JP2004149812A - 微細粒組織を有する疲労特性に優れた冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鋼成分中、特にC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有する鋼素材を、1200℃以上に加熱した後、Ar3点以上で熱間圧延を終了し、ついで 750℃以下、650 ℃以上の温度域で巻き取り、酸洗後、冷間圧延を施したのち、予測値温度A3 (℃)以上、(A3+30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後予測値温度A1 +50℃まで5℃/s以上の速度で冷却し、ついで(A1 +50)〜(A1 +20)℃の温度域で60秒以上保持したのち、少なくともMs 点まで3℃/s以上の速度で冷却する。
記
637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }>A1 −−− (1)
A3 < 860 −−− (2)
[%Mn] + [%Ni]≧ 1.3 −−− (3)
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や家電、さらには機械構造用鋼としての用途に供して好適な冷延鋼板、とくに微細粒組織を有し、疲労強度および伸びフランジ性に優れる高張力冷延鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用、家電用および機械構造用鋼板として用いられる鋼材には、強度、加工性および疲労特性(耐久性ともいう)といった機械的性質に優れていることが要求される。これらの機械的性質を総合的に向上させる手段としては、組織を微細化することが有効であることから、これまでにも、微細組織を得るための製造方法が数多く提案されてきた。
【0003】
組織の微細化手段としては、従来から大圧下圧延法が知られている。かかる大圧下圧延法としては、例えばオーステナイト粒に大圧下を加えて、γ−α歪誘起変態を促進させて、組織の微細化を図る技術が提案されている(例えば特許文献1、特許文献2)。
また、制御圧延法や制御冷却法を適用した場合などについても知られている(例えば特許文献3)。
【0004】
その他、素材鋼について、少なくとも一部がフェライトからなる鋼組織としておき、これに塑性加工を付加しつつ変態点(Ac1点)以上の温度域に昇温するか、この昇温に続いてAc1点以上の温度域に一定時間保持して、組織の一部または全部を一旦オーステナイトに逆変態させたのち、超微細オーステナイト粒を出現させ、その後冷却して平均結晶粒径が5μm 以下の等方的フェライト結晶粒を主体とする組織とする技術が提案されている(例えば特許文献4)。
【0005】
一方、高強度鋼板に求められる加工性や疲労特性を向上させるための手段としては、疲労亀裂の伝播を阻害する役目を担う硬質の第2相(主としてマルテンサイト)の存在や析出物の制御を行うことも知られており、熱延鋼板に析出強化と組織強化の両方を適用して優れた疲労特性と加工性を具備した鋼板を得る技術が提案されている(例えば特許文献5)。
この技術は、硬質な第2相が亀裂伝播を抑制して疲労特性を向上させ、同時に析出物が軟質のフェライト相を強化して第2相とフェライトとの硬度差が縮小する結果、変形箇所が分散するため、穴拡げ性すなわち伸びフランジ性が向上するとされている。
【0006】
以上のような技術は全て、熱延プロセスにおける技術である。環境問題に配慮して自動車の車体軽量化を進めるためには、高強度鋼を積極的に適用して板厚を薄くすることが効果的であるが、高強度綱になるほど組織制御のために添加される合金元素が増えるため、一般にはより大きな圧延荷重が必要になり、板厚の薄い熱延鋼板を製造することが困難になる。このような製造上の理由から、高強度薄物材料には冷延鋼板の需要が多い。ところが、冷延鋼板に対しては通常の冷間圧延−焼鈍プロセスにおいて結晶粒を微細化する技術はほとんど見当たらない。
【0007】
【特許文献1】
特開昭53−123823号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特公平5−65564 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開昭63−128117号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】
特開平2−301540号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】
特開平5−179396号公報(特許請求の範囲)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、自動車用、家電用および機械構造用鋼板として用いられる冷延鋼板について、その微細粒化を可能ならしめ、併せて疲労特性にも優れる微細粒組織を有する冷延鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、冷延鋼板について微細粒化を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、合金元素を適正に調整して鋼板の再結晶温度とA1 およびA3 変態温度を制御した上で、冷延後の再結晶焼鈍温度およびその後の冷却工程を的確に制御することにより、微細粒組織が得られるとの知見を得た。
また、熱延工程での冷却・巻取り温度を最適化することにより、TiやNbの析出を制御して、微細粒を有し、かつ疲労特性に優れる冷延鋼板とすることができるとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0010】
すなわち、本発明は、質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下および/またはNi:3.0 %以下、
Ti:0.01〜0.2 %および/またはNb:0.01〜0.2 %、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱した後、Ar3点以上で熱間圧延を終了し、ついで 750℃以下、650 ℃以上の温度域で巻き取り、酸洗後、冷間圧延を施したのち、下記(6) 式で求められる温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後下記(5) 式で求められる温度A1 +50℃まで5℃/s以上の速度で冷却し、ついで(A1 +50)〜(A1 +20)℃の温度域で60秒以上保持したのち、少なくともMs 点まで3℃/s以上の速度で冷却することを特徴とする微細粒組織を有する疲労特性に優れた冷延鋼板の製造方法である。
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0011】
また、本発明では、鋼素材中に、質量%でさらに、
Mo:0.1 %以下および
Cr:0.1 %以下
のうちから選んだ一種または二種を含有させることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.03〜0.16%
Cは、安価な強化成分であるだけでなく、マルテンサイト等の低温変態相を生成させる上でも有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.16%を超えて含有させると延性や溶接性が劣化するので、Cは0.03〜0.16%の範囲に限定した。
【0013】
Si:2.0 %以下
Siは、固溶強化成分として、強度−伸びバランスを改善しつつ強度を向上させるのに有効に寄与するが、過剰な添加は、延性や表面性状、溶接性を劣化させるので、Si量は 2.0%以下に限定した。なお、上記の観点からSi量の好ましい範囲は0.01〜1.0 %である。
【0014】
Mn:3.0 %以下および/またはNi:3.0 %以下
MnおよびNiはいずれも、オーステナイト安定化元素であり、A1 ,A3 変態点を低下させる作用を通じて結晶粒の微細化に寄与し、また第2相の形成を進展させる作用を通じて強度−延性バランスを高める作用を有する。しかしながら、多量の添加は鋼を硬質化し、却って強度−延性バランスを劣化させるので、いずれもその含有量を 3.0%以下に限定した。
なお、Mnは、有害な固溶SをMnSとして無害化する作用も併せて有するので、0.1 %以上含有させることが好ましい。また、Niは、上記したNiの効果を得るためには0.01%以上含有させることが好ましい。
【0015】
Ti:0.01〜0.2 %および/またはNb:0.01〜0.2 %
Ti, Nbは、後述するように、フェライト相内に微細に分散析出し、伸びフランジ性等の成形性および疲労特性の改善に有利に寄与する元素である。この効果を得るためには、Ti, Nbはそれぞれ0.01%以上含有させる必要があり、各々単独で添加しても複合して添加してもよい。
また、Ti,Nbを添加することによって、TiCやNbC等が析出し、鋼板の再結晶温度を上昇させる効果もある。しかしながら、いずれも 0.2%を超えると効果が飽和するだけでなく、析出物が多くなりすぎてフェライトの延性の低下を招くので、それぞれ 0.2%以下で含有させるものとした。
【0016】
Al:0.01〜0.1 %
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度の向上に有効な元素であり、脱酸の工程で添加することが望ましい。ここに、Al量が0.01%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.1%を超えると効果は飽和し、むしろ製造コストの上昇を招くので、Alは0.01〜0.1 %の範囲に限定した。
【0017】
P:0.1 %以下
Pは、延性の大きな低下を招くことなく安価に高強度化を達成する上で有効な元素であるが、一方で多量の含有は加工性や靱性の低下を招くので、P量は 0.1%以下に限定した。なお、加工性や靱性に対する要求が厳しい場合には、Pは低減させることが好ましいので、この場合には0.02%以下とすることが望ましい。
【0018】
S:0.02%以下
Sは、熱延時における熱間割れの原因になるだけでなく、鋼板中にMnS等の介在物として存在し延性や穴拡げ加工性の劣化を招くので、極力低減することが望ましいが、0.02%までは許容できるので、本発明では0.02%以下とした。
【0019】
N:0.005 %以下
窒素は、時効劣化をもたらすだけでなく、降伏延びの発生を招くので、極力低減することが望ましいが、0.005 %までは許容できるので、本発明では 0.005%以下に抑制するものとした。
【0020】
以上、基本成分について説明したが、本発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Mo:0.1 %以下およびCr:0.1 %以下のうちから選んだ一種または二種
Mo,Crはいずれも、強化成分として、必要に応じて含有させることができるが、多量の添加はかえって強度−延性バランスを劣化させるので、それぞれ 0.1%以下で含有させることが望ましい。なお、上記の作用を十分に発揮させるには、Mo, Crはそれぞれ0.01%以上含有させることが好ましい。
【0021】
以上、適正な成分組成範囲について説明したが、本発明では各成分が上記の組成範囲を単に満足しているだけでは不十分で、C,Si, Mn, Ni, TiおよびNbについては、下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲で含有させる必要がある。
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0022】
なお、上記のA1 , A3 はそれぞれ、鋼のAc1変態点温度(℃)、Ac3変態点温度(℃)の予測値であり、発明者らの詳細な基礎実験から導出された成分回帰式である。この予測値温度(℃)は、2℃/s以上、20℃/s以下の昇温速度で加熱する際に適用して特に好適である。
【0023】
以下、上記の(1), (2), (3) 式の限定理由を順に説明する。
(1) 式は、Ti,Nbの添加量を規定する条件であり、以下の知見に基づく。
一般に、Ti,Nbを添加するとTiCやNbC等が析出し、鋼板の再結晶温度が上昇する効果があることが知られている。そこで、Ti,Nb添加量と再結晶温度Treの関係について詳細に調査したところ、Ti,Nbをある量以上添加すると、再結晶温度は上記(6) 式で算出されるA3 と等価になることが判明した。
【0024】
図1に、A1 =700 ℃、A3 =855 ℃に調整した鋼組成において、Ti,Nb添加量を種々に変更した場合のTi,Nb添加量と再結晶温度との関係について調べた結果を示す。なお、ここで再結晶温度Treは、加熱温度を種々に変化させて連続焼鈍を実験室的に行い、硬度を測定すると共に組織を観察することにより決定した。また、Ti添加量は、TiCを析出させるための有効Ti量としてTi* を用い、Nb添加量は、Ti量に換算した (48/93)・[%Nb] を用いて、Ti, Nb添加量と再結晶温度との関係について表わしている。
同図によれば、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }が 700℃すなわちA1 を超えると、再結晶温度Treは 855℃近傍すなわちA3 近傍に急上昇し飽和することが分かる。
【0025】
次に、図2に、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }>A1 の条件下において、A3 (C,Si,Mn, Ni等を変化させることで変動)を種々に変化させた場合におけるA3 と再結晶温度Treとの関係について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }>A1 の条件下では、再結晶温度TreはA3 と等価になっている。
【0026】
この理由については、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
すなわち、Ti,Nbが添加され、それらの微細炭窒化物のピン止め力により再結晶温度が上昇し、A1 以下のフェライト(α)域で再結晶できなくなった場合、未再結晶の加工αのまま(フェライト+オーステナイト(γ))二相域温度になり、高転位密度部、不均一変形部などの優先核生成サイトにおいて、加工αからの再結晶α核生成とα→γ変態核生成の競合が生じる。この時、γ変態の駆動力の方が大きいため、再結晶α核生成より優先してγ核が次々と生成し、優先核生成サイトを占有する。
【0027】
このγ変態での原子再配列で歪み(転位)は消費され、転位密度の低い加工αのみ残留し、加工αの再結晶はますます困難となる。A3 を超え、γ単相域になって初めて歪みが完全に解消され、見かけ上再結晶が完了する。これが、再結晶温度がA3 に一致し、飽和する機構と考えられる。
なお、この際のα→γ変態は、加工α(優先核生成サイトが多い)から核生成することになるので、再結晶が完了した高温でのγ粒は微細化する。従って、焼鈍中の高温γ粒微細化のために再結晶温度をA3 とすることは有効であるので、本発明では式(1) を満足するTi, Nbを添加することにしたのである。
【0028】
次に、 (2)式は、A3 を規定する条件である。
上述したとおり、 (1)式を満足する場合には、A3 は実質的に再結晶温度になるため、A3 以上の温度で再結晶焼鈍を行う必要がある。ここに、A3 が 860℃以上の場合、再結晶焼鈍温度をより高温で施す必要が生じ、γ粒成長が激しく、かえって結晶粒径が大きくなってしまった。よって、A3 <860 ℃を満足させる必要がある。
【0029】
次に、 (3)式は、MnやNiすなわちオーステナイト安定化元素の添加量を規定する条件である。
オーステナイト安定化元素の増大により、CCT 図におけるフェライトスタート線が低温側にシフトすることにより、焼鈍後の冷却過程におけるγ→α変態時の過冷度が増大してαが微細核生成することにより、α結晶粒を微細化することができる。この効果を得るためには、少なくともMnとNiの含有量の合計を 1.3%以上とする、すなわち [%Mn]+[%Ni] ≧ 1.3(%)とする必要がある。
なお、 [%Mn]+[%Ni] ≧ 1.3(%)さえ満足していれば、MnやNiは単独添加でも複合添加でもどちらでも良い。より好ましくは [%Mn]+[%Ni] ≧ 1.5(%)の範囲である。
【0030】
次に、製造条件について説明する。
上記の好適成分組成に調整した鋼を、転炉などで溶製し、連続鋳造法等でスラブとする。この鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、Ar3点以上で熱間圧延を終了し、ついで 750℃以下、650 ℃以上の温度域で巻き取り、酸洗後、冷間圧延を施したのち、前掲(6) 式で求められる温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後前掲(5) 式で求められる温度A1 +50℃まで5℃/s以上の速度で冷却し、(A1 +50)〜(A1 +20)℃の温度域で60秒以上保持したのち、少なくともMs 点まで3℃/s以上の速度で冷却する。なお、ここでMs 点は、マルテンサイト変態を開始するときの温度を指し、通常、下記(7)式で求めることができる。
Ms 点(℃)= 561− 474×[%C] −33×[%Mn」−17×[%Ni] −17×[%Cr] −21×[%Mo] −−− (7)
ただし、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0031】
上記の工程において、鋼素材であるスラブの加熱温度が1200℃未満では、TiCなどが十分に固溶せずに粗大化し、後の再結晶焼鈍工程での再結晶温度上昇効果および結晶粒成長抑止効果が不十分となるので、スラブの加熱温度は1200℃以上とした。
また、仕上げ圧延温度は、バンド状組織を回避し、均質性を確保して伸びフランジ性を良好とするために、Ar3点以上の温度とする必要がある。
【0032】
熱延終了後の巻取り過程においては、 650〜750 ℃まで冷却して巻取り、この間にγ→α変態を生じさせると共に、TiCやNbCを微細に析出させる。ここに、巻取り温度が 650℃未満では、所望するTi, Mo系炭化物を主体とした析出物が得られず、一方 750℃を超えると、パーライト変態が進んでTi, Mo系炭化物に必要な炭素が取られるため、やはり所望の析出物が得られなくなる。
なお、仕上圧延終了後、巻取り温度までは、パーライトの析出を抑え、TiCやNbCを微細に析出させるために、20℃/s以上の速度で冷却することが望ましい。
【0033】
ついで、熱延板表面の酸化スケールを酸洗により除去したのち、冷間圧延に供して、所定の板厚の冷延鋼板とする。ここに、酸洗条件や冷間圧延条件は特に制限されるものでなく、常法に従えばよい。
なお、冷間圧延時の圧下率は、再結晶焼鈍時の核生成サイトを増やし、結晶粒の微細化を促すという観点から40%以上とすることが望ましく、一方圧下率を上げすぎると鋼板の加工硬化によって操業が困難となるので、圧下率の上限は90%以下程度とするのが好ましい。
【0034】
ついで、得られた冷延鋼板を、前掲(6) 式に示した温度A3(℃)以上、(A3+30)(℃)以下に加熱して、再結晶焼鈍を施す。
前述のように成分調整した本発明の鋼素材では、A3 が再結晶温度と等価となっているので、A3 未満の温度では再結晶が不十分となる。一方、(A3 +30)(℃)を超える温度では、焼鈍中のγ粒の成長が激しく、また熱延後巻取りの際に析出させた微細なTiCやNbCの析出物が粗大化するため不適切である。
【0035】
本発明では、後述するように、焼鈍温度からの冷却速度を制御して、主相であるフェライトとマルテンサイト等の第2相を有する組織とすることを目的として製造条件を規定している。ここで、この微細なTiCあるいはNbCは、主相であるフェライト中に均一に分散析出することによってその強度向上(析出強化)に重要な役割を担っている。これにより、第二相(マルテンサイト)と主相の強度差を縮小して成形の向上をもたらしている。また、疲労破壊を生じる状況下においては、フェライト自体の強化により初期亀裂発生を抑止し、仮に疲労亀裂を生じてもその伝播を抑止して著しい疲労特性の向上効果をもたらす。
【0036】
この再結晶焼鈍は、連続焼鈍ラインで行うことが好ましく、連続焼鈍する場合の焼鈍時間は再結晶が生じる10秒から 120秒程度とすることが好ましい。というのは、10秒より短時間では再結晶が不十分であり、圧延方向に伸展したままの組織が残存するために、十分な延性が確保できない場合があり、一方 120秒より長時間ではγ結晶粒の粗大化を招いて、所望の強度を得ることができないことがあるからである。
【0037】
ついで、前記温度(A1 +50)℃まで5℃/s以上の速度で冷却し、(A1 +50)〜(A1 +20)℃の温度域で60秒以上保持したのち、少なくともMs 点まで3℃/s以上の速度で冷却する。
高強度化を達成すると共に、疲労特性を良好とするためには、上述したようにフェライトを主相として、マルテンサイトなどの硬質な第2相を存在させることが有効である。一方、本発明のように、再結晶焼鈍時に微細粒化すると、微細粒であるが故に粒内→粒界間のC拡散距離が短いため、いわゆる焼きが入り難い状態になる。特にMn,Mo,Crなど焼入れ促進元素が少ない成分系においては、所望とするマルテンサイト等の硬質な第2相を確保するために、Ms 点以下まで大きな冷却速度で冷却する必要がある。
【0038】
そこで、本発明では、上記の条件で再結晶焼鈍を行ったのち、フェライト−オーステナイト二相域の低温側温度である(A1 +20)〜(A1 +50)℃の温度域に一旦保持することでオーステナイトに炭素および合金元素を濃化させて焼入れ性を向上させ、比較的緩やかな冷却条件でもマルテンサイト等の硬質相を得易くして、疲労特性を改善するのである。
ここに、保持温度が、(A1 +20)℃を下回ると、オーステナイト分率が少なくなりすぎ、十分なマルテンサイトが形成されないため、良好な疲労特性等を得難くなる。また、保持温度が温度(A1 +50)℃を上回ると、フェライト分率が低く、オーステナイトヘのCの濃化が不充分となり、やはり十分なマルテンサイトが形成されず、疲労特性を十分に良好とし難い。
従って、再結晶焼鈍後、(A1 +20)〜(A1 +50)℃の温度域に保持することにしたのである。
また、当温度域での保持時間が60秒未満では、オーステナイトからフェライトへの変態が完遂しない可能性があり、炭素および合金元素の不足したオーステナイトとなって、その後の冷却でもマルテンサイトが得難くなるので、保持時間は60秒以上とした。
なお、当該温度域での保持方法としては、冷却を緩やかな徐冷としたり、放冷としたり、あるいは積極的に加熱を加える等により適宜行えばよい。また、保持時間とは、鋼板が(A1 +20)〜(A1 +50)℃の温度域に実質的に滞留する時間を意味する。
【0039】
再結晶焼鈍後、(A1 +50)℃までの冷却速度が5℃/s未満では、オーステナイト−フェライト変態における過冷度が小さく、当該温度域に到達するまでにフェライトが粗大化してしまう。従って、再結晶焼鈍後(A1 +50)℃までの冷却速度は5℃/s以上とした。
また、前記温度域での保持の後、Ms 点以下まで冷却することにより、マルテンサイトを形成する。本発明の製造方法では、焼鈍後、二相域の低温域で保持を行いオーステナイトヘのCの濃化を促進しているため、上記温度域での保持後、すなわち(A1 +20)℃から少なくともMs 点までの冷却速度を3℃/s以上という比較的緩やかな冷却速度としても、マルテンサイトを形成し、疲労特性を改善することができる。なお、冷却速度が3℃/s未満では、前述のような中間保持を行っても十分な疲労特性に改善することが難しい。従って、(A1 +20)℃からMs 点以下までの冷却速度は3℃/s以上とした。
【0040】
【実施例】
表1に示す成分組成になるスラブを、表2に示す条件でスラブ加熱後、常法に従い熱間圧延して4.0mm 厚の熱延板とした。なお、仕上げ圧延温度は全てAr3点以上であった。この熱延板を、酸洗後、冷間圧延(圧下率:60%)して、1.6 mm厚の冷延板としたのち、連続焼鈍ラインにて表3に示す条件下で再結晶焼鈍を行い、製品板とした。
かくして得られた製品板の組織、強度、疲労特性および成形性について調べた結果を表4に示す。
【0041】
なお、組織は、鋼板の圧延方向断面について、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて調べ、併せて平均結晶粒径を測定した。
また、強度(引張強さTS)は、鋼板の圧延方向から採収したJIS 5号試験片を用いた引張試験により測定した。
さらに、疲労特性は、図3に示す寸法形状になるJIS Z 2275(金属平板の平板曲げ疲れ試験方法)の試験片を用いて、両振りの繰り返し曲げ試験により求めた。この時1000万サイクル到達した時点を疲労限FLとした。
また、成形性の評価方法としては、日本鉄鋼連名規格JFS−T1001 に規定される穴拡げ試験を採用した。すなわち、10mmφのポンチ径を用い、クリアランス12±1.0 %で初期穴(穴径:D0 mm)を開けた後、60°の頂角をもつ円錐ポンチにて穴拡げを実施し、亀裂が板厚を貫通したところでの穴径D1(mm) を求め、次式
λ={(D1 −D0 )/D0 }×100 %
で得られる穴拡げ率λで評価した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
No.1〜3は、表1に示したA鋼を二相域温度に保持する時間を変えて組織の変化を確認したものである。保持時間が30秒のNo.1の場合はマルテンサイトを得るためのγへのCの濃化量を確保できず、60秒以上保持したNo.2, 3の場合と比較してTSが不足している。従って、TSを確保するためにも二相域温度で60秒以上確保すべきであることが分かる。
【0047】
No.2とNo.4〜8は、熱延後の巻取り温度を変えたものである。疲労限のTS比(FL/TS)を見ると、巻取り温度が 650〜750 ℃のところで高いレベルが得られて疲労特性に優れている。これは巻取り時に、TiCやNbCが析出してフェライト粒が強化され、これに伴って疲労亀裂発生と亀裂伝播が抑制されるためである。従って、巻取り温度は 650〜750 ℃が望ましい。
【0048】
No.2とNo.9,10は、(A1 +50)〜(A1 +20)℃の二相域に保持する温度を変えたものであるが、高温で保持するものほどマルテンサイトが少なくなり、代わってベイナイトが増加した。二相域の高温部での存在比はγ>αであるが、この時のγは低温域のγに較べると炭素および合金成分の濃縮が少ないためマルテンサイト変態を起こし難かったものと考えられる。
【0049】
No.11 〜13は、焼鈍温度を変えたものであるが、A3 点が 841℃であるA鋼を900 ℃で焼鈍すると、得られた粒径は粗大化して強度が低下した。一方、800 ℃で焼鈍すると再結晶が完遂していないため加工組織がそのまま残存していた。この点、A3 点直上で焼鈍したNo.11 の発明例は、結晶粒の粗大化も加工組織の残存も認められなかった。
【0050】
No.14 は、鋼種Aとは成分の異なる鋼種Bを、二相域での保持処理無しとしたものである。この条件では、パーライトの生成により、TSが低く疲労特性が悪化した。
No.15, 16 は、熱間圧延の圧延終了時から巻取りまでの冷却速度を20℃/sと30℃/sにしたものであるが、いずれの場合もパーライトの生成が抑えられてTiCが析出したため、FL/TSが高く、良好な疲労特性が得られた。
No.17, 18 は、(A1 +20)℃からMs 点以下までの冷却速度を変化させたものであるが、冷却速度が遅いNo.18 は、マルテンサイトが得られずにTSおよび疲労特性が低下した。このことから、二相域すなわち(A1 +20)℃から少なくともMs 点までの冷却速度は5℃/s以上が好適であることが分かる。
No.19 は、(A1 +50)℃までの冷却速度を下げたものであるが、冷却速度の低下により必要以上の粗大化を招いて結晶粒が大きくなった。そのために粒径の均質性が悪化して、穴拡げ性の低下を招いた。このことから、二相域までの冷却速度は5℃/s以上とするのが適当であることが分かる。
【0051】
No.20 はNbのみを添加した場合、No.21 はTiのみを添加した場合、No.22 はA鋼ベースにCrを添加した場合、さらにNo.23 はTiおよびNbの添加がない場合である。なお、これらはいずれもNo.7と同じ製造条件で製造した。
No.20およびNo.21 は、TiまたはNbの効果によってTiCまたはNbCが析出し、これにより再結晶温度の上昇が発現して、結晶粒の微細化と疲労特性の向上がもたらされた。
No.22は、オーステナイト安定化元素であるCrを添加したことにより、マルテンサイト分率が向上し、若干穴拡げ率は低下したものの、強度の向上がもたらされた。
この点、No.23 は、TiCやNbCが生成しないため、焼鈍時に結晶粒が粗大化し、強度の低下を招いた。
【0052】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、微細粒組織を有し、疲労特性に優れた高張力冷延鋼板を、製造設備の大幅な改造を伴うことなしに安定して製造することができ、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】A1 =700 ℃、A3 =855 ℃に調整した鋼組成において、Ti,Nb添加量を種々に変更した場合のTi,Nb添加量と再結晶温度との関係を示した図である。
【図2】637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }>A1 の条件下において、A3 を種々に変化させた場合におけるA3 と再結晶温度Treとの関係を示した図である。
【図3】疲労試験片の形状・寸法を示した図である。
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下および/またはNi:3.0 %以下、
Ti:0.01〜0.2 %および/またはNb:0.01〜0.2 %、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱した後、Ar3点以上で熱間圧延を終了し、ついで 750℃以下、650 ℃以上の温度域で巻き取り、酸洗後、冷間圧延を施したのち、下記(6) 式で求められる温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後下記(5) 式で求められる温度A1 +50℃まで5℃/s以上の速度で冷却し、ついで(A1 +50)〜(A1 +20)℃の温度域で60秒以上保持したのち、少なくともMs 点まで3℃/s以上の速度で冷却することを特徴とする微細粒組織を有する疲労特性に優れた冷延鋼板の製造方法。
また、[%M] はM元素の含有量(質量%) - 請求項1において、鋼素材が、質量%でさらに、
Mo:0.1 %以下および
Cr:0.1 %以下
のうちから選んだ一種または二種を含有する組成になることを特徴とする微細粒組織を有する疲労特性に優れた冷延鋼板の製造方法。
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