JP2004172109A - リチウム二次電池用正極材料の添加剤、リチウム二次電池用正極材料、並びに、このリチウム二次電池用正極材料を用いた正極及びリチウム二次電池 - Google Patents

リチウム二次電池用正極材料の添加剤、リチウム二次電池用正極材料、並びに、このリチウム二次電池用正極材料を用いた正極及びリチウム二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】 安全性が高く、満充電時の抵抗上昇の少ないリチウム二次電池を得る。
【解決手段】 正極活物質及びフラーレン類を含有するリチウム二次電池用正極材料であって、前記正極活物質表面に、前記フラーレン類が存在することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料。正極活物質表面にフラーレ類を存在させることにより、特にフロート充電時における正極表面での電解液の電気分解を抑制し、リチウム二次電池の安全性を高めることができる。また、正極活物質表面にフラーレ類を存在させることにより、満充電時の保存時における抵抗上昇を抑制することもできる。
【選択図】 無し

Description

本発明は、所定のリチウム二次電池用正極材料用の添加剤に関する。
本発明は、正極活物質表面にフラーレン類が存在するリチウム二次電池用正極材料に関する。
また、本発明は、上記リチウム二次電池用正極材料を用いた正極、及びリチウム二次電池に関する。
さらに、本発明は、上記リチウム二次電池用正極材料の製造方法に関する。
1990年にC60の大量合成法が確立されて以来、フラーレンに関する研究が精力的に展開されている。そして、数多くのフラーレン誘導体が合成され、その実用化の可能性が研究されてきた。
上記実用化の可能性が期待される分野の一つに電池がある。このような電池の一例としてリチウム二次電池(以下、リチウム二次電池を単に電池又は二次電池という場合がある。)を挙げることができる。
実際に、リチウム二次電池にフラーレンを用いる旨が記載された文献としては、Li+
挿入型の正極と、金属リチウム又はその合金よりなる負極と、電解質とで構成されるリチウム二次電池において、正極のLi+挿入型材料にフラーレンを配合するものがある(特
許文献1)。この文献では、Li+挿入型材料に導電性を付与するとともに、Li+を挿入することが可能なフラーレンを配合することにより、高起電力、高エネルギー密度を有するリチウム二次電池が得られるとしている。
また、正極及び/又は負極の導電剤としてフラーレン粉末を使用する旨が記載された文献がある(特許文献2)。この文献では、フラーレンが極めて高い導電性を有するので、電池のIRドロップを小さくすることができるとしている。
このような文献に対して、本発明者の検討によれば、フラーレンの体積抵抗値は、リチウム二次電池において導電剤として通常用いられるアセチレンブラックと比較して極めて高い値となるため、フラーレンを電極の導電剤として用いることは有効ではないことが判明した。すなわち、C60の電気抵抗率は、108〜1014Ω・cm(C60の電気抵抗率が
記載された文献としては、例えば、「フラーレンの化学と物理 篠原久典・齋藤弥八 著
名古屋大学出版会 1997年1月15日 初版第一刷発行 pp.122」を挙げることができる。)である。一方、アセチレンブラックの電気抵抗率については、電気化学工業株式会社製のアセチレンブラック(商品名:デンカブラック)を例にとると、その電気抵抗率が0.14〜0.25Ω・cm程度(デンカブラックの電機抵抗率が記載された文献としては、「電気化学工業株式会社ホームページ、[2002年10月17日検索]、インターネット<URL : http://www.denka.co.jp/product/main/yuki/black/3.htm>」を挙げることができる。)となる。これら電気抵抗率の値から、電極の導電剤として通常用いられるアセチレンブラックと比較して、フラーレンはその電気抵抗率がはるかに高いことがわかる。
なお、フラーレンがリチウム二次電池の正極又は負極の導電剤として有効に作用しないことは、上記特許文献1における比較例2の電池(C60を3mg添加)が導通せず、電池として作動していないことからも確認できる。
特開平5−275083号公報 特開平5−325974号公報
ところで、リチウム二次電池は、そのエネルギー密度の高さから小型電気機器や携帯用電気機器に対しては幅広く利用されるようになりつつあるものの、充電状態における安全性や安定性が確保しにくくなるという課題がある。この安全性の課題として具体的に下記3点を挙げることができる。
第1点目は、リチウム二次電池が、満充電に近い状態におかれると、酸化状態にある正極活物質が不安定になる。この結果、満充電が維持される状態が続く場合において、電解液の分解等が生じやすくなる。満充電状態が継続的に維持される状態としては、リチウム二次電池をバックアップ電源として用いる電気機器においてフロート充電される場合が考えられる。
バックアップ電源は、電気機器に電源から電力が供給されなくなったときの代替の電源として働く必要があるので、図1に示すように電源に対して電気機器と並列に接続されている。そして、電源から電気機器本体に電力が供給されると同時にリチウム二次電池も充電されるが、電源が遮断された場合は電池が放電して電気機器に電力を供給するようになっている。
ここで、電源から電力が供給されている場合は、電池が満充電状態になると電池電圧が電気機器の負荷電圧と同一になるように設計されているために、理想的には電池への電流の流入が停止して充電が終了するようになっている。しかしながら、実際は、電池内部で自己放電が起こり電池の電圧が徐々に低下するため、これを補償するための微弱電流による充電が継続し、電池を常に満充電状態に保つように継続的又は断続的に充電が行われる(この充電方式をフロート充電という。)。
通常の充電方法においては、リチウム二次電池の充電は、まず一定の電流値で充電を行い(定電流充電)、所定電圧に到達した後はこの電圧を維持した状態で徐々に電流を減少させながら(定電圧充電)充電が継続する。そして、電流値が所定値まで低下した段階で充電が終了するようになっている。しかし、バックアップ電源としてリチウム二次電池を用いる場合は、上記の通りリチウム二次電池は常にフロート充電されているため、電流値が所定値まで低下してもなお定電圧充電が維持された状態となる。この状態においては、ロッキングチェア型の構成を有するリチウム二次電池は、所定の電圧(定電圧充電の設定電圧)において正極から負極に移動すべきリチウムイオンが全て移動しきっているので、電流値が0となり系の変化は生じないはずである。しかし、実際には、リチウム二次電池は非常に不安定な状態になり、電池中の不純物の電気分解、正極表面、負極表面における活物質の分解、電解質の電気分解等により、活物質表面が劣化しガス発生が引き起される。そして、このガス発生は、リチウム二次電池の内部圧力を上昇させることとなる。
リチウム二次電池は、正極、負極及び電解液を有する電池要素が金属缶又はラミネートフィルム等の外装材に収納された形態を有する。上記リチウム二次電池の内部圧力の上昇によって、金属缶を用いた電池においては、安全弁の作動により、電気機器内部に有機ガスが放出され電気機器が汚染されるだけではなく、この有機ガスが電気機器外部に放出されることにより人体にも有害な影響を及ぼすことになる。さらに、上記有機ガスの放出によって電解液が消費されて電源として作動しなくなる場合もある。また、上記リチウム二次電池の内部圧力の上昇によって、ラミネートフィルム等の外装材を用いたリチウム二次電池では、外装材が膨れて変形してラミネートフィルムがリークを起すことによって内部の電解液が漏液する場合がある。この電解液の漏液は電気機器を汚染するだけでなく、電解液が電気機器外へ漏れると人体にも有害な影響を及ぼすことになる。
従って、電池が満充電状態になった段階で電池を電源から切り離し、非常時及び自己放電による電圧低下が大きくなった場合のみ電池を電源に接続する特別の保護回路(制御回路)を設けないと、電源から電気機器に電力が供給され続ける限りリチウム二次電池は所定の充電電圧となるよう長期に渡ってフロート充電され続け、リチウム二次電池は不安定な状態が続くことになる。
このように、フロート充電が行われるリチウム二次電池においては、フロート充電が長期に渡って継続することによるガス発生によりリチウム二次電池の安全性が確保できない場合がある。従って、リチウム二次電池をバックアップ電源として用いる電気機器においては、制御回路や保護回路を設けて、リチウム二次電池が満充電となると充電を終了し、自己放電が進行した場合や、電源遮断時にのみ電池を電気機器に接続する制御を行いリチウム二次電池の安全性を確保しているのが実情である(図1参照)。
しかし、制御回路や保護回路はコストアップにつながるのみならず、電気機器内で上記回路の設置スペースを確保する必要がある。従って、リチウム二次電池自体の安全性を向上させて制御回路や保護回路を取り除くことができれば、コストダウンや電気機器の小型化を図ることができるようになる。
第二点目としては、リチウム二次電池を充電した状態で長期に渡り保存する場合が考えられる。例えば、ビデオカメラで長時間撮影を行う場合には充電状態のリチウム二次電池を複数個携帯するのが通常である。そして、ビデオカメラに装着した電池が放電状態となり撮影が継続できなくなった場合には、あらかじめ携帯していた充電状態にある別のリチウム二次電池に付け替えて撮影を続けるようにしている。このように、電池は常に充電量が多い状態に保っておくことが利用上便宜であるため、電池を充電量が高い状態で保持する場合は多いと想定される。この充電量が高い状態においては、酸化状態にある正極活物質の反応性に起因した電解液の分解等が生じやすく、電池が劣化し易い。具体的には、電解液の分解等の結果として電位が低下していく(自己放電を起こす)と正極活物質の反応性は低下するが、正極活物質と電解液との反応によって、正極活物質の劣化、電解液の減少、微少量ガスの発生、分解生成物に由来した被膜による抵抗増加等が発生し、電池特性が低下する。
従って、充電状態における自己放電による電池特性の劣化を抑制することが望まれている。
第三点目は、電池容量の大きい電気自動車用途にリチウム二次電池を用いる場合に、電池容量が大きくなる分、充電時のリチウム二次電池の安全性が確保しにくくなることである。
リチウム二次電池においては、充電状態にある活物質は熱的に不安定となるのが一般的である。このため、電池容量が大きくなると熱的に不安定な活物質量が増加することになるので、リチウム二次電池は危険な状態に陥りやすくなる。
特に、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物を使用する場合は、充電状態における正極活物質は、リチウムが引き抜かれた酸化数の高い状態(酸化力の高い状態)となるため、接触する電解液を酸化して分解することがある。この反応は温度が高くなると一層進行するが、酸化反応は発熱反応であるため、酸化反応の発生によりリチウム二次電池の温度がさらに上がり、より酸化反応が進むという熱的暴走状態が引き起こされる可能性がある。電池が小さければ、電池表面からの放熱が早いため上記酸化反応は抑制されるが、電気自動車用途のような、活物質量が多く容量の大きい電池を用いる場合は、酸化反応による発熱に対して放熱が追いつかずに電池が蓄熱しやすくなり、何らかの要因でいったん正極活物質が不安定になると熱的暴走に至りやすく、その場合容量が大きいことから想定される被害も大きくなると予想される。特に、電池が満充電状態を超えて更に充電され
過充電状態になった場合は、正極活物質の不安定性は著しく高くなり、正極活物質自体の分解や電解液の反応が格段に早く進行し、暴走反応に至りやすい。フロート充電の場合と異なり、過充電においては、所定の電圧(定電圧充電の設定電圧)を超えて充電が進行するものであり、通常の設計において正極から負極に移動すべきリチウムイオンの量を超えて移動が生じる。結果として正極活物質はリチウムイオンが必要以上に引き抜かれた状態となり、電池は極めて不安定な状態になりやすい。
上記した安全性の観点もあり、現在のところリチウム二次電池を電気自動車の電源として実用化できていないのが実情であり、充電状態におけるリチウム二次電池自体の安全性の向上が望まれている。
上記充電状態においてリチウム二次電池が不安定になったり、リチウム二次電池の電池特性が劣化する課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討を行った。そして、このような問題を解決するために、フラーレンの特異な分子構造及びラジカル捕捉剤としての性質を利用することにより、バックアップ電源として用いられるリチウム二次電池におけるフロート充電時の安全性の問題、充電状態に長期間保たれることによる自己放電に伴う電池特性の劣化の問題、及び容量の大きいリチウム二次電池における酸化反応による熱暴走の問題、を解決することができることを見出し本発明を完成した。
すなわち、本発明の第1の要旨は、正極活物質を含有するリチウム二次電池用正極材料に用いる添加剤であって、前記添加剤がフラーレン類であることを特徴とするリチウム二次電池用正極材料の添加剤に存する。
本発明の第2の要旨は、正極活物質及びフラーレン類を含有するリチウム二次電池用正極材料であって、前記正極活物質表面に前記フラーレン類が存在することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料に存する。
本発明の第3の要旨は、上記リチウム二次電池用正極材料を用いることを特徴とするリチウム二次電池用の正極に存する。
本発明の第4の要旨は、上記正極を用いることを特徴とするリチウム二次電池に存する。
また、本発明において、「フラーレン類が正極活物質表面上に存在する」とは、フラーレン類が球殻構造を維持した状態で正極活物質表面上に存在することをいう。例えば、フラーレンやフラーレン誘導体の分子が単独又は凝集体で正極活物質表面に吸着しているような場合が挙げられる。
本発明によれば、リチウム二次電池の正極活物質の表面にフラーレン類を、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体の状態で存在させることにより、安全性に優れ、満充電時における抵抗増加率の低い安定したリチウム二次電池を得ることができる。特に、フロート充電時における安全性を有効に確保することができるようになる。また、リチウム二次電池における充電状態の安定性をも確保することができるようになる。
本発明においては、正極活物質表面にフラーレン類を存在させることにより、リチウム二次電池の安全性が向上し、さらに、満充電状態での抵抗上昇を抑制することができるようになる。
本発明において正極活物質表面にフラーレン類を存在させることにより、フロート充電時における電池の劣化及びガス発生が抑制され、さらに充電時の安定性が向上する理由はいまだ定かではないが、上述の劣化機構及びフラーレンの特質から推定すると以下のよう
に考えられる。
すなわち、正極における抵抗増加による劣化や電解液の分解反応は、電解液と接触する正極活物質表面において生じるが、充電状態の正極活物質表面は活性が高いため、触媒的な作用によってガス発生に直結する電解液の電気分解が促進されるようになると推測される。従って、正極活物質の表面がフラーレンで処理されていると、正極活物質表面は炭素質であるフラーレンの膜に被覆されていることになり、電解液が直接正極活物質表面に接触しなくなるため、分解速度が抑制されるようになると考えられる。正極活物質表面上に被膜を形成することは、通常抵抗増加につながるため、電池特性上不利な因子である。しかし、フラーレンは球状の分子であり分子レベルの極薄膜形成が可能であること、及び球状分子からなる結晶構造中の空隙をリチウムイオンが通過できること、から他の物質等で処理する場合と比較して、抵抗の増加は軽減されると推測される。またフラーレンはラジカルをトラップする作用があるが、電解液の分解過程において、活物質表面や電解液溶媒分子に生じたラジカルを捕捉することによりガス発生や分解反応を停止あるいは遅延させる効果があることも推測される。
さらに上記電解液の分解を抑制することによって、電解液の減少による抵抗上昇を抑制できるようにもなると考えられる。さらに上記電解液の分解は、ガスとして脱離する成分とともに不溶分を生じることが多く、この不溶分が正極活物質上に被膜形成して抵抗を増加させると推定されるため、本発明において電解液の分解を抑制することにより、抵抗増加を抑制して電池特性の劣化を防止することができる。
以下、本発明に用いるリチウム二次電池用正極材料の添加剤、リチウム二次電池用正極材料、このリチウム二次電池正極材料を用いた正極、この正極を用いたリチウム二次電池、及び、上記リチウム二次電池用正極材料の製造方法について説明する。
説明の便宜上、リチウム二次電池用正極材料及びこのリチウム二次電池用正極材料の製造方法について説明した後に、このリチウム二次電池用正極材料を用いた正極及びリチウム二次電池について説明する。
A.リチウム二次電池用正極材料
本発明におけるリチウム二次電池用正極材料は、正極活物質及びフラーレン類を含有するリチウム二次電池用正極材料であって、前記正極活物質表面に前記フラーレン類が存在することを特徴とする。
以下さらに詳細に説明する。
A−1.フラーレン類、正極活物質等に関する説明
なお、以下の実施態様においては、フラーレン類は単分子又は複数の分子の凝集体として正極活物質表面上に存在しているため、この実施態様におけるフラーレン類は、フラーレン及び/又はフラーレン誘導体を指す。
(1)添加剤
この実施態様においては、正極活物質を含有するリチウム二次電池用正極材料用の添加剤としてフラーレン類を用いる。特に、この添加剤を正極活物質表面に存在させることが好ましい。ここで、フラーレン類としては、フラーレン、フラーレン誘導体、ならびにフラーレンおよびフラーレン誘導体の混合物を挙げることができる。
(フラーレン、フラーレン誘導体)
フラーレンとは求殻状炭素分子を指す。用いるフラーレンとしては、本発明の目的を満たす限り限定されないが、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C96、C100
又はこれら化合物の2量体、3量体等を挙げることができる。
これらフラーレンの中でも好ましいのは、C60、C70、又はこれらの2量体、3量体である。C60、C70は溶媒への溶解性も高いため、リチウム二次電池への添加が行いやすい
という利点がある。また、C60、C70は工業的に得やすい利点もある。当然上記フラーレンは複数を併用してもよいが、併用する場合、好ましいのはC60とC70とをともに用いることである。この組み合わせで用いることにより、基材表面に対する均一分散性が高くなるからである。
このように、C60およびC70を併用する場合、C60を100重量部とした場合におけるC70の下限は通常5重量部以上であり、特に7重量部以上、中でも10重量部以上とすることが好ましい。上記範囲内で用いることにより、C60とC70との相互作用が良好となり、分散安定性が向上するからである。
同様にC60を100重量部とした場合におけるC70の上限は、通常100重量部以下、さらには90重量部以下であり、特に80重量部以下、中でも70重量部以下とすることが好ましい。C70の含有量を上記範囲内とすることにより、C60とC70との相互作用が不十分となり併用する意義が薄れる場合があるといった不都合を防止することができるからである。
一方、C60およびC70を併用する場合、C70を100重量部とした場合におけるC60の下限は通常5重量部以上であり、特に7重量部以上、中でも10重量部以上とすることが好ましい。上記範囲内で用いることにより、C60とC70との相互作用が良好となり、分散安定性が向上するからである。
同様にC70を100重量部とした場合におけるC60の上限は、通常100重量部以下、さらには90重量部以下であり、特に80重量部以下、中でも70重量部以下とすることが好ましい。C60の含有量を上記範囲内とすることにより、C60とC70との相互作用が不十分となり併用する意義が薄れる場合があるといった不都合を防止することができるからである。
フラーレンは、通常、抵抗加熱法、レーザー加熱法、アーク放電法、燃焼法などにより得られたフラーレン含有スートから抽出分離することによって得られる。この際、スートからフラーレンを完全に分離する必要は必ずしもなく、性能を損なわない範囲でスート中のフラーレンの含有率を調整することができる。
フラーレンは、常温(25℃)、常湿(50%RH)では、通常粉末状の性状を有し、その二次粒径は、通常10nm以上、好ましくは15nm以上、より好ましくは20nm以上、特に好ましくは50nm以上であり、通常1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下である。
フラーレン誘導体とは、上記のフラーレンを構成する少なくとも1つの炭素に有機化合物の一部分を形成する原子団や無機元素からなる原子団が結合した化合物をいう。フラーレン誘導体としては、例えば、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン等を用いることができる。フラーレン誘導体を得るために用いるフラーレンとしては、本発明の目的を満たす限り限定されず、上記具体的に示したフラーレンのいずれを用いてもよい。
本発明で用いるフラーレン誘導体は、フラーレンを構成する1以上の炭素に所定の基が結合していたものである。フラーレンを構成する炭素のうち、所定の基が結合する炭素としては、C60分子を例に取れば、C60分子中の(6−6)結合を構成する2個の炭素原子を好ましく挙げることができる(図2参照)。これは、上記(6−6)結合を形成する2個の炭素原子の電子吸引性が高くなっているからである。結合される基は、(6−6)結合のいずれかの炭素又は両方の炭素に結合する場合が考えられ、両方の炭素に結合する場合は、両方の炭素に同一の基が結合する場合、異なる基が結合する場合、及び、両方の炭素が環の一部となるように環化付加する場合を挙げることができる。
環化付加する場合としては、3員環、4員環、5員環、6員環を形成する各種の反応があり、環の構成分子にさらに置換基を有するものを用いることにより様々なフラーレン誘導体を得ることができる。
60分子を例に取ると、3員環形成の付加反応としては(6−5)開環系フレロイドや(6−6)閉環系メタノフラーレンが挙げられる。フレロイドやメタノフラーレンにおいて付加された炭素原子はメチレン基であるが、このメチレン基の2個の水素を所定の置換基で置換すれば、より高次の誘導体が得られる。窒素原子により3員環を形成する場合はアザフレロイドとなり、窒素原子が有する3つの結合手のうち、フラーレン部分に結合する2つの結合手以外の結合手に結合する基を置換することにより多様な誘導体を得ることができる。
60分子における5員環を形成する付加としては、ピラゾリン縮合体、オキサゾリジン縮合体、ジヒドロフラン縮合体、ピロリジン縮合体などを形成するものが挙げられる。また、C60分子における6員環を形成する付加としては、ジエン類を付加する反応が知られている。そして、上記5又は6員環を形成する原子に結合する基を置換することによって、より高次の誘導体が得られることとなる。また、5又は6員環においては、環を形成する原子数が多いことから、置換基を導入できる部位も複数あり多様な誘導体を形成することが可能となる。
フラーレン誘導体を合成する他の方法としては、以下のような方法を挙げることができる。
例えば、求核付加反応においては、有機リチウム試薬やグリニャール試薬などとの反応により、アルキル基やフェニル基などをフラーレンに導入することができる。また、例えば、同じく炭素求核剤であるシアン化ナトリウムとの反応によれば、シアノ基をフラーレンに導入することができる。このように、導入される基は用いられる試薬により変更することができる。上記求核付加反応や、シアン化ナトリウムとの反応により合成されるフラーレン誘導体は、アニオンとして塩を形成することもできるが、アニオンを求電子剤で捕捉することにより1,2―ジヒドロフラーレン誘導体とすることが多い。プロトンで捕捉すれば1,2―ジヒドロフラーレン誘導体の1置換体を得ることができ、求電子剤の種類によれば第2の置換基としてメチル基やシアノ基を有する1,2―ジヒドロフラーレン誘導体の2置換体を得ることができる。求核付加反応では他にシリルリチウムとの反応やアミンとの反応によりフラーレン誘導体を合成することもできる。
また、酸化反応、還元反応によれば水素化フラーレンや酸化フラーレン、水酸化フラーレンを得ることができる。またラジカル反応によりフッ素などのハロゲンを導入することも可能である。
フラーレン誘導体を得るために、フラーレンに直接結合させる基又はフラーレンを環化付加した場合に付加した環を構成する元素が形成する基としては、特に制限はないが、工業的に得やすい点から、水素原子、アルカリ金属原子、カルコゲン原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環基、酸素を含む特性基、硫黄を含む特性基、及び窒素を含む特性基からなる群から選ばれる1つであることが好ましい。
アルカリ金属原子としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムを挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、リチウム、ナトリウム、カリウムである。
カルコゲン原子としては、例えば酸素、イオウ、セレン、テルルを挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、酸素、イオウである。
ハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。尚、ハロ
ゲン原子を含む基、例えばヨードシル基を用いてもよい。
脂肪族炭化水素基のうち、脂鎖式炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、エチニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
脂肪族炭化水素基のうち、脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−シクロヘキセニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、シクロヘキシル基である。
芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、ベンジル基、ジフェニルメチル基、トリフェニルメチル基、スチリル基、ビフェニリル基、ナフチル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、フェニル基、ベンジル基、ビフェニリル基である。
複素環基としては、例えばフリル基、フルフリル基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ピペリジノ基、ピペリジル基、キノリル基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、フリル基、ピリジル基である。
酸素を含む特性基は、酸素を含む基であれば何でもよいが、例えば水酸基、過酸化水素基、酸素(エポキシ基)、カルボニル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは水酸基、酸素である。
その他、酸素を含む特性基としては以下のようなものが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、メトキシ基、エトキシ基である。
カルボン酸、エステル基としては、例えばカルボキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセトキシ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、カルボキシ基、アセトキシ基である。
アシル基としては、例えばホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ラウロイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロホルミル基、オキサル基、シクロヘキサンカルボニル基、ベンゾイル基、トルオイル基、ナフトイル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、ホルミル基、アセチル基である。
また、例えばアセトニル基、フェナシル基、サリチル基、サリチロイル基、アニシル基、アニソイル基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、アセトニル基、サリチル基である。
硫黄を含む特性基としては、硫黄を含む基であれば何でもよいが、例えばメルカプト基、チオ基(−S−)、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、チオホルミル基、チオアセチル基、チオカルボキシ基、ジチオカルボキシ基、チオカルバモイル基、スルホン酸基、メシル基、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基、トシル基、スルホアミノ基を挙げることができる。工業的に合成し易い点から好ましいのは、メルカプト基、スルホン酸基である。
窒素を含む特性基としては、窒素を含む基であれば何でもよいが、例えばアミノ基、メ
チルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアナート基、イソシアナート基、チオシアナート基、イソチオシアナート基、ヒドロキシアミノ基、アセチルアミノ基、ベンザミド基、スクシンイミド基、カルバモイル基、ニトロソ基、ニトロ基、ヒドラジノ基、フェニルアゾ基、ナフチルアゾ基、ウレイド基、ウレイレン基、アミジノ基、グアニジノ基を挙げることができるが、工業的に合成し易い点から好ましいのは、アミノ基、シアノ基、シアナート基である。
以上述べた所定の基は、さらに他の基で置換されていてもよい。
上記した所定の基のうち、特に好ましいのは、水素原子、ナトリウム、カリウム、酸素、水酸基、アミノ基、スルホン酸基、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ビフェニリル基、エトキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素である。上記基の中で、酸素は結合手が2つあるが、それぞれの結合手がフラーレンを構成する炭素原子と結合してエポキシ基を形成する。
特に好ましいフラーレン誘導体の例としては、例えば、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン、スルホン化フラーレン、ビフェニルフラーレン(単数又は複数のビフェニリル基がフラーレンの球殻構造に結合したフラーレン誘導体)からなる群から選ばれる少なくとも1つを挙げることができるが、電池特性を向上させる点で最も好ましいのは、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ビフェニルフラーレンである。
上記所定の基は、フラーレンを構成する炭素原子のうちの1つ以上に結合していればよい。一方、フラーレンに結合する上記基の数は、通常36個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは4個以下である。
上記フラーレン誘導体は、常温常湿(25℃/50%RH)においては、粉末状であり、その2次粒径は、通常10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、一方通常1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下である。上記範囲とすることによりフロート充電時の安全性等が確保されるようになる。
本発明の効果を発揮させるために好ましいフラーレン類は、C60、C70、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン化フラーレン、スルホン化フラーレン、及びビフェニルフラーレンからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
(2)正極活物質
本発明のリチウム二次電池用正極材料は、上記フラーレン類の他、Liを吸蔵・放出し得る正極活物質を含有する。
正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物等各種の無機化合物が挙げられる。ここで遷移金属としてはFe、Co、Ni、Mn等が用いられる。具体的には、MnO、V25 、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物などのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、TiS2 、FeS、MoS2などの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。これらの化合物はその特性を向上させるために部分的に元素置換したものであっても良い。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N−フルオロピリジニウム塩等の有機化合物を混合して用いても良い。
上記正極活物質のうち、高性能なリチウム二次電池を得る観点から、正極活物質は、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物とすることが好ましく、より好ましくはリチウムコバル
ト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物とすることである。リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物は、フロート充電時に不安定になりやすく、又、充電状態における酸化反応が発生し安いため、フラーレン類で表面を処理する効果が顕著に発揮されるようになる。また、リチウムコバルト複合酸化物は、放電曲線が平坦であるためレート特性に優れる有用な正極活物質であり、リチウムニッケル複合酸化物は単位重量あたりの電流容量が大きいため電池容量を大きくすることができる利点もある。
正極活物質として、上記リチウム遷移金属複合酸化物を複数用いてもよい。
これらリチウム遷移金属複合酸化物の遷移金属サイトの一部は他の元素で置換されていてもよい。遷移金属サイトの一部を他の元素で置換することにより、リチウム二次電池の安全性を向上させることができるようになる。また、これらリチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属の一部を他の元素で置換することにより、結晶構造の安定性を向上させることができる。この際の該遷移金属サイトの一部を置換する他元素(以下、置換元素と表記する)としては、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr等が挙げられ、好ましくはAl、Cr、Fe、Co、Li、Ni、Mg、Ga、更に好ましくは、Co、Alである。なお、遷移金属サイトは2種以上の他元素で置換されていてもよい。置換元素による置換割合は通常ベースとなる遷移金属元素の2.5モル%以上、好ましくはベースとなる遷移金属元素の5モル%以上であり、通常ベースとなる遷移金属元素の30モル%以下、好ましくはベースとなる遷移金属元素の20モル%以下である。置換割合が少なすぎると結晶構造の安定化が十分図れない場合があり、多すぎると電池にした場合の容量が低下してしまう場合がある。
正極活物質の比表面積は、通常0.01m2/g以上、好ましくは0.1m2/g以上、より好ましくは0.4m2/g以上であり、また通常10m2/g以下、好ましくは5m2
/g以下、より好ましくは2m2/g以下である。比表面積が小さすぎるとレート特性の
低下、容量の低下を招き、大きすぎると電解液等と反応し、サイクル特性を低下させることがある。比表面積の測定はBET法に従う。
正極活物質の平均二次粒径は、通常0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上、最も好ましくは0.5μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、最も好ましくは20μm以下である。平均二次粒径が小さすぎると電池のサイクル劣化が大きくなったり、安全性に問題が生じたりする場合があり、大きすぎると電池の内部抵抗が大きくなり、出力が出にくくなる場合がある。
(3)リチウム二次電池用正極材料に含まれるその他の材料
この実施態様におけるリチウム二次電池用正極材料に含有される材料としては、上記フラーレン類及び正極活物質以外に、例えば、リチウム二次電池の正極に用いるバインダー(詳細は後述する)や導電剤等の他の添加剤等を挙げることができる。
これら材料の種類や含有量は、求められる電池性能に従って適宜調整すればよい。
(4)正極活物質とフラーレン類との関係
本発明においては、前記正極活物質表面に、前記フラーレン類を存在させる。正極活物質の表面にフラーレン類を直接存在させてやることにより、フロート充電時等における正極活物質表面上の反応を抑制し、正極活物質と電解液との反応によるガス発生や抵抗増加による正極の劣化を抑制することができるようになる。
なお、フラーレン類は正極活物質表面全体を覆ってもよいが、正極活物質表面上でフラーレン類が覆っている部分と覆っていない部分が併存していてもよい。
ここで、正極活物質に対するフラーレン類の存在量は、正極活物質の重量に対して、通常0.001重量%以上、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重
量%以上とする。存在量が過度に少ないと、フロート充電時等の安全性確保が不十分となる。一方、通常20重量%以下、好ましくは10重量%より少なく、より好ましくは5重量%より少なく、さらに好ましくは3重量%以下、特に好ましくは2重量%以下、さらに特に好ましくは1.6重量%以下、最も好ましくは0.7重量%以下とする。存在量が過度に多いと、電池の内部抵抗が上昇する場合がある。ここで、好ましい存在量は、正極活物質表面でのフラーレン類の存在量、すなわち正極活物質を表面処理しているフラーレン類の重量である。つまり、フラーレン類を正極活物質表面に存在させずに独立した粉体として正極中に存在させる場合は、正極活物質重量に対して上記所定重量のフラーレン類を用いたとしても、本発明の効果を得ることが非常に難しくなる。
さらに、本発明は、フロート充電時の安全性や大容量電池における充電状態の安定性を向上せる程度の量のフラーレン類を正極活物質の表面に存在させてやれば十分であり、フラーレン類を大量に用いる必要はない点を特徴の一つとする。すなわち、正極活物質に対してフラーレン類を数%以下と微量に用いた場合においても、発明の効果が顕著に発揮される。用いるフラーレン類によっては、フラーレン類のコストが高くなる場合も考えられるが、本発明においては微量のフラーレンで効果が顕著に発揮される分、正極材料のコスト上昇を有効に抑制することができる。
正極活物質表面でのフラーレン類の存在量は、正極活物質の表面積に対して規定することが好ましい。これは、表面を被覆し処理するという観点からは、単位面積あたりの存在量の方がより的確に好ましい処理状態を規定できるからである。正極活物質表面でのフラーレン類の存在量は、通常、窒素吸着法(BET法)で測定される正極活物質の表面積に対して、0.01mg/m2以上、好ましくは0.1mg/m2以上、より好ましくは1mg/m2以上とする。存在量が過度に少ないと、フロート充電時等の安全性確保が不十分
となる。一方、通常100mg/m2以下、好ましくは50mg/m2より少なく、より好ましくは20mg/m2より少なく、さらに好ましくは10mg/m2以下とする。存在量が過度に多いと、電池の内部抵抗が上昇する場合がある。この場合においても、上記記載の値は正極活物質表面でのフラーレン類の存在量であって、上記存在量のフラーレン類を正極活物質に単に配合すれば効果が得られるというわけではない。
上述の正極活物質表面でのフラーレン類の存在重量、又は正極活物質表面の単位面積当たりのフラーレン類の存在重量は、工程を管理する上では極めて扱いやすい規定方法である。一方で、正極活物質表面でのフラーレン類の存在量を、特には正極活物質表面におけるフラーレン類の厚みとして規定することも有効である。正極活物質表面に存在させるフラーレン類の膜厚は、正極活物質表面の単位面積当たりでのフラーレン類の存在量である程度決定されるものである。正極活物質表面に存在させるフラーレン類の膜厚は、フラーレン類の状態がアモルファス又は結晶状態によってフラーレン類の膜厚が異なること、及び処理されたフラーレン類の膜厚に分布が生じること、があるため、通常0.01nm以上とする。尚、フラーレン類の1分子のサイズが1nm程度であることから、分子サイズ以下の膜厚を記載しているが、これは平均の膜厚を意味し、面積の被覆率が1%であれば膜厚は分子厚みの1/100となるため矛盾はしない。好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1nm以上とする。一方、上記フラーレン類の膜厚は、通常100nm以下、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下とする。膜厚が過度に厚いと正極活物質の抵抗値が高くなる場合がある。上記平均膜厚とは別に、処理の不均一性に由来する最大膜厚に対する考慮も必要である。正極活物質表面において処理層の厚みが特に厚い部分が存在することは、他の領域の処理が不完全となるだけでなく、過剰のフラーレン類で処理する必要があるため好ましくない。特性上も、厚みが厚い部分は抵抗が増大して好ましくない。特に表面から粒状、柱状、球状に突起した部分が存在することは好ましくない。最大厚みとしては平均厚みに対して通常5倍以下、好ましくは2倍以下、より好ましくは1.5倍以下、さらに好ましくは1.2倍以下とする
フラーレン類が正極活物質表面に存在しているか否かは、例えば、赤外分光法、X線光電子分光法(X−ray photo−electron spectroscopy)等で、得られた材料の表面分析等を行えばよい。
本発明のリチウム二次電池用正極材料の製造方法については、後述する。
A−2.X線光電子分光法による規定
本発明のリチウム二次電池用正極材料に含有させる正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、及びリチウムマンガン複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合には、リチウム遷移金属複合酸化物表面にフラーレン類が存在する本発明のリチウム二次電池用正極材料と、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属単体と、をそれぞれX線光電子分光法(X−ray photo−electron spectroscopy、以下単にXPS測定という。)測定して求められる、遷移金属の2p軌道におけるピーク面積と遷移金属の3p軌道におけるピーク面積との比が、下記数式(a)で表されることが好ましい。
1.01≦Rs/Rm≦1.6・・・(a)
(但し、上記数式(a)において、Rsは、上記リチウム二次電池用正極材料に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物における(遷移金属の3p軌道におけるピーク面積)/(遷移金属の2p軌道におけるピーク面積)を表し、Rmは、上記遷移金属単体における(遷移金属の3p軌道におけるピーク面積)/(遷移金属の2p軌道におけるピーク面積)を表す。)
なお、遷移金属の2p軌道の測定ピーク又は3p軌道の測定ピークが、スピン軌道相互作用により分裂する場合がある。この場合において、分裂幅が十分に広く、分裂ピークが単独ピークとして処理することが可能である場合は、この分裂した後のピーク(例えば2p(3/2)等)を使用してもよい。
X線光電子分光法は、1次光源として試料表面に特性X線(Al Kα, Mg Kα,等)を照射し、励起された試料表面から放出される光電子をエネルギー分光器にて検出する手法である。光電子の脱出深さはおよそ5nm程度であり、測定試料の最表面の情報を検出する有効な手段である。入射X線のエネルギーと励起された試料表面から放出される光電子が有す
る運動エネルギーとの差は、光電子の結合エネルギーを表し、この結合エネルギーは元素の種類及び光電子の軌道に固有のものである。また、この結合エネルギーは、隣り合う元素の種類や化学結合の種類によっても微妙にその値がシフトする。X線光電子分光法を用いれば、上記現象を利用して元素定性並びに化学状態に関する情報を得ることができる。また、各構成元素由来のピーク面積を比較することによって、相対的な元素組成を知ることが出来る。本発明においては、フラーレン類が存在するリチウム遷移金属複合酸化物の表面における遷移金属元素の2p軌道のピーク面積と3p軌道のピーク面積との相対的な比率を求めることにより、表面に存在するフラーレン類の存在量及び存在形態を見積もる。
ここで、X線電子分光測定の好ましい測定条件は以下のようなものであるが、これに限定されるものではない。
(1)X線光電子分光測定の一般的な測定条件(相対感度補正係数を用いない方法)
(リチウム二次電池用正極材料の測定)
金属板に両面テープを貼付け、その上に、リチウム二次電池用正極材料をテープが見えない厚みにふりかけ、表面が平滑になるよう圧着したものをホルダーに固定し、測定に供する。
測定のための光源には単色化Al−Kα線(14kV、150W)を用いて、下記条件にて測定を行うが、測定の際、帯電補正のために電子中和銃を用いる。
PassEnergy:29.35eV
データ取込間隔:0.125eV/step
測定面積:0.8mm径
取出角:45度
測定は、リチウム二次電池用正極材料に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属の2p軌道及び3p軌道について行う。
(3p軌道のピーク面積と2p軌道のピーク面積との算出方法)
それぞれの軌道に同定されるピークの両側における平坦領域をそれぞれ結ぶことによってベースラインを定め、ピーク領域においてベースラインを上回る部分の面積をもってピーク面積とする。
以下、リチウム二次電池用正極材料のXPS測定についてより詳細に説明する。
まず、金属板に両面テープを貼付け、その上にリチウム二次電池用正極材料をテープが見えなくなるまで十分にふりかけた後、表面が平滑になるようにする。その後、リチウム二次電池用正極材料が貼り付けられた両面テープを金属板ごとホルダーに固定し、測定に供する。
測定のための光源には単色化Al−Kα線(14kV、150W)を用いる。また、下記条件にて測定を行うが、測定の際、帯電補正のために電子中和銃を用いる。ここで、測定に際し電子中和銃による帯電補正が必要となる理由は、リチウム二次電池用正極材料に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物が完全な導電性試料でなく帯電するからである。
PassEnergy:29.35eV
データ取込間隔:0.125eV/step
測定面積:0.8mm径
取出角:45度
上記測定上件にてXPS測定を行うが、測定ピークは、リチウム二次電池用正極材料に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素の3p軌道および2p軌道に由来したピークである。
リチウム二次電池用正極材料に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物が、リチウムコバルト複合酸化物である場合には遷移金属元素をCoとし、リチウムニッケル複合酸化物である場合には遷移金属をNiとし、リチウムマンガン複合酸化物である場合には遷移金属はをMnとすることが一般的である。上記遷移金属元素は、存在量が多いため測定が正確にできる利点がある。
リチウム遷移金属複合酸化物が遷移金属を複数個含む場合(例えばリチウムニッケル複合酸化物で、添加元素としてCo等の他の遷移金属を用いる場合)は、その存在比率に由来するピーク面積や、他の元素(例えばリチウムや酸素)のピーク位置に対する対象ピークの独立性を考慮して、測定対象とする遷移金属を適宜選定すれば良い。
XPS測定後、得られた生データにおける、遷移金属元素の2p軌道のピークの始点及び終点と、遷移金属元素の3p軌道のピークの始点及び終点と、を決めて、シャーリー法で始点と終点とを結ぶ。ここで、前記ピークの始点と終点とは、ピークの裾が完全に平坦になる部分に取るようにする。ピークの裾の途中で始点、終点を決めると、正確なピーク面積が求められないおそれがあるからである。このようにして決めた始点と終点とをシャーリー法を用いてベースラインで結ぶ。そして、ベースラインとピークとに囲まれる面積を2p軌道及び3p軌道ごとに求め、これを2p軌道及び3p軌道それぞれに由来するピーク面積とする。
本発明においては、リチウム二次電池用正極材料に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属における(遷移金属の3p軌道におけるピーク面積)/(遷移金属の2p軌道におけるピーク面積)をRsとする。また、遷移金属単体における(遷移金属の3p軌道におけるピーク面積)/(遷移金属の2p軌道におけるピーク面積)をRmとする。Rmは、上記XPS測定において、測定試料をリチウム二次電池用正極材料から清浄な表面を有する遷移金属単体の金属板に変更して行えばよい。
本発明においてはRsとRmの比率(Rs/Rm)が下記の数式(a)を満たすことが好ましい。
1.01≦Rs/Rm≦1.6・・・(a)
Rs/Rmを上記範囲とすることが好ましい理由を以下に記載する。
光電子は、リチウム二次電池用正極材料を構成する各元素から発生する。
ここで、リチウム遷移金属複合酸化物(表面にフラーレン類が存在していないリチウム遷移金属複合酸化物)を構成する遷移金属から発生する光電子が形成するピーク面積と、遷移金属単体から発生する光電子が形成するピーク面積とを比較すると以下のようになる。すなわち、遷移金属において化学結合に寄与しない3p軌道に由来したピーク面積の絶対値及び2p軌道に由来したピーク面積の絶対値は、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属と遷移金属単体とでは遷移金属の量に差があるために、変化することになる。但し、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属と遷移金属単体とにおいて、遷移金属元素の3p軌道に由来したピーク面積の絶対値と2p軌道に由来したピーク面積の絶対値との比率は一定となる。
つまり、遷移金属単体においては、遷移金属元素の存在率は100%であるので、2p軌道に由来したピーク面積及び3p軌道に由来したピーク面積はそれぞれ強くなる。一方、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属はリチウム遷移金属複合酸化物の一元素であり存在率が25%程度であるため、3p軌道に由来したピーク面積及び2p軌道に由来したピーク面積はそれぞれ小さくなる。しかしながら、遷移金属単体の3p軌道に由来したピーク面積及び2p軌道に由来したピーク面積の比率(Rm)、及び、リチウム遷移金属複合酸化物(表面にフラーレン類が存在していないリチウム遷移金属複合酸化物)を構成する遷移金属の3p軌道に由来したピーク面積及び2p軌道に由来したピーク面積の比率(Rs)は同一の値となる。つまり、RsとRmとの比率であるRs/Rmは1となる。
これに対して、本発明のリチウム二次電池用正極材料のようにリチウム遷移金属複合酸化物の表面にフラーレン類が存在すると、XPS測定時に発生する光電子はフラーレン類に由来した原子によって散乱され、光電子の強度(ピーク面積)が一般的に減衰する。減衰の程度は、光電子の運動エネルギーが低い方が大きくなる。このため、フラーレン類に由来した原子によって光電子が散乱された場合、遷移金属の2p軌道に由来した光電子の強度(ピーク面積)の方が、遷移金属の3p軌道に由来した光電子の強度(ピーク面積)よりも減衰が大きくなる。そのため、リチウム遷移金属複合酸化物表面にフラーレン類が存在すると、Rsの値は大きくなる。減衰の程度はフラーレン類が形成するフラーレン層の厚みに依存するため、上記数式(a)におけるRs/Rmは、フラーレン層の厚みに応じて変化する。よって、Rs/Rmを規定することにより、リチウム遷移金属複合酸化物表面がフラーレン類で好ましい状態に処理されているか否かを確認することができる。
さらに、光電子の脱出深さが5nm程度であることから、リチウム遷移金属複合酸化物表面でフラーレン類が偏在し、リチウム遷移金属複合酸化物表面上でフラーレン類が存在しない箇所とフラーレン類が塊状で付着した箇所とがあるような場合は、塊状のフラーレンが付着した表面からは遷移金属元素の光電子は検出されず、フラーレン類が存在しない
箇所が主として測定される(むろん測定される絶対強度が低下することはいうまでもない)。このため、フラーレン類が粉体表面上で偏在して処理が均一でない場合において上記評価方法を用いると、処理がされていないという測定結果を与えるため、上記評価方法は、フラーレン類の表面処理の均一性を評価する方法としても極めて価値が高い。
(2)相対感度補正係数を用いる方法
一般のXPS測定装置は、そのデータ出力において、測定元素各々及び測定元素各々の軌道のそれぞれに決められた相対感度補正係数を用い、測定される各元素及び各元素の軌道のピーク面積(測定されたデータそのままの値:生データ)を、それぞれの軌道の相対感度補正係数で除する機能を有する。測定される各元素及び各元素の軌道のピーク面積(測定されたデータそのままの値:生データ)を、各元素及び各元素の軌道の相対感度補正係数で除するのは、各元素及び各元素の軌道における光電子の発生効率の違いを考慮する必要があるためである。
すなわち、光電子の発生効率は、各元素及び各元素の軌道で同一ではなく、例えば、元素Aの光電子A1sは信号強度100であるのに対して同一の元素Aの光電子A2sは信号強度が50(発生効率が低い)であったりする。また、例えば、元素A、B、Cがそれぞれ同じ元素比で存在する場合、元素Aの光電子A1sは信号強度100であるのに対して、元素Bの光電子B1sは信号強度80であったり(発生効率が低い)、元素Cの光電子C1sの信号強度は120であったり(発生効率が高い)する。この相対的な感度の比は、測定条件や測定機種によっても微妙に異なるため、装置メーカーは各々の装置に固有の値を相対感度補正係数として提供している。
上記(1)の方法では、ピーク面積の測定において、同一遷移金属の異なる軌道(2p軌道、3p軌道)のピーク面積比を使用し、さらに遷移金属単体のピーク面積比に対する比率を求めることによって、光電子の発生効率の違い、測定条件、測定機種による差異を補償している。このため、上記(1)の方法は、相対感度補正係数を用いずに測定をできる利点がある。但し、装置メーカーが各々の装置に固有の値として提供している相対感度補正係数は、信頼性の高い値であることから、測定によって得られた2p軌道のピーク面積(生データ)及び3p軌道のピーク面積(生データ)を、X線光電子分光装置ごとに決められた相対感度補正係で補正したピーク面積を「補正後ピーク面積」とし、これを用いることも便宜上可能である。
上述の通り、相対感度補正係数は、光電子の発生効率を補償するものである。例えば、遷移金属単体を測定した場合においては、遷移金属の存在量が100%であるため、遷移金属の存在量は、3p軌道によって対象とする遷移金属元素を測定しても、2p軌道によって対象とする遷移金属元素を測定しても変化するものではない。このため、XPS測定を行った場合に、測定装置は、上記相対感度補正係数を用いて、3p軌道に由来したピーク面積及び2p軌道に由来したピーク面積が同一となるように補正を行うのが一般的である。ここで、遷移金属の3p軌道に由来したピークに対する相対感度補正係数をα3p、遷移金属の2p軌道に由来したピークに対する相対感度補正係数をα2pとする。この場合、遷移金属元素の3p軌道に由来した補正後ピーク面積と、遷移金属元素の2p軌道に由来した補正後ピーク面積と、の比率をRmCとすると、RmCは、
RmC=((遷移金属の3p軌道におけるピーク面積(生データ))/α3p)/((遷移金属の2p軌道におけるピーク面積(生データ))/α2p)=1
となる。そして、
RmC=1=((遷移金属の3p軌道におけるピーク面積(生データ))/α3p)/((遷移金属の2p軌道におけるピーク面積(生データ))/α2p)=(α2p/α3p)×Rm
であるから、
α2p/α3p=1/Rm
である。このため、上記数式(a)の中央のRs/Rmは、以下の数式(b)のように書き換えることができる。
1.01≦(α2p/α3p)×Rs≦1.6・・・(b)
Rsは、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属における(遷移金属の3p軌道におけるピーク面積(生データ))/(遷移金属の2p軌道におけるピーク面積(生データ))である。このため、
(α2p/α3p)×Rs=((遷移金属の3p軌道におけるピーク面積(生データ))/α3p)/((遷移金属の2p軌道におけるピーク面積(生データ))/α2p)
となる。
よって、式(b)における(α2p/α3p)×Rsは、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属を測定して得られた、遷移金属の3p軌道のピーク面積の生データを相対感度補正係数で補正した「遷移金属の3p軌道の補正後ピーク面積(A3p)」と、遷移金属の2p軌道のピーク面積の生データを相対感度補正係数で補正した「遷移金属の2p軌道の補正後ピーク面積(A2p)」との比率となる。
従って、上記数式(b)は、下記数式(c)のように置き換えることができる。
1.01≦A3p/A2p≦1.6・・・(c)
この測定方法は、遷移金属単体を測定することにより得られるRmと、リチウム二次電池用正極材料に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属を測定することにより得られるRsと、の比をとる補償操作(上記(1)の方法)を、測定装置で提供される相対感度補正係数で置き換えることに相当する。この測定方法は、測定装置の信頼性を考慮すれば、上記(1)の方法よりも簡便である上、上記(1)の方法と十分に等価な手法であるといえる。
(3)表面元素比率を用いる方法
より簡便かつ実用的な方法として、上記(2)のように、相対感度補正係数を用いてリチウム二次電池用正極材料に含有されるリチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属のA3p/A2pを求める方法に加えて、下記方法を挙げることができる。
すなわち、上記遷移金属の3p軌道の補正後ピーク面積(A3p)と、上記遷移金属の2p軌道の補正後ピーク面積(A2p)と、のそれぞれを、リチウム二次電池用正極材料を構成する各元素の補正後ピーク面積の合計量でそれぞれ除する方法である。この方法は、遷移金属2p軌道による遷移金属元素の表面元素比率、遷移金属3p軌道による遷移金属元素の表面元素比率を求める方法である。遷移金属2p軌道による遷移金属元素の表面元素比率、遷移金属3p軌道による遷移金属元素の表面元素比率は、下記のように表される。
(遷移金属2p軌道による遷移金属元素の表面元素比率)=A2p/(リチウム二次電池用正極材料を構成する各元素それぞれの補正後ピーク面積の合計量)
(遷移金属3p軌道による遷移金属元素の表面元素比率)=A3p/(リチウム二次電池用正極材料を構成する各元素それぞれの補正後ピーク面積の合計量)
この方法においても、
{A3p/(リチウム二次電池用正極材料を構成する各元素それぞれの補正後ピーク面積の合計量)}/{A2p/(リチウム二次電池用正極材料を構成する各元素それぞれの補正後ピーク面積の合計量)}=A3p/A2p
となる。つまり、上記式(c)中のA3p/A2pにおいて、分子と分母とがそれぞれ「リチウム二次電池用正極材料中に存在する各元素それぞれの補正後ピーク面積の合計量」で除されて、これら「リチウム二次電池用正極材料中に存在する各元素それぞれの補正後ピーク面積の合計量」は打ち消し合うこととなる。従って、この方法を用いることによっても、上記(2)の方法、ひいては上記(1)の方法と実質的に同等の結果を得ることが
できる。この方法は、上記(2)の方法よりも簡便である利点がある。
(4)まとめ
本発明において、簡便で信頼性の高い好ましいXPSの測定方法は、上記(2)又は(3)の方法を用いることである。これらの方法をまとめると以下のようになる。
すなわち、リチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極材料をX線光電子分光法(X−ray photo−electron spectroscopy)測定した場合に、
上記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属の2p軌道におけるピーク面積を相対感度補正係数で補正した補正後ピーク面積をA2pとし、
上記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属の3p軌道におけるピーク面積を相対感度補正係数で補正した補正後ピーク面積をA3pとしたときに、
A2pとA3pとの比が、下記数式(d)で表されるようにすることである。
1.01≦A3p/A2p≦1.6・・・(d)
B.リチウム二次電池用正極材料の製造方法
上記本発明に用いるリチウム二次電池用正極材料を製造する方法としては、上記実施態様を達成しうるものであれば特に限定されるものではない。
以下、本発明に用いるリチウム二次電池用正極材料の製造方法の一例として、フラーレン類を単分子の状態又は複数の分子の凝集体の状態で正極活物質表面に存在させたリチウム二次電池用正極材料の製造方法(以下、この製造方法を「製法1」と呼ぶ場合がある。)について説明する。
製法1においては、フラーレン類を正極活物質表面に存在させる。
フラーレン類を正極活物質表面に存在させる方法としては、例えば、フラーレン類を気体状にして正極活物質に存在させる気相中処理、フラーレン類及び正極活物質を溶媒に溶解又は分散させて正極活物質の表面にフラーレン類を存在させる液相中処理、固体状の正極活物質に固体状のフラーレン類を接触させて表面修飾を行う固相中処理等、様々な方法を用いることができる。これらの方法の中でも、最も簡易な方法は液相中処理である。
(1)液相中処理
液相中処理の具体例としては、フラーレン類を溶解させた溶液に正極活物質を混合し、所定時間撹拌した後、デカンテーションにより溶液を除去、乾燥により処理粉体を得る方法がある。この方法においてはデカンテーションによる溶液除去の程度にもよるが、基本的には正極活物質表面へ吸着したフラーレン類が正極活物質表面を処理する分子となる。溶液中からの分子の吸着によって比較的容易に単分子吸着層を形成することが可能であり、正極活物質表面でのフラーレン類の存在量は極微量でありながら、極めて効果的に表面性状を改質することが可能である。
液相中処理の他の具体例としては、正極活物質に、フラーレン類を溶解させた溶液を所望の表面処理の割合となる分量だけ投入、撹拌の後、溶剤を蒸発して除去することにより処理粉体を得る方法を挙げることができる。この方法においては、投入したフラーレン類を全て正極活物質の表面処理に用いるため、フラーレン類の正極活物質表面での存在量を制御しやすい利点がある。また容器の中に処理される正極活物質をフラーレン類の溶液を投入し、そのまま乾燥するだけで良いため工程的には簡便である。なお、この方法の場合は、溶媒種、乾燥条件、フラーレン類濃度、正極活物質に対するフラーレン類の総量等を考慮して系を調整することが好ましい。フラーレン類が分離析出したり、処理はされても余剰のフラーレン類が正極活物質表面で多量に析出したりする場合があるからである。
正極活物質が粉体状である場合における液相中処理の他の具体例としては、粉体状の正極活物質を、フラーレン類を溶解させた溶液またはフラーレン類を分散させた分散液に所
望の修飾割合となる分量だけ噴霧混合し乾燥させるいわゆるスプレードライ手法が挙げられる。この手法は必要とされる溶媒の量を少なくすることができ、連続工程も可能であることから生産性に優れる。
上記液相中処理において用いる溶媒としては、特に制限はないが、フラーレン類を溶解するような溶媒であることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族化合物や、ジフェニスルフィド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシドを挙げることができる。上記溶媒を、複数用いてもよいことはいうまでもない。
また、上記液相中処理において用いる溶媒中のフラーレン類の濃度は、特に制限はないが、用いる溶媒におけるフラーレン類の溶解度範囲内であることが好ましい。具体的には、濃度は、通常0.01mg/mL以上、好ましくは0.1mg/mL以上、一方、通常100mg/mL以下、好ましくは50mg/mL以下、より好ましくは20mg/mL以下とする。
さらに、上記液相中処理において、フラーレン類を溶解させた溶液又はフラーレン類を分散させた溶媒と正極活物質とを接触させる(例えば、フラーレン類を溶解させた溶液に正極活物質を投入して攪拌する)場合には、その接触時間としては、特に制限はないものの、通常5分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは15分以上、一方、通常3時間以下、好ましくは1時間以下とする。また接触時の温度についても、特に制限はないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上、一方、通常100℃以下とする。フラーレン類が溶解又は分散している溶媒の沸点以上でフラーレン類と溶媒との接触を行う場合は、密閉して行えばよい。
上記液相中処理においてフラーレン類を溶解させた溶液又はフラーレン類を分散させた溶媒と正極活物質とを接触させた(例えば、フラーレン類を溶解させた溶液に正極活物質を投入して攪拌した)後に、溶媒を除去する場合には、除去時の温度は、特に制限はないが、通常20℃以上、好ましくは50℃以上、一方、通常200℃以下、好ましくは180℃以下とする。また、除去の時間は、特に制限はないが、通常10分以上、好ましくは20分以上、一方、通常12時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは7時間以下とする。
液相中処理のさらに他の具体例としては、正極活物質を含む活物質層(詳細は後述する。)を集電体(詳細は後述する。)に形成した後、フラーレン類を溶解した溶液、又はフラーレン類を溶媒に分散させた分散液を上記活物質層表面に塗布して、活物質表面及び活物質層中にフラーレン類を存在させた後、溶媒を蒸発させる方法がある。この方法は、実際に電解液と接する正極活物質表面のみをフラーレン類で処理することとなるので、少ない処理量でフロート充電時の安全性等を有効に確保することができるようになる。活物質層中では、集電体の表面積やバインダー表面積に対して活物質の表面積が圧倒的に大きいため、処理は実質的に活物質表面のみに対してなされるが、溶媒を適当に選ぶことにより表面張力の関係から正極活物質表面のみがさらに有効に処理されるよう制御することもできる。
上記の液相中処理を行う場合、フラーレン類を溶解又は分散させる溶媒としては、特に制限はないが、活物質層に含まれる成分を溶解させないものが好ましい。このような溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族化合物や、ジフェニスルフィド、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジ
メチルスルホキシドを挙げることができる。上記溶媒を、複数用いてもよいことはいうまでもない。
また、上記液相中処理において用いる溶媒中のフラーレン類の濃度は、特に制限はないが、用いる溶媒におけるフラーレン類の溶解度範囲内であることが好ましい。具体的には、濃度は、通常0.01mg/mL以上、好ましくは0.1mg/mL以上、一方、通常100mg/mL以下、好ましくは50mg/mL以下、より好ましくは20mg/mL以下とする。
さらに、上記液相中処理において、フラーレン類を溶解した溶液又はフラーレン類を溶媒に分散させた分散液を活物質層表面に塗布する場合、液滴を滴下する方法、スプレー塗布、ダイコート塗布等の方法を適宜用いればよい。
なお、上記液相中処理においては、フラーレン類を溶解した溶液又はフラーレン類を溶媒に分散させた分散液は、塗布された後、活物質層中に染み込んでいくが、この染み込みに必要な時間は、通常1秒以上、好ましくは5秒以上、より好ましくは10秒以上、一方、通常5分以下、好ましくは3分以下、より好ましくは1分以下である。そして、この染み込み工程を得た後、溶媒を除去すればよい。除去時の温度は、特に制限はないが、通常20℃以上、好ましくは50℃以上、一方、通常200℃以下、好ましくは180℃以下とする。また、除去の時間は、特に制限はないが、通常10分以上、好ましくは20分以上、一方、通常12時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下とする。
(2)固相中処理
正極活物質が粉体状である場合の固相中処理の具体例としては、微粒子状のフラーレン類と正極活物質とを混合し、高速で撹拌、せん断することにより、フラーレンを正極活物質表面に存在させる手法が挙げられる。この手法は、その撹拌方法により、気流中で粒子を衝突させるジェットミル法、比較的高密度になっている粉体をブレードで強力に撹拌するプラネタリー撹拌法等に分類される。
(3)気相中処理
正極活物質が粉体状である場合の気相中処理の具体例としては、フラーレン類を好ましくは真空中で加熱し昇華させることにより、対向して設置された正極活物質表面に堆積させる、いわゆる真空蒸着法が挙げられる。
C.リチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池
本発明においては正極活物質表面にフラーレン類が存在するリチウム二次電池用正極材料を用い、フラーレン類と正極活物質とを相互に作用させることにより、リチウム二次電池の安全性が改善される。
以下、本発明のリチウム二次電池用正極材料(本明細書においては、リチウム二次電池用正極材料を単に正極材料という場合がある。)を含有するリチウム二次電池用の正極、及びこの正極を用いたリチウム二次電池について説明する。
本発明における正極は、上記正極材料を用いて形成されるが、通常、上記正極材料を含有する活物質層を集電体上に形成してなる。
正極は、上記正極材料を、バインダー等を溶解しうる溶剤を用いて分散塗料化し、その塗料を集電体上に塗布、乾燥することにより製造することができる。
活物質層中の正極活物質の割合は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは98重量%以下である。多すぎると電極の機械的強度が劣る傾向にあり、少なすぎると容量等電池性能が劣る傾向にある。
活物質層に使用するバインダーとしては、電解液等に対して安定である必要があり、耐
候性、耐薬品性、耐熱性、難燃性等の観点から各種の材料が使用される。具体的には、シリケート、ガラスのような無機化合物や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1,1−ジメチルエチレンなどのアルカン系ポリマー;ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの不飽和系ポリマー;ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドンなどのポリマー鎖中に環構造を有するポリマー;メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類が挙げられる。
他の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミドなどのアクリル誘導体系ポリマー;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニドなどのCN基含有ポリマー;ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール系ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン含有ポリマー;ポリアニリンなどの導電性ポリマーなどが使用できる。
また上記のポリマーなどの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであっても使用できる。これらの樹脂の重量平均分子量は、通常10,000以上、好ましくは100,000以上、一方、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下である。低すぎると塗膜の強度が低下する傾向にある。一方、高すぎると正極製造用の塗料の粘度が高くなり電極の形成が困難になることがある。好ましいバインダー樹脂としては、フッ素系樹脂、CN基含有ポリマーが挙げられ、より好ましくはポリフッ化ビニリデンである。
バインダーの使用量は、正極活物質100重量部に対して通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上であり、また通常30重量部以下、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。バインダーの量が少なすぎると活物質層の強度が低下する傾向にあり、バインダーの量が多すぎると電池容量が低下する傾向にある。
活物質層中には、必要に応じて、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性材料、補強材など各種の機能を発現する添加剤、粉体、充填材などを含有させてもよい。
活物質層を形成する際に使用する溶剤としては、例えばN−メチルピロリドンや、ジメチルホルムアミドを挙げることができ、好ましくはN−メチルピロリドンである。塗料中の溶剤濃度は、少なくとも10重量%より大きくするが、通常20重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは35重量%以上である。また、上限としては、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下である。溶剤濃度が低すぎると塗布が困難になることがあり、高すぎると塗布膜厚を上げることが困難になると共に塗料の安定性が悪化することがある。
分散塗料化には通常用いられる分散機が使用でき、プラネタリーミキサー、ボールミル、サンドミル、二軸混練機などが使用できる。
集電体上に塗料を塗布する塗布装置に関しては特に限定されず、スライドコーターやエクストルージョン型のダイコーター、リバースロール、グラビアコーター、ナイフコーター、キスコーター、マイクログラビアコーター、ロッドコーター、ブレードコーターなどが挙げられるが、ダイコーター、ブレードコーター、及びナイフコーターが好ましく、塗料粘度および塗布膜厚等を考慮するとエクストルージョン型のダイコーター、簡便な点からはブレードコーターが最も好ましい。
上記塗料を集電体上に塗布した後、塗膜を例えば120℃程度の温度で10分間程度の時間乾燥させることよって活物質層が形成される。
活物質層の厚さは、通常10μm以上、好ましくは20μm以上であり、通常200μm以下、好ましくは150μm以下である。活物質層の厚さが過度に薄いと、電池の容量が小さくなりすぎる。一方、過度に厚いとレート特性が低下しることとなる。
正極に使用される集電体の材料としては、通常、アルミニウム、銅、ニッケル、錫、ステンレス鋼等の金属、これら金属の合金等を用いることができる。この場合、正極の集電体としては、通常アルミニウムが用いられる。集電体の形状は特に制限されず、例えば、板状やメッシュ状の形状を挙げることができる。集電体の厚みは通常1以上、一方、通常50μm以下、好ましくは30μm以下である。薄すぎると機械的強度が弱くなるが、厚すぎると電池が大きくなり、電池の中で占めるスペースが大きくなってしまい、電池のエネルギー密度が小さくなる。
本発明のリチウム二次電池は、上記正極の他、通常負極及び電解液を有する電池要素を有し、この電池要素をケースに収納した形態を有する。
負極は、通常、Liを吸蔵・放出し得る負極活物質、バインダー、及び必要に応じて導電剤等の添加剤を含有する活物質層を集電体上に形成してなる。バインダー、添加剤、活物質層の製造方法等については、正極で説明したものと同様のもの及び方法を用いることができる。
負極活物質は、通常炭素性物質を用いる。炭素性物質としては、例えば、グラファイト等の黒鉛材料;石炭系コークス、石油系コークス;石炭系ピッチ若しくは石油系ピッチの炭化物、又はこれらピッチを酸化処理したものの炭化物;ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物を挙げることができる。さらに上記炭素性物質を一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等を挙げることもできる。
上記炭素性物質のうち、好ましいのは、コークス及びグラファイト等の黒鉛材料であるが、容量が大きい点で、グラファイト等の黒鉛材料が特に好ましい。
黒鉛材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛粉末及びその精製品、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックの黒鉛化品、気相成長炭素繊維等の炭素繊維が挙げられる。このような黒鉛材料ならどれでもよいが、容量の点から好ましいのは人造黒鉛又は天然黒鉛である。電池性能を制御し易いという観点から特に好ましいのは人造黒鉛である。
尚、黒鉛材料は、表面をアモルファス処理してもよい。
黒鉛材料の平均粒径は、通常1μm以上、好ましくは5μm以上であり、また
通常45μm以下、好ましくは35μm以下、さらに好ましくは25μm以下である。平均粒径が過度に小さいと、黒鉛材料の比表面積が増えることとなり不可逆容量が増え電池容量が低下してしまう。一方、平均粒径が過度に大きいと活物質層の膜厚が制限され均一な活物質層を基材の上に形成させることが難しくなる。
黒鉛材料の比表面積は、通常0.1m2/g以上、好ましくは0.3m2/g以上、より好ましくは0.5m2/g以上とする。比表面積が過度に小さいと電池のレート特性が低
下する。一方、黒鉛材料の比表面積は、通常30m2/g以下、好ましくは20m2/g以下、より好ましくは10m2/g以下とする。比表面積が過度に大きいと電池の初期効率
が低下する。比表面積の測定はBET法に従う。
なお、本発明においては、負極活物質表面にフラーレン類を存在させてもよい。例えば、負極活物質として炭素性物質を用いる場合、炭素性物質表面にフラーレン又はフラーレン誘導体を、単分子又は複数の分子の凝集体として存在させてもよい。
この場合用いるフラーレン類及びフラーレン類と負極活物質との関係等は、
上記正極活物質で説明したものと同様にすればよい。
負極活物質表面にフラーレン類を存在させることにより、例えば、電池の初期効率を向上させることができるようになる。
負極に使用される集電体としては、電気化学的に溶出等の問題が生じず、電池の集電体として機能しうる各種のものを使用でき、通常は銅、ニッケル、ステンレス等の金属や合金が用いられる。好ましくは、銅を使用する。集電体の形状としては、例えば、板状やメッシュ状の形状を挙げることができる。集電体の厚みは、通常0.1μm以上、好ましくは1μm以上であり、また通常100μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。薄すぎると機械的強度が弱くなるが、厚すぎると電池が大きくなり、電池の中で占めるスペースが大きくなってしまい、電池のエネルギー密度が小さくなる。
リチウム二次電池に使用される電解液は、通常、支持電解質であるリチウム塩を非水系溶媒に溶解してなる。
非水系溶媒としては、比較的高誘電率の溶媒が好適に用いられる。具体的にはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの非環状カーボネート類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のグライム類、γ−ブチルラクトン等のラクトン類、スルフォラン等の硫黄化合物、アセトニトリル等のニトリル類等を挙げることができる。以上の非水系溶媒は、複数種を併用することができる。
なお、非水系溶媒は、粘度が1mPa・s以上であることが好ましい。
電解液に含有させる支持電解質であるリチウム塩としては、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiClO4、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、
LiHF2、LiSCN、LiSO3CF2等を挙げることができる。これらのうちでは特
にLiPF6及びLiClO4が好適である。これら支持電解質の電解液における含有量は、通常0.5〜2.5mol/lである。
また、電解液中には、必要に応じて、電池の性能向上のために各種の添加剤を添加することができる。
電解液は、正極と負極との内部、及び正極と負極との間に存在するが、正極と負極との間には、正極と負極との短絡防止のために、多孔質フィルムのような支持体(セパレータ)を存在させるのが好ましい。多孔質フィルムとしては、高分子樹脂からなるフィルムや、粉体とバインダーからなる薄膜が好ましく使用でき、より好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質膜である。
正極、負極、及び電解液を有する電池要素はケースに収納される。電池要素としては、例えば、正極と負極とを電解質層を介して積層した積層体を巻回した形態、正極と負極と電解質層を介して平板状に積層した形態、又は前記平板状に積層した電池要素を複数個用意してさらに積層した形態を挙げることができる。
電池要素を収納するケースは、通常、コインセル、乾電池用の金属缶、及び形状可変性を有するケースを挙げることができる。本発明においては、上記いずれのケースを用いても良い。但し、フロート充電時の安全性等を考慮すると、形状可変性を有するケースを用いると本発明の効果が著しく発揮されるようになる。形状可変性ケースを用いた場合は、フロート充電時の正極表面、負極表面での電解液の電気分解により生ずるガスによる電池内部圧力の上昇により、電池内部圧力の上昇により電池が膨れる(電池形状が変形する)だけでなく、形状可変性ケースがリークを起こすことにより電解液が漏液する場合があり
、人体にも危険である。従って、形状可変性ケースを用いる場合にフロート充電時のガス発生を抑制し、リチウム二次電池の安全性を確保することは重要となる。
形状可変性有するケースとは、可撓性を有するケースを意味する。具体的には、柔軟性、屈曲性等を有するケースを意味する。より具体的には、人間の手で柔軟に曲げることができ、平板状のケースをL字型やS字型等の形状に容易に変更できるようなケースを意味する。
形状可変性ケースの材料としては、アルミニウム、ニッケルメッキした鉄、銅等の膜厚の薄い金属、合成樹脂等を用いることができる。好ましくは、ガスバリア層と樹脂層とが設けられたラミネートフィルム、特に、ガスバリア層の両面に樹脂層が設けられたラミネートフィルムである。このようなラミネートフィルムは、高いガスバリア性を有すると共に、高い形状可変性と薄さを有する。その結果、外装材の薄膜化・軽量化が可能となり、電池全体としての容量を向上させることができる。
ラミネートフィルムに使用するガスバリア層の材料としては、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、チタン、モリブデン、金等の金属やステンレスやハステロイ等の合金、酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の金属酸化物を使用することができる。好ましくは、軽量で加工性に優れるアルミニウムである。
樹脂層に使用する樹脂としては、熱可塑性プラスチック、熱可塑性エラストマー類、熱硬化性樹脂、プラスチックアロイ等各種の合成樹脂を使うことができる。これらの樹脂にはフィラー等の充填材が混合されているものも含んでいる。
形状可変性ケースの厚さは、通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上であり、通常1mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下、最も好ましくは0.15mm以下とする。薄いほど電池がより小型・軽量化できるが、あまりに薄いと、高温保存時のケースの内部圧力の上昇により破裂する危険性が大きくなるだけでなく、十分な剛性の付与ができなくなったり密閉性が低下する可能性もある。
リチウム二次電池が電源として使用される電気機器としては、例えば、携帯用パーソナルコンピュータ、ペン入力パーソナルコンピュータ、モバイルパーソナルコンピュータ、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)等を挙げることができる。これら電気機器の中でも、リチウム二次電池をバックアップ電源として用いるものが好ましい。バックアップ電源においては、リチウム二次電池がフロート充電される可能性が高く、本発明の効果が有効に発揮されるようになる。上記した電気機器のうち、バックアップ電源としてリチウム二次電池を用いるものは、モバイルパーソナルコンピュータ、ページャー、ハンディーターミナル、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、電気シェーバー、ラジオ、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)等を挙げることができる。
また、本発明のリチウム二次電池を、電気自動車用途等の大型電源として用いることもできる。大型電源は電池容量が大きくなる分、用いる正極活物質量も増えるため、正極活物質表面にフラーレン類を存在させることによって充電状態における安全性を確保する意義がより一層高くなる。
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
[正極電極の作製]
正極活物質として、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を90重量部、ポリ
フッ化ビニリデン5重量部、アセチレンブラック5重量部、及びN−メチル−2−ピロリドン(三菱化学株式会社製)80重量部を混練し、正極塗料とした。
この塗料をアルミニウム箔(厚み 20μm)上にドクターブレード(ブレードコーター)にて塗布、乾燥させ、100kN/mの線圧にてロールプレス処理し、正極を得た。ついで所定のサイズ(有効正極面積51.5mm×31.7mm)に裁断し平板状の正極1とした。このようにして得られた正極1の電極材料層の膜厚は59.7μmであった。[正極活物質表面の処理]
2次粒子の粒径が100nm〜200μmのフラーレンC60をオルソキシレン中に5mg/mlの濃度で溶解させ、この溶液0.1ccを正極1上に均一に塗布し含浸させた。溶媒を乾燥させた後、150℃にて30分加熱乾燥させて、正極活物質表面がフラーレンで処理された正極を得た。C60の処理量は正極活物質に対して0.27重量%であった。[負極電極の作製]
負極活物質として、黒鉛材料1(商品名:MPG、三菱化学(株)社製)と黒鉛材料2(商品名:MCMB6−28、大阪ガス化学(株)社製)とを用い、黒鉛材料1:黒鉛材料2=5:1(重量比)の割合で用いた。この負極活物質を90重量部、ポリフッ化ビニリデン10重量部、及びN−メチル−2−ピロリドン150重量部を混練し、負極塗料とした。
この塗料を銅箔(厚み 10μm)上にドクターブレード(ブレードコーター)にて塗布、乾燥させ、100kN/mの線圧にてロールプレス処理し、負極を得た。ついで所定のサイズに裁断し、負極とした。このようにして得られた負極の電極材料層の膜厚は62.5μmであった。
[電池の作製]
上記正極及び負極に電流取り出し用の端子を取り付けた後、膜厚16μmのポリエチレン製セパレータを介して積層して、ラミネートフィルムからなるケースに封入した。ケースを密封する前に電解液を注液した。電解液は、非水系溶媒としてエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を1:1の割合(体積%)で用い、この非水系溶媒にリチウム塩としてLiPF6を1mol/l含有させることにより得た。
(実施例2)
正極1上に塗布するC60溶液量を0.2ccとし、C60の処理量を正極活物質に対して0.64重量%とした以外は実施例1と同様にして電池を作製した。
(実施例3)
正極1上に塗布するフラーレンをC70変更した以外は実施例1と同様にして電池を作製した。C70の処理量は正極活物質に対して0.29重量%であった。尚、用いたC70の2次粒子の粒径は100nm〜200μmであった。
(実施例4)
正極1上に塗布するフラーレンをC70変更した以外は実施例2と同様にして電池を作製した。C70の処理量は正極活物質に対して0.59重量%であった。
(比較例1)
実施例1において、正極活物質表面をフラーレンC60で処理しなかったこと以外は実施例1と同様に電池を作製し電池特性を評価した。
(実施例5)
電解液に使用する非水系溶媒として、エチレンカーボネート(EC)及びプロピレンカーボネート(PC)を1:1の割合(体積%)混合した溶媒を使用した以外は実施例1と同様にして電池を作製した。C60の処理量は正極活物質に対して0.26重量%であった。
(実施例6)
正極1上に塗布するC60溶液量を0.6ccとし、C60の処理量を正極活物質に対して1.52重量%とした以外は実施例5と同様にして電池を作製した。
(比較例2)
実施例5において、正極活物質表面をフラーレンC60で処理しなかったこと以外は実施例5と同様に電池を作製し電池特性を評価した。
[試験例]
実施例1〜6及び比較例1、2で得られた電池の電池特性を評価した。
電池特性のうち、初期特性は、上記二次電池の1回目の充電容量、1回目の放電容量を測定することによって評価した。ここで、容量は、正極活物質重量あたりの電流容量を求めた。充電条件は、0.5Cの電流値で4.2Vまで定電流充電した後、電流値が0.1Cに低下するまで定電圧充電した。放電条件は0.2Cで3.0Vまで定電流放電した。
フロート充電は、60℃の加速条件下で4.2Vの定電圧充電を電流終止条件なしの状態で1週間充電し続けることによって行った。その後常温に戻して0.2Cで3.0Vまで定電流放電することにより残存容量を測定して劣化度を評価した。ガス発生量は、比重測定を試験の前後に行うことにより、電池体積の差から算出した。自己放電試験は、1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電した後、電流値が0.1Cに低下するまで定電圧充電した電池を25℃で120時間静置し、保存前後におけるインピーダンスを測定することによって評価した。
上記のようにして測定した1回目の充電容量、1回目の放電容量、及びフロート充電後の残存放電容量、フロート充電中に発生したガス量、自己放電試験前後のインピーダンスおよびインピーダンスの増加率を表−1に示す。
Figure 2004172109
表−1より、フラ−レン(C60、C70)で正極活物質表面を処理することにより、フロート充電後の残存放電容量が増加し、電池、ひいては正極の劣化が抑制されていることがわかる。また、ガス発生量は減少しており正極活物質表面における電解液の分解等の副反応が抑制されていることもわかる。これは電解液が鎖状のカーボネート(ジメチルカーボネート:DMC)を含む系において特に効果が高い。フラーレンを正極活物質表面に存在させることにより、初期特性に対してはほとんど影響がなく処理により電池特性を損なうこともない。また、自己放電試験の結果より、フラーレンを正極活物質表面に存在させることによって、初期段階におけるインピーダンスは若干高くなるものの、自己放電前後の
抵抗の増加率は抑制される傾向にある。これは電解液の分解等による抵抗増加が減少したことによると推定され、充電状態においてより電池が安定化していることを意味する。
実施例1乃至4及び実施例5と6の比較から、正極活物質表面を被覆できる程度の微量のフラーレン量があればガス発生抑止に対しては十分な効果があり、特性上のマイナス因子はないことがわかる。これは、必要以上のフラーレン量を用いる必要がないことを意味する。未だフラーレンは高コストであるが、本発明では用いるフラーレン量を少なくすることができるので、正極材料のコストアップを有効に抑制しつつリチウム二次電池の安全性を大きく高めることができる。
(実施例7)
[正極活物質表面の処理]
ビフェニリル基を置換基として導入したフラーレンC60誘導体(ビフェニルフラーレン、ビフェニリル基導入数5、水素基導入数1)をTMB中に10mg/mlの濃度で溶解させ、溶解した上澄みを分取した。不溶分の測定から溶液の濃度は1.5mg/mLであった。この溶液0.1ccを正極1上に均一に塗布し含浸させた。溶媒を乾燥させた後、150℃にて30分加熱乾燥させて、正極活物質表面がフラーレンで処理された正極を得た。フラーレンC60誘導体の処理量は正極活物質に対して0.3重量%であった。
電解液は、非水系溶媒としてエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を1:1の割合(体積%)で用い、この非水系溶媒にリチウム塩としてLiPF6を1mol/l含有させたものを用いた。この電解液100部にフェニルエーテルを
5部加えることにより得た。
それ以外は実施例1と同様にして電池を作製した。
(実施例8)
電解液を、電解液100部にフェニルエーテルを8部加えた以外は実施例7と同様にして電池を作製した。
(比較例3)
実施例7において、正極活物質表面をフラーレンC60誘導体で処理しなかったこと以外は実施例7と同様に電池を作製し電池特性を評価した。
(比較例4)
実施例8において、正極活物質表面をフラーレンC60誘導体で処理しなかったこと以外は実施例8と同様に電池を作製し電池特性を評価した。
[試験例]
実施例7〜8及び比較例3、4で得られた電池の電池特性を評価した。
電池特性のうち、初期特性は、上記二次電池の1回目の放電容量を測定することによって評価した。ここで、容量は、正極活物質重量あたりの電流容量を求めた。充電条件は、0.5Cの電流値で4.2Vまで定電流充電した後、電流値が0.1Cに低下するまで定電圧充電した(この時に測定される充電容量を正常充電容量とする。)。放電条件は0.2Cで3.0Vまで定電流放電した。
過充電試験は、0.2Cで3.0Vまで定電流放電した電池を、1Cの電流量で4.95Vの定電圧充電をおこなうことにより評価した。
上記のようにして測定した1回目の放電容量、過充電試験で4.95Vに到達した時間、4.95Vに到達した時点における過充電度、を表−2に示す。
過充電度は、正極活物質の理論容量(274mAh/g)と正常充電容量との差(過充電され得る容量)に対して、正常充電容量を超えて充電された容量の割合である。過充電度は、過充電の進行の深さを示し、値が大きいほど正極活物質の不安定性が高くなる。リチウム二次電池は過充電が進行する程正極活物質の不安定性が増大することから、過充電度を低くすれば電池がより安全であるといえる。
Figure 2004172109
表−2より、フラーレンC60誘導体で正極活物質表面を処理することにより、いずれの電解液においても、充電の早い段階で電池電圧が所定電圧に到達することがわかる。これは、リチウム二次電池が相対的に安全な段階で保護回路を作動させ異常充電を停止させられることを意味する。
(実施例9)
[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]
基材として、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2、BET表面積0.45m2/g、平均粒径5μm)を30g、100ccのビーカーに秤量し、これにフラーレンC60
の1,2−ジメチルベンゼン溶液(濃度5mg/mL)を30mL加え、良く撹拌しペースト状の混合物を得た。これを90℃のオーブン中において窒素気流中3時間乾燥させ溶媒を除去して粉体を得た。リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合は0.50wt%である。
[正極電極の作製]
正極活物質として、上述の表面処理リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を9
0重量部、ポリフッ化ビニリデン5重量部、アセチレンブラック5重量部、及びジメチルホルムアミド(東京化成工業株式会社製)80重量部を混練し、正極塗料とした。
この塗料をアルミニウム箔(厚み 20μm)上にドクターブレード(ブレードコーター)にて塗布、乾燥させ、100kN/mの線圧にてロールプレス処理し、正極を得た。ついで所定のサイズ(有効正極面積51.5mm×31.7mm)に裁断し平板状の正極1’とした。
[負極電極の作製]
負極活物質として、黒鉛材料1(商品名:MPG、三菱化学(株)社製)と黒鉛材料2(商品名:MCMB6−28、大阪ガス化学(株)社製)とを用い、黒鉛材料1:黒鉛材料2=5:1(重量比)の割合で用いた。この負極活物質を90重量部、ポリフッ化ビニリデン10重量部、及びN−メチル−2−ピロリドン150重量部を混練し、負極塗料とした。
この塗料を銅箔(厚み 10μm)上にドクターブレード(ブレードコーター)にて塗布、乾燥させ、100kN/mの線圧にてロールプレス処理し、負極を得た。ついで所定のサイズに裁断し、負極とした。このようにして得られた負極の電極材料層の膜厚は62.5μmであった。
[電池の作製]
上記正極及び負極に電流取り出し用の端子を取り付けた後、膜厚16μmのポリエチレン製セパレータを介して積層して、ラミネートフィルムからなるケースに封入した。ケースを密封する前に電解液を注液した。電解液は、非水系溶媒としてエチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)を1:1の割合(体積%)で用い、この非水系溶媒にリチウム塩としてLiPF6を1mol/l含有させることにより得た。
(実施例10)
1,2−ジメチルベンゼン溶液(濃度5mg/mL)を15mLとし、C60の処理量を正極活物質に対して0.25重量%とした以外は実施例9と同様にして電池を作製した。(比較例5)
実施例9において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]において、正極活物質90部を正極活物質表面をフラーレンC60で処理しないリチウムコバルト複合酸化物89.55部に変更したこと、さらにこのリチウムコバルト複合酸化物にフラーレンC600.45部を混合したこと、以外は実施例9と同様に電池を作製した。この比較例は、リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合が0.50wt%であり、実施例9においてフラーレンを活物質表面に存在させず単に混合したことに対応する。
(比較例6)
実施例9において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]において、正極活物質90部を、正極活物質表面をフラーレンC60で処理しないリチウムコバルト複合酸化物85.5部に変更したこと、さらにこのリチウムコバルト複合酸化物にフラーレンC604.5部を混合したこと、以外は実施例9と同様に電池を作製した。この比較例は、リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合が5.0wt%であり、実施例9においてフラーレンを活物質表面に存在させず単に混合したことに対応する。
(比較例7)
実施例9において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてアセチレンブラック5重量部をフラーレンC605重量部に置き換えたこと、以外は実施例9と同様に電池を作製した。
[試験例]
実施例9〜10及び比較例5〜7で得られた電池の電池特性を評価した。
電池特性のうち、放電容量は、上記二次電池の1回目の放電容量を測定することによって評価した。ここで、容量は、正極活物質重量あたりの電流容量を求めた。充電条件は、0.5Cの電流値で4.2Vまで定電流充電した後、電流値が0.1Cに低下するまで定電圧充電した。放電条件は0.2Cで3.0Vまで定電流放電した。2C容量は同一条件で充電した後、2Cで3.0Vまで定電流放電した容量を評価した。フロート充電は、60℃の加速条件下で4.2Vの定電圧充電を電流終止条件なしの状態で1週間充電し続けることによって行った。その後常温に戻して0.2Cで3.0Vまで定電流放電することにより、残存容量を測定して劣化度を評価した。ガス発生量は、比重測定を試験の前後に行うことにより、電池体積の差から算出した。自己放電試験は、1Cの電流値で4.2Vまで定電流充電した後、電流値が0.1Cに低下するまで定電圧充電した電池を25℃で120時間静置し、保存前後におけるインピーダンスを測定することによって評価した。
上記のようにして測定した1回目の充電容量、1回目の放電容量、及びフロート充電後の残存放電容量、フロート充電中に発生したガス量、自己放電試験前後のインピーダンスおよびインピーダンスの増加率を表−3に示す。
Figure 2004172109
表中、処理(添加)量は、正極活物質に対するフラーレンの重量%を示している。なお比較例7においては、導電材であるアセチレンブラックを置き換えてフラーレンを配合しているため、正極活物質に対する処理量としての添加量は記載していない。
容量は、比較例7以外は、正極活物質とフラーレンの重量を加えたものを正極活物質の重量として算出した。これは、フラーレンで表面処理を行った正極活物質は、その実使用上において、表面処理後の粉体の重量が活物質の重量と扱われるため、処理成分であるフラーレンの重量も含めることが適当であると考えたからである。
比較例7においてはフラーレンは導電材として使用されており、活物質とは関連しないため活物質単独の重量が基準となる。
表−3の実施例9、10より、フラ−レン(C60)で正極活物質表面を処理することにより、フロート充電後のガス発生量が減少することがわかる。つまり、フラ−レン(C60)で正極活物質表面を処理することにより、正極活物質表面における電解液の分解等の副反応が抑制されていることがわかる。
なお、フラ−レン(C60)を混合した場合にも、比較例5より一定の効果が得られることがわかるが、比較例6との比較により、十分な効果を得るためにはフラ−レン(C60)を大量に配合する必要がある。これはガス発生の反応が生じる正極活物質表面に対して、表面処理によれば少量のフラーレンが効率的に表面に存在するのに対し、混合では表面近傍に存在する確率が低くなるためと思われる。比較例7においてガス発生が少ないのは、2C容量が低いこと、自己放電前インピーダンスが非常に高いこと、及びフロート充電後の放電容量が低いこと、より示されるように、電池自体の特性が著しく悪く、フロート充電が正常になされていないためと考えられる。
インピーダンスは、フラーレンの処理量が多い場合やや高くなるが、インピーダンスの増加率は抑制され、自己放電試験後にはフラーレンで処理をおこなった正極活物質を用いたリチウム二次電池の方がインピーダンスの値が低くなる。これは、フラーレンが存在することによる電解液の分解等が抑制された結果と推定される。
上記結果から、リチウム二次電池が充電状態においてより安定化していることがわかる。フラーレンによる処理によってリチウム二次電池の初期特性はほとんど影響を受けることが無く、処理により電池特性を損なうこともない。
比較例6から、フラーレンを多量に配合することにより、リチウム二次電池の抵抗が増加し大電流での容量も低下していることがわかる。さらに自己放電時における抵抗の増加抑制効果も小さい。これらの結果から、フラーレンを正極活物質表面に存在させないと機能が十分に発現しないものと思われる。また、フラーレンを多量に含有させた場合には、電池全体での単位重量当たりの容量で考えると、活物質の割合が減じていることから電池の総容量は減少することになる。また、多量のフラーレンを必要とするため材料のコストも上昇する。
比較例7の比較から、導電材をフラーレンに置換した場合は、電極の導電性が低下することから、電池抵抗が著しく増加し、大電流での容量も低下している。これらの結果から、フラーレンは導電性が不十分であり、十分な電池特性の確保が難しいことがわかる。
(実施例11)
[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]
正極活物質として、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2、BET表面積0.4
5m2/g、平均粒径5μm)を2g、50ccのビーカーに秤量し、これにフラーレン
60の1,2−ジメチルベンゼン溶液(濃度5mg/mL)を0.4mLとトルエン0.6mL加え、これを良く撹拌しペースト状の混合物を得た。これを90℃のオーブン中において窒素気流中3時間乾燥させ溶媒を除去して処理粉体を得た。リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合は0.1wt%である。
[正極電極の作製]
正極活物質として、上述の表面処理リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を8
5重量部、ポリテトラフルオロエチレン5重量部、アセチレンブラック10重量部を乳鉢で混練し、正極合剤とした。
この合剤を薄く広げた状態で直径13mmに打ち抜き、アルミニウムメッシュ重ねて1kN/cm2の圧力にてプレス処理した。その後、110℃で30分加熱し正極を得た。
[コインセルの作製]
コインセルを作成する際、対極にはLi金属箔(厚さ0.5mm、φ14mm)、電解液、及びセパレータを用いた。尚、用いた電解液は以下の通りである。
電解液は、非水系溶媒として、エチレンカーボネート及びジメチルカーボネート(いずれも三菱化学(株)製)を1:1の割合(体積%)を用い、リチウム塩として、LiPF6を用いた。リチウム塩の濃度は、1mol/lとした。
(実施例12)
[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]
正極活物質として、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2、BET表面積0.4
5m2/g、平均粒径5μm)を2g、50ccのビーカーに秤量し、これにフラーレン
60の1,2−ジメチルベンゼン溶液(濃度5mg/mL)2mLを加え、良く撹拌しペースト状の混合物を得た。これを90℃のオーブン中において窒素気流中3時間乾燥させ溶媒を除去して処理粉体を得た。リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合は0.5wt%である。
正極電極の作製およびコインセルの作製は実施例11と同様にしてコインセルを作製した。
(実施例13)
実施例12においてフラーレンC60の1,2−ジメチルベンゼン溶液(濃度5mg/mL)を4mL加えた以外は実施例13と同様にして処理粉体およびコインセルを作製した。処理粉体のリチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合は1.0wt%である。
(実施例14)
実施例12においてフラーレンC60の1,2−ジメチルベンゼン溶液(濃度5mg/mL)を20mL加えた以外は実施例13と同様にして処理粉体およびコインセルを作製した。処理粉体のリチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合は4.8wt%である。
(実施例15)
実施例12においてフラーレンC60の1,2−ジメチルベンゼン溶液(濃度5mg/mL)を40mL加えた以外は実施例13と同様にして処理粉体およびコインセルを作製した。処理粉体のリチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合は9.1wt%である。
(比較例8)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]において、正極活物質85部を、正極活物質表面をフラーレンC60で処理しないリチウムコバルト複合酸化物84.915部に変更したこと、さらにこのリチウムコバルト複合酸化物にフラーレンC600.085部を混合したこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。この比較例は、リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合が0.10wt%であり、実施例11においてフラーレンを活物質表面に存在させず単に混合したことに対応する。
(比較例9)
実施例12において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]において、正極活物質85部を、正極活物質表面をフラーレンC60で処理しないリチウムコバルト複合酸化物84.58部に変更したこと、さらにこのリチウムコバルト複合酸化物にフラーレンC600.42部を混合したこと、以外は実施例12と同様に電池を作製した。この比較例は、リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合が0.50wt%であり、実施例12においてフラーレンを活物質表面に存在させず単に混合したことに対応する。
(比較例10)
実施例13において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]において、正極活物質85部を、正極活物質表面をフラーレンC60で処理しないリチウムコバルト複合酸化物84.16部に変更したこと、さらにこのリチウムコバルト複合酸化物にフラーレンC600.84部を混合したこと、以外は実施例12と同様に電池を作製した。この比較例は、リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合が1.0wt%であり、実施例13においてフラーレンを活物質表面に存在させず単に混合したことに対応する。
(比較例11)
実施例14において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]において、正極活物質85部を、正極活物質表面をフラーレンC60で処理しないリチウムコバルト複合酸化物80.95部に変更したこと、さらにこのリチウムコバルト複合酸化物にフラーレンC604.05部を混合したこと、以外は実施例12と同様に電池を作製した。この比較例は、リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合が4.8wt%であり、実施例14においてフラーレンを活物質表面に存在させず単に混合したことに対応する。
(比較例12)
実施例15において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]において、正極活物質85部を、正極活物質表面をフラーレンC60で処理しないリチウムコバルト複合酸化物77.3部に変更したこと、さらにこのリチウムコバルト複合酸化物にフラーレンC607.7部を混合したこと、以外は実施例12と同様に電池を作製した。この比較例は、リチウムコバルト複合酸化物に対するフラーレンの割合が9.1wt%であり、実施例15においてフラーレンを活物質表面に存在させず単に混合したことに対応する。
(比較例13)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略した以外は、実施例11と同様に電池を作製した。これは未処理のリチウムコバルト複合酸化物および、フラーレンが存在しない通常のコインセルである。
(比較例14)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を75重量部、ポリテトラフルオロエチレン10重量部、アセチレンブラック5重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。
(比較例15)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を75重量部、ポリテトラフルオロエチレン10重量部、フラーレンC605重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。これは比較例14においてフラーレンC60を導電材として使用したコインセルである。
(比較例16)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を75重量部、ポリテトラフルオロエチレン10重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。これは比較例14において導電材であるアセチレンブラックを除去したコインセルである。
(比較例17)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を90重量部、ポリテトラフルオロエチレン10重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。これは比較例14において導電材であるアセチレンブラックを除去した場合、除去に伴い粉体に対するポリテトラフルオロエチ
レンの相対的な分率が向上することによる電極構造の変化の影響を補償するために、除去したアセチレンブラックの体積分と同等に近い量のリチウムコバルト複合酸化物を添加したコインセルである。
(比較例18)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略した以外は、実施例11と同様に電池を作製した。これは未処理のリチウムコバルト複合酸化物および、フラーレンが存在しない通常のコインセルである。
(比較例19)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてアセチレンブラック10重量部をフラーレンC6010重量部に置き換えたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。これは未処理のリチウムコバルト複合酸化物を使用して、フラーレンC60を導電材として使用したコインセルである。
(比較例20)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を75重量部、ポリテトラフルオロエチレン10重量部、アセチレンブラック5重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。
(比較例21)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を75重量部、ポリテトラフルオロエチレン10重量部、フラーレンC605重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。これは比較例20においてフラーレンC60を導電材として使用したコインセルである。
(比較例22)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を75重量部、ポリテトラフルオロエチレン10重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。これは比較例20において導電材であるアセチレンブラックを除去したコインセルである。
(比較例23)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を90重量部、ポリテトラフルオロエチレン10重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。これは比較例20において導電材であるアセチレンブラックを除去した場合、除去に伴い粉体に対するポリテトラフルオロエチレンの相対的な分率が向上することによる電極構造の変化の影響を補償するために、除去したアセチレンブラックの体積分と同等に近い量のリチウムコバルト複合酸化物を添加したコインセルである。
(比較例24)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を75重量部、ポリテトラフルオロエチレン5重量部、アセチレンブラック20重量部を乳鉢で混練して正極合剤としたこと、以外は実施例11と同様に電池を作製した。
(比較例25)
実施例11において、[フラーレン類担持工程(フラーレン類による表面処理)]を省略したこと、[正極電極の作製]においてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2
を75重量部、ポリテトラフルオロエチレン5重量部、フラーレンC6020重量部を乳鉢で混練し、正極合剤とした以外は実施例11と同様に電池を作製した。これは比較例24においてフラーレンC60を導電材として使用したコインセルである。
[試験例]
実施例11〜15及び比較例8〜25で得られた粉体のXPS測定、およびコインセルの電池特性を評価した。
[X線光電子分光測定の測定条件]
金属板に両面テープを貼付け、その上に評価サンプル(フラーレン類を表面に存在させた正極活物質、又はフラーレン類を単に混合した正極活物質)をテープが見えない厚みにふりかけ、表面が平滑になるよう圧着したものをホルダーに固定した。
測定のための光源には単色化Al−Kα線(16kV、30W)を用いて、下記条件にて測定をおこなった。なお、測定の際、帯電補正のために電子中和銃を使用した。
PassEnergy:23.5eV
測定面積:0.5mm角
取出角:45度
測定光電子は、コバルト原子の3p軌道及び2p軌道である。なお2p軌道については、スピン軌道相互作用により分裂しているため、3/2準位の方を使用した。
X線光電子分光測定の測定装置としては、PHI社製のPHI−Quantum2000を用いた。3p軌道のピーク面積と2p軌道のピーク面積の評価は装置側で提供されるベースラインフィッティング解析、ピークフィッティング解析、各元素に対する相対感度補正係数を用い、表面元素比率に変換した値を使用した。
具体的には、得られたコバルト原子の3p軌道の測定ピーク、コバルト原子の2p軌道の測定ピーク、及び評価サンプル(フラーレン類を表面に存在させた正極活物質又は未処理の正極活物質)の各測定元素の測定ピークにつき、それぞれ始点と終点とを決めて、シャーリー法で始点と終点とを結んだ。そして、始点と終点とを結んだ線とピークとに囲まれる面積を、コバルト原子の3p軌道、コバルト原子の2p軌道、及び各測定元素ごとに求め、これを各測定元素のピーク面積とした。
次に、測定元素各々に決められた相対感度補正係数を用い、コバルト原子の3p軌道の測定ピーク、コバルト原子の2p軌道の測定ピーク、及び評価サンプル(フラーレン類を表面に存在させた正極活物質又は未処理の正極活物質)の各測定元素の測定ピークにつき、それぞれのピーク面積を対応する相対感度補正係で除して、コバルト原子の3p軌道の測定ピーク、コバルト原子の2p軌道の測定ピーク、及び評価サンプル(フラーレン類を表面に存在させた正極活物質又は未処理の正極活物質)の各測定元素の測定ピークそれぞれの補正後ピーク面積を求めた。尚、測定に用いたXPS測定装置(PHI社製のPHI−Quantum2000)における、各測定元素の相対感度補正係数は、以下の通りである。
Co2p(3/2) : 2.113
Co3p : 0.486
Li1s : 0.028
C1s : 0.314
O1s : 0.733
最後に、下記式で表されるCo2pの表面元素比率及びCo3pの表面元素比率を求めた。
(Co2pの表面元素比率)=(Co原子の2p軌道の補正後ピーク面積)/{(Co原子の2p軌道の補正後ピーク面積)+(リチウム原子の1s軌道の補正後ピーク面積)+(炭素原子の1s軌道の補正後ピーク面積)+(酸素原子の1s軌道の補正後ピーク面積)}
(Co3pの表面元素比率)=(Co原子の3p軌道の補正後ピーク面積)/{(Co原子の3p軌道の補正後ピーク面積)+(リチウム原子の1s軌道の補正後ピーク面積)+
(炭素原子の1s軌道の補正後ピーク面積)+(酸素原子の1s軌道の補正後ピーク面積)}
電池特性のうち、実施例11〜15及び比較例8〜25においては、電池容量は、上記二次電池の1回目の充電および放電容量を測定することによって評価した。ここで、容量は、正極活物質重量あたりの電流容量を求めた。充電条件は、0.1Cの電流値で4.4Vまで定電流充電した後、4.4Vの定電圧充電を電流値が0.01Cに低下するまでおこなった。放電条件は0.1Cで2.7Vまで定電流放電した。そして、(1回目の放電容量)/(1回目の充電容量)で表される初期効率を算出した。サイクル特性は、1Cの電流値で4.5Vまで定電流充電した後、4.5Vの定電圧充電を電流値が0.025Cに低下するまでおこない、ついで1Cの電流値で2.7Vまで定電流放電するサイクルを10回繰り返した後に、1サイクル目と10サイクル目の放電容量の維持率で評価した。比較例18〜25においては、高電圧による電池の劣化を防止するため、電池容量を、1回目の充電の電圧を4.3V、放電の電圧を3.2Vに変更して評価した。
上記のようにして測定したXPS測定による表面元素比率、1回目の充電容量、1回目の放電容量、初期効率、及びサイクル特性を表−4に示す。
Figure 2004172109
表中、処理(添加)量は、正極活物質に対するフラーレンの重量%を示している。なお比較例15、19、21、25においては、導電材であるアセチレンブラックを置き換えてフラーレンを配合しているため、正極活物質に対する処理量としての添加量は記載していない。
容量は、実施例11−15、比較例8−13においては正極活物質とフラーレンの重量を加えたものを正極活物質の重量として算出した。これは、フラーレンで表面処理を行った正極活物質は、その実使用上において、表面処理後の粉体の重量が活物質の重量と扱われるため、処理成分であるフラーレンの重量も含めることが適当であると考えたからであ
る。(ただし比較例13においては、処理量0%のため正極活物質重量がそのまま使用される。)
比較例14−25においてはフラーレンは使用されていないか、導電材として使用されており、活物質とは関連しないため活物質単独の重量が容量の基準となる。
実施例11−15、比較例8−13の結果から、フラ−レン(C60)を表面処理、混合いずれかの形態で正極活物質に添加することにより、Co原子の表面存在比率が低下していくことがわかる。これは粉体中における炭素量が増加するためである。
一方で、フラ−レン(C60)で正極活物質表面を処理した実施例におけるCo原子の表面存在比率の低下は、比較例、さらにはフラ−レン(C60)の配合量から想定される分より遙かに大きい。これは実施例においては、フラーレンが表面に薄い皮膜として存在するため、表面から5nm程度を測定するXPSにおいてはCo原子が効果的に遮蔽され、検出されるピーク面積が、配合比の低下分を上回って減少するためと思われる。
また比較例8−13の未処理サンプル及び混合サンプルでは、Co3p/Co2pの比率は、フラーレンの処理(添加)量と相関関係がなく、ばらつきがある。これらサンプルにおいては、Co3p/Co2pの値は1.0の前後である。これに対し、実施例11−15では1.01を上回っている。これは表面に薄い皮膜として存在するフラーレンのため、Co2p軌道からの光電子がより大きな減衰を受け、強度が低下したものと思われる。
実施例11−15及び比較例8−13の電池特性の測定結果より、未処理の正極活物質(比較例13)に対して、フラーレンで正極活物質表面を処理すること(実施例11−15)によるデメリットは、フラーレンの処理量が高くなると電池容量が若干減少すること以外は見られない。
比較例14−17の電池特性の測定結果を比較することにより、フラーレンを導電材として使用した比較例15においては、電池特性が低下することがわかる。具体的には、比較例15の電池は、正極活物質とポリテトラフルオロエチレンのみで電極形成した比較例16、17の電池よりも特性が低い。このことより、比較例15において、電池特性が低いながらも電池として作動している(充電容量、放電容量を有している。)のは、フラーレンに一定の導電材としての機能があるわけではなく、正極活物質のみでも電池として作動するためであると思われる。比較例15の電池が、比較例16、17の電池よりも電池特性が低くなっていることから、電極中におけるフラーレン粉末の存在が正極活物質の接触による導電パス形成を阻害し、電池特性を低下させている可能性が示唆される。
比較例18−25の電池特性の測定結果より、充放電時の電圧を低下させて電池に負荷が加わらないように評価を行っても、上記傾向に変化がないことがわかる。特にフラーレンの配合比が高くなる比較例19、比較例25のリチウム二次電池では特性が低下する。これはフラーレンを増やせば導電性が確保できるのではなく、むしろ多量に存在するフラーレン粒子が活物質相互および活物質と集電体の電気的接触を阻害して抵抗を増加させるためと想定される。アセチレンブラックを導電材とした比較例(比較例18、20、24、比較例8−14)、及び、アセチレンブラックを導電材として使用し、活物質をフラーレンにより表面処理した実施例では特に問題はない。
本発明によれば、リチウム二次電池の正極活物質の表面にフラーレン類を存在させることにより、リチウム二次電池の安全性を向上させ、満充電時での抵抗上昇を抑制することができるようになる。
具体的には、正極活物質表面にフラーレン類を存在させることによりリチウム二次電池の安全性を向上させ、満充電時での抵抗上昇を抑制することができるようになる。
その上、本発明によれば、工業的に製造しやすいリチウム二次電池用正極材料を得ることができる利点をも有するものである。
バックアップ電源及び負荷と、電源との関係を示す模式図である。 60の(6−6)結合を示す図である。

Claims (9)

  1. 正極活物質を含有するリチウム二次電池用正極材料に用いる添加剤であって、前記添加剤がフラーレン類であることを特徴とするリチウム二次電池用正極材料の添加剤。
  2. 前記添加剤を前記正極活物質表面に存在させる請求項1に記載のリチウム二次電池用正極材料の添加剤。
  3. 前記フラーレン類が、C60、C70、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン化フラーレン、スルホン化フラーレン、及びビフェニルフラーレンからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極材料の添加剤。
  4. 正極活物質及びフラーレン類を含有するリチウム二次電池用正極材料であって、前記正極活物質表面に前記フラーレン類が存在することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料。
  5. 前記フラーレン類が、C60、C70、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、ハロゲン化フラーレン、スルホン化フラーレン、及びビフェニルフラーレンからなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項4に記載のリチウム二次電池用正極材料。
  6. 正極活物質が、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、及びリチウムマンガン複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1つのリチウム遷移金属複合酸化物である請求項4又は5に記載のリチウム二次電池用正極材料。
  7. 前記リチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極材料をX線光電子分光法(X−ray photo−electron spectroscopy)測定した場合に、
    前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属の2p軌道におけるピーク面積を相対感度補正係数で補正した補正後ピーク面積をA2pとし、
    前記リチウム遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属の3p軌道におけるピーク面積を相対感度補正係数で補正した補正後ピーク面積をA3pとしたときに、
    A2pとA3pとの比が、下記数式(d)で表される請求項6に記載のリチウム二次電池用正極材料。
    1.01≦A3p/A2p≦1.6・・・(d)
  8. 請求項4乃至7のいずれかに記載のリチウム二次電池用正極材料を用いることを特徴とするリチウム二次電池用の正極。
  9. 請求項8に記載の正極を用いることを特徴とするリチウム二次電池。
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