JP4400079B2 - 超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や家電、さらには機械構造用鋼としての用途に供して好適な冷延鋼板、とくに超微細粒組織を有し、強度、延性、勒性および強度−延性バランス等に優れ、さらには伸びフランジ性にも優れる高張力冷延鋼板、あるいはさらに降伏比が低く、プレス成形性時のスプリングバックが小さく、形状凍結性にも優れる高張力冷延鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車用、家電用および機械構造用鋼板として用いられる鋼材には、強度、加工性および靱性といった機械的性質に優れていることが要求される。これらの機械的性質を総合的に向上させる手段としては、組織を微細化することが有効であることから、これまでにも、微細組織を得るための製造方法が数多く提案されてきた。
【0003】
また、近年、高張力鋼については、高機能特性と共に低コストを両立できる高張力鋼板の開発に目標が移行しつつある。さらに、自動車用鋼板においては、衝突時における乗員の保護の面から、高強度化に加えて耐衝撃性にも優れていることが要求されている。
【0004】
さらに、鋼板を素材とする自動車用部品は、その多くがプレス加工により成形されるため、自動車部品用鋼板としては優れたプレス成形が要求される。加えて、自動車車体の強度を確保するための骨格部材であるメンバーやリンフォース等を構成する部品では、伸びフランジ変形を多用した部品成形が行われることが多いため、このような用途に用いられる自動車部品用鋼板に対しては、高強度化と同時に良好な伸びフランジ性を有することも強く求められる。
【0005】
一方、使用する鋼板を高強度化した場合の問題点として、プレス成形後のスプリングバックが大きいという問題がある。このスプリングバック量が大きいと、他の部品と組み合わせて接合する際に不具合が生じ、問題となる場合がある。
すなわち、材料は、金型内で成形され、拘束されている状態では曲げ部に曲げモーメントを受けた状態となっているが、成形品が金型から外されると、このモーメントが小さくなるように材料が変形する。これがスプリングバックである。従って、スプリングバックは材料の強度が大きいほど大きくなる。また、強度レベルが同等の場合には、降伏比(降伏点/引張強度)が高いほどスプリングバック量は大きくなるため、スプリングバックが問題となる部品では、降伏比が低いことも強く求められている。
【0006】
このような情勢の下、高張力化に伴う延性、靱性および耐久比、あるいはさらに伸びフランジ性などの劣化を抑制する目的で、高張力鋼における組織の微細化が重要な課題となっている。
【0007】
組織の微細化手段としては、従来から大圧下圧延法が知られている。この大圧下圧延法における組織の微細化機構の要点は、オーステナイト粒に大圧下を加えて、γ−α歪誘起変態を促進させることにある(例えば特許文献1参照)。
また、制御圧延法や制御冷却法を適用した場合などについても知られている(例えば特許文献2参照)。
【0008】
その他、素材鋼について、少なくとも一部がフェライトからなる鋼組織としておき、これに塑性加工を付加しつつ変態点(Ac1点)以上の温度域に昇温するか、この昇温に続いてAc1点以上の温度域に一定時間保持して、組織の一部または全部を一旦オーステナイトに逆変態させたのち、超微細オーステナイト粒を出現させ、その後冷却して平均結晶粒径が5μm 以下の等方的フェライト結晶粒を主体とする組織にする技術が提案されている(特許文献3)。
【0009】
以上のような技術は全て、熱延プロセスにおいて結晶粒を微細化する技術、すなわち熱延板の微細粒化を狙った技術である。
この点、熱延鋼板に比べて板厚が薄く、板厚精度や表面性状が厳しい用途、あるいは表面に亜鉛や錫などのめっきを施す用途に適用される冷延鋼板に対しては、通常の冷間圧延−焼鈍プロセスにおいて結晶粒を微細化する技術はほとんど見当たらない。
【0010】
また、加工性に優れる高強度鋼板としては、フェライトとマルテンサイトの複合組織からなる二相組織鋼板(デュアルフェーズ鋼板)が知られている。このような組織強化鋼板は、硬質なマルテンサイトを主強化因子としていることから、母相フェライトとの硬度差が大きいことに起因して加工中にボイドが発生し易く、局部伸びが低いために、伸びフランジ性には若干劣るものの、高い伸びを確保でき、また降伏比も低くできるため、伸びフランジ性よりも伸びや形状凍結性が重視される場合に用いられている。
しかしながら、従来の二相組織鋼板(デュアルフェーズ鋼板)では、引張強さと伸びの積(TS×EL)の値が 18000 MPa・%を超えるような、強度と伸びを兼ね備える材料を得ることは極めて難しかった。
【0011】
【特許文献1】
特公平5−65564 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開昭63−128117号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開平2−301540号公報(特許請求の範囲)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、自動車用、家電用および機械構造用鋼板として用いられる冷延鋼板について、その超微細粒化を可能ならしめることにより、強度、延性、靱性および強度−延性バランスあるいはさらに伸びフランジ性の向上をも図った、超微細粒組織を有する冷延鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
また、本発明は、冷延鋼板について、その超微細粒化を達成し、加えてフェライトとマルテンサイトの複合組織からなる二相組織鋼板とすることにより、強度、延性、さらには形状凍結性を有利に改善した超微細粒組織を有する低降伏比冷延鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、冷延鋼板について超微細粒化を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、
(1) 合金元素を適正に調整して鋼板の再結晶温度とA1 およびA3 変態温度を制御した上で、冷延後の再結晶焼鈍温度およびその後の冷却速度を適正化することにより、平均結晶粒径が 3.5μm 以下のフェライト相を主体とする超微細粒組織が得られ、その結果TS×EL≧17000MPa・%という優れた強度−伸びバランスが得られる、
(2) また、冷却速度を制御して第2相を調整する、具体的にはフェライト相以外の残部組織について、ベイナイト相以外の組織分率を制限することにより、引張強さ(TS)と伸びフランジ性の指標である穴拡げ率(λ)との積がTS×λ≧50000MPa・%という優れた強度−伸びフランジ性バランスが得られる、
(3) さらに、冷却速度を上記(2) とは別に制御して第2相を調整する、具体的には第2相をマルテンサイトとすることにより、TS×EL≧18000MPa・%で降伏比(YR)≦70%という優れた強度−伸びバランスおよび低降伏比が得られる
ことの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0019】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6) 式で求められる温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却したのち、さらに 500℃から 350℃までの冷却時間を30秒以上 400秒以下とすることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
記
637.5 +4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 --- (1)
A3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] ≧ 1.3 --- (3)
ただし、
Ti* = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] --- (5)
A3 = 920+ 612.8[%C]2− 507.7[%C] + 9.8[%Si]3
− 9.5[%Si]2+ 68.5[%Si]+2[%Mn]2− 38[%Mn]
+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
2.質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、
Ni:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3)′式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6)′式で求められる温度A3(℃)以上、(A3+30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却したのち、さらに 500℃から 350℃までの冷却時間を30秒以上 400秒以下とすることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
記
637.5 +4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 --- (1)
A3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] + [%Ni]≧ 1.3 --- (3)′
ただし、
Ti* = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] −21.6[%Ni] --- (5)′
A3 = 920+ 612.8[%C]2− 507.7[%C] + 9.8[%Si]3
− 9.5[%Si]2+ 68.5[%Si]+2[%Mn]2− 38[%Mn]
+ 2.8[%Ni]2− 38.6[%Ni]+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)′
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0020】
3.質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6) 式で求められる温度A 3 (℃)以上、(A 3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却したのち、さらに 500℃から 350℃までの冷却時間を30秒未満とすることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
記
637.5 +4930{Ti * + (48/93)・[%Nb] }≧A 1 --- (1)
A 3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] ≧ 1.3 --- (3)
ただし、
Ti * = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A 1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] --- (5)
A 3 = 920+ 612.8[%C] 2 − 507.7[%C] + 9.8[%Si] 3
− 9.5[%Si] 2 + 68.5[%Si]+2[%Mn] 2 − 38[%Mn]
+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0021】
4.質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、
Ni:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3)′式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6)′式で求められる温度A 3 (℃)以上、(A 3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却したのち、さらに 500℃から 350℃までの冷却時間を30秒未満とすることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
記
637.5 +4930{Ti * + (48/93)・[%Nb] }≧A 1 --- (1)
A 3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] + [%Ni]≧ 1.3 --- (3)′
ただし、
Ti * = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A 1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] −21.6[%Ni] --- (5)′
A 3 = 920+ 612.8[%C] 2 − 507.7[%C] + 9.8[%Si] 3
− 9.5[%Si] 2 + 68.5[%Si]+2[%Mn] 2 − 38[%Mn]
+ 2.8[%Ni] 2 − 38.6[%Ni]+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)′
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0022】
5.上記1〜4のいずれかにおいて、鋼素材が、さらに質量%で、
Mo:1.0 %以下および
Cr:1.0 %以下
のうちから選んだ一種または二種を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
【0023】
6. 上記1〜5のいずれかにおいて、鋼素材が、さらに質量%で、
Ca, REMのうちから選んだ一種または二種を合計で 0.005%以下
を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.03〜0.16%
Cは、安価な強化成分であるだけでなく、パーライトやベイナイトあるいはマルテンサイト等の低温変態相を生成させる上でも有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.16%を超えて含有させると延性や溶接性が劣化するため、Cは0.03〜0.16%の範囲に限定した。
【0025】
Si:2.0 %以下
Siは、固溶強化成分として、強度−伸びバランスを改善しつつ強度を向上させるのに有効に寄与するだけでなく、第2相をマルテンサイト化する場合にも有効な元素であるが、過剰な添加は、延性や表面性状、溶接性を劣化させるので、Siは2.0 %以下で含有させるものとした。なお、好ましくは0.01〜0.6 %の範囲である。
【0026】
Mn:3.0 %以下、またはMn:3.0 %以下およびNi:3.0 %以下
MnおよびNiはいずれも、オーステナイト安定化元素であり、A1 ,A3 変態点を低下させる作用を通じて結晶粒の微細化に寄与し、また第2相の形成を進展させる作用を通じて強度−延性バランスを高める作用を有する。しかしながら、多量の添加は鋼を硬質化し、却って強度−延性バランスを劣化させるので、いずれも 3.0%以下で含有させるものとした。
なお、Mnは、有害な固溶SをMnSとして無害化する作用も併せて有するので、0.1 %以上含有させることが好ましい。また、Niは0.01%以上含有させることが好ましい。
【0027】
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下
Ti, Nbを添加することによって、TiCやNbC等が析出し、鋼板の再結晶温度が上昇する効果がある。そのためには、それぞれ0.01%以上含有させることが好ましい。そして、これらは各々単独で添加しても複合して添加してもよいが、いずれも 0.2%を超えて添加しても効果が飽和するだけでなく、析出物が多くなりすぎてフェライトの延性の低下を招くので、いずれも 0.2%以下で含有させるものとした。
【0028】
Al:0.01〜0.1 %
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸の工程で添加することが望ましい。ここに、Al量が0.01%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.1%を超えると効果は飽和し、むしろ製造コストの上昇を招くので、Alは0.01〜0.1 %の範囲に限定した。
【0029】
P:0.1 %以下
Pは、延性の大きな低下を招くことなく安価に高強度化を達成する上で有効な元素であるが、一方で多量の含有は加工性や靱性の低下を招くので、Pの含有量は 0.1%以下とした。なお、加工性や靱性に対する要求が厳しい場合には、Pはむしろ低減させることが好ましいので、この場合には0.02%以下とすることが望ましい。
【0030】
S:0.02%以下
Sは、熱延時における熱間割れの原因になるだけでなく、鋼板中にMnS等の介在物として存在し延性や伸びフランジ性の劣化を招くので、極力低減することが望ましいが、0.02%までは許容できるので、本発明ではS含有量は0.02%以下とした。より好ましくは 0.005%以下である
【0031】
N:0.005 %以下
窒素は、時効劣化をもたらす他、降伏延びの発生を招くことから、N含有量は0.005 %以下に抑制するものとした。
【0032】
以上、基本成分について説明したが、本発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Mo:1.0 %以下およびCr:1.0 %以下のうちから選んだ一種または二種
Mo,Crはいずれも、強化成分として、必要に応じて含有させることができるが、多量の添加はかえって強度−延性バランスを劣化させるので、それぞれ 1.0%以下で含有させることが望ましい。なお、上記の作用を十分に発揮させるには、Mo, Crはそれぞれ0.01%以上含有させることが好ましい。
【0033】
Ca, REMのうちから選んだ一種または二種を合計で 0.005%以下
Ca, REMはいずれも、硫化物の形態制御や粒界強度の上昇を通じて加工性および伸びフランジ性を改善する効果を有しており、必要に応じて含有させることができる。しかしながら、過剰な含有は清浄度に悪影響を及ぼすおそれがあるため、合計で 0.005%以下とするのが望ましい。なお、上記した作用を十分に発揮させるためにはCa, REMのうちから選んだいずれか一種または二種を合計で0.0005%以上含有させることが好ましい。
【0034】
以上、適正な成分組成範囲について説明したが、本発明では各成分が上記の組成範囲を単に満足しているだけでは不十分で、C,Si, Mn, TiおよびNbについては、下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲で含有させる必要がある。
記
637.5 +4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 --- (1)
A3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] ≧ 1.3 --- (3)
ただし、
Ti* = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] --- (5)
A3 = 920+ 612.8[%C]2− 507.7[%C] + 9.8[%Si]3
− 9.5[%Si]2+ 68.5[%Si]+2[%Mn]2− 38[%Mn]
+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
また、上記の成分に加えて、さらにNiを含有する場合には、下記(1), (2), (3)′式をそれぞれ満足する範囲で含有させる必要がある。
記
637.5 +4930{Ti * + (48/93)・[%Nb] }≧A 1 --- (1)
A 3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] + [%Ni]≧ 1.3 --- (3)′
ただし、
Ti * = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A 1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] −21.6[%Ni] --- (5)′
A 3 = 920+ 612.8[%C] 2 − 507.7[%C] + 9.8[%Si] 3
− 9.5[%Si] 2 + 68.5[%Si]+2[%Mn] 2 − 38[%Mn]
+ 2.8[%Ni] 2 − 38.6[%Ni]+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)′
また、[%M] はM元素の含有量(質量%)
【0035】
なお、上記のA1 , A3 はそれぞれ、鋼のAc1変態点温度(℃)、Ac3変態点温度(℃)の予測値であり、発明者らの詳細な基礎実験から導出された成分回帰式である。この予測値温度(℃)は、2℃/s以上、20℃/s以下の昇温速度で加熱する際に適用して特に好適である。
以下、上記の(1), (2), (3)〔または(3)′〕式の限定理由を順に説明する。
【0036】
(1) 式は、Ti,Nbの添加量を規定する条件であり、以下の知見に基づく。
一般に、Ti,Nbを添加するとTiCやNbC等が析出し、鋼板の再結晶温度が上昇する効果があることが知られている。そこで、Ti,Nb添加量と再結晶温度Treの関係について詳細に調査したところ、Ti,Nbをある量以上添加すると、再結晶温度は上記(6)〔または(6)′〕式で算出されるA3 と等価になることが判明した。
【0037】
図1に、A1 =700 ℃、A3 =855 ℃に調整した鋼組成において、Ti,Nb添加量を種々に変更した場合のTi,Nb添加量と再結晶温度Treとの関係について調べた結果を示す。なお、ここで再結晶温度Treは、加熱温度を種々に変化させて連続焼鈍を実験室的に行い、硬度を測定すると共に組織を観察することにより決定した。また、Ti添加量はTiCを析出させる上での有効Ti量としてTi* を用い、Nb添加量はTiに換算するため 48/93・[%Nb] を用いて、Ti, Nb添加量と再結晶温度との関係について表わしている。
同図によれば、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }が 700℃すなわちA1 以上になると、再結晶温度Treは 855℃近傍すなわちA3 近傍に急上昇し飽和することが分かる。
【0038】
次に、図2に、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 の条件下において、A3 (C,Si,Mn, Ni等を変化させることで変動)を種々に変化させた場合におけるA3 と再結晶温度Treとの関係について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 の条件下では、再結晶温度TreはA3 と等価になっている。
【0039】
この理由については、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
すなわち、Ti,Nbが添加され、それらの微細炭窒化物のピン止め力により再結晶温度が上昇し、A1 未満のフェライト(α)域で再結晶できなくなった場合、未再結晶の加工αのまま(フェライト+オーステナイト(γ))2相域温度になり、高転位密度部、不均一変形部などの優先核生成サイトにおいて、加工αからの再結晶α核生成とα→γ変態核生成の競合が生じる。この時、α→γ変態の駆動力の方が再結晶の駆動力よりも大きいため、再結晶α核生成より優先してγ核が次々と生成し、優先核生成サイトを占有する。
このα→γ変態での原子再配列によって歪み(転位)は消費され、転位密度の低い加工αのみ残留し、加工αの再結晶はますます困難となる。温度が上昇し、A3 を超え、γ単相域になって初めて歪みが完全に解消され、見かけ上再結晶が完了する。これが、再結晶温度がA3 に一致し、飽和する機構と考えられる。
なお、この際のα→γ変態は、加工α(優先核生成サイトが多い)から核生成することになるので、再結晶が完了した高温でのγ粒は微細化する。従って、焼鈍中の高温γ粒微細化のために再結晶温度をA3 に調整することは有効であるので、本発明では式(1) すなわち 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1を満足するTi, Nbを添加することにしたのである。なお好ましくは 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }>A1 を満足するTi, Nbを添加する。
【0040】
次に、 (2)式は、A3 を規定する条件である。
上述したとおり、 (1)式を満足する場合には、A3 は実質的に再結晶温度になるため、A3 以上の温度で再結晶焼鈍を行う必要がある。ここに、A3 が 860℃を超えた場合、再結晶焼鈍温度をより高温とする必要が生じ、γ粒成長が激しく、フェライトを平均結晶粒径:3.5 μm 以下の微細粒とすることはできなかった。よって、A3 ≦860 ℃を満足させる必要がある。なお、好ましくはA3 <860℃であり、より好ましくはA3 ≦830 ℃である。
【0041】
次に、 (3)式または(3)′式は、MnやNiすなわちオーステナイト安定化元素の添加量を規定する条件である。
オーステナイト安定化元素の増大により、CCT 図におけるフェライトスタート線が低温側にシフトすることにより、焼鈍後の冷却過程におけるγ→α変態時の過冷度が増大してαが微細核生成することにより、α結晶粒が微細化する。ここに、平均結晶粒径:3.5μm以下の微細粒を得るためには、上掲した(1), (2)式に加えて [%Mn] ≧ 1.3 または[%Mn]+[%Ni] ≧ 1.3(%)とする必要があった。
なお、好ましくは [%Mn] > 1.3(%)または [%Mn]+[%Ni] > 1.3(%)であり、より好ましくは [%Mn] ≧ 2.0 (%)または [%Mn]+[%Ni] ≧ 2.0(%)の範囲である。
【0042】
次に、鋼組織について説明する。
本発明では、鋼組織は、フェライト相の組織分率を体積率で65%以上にすると共に、フェライトの平均結晶粒径を 3.5μm 以下とする。
というのは、本発明で所期した強度、延性、靱性および強度−伸びバランスに優れた冷延鋼板とするには、微細フェライトを主体とする鋼組織とする必要があり、特にフェライト相の組織分率を65 vol%以上とし、フェライト相の平均結晶粒径を 3.5μm 以下とすることが重要だからである。
ここに、フェライトの平均結晶粒径が 3.5μm を超えると強度−伸びバランスが劣化すると共に、靱性が低下し、また他の組織に比べて軟質であるフェライトの組織分率が65 vol%に満たないと延性が著しく低下し、加工性に乏しくなる。なお、フェライト相のより好ましい組織分率は75 vol%以上である。
【0043】
また、フェライト以外の第2相組織としては、マルテンサイト、ベイナイト、パーライトなどが取り得る。
ここに、伸びフランジ性が要求される場合、鋼組織は、フェライト単相組織であっても良いが、フェライト以外の第2相が存在する場合には、この残部組織としては、母相フェライトとの硬度差が大きいと加工時にボイドの生成サイトになり易いため、硬度差の小さいベイナイト相組織とすることが好ましい。
フェライトおよびベイナイト以外のマルテンサイトやパーライト等の相が多量に存在すると、フェライト相との硬度差が大きくなったり、あるいはその相自体が伸びフランジ性に悪影響を及ぼしたりして、良好な伸びフランジ性を得ることができなくなるが、これらの相が体積分率で3%未満であれば、許容できる。
従って、特に伸びフランジ性を良好とする場合には、鋼組織を、フェライト相の分率が65 vol%以上で、かつフェライトの平均結晶粒径が 3.5μm 以下で、さらにフェライト相以外の残部組織については、ベイナイト相以外の組織分率を組織全体に対する分率で3 vol%未満に制限した組織とする。
【0044】
また、より優れた強度−伸びバランスと形状凍結性が要求される場合には、フェライト相以外の第2相組織をマルテンサイト相とし、その組織全体に対する分率は3 vol%以上とすることが好ましい。
というのは、マルテンサイトを、組織全体に対する分率で3 vol%以上存在させることにより、効果的に低降伏比を達成できるからである。この点、ベイナイトやパーライトとすると、降伏点が上昇し、降伏比が高くなるため、形状凍結性が低下する。また、パーライトでは、伸びが低下し易く、良好な強度−伸びバランスを得ることが難しくなる。
【0045】
以上のようなマルテンサイトの効果を得るためには、マルテンサイト相を組織全体に対する分率で3 vol%以上有する必要がある。より好ましくは5 vol%以上である。
また、このマルテンサイトの平均結晶粒径は、2μm 以下とすることが好ましい。というのは、マルテンサイトの平均結晶粒径が2μm を超えると、マルテンサイトの平均結晶粒径が2μm 以下の場合に比べて強度−伸びバランスが低下する傾向にあり、TS×EL<18000MPa・%となる場合があるからである。
なお、本発明のように、平均結晶粒径が 3.5μm 以下の微細なフェライトを主相とする場合には、概ねマルテンサイトの平均結晶粒径は2μm 以下を達成できる。
【0046】
次に、製造条件について説明する。
上記の好適成分組成に調整した鋼を、転炉などで溶製し、連続鋳造法等でスラブとする。この鋼素材であるスラブを、高温状態のまま、あるいは冷却したのち、1200℃以上に加熱してから、熱間圧延を施し、ついで冷間圧延後、温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却する。
【0047】
上記の工程において、スラブの加熱温度が1200℃未満では、TiCなどが十分に固溶せずに粗大化し、後の再結晶焼鈍工程での再結晶温度上昇効果および結晶粒成長抑止効果が不十分となるため、スラブの加熱温度は1200℃以上とした。
また、本発明において、熱間仕上げ圧延出側温度は特に限定されるものではないが、Ar3変態点未満では、圧延中にαとγが生じて、鋼板にバンド状組織が生成し易くなり、かかるバンド状組織は冷間圧延後や焼鈍後にも残留し、材料特性に異方性を生じさせる原因となる場合があるので、仕上げ圧延終了温度はAr3変態点以上とすることが好ましい。
【0048】
熱延終了後の巻取り温度も特に限定されるものではないが、500 ℃未満または650 ℃超えでは、窒素による時効劣化を抑制するためのAlNの析出が不十分となり易く、材料特性が劣る傾向にある。また、鋼板の組織を均一化し、その結晶粒径をなるべく微細で均一化するためにも、コイルの巻取り温度は 500℃以上、 650℃以下とすることが好ましい。
【0049】
ついで、好ましくは熱延鋼板表面の酸化スケールを酸洗により除去したのち、冷間圧延に供して、所定の板厚の冷延鋼板とする。ここに、酸洗条件や冷間圧延条件は特に制限されるものでなく、常法に従えばよい。
なお、冷間圧延時の圧下率は、再結晶焼鈍時の核生成サイトを増やし、結晶粒の微細化を促すという観点から40%以上とすることが望ましく、一方圧下率を上げすぎると鋼板の加工硬化によって操業が困難となるので、圧下率の上限は90%以下程度とするのが好ましい。
【0050】
ついで、得られた冷延鋼板を、前掲(6)式または(6)′式に示した温度A3(℃)以上、(A3 +30)(℃)以下に加熱して、再結晶焼鈍を施す。
前述のように成分調整した本発明の鋼素材では、A3が再結晶温度と等価となっているので、A3未満の温度では再結晶が不十分となる。一方、(A3+30)(℃)を超える温度では、焼鈍中のγ粒の成長が激しく、微細化に不適切であるため、A3(℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施す。この再結晶焼鈍は、連続焼鈍ラインで行うことが好ましく、連続焼鈍する場合の焼鈍時間は再結晶が生じる10秒から 120秒程度とすることが好ましい。というのは、10秒より短時間では再結晶が不十分であり、圧延方向に伸展したままの組織が残存するために、十分な延性が確保できない場合があり、一方 120秒より長時間ではγ結晶粒の粗大化を招いて、所望の強度を得ることができないことがあるからである。
【0051】
引き続き、焼鈍温度から少なくとも 600℃まで、冷却速度:5℃/s以上の条件で冷却する。なお、ここで冷却速度は、焼鈍温度から 600℃までの平均冷却速度である。ここに、上記冷却速度が5℃/s未満では、冷却中におけるγ→α変態時の過冷度が小さく、結晶粒径が粗大化する。よって、焼鈍温度から 600℃までの冷却速度は5℃/s以上とする必要がある。
また、上記の制御冷却処理の終点温度を 600℃としたのは、結晶粒の微細化にはγ→α変態が開始する 600℃までが強く影響するからである。なお、600 ℃未満の温度域では適宜冷却速度を調整して、第2相(マルテンサイト、ベイナイト、パーライト等)を作り分けることが可能である。
【0052】
特に伸びフランジ性が要求される場合、第2相はベイナイトとすることが好ましい。このためには、上記の冷却に引き続き、 500℃から 350℃までの温度域における冷却時間すなわち 500℃から 350℃までの滞留時間を、30秒以上 400秒以下とすることが重要である。上記冷却時間が30秒未満では、第2相がマルテンサイトとなり易く、マルテンサイトの組織分率が3 vol%以上となってフェライトと第2相との延性・強度差が大きくなるため、伸びフランジ性の劣化を招く。一方、冷却時間が 400秒を超えると、結晶粒が粗大化する傾向にあると共に、第2相が脆いパーライトとなり易く、パーライト分率が3 vol%以上となって、やはり伸びフランジ性が劣化する。
【0053】
一方、特に優れた強度−伸びバランスと形状凍結性が要求される場合には、第2相は、組織分率で3 vol%以上のマルテンサイトとすることが好ましい。
このためには、500 ℃から350 ℃までの温度域における冷却時間、すなわち500 ℃から350 ℃まで冷却するのに要する滞留時間を30秒未満とする。上記の冷却時間が30秒以上では、第2相がベイナイトとなり易く、ベイナイトの体積分率が3 vol%以上となって低降伏比を得ることが困難となり、形状凍結性が低下する。
【0054】
かくして、上記の製造方法とすることにより、超微細粒組織を有し、強度−延性バランスおよび靱性、あるいはさらに伸びフランジ性に優れた冷延鋼板、あるいは特に優れた強度−延性バランスと優れた形状凍結性を有する冷延鋼板を得ることができるのである。
【0055】
【実施例】
実施例1
表1に示す成分組成になるスラブを、表2に示す条件でスラブ加熱後、常法に従い熱間圧延して4.0mm 厚の熱延板とした。なお、この時、熱間仕上げ圧延出側温度はAr3変態点以上とし、また巻取り温度は 600℃とした。この熱延板を、酸洗後、冷間圧延(圧下率:60%)して、 1.6mm厚の冷延板としたのち、連続焼鈍ラインにて同じく表2に示す条件下で再結晶焼鈍を行い、製品板とした。
かくして得られた製品板の組織、引張特性、伸びフランジ性および靱性について調査した結果を表3に併記する。
【0056】
なお、組織は、鋼板の圧延方向断面について、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて観察し、フェライトの平均結晶粒径を求めると共に、各組識の面積率を求めてこれを体積率とした。ここで、フェライトの平均結晶粒径はJIS G 0552に規定される切断法に準拠して求めた。
引張特性(引張強さTS、伸びEL)は、鋼板の圧延方向を長手方向として採収したJIS 5号試験片を用いた引張試験により測定した。
伸びフランジ性は、下記の穴拡げ試験により評価した。すなわち、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に準じて採取した試験片に、10mmφ(D0 )の打ち抜き穴を加工したのち、頂角:60°の円錐ポンチで押し広げる加工を施し、割れが板厚を貫通した直後の穴径D(mm)を求め、次式
λ={(D−D0)/D0 }×100 %
で得られる穴拡げ率λで評価した。
靱性は、2mmVノッチシャルピー試験片を用いて、JIS Z 2242に規定の方法で延性−脆性遷移温度 vTrs(℃) を測定した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示したとおり、発明例はいずれも、フェライト相の組織分率が65 vol%以上であると共に、フェライトの平均結晶粒径が 3.4μm 以下と、 3.5μm 以下を満足して微細であり、特にNi, Mn量を増量して大きくA3 を低下させたG鋼を用いた鋼板No.15, 16 は、平均結晶粒径が 0.9μm と超微細粒となっている。
また、発明例はいずれも、TS×ELが 17000 MPa・%以上と、強度−延性バランスに優れ、さらに延性−脆性遷移温度も−140 ℃未満で、靱性に優れていることが分かる。
さらに、フェライト相以外の残部組織について、ベイナイト相以外の組織分率を組織全体に対する分率で3 vol%未満に制限することにより、穴拡げ加工性が改善され、強度−穴拡げバランス(TS×λ)が 50000 MPa・%以上を達成して、格段に向上した。
【0061】
また、第2相をマルテンサイトとした場合は、フェライト相以外の残部組織について、ベイナイト相以外の組織分率を組織全体に対する分率で3 vol%未満に制限した場合に比べ、穴拡げ率は低下するものの、TS×EL≧18000MPa・%という特に優れた強度−延性バランスが得られている。
【0062】
これに対し、No.10 は、スラブの加熱温度が低かったため、TiCが粗大化し、再結晶温度上昇効果が抑制されて鋼板の結晶粒径微細化効果が得られず、結晶粒径が大きくなった。TS×EL値も小さくなっている。
No.11 は、焼鈍温度が本発明の適正温度(846 ℃)を大きく超えたため、結晶粒成長が激しく、TS×EL値が劣っている。
No.12 は、焼鈍温度が本発明の下限(816 ℃)に満たなかったため、再結晶が完了せず、加工組織が残留したため、TS×EL値が劣っており、延性−脆性遷移温度も上昇している。
No.13 は、焼鈍後の冷却速度が小さかったために、結晶粒が粗大化して強度が低下し、TS×EL値の劣化を招いた。
No.23 は、再結晶温度がA1 未満であるため、再結晶焼鈍によるγ粒微細化効果が得られず、粗大粒となったため、十分な強度が得られなかった。
No.24 は、A3 が 860℃を超えていることから、高温焼鈍が必要となり、その結果結晶粒が成長して、TS×EL値が劣っている。
No.25 は、(Ni+Mn)量が少ないために、焼鈍後冷却過程でのγ−α変態時の過冷度が小さく、αが微細核生成することができなかったため、結晶粒が粗大化した。
【0063】
実施例2
表1に示した成分組成になるスラブを、表4に示す条件でスラブ加熱後、常法に従い熱間圧延して4.0mm 厚の熱延板とした。なお、この時、熱間仕上げ圧延出側温度はAr3変態点以上とし、また巻取り温度は 600℃とした。この熱延板を、酸洗後、冷間圧延(圧下率:60%)して、1.6 mm厚の冷延板としたのち、連続焼鈍ラインにて同じく表4に示す条件下で再結晶焼鈍を行い、製品板とした。
かくして得られた製品板の組織、引張特性および形状凍結性について調査した結果を表5に示す。
【0064】
なお、組織は、鋼板の圧延方向断面について、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて観察し、フェライトおよびマルテンサイトの平均結晶粒径を求めると共に、各組識の面積率を求めてこれを体積率とした。ここで、フェライトおよびマルテンサイトの平均結晶粒径はJIS G 0552に規定される切断法に準拠して求めた。
引張特性(降伏点YP、引張強度TS、伸びEL)は、鋼板の圧延方向を長手方向として採取したJIS 5号試験片を用いた引張試験により測定した。なお、降伏比YRは、YR=(YP/TS)×100 (%)として求めた。
形状凍結性は、開口部長さW0 =100 mmのハット曲げ加工を行い、加工後の開口部長さW1 を測定し、開口部長さの変化量ΔW=W1 −W0 を求め、ΔWと引張強度の比ΔW/TS(mm/MPa)を指標として評価した。このΔW/TSが0.040 以下であれば形状凍結性に優れているといえる。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
表5に示したとおり、発明例はいずれも、主相すなわち65%以上の分率を占めるフェライトの平均結晶粒径が 3.1μm 以下と微細であり、特に(Ni+Mn)量を増量し、A3 を低下させたG鋼を用いたNo.14 は、平均結晶粒径が 0.9μm と超微細粒となっている。また、No.4を除く発明例はいずれも、TS×ELが 18000 MPa・%以上と強度−延性バランスに優れており、さらに降伏比YRが70%以下で、ΔWと引張強度の比ΔW/TSが 0.040以下と、良好な形状凍結性を呈している。
なお、 No.4は、フェライトの微細化は達成できたものの、焼鈍後の 500℃から 350℃までの冷却時間が長かったため,第2相にベイナイト相が形成され、TS×ELは 17000 MPa・%以上ではあるが、降伏比が70%を超えて高く、形状凍結性に劣っている。
また、前記実施例1と同様に、靱性についても調査を行った結果、発明例はいずれもシャルピー遷移温度が−140 ℃未満であることが確認された。
【0068】
これに対し、 No.9は、スラブの加熱温度が低かったため、TiCが粗大化し、再結晶温度上昇効果が抑制されて鋼板の結晶粒径微細化効果が得られず、結晶粒径が大きくなったため、TS×EL値が劣っている。
No.10 は、焼鈍温度が本発明の適正上限温度(846 ℃)を大きく超えたため、結晶粒成長が著しく、TS×EL値が劣っている。
No.11 は、焼鈍温度が本発明の下限(816 ℃)に満たなかったため、再結晶が完了せず、加工組織が残留したため、TS×EL値が極端に劣っている。
No.12 は、焼鈍後の冷却速度が小さかったために、結晶粒が粗大化して強度が低下し、TS×EL値の劣化を招いた。
No.21 は、再結晶温度TX がA1 未満であるため、再結晶焼鈍によるγ粒微細化効果が得られず、粗大粒となったため、十分な強度ひいてはTS×EL値が得られなかった。
No.22 は、A3 が860 ℃超であることから、高温焼鈍が必要となり、その結果結晶粒が成長して、TS×EL値が低下した。
No.23 は、(Ni+Mn)量が少ないために、焼鈍後冷却過程でのγ−α変態時の過冷度が小さく、αが微細核生成することができなかったため、結晶粒の粗大化を招き、その結果、強度ひいてはTS×EL値が低下した。
【0069】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、超微細粒組織を有し、機械的特性なかでも強度−伸びバランスおよび靱性、さらには伸びフランジ性に優れた高張力冷延鋼板を、製造設備の大幅な改造を伴うことなしに安定して製造することができる。
また、本発明によれば、特に強度−伸びバランスに優れ、かつ形状凍結性にも優れた高張力冷延鋼板を安定して得ることもでき、いずれも産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 A1 =700 ℃、A3 =855 ℃に調整した鋼組成において、Ti,Nb添加量を種々に変更した場合のTi,Nb添加量と再結晶温度との関係を示した図である。
【図2】 637.5+4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 の条件下において、A3 を種々に変化させた場合におけるA3 と再結晶温度Treとの関係を示した図である。
Claims (6)
- 質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6) 式で求められる温度A3 (℃)以上、(A3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却したのち、さらに 500℃から 350℃までの冷却時間を30秒以上 400秒以下とすることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
記
637.5 +4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 --- (1)
A3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] ≧ 1.3 --- (3)
ただし、
Ti* = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] --- (5)
A3 = 920+ 612.8[%C]2− 507.7[%C] + 9.8[%Si]3
− 9.5[%Si]2+ 68.5[%Si]+2[%Mn]2− 38[%Mn]
+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)
また、[%M] はM元素の含有量(質量%) - 質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、
Ni:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3)′式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6)′式で求められる温度A3(℃)以上、(A3+30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却したのち、さらに 500℃から 350℃までの冷却時間を30秒以上 400秒以下とすることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
記
637.5 +4930{Ti* + (48/93)・[%Nb] }≧A1 --- (1)
A3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] + [%Ni]≧ 1.3 --- (3)′
ただし、
Ti* = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] −21.6[%Ni] --- (5)′
A3 = 920+ 612.8[%C]2− 507.7[%C] + 9.8[%Si]3
− 9.5[%Si]2+ 68.5[%Si]+2[%Mn]2− 38[%Mn]
+ 2.8[%Ni]2− 38.6[%Ni]+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)′
また、[%M] はM元素の含有量(質量%) - 質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, TiおよびNbが下記(1), (2), (3) 式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6) 式で求められる温度A 3 (℃)以上、(A 3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却したのち、さらに 500℃から 350℃までの冷却時間を30秒未満とすることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
記
637.5 +4930{Ti * + (48/93)・[%Nb] }≧A 1 --- (1)
A 3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] ≧ 1.3 --- (3)
ただし、
Ti * = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A 1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] --- (5)
A 3 = 920+ 612.8[%C] 2 − 507.7[%C] + 9.8[%Si] 3
− 9.5[%Si] 2 + 68.5[%Si]+2[%Mn] 2 − 38[%Mn]
+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)
また、[%M] はM元素の含有量(質量%) - 質量%で、
C:0.03〜0.16%、
Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、
Ni:3.0 %以下、
Ti:0.2 %以下および/またはNb:0.2 %以下、
Al:0.01〜0.1 %、
P:0.1 %以下、
S:0.02%以下および
N:0.005 %以下
で、かつC,Si, Mn, Ni, TiおよびNbが下記(1), (2), (3)′式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、ついで冷間圧延後、下記(6)′式で求められる温度A 3 (℃)以上、(A 3 +30)(℃)以下で再結晶焼鈍を施し、その後少なくとも 600℃まで5℃/s以上の速度で冷却したのち、さらに 500℃から 350℃までの冷却時間を30秒未満とすることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
記
637.5 +4930{Ti * + (48/93)・[%Nb] }≧A 1 --- (1)
A 3 ≦ 860 --- (2)
[%Mn] + [%Ni]≧ 1.3 --- (3)′
ただし、
Ti * = [%Ti]− (48/32)・[%S] − (48/14)・[%N] --- (4)
A 1 = 727+14[%Si] −28.4[%Mn] −21.6[%Ni] --- (5)′
A 3 = 920+ 612.8[%C] 2 − 507.7[%C] + 9.8[%Si] 3
− 9.5[%Si] 2 + 68.5[%Si]+2[%Mn] 2 − 38[%Mn]
+ 2.8[%Ni] 2 − 38.6[%Ni]+102[%Ti]+51.7[%Nb] --- (6)′
また、[%M] はM元素の含有量(質量%) - 請求項1〜4のいずれかにおいて、鋼素材が、さらに質量%で、
Mo:1.0 %以下および
Cr:1.0 %以下
のうちから選んだ一種または二種を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、鋼素材が、さらに質量%で、
Ca, REMのうちから選んだ一種または二種を合計で 0.005%以下
を含有する組成になることを特徴とする超微細粒組織を有する冷延鋼板の製造方法。
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