JP2004153654A - 弾性表面波素子及びその製造方法 - Google Patents

弾性表面波素子及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐電力性の高い弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】弾性表面波素子のくし歯状電極部のくし歯部13a,14aを、Tiからなる第2下地層20、24、Taからなる第1下地層21、25、CuM合金層22、26(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)の積層構造にする。これによって、CuM合金層22,26は(111)方位に配向した結晶性を有し、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性が向上する。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高周波帯域において高い耐電力性を示すことのできる電極構造を有する弾性表面波素子及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
弾性表面波素子は機械的振動エネルギーが固体表面付近にのみ集中して伝播する弾性表面波を利用した電子部品であり、フィルタ、共振器またはデュプレクサなどを構成するために用いられる。
【0003】
近年、携帯電話などの移動体通信端末の小型化及び軽量化が急速に進んでおり、これらの移動体通信端末に実装される電子部品の小型化が要求されている。
【0004】
弾性表面波素子は、圧電基板の表面上に、導電性で比重の小さい材料からなる一対のくし歯状電極(IDT(インタディジタルトランスデューサ)電極)のくし歯の部分を、互い違いに並べて配置する構成を有している。このような単純な構造を有する弾性表面波素子は移動体通信端末に実装されるフィルタ、共振器またはデュプレクサを小型化するために非常に適した素子である。
【0005】
従来の弾性表面波素子のくし歯状電極部の材料には、導電性でかつ比重の小さなAl、またはAlを主成分とする合金が一般的に用いられてきた(特許文献1)。
【0006】
しかし、弾性表面波素子を、例えば、送信増幅器の後段に位置し、大きな電力が印加されるRF部(高周波部)のアンテナデュプレクサとして用いるためには、高い耐電力性が要求される。さらに、移動体通信端末の高周波化に伴い、弾性表面波素子の動作周波数を数百MHzから数GHzにすることも要求されている。
【0007】
高周波化を図るには、弾性表面波素子のくし歯状電極のくし歯部の幅寸法及び間隔幅を小さくする必要がある。例えば、中心周波数2GHz帯フィルタでは前記幅寸法を約0.5μmに形成する必要があり、中心周波数10GHz帯フィルタでは前記幅寸法を約0.1μmに形成する必要がある。
【0008】
このような、微細なくし歯状電極に高圧レベルの信号が印加されると、弾性表面波によってくし歯状電極が強い応力を受ける。この応力がくし歯状電極の限界応力を越えると、ストレスマイグレーションが発生する。ストレスマイグレーションとは、くし歯状電極を構成する金属材料原子が結晶粒界または結晶安定面を通路として移動し、くし歯状電極に空隙(ボイド)や突起(ヒロック)を生じさせる現象のことである。ストレスマイグレーションが発生すると、電極が破損し、電気的断線の発生、素子の挿入損失の増加、共振子のQ低下などを引き起こし、弾性表面波素子の特性劣化に至る。
【0009】
特に、特許文献1に記載されているような、AlまたはAlを主成分とする合金からなるくし歯状電極部を有する弾性表面波素子は、比抵抗が高くまた融点が低いため、くし歯状電極部を微細化したときの抵抗増加が著しくなり、また高周波化によって増大する応力に対する耐性が充分でなくなり、ストレスマイグレーションが発生しやすいという問題を有している。
【0010】
また、くし歯状電極部をAlまたはAlを主成分とする合金によって形成する代わりに、CuまたはCuを主成分とする合金によって形成することも提案されている。
【0011】
例えば、特許文献2には、低抵抗でかつストレスマイグレーション耐性の高いCuまたはCuを主成分とする合金によって、弾性表面波素子のくし型電極部を形成することが記載されている。また、特許文献2にはCuまたはCu合金からなる層(第2電極層)の結晶配向性を向上させ、また第2電極層と圧電基板との密着性を向上させるために、圧電基板と第2電極層の間にTiまたはTi合金からなる第1の電極層を形成することも記載されている。
【0012】
【特許文献1】
特開2001−94382号公報(第3頁、第2図)
【特許文献2】
特開2002−26685号公報(第3頁、第1図)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献2に記載されているように、TiまたはTi合金からなる第1の電極層の上に直接、CuまたはCu合金からなる第2電極層が積層される構造であると、第1の電極層と第2の電極層の界面付近で、TiとCuが相互に拡散してしまい、くし歯状電極部の抵抗値が増大してしまうという問題が生じる。くし歯状電極部の抵抗値が大きくなると、弾性表面波素子の内部損失が大きくなるだけでなく、ストレスマイグレーションも発生しやすくなる。
【0014】
本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、くし歯状電極部の材料にCuまたはCu合金を使用するときの下地層にTaからなる層を形成することによって、耐電力性が向上する弾性表面波素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、圧電基板と、前記圧電基板上に薄膜形成された電極部を有する弾性表面波素子において、
前記電極部は、くし歯状電極部及び前記くし歯状電極部に接続された接続電極部を有し、前記くし歯状電極部は、Taからなる第1下地層と、前記第1下地層の上面に接して積層されたCu層またはCuM合金層(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)を有することを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、前記くし歯状電極部が、Cu層またはCuM合金層を有している。CuやCuM合金は、弾性表面波素子のくし歯状電極の材料に使われて来たAlやAl合金に比べて比抵抗が低くまた融点が高いため、くし歯状電極部を微細化しても抵抗増加を抑えることができ、また高周波化によって応力が増大した場合でもCu原子の移動が発生しづらく、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を向上させることができる。すなわち、本発明の弾性表面波素子は、入力信号の周波数が高くなり、また入力電圧が大きくなったときの挿入損失の増加、及び素子特性の劣化を抑え素子寿命を長くすることが出来るものである。
【0017】
特に、本発明では、Cu層またはCuM合金層が、Taからなる第1下地層の上面に積層されているため、Cu層またはCuM合金層に形成される結晶の配向性の向上及び平均結晶粒径の微細化を図ることができ、これによって弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性をよりいっそう向上させることができる。
【0018】
弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を効果的に向上させるために、本発明では、前記Cu層またはCuM合金層は、(111)方位に結晶配向していることが好ましい。
【0019】
さらに、前記Cu層またはCuM合金層の平均結晶粒径が、10nm以上で100nm以下の範囲であることが好ましい。
【0020】
また、前記CuM合金層は、結晶構造が面心立方格子構造である結晶粒を有し、結晶粒界に元素Mが析出していることが好ましい。
【0021】
元素Mが結晶粒界に析出することによって、Cu元素の粒界拡散を抑制し、くし歯状電極部の強度が向上する。すなわち、高周波信号が入力されて、弾性表面波素子の機械的振動が大きくなっても、くし歯状電極部のストレスマイグレーションが抑えられ、破壊されにくくなる。また、結晶粒の結晶配向性が向上する。さらに、くし歯状電極層の抵抗値も小さくなる。
【0022】
なお、元素Mは例えば、Agである。このとき、前記CuM合金層中のAg含有量が、0.5質量%以上で10質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上で10質量%以下であると、弾性表面波素子の耐電力特性を効果的に向上させることができる。
【0023】
また、前記第1下地層の下面に接する第2下地層が設けられており、前記第2下地層はTi及び/またはTi酸化物からなると、前記Cu層またはCuM合金層の(111)方位の結晶配向が強くなり、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性をよりいっそう向上させることができる。
【0024】
なお、前記第2下地層はTiのみからなる領域の上にTi酸化物が形成されたものであり、前記Ti酸化物の酸素含有量は、前記第2下地層の下面側から上面側に向かうにつれて徐々に増加していることが好ましい。前記第2下地層の上面に形成されるTi酸化物は非晶質に近い構造になり、第2下地層の上に積層される前記第1下地層が前記第2下地層の結晶性の影響を受けにくくなる。すると、前記第1下地層の結晶粒径が小さくなり、前記第1下地層の上に積層されるCu層またはCuM合金層の結晶粒径も小さくなる。Cu層またはCuM合金層の結晶粒径が小さくなると、前記Cu層またはCuM合金層の(111)方位の結晶配向が強くなり、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性がより向上する。
【0025】
なお、前記圧電基板と前記CuまたはCuM合金層の間に、前記第1下地層のみが存在するときには、前記第1下地層の膜厚が、5nm以上で15nm以下であるときに、前記Cu層またはCuM合金層の(111)方位の結晶配向を強くすることができる。
【0026】
また、前記第1下地層の膜厚が厚くなりすぎると弾性表面波素子の高周波特性が劣化する。本発明のように、前記第1下地層の膜厚を15nm以下にすると高周波特性の劣化を抑えることができる。
【0027】
また、前記圧電基板と前記CuまたはCuM合金層の間に、前記第2下地層と前記第1下地層が存在するときには、前記第2下地層の膜厚が、3nm以上で15nm以下であるときに、前記Cu層またはCuM合金層の(111)方位の結晶配向を強くすることができる。
【0028】
また、前記Cu層またはCuM合金層の膜厚は、30nm以上で150nm以下であることが好ましい。
【0029】
さらに、前記Cu層または前記CuM合金層の上に、Crからなる保護層が形成されることにより、前記Cu層または前記CuM合金層の酸化及び腐蝕を抑えることができる。
【0030】
また、本発明の弾性表面波素子の製造方法は、以下の工程を有することを特徴とするものである。
(a) 圧電基板上に、Taからなる第1下地層とCu層を有する多層膜、または前記第1下地層とCuM合金層(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)を有する多層膜を、連続成膜する工程と、
(b) 前記多層膜をパターン形成して、くし歯状電極部を形成する工程と、
(c) 前記くし歯状電極部に接続される接続電極部を形成する工程と、
(d) 前記くし歯状電極部及び前記接続電極部が形成された圧電基板を熱処理する工程。
【0031】
本発明の弾性表面波素子の製造方法では、弾性表面波素子のくし歯状電極の材料にCuやCuM合金を用いているため、くし歯状電極部を微細化しても抵抗増加を抑えることができ、また高周波化によって応力が増大した場合でもCu原子の移動が発生しづらく、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を向上させることができる。
【0032】
また、本発明では、Cu層またはCuM合金層をTaからなる第1下地層の上面に積層するため、Cu層またはCuM合金層に形成されるCu結晶の結晶配向性の向上及び平均結晶粒径の微細化を図ることができ、これによって弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性をよりいっそう向上させることができる。
【0033】
特に、前記CuM合金層を用いるときには、前記(d)工程における熱処理によって、元素Mが結晶粒界に析出する。結晶粒界に析出した元素Mによって、Cu元素の粒界拡散が抑制され、くし歯状電極部の強度が向上する。すなわち、高周波信号が入力されて、弾性表面波素子の機械的振動が大きくなっても、くし歯状電極部のストレスマイグレーションが抑えられ、破壊されにくくなる。また、Cuの結晶粒の結晶配向性を向上する。さらに、くし歯状電極層の抵抗値も小さくなる。
【0034】
なお、本発明では、前記(a)工程の代わりに、
(e)圧電基板上に、Tiからなる第2下地層を成膜した後、この第2下地層を大気中に暴露する工程と、
(f)前記第2下地層上に、Taからなる第1下地層とCu層を連続成膜する工程または、Taからなる第1下地層とCuM合金層(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)を連続成膜する工程を有してもよい。
【0035】
前記(e)工程において、第2下地層を大気中に暴露することによって、前記第2下地層を酸化させることができる。
【0036】
すると、前記第2下地層を、Tiのみからなる領域の上にTi酸化物が形成されたものであって、前記Ti酸化物の酸素含有量は、前記第2下地層の下面側から上面側に向かうにつれて徐々に増加しているものにできる。前記第2下地層の上面に形成されるTi酸化物は非晶質に近い構造になり、第2下地層の上に積層される前記第1下地層が前記第2下地層の結晶性の影響を受けにくくなる。すると、前記第1下地層の結晶粒径が小さくなって、さらに、前記第1下地層の上に積層されるCu層またはCuM合金層の結晶粒径が小さくなる。Cu層またはCuM合金層の結晶粒径が小さくなると、前記Cu層またはCuM合金層の(111)方位の結晶配向が強くなり、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性がより向上する。
【0037】
ただし、本発明では、前記(e)工程における第2下地層の大気暴露工程の温度、時間によって、第2下地層にTi酸化物が形成されなかったり、第2下地層の全てが酸化物となることがある。
【0038】
第2下地層にTi酸化物が形成されなくても、前記第2下地層と前記第1下地層との積層構造を形成することによって、前記第1下地層のみを形成する場合に比べて、前記Cu層またはCuM合金層の(111)方位の結晶配向をより強くさせることができる。
【0039】
また、前記(a)工程または前記(f)工程において、前記Cu層または前記CuM合金層の上にCrからなる保護層を形成することより、前記Cu層または前記CuM合金層の酸化及び腐蝕を抑えることができる。
【0040】
なお、元素Mは例えば、Agである。このとき、前記CuM合金層中のAg含有量を、0.5質量%以上で10質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上で10質量%以下にすると、弾性表面波素子の耐電力特性を効果的に向上させることができる。
【0041】
また、本発明では、前記(d)工程の熱処理温度を250℃以上300℃以下にすることより、弾性表面波素子の耐電力特性を効果的に向上させることができる。
【0042】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の第1の実施の形態の弾性表面波素子を示す平面図である。
【0043】
符号11は弾性表面波素子を示しており、この弾性表面波素子は分波器としての機能を有している。符号12は、圧電基板を示している。本実施の形態では、圧電基板12はLiTaOまたはLiNbOなどの圧電セラミック材料によって形成されている。
【0044】
圧電基板12上に、くし歯状電極部13及びくし歯状電極部14が形成されている。くし歯状電極部13及びくし歯状電極部14には、それぞれ図示Y方向に延びるくし歯部13a、及び図示Y方向と逆方向に延びるくし歯部14aが形成されている。くし歯状電極部13のくし歯部13aとくし歯状電極部14のくし歯部14aは、所定の間隔をあけて図示X方向に互い違いに並べられている。
【0045】
また、くし歯状電極部13及びくし歯状電極部14には、弾性表面波素子を外部の回路と接続するための接続電極部15、16が電気的に接続されている。くし歯状電極部13と接続電極部15が電極部17を構成し、くし歯状電極部14と接続電極部16が電極部18を構成している。
【0046】
さらに、くし歯状電極部13及びくし歯状電極部14の図示X方向と図示X方向の反対側に隣接して、反射電極19,19が形成されている。
【0047】
図2は、くし歯状電極部13及びくし歯状電極部14を、2−2線から切断し矢印方向から見た縦断面図である。
【0048】
本実施の形態では、くし歯状電極部13は、第2下地層20と、第2下地層20の上面に積層されたTaからなる第1下地層21と、第1下地層の上面に接して積層されたCuM合金層22(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)と、CuM合金層22の上に積層された保護層23からなる積層構造を有している。同様に、くし歯状電極部14も、第2下地層24と、Taからなる第1下地層25と、第1下地層25の上面に接して積層されたCuM合金層26(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)と、CuM合金層26の上に積層された保護層27からなる積層構造を有している。保護層23及び保護層27はCrによって形成されている。
【0049】
図1及び図2に示される実施の形態では、くし歯状電極部13とくし歯状電極部14は同じ幅寸法Wを有しており、間隔幅Pは一定の値である。くし歯状電極部13,14の幅寸法Wは0.3μm以上で0.7μm以下であり、間隔幅Pは0.3μm以上で0.7μm以下である。 本実施の形態の弾性表面波素子の第2下地層20,24は主にTiによって形成されている。Tiからなる第2下地層20,24上にTaからなる第1下地層21,25を介して、CuM合金層22,26が積層されると、CuM合金層22,26の(111)方位の結晶配向が強くなる。この結果、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を向上させることができる。
【0050】
CuM合金層22,26の結晶配向性は、X線回折(XRD)法によって分析できる。弾性表面波素子11のCuM合金層22,26について、その結晶配向性をX線回折によって分析した結果、(111)方位の配向のみが検出され、他の配向は検出されなかった。
【0051】
また、第2下地層20,24と第1下地層21,25を有する構成であると、第2下地層と第1下地層の膜厚を小さくすることができ、くし歯状電極部13,14の電極質量を軽量化できる。電極質量が軽くなると弾性表面波素子のQ値が大きくなり、高周波特性が向上する。
【0052】
また、本実施の形態の弾性表面波素子のように、第2下地層20とCuM合金層22の間に第1下地層21が介在し、第2下地層24とCuM合金層26の間に第1下地層25が介在していると、第2下地層20,24の構成元素がCuM合金層に拡散することが防止される。その結果、CuM合金層22,26は、材料が本来もつ低い比抵抗を維持でき、弾性表面波素子のQを高くできる。 なお、Cuの比抵抗は、1.7μΩ・cmである。ちなみに、弾性表面波素子のくし歯状電極の材料としてこれまでよく用いられてきたAlの比抵抗は、2.7μΩ・cmである。
【0053】
また、CuM合金は、弾性表面波素子のくし歯状電極部の材料に使われて来たAlやAl合金に比べて融点が高いため、高周波化によって応力が増大した場合でもCu原子の移動が発生しづらく、弾性表面波素子11のストレスマイグレーション耐性を向上させることができる。すなわち、弾性表面波素子11に印加される入力信号の周波数が高くなり、また入力電圧が大きくなったときの挿入損失の増加、及び素子特性の劣化を抑え素子寿命を長くすることが出来る。
【0054】
上述したように、CuM合金層22,26は、(111)方位に結晶配向している。さらに、CuM合金層22,26の平均結晶粒径が10nm以上で100nm以下の範囲である。CuM合金層22,26の結晶配向性が向上し、平均結晶粒径が微細化することにより、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を効果的に向上させることができる。
【0055】
また、CuM合金層22,26は、結晶構造が面心立方格子構造である結晶粒を有し、結晶粒界に元素Mが析出していることが好ましい。
【0056】
元素Mが結晶粒界に析出することによって、Cu元素の粒界拡散を抑制し、くし歯状電極部13,14の強度が向上する。すなわち、高周波信号が入力されて、弾性表面波素子11の機械的振動が大きくなっても、くし歯状電極部13,14のストレスマイグレーションが抑えられ、破壊されにくくなる。また、Cuの結晶粒の結晶配向性も向上する。さらに、くし歯状電極層の抵抗値も小さくなる。
【0057】
なお、元素Mは、例えばAgである。このとき、CuM合金層中のAg含有量が0.5質量%以上で10質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上で10質量%以下であると、弾性表面波素子11の耐電力特性を効果的に向上させることができる。
【0058】
なお、CuM合金層22,26の代わりにCu層が形成されていても、Cu層の下層に第1下地層21,25及び第2下地層20,24が形成されることにより、このCu層を(111)方位に結晶配向させることができる。さらに、Cu層の平均結晶粒径を、10nm以上で100nm以下の範囲にすることもできる。CuM合金層22,26の結晶配向性が向上し、平均結晶粒径が微細化することにより、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を効果的に向上させることができる。
【0059】
また、Cuは比抵抗が低くまた融点が高いため、くし歯状電極部13,14を微細化したときの抵抗増加を抑えることができ、また高周波化によって応力が増大した場合にもCu原子の移動が発生しづらく、弾性表面波素子11のストレスマイグレーション耐性を向上させることができる。ちなみにCuの融点は、1084℃であり、従来弾性表面波素子のくし歯状電極部の材料としてよく用いられてきたAlの融点は660℃である。
【0060】
また、圧電基板とCuまたはCuM合金層の間に、第2下地層20,24と第1下地層21,25が存在するときには、第2下地層20,24の膜厚t4が3nm以上で15nm以下であるときに、CuM合金層22,26またはCu層の(111)方位の結晶配向を強くすることができる。
【0061】
第2下地層20,24が主にTiによって形成されていると、圧電基板12とくし歯状電極部13,14との密着性が良好になる。
【0062】
なお、第2下地層20,24は、Tiからなる層のみで形成されてもよいし、Ti酸化物からなる層のみで形成されてもよい。
【0063】
だたし、最も好ましいのは、第2下地層20,24は、Tiのみからなる領域の上にTi酸化物が形成されたものであり、Ti酸化物の酸素含有量が、第2下地層20,24の下面側から上面側に向かうにつれて徐々に増加していることである。第2下地層20,24の上面に形成されるTi酸化物は非晶質に近い構造になり、第2下地層20,24の上に積層される第1下地層21,25が第2下地層20,24の結晶性の影響を受けにくくなる。すると、第1下地層21,25の結晶粒径が小さくなって、さらに、第1下地層21,25の上に積層されるCuM合金層22,26またはCu層の結晶粒径が小さくなる。CuM合金層22,26またはCu層の結晶粒径が小さくなると、CuM合金層22,26またはCu層の(111)方位の結晶配向が強くなり、弾性表面波素子11のストレスマイグレーション耐性がより向上する。
【0064】
図3は、本発明の第2の実施の形態の弾性表面波素子のくし歯状電極部の断面図である。
【0065】
図3に示される弾性表面波素子は、くし歯状電極部のくし歯部32及びくし歯部33を構成する第1下地層21,25の下面に接する第2下地層20,24が形成されておらず、圧電基板12上に第1下地層21,25が直接積層されている点で図1及び図2に示された弾性表面波素子と異なっている。
【0066】
くし歯部32及びくし歯部33は、図2に示される弾性表面波素子のくし歯部13a及びくし歯部14aに相当しており、それぞれの平面形状は図1に示されるくし歯部13a及びくし歯部14aの平面形状と同じである。また、図示しないが、第2の実施の形態の弾性表面波素子においても、図1に示される弾性表面波素子の接続電極部17、18及び反射電極部19,19と同じ構造の接続電極部及び反射電極部が設けられる。
【0067】
圧電基板12上に第1下地層21,25が直接積層される構成でも、第1下地層21,25の上に積層されるCuM合金層22,26を(111)方位に結晶配向させることが可能である。さらに、CuM合金層22,26の平均結晶粒径が、10nm以上で100nm以下の範囲である。CuM合金層22,26の結晶配向性が向上し、平均結晶粒径が微細化することにより、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を効果的に向上させることができる。
【0068】
本実施の形態でも、CuM合金層22,26は、結晶構造が面心立方格子構造である結晶粒を有し、結晶粒界に元素Mが析出していることが好ましい。
【0069】
元素Mが結晶粒界に析出することによって、Cu元素の粒界拡散を抑制し、くし歯状電極部の強度が向上する。すなわち、高周波信号が入力されて、弾性表面波素子の機械的振動が大きくなっても、くし歯状電極部のストレスマイグレーションが抑えられ、破壊されにくくなる。また、結晶粒の結晶配向性も向上する。さらに、くし歯状電極層の抵抗値も小さくなる。
【0070】
なお、元素Mは、例えばAgである。このとき、CuM合金層中のAg含有量が0.5質量%以上で10質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上で10質量%以下であると、弾性表面波素子11の耐電力特性を効果的に向上させることができる。
【0071】
なお、CuM合金層22,26の代わりにCu層が形成されていても、Cu層を、(111)方位に結晶配向させることが可能である。さらに、Cu層の平均結晶粒径を、10nm以上で100nm以下にすることもできる。Cu層の結晶配向性が向上し、平均結晶粒径が微細化することにより、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を効果的に向上させることができる。
【0072】
また、Cuは比抵抗が低くまた融点が高いため、くし歯状電極部を微細化したときの抵抗増加を抑えることができ、また高周波化によって応力が増大した場合にもCu原子の移動が発生しづらく、弾性表面波素子11のストレスマイグレーション耐性を向上させることができる。
【0073】
なお、圧電基板とCuまたはCuM合金層の間に、第1下地層21,25のみが存在するときには、第1下地層21,25の膜厚t1が、5nm以上で15nm以下であるときに、特にCuM合金層22,26またはCu層の(111)方位の結晶配向を強くすることができる。
【0074】
また、図2及び図3においてCuM合金層22,26の膜厚t2は、30nm以上で150nm以下であることが好ましい。
【0075】
さらに、CuM合金層22,26またはCu層の上に、Crからなる保護層23、27が形成されることにより、CuM合金層22,26またはCu層の酸化及び腐蝕を抑えることができる。保護層23、27の膜厚t3は1nm以上で10nm以下である。
【0076】
図2に示された第1の実施の形態の弾性表面波素子の製造方法を説明する。
図4から図7は、弾性表面波素子の製造過程に於けるくし歯状電極部となる部分の断面図である。
【0077】
図4に示す工程では、LiTaOまたはLiNbOからなる圧電基板12上に、Ti層40をスパッタ法や蒸着法を用いて薄膜形成する。Ti層40は後にパターン形成されて、くし歯状電極部の第2下地層20,24になる。Ti層40の成膜膜厚t5は、3nm以上で15nm以下である。Ti層40の成膜後、Ti層40を大気中に暴露する。Ti層40を大気中に暴露することによって、Ti層40を酸化させることができる。
【0078】
すると、Ti層40がTiのみからなる領域の上にTi酸化物が形成されたものになる。また、Ti層40中のTi酸化物の酸素含有量はTi層40の下面側から上面側に向かうにつれて徐々に増加している状態になる。Ti層40の上面に形成されるTi酸化物は非晶質に近い構造になっている。
【0079】
次に、図5に示す工程において、Ta層41、CuM合金層42(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)、Cr層43を連続成膜する。なお、後述するパターン形成工程によって、Ta層41は第1下地層21,25となり、CuM合金層42はCuM合金層22,26となり、Cr層43は保護層23,27になる。
【0080】
本実施の形態の弾性表面波素子の製造方法では、Ti層40の上面に形成されるTi酸化物は非晶質に近い構造になっている。このため、Ti層40の上に積層されるTa層41がTiの結晶性の影響を受けにくくなる。すると、Ta層41の結晶粒径が小さくなって、さらに、Ta層41の上に積層されるCuM合金層42の結晶粒径が小さくなる。CuM合金層42の結晶粒径が小さくなると、CuM合金層42の(111)方位の結晶配向が強くなり、CuM合金層42のストレスマイグレーション耐性がより向上する。
【0081】
本実施の形態では、CuM合金層42の結晶粒径を10nm以上100nm以下にすることが可能である。
【0082】
なお、前記Ti酸化物の存在及び濃度勾配を検出する方法には、SIMS分析装置や透過電子顕微鏡TEMによるナノビームEDX分析などがある。
【0083】
ただし、Ti層40の大気暴露工程の温度、時間によって、Ti層40にTi酸化物が形成されなかったり、Ti層40の全てがTi酸化物となることもある。本発明での第2下地層は、その両方の状態を含む。
【0084】
また、図1及び図2に示される弾性表面波素子を形成するときに、Ti層40の成膜後にTi層40を大気中に暴露せず、圧電基板12上に、Ti層40、Ta層41、CuM合金層42(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)、Cr層43を連続成膜することもできる。Ti層40の上にTa層41を連続成膜したときには、当然Ti層は酸化されない。
【0085】
Ti層40にTi酸化物が形成されなくても、Ti層40とTa層41の積層構造を形成することによって、CuM合金層42の(111)方位の結晶配向を強くさせることができる。Ti層40とTa層41の積層体の上に、積層されたCuM合金層42の(111)方位の結晶配向は、圧電基板12上にTa層41のみを介して成膜されたCuM合金層42の(111)方位の結晶配向より強くなっている。
【0086】
次に、図6の工程に示されるように、マスク層44をレジストを用いたレジストフォトリソグラフィー及びエッチング工程によって、パターン形成する。なお、マスク層44は、図1に示されるくし歯状電極部13,14の平面形状と同じくし歯状にパターン形成される。
【0087】
図7に示す工程では、マスク層44をマスクとして用いるドライエッチング法によって、CuM合金層42をくし歯状にパターン形成し、CuM合金層22及びCuM合金層26を形成する。CuM合金層42のエッチング工程において、Ta層41がエッチングストップ層として機能するため、Ta層41の下層に位置するTi層40や圧電基板12がエッチングによる損傷を受けることを防止できる。Ta層41をエッチングストップ層として機能させるためには、Ta層の膜厚を5nm以上にすることが必要である。
【0088】
さらに、マスク層44と、Ti層40及びTa層41のマスク層44に覆われていない部分(間隔部A)とを、ドライエッチング法によって同時に除去して、CuM合金層22の下層に第1下地層21及び第2下地層20を、CuM合金層26の下層に第1下地層25及び第2下地層24をパターン形成する。くし歯状にパターン形成された、第2下地層20、第1下地層21、CuM合金層22、保護層23が一方のくし歯状電極部13になり、第2下地層24、第1下地層25、CuM合金層26、保護層27がもう一方のくし歯状電極部14になる。
【0089】
さらに、くし歯状電極部13,14に接続される接続電極部15,16を形成し、くし歯状電極部13,14及び接続電極部15,16が形成された圧電基板12を熱処理する。
【0090】
熱処理が終了すると図1及び図2に示される弾性表面波素子が得られる。
本実施の形態の弾性表面波素子の製造方法では、弾性表面波素子のくし歯状電極13,14の材料にCuM合金を用いているため、くし歯状電極部13,14のくし歯部13a,14aを微細化しても抵抗増加を抑えることができ、また高周波化によって応力が増大した場合でもCu原子の移動が発生しづらく、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を向上させることができる。
【0091】
本実施の形態のように、CuM合金層22,26を有するくし歯状電極部13,14を形成すると、前記熱処理によって、CuM合金の元素Mが結晶粒界に析出する。結晶粒界に析出した元素Mによって、Cu元素の粒界拡散が抑制され、くし歯状電極部の強度が向上する。すなわち、高周波信号が入力されて、弾性表面波素子の機械的振動が大きくなっても、くし歯状電極部13,14のストレスマイグレーションが抑えられ、破壊されにくくなる。また、Cuの結晶粒の結晶配向性も向上する。さらに、くし歯状電極部13,14の抵抗値も小さくなる。
【0092】
なお、元素Mは例えば、Agである。このとき、CuM合金層22,26中のAg含有量を0.5質量%以上で10質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上で10質量%以下にすると、弾性表面波素子の耐電力特性を効果的に向上させることができる。
【0093】
また、前記熱処理の温度を250℃以上で300℃以下にすることより、弾性表面波素子1の耐電力特性を効果的に向上させることができる。
【0094】
また、CuM合金層22,26の上にCrからなる保護層23,27が形成されているため、CuM合金層22,26の酸化及び腐蝕を抑えることができる。
【0095】
なお、本実施の形態の製造方法を用いると、第2下地層20,24を、Tiのみからなる領域の上にTi酸化物が形成されたものであって、Ti酸化物の酸素含有量は、第2下地層20,24の下面側から上面側に向かうにつれて徐々に増加しているものにできる。
【0096】
上記した本発明の弾性表面波素子の製造方法の実施の形態では、図2に示される第2下地層20,24を有するくし歯状電極部13,14を形成した。
【0097】
図3に示される弾性表面波素子を形成するときには、図4に示す工程のTi層40の成膜工程を省いて、圧電基板12上に直接Ta層41、CuM合金層42(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)、Cr層43を連続成膜すればよい。
【0098】
また、CuM合金層42の代わりにCuのみからなる層を形成してもよい。
なお、図1に示された弾性表面波素子11は、一対の反射電極19,19の間に、電極部17、18が図示X方向に2個並べられているものであるが、本発明の弾性表面波素子11は、一対の反射電極19,19の間に電極部17、18が1個だけ形成されているものであってもよいし、一対の反射電極19,19の間に電極部17、18が3個以上並べられているものであってもよい。
【0099】
また、本発明の弾性表面波素子は、アンテナ共用器を構成する共振器、フィルタとして用いることに適性を有する。ただし、本発明の弾性表面波素子の用途は、アンテナ共用器に限られず共振器、フィルタ一般に用いることができる
【0100】
【実施例】
(第1実施例)
圧電基板上に第1下地層、CuAg合金層、保護層が順に積層されたくし歯状電極部を形成し、第1下地層の膜厚とCuAg合金の(111)結晶配向性の関係を調べた。
【0101】
LiTaOからなる圧電基板上に、Taからなる第1下地層、CuAg合金層、Crからなる保護層をスパッタ成膜し、成膜後に熱処理を加えた。CuAg合金層の膜厚を80nm、保護層の膜厚を5nmに固定し、第1下地層の膜厚を5nmから15nmの間で変化させた。熱処理温度は275℃、熱処理時間は1時間である。 成膜直後のCuAg合金の(111)結晶配向性と熱処理後の(111)結晶配向性をX線回折によって測定した。
【0102】
結果を図8に示す。図8を見ると、Taからなる第1下地層がCuAg合金層の下層に形成されると、成膜直後及び熱処理後のいずれにおいても、CuAg層(111)ピークが現れることが分かる。
【0103】
成膜直後の状態でCuAg層の結晶配向を測定すると、第1下地層の膜厚が5nmのとき、CuAg層の(111)結晶配向強度は約15kcpsである。第1下地層の膜厚を厚くしていくと、膜厚が10nmを越えたときに、CuAg層の(111)結晶配向強度が急激に大きくなる。なお、CuAg層の(111)結晶配向強度は、第1下地層の膜厚が10nmのとき約20kcpsであり、第1下地層の膜厚が15nmのとき約60kcpsである。
【0104】
また、図8から、熱処理を加えると、第1下地層の膜厚がいずれの大きさであっても、CuAg層の(111)結晶配向強度が成膜直後の状態よりもほぼ一定の大きさだけ強くなることが分かる。
【0105】
第1下地層の膜厚が5nmのとき、熱処理後のCuAg層の(111)結晶配向強度は約80kcpsである。そして、膜厚が10nmを越えたときに、CuAg層の(111)結晶配向強度が急激に大きくなる。なお、熱処理後のCuAg層の(111)結晶配向強度は、第1下地層の膜厚が10nmのとき約100kcpsであり、第1下地層の膜厚が15nmのとき約140kcpsである。
また、CuAg層には、(111)配向以外の配向は見いだされなかった。
【0106】
(第2実施例)
圧電基板上に第2下地層、第1下地層、CuAg合金層、保護層が順に積層されたくし歯状電極部を形成し、第2下地層の膜厚とCuAg合金の(111)結晶配向性の関係を調べた。
【0107】
LiTaOからなる圧電基板上に、Tiからなる第2下地層、Taからなる第1下地層、CuAg合金層、Crからなる保護層をスパッタ成膜し、成膜後に熱処理を加えた。第1下地層の膜厚を5nm、CuAg合金層の膜厚を80nm、保護層の膜厚を5nmに固定し、第2下地層の膜厚を3nmから15nmの間で変化させた。熱処理温度は275℃、熱処理時間は1時間である。
【0108】
成膜直後のCuAg合金の(111)結晶配向性と熱処理後の(111)結晶配向性をX線回折によって測定した。
【0109】
結果を図9に示す。膜厚が3nmから15nmである、Tiからなる第2下地層が、第1下地層とCuAg合金層の積層体の下層に形成されていると、成膜直後、熱処理後のいずれにおいても、CuAg層の(111)結晶配向強度が100kcps以上になることがわかる。特に、熱処理を施すといずれの膜厚においても、200kcps以上の(111)結晶配向強度を示した。なお、膜直後、熱処理後のいずれにおいても、第2下地層の膜厚が5nmのときに、(111)結晶配向強度が最も強くなっている。第2下地層の膜厚が5nmのときの、(111)結晶配向強度は、成膜直後で約130kcps、熱処理後で約300kcpsである。
【0110】
なお、第2下地層が第1下地層の下層に形成される本実施例のCuAg層の(111)結晶配向強度は、第1下地層が直接圧電基板上に積層される場合(実施例1)のCuAg層の(111)結晶配向強度より強くなっている。
【0111】
このため、第2下地層と第1下地層の膜厚が小さくても、CuAg層の(111)結晶配向強度を大きくすることができ、くし歯状電極層の電極質量を軽量化できる。電極質量が軽くなると弾性表面波素子のQ値が大きくなり、高周波特性が向上する。
また、CuAg層には、(111)配向以外の配向は見いだされなかった。
【0112】
(実施例1)及び(実施例2)において、CuAg層の(111)配向が強くなるのは、第1下地層が微細な結晶粒組織、いわゆる島状構造となるためであると考えられる。特に、第2下地層が第1下地層の下層に形成されると(実施例2)、第1下地層が直接圧電基板上に積層される場合(実施例1)よりも、第1下地層の島状構造がいっそう微細になるものと考えられる。
【0113】
次に、図2に示される弾性表面波素子のくし歯状電極部を構成するCuAg合金層中のAg含有量及び弾性表面波素子の耐電力性との関係、及びくし歯状電極部形成後の熱処理温度と形成された弾性表面波素子の耐電力性との関係を調べた。
【0114】
弾性表面波素子の耐電力性の測定には、弾性表面波素子に反共振周波数の入力信号を加えた状態で入力電力を段階的に増加させ、弾性表面波素子が破壊されたときの入力限界電力を測定するステップストレス試験法を用いた。
【0115】
実験条件を以下に示す。 くし歯状電極部のくし歯部の幅寸法W:0.5μm
くし歯状電極部のくし歯部の間隔幅P:0.5μm
くし歯状電極部のくし歯部の長さ寸法L:100μm
くし歯状電極部のCuAg合金層の膜厚:80nm
【0116】
なお、圧電基板の材料はLiTaOである。本実施例では、弾性表面波素子のストレスマイグレーションを最大にするために入力周波数を反共振周波数(本実施例では1.8GHzから2.0GHzまでの適正な値)にしている。
【0117】
結果を図10に示す。図10によると、Ag含有量が0.8質量%以上のCuAg合金層を有する弾性表面波素子を250℃以上の温度で熱処理すると、常温(25℃)状態で放置しておいた場合に比べて、入力限界電力が大きくなることが分かる。ただし、熱処理温度が350℃以上になると、Ag含有量が2.8質量%のCuAg合金層を有する弾性表面波素子の入力限界電力が常温放置時の入力限界電力より小さくなる。また、熱処理温度が375℃になると、Ag含有量が1.0質量%のCuAg合金層を有する弾性表面波素子の入力限界電力も常温放置時の入力限界電力より小さくなる。
【0118】
この結果から本発明の弾性表面波素子の製造方法では、くし歯状電極部が形成された弾性表面波素子の熱処理温度の好ましい範囲を250℃以上300℃以下とした。
【0119】
また、図10のグラフからCuAg合金層中のAg含有量が大きくなると、弾性表面波素子の入力限界電力も大きくなる傾向があることが分かる。
【0120】
特に、CuAg合金層中のAg含有量が0.5質量%以上であると、弾性表面波素子の入力限界電力が1W以上となって、実用上好ましい耐電力性が得られる。
【0121】
また、CuAg合金層中のAg含有量が10質量%以上になると、電極の電気抵抗が増大するために、弾性表面波素子の挿入損失が増し、高周波特性が著しく損なわれるので好ましくない。
【0122】
従って、本発明の弾性表面波素子では、くし歯状電極部がCuAg層を有するとき、このCuAg層中のAg含有量の好ましい範囲を0.5質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上10質量%以下とした。
【0123】
以上本発明をその好ましい実施例に関して述べたが、本発明の範囲から逸脱しない範囲で様々な変更を加えることができる。
【0124】
なお、上述した実施例はあくまでも例示であり、本発明の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0125】
【発明の効果】
以上詳細に説明した本発明では、前記くし歯状電極部が、比抵抗が低くまた融点が高いCu層またはCuM合金層を有している。従って、くし歯状電極部を微細化しても抵抗増加を抑えることができ、また高周波化によって応力が増大した場合でもCu原子の移動が発生しづらく、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を向上させることができる。すなわち、本発明の弾性表面波素子は、入力信号の周波数が高くなり、また入力電圧が大きくなったときの挿入損失の増加、及び素子特性の劣化を抑え素子寿命を長くすることが出来る。
【0126】
特に、本発明では、Cu層またはCuM合金層がTaからなる第1下地層の上面に積層されているため、Cu層またはCuM合金層の結晶配向性の向上及び平均結晶粒径の微細化を図ることができ、これによって弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性をよりいっそう向上させることができる。
【0127】
また、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性を効果的に向上させるために、本発明では、前記Cu層またはCuM合金層を(111)方位に結晶配向させることができる。
【0128】
さらに、前記Cu層またはCuM合金層の平均結晶粒径を10nm以上100nm以下の範囲にすることもできる。
【0129】
また、前記CuM合金層は、結晶構造が面心立方格子構造である結晶粒を有し、結晶粒界に元素Mが析出している構造にできる。
【0130】
元素Mが結晶粒界に析出することによって、Cu元素の粒界拡散を抑制し、くし歯状電極部の強度が向上する。すなわち、高周波信号が入力されて、弾性表面波素子の機械的振動が大きくなっても、くし歯状電極部のストレスマイグレーションが抑えられ、破壊されにくくなる。また、Cuの結晶粒の結晶配向性を向上する。さらに、くし歯状電極層の抵抗値も小さくなる。
【0131】
なお、元素Mは例えば、Agである。このとき、前記CuM合金層中のAg含有量が0.5質量%以上10質量%以下であると、弾性表面波素子の耐電力特性を効果的に向上させることができる。
【0132】
また、本発明では、前記第1下地層の下面に接する、Ti及び/またはTi酸化物からなる第2下地層を形成することにより、前記Cu層またはCuM合金層の(111)方位の結晶配向を強め、弾性表面波素子のストレスマイグレーション耐性をよりいっそう向上させることができる。
【0133】
また、前記第2下地層と前記第1下地層を有する構成であると、前記第2下地層と前記第1下地層の膜厚を小さくすることができ、くし歯状電極層の電極質量を軽量化できる。電極質量が軽くなると弾性表面波素子のQ値が大きくなり、高周波特性が向上する。
【0134】
また、前記第2下地層と前記Cu層または前記CuM合金層の間に前記第1下地層が介在していると、前記第2下地層の構成元素が前記Cu層または前記CuM合金層に拡散することが防止される。その結果、前記Cu層または前記CuM合金層は、材料が本来もつ低い比抵抗を維持でき、弾性表面波素子のQを高くできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態である弾性表面波素子の平面図、
【図2】図1に示された弾性表面波素子の2−2線断面図、
【図3】本発明の第2の実施の形態である弾性表面波素子のくし歯状電極部の断面図、
【図4】図1及び図2に示された弾性表面波素子の製造工程を示す一工程図、
【図5】図4の次に行なわれる一工程図、
【図6】図5の次に行なわれる一工程図、
【図7】図6の次に行なわれる一工程図、
【図8】第1下地層、CuAg合金層、保護層が順に積層されたくし歯状電極部の第1下地層の膜厚とCuAg合金の(111)結晶配向性の関係を示すグラフ、
【図9】第2下地層、第1下地層、CuAg合金層、保護層が順に積層されたくし歯状電極部の第2下地層の膜厚とCuAg合金の(111)結晶配向性の関係を示すグラフ、
【図10】弾性表面波素子のくし歯状電極部を構成するCuAg合金層中のAg含有量及び弾性表面波素子の耐電力性との関係、及びくし歯状電極部形成後の熱処理温度と形成された弾性表面波素子の耐電力性との関係を示すグラフ、
【符号の説明】
11 弾性表面波素子
12 圧電基板
13、14、32、33 くし歯状電極部
15、16 接続電極部
17、18 電極部
19 反射電極

Claims (18)

  1. 圧電基板と、前記圧電基板上に薄膜形成された電極部を有する弾性表面波素子において、
    前記電極部は、くし歯状電極部及び前記くし歯状電極部に接続された接続電極部を有し、前記くし歯状電極部は、Taからなる第1下地層と、前記第1下地層の上面に接して積層されたCu層またはCuM合金層(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)を有することを特徴とする弾性表面波素子。
  2. 前記Cu層またはCuM合金層は、(111)方位に配向した結晶構造を有する請求項1記載の弾性表面波素子。
  3. 前記Cu層またはCuM合金層の平均結晶粒径は、10nm〜100nmである請求項1または2記載の弾性表面波素子。
  4. 前記CuM合金層は、結晶構造が面心立方格子構造である結晶粒を有し、結晶粒界に元素Mが析出している請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性表面波素子。
  5. 元素MはAgであり、前記CuM合金層中のAg含有量が、0.5質量%以上で10質量%以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の弾性表面波素子。
  6. 元素MはAgであり、前記CuM合金層中のAg含有量が、0.8質量%以上で10質量%以下である請求項5に記載の弾性表面波素子。
  7. 前記第1下地層の下面に接する第2下地層が設けられており、前記第2下地層はTi及び/またはTi酸化物からなる請求項1ないし6のいずれかに記載の弾性表面波素子。
  8. 前記第2下地層は、Tiのみからなる領域の上にTi酸化物が形成されたものであり、前記Ti酸化物の酸素含有量は、前記第2下地層の下面側から上面側に向かうにつれて徐々に増加している請求項7記載の弾性表面波素子。
  9. 前記第1下地層の膜厚は、5nm以上で15nm以下である請求項1ないし6のいずれかに記載の弾性表面波素子。
  10. 前記第2下地層の膜厚は3nm以上で15nm以下である請求項7または8記載の弾性表面波素子。
  11. 前記Cu層またはCuM合金層の膜厚は、30nm以上で150nm以下である請求項1ないし10のいずれかに記載の弾性表面波素子。
  12. 前記Cu層または前記CuM合金層の上に、Crからなる保護層が形成されている請求項1ないし11のいずれかに記載の弾性表面波素子。
  13. 以下の工程を有することを特徴とする弾性表面波素子の製造方法、
    (a) 圧電基板上に、Taからなる第1下地層とCu層を有する多層膜、または前記第1下地層とCuM合金層(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)を有する多層膜を、連続成膜する工程と、
    (b) 前記多層膜をパターン形成して、くし歯状電極部を形成する工程と、
    (c) 前記くし歯状電極部に接続される接続電極部を形成する工程と、
    (d) 前記くし歯状電極部及び前記接続電極部が形成された圧電基板を熱処理する工程。
  14. 前記(a)工程の代わりに、
    (e)圧電基板上に、Tiからなる第2下地層を成膜した後、この第2下地層を大気中に暴露する工程と、
    (f)前記第2下地層上に、Taからなる第1下地層とCu層を連続成膜する工程、またはTaからなる第1下地層とCuM合金層(ただし、元素MはAg、Sn、Cのいずれか1種または2種以上である)を連続成膜する工程を有する請求項13記載の弾性表面波素子の製造方法。
  15. 前記(a)工程または前記(f)工程において、前記Cu層または前記CuM合金層の上にCrからなる保護層を形成する請求項13または14に記載の弾性表面波素子の製造方法。
  16. 元素MをAgとし、前記CuM合金層中のAg含有量を、0.5質量%以上で10質量%以下にする請求項13ないし15のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法。
  17. 元素MをAgとし、前記CuM合金層中のAg含有量を、0.8質量%以上で10質量%以下にする請求項16に記載の弾性表面波素子の製造方法。
  18. 前記(d)工程の熱処理温度を250℃以上300℃以下にする請求項13ないし17のいずれかに記載の弾性表面波素子の製造方法。
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