JP2004175976A - フィルム用途に好適なポリプロピレン樹脂の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】チタン触媒中のチタンとドナーモル比が、6≦(ドナー/チタン)≦20であり、多段重合の最終段においてチタン系水添触媒を共存させ、最終段において極限粘度[η]が2.8〜4.0dl/gのポリプロピレン樹脂を、10〜25重量%となる量で製造することを特徴とする、下記特性を全て満たすポリプロピレン樹脂の多段製造方法。
i) GPC法で測定したMnが100000以下、Mw/Mnが5.4以上、およびMz/Mnが20以上。
ii) 灰分含有量が50ppm以下。
iii) Tダイから押出して得られるシートのβ晶分率が0.25以上。
iv) Tダイから押出して得られるシートに存在する直径200μ以上のフィッシュアイ個数が30個/600cm2以下。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリプロピレン樹脂を原料とするβ晶分率(β晶の含有率)の高いポリプロピレンシート、延伸フィルムおよびキャパシターフィルムを製造するのに適したβ晶が発生しやすいポリプロピレン樹脂の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレン樹脂は機械的強度、電気絶縁性が高く、食品衛生性、および透明性に優れていることから、食品包装用、または産業用シートもしくはフィルムなどとして使用されている。
【0003】
ポリプロピレン樹脂には通常α晶、β晶などの結晶形態が存在しており、その結晶形態により様々な物性を付与することができる。β晶はα晶に比べて密度が小さく、融点も低い特徴がある。β晶は溶融したポリプロピレン樹脂を徐冷すると少し発生することは知られているが、β晶分率の高いポリプロピレン樹脂を得るのは難しい。β晶分率の高いポリプロピレン樹脂を得る場合、β晶核剤を配合することなどが行われているが、β晶核剤はコンデンサー用のキャパシターフィルムのように電気絶縁性が要求される用途には不向きであった。
【0004】
β晶を利用した技術の一例を紹介する。ポリプロピレン樹脂フィルムには通常滑りを良くするため、スリップ剤およびアンチブロッキング剤が少量配合されている。しかし、コンデンサー用のキャパシターフィルムのように電気絶緑性が要求される用途には電気特性を損なうスリップ剤やアンチブロッキング剤の配合が制限されている。このような用途には従来、ポリエチレン樹脂等の極性基を持たない樹脂の微粒子を配合したり、溶融したポリプロピレン樹脂を徐冷してβ晶を生成させ、それを延伸することでβ晶→α晶転移を引き起こしフィルム表面に凹凸を形成してアンチブロッキング性を持たせることが行われている。
【0005】
従来、ポリプロピレン樹脂の製造は、三塩化チタン触媒が用いられていたが、触媒活性が低く、また、アタクチック成分が多いため脱灰を必要とし、生産性が良好ではないものの広い分子量分布を保持していた。このため、β晶分率0.20程度を有しているシートを成形可能であった。近年のポリプロピレン樹脂の製造は担持型チタン触媒成分を使用することが多いが、担時型の1種であるマグネシウム担持型チタン系触媒を用いて得られるポリプロピレン樹脂に代表される分子量分布の狭いポリプロピレン樹脂では十分なβ晶を生成させることが困難であり、β晶を多く発生できるポリプロピレン樹脂の開発、改善が望まれていた。また、ポリプロピレン樹脂フィルムにおいてβ晶を形成するメカニズムは必ずしも明らかになっていない。
【0006】
延伸フィルム製造における延伸工程の安定運転のため、ポリプロピレン樹脂の立体規則性のコントロールが行われる。ポリプロピレン樹脂の立体規則性が高いと延伸性が劣り、フィルム破断が生じるため生産できない。
【0007】
担持型チタン触媒成分を使用したポリプロピレン樹脂の立体規則性のコントロールには、低立体規則性を与える電子供与体、2種類以上の混合した電子供与体、電子供与体の少量添加で行うが、多種類の電子供与体を添加することは、製造上好ましくなく、電子供与体の少量添加で行われる場合が多い。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
担持型チタン系触媒を用いて得られるポリプロピレン樹脂であって、シートを成形した際にβ晶の含有率の高いシートをβ晶核剤の配合無しに容易に製造可能なポリプロピレン樹脂の製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ポリプロピレン樹脂組成とβ晶生成との関係を研究する中で、分子量分布曲線(ゲルパーミエーションクロマトグラフ法の溶出曲線)の超高分子量領域とβ晶生成との因果関係を見出すとともにその製造方法を確立し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、次のポリプロピレン樹脂の製造方法である。
チタン触媒中のチタンとドナーモル比が、6≦(ドナー/チタン)≦20であり、多段重合における最終段においてチタン系水添触媒を共存させ、最終段において極限粘度[η]が2.8〜4.0dl/gのポリプロピレン樹脂を、最終的に得られるポリプロピレン樹脂中10〜25重量%となる量で製造することを特徴とする、下記特性を全て満たすポリプロピレン樹脂の多段製造方法。
(1)ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定したMnが100000以下、Mw/Mnが5.4以上、およびMz/Mnが20以上。
(2)灰分含有量が50ppm以下。
(3)加熱溶融してTダイから押出し、60℃以上の温度に保持された冷却ロールで徐冷した場合に得られるシートのβ晶分率が0.25以上。
(4)加熱溶融してTダイから押出し、60℃以上の温度に保持された冷却ロールで徐冷した場合に得られるシートに存在する直径200μ以上のフィッシュアイ個数が30個/600cm2以下。
【0011】
本発明により製造されたポリプロピレン樹脂は結晶性のポリプロピレン樹脂であり、プロピレン単独重合体、またはプロピレンとエチレンもしくは炭素数が4〜20のα−オレフィンとの共重合体である。上記炭素数が4〜20のα−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらの中ではエチレンまたは炭素数が4〜10のα−オレフィンが好ましい。これらのα−オレフィンは、プロピレンとランダム共重合体を形成してもよく、またブロック共重合体を形成してもよい。これらのα−オレフィンから導かれる構成単位の含有量は、ポリプロピレン樹脂中に5モル%以下、好ましくは2モル%以下であるのが望ましい。
【0012】
本発明により製造されたポリプロピレン樹脂はメルトフローレート(ASTMD−1238、230℃、荷量2.16kg)が0.5〜10g/10分、好ましくは1〜8g/10分、さらに好ましくは1.5〜6g/10分の範囲にある。メルトフローレートがこの範囲にあるのでシートまたはフィルムの成形性が優れる。
【0013】
本発明により製造されたポリプロピレン樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した数平均分子量(Mn)が100000以下、好ましくは80000以下、さらに好ましくは80000〜10000、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が5.4以上、好ましくは5.5以上、さらに好ましくは5.8〜15、z平均分子量/数平均分子量(Mz/Mn)が20以上、好ましくは21以上、さらに好ましくは21〜40である。
Mnが100000以下であるので、押出し特性に優れるとともに、β晶の生成量も多い。またMw/Mnが5.4以上、かつMz/Mnが20以上であるので、超高分子量成分が存在し、それが溶融状態から固化する過程でβ晶生成に優位に働き、β晶の生成量が多くなる。Mw/MnおよびMz/Mnが大きくなるほどβ晶の生成量が多くなる。
【0014】
Mw/Mnが5.4以上およびMz/Mnが20以上のポリプロピレン樹脂は、135℃テトラリン中で測定した極限粘度[η]が2.8〜4.0dl/g、好ましくは3.0〜3.5dl/gの高分子量のポリプロピレン樹脂を通常0.5〜50重量%、好ましくは1〜35重量%の割合で含んでいる。さらに好ましくは10〜25重量%の割合で含んでいる。
【0015】
上記物性を有するポリプロピレン樹脂は、170〜280℃、好ましくは190〜230℃で加熱溶融してTダイから押出し、60℃以上、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは90〜110℃の温度に保持された冷却ロールで徐冷した場合に得られたシートのβ晶分率が0.25以上となる。このβ晶分率はβ晶核剤を含まないポリプロピレン樹脂の値である。徐冷は、引張り速度0.2〜3m/分、冷却ロールによる冷却時間0.3〜4.5分で行い、冷却ロールを通したシートの厚さが、0.1〜3mmとなるように行うのが望ましい。
【0016】
従来、担持型チタン系触媒、例えばマグネシウム担持型チタン系触媒を用いて製造された分子量分布の狭いポリプロピレン樹脂において、β晶核剤を配合しないでβ晶分率を0.25以上にすることは困難であったが、本発明では前記特定の物性を有するポリプロピレン樹脂を上記特定の条件で徐冷することにより、担持型チタン系触媒、例えばマグネシウム担持型チタン系触媒を用いて得られるポリプロピレン樹脂であるにもかかわらず、β晶分率を0.25以上にすることができる。
β晶分率が0.25以上の場合、延伸した場合のフィルム表面の凹凸が十分でアンチブロッキング性に優れ、キャパシターフィルムとしての表面凹凸は満足いくものが得られる。
【0017】
β晶はポリプロピレン樹脂の結晶形態の1種であり、最も安定なα晶のポリプロピレン樹脂に比べて融点が低く、密度も小さい。またα晶のポリプロピレン樹脂より密度が小さいため延伸などの外部圧力によりβ晶はα晶へ転移するときにフィルム表面に凹凸が発生する。
【0018】
本発明におけるβ晶分率はA. Turner Jones et al, Macromol. Chem., 75, 134(1964)に記載されている方法に従って算出される値であり、K値と称される場合もある。すなわち、ポリプロピレン樹脂を170〜280℃、好ましく190〜230℃で加熱溶融してTダイから押出し、60℃以上、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは90〜110℃の温度に保持された冷却ロールで、引張り速度0.2〜3m/分、冷却ロールによる冷却時間0.3〜4.5分で徐冷を行って厚さが0.1〜3mmのシートを得、このシートについて次の条件でX線回折を行い、得られた回折強度に基いて、下記数式(Eq−1)から求められる値である。
【0019】
【数1】
(式(Eq−1)中、H1はβ晶(2θ=16°のピーク)の結晶部の散乱に対応するピークの高さ(強度)、H1はα晶(110)の結晶部の散乱に対応するピークの高さ(強度)、H2はα晶(040)の結晶部の散乱に対応するピークの高さ(強度)、H3はα晶(130)の結晶部の散乱に対応するピークの高さ(強度)である。ただし、いずれの値も非晶部の散乱を差し引いた後のピーク高さである。)
【0020】
本発明により製造されるポリプロピレン樹脂の灰分含有量は、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下であるのが望ましい。灰分含有量が50ppm以下の場合、キャパシターフィルムとしての電気絶縁性が優れており、このためキャパシターフィルム用原反シートの原料樹脂として好適に用いられる。
このような灰分含有量が少ないポリプロピレン樹脂は高活性の触媒を用いるか、重合したポリプロピレン樹脂中の触媒を分解、あるいは除去することにより製造することができる。
【0021】
本発明により製造されるポリプロピレン樹脂は担持型チタン系触媒、例えばマグネシウム担持型チタン系触媒の存在下に前記モノマーを重合した重合体である。マグネシウム担持型チタン系触媒としては、たとえば
(a)マグネシウム、チタン、 ハロゲンおよび電子供与体を含有する固体状チタン触媒成分と、
(b)有機金属化合物と、
(c)電子供与体と
を含む触媒などがあげられる。上記の固体状チタン触媒成分(a)はマグネシウム化合物、チタン化合物および電子供与体を接触させることにより調製することができる。
【0022】
固体状チタン触媒成分(a)の調製に用いられるマグネシウム化合物としては、還元能を有するマグネシウム化合物および還元能を有さないマグネシウム化合物を挙げることができる。
還元能を有するマグネシウム化合物としては、マグネシウム−炭素結合またはマグネシウム−水素結合を有するマグネシウム化合物を挙げることができる。具体的にはジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジアミルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジデシルマグネシウム、エチル塩化マグネシウム、プロピル塩化マグネシウム、ブチル塩化マグネシウム、ヘキシル塩化マグネシウム、アミル塩化マグネシウム、ブチルエトキシマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、ブチルマグネシウムハイドライドなどを挙げることができる。
【0023】
還元能を有さないマグネシウム化合物としては、たとえば塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、フッ化マグネシウムなどのハロゲン化マグネシウム;メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、イソプロポキシ塩化マグネシウム、ブトキシ塩化マグネシウム、オクトキシ塩化マグネシウムなどのアルコキシマグネシウムハライド;フェノキシ塩化マグネシウム、メチルフェノキシ塩化マグネシウムなどのアリロキシマグネシウムハライド;エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、n−オクトキシマグネシウム、2−エチルヘキソキシマグネシウムなどのアルコキシマグネシウム;フェノキシマグネシウム、ジメチルフェノキシマグネシウムなどのアリロキシマグネシウム;ラウリン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウムなどのマグネシウムのカルボン酸塩等を挙げることができる。
【0024】
これら還元能を有さないマグネシウム化合物は、還元能を有するマグネシウム化合物から誘導した化合物、または触媒成分の調製時に誘導した化合物であってもよい。還元能を有さないマグネシウム化合物を、還元能を有するマグネシウム化合物から誘導するには、たとえば還元能を有するマグネシウム化合物を、ポリシロキサン化合物、ハロゲン含有シラン化合物、ハロゲン含有アルミニウム化合物、エステル、アルコール、ハロゲン含有化合物、ケトンなどの活性な炭素−酸素結合を有する化合物と接触させればよい。
【0025】
本発明では、上述した以外にも多くのマグネシウム化合物が使用できるが、最終的に得られる固体状チタン触媒成分(a)中において、ハロゲン含有マグネシウム化合物の形をとることが好ましく、従ってハロゲンを含まないマグネシウム化合物を用いる場合には、触媒成分を調製する過程でハロゲン含有化合物と接触反応させることが好ましい。
【0026】
マグネシウム化合物としては還元能を有さないマグネシウム化合物が好ましく、ハロゲン含有マグネシウム化合物がさらに好ましく、塩化マグネシウム、アルコキシ塩化マグネシウム、アリロキシ塩化マグネシウムが特に好ましい。
【0027】
本発明により製造されるポリプロピレン樹脂は担持型チタン系触媒、すなわち前記のマグネシウム化合物以外担体として用いて調製した固体状チタン触媒成分(a’)を用いることもできる。マグネシウム化合物以外の化合物としては、無機または有機の化合物であって、顆粒状ないしは微粒子状の固体を例示することができる。このうち無機化合物としては、多孔質酸化物、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物が好ましい。
【0028】
多孔質酸化物として、具体的にはSiO2、Al2O3、MgO、ZrO、TiO2、B2O3、CaO、ZnO、BaO、ThO2など、またはこれらを含む複合物または混合物を使用、例えば天然または合成ゼオライト、SiO2−MgO、SiO2−Al2O3、SiO2−TiO2、SiO2−V2O5、SiO2−Cr2O3、SiO2−TiO2−MgOなどを使用することができる。これらのうち、SiO2および/またはAl2O3を主成分とするものが好ましい。
【0029】
なお、上記無機酸化物は、少量のNa2CO3、K2CO3、CaCO3、MgCO3、Na2SO4、Al2(SO4)3、BaSO4、KNO3、Mg(NO3)2、Al(NO3)3、Na2O、K2O、Li2Oなどの炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酸化物成分を含有していても差し支えない。
【0030】
このような多孔質酸化物は、種類および製法によりその性状は異なるが、本発明に好ましく用いられる担体は、粒径が10〜300μm、好ましくは20〜200μmであって、比表面積が50〜1000m2/g、好ましくは100〜700m2/gの範囲にあり、細孔容積が0.3〜3.0cm3/gの範囲にあることが望ましい。このような担体は、必要に応じて100〜1000℃、好ましくは150〜700℃で焼成して使用される。
【0031】
本発明で用いられる粘土は、通常粘土鉱物を主成分として構成される。また、本発明で用いられるイオン交換性層状化合物は、イオン結合などによって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造を有する化合物であり、含有するイオンが交換可能なものである。大部分の粘土鉱物はイオン交換性層状化合物である。また、これらの粘土、粘土鉱物、イオン交換性層状化合物としては、天然産のものに限らず、人工合成物を使用することもできる。
【0032】
また、粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物として、粘土、粘土鉱物、また、六方細密パッキング型、アンチモン型、CdCl2型、CdI2型などの層状の結晶構造を有するイオン結晶性化合物などを例示することができる。
このような粘土、粘土鉱物としては、カオリン、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、アロフェン、ヒシンゲル石、パイロフィライト、ウンモ群、モンモリロナイト群、バーミキュライト、リョクデイ石群、パリゴルスカイト、カオリナイト、ナクライト、ディッカイト、ハロイサイトなどが挙げられ、イオン交換性層状化合物としては、α−Zr(HAsO4)2・H2O、α−Zr(HPO4)2、α−Zr(KPO4)2・3H2O、α−Ti(HPO4)2、α−Ti(HAsO4)2・H2O、α−Sn(HPO4)2・H2O、γ−Zr(HPO4)2、γ−Ti(HPO4)2、γ−Ti(NH4PO4)2・H2Oなどの多価金属の結晶性酸性塩などが挙げられる。
【0033】
このような粘土、粘土鉱物またはイオン交換性層状化合物は、水銀圧入法で測定した半径20Å以上の細孔容積が0.1cc/g以上のものが好ましく、0.3〜5cc/gのものが特に好ましい。ここで、細孔容積は、水銀ポロシメーターを用いた水銀圧入法により、細孔半径20〜3×104Åの範囲について測定される。
半径20Å以上の細孔容積が0.1cc/gより小さいものを担体として用いた場合には、高い重合活性が得られにくい傾向がある。
【0034】
本発明で用いられる粘土、粘土鉱物には、化学処理を施すことも好ましい。化学処理としては、表面に付着している不純物を除去する表面処理、粘土の結晶構造に影響を与える処理など、何れも使用できる。化学処理として具体的には、酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理などが挙げられる。酸処理は、表面の不純物を取り除くほか、結晶構造中のAl、Fe、Mgなどの陽イオンを溶出させることによって表面積を増大させる。アルカリ処理では粘土の結晶構造が破壊され、粘土の構造の変化をもたらす。また、塩類処理、有機物処理では、イオン複合体、分子複合体、有機誘導体などを形成し、表面積や層間距離を変えることができる。
【0035】
本発明で用いられるイオン交換性層状化合物は、イオン交換性を利用し、層間の交換性イオンを別の大きな嵩高いイオンと交換することにより、層間が拡大した状態の層状化合物であってもよい。このような嵩高いイオンは、層状構造を支える支柱的な役割を担っており、通常、ピラーと呼ばれる。また、このように層状化合物の層間に別の物質を導入することをインターカレーションという。インターカレーションするゲスト化合物としては、TiCl4、ZrCl4などの陽イオン性無機化合物、Ti(OR)4、Zr(OR)4、PO(OR)3、B(OR)3などの金属アルコキシド(Rは炭化水素基など)、[Al13O4(OH)24]7+、[Zr4(OH)14]2+、[Fe3O(OCOCH3)6]+などの金属水酸化物イオンなどが挙げられる。これらの化合物は単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。また、これらの化合物をインターカレーションする際に、Si(OR)4、Al(OR)3、Ge(OR)4などの金属アルコキシド(Rは炭化水素基など)などを加水分解して得た重合物、SiO2などのコロイド状無機化合物などを共存させることもできる。また、ピラーとしては、上記金属水酸化物イオンを層間にインターカレーションした後に加熱脱水することにより生成する酸化物などが挙げられる。
【0036】
本発明で用いられる粘土、粘土鉱物、イオン交換性層状化合物は、そのまま用いてもよく、またボールミル、ふるい分けなどの処理を行った後に用いてもよい。また、新たに水を添加吸着させ、あるいは加熱脱水処理した後に用いてもよい。さらに、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのうち、好ましいものは粘土または粘土鉱物であり、特に好ましいものはモンモリロナイト、バーミキュライト、ペクトライト、テニオライトおよび合成雲母である。
【0037】
有機化合物としては、粒径が10〜300μmの範囲にある顆粒状ないしは微粒子状固体を挙げることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンなどの炭素原子数が2〜14のα−オレフィンを主成分として生成される(共)重合体またはビニルシクロヘキサン、スチレンを主成分として生成される(共)重合体、およびそれらの変成体を例示することができる。
【0038】
固体状チタン触媒成分(a)又は(a’)の調製の際には、チタン化合物としてたとえば次式(1)で示される4価のチタン化合物を用いることが好ましい。
Ti(OR)gX4−g …(1)
(式(1)中、Rは炭化水素基、Xはハロゲン原子、0≦g≦4である。)
【0039】
具体的にはTiCl4、TiBr4、TiI4などのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC2H5)Cl3、Ti(O−n−C4H9)Cl3、Ti(OC2H5)Br3、Ti(O−iso−C4H9)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC2H5)2Cl2、Ti(O−C4H9)2Cl2、Ti(OC2H5)2Br2などのジハロゲン化ジアルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(OC2H5)3Cl、Ti(O−n−C4H9)3Cl、Ti(OC2H5)3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン;Ti(OCH3)4、Ti(OC2H5)4、Ti(O−n−C4H9)4、Ti(O−iso−C4H9)4、Ti(O−2−エチルヘキシル)4などのテトラアルコキシチタン等が挙げられる。
【0040】
これらの中ではハロゲン含有チタン化合物が好ましく、さらにテトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタンが好ましい。チタン化合物は、炭化水素化合物またはハロゲン化炭化水素化合物などに希釈して用いることもできる。
【0041】
固体状チタン触媒成分(a)又は(a’)の調製の際に用いられる電子供与体としては、たとえばアルコール、フェノール、ケトン、アルデヒド、有機酸または無機酸のエステル、有機酸ハライド、エーテル、酸アミド、酸無水物、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアネート、含窒素環状化合物、含酸素環状化合物などが挙げられる。
【0042】
より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ドデカノール、オクタデシルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、クミルアルコール、イソプロピルアルコール、イソプロピルベンジルアルコールなどの炭素数1〜18のアルコール類;フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ノニルフェノール、クミルフェノール、ナフトールなどの低級アルキル基を有してもよい炭素数6〜20のフェノール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アセチルアセトン、ベンゾキノンなどの炭素数3〜15のケトン類;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、ナフトアルデヒドなどの炭素数2〜15のアルデヒド類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、吉草酸エチル、クロル酢酸メチル、ジクロル酢酸エチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸エチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸シクロヘキシル、安息香酸フェニル、安息香酸ベンジル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、トルイル酸アミル、エチル安息香酸エチル、アニス酸メチル、マレイン酸n−ブチル、メチルマロン酸ジイソブチル、シクロヘキセンカルボン酸ジn−ヘキシル、ナジック酸ジエチル、テトラヒドロフタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジn−ブチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、クマリン、フタリド、炭酸エチルなどの炭素数2〜30の有機酸エステル;アセチルクロリド、ベンゾイルクロリド、トルイル酸クロリド、アニス酸クロリドなどの炭素数2〜15の酸ハライド類;メチルエーテル、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、アミルエーテル、アニソール、ジフェニルエチルエポキシ−p−メンタンなどの炭素数2〜20のエーテル類;酢酸アミド、安息香酸アミド、トルイル酸アミドなどの酸アミド類;無水酢酸、無水フタル酸、無水安息香酸などの酸無水物;メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリブチルアミン、トリベンジルアミンなどのアミン類;アセトニトリル、ベンゾニトリル、トルニトリルなどのニトリル類;ピロール、メチルピロール、ジメチルピロールなどのピロール類、ピロリン、ピロリジン、インドール、ピリジン、メチルピリジン、エチルピリジン、プロピルピリジン、ジメチルピリジン、エチルメチルピリジン、トリメチルピリジン、フェニルピリジン、ベンジルピリジン、塩化ピリジンなどのピリジン類、ピペリジン類、キノリン類、イソキノリン類などの含窒素環状化合物;テトラヒドロフラン、1,4−シネオール、1,8−シネオール、ピノールフラン、メチルフラン、ジメチルフラン、ジフェニルフラン、ベンゾフラン、クマラン、フタラン、テトラヒドロピラン、ピラン、ジヒドロピランなどの環状含酸素化合物等が挙げることができる。
【0043】
また上記の有機酸エステルとしては、多価カルボン酸エステルを特に好ましい例として挙げることができる。
このような多価カルボン酸エステルとしては、具体的には、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、メチルコハク酸ジエチル、α−メチルグルタル酸ジイソブチル、メチルマロン酸ジエチル、エチルマロン酸ジエチル、イソプロピルマロン酸ジエチル、ブチルマロン酸ジエチル、フェニルマロン酸ジエチル、ジエチルマロン酸ジエチル、ジブチルマロン酸ジエチル、マレイン酸モノオクチル、マレイン酸ジオクチル、マレイン酸ジブチル、ブチルマレイン酸ジブチル、フチルマレイン酸ジエチル、β−メチルグルタル酸ジイソプロピル、エチルコハク酸ジアルリル、フマル酸ジ−2−エチルヘキシル、イタコン酸ジエチル、シトラコン酸ジオクチルなどの脂肪族ポリカルボン酸エステル;1,2−シクロヘキサンカルボン酸ジエチル、1,2−シクロヘキサンカルボン酸ジイソブチル、テトラヒドロフタル酸ジエチル、ナジック酸ジエチルなどの脂環族ポリカルボン酸エステル;フタル酸モノエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸モノイソブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸エチルイソブチル、フタル酸ジn−プロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジn−ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジn−ヘプチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジn−オクチル、フタル酸ジネオペンチル、フタル酸ジデシル、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジフェニル、ナフタリンジカルボン酸ジエチル、ナフタリンジカルボン酸ジブチル、トリメリット酸トリエチル、トリメリット酸ジブチルなどの芳香族ポリカルボン酸エステル等が挙げられる。
【0044】
本発明では、上記の中ではカルボン酸エステルを用いることが好ましく、特に多価カルボン酸エステル、とりわけフタル酸エステル類を用いることが好ましい。
【0045】
固体状チタン触媒成分(a)は担体に担持させた担体担持型のものを用いることもできる。
このような担体としては、Al2O3、SiO2、B2O3、MgO、CaO、TiO2、ZnO、SnO2、BaO、ThO、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体などの樹脂等が挙げられる。これらの中ではAl2O3、SiO2が好ましく用いられる。
【0046】
固体状チタン触媒成分(a)は、公知の方法を含むあらゆる方法を採用して調製することができる。
固体状チタン触媒成分(a)は、マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を含有しており、マグネシウムにチタンが担持された触媒成分である。
【0047】
固体状チタン触媒成分(a)において、ハロゲン/チタン(原子比)は約2〜200、好ましくは約4〜100であり、前記電子供与体/チタン(モル比)は約0.01〜200、好ましくは約0.01〜100であり、マグネシウム/チタン(原子比)は約1〜100、好ましくは約2〜50であることが望ましい。
【0048】
本発明では、触媒として上記のような固体状チタン触媒成分(a)又は(a’)とともに有機金属化合物(b)が用いられる。この有機金属化合物としては、周期律表第I族〜第III族から選ばれる金属、特にアルミニウムを含む有機アルミニウム化合物が好ましい。
前記の有機アルミニウム化合物としては、たとえば式(2)
R1 mAlX3−m …(2)
(式(2)中、R1は炭化水素基、Xはハロゲン、mは好ましくは0<m<3である。)
で示される化合物が好ましい。
【0049】
このような有機アルミニウム化合物としては、より具体的には、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム;トリイソプレニルアルミニウムなどのトリアルケニルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミドなどのジアルキルアルミニウムハライド;エチルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド;エチルアルミニウムジクロリド、プロピルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライドなどの部分的にハロゲン化されたアルキルアルミニウム等があげられる。
これらの中では特にトリアルキルアルミニウムが好ましく用いられる。
【0050】
本発明では、触媒として上記のような(a)又は(a’)固体状チタン触媒成分、(b)有機金属化合物とともに、電子供与体(c)として好ましくは有機ケイ素化合物(c−1)または複数の原子を介して存在する2個以上のエーテル結合を有する化合物(以下、ポリエーテル化合物という場合もある)(c−2)が用いられる。
【0051】
本発明で用いられる有機ケイ素化合物(c−1)は、下記式(3)で示される。
Ra nSi(ORb)4−n …(3)
(式(3)中、nは1、2または3であり、nが1のときRaは2級または3級の炭化水素基であり、nが2または3のときRaの少なくとも1つは2級または3級の炭化水素基であり、Raは同一であっても異なっていてもよく、Rbは炭素数1〜4の炭化水素基であって、4−nが2または3であるときRbは同一であっても異なっていてもよい。)
【0052】
上記式(3)で示される有機ケイ素化合物(c−1)は、nが1である場合には、シクロペンチルトリメトキシシラン、2−メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、2,3−ジメチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、2−ノルボルナントリメトキシシラン、2−ノルボルナントリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン類を挙げることができる。
【0053】
上記(3)においてnが2である場合には、ジシクロペンチルジエトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジエトキシシラン、t−アミルメチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、2−ノルボルナンメチルジメトキシシランなどのジアルコキシシラン類が挙げられる。
【0054】
上記(3)においてnが3である場合には、トリシクロペンチルメトキシシラン、トリシクロペンチルエトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルエトキシシラン、シクロペンチルジメチルメトキシシラン、シクロペンチルジエチルメトキシシラン、シクロペンチルジメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシランなどのモノアルコキシシラン類などが挙げられる。
【0055】
これらの中ではジメトキシシラン類が好ましく、具体的に、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジノルマルプロピルジメトキシシラン、ジ−t−ブチルジメトキシシラン、ジ(2−メチルシクロペンチル)ジメトキシシラン、ジ(3−メチルシクロペンチル)ジメトキシシラン、ジ−t−アミルジメトキシシランなどが好ましい。
【0056】
前記ポリエーテル化合物(c−2)では、エーテル結合間に存在する原子は炭素、ケイ素、酸素、硫黄、リンおよびホウ素からなる群から選ばれる1種以上であり、原子数は2以上である。これらのうちエーテル結合間の原子に比較的嵩高い置換基、具体的には炭素数2以上、好ましくは3以上で直鎖状、分岐状、環状構造を有する置換基、より好ましくは分岐状または環状構造を有する置換基が結合しているものが望ましい。また2個以上のエーテル結合間に存在する原子に複数の、好ましくは3〜20、さらに好ましくは3〜10、特に好ましくは3〜7の炭素原子が含まれた化合物が好ましい。
【0057】
このようなポリエーテル化合物(c−2)のうち好ましい化合物は1,3−ジエーテル類で、特に2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ビス(シクロヘキシルメチル)−1,3−ジメトキシプロパンが好ましく用いられる。
【0058】
このような電子供与体の添加量は、ポリプロピレン樹脂の立体規則性を制御するために、チタン触媒中のチタンとドナーのモル比が、6≦(ドナー/チタン)≦20であることが望ましい。さらに、好ましくは、6≦(ドナー/チタン)≦10である。本発明では、(ドナー/チタン)比が、水添効果に影響を及ぼすことを見出した。すなわち、(ドナー/チタン)比が、6未満の場合には、水添効果よりも水素の連鎖移動効果が速く、通常の条件では目標の分子量に到達しないため、多量の水添触媒を必要とする。(ドナー/チタン)比が、20以上の場合には、ポリプロピレンの立体規則性が高くなりすぎ、延伸性に不具合が生じる。
【0059】
本発明では、上記のような固体状チタン触媒成分(a)又は(a’)、有機金属化合物(b)および電子供与体(c)からなる触媒を用いてポリプロピレン樹脂を製造するに際して、予め予備重合を行うこともできる。
予備重合は固体状チタン触媒成分(a)又は(a’)、有機金属化合物(b)、および必要に応じて電子供与体(c)の存在下にオレフィンを重合させる。
【0060】
上記予備重合オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどの直鎖状のオレフィン;3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、1−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、アリルナフタレン、アリルノルボルナン、スチレン、ジメチルスチレン類、ビニルナフタレン類、アリルトルエン類、アリルベンゼン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘプタン、アリルトリアルキルシラン類などの分岐構造を有するオレフィンなどを用いることができ、これらを共重合させてもよい。これらの中ではエチレン、プロピレンが特に好ましく用いられる。
【0061】
予備重合は、固体状チタン触媒成分(a)又は(a’)1g当り0.1〜1000g程度、好ましくは0.3〜500g程度の重合体が生成するように行うことが望ましい。予備重合量が多すぎると、本重合における(共)重合体の生成効率が低下することがあり、得られる(共)重合体からシートまたはフィルムなどを成形した場合にフィッシュアイが発生し易くなる場合がある。
【0062】
固体状チタン触媒成分(a)又は(a’)は、重合容積1 リットル当りチタン原子換算で、通常約0.01〜200ミリモル、好ましくは約0.05〜100ミリモルの濃度で用いられることが望ましい。
【0063】
有機金属化合物(b)は、固体状チタン触媒成分(a)又は(a’)中のチタン原子1モル当り通常約0.05〜300モル、好ましくは約0.1〜100 モルの量で用いることが望ましい。
【0064】
また電子供与体(c)は、予備重合時には用いても用いなくてもよいが、本重合時には使用することが好ましい。
【0065】
予備重合は、不活性炭化水素媒体に予備重合オレフィンおよび上記触媒成分を加え、温和な条件下で行うことが好ましい。
不活性炭化水素媒体としては、たとえばプロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;これらの混合物などを用いることができる。特に脂肪族炭化水素を用いることが好ましい。
【0066】
上記のような触媒を用いてプロピレンを多段重合させる際には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、いずれかの段でまたは全段でプロピレンと上述したような他のモノマーを共重合させてもよい。
【0067】
本発明で用いる水添触媒は、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジブロミド、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジヨージド、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルオリド、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムクロルブロミド、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムメトキシクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムエトキシクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフェノキシクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジメトキシド等のチタン系化合物、上記化合物のチタンをジルコニウム、ハフニウムのIVA族遷移金属に変えたものでも良い。また、パラジウム、白金、ニッケルなど担体に担持された水添触媒を用いても良い。
【0068】
本発明に用いる水添触媒の過剰添加は、重合槽中の水素濃度が検出できなくなり、極限粘度[η]を制御出来なくなる。また、触媒の働き高を低下させる原因となる。また、水添触媒は、非常に高価である。これらのため、水添触媒の使用量は出来るだけ少ない方が望ましい。
【0069】
本発明では、プロピレンの重合を2段以上、好ましくは3段以上の多段で行う方が良い。たとえば3段で重合して、各段において分子量の異なる結晶性ポリプロピレンを製造することが好ましい。
具体的には、3段重合の場合、第1段目において極限粘度[η1st]が0.1〜2.5dl/gのポリプロピレンを最終的に得られるポリプロピレン樹脂中の含有量が1〜40重量%となる量で製造し、次いで第2段目において極限粘度[η2nd]が0.1〜2.5dl/gのポリプロピレンを最終的に得られるポリプロピレン樹脂中の含有量が10〜89重量%となる量で製造し、次いで第3段目において極限粘度[η3rd]が2.8〜4.0dl/g、好ましくは3.0〜3.5dl/gのポリプロピレンを最終的に得られるポリプロピレン樹脂中の含有量が10〜25重量%となる量で製造することが好ましい。
【0070】
なお、本発明においては、最終段目における極限粘度[η]が2.8〜4.0dl/g、好ましくは3.0〜3.5dl/gのポリプロピレン樹脂を、最終的に得られるポリプロピレン樹脂中10〜25重量%、好ましくは12〜25重量%、特に好ましくは13〜23重量%となる量で製造することによって、本発明において、ポリプロピレンシートのフィッシュアイの発生量が抑制される。
【0071】
本発明により製造されたポリプロピレン樹脂を原料としてシートまたはフィルムなどを成形する場合、本発明のポリプロピレン樹脂には、必要に応じて、他の樹脂またはゴムなどの他の重合体を本発明の目的を損なわない範囲内で添加してもよい。前記他の樹脂またはゴムとしては、たとえばポリエチレン、ポリブテン−1、ポリイソブテン、ポリペンテン−1、ポリメチルペンテン−1などのポリα−オレフィン;プロピレン含有量が75重量%未満のエチレン・プロピレン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン含有量が75重量%未満のプロピレン・ブテン−1共重合体などのエチレンまたはα−オレフィン・α−オレフィン共重合体;プロピレン含有量が75重量%未満のエチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体などのエチレンまたはα−オレフィン・α−オレフィン・ジエン単量体共重合体;スチレン・ブタジエンランダム共重合体などのビニル単量体・ジエン単量体ランダム共重合体;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体などのビニル単量体・ジエン単量体・ビニル単量体ブロック共重合体;水素化(スチレン・ブタジエンランダム共重合体)などの水素化(ビニル単量体・ジエン単量体ランダム共重合体);水素化(スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体)などの水素化(ビニル単量体・ジエン単量体・ビニル単量体ブロック共重合体)などがあげられる。
【0072】
他の重合体の添加量は、添加する樹脂の種類またはゴムの種類により異なり、前記のように本発明の目的を損なわない範囲であればよいが、通常ポリプロピレン樹脂樹脂100重量部に対して約5重量部以下であることが好ましい。
【0073】
また本発明により製造されたポリプロピレン樹脂を原料としてシートまたはフィルムを成形する場合、本発明のポリプロピレン樹脂には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属石鹸、塩酸吸収剤などの安定剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の目的を損なわない範囲内で添加してもよい。
【0074】
本発明により製造されたポリプロピレン樹脂はβ晶分率が0.25以上のシートを容易に得ることができるので、キャパシターフィルム用原反シートなどのポリプロピレンシートの原料樹脂として好適に使用できる。
本発明により製造されたポリプロピレン樹脂から原反シートなどのポリプロピレンシートを成形するには公知の各種の方法を採用することができる。例えば、本発明により製造されたポリプロピレン樹脂を押出機で溶融し、先端のTダイからシート状に押出し、1個または複数の冷却ロールを通して冷却固化してシートを成形する方法を採用することができる。冷却に際してはロール群の温度を60℃以上、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは90〜110℃とすることにより、原反シートが徐冷されてβ晶を多く形成することができ、β晶分率が0.25以上のシートを容易に得ることができる。
【0075】
ポリプロピレンシートは前記本発明により製造されたポリプロピレン樹脂を上記方法でシート状に成形したシートであり、β晶分率が0.25以上のシートである。また、キャパシターフィルム用原反シートは灰分含有量50ppm以下の灰分含有量が少ない本発明により製造されたポリプロピレン樹脂から得られるシートである。これらのシートの厚さは限定されないが、通常0.1〜3mm、好ましくは0.3〜1mmであるのが望ましい。このポリピロピレンシートは必要に応じて更に延伸処理を行い、延伸フィルムを得ることができる。本発明により製造されたポリプロピレン樹脂を用いたキャパシターフィルム用原反シートは延伸してキャパシターフィルムとして用いられる。延伸は、通常100℃〜融点の間の温度にフィルムを再加熱して、延伸ロールおよび/またはテンター式延伸、またチューブラー式延伸等の公知の方法で延伸することができる。延伸倍率は2軸延伸の場合は縦3〜7倍、横3〜11倍程度である。この延伸処理により、機械的強度、剛性が優れ、表面の凹凸の数が多く、粗面化されたフィルムを製造することができる。
【0076】
本発明により製造されたポリプロピレン樹脂からはβ晶分率が0.25以上という従来得られなかったような大量にβ晶を含有したシートまたはフィルムをβ晶核剤を配合しなくても容易に製造することができる。
【0077】
灰分含有量50ppm以下の灰分含有量が少ない本発明により製造されたポリプロピレン樹脂から得られるシートは電気的絶縁特性が優れているので、キャパシターフィルム用の原反シートとして優れている。それを延伸、好ましくは2軸延伸した場合、表面凹凸の数が多く、粗面化されているためアンチブロッキング効果が優れている。このように電気的絶縁特性に優れ、表面凹凸が多くアンチブロッキング効果に優れているフィルムはコンデンサー用のキャパシターフィルムとして好適に利用することができる。キャパシターフィルムの厚さは限定されないが、通常2〜100μm、好ましくは4〜50μmであるのが望ましい。
【0078】
【発明の実施の形態】
次に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。実施例における物性の測定方法は次の通りである。
1)メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238の方法により230℃、荷重2.16kgで測定した。シリンダーには特に窒素は導入せず、直接ペレットをシリンダーに投入し溶融させた。
【0079】
2)Mw、MnおよびMz
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を使用して以下の条件で測定した。
測定装置:Waters社製 allianceGPC2000
サンプル濃度:30mg/20mL−ODCB
カラム:TSKgel GMH6HT×2
TSKgel GMH6HTL×2
測定温度:140℃
移動相:o−ジクロロベンゼン(ODCB)
解析装置:MILLENNIUM
【0080】
3)多段重合における二段目以降の重合槽で生成した樹脂の極限粘度
下記計算式(Eq−2)により求めた。
【0081】
【数2】
【0082】
4)β晶分率
A. Turner Jones et al, Macromol. Chem., 75, 134(1964)に記載されている方法に従って、前記数式(a)から求めた。すなわち、サンプルシートとしてはポリプロピレン樹脂を200℃で加熱溶融してTダイから押出し、95℃の温度に保持された1個の冷却ロールにより、引張り速度1.0m/分、冷却ロールによる冷却時間0.94分の条件で徐冷し、冷却ロールを通したシートの厚さが0.5mmのシートを用いた。このシートについて次の条件でX線回折を行い前記数式(Eq−1)から算出した。
5)フィッシュアイ分析
25mmΦのTダイ成形機で50μmのフィルムを製膜し、目視によりFE を観察した。FEの直径が200μm以上のものを目視でカウントし、600cm2当たりの個数として算出した。
6)極限粘度[η]
135℃のテトラリン中で測定した。
7)灰分量
ペレットをるつぼに入れ完全に燃焼させて、そのるつぼを電気炉内で80℃で2時間、灰化させた。るつぼに残った灰を計測し灰分(ppm)を求めた。
8)フイルム延伸性
以下の条件で、シート成形し、二軸延伸テストを行った。二軸延伸テストは、10回行い、一回でも破断したら、延伸性不可とした。
・シート成形
成形装置:ナカタニ機械(株)製VSK型50
成形温度:シリンダー、ダイス温度=200℃
ダイスリップ幅:600mm
チルロール温度:95℃
エアーギャップ:60mm
引取速度:1.0m/min
チルロール径:450mm
シート厚:0.5mm
・フィルム二軸延伸
上記で得られたシートを85mm×85mmにカットし、次の条件で2軸延 伸し、厚さ14μmの2軸延伸フィルムを得た。
延伸装置:ブルックナー社製KAROIV
予熱温度:150℃
予熱時間:60秒
延伸倍率:5×7倍(MD方向5倍、TD方向7倍)の逐次2軸延伸
延伸速度:6m/分
【0083】
実施例1
1)ポリプロピレン樹脂の製造
[固体状チタン触媒成分(a)の調製]
無水塩化マグネシウム952g、デカン4420mlおよび2−エチルヘキシルアルコール3906gを、130℃で2時間加熱して均一溶液とした。この溶液中に無水フタル酸213gを添加し、130℃にてさらに1時間攪拌混合を行って無水フタル酸を溶解させた。
【0084】
このようにして得られた均一溶液を23℃まで冷却した後、この均一溶液の750mlを、−20℃に保持された四塩化チタン2000ml中に1時間にわたって滴下した。滴下後、得られた混合液の温度を4時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところでフタル酸ジイソブチル(DIBP)52.2gを添加し、これより2時間攪拌しながら同温度に保持した。次いで熱時濾過にて固体部を採取し、この固体部を2750mlの四塩化チタンに再懸濁させた後、再び110℃で2時間加熱した。
【0085】
加熱終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、110℃のデカンおよびヘキサンを用いて、洗浄液中にチタン化合物が検出されなくなるまで洗浄した。
上記のように調製された固体状チタン触媒成分(a)はヘキサンスラリーとして保存されるが、このうち−部を乾燥して触媒組成を調べた。固体状チタン触媒成分(a)は、チタンを3重量%、塩素を58重量%、マグネシウムを18重量%およびDIBPを21重量%の量で含有していた。
【0086】
[予備重合触媒の調製]
10 リットルの攪拌機付きオートクレーブ中に、窒素雰囲気下、精製ヘプタン7 リットル、トルエチルアルミニウム0.16mol、および上記で得られた固体状チタン触媒成分(a)をチタン原子換算で0.053mol装入した後、プロピレンを900g導入し、温度5℃以下に保ちながら、1時間反応させた。
【0087】
重合終了後、反応器内を窒素で置換し、上澄液の除去および精製ヘプタンによる洗浄を3回行った。得られた予備重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して触媒供給槽に移し、固体状チタン触媒成分(a)濃度で1g/Lとなるよう、精製ヘプタンにより調整を行った。この予備重合触媒は固体状チタン触媒成分(a)1g当りポリプロピレンを10g含んでいた。
【0088】
[重合]
内容積140リットルの攪拌機付き重合槽1に液化プロピレンを60リットルを装入し、この液位を保ちながら、液化プロピレン130kg/h、予備重合触媒15g/h、トリエチルアルミニウム47mmol/h、ジノルマルプロピルジメトキシシラン3.9mmol/hを連続的に供給し、温度74℃で重合した。また水素は重合槽1の気相部の濃度を0.3mol%に保つように連続的に供給した。この重合槽1で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽1の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽2にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。
【0089】
重合槽2では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン15kg/hを連続的に供給し、温度72℃で重合した。また、水素も重合槽2の気相部の濃度を0.9mol%に保つように連続的に供給した。重合槽2で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽2の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽3にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。この結果から、重合槽2で生成している重合体の極限粘度は計算により1.38dl/gであると判断した。
【0090】
重合槽3では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン30kg/h、ビス(ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド)171mg/hを連続的に供給し、温度71℃で重合した。また、水素は、重合槽3に供給しなかった。得られたスラリーは失活後、液体プロピレンによる洗浄槽に送液後、ポリプロピレンパウダーを洗浄した。重合槽3で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽3の生成量の割合)は表1に示した。その後、プロピレンを蒸発させてポリプロピレンパウダーを得た。このサンプルの極限粘度を測定したところ1.70dl/gであった。この結果から、重合槽3で生成しているポリプロピレンの極限粘度は計算により2.8dl/gであると判断した。
【0091】
[ペレット化]
得られたポリプロピレン樹脂100重量部に対して、酸化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエンを0.1重量部、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.2重量部、中和剤としてステアリン酸カルシウムを0.01重量部を配合し、単軸押出機を用いて、樹脂温度230℃で溶融混練してポリプロピレン樹脂のペレット化を行った。造粒機は(株)ジーエムエンジニアリング製GMZ50−32(L/D=32、単軸)を使用した。得られたペレットについて測定した物性を表1および表2にまとめる。
【0092】
2)シート成形
上記で得られたポリプロピレン樹脂のペレットを50mmΦ押出機で200℃で溶融し、Tダイから押出し、95℃の温度に保持された1個の冷却ロールにより、引張り速度1.0m/分、チルロールによる冷却時間0.94分の条件で徐冷し、厚さが0.5mmのシートを得た。シート成形条件の詳細は下記の通りである。このチルロールを通したシートをカットし、X線回析装置を用いて前記方法でβ晶分率を求めた。結果を表2に示す。
成形装置:ナカタニ機械(株)製VSK型50
成形温度:シリンダー、ダイス温度=200℃
ダイスリップ幅:600mm
チルロール温度:95℃
エアーギャップ:60mm
引取速度:1.0m/min
チルロール径:450mm
【0093】
3)2軸延伸フィルム
上記2)で得られたシートを85mm×85mmにカットし、次の条件で2軸延伸し、厚さ14μmの2軸延伸フィルムを得た。
延伸装置:ブルックナー社製KAROIV
予熱温度:150℃
予熱時間:60秒
延伸倍率:5×7倍(MD方向5倍、TD方向7倍)の逐次2軸延伸
延伸速度:6m/分
【0094】
実施例2
重合を次のように変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を表1および表2に示す。
[重合]
内容積140リットルの攪拌機付き重合槽1に液化プロピレンを60リットルを装入し、この液位を保ちながら、液化プロピレン130kg/h、予備重合触媒15g/h、トリエチルアルミニウム47mmol/h、ジノルマルプロピルジメトキシシラン3.9mmol/hを連続的に供給し、温度74℃で重合した。また水素は重合槽1の気相部の濃度を0.3mol%に保つように連続的に供給した。この重合槽1で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽1の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽2にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。
【0095】
重合槽2では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン15kg/hを連続的に供給し、温度72℃で重合した。また、水素も重合槽2の気相部の濃度を0.9mol%に保つように連続的に供給した。重合槽2で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽2の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽3にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。この結果から、重合槽2で生成している重合体の極限粘度は計算により1.38dl/gであると判断した。
【0096】
重合槽3では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン30kg/h、ビス(ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド)380mg/hを連続的に供給し、温度71℃で重合した。また、水素は、重合槽3に供給しなかった。得られたスラリーは失活後、液体プロピレンによる洗浄槽に送液後、ポリプロピレンパウダーを洗浄した。重合槽3で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽3の生成量の割合)は表1に示した。その後、プロピレンを蒸発させてポリプロピレンパウダーを得た。このサンプルの極限粘度を測定したところ1.71dl/gであった。この結果から、重合槽3で生成しているポリプロピレンの極限粘度は計算により3.3dl/gであると判断した。
【0097】
重合を次のように変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を表1および表2に示す。
比較例1
1)ポリプロピレン樹脂の製造
[重合]
内容積140リットルの攪拌機付き重合槽1に液化プロピレンを60リットルを装入し、この液位を保ちながら、液化プロピレン130kg/h、予備重合触媒15g/h、トリエチルアルミニウム47mmol/h、ジノルマルプロピルジメトキシシラン2.7mmol/hを連続的に供給し、温度74℃で重合した。また水素は重合槽1の気相部の濃度を0.3mol%に保つように連続的に供給した。この重合槽1で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽1の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽2にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。
【0098】
重合槽2では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン20kg/hを連続的に供給し、温度72℃で重合した。また、水素も重合槽2の気相部の濃度を0.9mol%に保つように連続的に供給した。重合槽2で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽2の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽3にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。この結果から、重合槽2で生成している重合体の極限粘度は計算により1.38dl/gであると判断した。
【0099】
重合槽3では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン30kg/h、ビス(ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド)370mg/hを連続的に供給し、温度71℃で重合した。また、水素は、重合槽3に供給しなかった。得られたスラリーは失活後、液体プロピレンによる洗浄槽に送液後、ポリプロピレンパウダーを洗浄した。重合槽3で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽3の生成量の割合)は表1に示した。その後、プロピレンを蒸発させてポリプロピレンパウダーを得た。このサンプルの極限粘度を測定したところ1.66dl/gであった。この結果から、重合槽3で生成しているポリプロピレンの極限粘度は計算により2.7dl/gであると判断した。
【0100】
[ペレット化]
得られたポリプロピレン樹脂を用いて、実施例1と同様にしてポリプロピレン樹脂ペレットを得た。得られたペレットについて測定した物性を表1および表2にまとめる。
【0101】
2)シート成形
上記で得られたポリプロピレン樹脂のペレットから実施例1と同様の方法でシートを得た。このシートのβ晶分率を実施例1と同じ方法で求めた。結果を表1および表2に示す。
【0102】
比較例2
重合を次のように変更した以外は比較例1と同様に行った。結果を表1および表2に示す。
[重合]
内容積140リットルの攪拌機付き重合槽1に液化プロピレンを60リットルを装入し、この液位を保ちながら、液化プロピレン130kg/h、予備重合触媒15g/h、トリエチルアルミニウム47mmol/h、ジノルマルプロピルジメトキシシラン2.7mmol/hを連続的に供給し、温度74℃で重合した。また水素は重合槽1の気相部の濃度を0.3mol%に保つように連続的に供給した。この重合槽1で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽1の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽2にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。
【0103】
重合槽2では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン20kg/hを連続的に供給し、温度72℃で重合した。また、水素も重合槽2の気相部の濃度を0.9mol%に保つように連続的に供給した。重合槽2で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽2の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽3にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。この結果から、重合槽2で生成している重合体の極限粘度は計算により1.38dl/gであると判断した。
【0104】
重合槽3では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン30kg/h、ビス(ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド)120mg/hを連続的に供給し、温度71℃で重合した。また、水素は、重合槽3に供給しなかった。得られたスラリーは失活後、液体プロピレンによる洗浄槽に送液後、ポリプロピレンパウダーを洗浄した。重合槽3で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽3の生成量の割合)は表1に示した。その後、プロピレンを蒸発させてポリプロピレンパウダーを得た。このサンプルの極限粘度を測定したところ1.45dl/gであった。この結果から、重合槽3で生成しているポリプロピレンの極限粘度は計算により1.7dl/gであると判断した。
【0105】
比較例3
重合を次のように変更した以外は比較例1と同様に行った。結果を表1および表2に示す。
[重合]
内容積140リットルの攪拌機付き重合槽1に液化プロピレンを60リットルを装入し、この液位を保ちながら、液化プロピレン130kg/h、予備重合触媒15g/h、トリエチルアルミニウム47mmol/h、ジノルマルプロピルジメトキシシラン3.9mmol/hを連続的に供給し、温度74℃で重合した。また水素は重合槽1の気相部の濃度を0.3mol%に保つように連続的に供給した。この重合槽1で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽1の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽2にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。
【0106】
重合槽2では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン20kg/hを連続的に供給し、温度72℃で重合した。また、水素も重合槽2の気相部の濃度を0.9mol%に保つように連続的に供給した。重合槽2で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽2の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽3にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。この結果から、重合槽2で生成している重合体の極限粘度は計算により1.38dl/gであると判断した。
【0107】
重合槽3では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン30kg/h、ビス(ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド)400mg/hを連続的に供給し、温度71℃で重合した。また、水素は、重合槽3に供給しなかった。得られたスラリーは失活後、液体プロピレンによる洗浄槽に送液後、ポリプロピレンパウダーを洗浄した。重合槽3で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽3の生成量の割合)は表1に示した。その後、プロピレンを蒸発させてポリプロピレンパウダーを得た。このサンプルの極限粘度を測定したところ1.84dl/gであった。この結果から、重合槽3で生成しているポリプロピレンの極限粘度は計算により4.3dl/gであると判断した。
【0108】
比較例4
重合を次のように変更した以外は比較例1と同様に行った。結果を表1および表2に示す。
[重合]
内容積140リットルの攪拌機付き重合槽1に液化プロピレンを60リットルを装入し、この液位を保ちながら、液化プロピレン130kg/h、予備重合触媒15g/h、トリエチルアルミニウム47mmol/h、ジノルマルプロピルジメトキシシラン15mmol/hを連続的に供給し、温度74℃で重合した。また水素は重合槽1の気相部の濃度を0.3mol%に保つように連続的に供給した。この重合槽1で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽1の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽2にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。
【0109】
重合槽2では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン20kg/hを連続的に供給し、温度72℃で重合した。また、水素も重合槽2の気相部の濃度を0.9mol%に保つように連続的に供給した。重合槽2で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽2の生成量の割合)は表1に示した。得られた重合体を内容積500リットルの攪拌機付き重合槽3にスラリー状のまま送液した。なお得られたポリマーの一部をサンプリングし、極限粘度を測定したところ1.38dl/gであった。この結果から、重合槽2で生成している重合体の極限粘度は計算により1.38dl/gであると判断した。
【0110】
重合槽3では液位300リットルを保ちながら、新たに液化プロピレン30kg/h、ビス(ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロリド)250mg/hを連続的に供給し、温度71℃で重合した。また、水素は、重合槽3に供給しなかった。得られたスラリーは失活後、液体プロピレンによる洗浄槽に送液後、ポリプロピレンパウダーを洗浄した。重合槽3で生成した重合体の生成量比(重合体全体に占める重合槽3の生成量の割合)は表1に示した。その後、プロピレンを蒸発させてポリプロピレンパウダーを得た。このサンプルの極限粘度を測定したところ1.72dl/gであった。この結果から、重合槽3で生成しているポリプロピレンの極限粘度は計算により3.3dl/gであると判断した。
【0111】
以上の実施例1〜実施例2、比較例1〜比較例4について、ポリプロピレン樹脂の多段重合条件と各重合槽における累積極限粘度[η]、前記計算式(Eq−2)から求められる第3槽のみで生成したポリプロピレン樹脂の極限粘度[η]、働き高(重合活性)を表1にまとめた。また、表2は、多段重合によって最終的に得られた各ポリプロピレン樹脂の分子量関連データ、灰分濃度、フィッシュアイ(FE)個数、前記計算式(Eq−1)から求められるβ晶分率、およびフィルム延伸性評価結果をまとめたものである。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【発明の効果】
本発明のポリプロピレン樹脂の製造法は、担持型チタン系触媒、好ましくはマグネシウム担持型チタン系触媒を用いた重合で得られるフィルム用途に好適なポリプロピレン樹脂の製造法である。本発明より製造されたポリプロピレン樹脂は、MFR、Mn、Mw/MnおよびMz/Mnが特定の範囲にあるので、特定の条件で徐冷することによりβ晶分率を高くすることができ、これによりシートを成形した際にβ晶の含有率の高いシートをβ晶核剤の配合をしなくても容易に得ることができる。また、灰分が少なく電気絶縁特性に優れている。また、フィルムフィッシュアイも少なく外観に優れている。このように本発明により製造されたポリプロピレン樹脂はアンチブロッキング性、電気絶縁特性に優れたキャパシターフィルムを得るのに十分なβ晶の生成に優れたポリプロピレン樹脂である。
Claims (3)
- チタン触媒中のチタンとドナーモル比が、6≦(ドナー/チタン)≦20であり、多段重合における最終段においてチタン系水添触媒を共存させ、最終段において極限粘度[η]が2.8〜4.0dl/gのポリプロピレン樹脂を、最終的に得られるポリプロピレン樹脂中10〜25重量%となる量で製造することを特徴とする、下記特性を全て満たすポリプロピレン樹脂の多段製造方法。
i) ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定したMnが100000以下、Mw/Mnが5.4以上、およびMz/Mnが20以上。
ii) 灰分含有量が50ppm以下。
iii) 加熱溶融してTダイから押出し、60℃以上の温度に保持された冷却ロールで徐冷した場合に得られるシートのβ晶分率が0.25以上。
iv) 加熱溶融してTダイから押出し、60℃以上の温度に保持された冷却ロールで徐冷した場合に得られるシートに存在する直径200μ以上のフィッシュアイ個数が30個/600cm2以下。 - 多段重合における段数が3であることを特徴とする請求項1記載のポリプロピレン樹脂の多段製造方法。
- チタン系水添触媒が、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリドであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン樹脂の多段製造方法。
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