JP2004183114A - 嵩高性短繊維織編物及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】紡糸、紡績さらには染色加工時の製造トラブルの発生が少なく、熱水処理などの簡単な処理だけで、抗ピル性のみならずソフトなバルキー性を合わせ持つ嵩高性に優れた短繊維織編物を提供する。
【解決手段】沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)4%以下の低収縮繊維と、中空率8%以上の中空断面又は繊維断面外周上に一個以上の突起部を有する異型度1.8以上の異型断面の共重合ポリエステル繊維とを含有するリング紡績糸で構成されてなる織編物であり、リング紡績糸中の共重合ポリエステル繊維が含有率10〜60質量%で、かつ熱収縮してなり、抗ピリング性が3級以上であることを特徴とする嵩高性短繊維織編物。
【選択図】なし
【解決手段】沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)4%以下の低収縮繊維と、中空率8%以上の中空断面又は繊維断面外周上に一個以上の突起部を有する異型度1.8以上の異型断面の共重合ポリエステル繊維とを含有するリング紡績糸で構成されてなる織編物であり、リング紡績糸中の共重合ポリエステル繊維が含有率10〜60質量%で、かつ熱収縮してなり、抗ピリング性が3級以上であることを特徴とする嵩高性短繊維織編物。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、嵩高性に優れた短繊維織編物に関し、さらに詳しくは、スポーツインナーニット、スポーツアウターニット、カジュアルニット、セーター、ジャケット、パンツ、スカート、ユニフォーム、芯地、タオル、スカーフ、腹巻、靴下、クッション側地等に最適なバルキーで保温性、軽量、吸水速乾性等に優れるとともに、優れた抗ピル性を有するポリエステル系短繊維織編物及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりポリエステル短繊維を用いた織編物は抗ピリング性(以下、抗ピル性とも表記)がなく、特に編物においてはその欠点が用途拡大の大きな障害となっている。しかしながら、カジュアルニットや学生用体育衣料、通学用衣料等にはエステル綿混紡ニット等はその低コスト性や生地の汎用性から抗ピル性が不十分なまま用途展開されているのが実状である。このような背景下、高品位で、かつソフト、バルキー、清涼感、または保温性、吸水速乾性等の快適性が付加されたポリエステル織編物は益々希求されており、これらの要求を満たすために、変性ポリエステル繊維を用いた紡績糸や結束紡績等による抗ピル性織編物が提案されているが、これらも以下の理由で十分な性能、特性を備えるものにはなっていない。
【0003】
即ち、有機スルホン酸塩基含有化合物共重合ポリエステル繊維やリン含有化合物共重合ポリエステル繊維等の変性ポリエステル繊維は、レジン物性や紡糸、延伸工程などで繊維強度を低下させ、更には染色仕上げ工程で酸またはアルカリ浴中で加水分解して繊維強度(結節強度)を低下させ、生地表面の毛羽を脱落しやすくするものである(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、このような変性ポリエステル繊維、特に有機スルホン酸塩基含有化合物共重合ポリエステル繊維においては、一般的な丸断面形状の繊維形態でさえも紡糸中に金属塩が析出し易く、紡糸性が悪く、異型断面繊維の紡出は尚更に困難さを増す。かつ繊維強度が弱いため紡績性が劣る欠点を有する。可紡性を向上させるために繊維強度を上げると、抗ピル性を得るためには染色加工工程で繊維強度を低下させることが必要であり、この染色加工で一定の品質を保つためには、厳密な加工管理が必要であり、製造工程が煩雑になる欠点がある。
【0004】
このような変性ポリエステル繊維の染色加工において、処理液をpH3〜4等の強酸性サイドで行なう場合は、処理中の液pHの変化、バッチ間差を最小に制御することは困難であり、制御が不十分であれば生地の脆化や変色が発生し、実用生地強力低下や品位低下につながり、著しく製品価値を損ねてしまう。また、このような変性ポリエステル繊維で構成された生地は、染色加工品揚がりで糸または生地の強力低下のため、再染色加工が不可能で、極めて不経済である。また、これら変性ポリエステルと綿等の他繊維との混紡糸は変性ポリエステル100%紡績糸の場合と異なり、弱い繊維が強い繊維に絡みつく構造になり、一般に抗ピル性を悪化させる傾向にある。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−173718号公報(請求項1など)
【特許文献2】
特開平8−13274号公報(請求項1など)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、抗ピリング性(抗ピル性)で、かつ嵩高性に優れた短繊維織編物を提供しようとするものであり、従来の抗ピル性を得るための変性ポリエステル繊維を用いる必要がなく、紡糸、紡績さらには染色加工時の製造トラブルの発生が少なく、熱水処理などの簡単な処理だけで、抗ピル性のみならずソフトなバルキー性を合わせ持つ嵩高性に優れたポリエステル系短繊維織編物を得ようとするものである。
【0007】
【発明が解決するための手段】
本発明は下記の構成からなる。
1.沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)4%以下の低収縮短繊維と、中空率8%以上の中空断面又は繊維断面外周上に一個以上の突起部を有する異型度1.8以上の異型断面の共重合ポリエステル短繊維とを含有するリング紡績糸で構成され、かつ該リング紡績糸が共重合ポリエステル繊維を10〜60質量%含有して熱収縮してなる織編物であり、抗ピリング性が3級以上であることを特徴とする嵩高性短繊維織編物。
2.共重合ポリエステル短繊維が沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)20%以上の高収縮繊維であることを特徴とする第1に記載の嵩高性短繊維織編物。
3.低収縮短繊維が繊維断面形状が中空または異型度1.8以上の異型のポリエステル短繊維であることを特徴とする第1又は2に記載の嵩高性短繊維織編物。
4.共重合ポリエステル繊維の第3成分がイソフタル酸であることを特徴とする第1〜3のいずれかに記載の嵩高性短繊維織編物。
5.沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)が4%以下の低収縮短繊維を90〜40質量%、沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)が20%以上の高収縮短繊維を10〜60質量%含有するリング紡績糸であり、かつ該紡績糸の毛羽数(K)と該紡績糸の断面繊維本数(A)との関係が下記(1)式を満足するリング紡績糸を用いて織編物とし、次いで該織編物を熱収縮させることを特徴とする嵩高性短繊維織編物の製造方法。
K≦2A ・・・・・・ (1)式
K:長さ1mm以上の毛羽の10m当りの本数
A:紡績糸の断面繊維本数
紡績糸の断面繊維本数:5315×1.11÷(英式綿番手×単繊維のdtex)(但し、複数の異なる繊度の単繊維が混合使用されている場合は、その混合比率で毛羽数を計算し、合算する。)
6.高収縮短繊維が中空率8%以上の中空断面または繊維断面外周上に一個以上の突起部を有する異型度1.8以上の異型断面で、かつ繊度1.6〜5.0dtexの共重合ポリエステル短繊維であることを特徴とする第5に記載の嵩高性短繊維織編物の製造方法。
7.高収縮短繊維が60〜160℃における最大熱応力が0.08cN/dtex以上の共重合ポリエステル短繊維であることを特徴とする第5又は6に記載の嵩高性短繊維織編物の製造方法。
【0008】
本発明は熱収縮特性の大きく異なる2種類の短繊維を利用するものであり、高熱応力タイプの特定の繊度、断面形状を有する高収縮ポリエステル短繊維を他の特定繊度、断面形状を有する低収縮繊維との混紡形態でリング紡績糸とすることで、その毛羽数を特定数以下に抑制すると同時に繊維間の絡合性を弱めて抗ピル性を得、更に異収縮差によりソフト風合を実現するものである。
なお、以下、特に断わらない限り、繊維とは短繊維を意味する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明における共重合ポリエステルとは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどに代表されるポリアルキレンテレフタレートなどのホモポリエステルを基本骨格とし、共重合成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸等の二官能性カルボン酸やネオペンチルグリコール、ビスフェノールA等のポリオール成分を共重合したものである。
【0010】
本発明における共重合ポリエステル繊維において、共重合成分として、熱収縮応力や熱収縮率の点からイソフタル酸の使用が好ましく、その共重合量は、4〜12モル%が好ましく、より好ましくは、5〜10モル%の範囲である。イソフタル酸の共重合量が4モル%未満では繊維の収縮が不十分になり、また13モル%以上では後加工時に応力緩和が起き易く、収縮力、原綿強力、熱安定性が低下する傾向がある。また、共重合成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分等が本発明における共重合ポリエステル繊維の基本性能を変えない範囲で含まれていてもよい。
【0011】
本発明における共重合ポリエステル繊維は、繊維断面が中空率8%以上の中空か又はY型、十字型、星型等の繊維断面外周上に突起部を有する異型度(外接円直径/内接円直径)1.8以上の異型断面を有する。また、本発明における共重合ポリエステル繊維は、高収縮繊維であり、ボイル水中20分間のフリー収縮での沸水収縮率が20%以上、同熱応力が0.08cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上、同熱応力が0.15cN/dtex以上である。このような高収縮繊維を原綿として用いることで混紡糸に占める高収縮繊維の混率を低下させ、混紡糸自身の収縮率を抑制し、繊維間収縮差を増加させることで糸のバルキー性を増すことが可能となる。
【0012】
高収縮中空繊維の場合、中空の断面形状は丸、楕円、三角、偏平、四角等であってもよい。また単繊維中の中空個数は1個又は複数個でもよく、中空の形成は紡糸時でも、また、綿、糸、又は布帛で特定成分を溶解除去した後でもよい。中空率の合計は8%以上であり、40%未満が好ましく、8%未満では収縮力が低下し、40%以上では断面が潰れたりして収縮効果が減少してしまう傾向がある。
【0013】
また、異型度(外接円直径/内接円直径)は1.8以上であり、好ましくは2.0以上の繊維断面外周上に3個以上の突起部を有する異型断面形状(Y型、十字型、星型、他の溝型等)を有する繊維であることが好ましい。異型度がそれ未満では応力緩和が大きく、混紡糸中での収縮力が発現されにくく、目的とするバルキー性やソフト風合が得られにくくなる。
【0014】
高収縮ポリエステル繊維の繊度は1.6〜5.0dtexが好ましく、より好ましくは2.0〜4.0dtexの範囲である。太過ぎると生地が粗硬化してソフトさに欠け、細過ぎると収縮力が減少し、紡績糸のバルキー性の発現が不足する傾向がある。
【0015】
本発明における紡績糸(以下、混紡糸とも表記)は、上記の高収縮繊維と沸水収縮率が4%以下の低収縮繊維とを含有する。
低収縮繊維は、沸水収縮率が4%以下の繊維であれば特に限定はされないが、繊度、繊維断面形状などを任意に決めることができるので合成繊維が好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどに代表されるポリアルキレンテレフタレートなどのホモポリエステル繊維が好ましい。
【0016】
紡績糸における高収縮ポリエステル繊維の混率は10質量%以上、60質量%以下が好ましく、更に好ましくは15質量%以上、45質量%以下である。特に高異型度繊維の場合には、収縮応力が強いため40質量%以下であることが好ましい。混率が60質量%を超えると、紡績糸自身の収縮が大きくなり、紡績糸としてのバルキー性が得られにくくなり、風合を損うことがある。また、10質量%未満では十分な高収縮ポリエステル繊維と低収縮繊維との収縮率差が得られず紡績糸のバルキー性が不足し、ソフト性が得られないことがある。
本発明によれば、高収縮繊維を前記のような高収縮ポリエステル繊維とすることで紡績糸中の高収縮繊維の混率を少なくすることができ、紡績糸自身の収縮を適度に抑制し、ふくらみ感を増し、混紡素材の特徴が生かされたソフト風合が得られることになる。
【0017】
本発明における低収縮繊維は、繊度が2.2〜10dtex 程度であることが好ましく、さらには繊維断面形状が中空率8%以上の中空繊維、または異型度1.8以上のポリエステル短繊維であることが抗ピル性の点から好ましい。このような繊度、形態を有する繊維は繊維断面本数が少なく、かつ剛性が比較的強いため、繊維同士が絡合しにくく、抗ピル性が得られ易いからである。しかし、これらに限定されるものではなく、抗ピリング性が3級以上を満たすことができれば、綿、ウール、シルク、麻等の天然繊維、レーヨン、モダール、キュプラ、ポリノジック、リヨセル、アセテート(ジ、トリ)等の再生繊維、精製繊維、半合成繊維、ポリアミド繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、カチオン可染性や常圧可染性のポリエステル繊維、ポリアミド繊維とポリエステル繊維との2成分紡糸割繊型繊維等の合成繊維が使用でき、また、これらの繊維が混用されてもよい。
【0018】
低収縮繊維の内の低収縮繊維は、酸化チタン、炭化ジルコニウムやカオリナイト等の無機粒子を0.1〜5.0質量%を含んでいてもよい。酸化チタンや炭化ジルコニウム等を含有していると、体温からの放射熱を吸収し、繊維間内部に熱を蓄えるため保温性を高めることが可能である。また、酸化チタンは可視光線を吸収し、太陽光を遮り、夏場の衣服内温度上昇を妨げる効果がある。無機粒子の含有率が5.0質量%を超えると紡糸性が悪化し、1.0質量%未満では保温性や遮熱効果は得られにくい。
【0019】
また、低収縮繊維が異型度2.4程度の高異型度Y型断面繊維では繊維軸に対し直角方向に外力を受けた場合、柔軟に変形し、外力が取り除かれた後は回復するため適度なクッション効果があり、ソフト風合化に寄与し、長さ方向の変形に対しては中空断面形状繊維と同様に抵抗力があり、これが繊維間の絡合性を弱め、繊度との相乗効果も相俟って抗ピル性に効果的に作用する。
【0020】
低収縮繊維の沸水収縮率は、高収縮繊維との収縮率差を大きくし、バルキーでソフトな紡績糸を得るためには、4.0%以下であることが必要であり、好ましくは3.0%以下である。仕上品である織編物の混紡糸中の高収縮繊維と低収縮繊維の繊維長差は7%以上であることが好ましく、より好ましくは8%以上である。7%未満では生地としてバルキー性、ソフトさが乏しくなりやすい。紡績糸に含まれる添加物は前記酸化チタン、炭化ジルコニウム、カオリナイトなどの他、抗菌防臭剤、制菌剤、防かび剤、顔料等特に制約はない。
本発明における紡績糸の沸水収縮率は、8%以上が好ましく、更に好ましくは12%以上である。
【0021】
本発明における紡績糸の製造方法、即ち、高収縮ポリエステル繊維と他の低収縮繊維を混紡する方法としては、カード混綿等の均一混綿方式の粗糸を用いることもできるが、好ましくは、スライバー混繊等による粗糸工程までに高収縮繊維を芯部に多く配し、低収縮繊維を鞘部に多く配する芯鞘構造の粗糸とし、該粗糸を精紡工程でドラフトするか、または精紡工程のドラフトゾーンで高収縮繊維と低収縮繊維の各粗糸をドラフト後、撚り上げて巻き取る方法などがある。
【0022】
本発明においては紡出された紡績糸は、該紡績糸の毛羽数(K)と該紡績糸の断面繊維本数(A)との関係が下記(1)式を満足するリング紡績糸である。
K≦2A ・・・・・・ (1)式
K:長さ1mm以上の毛羽の10m当りの本数
A:紡績糸の断面繊維本数
紡績糸の断面繊維本数:5315×1.11÷(英式綿番手×単繊維のdtex)但し、複数の異なる繊度の単繊維が混合使用されている場合は、その混合比率で毛羽数を計算し、合算する。
【0023】
次いで、得られた紡績糸を織編物にする際、該紡績糸を単独で用いてもよく、また本発明の範囲内であれば他の繊維と交編織してもよい。本発明の織編物は、スムース、天竺や綾、サテン等通常の織編組織の他、鹿の子、ジャカード、パイル等の浮き組織の多い織編組織において効果を発揮する。
【0024】
さらに、得られた織編物は、一般的な精錬、リラックス、染色などと同様な熱水処理などの熱処理で、特に織編物を構成する紡績糸中の高収縮繊維を熱収縮させることによって、紡績糸のバルキー性を発現させてソフトな風合を呈し、かつ抗ピル性に優れた目的とする短繊維織編物になる。
【0025】
本発明における紡績糸は、沸水中では5%から40%程度の収縮を起こす。このため、仕上った織編物の風合、目付、巾長さ等を考慮して紡績糸や生機設計をすることが必要である。本発明における紡績糸としての沸水収縮率は、8%以上が好ましく、更に好ましくは12%以上である。
染色加工においては紡績糸、また生地の持つ潜在収縮力を精練、リラックス工程、染色工程などで十分に発現させる必要があり、液流染色機の使用が望ましい。
特に精練、リラックス工程において70〜80℃前後で10〜20分程度均一で十分な弛緩処理を行った後、昇温することが望ましく、柔軟剤の併用も好ましい。
【0026】
本発明における織物においては、他の繊維、特にセルロース系繊維等の品位、風合、物性改善のための毛焼き、シルケット加工等を行ってもよいが、合成繊維の抗ピル性を得るための毛焼き、アルカリ減量、酸処理、シャリング等を行わずに仕上げることができるのが本発明の特徴である。編物においても同様に合成繊維の抗ピル性を得る目的でのアルカリ処理や酸処理を施す事なく仕上げる。他の繊維の抗ピル性を得るための樹脂加工や、スキンケア、抗菌防臭加工等を施してもよい。
【0027】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を説明する。
測定方法
▲1▼原綿繊維の沸水収縮率:JIS L 1015の熱水収縮率に準拠して測定 した。
なお、沸水処理時間は20分間である。
▲2▼原綿繊維の熱応力:セイコー電子工業(株)製熱応力歪測定装置EMA/SS100を用い、初荷重0.059cN/dtex、昇温速度10℃/分で測定した。
▲3▼紡績糸の毛羽数:敷島紡績株式会社製F−インデックステスターを使用し、10m当たりの長さ1mm以上の毛羽本数を求めた。
▲4▼生地の抗ピリング性:JIS L 1076 A法(ICI形試験機 5時間 )に準拠した。
▲5▼生地の風合評価 :5人のパネラーによる触感で判定した。
〇:ふくらみがありソフトで良好、 △:ふくらみ感がやや不足
×:ふくらみ感がなく不良
▲6▼総合評価(ピリング、風合): 〇は両者(ピリング、風合)とも良好、 △は両者ともやや不良、×は両者とも不良を意味する。
【0028】
実施例1
ポリエチレンテレフタレートを基本骨格とし、酸成分の10モル%がイソフタル酸である共重合ポリエステル(固有粘度0.625)を、中空繊維用紡糸ノズルを用いてポリマー温度282℃、紡糸速度1500m/分で紡糸(酸化チタン0.35質量%含有)した。その後延伸工程で延伸温度室温、延伸倍率2.68、延伸速度140m/分で延伸し、捲縮付与後、カットファイバーとした。得られた中空高収縮繊維(繊度2.2dtex、中空率20%、カット長38mm)は、沸水収縮率39.1%、最大熱応力値が0.18cN/dtex(105℃)であった。
一方、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.633)を、中空繊維用紡糸ノズルを用いてポリマー温度288℃、紡糸速度1600m/分で紡糸(酸化チタン0.35質量%含有)した。その後延伸工程で延伸温度112℃、延伸倍率2.84、延伸速度140m/分で延伸し、捲縮付与後、カットファイバーとした。得られた中空低収縮繊維(繊度2.2dtex、中空率20%、カット長38mm)であった。
得られた中空高収縮繊維と中空低収縮繊維のそれぞれの粗糸を精紡工程で異なる糸道でドラフトし、相互に撚り合わせて巻き上げる精紡交撚糸方式で芯部に高収縮繊維が多く配され、鞘部に低収縮繊維が多く配される芯鞘構造で英式綿番手30番(撚係数3.4)の紡績糸を得た。紡績糸中の中空高収縮繊維の含有率は、38%であった。また、紡績糸は毛羽数(K)が811本、断面繊維本数(A)が490本、K/Aが1.7であった。
【0029】
得られた紡績糸を用い、22ゲージでループ長を100ウェル当り390mmのスムース組織の編物を得た。該編物を開反し、液流染色機で精練剤とともに80℃10分間の弛緩熱収縮処理した後、110℃まで昇温し、10分間の熱収縮処理を行った。その後脱水乾燥し、有り巾で170℃、40秒間の中間セットを施した。その後高圧液流染色機を用いて分散蛍光染料0.8%omfで130℃、20分間染色し、還元洗浄、脱水乾燥後、有り巾で160℃、60秒間の仕上げセットを行なった。
得られた生地の評価結果を表1に示した。生地の抗ピリング性は、4−5級、風合は良好との判定であった。なお、生地から取り出した紡績糸中の中空高収縮繊維と中空低収縮繊維との収縮率の差は、11.6%であった。
【0030】
実施例2
実施例1において、中空高収縮繊維を異型度2.2のY型断面高収縮繊維(延伸倍率2.34)に変更し、中空低収縮繊維を異型度2.2のY型断面低収縮繊維(延伸倍率2.34)に変更し、かつ中実高収縮繊維の含有率(混率)を25%とする以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、異型度2.2のY型断面の高収縮繊維の沸水収縮率は38.0%、最大熱応力値は0.17cN/dtex(107℃)であった。
【0031】
実施例3
実施例2において、低収縮繊維の異型度2.2を1.9に変更する以外は実施例2と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。
【0032】
実施例4
高収縮繊維として中空率を25%とした中空高収縮繊維を使用し、低収縮繊維として異型度1.6のY字断面低収縮繊維でフルダル(酸化チタン3.5質量%含有)を使用する以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、中空高収縮繊維の沸水収縮率は40.6%、最大熱応力値は0.18cN/dtex(103℃)であった。
【0033】
比較例1
高収縮繊維として繊度1.6dtexの中実丸断面の高収縮繊維(延伸倍率2.68)を使用し、低収縮繊維として繊度1.6dtexの中実断面の低収縮繊維(延伸倍率2.60)を使用し、かつ中実丸断面の高収縮繊維の含有率を25%とする以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、中実丸断面の高収縮繊維の沸水収縮率は24.8%、最大熱応力値は0.09cN/dtex(148℃)であった。
【0034】
比較例2
高収縮繊維として繊度2.2dtexの中実丸断面の高収縮繊維を使用し、低収縮繊維として繊度2.2dtexの中実丸断面の低収縮繊維を使用する以外は比較例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、中実丸断面の高収縮繊維の沸水収縮率は23.5%、最大熱応力値は0.08cN/dtex(148℃)であった。
【0035】
比較例3
高収縮繊維として繊度2.2dtexで異型度1.4のY型断面高収縮繊維(延伸倍率は2.62)を使用し、低収縮繊維として繊度2.2dtexで中空度20%の中空低収縮繊維を使用し、かつY型断面高収縮繊維の含有率を25%とするする以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、Y型断面高収縮繊維の沸水収縮率は22.3%、最大熱応力値は0.10cN/dtex(107℃)であった。
【0036】
比較例4
高収縮繊維として繊度1.6dtexで中空率25%の中空高収縮繊維を使用し、低収縮繊維として繊度2.2dtexで異型度2.2のY型断面低収縮繊維を使用し、精紡交撚方式の代わりに、通常のカード混綿方式でのリング紡績糸を得た以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、中空高収縮繊維の沸水収縮率は40.6%、最大熱応力値は0.18cN/dtex(103℃)であった。
【0037】
比較例5
低収縮繊維として繊度2.2dtexの異型度2.2のY型断面低収縮繊維を使用する以外は比較例4と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
以上のように、実施例はいずれも紡績糸の毛羽数が少なく、生地の抗ピリング性が3‐4級以上を示し、風合は比較例に比べ、バルキーでソフトであった。これは生地の紡績糸中の繊維長差が実施例は比較例に比べ大きいことから、高収縮繊維の収縮が大きく、異収縮効果が十分に発揮された結果、紡績糸の嵩高性が発現し、かつ鞘部に多く配された繊維の毛羽数が少なく、かつ相互に絡合しにくい繊維形態になっているためと推察される。比較例3はピリングが3級であったが、異収縮効果が弱く、風合が実施例に比べ劣るものであった。
なお、実施例4と比較例5の生地に対して、高さ2cm、巾、長さ各10cmの箱の上部に各水準の生地を1枚張り、20℃、65%RHの環境下で生地の裏側をヒーターで加熱し、5分後の生地の表の温度変化を熱伝対温度センサーで測定した結果、実施例が26.7℃、比較例が28.3℃を示し、その温度差が1.6℃であった。このことは、実施例の生地は、バルキーである上、吸熱し、生地の表側に放熱しないため衣服内の保温性を高めることを意味し、ソフトでバルキーで保温性に富み、更に抗ピル性にも優れ、実用性の高い水準の生地であることを示すものである。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリエステル系短繊維を主体とする短繊維織編物でありながら、従来の抗ピル性を得るための変性ポリエステル繊維を用いる必要がなく、紡糸、紡績さらには染色加工時の製造トラブルの発生が少なく、熱水処理などの簡単な処理だけで、抗ピル性のみならずソフトなバルキー性を兼備し、嵩高性に優れ、ソフトで肌触りのよい風合の短繊維織編物を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、嵩高性に優れた短繊維織編物に関し、さらに詳しくは、スポーツインナーニット、スポーツアウターニット、カジュアルニット、セーター、ジャケット、パンツ、スカート、ユニフォーム、芯地、タオル、スカーフ、腹巻、靴下、クッション側地等に最適なバルキーで保温性、軽量、吸水速乾性等に優れるとともに、優れた抗ピル性を有するポリエステル系短繊維織編物及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりポリエステル短繊維を用いた織編物は抗ピリング性(以下、抗ピル性とも表記)がなく、特に編物においてはその欠点が用途拡大の大きな障害となっている。しかしながら、カジュアルニットや学生用体育衣料、通学用衣料等にはエステル綿混紡ニット等はその低コスト性や生地の汎用性から抗ピル性が不十分なまま用途展開されているのが実状である。このような背景下、高品位で、かつソフト、バルキー、清涼感、または保温性、吸水速乾性等の快適性が付加されたポリエステル織編物は益々希求されており、これらの要求を満たすために、変性ポリエステル繊維を用いた紡績糸や結束紡績等による抗ピル性織編物が提案されているが、これらも以下の理由で十分な性能、特性を備えるものにはなっていない。
【0003】
即ち、有機スルホン酸塩基含有化合物共重合ポリエステル繊維やリン含有化合物共重合ポリエステル繊維等の変性ポリエステル繊維は、レジン物性や紡糸、延伸工程などで繊維強度を低下させ、更には染色仕上げ工程で酸またはアルカリ浴中で加水分解して繊維強度(結節強度)を低下させ、生地表面の毛羽を脱落しやすくするものである(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、このような変性ポリエステル繊維、特に有機スルホン酸塩基含有化合物共重合ポリエステル繊維においては、一般的な丸断面形状の繊維形態でさえも紡糸中に金属塩が析出し易く、紡糸性が悪く、異型断面繊維の紡出は尚更に困難さを増す。かつ繊維強度が弱いため紡績性が劣る欠点を有する。可紡性を向上させるために繊維強度を上げると、抗ピル性を得るためには染色加工工程で繊維強度を低下させることが必要であり、この染色加工で一定の品質を保つためには、厳密な加工管理が必要であり、製造工程が煩雑になる欠点がある。
【0004】
このような変性ポリエステル繊維の染色加工において、処理液をpH3〜4等の強酸性サイドで行なう場合は、処理中の液pHの変化、バッチ間差を最小に制御することは困難であり、制御が不十分であれば生地の脆化や変色が発生し、実用生地強力低下や品位低下につながり、著しく製品価値を損ねてしまう。また、このような変性ポリエステル繊維で構成された生地は、染色加工品揚がりで糸または生地の強力低下のため、再染色加工が不可能で、極めて不経済である。また、これら変性ポリエステルと綿等の他繊維との混紡糸は変性ポリエステル100%紡績糸の場合と異なり、弱い繊維が強い繊維に絡みつく構造になり、一般に抗ピル性を悪化させる傾向にある。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−173718号公報(請求項1など)
【特許文献2】
特開平8−13274号公報(請求項1など)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、抗ピリング性(抗ピル性)で、かつ嵩高性に優れた短繊維織編物を提供しようとするものであり、従来の抗ピル性を得るための変性ポリエステル繊維を用いる必要がなく、紡糸、紡績さらには染色加工時の製造トラブルの発生が少なく、熱水処理などの簡単な処理だけで、抗ピル性のみならずソフトなバルキー性を合わせ持つ嵩高性に優れたポリエステル系短繊維織編物を得ようとするものである。
【0007】
【発明が解決するための手段】
本発明は下記の構成からなる。
1.沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)4%以下の低収縮短繊維と、中空率8%以上の中空断面又は繊維断面外周上に一個以上の突起部を有する異型度1.8以上の異型断面の共重合ポリエステル短繊維とを含有するリング紡績糸で構成され、かつ該リング紡績糸が共重合ポリエステル繊維を10〜60質量%含有して熱収縮してなる織編物であり、抗ピリング性が3級以上であることを特徴とする嵩高性短繊維織編物。
2.共重合ポリエステル短繊維が沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)20%以上の高収縮繊維であることを特徴とする第1に記載の嵩高性短繊維織編物。
3.低収縮短繊維が繊維断面形状が中空または異型度1.8以上の異型のポリエステル短繊維であることを特徴とする第1又は2に記載の嵩高性短繊維織編物。
4.共重合ポリエステル繊維の第3成分がイソフタル酸であることを特徴とする第1〜3のいずれかに記載の嵩高性短繊維織編物。
5.沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)が4%以下の低収縮短繊維を90〜40質量%、沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)が20%以上の高収縮短繊維を10〜60質量%含有するリング紡績糸であり、かつ該紡績糸の毛羽数(K)と該紡績糸の断面繊維本数(A)との関係が下記(1)式を満足するリング紡績糸を用いて織編物とし、次いで該織編物を熱収縮させることを特徴とする嵩高性短繊維織編物の製造方法。
K≦2A ・・・・・・ (1)式
K:長さ1mm以上の毛羽の10m当りの本数
A:紡績糸の断面繊維本数
紡績糸の断面繊維本数:5315×1.11÷(英式綿番手×単繊維のdtex)(但し、複数の異なる繊度の単繊維が混合使用されている場合は、その混合比率で毛羽数を計算し、合算する。)
6.高収縮短繊維が中空率8%以上の中空断面または繊維断面外周上に一個以上の突起部を有する異型度1.8以上の異型断面で、かつ繊度1.6〜5.0dtexの共重合ポリエステル短繊維であることを特徴とする第5に記載の嵩高性短繊維織編物の製造方法。
7.高収縮短繊維が60〜160℃における最大熱応力が0.08cN/dtex以上の共重合ポリエステル短繊維であることを特徴とする第5又は6に記載の嵩高性短繊維織編物の製造方法。
【0008】
本発明は熱収縮特性の大きく異なる2種類の短繊維を利用するものであり、高熱応力タイプの特定の繊度、断面形状を有する高収縮ポリエステル短繊維を他の特定繊度、断面形状を有する低収縮繊維との混紡形態でリング紡績糸とすることで、その毛羽数を特定数以下に抑制すると同時に繊維間の絡合性を弱めて抗ピル性を得、更に異収縮差によりソフト風合を実現するものである。
なお、以下、特に断わらない限り、繊維とは短繊維を意味する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明における共重合ポリエステルとは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどに代表されるポリアルキレンテレフタレートなどのホモポリエステルを基本骨格とし、共重合成分として、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸等の二官能性カルボン酸やネオペンチルグリコール、ビスフェノールA等のポリオール成分を共重合したものである。
【0010】
本発明における共重合ポリエステル繊維において、共重合成分として、熱収縮応力や熱収縮率の点からイソフタル酸の使用が好ましく、その共重合量は、4〜12モル%が好ましく、より好ましくは、5〜10モル%の範囲である。イソフタル酸の共重合量が4モル%未満では繊維の収縮が不十分になり、また13モル%以上では後加工時に応力緩和が起き易く、収縮力、原綿強力、熱安定性が低下する傾向がある。また、共重合成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分等が本発明における共重合ポリエステル繊維の基本性能を変えない範囲で含まれていてもよい。
【0011】
本発明における共重合ポリエステル繊維は、繊維断面が中空率8%以上の中空か又はY型、十字型、星型等の繊維断面外周上に突起部を有する異型度(外接円直径/内接円直径)1.8以上の異型断面を有する。また、本発明における共重合ポリエステル繊維は、高収縮繊維であり、ボイル水中20分間のフリー収縮での沸水収縮率が20%以上、同熱応力が0.08cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上、同熱応力が0.15cN/dtex以上である。このような高収縮繊維を原綿として用いることで混紡糸に占める高収縮繊維の混率を低下させ、混紡糸自身の収縮率を抑制し、繊維間収縮差を増加させることで糸のバルキー性を増すことが可能となる。
【0012】
高収縮中空繊維の場合、中空の断面形状は丸、楕円、三角、偏平、四角等であってもよい。また単繊維中の中空個数は1個又は複数個でもよく、中空の形成は紡糸時でも、また、綿、糸、又は布帛で特定成分を溶解除去した後でもよい。中空率の合計は8%以上であり、40%未満が好ましく、8%未満では収縮力が低下し、40%以上では断面が潰れたりして収縮効果が減少してしまう傾向がある。
【0013】
また、異型度(外接円直径/内接円直径)は1.8以上であり、好ましくは2.0以上の繊維断面外周上に3個以上の突起部を有する異型断面形状(Y型、十字型、星型、他の溝型等)を有する繊維であることが好ましい。異型度がそれ未満では応力緩和が大きく、混紡糸中での収縮力が発現されにくく、目的とするバルキー性やソフト風合が得られにくくなる。
【0014】
高収縮ポリエステル繊維の繊度は1.6〜5.0dtexが好ましく、より好ましくは2.0〜4.0dtexの範囲である。太過ぎると生地が粗硬化してソフトさに欠け、細過ぎると収縮力が減少し、紡績糸のバルキー性の発現が不足する傾向がある。
【0015】
本発明における紡績糸(以下、混紡糸とも表記)は、上記の高収縮繊維と沸水収縮率が4%以下の低収縮繊維とを含有する。
低収縮繊維は、沸水収縮率が4%以下の繊維であれば特に限定はされないが、繊度、繊維断面形状などを任意に決めることができるので合成繊維が好ましく、特にポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどに代表されるポリアルキレンテレフタレートなどのホモポリエステル繊維が好ましい。
【0016】
紡績糸における高収縮ポリエステル繊維の混率は10質量%以上、60質量%以下が好ましく、更に好ましくは15質量%以上、45質量%以下である。特に高異型度繊維の場合には、収縮応力が強いため40質量%以下であることが好ましい。混率が60質量%を超えると、紡績糸自身の収縮が大きくなり、紡績糸としてのバルキー性が得られにくくなり、風合を損うことがある。また、10質量%未満では十分な高収縮ポリエステル繊維と低収縮繊維との収縮率差が得られず紡績糸のバルキー性が不足し、ソフト性が得られないことがある。
本発明によれば、高収縮繊維を前記のような高収縮ポリエステル繊維とすることで紡績糸中の高収縮繊維の混率を少なくすることができ、紡績糸自身の収縮を適度に抑制し、ふくらみ感を増し、混紡素材の特徴が生かされたソフト風合が得られることになる。
【0017】
本発明における低収縮繊維は、繊度が2.2〜10dtex 程度であることが好ましく、さらには繊維断面形状が中空率8%以上の中空繊維、または異型度1.8以上のポリエステル短繊維であることが抗ピル性の点から好ましい。このような繊度、形態を有する繊維は繊維断面本数が少なく、かつ剛性が比較的強いため、繊維同士が絡合しにくく、抗ピル性が得られ易いからである。しかし、これらに限定されるものではなく、抗ピリング性が3級以上を満たすことができれば、綿、ウール、シルク、麻等の天然繊維、レーヨン、モダール、キュプラ、ポリノジック、リヨセル、アセテート(ジ、トリ)等の再生繊維、精製繊維、半合成繊維、ポリアミド繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、カチオン可染性や常圧可染性のポリエステル繊維、ポリアミド繊維とポリエステル繊維との2成分紡糸割繊型繊維等の合成繊維が使用でき、また、これらの繊維が混用されてもよい。
【0018】
低収縮繊維の内の低収縮繊維は、酸化チタン、炭化ジルコニウムやカオリナイト等の無機粒子を0.1〜5.0質量%を含んでいてもよい。酸化チタンや炭化ジルコニウム等を含有していると、体温からの放射熱を吸収し、繊維間内部に熱を蓄えるため保温性を高めることが可能である。また、酸化チタンは可視光線を吸収し、太陽光を遮り、夏場の衣服内温度上昇を妨げる効果がある。無機粒子の含有率が5.0質量%を超えると紡糸性が悪化し、1.0質量%未満では保温性や遮熱効果は得られにくい。
【0019】
また、低収縮繊維が異型度2.4程度の高異型度Y型断面繊維では繊維軸に対し直角方向に外力を受けた場合、柔軟に変形し、外力が取り除かれた後は回復するため適度なクッション効果があり、ソフト風合化に寄与し、長さ方向の変形に対しては中空断面形状繊維と同様に抵抗力があり、これが繊維間の絡合性を弱め、繊度との相乗効果も相俟って抗ピル性に効果的に作用する。
【0020】
低収縮繊維の沸水収縮率は、高収縮繊維との収縮率差を大きくし、バルキーでソフトな紡績糸を得るためには、4.0%以下であることが必要であり、好ましくは3.0%以下である。仕上品である織編物の混紡糸中の高収縮繊維と低収縮繊維の繊維長差は7%以上であることが好ましく、より好ましくは8%以上である。7%未満では生地としてバルキー性、ソフトさが乏しくなりやすい。紡績糸に含まれる添加物は前記酸化チタン、炭化ジルコニウム、カオリナイトなどの他、抗菌防臭剤、制菌剤、防かび剤、顔料等特に制約はない。
本発明における紡績糸の沸水収縮率は、8%以上が好ましく、更に好ましくは12%以上である。
【0021】
本発明における紡績糸の製造方法、即ち、高収縮ポリエステル繊維と他の低収縮繊維を混紡する方法としては、カード混綿等の均一混綿方式の粗糸を用いることもできるが、好ましくは、スライバー混繊等による粗糸工程までに高収縮繊維を芯部に多く配し、低収縮繊維を鞘部に多く配する芯鞘構造の粗糸とし、該粗糸を精紡工程でドラフトするか、または精紡工程のドラフトゾーンで高収縮繊維と低収縮繊維の各粗糸をドラフト後、撚り上げて巻き取る方法などがある。
【0022】
本発明においては紡出された紡績糸は、該紡績糸の毛羽数(K)と該紡績糸の断面繊維本数(A)との関係が下記(1)式を満足するリング紡績糸である。
K≦2A ・・・・・・ (1)式
K:長さ1mm以上の毛羽の10m当りの本数
A:紡績糸の断面繊維本数
紡績糸の断面繊維本数:5315×1.11÷(英式綿番手×単繊維のdtex)但し、複数の異なる繊度の単繊維が混合使用されている場合は、その混合比率で毛羽数を計算し、合算する。
【0023】
次いで、得られた紡績糸を織編物にする際、該紡績糸を単独で用いてもよく、また本発明の範囲内であれば他の繊維と交編織してもよい。本発明の織編物は、スムース、天竺や綾、サテン等通常の織編組織の他、鹿の子、ジャカード、パイル等の浮き組織の多い織編組織において効果を発揮する。
【0024】
さらに、得られた織編物は、一般的な精錬、リラックス、染色などと同様な熱水処理などの熱処理で、特に織編物を構成する紡績糸中の高収縮繊維を熱収縮させることによって、紡績糸のバルキー性を発現させてソフトな風合を呈し、かつ抗ピル性に優れた目的とする短繊維織編物になる。
【0025】
本発明における紡績糸は、沸水中では5%から40%程度の収縮を起こす。このため、仕上った織編物の風合、目付、巾長さ等を考慮して紡績糸や生機設計をすることが必要である。本発明における紡績糸としての沸水収縮率は、8%以上が好ましく、更に好ましくは12%以上である。
染色加工においては紡績糸、また生地の持つ潜在収縮力を精練、リラックス工程、染色工程などで十分に発現させる必要があり、液流染色機の使用が望ましい。
特に精練、リラックス工程において70〜80℃前後で10〜20分程度均一で十分な弛緩処理を行った後、昇温することが望ましく、柔軟剤の併用も好ましい。
【0026】
本発明における織物においては、他の繊維、特にセルロース系繊維等の品位、風合、物性改善のための毛焼き、シルケット加工等を行ってもよいが、合成繊維の抗ピル性を得るための毛焼き、アルカリ減量、酸処理、シャリング等を行わずに仕上げることができるのが本発明の特徴である。編物においても同様に合成繊維の抗ピル性を得る目的でのアルカリ処理や酸処理を施す事なく仕上げる。他の繊維の抗ピル性を得るための樹脂加工や、スキンケア、抗菌防臭加工等を施してもよい。
【0027】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を説明する。
測定方法
▲1▼原綿繊維の沸水収縮率:JIS L 1015の熱水収縮率に準拠して測定 した。
なお、沸水処理時間は20分間である。
▲2▼原綿繊維の熱応力:セイコー電子工業(株)製熱応力歪測定装置EMA/SS100を用い、初荷重0.059cN/dtex、昇温速度10℃/分で測定した。
▲3▼紡績糸の毛羽数:敷島紡績株式会社製F−インデックステスターを使用し、10m当たりの長さ1mm以上の毛羽本数を求めた。
▲4▼生地の抗ピリング性:JIS L 1076 A法(ICI形試験機 5時間 )に準拠した。
▲5▼生地の風合評価 :5人のパネラーによる触感で判定した。
〇:ふくらみがありソフトで良好、 △:ふくらみ感がやや不足
×:ふくらみ感がなく不良
▲6▼総合評価(ピリング、風合): 〇は両者(ピリング、風合)とも良好、 △は両者ともやや不良、×は両者とも不良を意味する。
【0028】
実施例1
ポリエチレンテレフタレートを基本骨格とし、酸成分の10モル%がイソフタル酸である共重合ポリエステル(固有粘度0.625)を、中空繊維用紡糸ノズルを用いてポリマー温度282℃、紡糸速度1500m/分で紡糸(酸化チタン0.35質量%含有)した。その後延伸工程で延伸温度室温、延伸倍率2.68、延伸速度140m/分で延伸し、捲縮付与後、カットファイバーとした。得られた中空高収縮繊維(繊度2.2dtex、中空率20%、カット長38mm)は、沸水収縮率39.1%、最大熱応力値が0.18cN/dtex(105℃)であった。
一方、ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.633)を、中空繊維用紡糸ノズルを用いてポリマー温度288℃、紡糸速度1600m/分で紡糸(酸化チタン0.35質量%含有)した。その後延伸工程で延伸温度112℃、延伸倍率2.84、延伸速度140m/分で延伸し、捲縮付与後、カットファイバーとした。得られた中空低収縮繊維(繊度2.2dtex、中空率20%、カット長38mm)であった。
得られた中空高収縮繊維と中空低収縮繊維のそれぞれの粗糸を精紡工程で異なる糸道でドラフトし、相互に撚り合わせて巻き上げる精紡交撚糸方式で芯部に高収縮繊維が多く配され、鞘部に低収縮繊維が多く配される芯鞘構造で英式綿番手30番(撚係数3.4)の紡績糸を得た。紡績糸中の中空高収縮繊維の含有率は、38%であった。また、紡績糸は毛羽数(K)が811本、断面繊維本数(A)が490本、K/Aが1.7であった。
【0029】
得られた紡績糸を用い、22ゲージでループ長を100ウェル当り390mmのスムース組織の編物を得た。該編物を開反し、液流染色機で精練剤とともに80℃10分間の弛緩熱収縮処理した後、110℃まで昇温し、10分間の熱収縮処理を行った。その後脱水乾燥し、有り巾で170℃、40秒間の中間セットを施した。その後高圧液流染色機を用いて分散蛍光染料0.8%omfで130℃、20分間染色し、還元洗浄、脱水乾燥後、有り巾で160℃、60秒間の仕上げセットを行なった。
得られた生地の評価結果を表1に示した。生地の抗ピリング性は、4−5級、風合は良好との判定であった。なお、生地から取り出した紡績糸中の中空高収縮繊維と中空低収縮繊維との収縮率の差は、11.6%であった。
【0030】
実施例2
実施例1において、中空高収縮繊維を異型度2.2のY型断面高収縮繊維(延伸倍率2.34)に変更し、中空低収縮繊維を異型度2.2のY型断面低収縮繊維(延伸倍率2.34)に変更し、かつ中実高収縮繊維の含有率(混率)を25%とする以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、異型度2.2のY型断面の高収縮繊維の沸水収縮率は38.0%、最大熱応力値は0.17cN/dtex(107℃)であった。
【0031】
実施例3
実施例2において、低収縮繊維の異型度2.2を1.9に変更する以外は実施例2と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。
【0032】
実施例4
高収縮繊維として中空率を25%とした中空高収縮繊維を使用し、低収縮繊維として異型度1.6のY字断面低収縮繊維でフルダル(酸化チタン3.5質量%含有)を使用する以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、中空高収縮繊維の沸水収縮率は40.6%、最大熱応力値は0.18cN/dtex(103℃)であった。
【0033】
比較例1
高収縮繊維として繊度1.6dtexの中実丸断面の高収縮繊維(延伸倍率2.68)を使用し、低収縮繊維として繊度1.6dtexの中実断面の低収縮繊維(延伸倍率2.60)を使用し、かつ中実丸断面の高収縮繊維の含有率を25%とする以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、中実丸断面の高収縮繊維の沸水収縮率は24.8%、最大熱応力値は0.09cN/dtex(148℃)であった。
【0034】
比較例2
高収縮繊維として繊度2.2dtexの中実丸断面の高収縮繊維を使用し、低収縮繊維として繊度2.2dtexの中実丸断面の低収縮繊維を使用する以外は比較例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、中実丸断面の高収縮繊維の沸水収縮率は23.5%、最大熱応力値は0.08cN/dtex(148℃)であった。
【0035】
比較例3
高収縮繊維として繊度2.2dtexで異型度1.4のY型断面高収縮繊維(延伸倍率は2.62)を使用し、低収縮繊維として繊度2.2dtexで中空度20%の中空低収縮繊維を使用し、かつY型断面高収縮繊維の含有率を25%とするする以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、Y型断面高収縮繊維の沸水収縮率は22.3%、最大熱応力値は0.10cN/dtex(107℃)であった。
【0036】
比較例4
高収縮繊維として繊度1.6dtexで中空率25%の中空高収縮繊維を使用し、低収縮繊維として繊度2.2dtexで異型度2.2のY型断面低収縮繊維を使用し、精紡交撚方式の代わりに、通常のカード混綿方式でのリング紡績糸を得た以外は実施例1と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。なお、中空高収縮繊維の沸水収縮率は40.6%、最大熱応力値は0.18cN/dtex(103℃)であった。
【0037】
比較例5
低収縮繊維として繊度2.2dtexの異型度2.2のY型断面低収縮繊維を使用する以外は比較例4と同様にして生地を得て評価した。評価結果を表1に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
以上のように、実施例はいずれも紡績糸の毛羽数が少なく、生地の抗ピリング性が3‐4級以上を示し、風合は比較例に比べ、バルキーでソフトであった。これは生地の紡績糸中の繊維長差が実施例は比較例に比べ大きいことから、高収縮繊維の収縮が大きく、異収縮効果が十分に発揮された結果、紡績糸の嵩高性が発現し、かつ鞘部に多く配された繊維の毛羽数が少なく、かつ相互に絡合しにくい繊維形態になっているためと推察される。比較例3はピリングが3級であったが、異収縮効果が弱く、風合が実施例に比べ劣るものであった。
なお、実施例4と比較例5の生地に対して、高さ2cm、巾、長さ各10cmの箱の上部に各水準の生地を1枚張り、20℃、65%RHの環境下で生地の裏側をヒーターで加熱し、5分後の生地の表の温度変化を熱伝対温度センサーで測定した結果、実施例が26.7℃、比較例が28.3℃を示し、その温度差が1.6℃であった。このことは、実施例の生地は、バルキーである上、吸熱し、生地の表側に放熱しないため衣服内の保温性を高めることを意味し、ソフトでバルキーで保温性に富み、更に抗ピル性にも優れ、実用性の高い水準の生地であることを示すものである。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリエステル系短繊維を主体とする短繊維織編物でありながら、従来の抗ピル性を得るための変性ポリエステル繊維を用いる必要がなく、紡糸、紡績さらには染色加工時の製造トラブルの発生が少なく、熱水処理などの簡単な処理だけで、抗ピル性のみならずソフトなバルキー性を兼備し、嵩高性に優れ、ソフトで肌触りのよい風合の短繊維織編物を提供することができる。
Claims (7)
- 沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)4%以下の低収縮短繊維と、中空率8%以上の中空断面又は繊維断面外周上に一個以上の突起部を有する異型度1.8以上の異型断面の共重合ポリエステル短繊維とを含有するリング紡績糸で構成され、かつ該リング紡績糸が共重合ポリエステル短繊維を10〜60質量%含有して熱収縮してなる織編物であり、抗ピリング性が3級以上であることを特徴とする嵩高性短繊維織編物。
- 共重合ポリエステル短繊維が沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)20%以上の高収縮短繊維であることを特徴とする請求項1に記載の嵩高性短繊維織編物。
- 低収縮短繊維が繊維断面形状が中空または異型度1.8以上の異型のポリエステル繊維であることを特徴とする請求項1又は2に記載の嵩高性短繊維織編物。
- 共重合ポリエステル短繊維の第3成分がイソフタル酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の嵩高性短繊維織編物。
- 沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)が4%以下の低収縮短繊維を90〜40質量%、沸水収縮率(JIS L 1015に準拠)が20%以上の高収縮短繊維を10〜60質量%含有するリング紡績糸であり、かつ該紡績糸の毛羽数(K)と該紡績糸の断面繊維本数(A)との関係が下記(1)式を満足するリング紡績糸を用いて織編物とし、次いで該織編物を熱収縮させることを特徴とする嵩高性短繊維織編物の製造方法。
K≦2A ・・・・・・ (1)式
K:長さ1mm以上の毛羽の10m当りの本数
A:紡績糸の断面繊維本数
紡績糸の断面繊維本数:5315×1.11÷(英式綿番手×単繊維のdtex) - 高収縮短繊維が中空率8%以上の中空断面または繊維断面外周上に一個以上の突起部を有する異型度1.8以上の異型断面で、かつ繊度1.6〜5.0dtexの共重合ポリエステル短繊維であることを特徴とする請求項5に記載の嵩高性短繊維織編物の製造方法。
- 高収縮短繊維が60〜160℃における最大熱応力が0.08cN/dtex以上の共重合ポリエステル短繊維であることを特徴とする請求項5又は6に記載の嵩高性短繊維織編物の製造方法。
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JP2002348091A JP2004183114A (ja) | 2002-11-29 | 2002-11-29 | 嵩高性短繊維織編物及びその製造方法 |
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Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010053496A (ja) * | 2008-08-29 | 2010-03-11 | Univ Of Tsukuba | 遮熱性を有する布帛 |
JP2012202001A (ja) * | 2011-03-25 | 2012-10-22 | Teijin Techno Products Ltd | 耐切創性紡績糸及びそれを含む布帛 |
JP2017203234A (ja) * | 2016-05-12 | 2017-11-16 | 帝人フロンティア株式会社 | 紡績糸および布帛および繊維製品 |
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2002
- 2002-11-29 JP JP2002348091A patent/JP2004183114A/ja active Pending
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