JP3631228B2 - 弾性表面波素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧電体基板上に弾性表面波を励振させるための電極を形成してなる弾性表面波素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、携帯電話機等の通信機器においては、共振器フィルター、信号処理用遅延線の回路素子として、弾性表面波素子が用いられている。
例えば、図8に示す弾性表面波素子においては、圧電体基板(51)の表面に、複数の電極(52a)が簾状に配置され一対の櫛型電極(52)(52)が形成されると共に、その両側に格子状の反射器(53)(53)が形成されている。櫛型電極(52)(52)にはそれぞれ、一対の入力用パッド(54)(54)、及び一対の出力用パッド(55)(55)が接続されている。
【0003】
近年、通信機器の高周波化に伴い、弾性表面波素子の動作周波数も高周波化するとともに高出力化が要求されている。動作周波数の高周波化により、各電極(52a)の幅を小さく形成する必要があり、例えば動作周波数の中心周波数が1GHzの場合には、電極(52a)の幅は1μmとなる。
この様に小さな幅の電極が形成されている弾性表面波素子に大きな電圧を印加すると、圧電体基板(51)の表面に生じる大きな弾性表面波によって、電極(52a)に大きな応力が作用する。この応力が電極(52a)の材料に固有の臨界応力を超えると、電極(52a)を構成する原子が結晶粒界を移動して、電極(52a)には空隙(ボイド)や突起(ヒロック)が形成される。これによって、電極(52a)の破壊が生じることとなる。
【0004】
そこで、電極材料であるアルミニウムに、添加物として銅、チタン、或いはニッケル等を添加し、電極の強度を向上させて、電極の耐久性を改善する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
上記方法によれば、電極の耐久性は、添加物の量の増大に伴って向上する。
【0005】
【特許文献1】
特公昭61−47010号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記方法においては、添加物の量の増大に伴って電極の抵抗値も増大するため、弾性表面波素子の内部損失が大きくなる問題があった。
そこで本発明の目的は、電極の耐久性に優れており、然も内部損失が小さい弾性表面波素子を提供することである。
【0007】
【課題を解決する為の手段】
本発明に係る弾性表面波素子は、圧電体基板上に金属薄膜よりなる電極が形成されており、該電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金とバナジウムとからなる母材に、熱処理によって該母材の抵抗値を低下させる物質を添加して電極材料とすると共に、熱処理が施されて形成されており、該電極の抵抗値 ( R1 ) と、該電極に熱処理を施した後の抵抗値(R2)とが、R1>R2の関係を有している。
【0008】
該弾性表面波素子においては、母材にバナジウムが含まれているので、電極の耐久性が向上する。然も、該母材に、熱処理によって該母材の抵抗値を低下させる物質が添加されており、電極の抵抗値は熱処理後に小さくなるので、内部損失の増大が改善される。然も、バナジウムの添加によって向上した電極の耐久性が損なわれることはない。
【0009】
具体的構成において、前記熱処理によって該母材の抵抗値を低下させる物質は、パラジウム又はプラチナである。
【0010】
該具体的構成によれば、パラジウム又はプラチナが添加された電極材料を用いて形成された電極は、熱処理が施されることによって抵抗値が小さくなるので、弾性表面波素子の内部損失の増大が改善される。
【0011】
本発明に係る他の弾性表面波素子において、圧電体基板上に金属薄膜よりなる電極が形成されている。該電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金とバナジウムとからなる母材に、パラジウム又はプラチナを添加した電極材料を用いて形成されている。
【0012】
該弾性表面波素子においては、母材にバナジウムが含まれているので、電極の耐久性が向上する。然も、該母材に、パラジウム又はプラチナが添加されているので、熱処理によって該母材の抵抗値を低下させることができ、内部損失の増大が改善される。然も、バナジウムの添加によって向上した電極の耐久性が損なわれることはない。
【0013】
具体的構成において、電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をMとし、バナジウムをV、パラジウム又はプラチナをAとして、組成式M X V Y A Z (XとYとZの和は100重量%、Yは0 . 1重量%以上0 . 2重量%未満、Zは0より大きく2 . 0重量%以下)で表わされる電極材料を用いて形成されている。
【0014】
該具体的構成によれば、電極材料中のパラジウム又はプラチナの含有量を2 . 0wt%以下とすることによって、反応性エッチングによる加工が可能となる。
【0015】
他の具体的構成において、電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をMとし、バナジウムをV、パラジウム又はプラチナをAとして、組成式M X V Y A Z (XとYとZの和は100重量%、Yは0 . 1重量%以上0 . 2重量%未満、Zは0 . 1重量%以上0 . 3重量%以下)で表わされる電極材料を用いて形成されている。
該具体的構成によれば、特に耐久性の優れた電極が得られる。
【0016】
本発明に係る更に他の弾性表面波素子において、圧電体基板上に金属薄膜よりなる電極が形成されている。該電極は、圧電体基板の表面に形成されている配向制御層と、該配向制御層の表面に形成されている導電層とから構成されており、該配向制御層は、該導電層の配向性を向上させることが可能な材料からなり、該導電層は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金とバナジウムとからなる母材に、パラジウム又はプラチナを添加した材料を用いて形成されている。
【0017】
該弾性表面波素子においては、導電層の組成によって電極の耐久性が向上し、然も、内部損失の増大も僅かである。更に、配向制御層によって導電層が配向しているので、導電層の強度が向上すると共に、結晶粒子間の結晶粒界面積が減少して、電極の耐久性が非常に優れたものとなっている。
【0018】
又、具体的構成において、前記導電層は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をMとし、バナジウムをVとし、パラジウム又はプラチナをAとして、組成式M X V Y A Z (XとYとZの和は100重量%、Yは0 . 1重量%以上0 . 2重量%未満、Zは0より大きく2 . 0重量%以下)で表わされる材料を用いて形成されている。
該具体的構成によれば、導電層材料中のパラジウム又はプラチナの含有量を2 . 0wt%以下とすることによって、反応性エッチングによる加工が可能となる。
【0019】
具体的構成において、前記圧電基板の表面には、配向制御層と導電層とが交互に重ね合わされている。
該具体的構成においては、2つの導電層の間に配向制御層が介在しているので、1つの導電層に発生した空隙 ( ボイド ) や突起 ( ヒロック ) は配向制御層によって拡大が阻止され、他の導電層に影響を及ぼすことはない。この結果、1つの導電層に発生した空隙 ( ボイド ) や突起 ( ヒロック ) は、1つの導電層を破壊するだけであり、他の導電層によって電極の機能は維持されることとなる。また、配向性が向上することにより、結晶粒子間の粒界面積が減少し、電極層破壊の直接的原因であるアルミニウム原子の拡散が抑制されるため、耐 電力性が向上する。
【0020】
又、具体的構成において、前記配向制御層は、チタンを用いて形成されている。
該具体的構成においては、チタンの格子定数がアルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金の格子定数と概ね同じであり、格子整合が良好であることから、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金からなる導電層の配向性をより向上させることが出来る。
【0021】
他の具体的構成において、前記配向制御層は、厚さが15nm以上、20nm以下である。
該具体的構成においては、配向制御層が充分に配向しているので、導電層も充分に配向する。これによって、導電層の強度が向上する。又、配向性が向上することにより、結晶粒子間の結晶粒界面積が減少する。
【0022】
更に他の具体的構成において、前記配向制御層の厚さは17nmである。
該具体的構成においては、配向制御層が薄いので、電極の抵抗値を増大させる虞がない。
【0023】
【発明の効果】
本発明に係る弾性表面波素子によれば、電極に高い耐久性が得られ、然も、内部損失の増大を最小限度に抑えることが出来る。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
[第1参考例]
本参考例の弾性表面波素子は、図8に示す従来の弾性表面波素子と同様に、圧電体基板の表面に、複数の電極が簾状に配置され一対の櫛型電極が形成されている。櫛型電極の両側には、格子状の反射器が形成されている。櫛型電極にはそれぞれ、一対の入力用パッド、及び一対の出力用パッドが接続されている。各電極は、組成式AlXVY(XとYの和は100重量%、Yは0.15重量%)で表わされるアルミニウム合金によって形成されている。
【0025】
次に上記弾性表面波素子の製造方法について説明する。
先ず、タンタル酸リチウム(LiTaO3)からなるウエハの表面に、RFマグネトロンスパッタ法によって、膜厚450nmの合金膜を形成する。
装置からウエハを取り出した後、フォトリソグラフィーによってパターニングを行ない、一対の櫛型電極、反射器、入力用パッド及び出力用パッドを形成する。ここで、一対の櫛型電極、反射器、入力用パッド及び出力用パッドは、1つの弾性表面波素子を構成すべき所定パターンを構成しており、前記ウエハ上には、該パターンが複数個形成される。
最後にウエハを1つのパターン毎に切断し、200℃で1時間の熱処理を施す。これによって、本参考例の弾性表面波素子が得られる。
【0026】
[第1実施例]
本実施例の弾性表面波素子は、第1参考例の弾性表面波素子と同様の構成である。但し、各電極は、組成式AlXVYPdZ(XとYとZの和は100重量%、Yは0.15重量%、Zは0.2重量%)で表わされるアルミニウム合金によって形成されている。
製造方法は、第1参考例と同様であるので、説明を省略する。
【0027】
[第2実施例]
本実施例の弾性表面波素子は、第1参考例の弾性表面波素子と同様の形状である。但し、図6に示す如く電極(1)は、厚さ方向に積み重なっている4層構造であり、圧電体基板(51)の表面には、チタンからなる配向制御層(12)が形成され、該配向制御層(12)の表面には、組成式AlXVYPdZ(XとYとZの和は100重量%、Yは0.15重量%、Zは0.20重量%)で表わされるアルミニウム合金からなる導電層(11)が形成されている。更に、該導電層(11)の表面に配向制御層(12)が形成され、その表面に導電層(11)が形成されている。
【0028】
次に上記弾性表面波素子の製造方法について説明する。
先ず、タンタル酸リチウム(LiTaO3)からなるウエハの表面に、RFマグネトロンスパッタ法によって、膜厚17nmの配向制御層を形成する。次に、該配向制御層の表面に、RFマグネトロンスパッタ法によって、膜厚190nmの導電層を形成する。更に、該導電層の表面に配向制御層を形成し、該配向制御層の表面に導電層を形成して4層構造の金属膜を形成する。
以後のパターニング、切断、及び熱処理の各工程は第1参考例と同じであるので説明を省略する。
【0029】
上記本発明に係る弾性表面波素子の電極は、後述の実験結果から明らかな様に、耐久性が優れ、抵抗値が小さい。従って、弾性表面波素子は、電極の耐久性が優れており、然も内部損失が小さい。
【0030】
以下、本発明に係る弾性表面波素子の電極について行なった実験とその結果について述べる。
[実験1]
アルミニウム−バナジウム合金からなる電極の耐久性試験
実験に用いた弾性表面波素子は、上記第1実施例と同様にして、タンタル酸リチウム(LiTaO3)からなる圧電性基板の表面に、アルミニウム−バナジウム合金からなる膜厚が500nmの一対の櫛型電極、反射器、入力用パッド及び出力用パッドを形成したものである。熱処理温度は200℃、処理時間は1時間とした。電極の組成は、表1に示す6種類とした。
耐久性試験は、雰囲気を85℃とし、各弾性表面波素子に1.2Wの電力を入力し続けたときに、電極が変形又は変質するまでの時間を測定した。耐久性の試験結果を表1及び図1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1及び図1に示す結果から明らかな様に、電極の耐久性は、バナジウムの添加量が0.05wt%を越えると著しく向上した。この理由は、0.05wt%を越えるバナジウムが添加されることによって、バナジウムが周囲のアルミニウム格子に歪みを与える割合が顕著に増大し、これによって結晶粒子内におけるアルミニウム原子の移動が妨げられ、その結果、電極内部の空洞や突起の形成が抑制されたためであると考えられる。
【0033】
[実験2]
アルミニウム―1wt%銅―バナジウム合金からなる薄膜の比抵抗の測定
実験には、36°回転Y軸切断LiTaO3基板の表面に、マグネトロンスパッタ法によって形成した厚さが500nmの薄膜を用い、熱処理を施した後の薄膜の比抵抗を測定した。薄膜の組成は表2に示す4種類とした。熱処理条件は200℃、2時間とした。比抵抗の測定結果を表2及び図2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2及び図2に示す結果から明らかな様に、電極の比抵抗は、バナジウムの添加量が0.2wt%以上で急激に増大している。この理由は、0.2wt%付近まで添加量が増大することによって、電極中でのバナジウム原子間の平均距離が、電子波長に近くなり、電子波の散乱確率が上昇するためであると考えられる。
実験1及び実験2の結果から、バナジウムの含有量が、0.1wt%以上、0.2wt%未満の場合に、耐久性の効果と低抵抗の効果を同時に得られることが確認された。
更に、バナジウムの含有量が、0.15wt%以上、0.2wt%未満の場合がより好ましく、更に、0.15wt%の場合が極めて好ましいことが確認された。
【0036】
[実験3]
アルミニウム―0.2wt%バナジウム―1wt%パラジウム合金からなる薄膜の比抵抗
実験には、36°回転Y軸切断LiTaO3基板の表面に、マグネトロンスパッタ法によって形成した薄膜を用い、熱処理を施す前の薄膜の比抵抗と、熱処理を施した後の薄膜の比抵抗を測定した。熱処理条件は200℃、2時間とした。薄膜の厚さは、500nmとした。比抵抗の測定結果を表3及び図3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3及び図3に示す結果から明らかな様に、アルミニウム−バナジウム−パラジウム合金の熱処理後の比抵抗は、熱処理前の比抵抗よりも小さい。ここで、パラジウムは、熱処理によってアルミニウム−バナジウム合金の抵抗値を低下させる物質である。この比抵抗の低下の理由は、次の様に考えられる。200℃程度の熱処理ではアルミニウムとバナジウムとが合金化し難いが、熱処理によってパラジウムとバナジウムが上記温度で合金化し、微細な偏析粒子が生成される。そして、アルミニウムに固溶しているバナジウム量が減少すると抵抗値が下がる。
【0039】
尚、パラジウムに代えて、ルテニウム、銀、金、或いは白金を添加して、同様の実験を行なったところ、ルテニウム、銀或いは金を添加した場合、比抵抗の低下は観察されなかったが、白金を添加した場合は、アニール後に比抵抗が低下した。従って、白金を添加することによっても同様の効果が得られる。
【0040】
[実験4]
アルミニウム−バナジウム−パラジウム合金からなる電極の耐久性試験
実験に用いた弾性表面波素子は、上記第1実施例と同様にして、タンタル酸リチウム(LiTaO3)からなる圧電性基板の表面に、アルミニウム−バナジウム−パラジウム合金からなる膜厚が500nmの一対の櫛型電極、反射器、入力用パッド及び出力用パッドを形成したものである。熱処理温度は200℃、処理時間は1時間とした。電極の組成は、表4に示す5種類とした。
耐久性試験は、雰囲気を85℃とし、各弾性表面波素子に1.2Wの電力を入力し続けたときに、電極が変形又は変質するまでの時間を測定した。耐久性の試験結果を表4及び図4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
表4及び図4に示す結果から明らかな様に、電極の耐久性は、パラジウムの添加量が0.1wt%以上、0.3wt%以下の場合に著しく向上した。この結果より、パラジウムの添加量は0.1wt%以上、0.3wt%以下が好ましいことが確認された。
【0043】
[実験5]
弾性表面波素子の耐久性試験
実験には、第2実施例の弾性表面波素子と従来の弾性表面波素子を用いた。第2実施例の電極は、図6に示す如く4層構造である。又、従来の電極は図9に示す如く単層構造である。但し、第2実施例の電極を構成する導電層の組成をAlaCubVcPdd(a+b+c+d=100、b=1、c=0.15、d=0.2)とした。また、従来の電極の組成をAlaCub(a+b=100、b=1)とした。
耐久性試験は、雰囲気を85℃とし、各弾性表面波素子に中心周波数よりも12.5MHz高い周波数の高周波電力を印加した。そして、印加直後の内部損失値に対し0.5dBだけ内部損失値が劣化するまでの時間を測定した。耐久性の試験結果を図5に示す。
【0044】
図5に示す結果から明らかな様に、第2実施例の弾性表面波素子の電極は、従来の弾性表面波素子の電極よりも耐久性が優れている。この理由は、チタンからなる配向制御層の表面に導電層が形成されているので、該導電層のアルミニウム原子が配向して導電層の強度が向上し、結晶粒子間の粒界面積が減少したためである。又、実験4において確認されたように、電極の導電層の組成にパラジウムが0.2wt%含まれているためである。
【0045】
上述の如く、本発明に係る弾性表面波素子の電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をベースとして、これにバナジウムを添加した材料、或いはバナジウム及びパラジウムを添加した材料を用いて作製されるが、そもそも添加元素としてバナジウム及びパラジウムを採用した理由について、以下に述べる。
【0046】
先ず、添加元素として、Ti、Pd、Nb、Ni、Co、Li、Cr、Hf、Zr、Cd、W、V、Mn、Fe及びRuを候補として選定した。
この中でCo、Mn、Fe又はNiを添加元素とした場合、反応性エッチングによる加工後に残渣が残る等、加工性に問題がある。又、Li又はFeを添加元素とした場合は、水洗工程後に電極表面に腐食による欠落部が生じる等、耐食性に問題がある。更に、Co、Cr及びCdは環境性の点から問題がある。この結果、Ti、Pd、Nb、Hf、Zr、W、V及びRuが候補として残った(表5参照)。
【0047】
次に、候補として残った前記複数の添加元素について、Al−1wt%Cuに各元素を0.1wt%だけ添加した合金の、Al−1wt%Cuに対する耐電力性を測定したところ、表5に示す結果が得られた。この結果から、耐電力性の点でバナジウムが添加元素として極めて優れていることが判明した。
【0048】
更に、候補として残った前記複数の添加元素について、抵抗増加率、即ち、各元素の添加量(at%)当たりの抵抗増加率を測定したところ、表5に示す結果が得られた。この結果から、バナジウムは抵抗増加率が高いことが判明した。
【0049】
【表5】
【0050】
そこで、本発明に係る弾性表面波素子の電極の材料としては、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をベースとして、これにバナジウムを添加した材料を採用することにより、先ずは耐電力性を改善することとした。次に、バナジウムとパラジウムをベースに同時に添加し、アニールを施したところ、パラジウムは、抵抗増加率が高いというバナジウムの欠点を補うことが出来るということを、偶然にも発見した。この様にして、最終的には、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をベースとして、これにバナジウム及びパラジウムを添加することにより、耐電力性の向上と抵抗の低減を同時に実現したのである。
【0051】
又、アルミニウム−銅合金と、これにバナジウムを添加した合金と、バナジウムに代えてスカンジウムを添加した合金とを対象として、比抵抗と、印加電力が2.5Wのときの寿命とを測定したところ、表6に示す結果が得られた。
【0052】
【表6】
【0053】
この結果からも添加元素としてのバナジウムの優位性が明らかである。
【0054】
尚、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記各実施例においては、アルミニウムに代えてアルミニウム−1wt%銅合金を採用することも可能である。この場合であっても、本実施例によって得られる効果と同じ効果を得ることが出来る。又、第2実施例において電極を4層構造としたが、重ね合わせる層の数は4層に限定されず、例えば、図7に示す6層構造など、任意の層数に重ね合わせることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】実験1の結果を表わすグラフである。
【図2】実験2の結果を表わすグラフである。
【図3】実験3の結果を表わすグラフである。
【図4】実験4の結果を表わすグラフである。
【図5】実験5の結果を表わすグラフである。
【図6】本発明に係る弾性表面波素子の電極の厚さ方向に沿う断面図である。
【図7】本発明に係る他の弾性表面波素子の電極の厚さ方向に沿う断面図である。
【図8】従来の弾性表面波素子の平面図である。
【図9】該弾性表面波素子の電極の厚さ方向に沿う断面図である。
【符号の説明】
(1) 電極
(11) 導電層
(12) 配向制御層
Claims (9)
- 圧電体基板上に金属薄膜よりなる電極が形成されている弾性表面波素子において、該電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金とバナジウムとからなる母材に、熱処理によって該母材の抵抗値を低下させる物質を添加して電極材料とすると共に、熱処理が施されて形成されており、該電極の抵抗値(R1)と、該電極に熱処理を施した後の抵抗値(R2)が、R1>R2の関係を有し、該熱処理によって該母材の抵抗値を低下させる物質は、パラジウム又はプラチナであることを特徴とする弾性表面波素子。
- 前記電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をMとし、バナジウムをV、パラジウム又はプラチナをAとして、組成式M X V Y A Z (XとYとZの和は100重量%、Yは0 . 1重量%以上0 . 2重量%未満、Zは0より大きく2 . 0重量%以下)で表わされる電極材料を用いて形成されている請求項1に記載の弾性表面波素子。
- 圧電体基板上に金属薄膜よりなる電極が形成されている弾性表面波素子において、該電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をMとし、バナジウムをV、パラジウム又はプラチナをAとして、組成式M X V Y A Z (XとYとZの和は100重量%、Yは0 . 1重量%以上0 . 2重量%未満、Zは0より大きく2 . 0重量%以下)で表わされる電極材料を用いて形成されていることを特徴とする弾性表面波素子。
- 前記電極は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をMとし、バナジウムをV、パラジウム又はプラチナをAとして、組成式MXVYAZ(XとYとZの和は100重量%、Yは0.1重量%以上0.2重量%未満、Zは0.1重量%以上0.3重量%以下)で表わされる電極材料を用いて形成されている請求項2又は請求項3に記載の弾性表面波素子。
- 圧電体基板上に金属薄膜よりなる電極が形成されている弾性表面波素子において、該電極は、圧電体基板の表面に形成されている配向制御層と、該配向制御層の表面に形成されている導電層とから構成されており、該配向制御層は、該導電層の配向性を向上させることが可能な材料からなり、該導電層は、アルミニウム若しくはアルミニウム−銅合金をMとし、バナジウムをVとし、パラジウム又はプラチナをAとして、組成式M X V Y A Z (XとYとZの和は100重量%、Yは0 . 1重量%以上0 . 2重量%未満、Zは0より大きくZは2 . 0重量%以下)で表わされる材料を用いて形成されていることを特徴とする弾性表面波素子。
- 前記圧電基板の表面には、配向制御層と導電層とが交互に重ね合わされている請求項5に記載の弾性表面波素子。
- 前記配向制御層は、チタンを用いて形成されている請求項5又は請求項6に記載の弾性表面波素子。
- 前記配向制御層は、厚さが15nm以上、20nm以下である請求項5乃至請求項7の何れかに記載の弾性表面波素子。
- 前記配向制御層の厚さは17nmである請求項8に記載の弾性表面波素子。
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