JP2004161946A - グラフト共重合体組成物、それを含有する熱可塑性樹脂組成物及びそれらの成形体 - Google Patents
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Abstract
【課題】グラフト共重合体と滑剤との相互作用に優れ、得られる成形体の外観を良好に維持でき、耐傷つき性及び耐摩耗性が良好で、かつ成形性及び耐屈曲性にも優れるグラフト共重合体組成物、それを含む熱可塑性樹脂組成物及びそれらの成形体を提供する。
【解決手段】グラフト共重合体組成物は、多相構造型のグラフト共重合体を主成分とし、滑剤として脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体を含有するものである。グラフト共重合体は、オレフィン系重合体セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)とからなり、一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子となった分散相を形成しているものである。ビニル系重合体セグメント(b)は、極性を有するビニル系単量体から形成される。
【選択図】 なし
【解決手段】グラフト共重合体組成物は、多相構造型のグラフト共重合体を主成分とし、滑剤として脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体を含有するものである。グラフト共重合体は、オレフィン系重合体セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)とからなり、一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子となった分散相を形成しているものである。ビニル系重合体セグメント(b)は、極性を有するビニル系単量体から形成される。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、滑剤の表面移行性を調整することができて外観を良好に維持でき、成形性が良く、機械的物性に優れたグラフト共重合体組成物、それを含む熱可塑性樹脂組成物及びそれらの成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂の中でも、特にオレフィン系樹脂は、軽量でリサイクルが容易であり、コストパフォーマンスが高いことや、燃焼時に発生するガスに問題が生じないことなどから、近年多く使用されてきている。
【0003】
しかしながら、オレフィン系樹脂としてのポリプロピレン、ポリエチレンやオレフィン系エラストマーからなる成形体は、塩化ビニル樹脂を原料とする成形体と比較して、耐傷つき性及び耐摩耗性が劣るという欠点があるため、その改良が強く望まれており、いくつかの改善提案がなされている。
【0004】
例えば自動車部品として、ドアガラスと接してシール機能を持つモールやグラスランチャンネルなどに使用されるオレフィン系エラストマーは、ガラスの昇降がスムーズになされるように、ナイロンフィルム等をその表面に接着剤により貼り合わせて抵抗を小さくしたり、摩耗を少なくして使用されている。ところが、オレフィン系の熱可塑性エラストマーとナイロンフィルムとの接着力が十分とはいえず、特に高温高湿の雰囲気や溶剤噴霧等の環境下では、基材層と表皮の間で剥離を生じやすいという欠点があった。
【0005】
そこで、オルガノシロキサンと高級脂肪酸アミドをオレフィン系エラストマーに添加して得られるグラスランチャンネルが提案されている(特許文献1参照)。
その場合、フィルムを貼り合わせる必要がなくなり、剥離の問題については解消された。ところが、特に高温高湿の雰囲気下においては高級脂肪酸アミドが気化し、ガラス等に曇りを生じやすく、外観不良も発生しやすかった。これは部材の摺動性を長期にわたり維持する目的から、高級脂肪酸アミドが過剰に部材表面にも存在する状態になっており、気化しやすい状態になっていたためである。
【0006】
また、微粒子パウダーとアルキル変性オルガノシロキサンをオレフィン系エラストマーに添加することで、摩耗性を備えたドアガラスウエザーストリップが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、実用的な効果を得るためにはこれらの成分が多量に必要であり、また基材のオレフィン系エラストマーとこれらの添加剤との相溶性が低いため、成形部材が屈曲した場合に白化するという不具合があった。
【0007】
さらに、ポリプロピレン樹脂においても、ポリプロピレン樹脂に特定の造核剤及び滑剤を添加した、耐摩耗性に優れるポリプロピレン樹脂組成物が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、ポリプロピレンの結晶性により、滑剤の効果が長期にわたって持続されないという問題が生じている。
【0008】
近年、オレフィン系樹脂の成形体の形状が複雑になってきていることに加え、コストの面からも成形サイクルの短縮などが求められており、成形圧力の損失を低下できるような、流動性が良好で成形性に優れた材料が求められている。
【0009】
そのような要求を満たすために、本願出願人は熱可塑性樹脂、多相構造を有するグラフト共重合体及び潤滑剤よりなる熱可塑性樹脂組成物を提案した(特許文献4を参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開2000−26668号公報(第2〜3頁)
【特許文献2】
特開2000−327848号公報(第3頁)
【特許文献3】
特開平10−53673号公報(第2〜3頁)
【特許文献4】
特開2001−181472号公報(第1頁、第7頁)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記従来のグラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物は、潤滑剤の極性が低く、また潤滑剤とグラフト共重合体との相互作用が考慮されていないことから、潤滑剤が表面に移行し過ぎる場合や移行しにくい場合があった。
さらに、潤滑剤とグラフト共重合体との相溶性が不十分な場合があった。このため、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の外観を損なったり、耐傷つき性及び耐摩耗性が低下したり、さらに成形性及び耐屈曲性が悪化したりするという問題があった。
【0012】
本発明は上記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、グラフト共重合体と滑剤との相互作用に優れ、得られる成形体の外観を良好に維持でき、耐傷つき性及び耐摩耗性が良好で、かつ成形性及び耐屈曲性にも優れるグラフト共重合体組成物、それを含む熱可塑性樹脂組成物及びそれらの成形体を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を達成するために、第1の発明のグラフト共重合体組成物は、オレフィン系重合体セグメント(a)と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体から形成されるビニル系重合体セグメント(b)とからなり、一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成している多相構造型のグラフト共重合体を主成分とし、滑剤として脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体を含有することを特徴とするものである。
【0014】
第2の発明のグラフト共重合体組成物は、第1の発明において、前記グラフト共重合体が、オレフィン系重合体を水中に懸濁させ、そこへ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤からなる溶液を加え、ビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤をオレフィン系重合体粒子中に含浸させ、オレフィン系重合体粒子中でビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とを共重合した後、溶融、混合することにより得られるものである。
【0015】
第3の発明の熱可塑性樹脂組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂を主成分とし、第1又は第2の発明のグラフト共重合体組成物を含有することを特徴とするものである。
【0016】
第4の発明の成形体は、第1又は第2の発明のグラフト共重合体組成物を成形して得られるものである。
第5の発明の成形体は、第3の発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のグラフト共重合体組成物は、グラフト共重合体を主成分とし、滑剤を含有するものであり、グラフト共重合体と滑剤との親和性と反親和性に基づく相互作用により滑剤の表面移行性が調整され得る組成物である。本明細書では、この滑剤の表面移行性の調整をリリースコントロールとも称する。グラフト共重合体はオレフィン系重合体セグメント(a)と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種のビニル系単量体から形成されるビニル系重合体セグメント(b)とからなる。そして、一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成している多相構造型を有している。
【0018】
オレフィン系重合体セグメント(a)は、オレフィン系重合体、すなわちオレフィン系単独重合体又は共重合体から形成されるセグメントである。オレフィン系重合体セグメント(a)を形成する原料としてのオレフィン系重合体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンと炭素数が3以上のα−オレフィンとの共重合体、α−オレフィン単量体とビニル単量体との共重合体、エチレン系共重合ゴム、ジエン系ゴム又はポリイソブチレンゴム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
炭素数が3以上のα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0020】
また、エチレン系共重合ゴムの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、エチレン−オクテン共重合ゴム等が挙げられる。
【0021】
オレフィン系重合体セグメント(a)の原料となるオレフィン系重合体の極限粘度[η](デカリン中、135℃で測定)は、生産性の点から0.1〜40dl/gの範囲が望ましく、0.2〜32dl/gの範囲がさらに望ましい。
【0022】
次に、ビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル系単量体は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体である。なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。ビニル系単量体としてこれらの単量体が含まれることにより、グラフト共重合体を極性の高いものにすることができ、滑剤との親和性に基づく相互作用を強めることができる。
【0023】
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸である。(メタ)アクリル酸グリシジルは、アクリル酸グリシジルとメタクリル酸グリシジルである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸と炭素数1〜20のアルキルアルコールとから形成されるアクリル酸エステル、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル等が挙げられる。また、メタクリル酸と炭素数1〜20のアルキルアルコールとから形成されるメタクリル酸エステル、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。ヒドロキシル基を有するビニル単量体としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、クロトン酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。これらの中でも、滑剤との相互作用が大きく、滑剤の表面移行性を調整しやすい点から、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピルが好ましい。
【0024】
ビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル系単量体には、前記の極性を有する単量体に非極性又は弱極性のビニル単量体が含まれていることが望ましい。極性を有する単量体と非極性又は弱極性のビニル単量体とを併用することにより、親和性と反親和性に基づく相互作用を加減することができ、滑剤の表面移行性を調整することができる。そのような非極性又は弱極性のビニル単量体として具体的には、例えばスチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン等のビニル芳香族単量体;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
ビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル系重合体の重量平均分子量〔テトラヒドロフラン(THF)中、スチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による測定値〕は、通常1,000〜2,000,000、好ましくは5,000〜1,200,000の範囲である。重量平均分子量が1,000未満であるとグラフト共重合体の耐熱性が低下する傾向があり、重量平均分子量が2,000,000を超えるとグラフト共重合体の溶融粘度が高くなり、成形性が低下する傾向にある。
【0026】
また、グラフト共重合体のメルトフローレート(MFR)又はメルトインデクス(MI)は好ましくは0.01〜500g/10分、さらに好ましくは0.1〜300g/10分、最も好ましくは1〜200g/10分である。このMFRはJIS 7210に規定された方法に準拠して、樹脂温度230℃、測定荷重21N(2.16kg・f)の条件で測定したものである。MFRが0.01g/10分未満又は500g/10分を超えると、グラフト共重合体と熱可塑性樹脂との相溶性が悪くなったり、グラフト共重合体組成物より得られる成形体の外観が悪化する傾向にあるので好ましくない。
【0027】
前述のように、グラフト共重合体は多相構造型のもので、オレフィン系重合体セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)の一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成しているものである。オレフィン系重合体セグメント(a)又はビニル系重合体セグメント(b)の粒子径が0.001μm未満の場合及び10μmを超える場合のいずれも、グラフト共重合体をオレフィン系熱可塑性樹脂等の熱可塑性樹脂に混合したときの分散性が悪く、例えば外観が悪化したり、熱可塑性樹脂の剛性を損なう傾向にある。
【0028】
グラフト共重合体は、オレフィン系重合体セグメント(a)が通常5〜99重量%、好ましくは20〜95重量%からなるものである。従って、ビニル系重合体セグメント(b)は通常1〜95重量%、好ましくは5〜80重量%である。
オレフィン系重合体セグメント(a)が5重量%未満又はビニル系重合体セグメント(b)が95重量%を超える場合、熱可塑性樹脂へのグラフト共重合体の分散性が低下し、成形体の外観が低下する傾向にある。逆に、オレフィン系重合体セグメント(a)が99重量%を超える場合又はビニル系重合体セグメント(b)が1重量%未満の場合、熱可塑性樹脂に対する改良効果が不十分となる傾向にある。オレフィン系重合体セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)の割合を調整して、グラフト共重合体の極性を変更することにより、滑剤とグラフト共重合体との相互作用を調整することができる。
【0029】
グラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、一般に知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法でも良いが、下記に示す方法が最も好ましい。なぜならば、製造方法が簡便で、グラフト効率が高く、熱によるビニル系重合体セグメント(b)の二次的凝集が起こらず、グラフト共重合体を滑剤と混合しやすくなり、両者の相互作用に優れているためである。
【0030】
具体的には、まずオレフィン系重合体の粒子100重量部を水中に懸濁させる。そこへビニル系単量体1〜400重量部、ラジカル重合性有機過酸化物をビニル系単量体100重量部に対し20重量部以下及び10時間半減期を得るための分解温度40〜90℃のラジカル重合開始剤をビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物との合計100重量部に対し0.01〜8重量部の溶液を加える。
ここで、ラジカル重合性有機過酸化物とは、過酸化物結合とラジカル重合性の官能基を一分子中に有する化合物をいう。このラジカル重合性有機過酸化物として、例えば下記一般式(A)又は一般式(B)で表される化合物の1種又は2種以上の混合物が使用される。ラジカル重合性有機過酸化物の使用量は、ビニル系単量体100重量部に対して0.01〜15重量部であることが好ましい。
【0031】
次に、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件で加熱し、ビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤を前記オレフィン系重合体の粒子中に含浸させる。その含浸率が添加量の20重量%以上、好ましくは30重量%以上に達した時点で、この水性懸濁液の温度を上昇させ、ビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とを前記オレフィン系重合体粒子中で共重合させることによりグラフト化前駆体を得る。このグラフト化前駆体を100〜300℃で溶融、混合することにより、オレフィン系重合体セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)とからなるグラフト共重合体が得られる。
【0032】
前記一般式(A)又は一般式(B)で表されるラジカル重合性有機過酸化物とは、次の化合物である。
【0033】
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基又はエチル基、R2は水素原子又はメチル基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R5は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。mは1又は2である。)
また、前記一般式(B)で表されるラジカル重合性有機過酸化物とは、次の化合物である。
【0034】
【化2】
(式中、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R7は水素原子又はメチル基、R8及びR9はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。nは0、1又は2である。)
前記一般式(A)又は一般式(B)で表されるラジカル重合性有機過酸化物として、具体的に好ましいのは、例えばt−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリルカーボネートである。
【0035】
以上の製造方法によって得られるグラフト共重合体は、通常オレフィン系重合体セグメント(a)を幹成分とし、ビニル系重合体セグメント(b)を枝成分とする構造を有しているが、製造条件によってはH型構造のものが含まれたり、不規則な構造を有するものとなる。なお、本実施形態のグラフト共重合体は上記ラジカル重合性有機過酸化物を必ずしも使用しなくても良いが、その場合には、得られるグラフト共重合体組成物中における滑剤の表面移行性の調整がしにくくなる。
【0036】
次に、グラフト共重合体組成物は、前記のようにして得られるグラフト共重合体を主成分とし、それに滑剤を含有するものであり、グラフト共重合体又はそのグラフト化前駆体と、滑剤とを溶融、混合することにより得られる。グラフト共重合体組成物をオレフィン系熱可塑性樹脂等の熱可塑性樹脂に配合したとき、熱可塑性樹脂又はその成形体の、特に耐摩耗性及び耐傷付き性を改良することができる。
【0037】
滑剤は、極性が高くグラフト共重合体との相互作用に優れ、滑性効果を有効に発揮できる脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体である。
脂肪酸アミドは炭素数10〜25の脂肪酸から形成される脂肪酸アミドであって、炭素数10未満の脂肪酸では前述の効果を十分に発揮することができない。
また、炭素数25を超える脂肪酸は入手が困難で実用的ではない。脂肪酸アミドとして具体的にはラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘミン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、又はエルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エライジン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、又はメチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等のビス脂肪酸アミド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でエルカ酸アミド、オレイン酸アミド又はエチレンビスオレイン酸アミドが好ましい。これらの中で特に滑性に優れているオレイン酸アミドが最も好ましい。
【0038】
アルキレンオキサイド誘導体としては、具体的にはポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールグリセリンエーテル、ポリエチレンルリコールジメチルエーテル等のポリエチレングリコール、ジオール及びトリオールのポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル等のビスフェノールA誘導体、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)、ポリエチレングリコール−ポリピレングリコール等のポリアルキレングリコール誘導体、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル等のアリル化ポリエーテルが挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
これらのアルキレンオキサイド誘導体は、重量平均分子量100〜100000であることが望ましい。重量平均分子量が100〜100000であれば、グラフト共重合体と適度に相互作用が見られ、滑剤の表面移行を良好に調整することができるためである。これらの中でポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールが好ましく、特にポリエチレングリコールモノメチルエーテルがグラフト共重合体との相互作用に最も優れ、滑剤の表面移行を調整しやすいので好ましい。
【0040】
グラフト共重合体組成物を製造する際の加熱温度は70〜300℃が好ましい。この加熱温度が70℃未満の場合、グラフト共重合体と滑剤の溶融が不完全であったり、溶融粘度が高いため混合が不十分になり、相分離や層状剥離が現れるため好ましくない。300℃を超える場合、グラフト共重合体の分解が激しくなり好ましくない。
【0041】
グラフト共重合体組成物中におけるグラフト共重合体の占める割合は、グラフト共重合体が主成分であることが必要で、50〜99重量%が好ましく、60〜90重量%がさらに好ましい。従って、滑剤の占める割合は従成分であって、1〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がさらに好ましい。グラフト共重合体が主成分でない場合滑剤の表面移行を調整できず、滑剤が含有されない場合滑剤による滑性が発揮されない。
【0042】
次に、熱可塑性樹脂組成物は、前記グラフト共重合体組成物とオレフィン系熱可塑性樹脂とから構成される。
オレフィン系熱可塑性樹脂としては、前述したオレフィン系重合体セグメント(a)を形成する原料であるオレフィン系重合体が主に使用される。すなわち、オレフィン系重合体としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンと炭素数が3以上のα−オレフィンとの共重合体、α−オレフィンとビニル単量体との共重合体、エチレン系共重合ゴム、オレフィン系エラストマー等が挙げられる。
これらに、さらに必要に応じてオレフィン系熱可塑性樹脂以外の汎用のゴム又は汎用の樹脂を配合しても良い。
【0043】
炭素数が3以上のα−オレフィンの具体例として、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン及びこれらの混合物等が挙げられる。エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。また、エチレン系共重合ゴムの具体例としてはエチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、エチレン−オクテン共重合ゴム等が挙げられる。
【0044】
α−オレフィンとビニル単量体との共重合体の具体例として、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はそのケン化物等が挙げられる。
【0045】
オレフィン系エラストマーの具体例として、市販の例えば、ミラストマー(三井化学(株)製、商品名)、サントプレーン(エー・イー・エスジャパン(株)製、商品名)、住友TPE(住友化学(株)製、商品名)、キャタロイ(サンアロマー(株)製、商品名)などが挙げられる。また、汎用のゴムとして、例えばスチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム又はそれらの水添物等のスチレン系エラストマー、ニトリルゴム、天然ゴム、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴム、ポリイソブチレンゴム等が挙げられる。汎用の樹脂として、例えばポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは1種又は2種類以上組み合わせて使用される。
【0046】
上記の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体組成物とオレフィン系熱可塑性樹脂とからなる組成物を120〜250℃で溶融、混合することによって製造される。この温度が120℃未満の場合、溶融が不完全になったり、溶融粘度が高いため混合が不十分になり、相分離や層状剥離が現れて好ましくない。一方、250℃を超える場合、樹脂や滑剤が分解するため好ましくない。溶融、混合する方法としては、押出混練法、ロール混練法など公知の方法が採用される。
【0047】
また、熱可塑性樹脂組成物は、必ずしもグラフト共重合体組成物をオレフィン系熱可塑性樹脂に混合して調製しなくてもよく、グラフト共重合体と滑剤とオレフィン系熱可塑性樹脂とを同時に混合して調製してもよい。これはオレフィン系熱可塑性樹脂中でグラフト共重合体と滑剤がグラフト共重合体組成物に変換されるからである。なお、グラフト化前駆体を用いて溶融、混合した場合、一部が滑剤又はオレフィン系熱可塑性樹脂と共重合してグラフト共重合体となる可能性があるが、差し支えない。
【0048】
さらに、熱可塑性樹脂組成物は、滑剤の表面移行についての調整を容易にするため、グラフト共重合体組成物と、少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性樹脂とを予め混合し、さらに少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性樹脂と混合することによっても得ることができる。これらのオレフィン系熱可塑性樹脂は異なる種類のものでも構わない。
【0049】
熱可塑性樹脂組成物中におけるグラフト共重合体組成物の占める割合は1〜50重量%が好ましく、2〜30重量%がさらに好ましい。従って、熱可塑性樹脂組成物中におけるオレフィン系熱可塑性樹脂の占める割合は50〜99重量%が好ましく、70〜98重量%がさらに好ましい。グラフト共重合体組成物が1重量%未満であるとグラフト共重合体による特性の発現が不十分であり、一方50重量%を超えると得られる成形体の剛性及び耐熱性が低下し、好ましくない。
【0050】
熱可塑性樹脂組成物中における滑剤の占める割合は0.01〜10重量%が好ましく、0.1〜8重量%がさらに好ましい。滑剤が0.01重量%未満であると滑剤に基づく特性の発現が不十分であり、一方10重量%超えると得られる成形体の表面に滑剤のブリードが著しくなり、成形体の外観を悪化させるので好ましくない。
【0051】
熱可塑性樹脂組成物には、さらに本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、必要に応じハロゲン化スチレン等のハロゲン含有化合物や燐化合物等の難燃剤、炭素繊維やマイカ、タルク等の強化充填剤、フェノール系、アミン系、チオエーテル系、リン系等の酸化防止剤、安定剤、分散剤、発泡剤、架橋剤、紫外線防止剤、着色剤、鉱物油系軟化剤などを含有させることができる。
【0052】
本実施形態のグラフト共重合体組成物又は熱可塑性樹脂組成物を所定の成形法にて成形することにより成形体が得られる。成形法としては、一般に用いられる熱可塑性樹脂の成形機で成形する成形法が採用され、具体的にはカレンダー加工法、圧縮成形法、ブロー成形法、発泡成形法、押出成形法、射出成形法、真空成形法等を挙げることができる。成形体としては、シート、フィルム、中実成形体、中空成形体、発泡体等を挙げることができる。さらに、成形体としては、前記成形法により得られた成形体にウレタン系熱可塑性エラストマーをラミネートしたり、ポリウレタン塗料をグラビア印刷した多層の成形フィルムなどの形態であってもよい。
【0053】
成形体の応用例として、例えば車両用のウエザーストリップ、グラスランチャンネル、サイドモール、バンパー、泥よけなどの自動車外装材、インストルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装材及びそれらの表皮材、ハンドル、グリップ、エアバッグカバー、コンソールボックス、シフトレバー等の自動車内装部品、電線被覆材、紙送りロール、雑貨などが挙げられる。
【0054】
さて、グラフト共重合体組成物は、オレフィン系重合体セグメント(a)及びビニル系重合体セグメント(b)からなるグラフト共重合体を主成分とし、滑剤として脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体を配合することによって調製される。グラフト共重合体のビニル系重合体セグメント(b)は(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を含有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体から形成される極性の高いものである。一方、滑剤としての脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体も極性の高いものである。このため、滑剤とグラフト共重合体との親和性に基づく相互作用により、滑剤はグラフト共重合体中に保持されやすくなる。従って、グラフト共重合体の内部から表面への滑剤の過剰な染み出し(ブリード)を防止することができる。
【0055】
一方、グラフト共重合体のビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル単量体として非極性のスチレン等を併用したり、またグラフト共重合体には非極性のオレフィン系重合体セグメント(a)が含まれている。そのため、滑剤とグラフト共重合体との反親和性に基づく相互作用により、滑剤はグラフト共重合体中から表面に移行しやすくなる。この場合、グラフト共重合体の表面又はその近傍に滑剤が移行し、移行した滑剤によってグラフト共重合体表面に滑性が発現される。従って、グラフト共重合体の構成を変更することにより、リリースコントロールを容易に行なうことができる。すなわち、グラフト共重合体の各セグメントの極性を高めることにより滑剤の表面への移行を抑制し、各セグメントの極性を低くすることにより滑剤の表面への移行を促進することができる。
【0056】
さらに、ビニル系重合体セグメント(b)の極性を高めることによってグラフト共重合体のガラス転移温度(Tg)が上がるため、このガラス転移温度を指標として滑剤の表面移行性を調整することができる。
【0057】
しかも、グラフト共重合体は多相構造型のものであって、一方のセグメントが他方のセグメントのマトリックス(海)中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相(島)を形成している。この分散相中に滑剤が含有されるとともに、分散相が微細であることから、その表面積が大きくなって滑剤とグラフト共重合体中のセグメントとの相互作用を効果的に発揮することができるものと考えられる。
【0058】
また、グラフト共重合体中のオレフィン系重合体セグメント(a)とオレフィン系熱可塑性樹脂とが同一であることなどから、グラフト共重合体とオレフィン系熱可塑性樹脂とが相溶性に優れている。しかも、前述のように滑剤とグラフト共重合体のビニル系重合体セグメント(b)とが共に極性が高いため相溶性に優れている。従って、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の耐傷付き性、耐摩耗性、耐屈曲性等の機械的物性は良好に維持される。加えて、滑剤によりグラフト共重合体組成物又は熱可塑性樹脂組成物の流動性が良くなり、成形性が向上する。
【0059】
以上の実施形態により発揮される効果を以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態のグラフト共重合体組成物によれば、グラフト共重合体中のビニル系重合体セグメント(b)と滑剤とがともに極性を有することから、滑剤とグラフト共重合体との相互作用に優れ、リリースコントロールを容易に行なうことができる。従って、得られる成形体の表面に滑性を付与することができるとともに、外観を良好に維持することができる。また、滑剤とグラフト共重合体とが相溶性に優れている等の点から、耐傷付き性及び耐摩耗性が長期にわたり良好で、かつ成形性及び耐屈曲性を向上させることができる。
【0060】
・ グラフト共重合体を前記した特定の製造方法によって製造することにより、グラフト共重合体が簡便に得られ、そのグラフト効率が高いものとなる。しかも、得られるグラフト共重合体が微細な分散相を有するため、グラフト共重合体と滑剤との混合性が良く、両者の相互作用を向上させることができる。
【0061】
・ オレフィン系熱可塑性樹脂を主成分とし、前記グラフト共重合体組成物を配合することにより熱可塑性樹脂組成物が得られ、オレフィン系熱可塑性樹脂の用途に使用される。
【0062】
・ 前記グラフト共重合体組成物又は熱可塑性樹脂組成物を成形することにより成形体が得られる。この成形体は適用できる範囲が広く、多様な用途に展開でき、特にオレフィン系熱可塑性樹脂がオレフィン系エラストマーである場合には、通常の熱可塑性樹脂の成形機で加工が可能という特徴を生かして、自動車部品や家電部品或いは雑貨をはじめとする柔軟性が必要な幅広い分野に利用することができる。
【0063】
【実施例】
以下、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、これらの参考例、実施例及び比較例における物性測定に用いた試験方法は以下の通りである。
(1)メルトフローレート(MFR): メルトインデクサー((株)東洋精機製作所製)を用い、JIS K 7210に準拠した方法により測定した。参考例1〜3、実施例25、27、比較例5、12は測定温度230℃、荷重21N(2.16kg・f)、実施例1〜24、比較例1〜4、9〜11、13〜16は測定温度230℃、荷重98N(10kg・f)の条件で測定した。また、参考例4、実施例26、比較例6〜8は測定温度190℃、荷重21N(2.16kg・f)の条件で測定した。
(2)硬度: 実施例1〜24、比較例1〜4、9〜11、13〜16ではJIS K 6301に準拠し、実施例25、27、比較例5、12ではJIS K6758に準拠し、そして実施例26、比較例6〜8では JIS K 7215に準拠して行った。
(3)ブリード性: 射出成形機(田端機械工業(株)製)を用い、ペレットから厚さ3mm、一辺90mmの正方形プレートを成形し、このプレートを70℃オーブン中に72時間放置し、プレート表面にブリードする滑剤を目視にて観察し、製品外観を下記評価基準で評価した。
【0064】
◎:ブリードは全くなし。 ○:ブリードが僅かにあり。 △:ブリードがあり。 ×:激しいブリードがあり。
(4)耐摩耗性: 学振式堅牢度摩擦摩耗試験機を用い、ブリード性試験で用いた試験片と同じ正方形プレート試験片に荷重6.9N(700g・f)の荷重をかけ、カナキン3号布(綿布)により100回往復摩耗させた後の試験片表面を目視にて観察し、下記評価基準で評価した。
【0065】
◎:傷跡がほとんど見られない。 ○:傷跡がやや目立つ。 △:傷跡が大きく目立つ。×:傷跡が大きく目立ち、かつ粉状の摩耗粉が多量に発生する。
(5)耐傷つき性: テーパースクラッチテスター((株)東洋精機製作所製)を用い、ブリード性試験で用いた試験片と同じ正方形プレート試験片に、回転中心から3.5cmの所に刃先がくるように刃を取り付け、ターンテーブルを0.5rpmの速度で回転させた状態で、刃に0.5Nの荷重をかけ試験片に傷をつけた。その傷を下記評価基準で評価した。
【0066】
◎:傷跡がほとんど見られない。 ○:傷跡がやや目立つ。 △:傷跡が大きく目立つ。 ×:傷跡が著しく目立つ。
(6)耐屈曲性: ブリード性試験で用いた試験片と同じ正方形プレート試験片を180度に3回折り曲げ、折れ皺を観察し、耐屈曲性を下記評価基準で評価した。
【0067】
◎:折れ皺がほとんど見られない。 ○:折れ皺が少し見られる。 △:折れ皺がはっきりと見られる。 ×:試験片に亀裂が見られる。
以下の参考例及び表中の略記号は次の物質を表す。
TPO−1: オレフィン系エラストマー(商品名:ミラストマー8030、三井化学(株)製)
TPO−2: オレフィン系エラストマー(商品名:住友TPE3885、住友化学(株)製)
TPO−3: オレフィン系エラストマー(商品名:ミラストマー5030、三井化学(株)製)
TPO−4: オレフィン系エラストマー(商品名:サントプレーン201−87、エー・イー・エスジャパン(株)製)
PE: ポリエチレン(商品名:スミカセンG401、住友化学(株)製)
mPE: ポリエチレン(商品名:スミカセンE、FV404、住友化学(株)製)
PP: ポリプロピレン(商品名:サンアロマーPB671A、サンアロマー(株)製)
EPR: エチレン−プロピレン共重合体(商品名:EP07P、日本合成ゴム(株)製)
EEA: エチレン−アクリル酸エチル共重合体(商品名:レクスロンA4200、日本ポリオレフィン(株)製)
EOR: エチレン−オクテン共重合体(商品名:エンゲージ8100.デュポン・ダウ・エラストマー(株)製)
MMA: メタクリル酸メチル
MAA: メタクリル酸
HPMA: メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル
BA: アクリル酸ブチル
St: スチレン
AN: アクリロニトリル
GMA: メタクリル酸グリシジル
OA: オレイン酸アミド(商品名:アルフローE−10:日本油脂(株)製)Sil: シリコーンオイル(商品名:SH200−12500:東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)
MEG: ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(商品名:ユニオックスM−550:日本油脂(株)製)
(参考例1、グラフト共重合体の製造)
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中にEPRを700g入れ、攪拌、分散した。別にラジカル重合開始剤としてのジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド1.5g、ラジカル重合性有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート9gをビニル系単量体としてのSt100g、BA100g及びHPMA100gの混合液に溶解させた。この溶液を前記オートクレーブ中に投入して攪拌した。
【0068】
次いで、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、3時間攪拌することによりラジカル重合開始剤、ラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体をEPR中に含浸させた。続いて、含浸されたビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤の合計量が添加量の30重量%以上になっていることを確認した。その後、温度を70〜75℃に上げ、その温度で6時間維持して重合を完結させ、水洗及び乾燥してグラフト化前駆体を得た。
【0069】
このグラフト化前駆体からテトラヒドロフランでスチレン−アクリル酸ブチル−メタクリル酸ヒドロキシプロピル共重合体を抽出し、GPCで重量平均分子量(THF中、スチレン換算による)を測定したところ、200,000であった。
【0070】
次に、このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)で180℃にて押し出し、グラフト化反応させることによりグラフト共重合体を得た。
【0071】
このグラフト共重合体を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製)により観察したところ、粒子径0.3〜0.4μmの真球状樹脂が均一に分散した多相構造型の熱可塑性樹脂であった。なお、このときスチレン−アクリル酸ブチル−メタクリル酸ヒドロキシプロピル共重合体のグラフト効率は55重量%であった。
(参考例2)
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中にEORを900g入れ、攪拌、分散した。
【0072】
別にラジカル重合開始剤としてのベンゾイルペルオキシド0.5g、ラジカル重合性有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート3gをビニル系単量体としてのMMA40g、BA20g及びMAA40gの混合液に溶解させた。この溶液を前記オートクレーブ中に投入して攪拌した。
【0073】
次いで、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、2時間攪拌することによりラジカル重合開始剤、ラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体をPE中に含浸させた。続いて、含浸されたビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤の合計量が添加量の30重量%以上になっていることを確認した後、温度を80〜85℃に上げた。そして、その温度で5時間維持して重合を完結させた後、水洗及び乾燥してグラフト化前駆体を得た。
【0074】
このグラフト化前駆体からテトラヒドロフランでメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−メタクリル酸共重合体を抽出し、GPCで重量平均分子量(THF中、スチレン換算による測定)を測定したところ、800,000であった。
【0075】
次いで、このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)で200℃にて押し出し、グラフト化反応させることによりグラフト共重合体を得た。
【0076】
このグラフト共重合体を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製)により観察したところ、粒子径0.2〜0.3μmの真球状樹脂が均一に分散した多相構造型の熱可塑性樹脂であった。このとき、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−メタクリル酸共重合体のグラフト効率は90重量%であった。
(参考例3)
表1に示した成分及び配合割合に変更して、参考例1と同様の操作でグラフト共重合体を得た。
【0077】
【表1】
(実施例1〜10、グラフト共重合体組成物及び熱可塑性樹脂組成物の製造)
表2に示した成分及び配合割合でグラフト化前駆体又はグラフト共重合体と、滑剤としてのオレイン酸アミド又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルと、オレフィン系熱可塑性樹脂としてのEEA又はEORとをドライブレンドした。その後、シリンダー温度180℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して、グラフト共重合体組成物及び熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。それらのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表2に示した。
【0078】
【表2】
(実施例11〜20、熱可塑性樹脂組成物の製造)
表3に示した成分及び配合割合でグラフト共重合体組成物、熱可塑性樹脂組成物及びオレフィン系熱可塑性樹脂をドライブレンドした後、シリンダー温度180℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表3に示した。
【0079】
【表3】
(実施例21〜24、熱可塑性樹脂組成物の製造)
表4に示した成分及び配合割合で多段の溶融、混合により実施例11と同様の操作でオレフィン系熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表4に示した。
【0080】
【表4】
(実施例25〜27、熱可塑性樹脂組成物の製造)
表5に示した成分及び配合割合で多段の溶融、混合によりシリンダー温度200℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で実施例11と同様の操作でオレフィン系熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表5に示した。
【0081】
【表5】
(比較例1〜8)
実施例で用いたオレフィン系熱可塑性樹脂単体について各種物性試験を行った。その結果を表6に示した。
(比較例9〜14)
グラフト共重合体を含まないオレフィン系熱可塑性樹脂と滑剤よりなる組成物として、表6に示した成分及び配合割合で溶融、混合することによりペレットを得た。そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表6に示した。
【0082】
【表6】
(参考例4)
オレフィン系重合体としてmPEを用い、ビニル系単量体としてSt及びANを用い、表7に示す配合量にて、参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。このグラフト共重合体の物性は表7に示す通りであった。
【0083】
【表7】
(比較例15、16熱可塑性樹脂組成物の製造)
オレフィン系熱可塑性樹脂、グラフト共重合体及び滑剤としてシリコーンオイルを表8に示した配合割合で、実施例11と同様の操作により熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表8に示した。
【0084】
【表8】
(実施例及び比較例のまとめ)
比較例1〜8のオレフィン系熱可塑性樹脂は良好な耐摩耗性及び耐傷つき性を得ることができなかった。また、耐摩耗性及び耐傷つき性の改良にオレイン酸アミド又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルを用いた比較例9〜14では、耐摩耗性及び耐傷つき性は改善されるものの、滑剤の表面移行性が調整できずに、ブリード性の結果が非常に悪化するため、外観を良好に維持できないことが明らかとなった。
【0085】
また、比較例15に示したように、滑剤としてシリコーンオイルを用い、かつグラフト共重合体の極性が低い場合にはブリード性が不良であった。さらに、比較例16に示したように、グラフト共重合体の極性が高いときでも滑剤としてシリコーンオイルを用いた場合にはブリード性が見られた。
【0086】
一方、実施例1〜27の結果に見られるように、グラフト共重合体組成物を用いた場合、良好な耐摩耗性及び耐傷付き性を得ることができると同時に、ブリード性が良好で外観を良好に維持することができるという優れた結果が得られた。
また、MFRも良好であって成形性に優れ、折れ皺もなく耐屈曲性に優れていることが明らかとなった。
【0087】
なお、本発明は前記実施形態を次のように変更して実施することもできる。
・ 滑剤を予めオレフィン系熱可塑性樹脂に混合してマスターバッチを作製し、そのマスターバッチを用い、グラフト共重合体との配合割合を変えて熱可塑性樹脂組成物を調製することもできる。その場合、熱可塑性樹脂組成物の組成が異なるものを調製するときに取り扱いが簡単になって好ましい。
【0088】
・ 前記グラフト共重合体組成物をオレフィン系熱可塑性樹脂以外のポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマー等に配合して熱可塑性樹脂組成物を調製してもよい。
【0089】
・ グラフト共重合体として、ビニル系単量体よりビニル系重合体を形成し、そのビニル系重合体に対してオレフィン系単量体をグラフト重合して得られたものを用いてもよい。
【0090】
さらに、実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
・ 前記滑剤はアルキレンオキサイド誘導体である請求項1又は請求項2に記載のグラフト共重合体組成物。このように構成した場合、滑剤の極性が高く、グラフト共重合体との相互作用を高めることができる。
【0091】
・ 前記ビニル系重合体セグメント(b)は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体と、非極性又は弱極性のビニル単量体とから形成されるものである請求項1又は請求項2に記載のグラフト共重合体組成物。このように構成した場合、ビニル系重合体セグメント(b)の極性を変えることができ、滑剤の表面移行性を容易に調整することができる。
【0092】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば次のような効果を奏する。
第1の発明のグラフト共重合体組成物によれば、グラフト共重合体と滑剤との相互作用に優れ、得られる成形体の外観を良好に維持でき、耐傷つき性及び耐摩耗性が良好で、かつ成形性及び耐屈曲性にも優れている。
【0093】
第2の発明のグラフト共重合体組成物によれば、第1の発明の効果に加えて、グラフト共重合体が簡便に得られ、そのグラフト効率が高く、グラフト共重合体と滑剤との混合性が良く、両者の相互作用を向上させることができる。
【0094】
第3の発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、オレフィン系熱可塑性樹脂の用途において第1又は第2の発明の効果を発揮することができる。
第4の発明の成形体によれば、第1又は第2の発明のグラフト共重合体組成物から得られる成形体について、第1又は第2の発明の効果を発揮することができる。
【0095】
第5の発明の成形体によれば、第3の発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体について、第3の発明の効果を発揮することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、滑剤の表面移行性を調整することができて外観を良好に維持でき、成形性が良く、機械的物性に優れたグラフト共重合体組成物、それを含む熱可塑性樹脂組成物及びそれらの成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂の中でも、特にオレフィン系樹脂は、軽量でリサイクルが容易であり、コストパフォーマンスが高いことや、燃焼時に発生するガスに問題が生じないことなどから、近年多く使用されてきている。
【0003】
しかしながら、オレフィン系樹脂としてのポリプロピレン、ポリエチレンやオレフィン系エラストマーからなる成形体は、塩化ビニル樹脂を原料とする成形体と比較して、耐傷つき性及び耐摩耗性が劣るという欠点があるため、その改良が強く望まれており、いくつかの改善提案がなされている。
【0004】
例えば自動車部品として、ドアガラスと接してシール機能を持つモールやグラスランチャンネルなどに使用されるオレフィン系エラストマーは、ガラスの昇降がスムーズになされるように、ナイロンフィルム等をその表面に接着剤により貼り合わせて抵抗を小さくしたり、摩耗を少なくして使用されている。ところが、オレフィン系の熱可塑性エラストマーとナイロンフィルムとの接着力が十分とはいえず、特に高温高湿の雰囲気や溶剤噴霧等の環境下では、基材層と表皮の間で剥離を生じやすいという欠点があった。
【0005】
そこで、オルガノシロキサンと高級脂肪酸アミドをオレフィン系エラストマーに添加して得られるグラスランチャンネルが提案されている(特許文献1参照)。
その場合、フィルムを貼り合わせる必要がなくなり、剥離の問題については解消された。ところが、特に高温高湿の雰囲気下においては高級脂肪酸アミドが気化し、ガラス等に曇りを生じやすく、外観不良も発生しやすかった。これは部材の摺動性を長期にわたり維持する目的から、高級脂肪酸アミドが過剰に部材表面にも存在する状態になっており、気化しやすい状態になっていたためである。
【0006】
また、微粒子パウダーとアルキル変性オルガノシロキサンをオレフィン系エラストマーに添加することで、摩耗性を備えたドアガラスウエザーストリップが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、実用的な効果を得るためにはこれらの成分が多量に必要であり、また基材のオレフィン系エラストマーとこれらの添加剤との相溶性が低いため、成形部材が屈曲した場合に白化するという不具合があった。
【0007】
さらに、ポリプロピレン樹脂においても、ポリプロピレン樹脂に特定の造核剤及び滑剤を添加した、耐摩耗性に優れるポリプロピレン樹脂組成物が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、ポリプロピレンの結晶性により、滑剤の効果が長期にわたって持続されないという問題が生じている。
【0008】
近年、オレフィン系樹脂の成形体の形状が複雑になってきていることに加え、コストの面からも成形サイクルの短縮などが求められており、成形圧力の損失を低下できるような、流動性が良好で成形性に優れた材料が求められている。
【0009】
そのような要求を満たすために、本願出願人は熱可塑性樹脂、多相構造を有するグラフト共重合体及び潤滑剤よりなる熱可塑性樹脂組成物を提案した(特許文献4を参照)。
【0010】
【特許文献1】
特開2000−26668号公報(第2〜3頁)
【特許文献2】
特開2000−327848号公報(第3頁)
【特許文献3】
特開平10−53673号公報(第2〜3頁)
【特許文献4】
特開2001−181472号公報(第1頁、第7頁)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記従来のグラフト共重合体を配合した熱可塑性樹脂組成物は、潤滑剤の極性が低く、また潤滑剤とグラフト共重合体との相互作用が考慮されていないことから、潤滑剤が表面に移行し過ぎる場合や移行しにくい場合があった。
さらに、潤滑剤とグラフト共重合体との相溶性が不十分な場合があった。このため、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の外観を損なったり、耐傷つき性及び耐摩耗性が低下したり、さらに成形性及び耐屈曲性が悪化したりするという問題があった。
【0012】
本発明は上記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、グラフト共重合体と滑剤との相互作用に優れ、得られる成形体の外観を良好に維持でき、耐傷つき性及び耐摩耗性が良好で、かつ成形性及び耐屈曲性にも優れるグラフト共重合体組成物、それを含む熱可塑性樹脂組成物及びそれらの成形体を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を達成するために、第1の発明のグラフト共重合体組成物は、オレフィン系重合体セグメント(a)と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体から形成されるビニル系重合体セグメント(b)とからなり、一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成している多相構造型のグラフト共重合体を主成分とし、滑剤として脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体を含有することを特徴とするものである。
【0014】
第2の発明のグラフト共重合体組成物は、第1の発明において、前記グラフト共重合体が、オレフィン系重合体を水中に懸濁させ、そこへ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤からなる溶液を加え、ビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤をオレフィン系重合体粒子中に含浸させ、オレフィン系重合体粒子中でビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とを共重合した後、溶融、混合することにより得られるものである。
【0015】
第3の発明の熱可塑性樹脂組成物は、オレフィン系熱可塑性樹脂を主成分とし、第1又は第2の発明のグラフト共重合体組成物を含有することを特徴とするものである。
【0016】
第4の発明の成形体は、第1又は第2の発明のグラフト共重合体組成物を成形して得られるものである。
第5の発明の成形体は、第3の発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られるものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のグラフト共重合体組成物は、グラフト共重合体を主成分とし、滑剤を含有するものであり、グラフト共重合体と滑剤との親和性と反親和性に基づく相互作用により滑剤の表面移行性が調整され得る組成物である。本明細書では、この滑剤の表面移行性の調整をリリースコントロールとも称する。グラフト共重合体はオレフィン系重合体セグメント(a)と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種のビニル系単量体から形成されるビニル系重合体セグメント(b)とからなる。そして、一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成している多相構造型を有している。
【0018】
オレフィン系重合体セグメント(a)は、オレフィン系重合体、すなわちオレフィン系単独重合体又は共重合体から形成されるセグメントである。オレフィン系重合体セグメント(a)を形成する原料としてのオレフィン系重合体は、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンと炭素数が3以上のα−オレフィンとの共重合体、α−オレフィン単量体とビニル単量体との共重合体、エチレン系共重合ゴム、ジエン系ゴム又はポリイソブチレンゴム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
炭素数が3以上のα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0020】
また、エチレン系共重合ゴムの具体例としては、エチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、エチレン−オクテン共重合ゴム等が挙げられる。
【0021】
オレフィン系重合体セグメント(a)の原料となるオレフィン系重合体の極限粘度[η](デカリン中、135℃で測定)は、生産性の点から0.1〜40dl/gの範囲が望ましく、0.2〜32dl/gの範囲がさらに望ましい。
【0022】
次に、ビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル系単量体は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種の単量体である。なお、本明細書ではアクリルとメタクリルを(メタ)アクリルと総称する。ビニル系単量体としてこれらの単量体が含まれることにより、グラフト共重合体を極性の高いものにすることができ、滑剤との親和性に基づく相互作用を強めることができる。
【0023】
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸である。(メタ)アクリル酸グリシジルは、アクリル酸グリシジルとメタクリル酸グリシジルである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸と炭素数1〜20のアルキルアルコールとから形成されるアクリル酸エステル、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル等が挙げられる。また、メタクリル酸と炭素数1〜20のアルキルアルコールとから形成されるメタクリル酸エステル、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。ヒドロキシル基を有するビニル単量体としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、クロトン酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。これらの中でも、滑剤との相互作用が大きく、滑剤の表面移行性を調整しやすい点から、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピルが好ましい。
【0024】
ビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル系単量体には、前記の極性を有する単量体に非極性又は弱極性のビニル単量体が含まれていることが望ましい。極性を有する単量体と非極性又は弱極性のビニル単量体とを併用することにより、親和性と反親和性に基づく相互作用を加減することができ、滑剤の表面移行性を調整することができる。そのような非極性又は弱極性のビニル単量体として具体的には、例えばスチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン等のビニル芳香族単量体;α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
ビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル系重合体の重量平均分子量〔テトラヒドロフラン(THF)中、スチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による測定値〕は、通常1,000〜2,000,000、好ましくは5,000〜1,200,000の範囲である。重量平均分子量が1,000未満であるとグラフト共重合体の耐熱性が低下する傾向があり、重量平均分子量が2,000,000を超えるとグラフト共重合体の溶融粘度が高くなり、成形性が低下する傾向にある。
【0026】
また、グラフト共重合体のメルトフローレート(MFR)又はメルトインデクス(MI)は好ましくは0.01〜500g/10分、さらに好ましくは0.1〜300g/10分、最も好ましくは1〜200g/10分である。このMFRはJIS 7210に規定された方法に準拠して、樹脂温度230℃、測定荷重21N(2.16kg・f)の条件で測定したものである。MFRが0.01g/10分未満又は500g/10分を超えると、グラフト共重合体と熱可塑性樹脂との相溶性が悪くなったり、グラフト共重合体組成物より得られる成形体の外観が悪化する傾向にあるので好ましくない。
【0027】
前述のように、グラフト共重合体は多相構造型のもので、オレフィン系重合体セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)の一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成しているものである。オレフィン系重合体セグメント(a)又はビニル系重合体セグメント(b)の粒子径が0.001μm未満の場合及び10μmを超える場合のいずれも、グラフト共重合体をオレフィン系熱可塑性樹脂等の熱可塑性樹脂に混合したときの分散性が悪く、例えば外観が悪化したり、熱可塑性樹脂の剛性を損なう傾向にある。
【0028】
グラフト共重合体は、オレフィン系重合体セグメント(a)が通常5〜99重量%、好ましくは20〜95重量%からなるものである。従って、ビニル系重合体セグメント(b)は通常1〜95重量%、好ましくは5〜80重量%である。
オレフィン系重合体セグメント(a)が5重量%未満又はビニル系重合体セグメント(b)が95重量%を超える場合、熱可塑性樹脂へのグラフト共重合体の分散性が低下し、成形体の外観が低下する傾向にある。逆に、オレフィン系重合体セグメント(a)が99重量%を超える場合又はビニル系重合体セグメント(b)が1重量%未満の場合、熱可塑性樹脂に対する改良効果が不十分となる傾向にある。オレフィン系重合体セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)の割合を調整して、グラフト共重合体の極性を変更することにより、滑剤とグラフト共重合体との相互作用を調整することができる。
【0029】
グラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、一般に知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法でも良いが、下記に示す方法が最も好ましい。なぜならば、製造方法が簡便で、グラフト効率が高く、熱によるビニル系重合体セグメント(b)の二次的凝集が起こらず、グラフト共重合体を滑剤と混合しやすくなり、両者の相互作用に優れているためである。
【0030】
具体的には、まずオレフィン系重合体の粒子100重量部を水中に懸濁させる。そこへビニル系単量体1〜400重量部、ラジカル重合性有機過酸化物をビニル系単量体100重量部に対し20重量部以下及び10時間半減期を得るための分解温度40〜90℃のラジカル重合開始剤をビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物との合計100重量部に対し0.01〜8重量部の溶液を加える。
ここで、ラジカル重合性有機過酸化物とは、過酸化物結合とラジカル重合性の官能基を一分子中に有する化合物をいう。このラジカル重合性有機過酸化物として、例えば下記一般式(A)又は一般式(B)で表される化合物の1種又は2種以上の混合物が使用される。ラジカル重合性有機過酸化物の使用量は、ビニル系単量体100重量部に対して0.01〜15重量部であることが好ましい。
【0031】
次に、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件で加熱し、ビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤を前記オレフィン系重合体の粒子中に含浸させる。その含浸率が添加量の20重量%以上、好ましくは30重量%以上に達した時点で、この水性懸濁液の温度を上昇させ、ビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とを前記オレフィン系重合体粒子中で共重合させることによりグラフト化前駆体を得る。このグラフト化前駆体を100〜300℃で溶融、混合することにより、オレフィン系重合体セグメント(a)とビニル系重合体セグメント(b)とからなるグラフト共重合体が得られる。
【0032】
前記一般式(A)又は一般式(B)で表されるラジカル重合性有機過酸化物とは、次の化合物である。
【0033】
【化1】
(式中、R1は水素原子又はメチル基又はエチル基、R2は水素原子又はメチル基、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R5は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。mは1又は2である。)
また、前記一般式(B)で表されるラジカル重合性有機過酸化物とは、次の化合物である。
【0034】
【化2】
(式中、R6は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R7は水素原子又はメチル基、R8及びR9はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。nは0、1又は2である。)
前記一般式(A)又は一般式(B)で表されるラジカル重合性有機過酸化物として、具体的に好ましいのは、例えばt−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリルカーボネートである。
【0035】
以上の製造方法によって得られるグラフト共重合体は、通常オレフィン系重合体セグメント(a)を幹成分とし、ビニル系重合体セグメント(b)を枝成分とする構造を有しているが、製造条件によってはH型構造のものが含まれたり、不規則な構造を有するものとなる。なお、本実施形態のグラフト共重合体は上記ラジカル重合性有機過酸化物を必ずしも使用しなくても良いが、その場合には、得られるグラフト共重合体組成物中における滑剤の表面移行性の調整がしにくくなる。
【0036】
次に、グラフト共重合体組成物は、前記のようにして得られるグラフト共重合体を主成分とし、それに滑剤を含有するものであり、グラフト共重合体又はそのグラフト化前駆体と、滑剤とを溶融、混合することにより得られる。グラフト共重合体組成物をオレフィン系熱可塑性樹脂等の熱可塑性樹脂に配合したとき、熱可塑性樹脂又はその成形体の、特に耐摩耗性及び耐傷付き性を改良することができる。
【0037】
滑剤は、極性が高くグラフト共重合体との相互作用に優れ、滑性効果を有効に発揮できる脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体である。
脂肪酸アミドは炭素数10〜25の脂肪酸から形成される脂肪酸アミドであって、炭素数10未満の脂肪酸では前述の効果を十分に発揮することができない。
また、炭素数25を超える脂肪酸は入手が困難で実用的ではない。脂肪酸アミドとして具体的にはラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘミン酸アミド等の飽和脂肪族アミド、又はエルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エライジン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド、又はメチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等のビス脂肪酸アミド等が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でエルカ酸アミド、オレイン酸アミド又はエチレンビスオレイン酸アミドが好ましい。これらの中で特に滑性に優れているオレイン酸アミドが最も好ましい。
【0038】
アルキレンオキサイド誘導体としては、具体的にはポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールグリセリンエーテル、ポリエチレンルリコールジメチルエーテル等のポリエチレングリコール、ジオール及びトリオールのポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールビスフェノールAエーテル等のビスフェノールA誘導体、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)、ポリエチレングリコール−ポリピレングリコール等のポリアルキレングリコール誘導体、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル等のアリル化ポリエーテルが挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
これらのアルキレンオキサイド誘導体は、重量平均分子量100〜100000であることが望ましい。重量平均分子量が100〜100000であれば、グラフト共重合体と適度に相互作用が見られ、滑剤の表面移行を良好に調整することができるためである。これらの中でポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールが好ましく、特にポリエチレングリコールモノメチルエーテルがグラフト共重合体との相互作用に最も優れ、滑剤の表面移行を調整しやすいので好ましい。
【0040】
グラフト共重合体組成物を製造する際の加熱温度は70〜300℃が好ましい。この加熱温度が70℃未満の場合、グラフト共重合体と滑剤の溶融が不完全であったり、溶融粘度が高いため混合が不十分になり、相分離や層状剥離が現れるため好ましくない。300℃を超える場合、グラフト共重合体の分解が激しくなり好ましくない。
【0041】
グラフト共重合体組成物中におけるグラフト共重合体の占める割合は、グラフト共重合体が主成分であることが必要で、50〜99重量%が好ましく、60〜90重量%がさらに好ましい。従って、滑剤の占める割合は従成分であって、1〜50重量%が好ましく、10〜40重量%がさらに好ましい。グラフト共重合体が主成分でない場合滑剤の表面移行を調整できず、滑剤が含有されない場合滑剤による滑性が発揮されない。
【0042】
次に、熱可塑性樹脂組成物は、前記グラフト共重合体組成物とオレフィン系熱可塑性樹脂とから構成される。
オレフィン系熱可塑性樹脂としては、前述したオレフィン系重合体セグメント(a)を形成する原料であるオレフィン系重合体が主に使用される。すなわち、オレフィン系重合体としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンと炭素数が3以上のα−オレフィンとの共重合体、α−オレフィンとビニル単量体との共重合体、エチレン系共重合ゴム、オレフィン系エラストマー等が挙げられる。
これらに、さらに必要に応じてオレフィン系熱可塑性樹脂以外の汎用のゴム又は汎用の樹脂を配合しても良い。
【0043】
炭素数が3以上のα−オレフィンの具体例として、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン及びこれらの混合物等が挙げられる。エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。また、エチレン系共重合ゴムの具体例としてはエチレン−プロピレン共重合ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム、エチレン−オクテン共重合ゴム等が挙げられる。
【0044】
α−オレフィンとビニル単量体との共重合体の具体例として、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体又はそのケン化物等が挙げられる。
【0045】
オレフィン系エラストマーの具体例として、市販の例えば、ミラストマー(三井化学(株)製、商品名)、サントプレーン(エー・イー・エスジャパン(株)製、商品名)、住友TPE(住友化学(株)製、商品名)、キャタロイ(サンアロマー(株)製、商品名)などが挙げられる。また、汎用のゴムとして、例えばスチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム又はそれらの水添物等のスチレン系エラストマー、ニトリルゴム、天然ゴム、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴム、ポリイソブチレンゴム等が挙げられる。汎用の樹脂として、例えばポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは1種又は2種類以上組み合わせて使用される。
【0046】
上記の熱可塑性樹脂組成物は、グラフト共重合体組成物とオレフィン系熱可塑性樹脂とからなる組成物を120〜250℃で溶融、混合することによって製造される。この温度が120℃未満の場合、溶融が不完全になったり、溶融粘度が高いため混合が不十分になり、相分離や層状剥離が現れて好ましくない。一方、250℃を超える場合、樹脂や滑剤が分解するため好ましくない。溶融、混合する方法としては、押出混練法、ロール混練法など公知の方法が採用される。
【0047】
また、熱可塑性樹脂組成物は、必ずしもグラフト共重合体組成物をオレフィン系熱可塑性樹脂に混合して調製しなくてもよく、グラフト共重合体と滑剤とオレフィン系熱可塑性樹脂とを同時に混合して調製してもよい。これはオレフィン系熱可塑性樹脂中でグラフト共重合体と滑剤がグラフト共重合体組成物に変換されるからである。なお、グラフト化前駆体を用いて溶融、混合した場合、一部が滑剤又はオレフィン系熱可塑性樹脂と共重合してグラフト共重合体となる可能性があるが、差し支えない。
【0048】
さらに、熱可塑性樹脂組成物は、滑剤の表面移行についての調整を容易にするため、グラフト共重合体組成物と、少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性樹脂とを予め混合し、さらに少なくとも1種のオレフィン系熱可塑性樹脂と混合することによっても得ることができる。これらのオレフィン系熱可塑性樹脂は異なる種類のものでも構わない。
【0049】
熱可塑性樹脂組成物中におけるグラフト共重合体組成物の占める割合は1〜50重量%が好ましく、2〜30重量%がさらに好ましい。従って、熱可塑性樹脂組成物中におけるオレフィン系熱可塑性樹脂の占める割合は50〜99重量%が好ましく、70〜98重量%がさらに好ましい。グラフト共重合体組成物が1重量%未満であるとグラフト共重合体による特性の発現が不十分であり、一方50重量%を超えると得られる成形体の剛性及び耐熱性が低下し、好ましくない。
【0050】
熱可塑性樹脂組成物中における滑剤の占める割合は0.01〜10重量%が好ましく、0.1〜8重量%がさらに好ましい。滑剤が0.01重量%未満であると滑剤に基づく特性の発現が不十分であり、一方10重量%超えると得られる成形体の表面に滑剤のブリードが著しくなり、成形体の外観を悪化させるので好ましくない。
【0051】
熱可塑性樹脂組成物には、さらに本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、必要に応じハロゲン化スチレン等のハロゲン含有化合物や燐化合物等の難燃剤、炭素繊維やマイカ、タルク等の強化充填剤、フェノール系、アミン系、チオエーテル系、リン系等の酸化防止剤、安定剤、分散剤、発泡剤、架橋剤、紫外線防止剤、着色剤、鉱物油系軟化剤などを含有させることができる。
【0052】
本実施形態のグラフト共重合体組成物又は熱可塑性樹脂組成物を所定の成形法にて成形することにより成形体が得られる。成形法としては、一般に用いられる熱可塑性樹脂の成形機で成形する成形法が採用され、具体的にはカレンダー加工法、圧縮成形法、ブロー成形法、発泡成形法、押出成形法、射出成形法、真空成形法等を挙げることができる。成形体としては、シート、フィルム、中実成形体、中空成形体、発泡体等を挙げることができる。さらに、成形体としては、前記成形法により得られた成形体にウレタン系熱可塑性エラストマーをラミネートしたり、ポリウレタン塗料をグラビア印刷した多層の成形フィルムなどの形態であってもよい。
【0053】
成形体の応用例として、例えば車両用のウエザーストリップ、グラスランチャンネル、サイドモール、バンパー、泥よけなどの自動車外装材、インストルメントパネル、ドアトリム等の自動車内装材及びそれらの表皮材、ハンドル、グリップ、エアバッグカバー、コンソールボックス、シフトレバー等の自動車内装部品、電線被覆材、紙送りロール、雑貨などが挙げられる。
【0054】
さて、グラフト共重合体組成物は、オレフィン系重合体セグメント(a)及びビニル系重合体セグメント(b)からなるグラフト共重合体を主成分とし、滑剤として脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体を配合することによって調製される。グラフト共重合体のビニル系重合体セグメント(b)は(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を含有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体から形成される極性の高いものである。一方、滑剤としての脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体も極性の高いものである。このため、滑剤とグラフト共重合体との親和性に基づく相互作用により、滑剤はグラフト共重合体中に保持されやすくなる。従って、グラフト共重合体の内部から表面への滑剤の過剰な染み出し(ブリード)を防止することができる。
【0055】
一方、グラフト共重合体のビニル系重合体セグメント(b)を形成するビニル単量体として非極性のスチレン等を併用したり、またグラフト共重合体には非極性のオレフィン系重合体セグメント(a)が含まれている。そのため、滑剤とグラフト共重合体との反親和性に基づく相互作用により、滑剤はグラフト共重合体中から表面に移行しやすくなる。この場合、グラフト共重合体の表面又はその近傍に滑剤が移行し、移行した滑剤によってグラフト共重合体表面に滑性が発現される。従って、グラフト共重合体の構成を変更することにより、リリースコントロールを容易に行なうことができる。すなわち、グラフト共重合体の各セグメントの極性を高めることにより滑剤の表面への移行を抑制し、各セグメントの極性を低くすることにより滑剤の表面への移行を促進することができる。
【0056】
さらに、ビニル系重合体セグメント(b)の極性を高めることによってグラフト共重合体のガラス転移温度(Tg)が上がるため、このガラス転移温度を指標として滑剤の表面移行性を調整することができる。
【0057】
しかも、グラフト共重合体は多相構造型のものであって、一方のセグメントが他方のセグメントのマトリックス(海)中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相(島)を形成している。この分散相中に滑剤が含有されるとともに、分散相が微細であることから、その表面積が大きくなって滑剤とグラフト共重合体中のセグメントとの相互作用を効果的に発揮することができるものと考えられる。
【0058】
また、グラフト共重合体中のオレフィン系重合体セグメント(a)とオレフィン系熱可塑性樹脂とが同一であることなどから、グラフト共重合体とオレフィン系熱可塑性樹脂とが相溶性に優れている。しかも、前述のように滑剤とグラフト共重合体のビニル系重合体セグメント(b)とが共に極性が高いため相溶性に優れている。従って、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体の耐傷付き性、耐摩耗性、耐屈曲性等の機械的物性は良好に維持される。加えて、滑剤によりグラフト共重合体組成物又は熱可塑性樹脂組成物の流動性が良くなり、成形性が向上する。
【0059】
以上の実施形態により発揮される効果を以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態のグラフト共重合体組成物によれば、グラフト共重合体中のビニル系重合体セグメント(b)と滑剤とがともに極性を有することから、滑剤とグラフト共重合体との相互作用に優れ、リリースコントロールを容易に行なうことができる。従って、得られる成形体の表面に滑性を付与することができるとともに、外観を良好に維持することができる。また、滑剤とグラフト共重合体とが相溶性に優れている等の点から、耐傷付き性及び耐摩耗性が長期にわたり良好で、かつ成形性及び耐屈曲性を向上させることができる。
【0060】
・ グラフト共重合体を前記した特定の製造方法によって製造することにより、グラフト共重合体が簡便に得られ、そのグラフト効率が高いものとなる。しかも、得られるグラフト共重合体が微細な分散相を有するため、グラフト共重合体と滑剤との混合性が良く、両者の相互作用を向上させることができる。
【0061】
・ オレフィン系熱可塑性樹脂を主成分とし、前記グラフト共重合体組成物を配合することにより熱可塑性樹脂組成物が得られ、オレフィン系熱可塑性樹脂の用途に使用される。
【0062】
・ 前記グラフト共重合体組成物又は熱可塑性樹脂組成物を成形することにより成形体が得られる。この成形体は適用できる範囲が広く、多様な用途に展開でき、特にオレフィン系熱可塑性樹脂がオレフィン系エラストマーである場合には、通常の熱可塑性樹脂の成形機で加工が可能という特徴を生かして、自動車部品や家電部品或いは雑貨をはじめとする柔軟性が必要な幅広い分野に利用することができる。
【0063】
【実施例】
以下、参考例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、これらの参考例、実施例及び比較例における物性測定に用いた試験方法は以下の通りである。
(1)メルトフローレート(MFR): メルトインデクサー((株)東洋精機製作所製)を用い、JIS K 7210に準拠した方法により測定した。参考例1〜3、実施例25、27、比較例5、12は測定温度230℃、荷重21N(2.16kg・f)、実施例1〜24、比較例1〜4、9〜11、13〜16は測定温度230℃、荷重98N(10kg・f)の条件で測定した。また、参考例4、実施例26、比較例6〜8は測定温度190℃、荷重21N(2.16kg・f)の条件で測定した。
(2)硬度: 実施例1〜24、比較例1〜4、9〜11、13〜16ではJIS K 6301に準拠し、実施例25、27、比較例5、12ではJIS K6758に準拠し、そして実施例26、比較例6〜8では JIS K 7215に準拠して行った。
(3)ブリード性: 射出成形機(田端機械工業(株)製)を用い、ペレットから厚さ3mm、一辺90mmの正方形プレートを成形し、このプレートを70℃オーブン中に72時間放置し、プレート表面にブリードする滑剤を目視にて観察し、製品外観を下記評価基準で評価した。
【0064】
◎:ブリードは全くなし。 ○:ブリードが僅かにあり。 △:ブリードがあり。 ×:激しいブリードがあり。
(4)耐摩耗性: 学振式堅牢度摩擦摩耗試験機を用い、ブリード性試験で用いた試験片と同じ正方形プレート試験片に荷重6.9N(700g・f)の荷重をかけ、カナキン3号布(綿布)により100回往復摩耗させた後の試験片表面を目視にて観察し、下記評価基準で評価した。
【0065】
◎:傷跡がほとんど見られない。 ○:傷跡がやや目立つ。 △:傷跡が大きく目立つ。×:傷跡が大きく目立ち、かつ粉状の摩耗粉が多量に発生する。
(5)耐傷つき性: テーパースクラッチテスター((株)東洋精機製作所製)を用い、ブリード性試験で用いた試験片と同じ正方形プレート試験片に、回転中心から3.5cmの所に刃先がくるように刃を取り付け、ターンテーブルを0.5rpmの速度で回転させた状態で、刃に0.5Nの荷重をかけ試験片に傷をつけた。その傷を下記評価基準で評価した。
【0066】
◎:傷跡がほとんど見られない。 ○:傷跡がやや目立つ。 △:傷跡が大きく目立つ。 ×:傷跡が著しく目立つ。
(6)耐屈曲性: ブリード性試験で用いた試験片と同じ正方形プレート試験片を180度に3回折り曲げ、折れ皺を観察し、耐屈曲性を下記評価基準で評価した。
【0067】
◎:折れ皺がほとんど見られない。 ○:折れ皺が少し見られる。 △:折れ皺がはっきりと見られる。 ×:試験片に亀裂が見られる。
以下の参考例及び表中の略記号は次の物質を表す。
TPO−1: オレフィン系エラストマー(商品名:ミラストマー8030、三井化学(株)製)
TPO−2: オレフィン系エラストマー(商品名:住友TPE3885、住友化学(株)製)
TPO−3: オレフィン系エラストマー(商品名:ミラストマー5030、三井化学(株)製)
TPO−4: オレフィン系エラストマー(商品名:サントプレーン201−87、エー・イー・エスジャパン(株)製)
PE: ポリエチレン(商品名:スミカセンG401、住友化学(株)製)
mPE: ポリエチレン(商品名:スミカセンE、FV404、住友化学(株)製)
PP: ポリプロピレン(商品名:サンアロマーPB671A、サンアロマー(株)製)
EPR: エチレン−プロピレン共重合体(商品名:EP07P、日本合成ゴム(株)製)
EEA: エチレン−アクリル酸エチル共重合体(商品名:レクスロンA4200、日本ポリオレフィン(株)製)
EOR: エチレン−オクテン共重合体(商品名:エンゲージ8100.デュポン・ダウ・エラストマー(株)製)
MMA: メタクリル酸メチル
MAA: メタクリル酸
HPMA: メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル
BA: アクリル酸ブチル
St: スチレン
AN: アクリロニトリル
GMA: メタクリル酸グリシジル
OA: オレイン酸アミド(商品名:アルフローE−10:日本油脂(株)製)Sil: シリコーンオイル(商品名:SH200−12500:東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)
MEG: ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(商品名:ユニオックスM−550:日本油脂(株)製)
(参考例1、グラフト共重合体の製造)
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中にEPRを700g入れ、攪拌、分散した。別にラジカル重合開始剤としてのジ−3,5,5−トリメチルヘキサノイルペルオキシド1.5g、ラジカル重合性有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート9gをビニル系単量体としてのSt100g、BA100g及びHPMA100gの混合液に溶解させた。この溶液を前記オートクレーブ中に投入して攪拌した。
【0068】
次いで、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、3時間攪拌することによりラジカル重合開始剤、ラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体をEPR中に含浸させた。続いて、含浸されたビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤の合計量が添加量の30重量%以上になっていることを確認した。その後、温度を70〜75℃に上げ、その温度で6時間維持して重合を完結させ、水洗及び乾燥してグラフト化前駆体を得た。
【0069】
このグラフト化前駆体からテトラヒドロフランでスチレン−アクリル酸ブチル−メタクリル酸ヒドロキシプロピル共重合体を抽出し、GPCで重量平均分子量(THF中、スチレン換算による)を測定したところ、200,000であった。
【0070】
次に、このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)で180℃にて押し出し、グラフト化反応させることによりグラフト共重合体を得た。
【0071】
このグラフト共重合体を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製)により観察したところ、粒子径0.3〜0.4μmの真球状樹脂が均一に分散した多相構造型の熱可塑性樹脂であった。なお、このときスチレン−アクリル酸ブチル−メタクリル酸ヒドロキシプロピル共重合体のグラフト効率は55重量%であった。
(参考例2)
容積5リットルのステンレス製オートクレーブに、純水2500gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール2.5gを溶解させた。この中にEORを900g入れ、攪拌、分散した。
【0072】
別にラジカル重合開始剤としてのベンゾイルペルオキシド0.5g、ラジカル重合性有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート3gをビニル系単量体としてのMMA40g、BA20g及びMAA40gの混合液に溶解させた。この溶液を前記オートクレーブ中に投入して攪拌した。
【0073】
次いで、オートクレーブを60〜65℃に昇温し、2時間攪拌することによりラジカル重合開始剤、ラジカル重合性有機過酸化物及びビニル系単量体をPE中に含浸させた。続いて、含浸されたビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤の合計量が添加量の30重量%以上になっていることを確認した後、温度を80〜85℃に上げた。そして、その温度で5時間維持して重合を完結させた後、水洗及び乾燥してグラフト化前駆体を得た。
【0074】
このグラフト化前駆体からテトラヒドロフランでメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−メタクリル酸共重合体を抽出し、GPCで重量平均分子量(THF中、スチレン換算による測定)を測定したところ、800,000であった。
【0075】
次いで、このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)で200℃にて押し出し、グラフト化反応させることによりグラフト共重合体を得た。
【0076】
このグラフト共重合体を走査型電子顕微鏡((株)日立製作所製)により観察したところ、粒子径0.2〜0.3μmの真球状樹脂が均一に分散した多相構造型の熱可塑性樹脂であった。このとき、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−メタクリル酸共重合体のグラフト効率は90重量%であった。
(参考例3)
表1に示した成分及び配合割合に変更して、参考例1と同様の操作でグラフト共重合体を得た。
【0077】
【表1】
(実施例1〜10、グラフト共重合体組成物及び熱可塑性樹脂組成物の製造)
表2に示した成分及び配合割合でグラフト化前駆体又はグラフト共重合体と、滑剤としてのオレイン酸アミド又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルと、オレフィン系熱可塑性樹脂としてのEEA又はEORとをドライブレンドした。その後、シリンダー温度180℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して、グラフト共重合体組成物及び熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。それらのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表2に示した。
【0078】
【表2】
(実施例11〜20、熱可塑性樹脂組成物の製造)
表3に示した成分及び配合割合でグラフト共重合体組成物、熱可塑性樹脂組成物及びオレフィン系熱可塑性樹脂をドライブレンドした後、シリンダー温度180℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で溶融、混合して、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表3に示した。
【0079】
【表3】
(実施例21〜24、熱可塑性樹脂組成物の製造)
表4に示した成分及び配合割合で多段の溶融、混合により実施例11と同様の操作でオレフィン系熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表4に示した。
【0080】
【表4】
(実施例25〜27、熱可塑性樹脂組成物の製造)
表5に示した成分及び配合割合で多段の溶融、混合によりシリンダー温度200℃に設定されたスクリュー径30mmの同軸方向二軸押出機で実施例11と同様の操作でオレフィン系熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表5に示した。
【0081】
【表5】
(比較例1〜8)
実施例で用いたオレフィン系熱可塑性樹脂単体について各種物性試験を行った。その結果を表6に示した。
(比較例9〜14)
グラフト共重合体を含まないオレフィン系熱可塑性樹脂と滑剤よりなる組成物として、表6に示した成分及び配合割合で溶融、混合することによりペレットを得た。そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表6に示した。
【0082】
【表6】
(参考例4)
オレフィン系重合体としてmPEを用い、ビニル系単量体としてSt及びANを用い、表7に示す配合量にて、参考例1と同様にしてグラフト共重合体を得た。このグラフト共重合体の物性は表7に示す通りであった。
【0083】
【表7】
(比較例15、16熱可塑性樹脂組成物の製造)
オレフィン系熱可塑性樹脂、グラフト共重合体及び滑剤としてシリコーンオイルを表8に示した配合割合で、実施例11と同様の操作により熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。そのペレットを用い、各種物性試験を行った結果を表8に示した。
【0084】
【表8】
(実施例及び比較例のまとめ)
比較例1〜8のオレフィン系熱可塑性樹脂は良好な耐摩耗性及び耐傷つき性を得ることができなかった。また、耐摩耗性及び耐傷つき性の改良にオレイン酸アミド又はポリエチレングリコールモノメチルエーテルを用いた比較例9〜14では、耐摩耗性及び耐傷つき性は改善されるものの、滑剤の表面移行性が調整できずに、ブリード性の結果が非常に悪化するため、外観を良好に維持できないことが明らかとなった。
【0085】
また、比較例15に示したように、滑剤としてシリコーンオイルを用い、かつグラフト共重合体の極性が低い場合にはブリード性が不良であった。さらに、比較例16に示したように、グラフト共重合体の極性が高いときでも滑剤としてシリコーンオイルを用いた場合にはブリード性が見られた。
【0086】
一方、実施例1〜27の結果に見られるように、グラフト共重合体組成物を用いた場合、良好な耐摩耗性及び耐傷付き性を得ることができると同時に、ブリード性が良好で外観を良好に維持することができるという優れた結果が得られた。
また、MFRも良好であって成形性に優れ、折れ皺もなく耐屈曲性に優れていることが明らかとなった。
【0087】
なお、本発明は前記実施形態を次のように変更して実施することもできる。
・ 滑剤を予めオレフィン系熱可塑性樹脂に混合してマスターバッチを作製し、そのマスターバッチを用い、グラフト共重合体との配合割合を変えて熱可塑性樹脂組成物を調製することもできる。その場合、熱可塑性樹脂組成物の組成が異なるものを調製するときに取り扱いが簡単になって好ましい。
【0088】
・ 前記グラフト共重合体組成物をオレフィン系熱可塑性樹脂以外のポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ゴム、熱可塑性エラストマー等に配合して熱可塑性樹脂組成物を調製してもよい。
【0089】
・ グラフト共重合体として、ビニル系単量体よりビニル系重合体を形成し、そのビニル系重合体に対してオレフィン系単量体をグラフト重合して得られたものを用いてもよい。
【0090】
さらに、実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
・ 前記滑剤はアルキレンオキサイド誘導体である請求項1又は請求項2に記載のグラフト共重合体組成物。このように構成した場合、滑剤の極性が高く、グラフト共重合体との相互作用を高めることができる。
【0091】
・ 前記ビニル系重合体セグメント(b)は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体と、非極性又は弱極性のビニル単量体とから形成されるものである請求項1又は請求項2に記載のグラフト共重合体組成物。このように構成した場合、ビニル系重合体セグメント(b)の極性を変えることができ、滑剤の表面移行性を容易に調整することができる。
【0092】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば次のような効果を奏する。
第1の発明のグラフト共重合体組成物によれば、グラフト共重合体と滑剤との相互作用に優れ、得られる成形体の外観を良好に維持でき、耐傷つき性及び耐摩耗性が良好で、かつ成形性及び耐屈曲性にも優れている。
【0093】
第2の発明のグラフト共重合体組成物によれば、第1の発明の効果に加えて、グラフト共重合体が簡便に得られ、そのグラフト効率が高く、グラフト共重合体と滑剤との混合性が良く、両者の相互作用を向上させることができる。
【0094】
第3の発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、オレフィン系熱可塑性樹脂の用途において第1又は第2の発明の効果を発揮することができる。
第4の発明の成形体によれば、第1又は第2の発明のグラフト共重合体組成物から得られる成形体について、第1又は第2の発明の効果を発揮することができる。
【0095】
第5の発明の成形体によれば、第3の発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体について、第3の発明の効果を発揮することができる。
Claims (5)
- オレフィン系重合体セグメント(a)と、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体から形成されるビニル系重合体セグメント(b)とからなり、一方のセグメントが他方のセグメント中に粒子径0.001〜10μmの微細な粒子として分散相を形成している多相構造型のグラフト共重合体を主成分とし、滑剤として脂肪酸アミド又はアルキレンオキサイド誘導体を含有することを特徴とするグラフト共重合体組成物。
- 前記グラフト共重合体が、オレフィン系重合体を水中に懸濁させ、そこへ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジル及びヒドロキシル基を有するビニル単量体からなる群より選択される少なくとも1種のビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤からなる溶液を加え、ビニル系単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤をオレフィン系重合体粒子中に含浸させ、オレフィン系重合体粒子中でビニル系単量体とラジカル重合性有機過酸化物とを共重合した後、溶融、混合することにより得られるものである請求項1に記載のグラフト共重合体組成物。
- オレフィン系熱可塑性樹脂を主成分とし、請求項1又は請求項2に記載のグラフト共重合体組成物を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
- 請求項1又は請求項2に記載のグラフト共重合体組成物を成形して得られる成形体。
- 請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体。
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