JP2004158388A - 固体高分子型燃料電池用の電極 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】固体高分子膜1の少なくとも一方に設けられ、燃料電池の反応ガスである燃料ガス又は酸化剤ガスの供給通路を兼ねているセパレータ5から供給されるガスを触媒反応させるための電極触媒層2と、前記電極触媒層2の外側に設けられ、前記セパレータ5から供給されるガスを前記電極触媒層2の前段で均一に分散させるためのガス拡散層4とを備えた固体高分子型燃料電池用の電極において、前記電極触媒層2を、水の排出性を高めるための造孔材PMを含ませて構成し、かつ、前記電極触媒層2と前記ガス拡散層4との間には、水の保持性を高める保水層3を設けた。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子型燃料電池用の電極に関し、更に詳しくは、固体高分子型燃料電池へ供給する反応ガス中の相対湿度が変動しても安定した発電性能が確保できる固体高分子型燃料電池用の電極に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電気自動車の動力源として固体高分子型の燃料電池が注目されている。
固体高分子型の燃料電池は、常温でも発電することが可能であり、様々な用途に実用化されつつある。
【0003】
この燃料電池は、水素を含有する燃料ガスを燃料電池のアノード極(燃料ガス極)に供給すると共に、酸素を含有する酸化剤ガスを燃料電池のカソード極(酸化剤ガス極)に供給して発電を行う。例えば前記酸化剤ガスとして空気を供給した場合は、以下の反応式で表される化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出して外部の負荷に供給する。
アノード極;2H2→4H++4e−
カソード極;O2+4H++4e−→2H2O
全体;2H2+O2→2H2O
このとき、アノード極の反応で生成したプロトンは、固体高分子膜(電解質膜)中を通ってカソード極側に水と一緒に運ばれる。また、生成した電子は外部回路を通ってカソード極に運ばれる。カソード極に運ばれたプロトン及び電子は空気中の酸素と反応して水を生成する。
また、固体高分子膜型の燃料電池は、常に固体高分子膜(電解質膜)のプロトン導電性を維持するためには水が必要となるため、燃料電池へ供給される反応ガスは加湿されて供給される。
【0004】
一般に、固体高分子型燃料電池(PEFC)の単セル100は、図5に示すように、固体高分子膜101の両側に、電極触媒層102a,102bと、ガス拡散層103a,103bと、燃料電池の反応ガスである燃料ガスや酸化剤ガスの供給路を兼ねているセパレータ104a,104bとを順番に設け、2つのセパレータ104a,104bの間にこれらの層を介在させてセパレータ104a,104bの両側から挟持することで構成される。
【0005】
このような固体高分子型燃料電池(PEFC)の単セル100を構成する電極触媒層102a,102bとガス拡散層103a,103bとから成る固体高分子型燃料電池(PEFC)の電極において、
電極触媒層102a,102bには、セル内での水分の抜けを良くしてフラッディングにより発電性能が低下するのを回避するために、造孔材が添加されていることは良く知られている(例えば特許文献1参照)。
また、ガス拡散層103a,103bとしては、前記電極触媒層の外側に設けられる集電材である多孔質の材料、例えば気孔率80%からなるカーボンペーパー等が使用されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−180879号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、電極触媒層102a,102bに造孔材を添加しただけでは、電極触媒層102a,102bの水の排出性が高まるために、高加湿条件のようにセル100内に水分が豊富にある場合には、発電性能が向上するが、低加湿条件下においては、固体高分子膜101のプロトン導電性を保つのに必要な水まで排出されてしまうので、発電性能が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、燃料電池へ供給する反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能が得られる固体高分子型燃料電池用の電極を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するためになされた請求項1に記載された固体高分子型燃料電池用の電極は、固体高分子膜の少なくとも一方の側に設けられ、燃料電池の反応ガスである燃料ガス又は酸化剤ガスの供給通路を兼ねているセパレータから供給されるガスを触媒反応させるための電極触媒層と、前記電極触媒層の外側に設けられ、前記セパレータから供給されるガスを前記電極触媒層の前段で均一に分散させるためのガス拡散層とを備えた固体高分子型燃料電池用の電極において、前記電極触媒層は、水の排出性を高めるための造孔材を含んで構成され、かつ、前記電極触媒層と前記ガス拡散層との間には、水の保持性を高める保水層が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項1に記載された発明によると、
(1)電極触媒層に水の排出性を高めるための造孔材を添加したことにより、反応ガス中の相対湿度が高い条件下では、本発明の電極を組み込んだ燃料電池は、従来と同様に発電性能を高く維持することができる。
(2)一方、反応ガス中の相対湿度が低い条件下では、電極触媒層とガス拡散層との間に水の保持性を高める保水層を設けたので、固体高分子膜のプロトン導電性を保持するのに十分な水分を確保することができるため、本発明の電極を組み込んだ燃料電池は、従来よりも発電性能が向上する。
その結果、固体高分子型燃料電池へ供給する反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能が得られる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
【0011】
請求項2に記載された固体高分子型燃料電池用の電極は、前記ガス拡散層は、{(飽和水蒸気圧下におけるガス拡散層の質量)−(ガス拡散層の乾燥質量)}/(ガス拡散層の乾燥質量)×100[%]で計算される含水率が50〜90%となるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用の電極である。
【0012】
請求項2に記載された発明によると、前記ガス拡散層を、{(飽和水蒸気圧下におけるガス拡散層の質量)−(ガス拡散層の乾燥質量)}/(ガス拡散層の乾燥質量)×100[%]で計算される含水率が50〜90%となるように構成したことにより、反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能を確保することができる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
【0013】
請求項3に記載された固体高分子型燃料電池用の電極は、前記ガス拡散層は、所定流量の気体を通流させたときのガス拡散層前後の差圧が60mmH2O以上120mmH2O以下となるように構成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固体高分子型燃料電池用の電極である。
【0014】
請求項3に記載された発明によると、ガス拡散層の含水率が一定になった後にガス拡散層前後の差圧が変動すると、反応ガス中の相対湿度の変動に伴って発電性能が大きく変化するが、所定流量の気体を通流させたときのガス拡散層前後の差圧を60mmH2O以上120mmH2O以下となるように構成したことにより、反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能を確保することができる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
【0015】
請求項4に記載された固体高分子型燃料電池用の電極は、前記保水層と前記ガス拡散層との間に、水の排出性を高める撥水層を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のうちの何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用の電極である。
【0016】
請求項4に記載された発明によると、前記保水層と前記ガス拡散層との間に、水の排出性を高める撥水層を設けたことにより、セパレータから供給される加湿された反応ガスが、多孔質の支持層であるガス拡散層で分散される。このとき孔の中で水蒸気が凝縮するが、撥水層を設けたことにより、凝縮した水の抜けが良くなりガス拡散層の後段に設けられた保水層に短時間で水が供給できる。従って、固体高分子膜のプロトン導電性を保持するのに十分な水分を確保することができるため、従来よりも発電性能が向上する。
その結果、固体高分子型燃料電池へ供給する反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能が得られる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図1〜図4を参照して説明する。
尚、図1は、本発明に係る第一実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を備えた固体高分子型燃料電池の単セル全体の構成図、図2は、第二実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を構成するガス拡散層の含水率に対する単セルの端子電圧との関係を示す図である。
また、図3(a)は、第三実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を構成するガス拡散層の所定流量におけるガス拡散層前後の差圧と反応ガス中の相対湿度が100%と20%のときの端子電圧の差との関係を示す図、図3(b)は、ガス拡散層の差圧を測定するときの測定方法を説明するための図である。
また、図4(a)は、実施例1〜3及び比較例1〜4の電極を使用したときの単セルの端子電圧の測定結果を示す図、図4(b)は、図4(a)の測定結果を横軸に反応ガス中の相対湿度を、縦軸に電極の電流密度が1A/cm2のときの単セルの端子電圧をプロットした図である。
【0018】
最初に、本発明に係る第一実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を備えた固体高分子型燃料電池の単セル全体の構造について図1を参照して説明する。
本発明に係る固体高分子型燃料電池の単セルは、図1に示すように、
固体高分子膜1の両側に、電極触媒層2a,2bと、保水層3a,3bと、ガス拡散層4a,4bと、燃料電池の反応ガスである燃料ガス(又は酸化剤ガス)の供給路を兼ねているセパレータ5a,5bとを順番に設け、セパレータ5a,5bの間にこれらの層を介在させてセパレータ5a,5bの両側から固体高分子膜1を挟持することで主要部が構成される。
【0019】
固体高分子膜1は、イオン導電性のある電解質膜であり、特にパーフルオロ型のスルホン酸膜、例えば製品名としてナフィオン、フレミオン、アシプレックス等の膜が使用される。本実施形態では、デュポン株式会社製のナフィオン膜を使用している。
固体高分子膜1が充分なプロトン導電性を確保するためには、膜中に十分に保水することが不可欠である。しかしながら、プロトンは膜中で水和しており、いわゆる電気浸透によりアノード極側からカソード極側へ水を持ち去るため、特にアノード極の電極、電解質が乾燥し易くなる。そのためセパレータ5a,5bから供給される反応ガスは、固体高分子膜1が乾燥しないように、加湿して供給される。
【0020】
電極触媒層2a,2bは、燃料ガス用の電極として使用する場合と、酸化剤ガス用の電極として使用する場合では触媒の金属成分が異なる。通常、白金担持触媒が用いられているが、ガス中に一酸化炭素が含まれる場合は白金が被毒されるので、白金に被毒防止用の金属がさらに加えられる。
本実施形態では、酸化剤ガス用の電極としては、カーボンブラックに白金を担持させた白金担持触媒が、燃料極用の電極としてはカーボンブラックに白金及びルテニウムを担持させた触媒が使用される。しかしながら、本発明は電極の構成に限定されるものでない。
【0021】
保水層3a,3bは、イオン導電性ポリマーに造孔材PMを添加して形成された層であり、水分を保持する能力の高い層である。一般に、イオン導電性ポリマとしては、ポリテトラフルオロエチレンの共重合体、ポリピロール、ポリアニリン等を分散媒中でコロイド粒子にしたものが、また、造孔材PMとしては、カーボン、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポロビニルアルコール、セルロース、多糖類等の有機系の造孔材PMが使用されている。
本実施形態では、保水層の造孔材としては、カーボンブラック粉末に結晶性炭素繊維を混合したものを使用している。しかしながら、本発明は保水層の構成に限定されるものではない。
【0022】
ガス拡散層4a,4bは、集電材料の多孔質の支持層、例えばカーボンペーパー(気孔率約80%)が使用される。
本実施形態では、テフロン(R)ディスパージョンにカーボンブラック粉末をカーボンペーパーに塗布したものを使用している。
【0023】
セパレータ5a,5bは、溝を有しており、この部分が反応ガスの供給通路として利用される。セパレータ4a,4bの材質は炭素系及び金属系が用いられ、用途によって適宜合わせて材質を選定している。
【0024】
このように構成される固体高分子型燃料電池の単セル10で使用される第一実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極は、
(1)電極触媒層2a,2bに水の排出性を高めるための造孔材PMを添加したことにより、反応ガス中の相対湿度が高い条件下では、本発明の電極を組み込んだ燃料電池は、従来と同様に発電性能を高く維持することができる。
(2)一方、反応ガス中の相対湿度が低い条件下では、電極触媒層2a,2bとガス拡散層4a,4bとの間に水の保持性を高める保水層3a,3bを設けたので、固体高分子膜1のプロトン導電性を保持するのに十分な水分を確保することができるため、本発明の電極を組み込んだ燃料電池は、従来よりも発電性能が向上する。
その結果、固体高分子型燃料電池へ供給する反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能が得られる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
【0025】
次に、第二実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極について図2を参照して説明する。尚、第二実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極と第一実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極との構成の違いは、第一実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極の構成に加えて、保水層とガス拡散層との間に更に水の排出性を高めるための撥水層(不図示)を設けるようにしたものである。
尚、この撥水層は、テフロン(R)ディスパージョンとカーボンブラック粉末を混合して形成したものである。
【0026】
第二実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極は、電極触媒層、保水層、撥水層、ガス拡散層から構成され、これらの構成要素のうちのガス拡散層の含水率を調整することで安定した発電性能が得られるようにしたものである。
ガス拡散層の含水率に対する単セルの端子電圧との関係を図2に示す。
尚、図2の横軸は、ガス拡散層の乾量基準の含水率を、縦軸は、単セルの端子電圧を示す。
【0027】
第二実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を使用すれば、図2からも判るように、
(1)反応ガス中の相対湿度が20%と低いときよりも相対湿度が100%と高いときの方が単セルの端子電圧が大きくなる。
(2)ガス拡散層の含水率が50%未満で、かつ、単セルに撥水層及び/又は保水層が設けられていないと、反応ガス中の相対湿度が20%と低い場合は、所望の端子電圧である0.6V以上の電圧を取り出すのが難しい。
尚、ここで言うガス拡散層の含水率は以下の式から求められる百分率の値である。
含水率={(飽和水蒸気圧下におけるガス拡散層の質量)−(ガス拡散層の乾燥質量)}/(ガス拡散層の乾燥質量)×100[%]。
【0028】
(3)一方、ガス拡散層の含水率が90%を超える場合は、保水層に造孔材が無くても所望の端子電圧を確保することができる。しかしながら、反応ガス中の相対湿度が100%と高い場合には、保水層に造孔材が含まれていないと水抜けが悪くなり、セル内に水が溜まる結果、端子電圧は低下する。すなわち、発電性能は低下する。
(4)ガス拡散層の含水率が50〜90%の場合は、本実施形態の電極のように保水層と撥水層の両方が設けてあるので、反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能を確保することができる。
【0029】
尚、ガス拡散層の含水率の測定方法は以下のようにして測定した。
(1)所定の大きさ・質量のガス拡散層を含水率測定装置へ導入する。
(2)水蒸気圧を変化させて、ガス拡散層の質量の変化がなくなるまで放置する。
(3)水蒸気圧下で質量が一定になったら、ガス拡散層の質量を電子天秤にて秤量し、上式から各水蒸気圧毎の含水率を求める。
(4)次に、実際の運転条件に設定された恒温恒湿槽に所定の大きさ・質量のガス拡散層のサンプルを導入して1時間放置し、サンプルを取り出して表面の水分を拭き取った後、電子天秤にてサンプルを秤量し、上式から含水率を求めた。
【0030】
次に、第三実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極について図3を参照して説明する。第三実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極は、第二実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極のようにガス拡散層の含水率を調整して安定した発電性能を得るのでは無く、所定流量のガスをガス拡散層に通流させたときのガス拡散層前後の差圧が60mmH2O以上120mmH2O以下となるように差圧を調整して安定した発電性能を得るようにしたものである。
ガス拡散層の差圧に対する相対湿度100%と相対湿度20%のときの単セルの端子電圧の差との関係を図3(a)に示す。
尚、図3(a)の横軸は、ガス拡散層前後の差圧を、縦軸は、反応ガス中の相対湿度が20%のときと反応ガス中の相対湿度が100%のときの端子電圧の差を示す。
尚、ガス拡散層の差圧の測定方法は、図3(b)に示すように、ガス拡散層をガス流路の途中に挟持して保持し、反応ガスを所定流量、例えば500L/cm2/min流したときのガス拡散層前後の差圧ΔPから求められる。
【0031】
第三実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を使用すれば、図3(a)からも判るように、
(1)ガス拡散層前後の差圧が60mmH2O未満のときは、保水層中の造孔材の添加量が多いと保水層の水分の保持量が少なくなり、反応ガス中の相対湿度が20%では固体高分子膜のイオン導電性を維持することができなくなるため相対湿度が100%のときと20%のときの端子電圧との差(Δ端子電圧)が大きくなる。
(2)一方、ガス拡散層の差圧が120mmH2Oを超える領域では、保水層に添加する造孔材が無いと保水層からの水の抜けが悪くなるため、セル内でフラッディングが発生してしまう結果、反応ガス中の相対湿度を変えたときの単セルの端子電圧の差(Δ端子電圧)が大きくなる。
(3)ガス拡散層の差圧を60mmH2O以上120mmH2O以下にすれば、反応ガス中の相対湿度が100%のときの端子電圧と反応ガス中の相対湿度が20%のときの端子電圧との差(Δ端子電圧)が35mV以下を保持することができる。従って、燃料電池へ供給する反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能が得られる。
【0032】
【実施例】
次に、上述した第一実施形態〜第三実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極から得られた知見をさらに確認するために行った実施例について図4を参照して説明する。
最初に、本実施例で調製した固体高分子型燃料電池の単セルを構成する部材・層の製法について説明する。
【0033】
(1)電極触媒層
1−a)カソード極(酸化剤ガス極)の製法
イオン導電性ポリマー(Nafion SE20192;デュポン株式会社製)35gと、カーボンブラックと白金との質量比を50:50とした白金担持カーボン粒子(TEC10E50E;田中貴金属工業株式会社製)10gに結晶性炭素繊維(VGCF;昭和電工株式会社製)2.5gを混合しカソード極用の触媒ペーストとした。この触媒ペーストをFEP(弗化エチレンプロピレンテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)シート上に白金量が0.3mg/cm2となるように塗布・乾燥し、最終的に電極触媒層のシートCAとした。
1−b)アノード極(燃料ガス極)の製法
イオン導電性ポリマー(Nafion SE20192;デュポン株式会社製)36.8gと、カーボンブラックと触媒の質量比を46:54とした白金−ルテニウム担持カーボン粒子(白金:ルテニウム=1:1;TEC61E54、田中貴金属工業株式会社製)10gを混合し、アノード極用の触媒ペーストとした。この触媒ペーストをFEP(弗化エチレンプロピレンテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)シート上に白金量が0.15mg/cm2となるように塗布・乾燥し、最終的に電極触媒層のシートANとした。
尚、電極触媒層のシートCA及び電極触媒層のシートANをデカール法(ホットプレス法)により固体高分子膜(電解質膜)に転写し、MEA(膜−電極接合体)を形成した。
【0034】
[実施例1]
保水層は、イオン導電性ポリマー(Nafion SE20192;デュポン株式会社製)25gと、カーボンブラック粉末(ケッチェンブラック;Cabot株式会社製)5gに結晶性炭素繊維(VGCF;昭和電工株式会社製)2.5gを混合した保水層用のペーストを使用して形成した。
撥水層は、テフロン(R)ディスパージョン(L170J;旭硝子株式会社製)12gにカーボンブラック粉末(バルカンXC75;Cabot株式会社製)18gを混合し撥水層用のペーストを使用して形成した。
次に、予め撥水処理したカーボンペーパー(TGPO60;東レ株式会社製)上に前記撥水層用のペーストを2.3mg/cm2塗布した後、さらに前記保水層用のペースト0.3mg/cm2を塗布してガス拡散層を形成した。
最終的には、この拡散層2枚で上述したMEA(膜−電極接合体)を挟み込むことで実施例1の単セルを構成した。
【0035】
[実施例2]
撥水処理したカーボンペーパー(TGPO60;東レ株式会社製)上への保水層用のペーストの塗布量を0.4mg/cm2(実施例1より多量に塗布)とした以外は実施例1と同様な方法で単セルを作成した。
[実施例3]
撥水処理したカーボンペーパー(TGPO60;東レ株式会社製)上への保水層用のペーストの塗布量を0.2mg/cm2(実施例1より少量に塗布)とした以外は実施例1と同様な方法で単セルを作成した。
【0036】
[比較例1]
実施例1における保水層中に添加する結晶性炭素繊維の量を3.5g(実施例1より多量に添加)とした以外は実施例1と同様な方法で単セルを作成した。
[比較例2]
実施例1における保水層中に添加する結晶性炭素繊維の量を0(無添加)とした以外は実施例1と同様な方法で単セルを作成した。
[比較例3]
実施例1における保水層用のペーストを塗布せずに、撥水層用のペーストのみを塗布した以外は実施例1と同様な方法で単セルを作成した。
[比較例4]
実施例1における保水層用のペースト、撥水層用のペーストを塗布せずに、撥水処理したカーボンペーパー(TGPO60;東レ株式会社製)のみを拡散層とした以外は実施例1と同様な方法で単セルを作成した。
【0037】
上記した実施例1〜3、及び比較例1〜4の単セルを使用して、反応ガス中の相対湿度を変えたときの発電性能の測定結果を図4(a)及び図4(b)に示す。
尚、運転条件は、以下の条件で確認実験を行った。
▲1▼加湿条件は燃料ガス及び酸化剤ガスどちらも同じ相対湿度。
▲2▼運転温度は、75℃。
▲3▼燃料ガス極及び酸化剤ガス極に供給するガス圧力はどちらも100kPa。
▲4▼端子電圧は、燃料電池の電極の電流密度が1A/cm2のときの値。
【0038】
測定結果
(1)実施例1〜実施例3はいずれも所望の0.6V以上の端子電圧が得られ た。
このときのガス拡散層の含水率は48.6〜90.4wt%の範囲内であり、反応ガスの加湿条件に依らず安定した発電性能が得られた。
すなわち、保水層及び撥水層が設けられていれば、反応ガスの加湿条件に依らず所望の発電性能(0.6V以上)が得られる。
(2)比較例1は、保水層中の結晶性炭素繊維の含有量を0.4mg/cm2と実施例1よりも多くし、かつ撥水層を設けた単セルである。図4(b)に示すように、反応ガス中の相対湿度が40%以上であれば、端子電圧は所望の0.6V以上を確保することができる。
(3)比較例2は、保水層中の結晶性炭素繊維の含有量を0gと実施例1よりも少なくし、かつ撥水層を設けた単セルである。図4(b)に示すように、比較例1とは反対に保水層の水抜けが悪くなるので、反応ガス中の相対湿度が40%未満のときは発電性能が良好であるが、反応ガス中の相対湿度が60%以上のときは、発電性能が低下する。
(4)比較例3は、保水層用のペーストを塗布せず、撥水層用のペーストのみを使用した単セルである。図4(b)に示すように、反応ガス中の相対湿度が高くないと所望の端子電圧0.6Vが得られない。
(5)比較例4は、保水層ペースト及び撥水層ペーストも塗布せずに撥水処理したカーボンペーパーのみをガス拡散層としたときのものである。図4(b)に示すように、比較例の中では最も反応ガス中の相対湿度の影響を受けやすい。端子電圧は、比較例3と同様に、反応ガス中の相対湿度が100%と高くないと所望の端子電圧0.6Vが得られない。
【0039】
以上、第一実施形態〜第三実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極について説明したが、本発明に係る固体高分子型燃料電池用の電極はこれに限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施可能である。
【0040】
【発明の効果】
以上の構成と作用からなる本発明によれば、以下の効果を奏する。
1.請求項1に記載された発明によれば、
(1)電極触媒層に水の排出性を高めるための造孔材を添加したことにより、反応ガス中の相対湿度が高い条件下では、本発明の電極を組み込んだ燃料電池は、従来と同様に発電性能を高く維持することができる。
(2)一方、反応ガス中の相対湿度が低い条件下では、電極触媒層とガス拡散層との間に水の保持性を高める保水層を設けたので、固体高分子膜のプロトン導電性を保持するのに十分な水分を確保することができるため、本発明の電極を組み込んだ燃料電池は、従来よりも発電性能が向上する。
その結果、固体高分子型燃料電池へ供給する反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能が得られる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
2.請求項2に記載された発明によれば、
前記ガス拡散層を、{(飽和水蒸気圧下におけるガス拡散層の質量)−(ガス拡散層の乾燥質量)}/(ガス拡散層の乾燥質量)×100[%]で計算される含水率が50〜90%となるように構成したことにより、反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能を確保することができる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
3.請求項3に記載された発明によれば、ガス拡散層の含水率が一定になった後にガス拡散層前後の差圧が変動すると、反応ガス中の相対湿度の変動に伴って発電性能が大きく変化するが、所定流量の気体を通流させたときのガス拡散層前後の差圧を60mmH2O以上120mmH2O以下となるように構成したことにより、反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能を確保することができる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
4.請求項4に記載された発明によれば、前記保水層と前記ガス拡散層との間に、水の排出性を高める撥水層を設けたことにより、セパレータから供給される加湿された反応ガスが、多孔質の支持層であるガス拡散層で分散される。このとき孔の中で水蒸気が凝縮するが、撥水層を設けたことにより、凝縮した水の抜けが良くなりガス拡散層の後段に設けられた保水層に短時間で水が供給できる。従って、固体高分子膜のプロトン導電性を保持するのに十分な水分を確保することができるため、従来よりも発電性能が向上する。その結果、固体高分子型燃料電池へ供給する反応ガス中の相対湿度が変動しても湿度の変動の影響を受け難い安定した発電性能が得られる固体高分子型燃料電池用の電極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る第一実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を備えた固体高分子型燃料電池の単セル全体の構成図である。
【図2】第二実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を構成するガス拡散層の含水率に対する単セルの端子電圧との関係を示す図である。
【図3】(a)第三実施形態の固体高分子型燃料電池用の電極を構成するガス拡散層の所定流量におけるガス拡散層前後の差圧と反応ガス中の相対湿度が100%と20%のときの端子電圧の差との関係を示す図である。
(b)ガス拡散層の差圧を測定するときの測定方法を説明するための図である。
【図4】(a)実施例1〜3及び比較例1〜4の電極を使用したときの単セルの端子電圧の測定結果を示す図である。
(b)図4(a)の測定結果を横軸に反応ガス中の相対湿度を、縦軸に電極の電流密度が1A/cm2のときの単セルの端子電圧をプロットした図である。
【図5】従来の固体高分子型燃料電池用の電極を備えた固体高分子型燃料電池の単セル全体の構成図である。
【符号の説明】
1 固体高分子膜
2a,2b 電極触媒層
3a,3b 保水層
4a,4b ガス拡散層
5a,5b セパレータ
10 固体高分子型燃料電池の単セル
PM 造孔材
Claims (4)
- 固体高分子膜の少なくとも一方の側に設けられ、燃料電池の反応ガスである燃料ガス又は酸化剤ガスの供給通路を兼ねているセパレータから供給されるガスを触媒反応させるための電極触媒層と、前記電極触媒層の外側に設けられ、前記セパレータから供給されるガスを前記電極触媒層の前段で均一に分散させるためのガス拡散層とを備えた固体高分子型燃料電池用の電極において、
前記電極触媒層は、水の排出性を高めるための造孔材を含んで構成され、かつ、前記電極触媒層と前記ガス拡散層との間には、水の保持性を高める保水層が設けられていることを特徴とする固体高分子型燃料電池用の電極。 - 前記ガス拡散層は、{(飽和水蒸気圧下におけるガス拡散層の質量)−(ガス拡散層の乾燥質量)}/(ガス拡散層の乾燥質量)×100[%]で計算される含水率が50〜90%となるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用の電極。
- 前記ガス拡散層は、所定流量の気体を通流させたときのガス拡散層前後の差圧が60mmH2O以上120mmH2O以下となるように構成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固体高分子型燃料電池用の電極。
- 前記保水層と前記ガス拡散層との間に、前記水の排出性を高める撥水層を設けたことを特徴とする請求項1から請求項3のうちの何れか1項に記載の固体高分子型燃料電池用の電極。
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