のキット。
(10)アジ化ナトリウムの濃度が0.04%以上である上記(9)記載のキット。
(11)蛍光染色剤のpHの範囲が6.5〜9.0の間にある上記(8)〜(10)のいずれかに記載のキット。
(12)蛍光染色剤に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩の中から選ばれる上記(8)〜(11)のいずれかに記載のキット。
(13)蛍光染色剤に含まれる緩衝成分の濃度が1〜500mMである上記(8)〜(12)のいずれかに記載のキット。
(14)蛍光染色剤に含まれる蛍光性物質がカルボキシフルオレセインジアセテートである上記(8)〜(13)のいずれかに記載のキット。
(15)蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを含む、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する際に検出シグナルを増強する方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明における蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法は、微生物または細胞を検出・計数する際に蛍光染色剤を用いる方法であれば特に限定されないが、例えば、(1)粘着シートを被検体の表面に圧着、剥離して微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を染色して検出・計数する方法(以下、「粘着シート法」とも称する)、(2)フィルタ(例えば、メンブレンフィルタ)上にトラップして微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を染色して検出・計数する方法(以下、「フィルタ法」とも称する)、などが挙げられる。好ましくは、後述するように利点が多いことから(1)粘着シート法が挙げられる。
【0010】
本発明における検出・計数の対象となる微生物には、細菌や放線菌などの原核生物、酵母やカビなどの真核生物、下等藻類、ウィルスなどが含まれ、細胞には、動植物由来の培養細胞及びスギやヒノキなどの花粉などが含まれる。
【0011】
本発明の検出・計数方法においては、検出対象となる微生物または細胞を染色し得る1種以上の蛍光染色剤にて染色を施すことができる。蛍光染色剤としては、検査対象である微生物または細胞に作用して蛍光を発する物質(蛍光性物質)であれば特に限定されない。なお、ここでいう蛍光性物質にはそれ自身蛍光を発する物質に加え、それ自身は蛍光を発しないが、微生物または細胞の作用により変換され、蛍光を発するようになる物質も含まれる。蛍光染色剤の代表的なものとして、核酸やタンパク質を染色する蛍光染色液が挙げられる。
【0012】
さらに具体的な蛍光染色剤としては、蛍光性物質それ自身や蛍光性物質を含有する各種の染色液が挙げられ、例えば、微生物一般を対象とする場合は、蛍光性核酸塩基類似体、核酸を染色する蛍光染色剤、タンパク質を染色する染色液、タンパク質などの構造解析に用いられる環境性蛍光プローブ、細胞膜や膜電位の解析に用いられる染色液、蛍光抗体の標識に用いられる染色液などが、好気性細菌を対象とする場合は細胞の呼吸によって発色する染色液などが、真核微生物を対象とする場合はミトコンドリアを染色する染色液、ゴルジ体を染色する染色液、小胞体を染色する染色液、細胞内エステラーゼと反応する染色液及びその修飾化合物などが、高等動物細胞を対象とする場合は骨組織の観察に用いられる染色液などが挙げられ、これらは蛍光顕微鏡で観察できる。
【0013】
これらの蛍光染色剤(およびそれに含まれる蛍光性物質)の種類を選択することによって、すべての微生物を検出する全菌数測定、呼吸活性を持つ微生物のみを染色し計数する検定、エステラーゼ活性を持つ微生物のみを染色し計数する検定、あるいは複数の発色性物質を組み合わせた二重染色法を用いることによる特定の属や種の微生物を染色し計数する検定など、幅広い分野への適用が可能である。
【0014】
上述のような方法で蛍光染色した微生物または細胞の蛍光観察像を得る好適な例としては、粘着シートで捕集した微生物または細胞にエステラーゼ活性によって蛍光化する試薬、例えばカルボキシフルオレセインジアセテート(以下CFDAと略す)を反応させることが挙げられる。得られた蛍光像から、微生物または細胞を認識、検出する。
【0015】
上記CFDAとしては、細胞内に吸収された後、エステラーゼにより加水分解されて、蛍光性のカルボキシフルオレセイン構造を分子内に含む化合物を生成するものであれば特に限定はなく、例えば、5−カルボキシフルオレセインジアセテート、6−カルボキシフルオレセインジアセテート、5−カルボキシフルオレセインジアセテート アセトキシメチルエステル、6−カルボキシフルオレセインジアセテート アセトキシメチルエステル等が挙げられ、なかでも6−カルボキシフルオレセインジアセテートが好ましい。
【0016】
本発明に使用される蛍光染色剤のpHは、pH6.5〜9.0の間が望ましく、pH7.0以上が更に望ましい。また、その上限はpH8.5がより望ましい。pH6.5未満であると、発色性が低下する虞がある。またpH9.0を超えると蛍光染色剤のpH安定性が損なわれる虞がある。すなわち、蛍光染色剤のpHが上記範囲であれば微生物または細胞の染色性を十分に高めることができるため好ましい。
【0017】
本発明に用いる蛍光染色剤には、pHを安定させるため、緩衝液を含ませることが好ましい。該緩衝液に含まれる緩衝成分としては、例えば、リン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩等が挙げられ、発色安定性の点からは、リン酸塩が好ましい。
【0018】
また、上記緩衝成分の濃度としては、1〜500mMが好ましく、5〜200mMがより好ましい。これは、緩衝成分の濃度が低くすぎる場合は、pHの安定性が悪くなる傾向があり、濃度が高すぎる場合は、生細胞へダメージを与える傾向があるので好ましくないためである。
【0019】
本発明は、上述した蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを特徴とするものである。
【0020】
アジ化ナトリウムは本発明の目的を達成することができる限り特に限定されないが、0.04%以上になるように蛍光染色剤に添加するのが好ましい。アジ化ナトリウムの濃度が0.04%未満であると蛍光染色剤による検出シグナルを十分に増強することができない虞がある。また、添加するアジ化ナトリウムの濃度に上限は特にないが、それ以上加えても上記検出シグナルの増強の効果が向上されにくい傾向にあるため1%以下が好ましい。
【0021】
アジ化ナトリウムの添加の態様(時機または方法)としては、本発明の目的を達成することができる限り特に限定されない。例えば、あらかじめ蛍光染色剤に含ませておいてもよいし、微生物または細胞に対して蛍光染色剤を付与した後に添加してもよい。あるいは微生物または細胞のろ液に添加してもよい。
【0022】
以下、本発明の方法の好適な態様を具体的に説明する。
【0023】
(1)粘着シート法
本方法は、粘着シートを被検体の表面に圧着、剥離して微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を染色して検出・計数する方法である。粘着シートを用いて微生物または細胞を捕集する方法は、メンブレンフィルタ法で必要な綿棒でのサンプリング、洗い出し液の調整といったような労力を必要とせず、また、洗い出しおよび濾過操作といった作業により微生物または細胞以外の捕集物が膨潤することもないので、微生物または細胞を捕集する方法として好適な方法である。
【0024】
本方法に使用する微生物または細胞試験用粘着シートは、非水溶性高分子化合物を主成分としてなる粘着層が基材上に積層された構造を有する。前述の該粘着層は、被験面上の微生物または細胞を捕獲するに十分な粘着性を有するとともに、微生物または細胞染色用の水溶液に浸しても粘着剤が溶解しないことを特徴とする、平滑な表面構造を有する層であれば特に限定されない。ただし、微生物または細胞を蛍光標識する際、蛍光物質が粘着層に含侵し難いこと及び粘着層が溶けて捕捉した微生物または細胞が移動し難いことから、粘着層の成分には非水溶性粘着剤を含むのが好ましい。非水溶性粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤やゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤が挙げられる。また、蛍光画像取得に際して光学特性に影響が少ないという観点から、基材層および粘着層については、透明性が高く無蛍光性のアクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤が好ましい。
【0025】
アクリル系粘着剤としては、モノマーとして(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デジルなどの(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを主成分とし、これに(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコールといった親水性のモノマーを一種もしくは二種以上共重合させたものが挙げられる。さらに、このような粘着層はその粘着特性をより良好にするために、イソシアネート化合物、有機過酸化物、エポキシ基含有化合物、金属キレート化合物といった熱架橋剤による処理や、紫外線、γ線、電子線などの処理を行って架橋を施すことが好適である。
【0026】
ゴム系粘着剤としては、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブデン、スチレン−イソプレン系ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体などの主ポリマーに粘着付与樹脂としてロジン系樹脂やテルペン系樹脂、クロマン−インデン系樹脂、テルペン−フェノール系樹脂、石油系樹脂を配合したものを用いることができる。シリコーン系樹脂としては、ジメチルポリシロキサンを主成分とする粘着剤が例示される。
【0027】
このような捕集層の厚みは、被験面上への接着性や追従性、微生物捕捉性の観点から5〜100μmとするのが好ましい。また、捕捉した微生物または細胞の蛍光画像の取得に際しては、捕集層表面の平滑度(凹凸差)は20μm以下であることが好ましい。平滑度が20μm以下であれば蛍光画像取得手段の焦点の合致範囲が広くなり、より正確な観察ができる。平滑度は表面粗さ計あるいは電子顕微鏡などで粘着シートの断面を観察し、粘着剤表面の凸部の頂点から凹部の最低点までの高度差を測定して求めることができる。
【0028】
粘着シートの基材は、非水溶性で、捕集層表面に大きな凹凸を形成させず、また、曲面や狭所表面にも自在に圧着させ得る柔軟な材質であれば特に限定されないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、塩化ビニル、布、不織布、紙、ポリエチレンラミネート紙等が例示される。中でも、平滑なポリエステル、ポリエチレン、塩化ビニル、ポリウレタンが基材として望ましい。また、基材の厚みは、支持体として十分な強度があれば特に制限はないが、約5〜200μm程度が好ましい。
【0029】
本方法に使用する粘着シートは、既知の方法で製造できる。例えば、捕集層を用いる高分子化合物を含有する溶液を基材上に塗布し、室温から200℃で乾燥させることによって製造される。他に、カレンダー法、キャスティング法や押出し成形法などの方法を用いることもできる。得られたシートは任意の形状に裁断して、使用することができる。
【0030】
本方法においては、粘着シートを電子線あるいはγ線などの放射線を照射することにより、滅菌することと同時に粘着層に用いる高分子化合物に架橋を施すこともできる。また、エチレンオキサイドなどのガスによる滅菌を施すこともでき、滅菌した状態で微生物遮断性包材に封入することなどにより、無菌状態を保持した形態をとることができる。
【0031】
本方法の操作過程について説明する。粘着シートを床、壁、食材などの被検体の被験面に圧着して、被験面上に付着している微生物または細胞を効率的に転写、集積する。比較的微生物または細胞が少ないと考えられる被験面を圧着する場合は、該粘着シートの同一面で複数回圧着しても良い。圧着回数を増やすことにより、メンブレンフィルタ法において水に分散した微生物または細胞を濾過・濃縮するのと同様に、多くの微生物または細胞を捕集することができる。
【0032】
次に、微生物または細胞を集積した該粘着シートを必要に応じて所定の大きさに切断し、微生物または細胞を集積した面を、蛍光性物質を含有する染色用水溶液に浸して、微生物または細胞を染色する。余剰な蛍光性物質を除去する必要があれば、無菌水などで微生物または細胞を集積した面を濯いで洗浄する。また、微生物または細胞を染色後に微生物または細胞を集積した面を乾燥する必要がある場合は、風乾、自然乾燥、減圧乾燥などにより乾燥することができる。
【0033】
さらに、微生物または細胞の検出および計数は、肉眼による自動合焦機能を有する光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、レーザー顕微鏡、レーザースキャンニングサイトメーターもしくは他の適当な光学機器を用いて光学的画像を取得し、この像を画像解析することにより行う。本方法の操作により実質的に、例えば該粘着シートで捕集した微生物または細胞を、数分〜十数分以内に検出できる。
【0034】
(2)フィルタ法
本方法は、フィルタ(例えば、メンブレンフィルタ)上にトラップして微生物または細胞を捕集した後、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を染色して検出・計数する方法である。
【0035】
本方法に使用するフィルタとしては、微生物または細胞捕捉能力を備えた公知のフィルタ(例えば、ポリカーボネート製、ポリエステル製など)を使用することができる。好ましくは、Nuclepore filter (Whatman)が挙げられる。
【0036】
本方法においては、具体的には次のような操作を行う。例えば、フィルタとしてメンブレンフィルタを使用する場合、被検体の被験面を生理食塩水やリン酸緩衝液等を用いて十分に拭き取りながら集積することにより微生物または細胞を洗い出し、この洗い出した集積液をメンブレンフィルタで濾過することによって、メンブレンフィルタ上に微生物または細胞を捕集する。次いで、当該捕集した微生物または細胞を上述した粘着シートを用いる方法と同様にして蛍光染色剤を用いて蛍光染色し、検出および計数を行う。
【0037】
本発明はまた、上記本発明の微生物または細胞検出・計数方法を簡便且つ迅速に実施するのに適した微生物または細胞検出・計数用キットを提供する。当該キットは、微生物または細胞捕集用粘着シートまたはフィルタと、蛍光染色剤と、アジ化ナトリウムを含む。粘着シート、フィルタ、蛍光染色剤およびアジ化ナトリウムの種類、使用量などの条件は、上記本発明の検出・計数方法と同様にすることができる。また、当該キットにおいて、アジ化ナトリウムは、予め蛍光染色剤中に含まれてなるのが好ましい。
【0038】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0039】
実施例1
1)粘着シートの作製
イソノニルアクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/アクリル酸(65/30/5仕込み重量比)にアゾイソブチロニトリルを重合開始剤として得られたゲル分率40%(w/w)の共重合物トルエン溶液を得た。この溶液を、乾燥時の厚みが20μmとなるように25μm厚の透明ポリエステルフィルムに塗布し130℃で5分乾燥した。さらに、線量25kグレイのγ線滅菌を行って、粘着シートを得た。
【0040】
2)微生物の捕集および染色
表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)IFO3762培養液を無菌水で100倍希釈した溶液0.1mLを0.4μmの直孔を有するポリカーボネート膜で濾過し無菌リン酸緩衝液で洗浄した平膜上の微生物を検体とし、1)で作製した粘着シートを濾過面に押し付けた後に剥離した。次に6−CFDAと各アジ化ナトリウム含有リン酸緩衝液(100mM、pH8.0)を染色液として微生物を捕集した面に滴下し、3分間室温に放置して染色した後、リン酸緩衝液(100mM、pH8.0)で微生物捕集面を洗浄した。染色の過程において各濃度のアジ化ナトリウム含有染色液(実施例1:▲1▼−▲5▼)を用いた。
【0041】
3)計測
蛍光顕微鏡で測定を行う。所定の波長を有する励起光を照射し、微生物ないし細胞を蛍光画像中の輝点として捉えることができる。
【0042】
比較例1
実施例1と同様の方法にて、粘着シートを作製、微生物を捕集したのち、アジ化アトリウムを含有しない染色液(100mM、pH8.0)、洗浄液(100mM、pH8.0)を用いて検出を行った。
実施例1の結果を比較例1とともに表1、図1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
測定結果より観測される菌の総数はいずれの測定条件の場合においても10の9乗オーダーであるが、菌の染色性レベルがアジ化ナトリウムの含有量により異なった。本測定では菌全体が明瞭に発色している発色(++)とわずかな発色をしている微弱発色(+)の2段階で評価を行った。菌の染色性はアジ化ナトリウム含量が0.04%以上含有の場合に菌が強く染まる割合が40%以上となっており、染色の増強剤として有効である。
【0045】
実施例2
微生物を大腸菌(Escherichia coli) K−12とし、各アジ化ナトリウム0.1%含有染色液・洗浄液のpHを変更した以外は実施例1と同様の手順で検討した。
【0046】
比較例2
実施例2と同じ被験物を比較例1と同様にして検出を行った。結果を実施例2とともに表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
菌数カウント値の上昇がアジ化ナトリウム0.1%含有する染色液:pH6.5〜8.5からのすべてのpH範囲内において見受けられた。高pH(pH8.5)では既に菌の染色性が高く、アジ化ナトリウム0.1%含有による菌数カウント値の上昇は約60%であった。一方、低pH(pH6.5)ではpH感受性の高い染料であるため、全体的にはカウント値は低く、アジ化ナトリウム添加のみでは予測される10の9乗オーダーの菌数を検出できない。よって染色液にアジ化ナトリウム添加することにより、pH6.5〜8.5の範囲で菌の染色性が高まるが、pH範囲7.0以上が更に望ましい。
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する際に、アジ化ナトリウムを蛍光染色剤に添加することによって、蛍光染色剤による検出シグナルを増強させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アジ化ナトリウムの含有量に対して強く染まった菌の割合(強染色菌/染色菌)を示す図である。
Claims (15)
- 蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する方法であって、蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを含む方法。
- アジ化ナトリウムの濃度が0.04%以上になるように添加する請求項1記載の方法。
- 粘着シートを被検体の表面に圧着、剥離して或いはフィルタ上にトラップして微生物または細胞を捕集することを含む請求項1または2記載の方法。
- 蛍光染色剤のpHの範囲が6.5〜9.0の間にある請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 蛍光染色剤に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩の中から選ばれる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 蛍光染色剤に含まれる緩衝成分の濃度が1〜500mMである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
- 蛍光染色剤に含まれる蛍光性物質がカルボキシフルオレセインジアセテートである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- 微生物または細胞捕集用粘着シートまたはフィルタと、蛍光染色剤と、アジ化ナトリウムを含む微生物または細胞検出・計数用キット。
- アジ化ナトリウムが蛍光染色剤中に含まれる請求項8記載のキット。
- アジ化ナトリウムの濃度が0.04%以上である請求項9記載のキット。
- 蛍光染色剤のpHの範囲が6.5〜9.0の間にある請求項8〜10のいずれかに記載のキット。
- 蛍光染色剤に含まれる緩衝成分がリン酸塩、トリス塩酸塩、クエン酸塩の中から選ばれる請求項8〜11のいずれかに記載のキット。
- 蛍光染色剤に含まれる緩衝成分の濃度が1〜500mMである請求項8〜12のいずれかに記載のキット。
- 蛍光染色剤に含まれる蛍光性物質がカルボキシフルオレセインジアセテートである請求項8〜13のいずれかに記載のキット。
- 蛍光染色剤にアジ化ナトリウムを添加することを含む、蛍光染色剤を用いて微生物または細胞を検出・計数する際に検出シグナルを増強する方法。
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