JP2004149897A - 鎖状金属粉末とその製造方法およびそれに用いる製造装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】直鎖状か、あるいはそれにできるだけ近い、枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末と、かかる鎖状金属粉末を製造するための製造方法と、その実施のための製造装置とを提供する。
【解決手段】製造方法は、常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液中で、還元剤の作用によって金属のイオンを還元させて、微細な金属粒として析出させる還元析出反応を、磁石による磁場の存在下で行うことによって、金属粉末を、磁力線の方向に強制的に配列させながら、鎖状に繋がらせて鎖状金属粉末を製造する。製造装置は、還元析出反応を行う反応槽2と、この反応槽2に磁場を印加する電磁石1とを備える。鎖状金属粉末は、上記の製造方法によって製造し、なおかつ鎖の長さLを0.5〜100μm、鎖の径Dを20〜500nm、アスペクト比L/Dを10〜1000の範囲に規定する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、微細な金属粒が多数、鎖状に繋がった形状を有する鎖状金属粉末とその製造方法、ならびにかかる製造方法を実施するための製造装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近時、種々の金属や合金からなる、粒径がサブミクロンオーダーという微小な金属粉末が、例えば
* コンデンサ、異方導電膜、導電ペースト、導電シート、電池用活物質複合体などの導電性フィラー等に、また
* カーボンナノチューブの成長触媒やガス化学物質の反応触媒等に、さらには* 電磁波シールド材等に、
利用され、あるいは利用が検討されている。
【0003】
かかる微小な金属粉末を製造する方法としては、例えば金属粉末の成長を気相中で行う気相法や、あるいは液中で行う液相法などの、種々の製造方法が提案されている。
このうち液相法による製造方法としては、金属粉末を形成する1種または2種以上の金属のイオンを含む水溶液から、還元剤の作用によって金属のイオンを還元させることで、液中に微細な金属粒を析出させる還元析出法が知られている(例えば特許文献1〜3等参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−302709号公報(第0007欄、第0008欄)
【特許文献2】
特許第3018655号公報(第0005欄)
【特許文献3】
特開2001−200305号公報(第0007欄〜第0010欄)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
発明者の検討によると、例えばNi、Fe、Coなどの常磁性を有する金属やその合金などを、上記還元析出法によって液中に還元析出させる際の条件等を調整することによって、析出した微細な金属粒が多数、鎖状に繋がった形状を有する金属粉末を製造することができる。
すなわち常磁性を有する金属や合金からなる、析出初期の段階の、サブミクロンオーダーの微細な金属粒は、単結晶構造か、もしくはそれに近い構造を有するため単純に2極に分極する。そして分極した多数個の金属粒が、磁力によって次々と鎖状に繋がって鎖状金属粉末を生成する。
【0006】
また、鎖状に繋がった多数の金属粒の周囲を覆うようにさらに金属が析出して、金属粒同士がより強固に結合した鎖状金属粉末を製造することもできる。
これらの鎖状金属粉末は、その特異的な形状ゆえに、従来の、粒状等の金属粉末では得られない種々の特性を有しており、微細な金属粉末の利用可能性を広げ得るものである。
たとえば鎖状金属粉末は、粒状のものに比べて比表面積が大きいため、樹脂等の結着剤に対する分散性に優れており、しかもそのアスペクト比が大きいため、結着剤中に分散した状態で、隣り合う鎖状金属粉末同士が互いに接続して良好な導電ネットワークを形成しやすい。
【0007】
このため鎖状金属粉末を、例えば前述した導電性フィラーとして使用した場合には、これまでよりも導電性に優れた導電膜を形成し得る導電ペーストや、高い導電性を有する導電シート、集電特性に優れた電池用活物質複合体などを製造することができる。
また、常磁性の金属を含む上記の鎖状金属粉末は、磁場をかけるとそれに応じて一定方向に配向するため、例えば製膜時の鎖状金属粉末に磁場をかけて一定方向に配向させた状態で結着剤を固化させて、鎖状金属粉末の配向を固定することで、異方導電膜の異方導電特性をさらに向上することもできる。
【0008】
またコンデンサや触媒、電磁波シールド材等の用途においても、上記の特異な形状を利用して、これまでにない用途展開の可能性がある。
しかし、通常の還元析出法では、多数の鎖が枝分かれした分岐鎖状を有する鎖状金属粉末や、枝分かれが少ない場合でも鎖が大きく屈曲したり、複数回、屈曲したりした屈曲形状を有する鎖状金属粉末しか製造することができない。
これらの鎖状金属粉末は、それはそれで、例えば結着剤中で良好な導電ネットワークを形成するためには有効であるものの、鎖状という特異的な形状の利点をより一層、活かすためには、できるだけ枝分かれの少ない、直鎖状かもしくはそれに近いまっすぐな形状を有する鎖状金属粉末を製造することが必要である。
【0009】
この発明の目的は、これまでは製造することができなかった、直鎖状か、あるいはそれにできるだけ近い、枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末と、かかる鎖状金属粉末を製造するための製造方法と、その実施のための製造装置とを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
請求項1記載の発明は、常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液中で、還元剤の作用によって金属のイオンを還元させて、微細な金属粒として析出させるとともに、析出させた金属粒の持つ磁力によって、当該金属粒を多数、鎖状に繋がらせて鎖状金属粉末を製造する方法であって、上記還元析出反応を、磁場を印加しながら行うことを特徴とする鎖状金属粉末の製造方法である。
【0011】
請求項1の構成では、析出初期の段階の、サブミクロンオーダーの微細な金属粒を多数、印加した磁場の磁力線の方向に強制的に配列させながら、鎖状に繋がらせて鎖状金属粉末を製造することができる。
このため請求項1の構成によれば、鎖の枝分かれや屈曲を抑制して、これまでは製造することができなかった、直鎖状か、あるいはそれにできるだけ近い枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することが可能となる。
【0012】
請求項2記載の発明は、コイルに電流を流して発生させた磁場を利用することを特徴とする請求項1記載の鎖状金属粉末の製造方法である。
請求項2の構成によれば、コイルに流す電流を調整することで、発生させる磁場の強弱を簡単に調節することができる。このため、製造する鎖状金属粉末の枝分かれや屈曲の程度、あるいは鎖の長さ等を任意に変化させることができる。
請求項3記載の発明は、永久磁石の磁場を利用することを特徴とする請求項1記載の鎖状金属粉末の製造方法である。
【0013】
請求項3の構成によれば、磁場をかけるために電力を必要としないので、鎖状金属粉末を製造する際の、電力消費量の増加がないという利点がある。
請求項4記載の発明は、磁場の強度を0.0005T以上、磁場を印加する時間を1秒間以上とすることを特徴とする請求項1記載の鎖状金属粉末の製造方法である。
請求項4の構成では、磁場の強度を0.0005T以上、磁場を印加する時間を1秒間以上とすることによって、地磁気や反応溶液の抵抗等に打ち勝って、析出初期の段階の微細な金属粒を、印加した磁場の磁力線の方向により一層きれいにまっすぐに配列させることができる。
【0014】
したがって請求項4の構成によれば、より枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することが可能となる。
請求項5記載の発明は、請求項1の製造方法を実施するための製造装置であって、還元析出反応を行うための反応槽と、当該反応槽に磁場を印加するためのコイルとを備えることを特徴とする鎖状金属粉末の製造装置である。
請求項5の構成によれば、反応槽内に供給した、常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液と還元剤との混合溶液に、コイルに通電して発生させた磁場を印加しながら還元析出反応させることによって、前記の機構により、これまでよりも枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することができる。
【0015】
請求項6記載の発明は、筒状に形成したコアに導体を巻き付けてコイルを形成するとともに、当該コアの筒内に反応槽を配設したことを特徴とする請求項5記載の鎖状金属粉末の製造装置である。
請求項6の構成によれば、反応槽と、導体を巻き付けてコイルを形成するコアとを別体に形成してあるため、製造装置の組み立てやメンテナンス等が容易である。
【0016】
請求項7記載の発明は、反応槽の器壁に直接に導体を巻き付けてコイルを形成したことを特徴とする請求項5記載の鎖状金属粉末の製造装置である。
請求項7の構成によれば、反応槽が、導体を巻き付けてコイルを形成するコアを兼ねているため、製造装置の構造を簡略化できる。
請求項8記載の発明は、請求項1の製造方法を実施するための製造装置であって、常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液と還元剤との混合溶液を連続的に流通させるための流路と、当該流路に磁場を印加するためのコイルとを備えることを特徴とする鎖状金属粉末の製造装置である。
【0017】
請求項8の構成によれば、流路内を連続的に流れる、常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液と還元剤との混合溶液に、コイルに通電して発生させた磁場を印加しながら還元析出反応させることによって、前記の機構により、これまでよりも枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を、連続的に製造することができる。
請求項9記載の発明は、筒状に形成したコアに導体を巻き付けてコイルを形成するとともに、当該コアの筒内を通過するように流路を配設したことを特徴とする請求項8記載の鎖状金属粉末の製造装置である。
【0018】
請求項9の構成によれば、流路と、導体を巻き付けてコイルを形成するコアとを別体に形成してあるため、製造装置の組み立てやメンテナンス等が容易である。
請求項10記載の発明は、流路を、1つのコア中を複数回、繰り返し通過するように配設したことを特徴とする請求項9記載の鎖状金属粉末の製造装置である。
【0019】
請求項10の構成では、コイルを長大化して製造装置を大掛かりなものとしたり、あるいは混合溶液の流速を低下させて、析出した鎖状金属粉末の沈殿による流路の詰まりなどを生じたりすることなしに、流路を通過する混合溶液に磁場を印加する時間をできるだけ長くすることができる。
したがって請求項10の構成によれば、流路を通過する混合溶液中に析出した成長途中の鎖状金属粉末に、できるだけ長時間にわたって磁場を印加しつづけることによって、より枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することが可能となる。
【0020】
請求項11記載の発明は、流路の、コア中に配設した部分をコイル状に形成したことを特徴とする請求項9記載の鎖状金属粉末の製造装置である。
請求項11の構成では、やはりコイルを長大化して製造装置を大掛かりなものとしたり、あるいは混合溶液の流速を低下させて、析出した鎖状金属粉末の沈殿による流路の詰まりなどを生じたりすることなしに、流路を通過する混合溶液に磁場を印加する時間をできるだけ長くすることができる。
【0021】
また請求項11の構成では、流路の、コイル状の部分を通過させる際に混合溶液をかく拌、混合して、還元析出反応の反応速度を高めることもできる。このことは、流路を通過する混合溶液に磁場を印加する時間を長くしたのと同じ効果を有する。
したがって請求項11の構成によれば、やはりより枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することが可能となる。
【0022】
請求項12記載の発明は、流路の、コア中に配設した部分の内部に、インライン式ミキサーを配設したことを特徴とする請求項9記載の鎖状金属粉末の製造装置である。
請求項12の構成によれば、流路の、インライン式ミキサーを配設した部分を通過させる際に混合溶液をかく拌、混合することによって、還元析出反応の反応速度を高めることができる。このことは、前記のように流路を通過する混合溶液に磁場を印加する時間を長くしたのと同じ効果を有する。
【0023】
したがって請求項12の構成によれば、やはりより枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することが可能となる。
請求項13記載の発明は、流路の管壁に直接に導体を巻き付けてコイルを形成したことを特徴とする請求項8記載の鎖状金属粉末の製造装置である。
請求項13の構成によれば、流路が、導体を巻き付けてコイルを形成するコアを兼ねているため、製造装置の構造を簡略化できる。
【0024】
請求項14記載の発明は、流路に、当該流路の一部を、一定量の混合溶液を循環させるための閉じられた環状に切り換えるための切り換え弁を設けるとともに、この切り換え弁を切り換えることで形成した環状の流路の途中に、当該流路内で混合溶液を循環させるためのポンプを設け、かつコイルを、環状の流路に磁場を印加しうる位置に設けたことを特徴とする請求項8記載の鎖状金属粉末の製造装置である。
【0025】
請求項14の構成では、やはりコイルを長大化して製造装置を大掛かりなものとしたり、あるいは混合溶液の流速を低下させて、析出した鎖状金属粉末の沈殿による流路の詰まりなどを生じたりすることなしに、環状の流路を循環させることで、混合溶液に磁場を印加する時間をできるだけ長くすることができる。
また請求項14の構成では、環状の流路を繰り返し循環させる際に混合溶液をかく拌、混合して、還元析出反応の反応速度を高めることもできる。
【0026】
したがって請求項14の構成によれば、やはりより枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することが可能となる。
請求項15記載の発明は、請求項1の製造方法によって製造した鎖状金属粉末であって、鎖の長さLが0.5〜100μm、鎖の径Dが20〜500nmで、かつ長さLと径Dとの比L/Dで表されるアスペクト比が10〜1000であることを特徴とする鎖状金属粉末である。
【0027】
請求項15の構成によれば、鎖の長さLと径Dとアスペクト比L/Dとを上記の範囲に規定することによって、前記のように枝分かれや屈曲が少ない上、導電性フィラーなどとしての特性に優れた鎖状金属粉末を得ることが可能となる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明を説明する。
〔鎖状金属粉末の製造方法〕
この発明の製造方法は、前記のように常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液(以下「反応液」と記す)中で、還元剤の作用によって金属のイオンを還元させて、微細な金属粒として析出させるとともに、析出させた金属粒の持つ磁力によって、当該金属粒を多数、鎖状に繋がらせて鎖状金属粉末を製造する工程を、磁場を印加しながら行うことを特徴とするものである。
【0029】
金属粒のもとになる、常磁性を有する金属としては、前記のようにNi、Fe、Coなどを挙げることができる。金属粒は、これらの金属単体で形成してもよいし、これらの金属の、2種以上の合金にて形成してもよい。またこれらの金属と、常磁性を有するあるいは有しない他の金属との合金にて形成することもできる。
この発明の製造方法においては、まず上記金属の1種または2種以上のイオンを含む反応液を調製する。詳しくは、金属粒を形成する1種または2種以上の金属の、水溶性の化合物を用意し、それを水に所定の濃度および比率でもって溶解して反応液を調製する。
【0030】
次にこの反応液と還元剤とを、磁場を印加しながら混合して混合溶液を得、さらに磁場を印加しながら一定時間、還元析出反応させる。
そうすると、前述したように還元剤の作用によって金属のイオンを還元させて、液中に微細な金属粒を多数、析出させるとともに、析出初期の段階の、サブミクロンオーダーの金属粒を多数、自身の持つ磁力によって、印加した磁場の磁力線の方向に強制的に配列させながら鎖状に繋がらせることによって、前記のように、これまでよりも枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することができる。
【0031】
上記の還元析出反応に用いる還元剤としては、3価のチタンイオン(Ti3+)が好ましい。
還元剤として3価のチタンイオンを用いた場合には、金属粉末を形成した後の、チタンイオンが4価に酸化した水溶液を電解再生して、チタンイオンを再び3価に還元することによって繰り返し、金属粉末の製造に利用可能な状態に再生できるという利点がある。
【0032】
また還元剤として3価のチタンイオンを用いた還元析出法としては、特許文献2、3に記載の方法を採用してもよいが、とくに四塩化チタンなどの、4価のチタン化合物の水溶液を電解して、4価のチタンイオンの一部を3価に還元して還元剤水溶液を調製した後、この還元剤水溶液と、先の、金属粉末のもとになる金属のイオンを含む反応液とを混合して、3価のチタンイオンが4価に酸化する際の還元作用によって金属のイオンを還元、析出させる方法が好ましい。
【0033】
この方法においては、還元析出時に、3価のチタンイオンが金属粒を成長させるために機能するとともに、あらかじめ系中に存在する4価のチタンイオンが、金属粒の成長を抑制するために機能する。
また還元剤水溶液中で、3価のチタンイオンと4価のチタンイオンとは、複数個ずつがクラスターを構成して、全体として水和および錯体化した状態で存在する。
【0034】
このため1つのクラスター中で、1つの同じ金属粒に、3価のチタンイオンによる成長促進の機能と、4価のチタンイオンによる成長抑制の機能とが作用して、金属粒を徐々に成長させる。
そしてクラスター中で成長した金属粒は、その粒径がおよそ1nmに達した時点で磁力を帯びるとともに、前記のように単純に2極に分極するため、自身の持つ磁力によって、印加した磁場の磁力線の方向に多数がほぼ直鎖状に繋がって、分岐の少ない鎖状金属粉末を生成する。
【0035】
上記の方法によれば、鎖状金属粉末を形成する個々の金属粒の真球度を高めることができる。また、例えば平均粒径が200nm以下といった微小な金属粒が多数、鎖状に繋がった鎖状金属粉末を容易に製造することもできる。
しかも上記の方法によれば、還元剤水溶液を調製する際の電解条件を変化させて、3価のチタンイオンと4価のチタンイオンとの存在比率を調整することによって、上述した、クラスター中での両イオンの、相反する機能の強弱の割合を変更できるため、金属粒の粒径を任意に制御することも可能である。
【0036】
印加する磁場の強さは、前述したように0.0005T以上であるのが好ましい。磁場の強さを0.0005T以上とすると、地磁気や反応溶液の抵抗等に打ち勝って、析出初期の段階の微細な金属粒を、印加した磁場の磁力線の方向にきれいに配列させることができる。
なお磁場の強さは、上記の効果をさらに向上することを考慮すると、強ければ強いほど好ましいことになるが、磁場があまりに強すぎてもそれ以上の効果が期待できない上、かかる強い磁場を発生させるためのコイルや永久磁石が大掛かりになるという問題がある。
【0037】
したがって、印加する磁場の強さは8.0T以下であるのが好ましい。
また磁場を印加する時間は、同じ理由で、これも前述したように1秒間以上であるのが好ましい。
なお析出初期の段階の微細な金属粒をきれいに配列させることを考慮すると、磁場を印加する時間は長ければ長いほど好ましいことになるが、時間が長すぎても、鎖状金属粉末の生産性を低下させるだけである。また、後述する連続式の製造方法においては、長時間にわたって磁場を印加するために、コイルが長大化して、装置が大掛かりなものとなってしまうおそれもある。
【0038】
したがって、磁場を印加する時間は30分間以下であるのが好ましい。
〔鎖状金属粉末の製造装置〕
図1は、上記製造方法を実施するための、この発明の製造装置の一例を示す概略断面図である。
図の例の製造装置は、例えば鎖状金属粉末の試作や少量生産などに適した小容量のものであって、筒状に形成したコア11と、このコア11に、エナメル線等の導体を巻き付けて形成したコイル10と、コイル10に通電して発生させた磁場を印加するためにコア11の筒内に配設した、還元析出反応を行うための反応槽2とを備えている。
【0039】
また符合3は、混合溶液Lをかく拌するためのミキサー、符号4は、混合溶液Lを一定温度に加熱するためのヒーターである。
上記のうちコア11は、例えばポリ塩化ビニル等のプラスチックなどの、非磁性体によって形成する。
反応槽2の器壁は種々の材料によって形成できるが、例えばガラス、プラスチック等の、還元析出反応に影響しない、また影響されない材料によって形成するのが好ましい。
【0040】
図の例の製造装置は、上記のように反応槽2と、導体を巻き付けてコイル10を形成するコア11とを別体に形成してあるため、組み立てやメンテナンス等が容易である。
図1の例の製造装置を用いた鎖状金属粉末の製造においては、まず反応槽2に、常磁性を有する金属のイオンを含む反応液、もしくは還元剤水溶液のうちの一方を所定量、供給する。
【0041】
次に、コイル10に通電して磁場の印加を開始するとともに、ミキサー3を駆動して液のかく拌を開始し、さらにヒーター4に通電して液を一定温度に加熱する。
次にこの状態の反応槽2に、残りの他の水溶液を所定量、供給して還元析出反応を開始させる。
そうすると、先に説明した反応機構に基づいて多数の金属粒が析出し、それが自身の持つ磁力によって、印加した磁場の磁力線の方向に直鎖状に繋がるため、これまでよりも枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することができる。
【0042】
製造した鎖状金属粉末は、図示していないが、反応槽2中の混合溶液をろ過するなどして回収する。
また鎖状金属粉末を回収した後の溶液は、前記のように電解再生して、還元剤溶液として再使用できる。
図2は、反応槽2の周囲に直接にコイル10を巻き付けてコアを省略した変形例を示している。
【0043】
その他の部分は図1の例と同様であるので、同一個所に同一符号を付して説明を省略する。
図の例の製造装置は、上記のように反応槽2が、導体を巻き付けてコイル10を形成するコアを兼ねているため、その構造を簡略化できる。
図2の例の製造装置を用いても、前記図1の例の製造装置と同様の操作を行うことによって、これまでよりも枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することができる。
【0044】
次に図3は、この発明の製造装置の、さらに他の例を示す概略断面図である。
図の例の製造装置は、先の図1、2の例と同様に筒状に形成したコア11と、このコア11に導体を巻き付けて形成したコイル10と、コイル10に通電して発生させた磁場を印加するためにコア11の筒内に配設した、還元析出反応を行うための反応槽2とを備えバッチ式のものであって、なおかつ先の2つの例よりも大掛かりな製造装置を示している。
【0045】
反応槽2の上方には、当該反応槽2に、常磁性を有する金属のイオンを含む反応液を供給するための第1の供給手段21と、還元剤水溶液を供給するための第2の供給手段22とを配設してある。
これらの供給手段21、22はそれぞれ、図示しない弁などを作動させることで、一定温度に加熱した反応液や還元剤水溶液を所定量ずつ、反応槽2に供給する機能を有する。また供給手段21、22はそれぞれ、図示しないヒーターに通電することで、反応液や還元剤水溶液を一定温度に加熱する機能を有してもよい。また、ヒーターは別に設けてもよい。
【0046】
図において符号21aは、供給手段21からの反応液の供給配管、符号22aは、供給手段22からの還元剤水溶液の供給配管を示している。この2つの供給配管21a、22aは、図の例では反応槽2の少し上方の位置で1つの合流配管23aに接続してあり、そして合流配管23aは、反応槽2の上端部に接続してある。
また合流配管23a内には、後述する図7に示すのと同様の、左回転用および右回転用の固定羽根24a、24bを複数個ずつ、交互に配設してインライン式ミキサー24を設けてある。
【0047】
供給手段21から反応液、供給手段22から還元剤水溶液を、それぞれ図中に実線の矢印で示すように供給配管21a、22aを通して供給すると、両水溶液を、両供給配管21a、22aの合流点で合流させた後、合流配管23a内を流れ下らせている間にインライン式ミキサー24によってかく拌、混合して混合溶液Lを生成させて、反応槽2に供給することができる。
また図の例では、合流配管23aの周囲に導体を巻き付けてコイル23bを形成してある。
【0048】
そして、上記のように供給手段21、22から反応液と還元剤水溶液とを供給し、供給配管21a、22aの合流点で合流させた後、合流配管23a内でかく拌、混合しながら反応槽2に供給する間、コイル23bに通電して、当該合流配管23a内を通過する混合直後の混合溶液Lに磁場を印加するようにしている。
これは、反応液と還元剤水溶液とを合流させると、その時点で直ちに還元析出反応が開始されるため、反応の極めて初期の反応系にも磁場を印加して、枝分かれや屈曲の発生をより確実に抑制するためである。
【0049】
反応槽2には、図示していないが、混合溶液Lを一定温度に加熱するためにヒーターを設けてもよい。また混合溶液Lをかく拌、混合するためにミキサーを設けてもよい。
反応槽2の底部には、還元析出反応が終了した後の混合溶液Lを槽外に排出するための排出口2aを形成してあるとともに、この排出口2aを、開閉弁25によって開閉自在としてある。
【0050】
図において符号5は、反応後、排出口2aから排出された混合溶液Lから、還元析出反応によって生成した鎖状金属粉末をろ別し、回収するためのろ過手段である。
図の例の製造装置を構成する上記各部のうちコア11およびコイル10は、前記と同様に形成する。
また反応槽2は、当該槽の容量が大きいことを考慮すると、その器壁を非磁性の金属で形成して、そのうち混合溶液Lと接する内壁面を、ガラスやプラスチック等によってライニングした積層構造とするのが好ましい。
【0051】
その他の、反応液や還元剤水溶液、あるいは混合溶液Lと直接に接触する部分は、その全体をガラスやプラスチック等で形成してもよいし、反応槽2と同様に積層構造としてもよい。
図3の例の製造装置を用いた鎖状金属粉末の製造においては、まず排出口2aを開閉弁25によって閉じた状態で、コイル10、23bに通電して磁場の印加を開始する。
【0052】
次に供給手段21から、一定温度に加熱した反応液を所定量、供給配管21aを通して供給するとともに、供給手段22から、同じく一定温度に加熱した還元剤水溶液を所定量、供給配管22aを通して供給する。
そしてこの両水溶液を、供給配管21a、22aの合流点で合流させた後、合流配管23a内で、インライン式ミキサー24によってかく拌、混合しながら反応槽2に供給する。
【0053】
次いで反応槽2に供給した混合溶液Lを一定時間、コイル10に通電して発生させた磁場の存在下で還元析出反応させた後、開閉弁25を開いて反応後の混合溶液Lを排出口2aから槽外に排出させると、その下に配設したろ過手段5によって、生成した鎖状金属粉末を回収することができる。また鎖状金属粉末を回収した後の溶液は、前記のように電解再生して、還元剤溶液として再使用できる。
次に図4(a)は、この発明の製造装置の、さらに他の例を示す概略断面図である。
【0054】
図の例の製造装置は、先の図1〜3の例と違って、常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液と還元剤との混合溶液を、図中に実線の矢印で示す方向に連続的に流通させながら還元析出反応させるための流路6を備えた連続式のものである。
具体的には、同図に示すように筒状に形成したコア11に導体を巻き付けてコイル10を形成するとともに、流路6を、コイル10に通電して発生させた磁場を印加するために、コア11の筒内を通過するように配設したものである。
【0055】
また、図示していないが流路6の、コイル10よりも上流側(図において右側)には、当該流路6に反応液を連続的に供給するための供給手段と、還元剤溶液を連続的に供給するための供給手段と、両溶液を混合して混合溶液を生成するための混合手段と、そして混合溶液を流路6内に連続的に流通させるためのポンプとを配設してある。
一方、流路6の、コイル10よりも下流側(図において左側)には、やはり図示していないが、還元析出反応によって生成した鎖状金属粉末を混合溶液からろ別、回収するためのろ過手段と、鎖状金属粉末をろ別、回収した後の溶液を回収するための回収手段とを配設してある。
【0056】
上記のうちコア11およびコイル10は、前記と同様に形成する。
流路6の管壁は種々の材料によって形成できるが、前記ガラス、プラスチック等の材料によって形成するのが好ましい。また流路6の管壁を非磁性の金属で形成し、そのうち混合溶液Lを流通させる内壁面をガラスやプラスチック等によってライニングした積層構造としてもよい。
図の例の製造装置は、上記のように流路6と、導体を巻き付けてコイル10を形成するコア11とを別体に形成してあるため、組み立てやメンテナンス等が容易である。
【0057】
図4(a)の例の製造装置を用いた鎖状金属粉末の製造においては、まずコイル10に通電して磁場の印加を開始するとともに、流路6の上流側の各部分を駆動させて、当該流路6内に、混合溶液を連続的に流通させる。
そしてコイル10に通電して発生させた磁場の存在下で混合溶液を連続的に還元析出反応させた後、流路6の下流側で、生成した鎖状金属粉末をろ過手段によって連続的にろ別し、回収するとともに、残りの溶液を回収手段によって連続的に回収する。
【0058】
ろ過手段によってろ別、回収した鎖状金属粉末は、前述した磁場の作用によって、これまでよりも枝分かれや屈曲の少ないものとなる。
また回収手段に回収した残りの溶液は、前記のように電解再生して、還元剤溶液として再使用できる。
図4(b)は、流路6の周囲に直接にコイル10を巻き付けてコアを省略した変形例を示している。
【0059】
その他の部分は図4(a)の例と同様である。
図の例の製造装置は、上記のように流路6が、導体を巻き付けてコイル10を形成するコアを兼ねているため、その構造を簡略化できる。
図4(b)の例の製造装置を用いても、前記図4(a)の例の製造装置と同様の操作を行うことによって、これまでよりも枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を、連続的に製造することができる。
【0060】
図5は、この発明の製造装置の、さらに他の例を示す概略断面図である。なお製造装置を形成する個々の部分の構成は、先の図4(a)の例と同じであるので、同一個所に同一符号を付して説明を省略する。
図の例の製造装置の相違点は、筒状に形成したコア11の周囲に導体を巻き付けて形成したコイル10を2つ設けるとともに、流路6を、この2つのコイル10のコア11の筒内を、それぞれ2回ずつ通過するように配設した点にある。
【0061】
具体的には、図中に実線の矢印で示す、混合溶液の流通方向の上流側(右上側)から順に、まず上側のコイル10の、コア11の筒内を通過し、次いで下側のコイル10の、コア11の筒内を通過し、さらに戻って上側のコイル10の、コア11の筒内を再び通過した後、下側のコイル10の、コア11の筒内を再度、通過して下流側(右下側)に達するように流路6を配設してある。
このように構成すると、先に述べたように流路6内を流れる混合溶液に磁場を印加する時間を、
(a) コイル10を長大化して製造装置を大掛かりなものとしたり、あるいは
(b) 混合溶液の流速を低下させて、析出した鎖状金属粉末の沈殿による流路の詰まりなどを生じたりすることなしに、
できるだけ長くすることができる。
【0062】
すなわち流速一定の場合、図5の例の製造装置では、同じ大きさの1つのコイル10の、コア11の筒内を1回だけ通過する場合の4倍、また同じ大きさの2つのコイル10の、コア11の筒内をそれぞれ1回ずつ通過する場合の2倍の時間、流路6内を流れる混合溶液に磁場を印加し続けることができる。
このため、より枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することができる。
【0063】
図6は、この発明の製造装置の、さらに他の例を示す概略断面図である。
図の例の製造装置は、流路6の、コア11の筒内を通過する部分をコイル状のコイル管路60とした点が、先の3つの例と相違している。その他の部分は図4(a)の例と同じであるので、同一個所に同一符号を付して説明を省略する。
図の例の製造装置においては、上記のように流路6の、コア11の筒内を通過する部分をコイル状のコイル管路60として、混合溶液が通過する距離を、図4(a)のような直線状の場合よりも長くしてあるため、それによって流路6内を流れる混合溶液に磁場を印加する時間を長くすることができる。
【0064】
また、上記コイル管路60の曲線部分を通過する際に、その形状的な規制を受けて、混合溶液は強制的にかく拌、混合されるため、還元析出反応の反応速度を高めることもできる。このことは、先に述べたように混合溶液に磁場を印加する時間を長くしたのと同じ効果を有する。
したがってこの2つの効果によって、図6の例の製造装置によれば、より枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することができる。
【0065】
図7は、この発明の製造装置の、さらに他の例を示す概略断面図である。
図の例の製造装置は、流路6の、コア11の筒内を通過する部分にインライン式ミキサー7を配設した点が、先の4つの例と相違している。その他の部分は図4(a)の例と同じであるので、同一個所に同一符号を付して説明を省略する。
インライン式ミキサー7は、図の例では、図中に実線の矢印で示す混合溶液の流通方向の上流側(右側)から下流側(左側)ヘ向けて、左回転用の固定羽根7aと右回転用の固定羽根7bとを複数個(図では2個)ずつ、交互に配設して形成してある。
【0066】
上記インライン式ミキサー7を通過する際に、混合溶液は、それぞれの固定羽根7a、7bの形状的な規制力を受けて強制的にかく拌、混合される。つまり、図中に実線の矢印で示すように混合溶液は、交互に配置した4つの固定羽根7a、7bを通過する際に、それぞれ左回転と右回転とを交互に繰り返すことでかく拌、混合されるため、それによって還元析出反応の反応速度を高めることができる。
【0067】
したがって図7の例の製造装置によれば、混合溶液に磁場を印加する時間を長くしたのと同じ効果を得ることができ、より枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することができる。
図8は、この発明の製造装置の、さらに他の例を示す概略断面図である。
図の例の製造装置は、
・ 流路6に、当該流路6の一部を、一定量の混合溶液を循環させるための閉じられた環状流路61に切り換えるための切り換え弁V1を設けた点、
・ 切り換え弁V1を切り換えることで形成した環状流路61の途中に、当該環状流路61内で混合溶液を循環させるためのポンプP1を設けた点、および
・ 環状流路61を、筒状に形成したコア11の周囲に導体を巻き付けて形成したコイル10の、コア11の筒内を通過するように配設して、当該環状流路61内を循環する混合溶液に繰り返し磁場を印加できるようにした点、
が、先の図4(a)の例と相違している。その他の部分の構成は図4(a)の例と同じであるので、同一個所に同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
なお図の例では、環状流路61は略正方形状に形成してあり、正方形の各辺に相当する環状流路61の直線部分をそれぞれ、4つのコイル10の、各コア11の筒内を通過するように配設してある。これにより、環状流路61内を循環する混合溶液に、ほぼ切れ目なく磁場を印加しつづけることができる。
またポンプP1は、上記環状流路61のうち隣り合う2辺の角の位置に配設してある。かかるポンプP1としては、鎖状金属粉末の鎖の成長に影響を及ぼさないために、マグネットポンプ等の磁場を発生させるポンプはできるだけ使用せず、エアー駆動のベローズポンプやダイヤフラムポンプ、チューブポンプ等を使用するのが好ましい。
切り換え弁V1は、図中に実線で示す位置において環状流路61を環状に閉じるとともに、破線で示す位置に切り換えて環状流路61を開くことで、当該環状流路61を、流路6の上流側の部分62、および下流側の部分63と接続するために機能する。
【0069】
流路6の、環状流路61より上流側の部分62のさらに上流側には、図示していないが、流路6に反応液を供給するための供給手段と、還元剤溶液を供給するための供給手段と、両溶液を混合して混合溶液を生成させるための混合手段と、そして混合溶液を流路6内に供給するためのポンプとを配設してある。なおこのポンプの機能は、前述した環状流路61のポンプP1によって代用させることもでき、その場合はかかるポンプを省略してもよい。
一方、下流側の部分63のさらに下流側には、これも図示していないが、還元析出反応によって生成した鎖状金属粉末を混合溶液からろ別、回収するためのろ過手段と、鎖状金属粉末をろ別、回収した後の溶液を回収するための回収手段とを配設してある。
【0070】
図8の例の製造装置においては、切り換え弁V1を切り換えることによって閉じられた環状流路61内で、コイル10に通電して磁場を印加しながら、混合溶液を、ポンプP1の機能によって何回でも循環させることができる。そして循環させる時間を任意に設定することで、混合溶液に磁場を印加する時間をこれまでよりも延長することができる。
また環状流路61の曲線部分やポンプP1を通過する際に、その形状的な規制を受けて、混合溶液は強制的にかく拌、混合されるため、還元析出反応の反応速度を高めることもできる。
【0071】
したがってこの2つの効果によって、図8の例の製造装置によれば、より枝分かれや屈曲の少ない鎖状金属粉末を製造することができる。
環状流路61内の混合溶液を交換する際は、切り換え弁V1を破線の位置に切り換えて、当該環状流路61を、流路6の上流側の部分62、および下流側の部分63と接続する。
そうすると、ポンプP1や図示しない上流側のポンプの送水力によって、図中に白抜きの矢印で示すように流路6の上流側から、新たな混合溶液を環状流路61内に供給するとともに、当該環状流路61内の先の混合溶液を、図中に黒矢印で示すように流路6の下流側に排出させて、混合溶液を交換することができる。
【0072】
下流側に排出した混合溶液は、生成した鎖状金属粉末をろ過手段によって連続的にろ別し、回収するとともに、残りの溶液を回収手段によって連続的に回収する。また回収手段に回収した残りの溶液は、前記のように電解再生して、還元剤溶液として再使用できる。
〔鎖状金属粉末〕
上記の製造装置などを用いて、この発明の製造方法によって製造した、この発明の鎖状金属粉末は、先に述べたように、これまでは製造することができなかった、直鎖状か、あるいはそれにできるだけ近い枝分かれや屈曲の少ない形状を有しており、鎖状という特異的な形状の利点をより一層、良好に活用し得るものとなる。
なお鎖状金属粉末としては、微細な金属粒が単に磁力によって鎖状に繋がっただけのものから、その周囲を覆うようにさらに金属が析出して、金属粒同士がより強固に結合したものまで、種々の状態のものを製造することができる。鎖状金属粉末の状態を調整するには、反応温度や反応時間等を制御すればよい。すなわち反応温度を高くするほど、また反応時間を長くするほど、鎖状に繋がった金属粒の周囲を覆う金属膜を厚くして、金属粒がより強固に結合した鎖状金属粉末を製造することができる。
鎖状金属粉末の寸法、形状はとくに限定されないが、先に述べたように鎖の長さLは0.5〜100μm、径Dは20〜500nmで、かつ長さLと径Dとの比L/Dで表されるアスペクト比は10〜1000であるのが好ましい。
【0073】
鎖の長さLが0.5μm未満であるか、もしくは径Dが500nmを超えるものは鎖が短くなりすぎて、アスペクト比L/Dが10未満となって、もはや鎖状とはいえなくなってしまうおそれがある。
また鎖の長さLが100μmを超えるか、もしくは径Dが20nm未満のものは鎖が細くなりすぎて、アスペクト比L/Dが1000を超えて、結着剤等と混合した際などに鎖が切れやすくなるおそれがある。また径Dが20nm未満のものは、例えば導電性フィラーとしての導電性が十分に得られないおそれもある。
【0074】
鎖状金属粉末の鎖の長さLや鎖の径D、アスペクト比L/Dなどを上記の範囲に調整するには、前記のように還元剤水溶液における3価のチタンイオンと4価のチタンイオンとの存在比を調整したり、あるいは反応温度、反応時間、かく拌速度、流速、磁場の強さ等の反応条件を制御したりすればよい。
鎖状金属粉末を、前述した導電ペーストなどの導電性フィラーとして使用する場合は、その表面を、Cu、Rb、Rh、Pd、Ag、Re、Ptなどの、導電性に優れた金属の被膜で被覆するのが好ましい。
【0075】
また鎖状金属粉末を、前述した各種の触媒として使用する場合は、同様にその表面を、触媒機能を有する金属の被膜で被覆すればよい。
鎖状金属粉末の表面に、これら金属の被膜を被覆する方法としては、例えば無電解めっき法、電気めっき法、還元析出法、真空蒸着法などの種々の製膜方法を採用することができる。
あるいはまた、還元析出反応による鎖状金属粉末の製造時に、常磁性を有する金属とともに、上記各種の金属をも析出させて、鎖状金属粉末自体に高い導電性や触媒機能を付与することもできる。
【0076】
【実施例】
以下にこの発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
実施例1
(還元剤水溶液の調製)
四塩化チタンの20%塩酸酸性水溶液を作製した。四塩化チタンの量は、当該水溶液を次工程で陰極電解処理して得た還元剤水溶液を、次項で述べる反応液と所定の割合で混合するとともに、pH調整剤や、あるいは必要に応じてイオン交換水を加えて所定量の混合溶液を作製した際に、当該混合溶液の総量に対する、3価および4価のチタンイオンの、合計のモル濃度が0.2mol/Lとなるように設定した。液のpHは2であった。
次にこの水溶液を、旭硝子(株)製の陰イオン交換膜で仕切った2槽式の電解槽の、片方の槽に注入した。また上記電解槽の、反対側の槽にはモル濃度0.1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を入れた。
【0077】
そしてそれぞれの液にカーボンフェルト電極を浸漬して、四塩化チタンの水溶液側を陰極、硫酸ナトリウム水溶液側を陽極として、3.5Vの直流電流を、定電圧制御で通電して水溶液を陰極電解処理することで、還元剤水溶液を調製した。
陰極電解処理により、還元剤水溶液中の、4価のチタンイオンの約60%が3価に還元され、液のpHは4となった。
【0078】
(反応液の調製)
塩化ニッケルとクエン酸三ナトリウムとをイオン交換水に溶解して反応液を調製した。各成分の量は、前述した混合溶液の総量に対するモル濃度が、塩化ニッケル:0.04mol/L、クエン酸三ナトリウム:0.3mol/Lとなるように調整した。
(鎖状金属粉末の作製)
前記還元剤水溶液を、図1の製造装置の反応槽2に入れ、ヒーター4に通電して液温を40℃に維持しつつ、ミキサー3を駆動して500rpmでかく拌を開始した。また電磁石1のコイル10に通電して磁場の印加を開始した。磁場の強さは、円筒状のコア11の中心軸上で0.01Tとした。
【0079】
次に、pH調整剤としてのアンモニア水を加えて液のpHを9.2に調整するとともに、反応液を徐々に加えた後、さらに必要に応じてイオン交換水を加えて所定量の混合溶液を作製した。反応液およびイオン交換水は、あらかじめ40℃に暖めておいたものを用いた。
そして混合溶液の液温を40℃に維持しながら数分間、かく拌を続けると沈殿が析出したので、かく拌を停止して沈殿を直ちにロ別、水洗した後、乾燥させて粉末を得た。
【0080】
得られた粉末は、微小球が多数、鎖状に繋がった形状を有する鎖状金属粉末であった。その組成をICP発光分析法によって測定したところ、Niの純度が99.8%のNi粉末であることが確認された。
また、鎖状金属粉末の外観を電子顕微鏡にて観察したところ、図9に示すように、殆ど枝分かれや屈曲のない直鎖状に近い形状であることが確認された。
【0081】
また鎖状金属粉末の、鎖の平均長さLおよび平均径Dを、レーザー回折式粒度分布測定装置〔マルバーン社製の商品名マスターサイザーマイクロ・プラス〕を用いて測定したところ、平均長さLが50μm、平均径Dが200nm、アスペクト比L/Dが250であった。
比較例1
製造時に磁場を印加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、鎖状金属粉末を得た。
【0082】
得られた粉末は、微小球が多数、鎖状に繋がった形状を有する鎖状金属粉末であった。その組成をICP発光分析法によって測定したところ、Niの純度が99.8%のNi粉末であることが確認された。
また、鎖状金属粉末の外観を電子顕微鏡にて観察したところ、図10に示すように多数の枝分かれや屈曲が発生していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の鎖状金属粉末の製造装置の、実施の形態の一例を示す概略断面図である。
【図2】製造装置の他の例を示す概略断面図である。
【図3】製造装置の他の例を示す概略断面図である。
【図4】同図(a)(b)はそれぞれ、製造装置の他の例を示す概略断面図である。
【図5】製造装置の他の例を示す概略断面図である。
【図6】製造装置の他の例を示す概略断面図である。
【図7】製造装置のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図8】製造装置のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図9】この発明の実施例1で製造した鎖状金属粉末の、粒子の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例1で製造した鎖状金属粉末の、粒子の状態を示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 電磁石
10 コイル
11 コア
2 反応槽
6 流路

Claims (15)

  1. 常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液中で、還元剤の作用によって金属のイオンを還元させて、微細な金属粒として析出させるとともに、析出させた金属粒の持つ磁力によって、当該金属粒を多数、鎖状に繋がらせて鎖状金属粉末を製造する方法であって、上記還元析出反応を、磁場を印加しながら行うことを特徴とする鎖状金属粉末の製造方法。
  2. コイルに電流を流して発生させた磁場を利用することを特徴とする請求項1記載の鎖状金属粉末の製造方法。
  3. 永久磁石の磁場を利用することを特徴とする請求項1記載の鎖状金属粉末の製造方法。
  4. 磁場の強度を0.0005T以上、磁場を印加する時間を1秒間以上とすることを特徴とする請求項1記載の鎖状金属粉末の製造方法。
  5. 請求項1の製造方法を実施するための製造装置であって、還元析出反応を行うための反応槽と、当該反応槽に磁場を印加するためのコイルとを備えることを特徴とする鎖状金属粉末の製造装置。
  6. 筒状に形成したコアに導体を巻き付けてコイルを形成するとともに、当該コアの筒内に反応槽を配設したことを特徴とする請求項5記載の鎖状金属粉末の製造装置。
  7. 反応槽の器壁に直接に導体を巻き付けてコイルを形成したことを特徴とする請求項5記載の鎖状金属粉末の製造装置。
  8. 請求項1の製造方法を実施するための製造装置であって、常磁性を有する金属のイオンを含む水溶液と還元剤との混合溶液を連続的に流通させるための流路と、当該流路に磁場を印加するためのコイルとを備えることを特徴とする鎖状金属粉末の製造装置。
  9. 筒状に形成したコアに導体を巻き付けてコイルを形成するとともに、当該コアの筒内を通過するように流路を配設したことを特徴とする請求項8記載の鎖状金属粉末の製造装置。
  10. 流路を、1つのコア中を複数回、繰り返し通過するように配設したことを特徴とする請求項9記載の鎖状金属粉末の製造装置。
  11. 流路の、コア中に配設した部分をコイル状に形成したことを特徴とする請求項9記載の鎖状金属粉末の製造装置。
  12. 流路の、コア中に配設した部分の内部に、インライン式ミキサーを配設したことを特徴とする請求項9記載の鎖状金属粉末の製造装置。
  13. 流路の管壁に直接に導体を巻き付けてコイルを形成したことを特徴とする請求項8記載の鎖状金属粉末の製造装置。
  14. 流路に、当該流路の一部を、一定量の混合溶液を循環させるための閉じられた環状に切り換えるための切り換え弁を設けるとともに、この切り換え弁を切り換えることで形成した環状の流路の途中に、当該流路内で混合溶液を循環させるためのポンプを設け、かつコイルを、環状の流路に磁場を印加しうる位置に設けたことを特徴とする請求項8記載の鎖状金属粉末の製造装置。
  15. 請求項1の製造方法によって製造した鎖状金属粉末であって、鎖の長さLが0.5〜100μm、鎖の径Dが20〜500nmで、かつ長さLと径Dとの比L/Dで表されるアスペクト比が10〜1000であることを特徴とする鎖状金属粉末。
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