JP2004154014A - 耐熱性コージビオースホスホリラーゼ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】野生型のコージビオースホスホリラーゼより反応至適温度と熱安定性が有意に上昇した新規酵素と、当該酵素をコードするDNAと、当該酵素を産生する微生物を栄養培地中で培養し、産生した酵素を培養物中から採取する酵素の製造方法により解決する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱性コージビオースホスホリラーゼに関し、更に詳細には、無機質のリン酸及び/又はその塩(以下、不都合が生じない限り、本明細書を通じて「無機リン酸」と略称する。)の存在下コージビオースを分解してD−グルコースとβ−D−グルコース−1リン酸及び/又はその塩(以下、不都合が生じない限り、本明細書を通じて「β−D−グルコース−1リン酸」と略称する。)を生成し、また、逆に、β−D−グルコース−1リン酸とD−グルコースからコージビオースと無機リン酸を生成する作用を示す酵素コージビオースホスホリラーゼのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換させることによって、反応至適温度及び温度安定性が向上した耐熱性コージビオースホスホリラーゼに関する。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開平10−304882号公報
【非特許文献1】
『酵素ハンドブック』朝倉書店(1982年)
【0003】
近年、マルトース、トレハロースなどのオリゴ糖とその機能が注目され、これらオリゴ糖の多様な生産方法が各方面から広く検討されるようになってきた。これらオリゴ糖を生産する方法としてマルトースホスホリラーゼ、トレハロースホスホリラーゼ、スクロースホスホリラーゼ、セロビオースホスホリラーゼ、ラミナリビオースホスホリラーゼなど種々のホスホリラーゼの利用が知られている。これらホスホリラーゼとその作用については非特許文献1にまとめられている。しかしながら、当時、コージビオースを生成しうるホスホリラーゼは学術的にも未報告で、その存在さえ知られておらず、その提供が望まれていた。
【0004】
斯かる状況下、本発明者等は、当時、未知のコージビオースホスホリラーゼを求めて、その酵素を産生する微生物を広く検索し、その結果、特許文献1に明らかにされているように、サーモアナエロビウム(Thermoanaerobium)に属する微生物サーモアナエロビウム・ブロッキイ(Thermoanaerobium brockii)(ATCC 35047)が、新規酵素コージビオースホスホリラーゼを産生することを見いだし、下記の理化学的性質を有することを明らかにするとともに、その製造方法を確立した。
(1) 作用
(a)無機リン酸存在下でコージビオースを分解してD−グルコースおよびβ−D−グルコース−1リン酸を生成する。
(b)β−D−グルコース−1リン酸とD−グルコースとからコージビオースと無機リン酸を生成し、さらにβ−D−グルコース−1リン酸を糖供与体として、他の糖質にグルコース基の転移を触媒する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、83,000±5,000ダルトン
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法で、pI4.4±0.5
(4) 至適温度
pH5.5、30分間反応で65℃付近
(5) 至適pH
60℃、30分間反応でpH5.5付近
(6) 温度安定性
pH5.5、1時間保持の条件で65℃付近まで安定
(7) pH安定性
4℃、24時間保持の条件でpH約5.5乃至10.0
さらに、本コージビオースホスホリラーゼが配列表における配列番号3に記載の塩基配列にコードされており、配列表における配列番号4に記載されているアミノ酸配列を有することも見いだした。また、本酵素をβ−D−グルコース−1リン酸を糖供与体として各種糖質共存下で作用させることにより得られるグルコ転移糖含有糖質並びに該糖質を含有せしめた組成物の製造方法を確立した。
【0005】
酵素の耐熱性は、酵素反応の利用の際、極めて重要な因子で、耐熱性の高い酵素は、少量の酵素量で長時間反応できるため、酵素反応における酵素量が低減でき、糖質の製造上、経済的に有利である。酵素はタンパク質から出来上がっており、酵素が示す諸特性はその酵素タンパク質のアミノ酸一次配列に起因しており、酵素の耐熱性も、アミノ酸一次配列やその一次配列で形成される高次構造によって生み出されることは一般的に認識されているところである。現在では、遺伝子操作技術を用いて、酵素タンパク質をコードするDNAをクローニングし、DNA配列を解読することにより、一義的に酵素タンパク質のアミノ酸配列を決定することができる。また、遺伝子DNAの塩基配列中の塩基を他の塩基に人為的に置換し、コードされるアミノ酸残基を変え、他のアミノ酸残基に置換した変異酵素タンパク質を作製することが可能であり、いくつかの酵素タンパク質においては、人為的に遺伝子変異を与えることによって耐熱化酵素が得られている。しかしながら、コージビオースホスホリラーゼにおいては、転移糖質の生成反応に経済的に有利な耐熱性の高い酵素が望まれていたものの、その耐熱性コージビオースホスホリラーゼは実現していなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
斯かる状況に鑑み、本発明の課題は、コージビオースホスホリラーゼのアミノ酸配列中のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換させることによって、反応至適温度及び温度安定性が向上した耐熱性コージビオースホスホリラーゼ及びその製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明者等は、先ず、サーモアナエロビウム・ブロッキイ ATCC 35047由来の、配列表における配列番号3に記載の塩基配列を有するコージビオースホスホリラーゼ遺伝子DNAをそのアミノ酸配列を変えることなく変異させ制限酵素切断部位などを導入し、それを大腸菌での発現プラスミドベクターpKK223−3に組換え、配列表における配列番号5に記載の塩基配列を有するコージビオースホスホリラーゼ高産生組換えプラスミドを作製した。次いで、得られた組換えプラスミドからコージビオースホスホリラーゼ遺伝子DNAを取り出し、試験管内でランダムにDNA変異を与え、様々なアミノ酸置換が起こっているコージビオースホスホリラーゼ遺伝子DNA混合物を作製した。その変異DNAを組換えプラスミドに戻した後、大腸菌に形質転換して、変異コージビオースホスホリラーゼ遺伝子ライブラリーを作製した。次に、得られた遺伝子ライブラリーから組換え大腸菌を単離し、培養し、得られた培養菌体から変異コージビオースホスホリラーゼを抽出し、その変異酵素の熱安定性を調べることによって、熱安定性が向上した変異コージビオースホスホリラーゼを産生する形質転換体をスクリーニングした。その結果、目的とする形質転換株を1株得ることができた。さらに、その形質転換体から組換えDNAを抽出し、DNAの塩基配列を決定してコージビオースホスホリラーゼ遺伝子DNAの変異箇所を調べたところ、該DNAは配列表における配列番号2に記載の塩基配列を有しており、ランダム変異前の配列表における配列番号5に記載の塩基配列と異同を調べたところ、第1,537番目の塩基であるGがAに変異し、その変異によって配列表における配列番号4に記載のアミノ酸配列の第513番目のアミノ酸残基であるAsp(アスパラギン酸)が、配列表における配列番号2の塩基配列に併記したアミノ酸配列に見られるとおり、Asn(アスパラギン)に置換していたことがわかった。
【0008】
得られた耐熱性コージビオースホスホリラーゼ産生組換え体を培養したところ、産生するコージビオースホスホリラーゼ活性は変異前の組換え体とほぼ同じ活性量であり、耐熱性コージビオースホスホリラーゼも大腸菌内で高発現し容易に製造できることがわかった。得られた耐熱性コージビオースホスホリラーゼの諸特性を調べたところ、至適pHなどには変化はなく、熱安定性及び至適温度が、変異前の酵素よりも約5℃上昇して耐熱化していることがわかった。
【0009】
得られた耐熱性コージビオースホスホリラーゼは高い耐熱性を有することから、該酵素を調製する工程で大腸菌由来の他の酵素タンパク質などを熱失活させる際、コージビオースホスホリラーゼ活性を失活させることなく安心して熱処理ができ、また、酵素剤の保存においても、より長期間の保存でも失活が少ない。さらに、変異のない酵素と比べ、より高い温度で反応することができ、すなわち約75℃までで反応することができ、熱による失活が少ないため、より長時間の反応ができることから、少量の酵素量で反応ができるため、該酵素によって生成するコージオリゴ糖などの糖質製造において有利に利用できる。
【0010】
次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0011】
【実験1】
<コージビオースホスホリラーゼ遺伝子を有する組換えプラスミドの作製>
配列表における配列番号6に示す50塩基の合成DNAと配列表における配列番号7に示す42塩基の合成DNAとを常法に従ってT4ポリヌクレオチドキナーゼでリン酸化した後、その混合液を常法に従って熱処理して両DNAをアニーリングした。予め、制限酵素EcoRIと制限酵素PstIとで切断したプラスミドpKK223−3(ファルマシア社販売)と、アニーリングした合成DNAとを混合した後、DNAライゲーション・キット(宝酒造株式会社販売)を用いて連結し、大腸菌JM109に形質転換することによって、pKK223−3のEcoRI切断部位とPstI切断部位の間に合成DNAを挿入して新たにSacI切断部位とSpeI切断部位を有するプラスミドpKSS2を得た。
【0012】
特許文献1に記載のコージビオースホスホリラーゼ遺伝子を含む組換えプラスミドpTKP1を鋳型として、配列表における配列番号8に示す塩基配列を有するプライマー1と、配列表における配列番号9に示す塩基配列を有するプライマー2とを用いて、Pyrobest DNAポリメラーゼ(宝酒造株式会社販売)をPCR酵素として、DNA Thermal Cycler PJ2000(パーキン・エルマ社製造)を用いて、95℃で1分間保持した後、98℃で20秒と72℃で4分30秒のサイクルを25回した後、72℃で10分間保持することで、コージビオースホスホリラーゼ遺伝子を含むDNAをPCR増幅した。このPCR増幅したDNAを常法に従って精製した後、制限酵素SacIと制限酵素SpeIとで切断し、予め、同じ酵素で切断したプラスミドpKSS2と混合し、DNAライゲーション・キット(宝酒造株式会社販売)を用いて連結し、大腸菌JM109に形質転換することによって、pKSS2のSacI切断部位とSpeI切断部位の間にコージビオースホスホリラーゼ遺伝子を有し、且つ、配列表における配列番号3に記載の塩基配列において、第1番目のMet(メチオニン)をコードする塩基配列GTGがATGに置換したコージビオースホスホリラーゼ遺伝子を有する組換えプラスミドpKBK14を得た。
【0013】
コージビオースホスホリラーゼ遺伝子を有する組換えプラスミドpKBK14を鋳型として、配列表における配列番号10に示す塩基配列を有するプライマー3と、配列表における配列番号11に示す塩基配列を有するプライマー4とを用いて、先に記述したPCR法でコージビオースホスホリラーゼのN−末端側をコードし、且つ、XhoI切断部位が導入されたDNAを増幅した。別途、組換えプラスミドpKBK14を鋳型として、配列表における配列番号12に示す塩基配列を有するプライマー5と、配列表における配列番号13に示す塩基配列を有するプライマー6とを用いて、同様にPCR法でコージビオースホスホリラーゼのC−末端側をコードし、且つ、XhoI切断部位が導入されたDNAを増幅した。得られたコージビオースホスホリラーゼのN−末端側をコードするDNAと、コージビオースホスホリラーゼのC−末端側をコードするDNAとを混合し、その混合物を鋳型として、配列表における配列番号8に示す塩基配列を有するプライマー1と、配列表における配列番号9に示す塩基配列を有するプライマー2とを用いて、同様にPCR法でコージビオースホスホリラーゼの全域をコードし、且つ、XhoI切断部位が導入されたDNAを増幅した。この増幅したDNAを上記と同様に操作しpKSS2のSacI切断部位とSpeI切断部位の間に挿入し、組換えプラスミドpKBK14Xを得た。
【0014】
次いで、組換えプラスミドpKBK14Xを鋳型として、配列表における配列番号10に示す塩基配列を有するプライマー3と、配列表における配列番号14に示す塩基配列を有するプライマー7とを用いて、先に記述したPCR法でコージビオースホスホリラーゼのN−末端側をコードし、且つ、KpnI切断部位が導入されたDNAを増幅した。別途、組換えプラスミドpKBK14Xを鋳型として、配列表における配列番号12に示す塩基配列を有するプライマー5と、配列表における配列番号15に示す塩基配列を有するプライマー8とを用いて、同様にPCR法でコージビオースホスホリラーゼのC−末端側をコードし、且つ、KpnI切断部位が導入されたDNAを増幅した。得られたコージビオースホスホリラーゼのN−末端側をコードするDNAと、コージビオースホスホリラーゼのC−末端側をコードするDNAとを混合し、その混合物を鋳型として、配列表における配列番号8に示す塩基配列を有するプライマー1と、配列表における配列番号9に示す塩基配列を有するプライマー2とを用いて、同様にPCR法でコージビオースホスホリラーゼの全域をコードし、且つ、KpnI切断部位が導入されたDNAを増幅した。この増幅したDNAを上記と同様に操作しpKSS2のSacI切断部位とSpeI切断部位の間に挿入し、組換えプラスミドpKBK14XKを得た。このようにして得られた組換えプラスミドpKBK14XKを通常のジデオキシ法により分析したところ、配列表における配列番号5に記載の塩基配列を有していた。配列表における配列番号3に記載の塩基配列及びアミノ酸配列と異同を調べたところ、コードするアミノ酸配列は同一で、即ち、配列表における配列番号4に記載のアミノ酸配列中の第1番目のMet(メチオニン)をコードする塩基配列GTGが同じくMetをコードする塩基配列ATGに置換しており、且つ、第269番目のSer(セリン)をコードする塩基配列TCAが同じくSerをコードする塩基配列TCGに置換していることによりXhoI切断部位(CTCGAG)が導入され、第700番目のThr(スレオニン)をコードする塩基配列ACAが同じくThrをコードする塩基配列ACCに置換していることによりKpnI切断部位(GGTACC)が導入されたコージビオースホスホリラーゼ遺伝子であることが判明した。本プラスミドを大腸菌JM109に形質転換して得られた形質転換体を『KBK14XK』と名付けた。
【0015】
【実験2】
<コージビオースホスホリラーゼ遺伝子への変異導入>
組換えプラスミドpKBK14XKを制限酵素SacIと制限酵素SpeIとで切断し、コージビオースホスホリラーゼ遺伝子を含むDNA断片を常法に従って精製した後、このDNAを鋳型として、配列表における配列番号13に示す塩基配列を有するプライマー6と配列表における配列番号14に示す塩基配列を有するプライマー7とを用い、PCR変異キット(商品名『GeneMorph PCR Mutagenesis Kit』、ストラスジーン社販売)を用い、そのキットに添付されていたプロトコールに従って、コージビオースホスホリラーゼ遺伝子DNAにランダムな変異を導入した。変異処理したDNAを制限酵素XhoIと制限酵素KpnIとで切断した後、ランダム変異が導入された約1.3KbpのDNA断片を常法に従って精製した。別途、pKBK14XKを同じ制限酵素で切断した後、約5.6KbpDNA断片を常法に従って精製した後、DNAライゲーション・キット(宝酒造株式会社販売)を用いて上記の変異導入された約1.3KbpのDNA断片と連結し、大腸菌JM109に形質転換することによって、コージビオースホスホリラーゼ遺伝子にランダムな変異が導入された組換えプラスミドを有する組換え大腸菌ライブラリーを作製した。
【0016】
【実験3】
<耐熱性コージビオースホスホリラーゼのスクリーニング>
実験2の方法で作製した組換え大腸菌ライブラリーを用いて、1%トリプトン(バクト社製造)、0.5%酵母エキス(バクト社製造)、1%塩化ナトリウム、100μg/mlアンピシリンNa塩、及び1.5%寒天を含む培養プレート上で組換え大腸菌をコロニーとして分離し、この分離したコロニーのうち、1,140個を別々に同じ培地組成のスラント培地に移植し37℃で24時間培養した。培養した菌体を1白金耳採り、1.6%トリプトン、1%酵母エキス(バクト社製造)、0.5%塩化ナトリウム、及び、100μg/mlアンピシリンNa塩からなる液体培地(5ml)が入った試験管に移植し、37℃で24時間振とう培養した。得られた培養液の1mlを、0.4mg/mlリゾチーム及び50mM酢酸緩衝液(pH6.0)からなる水溶液(3ml)が入った試験管に加え、37℃で3時間振とうし溶菌した後、70℃で30分間保持して熱処理した。対照として、ランダム変異が導入されていないプラスミドpKBK14XKを有する組換え大腸菌『KBK14XK』を同様に培養し処理した。得られた酵素液について、熱処理前後のコージビオースホスホリラーゼ活性を測定し、熱処理後の該酵素活性が比較的に残存する酵素液を選ぶことによって、変異により耐熱化したコージビオースホスホリラーゼを産生する組換え大腸菌をスクリーニングした結果、試験した1,140コロニーのうち、No.10−54が高い残存酵素活性を示すことがわかった。この耐熱性コージビオースホスホリラーゼ変異組換え体を『KBKTS』と名付けた。結果を表1に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
なお、コージビオースホスホリラーゼの活性は次のようにして測定する。基質として1.0w/v%コージビオースを含む20mMマッキルベイン緩衝液(pH5.5)2mlに酵素液0.2mlを加え、60℃で30分間反応させた後、反応液0.5mlを100℃、10分間加熱し反応を停止させる。この反応停止液にD−グルコースオキシダーゼ/パーオキシダーゼ試薬0.5mlを添加、攪拌し、40℃で30分間放置した後、5N塩酸2.5mlを添加、攪拌し、525nmにおける吸光度を測定する。酵素活性1単位は、前記反応条件下で、1分間当たり1μmolのD−グルコースを生成する酵素量とする。
【0019】
【実験4】
<DNA分析>
実験3の方法で得た組換え体KBKTSを常法に従い、100μg/ml アンピシリンナトリウム塩を含むL−ブロス培地(pH7.0)に植菌し、37℃で24時間回転振とう培養した。培養終了後、遠心分離により培養物から菌体を採取し、通常のアルカリ−SDS法により組換えDNAを抽出した。この組換えDNAの塩基配列を、通常のジデオキシ法により分析したところ、配列表における配列番号2に示す塩基配列のDNAを含んでおり、併記したアミノ酸配列、すなわち配列番号1に記載したアミノ酸配列をコードしていることが判明した。ランダム変異前の配列表における配列番号5に示す塩基配列と異同を調べたところ、第1,537番目の塩基であるGがAに変異し、その変異によって第513番目のアミノ酸残基であるAsp(アスパラギン酸)がAsn(アスパラギン)に置換していることがわかった。
【0020】
【実験5】
<耐熱性コージビオースホスホリラーゼの産生>
16g/lポリペプトン、10g/l酵母エキス及び塩化ナトリウムを含む水溶液を500ml容三角フラスコに100ml入れ、オートクレーブで121℃で15分間処理し、冷却し、無菌的にpH7.0に調整した後、アンピシリンナトリウム塩10mgを無菌的に添加して液体培地を調製した。この液体培地に実験3の方法で得た組換え体KBKTSを接種し、27℃で約24時間回転振とう培養したものを種培養液とした。次に、5g/lデキストリン、20g/l酵母エキス、20g/lポリペプトン及び1g/lリン酸1水素ナトリウムを含む水溶液をpH7.0に調整し、10l容ジャーファメンターに7l入れ、120℃で20分間加熱処理し、冷却した後、アンピシリンナトリウム塩700mgを無菌的に添加して液体培地を調製し、種培養液を70ml接種し、27℃で約24時間通気攪拌培養した。この培養物を、常法にしたがい、遠心分離(10,000rpm、30分間)して湿重量約201gの菌体を回収し、それを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)670mlに懸濁し、リゾチーム270mgを加えて37℃で1時間静置した後、菌体破砕装置(商品名『UH−600』、エスエムティー社製造)を用いて超音波処理して菌体を破砕した。それを60℃で1時間熱処理し、冷却後、遠心分離(10,000rpm、30分間)して不溶物を除去し、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に対して48時間透析し、再度、遠心分離して不溶物を除去して、酵素液約750mlを得た。酵素液のコージビオースホスホリラーゼ活性を測定したところ、培養物1ml当たりに換算すると約12.8単位の当該酵素が産生されていた。
【0021】
第一の対照として、実験1の方法で得たアミノ酸置換のないコージビオースホスホリラーゼ産生組換え体KBK14XK株を、上述の場合と同一条件で、培養し、培養菌体(約220g)から菌体破砕物の上清を採取し、透析して酵素液を調製した。酵素液のコージビオースホスホリラーゼ活性を測定したところ、対照の酵素産生は培養物1ml当たり約14単位であり、本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼ産生組換え体KBKTSの場合と比較してほぼ同じ値であった。
【0022】
第二の対照として、遺伝子供与体であるサーモアナエロビウム・ブロッキイ ATCC 35047を特許文献1に記載の方法に準じて、温度60℃、約40時間嫌気培養し、培養液約40lを遠心分離して採取した湿重量92gの培養菌体を上述と同一の条件で処理して、酵素液を調製した。酵素液のコージビオースホスホリラーゼ活性を測定したところ、遺伝子供与体であるサーモアナエロビウム・ブロッキイ ATCC 35047の酵素産生は培養物1ml当たり約0.1単位であり、本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼ産生組換え体KBKTSの場合と比較して約1/1000以下の値であった。
【0023】
【実験6】
<耐熱性コージビオースホスホリラーゼの性質>
実験5の方法で得た本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼと対照(第一)のアミノ酸置換のないコージビオースホスホリラーゼを用いて、酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を、活性測定方法に準じて調べた。即ち、温度の影響を調べる際には、活性測定方法における反応温度60℃に代えて約40℃乃至80℃のいずれかの温度で反応を行い、pHの影響を調べる際には、活性測定において用いられる緩衝液に代えて、pH約4乃至8のいずれかのpHに緩衝能を有する緩衝液を用いて反応を行い、この後、活性測定方法と同様に反応停止し、グルコース生成量を測定した。それらの測定結果を、図1(温度の影響)、図2(pHの影響)に示した。図中、「○」は本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼを示し、「●」は対照を示す(以下、同じ)。至適温度は、pH5.5、30分間反応の条件で、本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼの場合、70℃付近で、対照の酵素の場合、65℃付近であった。至適pHは、本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼと対照の酵素とも、5.5付近であった。酵素の温度安定性は、酵素を溶解せしめた10mMマッキルベイン緩衝液(pH5.5)を約40乃至80℃のいずれかの温度に1時間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を活性測定法にしたがって求めた。また、pH安定性は、pH約3.5乃至約10のいずれかのpHに緩衝能を有する緩衝液に酵素を溶解せしめ、4℃で24時間保持した後、pH5.5に調整し、残存する酵素活性を活性測定法にしたがって求めた。それらの結果を、図3(温度安定性)、図4(pH安定性)に示した。本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼの温度安定性は70℃付近までで、対照の酵素は65℃付近までであった。pH安定性は、本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼと対照の酵素とも、約5.5乃至10.0であった。
【0024】
この実験5の方法で得た酵素液を、さらに特許文献1に記載の方法に準じて、DEAE−トヨパール 650ゲル、ウルトロゲル AcA44を用いたカラムクロマトグラフィーに供して精製し、得られた精製酵素を分析したところ、本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼの比活性は蛋白質mg当たり65.3単位で、対照(第二)の遺伝子供与体であるサーモアナエロビウム・ブロッキイATCC 35047由来の精製コージビオースホスホリラーゼの比活性(蛋白質mg当たり71.4単位)と比べるとほぼ同等(約91%)であった。また、精製された耐熱性コージビオースホスホリラーゼは、上述した結果と同様に、至適温度70℃付近、至適pH5.5付近、温度安定性70℃付近まで、及びpH安定性約5.5乃至10.0を示した。
【0025】
【実験7】
<コージビオース生成>
濃度10%β−D−グルコース−1リン酸、濃度7%D−グルコース及び100mM酢酸緩衝液(pH5.5)を含む水溶液に、実験5の方法で得た本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼをβ−D−グルコース−1リン酸1g当たり6単位加え、70℃で24時間反応した後、100℃で10分間熱処理して反応を停止した。反応液を孔径0.45μmのフィルターで濾過し、その濾過液を電気透析器(商品名『MICRO ACILYER G0』、旭化成株式会社製造)で脱塩した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法で糖組成を分析した。対照として、実験5の方法で得た組換え体KBK14XK株由来のアミノ酸置換のないコージビオースホスホリラーゼを用いて、同一条件で反応し分析した。HPLCカラムはMCIGEL CK04SSカラム(三菱化学株式会社製造)を用い、カラム温度85℃で、溶出溶媒が水で流速0.4ml/分の条件で通液し、示差屈折計(商品名『RI−8020』、東ソー株式会社製造)を用いて検出した。これらの結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2の結果から明らかなように、反応温度70℃の試験条件で本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼと対照のコージビオースホスホリラーゼとを比較したところ、耐熱性のコージビオースホスホリラーゼの場合、生成物のコージビオースが34.2%で、さらにそのコージビオースに転移したコージトリオースが8.5%で合計42.7%が総生成物量であるのに対して、対照のアミノ酸置換のないコージビオースホスホリラーゼの場合、生成物のコージビオースが20.5%で、さらにそのコージビオースに転移したコージトリオースが3.0%で合計23.5%が総生成物量と本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼの約1/2であることがわかり、本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼは高い反応温度条件でもコージビオースやコージトリオースの生成率が高いことが判明した。
【0028】
以上の実験の結果は、本来、コージビオースホスホリラーゼを産生する微生物から該酵素遺伝子をクローン化し、それに人為的な変異を与え、DNAの塩基を置換することによって、それがコードするアミノ酸残基を置換し、適当なベクターに組換え、適当な宿主に形質転換し組換え微生物を得、その組換え微生物を培養し、酵素を生産させ採取することによって、本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼを製造できることを示している。本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼは、組換えDNA技術によって作製された組換え体の酵素生産性が高く、酵素製造が容易であり、高い反応温度でも失活が少ないため、コージビオースやコージトリオースなどオリゴ糖の生産に有利に利用できることを示している。
【0029】
【発明の効果】
叙上のように本発明は、組換えDNA技術を利用し、コージビオースホスホリラーゼ遺伝子DNAに変異を与え、コードするアミノ酸残基を置換し、これまで得ることができなかった耐熱性コージビオースホスホリラーゼを作製するものである。本発明の耐熱性コージビオースホスホリラーゼは、至適温度、温度安定性における温度が高く、更に組換え微生物からの酵素生産も高い。したがって、本発明の酵素を利用すれば、コージビオースやコージトリオースなどのコージオリゴ糖を大量且つ安価に製造できることから、本発明は、食品、化粧品、医薬品分野のみならず、農水畜産業や、化学工業等の産業界に貢献すること誠に多大な意義ある発明といえる。
【0030】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のコージビオースホスホリラーゼの酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図2】本発明のコージビオースホスホリラーゼの酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図3】本発明のコージビオースホスホリラーゼの安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図4】本発明のコージビオースホスホリラーゼの安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。
Claims (3)
- 至適温度がpH5.5、30分間反応の条件で70℃付近で、温度安定性がpH5.5、1時間保持の条件で70℃付近まで安定な配列表における配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する耐熱性コージビオースホスホリラーゼ。
- 請求項1に記載の耐熱性コージビオースホスホリラーゼをコードする配列表における配列番号2に記載の塩基配列又はその塩基配列に相補的な塩基配列を含むDNA。
- 請求項2に記載の耐熱性コージビオースホスホリラーゼをコードするDNAを適宜の宿主に導入してなる形質転換体を栄養培地に培養し、培養物から産生した耐熱性コージビオースホスホリラーゼを採取することを特徴とする耐熱性コージビオースホスホリラーゼの製造方法。
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