JP2004161873A - 多分岐高分子、その製造方法、固体電解質及び電気化学素子並びに分離膜 - Google Patents
多分岐高分子、その製造方法、固体電解質及び電気化学素子並びに分離膜 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】液状成分を含まず高いイオン伝導性を有し機械的強度に優れた固体電解質の基材高分子となる多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質、及びその固体電解質を含んだ電気化学素子、並びにその多分岐高分子を基材とした分離膜を提供する。
【解決手段】主鎖と主鎖に多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合した側鎖を有する多分岐高分子であって、主鎖はガラス転移温度が60℃以上の単量体同士の共重合体、ガラス転移温度が60℃以上の単量体と結晶性の単量体との共重合体、又は結晶性の単量体同士の共重合体の何れかから成るハードセグメントで構成され、側鎖は主鎖にガラス転移温度が−20℃以下の単量体をグラフト重合又はグラフト共重合したソフトセグメントで構成されている多分岐高分子とした。
【選択図】 図1
【解決手段】主鎖と主鎖に多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合した側鎖を有する多分岐高分子であって、主鎖はガラス転移温度が60℃以上の単量体同士の共重合体、ガラス転移温度が60℃以上の単量体と結晶性の単量体との共重合体、又は結晶性の単量体同士の共重合体の何れかから成るハードセグメントで構成され、側鎖は主鎖にガラス転移温度が−20℃以下の単量体をグラフト重合又はグラフト共重合したソフトセグメントで構成されている多分岐高分子とした。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を用いた固体電解質及び電気化学素子並びに分離膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電池、コンデンサー、エレクトロクロミック素子などの電気化学素子の開発において、液状電解質を用いることによって必要となる液漏れ対策や可燃性電解液の着火性低減対策の問題、及びこれらの電気化学素子をフィルム状化することによる電子機器への組み込み性の向上とスペースの有効利用等の見地より、その主要構成要素である電解質を固体化する研究が精力的に行われている。かかる電気化学素子用の固体電解質の特性としては、広い温度範囲での液体並の高いイオン伝導度と共に、成膜性/隔膜としての機械的強度などが求められ、更には、金属リチウム二次電池に使用し得ることが望まれるが、これらの性能を十分に達成できる固体電解質は未だ得られていない。
【0003】
例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等には、かかる電解質の固体化を目的とした完全固体電解質が開示されているが、これらの完全固体電解質はイオン伝導度が低く実用性が十分ではない。また、特許文献4には、機械的強度に優れ且つ高いイオン伝導度を有する固体電解質の提供を目的に、その基材高分子となる多分岐高分子が開示されているが、開示されている多分岐高分子は、イオン伝導性は高いものの、ガラス転移温度が低いセグメントがその主鎖(骨格)に存在するため、機械的強度は満足し得るものではない。即ち、特許文献4には、その機械的強度は開示されていないが、その固体電解質を含んでなる電池の実施の形態として、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子化合物からなる補強部材であるセパレーターが示されており、この従来技術による電池などの電気化学素子は、そのセパレーター分だけ性能が低下し、またコスト高になる。
【0004】
なお、例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9等には、高分子固体電解質に有機溶媒を含有させてゲル化し、イオン伝導度を改善したポリマーゲル電解質が提案されているが、これらのポリマーゲル電解質は可燃性の電解液を含むため、液漏れ対策や着火性低減対策が必要であり、本来の意味での完全固体化を実現するものではない。また、ポリマーゲル電解質は、金属リチウムを用いた場合のデンドライド生成を完全には防ぐことが出来ないため、ポリマーゲル電解質を用いた二次電池では金属リチウムを使用できないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】
特開昭58−001973号公報
【特許文献2】
特開昭58−019807号公報
【特許文献3】
特開昭58−075779号公報
【特許文献4】
特開2001−181352号公報
【特許文献5】
特開昭59−196577号公報
【特許文献6】
特開昭61−214374号公報
【特許文献7】
特開平10−213355号公報
【特許文献8】
特開平10−302837号公報
【特許文献9】
特表平08−507407号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、固体電解質に係るかかる状況に鑑み、液状成分を含まず高いイオン伝導性を有し機械的強度に優れた固体電解質の基材高分子となる多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質、及びその固体電解質を含んだ電気化学素子を提供することを目的とする。更に、本発明は、その多分岐高分子を基材とした分離膜を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1の発明は、主鎖と該主鎖に多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合した側鎖を有する多分岐高分子であって、該主鎖はガラス転移温度が60℃以上の単量体同士の共重合体、ガラス転移温度が60℃以上の単量体と結晶性の単量体との共重合体、又は結晶性の単量体同士の共重合体の何れかから成るハードセグメントで構成され、該側鎖は該主鎖にガラス転移温度が−20℃以下の単量体を多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合したソフトセグメントで構成されている多分岐高分子である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の多分岐高分子の好ましい第一の形態に係り、少なくとも、式(I)
【0009】
【化8】
【0010】
(式中、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、二トリル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示す。)で表される単量体(A)及び式(II)
【0011】
【化9】
【0012】
(式中、R5〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、二トリル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示し、R8は炭素数1〜4のα―ハロアルキル基、又はイニファータ基を示す。)で表される単量体(B)を含有してなる混合物を共重合させて得られる直鎖高分子をマクロイニシエーターとして、この高分子上に式(III)
【0013】
【化10】
【0014】
(式中、R9〜R11はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R12は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜20の整数を示す。)で表される単量体(C)、又は式(IV)
【0015】
【化11】
【0016】
(式中、R13〜R15はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R16は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜20の整数を示す。)で表される単量体(D)を多分岐にグラフト重合させて得られる多分岐高分子である。
【0017】
請求項3の発明は、請求項1の多分岐高分子の好ましい第二の形態に係り、少なくとも、前記単量体(A)及び式(V)
【0018】
【化12】
【0019】
(式中、R17〜R19はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、二トリル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示し、R20はアミノ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアナート基、チオール基、又はリン酸基を示す。)で表される単量体(E)を含有してなる混合物を共重合させて得られる直鎖高分子に式(VI)
【0020】
【化13】
【0021】
(式中、R21〜R22はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示し、R23は単量体(E)のR20に対応してそれぞれアミノ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアナート基、チオール基、又はリン酸基を示し、R24は炭素数1〜4のα―ハロアルキル基、又はイニファータ基を示す。)で表される化合物(F)を修飾させて得られる直鎖高分子をマクロイニシエーターとして、この高分子上に単量体(C)又は単量体(D)を多分岐にグラフト重合させて得られる多分岐高分子である。
【0022】
請求項4の発明は、請求項1の多分岐高分子の好ましい第三の形態に係り、前記の単量体(A)と単量体(B)とを含有する混合物の共重合で得られるマクロイニシエーター、若しくは、前記の単量体(A)と単量体(E) とを含有する混合物の共重合で得られる直鎖状高分子に前記化合物(F)を修飾させたマクロイニシエーターに式(VII)
【0023】
【化14】
【0024】
(式中、R25〜R27はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、二トリル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示し、R28はベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基を示す。)で表される化合物(G)と、前記単量体(C)又は前記単量体(D)とを多分岐にグラフト共重合させて得られる多分岐高分子である。
【0025】
請求項5から請求項7の発明は、本発明の多分岐高分子の製造方法であって、請求項5の発明は、リビングラジカル重合によりグラフト重合又はグラフト共重合を行うことを特徴とする多分岐高分子の製造方法であり、請求項6の発明は、そのリビングラジカル重合を金属触媒の存在下で行う製造方法であり、請求項7の発明は、その金属触媒が塩化銅(I)又は臭化銅(I)と2,2’−ビピリジル誘導体のコンプレックスであることを特徴とする多分岐高分子の製造方法である。
【0026】
請求項8から請求項12の発明は、本発明の固体電解質であって、請求項8の発明は、請求項2又は請求項3の多分岐高分子を基材高分子として、少なくともその基材高分子と電解質塩からなる固体電解質であり、請求項9の発明は、その電解質塩がリチウム塩であることを特徴とする固体電解質である。請求項10の発明は、請求項2又は請求項3の多分岐高分子を基材高分子として、少なくともその基材高分子と高分子電解質からなる固体電解質であって、単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体をその高分子電解質とした固体電解質である。請求項11の発明は、請求項4の多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質であり、請求項12の発明は、その多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンがリチウムイオンである請求項11の固体電解質である。
【0027】
請求項13の発明は、本発明の電気化学素子であって、請求項8乃至請求項11の固体電解質を含んでなる電気化学素子である。
【0028】
請求項14から請求項17の発明は、本発明の分離膜であって、請求項14の発明は、請求項2乃至請求項4記載の多分岐高分子、又は請求項8、請求項10、請求項11の何れかに記載の固体電解質、を膜の基材とした炭酸ガス選択用の分離膜であり、請求項15の発明は、少なくとも基材高分子と電解質塩からなる分離膜であって、該基材高分子が請求項2又は請求項3の多分岐高分子であり、該電解質塩が銀塩であるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜である。請求項16の発明は、少なくとも基材高分子と高分子電解質からなる分離膜であって、該基材高分子が請求項2又は請求項3記載の多分岐高分子であり、該高分子電解質が単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体であり、該高分子電解質の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜である。請求項17の発明は、少なくとも請求項4記載の多分岐高分子を基材高分子とする分離膜であって、該多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜である。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明の多分岐高分子の最大の特徴は、主鎖をハードセグメントのみで構成し、その主鎖にソフトセグメントを多分岐にグラフト重合、又はグラフト共重合した側鎖を有する多分岐グラフトポリマー構造にある。即ち、本発明の多分岐高分子は、主鎖はガラス転移温度が60℃以上の単量体同士の共重合体、ガラス転移温度が60℃以上の単量体と結晶性の単量体との共重合体、又は結晶性の単量体同士の共重合体の何れかから成るハードセグメントで構成され、側鎖は主鎖にガラス転移温度が−20℃以下の単量体を多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合したソフトセグメントで構成されていることを最大の特徴とする。
【0030】
図1は、その構造を概念的に示した模式図であり、ハードセグメントから成る主鎖は主として機械的強度に係り、ソフトセグメントから成る側鎖は主としてイオン伝導度に係る。ハードセグメントのみで構成した主鎖は、例えば、この多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質に、汎用高分子に近い高い機械的強度を与えると共に、ハードセグメント部がソフトセグメント部の結晶化度を低下させるため高いイオン伝導度を与えることに寄与する。本発明の多分岐高分子の機械的性質、電気化学的性質は、図1に示すグラフト側鎖の平均距離、グラフト長、分岐グラフトの長さに大きく依存するが、本発明は、後述するように、これらの値を精密に制御することができる。
【0031】
かかるハードセグメントを構成するガラス転移温度が60℃以上の単量体としては、スチレン基、メチルアクリレート基、メチルメタクリレート基、ブチルメタクリレート基、塩化ビニル基、アクリロニトリル基、ブタジエン基、クロロプレン基、イソプレン基、フッ化ビニリデン基などが挙げられ、ハードセグメントを構成する結晶性の単量体としては、ビニルアルコール基、エチレン基、プロピレン基、エチレンテレフタレート基、オキシメチレン基などが挙げられる。ソフトセグメントを構成する単量体としては、ポリエチレンオキサイド基、ポリプロピレンオキサイド基などが挙げられる。
【0032】
次に、本発明の多分岐高分子の好ましい実施の形態について、更に具体的に説明する。その第一の形態は、少なくとも、上記の式(I)で表される単量体(A)と、式(II)で表される単量体(B)を含有してなる混合物を共重合させて得られる直鎖高分子をマクロイニシエーターとし、その高分子上の単量体(B)のR8の官能基をグラフト重合開始点として、その高分子上に式(III)で表される単量体(C)、又は式(IV)で表される単量体(D)を多分岐にグラフト重合させて得られる多分岐高分子として実施するものである。即ち、この形態は、ハードセグメントから成る多分岐高分子の主鎖を、グラフト重合開始点となる官能基を有さない単量体(A)と、グラフト重合開始点となる官能基R8を有する単量体(B)とを共重合させて、グラフト重合用のマクロイニシエーターとして合成し、しかる後、そのマクロイニシエーター上のグラフト重合開始点となる官能基を用いて、単量体(C)又は単量体(D)をグラフト重合させてソフトセグメントから成る側鎖を形成するものである。なお、共重合させる混合物の式(I)で表される単量体(A)と式(II)で表される単量体(B)との組合せは、それぞれ一種類とした組合せに限定されず、一方を一種類とし他方を複数種類とする組合せでもよく、又、それぞれを共に複数種類とする組合せでもよい。
【0033】
この共重合により主鎖を合成する形態は、グラフト重合開始点となる官能基を有さない単量体と、グラフト重合開始点となる官能基を有する単量体との共重合組成比を変えることにより、多分岐グラフト側鎖の平均距離となる主鎖上に存在するその官能基の平均距離を制御することができる形態であり、本発明の好ましい実施の形態の一つである。
【0034】
なお、本明細書において、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。炭素数1〜4のα―ハロアルキル基としては、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、1−クロロエチル基、1−クロロプロピル基、1−クロロ−1−メチルエチル基、1−クロロブチル基、1−クロロ−1−メチルプロピル基等が挙げられる。炭素数1〜4のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等が挙げられる。式(III)と式(IV)において、nは1〜20、好ましくは2〜15の整数を示す。
【0035】
本発明の多分岐高分子の好ましい第二の形態は、少なくとも、前記の単量体(A)と、式(V)で表される単量体(E)を含有してなる混合物を共重合させて得られる直鎖高分子に、式(VI)で表される化合物(F)を修飾させて得られる直鎖高分子をマクロイニシエーターとし、その高分子上の化合物(F)のR24の官能基をグラフト重合開始点として、この高分子上に単量体(C)又は単量体(D)を多分岐にグラフト重合させて得られる多分岐高分子として実施するものである。第一の形態は、グラフト重合用のマクロイニシエーターを、一段階の反応、即ち、主鎖を合成する共重合よって得る形態であるのに対し、第二の形態は、主鎖を合成する共重合を行い、しかる後に、その主鎖にグラフト重合開始点となる官能基R24を有する化合物(F)を修飾する二段階の反応によってマクロイニシエーターを得る形態であって、本発明は、いずれの形態を用いてもよい。なお、化合物(F)の修飾は、単量体(E)のR20と化合物(F)のR23とが有する対応する官能基、即ち、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアナート基、チオール基、又はリン酸基のいずれかを用いて行われる。共重合させる混合物の単量体(A)と式(V)で表される単量体(E)との組合せは、それぞれ一種類とした組合せに限定されず、一方を一種類とし他方を複数種類とする組合せでもよく、又、それぞれを共に複数種類とする組合せでもよい。
【0036】
本発明の多分岐高分子の好ましい第三の形態は、前記の単量体(A)と単量体(B)とを含有する混合物の共重合で得られるマクロイニシエーター、若しくは、前記の単量体(A)と単量体(E) とを含有する混合物の共重合で得られる直鎖状高分子に前記化合物(F)を修飾させたマクロイニシエーターに、式(VII)で表される化合物(G)と、前記単量体(C)又は前記単量体(D)とを多分岐にグラフト共重合させて得られる多分岐高分子である。即ち、第一の形態と第二の形態は、一種類の単量体をグラフト重合してソフトセグメントから成る側鎖を形成するのに対し、この第三の形態は、複数の単量体をグラフト共重合させてソフトセグメントから成る側鎖を形成する形態であって、本発明は、いずれの形態を用いてもよい。
【0037】
主鎖を合成する共重合は、特に本発明を限定するものではないが、例えば、前記の原料混合物を溶媒に溶解させ、重合開始剤等の触媒を用いて行うことができる。溶媒としては、水、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、ベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、特にはジメチルスルホキシド、トルエンが好ましい。溶媒の量は、通常、原料混合物100重量部に対して、50〜500重量部程度が好ましい。
【0038】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、ペルオキシピバル酸t−ブチル、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられ、重合開始剤の使用量は、通常、原料混合物100重量部に対して、0.05〜5重量部程度が好ましい。反応温度は、特に限定されないが、通常、20〜200℃が好ましく、反応雰囲気は、大気であってもよく、或いは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気でもよい。
【0039】
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、1H―NMR測定等により容易に確認することができ、反応終了後は、濾過、濃縮、抽出、精製等の公知の操作により、得られた直鎖高分子を単離することができる。
【0040】
側鎖を形成するグラフト重合又はグラフト共重合(以下、単に「グラフト重合」ということがある。)は、特に本発明を限定するものではないが、リビングラジカル重合により行うことが好ましい。リビングラジカル重合は、得られる高分子の分子量分布が狭いという特徴があり、単量体の種類や量、触媒の投入量や投入時期を調節することにより、グラフト長や分岐グラフトの長さを精密に制御することができる。なお、前記共重合反応の終了後、反応溶液から生成したマクロイニシエーターを単離することなく、その反応溶液中で直鎖高分子のグラフト重合を行ってもよい。
【0041】
リビングラジカル重合は、特に本発明を限定するものではないが、金属触媒の存在下で行うことが好ましい。金属触媒としては、銅触媒が好ましく、特には塩化銅(I) と2,2’−ビピリジル誘導体のコンプレックスが好ましい。金属触媒の使用量は、グラフト重合の開始点となる官能基のモル数に対して、0.8から2倍量が好ましい。
【0042】
溶媒としては、NMP、トルエン、DMF等が挙げられ、溶媒の量は、通常、単量体の総量100重量部に対して、50〜500重量部程度が好ましい。反応温度は、通常、20〜200℃が好ましく、反応雰囲気は、大気であってもよく、或いは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気でもよい。
【0043】
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、1H―NMR測定等により容易に確認することができ、反応終了後は、濾過、濃縮、抽出、精製等の公知の操作により、得られた多分岐高分子を単離することができる。このグラフト重合により得られる多分岐高分子の数平均分子量は、特に限定されないが、4,000〜1,000,000が好ましく、8,000〜700,000がより好ましい。なお、多分岐高分子の数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定することができる。
【0044】
かかる実施の形態で合成される本発明の多分岐高分子において、グラフト側鎖の平均距離は、グラフト側鎖1つに対して主鎖の繰り返し単位が5〜1,000が好ましい。グラフト側鎖の平均距離が短くなると、導入しているハードセグメントの機械的強度が強いという特質が失われ、グラフト側鎖の平均距離が大きくなると、均一な特質が得られなくなる。即ち、マクロイニシエータ(主鎖部分)の長さは、実際上、限られた値になるため、グラフト側鎖の平均距離が大きくなるということは主鎖一本あたりに付くグラフト側鎖の数が減ることを意味し、極端な場合、確率的に主鎖に付くグラフト側鎖が0本とか数本という状態、即ち、性質の違ったポリマーの混合物となり、固体電解質などこの多分岐高分子を応用するときに均一な性能が得られなくなる。
【0045】
グラフト長は、特に本発明を限定するものではないが、グラフト鎖の繰り返し単位で5〜1,000が好ましく、特には30〜100が好ましい。分岐グラフトの長さは、繰り返し単位で1〜100が好ましく、特には3〜15が好ましい。グラフト長と分岐グラフトの長さは共に、固体電解質で言えばイオン伝導性、ガス分離で言えば炭酸ガスの透過性やオレフィン/パラフィン分離性などの機能性に大きく関係し、一般には、このグラフト鎖についているエーテル基にリチウムイオン(リチウム電池の場合)や、炭酸ガス(炭酸ガス分離膜の場合)、銀イオン(オレフィン/パラフィン分離膜の場合)が溶け込むことになるため、単位重量あたりのエーテル基の数は多い方がその機能性が向上する。一方、エーテル基の数を多くするためにはグラフト長や分岐グラフトの長さを長くする必要があるが、これは、グラフト鎖同士が絡み合い、またはより結晶化することによってイオンや炭酸ガスなどの移動が難しくなることを意味し、長くし過ぎるその機能性は逆に低下する。また合成した多分岐高分子がゲル化し易くなり、フィルム成型性が悪くなる。即ち、本発明は、グラフト側鎖の平均距離、グラフト長、分岐グラフトの長さを精密に制御して多分岐高分子を合成する形態で実施することができ、これにより本発明をより効果的に実施することができる。
【0046】
本発明では更に、このようにして得られた多分岐高分子からなる基材高分子と電解質塩とを含有した固体電解質を提供する。即ち、例えば、上記の好ましい第一の形態、又は第二の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とし電解質塩を含有した固体電解質であって、その含有する電解質塩としては、LiClO4 、LiPF6、LiBF4 、LiAsF6 、LiSbF6 、CF3 SO3 Li、CF3CO2Li、C2F4(SO3Li)2 、(CF3SO2)2NLi、(CF3SO2)3CLi、LiClF4 、LiAlCl4 、LiAlO4 、LiCl、LiI、これらの混合塩等のリチウム塩電解質が好ましく、LiPF6 、LiBF4 、(CF3SO2)2NLi及び(CF3SO2)3CLiが特に好ましい。固体電解質中の電解質塩の含有量は、固体電解質の基材高分子である多分岐高分子のエチレンオキシドユニット(エチレングリコールユニット)、即ち、−OCH2CH2O−に対し、0.5〜200モル%が好ましく、10〜120モル%がより好ましい。なお、第一の形態、又は第二の形態請で得られた多分岐高分子を基材高分子とし、単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体を高分子電解質として、その高分子電解質を含有した固体電解質として実施することもできる。
【0047】
本発明の固体電解質は又、上記の好ましい第三の形態で得られた多分岐高分子、即ち、高分子自体に荷電基が存在する多分岐高分子、例えば、その多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンがリチウムイオンなどの金属イオンである多分岐高分子を基材高分子として実施することもできる。かかる形態によれば、多分岐高分子自体が荷電基を有するため金属塩を添加する必要がなく、電池に利用する場合、高分子内で動けるイオンがカチオンだけであり、充電するとき、アニオンの移動はなくその充電電流が全てカチオンの移動に使われる、電流効率100%の電池を構成することができる。また、この多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンを水素イオンとした固体電解質は、燃料電池用電解質として有効である。
【0048】
本発明の固体電解質には、必要に応じて、電気化学的に不活性な可塑剤、酸化チタン、酸化珪素等の金属酸化物、プラスチックフィラー、イオン伝導性フィラー等が添加されていてもよい。
【0049】
本発明の固体電解質は、例えば、本発明の多分岐高分子である基材高分子及び電解質塩をアセトン、THF、トルエン、DMF等の溶媒に溶解させ、このポリマー溶液を平滑な板上に薄くキャストした後、有機溶媒を蒸発させるという極めて簡単なプロセスにより、任意な厚みの薄膜に形成して得ることができ、例えば、50μm以下の任意な厚みの薄膜に形成して得ることができる。
【0050】
更に、本発明は、本発明の固体電解質を含んでなる電気化学素子を提供する。かかる電気化学素子としては、一次、二次電池、コンデンサー、エレクトロクロミック素子、有機太陽電池、燃料電池等が挙げられ、本発明の固体電解質は、それらの電解質、電極バインダー等として使用することができるが、特にリチウム二次電池、コンデンサーの電解質として有効である。
【0051】
本発明の電気化学素子が好ましく適用される電池としては、容器、正負極端子等からなる、角型、円筒型、コイン型、ペーパー型等の各種電池が挙げられる。リチウム二次電池の場合、正極材料としては、例えば、LiCoO2 、LiNiO2 、LiMnO4 等が挙げられ、負極材料としては、リチウム金属、リチウムイオンを吸蔵・脱離することのできるカーボンで石油系コークス、天然グラファイト、グラファイト化メソフェーズ小球体、PIC(Pseudo Isotropic Carbon)、FMC(Fine Mosaic Carbon)、有機物の焼成品等が挙げられる。
【0052】
固体電解質が実用電池に使用し得るためには、広い温度範囲での液体並のイオン伝導度、電極(リチウム)/電解質界面の低抵抗化、レドックス反応安定性、成膜性/隔膜としての強度、不燃性、難燃性、自己消火性等の燃焼特性が求められるが、本発明の多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質はこれらの性能を満足するものである。例えば、本発明の固体電解質は、室温で0.1mS/cm以上の高いリチウムイオン伝導度を有し、厚み50μm以下の薄膜状に加工可能であり、最大破断強度1MPa以上、弾性率(ヤング率)10MPa以上の高い機械的強度を有し、熱的、化学的、電気化学的に安定であり、本発明は、実用電池等に使用し得る、液状成分を含まない固体電解質を提供することができる。
【0053】
本発明は又、本発明の多分岐高分子を含んでなる分離膜を提供する。即ち、例えば、上記の好ましい第一の形態乃至第三の形態で得られた多分岐高分子や、第一の形態又は第二の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子としこれに電解質塩又は高分子電解質を含んでなる固体電解質、或いは、第三の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質は、炭酸ガスの選択透過性を有し、この多分岐高分子を膜の基材として炭酸ガス選択用の分離膜を得ることができる。また、第一の形態又は第二の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とし銀塩を電解質塩として、少なくともその基材高分子と電解質塩からなるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜を得ることができ、更に又、第一の形態又は第二の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とし、単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体を高分子電解質として、少なくともその基材高分子とその高分子電解質からなり、高分子電解質の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜を得ることができる。また、第三の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とし、その多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜を得ることもできる。
【0054】
以上、詳細に説明した実施の形態により、本発明は、液状成分を含まず高いイオン伝導性を有し機械的強度に優れた固体電解質の基材高分子となる多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質、及びその固体電解質を含んだ電気化学素子を提供することができる。更に、本発明は、その多分岐高分子を基材とした分離膜を提供することができる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、具体的に説明する。本実施例は、単量体(A)と単量体(B)を共重合してハードセグメントから成るマクロイニシエーターを合成し、しかる後、リビングラジカル重合により、このマクロイニシエーターに単量体(C)をグラフトしてソフトセグメントから成る側鎖を形成し、本発明の多分岐高分子を合成したものであり、用いた単量体(A)はメチルメタクリレート(ガラス転移温度:105℃)、単量体(B)は4−クロロメチルスチレン(ガラス転移温度:100℃)、単量体(C)はPoly(ethylene glycol) methyl ether methacrylate(ガラス転移温度:−65℃)である。
【0056】
先ず、単量体(A)と単量体(B)の共重合によるマクロイニシエーターの合成について説明する。単量体(A)としてメチルメタクリレート(MMA:Aldrich ChemicalCo.)40mlを用い、単量体(B)としては種々の量(1.5ml、1.0ml、0.5ml、0.25ml)の4−クロロメチルスチレン(CMS:Aldrich Chemical Co.)を用い、その単量体混合物をトルエン20mlに溶解した。即ち、本実施例は、単量体混合物の組成比を変えた4ケースについて、マクロイニシエーターの合成を行ったものである。この溶液に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(2,2’−Azobis−isobutyronitrile)0.03g加え、アルゴンでバブリングした後、シールして80℃で2時間加熱撹拌して反応させた。反応液を室温に冷却した後、1700mlのメタノール中に撹拌しながら入れると、沈殿が得られた。上澄みを除去し、沈殿物を30mlのトルエンに溶解させて、1700mlのメタノール中に入れてよく撹拌し、上澄みを除去した。その残渣を一晩減圧乾燥して、マクロイニシエーターを得た。
【0057】
得られたマクロイニシエーターの分子量は、GPC(日立(株)、L−3350)で測定した結果、数平均分子量310,000であった。1H―NMR測定(日本電子データム(株)JNM−FX270)では、δ=約4.5ppmにベンジル位のプロトンシグナルが見られ、また3.6〜3.8ppmにメチルメタクリレートのメチル基のプロトンシグナルが観測された。この2つのピークの比から、マクロイニシエーター中の4−クロロメチルスチレンのモル分率を計算した。その結果を、単量体混合物中の4−クロロメチルスチレンモノマーのモル分率をパラメータとして、図2に示す。図2は、単量体混合物中の4−クロロメチルスチレンモノマーのモル分率を変えることにより、マクロイニシエーター中のグラフト重合開始点となる官能基を有する4−クロロメチルスチレンのモル分率、即ち、多分岐グラフト側鎖の平均距離となる主鎖上に存在するその官能基の平均距離を精密に制御できることを示している。
【0058】
次に、このマクロイニシエーターにソフトセグメントから成る側鎖をグラフトした、グラフト重合について説明する。4−クロロメチルスチレンを0.5ml加えて作製したマクロイニシエーター4.0gをN−methyl−2−pyrrolidinone無水物40ml中に溶解させた。上記のNMR測定の結果より、マクロイニシエーター4.0g中には、0.368ミリモルのクロロメチル基が存在することが確認できたため、このクロロメチル基のモル数に対応するモル数の塩化銅(I)0.042g(0.42ミリモル)及び4,4‘−dimethyl−2,2’−dipyridyl 0.152g(0.8ミリモル)、Poly(ethylene glycol)methyl ether methacrylate)[Mw=475](POEM:Aldrich Chemical Co.)10mlを加えた。アルゴンガスでバブリングした後、密栓し、90℃、19時間加熱撹拌し反応させた。反応溶液をエタノール200ml、石油エーテル1600mlの混合溶媒中に撹拌しながら滴下すると、粘度のある沈殿を生じた。上澄みを除去した後、この残渣をトルエン200mlに溶解させ、アルミナが入ったカラム中に流し込み、カラムから流れ出る溶液を石油エーテル中に入れて沈殿を生じさせた。上澄みを除去した後、この沈殿物を24時間減圧乾燥し目的の多分岐高分子を得た。
【0059】
得られた多分岐高分子の1H―NMR測定では、δ=約4.5ppmのベンジル位のプロトンシグナルがほぼ消失し、δ=約3.4ppm、及びδ=約4.1ppmにエーテル位のプロトンシグナルが観測されたことから、ハードセグメントに存在するほぼ全てのクロロメチル基にPOEMの多分岐側鎖がついたことが確認できた。
【0060】
次に、この多分岐高分子を用いて固体電解質を作製した。即ち、この多分岐高分子とLiClO4をアセトン中に溶解させ、そのポリマー溶液を平滑な板上に薄くキャストした後、有機溶媒を蒸発させるというキャスト法により、薄膜(膜厚:約100μm)に形成した固体電解質膜を作製した。
【0061】
以下、上記の操作で得られた固体電解質膜の評価試験を行った結果について説明する。この試験の供試体は、作製した固体電解質膜を減圧乾燥機で一日乾燥(25℃、1.3×10−2 Pa)したものであって、先ず、機械的強度を測定した結果について説明する。機械的強度の評価は、その固体電解質膜から5mm×20mmの試験片を切り出し、引っ張り試験機(島津Eztest)を用いて応力〜歪曲線を測定し、その結果より最大破断強度、ヤング率を求めることで行った。その結果の一例を表1に示す。表1に示すように、本実施例の固体電解質膜は、最大破断強度1MPa以上、弾性率(ヤング率)10MPa以上という高い機械的強度を有している。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、イオン伝導度を測定した結果について説明する。イオン伝導度の測定は、上記の固体電解質膜を直径13mmの円状にポンチで打ち抜き、SUS電極を用いた伝導率測定セルを用いて周波数10KHz、振幅50mVの交流信号を印加し、電極間の交流インピーダンスを測定(ヒューレットパッカード社4263A)することで行った。なお、測定は温度を変えて行ったものであり、25℃での測定結果の一例を上記の表1に合わせて示す。表1は、本実施例の固体電解質膜が、室温で0.1mS/cm以上という高いリチウムイオン伝導度を達成できることを示している。
【0064】
なお、一般に、イオン伝導度は添加する電解質塩量と共に増加するが、入れ過ぎると高分子側鎖の運動性が落ちるため、リチウムイオンとエーテル基の酸素の比率0.06付近で最大値をとることが知られており、その比率0.06は、本実施例ではSPE−1付近に相当するが、表1に示すように、本発明ではそれ以上に塩を入れてもイオン伝導度が低下せず、逆に増加している。その比率が1に近い値でもそれ程イオン伝導度が落ちないことが確認されており、これは、本発明の多分岐高分子が多分岐にエーテル基を有する多分岐側鎖を有するためと考えられる。即ち、本発明の固体電解質は、従来の固体電解質と比較し、極めて広い比率範囲で電解質塩量を変えて構成することができる。
【0065】
本実施例によれば、室温で0.1mS/cm以上の高いリチウムイオン伝導度を有し、厚み100μm以下の薄膜状に加工可能であり、最大破断強度1MPa以上、弾性率(ヤング率)10MPa以上の高い機械的強度を有し、熱的、化学的、電気化学的に安定であり、実用電池等に使用し得る、液状成分を含まない固体電解質を提供することができる。
【0066】
以上、本発明の実施例を説明したが、特許請求の範囲で規定された本発明の精神と範囲から逸脱することなく、その形態や細部に種々の変更がなされても良いことは明らかである。
【0067】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明は、液状成分を含まず高いイオン伝導性を有し機械的強度に優れた固体電解質の基材高分子となる多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質、及びその固体電解質を含んだ電気化学素子を提供することができる効果がある。更に、本発明は、その多分岐高分子を基材とした分離膜を提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多分岐高分子の構造を概念的に示した模式図であって、ハードセグメントから成る主鎖と、それにグラフトしたソフトセグメントから成る側鎖を示した模式図である。
【図2】本実施例のマクロイニシエーターの合成において、単量体混合物中の4−クロロメチルスチレン(CMS)のモル分率と、その単量体混合物を共重合したマクロイニシエーター中のCMSモル分率との関係を示した図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を用いた固体電解質及び電気化学素子並びに分離膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電池、コンデンサー、エレクトロクロミック素子などの電気化学素子の開発において、液状電解質を用いることによって必要となる液漏れ対策や可燃性電解液の着火性低減対策の問題、及びこれらの電気化学素子をフィルム状化することによる電子機器への組み込み性の向上とスペースの有効利用等の見地より、その主要構成要素である電解質を固体化する研究が精力的に行われている。かかる電気化学素子用の固体電解質の特性としては、広い温度範囲での液体並の高いイオン伝導度と共に、成膜性/隔膜としての機械的強度などが求められ、更には、金属リチウム二次電池に使用し得ることが望まれるが、これらの性能を十分に達成できる固体電解質は未だ得られていない。
【0003】
例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等には、かかる電解質の固体化を目的とした完全固体電解質が開示されているが、これらの完全固体電解質はイオン伝導度が低く実用性が十分ではない。また、特許文献4には、機械的強度に優れ且つ高いイオン伝導度を有する固体電解質の提供を目的に、その基材高分子となる多分岐高分子が開示されているが、開示されている多分岐高分子は、イオン伝導性は高いものの、ガラス転移温度が低いセグメントがその主鎖(骨格)に存在するため、機械的強度は満足し得るものではない。即ち、特許文献4には、その機械的強度は開示されていないが、その固体電解質を含んでなる電池の実施の形態として、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子化合物からなる補強部材であるセパレーターが示されており、この従来技術による電池などの電気化学素子は、そのセパレーター分だけ性能が低下し、またコスト高になる。
【0004】
なお、例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9等には、高分子固体電解質に有機溶媒を含有させてゲル化し、イオン伝導度を改善したポリマーゲル電解質が提案されているが、これらのポリマーゲル電解質は可燃性の電解液を含むため、液漏れ対策や着火性低減対策が必要であり、本来の意味での完全固体化を実現するものではない。また、ポリマーゲル電解質は、金属リチウムを用いた場合のデンドライド生成を完全には防ぐことが出来ないため、ポリマーゲル電解質を用いた二次電池では金属リチウムを使用できないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】
特開昭58−001973号公報
【特許文献2】
特開昭58−019807号公報
【特許文献3】
特開昭58−075779号公報
【特許文献4】
特開2001−181352号公報
【特許文献5】
特開昭59−196577号公報
【特許文献6】
特開昭61−214374号公報
【特許文献7】
特開平10−213355号公報
【特許文献8】
特開平10−302837号公報
【特許文献9】
特表平08−507407号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、固体電解質に係るかかる状況に鑑み、液状成分を含まず高いイオン伝導性を有し機械的強度に優れた固体電解質の基材高分子となる多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質、及びその固体電解質を含んだ電気化学素子を提供することを目的とする。更に、本発明は、その多分岐高分子を基材とした分離膜を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1の発明は、主鎖と該主鎖に多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合した側鎖を有する多分岐高分子であって、該主鎖はガラス転移温度が60℃以上の単量体同士の共重合体、ガラス転移温度が60℃以上の単量体と結晶性の単量体との共重合体、又は結晶性の単量体同士の共重合体の何れかから成るハードセグメントで構成され、該側鎖は該主鎖にガラス転移温度が−20℃以下の単量体を多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合したソフトセグメントで構成されている多分岐高分子である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の多分岐高分子の好ましい第一の形態に係り、少なくとも、式(I)
【0009】
【化8】
【0010】
(式中、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、二トリル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示す。)で表される単量体(A)及び式(II)
【0011】
【化9】
【0012】
(式中、R5〜R7はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、二トリル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示し、R8は炭素数1〜4のα―ハロアルキル基、又はイニファータ基を示す。)で表される単量体(B)を含有してなる混合物を共重合させて得られる直鎖高分子をマクロイニシエーターとして、この高分子上に式(III)
【0013】
【化10】
【0014】
(式中、R9〜R11はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R12は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜20の整数を示す。)で表される単量体(C)、又は式(IV)
【0015】
【化11】
【0016】
(式中、R13〜R15はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R16は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜20の整数を示す。)で表される単量体(D)を多分岐にグラフト重合させて得られる多分岐高分子である。
【0017】
請求項3の発明は、請求項1の多分岐高分子の好ましい第二の形態に係り、少なくとも、前記単量体(A)及び式(V)
【0018】
【化12】
【0019】
(式中、R17〜R19はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、二トリル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示し、R20はアミノ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアナート基、チオール基、又はリン酸基を示す。)で表される単量体(E)を含有してなる混合物を共重合させて得られる直鎖高分子に式(VI)
【0020】
【化13】
【0021】
(式中、R21〜R22はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示し、R23は単量体(E)のR20に対応してそれぞれアミノ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアナート基、チオール基、又はリン酸基を示し、R24は炭素数1〜4のα―ハロアルキル基、又はイニファータ基を示す。)で表される化合物(F)を修飾させて得られる直鎖高分子をマクロイニシエーターとして、この高分子上に単量体(C)又は単量体(D)を多分岐にグラフト重合させて得られる多分岐高分子である。
【0022】
請求項4の発明は、請求項1の多分岐高分子の好ましい第三の形態に係り、前記の単量体(A)と単量体(B)とを含有する混合物の共重合で得られるマクロイニシエーター、若しくは、前記の単量体(A)と単量体(E) とを含有する混合物の共重合で得られる直鎖状高分子に前記化合物(F)を修飾させたマクロイニシエーターに式(VII)
【0023】
【化14】
【0024】
(式中、R25〜R27はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、二トリル基、ハロゲン原子、又はベンジル基を示し、R28はベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基を示す。)で表される化合物(G)と、前記単量体(C)又は前記単量体(D)とを多分岐にグラフト共重合させて得られる多分岐高分子である。
【0025】
請求項5から請求項7の発明は、本発明の多分岐高分子の製造方法であって、請求項5の発明は、リビングラジカル重合によりグラフト重合又はグラフト共重合を行うことを特徴とする多分岐高分子の製造方法であり、請求項6の発明は、そのリビングラジカル重合を金属触媒の存在下で行う製造方法であり、請求項7の発明は、その金属触媒が塩化銅(I)又は臭化銅(I)と2,2’−ビピリジル誘導体のコンプレックスであることを特徴とする多分岐高分子の製造方法である。
【0026】
請求項8から請求項12の発明は、本発明の固体電解質であって、請求項8の発明は、請求項2又は請求項3の多分岐高分子を基材高分子として、少なくともその基材高分子と電解質塩からなる固体電解質であり、請求項9の発明は、その電解質塩がリチウム塩であることを特徴とする固体電解質である。請求項10の発明は、請求項2又は請求項3の多分岐高分子を基材高分子として、少なくともその基材高分子と高分子電解質からなる固体電解質であって、単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体をその高分子電解質とした固体電解質である。請求項11の発明は、請求項4の多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質であり、請求項12の発明は、その多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンがリチウムイオンである請求項11の固体電解質である。
【0027】
請求項13の発明は、本発明の電気化学素子であって、請求項8乃至請求項11の固体電解質を含んでなる電気化学素子である。
【0028】
請求項14から請求項17の発明は、本発明の分離膜であって、請求項14の発明は、請求項2乃至請求項4記載の多分岐高分子、又は請求項8、請求項10、請求項11の何れかに記載の固体電解質、を膜の基材とした炭酸ガス選択用の分離膜であり、請求項15の発明は、少なくとも基材高分子と電解質塩からなる分離膜であって、該基材高分子が請求項2又は請求項3の多分岐高分子であり、該電解質塩が銀塩であるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜である。請求項16の発明は、少なくとも基材高分子と高分子電解質からなる分離膜であって、該基材高分子が請求項2又は請求項3記載の多分岐高分子であり、該高分子電解質が単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体であり、該高分子電解質の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜である。請求項17の発明は、少なくとも請求項4記載の多分岐高分子を基材高分子とする分離膜であって、該多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜である。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明の多分岐高分子の最大の特徴は、主鎖をハードセグメントのみで構成し、その主鎖にソフトセグメントを多分岐にグラフト重合、又はグラフト共重合した側鎖を有する多分岐グラフトポリマー構造にある。即ち、本発明の多分岐高分子は、主鎖はガラス転移温度が60℃以上の単量体同士の共重合体、ガラス転移温度が60℃以上の単量体と結晶性の単量体との共重合体、又は結晶性の単量体同士の共重合体の何れかから成るハードセグメントで構成され、側鎖は主鎖にガラス転移温度が−20℃以下の単量体を多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合したソフトセグメントで構成されていることを最大の特徴とする。
【0030】
図1は、その構造を概念的に示した模式図であり、ハードセグメントから成る主鎖は主として機械的強度に係り、ソフトセグメントから成る側鎖は主としてイオン伝導度に係る。ハードセグメントのみで構成した主鎖は、例えば、この多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質に、汎用高分子に近い高い機械的強度を与えると共に、ハードセグメント部がソフトセグメント部の結晶化度を低下させるため高いイオン伝導度を与えることに寄与する。本発明の多分岐高分子の機械的性質、電気化学的性質は、図1に示すグラフト側鎖の平均距離、グラフト長、分岐グラフトの長さに大きく依存するが、本発明は、後述するように、これらの値を精密に制御することができる。
【0031】
かかるハードセグメントを構成するガラス転移温度が60℃以上の単量体としては、スチレン基、メチルアクリレート基、メチルメタクリレート基、ブチルメタクリレート基、塩化ビニル基、アクリロニトリル基、ブタジエン基、クロロプレン基、イソプレン基、フッ化ビニリデン基などが挙げられ、ハードセグメントを構成する結晶性の単量体としては、ビニルアルコール基、エチレン基、プロピレン基、エチレンテレフタレート基、オキシメチレン基などが挙げられる。ソフトセグメントを構成する単量体としては、ポリエチレンオキサイド基、ポリプロピレンオキサイド基などが挙げられる。
【0032】
次に、本発明の多分岐高分子の好ましい実施の形態について、更に具体的に説明する。その第一の形態は、少なくとも、上記の式(I)で表される単量体(A)と、式(II)で表される単量体(B)を含有してなる混合物を共重合させて得られる直鎖高分子をマクロイニシエーターとし、その高分子上の単量体(B)のR8の官能基をグラフト重合開始点として、その高分子上に式(III)で表される単量体(C)、又は式(IV)で表される単量体(D)を多分岐にグラフト重合させて得られる多分岐高分子として実施するものである。即ち、この形態は、ハードセグメントから成る多分岐高分子の主鎖を、グラフト重合開始点となる官能基を有さない単量体(A)と、グラフト重合開始点となる官能基R8を有する単量体(B)とを共重合させて、グラフト重合用のマクロイニシエーターとして合成し、しかる後、そのマクロイニシエーター上のグラフト重合開始点となる官能基を用いて、単量体(C)又は単量体(D)をグラフト重合させてソフトセグメントから成る側鎖を形成するものである。なお、共重合させる混合物の式(I)で表される単量体(A)と式(II)で表される単量体(B)との組合せは、それぞれ一種類とした組合せに限定されず、一方を一種類とし他方を複数種類とする組合せでもよく、又、それぞれを共に複数種類とする組合せでもよい。
【0033】
この共重合により主鎖を合成する形態は、グラフト重合開始点となる官能基を有さない単量体と、グラフト重合開始点となる官能基を有する単量体との共重合組成比を変えることにより、多分岐グラフト側鎖の平均距離となる主鎖上に存在するその官能基の平均距離を制御することができる形態であり、本発明の好ましい実施の形態の一つである。
【0034】
なお、本明細書において、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられ、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。炭素数1〜4のα―ハロアルキル基としては、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、1−クロロエチル基、1−クロロプロピル基、1−クロロ−1−メチルエチル基、1−クロロブチル基、1−クロロ−1−メチルプロピル基等が挙げられる。炭素数1〜4のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等が挙げられる。式(III)と式(IV)において、nは1〜20、好ましくは2〜15の整数を示す。
【0035】
本発明の多分岐高分子の好ましい第二の形態は、少なくとも、前記の単量体(A)と、式(V)で表される単量体(E)を含有してなる混合物を共重合させて得られる直鎖高分子に、式(VI)で表される化合物(F)を修飾させて得られる直鎖高分子をマクロイニシエーターとし、その高分子上の化合物(F)のR24の官能基をグラフト重合開始点として、この高分子上に単量体(C)又は単量体(D)を多分岐にグラフト重合させて得られる多分岐高分子として実施するものである。第一の形態は、グラフト重合用のマクロイニシエーターを、一段階の反応、即ち、主鎖を合成する共重合よって得る形態であるのに対し、第二の形態は、主鎖を合成する共重合を行い、しかる後に、その主鎖にグラフト重合開始点となる官能基R24を有する化合物(F)を修飾する二段階の反応によってマクロイニシエーターを得る形態であって、本発明は、いずれの形態を用いてもよい。なお、化合物(F)の修飾は、単量体(E)のR20と化合物(F)のR23とが有する対応する官能基、即ち、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、イソシアナート基、チオール基、又はリン酸基のいずれかを用いて行われる。共重合させる混合物の単量体(A)と式(V)で表される単量体(E)との組合せは、それぞれ一種類とした組合せに限定されず、一方を一種類とし他方を複数種類とする組合せでもよく、又、それぞれを共に複数種類とする組合せでもよい。
【0036】
本発明の多分岐高分子の好ましい第三の形態は、前記の単量体(A)と単量体(B)とを含有する混合物の共重合で得られるマクロイニシエーター、若しくは、前記の単量体(A)と単量体(E) とを含有する混合物の共重合で得られる直鎖状高分子に前記化合物(F)を修飾させたマクロイニシエーターに、式(VII)で表される化合物(G)と、前記単量体(C)又は前記単量体(D)とを多分岐にグラフト共重合させて得られる多分岐高分子である。即ち、第一の形態と第二の形態は、一種類の単量体をグラフト重合してソフトセグメントから成る側鎖を形成するのに対し、この第三の形態は、複数の単量体をグラフト共重合させてソフトセグメントから成る側鎖を形成する形態であって、本発明は、いずれの形態を用いてもよい。
【0037】
主鎖を合成する共重合は、特に本発明を限定するものではないが、例えば、前記の原料混合物を溶媒に溶解させ、重合開始剤等の触媒を用いて行うことができる。溶媒としては、水、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、ベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、特にはジメチルスルホキシド、トルエンが好ましい。溶媒の量は、通常、原料混合物100重量部に対して、50〜500重量部程度が好ましい。
【0038】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、ペルオキシピバル酸t−ブチル、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられ、重合開始剤の使用量は、通常、原料混合物100重量部に対して、0.05〜5重量部程度が好ましい。反応温度は、特に限定されないが、通常、20〜200℃が好ましく、反応雰囲気は、大気であってもよく、或いは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気でもよい。
【0039】
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、1H―NMR測定等により容易に確認することができ、反応終了後は、濾過、濃縮、抽出、精製等の公知の操作により、得られた直鎖高分子を単離することができる。
【0040】
側鎖を形成するグラフト重合又はグラフト共重合(以下、単に「グラフト重合」ということがある。)は、特に本発明を限定するものではないが、リビングラジカル重合により行うことが好ましい。リビングラジカル重合は、得られる高分子の分子量分布が狭いという特徴があり、単量体の種類や量、触媒の投入量や投入時期を調節することにより、グラフト長や分岐グラフトの長さを精密に制御することができる。なお、前記共重合反応の終了後、反応溶液から生成したマクロイニシエーターを単離することなく、その反応溶液中で直鎖高分子のグラフト重合を行ってもよい。
【0041】
リビングラジカル重合は、特に本発明を限定するものではないが、金属触媒の存在下で行うことが好ましい。金属触媒としては、銅触媒が好ましく、特には塩化銅(I) と2,2’−ビピリジル誘導体のコンプレックスが好ましい。金属触媒の使用量は、グラフト重合の開始点となる官能基のモル数に対して、0.8から2倍量が好ましい。
【0042】
溶媒としては、NMP、トルエン、DMF等が挙げられ、溶媒の量は、通常、単量体の総量100重量部に対して、50〜500重量部程度が好ましい。反応温度は、通常、20〜200℃が好ましく、反応雰囲気は、大気であってもよく、或いは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気でもよい。
【0043】
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、1H―NMR測定等により容易に確認することができ、反応終了後は、濾過、濃縮、抽出、精製等の公知の操作により、得られた多分岐高分子を単離することができる。このグラフト重合により得られる多分岐高分子の数平均分子量は、特に限定されないが、4,000〜1,000,000が好ましく、8,000〜700,000がより好ましい。なお、多分岐高分子の数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定することができる。
【0044】
かかる実施の形態で合成される本発明の多分岐高分子において、グラフト側鎖の平均距離は、グラフト側鎖1つに対して主鎖の繰り返し単位が5〜1,000が好ましい。グラフト側鎖の平均距離が短くなると、導入しているハードセグメントの機械的強度が強いという特質が失われ、グラフト側鎖の平均距離が大きくなると、均一な特質が得られなくなる。即ち、マクロイニシエータ(主鎖部分)の長さは、実際上、限られた値になるため、グラフト側鎖の平均距離が大きくなるということは主鎖一本あたりに付くグラフト側鎖の数が減ることを意味し、極端な場合、確率的に主鎖に付くグラフト側鎖が0本とか数本という状態、即ち、性質の違ったポリマーの混合物となり、固体電解質などこの多分岐高分子を応用するときに均一な性能が得られなくなる。
【0045】
グラフト長は、特に本発明を限定するものではないが、グラフト鎖の繰り返し単位で5〜1,000が好ましく、特には30〜100が好ましい。分岐グラフトの長さは、繰り返し単位で1〜100が好ましく、特には3〜15が好ましい。グラフト長と分岐グラフトの長さは共に、固体電解質で言えばイオン伝導性、ガス分離で言えば炭酸ガスの透過性やオレフィン/パラフィン分離性などの機能性に大きく関係し、一般には、このグラフト鎖についているエーテル基にリチウムイオン(リチウム電池の場合)や、炭酸ガス(炭酸ガス分離膜の場合)、銀イオン(オレフィン/パラフィン分離膜の場合)が溶け込むことになるため、単位重量あたりのエーテル基の数は多い方がその機能性が向上する。一方、エーテル基の数を多くするためにはグラフト長や分岐グラフトの長さを長くする必要があるが、これは、グラフト鎖同士が絡み合い、またはより結晶化することによってイオンや炭酸ガスなどの移動が難しくなることを意味し、長くし過ぎるその機能性は逆に低下する。また合成した多分岐高分子がゲル化し易くなり、フィルム成型性が悪くなる。即ち、本発明は、グラフト側鎖の平均距離、グラフト長、分岐グラフトの長さを精密に制御して多分岐高分子を合成する形態で実施することができ、これにより本発明をより効果的に実施することができる。
【0046】
本発明では更に、このようにして得られた多分岐高分子からなる基材高分子と電解質塩とを含有した固体電解質を提供する。即ち、例えば、上記の好ましい第一の形態、又は第二の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とし電解質塩を含有した固体電解質であって、その含有する電解質塩としては、LiClO4 、LiPF6、LiBF4 、LiAsF6 、LiSbF6 、CF3 SO3 Li、CF3CO2Li、C2F4(SO3Li)2 、(CF3SO2)2NLi、(CF3SO2)3CLi、LiClF4 、LiAlCl4 、LiAlO4 、LiCl、LiI、これらの混合塩等のリチウム塩電解質が好ましく、LiPF6 、LiBF4 、(CF3SO2)2NLi及び(CF3SO2)3CLiが特に好ましい。固体電解質中の電解質塩の含有量は、固体電解質の基材高分子である多分岐高分子のエチレンオキシドユニット(エチレングリコールユニット)、即ち、−OCH2CH2O−に対し、0.5〜200モル%が好ましく、10〜120モル%がより好ましい。なお、第一の形態、又は第二の形態請で得られた多分岐高分子を基材高分子とし、単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体を高分子電解質として、その高分子電解質を含有した固体電解質として実施することもできる。
【0047】
本発明の固体電解質は又、上記の好ましい第三の形態で得られた多分岐高分子、即ち、高分子自体に荷電基が存在する多分岐高分子、例えば、その多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンがリチウムイオンなどの金属イオンである多分岐高分子を基材高分子として実施することもできる。かかる形態によれば、多分岐高分子自体が荷電基を有するため金属塩を添加する必要がなく、電池に利用する場合、高分子内で動けるイオンがカチオンだけであり、充電するとき、アニオンの移動はなくその充電電流が全てカチオンの移動に使われる、電流効率100%の電池を構成することができる。また、この多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンを水素イオンとした固体電解質は、燃料電池用電解質として有効である。
【0048】
本発明の固体電解質には、必要に応じて、電気化学的に不活性な可塑剤、酸化チタン、酸化珪素等の金属酸化物、プラスチックフィラー、イオン伝導性フィラー等が添加されていてもよい。
【0049】
本発明の固体電解質は、例えば、本発明の多分岐高分子である基材高分子及び電解質塩をアセトン、THF、トルエン、DMF等の溶媒に溶解させ、このポリマー溶液を平滑な板上に薄くキャストした後、有機溶媒を蒸発させるという極めて簡単なプロセスにより、任意な厚みの薄膜に形成して得ることができ、例えば、50μm以下の任意な厚みの薄膜に形成して得ることができる。
【0050】
更に、本発明は、本発明の固体電解質を含んでなる電気化学素子を提供する。かかる電気化学素子としては、一次、二次電池、コンデンサー、エレクトロクロミック素子、有機太陽電池、燃料電池等が挙げられ、本発明の固体電解質は、それらの電解質、電極バインダー等として使用することができるが、特にリチウム二次電池、コンデンサーの電解質として有効である。
【0051】
本発明の電気化学素子が好ましく適用される電池としては、容器、正負極端子等からなる、角型、円筒型、コイン型、ペーパー型等の各種電池が挙げられる。リチウム二次電池の場合、正極材料としては、例えば、LiCoO2 、LiNiO2 、LiMnO4 等が挙げられ、負極材料としては、リチウム金属、リチウムイオンを吸蔵・脱離することのできるカーボンで石油系コークス、天然グラファイト、グラファイト化メソフェーズ小球体、PIC(Pseudo Isotropic Carbon)、FMC(Fine Mosaic Carbon)、有機物の焼成品等が挙げられる。
【0052】
固体電解質が実用電池に使用し得るためには、広い温度範囲での液体並のイオン伝導度、電極(リチウム)/電解質界面の低抵抗化、レドックス反応安定性、成膜性/隔膜としての強度、不燃性、難燃性、自己消火性等の燃焼特性が求められるが、本発明の多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質はこれらの性能を満足するものである。例えば、本発明の固体電解質は、室温で0.1mS/cm以上の高いリチウムイオン伝導度を有し、厚み50μm以下の薄膜状に加工可能であり、最大破断強度1MPa以上、弾性率(ヤング率)10MPa以上の高い機械的強度を有し、熱的、化学的、電気化学的に安定であり、本発明は、実用電池等に使用し得る、液状成分を含まない固体電解質を提供することができる。
【0053】
本発明は又、本発明の多分岐高分子を含んでなる分離膜を提供する。即ち、例えば、上記の好ましい第一の形態乃至第三の形態で得られた多分岐高分子や、第一の形態又は第二の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子としこれに電解質塩又は高分子電解質を含んでなる固体電解質、或いは、第三の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質は、炭酸ガスの選択透過性を有し、この多分岐高分子を膜の基材として炭酸ガス選択用の分離膜を得ることができる。また、第一の形態又は第二の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とし銀塩を電解質塩として、少なくともその基材高分子と電解質塩からなるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜を得ることができ、更に又、第一の形態又は第二の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とし、単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体を高分子電解質として、少なくともその基材高分子とその高分子電解質からなり、高分子電解質の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜を得ることができる。また、第三の形態で得られた多分岐高分子を基材高分子とし、その多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜を得ることもできる。
【0054】
以上、詳細に説明した実施の形態により、本発明は、液状成分を含まず高いイオン伝導性を有し機械的強度に優れた固体電解質の基材高分子となる多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質、及びその固体電解質を含んだ電気化学素子を提供することができる。更に、本発明は、その多分岐高分子を基材とした分離膜を提供することができる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、具体的に説明する。本実施例は、単量体(A)と単量体(B)を共重合してハードセグメントから成るマクロイニシエーターを合成し、しかる後、リビングラジカル重合により、このマクロイニシエーターに単量体(C)をグラフトしてソフトセグメントから成る側鎖を形成し、本発明の多分岐高分子を合成したものであり、用いた単量体(A)はメチルメタクリレート(ガラス転移温度:105℃)、単量体(B)は4−クロロメチルスチレン(ガラス転移温度:100℃)、単量体(C)はPoly(ethylene glycol) methyl ether methacrylate(ガラス転移温度:−65℃)である。
【0056】
先ず、単量体(A)と単量体(B)の共重合によるマクロイニシエーターの合成について説明する。単量体(A)としてメチルメタクリレート(MMA:Aldrich ChemicalCo.)40mlを用い、単量体(B)としては種々の量(1.5ml、1.0ml、0.5ml、0.25ml)の4−クロロメチルスチレン(CMS:Aldrich Chemical Co.)を用い、その単量体混合物をトルエン20mlに溶解した。即ち、本実施例は、単量体混合物の組成比を変えた4ケースについて、マクロイニシエーターの合成を行ったものである。この溶液に重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(2,2’−Azobis−isobutyronitrile)0.03g加え、アルゴンでバブリングした後、シールして80℃で2時間加熱撹拌して反応させた。反応液を室温に冷却した後、1700mlのメタノール中に撹拌しながら入れると、沈殿が得られた。上澄みを除去し、沈殿物を30mlのトルエンに溶解させて、1700mlのメタノール中に入れてよく撹拌し、上澄みを除去した。その残渣を一晩減圧乾燥して、マクロイニシエーターを得た。
【0057】
得られたマクロイニシエーターの分子量は、GPC(日立(株)、L−3350)で測定した結果、数平均分子量310,000であった。1H―NMR測定(日本電子データム(株)JNM−FX270)では、δ=約4.5ppmにベンジル位のプロトンシグナルが見られ、また3.6〜3.8ppmにメチルメタクリレートのメチル基のプロトンシグナルが観測された。この2つのピークの比から、マクロイニシエーター中の4−クロロメチルスチレンのモル分率を計算した。その結果を、単量体混合物中の4−クロロメチルスチレンモノマーのモル分率をパラメータとして、図2に示す。図2は、単量体混合物中の4−クロロメチルスチレンモノマーのモル分率を変えることにより、マクロイニシエーター中のグラフト重合開始点となる官能基を有する4−クロロメチルスチレンのモル分率、即ち、多分岐グラフト側鎖の平均距離となる主鎖上に存在するその官能基の平均距離を精密に制御できることを示している。
【0058】
次に、このマクロイニシエーターにソフトセグメントから成る側鎖をグラフトした、グラフト重合について説明する。4−クロロメチルスチレンを0.5ml加えて作製したマクロイニシエーター4.0gをN−methyl−2−pyrrolidinone無水物40ml中に溶解させた。上記のNMR測定の結果より、マクロイニシエーター4.0g中には、0.368ミリモルのクロロメチル基が存在することが確認できたため、このクロロメチル基のモル数に対応するモル数の塩化銅(I)0.042g(0.42ミリモル)及び4,4‘−dimethyl−2,2’−dipyridyl 0.152g(0.8ミリモル)、Poly(ethylene glycol)methyl ether methacrylate)[Mw=475](POEM:Aldrich Chemical Co.)10mlを加えた。アルゴンガスでバブリングした後、密栓し、90℃、19時間加熱撹拌し反応させた。反応溶液をエタノール200ml、石油エーテル1600mlの混合溶媒中に撹拌しながら滴下すると、粘度のある沈殿を生じた。上澄みを除去した後、この残渣をトルエン200mlに溶解させ、アルミナが入ったカラム中に流し込み、カラムから流れ出る溶液を石油エーテル中に入れて沈殿を生じさせた。上澄みを除去した後、この沈殿物を24時間減圧乾燥し目的の多分岐高分子を得た。
【0059】
得られた多分岐高分子の1H―NMR測定では、δ=約4.5ppmのベンジル位のプロトンシグナルがほぼ消失し、δ=約3.4ppm、及びδ=約4.1ppmにエーテル位のプロトンシグナルが観測されたことから、ハードセグメントに存在するほぼ全てのクロロメチル基にPOEMの多分岐側鎖がついたことが確認できた。
【0060】
次に、この多分岐高分子を用いて固体電解質を作製した。即ち、この多分岐高分子とLiClO4をアセトン中に溶解させ、そのポリマー溶液を平滑な板上に薄くキャストした後、有機溶媒を蒸発させるというキャスト法により、薄膜(膜厚:約100μm)に形成した固体電解質膜を作製した。
【0061】
以下、上記の操作で得られた固体電解質膜の評価試験を行った結果について説明する。この試験の供試体は、作製した固体電解質膜を減圧乾燥機で一日乾燥(25℃、1.3×10−2 Pa)したものであって、先ず、機械的強度を測定した結果について説明する。機械的強度の評価は、その固体電解質膜から5mm×20mmの試験片を切り出し、引っ張り試験機(島津Eztest)を用いて応力〜歪曲線を測定し、その結果より最大破断強度、ヤング率を求めることで行った。その結果の一例を表1に示す。表1に示すように、本実施例の固体電解質膜は、最大破断強度1MPa以上、弾性率(ヤング率)10MPa以上という高い機械的強度を有している。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、イオン伝導度を測定した結果について説明する。イオン伝導度の測定は、上記の固体電解質膜を直径13mmの円状にポンチで打ち抜き、SUS電極を用いた伝導率測定セルを用いて周波数10KHz、振幅50mVの交流信号を印加し、電極間の交流インピーダンスを測定(ヒューレットパッカード社4263A)することで行った。なお、測定は温度を変えて行ったものであり、25℃での測定結果の一例を上記の表1に合わせて示す。表1は、本実施例の固体電解質膜が、室温で0.1mS/cm以上という高いリチウムイオン伝導度を達成できることを示している。
【0064】
なお、一般に、イオン伝導度は添加する電解質塩量と共に増加するが、入れ過ぎると高分子側鎖の運動性が落ちるため、リチウムイオンとエーテル基の酸素の比率0.06付近で最大値をとることが知られており、その比率0.06は、本実施例ではSPE−1付近に相当するが、表1に示すように、本発明ではそれ以上に塩を入れてもイオン伝導度が低下せず、逆に増加している。その比率が1に近い値でもそれ程イオン伝導度が落ちないことが確認されており、これは、本発明の多分岐高分子が多分岐にエーテル基を有する多分岐側鎖を有するためと考えられる。即ち、本発明の固体電解質は、従来の固体電解質と比較し、極めて広い比率範囲で電解質塩量を変えて構成することができる。
【0065】
本実施例によれば、室温で0.1mS/cm以上の高いリチウムイオン伝導度を有し、厚み100μm以下の薄膜状に加工可能であり、最大破断強度1MPa以上、弾性率(ヤング率)10MPa以上の高い機械的強度を有し、熱的、化学的、電気化学的に安定であり、実用電池等に使用し得る、液状成分を含まない固体電解質を提供することができる。
【0066】
以上、本発明の実施例を説明したが、特許請求の範囲で規定された本発明の精神と範囲から逸脱することなく、その形態や細部に種々の変更がなされても良いことは明らかである。
【0067】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明は、液状成分を含まず高いイオン伝導性を有し機械的強度に優れた固体電解質の基材高分子となる多分岐高分子、その製造方法、その多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質、及びその固体電解質を含んだ電気化学素子を提供することができる効果がある。更に、本発明は、その多分岐高分子を基材とした分離膜を提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の多分岐高分子の構造を概念的に示した模式図であって、ハードセグメントから成る主鎖と、それにグラフトしたソフトセグメントから成る側鎖を示した模式図である。
【図2】本実施例のマクロイニシエーターの合成において、単量体混合物中の4−クロロメチルスチレン(CMS)のモル分率と、その単量体混合物を共重合したマクロイニシエーター中のCMSモル分率との関係を示した図である。
Claims (17)
- 主鎖と該主鎖に多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合した側鎖を有する多分岐高分子であって、該主鎖はガラス転移温度が60℃以上の単量体同士の共重合体、ガラス転移温度が60℃以上の単量体と結晶性の単量体との共重合体、又は結晶性の単量体同士の共重合体の何れかから成るハードセグメントで構成され、該側鎖は該主鎖にガラス転移温度が−20℃以下の単量体を多分岐にグラフト重合又はグラフト共重合したソフトセグメントで構成されていることを特徴とする多分岐高分子。
- 少なくとも、式(I)
- 少なくとも、単量体(A)及び式(V)
- 請求項1乃至請求項4記載の多分岐高分子の製造方法であって、リビングラジカル重合によりグラフト重合又はグラフト共重合を行うことを特徴とする多分岐高分子の製造方法。
- 金属触媒の存在下で前記リビングラジカル重合を行う請求項5記載の多分岐高分子の製造方法。
- 前記金属触媒が塩化銅(I)又は臭化銅(I)と2,2’−ビピリジル誘導体のコンプレックスである請求項6記載の多分岐高分子の製造方法。
- 少なくとも基材高分子と電解質塩からなる固体電解質であって、該基材高分子が請求項2又は請求項3記載の多分岐高分子である固体電解質。
- 前記電解質塩がリチウム塩であることを特徴とする請求項8記載の固体電解質。
- 少なくとも基材高分子と高分子電解質からなる固体電解質であって、該基材高分子が請求項2又は請求項3記載の多分岐高分子であり、該高分子電解質が単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体である固体電解質。
- 請求項4記載の多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質。
- 請求項11記載の固体電解質において、前記多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンがリチウムイオンである固体電解質。
- 請求項8乃至請求項12記載の固体電解質を含んでなる電気化学素子。
- 請求項2乃至請求項4記載の多分岐高分子、又は請求項8、請求項10、請求項11の何れかに記載の固体電解質、を膜の基材とした炭酸ガス選択用の分離膜。
- 少なくとも基材高分子と電解質塩からなる分離膜であって、該基材高分子が請求項2又は請求項3記載の多分岐高分子であり、該電解質塩が銀塩であるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜。
- 少なくとも基材高分子と高分子電解質からなる分離膜であって、該基材高分子が請求項2又は請求項3記載の多分岐高分子であり、該高分子電解質が単量体(G)の重合体、又は単量体(G)と単量体(A)の共重合体であり、該高分子電解質の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜。
- 少なくとも請求項4記載の多分岐高分子を基材高分子とする分離膜であって、該多分岐高分子の構成部位である単量体(G)のベンゼンスルホン酸基、カルボン酸基、又はリン酸基の対イオンが銀イオンであるオレフィン/パラフィン選択用の分離膜。
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